貧者の宝

マスター:湖欄黒江

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/05/26 12:00
完成日
2015/06/03 18:11

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 帝都バルトアンデルス随一の高級レストラン『エーアミット』。
 実業家・フリクセルと銀行家・ヴェールマンが、奥の個室で話し合う。

 話題は、帝都南東部の貧民街のこと。
 互いに対立する地元のギャングふたつに対して、ハンターの護衛つきで交渉人を送り、
 同時に彼らの戦力についても情報を集めさせたのだが、
「奴らの資金は、一体どこから出てるんだ?」
 10代、あるいはそれ以下の少年ばかりで構成された新興ギャング『ジンプリチシムス団』。
 貧民街北部の廃墟群、更にその周辺の住宅街まで縄張りを広げているようだが、
「後ろ盾がある筈だ。でなければ、これだけの武器を揃えられる訳がない」
「私は知らん。それこそ、貴様の専門分野だろう」
 ヴェールマンは言いながら、いらいらと足を揺する。フリクセルが顔をしかめて、
「女日照りがそんなに辛いか」
「それより、考えはあるのか。計画はどうするんだ」

 フリクセルは黙って背を椅子にもたれ、葉巻を一服すると、
「シュタートゥエの連中は御し易そうだ。
 差し当たり、ロートと兵隊数人をあちらへ置いて監視させる。ガキどもが手出しできんようにな。
 それと市長に言って、どこか適当な新聞社へ計画をリークさせよう。
 ことが荒立つ前に宣伝を打っておけば、後出しの印象も薄れる。
 後は成り行きを見つつ、ガキどもの背後をこちらで探るとしよう。
 特に、ライデンとかいう男がどこから来たのか……」
「オラウス」
 ヴェールマンが、個室のドアのほうを気にしながら言う。
「単なる思いつきなんだが、奴ら、反体制派から金をもらってるんじゃないか」
「……ふむ?」
「貴様や俺を脅す為に、ジンプリチシムス団なんてでっち上げたんじゃないか」

 フリクセルはそのまま、しばらくヴェールマンの顔を眺めた。何かに怯えているようだ。
「何があった」
「憲兵隊から連絡があった。どうやら俺は、ヴルツァライヒの暗殺対象リストに載ったらしい」
「……はっは! 今更か、今更そんなことが怖いのか。
 反体制の連中に今まで何ができた? 間抜けなビラ配りくらいじゃないか!
 そんなに怖いなら、俺が護衛も女も宛がってやるさ。さぁ、馬鹿なことは考えないで計画に集中するんだ」

 彼らがバルトアンデルス市長と共謀しているのは、貧民街の再開発計画だった。
 一帯の建築物の老朽化、及び治安悪化を理由に、市政が乗り出して貧民街を丸ごと作り変える。
「工場、商業施設、新たな集合住宅……連中の雇用・住居問題を一挙解決だ」
 ただし再開発後の貧民街の商業活動は、全てヴェールマンの出資、フリクセルの経営で行われる。
 安価な労働力を確保しつつ、裏の商売の拠点を新たに置くこともできる。
「住人は皆、我々が用意した仕事をし、我々が用意した遊びで楽しむ。
 羊を飼うようなものだな。朝から晩まで面倒を見て、余すことなく毛を刈ってやる。
 老いた羊は食肉加工に回す……そのときはお前の出番だ、高利貸」
 テーブル越しに手を伸ばして、ヴェールマンの肩を叩いてやるが、彼の不安は晴れないらしい。
 フリクセルは椅子に戻り、やれやれと首を振った。


「フリクセルが動くより早く、俺たちのほうから仕掛ける」
 ジンプリチシムス団のボス・ライデンが言う。
 彼は廃屋の一室にふたりの腹心――スキンヘッドの大男と、エルフの美青年――を呼び、
 シュタートゥエとの抗争に関する新たな作戦を指令していた。
「奴は貧民街が欲しいが、ホントの戦争になって憲兵隊に出張られちゃ困るんだよ。
 だから、あんな回りくどい真似すんのさ。
 シュタートゥエのほうにも声をかけてる筈だ、今の内に傘下に入れってよ」
「オヤジどもがフリクセルと手を組まない内に、やっつけちまおうって訳だな。
 そんなら早速、俺が片づけてきてやるよ」
 エルフの青年が言って、ドアのほうへ向かいかけた。大男がその腕を掴む。
「最後まで話を聞けよ」
「悪ぃがお前の出番はまだだ、ヴァイデ。
 お前のことだ、目についたモン全部吹っ飛ばす気でいるだろ。
 ブラウの野郎に言ったとおり、今回は静かにやらなきゃなんねぇ。

 ドラッヘ。『オプホドニク』に伝えて馬車を止めさせろ。
 今頃、フリクセルが俺たちの資金源を洗い出そうとしてる。みすみす尻尾を掴ませるな。
 それから、腕の良い奴を2、3人連れてシュタートゥエを見張るんだ。
 チャンスがあり次第、ひとりずつ奴らを消せ。ただし、見覚えのない顔には近づくんじゃねぇ」

 ドラッヘと呼ばれた大男が、ライデンの指示に黙って頷く。
「シュタートゥエが消えりゃ、フリクセルは俺たちを無視できなくなる。
 そうなったとき、話をややこしくしたくねぇ」
 そこでライデンは、にやりと笑った。
「準備にゃ金も時間もかかったが……これにてジンプリチシムス団、本格始動だ」


(フリクセルと、ヴェールマン。汚い話に決まってる)
 貧民街再開発計画のリーク情報が、その日の『バルトアンデルス日報』に載った。
 後で管財人と会う約束をしていた貧民街の芸術家・マティは、久方振りにまともな服を着て、
 画商兼後見人の青年・ベッカートとカフェで食事を摂っていた。
 テーブルへ広げられた新聞を横目に、ベッカートが、
「やはり、引っ越されたほうが良いのでは?
 もう、お金は充分ある筈です。次の作品の値を含めれば、しばらくは困らないでしょう……」
「だからと言って、私を助けてくれた仲間たちを見捨てて、ひとり逃げ出すことはできないわ。
 貴方の世話にはなったけど、管財人に預けているのは私のお金よ。好きに使わせてもらいます」
「それはそうですが……何か、なさるおつもりで?」

 マティは前々から考えていた。
 自分の収入でもって、河原で共に暮らす浮浪者たちを1日1日、養っていくことはできる――
 しかし、それだけで良いのだろうか?
 彼らは変わらず、河原のバラックで生き続けていくだけだ。行き場も、未来もない。
(誰かの助けが必要なのは、分かってる。
 私ひとりじゃ、彼ら全員に家や仕事を見つけて、まともな暮らしをさせるなんて)
 そこで思い出したのは、以前に助けてもらったハンターたちの顔だった。
 立場上、彼らは金で雇われた護衛に過ぎなかった筈なのに、真剣に自分たちを気遣い、力になろうとしてくれた。
(河原の仲間たちだけじゃない。今、目の前にいる彼や)
 ベッカートを見つめた。初めて見る、きちんとした身なりのマティに対し、少し落ち着かない様子でいる。
(ハンターたちを、信じてみるしかないのかも知れない)

「ねぇ。ハンターを雇うには、どうしたら良いのかしら」
 具体的に何を頼むべきなのかは、彼女にも分からなかった。
 兎に角話を聞いてもらい、彼らが取り得るあらゆる手段を取ってもらう。
(他に頼れるものがないのなら……どんな手を使ってもらっても、構わない)

リプレイ本文


「ようマティ、久し振りだな!」
 帝都のとあるカフェで待っていた依頼主へ、ヒュムネ・ミュンスター(ka4288)が声をかける。
 共に彼女の警護を請け負ったことがあるレイ・T・ベッドフォード(ka2398)も、
「ご息災でいらっしゃるようで、何よりです」

 その日、マティは外行きの服装をして、化粧もきちんとしていたが、
 相変わらずにこりともせず、美貌も相まって表情は一層冷たく見えた。
「まずはこうしてお会い頂けたこと、感謝致します」
 マティの仰々しい挨拶に、ヒュムネも苦笑する。
「けど、あんた良い面になった。綺麗だ汚いだじゃなくてさ、
 何つーか、ボスとしての貫禄が出てきたっていうか」
「別に、私は河原のボスなんかじゃないわ」
 レイとヒュムネには知った顔とあってか、彼女の態度もいくらか和らいで感じられるが、
(苦労を重ねてきただけあって、簡単に心を開いてくれる方ではなさそうね)
 一歩下がって、マティの人となりを観察するガーベラ・M・ベッドフォード(ka2401)。
 妹のメリル・E・ベッドフォード(ka2399)と共に、弟・レイから紹介を受けた。

「真田 天斗(ka0014)と申します」
「壬生 義明(ka3397)。よろしくねぇ」
 全員の紹介が終わると、ヒュムネが早速、
「さて、今後のことを相談しようか。
 前も言ったが、仕事ってだけでなし。弱い者が食い物にされるのは俺様の気に食わねぇ。
 依頼の通り、できることは何だってやるつもりだぜ」


 マティの口から、河原の仲間たちの現状について説明を受ける。
「ほとんどは浮浪児と老人ばかりね、稼ぎが少ないから街中の浮浪者の集まりともつるめなくて。
 それに、私みたく身を持ち崩した女の子が何人か」
 そこで、ヒュムネが提案する。
「マティ、自分の住居兼アトリエを持ってみる気はねーか?」

 パトロンを持ち、芸術家として生計を立てつつあるマティ。
 彼女がきちんとしたアトリエを設け、仲間たちを住み込みで働かせるという案だった。
「雑用や食事なんかを任せちまえば、あんたは作品に集中できる。
 器用そうなガキに制作の手伝いさせりゃ、もっと大きな画だって作れるだろ?
 才能のある奴は、あんたみたく独り立ちできるかも知れねーし……」
 ヒュムネは1度、マティとハンター仲間を見回して、
「それによ。あんたを手伝うことで、連中はタダ飯食わしてもらってる負い目がなくなる。
 案外大事じゃねーかな、そういうのって」
 彼女の言葉に、マティもはっとした顔をする。
「確かに、そうね。良い案だと思うわ。アトリエにできるような家を探してみます」

(そう。どんなに周囲の問題を解決しようと、
 彼女たち自身が自立し、健全な市民となれなければ何も変わりません。しかし……)
 メリルは、マティと姉を交互に見て、
「わたくしと真田様、壬生様で、新聞社を訪ねるつもりです。
 まだ、ギャングや他の者たちの思惑に巻き込まれる恐れがありますから」
「情報戦って奴だねぇ。相手にばかり、隠密裏にことを運ばれると厄介だ」
「自分も、フリクセルなる人物について少々思うところがありますので」
 義明、天斗が先に立つ。一方、メリルは弟に、
「レイ。ちょっと人相書きを作りたいのだけど、手伝ってもらえる?」


 バルツの女性記者・ドリスとの面会は、社外のカフェで行われた。
「この業界、同じ社の同僚もライバルだからね。悪いけど」
 まずは一同、挨拶を済ませる。ドリスはメリルから菓子折りを受け取って、
「あの美形の、お姉さんか。彼には世話になったね、よろしく言っといて」
「あれが少しでもお役に立ったのでしたら、幸いですわ」
 
「貴方も新聞記者とあればご多忙の筈。お時間を取らせぬよう、早速本題に参りましょう」
 天斗が言うと、義明は軽く辺りをうかがう――昼時の賑々しい店内で、聞き耳を立てている者はいない。
 まずは義明の口から、細部をぼかしつつ事情を説明した。
「……で、依頼主さんはフリクセルとヴェールマンの本音をお疑いな訳だが、
 まずはギャングと再開発計画の連中を牽制して、平衡を保つってのが俺たちの策だ」

「そもそも、再開発計画の情報はどこから?
 ソースは明かせないのは承知しております。しかし、そこを曲げてお願い致します」
 天斗が頭を下げると、ドリスはふぅっと煙草の煙を吐いて、
「記事の出所なら何てこたない、市長自身さ。下水道保全活動に関する取材のとき、向こうから話を振ったんだ。
 ふたりの友人、無論フリクセルとヴェールマンのことだけど、彼らと貧民街の改善事業をやるってね」
「ありがとうございます。その上で、図々しいお願いではありますが……」

「貧民街の特集記事、応援してるよ。これからも是非、取材を頑張って欲しいねぇ。
 で、ついでにこう、書き方の按配も工夫してもらえると嬉しいかな、なんて。
 再開発計画は有用かも知れないが、怪しい部分もある、
 ギャングたちは悪党かも知れないが、だからって腕ずくで排除して良いものでもない。
 ってな感じで、紙面上に一方的な善悪の構図を作らないようにさ」
「記事の書き方まで指図しようっての?」
 流石にドリスの表情も曇る。が、
「無理は承知だけど、こっちもタダでものを頼む訳じゃない。な?」
 義明が促すと、天斗は1枚のメモをテーブルに置く。
「ご一読の上、お返し下さい」
 怪訝そうな顔をするドリスだが、差し出されたメモを読むと、
「……へぇ。あの会社の評判は聞いてたけど成る程、物騒なネタだこりゃ」
「ご協力頂けるのであれば今後、より詳しいことをお話ししましょう。
 また、この件に関して身の危険を感じられた場合は、我々がお護りします。

 私が居た世界では、ペンで戦争を終わらせたことが有ります。
 貴方はそのペンで何をするのか、考えてみて下さい」


「……如何でしょう?」
 ガーベラの目の前に座る、眼鏡をかけた痩せぎすの男・ヴェールマン。
 再開発に興味を持つ投資家の依頼と偽って、帝都にある彼のオフィスを訪ねたのだが、
(ドレスを用立てた甲斐があったかしら)
 ヴェールマンの視線は蚊でも追うようにちらちらと、
 椅子に座って組まれた彼女の脚の上を何度も横切った。
「慈善活動ねぇ、気が乗らんな。
 けちな男と思われようが、だからこそ私はこうして、この部屋に収まっていられるのだ」
「活動の窓口は、先程お話ししましたマティ女史が請け負います。
 有力なパトロンを持ち、貧民街とも深いつながりがある人物。表看板にはうってつけと思われますが……」
「訳が分からんよ。私は既に、市の進める再開発計画へ出資の用意がある。
 どうしてその上、慈善の為の金なぞ払わねばならんのかね?」

「小耳に挟んだ程度のことではありますが」
 ガーベラはさり気なく、ドアのほうを振り返る。
 部屋へ通される際、廊下でおよそ堅気でなさそうな風貌の護衛を見かけていた。
「ご友人のフリクセル氏は、あまり風評の宜しくない方のようで。
 特に、彼の会社が管理する農地、シャーフブルートと言いましたか?
 劣悪な労働環境に、農民たちも不満を募らせているとか」
「知ったことか、そんなこと本人に言いたまえ」

「労働者の大半は、貴方の元債務者だそうですね」
 ぎろり、と目を剥くヴェールマン。
「こちらは仕事をしたまでだ。彼らは私に借金があった、そして返せなかった!
 本当なら債務不履行で監獄送りにでもしてやるところを、
 わざわざ働き口まで用意してやったんだぞ? 感謝こそすれ、恨むなどと」
「反体制派は!」
 そこで、ヴェールマンはびくりと身を震わせる。
「反体制派はどう考えるでしょうか。
 革命後に成功なさった貴方を、これ幸いと悪役に仕立て上げかねませんよ?」
「それが……この件とどう関係するのかね」
「貴方の名で慈善金を出せば、悪評を打ち消す助けになるやも分かりません。
 わたくしどもの依頼人様も、安心して出資できる……」
 ガーベラはにっこりと笑みを見せ、
「今この場での即断を迫ってはおりませんわ。どうぞ、ごゆっくりお考えを。
 ご用命とあらばいつでも、わたくしが直にお取次ぎ致しますから」

 間違いなく、ヴェールマンは反体制派の影に怯えていた。
 なればこその護衛であり、ガーベラの脅しも効果のあった筈。
 帰りがけ、廊下で若い女性に出くわす――
 ガーベラほどでないにしろ、オフィスにそぐわない派手な身なり。
 お互い、一瞥で相手の身分に見当をつけると、すぐに目を逸らして早足ですれ違った。


 マティを伴い、貧民街へやって来たレイとヒュムネ。
 余計な人目を引かぬようにとマティが着替えている間、
 ヒュムネはひとりで古参のギャング・シュタートゥエを訪問していた。
「河原に手を出すなっつっといた。
 連中、敵方の抑え込みにかかろうとしてて、変にこっちへ気を回す心配はなさそうだ」
「助かります。私は彼らと遺恨のあります故、顔が出せませんでしたから」
「ただ、よそ者らしい男がひとり、ボスの横で口添えしててな。何者だ?」
 男の人相を、ヒュムネがレイに伝えたところ、
「フリクセル氏の部下、ロート氏でしょうね。
 既にシュタートゥエの抱き込みを始めていましたか……」
「準備できたわ」
 バラックから、マティが支度を終えて出てくる。
 3人が訪ねるのは、新興ギャング・ジンプリチシムス団。
 貧民街北部の廃墟群に拠点を構え、河原からもそう遠くない場所にあった。

 見張りの少年・ハンスが取り次いで、『広間』と呼ばれる空地へ招かれた。
 前回同様、空地の中央の石壇にライデンが腰かけ、武装した手下がその周囲を固めている。
 だが、腹心のふたりの姿が今日は見えない。
「忙しいな、ハンター。昨日はあちら、今日はこちらと、ご主人様をとっかえひっかえだ」
 レイとヒュムネを見て、にたにた笑いをするライデン。マティへは、
「河原のボロ屋の女か」
「依頼主のマティ様です。ご存じで?」
 ライデンは答えず、ただ肩をすぼめてみせた。
「さっさと用件を言え」

「まずは謝罪を。私ども、貴方のことを少々調べさせて頂いておりました。
 街の将来に深く関わるお方、と見込んでのことです」
 レイの言葉に、ライデンはこれ見よがしに欠伸をする。
「私どもは、貧しさに喘ぐこの街の人々を救いたいと考えております。
 しかし、街の再開発計画に携わるフリクセル氏は、およそ潔白な人物ではないとのこと。
 彼らの思惑を排し、我々なりのやり方で街を変える上で、
 貴方とも協力していけないものか、模索中といったところです」
「俺たちが、フリクセルよりマシだと考える根拠は」
 ライデンは不気味な笑みを顔に貼りつけたままだが、話には乗ってきたようだ。
 ヒュムネが手下たちを油断なく見張っている間、レイは言葉を接いでいく。
「畏れながら、貴方と私どもとで、向いている方向は似ているのではないかと。
 貧困の中に置き去りにされつつある弱者、特に子供たちの未来を守る、という点において……」

 ほんの少し間を置いて、ライデンが爆笑する。
 手下たちも釣られて笑うが、その目には微かな怒気が宿っていた。
「ガキどもの未来だ? 俺たちが慈善活動やってるとでも思ったかよ!
 ここにいる全員、勝手に俺についてきただけだぜ!?
 物乞いの徒党と一緒にされちゃ終いだな! あー阿呆臭ぇ……」
「例え、貴方がたがヴルツァライヒと関わりがあるにしても」

 笑い声を上げ続けるライデンだったが、
 『広間』の片隅から、拳銃を帯びたエルフの青年がひとり、
 ボスのさり気ない目配せで姿を現したのを、ヒュムネは見逃さなかった。
(お抱えのガンマンか)
 もう1度ボスの合図があれば、こちらに銃を向ける気と見えた。
「フリクセルたちが街を支配すれば、住民はただ搾取されるばかりになるでしょう。どうか、お力添えを」
 ようやく笑いを止めたライデンへ、今度はヒュムネが、
「ギャングの争いには興味ねぇ。罪のない者が巻き込まれなければ良し、
 その後はぶっちゃけ、大人しく勝ち馬に乗るつもりさ。
 お互い、当面の間は手出し無用。それだけでも約束してくれねーかな」


 結局、ライデンの答えは判然としないまま帰されてしまったが、
「彼にとっても、シュタートゥエと我々との2正面作戦は無用なリスク。今しばらく干渉する気はない筈です」
 でなければ、あのガンマンがとうにこちらを撃っている。
「はなから多勢で囲んでたんだ。どうせ覚醒者と喧嘩すんなら、あれほどマシな条件はない。
 そこでやらなかったってこた、レイの言う通りだろう」
「私たちはどうすれば?」
 マティの問いに、レイが答える。
「ギャングのことは、このままライデンに任せておくのが良いかと。
 貴方はアトリエに専念なさって下さい。まずは味方を増やし、まとめていく……、
 そうすればいつか、皆を救う方法が見つかると信じています」
 私自身、誰かに救われて今日ここにあるのだから、と、ぽつりと言い添えた。

 メリルら3人も、ドリスとの交渉でまずまずの成功を収めてきた。
「あの記者さん、前々からフリクセルを追っかけてた様子だねぇ。
 真田が持ってきたネタのお蔭で、どうにか取引は成り立ったかな」
「後はただ、彼女の正義感を信じるよりありません。
 せめて、メリルさんの人相書きから、ライデンの正体だけでも割れると良いのですが」

 そのメリルは、バルツからもらってきた新聞のバックナンバーを検分しつつ、
 ドリスから訊き出した他のことごとを思い返す。
(フリクセルは義勇軍の名を借りて、各地で略奪を行っていた。
 彼の財産も元は旧帝国側の村々から奪ったものが、勝てば官軍、今や一流の実業家ですか)
 革命の遺物はフリクセルだけではない。
 当時、義勇軍に支給された大量の銃火器が、今なお帝国全土に隠匿されているそうだ。
 誰かが反乱を焚きつければ、そうした武器が再び日の目を見ることは間違いない。
(ひょっとして、ライデンたちの武装もそこから?)


 後日、バルツに貧民街特集記事の続報が掲載された。
 記事はギャング抗争に関する新情報を出しつつ、
 次回は再開発計画の関係者について、より詳細なプロフィールを載せると予告していた。
 ヴェールマン、そしてフリクセルの過去についても掘り下げるらしい。
(もう2度と、食い物にされはしない)
 マティは読み終えた新聞を畳み、訪れていた河沿いの空き倉庫――
 アトリエ設置予定地の床へ投げ捨てる。
(この場所を中心に、街に新たな雇用を生み出す。
 そこで、レイたちに教わった労働組合とかいうものの仕組みを作っていく。
 再開発に対抗できるよう、全ての計画を急いで……)

 マティと仲間たちがアトリエ開設に向け、忙しく立ち回る間中、
 ギャングたちは約束通り、何の干渉もしてこなかった。

 そして半月の内に、シュタートゥエのちんぴら5人が、街から忽然と姿を消した。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 6
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 撃退士
    ヒュムネ・ミュンスターka4288

重体一覧

参加者一覧

  • Pクレープ店員
    真田 天斗(ka0014
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • SKMコンサルタント
    レイ・T・ベッドフォード(ka2398
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 闊叡の蒼星
    メリル・E・ベッドフォード(ka2399
    人間(紅)|23才|女性|魔術師

  • ガーベラ・M・ベッドフォード(ka2401
    人間(紅)|28才|女性|聖導士
  • Entangler
    壬生 義明(ka3397
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • 撃退士
    ヒュムネ・ミュンスター(ka4288
    人間(蒼)|13才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン たからものをさがして
レイ・T・ベッドフォード(ka2398
人間(リアルブルー)|26才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/05/26 09:15:18
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/24 09:09:51