ゲスト
(ka0000)
貧者の宝
マスター:湖欄黒江

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/26 12:00
- 完成日
- 2015/06/03 18:11
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
帝都バルトアンデルス随一の高級レストラン『エーアミット』。
実業家・フリクセルと銀行家・ヴェールマンが、奥の個室で話し合う。
話題は、帝都南東部の貧民街のこと。
互いに対立する地元のギャングふたつに対して、ハンターの護衛つきで交渉人を送り、
同時に彼らの戦力についても情報を集めさせたのだが、
「奴らの資金は、一体どこから出てるんだ?」
10代、あるいはそれ以下の少年ばかりで構成された新興ギャング『ジンプリチシムス団』。
貧民街北部の廃墟群、更にその周辺の住宅街まで縄張りを広げているようだが、
「後ろ盾がある筈だ。でなければ、これだけの武器を揃えられる訳がない」
「私は知らん。それこそ、貴様の専門分野だろう」
ヴェールマンは言いながら、いらいらと足を揺する。フリクセルが顔をしかめて、
「女日照りがそんなに辛いか」
「それより、考えはあるのか。計画はどうするんだ」
フリクセルは黙って背を椅子にもたれ、葉巻を一服すると、
「シュタートゥエの連中は御し易そうだ。
差し当たり、ロートと兵隊数人をあちらへ置いて監視させる。ガキどもが手出しできんようにな。
それと市長に言って、どこか適当な新聞社へ計画をリークさせよう。
ことが荒立つ前に宣伝を打っておけば、後出しの印象も薄れる。
後は成り行きを見つつ、ガキどもの背後をこちらで探るとしよう。
特に、ライデンとかいう男がどこから来たのか……」
「オラウス」
ヴェールマンが、個室のドアのほうを気にしながら言う。
「単なる思いつきなんだが、奴ら、反体制派から金をもらってるんじゃないか」
「……ふむ?」
「貴様や俺を脅す為に、ジンプリチシムス団なんてでっち上げたんじゃないか」
フリクセルはそのまま、しばらくヴェールマンの顔を眺めた。何かに怯えているようだ。
「何があった」
「憲兵隊から連絡があった。どうやら俺は、ヴルツァライヒの暗殺対象リストに載ったらしい」
「……はっは! 今更か、今更そんなことが怖いのか。
反体制の連中に今まで何ができた? 間抜けなビラ配りくらいじゃないか!
そんなに怖いなら、俺が護衛も女も宛がってやるさ。さぁ、馬鹿なことは考えないで計画に集中するんだ」
彼らがバルトアンデルス市長と共謀しているのは、貧民街の再開発計画だった。
一帯の建築物の老朽化、及び治安悪化を理由に、市政が乗り出して貧民街を丸ごと作り変える。
「工場、商業施設、新たな集合住宅……連中の雇用・住居問題を一挙解決だ」
ただし再開発後の貧民街の商業活動は、全てヴェールマンの出資、フリクセルの経営で行われる。
安価な労働力を確保しつつ、裏の商売の拠点を新たに置くこともできる。
「住人は皆、我々が用意した仕事をし、我々が用意した遊びで楽しむ。
羊を飼うようなものだな。朝から晩まで面倒を見て、余すことなく毛を刈ってやる。
老いた羊は食肉加工に回す……そのときはお前の出番だ、高利貸」
テーブル越しに手を伸ばして、ヴェールマンの肩を叩いてやるが、彼の不安は晴れないらしい。
フリクセルは椅子に戻り、やれやれと首を振った。
●
「フリクセルが動くより早く、俺たちのほうから仕掛ける」
ジンプリチシムス団のボス・ライデンが言う。
彼は廃屋の一室にふたりの腹心――スキンヘッドの大男と、エルフの美青年――を呼び、
シュタートゥエとの抗争に関する新たな作戦を指令していた。
「奴は貧民街が欲しいが、ホントの戦争になって憲兵隊に出張られちゃ困るんだよ。
だから、あんな回りくどい真似すんのさ。
シュタートゥエのほうにも声をかけてる筈だ、今の内に傘下に入れってよ」
「オヤジどもがフリクセルと手を組まない内に、やっつけちまおうって訳だな。
そんなら早速、俺が片づけてきてやるよ」
エルフの青年が言って、ドアのほうへ向かいかけた。大男がその腕を掴む。
「最後まで話を聞けよ」
「悪ぃがお前の出番はまだだ、ヴァイデ。
お前のことだ、目についたモン全部吹っ飛ばす気でいるだろ。
ブラウの野郎に言ったとおり、今回は静かにやらなきゃなんねぇ。
ドラッヘ。『オプホドニク』に伝えて馬車を止めさせろ。
今頃、フリクセルが俺たちの資金源を洗い出そうとしてる。みすみす尻尾を掴ませるな。
それから、腕の良い奴を2、3人連れてシュタートゥエを見張るんだ。
チャンスがあり次第、ひとりずつ奴らを消せ。ただし、見覚えのない顔には近づくんじゃねぇ」
ドラッヘと呼ばれた大男が、ライデンの指示に黙って頷く。
「シュタートゥエが消えりゃ、フリクセルは俺たちを無視できなくなる。
そうなったとき、話をややこしくしたくねぇ」
そこでライデンは、にやりと笑った。
「準備にゃ金も時間もかかったが……これにてジンプリチシムス団、本格始動だ」
●
(フリクセルと、ヴェールマン。汚い話に決まってる)
貧民街再開発計画のリーク情報が、その日の『バルトアンデルス日報』に載った。
後で管財人と会う約束をしていた貧民街の芸術家・マティは、久方振りにまともな服を着て、
画商兼後見人の青年・ベッカートとカフェで食事を摂っていた。
テーブルへ広げられた新聞を横目に、ベッカートが、
「やはり、引っ越されたほうが良いのでは?
もう、お金は充分ある筈です。次の作品の値を含めれば、しばらくは困らないでしょう……」
「だからと言って、私を助けてくれた仲間たちを見捨てて、ひとり逃げ出すことはできないわ。
貴方の世話にはなったけど、管財人に預けているのは私のお金よ。好きに使わせてもらいます」
「それはそうですが……何か、なさるおつもりで?」
マティは前々から考えていた。
自分の収入でもって、河原で共に暮らす浮浪者たちを1日1日、養っていくことはできる――
しかし、それだけで良いのだろうか?
彼らは変わらず、河原のバラックで生き続けていくだけだ。行き場も、未来もない。
(誰かの助けが必要なのは、分かってる。
私ひとりじゃ、彼ら全員に家や仕事を見つけて、まともな暮らしをさせるなんて)
そこで思い出したのは、以前に助けてもらったハンターたちの顔だった。
立場上、彼らは金で雇われた護衛に過ぎなかった筈なのに、真剣に自分たちを気遣い、力になろうとしてくれた。
(河原の仲間たちだけじゃない。今、目の前にいる彼や)
ベッカートを見つめた。初めて見る、きちんとした身なりのマティに対し、少し落ち着かない様子でいる。
(ハンターたちを、信じてみるしかないのかも知れない)
「ねぇ。ハンターを雇うには、どうしたら良いのかしら」
具体的に何を頼むべきなのかは、彼女にも分からなかった。
兎に角話を聞いてもらい、彼らが取り得るあらゆる手段を取ってもらう。
(他に頼れるものがないのなら……どんな手を使ってもらっても、構わない)
帝都バルトアンデルス随一の高級レストラン『エーアミット』。
実業家・フリクセルと銀行家・ヴェールマンが、奥の個室で話し合う。
話題は、帝都南東部の貧民街のこと。
互いに対立する地元のギャングふたつに対して、ハンターの護衛つきで交渉人を送り、
同時に彼らの戦力についても情報を集めさせたのだが、
「奴らの資金は、一体どこから出てるんだ?」
10代、あるいはそれ以下の少年ばかりで構成された新興ギャング『ジンプリチシムス団』。
貧民街北部の廃墟群、更にその周辺の住宅街まで縄張りを広げているようだが、
「後ろ盾がある筈だ。でなければ、これだけの武器を揃えられる訳がない」
「私は知らん。それこそ、貴様の専門分野だろう」
ヴェールマンは言いながら、いらいらと足を揺する。フリクセルが顔をしかめて、
「女日照りがそんなに辛いか」
「それより、考えはあるのか。計画はどうするんだ」
フリクセルは黙って背を椅子にもたれ、葉巻を一服すると、
「シュタートゥエの連中は御し易そうだ。
差し当たり、ロートと兵隊数人をあちらへ置いて監視させる。ガキどもが手出しできんようにな。
それと市長に言って、どこか適当な新聞社へ計画をリークさせよう。
ことが荒立つ前に宣伝を打っておけば、後出しの印象も薄れる。
後は成り行きを見つつ、ガキどもの背後をこちらで探るとしよう。
特に、ライデンとかいう男がどこから来たのか……」
「オラウス」
ヴェールマンが、個室のドアのほうを気にしながら言う。
「単なる思いつきなんだが、奴ら、反体制派から金をもらってるんじゃないか」
「……ふむ?」
「貴様や俺を脅す為に、ジンプリチシムス団なんてでっち上げたんじゃないか」
フリクセルはそのまま、しばらくヴェールマンの顔を眺めた。何かに怯えているようだ。
「何があった」
「憲兵隊から連絡があった。どうやら俺は、ヴルツァライヒの暗殺対象リストに載ったらしい」
「……はっは! 今更か、今更そんなことが怖いのか。
反体制の連中に今まで何ができた? 間抜けなビラ配りくらいじゃないか!
そんなに怖いなら、俺が護衛も女も宛がってやるさ。さぁ、馬鹿なことは考えないで計画に集中するんだ」
彼らがバルトアンデルス市長と共謀しているのは、貧民街の再開発計画だった。
一帯の建築物の老朽化、及び治安悪化を理由に、市政が乗り出して貧民街を丸ごと作り変える。
「工場、商業施設、新たな集合住宅……連中の雇用・住居問題を一挙解決だ」
ただし再開発後の貧民街の商業活動は、全てヴェールマンの出資、フリクセルの経営で行われる。
安価な労働力を確保しつつ、裏の商売の拠点を新たに置くこともできる。
「住人は皆、我々が用意した仕事をし、我々が用意した遊びで楽しむ。
羊を飼うようなものだな。朝から晩まで面倒を見て、余すことなく毛を刈ってやる。
老いた羊は食肉加工に回す……そのときはお前の出番だ、高利貸」
テーブル越しに手を伸ばして、ヴェールマンの肩を叩いてやるが、彼の不安は晴れないらしい。
フリクセルは椅子に戻り、やれやれと首を振った。
●
「フリクセルが動くより早く、俺たちのほうから仕掛ける」
ジンプリチシムス団のボス・ライデンが言う。
彼は廃屋の一室にふたりの腹心――スキンヘッドの大男と、エルフの美青年――を呼び、
シュタートゥエとの抗争に関する新たな作戦を指令していた。
「奴は貧民街が欲しいが、ホントの戦争になって憲兵隊に出張られちゃ困るんだよ。
だから、あんな回りくどい真似すんのさ。
シュタートゥエのほうにも声をかけてる筈だ、今の内に傘下に入れってよ」
「オヤジどもがフリクセルと手を組まない内に、やっつけちまおうって訳だな。
そんなら早速、俺が片づけてきてやるよ」
エルフの青年が言って、ドアのほうへ向かいかけた。大男がその腕を掴む。
「最後まで話を聞けよ」
「悪ぃがお前の出番はまだだ、ヴァイデ。
お前のことだ、目についたモン全部吹っ飛ばす気でいるだろ。
ブラウの野郎に言ったとおり、今回は静かにやらなきゃなんねぇ。
ドラッヘ。『オプホドニク』に伝えて馬車を止めさせろ。
今頃、フリクセルが俺たちの資金源を洗い出そうとしてる。みすみす尻尾を掴ませるな。
それから、腕の良い奴を2、3人連れてシュタートゥエを見張るんだ。
チャンスがあり次第、ひとりずつ奴らを消せ。ただし、見覚えのない顔には近づくんじゃねぇ」
ドラッヘと呼ばれた大男が、ライデンの指示に黙って頷く。
「シュタートゥエが消えりゃ、フリクセルは俺たちを無視できなくなる。
そうなったとき、話をややこしくしたくねぇ」
そこでライデンは、にやりと笑った。
「準備にゃ金も時間もかかったが……これにてジンプリチシムス団、本格始動だ」
●
(フリクセルと、ヴェールマン。汚い話に決まってる)
貧民街再開発計画のリーク情報が、その日の『バルトアンデルス日報』に載った。
後で管財人と会う約束をしていた貧民街の芸術家・マティは、久方振りにまともな服を着て、
画商兼後見人の青年・ベッカートとカフェで食事を摂っていた。
テーブルへ広げられた新聞を横目に、ベッカートが、
「やはり、引っ越されたほうが良いのでは?
もう、お金は充分ある筈です。次の作品の値を含めれば、しばらくは困らないでしょう……」
「だからと言って、私を助けてくれた仲間たちを見捨てて、ひとり逃げ出すことはできないわ。
貴方の世話にはなったけど、管財人に預けているのは私のお金よ。好きに使わせてもらいます」
「それはそうですが……何か、なさるおつもりで?」
マティは前々から考えていた。
自分の収入でもって、河原で共に暮らす浮浪者たちを1日1日、養っていくことはできる――
しかし、それだけで良いのだろうか?
彼らは変わらず、河原のバラックで生き続けていくだけだ。行き場も、未来もない。
(誰かの助けが必要なのは、分かってる。
私ひとりじゃ、彼ら全員に家や仕事を見つけて、まともな暮らしをさせるなんて)
そこで思い出したのは、以前に助けてもらったハンターたちの顔だった。
立場上、彼らは金で雇われた護衛に過ぎなかった筈なのに、真剣に自分たちを気遣い、力になろうとしてくれた。
(河原の仲間たちだけじゃない。今、目の前にいる彼や)
ベッカートを見つめた。初めて見る、きちんとした身なりのマティに対し、少し落ち着かない様子でいる。
(ハンターたちを、信じてみるしかないのかも知れない)
「ねぇ。ハンターを雇うには、どうしたら良いのかしら」
具体的に何を頼むべきなのかは、彼女にも分からなかった。
兎に角話を聞いてもらい、彼らが取り得るあらゆる手段を取ってもらう。
(他に頼れるものがないのなら……どんな手を使ってもらっても、構わない)
リプレイ本文
●
「ようマティ、久し振りだな!」
帝都のとあるカフェで待っていた依頼主へ、ヒュムネ・ミュンスター(ka4288)が声をかける。
共に彼女の警護を請け負ったことがあるレイ・T・ベッドフォード(ka2398)も、
「ご息災でいらっしゃるようで、何よりです」
その日、マティは外行きの服装をして、化粧もきちんとしていたが、
相変わらずにこりともせず、美貌も相まって表情は一層冷たく見えた。
「まずはこうしてお会い頂けたこと、感謝致します」
マティの仰々しい挨拶に、ヒュムネも苦笑する。
「けど、あんた良い面になった。綺麗だ汚いだじゃなくてさ、
何つーか、ボスとしての貫禄が出てきたっていうか」
「別に、私は河原のボスなんかじゃないわ」
レイとヒュムネには知った顔とあってか、彼女の態度もいくらか和らいで感じられるが、
(苦労を重ねてきただけあって、簡単に心を開いてくれる方ではなさそうね)
一歩下がって、マティの人となりを観察するガーベラ・M・ベッドフォード(ka2401)。
妹のメリル・E・ベッドフォード(ka2399)と共に、弟・レイから紹介を受けた。
「真田 天斗(ka0014)と申します」
「壬生 義明(ka3397)。よろしくねぇ」
全員の紹介が終わると、ヒュムネが早速、
「さて、今後のことを相談しようか。
前も言ったが、仕事ってだけでなし。弱い者が食い物にされるのは俺様の気に食わねぇ。
依頼の通り、できることは何だってやるつもりだぜ」
●
マティの口から、河原の仲間たちの現状について説明を受ける。
「ほとんどは浮浪児と老人ばかりね、稼ぎが少ないから街中の浮浪者の集まりともつるめなくて。
それに、私みたく身を持ち崩した女の子が何人か」
そこで、ヒュムネが提案する。
「マティ、自分の住居兼アトリエを持ってみる気はねーか?」
パトロンを持ち、芸術家として生計を立てつつあるマティ。
彼女がきちんとしたアトリエを設け、仲間たちを住み込みで働かせるという案だった。
「雑用や食事なんかを任せちまえば、あんたは作品に集中できる。
器用そうなガキに制作の手伝いさせりゃ、もっと大きな画だって作れるだろ?
才能のある奴は、あんたみたく独り立ちできるかも知れねーし……」
ヒュムネは1度、マティとハンター仲間を見回して、
「それによ。あんたを手伝うことで、連中はタダ飯食わしてもらってる負い目がなくなる。
案外大事じゃねーかな、そういうのって」
彼女の言葉に、マティもはっとした顔をする。
「確かに、そうね。良い案だと思うわ。アトリエにできるような家を探してみます」
(そう。どんなに周囲の問題を解決しようと、
彼女たち自身が自立し、健全な市民となれなければ何も変わりません。しかし……)
メリルは、マティと姉を交互に見て、
「わたくしと真田様、壬生様で、新聞社を訪ねるつもりです。
まだ、ギャングや他の者たちの思惑に巻き込まれる恐れがありますから」
「情報戦って奴だねぇ。相手にばかり、隠密裏にことを運ばれると厄介だ」
「自分も、フリクセルなる人物について少々思うところがありますので」
義明、天斗が先に立つ。一方、メリルは弟に、
「レイ。ちょっと人相書きを作りたいのだけど、手伝ってもらえる?」
●
バルツの女性記者・ドリスとの面会は、社外のカフェで行われた。
「この業界、同じ社の同僚もライバルだからね。悪いけど」
まずは一同、挨拶を済ませる。ドリスはメリルから菓子折りを受け取って、
「あの美形の、お姉さんか。彼には世話になったね、よろしく言っといて」
「あれが少しでもお役に立ったのでしたら、幸いですわ」
「貴方も新聞記者とあればご多忙の筈。お時間を取らせぬよう、早速本題に参りましょう」
天斗が言うと、義明は軽く辺りをうかがう――昼時の賑々しい店内で、聞き耳を立てている者はいない。
まずは義明の口から、細部をぼかしつつ事情を説明した。
「……で、依頼主さんはフリクセルとヴェールマンの本音をお疑いな訳だが、
まずはギャングと再開発計画の連中を牽制して、平衡を保つってのが俺たちの策だ」
「そもそも、再開発計画の情報はどこから?
ソースは明かせないのは承知しております。しかし、そこを曲げてお願い致します」
天斗が頭を下げると、ドリスはふぅっと煙草の煙を吐いて、
「記事の出所なら何てこたない、市長自身さ。下水道保全活動に関する取材のとき、向こうから話を振ったんだ。
ふたりの友人、無論フリクセルとヴェールマンのことだけど、彼らと貧民街の改善事業をやるってね」
「ありがとうございます。その上で、図々しいお願いではありますが……」
「貧民街の特集記事、応援してるよ。これからも是非、取材を頑張って欲しいねぇ。
で、ついでにこう、書き方の按配も工夫してもらえると嬉しいかな、なんて。
再開発計画は有用かも知れないが、怪しい部分もある、
ギャングたちは悪党かも知れないが、だからって腕ずくで排除して良いものでもない。
ってな感じで、紙面上に一方的な善悪の構図を作らないようにさ」
「記事の書き方まで指図しようっての?」
流石にドリスの表情も曇る。が、
「無理は承知だけど、こっちもタダでものを頼む訳じゃない。な?」
義明が促すと、天斗は1枚のメモをテーブルに置く。
「ご一読の上、お返し下さい」
怪訝そうな顔をするドリスだが、差し出されたメモを読むと、
「……へぇ。あの会社の評判は聞いてたけど成る程、物騒なネタだこりゃ」
「ご協力頂けるのであれば今後、より詳しいことをお話ししましょう。
また、この件に関して身の危険を感じられた場合は、我々がお護りします。
私が居た世界では、ペンで戦争を終わらせたことが有ります。
貴方はそのペンで何をするのか、考えてみて下さい」
●
「……如何でしょう?」
ガーベラの目の前に座る、眼鏡をかけた痩せぎすの男・ヴェールマン。
再開発に興味を持つ投資家の依頼と偽って、帝都にある彼のオフィスを訪ねたのだが、
(ドレスを用立てた甲斐があったかしら)
ヴェールマンの視線は蚊でも追うようにちらちらと、
椅子に座って組まれた彼女の脚の上を何度も横切った。
「慈善活動ねぇ、気が乗らんな。
けちな男と思われようが、だからこそ私はこうして、この部屋に収まっていられるのだ」
「活動の窓口は、先程お話ししましたマティ女史が請け負います。
有力なパトロンを持ち、貧民街とも深いつながりがある人物。表看板にはうってつけと思われますが……」
「訳が分からんよ。私は既に、市の進める再開発計画へ出資の用意がある。
どうしてその上、慈善の為の金なぞ払わねばならんのかね?」
「小耳に挟んだ程度のことではありますが」
ガーベラはさり気なく、ドアのほうを振り返る。
部屋へ通される際、廊下でおよそ堅気でなさそうな風貌の護衛を見かけていた。
「ご友人のフリクセル氏は、あまり風評の宜しくない方のようで。
特に、彼の会社が管理する農地、シャーフブルートと言いましたか?
劣悪な労働環境に、農民たちも不満を募らせているとか」
「知ったことか、そんなこと本人に言いたまえ」
「労働者の大半は、貴方の元債務者だそうですね」
ぎろり、と目を剥くヴェールマン。
「こちらは仕事をしたまでだ。彼らは私に借金があった、そして返せなかった!
本当なら債務不履行で監獄送りにでもしてやるところを、
わざわざ働き口まで用意してやったんだぞ? 感謝こそすれ、恨むなどと」
「反体制派は!」
そこで、ヴェールマンはびくりと身を震わせる。
「反体制派はどう考えるでしょうか。
革命後に成功なさった貴方を、これ幸いと悪役に仕立て上げかねませんよ?」
「それが……この件とどう関係するのかね」
「貴方の名で慈善金を出せば、悪評を打ち消す助けになるやも分かりません。
わたくしどもの依頼人様も、安心して出資できる……」
ガーベラはにっこりと笑みを見せ、
「今この場での即断を迫ってはおりませんわ。どうぞ、ごゆっくりお考えを。
ご用命とあらばいつでも、わたくしが直にお取次ぎ致しますから」
間違いなく、ヴェールマンは反体制派の影に怯えていた。
なればこその護衛であり、ガーベラの脅しも効果のあった筈。
帰りがけ、廊下で若い女性に出くわす――
ガーベラほどでないにしろ、オフィスにそぐわない派手な身なり。
お互い、一瞥で相手の身分に見当をつけると、すぐに目を逸らして早足ですれ違った。
●
マティを伴い、貧民街へやって来たレイとヒュムネ。
余計な人目を引かぬようにとマティが着替えている間、
ヒュムネはひとりで古参のギャング・シュタートゥエを訪問していた。
「河原に手を出すなっつっといた。
連中、敵方の抑え込みにかかろうとしてて、変にこっちへ気を回す心配はなさそうだ」
「助かります。私は彼らと遺恨のあります故、顔が出せませんでしたから」
「ただ、よそ者らしい男がひとり、ボスの横で口添えしててな。何者だ?」
男の人相を、ヒュムネがレイに伝えたところ、
「フリクセル氏の部下、ロート氏でしょうね。
既にシュタートゥエの抱き込みを始めていましたか……」
「準備できたわ」
バラックから、マティが支度を終えて出てくる。
3人が訪ねるのは、新興ギャング・ジンプリチシムス団。
貧民街北部の廃墟群に拠点を構え、河原からもそう遠くない場所にあった。
見張りの少年・ハンスが取り次いで、『広間』と呼ばれる空地へ招かれた。
前回同様、空地の中央の石壇にライデンが腰かけ、武装した手下がその周囲を固めている。
だが、腹心のふたりの姿が今日は見えない。
「忙しいな、ハンター。昨日はあちら、今日はこちらと、ご主人様をとっかえひっかえだ」
レイとヒュムネを見て、にたにた笑いをするライデン。マティへは、
「河原のボロ屋の女か」
「依頼主のマティ様です。ご存じで?」
ライデンは答えず、ただ肩をすぼめてみせた。
「さっさと用件を言え」
「まずは謝罪を。私ども、貴方のことを少々調べさせて頂いておりました。
街の将来に深く関わるお方、と見込んでのことです」
レイの言葉に、ライデンはこれ見よがしに欠伸をする。
「私どもは、貧しさに喘ぐこの街の人々を救いたいと考えております。
しかし、街の再開発計画に携わるフリクセル氏は、およそ潔白な人物ではないとのこと。
彼らの思惑を排し、我々なりのやり方で街を変える上で、
貴方とも協力していけないものか、模索中といったところです」
「俺たちが、フリクセルよりマシだと考える根拠は」
ライデンは不気味な笑みを顔に貼りつけたままだが、話には乗ってきたようだ。
ヒュムネが手下たちを油断なく見張っている間、レイは言葉を接いでいく。
「畏れながら、貴方と私どもとで、向いている方向は似ているのではないかと。
貧困の中に置き去りにされつつある弱者、特に子供たちの未来を守る、という点において……」
ほんの少し間を置いて、ライデンが爆笑する。
手下たちも釣られて笑うが、その目には微かな怒気が宿っていた。
「ガキどもの未来だ? 俺たちが慈善活動やってるとでも思ったかよ!
ここにいる全員、勝手に俺についてきただけだぜ!?
物乞いの徒党と一緒にされちゃ終いだな! あー阿呆臭ぇ……」
「例え、貴方がたがヴルツァライヒと関わりがあるにしても」
笑い声を上げ続けるライデンだったが、
『広間』の片隅から、拳銃を帯びたエルフの青年がひとり、
ボスのさり気ない目配せで姿を現したのを、ヒュムネは見逃さなかった。
(お抱えのガンマンか)
もう1度ボスの合図があれば、こちらに銃を向ける気と見えた。
「フリクセルたちが街を支配すれば、住民はただ搾取されるばかりになるでしょう。どうか、お力添えを」
ようやく笑いを止めたライデンへ、今度はヒュムネが、
「ギャングの争いには興味ねぇ。罪のない者が巻き込まれなければ良し、
その後はぶっちゃけ、大人しく勝ち馬に乗るつもりさ。
お互い、当面の間は手出し無用。それだけでも約束してくれねーかな」
●
結局、ライデンの答えは判然としないまま帰されてしまったが、
「彼にとっても、シュタートゥエと我々との2正面作戦は無用なリスク。今しばらく干渉する気はない筈です」
でなければ、あのガンマンがとうにこちらを撃っている。
「はなから多勢で囲んでたんだ。どうせ覚醒者と喧嘩すんなら、あれほどマシな条件はない。
そこでやらなかったってこた、レイの言う通りだろう」
「私たちはどうすれば?」
マティの問いに、レイが答える。
「ギャングのことは、このままライデンに任せておくのが良いかと。
貴方はアトリエに専念なさって下さい。まずは味方を増やし、まとめていく……、
そうすればいつか、皆を救う方法が見つかると信じています」
私自身、誰かに救われて今日ここにあるのだから、と、ぽつりと言い添えた。
メリルら3人も、ドリスとの交渉でまずまずの成功を収めてきた。
「あの記者さん、前々からフリクセルを追っかけてた様子だねぇ。
真田が持ってきたネタのお蔭で、どうにか取引は成り立ったかな」
「後はただ、彼女の正義感を信じるよりありません。
せめて、メリルさんの人相書きから、ライデンの正体だけでも割れると良いのですが」
そのメリルは、バルツからもらってきた新聞のバックナンバーを検分しつつ、
ドリスから訊き出した他のことごとを思い返す。
(フリクセルは義勇軍の名を借りて、各地で略奪を行っていた。
彼の財産も元は旧帝国側の村々から奪ったものが、勝てば官軍、今や一流の実業家ですか)
革命の遺物はフリクセルだけではない。
当時、義勇軍に支給された大量の銃火器が、今なお帝国全土に隠匿されているそうだ。
誰かが反乱を焚きつければ、そうした武器が再び日の目を見ることは間違いない。
(ひょっとして、ライデンたちの武装もそこから?)
●
後日、バルツに貧民街特集記事の続報が掲載された。
記事はギャング抗争に関する新情報を出しつつ、
次回は再開発計画の関係者について、より詳細なプロフィールを載せると予告していた。
ヴェールマン、そしてフリクセルの過去についても掘り下げるらしい。
(もう2度と、食い物にされはしない)
マティは読み終えた新聞を畳み、訪れていた河沿いの空き倉庫――
アトリエ設置予定地の床へ投げ捨てる。
(この場所を中心に、街に新たな雇用を生み出す。
そこで、レイたちに教わった労働組合とかいうものの仕組みを作っていく。
再開発に対抗できるよう、全ての計画を急いで……)
マティと仲間たちがアトリエ開設に向け、忙しく立ち回る間中、
ギャングたちは約束通り、何の干渉もしてこなかった。
そして半月の内に、シュタートゥエのちんぴら5人が、街から忽然と姿を消した。
「ようマティ、久し振りだな!」
帝都のとあるカフェで待っていた依頼主へ、ヒュムネ・ミュンスター(ka4288)が声をかける。
共に彼女の警護を請け負ったことがあるレイ・T・ベッドフォード(ka2398)も、
「ご息災でいらっしゃるようで、何よりです」
その日、マティは外行きの服装をして、化粧もきちんとしていたが、
相変わらずにこりともせず、美貌も相まって表情は一層冷たく見えた。
「まずはこうしてお会い頂けたこと、感謝致します」
マティの仰々しい挨拶に、ヒュムネも苦笑する。
「けど、あんた良い面になった。綺麗だ汚いだじゃなくてさ、
何つーか、ボスとしての貫禄が出てきたっていうか」
「別に、私は河原のボスなんかじゃないわ」
レイとヒュムネには知った顔とあってか、彼女の態度もいくらか和らいで感じられるが、
(苦労を重ねてきただけあって、簡単に心を開いてくれる方ではなさそうね)
一歩下がって、マティの人となりを観察するガーベラ・M・ベッドフォード(ka2401)。
妹のメリル・E・ベッドフォード(ka2399)と共に、弟・レイから紹介を受けた。
「真田 天斗(ka0014)と申します」
「壬生 義明(ka3397)。よろしくねぇ」
全員の紹介が終わると、ヒュムネが早速、
「さて、今後のことを相談しようか。
前も言ったが、仕事ってだけでなし。弱い者が食い物にされるのは俺様の気に食わねぇ。
依頼の通り、できることは何だってやるつもりだぜ」
●
マティの口から、河原の仲間たちの現状について説明を受ける。
「ほとんどは浮浪児と老人ばかりね、稼ぎが少ないから街中の浮浪者の集まりともつるめなくて。
それに、私みたく身を持ち崩した女の子が何人か」
そこで、ヒュムネが提案する。
「マティ、自分の住居兼アトリエを持ってみる気はねーか?」
パトロンを持ち、芸術家として生計を立てつつあるマティ。
彼女がきちんとしたアトリエを設け、仲間たちを住み込みで働かせるという案だった。
「雑用や食事なんかを任せちまえば、あんたは作品に集中できる。
器用そうなガキに制作の手伝いさせりゃ、もっと大きな画だって作れるだろ?
才能のある奴は、あんたみたく独り立ちできるかも知れねーし……」
ヒュムネは1度、マティとハンター仲間を見回して、
「それによ。あんたを手伝うことで、連中はタダ飯食わしてもらってる負い目がなくなる。
案外大事じゃねーかな、そういうのって」
彼女の言葉に、マティもはっとした顔をする。
「確かに、そうね。良い案だと思うわ。アトリエにできるような家を探してみます」
(そう。どんなに周囲の問題を解決しようと、
彼女たち自身が自立し、健全な市民となれなければ何も変わりません。しかし……)
メリルは、マティと姉を交互に見て、
「わたくしと真田様、壬生様で、新聞社を訪ねるつもりです。
まだ、ギャングや他の者たちの思惑に巻き込まれる恐れがありますから」
「情報戦って奴だねぇ。相手にばかり、隠密裏にことを運ばれると厄介だ」
「自分も、フリクセルなる人物について少々思うところがありますので」
義明、天斗が先に立つ。一方、メリルは弟に、
「レイ。ちょっと人相書きを作りたいのだけど、手伝ってもらえる?」
●
バルツの女性記者・ドリスとの面会は、社外のカフェで行われた。
「この業界、同じ社の同僚もライバルだからね。悪いけど」
まずは一同、挨拶を済ませる。ドリスはメリルから菓子折りを受け取って、
「あの美形の、お姉さんか。彼には世話になったね、よろしく言っといて」
「あれが少しでもお役に立ったのでしたら、幸いですわ」
「貴方も新聞記者とあればご多忙の筈。お時間を取らせぬよう、早速本題に参りましょう」
天斗が言うと、義明は軽く辺りをうかがう――昼時の賑々しい店内で、聞き耳を立てている者はいない。
まずは義明の口から、細部をぼかしつつ事情を説明した。
「……で、依頼主さんはフリクセルとヴェールマンの本音をお疑いな訳だが、
まずはギャングと再開発計画の連中を牽制して、平衡を保つってのが俺たちの策だ」
「そもそも、再開発計画の情報はどこから?
ソースは明かせないのは承知しております。しかし、そこを曲げてお願い致します」
天斗が頭を下げると、ドリスはふぅっと煙草の煙を吐いて、
「記事の出所なら何てこたない、市長自身さ。下水道保全活動に関する取材のとき、向こうから話を振ったんだ。
ふたりの友人、無論フリクセルとヴェールマンのことだけど、彼らと貧民街の改善事業をやるってね」
「ありがとうございます。その上で、図々しいお願いではありますが……」
「貧民街の特集記事、応援してるよ。これからも是非、取材を頑張って欲しいねぇ。
で、ついでにこう、書き方の按配も工夫してもらえると嬉しいかな、なんて。
再開発計画は有用かも知れないが、怪しい部分もある、
ギャングたちは悪党かも知れないが、だからって腕ずくで排除して良いものでもない。
ってな感じで、紙面上に一方的な善悪の構図を作らないようにさ」
「記事の書き方まで指図しようっての?」
流石にドリスの表情も曇る。が、
「無理は承知だけど、こっちもタダでものを頼む訳じゃない。な?」
義明が促すと、天斗は1枚のメモをテーブルに置く。
「ご一読の上、お返し下さい」
怪訝そうな顔をするドリスだが、差し出されたメモを読むと、
「……へぇ。あの会社の評判は聞いてたけど成る程、物騒なネタだこりゃ」
「ご協力頂けるのであれば今後、より詳しいことをお話ししましょう。
また、この件に関して身の危険を感じられた場合は、我々がお護りします。
私が居た世界では、ペンで戦争を終わらせたことが有ります。
貴方はそのペンで何をするのか、考えてみて下さい」
●
「……如何でしょう?」
ガーベラの目の前に座る、眼鏡をかけた痩せぎすの男・ヴェールマン。
再開発に興味を持つ投資家の依頼と偽って、帝都にある彼のオフィスを訪ねたのだが、
(ドレスを用立てた甲斐があったかしら)
ヴェールマンの視線は蚊でも追うようにちらちらと、
椅子に座って組まれた彼女の脚の上を何度も横切った。
「慈善活動ねぇ、気が乗らんな。
けちな男と思われようが、だからこそ私はこうして、この部屋に収まっていられるのだ」
「活動の窓口は、先程お話ししましたマティ女史が請け負います。
有力なパトロンを持ち、貧民街とも深いつながりがある人物。表看板にはうってつけと思われますが……」
「訳が分からんよ。私は既に、市の進める再開発計画へ出資の用意がある。
どうしてその上、慈善の為の金なぞ払わねばならんのかね?」
「小耳に挟んだ程度のことではありますが」
ガーベラはさり気なく、ドアのほうを振り返る。
部屋へ通される際、廊下でおよそ堅気でなさそうな風貌の護衛を見かけていた。
「ご友人のフリクセル氏は、あまり風評の宜しくない方のようで。
特に、彼の会社が管理する農地、シャーフブルートと言いましたか?
劣悪な労働環境に、農民たちも不満を募らせているとか」
「知ったことか、そんなこと本人に言いたまえ」
「労働者の大半は、貴方の元債務者だそうですね」
ぎろり、と目を剥くヴェールマン。
「こちらは仕事をしたまでだ。彼らは私に借金があった、そして返せなかった!
本当なら債務不履行で監獄送りにでもしてやるところを、
わざわざ働き口まで用意してやったんだぞ? 感謝こそすれ、恨むなどと」
「反体制派は!」
そこで、ヴェールマンはびくりと身を震わせる。
「反体制派はどう考えるでしょうか。
革命後に成功なさった貴方を、これ幸いと悪役に仕立て上げかねませんよ?」
「それが……この件とどう関係するのかね」
「貴方の名で慈善金を出せば、悪評を打ち消す助けになるやも分かりません。
わたくしどもの依頼人様も、安心して出資できる……」
ガーベラはにっこりと笑みを見せ、
「今この場での即断を迫ってはおりませんわ。どうぞ、ごゆっくりお考えを。
ご用命とあらばいつでも、わたくしが直にお取次ぎ致しますから」
間違いなく、ヴェールマンは反体制派の影に怯えていた。
なればこその護衛であり、ガーベラの脅しも効果のあった筈。
帰りがけ、廊下で若い女性に出くわす――
ガーベラほどでないにしろ、オフィスにそぐわない派手な身なり。
お互い、一瞥で相手の身分に見当をつけると、すぐに目を逸らして早足ですれ違った。
●
マティを伴い、貧民街へやって来たレイとヒュムネ。
余計な人目を引かぬようにとマティが着替えている間、
ヒュムネはひとりで古参のギャング・シュタートゥエを訪問していた。
「河原に手を出すなっつっといた。
連中、敵方の抑え込みにかかろうとしてて、変にこっちへ気を回す心配はなさそうだ」
「助かります。私は彼らと遺恨のあります故、顔が出せませんでしたから」
「ただ、よそ者らしい男がひとり、ボスの横で口添えしててな。何者だ?」
男の人相を、ヒュムネがレイに伝えたところ、
「フリクセル氏の部下、ロート氏でしょうね。
既にシュタートゥエの抱き込みを始めていましたか……」
「準備できたわ」
バラックから、マティが支度を終えて出てくる。
3人が訪ねるのは、新興ギャング・ジンプリチシムス団。
貧民街北部の廃墟群に拠点を構え、河原からもそう遠くない場所にあった。
見張りの少年・ハンスが取り次いで、『広間』と呼ばれる空地へ招かれた。
前回同様、空地の中央の石壇にライデンが腰かけ、武装した手下がその周囲を固めている。
だが、腹心のふたりの姿が今日は見えない。
「忙しいな、ハンター。昨日はあちら、今日はこちらと、ご主人様をとっかえひっかえだ」
レイとヒュムネを見て、にたにた笑いをするライデン。マティへは、
「河原のボロ屋の女か」
「依頼主のマティ様です。ご存じで?」
ライデンは答えず、ただ肩をすぼめてみせた。
「さっさと用件を言え」
「まずは謝罪を。私ども、貴方のことを少々調べさせて頂いておりました。
街の将来に深く関わるお方、と見込んでのことです」
レイの言葉に、ライデンはこれ見よがしに欠伸をする。
「私どもは、貧しさに喘ぐこの街の人々を救いたいと考えております。
しかし、街の再開発計画に携わるフリクセル氏は、およそ潔白な人物ではないとのこと。
彼らの思惑を排し、我々なりのやり方で街を変える上で、
貴方とも協力していけないものか、模索中といったところです」
「俺たちが、フリクセルよりマシだと考える根拠は」
ライデンは不気味な笑みを顔に貼りつけたままだが、話には乗ってきたようだ。
ヒュムネが手下たちを油断なく見張っている間、レイは言葉を接いでいく。
「畏れながら、貴方と私どもとで、向いている方向は似ているのではないかと。
貧困の中に置き去りにされつつある弱者、特に子供たちの未来を守る、という点において……」
ほんの少し間を置いて、ライデンが爆笑する。
手下たちも釣られて笑うが、その目には微かな怒気が宿っていた。
「ガキどもの未来だ? 俺たちが慈善活動やってるとでも思ったかよ!
ここにいる全員、勝手に俺についてきただけだぜ!?
物乞いの徒党と一緒にされちゃ終いだな! あー阿呆臭ぇ……」
「例え、貴方がたがヴルツァライヒと関わりがあるにしても」
笑い声を上げ続けるライデンだったが、
『広間』の片隅から、拳銃を帯びたエルフの青年がひとり、
ボスのさり気ない目配せで姿を現したのを、ヒュムネは見逃さなかった。
(お抱えのガンマンか)
もう1度ボスの合図があれば、こちらに銃を向ける気と見えた。
「フリクセルたちが街を支配すれば、住民はただ搾取されるばかりになるでしょう。どうか、お力添えを」
ようやく笑いを止めたライデンへ、今度はヒュムネが、
「ギャングの争いには興味ねぇ。罪のない者が巻き込まれなければ良し、
その後はぶっちゃけ、大人しく勝ち馬に乗るつもりさ。
お互い、当面の間は手出し無用。それだけでも約束してくれねーかな」
●
結局、ライデンの答えは判然としないまま帰されてしまったが、
「彼にとっても、シュタートゥエと我々との2正面作戦は無用なリスク。今しばらく干渉する気はない筈です」
でなければ、あのガンマンがとうにこちらを撃っている。
「はなから多勢で囲んでたんだ。どうせ覚醒者と喧嘩すんなら、あれほどマシな条件はない。
そこでやらなかったってこた、レイの言う通りだろう」
「私たちはどうすれば?」
マティの問いに、レイが答える。
「ギャングのことは、このままライデンに任せておくのが良いかと。
貴方はアトリエに専念なさって下さい。まずは味方を増やし、まとめていく……、
そうすればいつか、皆を救う方法が見つかると信じています」
私自身、誰かに救われて今日ここにあるのだから、と、ぽつりと言い添えた。
メリルら3人も、ドリスとの交渉でまずまずの成功を収めてきた。
「あの記者さん、前々からフリクセルを追っかけてた様子だねぇ。
真田が持ってきたネタのお蔭で、どうにか取引は成り立ったかな」
「後はただ、彼女の正義感を信じるよりありません。
せめて、メリルさんの人相書きから、ライデンの正体だけでも割れると良いのですが」
そのメリルは、バルツからもらってきた新聞のバックナンバーを検分しつつ、
ドリスから訊き出した他のことごとを思い返す。
(フリクセルは義勇軍の名を借りて、各地で略奪を行っていた。
彼の財産も元は旧帝国側の村々から奪ったものが、勝てば官軍、今や一流の実業家ですか)
革命の遺物はフリクセルだけではない。
当時、義勇軍に支給された大量の銃火器が、今なお帝国全土に隠匿されているそうだ。
誰かが反乱を焚きつければ、そうした武器が再び日の目を見ることは間違いない。
(ひょっとして、ライデンたちの武装もそこから?)
●
後日、バルツに貧民街特集記事の続報が掲載された。
記事はギャング抗争に関する新情報を出しつつ、
次回は再開発計画の関係者について、より詳細なプロフィールを載せると予告していた。
ヴェールマン、そしてフリクセルの過去についても掘り下げるらしい。
(もう2度と、食い物にされはしない)
マティは読み終えた新聞を畳み、訪れていた河沿いの空き倉庫――
アトリエ設置予定地の床へ投げ捨てる。
(この場所を中心に、街に新たな雇用を生み出す。
そこで、レイたちに教わった労働組合とかいうものの仕組みを作っていく。
再開発に対抗できるよう、全ての計画を急いで……)
マティと仲間たちがアトリエ開設に向け、忙しく立ち回る間中、
ギャングたちは約束通り、何の干渉もしてこなかった。
そして半月の内に、シュタートゥエのちんぴら5人が、街から忽然と姿を消した。
依頼結果
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最終発言 2015/05/24 09:09:51 |