• 春郷祭1015

【春郷祭】最高の舞台をつくろう!

マスター:sagitta

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~10人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/06/05 19:00
完成日
2015/06/13 05:40

みんなの思い出

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オープニング


 同盟領内に存在する農耕推進地域ジェオルジ。
 この地では初夏と晩秋の頃に、各地の村長が統治者一族の土地に集まって報告を行う寄り合いが行われる。その後、労をねぎらうべくささやかなお祭りが催されていたのだが、昨年の秋から状況が一変。同盟の商人や各地からの観光客が集まるお祭りとして賑わっていた。
 そして今年の春。遠き辺境の地での戦いが終息に向かったのを見計らい、延期にしていた春の村長祭を開催する運びとなった。
 今回は辺境のお祭りとの共催となり、より一層の盛り上がりが予想されるが、今回のジェオルジ村長祭はどんな催しが行われるのか。


「ジェオルジの村長祭、か……これは見逃せませんね。我々もこの祭りに参加し、大々的にステージを盛り上げるべきです。そうでしょう、諸君?」
 奇抜な虹色のジャケットをまとった中年の紳士が、左右にピンと伸びた不可思議な口ひげをしごきながら、大げさな身振りとともにそう言った。彼が見回した視線の先には、これまた思い思いの奇抜な衣装に身を包んだ、どう見ても「普通ではない」男女たち。クリムゾンウェストの各地を渡り歩き、人々の目を楽しませる、旅芸人の一団だ。
「ジェオルジっつったら、ふだんは冴えないド田舎だけど、この祭りに便乗しちまえば、お客さんたんまり、アタシらの財布もずっしり重くなる、ってぇ寸法だね。さっすが『団長』! ずる賢さはピカイチだね!」
 はすっぱな口調で言ったのは、体の線を強調するぴったりとした衣装に身を包んだ、全身ピンク色の女だ。あらわになっている体の線はまだまだ硬く、胸も腰も控えめ。大人びた化粧を施したその顔とは裏腹に、まだ幼さを残す少女であるようだ。
「スマート、と言ってくれませんかね、『猫娘』」
 『団長』、とよばれた虹色ジャケットの紳士が、唇の端を歪めてみせる。
「で、何をやるんだい? 合奏? それとも曲芸かい?」
 小ぶりのナイフをもてあそびながら尋ねたのは、ひどく背の低い男だ。『団長』の半分ほどの背丈しかないので、一見子どものように見えるが、その低く張りのある声は、大人の男性のもの。
「ふむ……いつも通りの演目では、祭りにふさわしくありませんね。せっかくですから、もっと派手に、大がかりにしたいものです」
「大がかり、ったって、オレたちゃ5人しかいないぜ」
「そこで、ですよ、『韋駄天』」
 『団長』が、人差し指をピン、と立てて背の低い男を指さした。
「ハンターに協力を依頼しようと思うのです」
 『団長』の言葉に、ぴゅーっと、歓迎するような口笛を吹いたのは、胸の部分が大きく開いた、真っ赤なドレスを着た大柄な美女だ。
「いいねぇ、ハンター。あたしは大好きよ。ついでにイイオトコが来るといいんだけどね」
「ええ、『マダム』。ハンターにはいい男といい女とそれ以外がそろっていますとも。きっとあなたのお気に召す者もいるでしょう」
 『マダム』とよばれた美女に視線を向け、『団長』が大げさにうなずいてみせる。
「悪くないねぇ。せっかくのお祭り、思う存分暴れたいわぁ」
 『猫娘』がうれしそうにはしゃぐ。
「……で? ハンターに頼むのはわかったけど、いったい何をやるつもりだい?」
 『韋駄天』が尋ねると、『団長』もったいぶったそぶりで口を開く。
「ハンターと言えば、数々の冒険をくぐり抜けたプロフェッショナルです。その経験を、舞台に活かさない手があろうか、いやない!」
「……なるほど、殺陣か」
 小さな、しかしよく通る声。発したのは、部屋の隅で今まで黙って話を聞いていた、金髪の美青年。
「ふぅ、あなたにはいつもそうやって、いいところをとられてしまいますね、『優男』」
 『団長』の恨みがましい視線に、『優男』とよばれた青年は、無言で肩をすくめてみせる。
「ええ、そのとおりですよ。ハンターを主人公にすえ、我らが敵役として、現場仕込みの息をのむ白熱した『殺陣』で観客たちを魅了する――それが我々『ヴェルディ楽団』の、今回のステージです!」

リプレイ本文

●みんなで準備
 のどかな昼下がり。
 ちょうど農作業を終えて一休み、といった時間に、農耕推進地域ジェオルジの田舎村ではめずらしい、ちょっとした人だかりができていた。人だかりといっても田舎の村らしく、せいぜい10人程度だが。
 注目の的になっているのは、ひとりの少女だった。彼女の名はエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)。なにやら熱心な表情で筆を動かしている。地面にしいた大きな木の板の上にいっぱいに広げた白い布に、絵の具でなにやら描いているようだった。
(さすがにたくさん描くのは骨が折れる……でも、大きな絵を描くのは気持ちがいいな)
 心の中だけでつぶやき、声は発しない。エヴァは、声が出せないのだ。
「いやぁ見事なもんだなぁ」
 エヴァの描く絵をながめていた村人のひとりが、思わず感嘆の声を上げる。それでようやく周囲の人だかりに気づいたエヴァは、照れたように笑って見せた。絵筆をもった彼女に、声は必要ない。彼女の右手は、ときに言葉よりも雄弁だ。
 あっという間に巨大な布の上に、素朴で美しい村の風景が描き出されていった。
 しばらくして作業が一段落したエヴァは、休憩に入る前に手近にあった木の板に、さらさらっと何かを書き付け、周囲の人だかりに掲げて見せた。
『村長祭にて、ヴェルディ劇団による舞台をおこないます。ぜひ見に来てね!』

「私は、団長さんに脚本の提案をしたいです!」
 秋桜(ka4378)が元気いっぱいに『団長』に話しかけた。
「ええ、ぜひお願いいたします」
「私だけじゃなくて、みんなで相談した内容なんですけどね! かくかくしかじか……」
「ほうほう、それはとても面白そうです。殺陣もよく映えそうだし。なるほど、さすがすばらしい……」
 秋桜からの提案を聞きながら、『団長』が感心したようにうなった。
「ところで秋桜さんはどのような役を希望されているんですか?」
「私はいきなりリアルブルーから転移してきて今だに戦いに不慣れな、どこにでもいる普通の女の子。……いえ、可愛すぎる女の子です!」
 自称、今をときめくマシュマロ系女子は、片目をかわいくつむって、そう言ってのけた。

「演技に関しては素人だ、だからビシビシと指導宜しくお願いする」
 ヴァイス(ka0364)が、そう言ってすっと頭を下げると、『マダム』がうれしそうに大きく口を開けて笑う。
「礼儀正しくて見どころのある若者だねぇ。それになかなかイイオトコじゃない」
「『マダム』、ナンパはあとにして、みっちり演技指導をしてやんなくちゃな」
 『韋駄天』の皮肉まじりの言葉に、『マダム』がどん、と豪快に胸を叩いてみせる。
「もちろんよ。このマダム・バタフライ、悪役の演技にかけてはまかせなさい!」
 『マダム』の頼もしい言葉に、ヴァイスが大きくうなずいた。
 一方、悪役のボスである「憤怒の歪虚」を演じる予定のエルバッハ・リオン(ka2434)はその隣で、熱心に芝居の段取りをおさらいしていた。
「歪虚役というのも面白そうです。それはさておき、演劇をやるからには成功させないといけませんね」
 そう言ったエルは、『マダム』がつくった怪物めいた衣装を試着している。
「はっ! でやっ!」
 気合いの叫びを発しながら、模造刀を手にして『優男』と打ち合っているのはアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。アルトの舞うような戦い方はもとより舞台にふさわしいが、さらにふたりの動きのバランスや、遠目にも見やすいような表現を『優男』が考案し、アルトに指導していた。
「さすが実戦経験豊富なハンター。筋がいい」
 ぽつり、と『優男』が言って、微かに笑った。

「……なんで私が、演劇なんて受けちゃったんだか……」
 少し離れたところで座っていた遠火 楓(ka4929)が、懸命に練習するハンター達を横目に見ながら、たばこをふかしつつため息をつく。みんなでわいわい演劇だなんて、面倒くさがりの自分には似合わない、と楓は思う。そんな風に思いつつも、実は練習に励むハンター達が気になって仕方ないのだが。
「まぁ仕方ない。報酬分は働くか」
 しぶしぶ腰を上げたところで、こちらに近づいてくる少女と目が合う。ユメ・ターニツ(ka4799)だ。
「楓さん、こんなところにいたんですかっ」
 人なつこそうな笑みを浮かべて駆け寄ったユメに、楓が苦笑いを浮かべる。
「私、今回歪虚の役をやることになったんです! 敵役って面白そう! 楓さんは、どんな役なんでしたっけ?」
「私も歪虚だよ。そっちのほうが台詞少なくて良さそうだし。戦闘狂の契約者って感じで……私がやりやすいからね。つまりターニツ、あんたの同僚、みたいなもんさ」
 楓がいうと、ユメの表情がぱっと輝いた。
「そうなんですか、なんだかうれしいなぁ! あ、そうだ楓さん、事前に打ち合わせしませんか。殺陣の細かい振りは、それぞれの役者に任せる、って話でしたから、せっかくならふたりでコンビを組んで、連携とかしたら楽しそうかも!」
 息せき切って話したあと、ユメがふっと我に返って口を両手で押さえる。
「あっ、すみません、私ったら楓さんの意向も聞かずに勝手にしゃべってしまって……」
「……いや、ちょうど私もそう思ってたところだよ。下手な演技するのもアレだし、息の合った殺陣を、私らの見せ場にしてやろう」
「本当ですか! うれしい! 早速なんですけど、まずは私が疾風剣を――」

 風に乗って、楽しげな旋律が、村の中に響いていた。セリア・シャルリエ(ka4666)の提案で、舞台に音楽を取り入れることになり、その練習をしているのだ。
 セリアの竪琴と、『猫娘』の笛の音が、軽やかな旋律を奏でる。やがてふたりは、楽器を奏でたまま背中を合わせ、くるくると回るようにしながら踊り始める。
「いいねいいね! たーのしいね! 久しぶりにこんなに思いっきり踊っちゃった。あんた、やるじゃん!」
 『猫娘』がうれしそうにセリアに話しかける。
「私もうれしいです。まさかこんな形で演劇の舞台に立てるとは思いませんでした」
「演劇が好きなの?」
「ええ。向こうでは――リアルブルーでは、演劇の学校に行ってたんですよ。すぐにこっちに飛ばされちゃったけど――」
「あたしもね、演劇と、踊りが好き。好きだったらさ、どこでもできるよ」
 『猫娘』が無邪気な笑顔で言う。セリアも思わず顔をほころばせた。
「ええ。まずは、今回の舞台を成功させましょう。舞台が終わるまでは、私もヴェルディ楽団の一員として」
「うん、よろしくね!」

●いよいよ本番
 いよいよ村長祭当日。
 ジェオルジの村々には、多数の観光客や地元の住民達がかけつけ、ふだんののどかな様子とはまったくちがう大にぎわいを見せていた。そこかしこに急造の屋台やステージが建ちならび、人だかりをつくっている。
 そして、ここにも。
 ヴェルディ楽団のメンバーとハンター達が協力してつくった、木造のステージ。なによりも注目を浴びているのは、ステージの上に張られた大きな布――そこに描かれた、美しい村の絵だ。
(ふーっ、なんとか間に合ってよかった)
 会場で観客の整理をしながら、背景絵に見とれている村人達の姿を眺めたエヴァが、満足そうに心の中でつぶやいた。
「みなさんお待ちかねヴェルディ楽団――いえ、今日はこう名乗らせていただきましょう。『ヴェルディ劇団』の今回の舞台は、なんと! 本物のハンター、覚醒者達による迫力のアクション満載、歌と音楽にも満ちた素敵な舞台をお届けいたします!」
 ステージに登場した『団長』の口上に、観客がわっとわきかえった。
「ヴェルディ劇団春の村長祭公演、とくとお楽しみくださいませ」
 そして、幕は上がる。

●幕開け
 美しくもはかなげな旋律が鳴り響く。奏でているのはセリアの竪琴と、楓のヴァイオリン。
「お父様……今まで育てていただいて、ありがとうございました。ですが、これ以上村の人達が死ぬのを見たくはありません。私は次の生け贄として志願しようと思います」
 最初に舞台に姿を現したのは紅薔薇(ka4766)が演じる村娘。ぼろに身を包んだ彼女の姿は、とてもはかなげに見える。
「ああ、なんてことだ。恐ろしい歪虚に、毎年ひとり生け贄を要求され、ついには我が娘が……おお、神よ! どうか歪虚どもに天罰を! 娘を救いたまえ!」
 『団長』演じる父親の声もむなしく、紅薔薇は村人達に扮した楽団員達にさっと取り囲まれ、生け贄のためのドレスを着せられていく。
「これで村の人達の命を救えるのならば……私は幸せです」
 毅然とした表情でそう言った紅薔薇。純白のドレスをまとった彼女の姿は、息をのむほどに美しい。そして彼女は村人達に連れて行かれ、舞台から去って行った。

 そこで音楽が切り替わる。『優男』が奏でるギターが中心の、さわやかな曲。
 舞台袖に待機していたエヴァが、舞台の背景の布にとりつけられたひもを引くと、布がさっと落ち、後ろに隠れていた二枚目の布があらわれた。青空かがやく、町の様子が描かれている。
「というわけでどうか、歪虚を倒して、生け贄の娘を救っていただきたいのです!」
 舞台上で『団長』が力説する。彼の前には、三人のハンター。アルト、秋桜、そして陽山 神樹(ka0479)だ。なかでも、自前のヒーロー風のスーツに身を包んだ神樹はひときわ注目を浴びている。
「安心してくれ! 悪いやつは必ず俺たちがぶっ倒してやるぞ!」
「あたし達に任せてくだされば、きっとだいじょうぶですぅ」
 いかにもヒーローらしい神樹に続いて、露出度が高めの鎧に身を包んだアイドルのような秋桜が、上目遣いでほほえんでみせると、観客の男性達からなにやら野太い歓声が上がったりもしている。
「ありがとうございます! どうか、娘をよろしくお願いします!」
 『団長』の問いに、神樹が白い歯を見せて応えた。
「この正義のヒーロー、機導陽神ファイライザーにお任せあれ!」
 音楽が一気に盛り上がる。いつの間にか、『優男』のギターに『韋駄天』の打楽器と『猫娘』の横笛、セリアの竪琴が加わって迫力のあるBGMになっていた。
 舞台の両袖で待機していたユメとエヴァが、それぞれから煙幕を投げ込む。たちまち舞台は煙に包まれた。

 煙が晴れたとき、舞台はすっかり様変わりしていた。背景の絵も交換され、今度は薄暗い洞窟を描き出している。舞台に立っているのは、『マダム』直伝のおそろしげな特殊メイクを施された、エル、ヴァイス、ユメ、楓、そして『優男』。『歪虚』の一団に扮した、今回の敵役たちだ。
 そして舞台の中央に置かれたつくりものの岩に、鎖で縛られた紅薔薇。純白のドレス姿の彼女は、ぐったりとした顔をしている。
 『歪虚』のリーダー格であるエルが、酷薄な笑みを浮かべて紅薔薇に近づいた。憤怒の歪虚を模した彼女は、植物と融合したような異形の姿。後頭部には深紅の薔薇の花が咲き誇り、左腕は蔦が絡みついて、普通の人間の倍ほども太さがある奇怪な姿をしている。
「まて……どうやら、ネズミが入り込んでいるみたいだ」
 押し殺した声でそう言ったのは、ヴァイス。頭部には二本の角をもち、上半身裸で顔と全身に刻印のような模様が刻まれている彼は、エルの片腕とも言うべき凄腕の『契約者』だ。彼の言葉に、配下の歪虚――ユメと楓が、刀を抜き放って前に出た。
「そこまでだっ!」
 言葉とともに、舞台に飛び込んでくる五人。神樹、アルト、秋桜の三人のハンターと、途中で合流した旅芸人姉妹、セリアと『猫娘』もいる。
「何者だ」
 先頭の神樹に向かって刀を突きつけながら、楓がするどく問う。楓の出で立ちは枯れた草花の刺繍が入った黒い袴に鎧、そしてひときわ目立つ真紅の爪。
「俺は、機導陽神ファイライザー! その子を助けに来た!」
「あははははは。人間ごときが私に刃向うなど、許せるものか! 皆殺しにしてやる!」
 エルが高らかに笑い声を上げる。覚醒した彼女の体に薔薇の紋様が浮かび上がった。覚醒者ならではの、鬼気迫る演出だ。
 今まで微動だにしなかった『優男』も、無言で日本の短刀を抜いてハンター達を見据えた。
「兄さん……やはり兄さんなんだね?」
 驚いた声を上げて『優男』に話しかけたのはアルトだ。
「知らんな……お前の言う『兄さん』とやらはもう死んだ身だ」
 静かだが迫力のある声で、『優男』が返す。
「知り合いなのですか?」
 秋桜が尋ねると、アルトが『優男』を見据えたままうなずく。
「ボクの兄弟子だよ。――力を求め歪虚と契約し師を殺害した、ね」
 言いながらアルトは、静かに抜刀する。
「彼の相手はボクに任せてほしい――証明してあげるよ。師匠の言ってた、想いが力になるってことを」
 金属がぶつかり合う、鋭い音が響き渡る。アルトの風のような斬撃に、一歩も引かず応戦する『優男』。
「じゃあ、私たちは、残りの奴らを相手にすればいいんだね!」
 秋桜がにっこりと笑って、スタッフを掲げる。
「こしゃくな! やってしまえ!」
「任せて下さい、ここは私が!」
 エルの怒りの声に応え、ユメが短剣を抜き放って突撃する。目にもとまらぬ、高速の突き。
「……紅蓮狐眼、参る。ゴミ共。私を楽しませろ」
 一拍おくれて、楓が、円を描く動きで敵陣に刃をひらめかせる。ユメとの息の合った連係攻撃。
 対するのはセリアと『猫娘』の旅芸人姉妹だ。踊るようなアクロバティックな動きで、二人を翻弄する。
「お前の相手は、このオレだ!」
 ヴァイスが大剣を抜き放ち、「覚醒」する。炎のような紅蓮のオーラを身にまとい、神樹と秋桜の前に立ちはだかった。
「食らえ! ライザーパンチ!」
「いっきまーすぅ! ストーンバレット!」
 前衛の神樹と後衛の秋桜の同時攻撃を、ヴァイスが剣に紅のオーラをまとわせて薙ぎ払う。
「貴様らごときに、負けるかああああっ!」
 熟練した戦士同士の、緊迫した戦い。
「なにをぐずぐずしているのだ! 目障りな虫けらどもを、さっさと殺してしまえ!」
 怒りに満ちた声を上げ、『憤怒の歪虚』エルが炎を放った。舞台が炎に包まれ、正義の側のハンター達が、苦悶の表情を浮かべる。膠着していた戦いが、一気に歪虚側優勢に傾いた。
 観客達が息をのむ音が、そこかしこから聞こえてくる。
「くそ! このままじゃみんなが! 俺にもっと力があれば!」
 神樹がヴァイスの怪力に屈してひざまずき、悔しげにつぶやく。
 ポロン……。
 そのとき、竪琴の音が鳴り響いた。セリアが奏でたのだ。彼女の紡ぐ旋律に乗せ、縛られた紅薔薇が顔を上げる。そして観客席を見すえて、口を開いた。
「お願いです、皆さん。どうか、ハンターの皆さんを応援してあげて下さい。そうすればきっと、大精霊にも皆の願いが届くはずです!!」
「どうか、みなさんの応援の歌を、このメロディに乗せて!」
 セリアが竪琴をつま弾きながら声を張り上げる。そして自ら、歌声を響かせはじめた。

 届けこの声よ
 大いなる正義が 歪で虚ろなる悪を 退けるように
 響けこの願い
 勝利のために 我らが思いを ひとつにして

 この地方で親しまれている民謡の旋律を少しだけアレンジした親しみやすい歌。何度か聞いただけで自然に口ずさむことの出来る、シンプルな歌だ。
「さあ皆さん、一緒に歌ってください! 歌は祈りとなって正義の力になります」
 最初に応えてくれたのは、幼い少年だった。たどたどしいながらも、竪琴の音に合わせて歌声をはりあげる。その声が聞こえると、大人達も少しずつ遠慮がちに声を上げはじめ――やがて、舞台全体を包み込む大合唱になった。
「ありがとうみんな! そうだ! 俺達にはこんなに応援してくれる人がいるんだ!」
 そう言って神樹が立ち上がった。そして背中に背負っていた刀を抜き放つ。
「これが俺の切り札だ! ソニックライザーソード!」
「ぐわああああ!」
 神樹が刀を振り下ろすと、ヴァイスが吹き飛ばされ、舞台から姿を消した。
 それと同時に、旅芸人姉妹の剣舞によって、楓とユメが倒され、転がり出るように退場する。
「兄さん……御免!」
 アルトが、大上段に振りかぶった剣を振り下ろし、『優男』を切り払った。たまらず膝をつく『優男』。
「お前と師匠の言うとおりだったようだ……。オレは、まちがっていた……」
 最後に残った歪虚、エルに全員の視線が注がれた。
 ファイライザーこと、神樹が一歩進み出て、剣を構えた。
「これで終わりだ! 必殺! ソニックライザーダイナミック!!」
「馬鹿な。私が斃されるだと……そんなこと……許せるものかぁぁぁっ!」
 断末魔の声を上げ、エルがゆっくりと倒れた。
 瞬間、割れんばかりの拍手。観客達はみな立ち上がり、手を叩いている。中には涙を流している者もいるようだ。
(……なんて素敵なの!)
 舞台の袖で、エヴァが感極まりそうになるのを必死で押さえながら、ひもを引き、背景の最後の一枚を見せる。最初と同じ、美しく平和な村の絵。けれど観客には、最初に見たときとは全くちがって見えていることだろう。「あたりまえの平和」ではなく「勝ち取った平和」。
 ステージの上で、鎖を解かれた紅薔薇と、神樹が手を取り合う。
 音楽は最高潮に達し、拍手はいつまでも鳴り止むことがなかった。

依頼結果

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MVP一覧

  • 雄弁なる真紅の瞳
    エヴァ・A・カルブンクルスka0029
  • 幼女のお願いを聞いた者
    陽山 神樹ka0479
  • ミルクプリンちゃん
    セリア・シャルリエka4666

重体一覧

参加者一覧

  • 雄弁なる真紅の瞳
    エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029
    人間(紅)|18才|女性|魔術師

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 幼女のお願いを聞いた者
    陽山 神樹(ka0479
    人間(蒼)|15才|男性|機導師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ブリリアント♪
    秋桜(ka4378
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • ミルクプリンちゃん
    セリア・シャルリエ(ka4666
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士

  • ユメ・ターニツ(ka4799
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士
  • 狐火の剣刃
    遠火 楓(ka4929
    人間(蒼)|22才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/06/03 20:44:54
アイコン 【相談卓】舞台公演
遠火 楓(ka4929
人間(リアルブルー)|22才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2015/06/05 12:20:17