ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】珈琲サロンとぱぁずの贈り物
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/08 07:30
- 完成日
- 2015/06/17 02:57
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
乗り合いの馬車で街道を行き、ジェオルジに到着したのは黄昏時、その日はすぐに宿を取って、日が昇ってからあちこち見て回ることにした。
黒いワンピースの妙齢、ユリアはフマーレで喫茶店、珈琲サロンとぱぁずを営む祖父に代わって店長を務めている。店長と呼ばれる度に代理だと応えているが、店の仕切りも大分板に付いてきた。
不機嫌な顔でジェオルジの町を眺めているのはとぱぁず唯一の店員、ローレンツ。ユリアの祖父の頃からの古株で、常連客の多くは彼の煎れるコーヒーを目当てに来ている。
過日、彼等の店で使っているコーヒー豆をジェオルジから卸している問屋の店主が亡くなった。
酷い事故だったようで、暫く周辺は騒がしくしていたが、落ち着きを見たのでこうして2人、豆の買い付けにジェオルジまで直接出向くことにした。
日付が変わり、朝、宿の食堂で朝食を摂りながら、ローレンツはそのコーヒーが店の物とは異なるが良い香りで質の高い物だと言い、ユリアはスクランブルエッグに添えられた自家製ケチャップがとても美味しいと言った。
「だって、私がコーヒーに詳しくなったら、きっとお祖父ちゃんは帰ってこないでしょ?」
今はヴァリオスにいるらしい祖父にユリアは目を細め、ローレンツは孫に通じない祖父の思惑を哀れんで眉間を押さえた。
「あら、ロロさん頭痛いの?」
今日は休む、とユリアは朗らかに尋ねる。
いつも食事時は人の溢れる店を閉めているのだから、そうそう休んでもいられないと、ローレンツは宿を出た。
ジェオルジのいくつかの店を回って、出来ればフマーレとのパイプがある店を探して、これからとぱぁずにも定期的に卸してもらう契約を取り付けなくては。
畑ばかりの町を少し外れて、店の並ぶ通りへ出た。
多くが日用品や日配品、生鮮食品を扱う店だが、遠方への移送を請け負っている店もちらほらと見える。
全ての店はその窓を、ドアを、或いは柵まで、可憐なブーケを飾っていた。
●――ユリア・エーレンフリート
通りを少し歩くと、ある店の看板に少女が一抱えのカラーを吊していた。
店の少女が飾っていたブーケは白い物が殆どだが、その店と、左右の店の窓に吊されたカラーは7色のグラデーションを描いている。
ユリアは1軒戻って紫から、紅色まで1つずつ眺めて歩いた。
お祭りなんですよ、と少女が言った。
春の郷祭。今年は、花がテーマなんです。
この辺りはまだ飾っているだけですが、向こうの会場はステージも出ていますし、屋台のご飯も美味しいんです。
うちも、サンドイッチの屋台、出す予定なんですよ。
少女と別れ、ユリアは花の香る通りを眺めた。
少女の言っていたサンドイッチの屋台には、滞在中に行けそうにないけれど、今出ている屋台をちょっと覗いたり、ブーケをお土産にするのも良いかも知れない。
「ね、ロロさんもそう思わない?――あら?」
隣に声を掛けたが返事はない。
広い通りにユリアは1人ぽつんと取り残されていた。
「……はぐれちゃったのかしら……仕方ない、帰りの馬車で落ち合いましょう」
気持ちを切り替えて、きっとロロさんのことだから、のびのびと美味しいコーヒーを探してくれているだろう。
「そうね、偶には、いつものお礼を……」
花の盛りの会場へ。
一際目を引いたのは大輪のデージー、鮮やかな黄色を囲む清廉な白い花弁。
通りすがりの住人が、今年の目玉だと教えてくれた。
「これは不思議な花でね、昼間はこうして光を集めて、夜にはその光で照らしてくれるのさ」
素敵だろ、と目を細めた住人に礼を言って、ユリアはじっとその花を見詰めた。
屋台には花が溢れている。
何種類ものデージーに、その不思議な花。ポピー、カトレヤ、マリーゴールド。
鉢に咲いたピンクに黄色に紫の洋ランが雫を浴びて鮮やかに咲く。
摘み立てのカーネーションにかすみ草、チューリップにガーベラがバケツに水揚げされている。
「花とおもてなしの春郷祭」、主役の花は季節を問わず何でも揃っているようだ。
●――ローレンツ・ロンベルグ
通りを少し歩いて1つ折れると、静かながらメニューの豊富な喫茶店を見付けた。
この時間からは賑わっていないようだが、ローレンツは一先ずその店に入り、ジェオルジのコーヒーを堪能することにした。
店主との世間話ついでに、フマーレで喫茶店に勤めていることと、コーヒー豆の仕入れ先を探していることを話すと、暫し考えてからいくつかの店名と簡単な地図を書いて寄越した。
この店の仕入れ先らしい。
特に、丸を付けた店はヴァリオスやポルトワールにも卸しているらしいから、行ってみたら良いと、丁寧に道順を説明した。
知人の店だから、繁盛するのは嬉しいそうだ。
一頻りそんな話をしてから、店主が祭には行くのかと尋ねた。
祭、とローレンツが聞き返すと、店主は豪快に笑いながら、今ジェオルジは都市を上げての春郷祭の最中だと言った。
メモを手に店を出ると確かにその店にも、隣も、隣も、通りに花が溢れていた。
「すごいな、ユリア君…………」
広い通りにローレンツはぽつんと1人。さて、店に入るときに、ユリアはいただろうかと首を捻る。
「ああ、いなかったな。……まあ、子供ではないさ、どこかで会えるだろう」
会えなくとも、馬車の時間は決まっている。
ローレンツは紹介された店に向かった。
元々とぱぁずで煎れていた豆が取り扱いの商品にあったらしく、トントン拍子に話は弾み、フマーレ行きの荷と一緒に届けて貰うことになった。
これまでのように無くなったら近所の問屋へ買いに行くという気軽な事は出来ないが、店の味を保てるならば上々だとローレンツは頷いた。
その店にも、当然のように花が飾られていた。
小さな花や大きな花、ユリアや店長の亡き妻が好みそうなピンクと白の可愛らしい花束だ。
「花の祭ですか」
「ああ。春郷祭は初めてですか。今年は花がテーマでね。この辺りは店にブーケを飾っているんですよ」
今回の目玉の花は光る花で面白いから、花に興味が無くとも見ていったらいい。祭の広場は近くだからと勧められた。
広場には様々な屋台が出ていた。
ファーストフードから、アクセサリーや雑貨、ジェオルジらしい新鮮な野菜に、それを使ったスープ。
ローレンツはベンチで一息吐くと、近くの屋台に例の花を見付けた。
「花とおもてなしの春郷祭」か。
ユリアに、偶には何か贈ってみようか。
あの子が幼い看板娘だった頃、女の子の勝手が分からず戸惑いながら贈ったバースデイの人形のように。
乗り合いの馬車で街道を行き、ジェオルジに到着したのは黄昏時、その日はすぐに宿を取って、日が昇ってからあちこち見て回ることにした。
黒いワンピースの妙齢、ユリアはフマーレで喫茶店、珈琲サロンとぱぁずを営む祖父に代わって店長を務めている。店長と呼ばれる度に代理だと応えているが、店の仕切りも大分板に付いてきた。
不機嫌な顔でジェオルジの町を眺めているのはとぱぁず唯一の店員、ローレンツ。ユリアの祖父の頃からの古株で、常連客の多くは彼の煎れるコーヒーを目当てに来ている。
過日、彼等の店で使っているコーヒー豆をジェオルジから卸している問屋の店主が亡くなった。
酷い事故だったようで、暫く周辺は騒がしくしていたが、落ち着きを見たのでこうして2人、豆の買い付けにジェオルジまで直接出向くことにした。
日付が変わり、朝、宿の食堂で朝食を摂りながら、ローレンツはそのコーヒーが店の物とは異なるが良い香りで質の高い物だと言い、ユリアはスクランブルエッグに添えられた自家製ケチャップがとても美味しいと言った。
「だって、私がコーヒーに詳しくなったら、きっとお祖父ちゃんは帰ってこないでしょ?」
今はヴァリオスにいるらしい祖父にユリアは目を細め、ローレンツは孫に通じない祖父の思惑を哀れんで眉間を押さえた。
「あら、ロロさん頭痛いの?」
今日は休む、とユリアは朗らかに尋ねる。
いつも食事時は人の溢れる店を閉めているのだから、そうそう休んでもいられないと、ローレンツは宿を出た。
ジェオルジのいくつかの店を回って、出来ればフマーレとのパイプがある店を探して、これからとぱぁずにも定期的に卸してもらう契約を取り付けなくては。
畑ばかりの町を少し外れて、店の並ぶ通りへ出た。
多くが日用品や日配品、生鮮食品を扱う店だが、遠方への移送を請け負っている店もちらほらと見える。
全ての店はその窓を、ドアを、或いは柵まで、可憐なブーケを飾っていた。
●――ユリア・エーレンフリート
通りを少し歩くと、ある店の看板に少女が一抱えのカラーを吊していた。
店の少女が飾っていたブーケは白い物が殆どだが、その店と、左右の店の窓に吊されたカラーは7色のグラデーションを描いている。
ユリアは1軒戻って紫から、紅色まで1つずつ眺めて歩いた。
お祭りなんですよ、と少女が言った。
春の郷祭。今年は、花がテーマなんです。
この辺りはまだ飾っているだけですが、向こうの会場はステージも出ていますし、屋台のご飯も美味しいんです。
うちも、サンドイッチの屋台、出す予定なんですよ。
少女と別れ、ユリアは花の香る通りを眺めた。
少女の言っていたサンドイッチの屋台には、滞在中に行けそうにないけれど、今出ている屋台をちょっと覗いたり、ブーケをお土産にするのも良いかも知れない。
「ね、ロロさんもそう思わない?――あら?」
隣に声を掛けたが返事はない。
広い通りにユリアは1人ぽつんと取り残されていた。
「……はぐれちゃったのかしら……仕方ない、帰りの馬車で落ち合いましょう」
気持ちを切り替えて、きっとロロさんのことだから、のびのびと美味しいコーヒーを探してくれているだろう。
「そうね、偶には、いつものお礼を……」
花の盛りの会場へ。
一際目を引いたのは大輪のデージー、鮮やかな黄色を囲む清廉な白い花弁。
通りすがりの住人が、今年の目玉だと教えてくれた。
「これは不思議な花でね、昼間はこうして光を集めて、夜にはその光で照らしてくれるのさ」
素敵だろ、と目を細めた住人に礼を言って、ユリアはじっとその花を見詰めた。
屋台には花が溢れている。
何種類ものデージーに、その不思議な花。ポピー、カトレヤ、マリーゴールド。
鉢に咲いたピンクに黄色に紫の洋ランが雫を浴びて鮮やかに咲く。
摘み立てのカーネーションにかすみ草、チューリップにガーベラがバケツに水揚げされている。
「花とおもてなしの春郷祭」、主役の花は季節を問わず何でも揃っているようだ。
●――ローレンツ・ロンベルグ
通りを少し歩いて1つ折れると、静かながらメニューの豊富な喫茶店を見付けた。
この時間からは賑わっていないようだが、ローレンツは一先ずその店に入り、ジェオルジのコーヒーを堪能することにした。
店主との世間話ついでに、フマーレで喫茶店に勤めていることと、コーヒー豆の仕入れ先を探していることを話すと、暫し考えてからいくつかの店名と簡単な地図を書いて寄越した。
この店の仕入れ先らしい。
特に、丸を付けた店はヴァリオスやポルトワールにも卸しているらしいから、行ってみたら良いと、丁寧に道順を説明した。
知人の店だから、繁盛するのは嬉しいそうだ。
一頻りそんな話をしてから、店主が祭には行くのかと尋ねた。
祭、とローレンツが聞き返すと、店主は豪快に笑いながら、今ジェオルジは都市を上げての春郷祭の最中だと言った。
メモを手に店を出ると確かにその店にも、隣も、隣も、通りに花が溢れていた。
「すごいな、ユリア君…………」
広い通りにローレンツはぽつんと1人。さて、店に入るときに、ユリアはいただろうかと首を捻る。
「ああ、いなかったな。……まあ、子供ではないさ、どこかで会えるだろう」
会えなくとも、馬車の時間は決まっている。
ローレンツは紹介された店に向かった。
元々とぱぁずで煎れていた豆が取り扱いの商品にあったらしく、トントン拍子に話は弾み、フマーレ行きの荷と一緒に届けて貰うことになった。
これまでのように無くなったら近所の問屋へ買いに行くという気軽な事は出来ないが、店の味を保てるならば上々だとローレンツは頷いた。
その店にも、当然のように花が飾られていた。
小さな花や大きな花、ユリアや店長の亡き妻が好みそうなピンクと白の可愛らしい花束だ。
「花の祭ですか」
「ああ。春郷祭は初めてですか。今年は花がテーマでね。この辺りは店にブーケを飾っているんですよ」
今回の目玉の花は光る花で面白いから、花に興味が無くとも見ていったらいい。祭の広場は近くだからと勧められた。
広場には様々な屋台が出ていた。
ファーストフードから、アクセサリーや雑貨、ジェオルジらしい新鮮な野菜に、それを使ったスープ。
ローレンツはベンチで一息吐くと、近くの屋台に例の花を見付けた。
「花とおもてなしの春郷祭」か。
ユリアに、偶には何か贈ってみようか。
あの子が幼い看板娘だった頃、女の子の勝手が分からず戸惑いながら贈ったバースデイの人形のように。
リプレイ本文
●ユリア・エーレンフリート
屋台に並ぶ鮮やかで瑞々しい花、こちらへ笑いかけてくるような可憐な様相にユリアも微笑んでそれを見詰める。
その隣に足を止めたエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)がぱらりと挨拶のカードを捲る。その腕に抱えられた印象深いスケッチブックに、ユリアも久しぶりと辞儀を添え、祭を見に来たのかと尋ねる。
『おいしい物! それと、お祭りの絵を描きたいと思ったの』
白い紙面に綴られた文字にユリアが微笑む。
『ユリアさんは?』
私、と肩を竦めて事情を話した。もし良かったら、一緒に花を選んで欲しいと。
快諾を答えるカードを捲ったエヴァがダリアの花を指差し、スケッチブックを一枚捲る。その文字を綴り終える前に、こちらへ向く視線に気付き2人は振り返った。
エヴァがカードを向ける傍ら、ユリアも挨拶を告げると、2人を見詰めていたカリアナ・ノート(ka3733)が肩を跳ねさせ、長い髪を揺らして頬を染めた。
カリアナから見えるユリアの姿は、迷うように赤い花を抱いて微笑む黒いドレスの若い女性。
祭の花に見とれて同行者とはぐれ、折角だから花束を、という事情を聞かなければ絵になっていたことだろう。
「ユリアおねーさん、私の憧れの人と同じ名前……! ――花束のプレゼント? 誰に? どんな人?」
稚く愛らしい声がそわそわと、青い瞳を輝かせるカリアナが、細い腕でユリアの腕を絡め取る。
迷っているというユリアにその腕を揺らして、はしゃいだ声を深呼吸で落ち着けて。
「……好きな色で悩んでいるならね。あのね例えばね、好きなお花の種類とかで選ぶ方法もあると思うわ」
『ダリアの花言葉は感謝! それに、色んな色があるのよ。男性によく贈られるのは、はっきりした色! 桃色は受け取りづらい人が多くて注意ね。だから、お勧めは、むらさき、か、オレンジ――どうかな? ロロさん、ダリアは好き?』
カリアナとの話し声を聞きながら、その受け答えも参考に、エヴァが書き終わったスケッチブックを掲げた。
エヴァの文字を辿ったユリアの目が柔和に笑む。嫌いじゃ無かったと思う。ユリアが言うと、エヴァがスケッチブックを捲った。
『きっと喜んでくれると思う!』
「じゃあじゃあ、一緒に探しいきましょ、ユリアおねーさん」
両側から腕を引かれるように、3人が屋台を回り始める。
その一軒目。鉢を眺めて真剣に考え込むアルファス(ka3312)の姿を見付けた。
「……リンドウの花が好きだから、それは押さえるとして……」
あなたも贈り物を探しているの、と尋ねる3人を振り返り、アルファスは恋人へと頷いた。
「うちは雑貨喫茶なんです。恋人が雑貨担当と飲み物を。僕は甘味担当なので自分でケーキやお菓子を作ってます」
素敵ね、とユリアが微笑む。うちはコーヒーばかりの喫茶店、いつもコーヒーを煎れてくれる店員のお爺ちゃんにお礼のプレゼント。
ユリアの話にアルファスは1つの鉢を指して言う。
「パンジーゼラニウムは深い尊敬――花束なら、かすみそうは感謝が花言葉ですよ」
ユリアとエヴァが顔を見合わせた。
『かすみ草ならぴったりね!』
ダリアと同じ花言葉、かすみ草の白はダリアの鮮やかさに合うだろう。
後は、どうしようかとユリアとエヴァがアルファスを見上げ、アルファスが屋台の花を示そうとしたところに、くぅぅ、と焼き菓子を売る屋台の甘い香りに釣られた音が傍らに鳴った。
「ち、違うのよ! これは、……これは、そう、かみなりが!」
晴れた空を仰ぐと、カリアナが頬を赤らめ、絡めた黒いドレスの腕に顔を伏せて、恥じらうように身を揺らす。
『見に行かない? お菓子もおいしそう。花束と一緒に贈るの、いいと思う』
カリアナの肩をつついて、エヴァがスケッチブックを示した。
2人が連れ立って焼き菓子の屋台へ向かう姿を見送りながら、ユリアとアルファスは花に目を戻した。
お菓子と言えば、とアルファスは花を選ぶ手を止めた。
「僕の得意なレシピで良ければお譲りしましょうか?」
ふふ、と柔らかく微笑んで、ローレンツさんに作って上げては、と首を傾げて。
素敵だけどお菓子なら私も得意よとユリアが無邪気に張り合って笑い、その傍らでアルファスの選ぶ花がダリアとかすみ草に添えられていく。
冴えるような紫のダリアを中心に、白と淡い水色や藤色で囲み、リーフの緑を差して。
恋人への花を選ぶ傍ら、ローレンツへの花束に迷うユリアに声を掛け。アルファスは、時間を掛けて選んだ鉢植えを1つ抱えた。
見回す祭の雰囲気はとても賑やかで明るく、戦いを忘れる日常の幸せが溢れている。
そんな空気を届けられたら、祈るように花弁に唇を寄せて微笑んだ。
アルファスのアドバイスを聞きながら花を選び、店員の手でそれが丸く形を整えたブーケに仕上がる頃、それぞれクッキーを手に2人が戻ってきた。
カリアナが手を振ってユリアを呼び、クッキーの包みの口を向けた。
「あの……っ」
視線を合わせるように屈んで、差し出されたそれを1つ摘まむ。一緒に、と尋ねるとカリアナはこくこくと首を縦に揺らした。うれしい、いただきます、とクッキーを食む。
『おいしいでしょ? 花束と一緒に、どう?』
屈んだ高さに向けられたエヴァの文字に、すごくいい、とユリアが微笑んだ。
エヴァが一枚のカードを差し出した。
元は白無地だったらしいカードの回りに覚えのある小物が幾つも描かれている。
上の方にはカウンターの向こうに並べたコーヒー豆の缶や、カップを収めた棚。回りをクロスを敷いたテーブルが囲い、締めるよう描かれたのは、エヴァも知るハンターの相談に使う広いテーブル。
『メッセージカードなら、言葉を残しておけるでしょ?』
文字を迎えるように描かれた店の様子を、カードの縁を撫でて頷く。
なんて書こうかしら、とユリアははにかんで首を傾げた。
●ローレンツ・ロンベルグ
丹々(ka3767)は果物の屋台でジュースを選んでいると、見覚えのある姿を見付けて瞬いた。
季節の果物の甘いジュースを2人分選んで、両手に1つずつ持ってベンチに向かう。
「ロロさん?」
声を掛けるとその老人が丹々を見た。
「やっぱり、ロロさんだ! 疲れたの? 飲み物いる?」
有り難うと受け取ったローレンツは、それを一口飲んでから、隣に座った丹々を見て首を傾がせた。
甘い物が好きなのだろうか。そう呟く声を丹々が尋ねると、ローレンツはユリアがはぐれたことと、土産を探していると答えた。
「ユリアさんに、おくりもの?」
丹々が首を傾げた。
柔らかそうな猫が白水 燈夜(ka0236)の腕の中で伸び上がり、茶色の髪を飾るヘアピンに狙いを定めた。
「伊織……」
ヘアピンを囓る猫を上目に見上げて、白水は深く溜息を零す。いい加減がじがじするのやめてくれないかな、と諦念混じりに放った視線の先、ベンチに掛ける見知った姿が2つ。
「――やっぱり、ローレンツさん。奇遇ですね」
何度か通った喫茶店の店員と、その店で出会った仲間だと知るとベンチに近付き声を掛けた。
はぐれたのかと、ユリアの不在を尋ねると、ローレンツはあの子がどこかに行ったと口をへの字に尖らせる。
ヘアピンのひよこはまだ猫に囓られている。
ユリアには世話になっているからと、白水もおくりもの探しに加わった。
何が良いんだろうな、そんな風に零しながらローレンツは屋台を眺めて歩く。
「なくなっちゃうものより、ながく使えるものがいいのかなぁ……」
「花のお祭りだから、ブーケはとりあえずあったらいいかも?」
「……そうだな――っ、っと、失礼」
丹々と白水も屋台を眺め、それぞれに興味を惹かれた物に目を留めている。
花の飾りへ目を向けたままで踏み出すと、長身の男に脚が触れた。
「……っとと、悪ぃ」
デルフィーノ(ka1548)は顎を引いてローレンツを見下ろした。
「おっさんも祭見物か? 俺様はデルフィーノ」
逞しい肩を聳やかし、エルフだと口角を上げて笑う。
ローレンツ・ロンベルグ。そう名乗った言葉に、ふむ、と考える仕草を見せて、
「よし、ロロのおっさんだな」
溌剌と笑った。ローレンツは、初対面で付けられた、20年ほど前からの呼び名に咳払いを。
白水の腕で猫が欠伸をひとつ、またヘアピンに噛み付いた。
丹々が、あ、と思い出した様に声を上げた。
「えっと、ユリアさんはピンクが好きだったっけ、ロロさん」
ローレンツがそうだなと頷くと、それならピンクの何かを探そうと笑む。
ピンクか、と白水も首を傾がせる。
「髪飾りとか、どうですか?」
髪を纏めていたはずだから、バレッタとか、リボンとか。そう言いながら髪飾りの並ぶ屋台の前で足を止めた。
「折角、花の祭なんだし、花を使った……もしくは花をモチーフにしたものがまずは浮かぶけどな」
デルフィーノが造花を重ねた花束のようなバレッタや、花模様を刺繍したリボンを取って眺める。
「まあ、若いオンナなら、やっぱ身嗜みとか気にするんじゃねーか」
何の気のない言葉に、ローレンツが眉間を押さえた。
気にしてくれたらいいんだがね、と深々と溜息を。
「うーん……でも、このリボン、シンプルだけどレースが凝ってる。似合いそう」
ローレンツはその白水の眺めるリボンを取るとそっと戻して、昔なら喜んだだろうなと苦く笑った。
だが、と白水の手元を見詰め空を仰ぐ。こんな可愛い物が似合うと言われる程に、あの子は立ち直ってきているのだろう。
丹々もピンクのリボンを眺めているようだ。
それは、君の方が似合いそうだと淡い桃色の大振りなリボンに可憐な花を散らしたバレッタを指し、皺の多い手が丹々の赤い髪を梳いた。
アクセサリーの屋台の通りの外れ、白水がヘアピンを見て足を止めた。並べられた花を飾ったヘアピンを眺め、新しいのが欲しいなと、上目の視線を猫に向ける。
通りを抜けて雑貨の屋台へと歩く。
白水が幾つもの店を回るが、コレという物は見付からない。
「店で使うだろうし万年筆とかどうだろ」
ローレンツは一度は手に取ってみるものの、お気に入りがあるらしいからと棚に戻す。
それじゃ、他の、と白水がふらりと屋台を眺めに歩いた。
「アクセサリーが駄目なら、五感に訴えてみるのも1つの手だ」
デルフィーノがオルゴールを指した。
花のレリーフの箱を開けるとジェオルジの童謡らしい長閑なメロディーが流れてきた。
ああ、いいね。私が欲しいくらいだと笑ってローレンツはその箱を閉めた。
迷う様子のローレンツに、後はそうだなと、別の屋台へ目を向けた。
「ね、ロロさん」
丹々が呼ぶ。
「ロロさん達がきゅうけいや、お仕事のおわりにコーヒーを飲むときって、何をつかってるの?」
店のカップだな、と答えて屋台に並ぶピンクのカップを見た。
ローレンツの眦が垂れる。頬がゆるんで、良さそうだなとデージーを描いたピンクのカップを手に取った。
カップのラッピングが終わると、白水とデルフィーノが戻ってきた。
白水は猫に花を一輪飾り、デルフィーノは急かす様にローレンツを招く。
良い物を見付けたと。向かうのはその通りの少し先。
「贈り物も大事だとは思うけどな」
連れてきたのはメッセージカードの並ぶ屋台。小さなブーケを添えた花柄のカードが置いてあった。
「短くても、思ってる事を書いてやれば、直接言うワケで無くとも――心に響くと思うぜ?」
黒い双眸がにっと笑う。
カードを眺めてローレンツが首を傾がせた。
花の模様を散りばめた、淡いピンクのカード。花束に添えて一言、二言。
「丹々は、……カップで、ちょっとだけ疲れが無くなったりしないかなって、思ったよ」
「んー。俺もそれ、可愛いから似合いそうって思った。それも」
丹々がローレンツの手元の包みを指して、白水も包みとブーケを指して言う。
ローレンツはカードを手に頷いた。
2人のアドバイスもあって、書く言葉はどうにか決まりそうだ。
●
日の落ちる前、乗り合いの馬車の停留所に2組が同時に姿を見せた。
「ロロさん! 何処に行ってたの」
「……ユリア君、それは私の台詞だと思うんだが」
ユリアの声にローレンツは溜息を吐く。
ユリアは肩を竦めてローレンツへ花束を差し出した。
「はい。――ロロさん、いつも有り難う。……アルファスさんが選ぶのを手伝ってくれて、カリアナちゃんはここまでずっと手を繋いで来てくれたのよ」
それからね、と隠すように持っていたカードを差し出して。
「エヴァさんが書いてくれたの。お店の絵、すごいでしょ?」
一緒にお祭りを回ってくれて、と紹介しながら。
花束を受け取ったローレンツは、渋面が笑んでアルファスへ視線を向ける。
「いつか、珈琲のコツでも、教えて下さい。僕も雑貨喫茶を営んでいて……」
店に持ち替えるらしい花を抱えた青年の言葉にローレンツはゆっくりと頷いた。
ユリアの丸い文字が並ぶカードに描かれた店の内装に驚いた目をエヴァに向けて、ユリアと手を繋ぐカリアナに、幼い頃を見ているようだと眦が垂れた。
「……ユリア君、休憩するときも店のカップを使っているだろ」
この子に言われた、と丹々の肩をぽんと叩く。ブーケを添えて、メッセージカードはその花の中に隠すように埋め。言わないのかと、デルフィーノは笑う目を逸らした。
「それから、これもな」
白水が似合いそうだと言っていたリボンを押し付ける様に渡す。
似合う格好をしろってこと、とユリアが笑って受け取った。
「……あ、じゃ、俺からお二人に。最近物騒だしね」
猫をあやして白水が淡いピンクと緑の花のお守りを差し出した。
「ありがとう、大事に持っておくわね」
馬車が停まる。
ハンター達に別れを告げて、また遊びに来てねと微笑んで。
馬車が走り出す、見送っていたハンター達も、祭へ戻ろうと踵を返す。
その背に、ユリアの声が届いた。
ありがとうと手を振って、その手にはブーケから見付かったローレンツのカードが握られていた。
屋台に並ぶ鮮やかで瑞々しい花、こちらへ笑いかけてくるような可憐な様相にユリアも微笑んでそれを見詰める。
その隣に足を止めたエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)がぱらりと挨拶のカードを捲る。その腕に抱えられた印象深いスケッチブックに、ユリアも久しぶりと辞儀を添え、祭を見に来たのかと尋ねる。
『おいしい物! それと、お祭りの絵を描きたいと思ったの』
白い紙面に綴られた文字にユリアが微笑む。
『ユリアさんは?』
私、と肩を竦めて事情を話した。もし良かったら、一緒に花を選んで欲しいと。
快諾を答えるカードを捲ったエヴァがダリアの花を指差し、スケッチブックを一枚捲る。その文字を綴り終える前に、こちらへ向く視線に気付き2人は振り返った。
エヴァがカードを向ける傍ら、ユリアも挨拶を告げると、2人を見詰めていたカリアナ・ノート(ka3733)が肩を跳ねさせ、長い髪を揺らして頬を染めた。
カリアナから見えるユリアの姿は、迷うように赤い花を抱いて微笑む黒いドレスの若い女性。
祭の花に見とれて同行者とはぐれ、折角だから花束を、という事情を聞かなければ絵になっていたことだろう。
「ユリアおねーさん、私の憧れの人と同じ名前……! ――花束のプレゼント? 誰に? どんな人?」
稚く愛らしい声がそわそわと、青い瞳を輝かせるカリアナが、細い腕でユリアの腕を絡め取る。
迷っているというユリアにその腕を揺らして、はしゃいだ声を深呼吸で落ち着けて。
「……好きな色で悩んでいるならね。あのね例えばね、好きなお花の種類とかで選ぶ方法もあると思うわ」
『ダリアの花言葉は感謝! それに、色んな色があるのよ。男性によく贈られるのは、はっきりした色! 桃色は受け取りづらい人が多くて注意ね。だから、お勧めは、むらさき、か、オレンジ――どうかな? ロロさん、ダリアは好き?』
カリアナとの話し声を聞きながら、その受け答えも参考に、エヴァが書き終わったスケッチブックを掲げた。
エヴァの文字を辿ったユリアの目が柔和に笑む。嫌いじゃ無かったと思う。ユリアが言うと、エヴァがスケッチブックを捲った。
『きっと喜んでくれると思う!』
「じゃあじゃあ、一緒に探しいきましょ、ユリアおねーさん」
両側から腕を引かれるように、3人が屋台を回り始める。
その一軒目。鉢を眺めて真剣に考え込むアルファス(ka3312)の姿を見付けた。
「……リンドウの花が好きだから、それは押さえるとして……」
あなたも贈り物を探しているの、と尋ねる3人を振り返り、アルファスは恋人へと頷いた。
「うちは雑貨喫茶なんです。恋人が雑貨担当と飲み物を。僕は甘味担当なので自分でケーキやお菓子を作ってます」
素敵ね、とユリアが微笑む。うちはコーヒーばかりの喫茶店、いつもコーヒーを煎れてくれる店員のお爺ちゃんにお礼のプレゼント。
ユリアの話にアルファスは1つの鉢を指して言う。
「パンジーゼラニウムは深い尊敬――花束なら、かすみそうは感謝が花言葉ですよ」
ユリアとエヴァが顔を見合わせた。
『かすみ草ならぴったりね!』
ダリアと同じ花言葉、かすみ草の白はダリアの鮮やかさに合うだろう。
後は、どうしようかとユリアとエヴァがアルファスを見上げ、アルファスが屋台の花を示そうとしたところに、くぅぅ、と焼き菓子を売る屋台の甘い香りに釣られた音が傍らに鳴った。
「ち、違うのよ! これは、……これは、そう、かみなりが!」
晴れた空を仰ぐと、カリアナが頬を赤らめ、絡めた黒いドレスの腕に顔を伏せて、恥じらうように身を揺らす。
『見に行かない? お菓子もおいしそう。花束と一緒に贈るの、いいと思う』
カリアナの肩をつついて、エヴァがスケッチブックを示した。
2人が連れ立って焼き菓子の屋台へ向かう姿を見送りながら、ユリアとアルファスは花に目を戻した。
お菓子と言えば、とアルファスは花を選ぶ手を止めた。
「僕の得意なレシピで良ければお譲りしましょうか?」
ふふ、と柔らかく微笑んで、ローレンツさんに作って上げては、と首を傾げて。
素敵だけどお菓子なら私も得意よとユリアが無邪気に張り合って笑い、その傍らでアルファスの選ぶ花がダリアとかすみ草に添えられていく。
冴えるような紫のダリアを中心に、白と淡い水色や藤色で囲み、リーフの緑を差して。
恋人への花を選ぶ傍ら、ローレンツへの花束に迷うユリアに声を掛け。アルファスは、時間を掛けて選んだ鉢植えを1つ抱えた。
見回す祭の雰囲気はとても賑やかで明るく、戦いを忘れる日常の幸せが溢れている。
そんな空気を届けられたら、祈るように花弁に唇を寄せて微笑んだ。
アルファスのアドバイスを聞きながら花を選び、店員の手でそれが丸く形を整えたブーケに仕上がる頃、それぞれクッキーを手に2人が戻ってきた。
カリアナが手を振ってユリアを呼び、クッキーの包みの口を向けた。
「あの……っ」
視線を合わせるように屈んで、差し出されたそれを1つ摘まむ。一緒に、と尋ねるとカリアナはこくこくと首を縦に揺らした。うれしい、いただきます、とクッキーを食む。
『おいしいでしょ? 花束と一緒に、どう?』
屈んだ高さに向けられたエヴァの文字に、すごくいい、とユリアが微笑んだ。
エヴァが一枚のカードを差し出した。
元は白無地だったらしいカードの回りに覚えのある小物が幾つも描かれている。
上の方にはカウンターの向こうに並べたコーヒー豆の缶や、カップを収めた棚。回りをクロスを敷いたテーブルが囲い、締めるよう描かれたのは、エヴァも知るハンターの相談に使う広いテーブル。
『メッセージカードなら、言葉を残しておけるでしょ?』
文字を迎えるように描かれた店の様子を、カードの縁を撫でて頷く。
なんて書こうかしら、とユリアははにかんで首を傾げた。
●ローレンツ・ロンベルグ
丹々(ka3767)は果物の屋台でジュースを選んでいると、見覚えのある姿を見付けて瞬いた。
季節の果物の甘いジュースを2人分選んで、両手に1つずつ持ってベンチに向かう。
「ロロさん?」
声を掛けるとその老人が丹々を見た。
「やっぱり、ロロさんだ! 疲れたの? 飲み物いる?」
有り難うと受け取ったローレンツは、それを一口飲んでから、隣に座った丹々を見て首を傾がせた。
甘い物が好きなのだろうか。そう呟く声を丹々が尋ねると、ローレンツはユリアがはぐれたことと、土産を探していると答えた。
「ユリアさんに、おくりもの?」
丹々が首を傾げた。
柔らかそうな猫が白水 燈夜(ka0236)の腕の中で伸び上がり、茶色の髪を飾るヘアピンに狙いを定めた。
「伊織……」
ヘアピンを囓る猫を上目に見上げて、白水は深く溜息を零す。いい加減がじがじするのやめてくれないかな、と諦念混じりに放った視線の先、ベンチに掛ける見知った姿が2つ。
「――やっぱり、ローレンツさん。奇遇ですね」
何度か通った喫茶店の店員と、その店で出会った仲間だと知るとベンチに近付き声を掛けた。
はぐれたのかと、ユリアの不在を尋ねると、ローレンツはあの子がどこかに行ったと口をへの字に尖らせる。
ヘアピンのひよこはまだ猫に囓られている。
ユリアには世話になっているからと、白水もおくりもの探しに加わった。
何が良いんだろうな、そんな風に零しながらローレンツは屋台を眺めて歩く。
「なくなっちゃうものより、ながく使えるものがいいのかなぁ……」
「花のお祭りだから、ブーケはとりあえずあったらいいかも?」
「……そうだな――っ、っと、失礼」
丹々と白水も屋台を眺め、それぞれに興味を惹かれた物に目を留めている。
花の飾りへ目を向けたままで踏み出すと、長身の男に脚が触れた。
「……っとと、悪ぃ」
デルフィーノ(ka1548)は顎を引いてローレンツを見下ろした。
「おっさんも祭見物か? 俺様はデルフィーノ」
逞しい肩を聳やかし、エルフだと口角を上げて笑う。
ローレンツ・ロンベルグ。そう名乗った言葉に、ふむ、と考える仕草を見せて、
「よし、ロロのおっさんだな」
溌剌と笑った。ローレンツは、初対面で付けられた、20年ほど前からの呼び名に咳払いを。
白水の腕で猫が欠伸をひとつ、またヘアピンに噛み付いた。
丹々が、あ、と思い出した様に声を上げた。
「えっと、ユリアさんはピンクが好きだったっけ、ロロさん」
ローレンツがそうだなと頷くと、それならピンクの何かを探そうと笑む。
ピンクか、と白水も首を傾がせる。
「髪飾りとか、どうですか?」
髪を纏めていたはずだから、バレッタとか、リボンとか。そう言いながら髪飾りの並ぶ屋台の前で足を止めた。
「折角、花の祭なんだし、花を使った……もしくは花をモチーフにしたものがまずは浮かぶけどな」
デルフィーノが造花を重ねた花束のようなバレッタや、花模様を刺繍したリボンを取って眺める。
「まあ、若いオンナなら、やっぱ身嗜みとか気にするんじゃねーか」
何の気のない言葉に、ローレンツが眉間を押さえた。
気にしてくれたらいいんだがね、と深々と溜息を。
「うーん……でも、このリボン、シンプルだけどレースが凝ってる。似合いそう」
ローレンツはその白水の眺めるリボンを取るとそっと戻して、昔なら喜んだだろうなと苦く笑った。
だが、と白水の手元を見詰め空を仰ぐ。こんな可愛い物が似合うと言われる程に、あの子は立ち直ってきているのだろう。
丹々もピンクのリボンを眺めているようだ。
それは、君の方が似合いそうだと淡い桃色の大振りなリボンに可憐な花を散らしたバレッタを指し、皺の多い手が丹々の赤い髪を梳いた。
アクセサリーの屋台の通りの外れ、白水がヘアピンを見て足を止めた。並べられた花を飾ったヘアピンを眺め、新しいのが欲しいなと、上目の視線を猫に向ける。
通りを抜けて雑貨の屋台へと歩く。
白水が幾つもの店を回るが、コレという物は見付からない。
「店で使うだろうし万年筆とかどうだろ」
ローレンツは一度は手に取ってみるものの、お気に入りがあるらしいからと棚に戻す。
それじゃ、他の、と白水がふらりと屋台を眺めに歩いた。
「アクセサリーが駄目なら、五感に訴えてみるのも1つの手だ」
デルフィーノがオルゴールを指した。
花のレリーフの箱を開けるとジェオルジの童謡らしい長閑なメロディーが流れてきた。
ああ、いいね。私が欲しいくらいだと笑ってローレンツはその箱を閉めた。
迷う様子のローレンツに、後はそうだなと、別の屋台へ目を向けた。
「ね、ロロさん」
丹々が呼ぶ。
「ロロさん達がきゅうけいや、お仕事のおわりにコーヒーを飲むときって、何をつかってるの?」
店のカップだな、と答えて屋台に並ぶピンクのカップを見た。
ローレンツの眦が垂れる。頬がゆるんで、良さそうだなとデージーを描いたピンクのカップを手に取った。
カップのラッピングが終わると、白水とデルフィーノが戻ってきた。
白水は猫に花を一輪飾り、デルフィーノは急かす様にローレンツを招く。
良い物を見付けたと。向かうのはその通りの少し先。
「贈り物も大事だとは思うけどな」
連れてきたのはメッセージカードの並ぶ屋台。小さなブーケを添えた花柄のカードが置いてあった。
「短くても、思ってる事を書いてやれば、直接言うワケで無くとも――心に響くと思うぜ?」
黒い双眸がにっと笑う。
カードを眺めてローレンツが首を傾がせた。
花の模様を散りばめた、淡いピンクのカード。花束に添えて一言、二言。
「丹々は、……カップで、ちょっとだけ疲れが無くなったりしないかなって、思ったよ」
「んー。俺もそれ、可愛いから似合いそうって思った。それも」
丹々がローレンツの手元の包みを指して、白水も包みとブーケを指して言う。
ローレンツはカードを手に頷いた。
2人のアドバイスもあって、書く言葉はどうにか決まりそうだ。
●
日の落ちる前、乗り合いの馬車の停留所に2組が同時に姿を見せた。
「ロロさん! 何処に行ってたの」
「……ユリア君、それは私の台詞だと思うんだが」
ユリアの声にローレンツは溜息を吐く。
ユリアは肩を竦めてローレンツへ花束を差し出した。
「はい。――ロロさん、いつも有り難う。……アルファスさんが選ぶのを手伝ってくれて、カリアナちゃんはここまでずっと手を繋いで来てくれたのよ」
それからね、と隠すように持っていたカードを差し出して。
「エヴァさんが書いてくれたの。お店の絵、すごいでしょ?」
一緒にお祭りを回ってくれて、と紹介しながら。
花束を受け取ったローレンツは、渋面が笑んでアルファスへ視線を向ける。
「いつか、珈琲のコツでも、教えて下さい。僕も雑貨喫茶を営んでいて……」
店に持ち替えるらしい花を抱えた青年の言葉にローレンツはゆっくりと頷いた。
ユリアの丸い文字が並ぶカードに描かれた店の内装に驚いた目をエヴァに向けて、ユリアと手を繋ぐカリアナに、幼い頃を見ているようだと眦が垂れた。
「……ユリア君、休憩するときも店のカップを使っているだろ」
この子に言われた、と丹々の肩をぽんと叩く。ブーケを添えて、メッセージカードはその花の中に隠すように埋め。言わないのかと、デルフィーノは笑う目を逸らした。
「それから、これもな」
白水が似合いそうだと言っていたリボンを押し付ける様に渡す。
似合う格好をしろってこと、とユリアが笑って受け取った。
「……あ、じゃ、俺からお二人に。最近物騒だしね」
猫をあやして白水が淡いピンクと緑の花のお守りを差し出した。
「ありがとう、大事に持っておくわね」
馬車が停まる。
ハンター達に別れを告げて、また遊びに来てねと微笑んで。
馬車が走り出す、見送っていたハンター達も、祭へ戻ろうと踵を返す。
その背に、ユリアの声が届いた。
ありがとうと手を振って、その手にはブーケから見付かったローレンツのカードが握られていた。
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【雑談卓】春郷祭観光 白水 燈夜(ka0236) 人間(リアルブルー)|21才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/06/07 00:01:03 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/08 07:00:56 |