ゲスト
(ka0000)
雨が止む前に
マスター:からた狐

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~20人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/31 15:00
- 完成日
- 2015/06/10 22:09
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
この所雨続きで、猟師といえども長く外を歩くのはためらわれた。
とはいえ、狩るのが仕事。干し肉や加工品もあるし、そもそも貯蓄も少しはある。それでも限界は来る。
そろそろ何か獲物を狩っておかないと、生活を窮するかもしれない。
(面倒だな)
そう考えながらも、猟師は雨が続く中を森に入った。
雨が止む気配はない。この調子ではほとんどの動物が雨を避けて隠れているはず。
住処が見つかれば乗り込んで仕留められも出来ようが、その手がかりすらこの雨で消えてしまっている。
しぶしぶ家を出たものの、状況は芳しくない。
「仕方がない。薬草でも探して売り込んでみるか」
あっさり狩猟をあきらめ、小金稼ぎに変更しようを決める。
だが。
「うん。どうした?」
周囲を探っていた相棒の猟犬が、明らかに主人を誘っている。むやみに音を立てないのは、獲物が近くにいるからだ。
運が向いたか、と胸を躍らせたが。猟犬の動きは獲物を見つけた動きとも異なっていた。
「よしよし。どうした?」
小声で犬をなだめつつ、猟師は身を隠しながら周囲を探っていた。
原因は程無く分かった。
手入れされていない森の木々と、振り続ける雨の向こうで、なにやら動く影がある。
最初は大型の猿かと思った。しかし、さらに目を凝らし、違うと分かる。ぼろとはいえ防具を着込み武具を手にする猿などいない。
雨音と風に消えそうになりながら、何かを話すような声も聞こえてくる。
倒れた巨木の陰で、ゴブリンたちが片寄せ合って雨をしのいでいた。
数は八体。どうやら濡れるのが嫌なゴブリンがいるらしく、雨が止むまで仲間も付き合ってそこを動く気は無いようだ。
だが、雨が止めば。
奴らは動き出すだろう。自分たちの欲求を晴らす為に、近くの人里へと。
入り込んだ後、何をするつもりか。非友好的なことだけは確かだ。
「ギャア! ウギャグ!!」
不意に、一体のゴブリンが大声を上げた。鼻をひくつかせ、周囲を周到に嗅ぎまわる。ひどく警戒している。
他のゴブリンたちもつられたように、周囲に目を向け鼻で嗅ぎまわっている。こちらは一匹が騒いだので念の為、という感じだ。
だが、長居は無用だ。
気付かれない内に、猟犬を伴い猟師はその場を去った。痕跡を残さないよう慎重に。けれどもう一度戻れるよう密かに目印を残して。
森を出ると、その足でハンターオフィスへと駆け込み、事情を説明する。
●
ハンターオフィスでは、今日もハンターたちが集まる。
「ハンターの皆様に討伐依頼です。とある地方の森の中、八体のゴブリンがうろついているようです。
現在は、雨を避けて森の奥で潜伏中のようです。ですが、彼らが人里に向かうなら、けして良い結末にはならないでしょう。今の内に、奴らを仕留め、脅威をはらってください」
並み居るハンターを前にして、淡々と受付係が事務的に説明を始めた。
「現場は単なる森。手入れはされてないので、適当に生えている木々が戦闘の邪魔になるかもしれませんが、そのくらい皆様なら十分対応なさるでしょう。
また、現地ではこの時期の雨は続くそうで、おそらく討伐日も雨と予想されます。武器の使用には問題ないと思われますが、足元はぬかるみ滑る可能性もございます。また、ゴブリン討伐は成功したけれど夏風邪をひいたなどという間抜けな事態にもならないようご注意下さい」
では御武運を。
とはいえ、狩るのが仕事。干し肉や加工品もあるし、そもそも貯蓄も少しはある。それでも限界は来る。
そろそろ何か獲物を狩っておかないと、生活を窮するかもしれない。
(面倒だな)
そう考えながらも、猟師は雨が続く中を森に入った。
雨が止む気配はない。この調子ではほとんどの動物が雨を避けて隠れているはず。
住処が見つかれば乗り込んで仕留められも出来ようが、その手がかりすらこの雨で消えてしまっている。
しぶしぶ家を出たものの、状況は芳しくない。
「仕方がない。薬草でも探して売り込んでみるか」
あっさり狩猟をあきらめ、小金稼ぎに変更しようを決める。
だが。
「うん。どうした?」
周囲を探っていた相棒の猟犬が、明らかに主人を誘っている。むやみに音を立てないのは、獲物が近くにいるからだ。
運が向いたか、と胸を躍らせたが。猟犬の動きは獲物を見つけた動きとも異なっていた。
「よしよし。どうした?」
小声で犬をなだめつつ、猟師は身を隠しながら周囲を探っていた。
原因は程無く分かった。
手入れされていない森の木々と、振り続ける雨の向こうで、なにやら動く影がある。
最初は大型の猿かと思った。しかし、さらに目を凝らし、違うと分かる。ぼろとはいえ防具を着込み武具を手にする猿などいない。
雨音と風に消えそうになりながら、何かを話すような声も聞こえてくる。
倒れた巨木の陰で、ゴブリンたちが片寄せ合って雨をしのいでいた。
数は八体。どうやら濡れるのが嫌なゴブリンがいるらしく、雨が止むまで仲間も付き合ってそこを動く気は無いようだ。
だが、雨が止めば。
奴らは動き出すだろう。自分たちの欲求を晴らす為に、近くの人里へと。
入り込んだ後、何をするつもりか。非友好的なことだけは確かだ。
「ギャア! ウギャグ!!」
不意に、一体のゴブリンが大声を上げた。鼻をひくつかせ、周囲を周到に嗅ぎまわる。ひどく警戒している。
他のゴブリンたちもつられたように、周囲に目を向け鼻で嗅ぎまわっている。こちらは一匹が騒いだので念の為、という感じだ。
だが、長居は無用だ。
気付かれない内に、猟犬を伴い猟師はその場を去った。痕跡を残さないよう慎重に。けれどもう一度戻れるよう密かに目印を残して。
森を出ると、その足でハンターオフィスへと駆け込み、事情を説明する。
●
ハンターオフィスでは、今日もハンターたちが集まる。
「ハンターの皆様に討伐依頼です。とある地方の森の中、八体のゴブリンがうろついているようです。
現在は、雨を避けて森の奥で潜伏中のようです。ですが、彼らが人里に向かうなら、けして良い結末にはならないでしょう。今の内に、奴らを仕留め、脅威をはらってください」
並み居るハンターを前にして、淡々と受付係が事務的に説明を始めた。
「現場は単なる森。手入れはされてないので、適当に生えている木々が戦闘の邪魔になるかもしれませんが、そのくらい皆様なら十分対応なさるでしょう。
また、現地ではこの時期の雨は続くそうで、おそらく討伐日も雨と予想されます。武器の使用には問題ないと思われますが、足元はぬかるみ滑る可能性もございます。また、ゴブリン討伐は成功したけれど夏風邪をひいたなどという間抜けな事態にもならないようご注意下さい」
では御武運を。
リプレイ本文
雨が止まない。
「あんまり濡れたくないんだが仕方ないか」
湿った銀髪をかき上げ、ジュン・トウガ(ka2966)は空を見上げた。森の木を通してどこまでも厚い雨雲が見える。雷の気配がないだけマシ、と言えよう。
事前に天候は悪いとは忠告されていたが。本当にゴブリンたちがいる森に近付いても晴れる気配がない。ぬかるんだ土を踏みしめて、集まった七名のハンターたちは森の奥へと踏み込んでいた。
「雨で視界が悪いねー。びしょびしょになるし……」
ハンターオフィスから受けた初の依頼。と、張り切っていたツヅリ・キヨスミ(ka5023)だったが、さすがにこの天候ではテンションも下がってくる。
「でも、絵本の魔法使いみたいになれるようにがんばるよー!」
雨水を振り払うように、体を震わせ、気合を入れ直すツヅリ。
「本当によく降りますね。けど、おかげで彼らが人里を襲撃する前に発見できたのは本当に運が良かったです」
雨は厄介だが、同時にメトロノーム・ソングライト(ka1267)は感謝もしていた。
ゴブリンたちが雨宿りをしていなければ、もっと早くどこかの人里が襲われていただろう。それを阻止できたばかりか、猟師たちの幸運もあり、こちらがこうして先手を打つことが出来る。
「視界が悪いか……。だがそれは敵にとっても同じだな。気付かれていない分、むしろこちらが有利かもしれぬ」
ユルゲンス・クリューガー(ka2335)が重々しく告げる。
「だといいがね。どうやら、そいつみたいに妙に鼻の利く奴もいるようだし、油断は禁物って奴かもな」
ヤナギ・エリューナク(ka0265)がゴールデン・レトリバーを指す。メトロノームの愛犬・プリンだ。
目印に頼り切らず、何かあればすぐに気付けるようにと、連れて来ていた。その職務を果たすべく、何やら周囲を頻繁に嗅ぎまわっている。けれど、本当に危険な場所までは踏み込ませられない。
「プリン、あなたはここまで。一旦安全な所で待ってて下さい」
メトロノームは愛犬が吠えないよう指示を出す。
ハンターたちはより一層注意深く目印を辿る。やがて、その目印が切れた。
そこから見える風景。倒れた巨木の陰に、ゴブリンたちが集まっている。数は八。間違いない。
「ガルルル」
突然。一匹のゴブリンが不機嫌に唸り始めたのを見て、ハンターたちは一旦その場から離れた。
幸いそれ以上、騒がれる気配はない。
かといって、そのままぐずぐずしている余裕も意味も無く。ヒースクリフ(ka1686)が淡々と、事前の作戦を確認する。
「正面と背後から仕掛けて挟み撃ちにする。ヤナギは……」
「横から回らせてもらおうか。前後だけでなく、周囲を固めていると思わせよう」
斜に構えて答えるヤナギに、異を唱える者も無い。
「……いつまでも雨に当たったままだと風邪をひいてしまうかもしれないの。スピーディーに退治を行うの」
ファリス(ka2853)が腕を振ると、ぶかぶかなトレンチコートから水しぶきが飛ぶ。
雨は全く止む気配が無い。
その雨に紛れるように、ハンターたちは各々で移動を開始していた。
●
メトロノームとユルゲンス、ジュンが一つの組となって動く。
ゴブリンに気付かれたかと気になっていたが、改めて現場を覗いても特に変化はない。あの騒いだゴブリンも、今は他のゴブリンたちと一緒になって苛立たしそうに空を見つめていた。
ユルゲンスが剣を抜くと、合図を送る。残るヒースクリフとツヅリとファリスが反対の位置に陣取り、待っているはずだ。
まず動いたのはメトロノームだった。覚醒状態となり、外見にも変化が生じる。背の一対の水晶翼は幻影とはいえ、今見られるのもまずい。
慎重に目につかぬ位置に着くと、優しく眠りに誘うような調べに乗せて、スリープクラウドを使う。透き通った水晶のように変化した青い髪も旋律を儚げに響かせているが、雨音が掻き消す。
青白い雲状のガスも一瞬広がっただけ。森に靄がかかるのは珍しくない。警戒する素振りもなく、――あるいはその暇も無く、ゴブリンたちは力無く横たわった。
「雨宿りのために一塊になっていたのは、こちらにとっても幸いでしたね」
眠った相手に、潜むことは無い。
攻めの構えをとっていたユルゲンスは、そのまま強く踏み込む。抜かれた剣は単なる帝国軍正式採用剣だが、炎がたなびいたように見えるのはメトロノームがファイアエンチャントをかけたからだ。
一気に間合いを詰めると、その勢いのままに剣を振り下ろす。
ジュンも炎を付与されたナックル「ヴァリアブル・デバイド」を握りしめると、手近なゴブリンに殴り掛かる。
眠りの内に、瞬く間に二体が葬られる。
しかし。
さすがに、不穏な気配に気付いたか。残るゴブリンたちが目覚め始めた。
「グウウ……ウギャ! ウギャアアア!」
寝ぼけ目で間近な人影に気付くや、すぐに口騒がしく喚き、うろたえる。
差し迫った敵から逃れようと近くの仲間を踏みつけると、踏まれたゴブリンがまた跳ね起き、騒ぐ。
「殴るだけ殴って、さっさと潰すか」
猫のような耳が生え、息も荒く。たくましくなった拳を固めて、ジュンは次の一手を放とうとする。
けど、何の助けか。狙ったゴブリンはとっさに木の陰に身を隠し、難を逃れた。ジュンの手は幹を大きくへこませたが、ゴブリンは無事。
危機を免れたゴブリンは息つく暇なく、さっさと逃亡への道を決め込んだ。
とっさに目がそちらを追った。その動きと合わせたように、別のゴブリンが棍棒を叩きこんでくる。
騒がず、ジュンは棍棒を腕で受け止める。さすがに骨まで響く痛みが来たが、覚悟してやったこと。受け流すと、もう一方の手で相手の顔面を殴りつけていた。
「本で読んだクラヴマガの基本って簡単なんだな。本当に反射で出来る」
さらには棍棒を巻き込むようにつかみ、もう一発。
元々の器量も相まって、見事に決まる。
不意の襲撃に、残るゴブリンたちはまず逃げることを決めた。
各自バラバラに散りかけたのを阻んだのは、物々しい銃声だった。
「さぁて、何処から仕掛けられるか……お前ェらはこの恐怖、感じられっかねェ?」
樹の上から、ヤナギがジャンクガンで狙いをつけている。存在に気付いたゴブリンたちは当然そちらを避ける。木陰に隠れながら、必死に逃げ道を模索している。
ヤナギとしては樹上を渡って回り込みたかったが、覚醒したハンターといえどそれは簡単な動作ではない。
まして雨の中。足を滑らせて痛い思いをする必要も無いと、彼らの行く手に弾を打ち込み、脅すに留める。
ジュンがアックスブレード「ツヴァイシュトースツァーン」に持ち替え、斧として無造作に振り回す。
鼻歌交えて辺りの木を粉砕しながら、ゴブリンたちに迫る。勿論、刃が当たれば運命は枝葉と同じになる。
ゴブリンの一匹がとっさに石を投げてきた。さすがに当たるのはまずいと、ジュンは木に身を寄せてやり過ごす。
その間にゴブリンたちはさらに逃げた。けれど、そこに立ちふさがったのが、背後に潜んでいた三名のハンターだ。
真正面から現れたハンターたちに、ゴブリンたちは恐怖に顔をゆがませた。その顔をしっかりと見据え、六枚羽を広げた天使がファイアーボールを放つ。
「……此処からは一匹も逃さないの!」
ファリスの放った火球はゴブリンに直撃した。そこから派手な衝撃が周囲にも広がり、ゴブリンたちは吹き飛ぶ。
「全員で囲め! 一体も逃がすな! 敵は浮足立っている」
叫ぶヒースクリフの背後にはロボットの幻影が出現。ファイアスローワーによる炎の力が、さらにゴブリンの群れに浴びせられる。
炎を纏ったツヅリからも燃える炎の矢が放たれる。
「私の得意な火だよ! 燃えちゃえー!」
類焼はしないが、その力は間違いなくゴブリンの命を掻き消す。
完全に周囲を囲まれたとゴブリンたちは悟った。どうしたものかと、ゴブリンたちはハンターたちを見渡して、うろたえていたが。
「ウ、ギイイ!」
もはや自力で退路を作るしかない。覚悟を決めると、ゴブリンたちは棍棒を構えて殺気だった。
死に物狂いの攻撃は、普段以上の実力を見せ、武器をうならせている。
けれども、必死になった所で実力の差は明白だった。
「キャアア!」
横降りに振られた棍棒を、ユルゲンスはハンドアックスを盾代わりに用いて防ぐ。
間近に立ったゴブリンを思い切り蹴りつけると、相手は軽々と吹き飛び、地に転がった。
「終わりか? ならばこちらの番だ」
泥まみれのゴブリンに、大きく武器を振り回す。とっさに相手も棍棒で防ごうとしたが、その程度では勢いも削げない。力に任せて態勢が崩れた所へ、さらなる攻撃が息を止めるまでゴブリンへと入っていた。
距離を置いては、ツヅリのファイアアロー、ファリスのウィンドスラッシュがゴブリンたちを捕まえる。
フラフラになったゴブリンに、ヒースクリフが試作光斬刀「MURASAMEブレイド」を叩きこむ。
「私からの手向けだ。受け取れ!」
超重練成でマテリアルを流し込まれ、巨大になった光はゴブリンを両断する。
メトロノームも魔法による支援を続ける他、魔導拳銃「エア・スティーラー」での直接の援護を行う。
「グウウ!」
万策尽きて追いつめられたゴブリンが、樹を背にして苛立たしげに地上のハンターたちを睨む。
それがどういう奴だったか、最早分からないし、分からなくてもいい。
「おいおい。頭ががら空きだ。忘れてもらっちゃ困るぜ」
ヤナギがユナイテッド・ドライブ・ソードを手にすると、樹から飛び降りる。
構えるや否やのスラッシュエッジ。
不意を突かれ、精錬された動きで迫られ。ゴブリン風情には避けようがなく、その刃を身に受ける。
●
「かばうまでも無かったな」
戦闘はあっという間。
さしたる怪我も無い仲間たちを見て、ユルゲンスは端的に思う。いざとなれば、鋼の鎧で盾になる気骨はあったが、今回は無用の心配だったようだ。
ゴブリンたちは朽ちるに任せ、早々とハンターたちは森を出る。
待機していたプリンも合流。駆け寄って来た愛犬を、メトロノームは笑顔で迎える。
「うー、びしょびしょ……。早く帰ってお風呂入りたい……」
「……ずっと、雨に当たって身体が冷えたの。暖かいお茶とかで身体を温めるべきだと、ファリス、思うの」
派手に動き回れば、どうしても濡れる。あちこち泥はねも見つけて、ツヅリとしては洗濯も心配。
ファリスがお茶に誘うも、やはりまずは風呂かもしれない。
変わらず雨は降り続けている。
けれど、雨はその内あがるもの。やがて姿を見せる太陽を、周囲の住人は何の心配も無く迎えられるだろう。
「あんまり濡れたくないんだが仕方ないか」
湿った銀髪をかき上げ、ジュン・トウガ(ka2966)は空を見上げた。森の木を通してどこまでも厚い雨雲が見える。雷の気配がないだけマシ、と言えよう。
事前に天候は悪いとは忠告されていたが。本当にゴブリンたちがいる森に近付いても晴れる気配がない。ぬかるんだ土を踏みしめて、集まった七名のハンターたちは森の奥へと踏み込んでいた。
「雨で視界が悪いねー。びしょびしょになるし……」
ハンターオフィスから受けた初の依頼。と、張り切っていたツヅリ・キヨスミ(ka5023)だったが、さすがにこの天候ではテンションも下がってくる。
「でも、絵本の魔法使いみたいになれるようにがんばるよー!」
雨水を振り払うように、体を震わせ、気合を入れ直すツヅリ。
「本当によく降りますね。けど、おかげで彼らが人里を襲撃する前に発見できたのは本当に運が良かったです」
雨は厄介だが、同時にメトロノーム・ソングライト(ka1267)は感謝もしていた。
ゴブリンたちが雨宿りをしていなければ、もっと早くどこかの人里が襲われていただろう。それを阻止できたばかりか、猟師たちの幸運もあり、こちらがこうして先手を打つことが出来る。
「視界が悪いか……。だがそれは敵にとっても同じだな。気付かれていない分、むしろこちらが有利かもしれぬ」
ユルゲンス・クリューガー(ka2335)が重々しく告げる。
「だといいがね。どうやら、そいつみたいに妙に鼻の利く奴もいるようだし、油断は禁物って奴かもな」
ヤナギ・エリューナク(ka0265)がゴールデン・レトリバーを指す。メトロノームの愛犬・プリンだ。
目印に頼り切らず、何かあればすぐに気付けるようにと、連れて来ていた。その職務を果たすべく、何やら周囲を頻繁に嗅ぎまわっている。けれど、本当に危険な場所までは踏み込ませられない。
「プリン、あなたはここまで。一旦安全な所で待ってて下さい」
メトロノームは愛犬が吠えないよう指示を出す。
ハンターたちはより一層注意深く目印を辿る。やがて、その目印が切れた。
そこから見える風景。倒れた巨木の陰に、ゴブリンたちが集まっている。数は八。間違いない。
「ガルルル」
突然。一匹のゴブリンが不機嫌に唸り始めたのを見て、ハンターたちは一旦その場から離れた。
幸いそれ以上、騒がれる気配はない。
かといって、そのままぐずぐずしている余裕も意味も無く。ヒースクリフ(ka1686)が淡々と、事前の作戦を確認する。
「正面と背後から仕掛けて挟み撃ちにする。ヤナギは……」
「横から回らせてもらおうか。前後だけでなく、周囲を固めていると思わせよう」
斜に構えて答えるヤナギに、異を唱える者も無い。
「……いつまでも雨に当たったままだと風邪をひいてしまうかもしれないの。スピーディーに退治を行うの」
ファリス(ka2853)が腕を振ると、ぶかぶかなトレンチコートから水しぶきが飛ぶ。
雨は全く止む気配が無い。
その雨に紛れるように、ハンターたちは各々で移動を開始していた。
●
メトロノームとユルゲンス、ジュンが一つの組となって動く。
ゴブリンに気付かれたかと気になっていたが、改めて現場を覗いても特に変化はない。あの騒いだゴブリンも、今は他のゴブリンたちと一緒になって苛立たしそうに空を見つめていた。
ユルゲンスが剣を抜くと、合図を送る。残るヒースクリフとツヅリとファリスが反対の位置に陣取り、待っているはずだ。
まず動いたのはメトロノームだった。覚醒状態となり、外見にも変化が生じる。背の一対の水晶翼は幻影とはいえ、今見られるのもまずい。
慎重に目につかぬ位置に着くと、優しく眠りに誘うような調べに乗せて、スリープクラウドを使う。透き通った水晶のように変化した青い髪も旋律を儚げに響かせているが、雨音が掻き消す。
青白い雲状のガスも一瞬広がっただけ。森に靄がかかるのは珍しくない。警戒する素振りもなく、――あるいはその暇も無く、ゴブリンたちは力無く横たわった。
「雨宿りのために一塊になっていたのは、こちらにとっても幸いでしたね」
眠った相手に、潜むことは無い。
攻めの構えをとっていたユルゲンスは、そのまま強く踏み込む。抜かれた剣は単なる帝国軍正式採用剣だが、炎がたなびいたように見えるのはメトロノームがファイアエンチャントをかけたからだ。
一気に間合いを詰めると、その勢いのままに剣を振り下ろす。
ジュンも炎を付与されたナックル「ヴァリアブル・デバイド」を握りしめると、手近なゴブリンに殴り掛かる。
眠りの内に、瞬く間に二体が葬られる。
しかし。
さすがに、不穏な気配に気付いたか。残るゴブリンたちが目覚め始めた。
「グウウ……ウギャ! ウギャアアア!」
寝ぼけ目で間近な人影に気付くや、すぐに口騒がしく喚き、うろたえる。
差し迫った敵から逃れようと近くの仲間を踏みつけると、踏まれたゴブリンがまた跳ね起き、騒ぐ。
「殴るだけ殴って、さっさと潰すか」
猫のような耳が生え、息も荒く。たくましくなった拳を固めて、ジュンは次の一手を放とうとする。
けど、何の助けか。狙ったゴブリンはとっさに木の陰に身を隠し、難を逃れた。ジュンの手は幹を大きくへこませたが、ゴブリンは無事。
危機を免れたゴブリンは息つく暇なく、さっさと逃亡への道を決め込んだ。
とっさに目がそちらを追った。その動きと合わせたように、別のゴブリンが棍棒を叩きこんでくる。
騒がず、ジュンは棍棒を腕で受け止める。さすがに骨まで響く痛みが来たが、覚悟してやったこと。受け流すと、もう一方の手で相手の顔面を殴りつけていた。
「本で読んだクラヴマガの基本って簡単なんだな。本当に反射で出来る」
さらには棍棒を巻き込むようにつかみ、もう一発。
元々の器量も相まって、見事に決まる。
不意の襲撃に、残るゴブリンたちはまず逃げることを決めた。
各自バラバラに散りかけたのを阻んだのは、物々しい銃声だった。
「さぁて、何処から仕掛けられるか……お前ェらはこの恐怖、感じられっかねェ?」
樹の上から、ヤナギがジャンクガンで狙いをつけている。存在に気付いたゴブリンたちは当然そちらを避ける。木陰に隠れながら、必死に逃げ道を模索している。
ヤナギとしては樹上を渡って回り込みたかったが、覚醒したハンターといえどそれは簡単な動作ではない。
まして雨の中。足を滑らせて痛い思いをする必要も無いと、彼らの行く手に弾を打ち込み、脅すに留める。
ジュンがアックスブレード「ツヴァイシュトースツァーン」に持ち替え、斧として無造作に振り回す。
鼻歌交えて辺りの木を粉砕しながら、ゴブリンたちに迫る。勿論、刃が当たれば運命は枝葉と同じになる。
ゴブリンの一匹がとっさに石を投げてきた。さすがに当たるのはまずいと、ジュンは木に身を寄せてやり過ごす。
その間にゴブリンたちはさらに逃げた。けれど、そこに立ちふさがったのが、背後に潜んでいた三名のハンターだ。
真正面から現れたハンターたちに、ゴブリンたちは恐怖に顔をゆがませた。その顔をしっかりと見据え、六枚羽を広げた天使がファイアーボールを放つ。
「……此処からは一匹も逃さないの!」
ファリスの放った火球はゴブリンに直撃した。そこから派手な衝撃が周囲にも広がり、ゴブリンたちは吹き飛ぶ。
「全員で囲め! 一体も逃がすな! 敵は浮足立っている」
叫ぶヒースクリフの背後にはロボットの幻影が出現。ファイアスローワーによる炎の力が、さらにゴブリンの群れに浴びせられる。
炎を纏ったツヅリからも燃える炎の矢が放たれる。
「私の得意な火だよ! 燃えちゃえー!」
類焼はしないが、その力は間違いなくゴブリンの命を掻き消す。
完全に周囲を囲まれたとゴブリンたちは悟った。どうしたものかと、ゴブリンたちはハンターたちを見渡して、うろたえていたが。
「ウ、ギイイ!」
もはや自力で退路を作るしかない。覚悟を決めると、ゴブリンたちは棍棒を構えて殺気だった。
死に物狂いの攻撃は、普段以上の実力を見せ、武器をうならせている。
けれども、必死になった所で実力の差は明白だった。
「キャアア!」
横降りに振られた棍棒を、ユルゲンスはハンドアックスを盾代わりに用いて防ぐ。
間近に立ったゴブリンを思い切り蹴りつけると、相手は軽々と吹き飛び、地に転がった。
「終わりか? ならばこちらの番だ」
泥まみれのゴブリンに、大きく武器を振り回す。とっさに相手も棍棒で防ごうとしたが、その程度では勢いも削げない。力に任せて態勢が崩れた所へ、さらなる攻撃が息を止めるまでゴブリンへと入っていた。
距離を置いては、ツヅリのファイアアロー、ファリスのウィンドスラッシュがゴブリンたちを捕まえる。
フラフラになったゴブリンに、ヒースクリフが試作光斬刀「MURASAMEブレイド」を叩きこむ。
「私からの手向けだ。受け取れ!」
超重練成でマテリアルを流し込まれ、巨大になった光はゴブリンを両断する。
メトロノームも魔法による支援を続ける他、魔導拳銃「エア・スティーラー」での直接の援護を行う。
「グウウ!」
万策尽きて追いつめられたゴブリンが、樹を背にして苛立たしげに地上のハンターたちを睨む。
それがどういう奴だったか、最早分からないし、分からなくてもいい。
「おいおい。頭ががら空きだ。忘れてもらっちゃ困るぜ」
ヤナギがユナイテッド・ドライブ・ソードを手にすると、樹から飛び降りる。
構えるや否やのスラッシュエッジ。
不意を突かれ、精錬された動きで迫られ。ゴブリン風情には避けようがなく、その刃を身に受ける。
●
「かばうまでも無かったな」
戦闘はあっという間。
さしたる怪我も無い仲間たちを見て、ユルゲンスは端的に思う。いざとなれば、鋼の鎧で盾になる気骨はあったが、今回は無用の心配だったようだ。
ゴブリンたちは朽ちるに任せ、早々とハンターたちは森を出る。
待機していたプリンも合流。駆け寄って来た愛犬を、メトロノームは笑顔で迎える。
「うー、びしょびしょ……。早く帰ってお風呂入りたい……」
「……ずっと、雨に当たって身体が冷えたの。暖かいお茶とかで身体を温めるべきだと、ファリス、思うの」
派手に動き回れば、どうしても濡れる。あちこち泥はねも見つけて、ツヅリとしては洗濯も心配。
ファリスがお茶に誘うも、やはりまずは風呂かもしれない。
変わらず雨は降り続けている。
けれど、雨はその内あがるもの。やがて姿を見せる太陽を、周囲の住人は何の心配も無く迎えられるだろう。
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依頼成功度 | 成功 |
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓です メトロノーム・ソングライト(ka1267) エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/05/31 14:51:06 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/28 05:16:38 |