ゲスト
(ka0000)
空き家に棲み付いたモノ
マスター:秋風落葉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/06 07:30
- 完成日
- 2015/06/11 18:42
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●貧乏くじ
「やれやれ、大掃除とは面倒くせえなあ」
男はぶつぶつと愚痴りながら道を歩いていた。目指しているのは田舎にある一軒の家。
別荘、などという表現は全く似合わない、ただの小さな家だ。
家族会議により、男はその建物の大掃除を任されたのだ。実際は家族会議という名のくじびきだったが。
文句を言いつつも足をとめることはなく、やがて男の目に古びた家が見えてきた。
「はあ……蜘蛛とかねずみとかいなけりゃいいけどな……」
男は不安を口にしながら扉を開ける。
真っ暗な部屋へと、男は無造作に足を踏み入れ……。
「うおっ!?」
暗闇の中、男の腕が何かに囚われた。
粘性のある、太い紐状のもの。男は慌てて振りほどこうとするも、それは一向に離れない。
「なんだあ!? こりゃあ!?」
わめく男の耳に聞こえたのは、何かが蠢く音。
まだ暗闇に慣れない瞳に映ったのは、何かが這いよる影。
「ひっ……!!」
男は恐怖のあまり、悲鳴をあげる。
その何者かは、空を滑るかのように、男の方へと向かってきた。
「く、来るな来るな来るなーーーーーーーー!!」
悲鳴をあげながらもがく男。
まだ腕しか囚われていなかったのが幸いしたか、男は絡まっていた紐状のものからなんとか腕を振りほどく。
あとは一目散だ。家から少しでも早く離れようと全力で手足を動かし、駆けた。
男は逃げる途中、一度だけ背後を振り返る。
開けっ放しの入り口の奥、闇の中に赤い複数の目が光って見えた……。
男はすぐにハンターオフィスに飛び込み、ことの次第を受付嬢へと伝え、家を化け物の手から取り戻してくれるよう依頼した。
「やれやれ、大掃除とは面倒くせえなあ」
男はぶつぶつと愚痴りながら道を歩いていた。目指しているのは田舎にある一軒の家。
別荘、などという表現は全く似合わない、ただの小さな家だ。
家族会議により、男はその建物の大掃除を任されたのだ。実際は家族会議という名のくじびきだったが。
文句を言いつつも足をとめることはなく、やがて男の目に古びた家が見えてきた。
「はあ……蜘蛛とかねずみとかいなけりゃいいけどな……」
男は不安を口にしながら扉を開ける。
真っ暗な部屋へと、男は無造作に足を踏み入れ……。
「うおっ!?」
暗闇の中、男の腕が何かに囚われた。
粘性のある、太い紐状のもの。男は慌てて振りほどこうとするも、それは一向に離れない。
「なんだあ!? こりゃあ!?」
わめく男の耳に聞こえたのは、何かが蠢く音。
まだ暗闇に慣れない瞳に映ったのは、何かが這いよる影。
「ひっ……!!」
男は恐怖のあまり、悲鳴をあげる。
その何者かは、空を滑るかのように、男の方へと向かってきた。
「く、来るな来るな来るなーーーーーーーー!!」
悲鳴をあげながらもがく男。
まだ腕しか囚われていなかったのが幸いしたか、男は絡まっていた紐状のものからなんとか腕を振りほどく。
あとは一目散だ。家から少しでも早く離れようと全力で手足を動かし、駆けた。
男は逃げる途中、一度だけ背後を振り返る。
開けっ放しの入り口の奥、闇の中に赤い複数の目が光って見えた……。
男はすぐにハンターオフィスに飛び込み、ことの次第を受付嬢へと伝え、家を化け物の手から取り戻してくれるよう依頼した。
リプレイ本文
●
「空家の中に巣食う魔物か……何であれ安全上から言えばすぐに倒さねばなるまい。まあ、大王たるボクがいる以上、不安要素は皆無といっていいだろう」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)。遠い遠い古の時代に世界を支配していたという大王の生まれ変わり……を自称する少女である。
真偽は定かではないが、その立ち居振る舞いはどことなく高貴さがうかがえる……ような気がする。
「さて、敵の正体は何だろうね? 巨大蜘蛛だと当たりは付けているけど、本当のところはどうだろうね」
呟いたのはミューレ(ka4567)。エルフである彼は外見年齢が5……いや、幼い少女のような外見をしているが、実際の年齢は半世紀を超えているらしく、今も落ち着いた様子で敵の正体に考えを巡らせている。
「……歪虚の脅威に晒されているのは此方も同じなのですね」
相馬 拾九(ka4893)は先日の聖地奪還の際、東方のエトファリカより派遣された者の内の一人だ。西方に援軍に着た後、ハンターとなってからの初仕事であるらしい。
「……依頼人殿の話を聞く限り、件の魔獣はまるで蜘蛛の様な事をするなと思いましたが……さて」
受付嬢から依頼の内容を聞いたハンターたち。彼らは今回の敵は蜘蛛型の雑魔であろうと推測していた。
依頼人の体に纏わりついた粘つく紐らしきもの。暗闇に光っていた複数の目。いずれの情報も蜘蛛を連想させるものだ。また、空を滑るように動く気配があったとの話だが、これも蜘蛛が巣の上を歩いて近づいてきたと考えることが出来る。
また、今回の依頼には、その雑魔が棲みついてしまった古い家屋もなるべく無事に取り戻して欲しいという要望が付けられていた。
あくまでお願いレベルのものではあったが、ハンター達がその期待にも応えたいと考えていたのは言うまでもない。
依頼に参加する六人は額を寄せ合って作戦を練り、大体の方針がまとまるとやがて現場へと向かった。
●
ハンター達の目の前には小さな一軒家が建っている。木造で、たしかに大立ち回りをしたら倒壊する可能性もありそうな代物だ。
今から速やかに、中にいるという魔物を排除しなくてはならないが……。
「さて、初任務よ。初心忘るべからず、ここが全ての出発点よ」
鬼非鬼 ゆー(ka4952)も拾九と同じく、今回が初めての依頼となるようだ。10時間以上しっかり充電をすませたハンディLEDライトがその手に握られている。敵の正体が蜘蛛ならば、その巣である糸をひっぱり寄せることで雑魔自身を引きずりだすことができるはず。ハンディLEDライトはその際、暗い屋内でひっぱり出す糸を判別するためのものでもある。
(やはり大王たるもの、危険な役目を率先してこなしていかなければな)
蜘蛛を屋外に引っ張り出すため、敵の矢面に立つことになるであろう役目を引き受けたのはディアドラだ。
「さてさて、奴さんはどう動くのかねぇ」
フェリル・L・サルバ(ka4516)もディアドラのフォロー兼、敵を引っ張り出す担当だ。今、彼は入り口の扉に耳を当て、中の気配を探っている。現状、彼の耳に入ってくるのは野外の自然音のみである。敵は寝ているのか……それとも待ち伏せているのか。
「さーて、私達の予想はあってるかしらね?」
中にいる雑魔を意識しながら呟くアルラウネ(ka4841)。風にあおられ、光加減によって金色だったり碧色だったりする美しい髪がさらさらと揺れる。
異常なしと判断したフェリルと交代し、ゆーは入り口に立つ。そしてそっと扉を開いた。窓は鎧戸によって閉ざされているため、中は真っ暗に近い。そこにゆーがLEDライトをさしこみ、周囲を照らす。
たちまち目に入ってくるのはところ狭しと張られた無数の太い紐……いや、巨大な蜘蛛の巣であった。ハンター達の読みに間違いはなかったようである。
そんな中、彼女の灯りが一体のうずくまる何かを捉えた。気配を察したのか、その魔物は身じろぎする。
ゆーは素早く中を調べ、入り口からその魔物へと連なる糸を探しだした。
「では、作戦開始よ。大王様、そこの糸をお掴みください」
ゆーの言葉に従い、一本の太い糸に手を伸ばすディアドラ。
彼女は『ぬと』、という嫌な感触を無視してそれを掴む。かすかな振動を感知し、闇の奥の気配が動いた。
フェリル、ゆーも綱引きの要領でディアドラが掴んだ紐を、彼女ごと引っ張った。
「せーっの!」
ゆーの掛け声と共に、ハンター達は息を合わせて一斉に力を込める。太い糸は段々と伸びる、伸びる、伸びる……。
「大王さん、あんまり無茶はしないでね」
いざという時はウィンドスラッシュで糸を断ち切るつもりのミューレ。
獲物がかかったと勘違いしたのか、それとも巣を壊そうとする不届きものを追い払いに来たのか、屋内から巨大な生き物の気配が近づいてくる。
やがて、のそり、と戸口から顔を出したのは八つの赤い眼を持つ化け物だった。まだ糸の上に乗っており、全身は空中に浮いている。化け物の脚らしきものが戸口から見えているが、まだ完全に屋外には出ていない。
突然化け物は口を大きく開くと、白い糸状のものを吐いた。もちろん、ディアドラたちに向かってである。そこに割って入ったのは拾九。ねばつく糸に腕が絡めとられる形となってしまったが、むしろそれを引っ張る形でディアドラ達を援護する拾九。
化け物はそれにつられたか、狭い戸口を横向きに伝い、這い出てきた。全身があらわになった異形の存在は八つの脚を持っている……ハンター達が考えていた通り、それは蜘蛛型の雑魔であった。
好機と捉えたアルラウネは斬馬刀を魔物の脚へと振るう。刃は魔物の体を切り裂いた。痛みと驚きにより、蜘蛛は素早く家の外壁を伝いあがった。
何とか蜘蛛を屋外に引きずりだすことに成功したハンター達。囮を努めたものは糸から手を離し、拾九も絡みついたものを振りほどこうと悪戦苦戦しつつ、雑魔を見上げた。自然界ではありえないほどの大きさの、蜘蛛型の化け物を。
「このサイズは……本能的に気持ち悪いと感じてしまうわね……」
完全な姿を見てアルラウネは正直な感想を漏らし、斬馬刀を構えなおした。巨大な蜘蛛はハンター達の挙動をうかがっているのか、じっとしたままた。
まず動いたのはディアドラ。左腕の盾を相手へと構えたまま、じり、と地をこすり距離を詰める。
その瞬間、巨大な蜘蛛は壁から彼女へと飛び掛る。まさに、自然界の蜘蛛が小さな虫を捕える時のように。
のしかかるように落ちてきた雑魔を、ディアドラはシールド「トゥルム」でうまく防いだ。彼女は数歩後ずさりはしたものの、怪我はない。
ゆーは蜘蛛の側面へと回り込み、右手の短剣で蜘蛛の腹部を突き刺した。痛みに身をのけぞらす雑魔。
「悪いけど逃がさないよ」
蜘蛛が家屋から離れた隙に、ミューレは素早く戸口の側へと近づき、アースウォールのスキルを用いた。地の精霊の力を借りた土の壁が彼女の隣に隆起した。それは綺麗に家の戸口を塞ぎ、巨大な雑魔の退路を塞いでしまう。
アルラウネは着地した蜘蛛の周囲をまるで円を描くように移動し、間合いを図っている。ソードダンサーのスキル、円舞である。
ようやく糸を完全に取り払った拾九は日本刀「景幸」、小太刀「烈火」を手に魔物へとしかけた。まず狙うは八本ある脚の内の一つ。剣心一如により威力の引き上げられた二刀が両断せんと振るわれるが、手傷を負わせるのみにとどまった。
フェリルはランアウトにより敵へと素早く近づき、妖剣「モルドゥール」を振った。黒い刀身が雑魔へと突き刺さり、巨大な蜘蛛は身をよじらせる。
アルラウネは疾風剣により素早く間合いを詰め、脚を切りつけた。戦果をあげると再び雑魔から距離を取る。この戦い方が安全であろうと考えてのことだ。
周囲から波状攻撃をしかけてくる相手に対し、蜘蛛の雑魔は再び自身が身につけている能力を使うことにした。大蜘蛛の口から糸が吐き出される。狙われたのはアルラウネ。投網のように広がる粘液が彼女に襲い掛かる。それはスキルによって身のこなしが上昇している彼女でもよけることがかなわなかった。不快な糸が体にまとわりつき、アルラウネは動きを阻害されてしまう。
彼女の危機にミューレは魔術具である栄光の手を一振りし、ウィンドスラッシュを放つ。狙いはアルラウネを包む糸だ。鋭利な風が巻き起こり、彼女に絡む糸を一部切り裂いた。
ディアドラは雑魔とアルラウネの間に割って入り、敵の意識がこちらへと向くように努める。
蜘蛛は一本の脚を振りかぶり、ディアドラを狙ったが彼女はそれを再び上手く盾で捌く。お返しとばかりに騎士剣「ローレル・ライン」を叩き込み、雑魔に傷を負わせることに成功した。
(……蜘蛛の糸に絡まれる女の子って、ちょっと色っぽいよね~)
などという考えが少しだけアルラウネの脳裏をよぎったが、このままでは危険である。ウィンドスラッシュによって裁断された蜘蛛の糸は、幸いそこまで脱出に手はかからずにすみそうだ。アルラウネは糸を振りほどくことに専念した。
巨大な蜘蛛との一進一退の戦いが続く。雑魔はその巨体に似合う、タフさを持ち合わせていたのである。ハンター達はまだ傷を負ってはいなかったものの、その頑健さには舌を巻いていた。
顎を大きく開き、今度は噛み付こうとする雑魔。しかしドッジダッシュでその攻撃を大きく回避し、そのまま敵の背後へと回りこんだのはフェリルだ。そのままスラッシュエッジによる剣閃が蜘蛛の死角から振るわれる。
雑魔は暴れ、今度はディアドラへと向かって脚を振るうが、それもやはり彼女の盾によって防がれてしまう。
「全部切り落とすわよ!」
アルラウネの疾風剣が再び雑魔の脚を狙う。数度の斬撃により痛めつけられていたその脚は、ついに真っ二つとなり、切れた脚は消滅した。よろける雑魔。
大蜘蛛は再び糸を吐き出すつもりか、大きく口を開いた。それに素早く反応したのたミューレだ。
「残念だけど、そうはさせないよ」
ミューレの起こしたマテリアルの風が蜘蛛目掛けて放たれる。さきほど糸を切り裂いた時のように、彼のウィンドスラッシュは蜘蛛の目を一つ潰した。その衝撃で蜘蛛の糸は目標から大きく逸れた場所に放たれる。
拾九もその傷を抉るように刃を突き立てる。蜘蛛は怒り狂い、目の前の拾九へと向かって新たに糸を吐き出した。左手の小太刀にべたつく糸が巻きついたものの、彼は即座に得物を捨て、束縛されることをからくも防ぐ。しかし間隙をついて振るわれた脚はさすがに避けきれず、蜘蛛の爪が彼の胴体を切り裂いた。拾九はよろめいたが、命に別状はない。雑魔から距離を取り、マテリアルヒーリングの行使に入る。
「もう巣には帰れないわよ」
ゆーは二本の剣を逆手に持ち、蝶のように舞い、蜂のように刺した。なお、自然界の蜘蛛にとっても蜂は天敵であることが多い。蜂の毒針が蜘蛛を餌食にするがのごとく、ゆーの右手のクファンジャルが雑魔の大きな腹部を切り裂いた。
それでもまだ暴れ続ける蜘蛛の化け物。しかし、ハンター達の攻撃がヒットするたびに少しずつその動きも弱まっていく。
やがて、ディアドラの剣が蜘蛛の頭部を串刺しにし、ようやく雑魔はその活動を停止したのだった。
●
「それにしても、こいつはいったいどこからやって来たんだろうね。興味深いね」
この世界との繋がりを失い、消滅していく巨大な雑魔を見ながら、ミューレは感慨深げにつぶやいた。家にすみついた、ただの蜘蛛が雑魔化したのか、それともどこか遠くからやってきたのか、残念ながら定かではない。
応急手当の心得があるゆーは手傷を負った拾九に近づくが、彼がもう一度マテリアルヒーリングを用いると、傷は完全にふさがった。ゆーの心遣いに感謝の言葉を伝える拾九。
敵の姿も完全に消え、あとは古い一軒家が残るだけだ。幸い、雑魔との戦闘で家屋に流れ弾が当たるというようなこともなかった。開いた戸口からは中の様子がほの見える。蜘蛛は姿を消したものの、雑魔が張り巡らした巣はまだ残ってしまっているようだ。
「これは、家の中が酷い有様になってそうね」
べとべとしている自分の服を気にしながら、依頼人の家の心配をするアルラウネ。さきほど糸に囚われた彼女はその心配もひとしおだった。
ハンター達はそれぞれ気をつけながら、依頼人の家へと足を踏み入れる。
ハンディLEDライトで家の中を調査するゆー。雑魔が卵を産み付けている可能性を考えてのことだ。
「頼まれたのは害虫駆除で、部屋の掃除ではないものね」
と言いつつも部屋の隅々を照らすゆー。
ディアドラも室内に入り、残っている蜘蛛の糸を注意深く取り払っている。
(最悪もう一体いる可能性も無きにしも非ず。最後まで油断は禁物だな)
ディアドラの危惧は幸いにも外れ、あやしげな塊や新たな敵の姿はなかった。
拾九は念の為、家に損害が出ていないかを内部からも確認したが、目に見えるほどの損壊はないようだ。拾九もディアドラと同じく、部屋の掃除を開始する。
(何て事はありませんよ、仕事のついでです故に)
そう心の中で呟く拾九の隣で、アルラウネも軽く掃除を手伝った。
アルラウネが予想していた通り、家の中は蜘蛛の巣だらけだったわけだが、ハンター達の活動のおかげで、蜘蛛の糸に関してはほぼ取り除かれた。まだそこかしこがべたべたするものの、それは時間が解決してくれるだろう。
ハンター達はオフィスへと戻り、事の次第を報告する。埃もかぶることになった彼らの有様に受付嬢は驚いていたが、結果を伝えると顔をほころばせ、依頼人に伝えておきますと口にした。
きっと、依頼人も受付嬢のような笑顔を浮かべてくれるに違いない。
ハンター達はやりとげた表情で仲間に別れを告げ、それぞれの帰途へとついたのであった。
「空家の中に巣食う魔物か……何であれ安全上から言えばすぐに倒さねばなるまい。まあ、大王たるボクがいる以上、不安要素は皆無といっていいだろう」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)。遠い遠い古の時代に世界を支配していたという大王の生まれ変わり……を自称する少女である。
真偽は定かではないが、その立ち居振る舞いはどことなく高貴さがうかがえる……ような気がする。
「さて、敵の正体は何だろうね? 巨大蜘蛛だと当たりは付けているけど、本当のところはどうだろうね」
呟いたのはミューレ(ka4567)。エルフである彼は外見年齢が5……いや、幼い少女のような外見をしているが、実際の年齢は半世紀を超えているらしく、今も落ち着いた様子で敵の正体に考えを巡らせている。
「……歪虚の脅威に晒されているのは此方も同じなのですね」
相馬 拾九(ka4893)は先日の聖地奪還の際、東方のエトファリカより派遣された者の内の一人だ。西方に援軍に着た後、ハンターとなってからの初仕事であるらしい。
「……依頼人殿の話を聞く限り、件の魔獣はまるで蜘蛛の様な事をするなと思いましたが……さて」
受付嬢から依頼の内容を聞いたハンターたち。彼らは今回の敵は蜘蛛型の雑魔であろうと推測していた。
依頼人の体に纏わりついた粘つく紐らしきもの。暗闇に光っていた複数の目。いずれの情報も蜘蛛を連想させるものだ。また、空を滑るように動く気配があったとの話だが、これも蜘蛛が巣の上を歩いて近づいてきたと考えることが出来る。
また、今回の依頼には、その雑魔が棲みついてしまった古い家屋もなるべく無事に取り戻して欲しいという要望が付けられていた。
あくまでお願いレベルのものではあったが、ハンター達がその期待にも応えたいと考えていたのは言うまでもない。
依頼に参加する六人は額を寄せ合って作戦を練り、大体の方針がまとまるとやがて現場へと向かった。
●
ハンター達の目の前には小さな一軒家が建っている。木造で、たしかに大立ち回りをしたら倒壊する可能性もありそうな代物だ。
今から速やかに、中にいるという魔物を排除しなくてはならないが……。
「さて、初任務よ。初心忘るべからず、ここが全ての出発点よ」
鬼非鬼 ゆー(ka4952)も拾九と同じく、今回が初めての依頼となるようだ。10時間以上しっかり充電をすませたハンディLEDライトがその手に握られている。敵の正体が蜘蛛ならば、その巣である糸をひっぱり寄せることで雑魔自身を引きずりだすことができるはず。ハンディLEDライトはその際、暗い屋内でひっぱり出す糸を判別するためのものでもある。
(やはり大王たるもの、危険な役目を率先してこなしていかなければな)
蜘蛛を屋外に引っ張り出すため、敵の矢面に立つことになるであろう役目を引き受けたのはディアドラだ。
「さてさて、奴さんはどう動くのかねぇ」
フェリル・L・サルバ(ka4516)もディアドラのフォロー兼、敵を引っ張り出す担当だ。今、彼は入り口の扉に耳を当て、中の気配を探っている。現状、彼の耳に入ってくるのは野外の自然音のみである。敵は寝ているのか……それとも待ち伏せているのか。
「さーて、私達の予想はあってるかしらね?」
中にいる雑魔を意識しながら呟くアルラウネ(ka4841)。風にあおられ、光加減によって金色だったり碧色だったりする美しい髪がさらさらと揺れる。
異常なしと判断したフェリルと交代し、ゆーは入り口に立つ。そしてそっと扉を開いた。窓は鎧戸によって閉ざされているため、中は真っ暗に近い。そこにゆーがLEDライトをさしこみ、周囲を照らす。
たちまち目に入ってくるのはところ狭しと張られた無数の太い紐……いや、巨大な蜘蛛の巣であった。ハンター達の読みに間違いはなかったようである。
そんな中、彼女の灯りが一体のうずくまる何かを捉えた。気配を察したのか、その魔物は身じろぎする。
ゆーは素早く中を調べ、入り口からその魔物へと連なる糸を探しだした。
「では、作戦開始よ。大王様、そこの糸をお掴みください」
ゆーの言葉に従い、一本の太い糸に手を伸ばすディアドラ。
彼女は『ぬと』、という嫌な感触を無視してそれを掴む。かすかな振動を感知し、闇の奥の気配が動いた。
フェリル、ゆーも綱引きの要領でディアドラが掴んだ紐を、彼女ごと引っ張った。
「せーっの!」
ゆーの掛け声と共に、ハンター達は息を合わせて一斉に力を込める。太い糸は段々と伸びる、伸びる、伸びる……。
「大王さん、あんまり無茶はしないでね」
いざという時はウィンドスラッシュで糸を断ち切るつもりのミューレ。
獲物がかかったと勘違いしたのか、それとも巣を壊そうとする不届きものを追い払いに来たのか、屋内から巨大な生き物の気配が近づいてくる。
やがて、のそり、と戸口から顔を出したのは八つの赤い眼を持つ化け物だった。まだ糸の上に乗っており、全身は空中に浮いている。化け物の脚らしきものが戸口から見えているが、まだ完全に屋外には出ていない。
突然化け物は口を大きく開くと、白い糸状のものを吐いた。もちろん、ディアドラたちに向かってである。そこに割って入ったのは拾九。ねばつく糸に腕が絡めとられる形となってしまったが、むしろそれを引っ張る形でディアドラ達を援護する拾九。
化け物はそれにつられたか、狭い戸口を横向きに伝い、這い出てきた。全身があらわになった異形の存在は八つの脚を持っている……ハンター達が考えていた通り、それは蜘蛛型の雑魔であった。
好機と捉えたアルラウネは斬馬刀を魔物の脚へと振るう。刃は魔物の体を切り裂いた。痛みと驚きにより、蜘蛛は素早く家の外壁を伝いあがった。
何とか蜘蛛を屋外に引きずりだすことに成功したハンター達。囮を努めたものは糸から手を離し、拾九も絡みついたものを振りほどこうと悪戦苦戦しつつ、雑魔を見上げた。自然界ではありえないほどの大きさの、蜘蛛型の化け物を。
「このサイズは……本能的に気持ち悪いと感じてしまうわね……」
完全な姿を見てアルラウネは正直な感想を漏らし、斬馬刀を構えなおした。巨大な蜘蛛はハンター達の挙動をうかがっているのか、じっとしたままた。
まず動いたのはディアドラ。左腕の盾を相手へと構えたまま、じり、と地をこすり距離を詰める。
その瞬間、巨大な蜘蛛は壁から彼女へと飛び掛る。まさに、自然界の蜘蛛が小さな虫を捕える時のように。
のしかかるように落ちてきた雑魔を、ディアドラはシールド「トゥルム」でうまく防いだ。彼女は数歩後ずさりはしたものの、怪我はない。
ゆーは蜘蛛の側面へと回り込み、右手の短剣で蜘蛛の腹部を突き刺した。痛みに身をのけぞらす雑魔。
「悪いけど逃がさないよ」
蜘蛛が家屋から離れた隙に、ミューレは素早く戸口の側へと近づき、アースウォールのスキルを用いた。地の精霊の力を借りた土の壁が彼女の隣に隆起した。それは綺麗に家の戸口を塞ぎ、巨大な雑魔の退路を塞いでしまう。
アルラウネは着地した蜘蛛の周囲をまるで円を描くように移動し、間合いを図っている。ソードダンサーのスキル、円舞である。
ようやく糸を完全に取り払った拾九は日本刀「景幸」、小太刀「烈火」を手に魔物へとしかけた。まず狙うは八本ある脚の内の一つ。剣心一如により威力の引き上げられた二刀が両断せんと振るわれるが、手傷を負わせるのみにとどまった。
フェリルはランアウトにより敵へと素早く近づき、妖剣「モルドゥール」を振った。黒い刀身が雑魔へと突き刺さり、巨大な蜘蛛は身をよじらせる。
アルラウネは疾風剣により素早く間合いを詰め、脚を切りつけた。戦果をあげると再び雑魔から距離を取る。この戦い方が安全であろうと考えてのことだ。
周囲から波状攻撃をしかけてくる相手に対し、蜘蛛の雑魔は再び自身が身につけている能力を使うことにした。大蜘蛛の口から糸が吐き出される。狙われたのはアルラウネ。投網のように広がる粘液が彼女に襲い掛かる。それはスキルによって身のこなしが上昇している彼女でもよけることがかなわなかった。不快な糸が体にまとわりつき、アルラウネは動きを阻害されてしまう。
彼女の危機にミューレは魔術具である栄光の手を一振りし、ウィンドスラッシュを放つ。狙いはアルラウネを包む糸だ。鋭利な風が巻き起こり、彼女に絡む糸を一部切り裂いた。
ディアドラは雑魔とアルラウネの間に割って入り、敵の意識がこちらへと向くように努める。
蜘蛛は一本の脚を振りかぶり、ディアドラを狙ったが彼女はそれを再び上手く盾で捌く。お返しとばかりに騎士剣「ローレル・ライン」を叩き込み、雑魔に傷を負わせることに成功した。
(……蜘蛛の糸に絡まれる女の子って、ちょっと色っぽいよね~)
などという考えが少しだけアルラウネの脳裏をよぎったが、このままでは危険である。ウィンドスラッシュによって裁断された蜘蛛の糸は、幸いそこまで脱出に手はかからずにすみそうだ。アルラウネは糸を振りほどくことに専念した。
巨大な蜘蛛との一進一退の戦いが続く。雑魔はその巨体に似合う、タフさを持ち合わせていたのである。ハンター達はまだ傷を負ってはいなかったものの、その頑健さには舌を巻いていた。
顎を大きく開き、今度は噛み付こうとする雑魔。しかしドッジダッシュでその攻撃を大きく回避し、そのまま敵の背後へと回りこんだのはフェリルだ。そのままスラッシュエッジによる剣閃が蜘蛛の死角から振るわれる。
雑魔は暴れ、今度はディアドラへと向かって脚を振るうが、それもやはり彼女の盾によって防がれてしまう。
「全部切り落とすわよ!」
アルラウネの疾風剣が再び雑魔の脚を狙う。数度の斬撃により痛めつけられていたその脚は、ついに真っ二つとなり、切れた脚は消滅した。よろける雑魔。
大蜘蛛は再び糸を吐き出すつもりか、大きく口を開いた。それに素早く反応したのたミューレだ。
「残念だけど、そうはさせないよ」
ミューレの起こしたマテリアルの風が蜘蛛目掛けて放たれる。さきほど糸を切り裂いた時のように、彼のウィンドスラッシュは蜘蛛の目を一つ潰した。その衝撃で蜘蛛の糸は目標から大きく逸れた場所に放たれる。
拾九もその傷を抉るように刃を突き立てる。蜘蛛は怒り狂い、目の前の拾九へと向かって新たに糸を吐き出した。左手の小太刀にべたつく糸が巻きついたものの、彼は即座に得物を捨て、束縛されることをからくも防ぐ。しかし間隙をついて振るわれた脚はさすがに避けきれず、蜘蛛の爪が彼の胴体を切り裂いた。拾九はよろめいたが、命に別状はない。雑魔から距離を取り、マテリアルヒーリングの行使に入る。
「もう巣には帰れないわよ」
ゆーは二本の剣を逆手に持ち、蝶のように舞い、蜂のように刺した。なお、自然界の蜘蛛にとっても蜂は天敵であることが多い。蜂の毒針が蜘蛛を餌食にするがのごとく、ゆーの右手のクファンジャルが雑魔の大きな腹部を切り裂いた。
それでもまだ暴れ続ける蜘蛛の化け物。しかし、ハンター達の攻撃がヒットするたびに少しずつその動きも弱まっていく。
やがて、ディアドラの剣が蜘蛛の頭部を串刺しにし、ようやく雑魔はその活動を停止したのだった。
●
「それにしても、こいつはいったいどこからやって来たんだろうね。興味深いね」
この世界との繋がりを失い、消滅していく巨大な雑魔を見ながら、ミューレは感慨深げにつぶやいた。家にすみついた、ただの蜘蛛が雑魔化したのか、それともどこか遠くからやってきたのか、残念ながら定かではない。
応急手当の心得があるゆーは手傷を負った拾九に近づくが、彼がもう一度マテリアルヒーリングを用いると、傷は完全にふさがった。ゆーの心遣いに感謝の言葉を伝える拾九。
敵の姿も完全に消え、あとは古い一軒家が残るだけだ。幸い、雑魔との戦闘で家屋に流れ弾が当たるというようなこともなかった。開いた戸口からは中の様子がほの見える。蜘蛛は姿を消したものの、雑魔が張り巡らした巣はまだ残ってしまっているようだ。
「これは、家の中が酷い有様になってそうね」
べとべとしている自分の服を気にしながら、依頼人の家の心配をするアルラウネ。さきほど糸に囚われた彼女はその心配もひとしおだった。
ハンター達はそれぞれ気をつけながら、依頼人の家へと足を踏み入れる。
ハンディLEDライトで家の中を調査するゆー。雑魔が卵を産み付けている可能性を考えてのことだ。
「頼まれたのは害虫駆除で、部屋の掃除ではないものね」
と言いつつも部屋の隅々を照らすゆー。
ディアドラも室内に入り、残っている蜘蛛の糸を注意深く取り払っている。
(最悪もう一体いる可能性も無きにしも非ず。最後まで油断は禁物だな)
ディアドラの危惧は幸いにも外れ、あやしげな塊や新たな敵の姿はなかった。
拾九は念の為、家に損害が出ていないかを内部からも確認したが、目に見えるほどの損壊はないようだ。拾九もディアドラと同じく、部屋の掃除を開始する。
(何て事はありませんよ、仕事のついでです故に)
そう心の中で呟く拾九の隣で、アルラウネも軽く掃除を手伝った。
アルラウネが予想していた通り、家の中は蜘蛛の巣だらけだったわけだが、ハンター達の活動のおかげで、蜘蛛の糸に関してはほぼ取り除かれた。まだそこかしこがべたべたするものの、それは時間が解決してくれるだろう。
ハンター達はオフィスへと戻り、事の次第を報告する。埃もかぶることになった彼らの有様に受付嬢は驚いていたが、結果を伝えると顔をほころばせ、依頼人に伝えておきますと口にした。
きっと、依頼人も受付嬢のような笑顔を浮かべてくれるに違いない。
ハンター達はやりとげた表情で仲間に別れを告げ、それぞれの帰途へとついたのであった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 6人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/03 20:15:27 |
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相談卓 相馬 拾九(ka4893) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2015/06/05 09:05:06 |