ゲスト
(ka0000)
6月の門出の前に
マスター:言の羽

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/31 07:30
- 完成日
- 2015/06/08 00:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
男の子が膝を抱えて泣いている。少し線が細いが、身長からして7、8歳くらいだろうか。大きな瞳からはぼろぼろと大粒の涙を流し、しかし唇は噛み締めて、一点を見つめながらしゃくり上げる。
カタン。木戸が開く音がした。男の子が泣いている場所は、何ということはない、家の裏手だ。咄嗟に立ち上がるも、隠れられる場所などなく。彼はいとも容易く姉に捕まった。
「どうしたの、泣きべそかいて……やだ。膝に擦り傷できてるじゃない」
屈み込むようにして、姉は弟の全身をチェックする。ふたりの年齢は10も離れていて、力で勝てるようになるまでまだまだかかる。
「だっ、だって、お姉ちゃんにベタベタしすぎだって……男が女にベタベタしてたら女になっちゃうんだぞ、って……」
理由を言うまで離してくれそうもなく、仕方なく男の子は理由を説明する。近所の同年代に負けたと自己申告するなど、できればしたくはなかったが。
「また喧嘩したのね? 大丈夫よ、どれだけベタベタしても女になりはしないわ。もし本当に女になってしまうなら、うちのお父さんは今頃、女のなかの女になってるわ!」
「……ぅー」
姉が胸を張って言い切る。確かに彼らの両親はいつも変わらず夫婦というより恋人のごとき仲の良さだ。男の子もしょっちゅうピッタリくっついている両親のことを思い出し、次に言うべき言葉が見つからない。
察したらしい姉が、咳払いをひとつする。
「ねえ、きょうだいが仲良しなのは、悪いことではないわ。せっかく同じ両親のもとに産まれたのよ。一緒にいられる間くらい、仲良くしたっていいじゃない」
そう言ってから白い歯を見せて笑った姉は、男の子にとってまさしくもうひとりの母のような存在だったのだ。
「ここ、僕みたいな子どもでも、お願いを聞いてくれますか」
「うん?」
ハンターオフィスの受付員が書類から顔を上げても、そこには一見、誰の姿も見えなかった。カウンターに両手をつき、上半身を押し出して確認すると、男の子がビクつきながら返答を待っていた。
受付員は書類を置いた。カウンターを出て、男の子の前でしゃがみこみ、目線を合わせる。
「やぁ、おちびさん。ここはハンターに仕事を紹介するところなんだよ。お願いを聞いてくれるかどうかは、ハンター達次第だ」
「ダメなの……?」
ニコリともせずに告げる受付員に、男の子は眉をへの字に曲げた。
「そうは言っていないさ。ハンターへの紹介までは引き受けよう。彼らがお願いを聞いてくれるかどうかは、おちびさんの話と私の腕次第だがね」
仏頂面に頭を撫でられて、男の子は意を決して話し始める。
男の子には、年の離れた姉がいる。この度めでたく姉の結婚が決まったのだが、遠い街へ嫁に行くのだという。当然、滅多に会えなくなってしまう。
姉はいつも自分を守ってくれた。怒って怖い時もあったけど、とても優しかった。自分も姉の結婚をお祝いして、自分のことは心配いらないからと笑顔で見送りたい。そのためには、姉の好きな花をブーケにしてプレゼントするのがいいと考えた。
――まとめるとこんなところだ。
肝心の、姉が好きな花の名を受付員が尋ねると、男の子は躊躇いながらも答えた。そして受付員の頬がぴくりと動く。
「なるほど、ここに来るわけだ。この辺りでは、あの日当たりのいい崖にしか咲いていない花じゃないか」
採集にはハンターでもそれなりの工夫がいるだろう。受けてくれる者がいればいいが。
心配そうに両手を組む男の子を宥めながら、受付員はそう願うのだった。
カタン。木戸が開く音がした。男の子が泣いている場所は、何ということはない、家の裏手だ。咄嗟に立ち上がるも、隠れられる場所などなく。彼はいとも容易く姉に捕まった。
「どうしたの、泣きべそかいて……やだ。膝に擦り傷できてるじゃない」
屈み込むようにして、姉は弟の全身をチェックする。ふたりの年齢は10も離れていて、力で勝てるようになるまでまだまだかかる。
「だっ、だって、お姉ちゃんにベタベタしすぎだって……男が女にベタベタしてたら女になっちゃうんだぞ、って……」
理由を言うまで離してくれそうもなく、仕方なく男の子は理由を説明する。近所の同年代に負けたと自己申告するなど、できればしたくはなかったが。
「また喧嘩したのね? 大丈夫よ、どれだけベタベタしても女になりはしないわ。もし本当に女になってしまうなら、うちのお父さんは今頃、女のなかの女になってるわ!」
「……ぅー」
姉が胸を張って言い切る。確かに彼らの両親はいつも変わらず夫婦というより恋人のごとき仲の良さだ。男の子もしょっちゅうピッタリくっついている両親のことを思い出し、次に言うべき言葉が見つからない。
察したらしい姉が、咳払いをひとつする。
「ねえ、きょうだいが仲良しなのは、悪いことではないわ。せっかく同じ両親のもとに産まれたのよ。一緒にいられる間くらい、仲良くしたっていいじゃない」
そう言ってから白い歯を見せて笑った姉は、男の子にとってまさしくもうひとりの母のような存在だったのだ。
「ここ、僕みたいな子どもでも、お願いを聞いてくれますか」
「うん?」
ハンターオフィスの受付員が書類から顔を上げても、そこには一見、誰の姿も見えなかった。カウンターに両手をつき、上半身を押し出して確認すると、男の子がビクつきながら返答を待っていた。
受付員は書類を置いた。カウンターを出て、男の子の前でしゃがみこみ、目線を合わせる。
「やぁ、おちびさん。ここはハンターに仕事を紹介するところなんだよ。お願いを聞いてくれるかどうかは、ハンター達次第だ」
「ダメなの……?」
ニコリともせずに告げる受付員に、男の子は眉をへの字に曲げた。
「そうは言っていないさ。ハンターへの紹介までは引き受けよう。彼らがお願いを聞いてくれるかどうかは、おちびさんの話と私の腕次第だがね」
仏頂面に頭を撫でられて、男の子は意を決して話し始める。
男の子には、年の離れた姉がいる。この度めでたく姉の結婚が決まったのだが、遠い街へ嫁に行くのだという。当然、滅多に会えなくなってしまう。
姉はいつも自分を守ってくれた。怒って怖い時もあったけど、とても優しかった。自分も姉の結婚をお祝いして、自分のことは心配いらないからと笑顔で見送りたい。そのためには、姉の好きな花をブーケにしてプレゼントするのがいいと考えた。
――まとめるとこんなところだ。
肝心の、姉が好きな花の名を受付員が尋ねると、男の子は躊躇いながらも答えた。そして受付員の頬がぴくりと動く。
「なるほど、ここに来るわけだ。この辺りでは、あの日当たりのいい崖にしか咲いていない花じゃないか」
採集にはハンターでもそれなりの工夫がいるだろう。受けてくれる者がいればいいが。
心配そうに両手を組む男の子を宥めながら、受付員はそう願うのだった。
リプレイ本文
●出かける前に
一行はハンターオフィスの一角を拝借していた。まさしく隅っこに座り込んでいるだけなのだが、男の子の自宅や街中では姉にバレる危険性があるため、やむを得ない。
「ざくろは冒険家の時音ざくろ、よろしくね」
時音 ざくろ(ka1250)がにこっと笑いかけると、男の子の強張った表情が少しだけやわらいだ。
「えっと、引き受けてくれてありがとうございます。僕、テトっていいます」
深々とお辞儀する姿からは、ハンター達が依頼を引き受けるまでにどれだけ心細い思いをしていたかが伺える。オフィスに来るのだって、きっと凄く勇気がいったに違いない。
「お姉さん思いのいい子なの! あたしにお任せなのっ」
「いいなーいいなー。あたしもこんな超健気で可愛い弟に結婚祝ってもらいたいなー」
自信満々に胸を張るアルナイル・モーネ(ka0854)。その陰から飛び出し、止める間もなくテトと肩を組むロザーリア・アレッサンドリ(ka0996)。
彼女たちの言を受け、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は若干反抗期の気配がする弟を持つ身として、自分が遠くへお嫁に行くとなったらこんな可愛いことをしてくれるだろうか――そんな風に考えながら、スケッチブックを依頼人の前に提示した。
『どんなお花か、くわしく教えて?』
目標の確認は重要事項だ。間違いなく採集するためには欠かせない。
また、採集後にどうしたいのかも、大事なポイントだろう。ミオレスカ(ka3496)は前のめりになって、どんなブーケを作るつもりなのかを尋ねる。
しかしそうは言っても、テトはまだ幼い。言葉での説明では今ひとつわかりにくかったので、エヴァのスケッチブックから一枚だけ切り取り、絵を描いてもらうことにした。
「えっと……お花はこういう形で、葉っぱはこう……」
テトが描く絵は拙かったが、それでも言葉よりは幾分ましだった。花は白く、形はラッパに似ていて、茎はさほど長くない、ということがわかった。ブーケは小さい花束のようなものを考えているようだ。
「それなら、なるべく地面に近いところで刈り取るのがよさそうですね。束ねられるだけの茎の長さを確保しませんと」
対策を考えて言葉にまとめるミオレスカに、エヴァはこくこくと頷く。あとはバケツやカゴ等の入れ物、水、運搬のための衝撃吸収と落下防止のために巻く紙や布もあったほうがいいだろうか。チョココ(ka2449)も頭をつき合わせて作戦会議に参加する。
花が咲いているという崖の位置、花の名前と生態もテトのわかる範囲で確認し、ついでに花言葉はあるのかと尋ねてみると、「ムクな想い」と姉が言っていたことがある、と答えた。
「ムクって何のことか、僕わからないんだけど」
そう言葉を続けるテト。すまなさそうな少年に、チョココは微笑みかける。
「無垢というのは、簡単に言えば、まっすぐで裏表がないことですわ。ちょうどテト様みたいな」
「僕みたいな……?」
「はい。ご結婚されるお姉様に贈り物をしようと決めたことがその証拠ですわ」
人差し指を立てて説明するが、納得できないようで、その表情に変わりはない。贈り物の材料集めを人に頼んだことを、まっすぐではないと考えているのだと見て取れた。
ハンター達は顔を見合わせる。目配せしてから、再びテトに向き直る。最初に口を開いたのはミオレスカだった。
「今回はお留守番をしてもらわなければなりませんが、その間に街の中で集められる花を、準備しておいてもらいたいです」
「それが終わったら、お家でブーケ作る準備してて貰うのがいいと思うなの。可愛いリボン選ぶとかーどういうデザインにしようかとか、お姉さんの事考えながら作ればきっと喜んでくれるなの!」
「あとはアレだ。お姉ちゃんへの手紙でも書いておこうか。人間の結婚式はよくわかんないけど、家族からお嫁さんに手紙とか、その逆ってのがよくあるらしいよ。リアルブルーの人も言ってた。これは坊やにしかできないことだぞー?」
アルナイルとロザーリアも言葉を続け、花の採集以外にできること、しておいてほしいことを伝える。自分には出来ないことを人にお願いするのは、ズルでも何でもない。できることをできる範囲でできる限り頑張ればいいのだと。
「気持ちは受けとった……だから今はお姉さんへの想いを一杯込めて、準備をして待っててよ」
ざくろがダメ押しの言葉と共に、テトの頭に手を乗せる。顔色が明るくなったテトは、街中で花が咲いているところならたくさん知っていると教えてくれた。
「綺麗なブーケが出来るとよいですの。笑顔と幸せの為に頑張りますわ」
決意の眼差しでこぶしを握るチョココ。間違いなく皆が同じ気持ちだった。
――だったのだが、横道に逸れた者がひとり。
アルナイルが両手を頬に添えてちょっとした虚空に視線を移す。
「あたしもお姉ちゃんに何かプレゼントしようかなぁ。あたしにもお姉ちゃんがいるなのよ。お姉ちゃんは優しいし美人でかなりぽや~っとしてるなのけど、そこもまた天然萌ってやつで(以下略)」
彼女の話は自身の姉への想いが溢れすぎていたので割愛させていただく。
●一筋縄ではいかない
「……マジで崖じゃん」
現地に到着して、ロザーリアが最初に発したのがこの一言だった。
「こりゃ坊やには無理だわー。落ちたらマテリアルヒーリングだな、こりゃ」
見上げて一同、感嘆の声が漏れる。垂直とは言わないが、急な斜面であることは疑いようもない。全体的に下草が生えており滑りやすそうだ。
どさっと音がして皆が振り向くと、重量感たっぷりで尚且つかさばるゴムボートを、アルナイルが崖際に広げていた。
「大荷物になったけど、持ってきてよかったなの。保険で設置しておけば多少は衝撃も和らぐと思うなの」
落ちないようにする方法は皆考えてきたが、落ちても被害を最小限にする方法を考えてきたのは、どうやらアルナイルだけだったようだ。さすがに崖の横幅全てをカバーできるほど大きくはないので、使いどころをきちんと考慮する必要はあるだろう。
『どれをとるか検討をつけて、極力短時間で集めて、花が枯れる前に撤収を行えるようにしない?』
次にエヴァが提案したのだが、それももっともだと思えた。テトから聞いていたとおり、花は崖の側面に散らばって咲いている。街に戻ることとブーケに加工すること、いずれにもそれなりの時間がかかる。なるべく新鮮な状態で持って帰りたい。
採集方法としては崖の上からロープを垂らしてつかまりながら、という点では全員共通している。ネックになるのはそのロープを繋げられる対象があるかどうかだ。ざくろとチョココの双眼鏡も使って花の位置をメモしてから、崖の上に行ってみる。
「丈夫そうな木はないかなー」
アルナイルはそう言って手をかざすが、低木が点在するのみで、残念ながらそこまで立派な木はなかった。葉をよけてひとつひとつ幹の太さを確認して、なんとか大丈夫そうなものの配置をメモに追加する。
ロープに沿って左右に咲く花を摘んでいく、縦のルート。各自で場所を変え2往復もすれば必要量に届くのではないだろうか。ミオレスカだけは崖上に残り、皆をサポートしながら幹の状態を確認してもらうことになった。
「上に登りたい時は呼んでください、引っ張りますから。気をつけてくださいね」
見送られて、各自がスタートを切った。
早々に音をあげたのはロザーリアだった。人よりもいい感じに下りられるだろうと高をくくっていたのだが、今この場面でより重要なのは立体感覚よりも、自重を支えられるほどの筋力だった。
「あー、もー、細腕には大変だよー。みんなよく頑張るよねー」
低木に負担をかけすぎないよう、ロープでバランスを取りつつも踏ん張らなければならない。そんな依頼を受けたのは姉弟愛やら結婚に関する物事やらが大好きってことか、と周囲の女子率の高さを見て思う。
ようやく一輪を手にしたところで、隣(といってもそれなりに離れているが)のロープが目に付いた。チョココが手を合わせ、頭上のパルムと共に祈っていた。
「何してるのー?」
「お花も命ですもの。命を摘み取るのですから、ひとつひとつ、ごめんなさいとありがとうを伝えているんですわ」
問いかけにそう答え、チョココは腕に下げたカゴにそっと花を入れる。よく見れば手には手袋をしているし、カゴには布を敷いてある。
ロザーリアはさっきから腰のあたりでプラプラと揺れるレイピアを、崖上で留守番させることにした。その後は目的の花とよく合いそうな花を見つけるのだ。たまたま都合よく何かを見つけるような運には自信があった。
崖下近くなれば、ロープを離しても下りられる。滑りやすいのを利用して一気に下ったアルナイルは、先に到着していたエヴァが花を紙でくるんでいるのを見つけた。しかもくるんだ上から軽く水を吹きかけている。
「そうすればお花のダメージが減らせるなのね」
肩越しに覗き込んで話しかける。エヴァがにっこり笑い、別の紙を差し出した。
「ありがとうなのっ」
見よう見まねで、アルナイルも同じように花をくるむ。きつすぎず、ゆるすぎず、ちょうどよい加減で巻くのは意外と難しい。
悪戦苦闘していると、ざくろも一気に下りてきた――かと思うと、双眼鏡で崖を見た。そして双眼鏡を道具袋に戻すと、靴の裏からマテリアルを噴出させ、大きくジャンプしてロープに飛びついた。しかも指先からガントレットの能力らしい刃を出し、鋏のように器用に動かして花を摘んでいる。
「むむ……あたしも負けてられないなの!」
どうにか紙を巻き終えた花を置いて、アルナイルも自身の脚にマテリアルを集中させる。そうして移動力を上げると、一気に崖を駆け上っていく。
ロープを垂らせない位置にも、やはりいくつかの花は咲いている。しかも崖上に近いのでひときわ危険なのだが、遠目にも大振りで形がよさそうなのだ。
「足場があれば、花だけ引き上げて、摘んでもらうこともできるんですが」
ミオレスカのつぶやきに、エヴァが手を挙げた。
しばしの作成会議の後――
「準備できたなのーっ!」
崖下からアルナイルが呼びかける。ロザーリアも一緒で、ゴムボートの両端をふたりで持っている。エヴァも近くに立っている。崖上からはミオレスカが、カゴを結びつけたロープを垂らしていた。隣でチョココが大きく手を振った。エヴァのちょうど真上で、ざくろがスタンバイ完了だ。
皆の準備が整ったのを受けて、エヴァが魔法を発動させる。巨大なブロック状の石壁が瞬時に発生した。その壁の上にざくろが滑り下りる。着地と同時に身体を反転させ、ショットアンカーを放ち、ロープ代わりにして花の至近距離へ。摘んだ後は石壁に戻りカゴに花を入れて、またショットアンカーを放つ。
石壁には時間制限があるが、エヴァの能力的な回数上限に至らないうちは再び発生させられる。もしもの時はゴムボートが出動するという保険がある。
こうして怪我人を出すことなく、ハンターたちは街へ戻ることができたのだった。
●お姉さんのために
ハンターたちが持ち帰った花の量は、ひとかかえにもなった。目的の花だけでなく、ブーケの彩りとなりうる小さな花々も持ち帰ったからだ。自分でも街中の花を摘み、手紙を書いて待っていたテトが、驚いたのも無理はなかった。
さっそくオフィスの隅っこに種類や大きさごとにまとめて、ブーケ作りを開始する。
「世界で一つだけってやつ? そんなのもらったらお姉さん超喜ぶよー、きっと」
「あたしも一緒に作業するなの。お姉ちゃんにプレゼントー♪」
応援に徹するロザーリアを押しのけて、自分もブーケ作りを始めるアルナイル。
エヴァはごそごそと鉢植えを取り出すと、テトの前に置いた。
『病床に伏せる人へのお見舞いの時は忌避されるものだけど、由来が『根付く』からきているなら、結婚にはいいものなんじゃないかな』
それはスコップで根ごと掘り出してきたおまけだ。切り花に比べて、より長い間、楽しむことができるだろう。
『何か描いて欲しいものはある? お手紙に添える絵とか』
そのまま手伝いを申し出るが、あくまでも頼まれたら動くスタイルだ。手紙の縁取りをお願いされたので、結婚という晴れの場にふさわしい華やかさを添えていく。
広げた布の上で全体のバランスを考えていたテトは、それをひとまとめにして紐でくくるという時になって、手が止まった。
「……自分で採ってきたわけじゃないのに、プレゼントしてもいいのかなぁ」
布の上に重なる花のうち、無意識にそうしているのか、テトが摘んだ花の量はあまりにも少ない。
しょんぼりするテトの肩をポンとたたいたのは、ざくろだった。
「この花全部、間違いなく、お姉さんの為に自分で手に入れた花だよ」
そしてテトが摘んだ花を一輪、ブーケに加える。
自分ではできないと認めて、ハンターに依頼した。テトが行動しなければ花は揃わなかったのだから、と。
「ざくろお姉さん……」
テトの瞳がきらきらと輝く。一方、ざくろの口元はひきつった。
「ざくろ、男! 男だから!」
「おと、こ……?」
必死の様相で自身の性別を主張するざくろだが、服装からしても女性に見まごうのは仕方ないというものだ。それでも、他のハンターたちは女性だと改めて確認したテトは、さーっと青ざめていく。
理由がわからず慌てる一同。どうにか慰めると、テトは、男が女にベタベタしてたら女になってしまうという話を聞いたと説明してくれた。もちろん全力で否定する。
「そうだ! ブーケだけじゃなくて押し花の栞とかどう? お姉さんとテトがお揃いで持ってればいつでも一緒なの」
そのタイミングでアルナイルが提案したのは、空気を変えるためというよりも、テトに今回の贈り物の意味を思い出してもらうためだったかもしれない。
遠く離れていても、仲良しの姉と弟の心は常にそばにあるのだ。
「どうしても気になるのでしたら大きくなってから、今度は自分で採取し、贈り物をしてもよいと思いますわ」
花束を再度贈るのもいい、花冠でも素敵だろう、とチョココは言う。ハンターでも危険を伴う場所だ、勿論、一人ではなく誰かとともに。またハンターに依頼してもいい。押し花づくりのための分厚い本を借りに行ったエヴァやローザリアのように、手を差し伸べてくれる者は必ずいるだろう。
式は嫁入り先で行われるため、テトの家族からは父親だけが参列するそうだ。ブーケを持つ花嫁の姿を見られないのでミオレスカは残念がったが、ハンターたちのおかげで、テトは心に決めることができた。
いつか、姉の好きな花を自分で摘み、その花で姉を祝ってあげるのだと。
一行はハンターオフィスの一角を拝借していた。まさしく隅っこに座り込んでいるだけなのだが、男の子の自宅や街中では姉にバレる危険性があるため、やむを得ない。
「ざくろは冒険家の時音ざくろ、よろしくね」
時音 ざくろ(ka1250)がにこっと笑いかけると、男の子の強張った表情が少しだけやわらいだ。
「えっと、引き受けてくれてありがとうございます。僕、テトっていいます」
深々とお辞儀する姿からは、ハンター達が依頼を引き受けるまでにどれだけ心細い思いをしていたかが伺える。オフィスに来るのだって、きっと凄く勇気がいったに違いない。
「お姉さん思いのいい子なの! あたしにお任せなのっ」
「いいなーいいなー。あたしもこんな超健気で可愛い弟に結婚祝ってもらいたいなー」
自信満々に胸を張るアルナイル・モーネ(ka0854)。その陰から飛び出し、止める間もなくテトと肩を組むロザーリア・アレッサンドリ(ka0996)。
彼女たちの言を受け、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は若干反抗期の気配がする弟を持つ身として、自分が遠くへお嫁に行くとなったらこんな可愛いことをしてくれるだろうか――そんな風に考えながら、スケッチブックを依頼人の前に提示した。
『どんなお花か、くわしく教えて?』
目標の確認は重要事項だ。間違いなく採集するためには欠かせない。
また、採集後にどうしたいのかも、大事なポイントだろう。ミオレスカ(ka3496)は前のめりになって、どんなブーケを作るつもりなのかを尋ねる。
しかしそうは言っても、テトはまだ幼い。言葉での説明では今ひとつわかりにくかったので、エヴァのスケッチブックから一枚だけ切り取り、絵を描いてもらうことにした。
「えっと……お花はこういう形で、葉っぱはこう……」
テトが描く絵は拙かったが、それでも言葉よりは幾分ましだった。花は白く、形はラッパに似ていて、茎はさほど長くない、ということがわかった。ブーケは小さい花束のようなものを考えているようだ。
「それなら、なるべく地面に近いところで刈り取るのがよさそうですね。束ねられるだけの茎の長さを確保しませんと」
対策を考えて言葉にまとめるミオレスカに、エヴァはこくこくと頷く。あとはバケツやカゴ等の入れ物、水、運搬のための衝撃吸収と落下防止のために巻く紙や布もあったほうがいいだろうか。チョココ(ka2449)も頭をつき合わせて作戦会議に参加する。
花が咲いているという崖の位置、花の名前と生態もテトのわかる範囲で確認し、ついでに花言葉はあるのかと尋ねてみると、「ムクな想い」と姉が言っていたことがある、と答えた。
「ムクって何のことか、僕わからないんだけど」
そう言葉を続けるテト。すまなさそうな少年に、チョココは微笑みかける。
「無垢というのは、簡単に言えば、まっすぐで裏表がないことですわ。ちょうどテト様みたいな」
「僕みたいな……?」
「はい。ご結婚されるお姉様に贈り物をしようと決めたことがその証拠ですわ」
人差し指を立てて説明するが、納得できないようで、その表情に変わりはない。贈り物の材料集めを人に頼んだことを、まっすぐではないと考えているのだと見て取れた。
ハンター達は顔を見合わせる。目配せしてから、再びテトに向き直る。最初に口を開いたのはミオレスカだった。
「今回はお留守番をしてもらわなければなりませんが、その間に街の中で集められる花を、準備しておいてもらいたいです」
「それが終わったら、お家でブーケ作る準備してて貰うのがいいと思うなの。可愛いリボン選ぶとかーどういうデザインにしようかとか、お姉さんの事考えながら作ればきっと喜んでくれるなの!」
「あとはアレだ。お姉ちゃんへの手紙でも書いておこうか。人間の結婚式はよくわかんないけど、家族からお嫁さんに手紙とか、その逆ってのがよくあるらしいよ。リアルブルーの人も言ってた。これは坊やにしかできないことだぞー?」
アルナイルとロザーリアも言葉を続け、花の採集以外にできること、しておいてほしいことを伝える。自分には出来ないことを人にお願いするのは、ズルでも何でもない。できることをできる範囲でできる限り頑張ればいいのだと。
「気持ちは受けとった……だから今はお姉さんへの想いを一杯込めて、準備をして待っててよ」
ざくろがダメ押しの言葉と共に、テトの頭に手を乗せる。顔色が明るくなったテトは、街中で花が咲いているところならたくさん知っていると教えてくれた。
「綺麗なブーケが出来るとよいですの。笑顔と幸せの為に頑張りますわ」
決意の眼差しでこぶしを握るチョココ。間違いなく皆が同じ気持ちだった。
――だったのだが、横道に逸れた者がひとり。
アルナイルが両手を頬に添えてちょっとした虚空に視線を移す。
「あたしもお姉ちゃんに何かプレゼントしようかなぁ。あたしにもお姉ちゃんがいるなのよ。お姉ちゃんは優しいし美人でかなりぽや~っとしてるなのけど、そこもまた天然萌ってやつで(以下略)」
彼女の話は自身の姉への想いが溢れすぎていたので割愛させていただく。
●一筋縄ではいかない
「……マジで崖じゃん」
現地に到着して、ロザーリアが最初に発したのがこの一言だった。
「こりゃ坊やには無理だわー。落ちたらマテリアルヒーリングだな、こりゃ」
見上げて一同、感嘆の声が漏れる。垂直とは言わないが、急な斜面であることは疑いようもない。全体的に下草が生えており滑りやすそうだ。
どさっと音がして皆が振り向くと、重量感たっぷりで尚且つかさばるゴムボートを、アルナイルが崖際に広げていた。
「大荷物になったけど、持ってきてよかったなの。保険で設置しておけば多少は衝撃も和らぐと思うなの」
落ちないようにする方法は皆考えてきたが、落ちても被害を最小限にする方法を考えてきたのは、どうやらアルナイルだけだったようだ。さすがに崖の横幅全てをカバーできるほど大きくはないので、使いどころをきちんと考慮する必要はあるだろう。
『どれをとるか検討をつけて、極力短時間で集めて、花が枯れる前に撤収を行えるようにしない?』
次にエヴァが提案したのだが、それももっともだと思えた。テトから聞いていたとおり、花は崖の側面に散らばって咲いている。街に戻ることとブーケに加工すること、いずれにもそれなりの時間がかかる。なるべく新鮮な状態で持って帰りたい。
採集方法としては崖の上からロープを垂らしてつかまりながら、という点では全員共通している。ネックになるのはそのロープを繋げられる対象があるかどうかだ。ざくろとチョココの双眼鏡も使って花の位置をメモしてから、崖の上に行ってみる。
「丈夫そうな木はないかなー」
アルナイルはそう言って手をかざすが、低木が点在するのみで、残念ながらそこまで立派な木はなかった。葉をよけてひとつひとつ幹の太さを確認して、なんとか大丈夫そうなものの配置をメモに追加する。
ロープに沿って左右に咲く花を摘んでいく、縦のルート。各自で場所を変え2往復もすれば必要量に届くのではないだろうか。ミオレスカだけは崖上に残り、皆をサポートしながら幹の状態を確認してもらうことになった。
「上に登りたい時は呼んでください、引っ張りますから。気をつけてくださいね」
見送られて、各自がスタートを切った。
早々に音をあげたのはロザーリアだった。人よりもいい感じに下りられるだろうと高をくくっていたのだが、今この場面でより重要なのは立体感覚よりも、自重を支えられるほどの筋力だった。
「あー、もー、細腕には大変だよー。みんなよく頑張るよねー」
低木に負担をかけすぎないよう、ロープでバランスを取りつつも踏ん張らなければならない。そんな依頼を受けたのは姉弟愛やら結婚に関する物事やらが大好きってことか、と周囲の女子率の高さを見て思う。
ようやく一輪を手にしたところで、隣(といってもそれなりに離れているが)のロープが目に付いた。チョココが手を合わせ、頭上のパルムと共に祈っていた。
「何してるのー?」
「お花も命ですもの。命を摘み取るのですから、ひとつひとつ、ごめんなさいとありがとうを伝えているんですわ」
問いかけにそう答え、チョココは腕に下げたカゴにそっと花を入れる。よく見れば手には手袋をしているし、カゴには布を敷いてある。
ロザーリアはさっきから腰のあたりでプラプラと揺れるレイピアを、崖上で留守番させることにした。その後は目的の花とよく合いそうな花を見つけるのだ。たまたま都合よく何かを見つけるような運には自信があった。
崖下近くなれば、ロープを離しても下りられる。滑りやすいのを利用して一気に下ったアルナイルは、先に到着していたエヴァが花を紙でくるんでいるのを見つけた。しかもくるんだ上から軽く水を吹きかけている。
「そうすればお花のダメージが減らせるなのね」
肩越しに覗き込んで話しかける。エヴァがにっこり笑い、別の紙を差し出した。
「ありがとうなのっ」
見よう見まねで、アルナイルも同じように花をくるむ。きつすぎず、ゆるすぎず、ちょうどよい加減で巻くのは意外と難しい。
悪戦苦闘していると、ざくろも一気に下りてきた――かと思うと、双眼鏡で崖を見た。そして双眼鏡を道具袋に戻すと、靴の裏からマテリアルを噴出させ、大きくジャンプしてロープに飛びついた。しかも指先からガントレットの能力らしい刃を出し、鋏のように器用に動かして花を摘んでいる。
「むむ……あたしも負けてられないなの!」
どうにか紙を巻き終えた花を置いて、アルナイルも自身の脚にマテリアルを集中させる。そうして移動力を上げると、一気に崖を駆け上っていく。
ロープを垂らせない位置にも、やはりいくつかの花は咲いている。しかも崖上に近いのでひときわ危険なのだが、遠目にも大振りで形がよさそうなのだ。
「足場があれば、花だけ引き上げて、摘んでもらうこともできるんですが」
ミオレスカのつぶやきに、エヴァが手を挙げた。
しばしの作成会議の後――
「準備できたなのーっ!」
崖下からアルナイルが呼びかける。ロザーリアも一緒で、ゴムボートの両端をふたりで持っている。エヴァも近くに立っている。崖上からはミオレスカが、カゴを結びつけたロープを垂らしていた。隣でチョココが大きく手を振った。エヴァのちょうど真上で、ざくろがスタンバイ完了だ。
皆の準備が整ったのを受けて、エヴァが魔法を発動させる。巨大なブロック状の石壁が瞬時に発生した。その壁の上にざくろが滑り下りる。着地と同時に身体を反転させ、ショットアンカーを放ち、ロープ代わりにして花の至近距離へ。摘んだ後は石壁に戻りカゴに花を入れて、またショットアンカーを放つ。
石壁には時間制限があるが、エヴァの能力的な回数上限に至らないうちは再び発生させられる。もしもの時はゴムボートが出動するという保険がある。
こうして怪我人を出すことなく、ハンターたちは街へ戻ることができたのだった。
●お姉さんのために
ハンターたちが持ち帰った花の量は、ひとかかえにもなった。目的の花だけでなく、ブーケの彩りとなりうる小さな花々も持ち帰ったからだ。自分でも街中の花を摘み、手紙を書いて待っていたテトが、驚いたのも無理はなかった。
さっそくオフィスの隅っこに種類や大きさごとにまとめて、ブーケ作りを開始する。
「世界で一つだけってやつ? そんなのもらったらお姉さん超喜ぶよー、きっと」
「あたしも一緒に作業するなの。お姉ちゃんにプレゼントー♪」
応援に徹するロザーリアを押しのけて、自分もブーケ作りを始めるアルナイル。
エヴァはごそごそと鉢植えを取り出すと、テトの前に置いた。
『病床に伏せる人へのお見舞いの時は忌避されるものだけど、由来が『根付く』からきているなら、結婚にはいいものなんじゃないかな』
それはスコップで根ごと掘り出してきたおまけだ。切り花に比べて、より長い間、楽しむことができるだろう。
『何か描いて欲しいものはある? お手紙に添える絵とか』
そのまま手伝いを申し出るが、あくまでも頼まれたら動くスタイルだ。手紙の縁取りをお願いされたので、結婚という晴れの場にふさわしい華やかさを添えていく。
広げた布の上で全体のバランスを考えていたテトは、それをひとまとめにして紐でくくるという時になって、手が止まった。
「……自分で採ってきたわけじゃないのに、プレゼントしてもいいのかなぁ」
布の上に重なる花のうち、無意識にそうしているのか、テトが摘んだ花の量はあまりにも少ない。
しょんぼりするテトの肩をポンとたたいたのは、ざくろだった。
「この花全部、間違いなく、お姉さんの為に自分で手に入れた花だよ」
そしてテトが摘んだ花を一輪、ブーケに加える。
自分ではできないと認めて、ハンターに依頼した。テトが行動しなければ花は揃わなかったのだから、と。
「ざくろお姉さん……」
テトの瞳がきらきらと輝く。一方、ざくろの口元はひきつった。
「ざくろ、男! 男だから!」
「おと、こ……?」
必死の様相で自身の性別を主張するざくろだが、服装からしても女性に見まごうのは仕方ないというものだ。それでも、他のハンターたちは女性だと改めて確認したテトは、さーっと青ざめていく。
理由がわからず慌てる一同。どうにか慰めると、テトは、男が女にベタベタしてたら女になってしまうという話を聞いたと説明してくれた。もちろん全力で否定する。
「そうだ! ブーケだけじゃなくて押し花の栞とかどう? お姉さんとテトがお揃いで持ってればいつでも一緒なの」
そのタイミングでアルナイルが提案したのは、空気を変えるためというよりも、テトに今回の贈り物の意味を思い出してもらうためだったかもしれない。
遠く離れていても、仲良しの姉と弟の心は常にそばにあるのだ。
「どうしても気になるのでしたら大きくなってから、今度は自分で採取し、贈り物をしてもよいと思いますわ」
花束を再度贈るのもいい、花冠でも素敵だろう、とチョココは言う。ハンターでも危険を伴う場所だ、勿論、一人ではなく誰かとともに。またハンターに依頼してもいい。押し花づくりのための分厚い本を借りに行ったエヴァやローザリアのように、手を差し伸べてくれる者は必ずいるだろう。
式は嫁入り先で行われるため、テトの家族からは父親だけが参列するそうだ。ブーケを持つ花嫁の姿を見られないのでミオレスカは残念がったが、ハンターたちのおかげで、テトは心に決めることができた。
いつか、姉の好きな花を自分で摘み、その花で姉を祝ってあげるのだと。
依頼結果
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【相談】ブーケでお祝い ミオレスカ(ka3496) エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/05/29 14:10:00 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/31 06:31:59 |