部品泥棒を捕まえて!

マスター:佐倉眸

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/05/26 07:30
完成日
2015/06/03 16:17

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 男達が、潰れた馬車を片付けている。

「よーし、これで仕舞いだ。そっち気をつけろ」
「おう、それにしても……何だったんだろうな。この馬車の持ち主は、街道で死んでたらしいし、この馬車に乗ってきたのは誰か分からずじまいだ」
「見たって奴も、大けがしたらしいしよ」
「この馬車、コーヒー問屋のあの人のだろ? あの店も潰れちまうのかね」
「馬車から放り落とされてみたいに死んでたんだってな」
「怖いねぇ」
「まったく」

 フマーレの大通りを進んで1つ2つと細い道を曲がった突き当たり。
 馬車が横倒しになる事故があった。
 積荷は散らかって、牽いていた馬も死んでいた。
 馬車の持ち主の姿は無く、後日、それらしい人物の死体が、フマーレからジェオルジへ続く街道で回収された。
 死体と周辺の状況から、馬車から落ちたのでは無いか、或いは、同乗者に突き落とされたのでは無いかと言われたが、各局の所は明らかになっていない。
 しかし、その馬車だけはフマーレへ辿り着き、道の外れで、積荷をばらまき、荷台を損壊させていた。
 何があったのかと口々に囁きながら、警邏の男達はその片付けを終えた。

 物陰に潜んだ何かが動く。それの纏った紫色のローブが翻った。


 同じ頃、フマーレの職人達の頭を日々悩ませる事件が起こっていた。
 その噂はフマーレの東の外れの紡績工場に勤める青年、エンリコ・アモーレの耳にも届いていた。
 顔見知りの婦人、家具の工場に勤める彼女から、取引先の捻子工場がその被害に遭ったと聞いた。
「――それで、結局、何も取られてはいなかったみたいなんだけど……暫くは製造も、出荷も、停止。うちが頼んでいた部品も、大分遅れるみたい……」
 蒸気工場都市フマーレに軒を連ねる様々な工場、その中でも捻子や歯車といった部品を扱う工場に忍び込んで、荒らし回っていく者がいるらしい。
 初めは泥棒の類いかと言われていたが、荒らされた工場を片付けると、何も盗まれてはいない。
 しかし、売り物にならないほど商品を散らかされたり、機械や建物自体を壊されていたりと被害は大きい。
 彼女の取引先も昨晩遭遇し、大分深刻な状況のようだ。
 彼女と別れて暫く、工場へ着くと、その庭で飼っている狐が出迎えてきた。狐の頭を一撫でし、工場の重い鉄扉を開ける。
 紡績機械が動き始める頃、工場長の阪井輔が知人のハンターオフィス受付嬢と出勤してきた。

「そこで会ってね。この辺りも部品泥棒の被害が出ているらしいから、みんなで纏めて依頼を出そうかって話していたんだ」
「はい! 困ったことはハンターさんにお任せ下さい! ……でも、酷いですよね。大事な工場を荒らしていくなんて」
 腕組みをして憤る案内人に、エンリコは頷いて、捻子工場の件を伝えた。工場だけじゃ無くて、その部品を使う人も困っているようだと、深い溜息を吐いた。

『部品泥棒を捕まえて下さい!』


 依頼が掲載された日、集まったハンターと案内人は、一先ず通りの見回りをすることにした。
 被害を受けた工場の話を聞き、辺りの地理を簡単にだが把握する。そして、他の工場へも注意を促しながら、街を見回る。
 そして、日が暮れてからもう一度、今度は犯人を捕まえる為に出発した。

 阪井の工場から少し歩いて広い通りに出たさきの、別の細い道に入った辺り。
 その丁字路の角に佇む古くからの歯車の工場。
 表に面した店舗部分は片付いていて、大小様々な歯車が棚に整然と並んでいる。
 灯りの落ちた夜の暗闇の中、派手な音を立ててその扉が破られる。
「…………これ、ジャ、ない……コレ、は、あわなイ。こまりました、ネ」
 闖入者は桑の実を潰したような鮮やかな紫色のローブを纏い、老若男女何れともつかない声を継ぎ接ぎした様な音で喋りながらその棚を荒らす。
 そのローブは目深に被ったフードの半分が千切れていて、所々に穴が空いている。その穴の周囲の焦げが、その綻びが銃弾に撃たれたものだと知らせている。
 物音に気付いたのは、店の裏の工房で作業をしていた職人だった。
 工房から店に続くドアを開け、何事だとカンテラを翳す。

 ガラスが砕けて棚が倒れ、商品の散らかる大きな音。何かが潰れ、引き千切られる音がした。

 案内人の手の先でカンテラが揺れる。
 音のした方へと走る跫音。
 騒ぎに起き出した住人の声。
「なにごとですー!」
 灯りを向けた先、ドアの外れて窓が全て割られた店先、紫色のローブを纏った隻腕の歪虚が、人間の右腕を握って、こちらを向いた。
「アラアラァ、やっと、合いそうナ、もの、見付けタ、の。ニ。ちょっと、ダケ、目を、瞑って、くれません、カ?」
 笑い声のような音を響かせて、歪虚はハンター達に向かって小さな木細工の玩具を投げた。
 それは地面に落ちる直前に膨らんで、大きな甲虫を思わせる歪な歪虚の手駒となった。
 ぎょろりと動く大きな目玉が濁った色に彼等を映す。

リプレイ本文


 掲げたカンテラが照らした7つの歪虚、大粒の目が転び出た異形は、地面から僅かに浮いて迫ってくる。夜の帳が落ちた街、玉虫色の甲殻に月明かりが映って濁る。
「危ないです……あなたは、下がって……」
 マキナ・バベッジ(ka4302)が振り払った鞭が風を起こす。手の先でカンテラを揺らした案内人が後方に飛び退いた。
「皆さんへの指示を……戸や窓を閉めるように、お願いしましょう」
 マキナの言葉に頷くと、案内人は退きながら通りに軒を連ねる店、騒ぎに顔を出した住人を建物の中へと促していく。
 輪郭を重ね明滅する原色ペイントのフレーム、自立するロボットの幻影を背後に立たせ、腕を薙げばその幻影もガントレットの腕を広げる。
 ヒースクリフ(ka1686)の手の先で輪にしたロープがぱらりと解け、のたうつ蛇のように地面に跳ねる。
 青い目が巡る。
――この辺りは、夜でも偶に人が歩くから――
 予め張ろうとしたロープを済まなそうに拒んだ住人の1人が、マキナの背後で建物に走りながらこちらを振り返った。
「大丈夫だ、……これには、こういう使い方もある」
 端を手繰ってを結び目を作る。夜の闇に瘤を隠し、マキナの前へ走り出る。
「俺が敵を何とかするからマキナは指示に集中しても良いぜ?」
 住人の様子と、甲虫の歪虚の先、人型の歪虚が佇む向こうに細い路地が見える。通りを真っ直ぐに逃がす気は無いが、路地に逃げ込まれても厄介だ。
 マキナは頷いて、ロープの構えを保ちながら肩越しに住人を振り返った。

「嫉妬ちゃんはっけーん!」
 エリス・ブーリャ(ka3419)が得物を取る。
 木を撓らせた弓を左手に握る。右手が矢筒から二本の羽を摘まみながら走り、迫る甲虫の隙を縫う目で紫ローブの人型歪虚を探る。
 道を塞ぐ甲虫に、任せた、と振り返る。
 ヴァルトル=カッパー(ka0840)と高橋 鑑連(ka4760)が頷いて、甲虫の犇めく中へ走って行く。
「あの時逃げられた歪虚に、また逢えるとはな」
 柊 真司(ka0705)が静かにマテリアルをざわめかせ、その影を抜けて通りを駆る。
 昼間に覚えたこの辺りの地図、この広い通りに繋がる路地は直ぐ側のもの以外にも幾筋か見られた。
 逃げ込まれる前に回り込む。
 歪虚の背後を取ろうと只管走る。先を睨む金の双眸、その視野の端を掠めるように紫のローブが揺れた。
 子供の笑い声のような音、誰の物とも付かない継ぎ接ぎの歪な声。
 目指す先へ向けられた甲虫が2匹。
「邪魔、しない、で、下さいネ――アラァ?」
 甲虫の1匹が目玉をくるりと回転させて、向きを変える。
「言っただろ。こういう使い方もある……柊、行ってくれ」
 ヒースクリフが先を指して声を上げる。もう1匹と対峙し、ローブを揺らす歪虚を睨む視線を外さずに柊は頷いた。

「俺が来たからには好きにさせんぞ!」
 ヴァルトルが叫び、その身幅を更に広げて見せるように腕を開きエリスを庇う。同じく前進した高橋は柄に手を掛け、静かにマテリアルを昂ぶらせる。
「こっちへの逃げ道を断ちやしょう……ここを抜けられるといけやせん」
 建物に退く人々の足音が、怯えたざわめきが聞こえる。
 応、とヴァルトルが鎧に爪を受けて言う。
「ここは通してはならぬである! 他者の守りは俺に任せて切って切りまくるである!」
 爪を備えた手甲を構え、エリスを追う雑魔に振りかぶり空を殴る。その動きに反応した数匹が目玉をぐるりと回して狙いを変える。
 隙を突き駆け抜けたエリスを追ったのは1匹、エリスはそれを引き連れて、捻子と歯車と発条の腑を滑らかな陶器で包んだ歪虚を見据えた。
「臓物って歯車なのー? この際だから調べさせて貰うよ?」
 他にも聞きたいことは沢山ある。赤い瞳を爛爛と、口角を釣り上げて。
 走るエリスの後ろ姿を見てヴァルトルが大きく拳を翳し、残りの甲虫へこちらだと誘う。その腕に爪が掠め、別の爪が鎧に弾かれる。
 脚に絡んだ粘液に捕らわれながら、拳を突き出し倒れまいと覇気を強く。
「高橋殿!」
 1匹押さえて、仲間を呼ぶには大き過ぎる声を上げた。
 鯉口を切る澄み切った音に風の気配。声にくるりと目玉を揺らした歪虚が、探すように高橋の方を向いた。
「足を、断たせて貰うぜ」
 抜き放つ瞬間の刃が、こちらを狙う歪虚の足を刈り飛ばす。からん、と軽い音を立てて落ちた脚は平ゴムの関節で爪と細い棒を繋いだ脆い物、それは直ぐに黒い土塊に代わり、地面に紛れた。
 足の1つ千切れた身体を浮かばせ、その傷から黒い液体を滴らせている。地面に届く間際に霧散するそれを漂わせ、くるりと蠢く目が高橋を見詰めた。
 ヒースクリフに引き付けられた歪虚が投じられたものを探る様に目玉を蠢かし、ヒースクリフの構える刀を捕らえた。それを眺めるように、くるりと濁った色が揺れる。
 掲げた細い足の先、鋭い爪が迫る。その爪を鎧で弾くと、マテリアルを柄を握るしなやかな手指からその得物へ、魔機導の刃へ傾れさせ。振りかぶって構え、叩き付ける瞬間にその刃は光を広げ、刀身を核に拡大したマテリアルの刃は、大きな的をさっくりと削ぐ。
 目玉と足を1つ落とされた甲虫が藻掻き黒い靄を夜の風に流す。
「逃がさないが、向こうにも行かせない」
 刀を構え直して、片目の甲虫と向き合った。


 最前線にヴァルトル、その後ろを高橋が守る。けれど2人では、こちらに向かう甲虫の全てを背負い切れない。脇を抜けてくる1匹を鞭で叩き、マキナは周囲を見回した。
 背後で上がっていた声も大分遠い。粗方の避難は終えただろう。前方へ、意識を向ける。昼間に覚えた地図を夜道に重ねて点々とした灯りの中、逃げ込まれそうな路地を探す。
「…………そこ、ですね……どなたか、いましたら……その道を、塞いでください……!」
 普段は抑える声を張り上げた。
 その声に答える声が幾つか上がり、声の前に立った柊の掲げた銃口が揺れた。
 甲虫の攻撃がローブを貫くことは無かったが、人型歪虚への道を塞がれている状況には変わりない。エリスは甲虫の隙を突いて弓を人型の外側に続けざまに撃つ。
 追い立てられるように人型が動き始めると、荷物の中から瓶を取りだした。
――まあ、こんな街だからね――
 よく使うからと、託された機械油の瓶。揺らせば、とぷ、と中の液体が跳ねる音がした。
「……もうちょい、近付かねぇとな」
 夜風に揺れる鮮やかな紫色のローブ、よく燃えそうだ。けれど、ここから投げるには邪魔が1匹。
 エリスはその状況を睨み、口元を引き締める。
 路地からは逃がさない。工場も出来れば避けて、通りの中で片付ける。柊は工場と路地の間で銃を構え、荷の中からトランシーバーを掴んだ。
 昼間、街を歩きながらいくつかの詰め所を回った。トランシーバーか、或いはエリスの魔導短伝話が繋がることを確かめて、夜に見回る話をした。
――心配だが、泥棒は他の地区でも出ているから――
 昼間の内から準備して、閉鎖や援護の手配は出来ない。殆どで払ってしまっている。
 警邏の男はそう言ったが、連絡があれば応じると約束は取り付けた。
 肩に銃床を乗せ、構えで威嚇しながらトランシーバーを繋いだ。

 路地を覗いた住人がざわめき、工場や住居から運び出せる家具や板で路地の入り口を塞いだ。机を重ね、板を立てただけの簡単な物だが、路地への進入は手間取りそうな出来映えになる。作業を終えた住人は、歪虚やそれに対峙するハンター達の姿を不安げに見詰めた。
 工場の方へとエリスが歪虚を追い込み、柊は先への逃走を防ぎながら詰め所に連絡を取っている。
 マキナを庇う様に割って入り、甲虫の爪を防ぎながらヒースクリフは刀を薙ぐ。
 光を纏うその刀が、一時辺りを眩しく照らし、明瞭に浮き上がった甲虫に、ヴァルトルと高橋も切り込んでいく。
 バリケードを作り終えた住人へ避難を促し、背後が空くと交代して甲虫を人型から離す。
「あちらの……邪魔は、させません……避難は、終わりました……僕も、戦えます」
 左手にマテリアルの熱を強く感じる。そこに浮き上がる模様を見ることは叶わないが、それは穏やかに刻んで、時を量った。
 鞭を撓らせて、甲虫へ叩き付ける。
 マキナの言葉に頷き、ヒースクリフも刀を払った。

 3匹を引き付けたヴァルトルがその攻撃をいなし、或いは鎧で受け止め、足を止められた苦しい体勢ながら拳を突き出す。
「――この硬さ、中々であるな。面白い……」
 拳を弾きかねない硬さに、その拳を突き付けたままでデバイスを起動させる。
「これなら、どうであるか……? ――高橋殿、そちらは。マキナ殿も、皆に怪我は無いであるか!」
「1匹くらいなら、どうってことねぇです。……っ、と、2匹以上は厳しそうだぜ」
 高橋はその口から放たれた粘液を大きく躱し、不安定な姿勢から刀を薙ぐ。その刃は甲虫の身体を掠めた様だが、あまり深く到った手応えは無い。
 切り抜けていく技に足を塞がれては叶わない。納刀し、立て直して、再度抜き様の一撃を狙う。凜と、歳を重ねて尚、輝きを失わない黒檀の双眸。筋張った頬で強気に笑む。
 ヴァルトルが絡んだ粘液を振り切って、殴りつける甲虫へ電撃に変換したマテリアルを流し、その動きを一時止める。
「こいつ等を、片付けて、向こうも助けてやりやしょう」
 高橋が残りの足を断って、その歪虚の動きを止めた。浮き上がろうと甲殻が揺れぐるりと目玉が蠢いた。
 ヒースクリフの刀が甲虫を割る。光を纏ってマテリアルで拡大したその刀が、まず1匹を排除した。
「私からの手向けだ……受け取れ!」
 光を散らして血刀の様に刀身に絡む黒い雫を振り払った。
 次は、と目を向ける先、人型に向かった2人も、苦戦している様に見えた。
 しかし、ここも放棄は出来ない。背には灯りの零れる店の軒が並んでいて今倒した1匹も、楽にとはいかなかった。
 ここを押さえきるまで、と、2人を見た。


 連絡が付き、区画の閉鎖と応援の返答が届いた。
 トランシーバーを収め、柊が数発撃ち込んだ甲虫ごと圧して人型の歪虚を追い込んだのは工場の中。入り口から覗くと倒れた棚や机が散らかり、ランタンが照らす足下には恐らくここの店主だろう片腕の無い亡骸が横たわっていた。距離を保ちながら工場内の歪虚を狙う。
 店主の腕を奪った歪虚はそれを弄ぶように振り回し、ねじ切った様な傷口をこちらに向けた。
「――アラアラァ、いつだか、僕の、腕を、もいだヒト、ですネ。代わりを、見付け、たんですヨ」
 歪な声は変わらず。ひゅんと腕を振り回す。
 そこへ、エリスが瓶を投じた。
 口の開いた瓶の中身を頭上から被ると、それはべったりと紫のローブに染みていく。
 機械油の独特な臭いが崩れた工場に広がる。
 柊の銃口とエリスの鏃がねらいを定める中で、歪虚は徐にローブを脱いだ。
「アラァ、嫌、ですネ、こんなモノ」
 球体関節の陶器人形のような滑らかな身体、所々に張り付いた歯車や、ひび割れから零れる発条の端、刺さった捻子や釘の頭。目に当たる部分のスコープと歯車が動いて、固い動きで瓶を拾い。
 煙を上げる閃光と共に投げ返した。
「逃がすか!」
「待て――――」
 その煙を裂くように柊の銃弾が放たれ、エリスはマテリアルを足に集めて床を蹴った。
 エリスの手がデバイスを介し電撃を向けるが、すでにそこにはあの人形の姿は無く、汚れたローブが残されていた。
 それも次第に土塊の色に変わり、床に染みを作る側から黒い靄に変わって消えていった。
「何処へ……っ!」
「街は!」
 建物の外へ出ると、甲虫と拮抗する味方の姿が有った。
 ヴァルトルと高橋が幾らか傷を負っているが、鎧に固めたヒースクリフと鞭の射程を保ち甲虫の動きを操るように攻撃しているマキナは無事らしい。
 粘液の攻撃に鞘を取られた高橋が刀身を晒して斬り掛かる。
 凌いではいるが、リソースの限界が近い。
 甲虫たちは人型の気配が失せても動こうとせず、爪を繰り出し斬り掛かろうとする。
 2人の姿に気付いたらしい甲虫が向きを変えるのを鞭と銃弾が阻んだ。
「――まだ、追えますか?」
「ここは任せてくれていい」
 鞭を構えたマキナと、咄嗟に持ち替えたデリンジャーの先から硝煙を上らせるヒースクリフが2人を見詰めた。
 工場を奥へ進むがそこにも姿は無く、バリケードも破られてはいない。
 柊とエリスは追える範囲に痕跡を探し、双方とも首を横に揺らすと、4人の応援に加わった。この周囲にはもう、あの人型の歪虚はいないのかも知れない。
 流石に、6人で掛かる甲虫はすでに弱っていたこともあり、その後すぐに殲滅された。
 鞭が弾いた甲虫を切り伏せて、爪が捕らえ、鞘を拾って抜き打ちに切り裂く。銃と矢がそれぞれに残りを貫いていくと、辺りに黒い靄が立ちこめる。
 甲虫の骸が消えて残っていた靄が消えた頃、駆けつけた夜勤の警邏とともに通りの安全を確かめた。
 状況からこれまでの部品泥棒は先程の人型歪虚だと判じられ、ハンター達からその特徴が聞き出された。
 白い人形のような形をして、部品を彼是と纏った罅だらけの歪虚。

 このフマーレの街のどこかに、あの歪な笑い声が棲み着いている。
 そんな噂が重く広がり始める中、捻子工場の店主の葬儀がしめやかに執り行われた。
 右腕は、矢張りどこにも無かったという。

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 金属ハンター
    ヴァルトル=カッパー(ka0840
    ドワーフ|28才|男性|機導師
  • 絆の雷撃
    ヒースクリフ(ka1686
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 混沌系アイドル
    エリス・ブーリャ(ka3419
    エルフ|17才|女性|機導師
  • 時の守りと救い
    マキナ・バベッジ(ka4302
    人間(紅)|16才|男性|疾影士

  • 高橋 鑑連(ka4760
    人間(蒼)|50才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/21 22:04:58
アイコン 相談卓
マキナ・バベッジ(ka4302
人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/05/25 20:45:23