ゲスト
(ka0000)
貴方がたの真価をといますわ
マスター:朝臣あむ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/11 12:00
- 完成日
- 2014/07/16 05:01
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
周囲を高い壁に囲まれ、幾つもの支柱と銅線が張り巡らされた都市――アネリブーベ。
都市の中央には、幾つもの銅線を束ねた塔がある。空に剣を伸ばしたように立つ塔は、この都市の中枢を担う施設であり、都市を管理する帝国第十師団の本拠地でもある。
「――であるからして、討伐に兵士を出す必要があるでしょうな」
塔の内部に在る師団長の執務室で報告書を読み上げていたマンゴルト・ワッホイは、目の前で退屈そうに欠伸を零す人物に目を向けた。
「ゼナイド、聞いておるかいの?」
「……聞いておりますわ」
そう言いながら再び欠伸を零したこの人物こそ、第十師団の団長ゼナイドだ。
彼女は小柄な体を玉座のような椅子に沈ませて足を組むと、豊満な胸の前で腕を組んでマンゴルトの頭を見た。
「相変わらずつるつるですわね。武器だけでなく育毛剤の調合もしてみたら如何かしら」
クッと口角を上げて笑む彼女の顔は、口元以外を兜のような面で覆っていて見えない。その為か、黒い口紅で彩られた唇が笑む度に、冷たい印象が彼女を包み込んだ。
「わし頭はどうでも良いだがの、討伐に向かわせる兵士を如何するか考えてはくれんか」
「貴方が考えればよろしいのでは? わたくし今は何も考えたくありませんわ。陛下もオズワルド様も新しい玩具を見付けて遊んでると言うのに、わたくしだけ真面目に仕事をするだなんて不公平ですもの」
そうは思いませんこと? そう囁くと、ゼナイドは背凭れに沈めていた身を起こした。そうして何かを思い付いた様にゆったりと微笑む。
「そうですわ。陛下やオズワルド様がなさったように、わたくしたちもハンターに頼めば良いのですわ」
「ハンターに?」
「ええ。貴方はハンターと会っていますけれど、わたくしはまだ。良い機会だとは思いませんこと?」
名案を思い付いたと言わんばかりにクスクス笑う彼女に不安を覚える。とは言え、ハンターに協力を仰ぐと言うのは悪い案ではない。
「しかしの……全てをハンターに任せるのは如何かと思うぞ。今回の敵は雑魔だけではないからのぉ」
「でしたらわたくしが同行しますわ」
「なに?」
「わたくしが同行しますわ」
大事な事なので2度言った。が、マンゴルトは速攻で彼女の申し出を払い除けた。
「却下ですな」
「何故ですの!」
「師団長が直々に出向いて倒すほどの相手でもないですからな。ましてやお前さんが手を出したら、ハンターが倒す前に終わってしまうわい」
マンゴルトの言う事には一理ある。だがゼナイドは退かない。
「陛下もハンターに混じって依頼をこなしたと聞きますわ。それにあのちんくしゃエルフも色々動いているそうではありませんの。わたくしだって何かしたいですわ」
流石は自称・ヴィルヘルミナマニアである。
何処から情報を仕入れたのか、意外と正確だから恐ろしい。
「陛下は陛下ですぞ。お前さんはアネリブーベで兵士等を監視せねばならん。行くならわしが――」
「却下ですわ」
冷たく、しかも適当に言い放ち、ゼナイドは被っていた兜を取った。そうして少しだけ小さくなった面を被る。
顔面を覆っているのも、口元しか見えないのも同じだ。違うのは大きさと威圧感だけ。
「顔は晒しませんわ。勿論、武器も変えて参ります。服も必要でしたら兵士の物に変えますわ」
それに。と言葉を切ってマンゴルトの持つ報告書を顎で示した。
「わたくしハンターの力を信じてませんの。もし彼等が勝手に死んでしまったら困るでしょう? そうなったらわたくしの所為にされてしまいますもの。それは嫌ですわ」
つまり不測の事態には自分がいてこそ安全、そう言いたいのだろう。
「顔を隠さずともバレやせんと思うが……」
どうせ陛下の真似をしてお忍び遊びをしたいのだろう。マンゴルトは暫く思案した後、やれやれと息を吐いて彼女の同行を許可した。
●朽ちた洋館
鬱蒼とした森の中にそれは在った。
立ち込める雰囲気も、辺りに漂う静けさも、他とはまるで違う。単純に不気味と言うには足りないくらいの寒さがそこには在った。
(やはり雑魔だけではありませんわね)
洋館に足を踏み入れて以降、鷹ほどの大きさをした蝙蝠型の雑魔が襲い掛かってくる。その動きはまるで行く手を阻むよう指示をされているかのようだ。
「一階は以上ですわね。残るは二階ですが……大丈夫ですの?」
ゼナイドはケロリとしているが、ハンター達は少し疲労が溜まり始めているらしい。
蝙蝠型の雑魔は牙で喰らい付き、超音波らしき音で攻撃をしてくる、遠距離と近距離を併用した戦い方だが対策は簡単だ。一気に接近して羽を落とせばいいのだ。後は落としたその場で止めを刺す。
しかしこれをずっと繰り返していれば疲れるに決まっている。けれどゼナイドは言う。
「ここからが本番ですわよ。二階は全部で三部屋、報告ですと奥の一番大きな部屋に根源が居るそうですわ」
彼女の言う根源こそ、今回討伐すべき対象だ。
「歪虚は雑魔よりも遥かに強いですから、気を引き締めて参りましょう。大丈夫ですわよ、今の貴方がたには期待しておりませんわ。逃げても咎めたりしませんわよ……あら、何かしらその目は」
疲労の中で確実に覗かせた闘志の光にゼナイドの目が細められる。そうして鞘に納めていた剣を取り出すと、彼女は二階に目を向けた。
「陛下のお気に入りの玩具は壊れやすいのかしら、それとも……うふふ、面白くなってきましたわね」
ゼナイドは密やかに呟くと、久々に感じる感情に胸を躍らせ足を踏み出した。
都市の中央には、幾つもの銅線を束ねた塔がある。空に剣を伸ばしたように立つ塔は、この都市の中枢を担う施設であり、都市を管理する帝国第十師団の本拠地でもある。
「――であるからして、討伐に兵士を出す必要があるでしょうな」
塔の内部に在る師団長の執務室で報告書を読み上げていたマンゴルト・ワッホイは、目の前で退屈そうに欠伸を零す人物に目を向けた。
「ゼナイド、聞いておるかいの?」
「……聞いておりますわ」
そう言いながら再び欠伸を零したこの人物こそ、第十師団の団長ゼナイドだ。
彼女は小柄な体を玉座のような椅子に沈ませて足を組むと、豊満な胸の前で腕を組んでマンゴルトの頭を見た。
「相変わらずつるつるですわね。武器だけでなく育毛剤の調合もしてみたら如何かしら」
クッと口角を上げて笑む彼女の顔は、口元以外を兜のような面で覆っていて見えない。その為か、黒い口紅で彩られた唇が笑む度に、冷たい印象が彼女を包み込んだ。
「わし頭はどうでも良いだがの、討伐に向かわせる兵士を如何するか考えてはくれんか」
「貴方が考えればよろしいのでは? わたくし今は何も考えたくありませんわ。陛下もオズワルド様も新しい玩具を見付けて遊んでると言うのに、わたくしだけ真面目に仕事をするだなんて不公平ですもの」
そうは思いませんこと? そう囁くと、ゼナイドは背凭れに沈めていた身を起こした。そうして何かを思い付いた様にゆったりと微笑む。
「そうですわ。陛下やオズワルド様がなさったように、わたくしたちもハンターに頼めば良いのですわ」
「ハンターに?」
「ええ。貴方はハンターと会っていますけれど、わたくしはまだ。良い機会だとは思いませんこと?」
名案を思い付いたと言わんばかりにクスクス笑う彼女に不安を覚える。とは言え、ハンターに協力を仰ぐと言うのは悪い案ではない。
「しかしの……全てをハンターに任せるのは如何かと思うぞ。今回の敵は雑魔だけではないからのぉ」
「でしたらわたくしが同行しますわ」
「なに?」
「わたくしが同行しますわ」
大事な事なので2度言った。が、マンゴルトは速攻で彼女の申し出を払い除けた。
「却下ですな」
「何故ですの!」
「師団長が直々に出向いて倒すほどの相手でもないですからな。ましてやお前さんが手を出したら、ハンターが倒す前に終わってしまうわい」
マンゴルトの言う事には一理ある。だがゼナイドは退かない。
「陛下もハンターに混じって依頼をこなしたと聞きますわ。それにあのちんくしゃエルフも色々動いているそうではありませんの。わたくしだって何かしたいですわ」
流石は自称・ヴィルヘルミナマニアである。
何処から情報を仕入れたのか、意外と正確だから恐ろしい。
「陛下は陛下ですぞ。お前さんはアネリブーベで兵士等を監視せねばならん。行くならわしが――」
「却下ですわ」
冷たく、しかも適当に言い放ち、ゼナイドは被っていた兜を取った。そうして少しだけ小さくなった面を被る。
顔面を覆っているのも、口元しか見えないのも同じだ。違うのは大きさと威圧感だけ。
「顔は晒しませんわ。勿論、武器も変えて参ります。服も必要でしたら兵士の物に変えますわ」
それに。と言葉を切ってマンゴルトの持つ報告書を顎で示した。
「わたくしハンターの力を信じてませんの。もし彼等が勝手に死んでしまったら困るでしょう? そうなったらわたくしの所為にされてしまいますもの。それは嫌ですわ」
つまり不測の事態には自分がいてこそ安全、そう言いたいのだろう。
「顔を隠さずともバレやせんと思うが……」
どうせ陛下の真似をしてお忍び遊びをしたいのだろう。マンゴルトは暫く思案した後、やれやれと息を吐いて彼女の同行を許可した。
●朽ちた洋館
鬱蒼とした森の中にそれは在った。
立ち込める雰囲気も、辺りに漂う静けさも、他とはまるで違う。単純に不気味と言うには足りないくらいの寒さがそこには在った。
(やはり雑魔だけではありませんわね)
洋館に足を踏み入れて以降、鷹ほどの大きさをした蝙蝠型の雑魔が襲い掛かってくる。その動きはまるで行く手を阻むよう指示をされているかのようだ。
「一階は以上ですわね。残るは二階ですが……大丈夫ですの?」
ゼナイドはケロリとしているが、ハンター達は少し疲労が溜まり始めているらしい。
蝙蝠型の雑魔は牙で喰らい付き、超音波らしき音で攻撃をしてくる、遠距離と近距離を併用した戦い方だが対策は簡単だ。一気に接近して羽を落とせばいいのだ。後は落としたその場で止めを刺す。
しかしこれをずっと繰り返していれば疲れるに決まっている。けれどゼナイドは言う。
「ここからが本番ですわよ。二階は全部で三部屋、報告ですと奥の一番大きな部屋に根源が居るそうですわ」
彼女の言う根源こそ、今回討伐すべき対象だ。
「歪虚は雑魔よりも遥かに強いですから、気を引き締めて参りましょう。大丈夫ですわよ、今の貴方がたには期待しておりませんわ。逃げても咎めたりしませんわよ……あら、何かしらその目は」
疲労の中で確実に覗かせた闘志の光にゼナイドの目が細められる。そうして鞘に納めていた剣を取り出すと、彼女は二階に目を向けた。
「陛下のお気に入りの玩具は壊れやすいのかしら、それとも……うふふ、面白くなってきましたわね」
ゼナイドは密やかに呟くと、久々に感じる感情に胸を躍らせ足を踏み出した。
リプレイ本文
「ここにもこんなに居るとはのぉ!」
ゲルド・マルジェフ(ka0372)は気合を入れるように拳を握ると、銀色に輝く3本の爪を振り降ろした。
『ギギャァッ!』
弧状に揺れた銀色の軌跡が、蝙蝠型の雑魔「ヒッピーバット(以下、HB)」の羽を裂く。
それを受け、彼の後方に控えていたデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)が小さな銃の先端をHBに向けた。
「ブッハハハ! この程度の数ならデスドクロ様の敵じゃねぇ!」
撃ち落とせぇ! そう叫びながら放たれた弾が、玩具の様に転がるHBの体を吹き飛ばす。そしてそれをクリュ・コークス(ka0535)が踏みつぶすと、彼女はHBの群の先に在る吸血鬼型の歪虚を見た。
「見た目は人間のようだが、あまりに綺麗過ぎるな」
言いながら拳に取り付けられた短剣を光らせる。良く見ると彼女の体のそこかしこに傷が見える。だがそれは彼女だけではない。
「これ以上の消耗は望ましくありません。一気に接近します!」
同じく至る所に傷を備えたレオン・フォイアロート(ka0829)が前に出る。その手には円形の盾が握られ、これから彼が取るであろう行動を予想させる。
「援護は任せろ!」
日本刀を鞘から抜き取り、ライオット(ka2545)が眼前を塞ぐHBを叩き落とす。そうして刃を反すと、彼は新たな敵の羽に目標を定めた。
「ゲルドさん」
「悪いが、ワシ等と少し遊んでおいてもらおうかのぉ、なぁに、邪魔が消えれば皆もすぐに相手してくれるからのぉ!」
ライオットの動きに目礼を向け、レオンはゲルドの声を耳に前を向く。そして2人は小さく頷き合うと、一気にHBの群に向けて走り出した。
「邪魔は……させないよ!」
テイッと振り降ろしたイーディス・ノースハイド(ka2106)の盾が2人に襲い掛かるHBを叩き落とす。
それに次いで不動 大(ka2136)が踏み込むと、彼は叩かれた事で体勢を崩したHBの羽を斬り落とした。
「雑魔の掃討はこの道中で慣れたようですわね。ですがアレは如何かしら」
クスリと笑ったゼナイドにロト(ka0323)が目を向けた――その時だった。
「なんっ!?」
「うおっ!」
行く手を阻むように飛来したHBはレオンとゲルドが突破を試みようとした手だ。その向こうにはあと少しで到達する筈だった歪虚「ウィークヴァンプ(以下、WV)」が立っている。
「不甲斐ありませんわね。モタモタしていますと歪虚が来てしまいますわよ」
彼女の言葉通り、HBに気を取られている彼らを見て好機と取ったのか、WVが動き出そうとしている。
「なんでそんな楽しそうなんだよ。少しは助けるとかしないの?」
「わたくしが何故ですの? それとも『助けて』と仰るのかしら」
それでしたら手を貸しますわよ。
ゼナイドはそう言うとコロコロ笑って瞳を輝かせた。これにロトがムッと眉を寄せる。
「……仕事は仕事だけどっ……この人には馬鹿にされたくない。」
そう言うと、ロトは持参していた空き缶を取り出した。そしてそれをHBの群に投げ込む。
カンッ。
コロコロ、と軽やかな音を立てて転げる缶。これにHBの動きが一瞬だが止まった。これにイーディスと大の刃が光る。
「実力も見せない帝国兵に見下されるのは心外だね。そこで私たちの実力を見ていると良いよ!」
イーディスはそう言うと、大と共に左右に散った。
「散っ……!」
大は素早くHBの羽を切裂くと、地面に転がった体を踏みつけ、真上から短剣を突き刺した。
それに次いでイーディスも別の箇所でHBに止めを刺す。そして同時刻、同じように動き出していたライオットが叫ぶ。
「言いたい放題だが、今のオレらの実力からすれば、ってか!」
雑魔を相手にするのが精一杯。歪虚を相手に出来る実力が早く欲しいが焦りは禁物だ。
彼は確実な手段でHBを落とすと、擦れ違いざまに裂かれた頬を手の甲で拭って前を見た。
●数分前
「ふむ、1階の討伐は無事終わったが、ここからが本番といったところかのぉ」
洋館1階の掃討を終えた一行は、周囲を警戒しながら階段を上っている途中だった。
階上へ向かう前にゼナイドが放った言葉を聞いて踵を返さなかった者は8人。その中の1人、ライオットが笑いながら威勢を張る。
「ハンター名乗るなら歪虚退治ぐらいはやってみせねぇとな。なあに、ちっと厳しいくらいの方が噛みごたえがあるってもんだ!」
そう告げた彼に同意を示すのは先に声を上げたゲルドだ。
「確かにのぉ。まぁ、油断大敵というしのぉ、気合を入れて最後のひと踏ん張りといこうかのぉ!」
言って両の手を組み合わせる仕草は、見るからに豪腕のドワーフと言った所か。
そんな彼の後方を行くのが魔術師のロトだ。
彼はゼナイドをチラリと見ると、顔を隠すようにフードを目深く被ってしまった。この様子に彼女の目が向かうが、戦闘中にチラリと見えた耳を思い出して口を閉ざす。と、そこに豪快な声が届く。
「蝙蝠たちの歓迎たァ、ここの館の主人は中々分かってるじゃねぇか。今回は特別にこのデスドクロ様も5%の力で戦ってやろう。なぁに、周囲一帯を地獄の炎で焼き尽くす技は封印しておくからよ」
何だコイツは。そんな視線をゼナイドが寄越すがデスドクロは怯まない。
「そこのでっかいエルフの姉ちゃんも力を隠しているのは、天才の俺様だからこそ分かるぜ。おそらくはピンチになれば、ハイパーおっぱ――」
「お黙りなさい」
階段の手摺に飛び乗ったゼナイドが、デスドクロの頭を踏み付ける。しかし彼は負けなかった。
「使うときは事前に言ってくれ。斜線に入らないように警告しなくちゃいけね――っ、ァ!」
ガッと踵が入った。
顔を抑えて蹲る彼を他所に、ゼナイドは階段に飛び降り、真顔でこちらを見ているレオンに気付いて眉を上げる。
「何ですの?」
「いや、そもそも期待していないのなら、無関心を貫くなり、別の者を雇うなり、自分で解決すればいいのだから、貴女の態度は期待の裏返しなのかと思って」
「は?」
「今の自分に出来る事は限りがあるとはいえ、貴女の予想を超えるために最善を尽くそうと思う」
騎士の家系に生まれただけあって真っ直ぐな性格だ。
本来ならばこの言葉に見直すなどの反応を示すのだが、彼女は違う。
「何を馬鹿なことを。わたくしが興味あるのはへ……ゴホンッ!」
陛下、と言おうとして踏み止まる。と、そこに別の声が降って来た。
「俺も折角ですし、信頼は得たいものです」
思った以上の活躍をすれば必ずや。そう内心で想いを馳せる大。それに続きイーディスが巨大な盾を手に遠慮気味な声を零す。
「信頼は別に良いけど、元王国騎士団従騎士の力と矜持は見せたい所だね」
先程の物言いにご立腹なのか、若干痛い視線が突き刺さるのだがゼナイドはまんざらでもないらしい。微かに口角を上げて応えた時だった。
「なっ、何をしますの!」
咄嗟に突き付けた刃の先に居たのはクリュだ。彼女は驚いた様に目を見開いて両手を上げている。
「是非筋肉に触ってみたいと思ってな……腹筋は無理でも腕ならダメか」
「ダメに決まってますわ!」
ゼナイドを実力者と認めての言動だったのだが、やはり理解されないらしい。
完全に警戒しきった彼女にションボリしたクリュを伴い、一行は2階の通路中央に立った。
「策としてはありきたりだが、左右の部屋に分かれて取り巻きを対処するとしようか」
真っ先に言葉を発したイーディスの視線の先には3つの扉がある。1つは通路を進んだ先に、残る2つは左右に分かれた状態で存在する。
「奥は明らかに怪しいし、その策で問題ないと思う」
ロトはそう頷くと、手にしている短い杖を握り締めた。
●レッツ・雑魚戦
そーっと開けた扉の向こう。目を凝らし、中を伺うクリュには敵の存在は確認出来ていない。けれど彼女は言う。
「数などは分らないな。だがそこまで強い事は無いだろう」
1階の戦闘を思い返せば戦い方に問題はない。
彼女は音を立てないように扉を大きく開けると、ゲルドと共に飛び出した。これにイーディスも反応して駆け出す。
「この程度の相手なら一気に押し切れるはずだよ」
密かに声を零して中にいたHBの懐に入り込む。そうして刃を振り上げると、一刀の元にそれを振り払った。
これにゲルドも続く。
「若いもんには負けんぞ!」
ザッと突き入れた爪がHBの胴を抉り、地面に叩き付ける。そこにロトが加わると、彼は短い杖を叩き入れてトドメを刺した。
「うん。このくらいなら手伝えそうだよ」
魔術師である自分は物理戦に参加するのは厳しい。故に適材適所と言っていられるくらいに余裕があれば術を温存したかった。
なのでこの程度で敵が倒れてくれるなら話は早い。ホッとする彼の傍ではクリュが見事な動きで残るHBに短い剣を突き入れている所だった。
一方、左の部屋では、扉をそっと開けた大が手だけを覗かせて手鏡で中を伺っていた。
「敵の数は……」
鏡に映った3体のHB。これを後方で様子を窺う面々に見せる。
「一気に片付けよう」
時間を掛けるのは得策ではない。そう零すレオンに大が頷き返す。
そうして忍ばせていたLEDライトを取り出すと、彼はそこに括りつけて置いた鈴を鳴らした。
チリリンッ。
軽やかで可愛らしい音が響き渡る。
「踏み込め、一瞬でも早く」
ダンッと踏み出したレオンに続き、大、ライオット、デスドクロも踏み込んでゆく。
大が鈴を鳴らして敵の気を惹き、レオンとライオット、それにデスドクロが隙を突いて各HBの側面に回り込む寸法だ。
「機導剣でぶったぎってやんよ!」
ブオンッと光り輝いたデスドクロの刃がHBの羽を斬り落とすと、レオンの刃も同じように別のHBの羽を叩き斬った。
「おら、これでトドメだ!」
ランタンの灯りでHBの気を惹こうとしたライオットだったが、目が見えない為かこの作戦は効果が無いらしい。
それでも大のおかげで無事側面を取れた彼は、刃を振り仰ぐ勢いで蝙蝠羽を切裂く。そうして地面に転がった存在に止めを刺すと、感心している等にこちらを伺うゼナイドを見た。
●貴方がたの真価を!
「最後まで見ずにただ嘲る人に一泡吹かせてやりたいね」
ロトは構えていた杖に祈りを込めると、静かにそれを振り降ろした。送り込むのは護りの力、願うのは前衛2人の無事。
「大地よ、僕たちに力を貸して」
「……これは」
体を纏う不思議な感覚にゲルドが声を上げる。それと同時にレオンもまた、自身に与えられた加護に驚いて目を瞬いていた。
「守るべき私たちが守られている……私はただ守っている訳ではないのだな」
守るために守ってもらうことがある。力を十分に発揮するためには必要な事だが、それでも見落としがちになる力だ。
レオンは与えられた加護に目を伏せると、もう1度前に進むために立ち上がった。
良く見ればクリュも彼等が動き易いようにと、残るHBに攻撃を仕掛けている。
「大、ライオット、そちらの蝙蝠は任せたぞ!」
クリュは言いながらHBの懐に入り込む。その動きは的確で素早い。だが敵も単純に叩き落とされる訳ではない。
「くっ!」
近付いたクリュに気付き、見えない波動を放ったのだ。これに彼女の顔が歪むが、直ぐにその表情は変わる。
「イーディス……」
「大丈夫かな?」
クリュと敵の間に立ったイーディスは、盾でHBの超音波を受け止めると、彼女に態勢を整えるよう促す。そうして敵の体を押すように盾を前に出し、後方に向けて声を上げた。
「デスドクロ殿!」
「おう! 俺様に任せれば間違いねぇ! 暗黒の力の前に平伏せぇ!」
笑いながら振り下ろされたアルケミストタクトから光の線が飛び出す。それがHBの胴を貫くと、大とライオットが別のHBに駆け込んだ。
「これ以上邪魔はさせねぇよ!」
ライオットはHBのサイドから駆け込んで斬り付ける。その間に牙で腕を裂かれるが退く気はない。
一瞬だけ怯んだ素振りを見せるが、すぐさま両手で刃を握り直すと、下から上へ斬るように突き上げた。
「今だ!」
頭上へ回避しようと舞い上がったHBに声を上げる。
「トドメ……!」
飛び上がった大が、HBの脳天を短剣で突き刺す。すると、前衛で動いていた2人も皆の動きに後押しされるように動き出した。
「今度こそワシ等と遊んでもらおうかのぉ!」
ゲルドは更に防御力を強化した状態で歪虚に向かって突進する。勿論レオンもそれに続いているが、2人には残ったHBが攻撃を仕掛けてくる。
だが今回は止まらない。
「この程度で砕けるような誇りは持ち合わせていない!」
次々と刻まれてゆく傷。それすらも顧みずにWVの前に滑り込むと、彼はすぐさま盾を構えた。
ガンッ!
「ッ……これが歪虚。人類の敵か」
一瞬の出来事だった。
今まで状況を見守っていた敵が急遽攻撃に転じたのだ。しかもその動きは想像を遥かに越える。
爪が盾の表面を抉り、ギチギチと嫌な音が響く。だがそれは直ぐに消える。
「ワシも相手してくれんかのぉ!」
凄まじい勢いで迫った爪に、WVが飛び退いたのだ。だがその動きも早い。
「加勢しよう」
情勢を見ていたイーディスが、WVを囲むように2人とは別方向に立ち塞がった。
ジリジリとWVを中心に、睨むような形で接近の機会を伺う。けれどこの時間だけで充分だった。
「僕だってやればできる。僕の本気、見せてあげるよ」
WVを見詰めたロトは、敵の動きを見定めるために力を集中させる。
そうして杖にマテリアルと送り込むと、今にも動き出しそうなWVに狙いを定めた。
「子供だと思って甘く見ないでよね! マジックアロー!」
繰り出した1本の矢がWVの胸を貫いた。
呻き、身を捩る敵。
「蝙蝠王バットキング、無限再生の夢はここで終わりだぜ!」
WVが態勢を整える前にデスドクロの機導砲が足を貫く。こうして更に崩れた体に、大が動いた。
「吸血鬼……、伝承通りには効かないようですが、これならば効くでしょう……!」
先程ロトが射った胸。そこに短剣を刺し、肉を抉るように突き入れる。そしてトドメを刺すようにクリュの拳が歪虚の胴を突くと、美しい青年の姿をした歪虚は静かにその場に崩れ落ちた。
「終わったな。どーだ、依頼人の姉ちゃんも一緒に打ち上げにいかねぇか?」
こう切り出したのは意外と元気なライオットだ。
「今回は結構ですわ。またの機会に奢らせて差し上げますわ」
ゼナイドはそう言ってロトを振り返る。
威圧的に、見下ろすように胸を張る彼女に、ロトの警戒した目が向かう。
「……なに」
「わたくしに一泡吹かせると言ってましたけど、まだまだですわね。もっと強くおなりなさい。今のままでは全然足りませんわ」
貴方たちも。
ゼナイドはそう言うと、ハンター全てを見回し、楽しげに笑った。
ゲルド・マルジェフ(ka0372)は気合を入れるように拳を握ると、銀色に輝く3本の爪を振り降ろした。
『ギギャァッ!』
弧状に揺れた銀色の軌跡が、蝙蝠型の雑魔「ヒッピーバット(以下、HB)」の羽を裂く。
それを受け、彼の後方に控えていたデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)が小さな銃の先端をHBに向けた。
「ブッハハハ! この程度の数ならデスドクロ様の敵じゃねぇ!」
撃ち落とせぇ! そう叫びながら放たれた弾が、玩具の様に転がるHBの体を吹き飛ばす。そしてそれをクリュ・コークス(ka0535)が踏みつぶすと、彼女はHBの群の先に在る吸血鬼型の歪虚を見た。
「見た目は人間のようだが、あまりに綺麗過ぎるな」
言いながら拳に取り付けられた短剣を光らせる。良く見ると彼女の体のそこかしこに傷が見える。だがそれは彼女だけではない。
「これ以上の消耗は望ましくありません。一気に接近します!」
同じく至る所に傷を備えたレオン・フォイアロート(ka0829)が前に出る。その手には円形の盾が握られ、これから彼が取るであろう行動を予想させる。
「援護は任せろ!」
日本刀を鞘から抜き取り、ライオット(ka2545)が眼前を塞ぐHBを叩き落とす。そうして刃を反すと、彼は新たな敵の羽に目標を定めた。
「ゲルドさん」
「悪いが、ワシ等と少し遊んでおいてもらおうかのぉ、なぁに、邪魔が消えれば皆もすぐに相手してくれるからのぉ!」
ライオットの動きに目礼を向け、レオンはゲルドの声を耳に前を向く。そして2人は小さく頷き合うと、一気にHBの群に向けて走り出した。
「邪魔は……させないよ!」
テイッと振り降ろしたイーディス・ノースハイド(ka2106)の盾が2人に襲い掛かるHBを叩き落とす。
それに次いで不動 大(ka2136)が踏み込むと、彼は叩かれた事で体勢を崩したHBの羽を斬り落とした。
「雑魔の掃討はこの道中で慣れたようですわね。ですがアレは如何かしら」
クスリと笑ったゼナイドにロト(ka0323)が目を向けた――その時だった。
「なんっ!?」
「うおっ!」
行く手を阻むように飛来したHBはレオンとゲルドが突破を試みようとした手だ。その向こうにはあと少しで到達する筈だった歪虚「ウィークヴァンプ(以下、WV)」が立っている。
「不甲斐ありませんわね。モタモタしていますと歪虚が来てしまいますわよ」
彼女の言葉通り、HBに気を取られている彼らを見て好機と取ったのか、WVが動き出そうとしている。
「なんでそんな楽しそうなんだよ。少しは助けるとかしないの?」
「わたくしが何故ですの? それとも『助けて』と仰るのかしら」
それでしたら手を貸しますわよ。
ゼナイドはそう言うとコロコロ笑って瞳を輝かせた。これにロトがムッと眉を寄せる。
「……仕事は仕事だけどっ……この人には馬鹿にされたくない。」
そう言うと、ロトは持参していた空き缶を取り出した。そしてそれをHBの群に投げ込む。
カンッ。
コロコロ、と軽やかな音を立てて転げる缶。これにHBの動きが一瞬だが止まった。これにイーディスと大の刃が光る。
「実力も見せない帝国兵に見下されるのは心外だね。そこで私たちの実力を見ていると良いよ!」
イーディスはそう言うと、大と共に左右に散った。
「散っ……!」
大は素早くHBの羽を切裂くと、地面に転がった体を踏みつけ、真上から短剣を突き刺した。
それに次いでイーディスも別の箇所でHBに止めを刺す。そして同時刻、同じように動き出していたライオットが叫ぶ。
「言いたい放題だが、今のオレらの実力からすれば、ってか!」
雑魔を相手にするのが精一杯。歪虚を相手に出来る実力が早く欲しいが焦りは禁物だ。
彼は確実な手段でHBを落とすと、擦れ違いざまに裂かれた頬を手の甲で拭って前を見た。
●数分前
「ふむ、1階の討伐は無事終わったが、ここからが本番といったところかのぉ」
洋館1階の掃討を終えた一行は、周囲を警戒しながら階段を上っている途中だった。
階上へ向かう前にゼナイドが放った言葉を聞いて踵を返さなかった者は8人。その中の1人、ライオットが笑いながら威勢を張る。
「ハンター名乗るなら歪虚退治ぐらいはやってみせねぇとな。なあに、ちっと厳しいくらいの方が噛みごたえがあるってもんだ!」
そう告げた彼に同意を示すのは先に声を上げたゲルドだ。
「確かにのぉ。まぁ、油断大敵というしのぉ、気合を入れて最後のひと踏ん張りといこうかのぉ!」
言って両の手を組み合わせる仕草は、見るからに豪腕のドワーフと言った所か。
そんな彼の後方を行くのが魔術師のロトだ。
彼はゼナイドをチラリと見ると、顔を隠すようにフードを目深く被ってしまった。この様子に彼女の目が向かうが、戦闘中にチラリと見えた耳を思い出して口を閉ざす。と、そこに豪快な声が届く。
「蝙蝠たちの歓迎たァ、ここの館の主人は中々分かってるじゃねぇか。今回は特別にこのデスドクロ様も5%の力で戦ってやろう。なぁに、周囲一帯を地獄の炎で焼き尽くす技は封印しておくからよ」
何だコイツは。そんな視線をゼナイドが寄越すがデスドクロは怯まない。
「そこのでっかいエルフの姉ちゃんも力を隠しているのは、天才の俺様だからこそ分かるぜ。おそらくはピンチになれば、ハイパーおっぱ――」
「お黙りなさい」
階段の手摺に飛び乗ったゼナイドが、デスドクロの頭を踏み付ける。しかし彼は負けなかった。
「使うときは事前に言ってくれ。斜線に入らないように警告しなくちゃいけね――っ、ァ!」
ガッと踵が入った。
顔を抑えて蹲る彼を他所に、ゼナイドは階段に飛び降り、真顔でこちらを見ているレオンに気付いて眉を上げる。
「何ですの?」
「いや、そもそも期待していないのなら、無関心を貫くなり、別の者を雇うなり、自分で解決すればいいのだから、貴女の態度は期待の裏返しなのかと思って」
「は?」
「今の自分に出来る事は限りがあるとはいえ、貴女の予想を超えるために最善を尽くそうと思う」
騎士の家系に生まれただけあって真っ直ぐな性格だ。
本来ならばこの言葉に見直すなどの反応を示すのだが、彼女は違う。
「何を馬鹿なことを。わたくしが興味あるのはへ……ゴホンッ!」
陛下、と言おうとして踏み止まる。と、そこに別の声が降って来た。
「俺も折角ですし、信頼は得たいものです」
思った以上の活躍をすれば必ずや。そう内心で想いを馳せる大。それに続きイーディスが巨大な盾を手に遠慮気味な声を零す。
「信頼は別に良いけど、元王国騎士団従騎士の力と矜持は見せたい所だね」
先程の物言いにご立腹なのか、若干痛い視線が突き刺さるのだがゼナイドはまんざらでもないらしい。微かに口角を上げて応えた時だった。
「なっ、何をしますの!」
咄嗟に突き付けた刃の先に居たのはクリュだ。彼女は驚いた様に目を見開いて両手を上げている。
「是非筋肉に触ってみたいと思ってな……腹筋は無理でも腕ならダメか」
「ダメに決まってますわ!」
ゼナイドを実力者と認めての言動だったのだが、やはり理解されないらしい。
完全に警戒しきった彼女にションボリしたクリュを伴い、一行は2階の通路中央に立った。
「策としてはありきたりだが、左右の部屋に分かれて取り巻きを対処するとしようか」
真っ先に言葉を発したイーディスの視線の先には3つの扉がある。1つは通路を進んだ先に、残る2つは左右に分かれた状態で存在する。
「奥は明らかに怪しいし、その策で問題ないと思う」
ロトはそう頷くと、手にしている短い杖を握り締めた。
●レッツ・雑魚戦
そーっと開けた扉の向こう。目を凝らし、中を伺うクリュには敵の存在は確認出来ていない。けれど彼女は言う。
「数などは分らないな。だがそこまで強い事は無いだろう」
1階の戦闘を思い返せば戦い方に問題はない。
彼女は音を立てないように扉を大きく開けると、ゲルドと共に飛び出した。これにイーディスも反応して駆け出す。
「この程度の相手なら一気に押し切れるはずだよ」
密かに声を零して中にいたHBの懐に入り込む。そうして刃を振り上げると、一刀の元にそれを振り払った。
これにゲルドも続く。
「若いもんには負けんぞ!」
ザッと突き入れた爪がHBの胴を抉り、地面に叩き付ける。そこにロトが加わると、彼は短い杖を叩き入れてトドメを刺した。
「うん。このくらいなら手伝えそうだよ」
魔術師である自分は物理戦に参加するのは厳しい。故に適材適所と言っていられるくらいに余裕があれば術を温存したかった。
なのでこの程度で敵が倒れてくれるなら話は早い。ホッとする彼の傍ではクリュが見事な動きで残るHBに短い剣を突き入れている所だった。
一方、左の部屋では、扉をそっと開けた大が手だけを覗かせて手鏡で中を伺っていた。
「敵の数は……」
鏡に映った3体のHB。これを後方で様子を窺う面々に見せる。
「一気に片付けよう」
時間を掛けるのは得策ではない。そう零すレオンに大が頷き返す。
そうして忍ばせていたLEDライトを取り出すと、彼はそこに括りつけて置いた鈴を鳴らした。
チリリンッ。
軽やかで可愛らしい音が響き渡る。
「踏み込め、一瞬でも早く」
ダンッと踏み出したレオンに続き、大、ライオット、デスドクロも踏み込んでゆく。
大が鈴を鳴らして敵の気を惹き、レオンとライオット、それにデスドクロが隙を突いて各HBの側面に回り込む寸法だ。
「機導剣でぶったぎってやんよ!」
ブオンッと光り輝いたデスドクロの刃がHBの羽を斬り落とすと、レオンの刃も同じように別のHBの羽を叩き斬った。
「おら、これでトドメだ!」
ランタンの灯りでHBの気を惹こうとしたライオットだったが、目が見えない為かこの作戦は効果が無いらしい。
それでも大のおかげで無事側面を取れた彼は、刃を振り仰ぐ勢いで蝙蝠羽を切裂く。そうして地面に転がった存在に止めを刺すと、感心している等にこちらを伺うゼナイドを見た。
●貴方がたの真価を!
「最後まで見ずにただ嘲る人に一泡吹かせてやりたいね」
ロトは構えていた杖に祈りを込めると、静かにそれを振り降ろした。送り込むのは護りの力、願うのは前衛2人の無事。
「大地よ、僕たちに力を貸して」
「……これは」
体を纏う不思議な感覚にゲルドが声を上げる。それと同時にレオンもまた、自身に与えられた加護に驚いて目を瞬いていた。
「守るべき私たちが守られている……私はただ守っている訳ではないのだな」
守るために守ってもらうことがある。力を十分に発揮するためには必要な事だが、それでも見落としがちになる力だ。
レオンは与えられた加護に目を伏せると、もう1度前に進むために立ち上がった。
良く見ればクリュも彼等が動き易いようにと、残るHBに攻撃を仕掛けている。
「大、ライオット、そちらの蝙蝠は任せたぞ!」
クリュは言いながらHBの懐に入り込む。その動きは的確で素早い。だが敵も単純に叩き落とされる訳ではない。
「くっ!」
近付いたクリュに気付き、見えない波動を放ったのだ。これに彼女の顔が歪むが、直ぐにその表情は変わる。
「イーディス……」
「大丈夫かな?」
クリュと敵の間に立ったイーディスは、盾でHBの超音波を受け止めると、彼女に態勢を整えるよう促す。そうして敵の体を押すように盾を前に出し、後方に向けて声を上げた。
「デスドクロ殿!」
「おう! 俺様に任せれば間違いねぇ! 暗黒の力の前に平伏せぇ!」
笑いながら振り下ろされたアルケミストタクトから光の線が飛び出す。それがHBの胴を貫くと、大とライオットが別のHBに駆け込んだ。
「これ以上邪魔はさせねぇよ!」
ライオットはHBのサイドから駆け込んで斬り付ける。その間に牙で腕を裂かれるが退く気はない。
一瞬だけ怯んだ素振りを見せるが、すぐさま両手で刃を握り直すと、下から上へ斬るように突き上げた。
「今だ!」
頭上へ回避しようと舞い上がったHBに声を上げる。
「トドメ……!」
飛び上がった大が、HBの脳天を短剣で突き刺す。すると、前衛で動いていた2人も皆の動きに後押しされるように動き出した。
「今度こそワシ等と遊んでもらおうかのぉ!」
ゲルドは更に防御力を強化した状態で歪虚に向かって突進する。勿論レオンもそれに続いているが、2人には残ったHBが攻撃を仕掛けてくる。
だが今回は止まらない。
「この程度で砕けるような誇りは持ち合わせていない!」
次々と刻まれてゆく傷。それすらも顧みずにWVの前に滑り込むと、彼はすぐさま盾を構えた。
ガンッ!
「ッ……これが歪虚。人類の敵か」
一瞬の出来事だった。
今まで状況を見守っていた敵が急遽攻撃に転じたのだ。しかもその動きは想像を遥かに越える。
爪が盾の表面を抉り、ギチギチと嫌な音が響く。だがそれは直ぐに消える。
「ワシも相手してくれんかのぉ!」
凄まじい勢いで迫った爪に、WVが飛び退いたのだ。だがその動きも早い。
「加勢しよう」
情勢を見ていたイーディスが、WVを囲むように2人とは別方向に立ち塞がった。
ジリジリとWVを中心に、睨むような形で接近の機会を伺う。けれどこの時間だけで充分だった。
「僕だってやればできる。僕の本気、見せてあげるよ」
WVを見詰めたロトは、敵の動きを見定めるために力を集中させる。
そうして杖にマテリアルと送り込むと、今にも動き出しそうなWVに狙いを定めた。
「子供だと思って甘く見ないでよね! マジックアロー!」
繰り出した1本の矢がWVの胸を貫いた。
呻き、身を捩る敵。
「蝙蝠王バットキング、無限再生の夢はここで終わりだぜ!」
WVが態勢を整える前にデスドクロの機導砲が足を貫く。こうして更に崩れた体に、大が動いた。
「吸血鬼……、伝承通りには効かないようですが、これならば効くでしょう……!」
先程ロトが射った胸。そこに短剣を刺し、肉を抉るように突き入れる。そしてトドメを刺すようにクリュの拳が歪虚の胴を突くと、美しい青年の姿をした歪虚は静かにその場に崩れ落ちた。
「終わったな。どーだ、依頼人の姉ちゃんも一緒に打ち上げにいかねぇか?」
こう切り出したのは意外と元気なライオットだ。
「今回は結構ですわ。またの機会に奢らせて差し上げますわ」
ゼナイドはそう言ってロトを振り返る。
威圧的に、見下ろすように胸を張る彼女に、ロトの警戒した目が向かう。
「……なに」
「わたくしに一泡吹かせると言ってましたけど、まだまだですわね。もっと強くおなりなさい。今のままでは全然足りませんわ」
貴方たちも。
ゼナイドはそう言うと、ハンター全てを見回し、楽しげに笑った。
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質問卓 イーディス・ノースハイド(ka2106) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/07/05 22:14:43 |
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相談卓 イーディス・ノースハイド(ka2106) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/07/10 23:25:46 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/06 19:53:49 |