ゲスト
(ka0000)
崩壊した町
マスター:瑞木雫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/07 15:00
- 完成日
- 2015/06/18 08:34
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●大切な、家族
(どうして………)
―――まさか自分の町がこのように襲われ、大切な人を残して逃げなければならなくなるなんて。
これが悪夢なら、醒めて欲しい……。
その日、惨劇が起きた町があった。
突如現れた奴らのせいで、平和な日常が狂ってしまった。
奴らは逃げる人々を追いかけては食いちぎり、町は混乱状態に陥っていたのだという。たとえ大切な人が餌食となっていようとも、逃げなければ殺されてしまう。この場で生き残るためには、安全と思える場所まで振り返らずに走るしかない状況だったそうだ。
「お姉ちゃん……! 行こう。まず救助隊を呼んで、それからお父さんとお母さん達を助けよう……!」
今も無数の悲鳴が聞こえる中で、アニスは姉のユイの腕を引っ張ろうとした。しかしユイはこの場から立ち去ろうとせず、力なく、首を左右に振る。
「アニス……、ごめん。私はやっぱり、置いてけないから。先に行ってて。大丈夫、なんとかするから」
ユイは瓦礫の下を見つめていた。
そこには家族が埋もれているのだ。
「お姉ちゃん……」
父親は母親を守る為に庇い直視できない程変わり果てた姿となり、母親も守られたゆえ一命は取り留めたようだが複雑に骨折していて、出血だって止まらない。『もう助かる事はない』。だがそんなふうにユイに言える筈がなく、そしてユイ自身だって気付いていない訳じゃあないだろう。もう助からないのだとしても、傍に居たいのだ。恐らく、きっと。
「本当に大丈夫だから。ほら、行って……! この町を、助けて……!」
アニスに託すように、ユイは懇願した。
芯が強いユイの頼もしさが、一瞬、アニスに大丈夫かもしれないという気持ちになって、頷いてしまう。
「分かった……じゃあ、私は先に行く。救助隊を呼んでくるから、お姉ちゃんも危なくなったら逃げるんだよ!」
「うん」
「行く、からね……」
アニスは走った。―――立ち去る際に涙を見せ、振り返らずに走っていく背中が見えなくなるまで、ずっと、ユイは見届けていた。良かった……、と逃げてくれたことに安堵しながら。
「ユ……イ…………、逃げ…………て……………」
瓦礫の底から聞こえる、母親の声。最期の力を振り絞った、切ない声。
「ううん。何処にも行かないよ」
ユイは揺るぐことなく、言う。
「ずっと傍にいる。……お母さんに寂しい想い、絶対にさせないよ」
――――しかし現実は非情だった。
アニスが去って暫く経ち、町の悲鳴も聞こえなくなった頃だろうか。
『ガウゥゥウ………』
最期の瞬間まで寄り添う為この町に残ったユイに、歪虚の影が落ちたのだ。
「……!」
真っ青になったユイの身に、歪虚が襲い掛かる。そして血の気が引くような激痛が、右足に駆け巡っていた。
●歪虚に襲われた町
一方その頃、ハンター達は町に到着していた。町は酷く痛ましい有様だった。
建物は脆いものならば壊され、町中に人が這いつくばるように倒れていた。変わり果てた人の姿。鼻がもげそうになるほど充満している血のにおい。見るも無残な惨状を見つめながら、ハンター達は一体何を想っただろうか。
武力もまともに持たないこの町は、歪虚の出現によって崩壊してしまった。
――――歪虚。
この世界にはびこる悪、ヤツらのせいで……。
ハンター達は、歪虚を殲滅させる為に要請された救助の先遣隊で、歪虚に支配されたこの町から脱出したというハンターオフィスに駆け込んできた少女・アニスから幾つかの情報を貰っていた。
先ずは歪虚の情報。
一つ目は、歪虚は狼と猪の姿を模していること。
二つ目は、狼雑魔は群れで行動しているようで、単体ではなく集団で人を襲うこと。
三つ目は、猪雑魔は2体で、二足歩行らしくハンマーのようなものを所持しており、建物も壊していたということ。
続いて町人の情報。
歪虚は突如現れたのもあり、既に多くの町人が死んでしまったということ。
町で倒れている者の中に、息をしている者も存在していたということ。
すべての建物が崩壊されているわけではないからこそ、立て籠もっている者も居る筈だということ。
―――そして。
両親の傍に居る為、姉のユイが広場の西の先にある場所で取り残されていることを話していた。
頼もしい後押しを貰いがむしゃらに逃げたけれど、こんな状況の町に残して大丈夫なはずがない。置いてきたことを、ひどく後悔しているようだった。
だから彼女の事も助けて欲しい、とも要請されている。
それらの情報を念頭に入れながら広場に足を踏み入れたハンター達。そこで偶然にも、奴らと遭遇する――――。
ハンマーを所持しているという猪雑魔2体。
どうやらハンターの到着に気付いたようで殺意を剥き出しにしながらにじり寄って来た。
――――そして戦闘を行えば、狼雑魔4体も騒ぎに気付いて駆けつけてくるかもしれない。
このまま放っておくのは危険である事には間違いない、歪虚達。
血と死臭漂う広場でハンター達はそれぞれの想いを抱いていた――――。
(どうして………)
―――まさか自分の町がこのように襲われ、大切な人を残して逃げなければならなくなるなんて。
これが悪夢なら、醒めて欲しい……。
その日、惨劇が起きた町があった。
突如現れた奴らのせいで、平和な日常が狂ってしまった。
奴らは逃げる人々を追いかけては食いちぎり、町は混乱状態に陥っていたのだという。たとえ大切な人が餌食となっていようとも、逃げなければ殺されてしまう。この場で生き残るためには、安全と思える場所まで振り返らずに走るしかない状況だったそうだ。
「お姉ちゃん……! 行こう。まず救助隊を呼んで、それからお父さんとお母さん達を助けよう……!」
今も無数の悲鳴が聞こえる中で、アニスは姉のユイの腕を引っ張ろうとした。しかしユイはこの場から立ち去ろうとせず、力なく、首を左右に振る。
「アニス……、ごめん。私はやっぱり、置いてけないから。先に行ってて。大丈夫、なんとかするから」
ユイは瓦礫の下を見つめていた。
そこには家族が埋もれているのだ。
「お姉ちゃん……」
父親は母親を守る為に庇い直視できない程変わり果てた姿となり、母親も守られたゆえ一命は取り留めたようだが複雑に骨折していて、出血だって止まらない。『もう助かる事はない』。だがそんなふうにユイに言える筈がなく、そしてユイ自身だって気付いていない訳じゃあないだろう。もう助からないのだとしても、傍に居たいのだ。恐らく、きっと。
「本当に大丈夫だから。ほら、行って……! この町を、助けて……!」
アニスに託すように、ユイは懇願した。
芯が強いユイの頼もしさが、一瞬、アニスに大丈夫かもしれないという気持ちになって、頷いてしまう。
「分かった……じゃあ、私は先に行く。救助隊を呼んでくるから、お姉ちゃんも危なくなったら逃げるんだよ!」
「うん」
「行く、からね……」
アニスは走った。―――立ち去る際に涙を見せ、振り返らずに走っていく背中が見えなくなるまで、ずっと、ユイは見届けていた。良かった……、と逃げてくれたことに安堵しながら。
「ユ……イ…………、逃げ…………て……………」
瓦礫の底から聞こえる、母親の声。最期の力を振り絞った、切ない声。
「ううん。何処にも行かないよ」
ユイは揺るぐことなく、言う。
「ずっと傍にいる。……お母さんに寂しい想い、絶対にさせないよ」
――――しかし現実は非情だった。
アニスが去って暫く経ち、町の悲鳴も聞こえなくなった頃だろうか。
『ガウゥゥウ………』
最期の瞬間まで寄り添う為この町に残ったユイに、歪虚の影が落ちたのだ。
「……!」
真っ青になったユイの身に、歪虚が襲い掛かる。そして血の気が引くような激痛が、右足に駆け巡っていた。
●歪虚に襲われた町
一方その頃、ハンター達は町に到着していた。町は酷く痛ましい有様だった。
建物は脆いものならば壊され、町中に人が這いつくばるように倒れていた。変わり果てた人の姿。鼻がもげそうになるほど充満している血のにおい。見るも無残な惨状を見つめながら、ハンター達は一体何を想っただろうか。
武力もまともに持たないこの町は、歪虚の出現によって崩壊してしまった。
――――歪虚。
この世界にはびこる悪、ヤツらのせいで……。
ハンター達は、歪虚を殲滅させる為に要請された救助の先遣隊で、歪虚に支配されたこの町から脱出したというハンターオフィスに駆け込んできた少女・アニスから幾つかの情報を貰っていた。
先ずは歪虚の情報。
一つ目は、歪虚は狼と猪の姿を模していること。
二つ目は、狼雑魔は群れで行動しているようで、単体ではなく集団で人を襲うこと。
三つ目は、猪雑魔は2体で、二足歩行らしくハンマーのようなものを所持しており、建物も壊していたということ。
続いて町人の情報。
歪虚は突如現れたのもあり、既に多くの町人が死んでしまったということ。
町で倒れている者の中に、息をしている者も存在していたということ。
すべての建物が崩壊されているわけではないからこそ、立て籠もっている者も居る筈だということ。
―――そして。
両親の傍に居る為、姉のユイが広場の西の先にある場所で取り残されていることを話していた。
頼もしい後押しを貰いがむしゃらに逃げたけれど、こんな状況の町に残して大丈夫なはずがない。置いてきたことを、ひどく後悔しているようだった。
だから彼女の事も助けて欲しい、とも要請されている。
それらの情報を念頭に入れながら広場に足を踏み入れたハンター達。そこで偶然にも、奴らと遭遇する――――。
ハンマーを所持しているという猪雑魔2体。
どうやらハンターの到着に気付いたようで殺意を剥き出しにしながらにじり寄って来た。
――――そして戦闘を行えば、狼雑魔4体も騒ぎに気付いて駆けつけてくるかもしれない。
このまま放っておくのは危険である事には間違いない、歪虚達。
血と死臭漂う広場でハンター達はそれぞれの想いを抱いていた――――。
リプレイ本文
――惨い。
なんと惨すぎる場景だろうか……。
「やってくれたのう」
レーヴェ・W・マルバス(ka0276)が声を抑えながら呟く。
破壊された瓦礫が散らばり、人が死に、苦しみ悶える負傷者が呻く惨状に、目を背けることなく見つめながら。
アティニュス(ka4735)も、激しく沸き上る感情を抑えられないでいた。
(師より、何時如何なる時も平静であれとは教えられましたが……)
――許せない。
立つ足に、構える腕に、武器に。溢れる激情がまるで力となり、己を支える意思となるような。
内に鎮めることなく、殲滅の志を燃やして。
赤舌(ka5061)は眉を潜め、思う。
(完膚なきまでにぶっ壊された町か。化物が蠢くこの世界じゃ、こんな事が起きても不思議じゃねェんだろうな)
だが。
だからと言って容易く全てを諦めるような、そんな男ではない。
歪虚が人々の平穏な日常を壊すのがこの世の必然と言うのなら……。
(だったら俺もぶっ殺すまでだ。化物全てを)
フェレットのエチカは、スピノサ ユフ(ka4283)の頬へと擦りついていた。まるで彼を心配するように……。
「エチカ……」
学問を愛する哲学家である彼がこの地に立つのは、踏み荒らされた大地の『再生』の為。
「人が生きるための種は……誰かが撒かなければいけない。人が種を撒き……いつか新しい命が芽吹く。私の力がその役に立つのなら……助けになりたいんだ」
私なら大丈夫、というように。温厚で愛情深い彼の指先に撫でられ、エチカは心地良さそうにしていただろう。
メオ・C・ウィスタリア(ka3988)は鷹パペットのたかし丸と共に、眸の中の十字に焼き付いた光景を重ね合わせていた。
鮮明に覚えている、過去の記憶。
「メオさんの故郷と同じだねぇ、たかし丸」
当時の事は一生忘れない。
「……うん、助けてあげようね」
――たかし丸と、約束。
(絶対に救ってみせる。
どんなことがあっても、絶対に。
例え、私が引き裂かれようとな……)
●遭遇
広場に徘徊しハンター達の前を立ちはだかったのは獰猛な猪雑魔だった。
「エチカ……隠れているんだ。少し……動くぞ」
スピノサは毛を逆立てているエチカに宥めるよう微笑んで、そのままローブに隠す。
守りたい命の温もりを肌身に感じながら、ゆっくりと深呼吸。
(今、成すべきこと……)
殺気と惨状に呑まれかけていた心を落ち着かせ決意を固めれば、掌に『真理の眼』の紋様が浮かびエメラルドの光が放たれた。
雑魔を退治する事も成すべき事だが、彼らにはもう一つ成すべき事がある。
「お前らの相手をしてる時間はねぇ、邪魔だ!」
先陣を切ったのは柊 真司(ka0705)。
この町に取り残されているというユイを救う為に、戦馬は全速力で駆け抜けて道を拓く。
すると猪雑魔は彼を標的に定めた。
しかしウーナ(ka1439)のヴォロンテAC47がそれを許さない。
四肢に赤く輝く幾何学的な模様を走らせつつ、連続射撃の弾幕を張って敵の足を着実に制し、猪雑魔へと苛立ったように言い放つ。
「安否とかどうでもいいけど、ムカつくんだよね」
見知らぬ少女の命がどうなろうとウーナには関係がない。だが。
「ゲームだって、つまんない邪魔されたらイラっとするじゃない? ……だから死んどけ!」
ウーナが狙うのは『ミッションコンプリート』。
歪虚は潰す。助けられる人は全部助ける。
(受けた依頼なんだから完勝狙うよ、当たり前!)
余計な事をされて完勝を消されるのは、ウーナにとって腹立たしい事なのだ。
銃弾の命中は絶好調。
猪雑魔を足止めできている手応えを感じると、自然と笑みが零れてきていた。
「今のうちに救助、早くッ!」
ウーナが促すと、鬼百合(ka3667)は、愛馬ホットドッグを騎乗するメオの後ろに乗せて貰って。
「えっと、ほっとどっぐ! よろしくおねがいしますぜ!」
真司、鬼百合、メオ、赤舌は、ユイの元を目指して一斉に駆けだした。
さあ、彼らが広場を無事に通り抜けれるように。連携しあうレーヴェ、ウーナ、スピノサ、アティニュスは全力で注意を引きつけていく。
「おぬしらは余所見しておる場合じゃなかろう?」
行かせはせぬ、とレーヴェは猪雑魔を睨みつけた。
足止め足封じ足殺し。
執拗にレイターコールドショットをぶっ放す。
――流石に目につくものより生死に係るほうを優先するだろう。
そのレーヴェの推測は正しい。
猪雑魔の狙いの対象は広場を突っ切る者達から、攻撃する者達へと。町に響く咆哮。猪雑魔達は殺気を帯びながら、彼らに襲い掛かろうとしていた。
(良し!)
ウーナは笑みを深める。狙い通りの展開だ。
仲間も無事広場を通り抜けたようで安心しつつ、レーヴェ達と目を配せ合った。
このまま次の段階へと移そう。
「もう好きにさせない……」
味方の射撃にあわせ機導砲を撃っていたスピノサはアティニュスへと防性強化を掛けつつ、ゆっくりと誘うように後退した。
此処は負傷者が多すぎる。
これ以上の被害を増やさない為には場所を移すのが良策だ。
奴らを曳きこんでいこうとアティニュスも日本刀を構えて。
「滅びがお好き? じゃあ送ってあげる」
覚醒で変貌した彼女は凛と澄ましながら清廉な円舞を。
美しき髪は白へと染まり、肌は褐色へ。
人々の平和を脅かす猪雑魔に相応しい『殲滅』の志を胸に立ち向かっていった。すべてはこれ以上、人の領域内で奴らを存在させない為――。
●狼と少女
目的となる地で真司達を待ち構えていたのは、アニスが報告していた別の歪虚・狼雑魔。彼らは血の気が引く。奴らが此処に居るという事は……。その嫌な予感は的中しており、血だらけになって倒れているユイがこの先に居た。
馬の足音に反応して此方へ駆け出してきていた狼雑魔。だがしかし鬼百合のスリープクラウドが命中し、眠りの中へと落ちている隙に、真司は駆けつけた。
「ユイ……!」
息を呑んでしまう、怪我の具合。
右足の肉が抉れ、悪戯に噛みつかれた痕がある。
「うぅぅ、ぅぅ……!」
血が止まらない激痛に苦しみ、辛そうに悶えているユイ。
「アンタの妹の依頼で助けに来たぜ。……大丈夫だ。必ず救ってやる……!」
真司はすぐさま持参した水で傷口を洗いつつ、しっかりと気を持つよう励ました。
――もしあと一歩遅かったなら、どうなっていたことか。
猪雑魔を相手にせず真っすぐ走って来たことが、ユイの奇跡的な生存の道へと繋がったのである。
とはいえ、まだ少女が助かるとは確実に断定できない状況下、適切な応急手当を求められている状況だ。
真司は持ってきていたシャツを破きながら眉を潜める。
(もしこのままユイが死んだらアニスは一生後悔するだろう、そんな事させてたまるか……!)
懸命に止血の処置を施して。
「ユイさん……っ」
鬼百合は震えているユイの手を優しく包み込み、支えた。
生きて欲しい。
その一心が、溢れだす。
「オレ、かーちゃん置いて生き残っちまったんでさ。
ひとりはすっげさみしい……。
今はかぞく、みてぇな人がいてくれる、けど。
その人が手をひいてくれるまでのオレはほんとにだめで。
ねぇ、ねぇユイさん。
アニスさん、一人にしねぇで欲しいんでさ……」
激痛と戦いながら鬼百合の声を聞いていたユイ。彼女の頬には、止まらぬ涙が流れていた。
メオはホットドッグに騎乗したまま、全力疾走――。
(ユイちゃんは動かさないほうがいいな……)
重体であるユイを想いながら、ならば、今は自分がやるべきことを。
周囲には赤い羽根が舞い、赤い鷹の幻影が守る様に飛ぶ。
戦斧は狼雑魔の肉体をまるで貫くように、そして勢いよく、振り回した――!
吹き飛ばされ、眠りから覚めた狼雑魔。
起き上がると同時に、メオへと集中攻撃を仕掛けようとしたが、それを遮ったのは赤舌。
トライバルタトゥさながらの紋様が身体に浮きあがり、撃滅衝動に駆られ高笑いしながら戦う。
狂人じみた、気迫と凄み。
まるでネジが飛んでいるような様子を見せる赤舌だったが、彼の心中は実は冷静だった。
(死者への念仏は片手一本ありゃ出来る。
生者を生かす為に半分死ぬ位なら、迷わずやるぜ)
その胸に、この戦いに臨む想いを秘め。
自分が傷つく事は厭わず、噛みつかれ、抉られようとも、赤舌は攻撃の手を緩めることなく延々と獲物を狩り続けていた――。
彼らはまず、狼雑魔を一体撃破する。
●殲滅
猪雑魔の誘導中。
目に入ったものを攻撃する性質の雑魔ゆえに苦労する場面もあったが、負傷する町人に危害が加わりそうになればスピノサは鋸盾で遮って守り、その内にようやく辿り着くことができただろう。
傍に建物はなく負傷者もいない、理想の場所へと。
「さぁ、来い」
スピノサはムーバブルシールドで一撃を交わし、鋸盾で猪雑魔の足元へ横薙ぎに振う。
敵が足元を崩す隙に連携するのはウーナ。
後衛で射界が広く取れる場所を位置取りながら、不敵に笑む。
「ちょっとイージーモードすぎるんじゃない?」
猪雑魔などハンター達にとって相手ではなく、手早く始末する為怒涛の攻撃を浴びせていく。
しかしハンマーを振り回した時は注意が必要だ。
レーヴェはなるべく回避を。
そしてウーナも万が一接近された時はサブのS-01に持ち替え応戦する準備は整っていたが、前衛であるスピノサが受け止めた。
「重い……が、守りは修練したつもりでね……」
強烈な一撃を耐え鍔迫り合いながら、眸を緩やかに細める。落ち着きのある柔らかさに、芯の強さを秘めながら。受けの姿勢から鋸盾を媒介にして放つ一条の光は、猪雑魔にとって痛烈なものとなるだろう。
更に追い込んだのはレーヴェ。
ライフルの銃弾は猪雑魔の脳天を貫き、既に満身創痍だった猪雑魔はまずは一体、消滅へ。
同時にハンマーの一打を華麗に鉄扇で受け流したアティニュスは、地面を日本刀が擦れた瞬間に摩擦熱で発火し、そして切り裂く剣筋に赤い軌道を残す。
「―――トドメだ」
白い髪をなびかせ、鮮やかに『殲滅』を。切り裂いた猪雑魔は跡形もなく、消滅していくのだった。
●終焉
赤舌の本命はボスだった。
息の根を確実に仕留めるまで食ってかかり、回避しようものならばもっと逃がさねェとばかりに組み付いていく。
「俺はよ、好き勝手やらかす化物はぶっ壊す主義なんでな」
笑みを深め、口角を上げて。
精度の高い確実な一撃を繰り出しながら敵に迫り、そして―――。
ボスが消滅すると共に、残りの二体はなんと……尻尾を巻いて逃げ帰ろうとするのである。
しかしそれを許すわけに行かない――!
奴らは諸悪の根源。彼らを逃せば、また新たな悲劇が起きてしまうかもしれない――。
「逃がしはしねぇですぜ!」
アースウォールを生成し、道を阻んだ鬼百合は体を張って回り込み、狼雑魔を食い止めようとした。
鬼百合は救いたい。
ユイも、アニスも。
たとえ強靭な狼雑魔の歯に噛まれ、血が噴き出ても。
守ってあげたかった。
「オレは鬼だから、食われても痛くないんでさ!」
鬼百合は叫ぶ。
母を失った日に味わったあんな想いは、もう二度と……したくなかったから。
燃える火球を生み出すと、鬼百合は力を込めて投げつけた。
火球の爆発をまともに喰らった狼雑魔は、消滅。
続くメオも、ホットドッグと共に逃げた狼雑魔をすぐさま追いかけていた。
(――絶対に逃がしはしない)
メオの十字の瞳は敵だけを見据え、そして殲滅に燃える。
たとえ雑魚でも狼雑魔が奪ったものはとても大きい。
それは、人が暮らしていた町。
平和な日常。
……そして、誰かにとってかけがえの無い人だった。
だから、
「死して償え、雑魚共――」
力いっぱい、我武者羅に、滅茶苦茶に、渾身の一撃を振り下ろし絶命させるのだった。
●それぞれの救いの手
「エチカ、良いぞ。もう大丈夫だ。酔わなかったか?」
スピノサのローブから顔を出したエチカは、元気よく彼の頬に擦りつく。
戦いは終わった。
彼らのおかげで町は安全が確保され、救助隊も駆けつける事が出来た。
「さて、……私達も私達が出来ることをしようか」
傷跡が残る町だからこそ、救いの手を差し伸べなければね、と。
そう。町には今も救いを呼ぶ声がある。
「しょーじきメンドイけど……戦闘後に死んでもアウト(依頼失敗)だよね?」
ウーナはトランシーバーを持ちながら、引き続きミッション続行。
新たな任務は、取り残された生存者の捜索。
……ということで、共に協力する真司へにこっと笑いかけた。
「よろしくっ、シンちゃん!」
「あぁ」
付きっきりで応急手当をしていたユイを救助隊に引き渡したばかりの真司が、どこか心穏やかな声で返した。
ユイの怪我は酷いが命には別状ないと知らされ、安心していたからだ。
しかしそれは真司が適切な処置を施していたからである。
二人は救助隊と共に捜索を行うなら、続々と重傷者を発見した。
「お主は間に合う。我慢じゃ」
雑魔を討伐した後も救助活動を行っていたレーヴェは、声を掛け意識を途切れさせぬよう応急処置を施しながら言った。
――重傷者がいる一方で、勿論、助からなかった者も居た。
レーヴェが救助を行う傍らで、泣いている者が居る。変わり果てた旦那を見て、泣いている妻のようだ。
(あとで手伝ってやってやろうかの……)
損壊が酷い彼の遺体をちゃんと葬儀するために。
アティニュスは優しく寄り添い、慰めた。
「貴方だけでも生き残ってくださった事……、きっと、喜んでくださっていると思います」
悲しみに暮れ、縋る女性は。
聞き手になって傍に居てくれるアティニュスに、悲しむ想いを吐き出し続けるだろう。
避難していた子供達のケアをしていたメオは、安堵していた。
(良かった……笑ってくれてる)
たかし丸やホットドッグ、芋ようかん(犬)と馬刺し(猫)は大人気で、子供たちの心は癒されていた。
少しでも悲しみを取り除いてあげれたなら良かった。
(メオさんみたいになって欲しくないからねぇ)
優しく細める十字の瞳の奥には、今も癒える事がない深い傷が潜む。
そして死亡者は火葬することになる。
両親が燃える火を見つめていたアニスに、鬼百合が語り掛けた。
――死んだ人の事を誰も覚えなくなった時が、その人が本当に死ぬ時だという話を聞いたことがある、と。
「オレのかーちゃんもここにまだ生きてんでさ」
自分の胸に手をやって言った。
……愛し母を想いながら、アニスに花を。
「祈りもそうだが、偶に思い出してやるって事も弔いだぜ」
赤舌もそう言うと、アニスの頭を撫でる。
「う……」
堪えていた少女は崩れ落ちた。
二人に優しくされ延々と、泣いていた……。
残された者達の傷は深い。
されど人は前を向き、歩き出す……。
――大好きだった人と暮らした町の復興のために。
なんと惨すぎる場景だろうか……。
「やってくれたのう」
レーヴェ・W・マルバス(ka0276)が声を抑えながら呟く。
破壊された瓦礫が散らばり、人が死に、苦しみ悶える負傷者が呻く惨状に、目を背けることなく見つめながら。
アティニュス(ka4735)も、激しく沸き上る感情を抑えられないでいた。
(師より、何時如何なる時も平静であれとは教えられましたが……)
――許せない。
立つ足に、構える腕に、武器に。溢れる激情がまるで力となり、己を支える意思となるような。
内に鎮めることなく、殲滅の志を燃やして。
赤舌(ka5061)は眉を潜め、思う。
(完膚なきまでにぶっ壊された町か。化物が蠢くこの世界じゃ、こんな事が起きても不思議じゃねェんだろうな)
だが。
だからと言って容易く全てを諦めるような、そんな男ではない。
歪虚が人々の平穏な日常を壊すのがこの世の必然と言うのなら……。
(だったら俺もぶっ殺すまでだ。化物全てを)
フェレットのエチカは、スピノサ ユフ(ka4283)の頬へと擦りついていた。まるで彼を心配するように……。
「エチカ……」
学問を愛する哲学家である彼がこの地に立つのは、踏み荒らされた大地の『再生』の為。
「人が生きるための種は……誰かが撒かなければいけない。人が種を撒き……いつか新しい命が芽吹く。私の力がその役に立つのなら……助けになりたいんだ」
私なら大丈夫、というように。温厚で愛情深い彼の指先に撫でられ、エチカは心地良さそうにしていただろう。
メオ・C・ウィスタリア(ka3988)は鷹パペットのたかし丸と共に、眸の中の十字に焼き付いた光景を重ね合わせていた。
鮮明に覚えている、過去の記憶。
「メオさんの故郷と同じだねぇ、たかし丸」
当時の事は一生忘れない。
「……うん、助けてあげようね」
――たかし丸と、約束。
(絶対に救ってみせる。
どんなことがあっても、絶対に。
例え、私が引き裂かれようとな……)
●遭遇
広場に徘徊しハンター達の前を立ちはだかったのは獰猛な猪雑魔だった。
「エチカ……隠れているんだ。少し……動くぞ」
スピノサは毛を逆立てているエチカに宥めるよう微笑んで、そのままローブに隠す。
守りたい命の温もりを肌身に感じながら、ゆっくりと深呼吸。
(今、成すべきこと……)
殺気と惨状に呑まれかけていた心を落ち着かせ決意を固めれば、掌に『真理の眼』の紋様が浮かびエメラルドの光が放たれた。
雑魔を退治する事も成すべき事だが、彼らにはもう一つ成すべき事がある。
「お前らの相手をしてる時間はねぇ、邪魔だ!」
先陣を切ったのは柊 真司(ka0705)。
この町に取り残されているというユイを救う為に、戦馬は全速力で駆け抜けて道を拓く。
すると猪雑魔は彼を標的に定めた。
しかしウーナ(ka1439)のヴォロンテAC47がそれを許さない。
四肢に赤く輝く幾何学的な模様を走らせつつ、連続射撃の弾幕を張って敵の足を着実に制し、猪雑魔へと苛立ったように言い放つ。
「安否とかどうでもいいけど、ムカつくんだよね」
見知らぬ少女の命がどうなろうとウーナには関係がない。だが。
「ゲームだって、つまんない邪魔されたらイラっとするじゃない? ……だから死んどけ!」
ウーナが狙うのは『ミッションコンプリート』。
歪虚は潰す。助けられる人は全部助ける。
(受けた依頼なんだから完勝狙うよ、当たり前!)
余計な事をされて完勝を消されるのは、ウーナにとって腹立たしい事なのだ。
銃弾の命中は絶好調。
猪雑魔を足止めできている手応えを感じると、自然と笑みが零れてきていた。
「今のうちに救助、早くッ!」
ウーナが促すと、鬼百合(ka3667)は、愛馬ホットドッグを騎乗するメオの後ろに乗せて貰って。
「えっと、ほっとどっぐ! よろしくおねがいしますぜ!」
真司、鬼百合、メオ、赤舌は、ユイの元を目指して一斉に駆けだした。
さあ、彼らが広場を無事に通り抜けれるように。連携しあうレーヴェ、ウーナ、スピノサ、アティニュスは全力で注意を引きつけていく。
「おぬしらは余所見しておる場合じゃなかろう?」
行かせはせぬ、とレーヴェは猪雑魔を睨みつけた。
足止め足封じ足殺し。
執拗にレイターコールドショットをぶっ放す。
――流石に目につくものより生死に係るほうを優先するだろう。
そのレーヴェの推測は正しい。
猪雑魔の狙いの対象は広場を突っ切る者達から、攻撃する者達へと。町に響く咆哮。猪雑魔達は殺気を帯びながら、彼らに襲い掛かろうとしていた。
(良し!)
ウーナは笑みを深める。狙い通りの展開だ。
仲間も無事広場を通り抜けたようで安心しつつ、レーヴェ達と目を配せ合った。
このまま次の段階へと移そう。
「もう好きにさせない……」
味方の射撃にあわせ機導砲を撃っていたスピノサはアティニュスへと防性強化を掛けつつ、ゆっくりと誘うように後退した。
此処は負傷者が多すぎる。
これ以上の被害を増やさない為には場所を移すのが良策だ。
奴らを曳きこんでいこうとアティニュスも日本刀を構えて。
「滅びがお好き? じゃあ送ってあげる」
覚醒で変貌した彼女は凛と澄ましながら清廉な円舞を。
美しき髪は白へと染まり、肌は褐色へ。
人々の平和を脅かす猪雑魔に相応しい『殲滅』の志を胸に立ち向かっていった。すべてはこれ以上、人の領域内で奴らを存在させない為――。
●狼と少女
目的となる地で真司達を待ち構えていたのは、アニスが報告していた別の歪虚・狼雑魔。彼らは血の気が引く。奴らが此処に居るという事は……。その嫌な予感は的中しており、血だらけになって倒れているユイがこの先に居た。
馬の足音に反応して此方へ駆け出してきていた狼雑魔。だがしかし鬼百合のスリープクラウドが命中し、眠りの中へと落ちている隙に、真司は駆けつけた。
「ユイ……!」
息を呑んでしまう、怪我の具合。
右足の肉が抉れ、悪戯に噛みつかれた痕がある。
「うぅぅ、ぅぅ……!」
血が止まらない激痛に苦しみ、辛そうに悶えているユイ。
「アンタの妹の依頼で助けに来たぜ。……大丈夫だ。必ず救ってやる……!」
真司はすぐさま持参した水で傷口を洗いつつ、しっかりと気を持つよう励ました。
――もしあと一歩遅かったなら、どうなっていたことか。
猪雑魔を相手にせず真っすぐ走って来たことが、ユイの奇跡的な生存の道へと繋がったのである。
とはいえ、まだ少女が助かるとは確実に断定できない状況下、適切な応急手当を求められている状況だ。
真司は持ってきていたシャツを破きながら眉を潜める。
(もしこのままユイが死んだらアニスは一生後悔するだろう、そんな事させてたまるか……!)
懸命に止血の処置を施して。
「ユイさん……っ」
鬼百合は震えているユイの手を優しく包み込み、支えた。
生きて欲しい。
その一心が、溢れだす。
「オレ、かーちゃん置いて生き残っちまったんでさ。
ひとりはすっげさみしい……。
今はかぞく、みてぇな人がいてくれる、けど。
その人が手をひいてくれるまでのオレはほんとにだめで。
ねぇ、ねぇユイさん。
アニスさん、一人にしねぇで欲しいんでさ……」
激痛と戦いながら鬼百合の声を聞いていたユイ。彼女の頬には、止まらぬ涙が流れていた。
メオはホットドッグに騎乗したまま、全力疾走――。
(ユイちゃんは動かさないほうがいいな……)
重体であるユイを想いながら、ならば、今は自分がやるべきことを。
周囲には赤い羽根が舞い、赤い鷹の幻影が守る様に飛ぶ。
戦斧は狼雑魔の肉体をまるで貫くように、そして勢いよく、振り回した――!
吹き飛ばされ、眠りから覚めた狼雑魔。
起き上がると同時に、メオへと集中攻撃を仕掛けようとしたが、それを遮ったのは赤舌。
トライバルタトゥさながらの紋様が身体に浮きあがり、撃滅衝動に駆られ高笑いしながら戦う。
狂人じみた、気迫と凄み。
まるでネジが飛んでいるような様子を見せる赤舌だったが、彼の心中は実は冷静だった。
(死者への念仏は片手一本ありゃ出来る。
生者を生かす為に半分死ぬ位なら、迷わずやるぜ)
その胸に、この戦いに臨む想いを秘め。
自分が傷つく事は厭わず、噛みつかれ、抉られようとも、赤舌は攻撃の手を緩めることなく延々と獲物を狩り続けていた――。
彼らはまず、狼雑魔を一体撃破する。
●殲滅
猪雑魔の誘導中。
目に入ったものを攻撃する性質の雑魔ゆえに苦労する場面もあったが、負傷する町人に危害が加わりそうになればスピノサは鋸盾で遮って守り、その内にようやく辿り着くことができただろう。
傍に建物はなく負傷者もいない、理想の場所へと。
「さぁ、来い」
スピノサはムーバブルシールドで一撃を交わし、鋸盾で猪雑魔の足元へ横薙ぎに振う。
敵が足元を崩す隙に連携するのはウーナ。
後衛で射界が広く取れる場所を位置取りながら、不敵に笑む。
「ちょっとイージーモードすぎるんじゃない?」
猪雑魔などハンター達にとって相手ではなく、手早く始末する為怒涛の攻撃を浴びせていく。
しかしハンマーを振り回した時は注意が必要だ。
レーヴェはなるべく回避を。
そしてウーナも万が一接近された時はサブのS-01に持ち替え応戦する準備は整っていたが、前衛であるスピノサが受け止めた。
「重い……が、守りは修練したつもりでね……」
強烈な一撃を耐え鍔迫り合いながら、眸を緩やかに細める。落ち着きのある柔らかさに、芯の強さを秘めながら。受けの姿勢から鋸盾を媒介にして放つ一条の光は、猪雑魔にとって痛烈なものとなるだろう。
更に追い込んだのはレーヴェ。
ライフルの銃弾は猪雑魔の脳天を貫き、既に満身創痍だった猪雑魔はまずは一体、消滅へ。
同時にハンマーの一打を華麗に鉄扇で受け流したアティニュスは、地面を日本刀が擦れた瞬間に摩擦熱で発火し、そして切り裂く剣筋に赤い軌道を残す。
「―――トドメだ」
白い髪をなびかせ、鮮やかに『殲滅』を。切り裂いた猪雑魔は跡形もなく、消滅していくのだった。
●終焉
赤舌の本命はボスだった。
息の根を確実に仕留めるまで食ってかかり、回避しようものならばもっと逃がさねェとばかりに組み付いていく。
「俺はよ、好き勝手やらかす化物はぶっ壊す主義なんでな」
笑みを深め、口角を上げて。
精度の高い確実な一撃を繰り出しながら敵に迫り、そして―――。
ボスが消滅すると共に、残りの二体はなんと……尻尾を巻いて逃げ帰ろうとするのである。
しかしそれを許すわけに行かない――!
奴らは諸悪の根源。彼らを逃せば、また新たな悲劇が起きてしまうかもしれない――。
「逃がしはしねぇですぜ!」
アースウォールを生成し、道を阻んだ鬼百合は体を張って回り込み、狼雑魔を食い止めようとした。
鬼百合は救いたい。
ユイも、アニスも。
たとえ強靭な狼雑魔の歯に噛まれ、血が噴き出ても。
守ってあげたかった。
「オレは鬼だから、食われても痛くないんでさ!」
鬼百合は叫ぶ。
母を失った日に味わったあんな想いは、もう二度と……したくなかったから。
燃える火球を生み出すと、鬼百合は力を込めて投げつけた。
火球の爆発をまともに喰らった狼雑魔は、消滅。
続くメオも、ホットドッグと共に逃げた狼雑魔をすぐさま追いかけていた。
(――絶対に逃がしはしない)
メオの十字の瞳は敵だけを見据え、そして殲滅に燃える。
たとえ雑魚でも狼雑魔が奪ったものはとても大きい。
それは、人が暮らしていた町。
平和な日常。
……そして、誰かにとってかけがえの無い人だった。
だから、
「死して償え、雑魚共――」
力いっぱい、我武者羅に、滅茶苦茶に、渾身の一撃を振り下ろし絶命させるのだった。
●それぞれの救いの手
「エチカ、良いぞ。もう大丈夫だ。酔わなかったか?」
スピノサのローブから顔を出したエチカは、元気よく彼の頬に擦りつく。
戦いは終わった。
彼らのおかげで町は安全が確保され、救助隊も駆けつける事が出来た。
「さて、……私達も私達が出来ることをしようか」
傷跡が残る町だからこそ、救いの手を差し伸べなければね、と。
そう。町には今も救いを呼ぶ声がある。
「しょーじきメンドイけど……戦闘後に死んでもアウト(依頼失敗)だよね?」
ウーナはトランシーバーを持ちながら、引き続きミッション続行。
新たな任務は、取り残された生存者の捜索。
……ということで、共に協力する真司へにこっと笑いかけた。
「よろしくっ、シンちゃん!」
「あぁ」
付きっきりで応急手当をしていたユイを救助隊に引き渡したばかりの真司が、どこか心穏やかな声で返した。
ユイの怪我は酷いが命には別状ないと知らされ、安心していたからだ。
しかしそれは真司が適切な処置を施していたからである。
二人は救助隊と共に捜索を行うなら、続々と重傷者を発見した。
「お主は間に合う。我慢じゃ」
雑魔を討伐した後も救助活動を行っていたレーヴェは、声を掛け意識を途切れさせぬよう応急処置を施しながら言った。
――重傷者がいる一方で、勿論、助からなかった者も居た。
レーヴェが救助を行う傍らで、泣いている者が居る。変わり果てた旦那を見て、泣いている妻のようだ。
(あとで手伝ってやってやろうかの……)
損壊が酷い彼の遺体をちゃんと葬儀するために。
アティニュスは優しく寄り添い、慰めた。
「貴方だけでも生き残ってくださった事……、きっと、喜んでくださっていると思います」
悲しみに暮れ、縋る女性は。
聞き手になって傍に居てくれるアティニュスに、悲しむ想いを吐き出し続けるだろう。
避難していた子供達のケアをしていたメオは、安堵していた。
(良かった……笑ってくれてる)
たかし丸やホットドッグ、芋ようかん(犬)と馬刺し(猫)は大人気で、子供たちの心は癒されていた。
少しでも悲しみを取り除いてあげれたなら良かった。
(メオさんみたいになって欲しくないからねぇ)
優しく細める十字の瞳の奥には、今も癒える事がない深い傷が潜む。
そして死亡者は火葬することになる。
両親が燃える火を見つめていたアニスに、鬼百合が語り掛けた。
――死んだ人の事を誰も覚えなくなった時が、その人が本当に死ぬ時だという話を聞いたことがある、と。
「オレのかーちゃんもここにまだ生きてんでさ」
自分の胸に手をやって言った。
……愛し母を想いながら、アニスに花を。
「祈りもそうだが、偶に思い出してやるって事も弔いだぜ」
赤舌もそう言うと、アニスの頭を撫でる。
「う……」
堪えていた少女は崩れ落ちた。
二人に優しくされ延々と、泣いていた……。
残された者達の傷は深い。
されど人は前を向き、歩き出す……。
――大好きだった人と暮らした町の復興のために。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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作戦相談スレ ウーナ(ka1439) 人間(リアルブルー)|16才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/06/06 21:27:20 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/03 08:49:49 |