しっと骸骨団

マスター:ゐ炉端

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/05/28 19:00
完成日
2015/06/08 00:44

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 最近噂のデートスポットがある。

 それはいつの時代のものか。遠い昔に使われていたであろう古い石造りの砦で、もう放棄されて久しく、風化し、既に天井らしき天井は全て崩れ、壁も大きく欠けて、まともに建つのは柱だけ。――どちらかといえばもう、遺跡というに相応しい。しかしそれは、長い年月を経て自然へと回帰し、やがては幻想的とも思える絶妙な色合いの調和を奏で、人の手では到底成し得ない美しさを魅せている。
 街道から外れ、郊外から離れたこの場所は人気も無く、滅多に人が立ち入ることも無かったが、だが逆にそれが、密かに逢引する若者達には都合が良く、また、朧げに射す月光が、ムーディに二人だけのステージを演出するのだ。勿論、魔物に襲われる危険もあるし、古びた砦が何の拍子で崩れるとも限らない。それでも、いや、危険や困難もまた恋愛のスパイスとなっているからこそ、この場所は密かなデートスポット足り得るのだろう。

 そんなこんなで今晩も、ひと組のカップルがやってきていた。陽のあるうちは鬱蒼とした、ただのボロい砦だが、闇夜に浮かぶ月光が瓦礫に淡いコントラストを与え、ロマンチックな空間を演出する。それに得てして、劣情というものは、人目に付き難いに越したことは無い。
「……今宵の君は一段と素敵だ、ジュリア」
 艶やかな黒い短髪の優男がジュリアと呼ばれた女――ジュリア・ハウの、その透き通るような手を恭しく取り、その紅瞳を見詰める。ジュリアの髪は太陽の様な茜色であったが、それにも負けないほどに朱く、火照った顔が、僅かな月明かりに浮かぶ。
「つ、ツシロ……」
「ハクバでいい」
 そっと壁にジュリアを押し付け、男――津城柏葉は耳元で、囁くように呟く。身体が密着して、お互いの胸の鼓動が早鐘の様に鳴る。リズムを打つ鼓動。それが互いに隠せない距離。
「……だ、ダメだよ、ハクバ」
 ジュリアは身を捩り、くびきを逃れようとするが、しかし身体には力が入らない。それどころか、何かに支配されるように身は硬く、マグネットの様にお互いが引き合っているかのようにすら感じる。出会ってから半年、リアルブルーからやって来たばかりの頃の、世界に馴染めず怯え、臆病な眼をしていた頃の柏葉はもう、そこにはいない。ジュリアには分かっている。自分は恋をしているのだ。この、黒い瞳をした人に。

 ガサッ。

「!?」
 ――物音がして、二人は驚き、飛び上がった。高い壁に囲まれてはいるが、所々崩れたところを通り抜ける風が草木を揺らすことはあったし、小さな動物が迷い込むこともあるだろう。だが、この異様な気配は一体何か。二人は壁を背に、周囲を見回す。覚醒者である柏葉には勿論、そうでないジュリアにも伝わるピリピリとした空気。
「……ハクバ」
「ああ、何かいるな……。下がってて、ジュリア」
 柏葉は腰から下げたスタッフを構え覚醒し、ジュリアを自分の背へと庇う。

 カタカタカタカタ。

 歯を鳴らし、のっそりと、されこうべがボンヤリと夜の帳を割いて浮かび上がる。一つだけではない。ふたつ、みっつと現れ、いつの間にか二人を取り囲んでいた。
「スケルトンか。……成程、いかにもな雑魔だな」
 スタッフを振り、柏葉が詠う。
「喰らえッ! ファイアアロー!!」
 燃え盛る炎の矢が闇を切り裂いて、スケルトンの頭部へと中り、腹に響く衝撃音を残して炸裂した。もうもうと立ち込める白い煙を頭部に纏わせ、一歩、二歩と、ふらふらと後退するスケルトン。
「なっ……なにっ!?」
 確信を得た一撃はしかし、僅かに歩みを止めただけに留まり、斃すどころか、大きなダメージを与えているようにも見えない。
「ね、ねぇ、ハクバ……。あれ……」
 ジュリアが指し示すスケルトンの頭骨、その目の窪みから灼熱の炎のような模様が浮かび上がる。

『バ……プル……ホ……ベシ……』

 薄気味悪い声がコダマする。地獄の底から響いてくるような、そんな声で。

『バカップル……ホロブベシ!!』

 虚空の瞳に赤く眩い、嫉妬の炎が灯り、輝いた。



「――ということがあってね。このスケルトンの討伐が今回の依頼の内容なのだけど」
 まだ、少年という風貌の、ハンターズソサエティ職員が言う。昼休みももう終わりの時間か、静まり返っていたオフィスに、少しずつ人の声が増えていく。少年はチラリと柱時計を一瞥し、再び目の前のハンターへと視線を戻した。
「でも日中、たまたまそこに立ち寄ったハンターが言うには、そこに敵の気配は感じられなかったそうなんだ」
 少年は小さくため息を零し、言葉を続ける。
「でも、襲われたカップルの証言から、どうにもこの雑魔、カップルを妬むような言葉を繰り返していたらしい。もしかすると、カップルでイチャついていると、出てくるのかもしれないね」
 ――つまり、一芝居打てと、暗に言うのだろうか。最も、芝居である必要もないのだろうが。ハンターは首を捻った。捻りながら、ふと、話の中のカップルの事が気になって、少年へと訊ねる。
「うん? ……いいや、件のカップルは無事だよ。男の方は、結構な怪我を負ったらしいけど、命には別状はないそうだ。彼女も軽傷だと聞いている」
 多勢に無勢であったとはいえ、覚醒者に怪我を負わせるとなると、中々油断の出来ない相手なのかもしれない。しかし、一先ず彼らが無事であったことは喜ばしいことだと、ハンターは胸を撫で下ろした。
「彼にとっては災難だったかもしれないけど、彼女を守ったことで、彼の株は上がったのかもしれないね。……ま、そのまま倒してくれてれば、ボクも楽で良かったのだけど」
 小悪魔のようにクスクスと笑う少年をよそに、ハンターは手渡された資料に、再び視線を落とした。

リプレイ本文

●真夜中のカサブランカ

 暮れ鈍る陽が沈み、宵の風が虫の音を運ぶ。晴れ渡る夜空には星の運河が流れ、大空のキャンバスは星座を描く。僅かに欠けた月は煌々と、ひび割れた瓦礫に陰影を落としている。

「こんな場所がまだ残っていたのですね。足元には気をつけて下さいね?」
 クリスティア・オルトワール(ka0131)が、シルヴェーヌ=プラン(ka1583)の手を引き、エスコートする。
(ふふふ。わしとティアの仲良さに、きっと骸骨達も羨ましがるじゃろうて♪)
 シルヴェーヌは思う。以前も似たような、恋人役を演じたことがあったが、その時は散々で。しかし、今回はクリスティア――ティアと共にいる。心穏やかで、暖かい。

「……シルヴィ、こちらに」
 クリスティアは崩れかけた、かつては外と隔てる壁だった場所へとシルヴェーヌ――シルヴィを引き寄せた。雑魔を誘き寄せる囮として、偽とはいえ、告白をするのだ。壁の向こう側で待機する、鵤(ka3319)の視線から、隠れたくもなる。一応、敵の接近を鵤が察知できるよう、場所は選ぶ。

 二人が頼りない壁に隠れたのを、鵤は缶ビールを煽りながら見送った。一瞬、彼女達が視界に入るよう、移動しようとも考えたが、流石にそこまで野暮ったい事は控えるべきか。
(しかし、若いってのは良いねぇ。おっさん、酒が進んじまうぜ)
 お仕事中ではあるが、百合カップルを肴に一杯というのも悪くない。勿論、仕事中というのも分かっている。いや、むしろ少しくらい酒が入った方が、仕事の効率も良くなるというものだ。それに、隙間を縫うように流れてくる夜風も気持ち良く、月見酒にも丁度いい。公式のデバガメも最高だとは思うが、今はこれを愉しもう。

「月明かりは人を美しく魅せると聞きますが……」
 引き寄せた細い身体を壁に優しく押し付け、ティアはシルヴィの耳元で小さく囁いた。耳たぶを撫でる息に、身体が跳ねそうになるのを、抑えるように身じろぐシルヴィ。
「こうして間近でシルヴィを見ているとよく分かりますね……。とても綺麗ですよ」
 そっと、耳元から離れたティアの顔が、今度は真っ直ぐに、シルヴィを見詰める。
「あ……、その、ありがとっ」
 捻りだすように、途切れ途切れになる言葉。少しの沈黙。

「貴女と出会って、もうすぐ一年が経ちますね」
 ポツリと呟くティアの、憂いを帯びた眼差し。
「好奇心旺盛で、色んなことに興味津々な貴女は、目を離すとすぐにどこかへ行ってしまう。まるで、手のかかる妹のようで……」
「そう、じゃな……」

 ――彼女はいつも気にかけてくれ、困った事にも苦笑してついて来てくれる。怒ると怖いけど……。それは全て『わし』の事を思ってくれての事で。家族のような、姉のような身近な存在で。そしてこれからも、ずっとそうだと思っていた。

 やや俯いたシルヴィに、ティアは言葉を続ける。
「笑顔が素敵で、楽しそうな貴方を傍で見るのが、本当に心地好くて、嬉しくて……。こんな気持ちを抱くようになったのは――」
 貴女のその笑顔を、独り占めしたくなったのは、いつからか。

「……シルヴィ」
 少女を名を呼ぶ優しい声。

「私は貴女を愛しています」
 そっと、ティアの右手がシルヴィの頬に触れ。

「親友としてではなく、です」
 嫋やかな横顔を照らす、月の光。発せられる一言一言が、少女を虜にする。
「辛い時も寂しい時も、貴女が泣かないように、ずっと、ずっと傍にいます……だから……」

 チェンジリング――所謂、取り替え子のシルヴィは、エルフの中で育てられた人間。家族の中で、ただ一人、短い時間を生きている。今はまだいい。だがこの先、10年、20年過ぎて独り、歳を取っていくことに耐えられるだろうか。大切に育てられたからこそ、余計に。独りは嫌だ。独りは怖い……。でも――。

「ずっと……。『私』と、居てくれるの……?」
 一筋の雫が頬を伝い、声が震える。息遣いの届くその距離の少女は、何も言わず、静かに頷いた。シルヴィはそっと目を閉じ、その時を待つ。
 しかし、次の瞬間にやってきたのは、ロマンチックな雰囲気とは程遠いものであった。


 ――妬マシイ。――怨メシイ。


 腹の奥に響くような、禍々しい声。カタカタと歯を震わせ、まるで下手くそな人形劇みたいな歪な動きで歩き、二人の前に姿を現した骸骨。頭部には炎を模した模様が走り、怒りを表現しているようにも見えた。
「おのれっ!」
 怒りに任せ『ウォーターシュート』がシルヴィの杖を媒介して放たれる。水の塊が頭部へと直撃し、衝撃と共に周囲に弾けた。ふらつく骸骨。しかし、この程度で嫉妬の炎は消せぬとばかりに踏ん張り、のしのしと、歩を進める――が、一筋の光芒が背中を打ち抜き、今度は骸骨を地面へと突き倒した。
「……おっと。釣れた釣れたァ、よっこらしょっ」
 鵤が気怠そうに腰を上げる。彼の放った『デルタレイ』によって、致命傷を負わされた骸骨が、カタカタ震えながら立ち上がろうとしていた。
「よーう、お疲れさぁーん。いや面白かったぜぇ? 中々いい肴だっ――」
 ニヨニヨする鵤の横を、『ウィンドスラッシュ』の風刃が空を切って飛び、その後ろに立っていた骸骨の頭部を切り裂いた。断末魔を上げる雑魔。鵤が「ピュウ」と口笛を吹く。
「……油断が過ぎますよ」
「おおぅ、オッカネェ」
 それは誰に向けた言葉だったろうか。片刃のナイフを振りかざし、鵤は再び『デルタレイ』を唱える。光が三角形を描き、その頂点から三方向へと光が伸びる。
「暗ェからな。明るくしてやるよ……っと」
 一つは倒れた骸骨にトドメを、一つは頭が割れた骸骨へ突き刺さり、そしてターゲットを選べなかった残った一発は虚空を突いて、夜空へ霧散した。

 現れた骸骨はニ体。シルヴィとティアが顔を合わせて頷き、もう、呻くことすら叶わない骸骨に、各々の術を持ってトドメを刺した。呆気なく着いた勝負に鵤はケラケラ笑い、
「さぁて片付いたかねぇ。ほんじゃ、後は若い奴らでごゆっくりぃーみたいなぁー?」
 と言い残し、物陰へと退散した。その様子を見て、ティアが深くため息を吐く。

「の、のう。先程のことじゃが……」
 おずおずと、シルヴィが訊ねようとするが、その唇に人差し指を押し当てられて止められた。
「ただ言えますのは、私にとってシルヴィはとても大切な人という事だけです」
 変わらぬ表情で、ティアは答える。
「そう、か」

 ……今は、大切と言われたことを満足に思おう。
 表情を見られないよう、シルヴィは背を向け、天を仰ぐ。晴れ渡る夜空に、何故か朧な月が浮いていた。


●恋縒の二人

 同時刻。幼馴染の恋人、ルーエル・ゼクシディア(ka2473)とレイン・レーネリル(ka2887)もまた、しっと骸骨団を誘き寄せるべく、イチャラブ結界を展開しようとしていた。見晴らしのいい崩れた瓦礫の上に腰掛け、星空の大河を二人で見上げる。

「綺麗な場所だよね。今度は、二人きりで来たいな」
「う、うん……。次は二人でね」
 目を伏せて顏の赤さを隠そうとするルーエルを、可愛いと思いながら、レインはそっと身を寄せた。ピクリと、僅かに詰まった距離に少し驚くが、ルーエルはその適度な重みを受け入れ、彼女に肩を預ける。
「あの。こんなに……くっつくの?」
 レインだけに聞こえる声でルーエルは言うと、
「何照れてるのー。依頼なんだから良いじゃん。ねー。人助け人助けっ」
 と、更に腕を絡めて、レインはルーエルに抱き付いた。遠慮などない。いやむしろ、この機を逃す手はないとばかりに、レインは攻勢をかける。恥かしがり屋だからか、こういう状況でもなければ、積極的にラブラブする機会などないのだ。顔が緩むのを頑張って抑えてみるも、顔がにやけ、「えへへ」と、可愛らしく声を漏らしてしまうのも、仕方はない。
 一方のルーエルは、矢張り人目――物陰に待機して、雑魔の出現を待つ、ロジェ・オデュロー(ka3586)が気になるのか、どこか落ち着かない。
「でも、大人な身体になったね、ルーエル君。……逞しいよ」
 腕の感触、肩の大きさ、一つ一つを肌で感じながら、共に過ごしてきた日を思い、呟く。
「僕だって、いつまでも子供じゃないよ」
「えっ」
 少し強めにルーエルは呟き、レインへと視線を向けた。その言葉は、ふと何か、男として、大人としての階段を、一段踏みあがったようにも思えたが、
「面倒くさがりのお姉さんも一応、ハンターとしては鍛えてるみたいだけど」
 と、ジト目で続けられた台詞に安堵半分の息を吐いて、レインはいつもの笑顔を浮かべる。触れ合う肌と肌、お互いに『ハンターとして』成長した証。

 今は、それだけでいい。

「ほらほら! 私の腕も結構筋肉付いてるでしょ!」
 エルフとしては! と、付け加え、再びルーエルに飛び付き、押し倒すような形になる。
「!?」
「ルーエル君……! もっと見せつけないと! まだリア充オーラが足りないの! 雑魔を消し飛ばすくらいの奴を!!」
「ちょっ……ど、どうしたの、急に!?」
 そんな感じに勢いに任せて突っ走りかけた直後、ゾワリと、醜悪な気配が周囲に立ち込めた。

「出て来たみたいだね」
 ルーエルが僅かに身を起こし、レインの耳元に囁く。耳を澄ませれば、確かに聞こえる。所々途切れたテープレコーダーのような、そんな不確かで、気味の悪い声が。

『ネタ……マシイ……。ウラメ……シイ……』

「男の嫉妬なんて見苦しいだけだね! カップルが妬ましいというくらいならば、己を磨くべきだッ!」
 待ちくたびれたと言わんばかりに身を乗り出し、手近な骸骨目掛けて『ウィンドスラッシュ』を放つロジェ。その側頭部に鋭い風刃がぶち当たり、よろめかせる。

『リアジュ…ウ、バクハツ、シロ!』

 ギラリと虚空のはずの瞳に、紅光が灯る。効いていないわけではない。ただ単純に火力が足りなかったか。距離を取り、再び術を打つべく体勢を整えるロジェ。

「はいはい、頑張りますよー」
「それにしても、変なスケルトンだね……。こんな敵は初めてだよ。生前に、どんな苦しみを思い残したんだろうね」
 盛り上がってきたところに水を差され、少々やる気が飛んでいたレインだったが、ルーエルに女子力という名の『攻性強化』を付与して、男を立てるイイ女を、ここぞとばかりにアピールする。

「確認した。全部で4体だ」
 ルーエルが『レクイエム』を歌った直後、『アースバレット』をぶち当て、ロジェが言う。報告にあったのは6体。割り当てとしては、こちらの方が少々多いようだ。
「ってことは、私達の方がラブラブ度が高かったってこと?」
 レインが目を輝かせる。
「どうだろう。意外と、向こうがガチ過ぎて、冷やかせる空気が無かっただけかもしれん」
「雑魔が空気読んだ!?」
 ロジェの冗談めいた呟きにルーエルが衝撃を受けた。真実はわからないが、お化けの類程、雰囲気を大切にするものもない気もする。

「しかし、骸骨の癖に恋愛を語るとは生意気な。そういうのは生者に任せておくんだね!」
 ロジェがリートダガーを構え、敵を見据える。いやもしかして、骸骨でも恋愛は出来るのか? とか、少し思ってしまうロジェであったが、そんなことはない。彼らは死んでいる。恋とは生者の特権であり、愛とは生命を繋ぐものなのだ。
 嫉妬の言葉を吐きつつ、ワラワラと寄ってくる骸骨団の中に飛び込み、『セイクリッドフラッシュ』を繰り出すルーエルの背後から3つの光が飛来し、骸骨を貫通する。レインが放った『デルタレイ』の輝きが、数的不利を跳ね返すように、三体を同時に吹き飛ばす。
「ねーねー、惚れ直した? 私はルーエル君に惚れ直しちゃっ――」
 言い終わるよりも早く、深い闇より飛び出して来た一体の骸骨。月明かりがあったとはいえ、光源を持たずに、まして視界の悪い場所で、更に油断もしていた。完全な不意打ちに、飛び込んできた紳士が進路を阻む。その細い白骨から繰り出されたドロップキックを全身で受け止め、血を吐きながら吹っ飛ぶロジェ。
「月より、も……美し、い……君に……怪我など、似合わな……」
 魔術師のクラスがしていい無茶ではなかったが。しかし、彼にはそうしなければならない矜持があるのだ。その顔は、満足げだったと、後にレインは述懐する。

「僕の――」
 ゆらりとそちらへと視線を向けるルーエル。体中を走る、電子基板の様な金色のライン。愛しきものに危害を加えようとした行為、それは万死に値する。
「お姉さんに、触れるなっ!!」
 ギラリと光る灼眼。手にしたパイルバンカーが彼の怒りを代弁し、その頭部を粉砕した。


●嫉妬は野火の如く

 無事に(約一名を除き)しっと骸骨団を討伐したものの、懸念材料が残っていると主張する、ロジェとクリスティア。ハンターズオフィスのカウンターで、依頼完了の報告と共に、訴える。
「廃墟をそのままにしているから雑魔なんて出てくるんだろう。雰囲気がいいとか関係ないね! 整備だ整備!」
 半ば、骸骨にボコされた分の恨みもあるのかもしれない。語尾がちょっと荒げている。クリスティアは隣で頷きながら、ロジェの言葉に続く。
「確かに。他の方達には申し訳ないですが、廃砦を放置は危険ですね……。撤去か、危険性を記した立て札だけでも用意して立てておいた方が」
 その言葉に、依頼を紹介した少年が、苦笑いを浮かべる。実際、危険は十分認知されているし、注意も促してはいるのだが。困ったことに、そういう側面を持っているからこそ、隠れたデートスポット足り得るのだ。これが逆に、安全安心な場所であれば、人で溢れて、ムードも何も無くなってしまうだろう。
 それに、人の滅多に近寄らない遺跡まがいの場所の整備や撤去に、費用など出るわけがない。さてどうしたものかと、首を捻っていると、話を聞いていたのか、むさ苦しい風貌の男が口を挟んできた。
「話は聞かせてもらった! そういうことならば、協力しよう!」
 え? 誰? と、キョトンとした3人を他所に、男は力説する。
「あの場所は前々から危険だと、俺も思っていたのだ。夜な夜なイチャコライチャコラ……」
「うむ。ベタなホラー映画なら、一番最初に殺されているな」
 拳を握りしめながら語る男に、別の男が話に加わった。……見れば、共感した男達(見るからにモテなそうな)がいつの間にか集まって、件の場所に苦言を呈している。

「……もしかして、余計な事を言ってしまったのでしょうか」
「さてね」
 頬をポリポリと掻きながら、クリスティアは苦笑いを浮かべたが、ロジェは涼しげな顔で、出された紅茶を啜った。

 後日、有志の(モテない)野郎どもによってデートスポットは綺麗に破壊され、更地と化した。そして跡地には『リア充爆発しろ』と、銘文を打たれた石碑が建立されたそうな。


 どうやら、ルーエルとレインの約束は、別の場所で果たすことになりそうだ。

依頼結果

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  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディアka2473
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディアka2887

重体一覧

参加者一覧

  • 古塔の守り手
    クリスティア・オルトワール(ka0131
    人間(紅)|22才|女性|魔術師
  • クリスティアの友達
    シルヴェーヌ=プラン(ka1583
    人間(紅)|15才|女性|魔術師
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディア(ka2887
    エルフ|16才|女性|機導師
  • は た ら け
    鵤(ka3319
    人間(蒼)|44才|男性|機導師
  • 幻獣王のライバル
    ロジェ・オデュロー(ka3586
    エルフ|14才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
シルヴェーヌ=プラン(ka1583
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/05/27 23:16:52
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/26 01:12:05