The Time Of The Oath

マスター:葉槻

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/06/03 19:00
完成日
2015/06/10 00:09

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●某所 私室
「そうか……漸く、尻尾を捕まえられたの。ご苦労様じゃ」
 穏やかな声音で老紳士が労ると、壮年の貴族と思われる男は跪いて頭を下げた。
「そのようなお言葉……身に余ります。むしろここまで時間がかかってしまったこと、陳謝いたします」
「いやいや、わしこそ、お前さんたちに無理を強いたと思っているから、むしろ今見つかって良かったと言うべきじゃろう。……漸く、動き出した。それを逃さず見つけてくれた。『猟犬』(ヤークトフント)の名に恥じぬ素晴らしい働きじゃ。感謝する」
 男はさらに深く頭を下げて手放しの讃辞を受け止める。
 ――暫く2人は談笑した後、男が丁寧に頭を下げて出て行くと、独り部屋に残った老紳士は窓際に立ち空を見た。
「さてと、それじゃどう動いたもんかの……」
 穏やかな風貌、しかしその目は獲物を狙う獣の目と同じ輝きを宿していた。

●ある森の中
 男達は無言で馬車を走らせる。
 自分達が運んでいる『モノ』が何であるか、うすうす感付いてはいたがそれを口にしたが最後、自分達も『それ』の仲間入りすることになることが解っていたからだ。
 この仕事を無事終えれば1年は食べていけるだけの収入が保証されていた。
 男達は何が何でも生きてこの荷物を目標の土地まで運ばなければならなかった。

 この男達4人は皆同じ村で牧畜を営んでいたが、疫病により牛が全滅してしまい、明日食う物にも困る有様だった所に、この話が持ちかけられた。
「前金として10万G支払おう。……それとも小麦や食糧の方がいいかな?」
 依頼人の男は優しい声音で、男達に最大限譲歩するように交渉を持ちかけてきた。
「そんなに危険はないはずだよ。……ただ、盗賊やゴブリンが出ないとは限らないから……その時は申し訳無いけど、命の保証は出来ない。でも万が一、貴方たちに何かがあっても3割の金額を家族に支払うことを約束するよ」
 男の声音も提案も何処までも優しい。しかし、男から漂う気配が、どうにも空恐ろしく感じていた。
「なんで俺たちに声をかけた。そんなに重要な荷を運ぶなら、ハンターを雇えばいいじゃないか」
 あまりに旨すぎる話しに、1人が不安になって問うた。
「僕はね、ハンターって名乗る連中があまり好きではないんだよ」
 男は口元に弧を描くと、困ったな、と頭を掻いた。
「それに何より、僕自身も農家の出自でね……困っている貴方たちの助けになれたら、と思っているんだ」
 男は幼少の頃に襲われた大凶作の話しを語った。
 それはこの地方で第一次産業に関わっている者なら誰もが覚えている悪夢のような年月。
「その時、僕の家族も同じように救われたんだ。……ねぇ、この国を支えているのは地に足を付けて働いている、貴方たちのような農家や畜産家なのに、あまりにないがしろにされているとは思わないかい?」
 ちょっとバケモノと戦う力があるだけで、法外な報酬を得られるハンターだって、ご飯を食べられなきゃ死んじゃうのにね、と男は笑った。
 その笑みに暗いものを感じて、一同は黙り込む。
「それで、どうするの? 僕は確かに胡散臭いかもしれないけれど、貴方たちを助けたいと思っているのは本当だよ。……引き受けてくれるかな?」
 農家の出だという言葉が、助けたいという言葉が男達の心の敷居を低くしたのは否めない。
 それに何より切実に逼迫して家族が家族として生きていく為には金が必要だった。
 男達は互いに顔を見合わせて「やらせてください」と男に頭を下げたのだった。

 鬱蒼とした針葉樹の森を馬車はひた走る。
 指示された場所まで、あと3日も走れば辿り着けるはずだった。
 しかし、馬車は無常にも止められた。
 道を横断するように倒された樹。
 その周囲には、武器を持った者達。
「ちょっと、荷物を検めさせて貰えるかな?」
 男達4人にはその声が地獄からの死刑判決に聞こえた。
 
 最初の1台には大きな幌付きの荷台が付いていた。幌の中には大小様々な木箱が積み重ねられている。
 後ろの1台には大きな木箱が荷台に積まれていた。
 銃を持った男が、顎で荷をほどくように指示をする。
「中身はなんだ?」
「お、俺たちはこれを運べ、と依頼されただけだから……知らねぇ!」
 後ろの馬車を任されていた男は、突きつけられた銃に恐怖し、愛しい家族の顔を思い浮かべながら涙し、震える手で大きな木箱の蓋に手をかけた。
「た、頼む。荷はくれてやる……だから、俺たちの命までは……!!」
「……? いや、俺たちは……」
 その時、前の馬車から「ビンゴだ!」という声が上がった。
「マジか!?」
 銃を持った男が前の様子を窺おうと視線を木箱から逸らした。
 同時に木箱の蓋は開けられ、その中にあった鉄の棺が露わになる。
 その、棺の蓋に男が手をかけた。

 ――棺の蓋が僅かにずれた、その瞬間、男の首が喰われた。

「……なっ!? うわぁっ!」

 銃を持った男は降りかかる血飛沫に視界を奪われた所、頭上にモーニングスターの鉄球が振り下ろされて頭蓋骨が砕け倒れた。

「まさか……剣機……?!」

 それは水死体のようにぶくぶくと3倍ほどに膨らんだ体躯を持ち、人の頭を食いちぎれるほどの口を持った機械仕掛けのゾンビだった。

リプレイ本文


 剣機が現れ、血飛沫が霧雨のように二台目の馬車を濡らしていく。
「こいつら、何つーモン運んでやがる、です」
「帝国の武器屋はあんな物まで取り扱うのですか……興味深いですね」
 八城雪(ka0146)は現れた剣機を見上げながら呆れたような、面白がるような複雑な声音で呟く。その横で、静架(ka0387)もアイスブルーの瞳を細めて心無しか楽しそうに言うと、怯える馬から下りた。
「あら盗賊団捕まえに来たら、また面白そうなのが釣った魚を狙って大物が食いついてきたような」
 敵に会えた喜びを隠さずライガ・ミナト(ka2153)が口角を上げた。
「皆さん、下がって下さい!」
 ジークリンデ(ka4778)がスリープクラウドを放とうと周囲に声をかける。
 殆どの者が荷物の確認の為に荷台の傍、または御者を制する為に御者台の傍にいたので、その声に彼女の意図を理解して一斉にハンター達は現在地から距離を取ろうと動き出す。
「只の盗品騒ぎじゃなくなったな! 重要参考人の確保はよろしく! その分の時間は稼ぎます!」
 剣機に最も近くにいたメリエ・フリョーシカ(ka1991)は青い燐光の混じる陽炎を背負い、霧から逃れる目的と同時に剣機へと飛び掛かっていく。
「お仲間一人殺った報いは受けて貰うぞ半端ガラクタァッ!」
 怒声と共にオートMURAMASAを胴体へと斬り込もうと振り下ろす。
 それは渾身の一撃に違いなかったが、剣機の腹部に届く前に左手一本でそれを払われる。
「おぉ、避けた!」
「確保が主目的だけど、こんなに美味しい相手とやりあえるのはめったにないんだ遠慮なく行こうか」
 メリエに続いてライガが岩融を構えて接近する。モーニングスターを持つ右手、その指先を狙おうと突きを繰り出すが、狙い過ぎた事が徒となり躱される。
 弥勒 明影(ka0189)は愛馬の脇腹に踵で合図を送ると、剣機と馬車から等しくなる位置へと移動し、赤い瞳で冷静に敵を見据える。外見以上の情報がない現状、能力詳細は戦いながら分析するしか無い。
『元より、敵が不明であろうと踏破して見せる』
 猛り奮える意志を胸にフリューゲルを構え、その引き金を引いた。
「少しは遊べる相手だといいんだがな」
 バイオレット(ka0277)は馬車から距離を取りつつ、赤黒い瘴気を纏った右手でバトルライフルを取り出した。関節部を狙えるかと照準を合わせようとして、素直に中て易い胴体へと変更して引き金を引いた。
「な、何? 何が起こっているんだ……!?」
 二台目の御者台にいる男は恐怖に動けないまま血の雨に全身を濡らしていた。さらに2発の銃声を背後で聞き、離れていくハンター達をただ見つめて……そして眠りへと落ちた。
 ジークリンデが放った眠りの霧は意図した者達を眠らせることに成功していた。
 2発の銃弾をその腹部に収めた剣機は、その銃創の射線上、馬車の向こうに居るバイオレットに近付こうと荷台から御者台へと足を下ろした。
「いけない!」
 『盗賊』たちの避難と誘導を優先に考えていたクロエ・アブリール(ka4066)が悲鳴に近い声を上げたが、無情にもその足は寝入った男の上に下ろされた。
 骨の砕ける音と共に男の首があらぬ方向へ折れ曲がる。
 ゆっくりとした動作で馬車から降りた剣機は右手を無造作に振り払った。
 真横から来る鉄球をライガは避けきれず直撃し、強かに荷台の側面に全身を打ち付けた。
「ライガさん!?」
 静架が声をかけると、血痰を吐きだしながらライガは右手を挙げて応答を返す。
「鉄球なんざ喰らったら、鎧つけてても中身は一発でミンチじゃねえかって思ってたんだが……」
 意外に大丈夫だ、と強がって、岩融に縋りながら立ち上がった。
 クロエは強く下唇を噛みしめた後、すぐに寝入っている一台目の御者達を起こしに行った。
 揺さぶればすぐに目を開いてはくれたが、目の前にいるクロエを見て「ひぃっ!」と男達は再び震え上がった。
「生きたければ立って下さい」
 静架も銃を片手に御者台へ近付くと殺気の籠もった眼差しで鋭く言う。本当は愛犬に男達を見張らせたかったが、剣機という脅威と銃声にすっかり怯えている様子を見て、愛馬と共に行かせたのだった。
 『盗賊』など、その足を撃ち抜いて動けなくして転がしておけばいいのに、とバイオレットは思いながら2人がそれぞれ男達を逃がそうと試みる様子を横目に、再び剣機に向かってゆっくりと銃を構える。
 明影は剣機の注意をを攻撃者側に向けようと再び魔導銃を構えると引き金を引いた。
 銃声に男達はびくっと震え、動きが止まる。
「止まらず、急いで森へ」
「今は従ってくれ。まず森へ逃げ、その後は私の傍から決して離れるな」
 クロエは怯える男達に意図的に強く、しかしゆっくりとした口調で叱咤する。
 一方で男達のこの異常な怯え方に違和感を感じた。しかし、その違和感について考察するには時間も経験も足りない。
 ジークリンデは男達が下りた後、馬へと近付くとその留め金を外して臀部を叩いて起こす。
「お逃げなさい」
 ジークリンデの言葉が分かったのか、目覚めてすぐに二頭の馬は連れ立つように走り出した。
 それを見届けて、ジークリンデはクロエの後を追う。
「危ねーから、どっかに逃げる、です」
 雪は二台目の馬の留め具を外すと、ジークリンデ同様馬を起こして逃がした。
「で、オレも混ぜろ、です」
 素直にすぐさま剣機から距離を取るべく全力疾走をはじめた二頭を見送ると、嬉々としてルーサーンハンマーを構えて剣機へと向かう。
「なかなかしぶとそうだな、コイツ」
 ライガは人間の急所を狙った攻撃を放つが、ゾンビ化した上に剣機へと改造されている為か特別効いている、という様子は見受けられない。
「おらクサレマシン! 最大の脅威様がお前を潰しにかかってるぞ! こっち見とけ!」
 普段の穏やかさを微塵も感じさせない獰猛な笑みを浮かべたメリエは、ライガの狙いを定めた攻撃とは真逆に、兎に角渾身の一撃をその肉体に叩き込むべく振動刀を振り回す。
 この凸凹の2人が確実に剣機を引き付け足止めすることに成功したお陰で、男達を森の中へと誘導することに成功したクロエは、怯える男達に大丈夫だと笑ってみせた。
「お前たちは私が必ず守る」
 そんなクロエに『盗賊』の1人が顔を上げ、初めて2人の視線が絡んだ。
「……あんた達は……」
 その時、クロエの前に土の壁が迫り上がる。
「クロエさん、これで流れ弾なども当たりません。私達も戦闘へ戻りましょう!」
 『盗賊』達を守る為にとジークリンデが形成したアースウォールに遮られて、男の言葉は途中で切れてしまった。
「私が必ずお前たちを守るから、そこにいてくれ」
 もう一度、誠心誠意を込めてクロエは叫ぶように告げると街道へと踵を返した。


 前衛に復帰したクロエを加えて雪、ライガ、メリエの4人が敵の注意を引き付け、明影、バイオレット、静架、ジークリンデがそれぞれの得物で遠距離攻撃を中てていく。
 剣機の一撃は重い。しかし当たらなければダメージはゼロだ。だが躱し続ける、という行為もかなり集中力を消耗する。
 前衛の4人は肩で息をしながら、一撃を加えようと死力を尽くしていた。
 そんな中、ジークリンドが最大射程から放ったマジックアローが剣機のこめかみに命中すると、ギシ、という音を立てて、剣機の動きが一瞬止まった。
「本能まで腐ったかぁ? ボサッてると磨り潰すぞオラァ!」
 メリエの挑発する声に対して、敵をつぶさに観察しながら戦い続けてきた雪と明影の2人は、嫌な予感に同時に声を上げた。
「皆、伏せろ、です!」
「ジークリンデ!」
 鋭い2人の声に全員が反応した。
 剣機のガード時にしか動いて居なかった左腕が真っ直ぐにジークリンデへと向けられ、ドッという空気を圧縮したような音がした。
 ジークリンデは衝撃を受けた左上腕を押さえながら振り返ると、更に自分の後ろにある土の壁に穴が空いていた。
 剣機の左の指先からは白い煙がゆらりと昇っていた。
「自爆、とかじゃなくて良かったです」
 銃創は擦っただけでさほど酷い傷でも無い。ジークリンデは仲間を安心させる為に少し戯けたように言った。
 その様子を見て一同は胸を撫で下ろすが、その威力と射程にさらに緊張を走らせる。
「やっぱり、飛び道具、隠してやがった、です」
 『CAMフィードバック型とかなら、すげー楽しそう』なんて思っていたが、これはこれで楽しい、と雪は唇で弧を描く。
 静架が冷気を纏った矢で射抜き、動きが鈍くなった剣機へライガが勢いよく飛び込み、脛へと斬り込むと再び距離を取る。
「あくまで武器の確保なんだけど、やっぱりやめられねえなコレ」
 狙い通りの攻撃が通って、得意気にライガが笑みを浮かべた。
「私は騎士だ。守るべきが罪に手を染めた者だろうが、必ず最後まで守り抜く」
 宣誓するようにクロエは言うと、ぐっと守りを固めて踏み込んで剣機へディアボラを叩き付けるように斬りかかった。
 攻撃は右の大腿を切り裂いたが、それと同時にクロエは頭を掴まれ宙に浮く。
「クロエさん!」
「放しやがれ、です」
 静架が再び矢を構え、雪が踏み込もうとハンマーを振りかぶる。
「くっ!」
 クロエは逃れようと身を捩るが、剣機は意ともせずその肩口に歯を立てた。
 肉が骨が砕かれる感覚にクロエは思わず絶叫する。
 ――その時、剣機の額を一発の弾丸が突き抜け、顎から力が抜けた。
 バイオレットの迷いの無い一撃に、剣機は咥えていたクロエを投げ捨てると、左腕をバイオレットへと向けてお返しとばかりに指弾を打ち込む。
 バイオレットは腹部から血を飛び散らしながら衝撃に後ろへと転がり倒れた。
「バイオレット!」
 明影が駆け寄ると、バイオレットは自力で起き上がって回復の為にマテリアルを集中し始める。
「ただの盗賊相手するよりかは、楽しいではないか」
 両目で剣機を捕らえたままバイオレットはそう明影に言うと、明影は安堵の息を吐いた。
「ふ、貫通しているお陰で回復は早いはずだ」
 この程度の敵に屈するような仲間の筈もないと、そう信じるに足る言葉を受け、明影は「わかった」と返すと再び剣機へと銃口を向けた。
 一方で肩を食まれ投げ捨てられたクロエを受け止めたライガは、その傷の深さに眉を顰めた。
「だい、じょうぶだ。利き腕は、動く。まだ、戦える」
 クロエは自分に言い聞かせるように両足を踏みしめて、レイピアを構える。
 そんなクロエを見て、メリエが再び自分に注意を向けようと語気荒く吠え、振動刀を振った。
「どうしたほら! 弱者の頭潰す能しかねぇか!? 私の頭も潰してみろよ! ほら! やってみろ!」
 明影の銃声と静架の冷たい風切り音が間髪入れずに剣機を襲う。
 雪が思い切りよく踏み込むと、人間であるなら向こうずねを思いっきりハンマーで殴り飛ばした。
 ぐらり、と剣機がバランスを崩し膝を着く。
 その様子をみたメリエがいつもの口調で嬉しそうに呼びかけた。
「それじゃフィナーレといきましょうか!」
 その言葉に、全員が頷き応え、それぞれ最後の一撃を叩き込んでいく。
 膝を着いた状態でも剣機は攻撃の手を休めることは無く、飛んできた指弾が静架の頬をかすめる。
 頬を焼く痛みを無視して、静架は剣機の頭部付近、鼻先ギリギリの位置を狙い打つ。
 左手でそれを振り落とした所を、メリエと明影がそれぞれ胴へと渾身の一撃を見舞う。
 間髪を入れず雪がハンマーで反対の足を叩き、ライガが大きく跳躍し、全力の兜割りを叩き込むと再び剣機が揺らぐ。
 その瞬間を逃す事無く、ジークリンデが魔法の矢を頭部に打ち込み、バイオレットがさらに肩口を撃ち抜く。
 そしてクロエが、顎下から頭部に突き抜ける一撃を差し込むと、ついに剣機はその動きを止めた。


「なんだ、自爆、しねーん、ですか」
 塵となっていく剣機を見て雪が拍子抜けした、という顔で肩をすくめる。
「範囲攻撃ぐらいあるかと思って警戒していたのだがね」
 明影も銃を仕舞いながら苦笑する。
 クロエは疼く傷を庇いながら森へと再び足を向けた。
 戦闘が終わり、役目を終えた土の壁はさらさらと崩れ去ったが、そこには誰も居なかった。
「……そんな……」
「……逃げられましたか」
 静架は呼び戻した愛犬に、臭いを辿らせることも考えたが、追跡する為の準備を何もしてきていない事ともう間もなく日没時間になることを考え、諦めた。
「私のいた世界じゃ、盗人は手の骨をへし折って二度と盗みができないようにするもんだがな」
 バイオレットはあまいな、とくつくつと笑いながら自己回復を続ける。
「盗賊だとしても! ……っ!」
 クロエはバイオレットに反論しようとして、思い出す。

 各々がバラバラの格好で、己の武器を携帯し、道を塞いで立っていた。
『ちょっと、荷物を検めさせて貰えるかな?』
 私達を見た時から、最初から、怯えていた男達。
 後ろの御者には銃を突きつけ荷物を開けるように指示を出した事。
『だから、俺たちの命までは……!!』
 怯えて泣いて、命乞いをした最初の被害者。
 戦闘が始まってからは何の説明も無しに前の2人に銃を見せながら森の中への移動を促した事。
『……あんた達は……』
 男の言いかけた言葉。その続きは――

「私達は、自分達が何者であるか、その説明をしていない」
 クロエは愕然としながらその事実に思い当たる。
「え? あれ?」
 ライガがぽかんとした表情でクロエを見た。
 近くに置いて護るのが難しい以上、剣機の攻撃範囲外に退避はさせなければならなかった。
 馬具を外す為に眠らせる事は最善であったはずだった。
 信用を得られれば、逃げられることはないと思っていた。
 しかし、名乗りもせず、武器をちらつかせる人間を誰が信用できるというのだろうか。
「私がアースウォールを使わなければ……」
 俯くジークリンデにメリエは「それは違うよ」と声をかける。
 あのままクロエが盗賊の傍に居続けたとしたら、戦力が足りずに今以上の被害を出していただろうと、実際に肉薄して戦ったメリエには分かっていた。
「どっちにせよ、逃げられた、かな」
 剣機がクロエを攻撃した隙に逃げただろうと、ライガも同意する。
「逃げられてしまったものは仕方が無い。それよりも気になるのはこいつ等の依頼主であろうよ。脅威とするなら此方であり、剣機よりもこの状況を生み出した事と言えよう」
 明影が馬から下りて、御者台を覗く。
「……少なくとも、首の折れた死体がある。上手く行けば身元がわかるかもしれん」
 静架も剣機の残骸がないかと街道を見渡したが全ては風に消えていた。
 雪は落ちた棺の蓋の裏を見て笑みを浮かべた。
「ゾンビ絡みとか、ヴルツァライヒが噛んでるのは、間違いねー、です」
 そこには、黒い紋章が刻まれていた。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 4
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 強者
    メリエ・フリョーシカka1991
  • 騎士の誓いを抱く者
    クロエ・アブリールka4066

重体一覧

参加者一覧

  • バトル・トライブ
    八城雪(ka0146
    人間(蒼)|18才|女性|闘狩人
  • 輝きを求める者
    弥勒 明影(ka0189
    人間(蒼)|17才|男性|霊闘士

  • バイオレット(ka0277
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • アークシューター
    静架(ka0387
    人間(蒼)|19才|男性|猟撃士
  • 強者
    メリエ・フリョーシカ(ka1991
    人間(紅)|17才|女性|闘狩人
  • 激しき闘争心
    ライガ・ミナト(ka2153
    人間(蒼)|17才|男性|闘狩人
  • 騎士の誓いを抱く者
    クロエ・アブリール(ka4066
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人

  • ジークリンデ(ka4778
    エルフ|20才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 剣機系歪虚討伐に向けて
クロエ・アブリール(ka4066
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/06/03 01:27:19
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/30 20:46:28