ゲスト
(ka0000)
来る晴れの日に
マスター:黒木茨

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/01 12:00
- 完成日
- 2015/06/13 05:26
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ある青年の話をしましょう。名前はアロルド。
敬虔なエクラ教徒で、心優しく、そして勇敢な青年でした。
騎士道に傾倒している姿は、殊にこの商人の世界では時代遅れだと心無い言葉を受けることもありましたが、今日まで強く逞しく生きてきました。
三年前からでしょうか。この青年はとある商人のもとで、下働きをしながら細々と生活の糧を得ていたのですが……
「はぁ……」
吐くのは溜息。というのも、この青年には悩み事がありました。
「どうした、アロルド」
「ご主人様」
隠し事の出来ぬ青年の性質から、思い悩む姿は周囲にも知れていることでした。
「娘のことか。気持ちはわかるが、もう決まった話だ。諦めてくれ」
青年よりも二回り年上の男は言います。青年は首を振り、それを否定しました。
「いえ……そのことではありません」
「じゃあ、なんだ?」
男に問われた青年は暫し虚空を見つめて、決心したように男の目をじっと見つめます。
「あの人の結婚式が終わったら、しばらくお暇をいただけませんか」
青年にこう言われた男は目をぱちぱちと瞬いて、顎に手を当てました。
「別に構わんが、宛てはあるのか」
「それは……」
言葉に詰まった青年を見て男はふーっと息を吐くと言います。
「どうしても困ったら、頼れ」
男の暖かい言葉に、青年は無言で頭を下げました。
●
その翌々日のこと。
オフィスの貼り紙に記されていた場所に行ったあなたは、件の青年の姿を見かけます。
集まった人々に青年は礼を言って、軽く経緯を説明しました。
「二人に、今まで世話になったお礼がしたい。そう思ったんですけど……」
青年は頭を掻いて、照れ臭そうに笑います。
「恥ずかしいことにどうも、女性の喜ぶものというのがよくわかりません」
贈り物を選ぶ手伝いをしてほしい、というのが青年の願いでした。
「あ、でも。些細なことですから、すぐに終わると思います。なにか自分のことがあったら、そちらを優先してください!」
じゃあ行きましょうか、青年は市場に向かって歩き出しました。
ある青年の話をしましょう。名前はアロルド。
敬虔なエクラ教徒で、心優しく、そして勇敢な青年でした。
騎士道に傾倒している姿は、殊にこの商人の世界では時代遅れだと心無い言葉を受けることもありましたが、今日まで強く逞しく生きてきました。
三年前からでしょうか。この青年はとある商人のもとで、下働きをしながら細々と生活の糧を得ていたのですが……
「はぁ……」
吐くのは溜息。というのも、この青年には悩み事がありました。
「どうした、アロルド」
「ご主人様」
隠し事の出来ぬ青年の性質から、思い悩む姿は周囲にも知れていることでした。
「娘のことか。気持ちはわかるが、もう決まった話だ。諦めてくれ」
青年よりも二回り年上の男は言います。青年は首を振り、それを否定しました。
「いえ……そのことではありません」
「じゃあ、なんだ?」
男に問われた青年は暫し虚空を見つめて、決心したように男の目をじっと見つめます。
「あの人の結婚式が終わったら、しばらくお暇をいただけませんか」
青年にこう言われた男は目をぱちぱちと瞬いて、顎に手を当てました。
「別に構わんが、宛てはあるのか」
「それは……」
言葉に詰まった青年を見て男はふーっと息を吐くと言います。
「どうしても困ったら、頼れ」
男の暖かい言葉に、青年は無言で頭を下げました。
●
その翌々日のこと。
オフィスの貼り紙に記されていた場所に行ったあなたは、件の青年の姿を見かけます。
集まった人々に青年は礼を言って、軽く経緯を説明しました。
「二人に、今まで世話になったお礼がしたい。そう思ったんですけど……」
青年は頭を掻いて、照れ臭そうに笑います。
「恥ずかしいことにどうも、女性の喜ぶものというのがよくわかりません」
贈り物を選ぶ手伝いをしてほしい、というのが青年の願いでした。
「あ、でも。些細なことですから、すぐに終わると思います。なにか自分のことがあったら、そちらを優先してください!」
じゃあ行きましょうか、青年は市場に向かって歩き出しました。
リプレイ本文
●恋人たちの逢瀬
青年アロルドの話の前に、一旦とある恋人たちの話をしよう。
巽 宗一郎(ka3853)と真夜・E=ヘクセ(ka3868)の二人は、ちょうどヴァリオスでデートをしていた。
立ち並ぶ店の商品に真夜が様々な反応を見せるのを、宗一郎はしっかりと記憶していたのだった。
というのもこの宗一郎は、恋人の真夜に対して、日頃のお礼も兼ねたプレゼントを探しに来てもいたからだ。
「この後は別行動で買い物しない?」
立ち寄った喫茶店での軽い休憩の最中に、宗一郎はそう切り出した。
「……じゃあ、夕方ぐらいに」
真夜も頷いて、宗一郎の提案に乗った。
(良いの売ってるといいなぁ)
宗一郎は真夜と別れた後、真夜が好感を持ってみていた品がある店を見るために戻ってくる。
(これ……とか、さっきは興味ありげに見てたよね)
なんとなくではあるが、装飾品やぬいぐるみなどの可愛いものに目星をつけた宗一郎はというと、ふわふわと毛並みのいい熊のぬいぐるみ、くりくりとした赤い目が印象的なウサギのぬいぐるみ……それらがぽむっと積み上げられている玩具屋、雑貨屋を見てまわる。
「プレゼントですか?」
その姿が真剣に見えたのか、ちょうど店先に出ていた店員が宗一郎に話しかけた。
「そんなところかなぁ」
宗一郎は店員の言葉にそう返すと、ウサギのぬいぐるみを店員に差し出し、「これを」と言う。
「いいですね」
店員はカウンターへ戻って笑顔を見せた。
「それと……」
ウサギのぬいぐるみを見て、ふと思いついたのだろうか。
「このぬいぐるみが持てるような、小さな鏡があれば」
宗一郎がそう言えば、店員は棚から注文どおりの品を持ってくる。サイズもぴったりだ。
その店での買い物を終えた宗一郎が次に向かったのはアクセサリーを売り出す商店であった。
そこでは、ネックレスを選ぶ。
(喜んでもらえたらいいんだけどなぁ)
綺麗に包装された恋人へのプレゼントを抱え、宗一郎は思った。
●悩める青年
「お礼かぁ」
ラク(ka4668)はうーん、首を傾げてアロルドと共に悩む。
「どちらかというと、想いとの決別、最後の告白って面もあるのかな? もし、そうなら、幸せを願うお守り的なものでも良いと思うけど」
「それも……ありますね」
ははは、とアロルドは乾いた笑いを上げた。
「ふぅん……ま、付き合ったげる……暇だってだけよ」
ラクの隣でふん、と鼻を鳴らすのは遠火 楓(ka4929)。
「で、贈り物の相手はどんな奴なの? 好きそうな物とか集めてる物とか。情報無いと選べないでしょ」
「そうですね……」
楓の指摘にエステル・クレティエ(ka3783)も同調し、アロルドの反応を待つ。
「あの人は……最近は、流行の詩集や小説に興味を持っているみたいでした。恋愛絡みのものでなくても……いろいろと読んでいましたね。参考になれば嬉しいですけど」
あの人……今回の依頼の発端となった女性のことを語るアロルドは少し嬉しそうだ。
「うん、やっぱり、女性としては、最近の流行は外せないよね。もし掴めてないなら街の女性達に聞くのが一番かな」
ラクはこく、こく、と頷きつつ、アドバイスを加える。
「……私に妙齢の女性のお気に召すものを選べるか解りませんけど。アロルドさんが心を込めて選べば、きっとお祝いの気持ちは伝わるはずです」
「エステルさん……!」
エステルからの言葉にアロルドははっとして、感激した。
「そうね。月並みだけどこういうのは気持ちが大事だと思う。高価なものじゃなくていいんだよ。その人の事考えて選んだ物ならなんだって喜んでくれるんじゃない」
楓もまた、そっけないものの暖かい言葉をアロルドに送る。
「あんたみたいな奴が好きになった女だもん。いい人なの、わかるわ」
「楓さん……! ありがとうございます!」
アロルドの素直な反応に照れ臭くなったのか、こほんと咳払いが入った。
「早く行きましょ……流行りの本に興味があるんだっけ」
そして楓はそのまま、先頭を切って歩く。そんな楓の後ろには、茶トラの猫が健気にも飼い主に追いつこうと走っていた。
(私にも好きな人が居る、幸いにも私は両想いと成れたけれど……。けれど、もしアロルドと同じ立場に成った時、私は諦めることが出来るのかな……?)
店の前であれこれと悩んでいたところで、アロルドの話を耳にした真夜は思う。
想像もつかない。しかし、辛い選択であったろうことは推し量られた。
(どう言葉をかけて良いのか分からない、けれど……)
手助けが出来るのなら、したい。そうして真夜も彼らの中に加わっていった。
「こうして色々なモノが置いてあると目移りするというか……やっぱり困りますね」
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)が苦笑しながら、品定めをする。
「しおり、とかどうでしょう?」
その途中、立ち寄った書店でふと、エステルが言う。
「金属製で、お洒落な飾りが付いているものもあるんですよ。鈴蘭とか、クローバーとか。幸福な花言葉をモチーフにしたら良いと思います」
大人の女性なら、天然石のチャームを添えたらきっと素敵だと先の発言に付け加えれば、アロルドは感心したような反応をした。
「私はこっちの人間じゃないから詳しくは知らないけど……あんたのお薦めは無いの?」
書架を左から右へ、題名を流しながら眺めつつ、楓はアロルドに話を振る。
「しおりには、一緒に、アロルドさんのお勧めのご本も添えてみてはどうですか」
エステルもにっこりと続けた。
「恋愛物の小説や恋愛にまつわる詩集はおすすめしないですけど……エクラ教の教本とか、何気なく、自然に手元に置いておけたら素敵だなって。あくまで私のお勧めなので、他の方のお勧めも合わせて色々見てください」
「俺のお勧め……?」
書架の中からいくつか選んでいるアロルドに、真夜が柔らかく問いかける。
「アロルドさん、貴方、詩は書ける……?」
「詩、ですか?」
アロルドも、少しだけ書いたことがあるらしい。が……顎を撫で、自信がないように俯きがちだ。
「たしかに、何度か書いたことなら……」
「詩集……できれば恋愛ものの最後のページに。苦手でも良い、心得が無くても良い」
真夜はきっぱりと言う。
「貴方自身の、その人や主人への想いを、詩に書いた紙片を遺してみたら?」
その提案に、アロルドは他のハンターたちの言葉を思い出しながら決意した。
「そう……ですね! 下手でも、気持ちをしっかり残してみます」
アロルドはおすすめとなる本を選びながら、その最後のページにどう言葉を添えるか考えつつある。
「後は……花でも添えれば」
楓は唇から煙を吐き出して助言した。エステルはその間に、雑貨類を見ている。
「父様に何か選ぼうかな……あ、アロルドさんだったら、御守り代わりに何を貰えたら嬉しいですか?」
「お守り? お父様にですか」
アロルドが首を傾げていると、エステルは補足した。凛としているものの、少し寂しげにも見える。
「父は……仕事で家に余り帰って来ないんです。だから」
ふむ……。アロルドは暫しの沈黙を置いて、口を開いた。
「お父上のことなら、俺よりもご主人様のことのほうがいいでしょうか」
アロルドはしみじみと思い出に浸りながら、ぽつぽつと語る。
「ご主人様は、ロケット……小さいですが、それをお守り代わりにしてたと思います。家族の写真を入れていて。『いいだろう。妻と娘がくれたんだ』って自慢していたのを、覚えてますよ」
ちょうどエステルが覗いている店にもそれはあった。その店に置いているものは素朴ながらも丈夫でしっかりした造りのものから、美しい装飾を施された華美なものまで様々です。
「薬を入れる人もいるみたいですね」
アロルドは思い出から帰り、写真以外にも、と紹介している。最後に頭を掻いて、
「ご主人様は、娘から貰う物ならなんでも喜んでました……エステルさんが、いいと思うものを選んでくださいね」
と言った。
「楓さんも、なにかあれば」
「……ん? ああ、私のことはどうでもいい。一人が楽なの。放っといて」
アロルドに勧められるも、楓はふー……っと紫煙を吐き出している。
その足に、先ほどの茶トラの猫が頬ずりしてころころと転がっている。
「……玉露」
楓は猫――玉露と名付けた飼い猫を抱き上げて、腕に収めた。
「何、足に擦り寄ってくんな」
楓がもふもふと撫でれば気持ち良さそうに伸びをする。
この猫にも何かを。そう考えた楓は、猫に似合うリボンを選び始めた。
「……あ、これは如何ですか?懐中時計。素晴しい時をくれた、ご主人と娘さんに」
ユキヤはアロルドに自らの手の中にある二つの懐中時計を見せる。
「これから始まるであろう、素晴らしい、新しい時を……、と」
ふわりと微笑むユキヤにアロルドも微笑を返し、懐中時計を覗き込む。
「時計……」
蓋を開けると星空のような文字盤に白い針が見える。アロルドは主人と女性のことを思い出す。
「たしかに……ご主人様には、時計がいいかもしれません」
頷いて、アロルドは懐中時計を一つ取った。
「ご主人様、には?」
不思議に思っているユキヤに、アロルドは苦笑しつつ言った。
「娘――あの人へは、少し考えさせてください」
そうして、暫し。アロルドは店を巡ったあと、包みを抱えてハンターたちのもとへ戻ってきた。
「あの人にはこの本と栞を。ご主人様には、懐中時計を渡そうと思います」
頭を下げ、礼を述べる。顔を上げたアロルドの顔はどこかすっきりしていた。
「皆さん、ありがとうございました! 生花は……向こうで枯れた後に困ると思いますから。代わりに、意匠で」
ごめんなさい、と謝って続ける。
「それに、鈴蘭やクローバーは幸福に纏わる花言葉があると、エステルさんが言っていました。それを幸運のお守り……みたいに使ってくれたらなって思ったんです」
ここでアロルドは言葉を切り、本を持つ手に力を入れた。
「恋愛物にするべきか……悩みました。でも……」
本のように長く残り、時に手に取るようなものならば。アロルドは苦笑しながらはっきりと答えた。
「あの人への思いは……俺の言葉で詩に残して伝えようと思います」
そんなアロルドを見ていた真夜は、ふと――先ほどまで一緒にいた恋人を思い出した。
(ソーイチ……離れる気はさらさら無いけれど、思えば私から形として残る物を贈ったことはあったかな?)
記憶を辿る。あったような気がする。しかし、当たり障りのない物ばかりだったと思う。
なんだか、気恥ずかしかったのだ。でも、この機会になにか贈ってみようと考える。
「確か、昔の写真が……」
そうして真夜はポケットを探り、リアルブルーにいた頃に使っていた学生手帳を取り出す。
それに忍ばせていた、写真。真夜と宗一郎が並んで映っている。
真夜は……この写真を見てなにか思いついたのか、ロケットペンダントを買った。二つ、自分と宗一郎に。
その二つのペンダントの中に、映りのいい二枚を入れた。
この後のディナーに渡すことを決意して、目を閉じる。
(想い人に好意を伝えれるということは、幸せなことだと想えた、から)
●旅の目的
買い物も終わったところで、不意にユキヤが問うた。
「アロルドさんは、如何して旅にでようと?」
アロルドは照れ臭そうにして、言う。
「もっと広い世界を見て、心身ともに鍛錬をと思い……傷心旅行でもありますが」
その様子を見て、ユキヤはアロルドに何かを差し出す。
「ふふ、実は、もう一つ、懐中時計……買っておいたんです」
包みの中身は懐中時計のようだ。アロルドはそれを受け取った。
「素晴らしい”時”が在ったという事。これからのアロルドさんの”時”が、素晴しいモノになる様に。と」
ふふふ。ユキヤの顔には、暖かい微笑が浮かんでいる。
「また、何時かお会い出来たら素敵ですね」
言い終えたユキヤの後に、楓がほい、とアロルドに茶色の小袋を渡した。
「これは餞別」
アロルドは袋を興味深そうに覗く。
「中を見ても良いですか?」
「いいわよ」
楓の言葉に中を開いたアロルドは、小さな珊瑚の付いたシンプルなブローチを見つける。
「……次会ったら息してないとか流石にね、魔除けよ」
ひらっと、楓はアロルドに告げた。
「困り事はハンターオフィスに。気向いたら受けてやるわ。報酬、盛ってよね」
「アロルドさん、女装して旅するってのはどうかな?」
「えっ!?」
アロルドもラクのこの意外な提案には目を丸くして驚愕している。
ラクは信頼を得るべく、滔々と語っていく。
「普段のアロルドさんからは随分と離れると思うけど、その分、切り替われると思うんだよね。今回のような流行を掴むきっかけにもなるし……」
たしかに……と、アロルドは、納得するような、しかし抵抗があるような様子を見せた。
「一つの逃げ道。手段として、だから無理にとは言わないよ」
装いをがらりと変えれば、気持ちも不思議と切り替わるものというのは、アロルドもなんとなくは理解しているが、それにしても、女装――
「もし、女装するならやっぱり男らしさを隠すことを心がけると良いよ。化粧なら肌の質や顔の血色とか」
真剣かつ詳しいアドバイスを貰って、揺れるアロルド。
「良かったら、旅の準備も手伝わせてよ」
にっこりと笑うラクに、アロルドはゆっくり、こくりと頷いた。
●恋人たちの夜
その夜、真夜と宗一郎はディナーを楽しんだ。
プレゼントを見せ合う段になったとき、宗一郎は真夜に言う。
「マヤ。いいって言うまで目を閉じてみて」
真夜もそれに応じ、ゆっくり目を閉じる。
そして宗一郎は真夜の正面に、先ほど買ったうさぎのぬいぐるみを置く。
うさぎの持つ鏡には真夜の胸元が映る。
宗一郎はそっと……後ろから真夜にネックレスをつけてやり、目を開けるように言った
「これは……」
真夜の頬が紅潮する。
「ありがとう! とても嬉しい! 私のプレゼントも、見てくれる……?」
恋人に笑顔を見せた真夜は、封入したロケットペンダントを宗一郎に差し出した。
宗一郎はその中を見た。学生時代の二人の思い出。それが中に入っていた。
「僕も嬉しいよ。ありがとう、マヤ」
宗一郎も、そう言って微笑を向けた。真夜も嬉しそうに微笑を返す。
二人は、こうして想いを伝いあえる幸せを噛み締めた。
●それから
その後、同盟内では奇妙な流浪の騎士の名がまことしやかに囁かれていた。
なんでも、敬虔なエクラ教徒で、人柄は心優しく勇敢。
剣こそ拙いところあれど、旅先で力をつければ、いずれは形に成るだろうとのこと。
珊瑚の付いたブローチと、懐中時計を大事そうに身につけているそうだ。
ここまではともかく、奇妙と言えるのは次の事柄。彼は度々、女装することがあるという。
その女装は、彼を本当に女性だと考える者が出るほどのものだったとか――
青年アロルドの話の前に、一旦とある恋人たちの話をしよう。
巽 宗一郎(ka3853)と真夜・E=ヘクセ(ka3868)の二人は、ちょうどヴァリオスでデートをしていた。
立ち並ぶ店の商品に真夜が様々な反応を見せるのを、宗一郎はしっかりと記憶していたのだった。
というのもこの宗一郎は、恋人の真夜に対して、日頃のお礼も兼ねたプレゼントを探しに来てもいたからだ。
「この後は別行動で買い物しない?」
立ち寄った喫茶店での軽い休憩の最中に、宗一郎はそう切り出した。
「……じゃあ、夕方ぐらいに」
真夜も頷いて、宗一郎の提案に乗った。
(良いの売ってるといいなぁ)
宗一郎は真夜と別れた後、真夜が好感を持ってみていた品がある店を見るために戻ってくる。
(これ……とか、さっきは興味ありげに見てたよね)
なんとなくではあるが、装飾品やぬいぐるみなどの可愛いものに目星をつけた宗一郎はというと、ふわふわと毛並みのいい熊のぬいぐるみ、くりくりとした赤い目が印象的なウサギのぬいぐるみ……それらがぽむっと積み上げられている玩具屋、雑貨屋を見てまわる。
「プレゼントですか?」
その姿が真剣に見えたのか、ちょうど店先に出ていた店員が宗一郎に話しかけた。
「そんなところかなぁ」
宗一郎は店員の言葉にそう返すと、ウサギのぬいぐるみを店員に差し出し、「これを」と言う。
「いいですね」
店員はカウンターへ戻って笑顔を見せた。
「それと……」
ウサギのぬいぐるみを見て、ふと思いついたのだろうか。
「このぬいぐるみが持てるような、小さな鏡があれば」
宗一郎がそう言えば、店員は棚から注文どおりの品を持ってくる。サイズもぴったりだ。
その店での買い物を終えた宗一郎が次に向かったのはアクセサリーを売り出す商店であった。
そこでは、ネックレスを選ぶ。
(喜んでもらえたらいいんだけどなぁ)
綺麗に包装された恋人へのプレゼントを抱え、宗一郎は思った。
●悩める青年
「お礼かぁ」
ラク(ka4668)はうーん、首を傾げてアロルドと共に悩む。
「どちらかというと、想いとの決別、最後の告白って面もあるのかな? もし、そうなら、幸せを願うお守り的なものでも良いと思うけど」
「それも……ありますね」
ははは、とアロルドは乾いた笑いを上げた。
「ふぅん……ま、付き合ったげる……暇だってだけよ」
ラクの隣でふん、と鼻を鳴らすのは遠火 楓(ka4929)。
「で、贈り物の相手はどんな奴なの? 好きそうな物とか集めてる物とか。情報無いと選べないでしょ」
「そうですね……」
楓の指摘にエステル・クレティエ(ka3783)も同調し、アロルドの反応を待つ。
「あの人は……最近は、流行の詩集や小説に興味を持っているみたいでした。恋愛絡みのものでなくても……いろいろと読んでいましたね。参考になれば嬉しいですけど」
あの人……今回の依頼の発端となった女性のことを語るアロルドは少し嬉しそうだ。
「うん、やっぱり、女性としては、最近の流行は外せないよね。もし掴めてないなら街の女性達に聞くのが一番かな」
ラクはこく、こく、と頷きつつ、アドバイスを加える。
「……私に妙齢の女性のお気に召すものを選べるか解りませんけど。アロルドさんが心を込めて選べば、きっとお祝いの気持ちは伝わるはずです」
「エステルさん……!」
エステルからの言葉にアロルドははっとして、感激した。
「そうね。月並みだけどこういうのは気持ちが大事だと思う。高価なものじゃなくていいんだよ。その人の事考えて選んだ物ならなんだって喜んでくれるんじゃない」
楓もまた、そっけないものの暖かい言葉をアロルドに送る。
「あんたみたいな奴が好きになった女だもん。いい人なの、わかるわ」
「楓さん……! ありがとうございます!」
アロルドの素直な反応に照れ臭くなったのか、こほんと咳払いが入った。
「早く行きましょ……流行りの本に興味があるんだっけ」
そして楓はそのまま、先頭を切って歩く。そんな楓の後ろには、茶トラの猫が健気にも飼い主に追いつこうと走っていた。
(私にも好きな人が居る、幸いにも私は両想いと成れたけれど……。けれど、もしアロルドと同じ立場に成った時、私は諦めることが出来るのかな……?)
店の前であれこれと悩んでいたところで、アロルドの話を耳にした真夜は思う。
想像もつかない。しかし、辛い選択であったろうことは推し量られた。
(どう言葉をかけて良いのか分からない、けれど……)
手助けが出来るのなら、したい。そうして真夜も彼らの中に加わっていった。
「こうして色々なモノが置いてあると目移りするというか……やっぱり困りますね」
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)が苦笑しながら、品定めをする。
「しおり、とかどうでしょう?」
その途中、立ち寄った書店でふと、エステルが言う。
「金属製で、お洒落な飾りが付いているものもあるんですよ。鈴蘭とか、クローバーとか。幸福な花言葉をモチーフにしたら良いと思います」
大人の女性なら、天然石のチャームを添えたらきっと素敵だと先の発言に付け加えれば、アロルドは感心したような反応をした。
「私はこっちの人間じゃないから詳しくは知らないけど……あんたのお薦めは無いの?」
書架を左から右へ、題名を流しながら眺めつつ、楓はアロルドに話を振る。
「しおりには、一緒に、アロルドさんのお勧めのご本も添えてみてはどうですか」
エステルもにっこりと続けた。
「恋愛物の小説や恋愛にまつわる詩集はおすすめしないですけど……エクラ教の教本とか、何気なく、自然に手元に置いておけたら素敵だなって。あくまで私のお勧めなので、他の方のお勧めも合わせて色々見てください」
「俺のお勧め……?」
書架の中からいくつか選んでいるアロルドに、真夜が柔らかく問いかける。
「アロルドさん、貴方、詩は書ける……?」
「詩、ですか?」
アロルドも、少しだけ書いたことがあるらしい。が……顎を撫で、自信がないように俯きがちだ。
「たしかに、何度か書いたことなら……」
「詩集……できれば恋愛ものの最後のページに。苦手でも良い、心得が無くても良い」
真夜はきっぱりと言う。
「貴方自身の、その人や主人への想いを、詩に書いた紙片を遺してみたら?」
その提案に、アロルドは他のハンターたちの言葉を思い出しながら決意した。
「そう……ですね! 下手でも、気持ちをしっかり残してみます」
アロルドはおすすめとなる本を選びながら、その最後のページにどう言葉を添えるか考えつつある。
「後は……花でも添えれば」
楓は唇から煙を吐き出して助言した。エステルはその間に、雑貨類を見ている。
「父様に何か選ぼうかな……あ、アロルドさんだったら、御守り代わりに何を貰えたら嬉しいですか?」
「お守り? お父様にですか」
アロルドが首を傾げていると、エステルは補足した。凛としているものの、少し寂しげにも見える。
「父は……仕事で家に余り帰って来ないんです。だから」
ふむ……。アロルドは暫しの沈黙を置いて、口を開いた。
「お父上のことなら、俺よりもご主人様のことのほうがいいでしょうか」
アロルドはしみじみと思い出に浸りながら、ぽつぽつと語る。
「ご主人様は、ロケット……小さいですが、それをお守り代わりにしてたと思います。家族の写真を入れていて。『いいだろう。妻と娘がくれたんだ』って自慢していたのを、覚えてますよ」
ちょうどエステルが覗いている店にもそれはあった。その店に置いているものは素朴ながらも丈夫でしっかりした造りのものから、美しい装飾を施された華美なものまで様々です。
「薬を入れる人もいるみたいですね」
アロルドは思い出から帰り、写真以外にも、と紹介している。最後に頭を掻いて、
「ご主人様は、娘から貰う物ならなんでも喜んでました……エステルさんが、いいと思うものを選んでくださいね」
と言った。
「楓さんも、なにかあれば」
「……ん? ああ、私のことはどうでもいい。一人が楽なの。放っといて」
アロルドに勧められるも、楓はふー……っと紫煙を吐き出している。
その足に、先ほどの茶トラの猫が頬ずりしてころころと転がっている。
「……玉露」
楓は猫――玉露と名付けた飼い猫を抱き上げて、腕に収めた。
「何、足に擦り寄ってくんな」
楓がもふもふと撫でれば気持ち良さそうに伸びをする。
この猫にも何かを。そう考えた楓は、猫に似合うリボンを選び始めた。
「……あ、これは如何ですか?懐中時計。素晴しい時をくれた、ご主人と娘さんに」
ユキヤはアロルドに自らの手の中にある二つの懐中時計を見せる。
「これから始まるであろう、素晴らしい、新しい時を……、と」
ふわりと微笑むユキヤにアロルドも微笑を返し、懐中時計を覗き込む。
「時計……」
蓋を開けると星空のような文字盤に白い針が見える。アロルドは主人と女性のことを思い出す。
「たしかに……ご主人様には、時計がいいかもしれません」
頷いて、アロルドは懐中時計を一つ取った。
「ご主人様、には?」
不思議に思っているユキヤに、アロルドは苦笑しつつ言った。
「娘――あの人へは、少し考えさせてください」
そうして、暫し。アロルドは店を巡ったあと、包みを抱えてハンターたちのもとへ戻ってきた。
「あの人にはこの本と栞を。ご主人様には、懐中時計を渡そうと思います」
頭を下げ、礼を述べる。顔を上げたアロルドの顔はどこかすっきりしていた。
「皆さん、ありがとうございました! 生花は……向こうで枯れた後に困ると思いますから。代わりに、意匠で」
ごめんなさい、と謝って続ける。
「それに、鈴蘭やクローバーは幸福に纏わる花言葉があると、エステルさんが言っていました。それを幸運のお守り……みたいに使ってくれたらなって思ったんです」
ここでアロルドは言葉を切り、本を持つ手に力を入れた。
「恋愛物にするべきか……悩みました。でも……」
本のように長く残り、時に手に取るようなものならば。アロルドは苦笑しながらはっきりと答えた。
「あの人への思いは……俺の言葉で詩に残して伝えようと思います」
そんなアロルドを見ていた真夜は、ふと――先ほどまで一緒にいた恋人を思い出した。
(ソーイチ……離れる気はさらさら無いけれど、思えば私から形として残る物を贈ったことはあったかな?)
記憶を辿る。あったような気がする。しかし、当たり障りのない物ばかりだったと思う。
なんだか、気恥ずかしかったのだ。でも、この機会になにか贈ってみようと考える。
「確か、昔の写真が……」
そうして真夜はポケットを探り、リアルブルーにいた頃に使っていた学生手帳を取り出す。
それに忍ばせていた、写真。真夜と宗一郎が並んで映っている。
真夜は……この写真を見てなにか思いついたのか、ロケットペンダントを買った。二つ、自分と宗一郎に。
その二つのペンダントの中に、映りのいい二枚を入れた。
この後のディナーに渡すことを決意して、目を閉じる。
(想い人に好意を伝えれるということは、幸せなことだと想えた、から)
●旅の目的
買い物も終わったところで、不意にユキヤが問うた。
「アロルドさんは、如何して旅にでようと?」
アロルドは照れ臭そうにして、言う。
「もっと広い世界を見て、心身ともに鍛錬をと思い……傷心旅行でもありますが」
その様子を見て、ユキヤはアロルドに何かを差し出す。
「ふふ、実は、もう一つ、懐中時計……買っておいたんです」
包みの中身は懐中時計のようだ。アロルドはそれを受け取った。
「素晴らしい”時”が在ったという事。これからのアロルドさんの”時”が、素晴しいモノになる様に。と」
ふふふ。ユキヤの顔には、暖かい微笑が浮かんでいる。
「また、何時かお会い出来たら素敵ですね」
言い終えたユキヤの後に、楓がほい、とアロルドに茶色の小袋を渡した。
「これは餞別」
アロルドは袋を興味深そうに覗く。
「中を見ても良いですか?」
「いいわよ」
楓の言葉に中を開いたアロルドは、小さな珊瑚の付いたシンプルなブローチを見つける。
「……次会ったら息してないとか流石にね、魔除けよ」
ひらっと、楓はアロルドに告げた。
「困り事はハンターオフィスに。気向いたら受けてやるわ。報酬、盛ってよね」
「アロルドさん、女装して旅するってのはどうかな?」
「えっ!?」
アロルドもラクのこの意外な提案には目を丸くして驚愕している。
ラクは信頼を得るべく、滔々と語っていく。
「普段のアロルドさんからは随分と離れると思うけど、その分、切り替われると思うんだよね。今回のような流行を掴むきっかけにもなるし……」
たしかに……と、アロルドは、納得するような、しかし抵抗があるような様子を見せた。
「一つの逃げ道。手段として、だから無理にとは言わないよ」
装いをがらりと変えれば、気持ちも不思議と切り替わるものというのは、アロルドもなんとなくは理解しているが、それにしても、女装――
「もし、女装するならやっぱり男らしさを隠すことを心がけると良いよ。化粧なら肌の質や顔の血色とか」
真剣かつ詳しいアドバイスを貰って、揺れるアロルド。
「良かったら、旅の準備も手伝わせてよ」
にっこりと笑うラクに、アロルドはゆっくり、こくりと頷いた。
●恋人たちの夜
その夜、真夜と宗一郎はディナーを楽しんだ。
プレゼントを見せ合う段になったとき、宗一郎は真夜に言う。
「マヤ。いいって言うまで目を閉じてみて」
真夜もそれに応じ、ゆっくり目を閉じる。
そして宗一郎は真夜の正面に、先ほど買ったうさぎのぬいぐるみを置く。
うさぎの持つ鏡には真夜の胸元が映る。
宗一郎はそっと……後ろから真夜にネックレスをつけてやり、目を開けるように言った
「これは……」
真夜の頬が紅潮する。
「ありがとう! とても嬉しい! 私のプレゼントも、見てくれる……?」
恋人に笑顔を見せた真夜は、封入したロケットペンダントを宗一郎に差し出した。
宗一郎はその中を見た。学生時代の二人の思い出。それが中に入っていた。
「僕も嬉しいよ。ありがとう、マヤ」
宗一郎も、そう言って微笑を向けた。真夜も嬉しそうに微笑を返す。
二人は、こうして想いを伝いあえる幸せを噛み締めた。
●それから
その後、同盟内では奇妙な流浪の騎士の名がまことしやかに囁かれていた。
なんでも、敬虔なエクラ教徒で、人柄は心優しく勇敢。
剣こそ拙いところあれど、旅先で力をつければ、いずれは形に成るだろうとのこと。
珊瑚の付いたブローチと、懐中時計を大事そうに身につけているそうだ。
ここまではともかく、奇妙と言えるのは次の事柄。彼は度々、女装することがあるという。
その女装は、彼を本当に女性だと考える者が出るほどのものだったとか――
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/28 21:46:53 |
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【相談卓】買い物に 遠火 楓(ka4929) 人間(リアルブルー)|22才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2015/05/31 23:06:10 |