鈍の心

マスター:松尾京

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/06/02 19:00
完成日
2015/06/09 14:44

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●フマーレの、ある裏通りで
「よう、元鍛冶屋。こそ泥から金奪ったんだろ。俺らに分けてくれよ」
 同業者から金を巻き上げたあとは、いつもこんな輩が現れる。犯罪者の世界というのは、意外に狭い。もっとも、それはスティーブが警戒していないだけの話だが。
「ロスト(全てを失った)・スティーブか。ちょうどいいあだ名だな」
 言って笑ってくる若い輩を、中年の男……スティーブは酒に濁った目で見た。
「帰んな。今、酒盛り中だ」
「だったら、酒もおいて行けよ、ちょうどいい」
 スティーブはため息をついた。そしてのっそりと立ち上がって――男たちを一撃で蹴り倒した。

●鍛冶屋の男
 廃工場の一角にスティーブの住処はある。といっても工場自体を間借りしただけだが。
 スティーブは酩酊しながら寝床に戻ると、ぼうっとした。
 ――ロスト・スティーブか。確かにおあつらえ向きだ、と思った。

 スティーブは腕のいい鍛冶職人だった。若い時分から才能を見せ、鍛冶一本で生きてきた男。
 昔住んでいた界隈では、刃物に困ったらスティーブへ、と言われたものだった。
 だが、不幸は偶然に起こる。
 フマーレに侵入した雑魔に襲われたのが、当時工房を盛況にさせていたスティーブだった。
 スティーブは両腕にけがを負った。気付けば、片腕はほぼ動かず、もう片方もものを持つのがやっとの状態になっていた。
 その瞬間から、スティーブの人生は変わった。
 鍛冶が出来なくなったスティーブを周りはなぐさめた。だが本人にとって、鍛冶の出来ない自分に価値はない。生きていても無意味だった。
 絶望と諦観。
 それからスティーブは、荒れた。
 当時妻と生まれたばかりの子もいたが、自棄になった挙げ句、その家庭も失った。
 あとは、生きるために犯罪に手を染めることになった。
 覚醒者としての素養があったスティーブには、人から小銭を奪うことくらいは可能だったのだ。

 スティーブは朦朧とした状態から覚めて、また酒をついだ。
 あれから、スティーブは無為に日々を過ごしている。仕事も家庭も無い、惰性の日々。
 後悔は、ある。家族のことだ。
 優しい妻と、可愛い子共だった。当時、全てが憎らしかった自分にとって、家族すら怒りの対象でしか無く、結果として自ら捨ててしまう形となった。
 今思えば、もっと別の形があったろうという気がするが、そんなもしもに、意味は無い。
 物置から一本のナイフを取り出す。おぼつかない手で一年かけて打ったナイフだが、いまだ未完成。
 とうに鍛冶など出来ないと、証明するようなものだった。

●邂逅
 そんなある日だった。
 スティーブのねぐらに、一人の若造――少年といっていい――が、訪ねてきた。
 あどけない、こんな場所とは無縁そうな少年だ。
「腕のいい鍛冶屋がいるって聞いてきたんだけど」
 開口一番、こうだ。寝起きのスティーブは、二日酔いのまま、しばし何が起こったかわからなかった。
 スティーブは横になる。
「そんなものはいねえよ。ガキがくるとこじゃない。帰んな」
「刃物に困ったらスティーブへ」
「……」
「ロスト・スティーブ。あんたなんだろ」
「何の用だ。悪いが、もう包丁は打てんよ」
 それでも動じず返した。スティーブが元鍛冶屋なのは、このあたりのチンピラでも知っていることだ。
 すると少年は言った。
「それでもいい。教えてくれれば。僕が打つ」
「なんだって?」
「鍛冶職人になりたいんだ。だからやり方を教えてくれ」
 これが少年との出会いだ。

 少年は翌日もその翌日もやってきた。
 スティーブは無視したが、こそ泥を襲うときもついてこようとしたので、怒った。
「いい加減にしろ。殴られたいか?」
「殴られても、教えてくれるまでは帰らない」
「……鍛冶屋なら他にもいる。かたぎの弟子になれ」
「あんたが一番、腕がいい」
 堂々巡りだ。
 まあ、鍛冶の仕事は泥臭い。工房じゃないが最低限の道具はあるし、少し実践させれば、音を上げて帰るだろう。

 そうして準備させて打たせて見ると……少年は、意外にも一生懸命だった。
 溶解した金属にひるみもせず。見た目よりずっと重い鎚を、力強く握っていた。
 汗だくになりながら、スティーブの教えの通り、かん、かん、と音を立てる。筋もいい。これまでに取った弟子の中で、一番といってもよかった。
「お前、どこのガキだ?」
「普通の、ガキだよ」

 少年は短期間で見事に成長した。文字通りの付け焼き刃だが、既に素人の段階は越えていた。
 少年に才覚を見て、スティーブの指導にも、いつしか熱が入っていた。
 こんな気持ちはいつぶりか。自分が見習いだった頃を思い出す。
 少年が打った包丁を見つつ、スティーブは酒をついだ。
「飲むか?」
「僕は子供だよ。スティーブ」
 構いやしないと言ったが、少年は遠慮した。純朴なものだ、とスティーブは笑った。
 そうして、明日も来るだろう、とスティーブが聞こうとしたときのことだった。
 そこに歪虚が現れたのは。

●脅威
 どおん、と、大音が鳴ると、天井に穴が開いていた。
 土煙に咳をして、スティーブが目を開けると……そこにいた。
 狼のような、大きな四足獣の歪虚。
「な、なんだこの化け物」
「近寄るな!」
 スティーブは叫んだ。瞬間から、嫌な汗が体を伝っていた。
 歪虚が危険なのはとうに知っているが――心臓が早鐘を鳴らすようになりながら、スティーブは声を絞り出す。
 ――どうしてお前がここに。
 あの歪虚は、当時覚醒者に撃退されてフマーレから逃げたはずだった。
 が、思い出せば、確かに死んだという記憶もない。再びスティーブの前に現れる可能性も、ゼロではなかった。
 腕が、うずく。
 それは確かに……スティーブの腕を動かなくさせた、あの獣の歪虚の姿だった。
「どうして俺を、襲いに来る」
 何の恨みがあって。
 咆吼を上げて突っ込んでくる歪虚に、スティーブは目を見開く。
 狙いは、少年だった。スティーブはとっさに跳んで、体当たりを自ら受けた。
「スティーブ!」
 少年が駆け寄るが、スティーブは倒れ込みながら、外を見る。
「早く逃げろ……」
「何言ってるんだよ、置いていけるかよ!」
「こっちのせりふだ。こんな犯罪者なんかおいて逃げろ」
 言う間にも、歪虚はじりじりと間を詰めて、獲物を吟味する。
 そのときに、スティーブは理解した気持ちになった。
 ああ、そうか。
 これはきっと、罰だ。
 だから、俺から奪いにやってきたんだろう?
 少年は涙を浮かべて、歯をかみしめてから言った。
「逃げないと……、父さん……」
「馬鹿野郎。俺はお前の父さんじゃねえ」
 しがない、ただの犯罪者だ。父親らしいことなんて、何一つしたこと無かったのだから。
 だから、やきがまわっただけ。
「違うよ! 父さんだろ! だから、ちゃんと一人前になるまで、教えろよ!」
 無視して、スティーブは未完成のナイフを構えた。
「最後に、まだなまくらじゃねえところを、見せてやるよ」

リプレイ本文

●救出
「今、何か助けを呼ぶ声が聞こえなかったッスか?」
 居合わせたハンターの中――はじめに気付いたのは、高円寺 義経(ka4362)。北西の方角から、それは確かに聞こえた。
『……助けて……父さんを、助けて!』
「ガキの叫び声か――!」
 綾瀬 直人(ka4361)も既に危機を察している。直前から、周囲に歪虚の気配があるのは気付いていた。となれば、状況は想像できる。
「もしかして、ピンチ? ピンチなのです?」
 三鷹 璃袈(ka4427)はマイペースにほんわかとした笑みを浮かべている、が――いの一番に馬に跨っていた。
「こほん。冗談はおいておきまして、ちょっと急いだ方が良さそうですね! 乗ってください!」
「ではお言葉に甘えて! 失礼します!」
 秋桜(ka4378)が璃袈に答え、その馬の後ろに乗ると――皆も馬に乗り、道を駆け出した。
 西の十字路から――北方に、見えた。助けを呼ぶ少年の姿。
 既に、途中に交わる道から獣の歪虚の姿も見えていた。
「オラ、こっちに出てきてみろ、犬っころ! その喧嘩、大人買いしてやるよ!」
 直人が叫ぶと、歪虚はそれに反応した。その間に直人を含めた全員が、蹄を鳴らして全力の疾駆。
 その判断の素早さがもたらした結果だった。歪虚が行動を取るよりも速くその場を駆け抜け――先頭の二人が少年の元へとたどり着いた。
 その一人、音羽 美沙樹(ka4757)は下馬すると、歪虚に割り込む形で少年を守る。
「あたし達はハンターですわ。お怪我はありませんこと?」
「う、うん! それより、父さんがこの中に……!」
 同じく最初に到着した義経は、少年の言葉に急ぎ、工場内へと走っていった。
 道に見える歪虚は、両側に一匹ずつ。
 西側の一匹が大声に釣られるように直人へ狙いを定めると、直人は西に閉じ込めるように、道に立った。
 ガァッ、と吠え声を上げたその一匹は、直人へ体当たりを噛ます。が、がきっ!と直人はスピアで受けた。
「殴り合いするつもりなら、別にいいぜ」
 ごっ! そのまま直人はスピアを振り抜いて打撃を喰らわせた。
 東側の一匹が少年を狙うが――そこで先手を取ったのは美沙樹だった。
「申し訳ありませんが、行かせませんわ」
 居合からの斬撃。ざんっ、と虚を突かれたその一匹はよろめいた。
 そこへ、秋桜を後ろに乗せた璃袈が走り込む。
 髪の中頃から毛先を桜色のグラデーションに染めながら……ふわ、と桜の花弁の幻影を散らせると――璃袈は拳銃を獣に向ける。
 どうっ!と的確に獣へ命中させると、すぐに仲間に追いついた。
「何とか、間に合ったみたいですね!」
「よいしょ、っと! 私は、工場へ行きます!」
 馬から降り立つ秋桜は、義経のあとを追う。

 工場内。
 土煙の舞う中、スティーブは壁際で、浅い息を繰り返す。
 既にかなり流血している。自分は死ぬだろう、と思っていた。
 それでも、外の少年――息子の方が、気にかかる。
「さっさと逃げろと言ったのによ……」
 と、道の方から音がして、何事かが起こっているのが聞こえる。
 だが、それを気にする前に、目の前に歪虚が迫った。それは巨大な、獣。既に、攻撃態勢だ。
 ちっ、と舌打ちをしつつも、諦めの表情を浮かべるスティーブだったが――
 獣が体当たりするその瞬間。
 どっ! と、影が飛び込んで来てその攻撃を受けていた。
「あんたが『父さん』ッスね! 平気ッスか!」
 ざっ、と着地して、獣と向き合う――義経だ。
 スティーブは一瞬、呆気にとられる。遅れて、あ、あぁ、と声を出した。
「もしかして、ハンターか……!」
「義を見てせざるは勇無きなり、って言うッスからね。ま、人助けッスよ」
 義経の髪が黒くなり、額には鬼の角の様な突起が生まれている。
 瞬間、義経はナイフを振るう。それは直撃、獣の表皮を袈裟懸けに切り裂いた。
 それでも獣は退かなかったが――直後。
 ばしっ!とアースバレットの一撃が獣を襲った。
「遅れました! 大丈夫ですか!」
 工場へと走ってきた、秋桜だ。義経が頷き返すと、秋桜はすぐにスティーブを見つけて、避難させた。
「こちらは何とか大丈夫そうです! そっちはどうですか!」
 秋桜が外に呼びかけると、『今のところ平気です~』と璃袈の明るい声が響いた。

●獣
 工場の外では、直人が小型の獣一匹と向かい合い、美沙樹と璃袈がもう一匹とにらみ合っていた。
 二匹共に、いまだ健常、鳴き声を漏らしながらハンターに敵意を剥き出しにしている。
 ちゃき、と美沙樹は刀を構え直した。
「こちらも易々とはいかなさそうですけれど――工場の方が心配ですわ。早く片付けてしまいましょう」
「そうですね! 直人さん、支援しますっ」
 頷く璃袈は、獣と一対一の直人へ、マテリアルのエネルギーを流入。攻撃力を上昇させる。
「悪ぃな、リケ」
 直人は言いながら――獣が接近しながら繰り出す爪攻撃を、うまく回避する。そして高まった力で、どっ!とスピアを獣の腹へ突き刺した。
 ちょうどその時、工場から出てきたスティーブが、少年を連れ北へと距離を取っていた。
 璃袈たちの方の一匹がそこを狙うが……簡単に通す美沙樹ではない。
 再び、居合から刀を一閃。眼を断ち切られた獣は四肢をよろめかせた。
 しかし、そこで東の道にいた三匹目の獣が、遅れて駆けて来る。
 直人は急ぎ、自分の側の一匹に近づいた。
「さっさと、くたばってもらうぜ」
 躍りかかる獣に体当たりを受けつつも、スピアを突き出し――その口の中に、ファイアアローを撃ち込んだ。ぼうっ! 頭から燃えた獣は、それでもまだ息絶えないが――
 飛び込んでくる三匹目は、璃袈がしっかりと狙っていた。
 ぼっ、と気流を纏った弾丸で正確に狙撃する。それでも何とか着地した獣は、璃袈に体当たりをしかけるが――ぎんっ! 美沙樹が入り込み、刀で攻撃を受け止めていた。
「わ! ありがとうございますっ」
「お礼を言って頂くほどのことではありませんわ」
 美沙樹は刀で獣を振り払う。直人がちら、と見る。
「三匹集まっちまったか」
「本当ですねー。もしかして、本当にピンチです?」
「そうでもありませんわ」
 言葉通り、歪虚三匹は、消耗していた。追い詰めているのは、こちらの方だ。

 義経と秋桜は、巨大な獣と相対している。
 ふじゅう、と声を漏らす獣の威容は凄まじい。義経はナイフ片手に苦笑した。
「こりゃあ、戦うのは中々大変そうッスね」
「それでも、やるしかありませんね」
 秋桜は言うと、義経と少し距離を置いた位置から――炎を生む。どおぉっ! ファイアーボールを放ち、獣の周囲ごと、炎で包み込んだ。 
 だが、炎を受けながらも、獣は吠え声を上げて地を蹴った。どっ、と秋桜に強烈な体当たり。
「くっ……!」
「それ以上は、やらせないッスよ」
 義経はそこへ手裏剣を投てき。しゅうっ! と吸い込まれるように突き刺さったそれに、獣は思わず飛び退いた。
 秋桜も続けてアースバレットを獣へ命中させるが――まだまだ獣の体力は底を見ない。
 風を切るような音と共に、義経へ向け、がれきを蹴り飛ばしてきた。
 義経はうまく防具で威力を殺す、が――それでも、ダメージはゼロではない。
 劣勢とも言える状態――だが、足を外に向けようとする獣から、逃げる二人ではない。
「そっちへは絶対、行かせないッスよ」
 義経は獣へ肉迫。体へマテリアルを巡らせ――ざんっ! スラッシュエッジを叩き込んだ。深く刻まれた傷に、秋桜のアースバレットが飛ぶ。
『ガァアッ!』
 獣は大きな悲鳴を上げて苦悶した。
「相手は私達ですよ」
 秋桜が言うと、獣は足を止め――涎を垂らしながら、二人に狙いを定める。

●激化
 小型の歪虚に、最初にけりをつけたのは、璃袈だった。
 全体を見回し、魔法を発現させると――璃袈の前に光の三角形が出現する。
 デルタレイ。きゅぉおっ! 頂点から伸びた光が、一度に三匹全てを貫いた。
 ゴァッ、と低い声を出しながら、直人の前の一匹が消滅していった。
「これで残りは、二匹ですね……!」
「じゃあ、そっちの一匹はもらうぜ」
 直人が、自分に向かってくる一匹を狙う。
 瀕死のその一匹は、なりふり構わず、直人に飛びかかろうとしている。直人はその動きを見極めていた。爪も体当たりも喰らわず、逆に、スピアをまっすぐに突き出す。
 どっ、と、それで息の根を止めた獣は、散り散りになって消えた。
「これで最後ですわね」
 美沙樹が、残る一匹に視線を向ける。刀を鞘に収めた状態から――居合での斬撃。ずおっ、と閃く剣線に、獣はもんどり打った。
 居合の衝撃で、獣は反撃もままならない。その間に、直人の風の刃――ウインドスラッシュと、璃袈の銃撃がさらに獣を襲う。
 獣は満身創痍ながらも、がむしゃらに美沙樹へ爪を振るう。が、文字通りの悪足掻きを、美沙樹は冷静に見切った。躱して懐へ入ると、獣を肩口から、深々と刀で切り裂く。
 鳴き声を漏らす暇も無く、獣は絶命して消えた。
 息つく時間もないまま、美沙樹は工場を見る。危険な敵が、まだ残っていた。

 巨大な獣は――怒りを浮かべるように、義経に敵意を向けていた。
 土煙を切り裂くように、だんっ、と豪速で跳躍、義経に強烈な爪攻撃をしかけてくる。
 ざっ! 義経は、体をひねってうまく回避する、が、防具に深い爪のあとが残った。
「おっ、と……! こりゃあ、まともに喰らったらやばそうッスね」
「援護します!」
 義経の後方で、秋桜は魔法を行使。どぉん!とアースバレットを獣の胴体に命中させる。
 獣が苦悶の声を漏らしたところを、義経は逃さない。ナイフを一閃――スラッシュエッジを間近から喰らわせ、獣の爪をその指ごと切り落とした。
『ガァッ!』
 獣はそれでも、爪を失った脚を振り回す。どっ、と防御する義経は、衝撃を殺しながら転げるが――その勢いで壁に激突した。
「わぁっ、大丈夫ですかっ?」
「何とか、ね!」
 義経は秋桜に答えながら、すぐに起き上がる。間髪入れず、手裏剣を投げた。
 獣の体が刻まれていくと同時――秋桜もファイアーボールを撃ち込んでいく。獣は炎に飲み込まれるが――
『ガァ、ァアアアッ!』
 体毛を消し炭のようにしながらも、獣はいまだ、勢い衰えない。
 体を大振りに回して、がれきを蹴った。高速で飛んだそれが、秋桜の体をかすめ、血を滲ませる。
「く……元気な狼さんですね」
 こちらの体力もじりじりと、削られている。このままでは、こちらが先に消耗する可能性すらあった。
「さすがに二人じゃきつくなってきた、って感じッスね」
 義経も血を拭って、戦いを継続しようとするが――そのときだ。
 赤い光が煌めいた。どすっ!と飛来してきたそれが、次の攻撃に入ろうとしていた獣を、横合いから突き刺した。
 次いで、どうっ!という発砲音。
 続けざまの衝撃に、獣はたたらを踏んだ。離れた場所から攻撃をしかけた彼らの姿を見て――義経は、顔を明るくした。
「――直人センパイ! ミケっち!」

●親子
 工場内へ駆けて来たのは……直人と璃袈と美沙樹。そのうち、直人と璃袈が、遠距離攻撃を叩き込んだ。
「あっ、音羽さんも!」
「遅れましたわ。お二方とも、平気ですの?」
 秋桜の言葉に応える美沙樹は、秋桜達を守るような位置に入り込み、刀を構えて立っていた。
「こっちは平気……とも簡単に言いきれない感じッスけどね」
 義経がほんの少し苦笑って見せる。
「中々苦戦してるみてぇじゃねぇか?」
「おや、苦戦、とまではいかないッスよ?」
 直人の言葉は、あしらってみせる義経だったが……負った傷はさすがに隠せない。それを璃袈は見逃していなかった。
 璃袈にとって、義経は苦楽を共にしてきた、信頼している大切な仲間の一人。あの獣は、そんな彼に平気で傷を負わせた。
 にっこりとした笑みを保っているが、璃袈は心の中でだけ、静かに憤怒していた。
「これは、早く倒さないとですねっ」
 言って、璃袈は最初に攻撃を開始した。獣の顔に、まっすぐに銃弾を撃ち込む。
『グォアアッ!』
 獣はもだえながらも、咆吼して突っ込んでくる。だが美沙樹がそれを許さない。
 半身の姿勢で、刀を水平に構えると――疾風剣。まさに風のように間合いを詰め、獣の脚を一本、切り落とした。
 直人も獣へ迫り、スピアで正面から刺突。獣は、揺らめいた。一気に、体力が残り少なくなっているのだ。
 秋桜はそこへファイアーボールを投げ込む。
「これで追い込みます……っ!」
 歪虚に襲われた人達。そこへ居合わせたのは、偶然だ。
 だから秋桜は、この偶然を奇跡にして、みんなの笑顔で終わらせたかった。
 炎に包まれた獣に、義経が飛び込む。力を込めて、ナイフを獣の首元へ突き刺した。
 しかし獣はぎりぎりで倒れない。力を振り絞って、脚を振り上げてくるが――ぎんっ、と直人がスピアでそれを受けた。
 直人と視線を合わせ、義経はスラッシュエッジ。
 今度こそ、獣は反撃も叶わず――両断され、土煙と化すように消滅していった。

「無事で良かったですわ」
 美沙樹の言葉に、スティーブと少年の二人は……揃って頭を下げた。
「本当に、助かった。すまなかったな」
 少年は無傷。スティーブは、多少のけがはあったものの命に別状は無かった。そんなスティーブに、先ほどから少年は文句を言っていた。
「犠牲になろうとするなんて。自分が死んだら、意味ないだろ」
 それから小さく、言った。
「ちゃんと、最後まで教えてくれよ」
 スティーブは、悪かったな、と答えていた。その顔は、いまだ迷っているようでもあったが……。二人から事情を聞いて、秋桜は笑みを浮かべていた。
「親子で、師弟。いい関係じゃないですか」
「……だが、俺はそんなつもりでは……」
「技術ってのは、抱えるもんじゃねーよ。受け継いでくもんだろ」
 直人の言葉に、スティーブは黙る。
「好きにすりゃいいけどな。ま、そこのガキがまともなもん作れるようになったら、買いに行ってもいいが」
 ぶっきらぼうな言葉ではあったが……直人がそう言うと、スティーブはどこか、晴れやかなものを浮かべていた。
「……ありがとう」
 それからスティーブは……一度、少年が住む街区まで行く、と言った。
 ハンターは彼らを、安全な場所まで送っていくのだった。

 ――スティーブが歪虚に狙われたのは、遠出した鉱山の材料で作った鎚に、負のマテリアルがあったからだ、ということだった。
 今はその浄化も進めながら、息子と、その母――元妻と、やり直すために奔走している。
 そんな便りが、後にスティーブからハンターたちに届いた。
 先はどうなるかわからない。それでも、頑張りたい。そう、綴られていた。
 最後に、スティーブはこう結んでいた。
 いつか、立派な刃物を見せてやるよ。だから、そのときは見に来てくれ。
 最大級の感謝をハンターに――と。

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MVP一覧

  • 現代っ子
    高円寺 義経ka4362
  • 清冽の剣士
    音羽 美沙樹ka4757

重体一覧

参加者一覧

  • 堕落者の暗躍を阻止した者
    バレル・ブラウリィ(ka1228
    人間(蒼)|21才|男性|闘狩人
  • 歌姫を守りし者
    綾瀬 直人(ka4361
    人間(蒼)|17才|男性|魔術師
  • 現代っ子
    高円寺 義経(ka4362
    人間(蒼)|16才|男性|疾影士
  • ブリリアント♪
    秋桜(ka4378
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師

  • 三鷹 璃袈(ka4427
    人間(蒼)|16才|女性|機導師
  • 清冽の剣士
    音羽 美沙樹(ka4757
    人間(紅)|18才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/28 03:53:24
アイコン 作戦相談
高円寺 義経(ka4362
人間(リアルブルー)|16才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/06/02 18:04:27