ゲスト
(ka0000)
少年、雑魔にブラッシング
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/03 07:30
- 完成日
- 2015/06/07 23:28
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●恐怖
夜、医者を訪ねようと家を出た村人は、悲鳴を上げた。
悲鳴を聞きつけ外に出た者の中で、幾人かはかろうじて家に戻った。
「ぞ、雑魔だ……あれは雑魔だった」
怪我人がいても医者は外に出ることはできなかった。
翌朝、雑魔がいないことを確認し、用心しながら外に出た。食いちぎられて無残な遺体と対面し、医者は無力感にさいなまれる。被害者家族も涙をこぼし、泣くしかなかった。
どこから雑魔が来たのか?
日中は問題ないのだろうか?
村人は首をかしげた。
雑魔がいるなら、北の森だろう。
これまで特に何もなく、安全だとばかり考えていたのを改めないとならない。
武器を持った村人たちは、状況を確認しに森に行った。もちろん、危険ならば引き返す気持ちで。
一方で、領主に対して救援要請を出した。
●別荘
村のはずれであり、森の手前と言う場所に、ある貴族が避暑に使う別荘がある。
毎年夏から秋に使われる家に異変があると、森に向かった者たちは気付いた。
ここ数日、天気が悪かったため、入らなかったためにようやく異変を知る。
馬小屋がある部分に大量に生き物が入っている気配があった。
鳴き声と獣の匂い……。
近寄って中を見ようとした。
「ガルルル」
飛び出してきた大きな獣、元は狼だったような雑魔に威嚇をされる。
腰を抜かした村人を、他の者が引っ張って雑魔から引き離す。雑魔は飛びかかってくることはなかったため、離れながら観察を行った。
毛並みが整えられ、首に布を巻いている。
「ペット?」
状況を忘れて、一人はつぶやく。
村人の一人は、二階のカーテンの隙間から覗いている影に気付いた。薄茶色の髪の毛、白い肌、笑っているような紫の目が印象に残る。子どもと言うには大きいが、大人というには早い雰囲気だ。
「おい……誰かいる、別荘に」
雑魔から離れた後、別荘がかろうじて見えるところから村人たちは見る。
二階の窓のカーテンは閉められ、揺れている。人影はないが、誰かいることを示している。
いつもは夏に来る貴族が来たのか?
村を通らずに来るなどありえない。馬車や馬を使ってくるだろうし、徒歩でこっそり来られるということがない限り気付かないわけがない。
それにしても、馬小屋の雑魔は良くわからない事である。雑魔がいること自体奇妙で、それらが手入れされていることは異様である。
「とにかく、領主さまには伝えてもらって……」
朝、すでに救援要請を持った者が出たので、追って頼みに行った。
●空虚
ベッドに寝そべり、天井に伸ばした手を見つめる。すでに痛みもなく動かすのに支障はない。
「どうしたいんだろう?」
いくつか候補は上がるが、今できることではない。
外で吠える狼の声を聞き、プエルはベッドから降りた。
「もうそんな時間か」
窓の外は夜、霧雨が降っている。
馬小屋となっているところから狼だった雑魔が何匹か出てきた。それらはプエルを見上げて尻尾を振っている。
「可愛いなぁ。僕はここにいるから、お前たちは村で遊んでおいで」
笑いながら見ているプエルに対し、遠吠えを返す雑魔たち。
雑魔を見送った後、ぽつり、つぶやく。
「どうしたらいいのかなぁ。……レチタティーヴォ様と一緒いるのが一番いいのに……。僕もあんな風になりたいなぁ。まずは頑張らないと、見てもらえないし……」
考えても仕方がないことはやめる。そう、楽しいことを探そう。家の中を歩き回る。
プエル好みの家具が備えられている別荘は、定期的に使われているらしくきれいに整えられている。
女の子の人形を見つけ、操ってみる。ちょうどいい暇つぶしだ。肩の載せると頬に引っ付いてくるのは可愛らしくていい。
滞在して日数は経つが、いればいるほど落ち着く家であった。
「やっぱりエクエスも連れてくれば良かったのかな」
「ええ、気付いたらいないというパターンはやめてください。あなたに用がある方に質問攻めにされますので。さて、スコーンをいただきましたのでお持ちしました」
「あっ」
エクエスが持っている籠をプエルはとる。
「どうして、僕の居場所がばれているの?」
プエルは不審を抱きつつも、籠をテーブルに置き行儀よく座った。
「ここで何をしていらっしゃるんですか? その人形は?」
「うん、痛いの嫌だし、考えることにしたんだ。この子はね、なんとなく」
人形を胸にだき、その頭をなでる。
「考える?」
「うん、エクエス以外にも僕を守ってくれるヒトとか、後ろに立てば魔法使えるなとか、他人に動いてもらえばいんだよなって」
皿にスコーンを載せ、プエルはニコリとほほ笑んだ。
「はい? 魔法?」
「うん」
「……なら今までは?」
「敵に囲まれたら意味ないもの」
エクエスは「使えないな」と内心つぶやく。
「……さて、お茶でも淹れますか? 『妹君』にも?」
エクエスはプエルの表情を見逃さないように、金の双眸をじっと向ける。
「妹? ふふっ、この子はそこまでできないから」
プエルは人形をテーブルの上に置き、愛おしそうに、優しく頭をなでる。
「あっ……ちょっと待って、僕がお茶淹れるから!」
「いえ、それは私が……」
「だって、お前が淹れるのはまずいんだもの」
「……」
プエルがお茶を淹れるのに集中を始めてから、人形は倒れた。
●依頼
その領主の代理人がハンターズソサエティ支部に依頼を持ちこんだのは、村人に死人が出て一週間が経った日だった。
「村に確認に行ったところ、夜になると雑魔が現れるんですよ」
ちょっと軽めなのか気安さを出そうとしているのか、努めて代理人は明るくしゃべる。
「家の外に出なければ被害はないんです。無理矢理壊して入ってくることは現在のところないようです」
雑魔の種類は狼のような形のものが多く、熊っぽいものもいた。そのうち家屋を壊して侵入する可能性はある大きさである。
「別荘には雑魔がいました……。中にいるらしい人とは接触できなかったんですが、夜になると聞き覚えのない少年の歌声がしたので、誰かはいるみたいです」
どんな歌なのかと尋ねると一般的な合唱曲や聖歌隊が歌うタイトルが返ってくる。
「雑魔退治と原因が分かればその対処をお願いしたいんです。それと、別荘にいる人の確認を」
「分かりました」
職員が請け負うと、領主の代理人は深々頭をさげて立ち去って行った。
「あの人はわざと考えないようにしていたんでしょうか? 雑魔がいても気にしない様子ですよ、別荘の人。下手をするとその上の存在がいる可能性あります……」
職員はぽつりつぶやくと依頼書には、要注意と書き込んだ。
夜、医者を訪ねようと家を出た村人は、悲鳴を上げた。
悲鳴を聞きつけ外に出た者の中で、幾人かはかろうじて家に戻った。
「ぞ、雑魔だ……あれは雑魔だった」
怪我人がいても医者は外に出ることはできなかった。
翌朝、雑魔がいないことを確認し、用心しながら外に出た。食いちぎられて無残な遺体と対面し、医者は無力感にさいなまれる。被害者家族も涙をこぼし、泣くしかなかった。
どこから雑魔が来たのか?
日中は問題ないのだろうか?
村人は首をかしげた。
雑魔がいるなら、北の森だろう。
これまで特に何もなく、安全だとばかり考えていたのを改めないとならない。
武器を持った村人たちは、状況を確認しに森に行った。もちろん、危険ならば引き返す気持ちで。
一方で、領主に対して救援要請を出した。
●別荘
村のはずれであり、森の手前と言う場所に、ある貴族が避暑に使う別荘がある。
毎年夏から秋に使われる家に異変があると、森に向かった者たちは気付いた。
ここ数日、天気が悪かったため、入らなかったためにようやく異変を知る。
馬小屋がある部分に大量に生き物が入っている気配があった。
鳴き声と獣の匂い……。
近寄って中を見ようとした。
「ガルルル」
飛び出してきた大きな獣、元は狼だったような雑魔に威嚇をされる。
腰を抜かした村人を、他の者が引っ張って雑魔から引き離す。雑魔は飛びかかってくることはなかったため、離れながら観察を行った。
毛並みが整えられ、首に布を巻いている。
「ペット?」
状況を忘れて、一人はつぶやく。
村人の一人は、二階のカーテンの隙間から覗いている影に気付いた。薄茶色の髪の毛、白い肌、笑っているような紫の目が印象に残る。子どもと言うには大きいが、大人というには早い雰囲気だ。
「おい……誰かいる、別荘に」
雑魔から離れた後、別荘がかろうじて見えるところから村人たちは見る。
二階の窓のカーテンは閉められ、揺れている。人影はないが、誰かいることを示している。
いつもは夏に来る貴族が来たのか?
村を通らずに来るなどありえない。馬車や馬を使ってくるだろうし、徒歩でこっそり来られるということがない限り気付かないわけがない。
それにしても、馬小屋の雑魔は良くわからない事である。雑魔がいること自体奇妙で、それらが手入れされていることは異様である。
「とにかく、領主さまには伝えてもらって……」
朝、すでに救援要請を持った者が出たので、追って頼みに行った。
●空虚
ベッドに寝そべり、天井に伸ばした手を見つめる。すでに痛みもなく動かすのに支障はない。
「どうしたいんだろう?」
いくつか候補は上がるが、今できることではない。
外で吠える狼の声を聞き、プエルはベッドから降りた。
「もうそんな時間か」
窓の外は夜、霧雨が降っている。
馬小屋となっているところから狼だった雑魔が何匹か出てきた。それらはプエルを見上げて尻尾を振っている。
「可愛いなぁ。僕はここにいるから、お前たちは村で遊んでおいで」
笑いながら見ているプエルに対し、遠吠えを返す雑魔たち。
雑魔を見送った後、ぽつり、つぶやく。
「どうしたらいいのかなぁ。……レチタティーヴォ様と一緒いるのが一番いいのに……。僕もあんな風になりたいなぁ。まずは頑張らないと、見てもらえないし……」
考えても仕方がないことはやめる。そう、楽しいことを探そう。家の中を歩き回る。
プエル好みの家具が備えられている別荘は、定期的に使われているらしくきれいに整えられている。
女の子の人形を見つけ、操ってみる。ちょうどいい暇つぶしだ。肩の載せると頬に引っ付いてくるのは可愛らしくていい。
滞在して日数は経つが、いればいるほど落ち着く家であった。
「やっぱりエクエスも連れてくれば良かったのかな」
「ええ、気付いたらいないというパターンはやめてください。あなたに用がある方に質問攻めにされますので。さて、スコーンをいただきましたのでお持ちしました」
「あっ」
エクエスが持っている籠をプエルはとる。
「どうして、僕の居場所がばれているの?」
プエルは不審を抱きつつも、籠をテーブルに置き行儀よく座った。
「ここで何をしていらっしゃるんですか? その人形は?」
「うん、痛いの嫌だし、考えることにしたんだ。この子はね、なんとなく」
人形を胸にだき、その頭をなでる。
「考える?」
「うん、エクエス以外にも僕を守ってくれるヒトとか、後ろに立てば魔法使えるなとか、他人に動いてもらえばいんだよなって」
皿にスコーンを載せ、プエルはニコリとほほ笑んだ。
「はい? 魔法?」
「うん」
「……なら今までは?」
「敵に囲まれたら意味ないもの」
エクエスは「使えないな」と内心つぶやく。
「……さて、お茶でも淹れますか? 『妹君』にも?」
エクエスはプエルの表情を見逃さないように、金の双眸をじっと向ける。
「妹? ふふっ、この子はそこまでできないから」
プエルは人形をテーブルの上に置き、愛おしそうに、優しく頭をなでる。
「あっ……ちょっと待って、僕がお茶淹れるから!」
「いえ、それは私が……」
「だって、お前が淹れるのはまずいんだもの」
「……」
プエルがお茶を淹れるのに集中を始めてから、人形は倒れた。
●依頼
その領主の代理人がハンターズソサエティ支部に依頼を持ちこんだのは、村人に死人が出て一週間が経った日だった。
「村に確認に行ったところ、夜になると雑魔が現れるんですよ」
ちょっと軽めなのか気安さを出そうとしているのか、努めて代理人は明るくしゃべる。
「家の外に出なければ被害はないんです。無理矢理壊して入ってくることは現在のところないようです」
雑魔の種類は狼のような形のものが多く、熊っぽいものもいた。そのうち家屋を壊して侵入する可能性はある大きさである。
「別荘には雑魔がいました……。中にいるらしい人とは接触できなかったんですが、夜になると聞き覚えのない少年の歌声がしたので、誰かはいるみたいです」
どんな歌なのかと尋ねると一般的な合唱曲や聖歌隊が歌うタイトルが返ってくる。
「雑魔退治と原因が分かればその対処をお願いしたいんです。それと、別荘にいる人の確認を」
「分かりました」
職員が請け負うと、領主の代理人は深々頭をさげて立ち去って行った。
「あの人はわざと考えないようにしていたんでしょうか? 雑魔がいても気にしない様子ですよ、別荘の人。下手をするとその上の存在がいる可能性あります……」
職員はぽつりつぶやくと依頼書には、要注意と書き込んだ。
リプレイ本文
●霧雨の夜
湿気がまとわりつき、肌寒さもある夜。ハンターたちは雑魔を退治すべく村に集った。
別荘に続く道の前にかがり火をいくつか作り置いて、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は別荘がある方を見上げる。
「上位の相手がいると下手に別荘を襲撃するより、迎え撃って少しでも敵の数を減らすしかないかな」
村人が別荘で見たという人影は、辺境で遭遇した歪虚の少年の容姿を表している。似ている人物か、本人かは分からない。まずやることは雑魔退治だ。
道から外れた所に鳴子を設置した織宮 歌乃(ka4761)は、地形を把握しつつ戻ってきた。
「夜に奏でましょう、爪牙と剣閃の調べを……雑魔には鎮魂の調べを」
歌乃は歌うようなつぶやきと共に、武器に手をかけ、その時が来るのを待つ。柔和な雰囲気がきりと引き締まる。
「雑魔をペットか……共存出来る存在だとは思ってなかったんだけど、僕が知らなかっただけで共存も出来る物なのかな?」
ナタナエル(ka3884)のつぶやきを引き取るように、黒の夢(ka0187)が穏やかに楽しそうに告げる。
「今回の依頼の目標はペット化した雑魔をもふる……」
それらの聞いたセリス・アルマーズ(ka1079)がもどかしさからカッと目を見開く。
「そこの二人! 何を言うのやら! そんなの無理でしょ!」
セリスは雑魔について説明し、エクラの教えについて滔々と述べる。
適度に緊張もほぐれる会話を聞きながら、リュー・グランフェスト(ka2419)は笑うが、依頼内容には溜息が出る。
(なんか、躾をしない飼い主をもった犬が暴れちゃったとかみたいな感じの依頼だな……とはいえ死者も出てるし、放ってはおけねえな)
エリス・ブーリャ(ka3419)は近くの屋根の上に待機して、仲間たちの会話を楽しそうに聞く。
(襲われた人に非があるかどうかも気になるけど、ペットの問題は飼い主の責任だよねー)
本当に雑魔か否かも分かっていないが推定雑魔だ。ペットか否かも曖昧だが、殲滅するべき対象であるのは間違いない。
カラ、カラ、カラ、カラ、カラ、カラ……。
鳴子の音がかすかに響く。
ハンターたちは建物の影に隠れ様子をうかがう。
道や木々の隙間から、狼にしては大きく奇妙な影がやってくる。続いて、より大きく、後ろ足で立つことができる影がやってくる。
明かりがついていることで躊躇して暗がりから回り込んで村に入ってくるようだ。
「ふわぁぁっ……もふもふいっぱい可愛いな……!」
黒い夢の歓声にハンター側も雑魔側も一旦動きが止まる。
「毛並みだけならまるで飼い犬だ……が……」
レイオスは観察して変な考えを吹き飛ばすように首を横に振る。どう見ても雑魔であるのだから排除対象だ。
「バンダナついているし、野良じゃないってカンジぃ?」
エリスは答えながら、銃の引き金を絞った。
「なんであろうが、歪虚は浄化され、この世に一片も残してはいけない!」
セリスがきっぱりと言う。近づいてくる雑魔にホーリーライトを放つが、転がるように避けられた。
「なんてことなのっ!」
雑魔はセリスの歪虚殲滅熱に油を注いだ。
「そら、こっちだ!」
ワイヤーウィップを振るい、リューは雑魔たちの意識を引き付ける。
「そうだね……雑魔を退治しないと」
仲間の会話に気を取られていたが、雑魔たちを迎え撃つためにナタナエルは覚醒状態になる。仮面で顔を覆い、表情を隠すと、用意したナイフを雑魔に投げる。
「あら……調子がおかしいですわ」
歌乃はスキルを使用するためにマテリアルを活性化させようとするが、何かかみ合わなかった。悩んでも仕方がなく、今は仲間と共に一体でも雑魔を消すことに集中した。
近寄ってきた雑魔たちへのリューの薙ぎ払いは、それらを一か所に足止めにした。続いたレイオスが払った刃に当たり、三匹が霧散する。
黒い夢には狼雑魔を愛撫したい欲求が、相手は生を食らうことしか考えていない。仲間の位置を確認し、スリープクラウドを掛ける。倒れた雑魔を抱きしめた。
触れられてすぐに雑魔は動く。
「まだ攻撃しないでほしいのなっ……!」
無理な相談で、黒い夢がバンダナにリボンを巻きつけたときには猛攻を始める。
「何やってんのかなぁ!」
エリスは黒い夢の行動を見て、援護するように射撃する。
ナタナエルが黒い夢を襲っていた雑魔を攻撃し、歌乃が素早く寄ってとどめを刺した。
熊雑魔はセリスとリューに向かってきた。軽々と二人は避け、それぞれ攻撃に転じる。
この二人が熊雑魔と戦っている間に、レイオスたちはこまごまと移動する狼雑魔と戦う。
「次から次へとキリがないな」
ナタナエルのつぶやきに歌乃は同意する。一体ずつ、確実に仕留めているので希望はある。
雑魔たちは必死に敵をつぶそうと牙をむく。
「これで終わり」
「神よ、感謝しますっ」
リューとセリスがそれぞれ熊の雑魔を退治する。
「よしっ」
「こんな物でしょ!」
レイオスとエリスは周りを見て雑魔がいないことと確認する。
「これで終わりか?」
「そのようです」
ナタナエルの淡々した言葉にかすかな安堵がにじみ、歌乃もほっとして太刀を鞘に戻した。
村での戦いが行われていたころ、別荘では眉を寄せて耳をそばだてるプエルがいた。
「……なんか音しない?」
窓を開けて首をかしげる。
「プエル様、ここにいらっしゃってどのくらいですか?」
「う、うーん、きちんと覚えてないけど、怪我治ってからいたよ」
エクエスは溜息をついた。
「撤収の準備をしましょう」
エクエスは説明をし、走りだそうとするプエルを抑えて、出る準備をさせた。ジャケットと大剣、雨が心配なので雨具……。
「片づけないと」
プエルは皿やカップをまとめ、椅子を直した。人形を棚に戻し出発する。
雑魔が倒れると、無事だったバンダナが残る。
レイオスはためしに一つ手にしてみる。入手経路が分かるかなという期待があるが、大きな町であれば売っていそうな品だ。
「雑魔だし、やっぱり歪虚のペットかに? マテリアルの都合上、人間が飼いならせないし」
民家の屋根の上から下りて、エリスは首をひねる。
「依頼では別荘に誰かいると言うけど……」
話に聞く特徴はレイオス、エリス、リューは見たことのある歪虚である。
「でも、同じとは限らないし」
リューは力なく笑う。攻撃を受けた痛みはお互い様だろうし、もしもの場合前回と同じで行けると考える。
「何にせよ、歪虚は薙ぎ払うだけでしょ」
セリスも情報から連戦になった場合はきついとは理解しているが、エクラの下に歪虚はないのだ。
「ああ、もふっ……おなかすいたのだ……」
黒い夢のつぶやきに一部溜息がもれる。彼女のように何でも愛せれば、争いはないにちがいない。
歌乃はバンダナを拾いあげる。そこにある思いを読み取ろうとするように触れる。所有物で大切だから印をつけただろうから。
「大丈夫? 怪我は?」
押し黙った歌乃を心配してナタナエルが声を掛ける。応急手当の道具をみせて。
「いえ、怪我はたいしたことありません」
寂しげに微笑む。すりむいた等あっても大したことはない。
「別荘の確認、日が昇り切ってから……にしないか?」
「俺としては一度は見ておいた方がいい気がする」
レイオスはリューの提案に反論する。
「両方いいんじゃないの?」
エリスのまとめに誰も異論はなかった、確実性を考えると。
●薄い明かりの朝
「な、なんで!」
キンとした少年の声響く。声の方を見るとポンチョ型の雨具を羽織った小柄な影が立っている。フードを目深にかぶっており顔は見えないが、雰囲気は怒っていると告げる。
その後ろには控えるように銀髪の青年がおり、ハンターを見て「おや」と考え深そうな声を漏らした。
別荘にいる不審者が歪虚である推測は立っていたのでハンターとしては大きくはおどろかない。そして、接したことがある者は、彼らが災厄の十三魔レチタティーヴォ配下であるプエルとエクエスと知る。辺境を離れた後、ここに来たこととなる。
ハンターたちが体勢を整える前に少年プエルは動く。矢を引き抜き弓を射る動作を取っていた。
闇の色の、揺らめく弓と矢がプエルの手に握られている。
魔法だ。
これまでの戦いでは何か小細工はしていたこともあったが、はっきりと目に見える魔法を使う行動はとっていなかった。
「あのっ、聞いてくださいっ!」
歌乃は声を上げ、前に出ようとした。
「許せない」
低いつぶやきと共に矢は放たれ、歌乃に向かう。
反応できない歌乃をかばうようにセリスが動く。セリスに当たった瞬間、矢ははじけて消えた。
「きゃあ」
歌乃は小さい悲鳴を上げた。
「なんで前に出たのっ!」
セリスは歌乃をしかりつけ、盾を構えてプエルに向く。受けたから分かる威力、それと効果。セリスに当たった後、矢に込められた力ははじけ飛んだ。かばったが、歌乃にも小さい欠片がぶつかっているはずだ。つまり、標的と周りに影響が出る。
「またお前かよ! ペットの管理もできねえのか! この馬鹿!」
リューはプエルの意識を引くように、武器を構えながら声を上げる。プエルが煽られるのに弱いということは以前遭遇した時に察している。
「大事なペットなら檻の中に入れやがれってんだ」
レイオスは苦々しく言いながら、武器を構える。
「そうそう……ああ、別荘にいたのあんたら? なら、消毒しないと駄目よねぇ」
エリスは銃を構えあざ笑う。
「こんなところで何をしているの?」
ナタナエルの質問に、プエルが眉を中心に寄せる。
「ねーねー、汝ら此処で一足早いナツヤスミしてるの? 甘いにおいがするね、お腹空いたからおやつくださいなの」
黒い夢ののんびりとした質問が飛んだ。
再び魔法の弓を構えたが、プエルは硬直した。
エクエスはクツクツと笑う。
「いやはや……随分と明るいかたですねぇ。そちらの方とは実に対照的」
セリスを指さす。
セリスは仲間が彼らから何か聞きたいならと黙って盾を構え様子をうかがう。臨戦態勢は解くことはない。
「貴様たちの質問の意味が分からない」
プエルは吐き捨てた。
「プエル様はご存じないでしょうが、夏休みとは……」
「そんなことどうでもいい!」
「……ですよね」
「お前、余をからかうために言っただろう!」
沈黙が訪れる。
接敵すべきか、飛び道具ですぐに攻撃するか。双方が探り合い。ハンターたちはすでに雑魔たちとの戦いがあったため、疲労がある。歪虚を殲滅する意志はあっても、今は無謀とも感じている。
「世話する相手を増やして何するつもりだ、優男っ!」
何故、雑魔を飼っていたのか聞きたいが、正面切って問うて答えるかは不明だ。レイオスの挑発めいた質問に、エクエスは苦笑しつつプエルをちらりと見る。
「優男? くすっ、プエル様の事ではないでしょうね。褒められたということで、応えましょうか。雑魔たちはプエル様がご自身で……」
「余の手足となって動いてもらいたくて……。それにしても、弱い……弱すぎる」
「プエル様、雑魔から育てようとしたら結構大変ですよ? おとなしく、一度戻られて協力して下さる方を連れてきた方が良いかと。プエル様を守ってくれる人はおりますよ。それに……」
エクエスはプエルが聞いていないと察して、何か言いかけてやめる。
ぶすっとしているプエルは誰に向かって魔法を放てばいいのか思案している。
「あの……大事にされていたモノなら、墓と主からの鎮魂歌が慰めでしょう」
近付き、戦意がないこと示すのをあきらめ、歌乃は声を掛けた。
「歌うならば、囀る小鳥ならば、それ相応の舞台で……と私は思いますが」
すっと目を細めたプエルから暗い笑いが漏れる。
「墓? 鎮魂歌? そんなものが何の役に立つ? すべては無に帰すというのに、形が残ったところでどうなる? 何を勘違いしているんだ! 舞台? ふふっ、相応とは何を指す? 歌はどこでも歌える、小鳥であれば森の中か? 争いは戦場が舞台、ここで起こることも何かの舞台だとは考えないのか? そして、ここが君の墓となるとも?」
プエルが魔法を放つが、用心していたセリスが防ぎきる。
レイオス、リューが接敵しようとするが、間にいるエクエスが入って受ける。
セリスのホーリーライトが飛んできており、プエルがむっとして回避している。
「撤退しますよ! あなた、武器は抜けないでしょう!」
「お前が着せたんだろう!」
プエルはポンチョ型の雨具の下から大剣を引き抜けず、いらだちの声を上げる。
「『舞台』のこともございましょう? プエル様はいかがするのです?」
ぎくりとハンターたちの動きも止まる。
先の大きな戦いでプエルの主たる上位の歪虚が告げた「次の舞台」という言葉を耳にしている。
「さて、行きましょう?」
力が緩んだ隙に、エクエスは武器を流して間を抜けていく。
「逃がさないよ」
エリスの銃とナタナエルの投げナイフがプエルを狙う。狙いは合っていたが紙一重で回避される。
「人間は楽しいから、もう少し……観させてもらおうかな」
プエルは楽しそうに言い、お辞儀を一つして立ち去った。
肌一つ見えない姿であるためか、ただの人間の少年のように見えて奇妙であった。人間のように見えても、言葉は歪虚のものである。
●別荘には?
馬屋には何も残っていない。雑魔は戻ってくるかもしれないので、全て倒せたという確信を持つまで別荘内で待つ。
別荘の中は生活していた様子が残ってる。
テーブルの上には皿とカップ。
「残ってないかなぁ?」
籠の中から甘い香りが漂い、黒い夢の空腹を誘う。菓子がどの程度入っていたか不明だが、からっぽだ。
「そもそも、歪虚の食べていたものでしょ」
セリスは飽きれるし、逃がしたため余計に腹も立つ。
「話ができる歪虚なら、共存の道とかも探せるんじゃないかなぁ」
先程の会話を思い出したナタナエルの言葉に、セリスがあきれる。
「歪虚は殲滅すべし!」
「あいつ、人間殺すのためらいないし……」
レイオスのつぶやきにリューとエリスがうなずく。
「違和感あるんだけど……まずはここ、皿とカップの置き方」
エリスは眉を顰め指さした。
置き去りというより、使った後に片づける為まとめたという様子だ。椅子もきちんとしまわれていた。
「元人間で貴族? ん? 貴族だと自分で片づけないか?」
リューは苦笑する。
「育ち方だと思います」
歌乃の言葉に、リューはなるほどとうなずいた。
ハンターたちは待っていたが、日が照る時間になっても雑魔が戻ってくることもなかった。無事、仕事は解決したとして報告することになるが、二体の歪虚の行方は不明と告げるしかなかった。
湿気がまとわりつき、肌寒さもある夜。ハンターたちは雑魔を退治すべく村に集った。
別荘に続く道の前にかがり火をいくつか作り置いて、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は別荘がある方を見上げる。
「上位の相手がいると下手に別荘を襲撃するより、迎え撃って少しでも敵の数を減らすしかないかな」
村人が別荘で見たという人影は、辺境で遭遇した歪虚の少年の容姿を表している。似ている人物か、本人かは分からない。まずやることは雑魔退治だ。
道から外れた所に鳴子を設置した織宮 歌乃(ka4761)は、地形を把握しつつ戻ってきた。
「夜に奏でましょう、爪牙と剣閃の調べを……雑魔には鎮魂の調べを」
歌乃は歌うようなつぶやきと共に、武器に手をかけ、その時が来るのを待つ。柔和な雰囲気がきりと引き締まる。
「雑魔をペットか……共存出来る存在だとは思ってなかったんだけど、僕が知らなかっただけで共存も出来る物なのかな?」
ナタナエル(ka3884)のつぶやきを引き取るように、黒の夢(ka0187)が穏やかに楽しそうに告げる。
「今回の依頼の目標はペット化した雑魔をもふる……」
それらの聞いたセリス・アルマーズ(ka1079)がもどかしさからカッと目を見開く。
「そこの二人! 何を言うのやら! そんなの無理でしょ!」
セリスは雑魔について説明し、エクラの教えについて滔々と述べる。
適度に緊張もほぐれる会話を聞きながら、リュー・グランフェスト(ka2419)は笑うが、依頼内容には溜息が出る。
(なんか、躾をしない飼い主をもった犬が暴れちゃったとかみたいな感じの依頼だな……とはいえ死者も出てるし、放ってはおけねえな)
エリス・ブーリャ(ka3419)は近くの屋根の上に待機して、仲間たちの会話を楽しそうに聞く。
(襲われた人に非があるかどうかも気になるけど、ペットの問題は飼い主の責任だよねー)
本当に雑魔か否かも分かっていないが推定雑魔だ。ペットか否かも曖昧だが、殲滅するべき対象であるのは間違いない。
カラ、カラ、カラ、カラ、カラ、カラ……。
鳴子の音がかすかに響く。
ハンターたちは建物の影に隠れ様子をうかがう。
道や木々の隙間から、狼にしては大きく奇妙な影がやってくる。続いて、より大きく、後ろ足で立つことができる影がやってくる。
明かりがついていることで躊躇して暗がりから回り込んで村に入ってくるようだ。
「ふわぁぁっ……もふもふいっぱい可愛いな……!」
黒い夢の歓声にハンター側も雑魔側も一旦動きが止まる。
「毛並みだけならまるで飼い犬だ……が……」
レイオスは観察して変な考えを吹き飛ばすように首を横に振る。どう見ても雑魔であるのだから排除対象だ。
「バンダナついているし、野良じゃないってカンジぃ?」
エリスは答えながら、銃の引き金を絞った。
「なんであろうが、歪虚は浄化され、この世に一片も残してはいけない!」
セリスがきっぱりと言う。近づいてくる雑魔にホーリーライトを放つが、転がるように避けられた。
「なんてことなのっ!」
雑魔はセリスの歪虚殲滅熱に油を注いだ。
「そら、こっちだ!」
ワイヤーウィップを振るい、リューは雑魔たちの意識を引き付ける。
「そうだね……雑魔を退治しないと」
仲間の会話に気を取られていたが、雑魔たちを迎え撃つためにナタナエルは覚醒状態になる。仮面で顔を覆い、表情を隠すと、用意したナイフを雑魔に投げる。
「あら……調子がおかしいですわ」
歌乃はスキルを使用するためにマテリアルを活性化させようとするが、何かかみ合わなかった。悩んでも仕方がなく、今は仲間と共に一体でも雑魔を消すことに集中した。
近寄ってきた雑魔たちへのリューの薙ぎ払いは、それらを一か所に足止めにした。続いたレイオスが払った刃に当たり、三匹が霧散する。
黒い夢には狼雑魔を愛撫したい欲求が、相手は生を食らうことしか考えていない。仲間の位置を確認し、スリープクラウドを掛ける。倒れた雑魔を抱きしめた。
触れられてすぐに雑魔は動く。
「まだ攻撃しないでほしいのなっ……!」
無理な相談で、黒い夢がバンダナにリボンを巻きつけたときには猛攻を始める。
「何やってんのかなぁ!」
エリスは黒い夢の行動を見て、援護するように射撃する。
ナタナエルが黒い夢を襲っていた雑魔を攻撃し、歌乃が素早く寄ってとどめを刺した。
熊雑魔はセリスとリューに向かってきた。軽々と二人は避け、それぞれ攻撃に転じる。
この二人が熊雑魔と戦っている間に、レイオスたちはこまごまと移動する狼雑魔と戦う。
「次から次へとキリがないな」
ナタナエルのつぶやきに歌乃は同意する。一体ずつ、確実に仕留めているので希望はある。
雑魔たちは必死に敵をつぶそうと牙をむく。
「これで終わり」
「神よ、感謝しますっ」
リューとセリスがそれぞれ熊の雑魔を退治する。
「よしっ」
「こんな物でしょ!」
レイオスとエリスは周りを見て雑魔がいないことと確認する。
「これで終わりか?」
「そのようです」
ナタナエルの淡々した言葉にかすかな安堵がにじみ、歌乃もほっとして太刀を鞘に戻した。
村での戦いが行われていたころ、別荘では眉を寄せて耳をそばだてるプエルがいた。
「……なんか音しない?」
窓を開けて首をかしげる。
「プエル様、ここにいらっしゃってどのくらいですか?」
「う、うーん、きちんと覚えてないけど、怪我治ってからいたよ」
エクエスは溜息をついた。
「撤収の準備をしましょう」
エクエスは説明をし、走りだそうとするプエルを抑えて、出る準備をさせた。ジャケットと大剣、雨が心配なので雨具……。
「片づけないと」
プエルは皿やカップをまとめ、椅子を直した。人形を棚に戻し出発する。
雑魔が倒れると、無事だったバンダナが残る。
レイオスはためしに一つ手にしてみる。入手経路が分かるかなという期待があるが、大きな町であれば売っていそうな品だ。
「雑魔だし、やっぱり歪虚のペットかに? マテリアルの都合上、人間が飼いならせないし」
民家の屋根の上から下りて、エリスは首をひねる。
「依頼では別荘に誰かいると言うけど……」
話に聞く特徴はレイオス、エリス、リューは見たことのある歪虚である。
「でも、同じとは限らないし」
リューは力なく笑う。攻撃を受けた痛みはお互い様だろうし、もしもの場合前回と同じで行けると考える。
「何にせよ、歪虚は薙ぎ払うだけでしょ」
セリスも情報から連戦になった場合はきついとは理解しているが、エクラの下に歪虚はないのだ。
「ああ、もふっ……おなかすいたのだ……」
黒い夢のつぶやきに一部溜息がもれる。彼女のように何でも愛せれば、争いはないにちがいない。
歌乃はバンダナを拾いあげる。そこにある思いを読み取ろうとするように触れる。所有物で大切だから印をつけただろうから。
「大丈夫? 怪我は?」
押し黙った歌乃を心配してナタナエルが声を掛ける。応急手当の道具をみせて。
「いえ、怪我はたいしたことありません」
寂しげに微笑む。すりむいた等あっても大したことはない。
「別荘の確認、日が昇り切ってから……にしないか?」
「俺としては一度は見ておいた方がいい気がする」
レイオスはリューの提案に反論する。
「両方いいんじゃないの?」
エリスのまとめに誰も異論はなかった、確実性を考えると。
●薄い明かりの朝
「な、なんで!」
キンとした少年の声響く。声の方を見るとポンチョ型の雨具を羽織った小柄な影が立っている。フードを目深にかぶっており顔は見えないが、雰囲気は怒っていると告げる。
その後ろには控えるように銀髪の青年がおり、ハンターを見て「おや」と考え深そうな声を漏らした。
別荘にいる不審者が歪虚である推測は立っていたのでハンターとしては大きくはおどろかない。そして、接したことがある者は、彼らが災厄の十三魔レチタティーヴォ配下であるプエルとエクエスと知る。辺境を離れた後、ここに来たこととなる。
ハンターたちが体勢を整える前に少年プエルは動く。矢を引き抜き弓を射る動作を取っていた。
闇の色の、揺らめく弓と矢がプエルの手に握られている。
魔法だ。
これまでの戦いでは何か小細工はしていたこともあったが、はっきりと目に見える魔法を使う行動はとっていなかった。
「あのっ、聞いてくださいっ!」
歌乃は声を上げ、前に出ようとした。
「許せない」
低いつぶやきと共に矢は放たれ、歌乃に向かう。
反応できない歌乃をかばうようにセリスが動く。セリスに当たった瞬間、矢ははじけて消えた。
「きゃあ」
歌乃は小さい悲鳴を上げた。
「なんで前に出たのっ!」
セリスは歌乃をしかりつけ、盾を構えてプエルに向く。受けたから分かる威力、それと効果。セリスに当たった後、矢に込められた力ははじけ飛んだ。かばったが、歌乃にも小さい欠片がぶつかっているはずだ。つまり、標的と周りに影響が出る。
「またお前かよ! ペットの管理もできねえのか! この馬鹿!」
リューはプエルの意識を引くように、武器を構えながら声を上げる。プエルが煽られるのに弱いということは以前遭遇した時に察している。
「大事なペットなら檻の中に入れやがれってんだ」
レイオスは苦々しく言いながら、武器を構える。
「そうそう……ああ、別荘にいたのあんたら? なら、消毒しないと駄目よねぇ」
エリスは銃を構えあざ笑う。
「こんなところで何をしているの?」
ナタナエルの質問に、プエルが眉を中心に寄せる。
「ねーねー、汝ら此処で一足早いナツヤスミしてるの? 甘いにおいがするね、お腹空いたからおやつくださいなの」
黒い夢ののんびりとした質問が飛んだ。
再び魔法の弓を構えたが、プエルは硬直した。
エクエスはクツクツと笑う。
「いやはや……随分と明るいかたですねぇ。そちらの方とは実に対照的」
セリスを指さす。
セリスは仲間が彼らから何か聞きたいならと黙って盾を構え様子をうかがう。臨戦態勢は解くことはない。
「貴様たちの質問の意味が分からない」
プエルは吐き捨てた。
「プエル様はご存じないでしょうが、夏休みとは……」
「そんなことどうでもいい!」
「……ですよね」
「お前、余をからかうために言っただろう!」
沈黙が訪れる。
接敵すべきか、飛び道具ですぐに攻撃するか。双方が探り合い。ハンターたちはすでに雑魔たちとの戦いがあったため、疲労がある。歪虚を殲滅する意志はあっても、今は無謀とも感じている。
「世話する相手を増やして何するつもりだ、優男っ!」
何故、雑魔を飼っていたのか聞きたいが、正面切って問うて答えるかは不明だ。レイオスの挑発めいた質問に、エクエスは苦笑しつつプエルをちらりと見る。
「優男? くすっ、プエル様の事ではないでしょうね。褒められたということで、応えましょうか。雑魔たちはプエル様がご自身で……」
「余の手足となって動いてもらいたくて……。それにしても、弱い……弱すぎる」
「プエル様、雑魔から育てようとしたら結構大変ですよ? おとなしく、一度戻られて協力して下さる方を連れてきた方が良いかと。プエル様を守ってくれる人はおりますよ。それに……」
エクエスはプエルが聞いていないと察して、何か言いかけてやめる。
ぶすっとしているプエルは誰に向かって魔法を放てばいいのか思案している。
「あの……大事にされていたモノなら、墓と主からの鎮魂歌が慰めでしょう」
近付き、戦意がないこと示すのをあきらめ、歌乃は声を掛けた。
「歌うならば、囀る小鳥ならば、それ相応の舞台で……と私は思いますが」
すっと目を細めたプエルから暗い笑いが漏れる。
「墓? 鎮魂歌? そんなものが何の役に立つ? すべては無に帰すというのに、形が残ったところでどうなる? 何を勘違いしているんだ! 舞台? ふふっ、相応とは何を指す? 歌はどこでも歌える、小鳥であれば森の中か? 争いは戦場が舞台、ここで起こることも何かの舞台だとは考えないのか? そして、ここが君の墓となるとも?」
プエルが魔法を放つが、用心していたセリスが防ぎきる。
レイオス、リューが接敵しようとするが、間にいるエクエスが入って受ける。
セリスのホーリーライトが飛んできており、プエルがむっとして回避している。
「撤退しますよ! あなた、武器は抜けないでしょう!」
「お前が着せたんだろう!」
プエルはポンチョ型の雨具の下から大剣を引き抜けず、いらだちの声を上げる。
「『舞台』のこともございましょう? プエル様はいかがするのです?」
ぎくりとハンターたちの動きも止まる。
先の大きな戦いでプエルの主たる上位の歪虚が告げた「次の舞台」という言葉を耳にしている。
「さて、行きましょう?」
力が緩んだ隙に、エクエスは武器を流して間を抜けていく。
「逃がさないよ」
エリスの銃とナタナエルの投げナイフがプエルを狙う。狙いは合っていたが紙一重で回避される。
「人間は楽しいから、もう少し……観させてもらおうかな」
プエルは楽しそうに言い、お辞儀を一つして立ち去った。
肌一つ見えない姿であるためか、ただの人間の少年のように見えて奇妙であった。人間のように見えても、言葉は歪虚のものである。
●別荘には?
馬屋には何も残っていない。雑魔は戻ってくるかもしれないので、全て倒せたという確信を持つまで別荘内で待つ。
別荘の中は生活していた様子が残ってる。
テーブルの上には皿とカップ。
「残ってないかなぁ?」
籠の中から甘い香りが漂い、黒い夢の空腹を誘う。菓子がどの程度入っていたか不明だが、からっぽだ。
「そもそも、歪虚の食べていたものでしょ」
セリスは飽きれるし、逃がしたため余計に腹も立つ。
「話ができる歪虚なら、共存の道とかも探せるんじゃないかなぁ」
先程の会話を思い出したナタナエルの言葉に、セリスがあきれる。
「歪虚は殲滅すべし!」
「あいつ、人間殺すのためらいないし……」
レイオスのつぶやきにリューとエリスがうなずく。
「違和感あるんだけど……まずはここ、皿とカップの置き方」
エリスは眉を顰め指さした。
置き去りというより、使った後に片づける為まとめたという様子だ。椅子もきちんとしまわれていた。
「元人間で貴族? ん? 貴族だと自分で片づけないか?」
リューは苦笑する。
「育ち方だと思います」
歌乃の言葉に、リューはなるほどとうなずいた。
ハンターたちは待っていたが、日が照る時間になっても雑魔が戻ってくることもなかった。無事、仕事は解決したとして報告することになるが、二体の歪虚の行方は不明と告げるしかなかった。
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れっつもふもふ?【相談卓】 黒の夢(ka0187) エルフ|26才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/06/02 19:56:51 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/31 12:12:07 |