悪意無き無垢なる悪意

マスター:T谷

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/06/02 22:00
完成日
2015/06/10 05:05

みんなの思い出

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オープニング

「うふふふふ……」
 第二師団都市カールスラーエ要塞に本拠を構えるロジーナ商会。その社長であるロジーナ・リュッカーは、漏れ出す笑いを堪えられない。
 棚からご馳走が降ってきたような幸運。それがどんなに色々な人の不幸の上に成り立った不謹慎極まりないものだとしても、商売人としての彼女には自社の利益という数字以外のものが見えていないようだった。
「脳まで筋肉に侵された連中に、耐えてきた甲斐があったというものだわ」
 最前線という立場のこの都市が盾として完全に機能するには、再興中という状況は当然芳しくない。辺境以東での歪虚の攻撃に伴い、都市の復興計画は間違いなく加速する。
 この都市に腰を落ち着ける商人は、それほど多くない。軍から民間へと降りてくる建築関係の仕事の殆どは、彼女の会社が請け負うことになるだろう。
 ロジーナは叩き付けるように呼び鈴を鳴らす。
 やることは山積みだ。直ぐさま駆けつけた秘書の怪訝な顔もどこ吹く風、緩む口元を抑えることもせずにロジーナは素早く指示を飛ばした。





 ロジーナ商会雇われの傭兵達が、若干の怯えと疲れを顔に滲ませながら山を登る。
 小さな山だ。麓から頂上まで、茂みを掻き分けながら歩いても、それほど時間はかからない。ただ、まばらに生えた木々は太く、幹も真っ直ぐで、素人目から見てもこういう木があるから商会はここに目を付けたんだろうなと確信を持った。
 だが同時に、森の雰囲気が良くないような気もしていた。全体的に薄暗いような、空気が薄いような、森の青臭さに何か別の臭いが混じっているような……。
 ただ、それが心にうっすら絡みつく恐怖から来る錯覚なのか、五感に感じる現実なのか。一般人である彼らに判別は付かない。
「……何もねえな」
「そっすね」
 疲れからか、会話は常に最小限だ。何せ、今日の早朝に命令を受けて叩き起こされ、ろくに準備の時間も与えられずに駆り出されたのだ。都市からここまで寝起きの頭で歩きづめで、元気など残っているはずがない。
 しかも、命令はこの山に何か異常がないかの調査だ。ということは、異常がある可能性が存在するということで。
 異常といえば、つまり歪虚。危険手当がたんまり貰える約束を取り付けたとはいえ、それでも割にあう仕事がどうか、ここに来て不安が湧き出してきていた。
 とはいえ、今のところ異常は見当たらない。何の気配も感じず、耳を澄ましても木の葉の擦れる音が静かに流れているだけだ。
 目的地である頂上が近づき、彼らは胸を撫で下ろす。
 人が入って何もなければ、それなりに安全。商会の基準はそうなっているらしい。一番高い地点で伝話をかければ、それで任務は終了だ。
 ――と、思った矢先だった。

『アノ、チョットヨロシイデスカ?』

 甲高く、酷く単調な、男とも女とも知れない声が響いた。
 全員がびくりと肩をふるわせ、ひっ、と小さな悲鳴が漏れる。

『ヒトツ、カンタンナ、ゲームヲシテイタダキタイノデス』

 腰に下げた剣に手をかける。拳銃を抜き、銃弾の装填を確かめる。
 素早く辺りに視線を這わせ、音源の位置を特定しようとする。

『ホントウニカンタンデス。ワタシノシツモンニ、イエス、カ、ノー、デ、コタエテルダケデス』

 何も見つからない。
 ただ、かさかさと小さな何かが草むらで蠢くような音だけが、徐々に耳に届き始めていた。

『ソレデハ、イキマス』

 かさかさという音は続く。
 数が増える。
 距離が縮まる。

『アナタガタノ――カワ、ヲ、イタダイテモ、ヨロシイデショウカ?』

 次の瞬間、全ての音が消えた。
 答えを待っているのだろうと、容易に想像できた。
「か、かわって、何のことだ」
 思わず口に出していた。
 察しは付く。だが、聞かずにいられなかった。
 しかし、答えはない。ただ静かに、木の葉だけが揺れる。
「……ちっ、隠れて奇襲しようってか。ゲームだかなんだか知らんが、卑怯なくれてやるもんなんかねえよ」
 手にした剣の先が震える。どこか遠くにいる自分が、今すぐ逃げろと叫んでいる。
 だが、逃げたところで良いことなど、恐らくない。
 だから、口で強がるしか、取れる手段は存在しなかった。
「ノーだ!」
『ザンネンデス』
 叫んだ瞬間に、草むらから小さな影が飛び出した。咄嗟に剣を振るう。大した手応えもなく、それは真っ二つになって地面に落ちた。
 目を向ければ、それはいびつな人型をした黄ばんだ人形だった。目にはボタン、黒い糸がV字に口を作っている。
「何匹いんだよ!」
 同じものが次々と、草むらから飛びかかってくる。一体一体は非常に弱い。だが、草むらから、木の上から、あるいは地面を突き破って出てくるそれらに対応しきる能力を……彼らは持っていなかった。
 悲鳴が上がる。
 その悲鳴に感情を向ける暇もなく、次の悲鳴が上がる。
 最後の一人は、力を振り絞って伝話に手をかけた。

リプレイ本文


 目の前の草むらが、明らかに変色していた。赤やピンク、黄色に黒などが混ざり合い、複雑な模様を風景に刻んでいる。
「……どうやら、ここが現場らしいな。全周警戒、態勢を整えよう」
 先頭を歩いていたおかげで真っ先にむせ返る酷い臭いに気付いたイヴァン・レオーノフ(ka0557)が、顔をしかめながら背後の味方に手で停止を指示する。
「うわ……バラバラですね」
 その惨状は、見渡せるほど広範囲に渡っていた。原形すら留めない亡骸に微かな羨ましさを感じながら、佐久間 恋路(ka4607)が呟く。
「うーん、もうちょっと新鮮だったら良かったんだけど」
 サナトス=トート(ka4063)はしゃがみ込むと、残念そうに地面に散らばった肉片を指先で転がす。そしてそれを軽く弾くと、もはや興味を失ったように立ち上がり索敵を再開した。
「惨いですね。ここまでする必要はあるのでしょうか」
 フランシスカ(ka3590)はそれらを眺め、無表情の中に悲しさを滲ませる。
「予想はしていたけど、ねぇ」
 同じく十色 エニア(ka0370)も、僅かに目を伏せ、それから気を取り直すように辺りを見渡した。
 幸い、この場所は比較的戦闘に向いた地形だ。傭兵達も、少しでも抵抗しようとここを選んだのかも知れない。
「おや」
 不意に、サナトスが声を上げる。周囲の見通しを良くするために幾度目かの大剣を振るった先、何か、動くものを見た気がした。咄嗟に地面を蹴り、それに手を伸ばす。
「何か見つけたの?」
「ああ……ただのゴミだよ」
 尋ねる七夜・真夕(ka3977)に、サナトスは手の中で暴れるものを掲げて見せた。
 歪な形をした、二十センチほどの人形……らしき物体だ。手から逃れようとしているのか、じたばたと藻掻いている。
「うわあ、聞いてたより気味悪いね。それ、ホントに人形……?」
 若干引いたようなエニアの声も、当然だった。
 薄汚く、有り体に言えば、非常に気色の悪い造形をしている。
「これ、ヒトの皮膚で出来てるね」
 表面に指を這わせて事も無げにサナトスは言うと、
「はあ、やっぱりゴミだ。きちんと処分しないとね」
 そのまま人形の頭を掴み――引き千切った。人形の中身がばらばらと散る。土や葉、石などが詰められていたらしい。

 その瞬間、辺りがざわめき、空気が変わった。
 そして、

『ズイブン、ランボウナ、ヒトタチデスネ』

 声が響いた。どこからともなく、男とも女とも言えない甲高い声が。
「乱暴なのは、そっちが悪いことをしたからだと思うな」
『ワルイコト、デスカ? ナニカ、ソソウデモ、シマシタデショウカ』
 エニアの言葉に、はてと首を傾げたような気配を混ぜて声が言う。
 しかし、こちらの声に答えた、そこにエニアは手応えを覚える。
「……粗相というレベルではないな。皮膚で人形を作るなど、悪趣味にもほどがある」
 サナトスが投げ捨てた人形の残骸は、中身を失ってもまだばたばたと土の上で暴れていた。それに視線を向けたイヴァンが、苛立ちを込めて虚空を睨み付ける。
『アア、ソレハヨク、オジョウサマニモ、イワレマス』
「お嬢様……?」
『……ナンデモ、アリマセン。ソレヨリモ、ワタシト、ゲームヲイタシマショウ』
「いやいや、聞き捨てならないよ。お嬢様って誰のこと?」
『イエス、カ、ノー、デ、コタエテイタダクダケノ、カンタンナゲームデス』
「だ、れ、の、こ、と~?」
 しばらく待つも、声はもう答えなかった。エニアは仕方ないとため息をつき、次の行動に頭を切り換える。
 質問の内容は、もう分かっていた。
『デハ、イキマス。アナタガタノ、カワ、ヲ、モラエマスカ?』
 ほら来たと、ハンター達は身構える。
 真夕は先ほどの人形の事を思い出す。
 あの人形は誰かに操られているのかもしれない。頭上を見上げる。様子を見るならば、特等席になるのは木の上だ。全体を見渡すならば、高い場所がいいに決まっている。
「勿論、ノーだね」
 質問そのものに嫌悪感を感じているように、サナトスは即座に答えた。そんな価値もないことに、協力することなど有り得ない。
 他の者も、根拠はどうあれ同じ考えだろう。
「うーん、俺より強いならあげてもいいですけど……ちゃんと優しく剥がして下さいね」
 と思いきや、恋路の答えはイエスだった。え、と仲間が彼を向く。
『エ』
 声も同じく。
「あはは、だったらわたしもイエスかな~。剥がせるものなら剥がしてみろ、って感じ?」
 そして、エニアが面白そうに笑う。
『エ、エ、イイノデスカ。アリガトウゴザイマス』
 それを聞いて、少し早口に、声が驚いたような台詞を淡々と響かせた。
『アア、イエスト、コタエテモラッタノハ、ウマレテハジメテデス』
 そして、
「来るわ!」
 叫んだ声も掻き消さんばかりのざわめきが、辺りを覆い尽くした。
 次の瞬間、草むらから、木の影から、地面から、葉の裏から――無数の小さな影が飛び出す。先ほど見た人形の群れだ。小さな体からは想像しづらい速度で、一息に彼我の距離を詰める。
「さ、ここからが本番かしら」
「徹底的に潰してあげるよ、ゴミ共」
 エニアが風を纏い、次いでサナトスの体を薄い光の膜が覆う。
 人形達の力はそう強くはないらしい。体重の軽さが災いして、エニアを狙った人形は気流に巻かれてあらぬ方向へ落ちていく。
 サナトスは人形の攻撃を躱そうとはせず大剣の腹でそれを受け止めると、返す刀でホーリーライトを放つ。炸裂した光が人形を包み、弾かれた人形は狂ったようにのたうち回って見る見るうちに動きを止めた。
「おや、アンデッドなのかな?」
「……何だとしても、捕虜にする必要は無し。そも、こんなものを持ち帰っても仕方ないか」
 容赦などする必要も無い。イヴァンは見上げた先に丁度現れた人形に勢いよく手を伸ばす。
 人形を掴むと同時、手の平に感じるのは妙に柔らかい感触。そのまま人形を引き寄せると、見せつけるように大きく両手で引き裂いた。
 腕、足、頭と、二度三度と引き千切り、地面に叩き付けて、踏み潰す。
「……次はどいつだ。首でも腕でも、引き裂き潰し、森の土に還してやろう」
 イヴァンの趣味に沿ったやり方ではない。しかし敵の戦意を挫く事を目的にすれば、これが理に適った戦法だ。
『ア、アレ? ナンデ、コウゲキスルノデスカ?』
 どこからか聞こえる声も、動揺を隠せていない。
「……やっぱり、見てるのね」
 真夕の思索の通りだ。ならばと、真夕は杖の先にマテリアルを集中させながら、大体の見当を付けて辺りに目を凝らす。
「この数は厄介ですが……なるほど、多少の恐怖心は持ち合わせていると」
 味方の補助に回れるようにと後方に立っていたフランシスカだったが、頭上や地中からでは前や後ろなどあってないようなものだった。
 両手に携えた二本の斧を振るい、とにかく手近な人形に攻撃を叩き込む。
「この人形に殺してもらうのは……弱いみたいだし、あんまり嬉しくないですね。あっち、人形があんまりいないようです。一回包囲を抜けましょう」
 恋路は冷静に見極めた一方向を指さして、仲間に提案する。
「そうしよう。こうも群がられては、対処もままならん」
 囲まれた今の状況を打開することに異議はなく、前衛を殿に、エニア、真夕、恋路が一点突破を試みた。

 前衛の間を縫って、エニアのファイアーボールが突き抜ける。その後を追うように恋路が銃弾を木の幹に跳弾させて人形を撃ち抜けば、
「全ての力の源よ! わが手に集いて力となれ!」
 残った人形を、真夕のファイアーボールがまとめて焼き払う。
 包囲を抜けたことで縦に長くなった人形達に、逃げ場はない。一瞬にして膨らみ炸裂した炎が、一帯をまとめて飲み込んだ。
『エット、ゲームニ、イエストコタエテクレタ、ハズデスヨネ。ナンデ、カワヲクレナインデスカ?』
 次々にぼろぼろにされていく人形をどこかで見ているのか、声に悲しげな雰囲気が加わる。
 その瞬間だ。
「……やっと見つけた」
 仲間だけに聞こえる声で、真夕が呟く。全員がハッとして真夕の視線を追い、同時に、向こうが此方の視線に気付く寸前、再び真夕は火球を放っていた。
 狙うのは樹上。先ほどまで一行が居た位置よりも、更に奥。
 火球は着弾し、爆炎が上がる。
「っ!」
 同時に、緑色の何かがどさりと地面に落ちる。
 それは、驚くほどに緻密な迷彩模様の布で。その中からもぞもぞと現れたのは、灰色の硬質で巨大な人形だった。
 目も鼻も口もない、つるりと滑らかな顔。指のないこれまたつるりとした手足。全体的に細長く、関節は丸い玉のようなもので繋がっている。
 人間大のデッサン人形。それが一番近い表現かも知れない。
「なんだ、本体もあんなゴミか」
 期待してなかったけど、とサナトスは吐き捨てて剣を構える。
「イ、イタイデス……」
 デッサン人形が弱々しい声と共に、ふらふらと立ち上がる。その声は、先ほどまで聞こえていたのと同じものだった。
「仕留めるぞ!」
「当然」
 イヴァンが叫ぶが速いか、サナトスが飛び出す。
「では、私は左から」
 次いでフランシスカが駆け出すと、イヴァンも同じく後を追う。
「ヒィッ」
 デッサン人形はハンター達の動きを見るや、小さく単調な悲鳴を上げて慌てて踵を返す。
「逃がすわけ無いでしょ!」
 その背中に向けて、エニアは思い切りマテリアルを込めて火球を放つ。
 炎の塊が一直線に、ごうと唸りを上げて飛び――その進路上に、いきなり小さな人形が飛び出した。
 爆風と共に、オレンジの光が木々を照らす。
 前衛三人の前にも、人形は立ちはだかっていた。主を守る兵士……というよりは、親を守る子供といった様相だ。
 それでも容赦なく斬り伏せるが、まだこれだけの数が潜んでいたのかと驚くほどの物量に、突破し追いかける事が出来た頃には、デッサン人形の姿は見当たらなくなっていた。



 逃がしたままで安全確保とはいかない。そう考えたハンター達は森の奥、転がるように逃げるデッサン人形の背中を見つけた。
 その直後のことだ。突如、巨大な質量の鉄塊が、一行の目の前に隕石のように叩き付けられる。
「何、うちの仕立屋ちゃん虐めてくれてるわけ?」
 そう言いながら、一人の女が目の前に降り立った。金の髪と、目に痛々しいほど赤いドレスを風に揺らし、陽光の中で異様に白い肌が禍々しい。
「ちょっと、あれって……」
「ああ、また会えた……!」
 エニアと恋路が、互いに少し毛色の違った驚きの声を上げる。
 エリザベート。辺境で第二師団の兵士を悉く殺害した、剣妃オルクスの部下と思われる歪虚だった。
「……これは、余り良くないようだな」
「はぁ、邪魔する馬鹿は大嫌いだよ」
 力量差を憂慮するイヴァンを尻目に、サナトスは気にする素振りもなく大剣を手に前に出た。さらには一行を振り返り、
「あんた達は、邪魔だから戻れ」
 冷たい口調でそう告げる。
「きゃははは、何やる気ぃ?」
 それを見て、心底馬鹿にしたようにエリザベートは不愉快な笑い声を上げる。
「うーん、出来れば、手を引いてくれたらいいんだけど」
「あー、そういうの逆効果。言うこと聞くとか、あたしいっちばん嫌いなんだよねぇ。きゃははは!」
 エニアの言葉に、また意地の悪い笑みを浮かべる。交渉は無駄なようだ。
「だから、邪魔だから全員戻れって」
「そんなこと……!」
「……サナトスは、言って聞くようなタイプではないだろう。言い争うよりも、情報を確実に持ち帰るべきだ」
 止めようとする真夕の肩に手を置き、イヴァンが確認するようにサナトスを見やる。
「俺も残りますよ。……今度こそ、絞め殺して貰えるかもしれないし」
 恋路もまた銃を構える。サナトスは、それに何も言わなかった。

 決着は、一瞬でついてしまった。
 恋路の銃弾は掠りもせず、一瞬にして接近を許した次の瞬間には、エリザベートの五指が腹を貫いていて。大剣を振りかぶったサナトスに恋路が投げ飛ばされれば、視界が遮られた隙を突いた肉薄で同じくサナトスも貫かれていた。
「……ああ、ついに、死ねるんですかね」
「くく、俺は死にたいわけじゃないけど……こう綺麗にやられるのも、悪くない」
「……はぁ、死にたがりにドMとか、あたしの一番嫌いなやつじゃん。もっと悲鳴上げたり、苦しそうな顔したりしろよ。ぜんっぜん楽しくない」
 大きくため息をつき、爪に付いた血を舐め取りながら、エリザベートは倒れてなお笑みを浮かべた二人を見下ろす。
「ちっ、言うこと聞くのが、一番嫌いなんだっての。……まーいいや、ここも飽きたし。ってか大体、新しいドレス作れって言いに来たんだった」
 エリザベートは不味そうに、二人の血が混じった唾をそこらに吐き捨てると、少し離れてじっと見守っていたデッサン人形をアイアンメイデンに押し込める。
 そして、何もかもから興味を失い、もはや二人には目も向けることなく、何処か遠くへと飛び去っていった。



 フランシスカは一人、傭兵達も目指したという山頂へとやって来ていた。そこにはぽつんと、古い切り株に囲まれた小さな山小屋が建っている。
 ――だが、フランシスカは察知していた。小屋に何かがいると。
 斧に手をかけ、いつでも撤退できるよう身構えて一歩ずつ進む。別行動の仲間に伝話をかける余裕はなさそうだ。
「おや、お客様ですかな?」
 聞こえたのは、嗄れた老人の声だ。
 先手を打たれ、フランシスカは歩みを止める。
「申し訳ありません。お嬢様は出ておりまして」
 若い女の声が後を引き継ぐ。
「何かご用であれば」
 次に、低い男の声が、
「ご遠慮無く」
 掠れた、子供のような高い声が、
「お申し付け」「下さいませ」「ただいま」「人間を捕らえよとの命令は」「受けておりませんので」「お気をつけて」「お帰り頂くのが」「よろ」「しい」「かと」「存じます」
 次から次に、性別も年齢も違う質の声が、しかし同じ口から発せられているよう流暢に響く。
 小屋から出てくる気配はない。
 ならば、無理に交戦する必要は無いだろう。
 フランシスカは小屋を視界に入れたまま、素早く後ずさる。そして森の中に入ったところで踵を返し、速度を上げると山の麓を目指した。
 背後から何かが追ってくる気配はない。



 報告書を読み終えて、ロジーナは満足そうに笑みを浮かべた。
「さすがはハンターね。傭兵なんかとは、比べものにならない」
 サナトスと恋路という負傷者二名も、どうやら急所を外されたらしく、命に別状はないらしい。
「しかも、ふふ、エリザベートの情報を手に入れたとなれば……これは、軍に対する良いカードになるわ」
 ロジーナは笑う。これで間違いなく、自社の利益は、立場は、大きく向上するのだから。

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MVP一覧

  • 幸福な日々を願う
    フローラ・ソーウェルka3590
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕ka3977

重体一覧

参加者一覧

  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • 鎮魂の刃
    イヴァン・レオーノフ(ka0557
    人間(蒼)|29才|男性|闘狩人
  • 幸福な日々を願う
    フローラ・ソーウェル(ka3590
    人間(紅)|20才|女性|聖導士
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 身中の薔薇
    サナトス=トート(ka4063
    人間(紅)|24才|男性|聖導士
  • 血色に請う永遠
    佐久間 恋路(ka4607
    人間(蒼)|24才|男性|猟撃士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/30 02:47:24
アイコン 【相談卓】
フローラ・ソーウェル(ka3590
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/06/02 10:05:35