• 不動

アンナの病床日誌

マスター:のどか

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/06/02 12:00
完成日
2015/06/10 18:45

みんなの思い出

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オープニング

 辺境での勝利を経て、必要な事後処理を終えた同盟陸海軍は、帰郷の途へとついていた。
 ホープに駐留する最低限の復興支援部隊を残し、海軍揚陸隊、特機隊などの主戦力のすべてを一度本部へと戻し、戦力の再編を行うのが大本の狙いであった。
 復興のメインは資金力と意欲のある商人達に道を譲り、軍部は今まで通りの海路の護衛に派兵を縮小。
 陸路の支援に関しては、往来通りに各個人の依頼主の判断で、ハンター達の力に委ねる所を大きくしていた。
 その一方で、一度に軍の大勢を引いてしまったために空いた細かい「穴」を埋めるための小規模な後方支援部隊もまた、商隊の護衛を兼ねながら、故郷を発ってホープを目指している。
 現在、新兵の錬成部隊としての意味を大きくしているエスト隊もまた、その例に漏れず復興支援としての穴埋め役の命を受けて、ホープ復興を目指す旅路にその身を於いていた。
「大事な時は本部待機させといてよ~、雑用の時だけ呼ばれるってどういうことだよ。なぁ?」
 身の丈ほどもある大剣を背中に、後ろ手で頭を支えるようにして、バン・ブラージは何処までも続く青空を見上げながらそうぼやいていた。
 ヴァリオスを発ったエスト隊4名は、商人が雇ったハンターと共に、支援物資の護衛を兼ねる形で商隊に同行。
 海路を経て辺境の地へと降り立ち、ホープへと続く陸路へ、仕事の場を移していた。
 荷馬車の立ち並ぶ商隊は、食料や衣類と言った生活用品から、木材・工具などの作業資材を含め、多くの物資を希望の地へと運んでいる。
 今だ歪虚との小競り合いが続く中、そういった物資が狙われる事も視野に入れた護衛であったが、あっけないほどに雑魔の「ぞ」の字も見かける事無く、平和な旅が続いていた。
「新兵だから、と侮られているのは僕も気に食わないさ。だがそれをぼやいた所で、変わる状況でも無い。君は少し我慢と言うものを、知るべきじゃないか?」
「何ぃ?」
 メガネの少年、ピーノ・ガルディーニの言葉に、眉をピクリと動かすバン。
 詰め寄ろうと一歩、足を踏み出すが、そんな彼らの間に一人の少女が割って入っていた。
「あ~、もうやっと寝たよ。どうして私が看病しなきゃいけないの~?」
 うんと背を伸ばした少女、フィオーレ・スコッティの姿に2人の視線は一度互いを反れた。
「隊長の様子は?」
「大変よ~、結局馬車も乗り物だから、どっちにしても具合悪そうなんだもの。でも歩ける状態じゃないし、我慢してもらうしか無いのだけど」
 問いただすピーノに、フィオーレはため息混じりに答える。
「噂には聞いてたけど、あれだけ酷いとはね~」
 辺境へ続く海路にて、アンナは「酔っていた」。
 彼女の乗り物酔いは今に始まったわけではないが、その姿を始めて見る新兵達にとっては驚きの一点張りである。
 文字通り、動ける状態では無い隊長を前に慌てふためくも、なんとかその看病をし、彼女の指示を仰いで、任務の継続に繋げていた。
「私はホープまでずっと隊長に付いてるから、後はよろしくね~」
 状況報告だけを済ませ、フィオーレはひらひらと手を振って、馬車へと戻ってゆく。
 再びバンとピーノの2人が、その場に取り残された。
「そう言って、体よくサボるんだからな……ウチの姫様は」
 ピーノは目がねの位置を治しながら、小さなため息を付いた。
「いいじゃねぇか。隊長とは言え女なんだ、そういうのは女同士の方がよ」
「それはそうかもしれないが……」
「なんだよ、うだうだ悩んでるなら自分が行けばいいじゃねぇかよ。男らしくねーな!」
「ど、どういう意味だよそれは!」
「知ってるぜ~? お前が隊長の事――」
 そういい掛けたバンの顔面を、ピーノの拳が捉える。
 ゴキリと良い音がして、拳がめり込んだ。
「――ってぇな、何しやがる!?」
「キミがありもし無い事を嘯くからだッ! そういうキミこそどうなんだよ、姫のご機嫌は!?」
 怒鳴りつけるピーノの顔面に、今度がバンの拳がクリーンヒット。
 体格差もあってか、綺麗に彼の体が宙を舞う。
「アイツは関係ねーだろ! そもそも、そんなんじゃねぇし!」
「……どっちが女々しいんだか」
「んだと、やんのかオラァ!?」
「上等だ、いい加減キミとはウンザリだったんだ」
 それから殴り合いの喧嘩が始まるのに、そう時間は必要なかった。

 任務そっちのけで騒ぐ2人であったが、騒ぎを聞きつけたハンター達に、無理やり引き剥がされる。
 腫れた頬で、血の混じった唾を吐き捨て、一時は平静を取り戻す2人。
 しかしながら、それからその仲がより険悪なムードであった事は、言うまでも無いだろう。
 普段ならアンナに諌められてなあなあながら仲を取り持つ2人だが、今回はそのストッパーも不在。
 文字通り、野放しの闘犬が2匹、鎖で互いの首を繋いで歩いているようなものだった。
 こんな状態でホープまで持つのか――行く先の不安が、ハンター達の間を駆け巡っていた。

リプレイ本文


(……うわぁ。これだと、前線出たら死んじゃうよ)
 ホープへと続く長い道中。
 冷戦状態の続く新兵二人を前にして、キヅカ・リク(ka0038)は嫌な汗を額に感じていた。
 仲介役になれる隊のほかのメンバーもおらず、文字通り放し飼いとなっている闘犬2頭。
 要のアンナ=リーナ・エスト(kz0108)曹長も病床に就いている状況で、このまま放っておけば、またいつ取っ組み合いが始まるかも分からない。
「多少成長しているかと思いましたが、根本的なところでは相変わらずですか」
 横になるアンナを前にして、呆れた様に口にするエルバッハ・リオン(ka2434)。
「それは私の怠慢でもある……」
 うめく様に口にするアンナ。
 額を覆う濡れタオルとそれを押さえる腕で、表情まではよく分からないが、きつく結んだその唇から心境は痛いほどよく分かった。
「お姉様、お水、飲めますか? ムリなら口移ししますか?」
 ぽっと頬を赤らめながら水を薦めるティナ・レミントン(ka2095)に、アンナは手を振って「大丈夫」と告げる。
 その様子に至極残念そうに眉を寄せるティナであったが、そのままエルバッハと同じように外の新兵達へと視線を投げかけた。
「喧嘩するほど仲が良いって言うし……つまるところ、愛ですよね」
 至極当たり前の事のように語る彼女に、一瞬の微妙な間と共に一斉に「?」が浮かび上がる車内。
「……二人のことは皆でどうにかしますから、ゆっくり休んでください」
 そんな空気を取り持つように口にしたエルバッハの言葉に、アンナは小さく首を縦に振るのであった。


 バンとピーノの仲は相変わらずのまま、それでも護衛任務は続いてゆく。
 2人もまるっきり子供と言う訳でもない、このまま一緒に居ても仕事にならない事を分かっているのか……それとも単純な毛嫌いなのか。
 商隊の前後に分かれるハンター達に習うようにして、それぞれがお互いを遠巻きに置くように距離を置いていた。
「しっかし、どうしてこう、ぶつかっちゃうかなぁ……」
 頭を掻き毟りながら鳴沢 礼(ka4771)は、誰に縋るでもない独り言を呟いていた。
 新米の自分がいかにもハンターっぽい仕事にあり付けて喜んだのも束の間、依頼の外の面倒ごとに巻き込まれるだなんて誰が予想出来た事だろう。
 喧嘩は引き剥がせば一時的な解決にはなる……が、それが根本的な解決にはならない事は確かだ。
「すまないな、ウチの馬鹿が粗相ばかり」
 そう、ため息を吐きながら答えるピーノ。
 彼自身に落ち度が無い訳でも無いのだが、どうやら認めたくは無い様子が伺えた。
「うぅん……俺馬鹿だからさ、いまいちピーノさんの気持ち分からないんすけど。具体的にどこが気に入らないんすか?」
「具体的に――それは全部挙げれば、キミの気が済むのか?」
「あー……うん、わかんねっす」
 何故バンの事で、目の前の少年は頭を悩ませているのか。
 それが理解できないかのように答えるピーノであったが、礼自身も整理が付かない様子で返事をすると、まあ良いだろうと言ってメガネのブリッジを静かに押し上げた。
「挙げればキリは無いな。ガサツ、馬鹿、思慮が浅い、デリカシーも無い、安直、無鉄砲――思い出すだけでも虫唾が走るよ」
「あぁぁぁ、もう良い、もう良いっす!」
 レンズ越しの瞳が不穏な輝きを灯し始めたのを前にして、慌てて制す礼。
 少なくともそれだけで、上っ面のパフォーマンスでは決して無い事が、痛いほど良く理解できていた。
「――けどね、そうして晴れる気は一瞬だけよ」
 そんな二人の様子を静観していた牡丹(ka4816)が不意に発した言葉に、ピーノの眉がピクリと、反応する。
「気に食わない人間がいるなら、自分が強くなって相手を見返す事を考えなさいよ」
「そ、そこまで言わなくってもさ」
「何、間違った事言ったかしら?」
 牡丹のドストレートな物言いに、ドキリとする礼。
 居心地の悪さに見るからに焦りを見せながらも、恐る恐るピーノの表情を伺う。
「……それができるなら、とっくの昔に僕はアイツに勝てているさ」
 礼の心配とは裏腹に、意外なほど冷静――いや、冷め切った様子でピーノはそう、誰に言うでも無く呟いていた。

「バンさんにとって、ピーノさんってどんな方なんですか?」
 礼や牡丹達とは所を別にして、バンと共に任務に就いた青山 りりか(ka4415)もまた、彼らの確執の本懐を探るべく、彼にそう問いただしていた。
「口だけのモヤシ野郎だろ」
 彼女の問いに、バンは一言で吐き捨てるように答える。
「『キミはこういうのに弱い』『キミはこういう癖がある』、なーんて偉そうに言っておいてよ、一回も俺に勝てたことないんだぜ。笑っちまうよな!」
 そう言って、ゲラゲラと笑ってみせるバン。
 その言葉を聞きながら、りりかは共に笑うでもなく、ただ真正面から彼に聞き返す。
「でもその指摘って、全部本当の事なんですか?」
「……さぁな。アイツに言われた事なんて、気にした事ねーし」
 ぶすっと口先を尖らせて答えるバン。
 その答えに、りりかも小さく苦笑で返す。
「じゃあ、逆にいい所ってどこだと思いますか?」
「はぁ!? アイツにいい所!?」
 次いだりりかの質問に、バンは素っ頓狂な声を上げる。
 素直になれなくって、気にしている事を突かれて、カッとなってしまうのは自然な事。
 ただ、相手の気にしている事が分かるって事は、それだけ相手の事を見ているんだと……りりかはそう考えていた。
 自分が、そうであったように。
「いい所なんて……無ぇんじゃねーの?」
 ぶっきら棒にそう返すバンであったが、その後暫く、彼の口数が目に見えて減った代わりに、うんうんと頭を捻る様子が見受けられたと言う。


「なに笑ってんだよ!」
「さぁ……あまりに間抜けな顔を見たからかな」
 それから暫くして、ひょんなことから顔を合わせてしまった2人は、再びいがみ合うように喧嘩を始めてしまっていた。
 もはや理由なんて無いように、ただただ出会ったから喧嘩をした――意地を張るかのように、ただただ同じ事を繰り返している。
「だーっ! ストップストップ!」
 その度に礼が間に入って止めようと身体を張るも、このままでは文字通り身体がいくつあっても足りそうに無い。
 そんな時であった。
「二人共……争うのは止めるんだ!」
 何故か逆光を背に、現れた1つの人影。
 どこかで見たその服装に、バンとピーノの2人は弾かれたように振り向いた。
 身に覚えのある背格好に、ブレザーの制服。
 頭に被った略帽。
 彼女はまさか――
「隊長……」
「……馬鹿か。隊長は金髪じゃない」
 口をあんぐりと開けて釘付けになるバンに、ピーノがトゲを持ってそう答えた。
(お姉様の制服……はぁ、いい臭い)
 背を向けた背後で、恍惚な表情を浮かべるティナの姿。
 背格好が近いからと、アンナの制服を借りてのニセ隊長のお言葉作戦である。
 が……流石に髪の色まではごまかせず、すぐにバレてしまったよう。
「商隊に迷惑をかけ任務に失敗すれば、最悪で隊は解体。我々はバラバラになるかもしれない……それでも良いのか!?」
「二度とピーノの顔を見なくて済むとか、清々するぜ」
「それに限っては、腹立たしいが同感だ」
 ニセ者だと分かった以上は彼らにとって威厳もへったくれも無いのか、どうでも良さそうに答える2人。
「気持ちは分からなくもないけど、自分たちがどれだけ幼稚なこと言ってるのか分かってる?」
 そんな2人に対し放たれた牡丹の言葉が、チクリと、2人の心に突き刺さった。
「隊の解体かは分かりませんよ。でも、お二人が仲たがいをしたままで、今後の任務に支障が出るようならば……最悪の場合、何らかの処分は下るでしょう」
 淡々とした口調で、彼女の言葉に続けるエルバッハ。
「もしもそうなった場合、アンナ隊長も監督責任を問われるでしょうね。その事を、2人は何とも思いませんか?」
「それは……」
 痛いところを突かれたのか、急に押し黙る2人。
「――そんなんだから、今回だって最前線に立てないんだよ」
 一時の静寂が流れた場をかち割るかのように、リクの言葉が2人の間に割って入っていた。
「まあ、足手まといが2人も居ちゃ、後方が精一杯だよね」
「んだと……もういっぺん言ってみろよ!」
「何度でも言ってあげるよ。戦場じゃ邪魔なんだよ、キミ達」
 そうぴしゃりと言い切るリクに、沸点の低いバンは当然、ピーノも静かにメガネの奥の瞳を鋭く研ぎ澄ます。
 そんな文字通り一触即発な状態の3人を前に、慌てふためく礼の姿。
 そんな時であった。
「――野犬だぁぁぁ!」
 叫んだのは誰だっただろう。
 声がした方角に、弾かれたように視線を向けるハンター達。
 その先に、群れを成して荒野を駆ける野犬たちの姿。
「歪虚――いや、ただの野良犬ですか。おおかた、物資の食料の臭いに釣られて来たのでしょう」
 遠巻きに迫る影を分析しながら、ステッキを手に取るエルバッハ。
 他のハンター達も臨戦に備えるが、当の3人だけは、にらみ合ったように動かない。
「前線でも役に立てるってんなら、僕と同じ――いや、それ以上に活躍できるって事だよね。なんなら勝負しようか。どっちが沢山、野犬を倒せるか……2人がかりで良いよ?」
 言いながら銃を抜き放つリクを前に、流石の2人も頭に血が上った様子で各々の獲物を抜き放つ。
 唐突の環境が生んだ勝負に、3人は身を投じようとしていたのだった。


「俺とお前で1匹ずつ倒せば、アイツが1匹倒してる間にこっちは2匹だ」
「馬鹿な割に頭を使ったじゃないか。くれぐれも、僕の邪魔をしないでくれよ」
 野犬の群れに駆けながら、憎まれ口を叩き合うバンとピーノ。
 一方で、リクの方もりりかに囮役だけやってもらい、自身の獲物を狙い、荒野を駆ける。
 戦場に唸りを上げるバンの大剣に、鋭い一突を放つピーノのレイピア。
 それぞれに1匹ずつ野犬を相手にするも、流石に1撃で倒されるほど犬たちも脆弱ではない。
「手傷を負わせてくれるのか。ありがたいね」
 そうして弱った野犬達を巻き込み、リクのアサルトライフルの銃口から放たれた炎のマテリアルの輝きが、一手に巻き込むように吹き抜けた。
「てめぇ、人の獲物を!」
 あと一手で仕留められた目の前の獲物を、その眼前で掠め取られ、声を上げて不満を露にするバン。
「負傷した敵を放って置いたら危ないだろう。倒すまで、気を抜いちゃいけないんだからね」
 言いながら、りりかに迫る野犬をその銃弾の下で一撃で仕留めて見せる。
 その様子に余計に苛立ちを募らせたのか、渾身の力を込めた大降りで、眼前の敵に大剣を振るうバン。
 しかし、ひらりとかわされたどころか、その鋭い牙が彼の眼前に迫る。
「うぉあ……あっぶねぇ!」
 その横っ面から疾風のごとく駆け抜けた礼が、抜き放った刀でバンの眼前に迫る野犬を突き飛ばす。
 飛ばされた野犬は、よろりと立ち上がると、なおも戦意を滾らせ、彼らに向かって牙を剥き出した。
「ピーノさん、頼むっすよ!」
 叫んだ礼に、はっとしたように駆けるピーノ。
 突き出したレイピアの先が、野犬を深々と串刺した。
「うっはぁ……こえー」
 自分で前に出ておきながら、胸に手を当てて大きく息を吐く礼。
「んだよ……ビビッてんなら後ろで待ってろよ」
「いや、ビビッてるっすけど……一人じゃないなら、やってやるっす!」
 助けて貰ったのに少々バツが悪いのか、どこか歯切れ悪くくちにしたバンに対し、礼は自分を奮い立たせるように拳を握り締め、そう答える。
「でも、今のいい感じじゃなかったっすか。バンさんが敵を引き付けて、俺が態勢を崩させて、ピーノさんが的確に仕留めるって」
「まあ……って、俺、壁かよ!」
「単純なキミにはお似合いじゃないか」
 返すピーノの物言いに、再び突っ掛かろうと身を挺すバン。
 が、迫る彼の身体を、とんとレイピアの柄で押し返す。
「お似合いなんだよ。他にできるヤツは居ない」
 そう、不躾に言ったピーノの言葉に、やはりバツが悪そうに「おう」と一言答えるバン。
『そうやって、2人が活躍できれば……隊長さん達も喜ぶんじゃないかしら?』
 不意に、ピーノの持つトランシーバーから漏れる牡丹の声に、余計に気まずそうに目線を逸らす2人。
「良いか、共闘じゃねぇ。お互いの仕事をやるだけだ」
「当然。キミの仕留め損ないを、僕が尻拭いしてやるんだ。感謝しろよ」
 そう言って、もう一度だけお互いの胸を武器の絵でどんとど突き合う2人。
(あの様子なら……何とかなりそうかな)
 そんな様子を横目に、スキルをムダ撃ちしたかのように撃破数を減らして行くリク。
 野犬がすべて駆逐された頃には、勝負の優位は、完全に入れ替わっていた。


 それから数時間の時が経ち、商隊はホープへ到着。
 物資は無事に、復興中の開拓地へと届けられる事となった。
「あぁ、本当に怖かったんですよ~」
 馬車を降り、ようやくそれなりに復活したアンナの懐にティナががばりと飛び込んだ。
「手間を掛けた……が、その前に服を返して貰えないだろうか」
 着せ替えられ、ティナの服を着たままのアンナはそう彼女に懇願する。
「どうせならこのまま……お姉様の部下になりたいです」
 自分で「ポッ」と口にしながら頬を赤らめるティナに、軍の門戸なら何時でも開いているが……と、事務的に返すアンナ。
 おそらく、彼女の言っている事はそう言うことでは無いのだと思うが――それが伝わるほど、アンナもその道を知りはしない。
「それで……2人は?」
「問題は無いと思いますよ。見ての通り、相変わらずには見えますけれど」
 少し声色に不安を乗せた様子で口にするアンナの問いに、リクが苦笑しながら答えた。
 2人の視線の先では、相変わらず何事か言い争っているバンとピーノの姿。
 そうしてそれを宥める礼に、苦笑しながら見守るりりか。
 後方には、いざとなったら魔法で止めるつもりなのだろう、エルバッハが杖を構えて控えていた。
「少なくとも、『2人である』事の意味は、伝わったんじゃないかなと思います」
 そう自信を持って言い切るリクに、アンナは安心したように頷いてみせる。
「追い越したい相手が近くにいるって……幸せなことよね」
 ふと、ぽつりと呟いた牡丹の言葉の意味は、誰も知る由は無かった。
 その羨望の眼差しは、遠い遥か東方の地を想う様にも、過ぎし誰かを想う様にも見て取れる。
 しかしその真意は表に出る事も無く、ただただ彼女の心に深く、仕舞いこまれていた。
「仲間の本当の意味を理解したら、2人はきっと伸びてくれる……だから、またヤバくなったら来ます。僕自身ももっと、強く成って」
 そう自らに言い聞かせるように宣言するリクに、アンナはただ一言だけ言葉を返していた。

 ――我々もまだ、学ぶべき事が多いのだな、と。

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MVP一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオンka2434

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 幸せの百合の園
    ティナ・レミントン(ka2095
    エルフ|15才|女性|機導師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 藤光癒月
    青山 りりか(ka4415
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 蒼き星雲に祈りを込めて
    鳴沢 礼(ka4771
    人間(蒼)|15才|男性|舞刀士
  • マケズギライ
    牡丹(ka4816
    人間(紅)|17才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/28 21:29:26
アイコン たいちょーさんに質問!
鳴沢 礼(ka4771
人間(リアルブルー)|15才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2015/06/01 21:39:33
アイコン 喧嘩仲裁!【相談卓】
鳴沢 礼(ka4771
人間(リアルブルー)|15才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2015/06/02 02:13:22