ゲスト
(ka0000)
森に咲く一輪の
マスター:秋月雅哉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/06 19:00
- 完成日
- 2015/06/07 22:52
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●可憐な花にも棘がある
その花は森の中でたった一輪咲いている、孤独な花だった。
森自体は下草も豊かで、木々の樹齢も長い立派なものだった。
けれどその花の同族ともいうべき、同じ種類の花はいなかった。
花は何にも縛られずに咲き誇る。
多年草であるらしく、毎年毎年、同じ場所で咲き誇る。
誰も見に来る人がいないと知っているのだろうか。
知っているかもしれない。知らないかもしれない。
それでも花は咲き続ける。ただ咲くことが己の役割であるというように、咲くことが生まれてきた理由だとでもいうように。
「なぁ、聞いたか。凄く珍しい花が入らずの森に咲いているらしいぜ」
好奇心が旺盛そうな青年の言葉に気が弱そうな青年は眉をひそめた。
「入らずの森の意味を知らないのかよ。入ったらいけないからそう呼ばれているんだろう」
「まぁ聞けよ、その花に好事家が高値の懸賞金を付けたんだ」
「花に懸賞金?」
それはまた不思議な話である。
「なんでも突然変異の一種じゃないかって話が合ってさ、それで、この村って貧しいだろう。
俺とお前でちょっと取りに行ってみないか」
「でもジョニー、入らずの森は……」
「聞き分けのないやつだな、ジョアンは。なんで話が漏れたか考えてみろよ。入らずの森に誰かが入って『あそこには珍しい花がある』って吹聴したからだろう」
「……あまりいい気はしないな。俺はやめておくよ」
「なら俺がいってくる。探すのに少し時間がかかるかもしれないが……そうだな、三日か四日で戻るよ」
花を根元から土ごと持ってこないといけないらしいし、準備があるから俺はもういくよ。
ジョニーが杜へ行く準備を進める間、ジョアンは気になる噂を耳にした。
『以前ジョニーが注意して、それに激昂したごろつきたちが最近入らずの森へ立ち入っている』
何かよからぬことを考えているのかもしれない、とごろつきたちの様子をこっそり探ると何やら荷物を持って森へと分け入っているではないか。
「前、お前と揉めたごろつきがなにか企んでるかもしれないんだ。やっぱりやめた方がいい」
ジョアンはジョニーに再度森へ入る事をやめるよう促したが相手はどこ吹く風。
「向こうも賞金のことを耳にして探し回ってるんだろうさ。明日の朝に出発するよ」
そして、ジョニーは一週間を過ぎても戻ってこなかったのである。
「友人を探し出してきてほしいんです。何でも珍しい花が入らずの森にあるってうわさが広がって、懸賞金までかかっているみたいで」
「落ち着いて、ジョアン君。入らずの森にその珍しい花が咲いていると他の人も知っているのかい?」
知っていて立ち入り、何かが理由で帰ってこれなくなった人は他にはいないか、というルカ・シュバルツエンド(kz0073)の問いかけにジョアンは少し考えた後首を振った。
「何人か森に入ろうとはしたみたいです。でも空気がおかしい、やっぱり入らずの森には入ったら駄目なんだってすぐ戻ってきました。
あ、でも友人と揉めたことのあるごろつきは何度も森へ入ってるみたいです」
「となると誰が噂を広めて、どんな好事家が花一輪に多額の懸賞金をかけたりしたんだろう。
ジョニー君はもしかしてちょっと向こう見ずで、こういったら何だけど博打好きだったりするのかな」
「……おっしゃる通りです。彼は子供が多いから金策が大変みたいで」
「それにごろつきが何度も、か。誰かが仕組んだ罠、ということも考えられるね。それと空気が明らかにおかしいなら植物か動物が歪虚化しているのかもしれない。
ジョニー君を陥れようとしている可能性は否定できないね」
ルカの言葉にジョニーが震え上がった。
「そ、そんなに危険なんですか!?」
「嫌がらせのつもりで仕込んだ罠に引っかかったところに、雑魔が現れたとして、しかもそれを事前に知ることなくジョニー君が入らずの森に入ったならそれは命に関わるよ」
あまり困ったことになってないといいけど。
ルカはそう言いながら僅かに眉間にしわを寄せた。
「どっちみち、食料ももう尽きてる可能性が高いよね。三日か四日で戻るっていって出ていって、もう一週間だ。
入らずの森ってことは道の整備も、案内板もないんだろう? 一人で出かけていったなら足を怪我して動けないかもしれない、うっかり迷って出られなくなったのかもしれない。
あとはまぁ……花探しに夢中になりすぎて時間を忘れてるとか? それにしたって夢中に、がむしゃらに探したんじゃ帰り道が分からなくなるよ。
ジョニー君にこういう、森や山での探し物の経験は?」
「ない、と思います。あってもいらずの森じゃない場所に日暮れ近くなっても帰ってこない子供を探しにとかくらいで……」
ルカの眉間のしわが濃くなった。
「じゃあ、山菜取りの経験は?」
「ジョニーは山菜があまり好きじゃないみたいなんです……」
なんて無謀な。ハンターと斡旋人の顔に浮かんだ呆れた表情にジョアンは縮こまる。
「あの、それで……厚かましいんですけどジョニーを探していただけないでしょうか……」
「もし問題の花が見つかった時は対処は任せるよ。花に罪はないけれど、こういう事件が何度も起きても困る。
君たちでどうするのがベストか見極めて欲しい」
その花は森の中でたった一輪咲いている、孤独な花だった。
森自体は下草も豊かで、木々の樹齢も長い立派なものだった。
けれどその花の同族ともいうべき、同じ種類の花はいなかった。
花は何にも縛られずに咲き誇る。
多年草であるらしく、毎年毎年、同じ場所で咲き誇る。
誰も見に来る人がいないと知っているのだろうか。
知っているかもしれない。知らないかもしれない。
それでも花は咲き続ける。ただ咲くことが己の役割であるというように、咲くことが生まれてきた理由だとでもいうように。
「なぁ、聞いたか。凄く珍しい花が入らずの森に咲いているらしいぜ」
好奇心が旺盛そうな青年の言葉に気が弱そうな青年は眉をひそめた。
「入らずの森の意味を知らないのかよ。入ったらいけないからそう呼ばれているんだろう」
「まぁ聞けよ、その花に好事家が高値の懸賞金を付けたんだ」
「花に懸賞金?」
それはまた不思議な話である。
「なんでも突然変異の一種じゃないかって話が合ってさ、それで、この村って貧しいだろう。
俺とお前でちょっと取りに行ってみないか」
「でもジョニー、入らずの森は……」
「聞き分けのないやつだな、ジョアンは。なんで話が漏れたか考えてみろよ。入らずの森に誰かが入って『あそこには珍しい花がある』って吹聴したからだろう」
「……あまりいい気はしないな。俺はやめておくよ」
「なら俺がいってくる。探すのに少し時間がかかるかもしれないが……そうだな、三日か四日で戻るよ」
花を根元から土ごと持ってこないといけないらしいし、準備があるから俺はもういくよ。
ジョニーが杜へ行く準備を進める間、ジョアンは気になる噂を耳にした。
『以前ジョニーが注意して、それに激昂したごろつきたちが最近入らずの森へ立ち入っている』
何かよからぬことを考えているのかもしれない、とごろつきたちの様子をこっそり探ると何やら荷物を持って森へと分け入っているではないか。
「前、お前と揉めたごろつきがなにか企んでるかもしれないんだ。やっぱりやめた方がいい」
ジョアンはジョニーに再度森へ入る事をやめるよう促したが相手はどこ吹く風。
「向こうも賞金のことを耳にして探し回ってるんだろうさ。明日の朝に出発するよ」
そして、ジョニーは一週間を過ぎても戻ってこなかったのである。
「友人を探し出してきてほしいんです。何でも珍しい花が入らずの森にあるってうわさが広がって、懸賞金までかかっているみたいで」
「落ち着いて、ジョアン君。入らずの森にその珍しい花が咲いていると他の人も知っているのかい?」
知っていて立ち入り、何かが理由で帰ってこれなくなった人は他にはいないか、というルカ・シュバルツエンド(kz0073)の問いかけにジョアンは少し考えた後首を振った。
「何人か森に入ろうとはしたみたいです。でも空気がおかしい、やっぱり入らずの森には入ったら駄目なんだってすぐ戻ってきました。
あ、でも友人と揉めたことのあるごろつきは何度も森へ入ってるみたいです」
「となると誰が噂を広めて、どんな好事家が花一輪に多額の懸賞金をかけたりしたんだろう。
ジョニー君はもしかしてちょっと向こう見ずで、こういったら何だけど博打好きだったりするのかな」
「……おっしゃる通りです。彼は子供が多いから金策が大変みたいで」
「それにごろつきが何度も、か。誰かが仕組んだ罠、ということも考えられるね。それと空気が明らかにおかしいなら植物か動物が歪虚化しているのかもしれない。
ジョニー君を陥れようとしている可能性は否定できないね」
ルカの言葉にジョニーが震え上がった。
「そ、そんなに危険なんですか!?」
「嫌がらせのつもりで仕込んだ罠に引っかかったところに、雑魔が現れたとして、しかもそれを事前に知ることなくジョニー君が入らずの森に入ったならそれは命に関わるよ」
あまり困ったことになってないといいけど。
ルカはそう言いながら僅かに眉間にしわを寄せた。
「どっちみち、食料ももう尽きてる可能性が高いよね。三日か四日で戻るっていって出ていって、もう一週間だ。
入らずの森ってことは道の整備も、案内板もないんだろう? 一人で出かけていったなら足を怪我して動けないかもしれない、うっかり迷って出られなくなったのかもしれない。
あとはまぁ……花探しに夢中になりすぎて時間を忘れてるとか? それにしたって夢中に、がむしゃらに探したんじゃ帰り道が分からなくなるよ。
ジョニー君にこういう、森や山での探し物の経験は?」
「ない、と思います。あってもいらずの森じゃない場所に日暮れ近くなっても帰ってこない子供を探しにとかくらいで……」
ルカの眉間のしわが濃くなった。
「じゃあ、山菜取りの経験は?」
「ジョニーは山菜があまり好きじゃないみたいなんです……」
なんて無謀な。ハンターと斡旋人の顔に浮かんだ呆れた表情にジョアンは縮こまる。
「あの、それで……厚かましいんですけどジョニーを探していただけないでしょうか……」
「もし問題の花が見つかった時は対処は任せるよ。花に罪はないけれど、こういう事件が何度も起きても困る。
君たちでどうするのがベストか見極めて欲しい」
リプレイ本文
●探し人は森の中
ハンターオフィスに持ち込まれた行方不明の男性探し。
森に一輪だけ咲くという不思議な花を横糸に、行方不明になった男性と揉めていた不良とのいざこざを縦糸にして紡がれた物語に、新たな色が加わった。
それは友人を案じながらも入らずの森に入ることを拒み、言い残した日数を過ぎても帰ってこない友人の捜索願を出したジョアンによって招聘されたハンターたちだ。
「ジョニーさんを恨むごろつきたちが問題の森へ……か。ぐむむ、確かに怪しいねぇ。
捕まえよう。そうしよう」
超級まりお(ka0824)は探し人であるジョニーを陥れようとならず者たちが画策した可能性がある、という指摘からジョアンを伴ってならず者のたまり場へとやってきていた。
すぐ済むようなら、と火椎 帝(ka5027)も同行している。
運はハンターたちに味方した。数か所をたまり場に、不規則なローテーションで使用しているという、いかにも身持ちの悪そうな男たちが探し始めてほぼすぐに見つかったのだ。
ハリセン片手にすたすたと自分たちに向かって近づいてくる少女を見てごろつきたちは座り込んだまま見上げるように睨み付ける。
「ガキが何の用だ?」
「入らずの森で何をしてたか白状してもらおうかな?」
にこり、と笑いながらストレートに問いかけると見かけは自分より十以上も年下で、しかも少女だったことが真面目に答える気をなくさせたのだろう。
そうでなくてもこういった手合いは危機を感じればベラベラと喋るのが常だが強がるのもまた常である。
「何のことだかわかりませーん」
「素直に白状した方が良いと思うんだけどなぁ」
厚紙を加工しただけのハリセンだが慣れた者の手にかかればそれなりの威力を発揮する。
「何しやがる!?」
「白状しないなら……そうだなぁ、片方の眉毛を剃るとか前髪を全部切るとかどう?
その前にボコボコにするけどね、このハリセンで」
「助太刀するよ。あまり時間もないことだしね。ジョニーさんを陥れるために何かしたんじゃないかい?」
体格のいい帝も前面に出てきたことでならず者たちは一瞬ひるんだがまだ強がるそぶりを見せた。
「うーん、あんまり乱暴はしたくないんだけどね。ごろつきとはいえ一般人だし」
口が良く回るようにまりおが力加減を調節しつつ「撫で」ると不良たちはあっさりと陥落した。
仕掛けた罠の場所と、珍しい花を見かけて植物好きの好事家に花の話をして懸賞金をかけさせ、金策に苦労するジョニーを森で痛めつけようとしたという計画に帝は眉をひそめる。
「少しやりすぎだよ。君たちのことは後で自警団に通報した方がよさそうだな。
もともと雑魔が見られることがある、という場所に罠なんてしかけたら命に関わるということ位子供でも分かるよ」
帝の言葉に流石に決まりが悪そうなならず者の中からリーダー格をまりおが選び出し、捕縛したうえで罠への道案内人へと仕立てる。
「じゃ、先に森に入った仲間に罠のある場所の目印を伝えつつ合流してジョニーさん探しと雑魔がいたら掃討にとりかかろうか」
残りのならず者についてはジョアンが自警団に引き渡すという形に落ち着き、まりおと帝は先行隊に追いつくためにならず者のリーダーを急かしながら入らずの森へと向かったのだった。
ヒースクリフ(ka1686)とグエン・チ・ホア(ka5051)は罠に気をつけながらジョニーが残した痕跡がないかを探っていた。
「束ねた幹が上から落ちてくるフォールディングトラップね……ロープにカモフラージュも施してない、素人作りよ」
グエンが罠を見抜いてうっかり誰かが引っかからないようにと撤去しているときに、二人の前に植物が原型だったと思われる雑魔が一体現れた。
「キャアッ!」
罠には詳しいものの戦いにおいてはまだ自分がどれだけ動けるか自信の持てないグエンが雑魔を見て思わず悲鳴を上げる。
「ほ、ほんとに戦うの!?」
「突破しなければ探し人のもとへ雑魔を連れていくことになる。
みたところそれほど強力な雑魔でもないようだ。俺一人で片づけられると思う。下がっていてくれ」
ヒースクリフが全てが黄金で作られたデリンジャーを構え、雑魔を撃ち抜く。
一撃必殺を旨とする造りに恥じない威力を見せた銃弾によって雑魔は何度か痙攣した後大ぶりの木の葉へと戻った。
枯れたように茶色に変色しているその葉がもう二度と自然に反した動きをしないことを確認した後ヒースクリフはグエンに先に進むぞ、と促す。
グエンは一度身を振るわせた後再び慎重に罠を探しながらヒースクリフの後を追いかけた。
「ろくな知識も、滞在予定の日数を過ぎても対応できるような準備もなしに森に入るだなんて、ちょっと焦りすぎたね、その人。
まぁ、幸い森の中で生活したこともある旅人さんがここにいるしすぐに見つけてあげるよ」
仁川 リア(ka3483)が目印にナイフで木に矢印を刻みながらやれやれ、と肩をすくめた。
こうすることで二重遭難を防ぎ、かつ別行動している仲間が合流するときの指針に、そして散開して探すとき探索範囲が被らないようにという森で探し物をするときの知恵だ。
「こんなところに罠……? でも、ここって誰も入らないはずだよね?」
そのとき、トランシーバーからまりおの声が聞こえてきた。
森の中で現在地を伝えるのはコツがいるが近くにどんな罠があったかを伝えると、まりおはそこからならず者のリーダーの記憶とリアの刻んだ矢印を目印に其方と合流する、と伝えてくる。
帝はヒースクリフたちの方へ合流してもらうことになり、三人ずつの二つの班を作ると改めて探索の開始だ。
まりおとならず者のリーダーを待つ間、リアも慎重な手つきで罠を解除した。
どうせ待つなら帰り道に余計な心配をせずに帰れるよう、時間を有意義に使っておくべき、と考えた結果である。
「その不良とやらの首を落としてやりたいが……」
「駄目だよ、道案内はいた方がいいし罠の場所も覚えてるだけ吐かせた方が得だ」
「まあいい。戦いはまかせておけい」
守屋 昭二(ka5069)の物騒なセリフをさらりと流し、罠を解除しているとまりおたちが到着した。
雑魔はヒースクリフが討ったものの他にも何体かいたらしく、昭二のゆく手を塞ぐ形で根を足代わりに移動する樹木型の雑魔が現れた。
「ごちゃごちゃした探しものはどうせ分からん! わしは刀そのもの、ただ斬るだけよのう!」
得意の居合で幹を一閃、時間が惜しいとばかりにリアとまりおも加勢し、手早く雑魔を片付ける。
「こういうのが出るところに、例え素人が作ったとはいえ罠を張って奥へと誘導するのが危険なことだってこと、少しは空っぽの頭にしみた?
ほら、キリキリ歩く!」
雑魔の出現とハンターたちの気魄に気圧され腰を抜かしていたならず者をまりおが容赦なく引っ立てる。
「で? 花はどっちにあるの?」
ヒースクリフとグエンの班に帝が合流し、腐葉土にジョニーの残した痕跡がないかを改めて探りながら森の中を進んでいく。
グエンは通る途中の植生からどんな花がどの辺りに生えているか、日の当たり具合、土の湿り具合などを確認し、罠にはかかる前に撤去していく。
「今のところ一輪だけ咲いているっていう花の手掛かりはないわね……」
「待て、今声が聞こえた気がする」
ヒースクリフの耳が拾った声を、今度は三人で意識を集中して聞き取ろうとする。
微かだったが男性の物と思われるうめき声が進路方向を少しそれたあたりから聞こえてきた。
「ジョニーさんですか?」
帝の呼びかけに、今度は先ほどより僅かに明瞭になった応えがあった。
罠に気をつけつつ声を頼りに近づいていくと、一輪の花を周囲の土ごと麻縄で包んだものを傍らに置いた男性が木によりかかっていた。
「ジョニーさん?」
「あぁ……そうだが……どちらさんだ?」
「ジョアンさんに依頼されて捜索に来たハンターです。今仲間を呼びますから合流するまで少し休んでください。
怪我はしていませんか? 歩けないようなら負ぶっていきますが」
「木の根に足を取られて……少し捻った。だがゆっくりなら歩けると思う」
「そうですか。本当に、無事でよかった。これからは、友達のいうことにもう少し耳を傾けてみてくださいね」
弱々しく頷くジョニーに昭二が干し肉を差し出す。
帝は匂いを辿ってジョニーを探すのを手伝っていたペットたちを褒め、捻ったという足に添え木をして少しでも負担が減るように処置を施した。
合流したヒースクリフからバラエティーランチとミネラルウォーターを勧められ、胃を刺激しすぎないように、けれど多少は体力が戻る程度に加減してジョニーが食事を済ませる。
「大丈夫? あぁ、顔色は少し良くなったね。後は医者に足を見て貰って消化の良い物をもう少し取って休めば体はすぐによくなるだろう」
リアが初心者がむやみやたらに歩き回るものではないよ、と軽く釘をさすとジョニーは申し訳なさそうに頭を下げた。
ならず者とジョニーの間で一瞬だけ不穏な空気が漂ったがハンターたちが抑止力になったのか、ならず者の方も雑魔を見て少なからず反省したのか仲裁が必要になるような揉め事は起こらなかった。
リアが付けた木の印を見ながら森を抜けようと歩く一同を、何度か植物型の雑魔が襲ってきたが分散していた時でも対処は可能だったレベルの雑魔のみだったこともあり、一般人二人を庇いながらでも連携を生かして畳みかけるように攻撃を仕掛け、速攻で片づけることで余計な隙を作らない戦法が効いて治療が必要な大怪我をする人もなく入らずの森を抜けた。
「これからは上手い話には裏があるってことを考えて動いた方が良い。そっちのあんたも、気に入らないなら正々堂々勝負するんだな。
人の寄らない場所に罠を張って誘導するのはただの意気地なしだ」
ヒースクリフの淡々とした口調は、あっさりしているだけに別々の意味で思慮深いとは言えない一般人二人の胸に刺さったらしい。
ジョニーが見つけ出した森に一輪だけ咲いている珍しい花、をまりおは雑魔ではないかと注意深く見定めていたのだが、日が沈んだ後、夜に移るまでの空の色を切り取ったようなグラデーションの美しい可憐な花は雑魔のように動いたりはしなかった。
どこか鈴蘭に似ている花が風に心もとなげに揺れる。
「まずはジョアンさんにジョニーさんが見つかった報告ね。
子供がたくさんいるってことはご家族も心配してるでしょうし、早く無事な姿を見せてあげないと」
グエンと帝がジョニーに付き添って家まで送り、昭二とヒースクリフはならず者を自警団の詰所まで連れていく。
まりおとリアはジョアンのもとへ花を携えて無事彼の友人を救い出したと報告に行こうと歩き出した。
こうして一輪の花が引き起こした小さな事件は幕を下ろし、ジョアンとジョニーには平穏な日々が、ならず者たちには自警団で下された処罰として奉仕活動の日々がやってきた。
ジョニーは子供たちに散々泣きつかれ、木の強い妻に小言を言われながらも労わられ、ハンターに釘を刺されたこともあって一攫千金を目指すことは多少控えるようになったという。
彼が持ち帰った花は好事家を通して植物研究者たちが生態を解明しきる前に花を咲かせる時期を終えて散ってしまった。
まるで地に足をつけずに夢を追いかけ続けるジョニーが夢から覚め、現実を見始めたのがきっかけのようだ、と村人たちは語る。
喉元過ぎれば熱さを忘れる。そのリアルブルーの格言通り、来年の今頃にはジョニーはまた夢を追いかけはじめているかもしれないし、多年草の花は温室の一角で再び咲くかもしれない。
夢は、見果てぬもの。咲いては散っていくものだから。
少しずつ形を変え、或いは行きつ戻りつしながら、人々の営みが続いていくのに寄り添うように、大小さまざまな夢は描き出される。
夢を見るにしても失敗をきちんと顧みて欲しいものだ、と呆れ交じりの溜息をつくジョアンや、夫の生活に小言を言う妻にも、きっと胸に秘めた夢があるのだろう。
夏の日差しの中で、或いは虫の音響く夜の中で、色あせぬ夢に、祝杯を。
ハンターオフィスに持ち込まれた行方不明の男性探し。
森に一輪だけ咲くという不思議な花を横糸に、行方不明になった男性と揉めていた不良とのいざこざを縦糸にして紡がれた物語に、新たな色が加わった。
それは友人を案じながらも入らずの森に入ることを拒み、言い残した日数を過ぎても帰ってこない友人の捜索願を出したジョアンによって招聘されたハンターたちだ。
「ジョニーさんを恨むごろつきたちが問題の森へ……か。ぐむむ、確かに怪しいねぇ。
捕まえよう。そうしよう」
超級まりお(ka0824)は探し人であるジョニーを陥れようとならず者たちが画策した可能性がある、という指摘からジョアンを伴ってならず者のたまり場へとやってきていた。
すぐ済むようなら、と火椎 帝(ka5027)も同行している。
運はハンターたちに味方した。数か所をたまり場に、不規則なローテーションで使用しているという、いかにも身持ちの悪そうな男たちが探し始めてほぼすぐに見つかったのだ。
ハリセン片手にすたすたと自分たちに向かって近づいてくる少女を見てごろつきたちは座り込んだまま見上げるように睨み付ける。
「ガキが何の用だ?」
「入らずの森で何をしてたか白状してもらおうかな?」
にこり、と笑いながらストレートに問いかけると見かけは自分より十以上も年下で、しかも少女だったことが真面目に答える気をなくさせたのだろう。
そうでなくてもこういった手合いは危機を感じればベラベラと喋るのが常だが強がるのもまた常である。
「何のことだかわかりませーん」
「素直に白状した方が良いと思うんだけどなぁ」
厚紙を加工しただけのハリセンだが慣れた者の手にかかればそれなりの威力を発揮する。
「何しやがる!?」
「白状しないなら……そうだなぁ、片方の眉毛を剃るとか前髪を全部切るとかどう?
その前にボコボコにするけどね、このハリセンで」
「助太刀するよ。あまり時間もないことだしね。ジョニーさんを陥れるために何かしたんじゃないかい?」
体格のいい帝も前面に出てきたことでならず者たちは一瞬ひるんだがまだ強がるそぶりを見せた。
「うーん、あんまり乱暴はしたくないんだけどね。ごろつきとはいえ一般人だし」
口が良く回るようにまりおが力加減を調節しつつ「撫で」ると不良たちはあっさりと陥落した。
仕掛けた罠の場所と、珍しい花を見かけて植物好きの好事家に花の話をして懸賞金をかけさせ、金策に苦労するジョニーを森で痛めつけようとしたという計画に帝は眉をひそめる。
「少しやりすぎだよ。君たちのことは後で自警団に通報した方がよさそうだな。
もともと雑魔が見られることがある、という場所に罠なんてしかけたら命に関わるということ位子供でも分かるよ」
帝の言葉に流石に決まりが悪そうなならず者の中からリーダー格をまりおが選び出し、捕縛したうえで罠への道案内人へと仕立てる。
「じゃ、先に森に入った仲間に罠のある場所の目印を伝えつつ合流してジョニーさん探しと雑魔がいたら掃討にとりかかろうか」
残りのならず者についてはジョアンが自警団に引き渡すという形に落ち着き、まりおと帝は先行隊に追いつくためにならず者のリーダーを急かしながら入らずの森へと向かったのだった。
ヒースクリフ(ka1686)とグエン・チ・ホア(ka5051)は罠に気をつけながらジョニーが残した痕跡がないかを探っていた。
「束ねた幹が上から落ちてくるフォールディングトラップね……ロープにカモフラージュも施してない、素人作りよ」
グエンが罠を見抜いてうっかり誰かが引っかからないようにと撤去しているときに、二人の前に植物が原型だったと思われる雑魔が一体現れた。
「キャアッ!」
罠には詳しいものの戦いにおいてはまだ自分がどれだけ動けるか自信の持てないグエンが雑魔を見て思わず悲鳴を上げる。
「ほ、ほんとに戦うの!?」
「突破しなければ探し人のもとへ雑魔を連れていくことになる。
みたところそれほど強力な雑魔でもないようだ。俺一人で片づけられると思う。下がっていてくれ」
ヒースクリフが全てが黄金で作られたデリンジャーを構え、雑魔を撃ち抜く。
一撃必殺を旨とする造りに恥じない威力を見せた銃弾によって雑魔は何度か痙攣した後大ぶりの木の葉へと戻った。
枯れたように茶色に変色しているその葉がもう二度と自然に反した動きをしないことを確認した後ヒースクリフはグエンに先に進むぞ、と促す。
グエンは一度身を振るわせた後再び慎重に罠を探しながらヒースクリフの後を追いかけた。
「ろくな知識も、滞在予定の日数を過ぎても対応できるような準備もなしに森に入るだなんて、ちょっと焦りすぎたね、その人。
まぁ、幸い森の中で生活したこともある旅人さんがここにいるしすぐに見つけてあげるよ」
仁川 リア(ka3483)が目印にナイフで木に矢印を刻みながらやれやれ、と肩をすくめた。
こうすることで二重遭難を防ぎ、かつ別行動している仲間が合流するときの指針に、そして散開して探すとき探索範囲が被らないようにという森で探し物をするときの知恵だ。
「こんなところに罠……? でも、ここって誰も入らないはずだよね?」
そのとき、トランシーバーからまりおの声が聞こえてきた。
森の中で現在地を伝えるのはコツがいるが近くにどんな罠があったかを伝えると、まりおはそこからならず者のリーダーの記憶とリアの刻んだ矢印を目印に其方と合流する、と伝えてくる。
帝はヒースクリフたちの方へ合流してもらうことになり、三人ずつの二つの班を作ると改めて探索の開始だ。
まりおとならず者のリーダーを待つ間、リアも慎重な手つきで罠を解除した。
どうせ待つなら帰り道に余計な心配をせずに帰れるよう、時間を有意義に使っておくべき、と考えた結果である。
「その不良とやらの首を落としてやりたいが……」
「駄目だよ、道案内はいた方がいいし罠の場所も覚えてるだけ吐かせた方が得だ」
「まあいい。戦いはまかせておけい」
守屋 昭二(ka5069)の物騒なセリフをさらりと流し、罠を解除しているとまりおたちが到着した。
雑魔はヒースクリフが討ったものの他にも何体かいたらしく、昭二のゆく手を塞ぐ形で根を足代わりに移動する樹木型の雑魔が現れた。
「ごちゃごちゃした探しものはどうせ分からん! わしは刀そのもの、ただ斬るだけよのう!」
得意の居合で幹を一閃、時間が惜しいとばかりにリアとまりおも加勢し、手早く雑魔を片付ける。
「こういうのが出るところに、例え素人が作ったとはいえ罠を張って奥へと誘導するのが危険なことだってこと、少しは空っぽの頭にしみた?
ほら、キリキリ歩く!」
雑魔の出現とハンターたちの気魄に気圧され腰を抜かしていたならず者をまりおが容赦なく引っ立てる。
「で? 花はどっちにあるの?」
ヒースクリフとグエンの班に帝が合流し、腐葉土にジョニーの残した痕跡がないかを改めて探りながら森の中を進んでいく。
グエンは通る途中の植生からどんな花がどの辺りに生えているか、日の当たり具合、土の湿り具合などを確認し、罠にはかかる前に撤去していく。
「今のところ一輪だけ咲いているっていう花の手掛かりはないわね……」
「待て、今声が聞こえた気がする」
ヒースクリフの耳が拾った声を、今度は三人で意識を集中して聞き取ろうとする。
微かだったが男性の物と思われるうめき声が進路方向を少しそれたあたりから聞こえてきた。
「ジョニーさんですか?」
帝の呼びかけに、今度は先ほどより僅かに明瞭になった応えがあった。
罠に気をつけつつ声を頼りに近づいていくと、一輪の花を周囲の土ごと麻縄で包んだものを傍らに置いた男性が木によりかかっていた。
「ジョニーさん?」
「あぁ……そうだが……どちらさんだ?」
「ジョアンさんに依頼されて捜索に来たハンターです。今仲間を呼びますから合流するまで少し休んでください。
怪我はしていませんか? 歩けないようなら負ぶっていきますが」
「木の根に足を取られて……少し捻った。だがゆっくりなら歩けると思う」
「そうですか。本当に、無事でよかった。これからは、友達のいうことにもう少し耳を傾けてみてくださいね」
弱々しく頷くジョニーに昭二が干し肉を差し出す。
帝は匂いを辿ってジョニーを探すのを手伝っていたペットたちを褒め、捻ったという足に添え木をして少しでも負担が減るように処置を施した。
合流したヒースクリフからバラエティーランチとミネラルウォーターを勧められ、胃を刺激しすぎないように、けれど多少は体力が戻る程度に加減してジョニーが食事を済ませる。
「大丈夫? あぁ、顔色は少し良くなったね。後は医者に足を見て貰って消化の良い物をもう少し取って休めば体はすぐによくなるだろう」
リアが初心者がむやみやたらに歩き回るものではないよ、と軽く釘をさすとジョニーは申し訳なさそうに頭を下げた。
ならず者とジョニーの間で一瞬だけ不穏な空気が漂ったがハンターたちが抑止力になったのか、ならず者の方も雑魔を見て少なからず反省したのか仲裁が必要になるような揉め事は起こらなかった。
リアが付けた木の印を見ながら森を抜けようと歩く一同を、何度か植物型の雑魔が襲ってきたが分散していた時でも対処は可能だったレベルの雑魔のみだったこともあり、一般人二人を庇いながらでも連携を生かして畳みかけるように攻撃を仕掛け、速攻で片づけることで余計な隙を作らない戦法が効いて治療が必要な大怪我をする人もなく入らずの森を抜けた。
「これからは上手い話には裏があるってことを考えて動いた方が良い。そっちのあんたも、気に入らないなら正々堂々勝負するんだな。
人の寄らない場所に罠を張って誘導するのはただの意気地なしだ」
ヒースクリフの淡々とした口調は、あっさりしているだけに別々の意味で思慮深いとは言えない一般人二人の胸に刺さったらしい。
ジョニーが見つけ出した森に一輪だけ咲いている珍しい花、をまりおは雑魔ではないかと注意深く見定めていたのだが、日が沈んだ後、夜に移るまでの空の色を切り取ったようなグラデーションの美しい可憐な花は雑魔のように動いたりはしなかった。
どこか鈴蘭に似ている花が風に心もとなげに揺れる。
「まずはジョアンさんにジョニーさんが見つかった報告ね。
子供がたくさんいるってことはご家族も心配してるでしょうし、早く無事な姿を見せてあげないと」
グエンと帝がジョニーに付き添って家まで送り、昭二とヒースクリフはならず者を自警団の詰所まで連れていく。
まりおとリアはジョアンのもとへ花を携えて無事彼の友人を救い出したと報告に行こうと歩き出した。
こうして一輪の花が引き起こした小さな事件は幕を下ろし、ジョアンとジョニーには平穏な日々が、ならず者たちには自警団で下された処罰として奉仕活動の日々がやってきた。
ジョニーは子供たちに散々泣きつかれ、木の強い妻に小言を言われながらも労わられ、ハンターに釘を刺されたこともあって一攫千金を目指すことは多少控えるようになったという。
彼が持ち帰った花は好事家を通して植物研究者たちが生態を解明しきる前に花を咲かせる時期を終えて散ってしまった。
まるで地に足をつけずに夢を追いかけ続けるジョニーが夢から覚め、現実を見始めたのがきっかけのようだ、と村人たちは語る。
喉元過ぎれば熱さを忘れる。そのリアルブルーの格言通り、来年の今頃にはジョニーはまた夢を追いかけはじめているかもしれないし、多年草の花は温室の一角で再び咲くかもしれない。
夢は、見果てぬもの。咲いては散っていくものだから。
少しずつ形を変え、或いは行きつ戻りつしながら、人々の営みが続いていくのに寄り添うように、大小さまざまな夢は描き出される。
夢を見るにしても失敗をきちんと顧みて欲しいものだ、と呆れ交じりの溜息をつくジョアンや、夫の生活に小言を言う妻にも、きっと胸に秘めた夢があるのだろう。
夏の日差しの中で、或いは虫の音響く夜の中で、色あせぬ夢に、祝杯を。
依頼結果
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面白かった! | 4人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/05 00:21:27 |
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相談用卓 仁川 リア(ka3483) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/06/06 18:10:50 |