【AN】ちょっとしたミス

マスター:T谷

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/05/27 22:00
完成日
2015/06/03 22:32

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ラテン語で下水道の意味を持つ【Aqua Nigura】の略称である【AN】はゾンネンシュトラール帝国においては定期的に実施されるある掃討作戦の通称だ。
 近代都市であるバルトアンデルスの地下を走る下水道の規模は全長1000km以上に及び、迷路のように張り巡らされている。
 だが、最新鋭の機導術を誇る代償としての魔導汚染に常に悩まされている帝国の、首都ともなれば下水道の汚染から雑魔が発生するレベルの汚染となるのは避けられない。
 そう、【AN】とは第一師団による定期的な掃討作戦行動の名称なのだ。

 だというのに、なぜ関係ないはずの第二師団員が駆り出されているのか。
 色々と訳があるとはいえ、遠くまでわざわざ出向いて下水道に潜っているこの状況を、ヴァルターは呪わずにはいられない。
 がらがらと重い車輪の音が、うるさいほどに通路に響く。ただでさえ強烈な臭いに体調も悪くなりがちな上、途轍もなく重い荷車を引き摺りながらの行軍だ。脳髄を直接圧迫するような轟音を常に浴び続けて、気分はもう最悪の一言だった。
「……ヴァルター、そこ」
 狙ってやってるのかいないのか、相棒のオウレルの虚ろな声は、先ほどからぎりぎり聞き取れるか取れないかの境目を彷徨っている。やる気も覇気もないその声と仕草と表情に怒鳴りたい気持ちがむくむくと沸き上がるが、一呼吸置いて、そんなことをしても意味がないと今日何度目になるか分からない言葉を自分に言い聞かせながらヴァルターは振り返る。
「お前もっとはきはき喋れよ!」
 言い聞かせきれなかった。
「あ、えっと……ごめん」
 対し、大の男であるはずのオウレルはびくりと肩を震わせて、虫の羽音ほどの声で呟いた。足が止まれば荷車も止まる。ちょろちょろとした水の流れる音は小さく、その声を遮ってはくれるほど頼もしいものではなかった。
 ヴァルターは頭を振る。
 ここ数ヶ月、この親友はずっとこの調子だ。原因は分かっている。剣魔に部下を皆殺しにされたことで、もともと卑屈だった性格がこの上なく叩きのめされた。
 それは、ヴァルターがいくら慰めても、元気付けても、関係ない話題を振っても、昼飯を奢っても、飲みに誘っても、綺麗なお姉ちゃんのいる店に行こうと言ってみても、親友はまともにこちらの顔を見ることもなく。たまに笑顔を見せたとして、それは見せかけの、周りに迷惑をかけないように作られた虚飾でしかなかった。
「……んで、どこだって?」
 しかし、今は任務中だ。同道を依頼したハンター達に露払いを頼んでいる以上、さっさと終わらせるべきだろう。
 気を取り直し、オウレルが目聡く指さした下水道の壁面を見やる。
「あー、ヒビ入ってんなー。こりゃ深そうだ。よし、チェック」
 ヴァルターは、荷車の積み荷からセメントを選んで壁に塗り込める。そして明るめの塗料でその上に×印を書いた。
 下水道内の比較的古い区画における破損箇所の発見、及び応急処置。そして、当たり前のように沸いている歪虚の排除。
 それが、彼らのいま遂行させられている任務の内容だ。
 本格的な修繕を入れる前に、破損箇所の位置と程度をひとまず調べておく。なるほど効率的だが、後々の本職が楽をするためにいま自分達が苦行に従事させられていると思うと、ヴァルターは第二師団員特有の建築大工技能をも呪わざるを得なかった。





 がらがらと、重い車輪の音が木霊する。無数に乱反射した音達が、群れをなしてこちらの鼓膜に体当たりを繰り返している。
 それから長い時間、ハンター達と第二師団の二人は下水道内を歩き回った。破損を見つけては、その都度セメントや板や石材で補強をし、印をつけ、地図に細かく内容を書き込む。たまに歪虚を見つけては、確実に殲滅する。
 どうやら、まだ歪虚の数が少ない一画のようで、話に聞いていた大量のスライムやら微生物やらは今のところ見かけていないのは幸いだった。
 それでもまだしばらくかかりそうだなと、ヴァルターはうんざりしながら重い荷車に手をかけ。
「これ、この後の宴会とか参加する気力残ってっかな――」
「あ」
 などと、少し離れたところで作業していたオウレルに話しかけ。
 そこで、ばごん、と一際大きな打音と、ぴしり、という何か嫌な音が壁の中に走ったのを、確かに耳にした。
「……あの、オウレル君?」
「……え、っと」
 困ったように眉を潜めるオウレルの端正な顔立ち、その手元では、彼の使っていた大きめの金槌が……見事に壁に突き刺さっていた。
 ヴァルターは慌てて、腰に下げた鞄から地図を取り出す。
 壁の向こうに何があるのか。こちらの壁の向こうには……何もない。
 しかしオウレルが何故か釘を打っていた壁の向こうには、
「廃水の合流管……」
 さらにびしりびしりと、立て続けに嫌な音が響く。
 恐らく、オウレルの一撃が何かにトドメを刺してしまったのだろうなどと嫌な想像を膨らませながら、
「ご……ごめん」
「たぶん、謝ってる場合じゃねえと思うなぁ……急いで直せぇっ!」
 ヴァルターは荷車を必死に転がし、オウレルは虚ろにそれを見つめる。
 そして、俄に慌てる一行に追い打ちをかけるように、汚染物質の臭いを嗅ぎつけた歪虚の群れまでもがどこからともなくずりずりがさがさとこちらへ向かってきているのだった。

リプレイ本文

 比較的に古いその区画は、光源もあまり整っておらず薄暗い。
 ハンター達は武器を抜き、持ってきていたランタンやライトを手に通路の先に意識を集中した。暗闇の向こうの気配は、確実に強くなってきている。がさがさと無数の何かが蠢いて、水路全体が震えているようだ。
「……俺達が護る。焦らず、落ち着いて補修してくれ」
「頼んだ、悪いが手は貸せそうにねえからな!」
「……うん、お願い」
 壁に向かいわたわたと手を動かすヴァルターとオウレルに向け、オウカ・レンヴォルト(ka0301)は背中で語る。オウレルは相変わらず、心ここにあらずと動きは鈍かったが。
「……お兄さん、ますます……私と、似てきちゃった……ね……?」
 フードと仮面で顔を隠したシェリル・マイヤーズ(ka0509)が微かに悲しげな視線をオウレルにちらとやって呟き、
「ま、今これを直せんのは恐らく君ら二人だけやからな。オウレル君も何があったか知らんが、己のやるべき事はしっかりやり遂げぇ」
 ニオ・イフェチ(ka3227)は漂う臭気に眉根を寄せながら銃を構えた。
「……理由はどうあれ、仕事中に注意力が散漫なのは感心しない。何より、私情で仲間に迷惑をかけるようでは話にならないな」
 壁際にランタンを置きながら、夕鶴(ka3204)はきつく言葉を飛ばす。
 オウレルは何も返さない。ただ目を伏せたまま、作業に向かった。
 その様子に、夕鶴は一度ため息をつくと、気を取り直すよう愛用の無骨な両手剣の柄を強く握って、暗闇へと一歩を踏み出した。
「……またゴキちゃんが出ないといいが」
「下手な期待は持たない方がいいであろうな。この環境だ、いくら沸いていてもおかしくはない」
 思わず漏れた本音をロイド・ブラック(ka0408)に真っ二つにされ、夕鶴はうんざりと眉根を寄せる。その様子を気にもせず、ロイドは周囲に目をやり、通路の広さや天井の高さを確認した。
「うう……怪我さえなければ、なの」
 リリア・ノヴィドール(ka3056)は、肩で息をしながら歯噛みする。ここまでの道中はともかく、先から滲み出る気配の多さを鑑みるに前には出られそうにない。
「何、守ることこそ騎士の役目。ならば、あなたの分も守り通せばいいだけだ」
「……うん、無理……しないで、ね……?」
 そう言って、刀を構えたシェリルは、夕鶴を追って前に出る。
「……分かったの。兎に角、こっちの心配はしないで。あたしに任せなさい、なの!」
 威勢良く仲間に笑みを浮かべると、リリアは剣とチャクラムを構えた。





 まず奥から這い出してきたのは、黒い影の集団だった。がさがさと耳に障る乾いた音を無数に響かせ、様々な姿をした虫や鼠の群れが蜜を求めて猛烈に迫る。
「……ふっ!」
 最も早く此方へ辿り着いた個体を、シェリルの刀が易々と切り裂く。動きは速いが、捉えるのは難しくない。
「ああ、やはりゴキちゃんもなのか……!」
 二つになってはらりと落ちる黒い光沢のある外骨格の姿に、夕鶴は背筋がざわざわとむず痒くなるのを感じる。
「ふむ……さっさと終わらせたいところではある、が……」
 オウカは、出来るだけ遠くの個体に向けてデルタレイを放つ。迸る三つの光線が次々に敵を穿ち、内蔵を焼き焦がす。ファイアスローワーでの一掃が理想だが、この狭い通路で使うチャンスはしっかり見極めなければならないだろう。
「スライムなどは……ふむ、鈍足故に後方に固まっているのか」
 ロイドの鋭敏な視覚は、薄明かりの中で遠く排水に紛れるようにゆっくりと遡ってくる異様な粘性の物体を見る。それを乗り越えようとした虫の足が沈み、薄緑の粘膜に捕食されていく瞬間だった。
 すぐさま防御障壁の準備を行う。スライムの遠距離攻撃対策だ。奴らは体の一部を飛ばしてくることもある。護衛となれば、その対策は必須だろう。
「……あまり、近寄らないでもらおうか!」
 マテリアルを込め強く踏み込んだ先で、夕鶴の刃が凶刃と化す。その前には黒い鎧も紙切れ同然。クリーム色の体液がランタンの光に舞う。
「しっかし、ゲロ吐きそうな匂いや……ボク好みちゃう」
 ニオは薄く目を開き、正面から外れた個体を狙い撃つ。壁が崩れる最悪の事態を回避するために大きな動きはしたくない。敵が警戒して、正面に集まってくれれば重畳だ。
 しかし、数匹の仲間が無残に殺されようと、虫の歩みは止まるはずもなく。先陣を切った勇敢な仲間を踏み台に次々と押し寄せる。
 その動きは縦横無尽で、壁や天井もお構いなし。いくら叩き落とされようと後を絶たない。
 動きが速いだけならともかくと、数が多いというのは非常に驚異だ。
 その中で、シェリルは一体を倒すことに拘らない。足を落とし、羽を斬り、機動力を奪うことを重視し疾風のように刀を振るう。
 彼女を避けたところで、待っているのは夕鶴だ。攻撃を重視した構えから繰り出される精緻な一撃が、確実に敵の数を減らしていく。
 傷を負いながらも執念で前衛を抜けた個体も、オウカに弾丸を叩き込まれ爆散を免れない。
 ニオは前衛よりも遠く、うぞうぞと這い寄る不定形に狙いを定めていた。マテリアルを込めた銃口が淡く輝き、吐き出される強化された弾丸が突き刺さりスライムの体は衝撃で弾け飛ぶ。

 ――しかし、それでも全ての敵を余さず倒しきろうとすればこのままでは難しい。
 どこから沸いてきたのか、敵の数は増える一方だ。ロイドはそれを確認し、杖を構える。
 杖の先に、破壊の力を帯びたマテリアルが集中していく。
 咄嗟に、前衛の二人が道を空けた。ニオとオウカは銃弾を壁や天井に向け、ロイドの正面に敵が集まるよう追い立てる。
「さて、汚物は消毒……である」
 次の瞬間に、炎が吹き荒れた。扇状に広がった炎が通路を舐め、殺到する敵は逃げることも出来ず熱波に巻かれてギーギーと不快な悲鳴を上げる。
「では……俺も、続こう」
 燃え盛る炎の中で、運良く仲間の体を盾に被害を免れた敵がいた。それらは羽を広げ、前歯を剥き、ぼこぼこと表面を粟立たせてこちらに牙を剥く。
 そこに、オウカが追い打ちをかける。再び、明るく輝くオレンジが、通路を色鮮やかに染め上げた。





 牙を鳴らしながら天井からぼたりと落ちたムカデを、リリアの剣が串刺しにする。次いで排水に紛れて近づいていたスライムにチャクラムを投げつければ、刃身に逆巻く風が刃のように、その柔らかい体を粉々に砕く。
 敵単体の力は強くなく、体の大きな敵は前に出ている味方の攻撃に巻き込まれて大半が遮断されていた。
「絶対に通さないのよ」
 リリアは息をつき、キッと眼前を睨み付ける。出来ることはあるのだと自分に言い聞かせ、ぶれそうになる体の軸を何とか保つ。
「オウレル! あれ取ってくれ!」
「あ、うん、えっと……これ?」
「それじゃねえ、あれだって……って手え離すな! 一個のことしかできんのかお前は!」
 背後では、必死の修繕作業が続いている。主にヴァルターが指示を出し、オウレルは相変わらず呆けては怒鳴られるという有様で、二人が上手く協力し作業を進めているとは言いがたい。
「……オウレルさん。ずっと落ち込んでても、仕方ないのよ」
 ファイアスローワーが通路を照らし、敵の進軍が遅れた隙を見計らって、リリアが話しかけた。
 壁を見つめたまま、オウレルが俯く。
「剣魔は、あれからも出没してるのよ。間違いなく、これからも被害は増えるわ。本当に部下の事を悔やんでいるなら、あたし達と一緒に剣魔倒そうよ」
「……僕は、そんな器じゃないよ」
 リリアの言葉に、オウレルはぽつりと呟いた。
「それに、あの場に現れたのが剣魔じゃなくても、あの時に何もなくても……結局、僕に出来ることなんて何もなかったんだよ」
 それは、後悔ではなかった。
 失望と虚無。薄い笑みを口元に浮かべ、オウレルは空しく笑った。
「何を儚んでいるか……俺には知る由もないし、構う義理もない」
 声が聞こえたのか、視線は前に向けたままロイドが口を開く。
「ただ、一つ言わせて貰いたいのは。『道は一つに非ず』――逃げて何が悪い、回り道をして何が悪い。挫折や犠牲なくして、目的に辿り着ける者などいない」
「……犠牲を出してまで、目的を果たすなんて」
「お前がどう思おうと勝手だがな。生きて目的に辿り着けたのならば、それは勝者に他ならない。故に、俺が行うは唯一つ。己が道を進むのみだな」
 通路の薄暗闇の向こうから、スライムの一部が飛来する。ファイアスローワーも無尽蔵に撃てる訳ではなく、その隙間を縫った攻撃だ。
 ロイドはふむと感心したように頷き、冷静に防御障壁を展開する。
「……これは、匂いがきついな」
 共に障壁を張りながらオウカが呟いた。
 スライムの攻撃は全く重くも速くもなく、障壁で容易に受け止めるか、さもなければ目で見てからの回避も余裕なものだ。……しかし、スライムが飛ばしてきているのは、下水の水を固めたような濁った粘液だった。障壁にぶつかっては、ガラスのようにキラキラと舞う破片と共にぼたりと地面に落ちる。
「……臭い」
 身を逸らし、ステップで粘液を躱しながら、シェリルは壁を這う虫を蹴り落とす。
「下水には、生理的に受け付けん物体が多いな」
 大きく跳んで回避する夕鶴の眉間には、あからさまにシワが刻まれていた。
「修繕て、まだ時間かかるん?」
 匂いでの状況把握も、これだけの悪臭に囲まれてはままならない。ニオが僅かにうんざりしたように、背後に問いかける。
「もーちょっと待ってくれ! 今すげえ頑張ってるから! 壁膨らんできたの押さえたとこ!」
「……大丈夫なのか?」
 返ってきたのは、不安を煽るような慌てた声色だった。
「ま、これも任務やからな。結果どうなろうと、全て退治し終えるまで休むわけにはいかんやろ」
 リロードの合間に接近してきた敵をナイフで叩き落としながら、ニオは仕方ないなと肩を竦める。
「……ん、でも……多すぎ、面倒くさい」
 そうだ、とシェリルが手を叩く。次の瞬間、小さな体が大きく前に跳んでいた。
「おいで……」
 わらわらと群がる敵の中に、踏みつけるようにトンと着地する。虫や鼠の頭上を越え、スライムが集まる後方に近い地点だ。
「……む」
「シェリル氏! あまり無茶をするでないぞ!」
 突然目の前に現れたシェリルを前に、敵が俄に騒然となった。距離を取ろうとするもの、チャンスだと攻撃を仕掛けるもの。
 しかし、シェリルはそれよりも素速く動く。指に挟んだ手裏剣に、マテリアルを込めて投げ放つ。
 淡く光る軌跡が渦を巻いた。無数の刃が、生き物のように宙を舞って容赦なく敵を斬り刻む。
「お、チャンスやね」
 此方の意識をそぐスライムの攻撃がやんだ。ニオはここぞと銃を構え、天井や壁の虫をひたすら撃ち落とす。
「追撃、なのよ!」
 シェリルの攻撃から逃げ出した敵は、ファイアスローワーの届かない位置で塊を作っていた。リリアはそこを狙い、マテリアルを込めてチャクラムを投擲。操られたその軌道は、敵の機動力を一気に奪っていく。
「……そろそろ、終わりにしようか」
「最後の一欠片まで、汚物は消毒せねばならんな」
 オウカとロイドは、幾度目かの炎を放つ。機動力の失われた敵は、もはやその前では無力に等しい。
「さて、騎士の勤めを果たすとしようか」
 さらに夕鶴の剣が、オレンジの光の合間で翻る。長大な刃は容易く敵を両断し、決して後ろに逃さない。
 敵がいくら沸こうが、その度にハンター達はそれを撃破していった。殲滅力の高さか、敵の数が勝るのか。
 既に、その決着は付こうとしているようだった。





 いつの間にか、先ほどまで喧噪に溢れていた空間は、静けさを取り戻していた。見渡す限り、敵の姿は既にない。足下に広がっていた粘着質で下水の臭い漂う物体も、本体が消えるに次いで、臭いごと消えていってくれたようだ。
「おーっし、応急処置完了! いやー、思った以上に世話になっちまったなー」
 ヴァルターが額の汗を拭って声を上げる。後は帝都に帰り、報告と宴会を楽しむだけだ。
「まあ、今回は何とかなったがな。オウレルとやら、その体たらくで戦場に出られては迷惑だ。……周りにいる誰かが死ぬぞ」
 剣を下ろし、夕鶴が窘めるように言えば、オウレルはそれに反論の言葉を持たなかった。ただ俯き、夕鶴から顔を背ける。
「……うん、ユウヅルの言うことも……分かる。そのままじゃ、今在る人も……守れなくなってしまうよ……。私みたいに……」
 シェリルの言葉は、重く響いた。
 虚ろな心を憎悪で埋めて。そんな自分のために誰かがまた傷ついて。そして、いなくなってしまった人には、謝罪も償いも決して届かない。
「どの道が正解か……私も、分からない。けど、お兄さんも……行こう……。また……一緒に……」
 似た光景を目にし、生きている意味の見えなくなった少女の言葉は、オウレルに届いているのだろうか。
 シェリルは、とと、とオウレルに近寄り、その首に抱きついた。悲しみや、辛さが、少しでも和らいでくれるように。そして、より近く、言葉を届けるように。
「あら、なんや兄さん、羨ましいなぁ。誰かボクにも抱きついてくれへんやろか」
「……こっちを見るな」
「あはは、怪我が治ったら、考えてあげるの」
 ニオがちらりと視線を飛ばせば、夕鶴が呆れ、リリアは困ったように笑う。
「ふむ、フラれてしまったようだな?」
「……ドンマイ、だ」
 共に面倒な依頼を乗り越え、彼らはようやく帰途につく。
 地上で待っているのはささやかな宴……のはずだったが、オウレルのミスが結局バレて、休む間もなくカールスラーエに帰るはめになったのは、また別のお話。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 7
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • フェイスアウト・ブラック
    ロイド・ブラック(ka0408
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • それでも尚、世界を紡ぐ者
    リリア・ノヴィドール(ka3056
    エルフ|18才|女性|疾影士
  • 質実にして勇猛
    夕鶴(ka3204
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人

  • ニオ・イフェチ(ka3227
    人間(紅)|32才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ニオ・イフェチ(ka3227
人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/05/26 20:11:33
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/24 08:41:22

 
 
S