ゲスト
(ka0000)
Kapiyva
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 8~12人
- サポート
- 0~12人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 3日
- 締切
- 2015/06/07 22:00
- 完成日
- 2015/06/16 11:53
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●発見
男は商家を営んでいた。
今日は隣町で商品を仕入れ、家へと帰る途中だった。
今年4つになる娘にお土産の玩具を買って、もうすぐ結婚記念日だから、嫁にも綺麗な髪飾りを密かに買っていた。
喜んでくれると良い。そう願うように想いながら、愛しい家族の顔を思い浮かべる。
――ふと、違和感を感じて視線を上げた。
両脇は春蒔きの青々とした小麦畑が広がっている。
それが、焦げ跡と共に途切れている。
そして道に続くこの焦げ跡は真っ直ぐに自分の村へと繋がっている。
「なんだ? 山火事か……?」
それにしては、一定の間隔で続く焦げ跡が奇妙であるし、なにより、燃える物の殆ど無い砂利道を真っ直ぐに焦がしながら移動しているように見える。
……そう、移動している。小麦畑の向こうから蛇行しながらも、一本の道のように焦げ跡が出来ているのだから。『何か』が燃やしながら移動しているようだ。
小麦はこの周辺の村では大事な食糧であり、商売品でもある。
誰がこんな酷いことを、と男は憤りながら、馬の足を速めた。
嫌な予感がした。この焦げ臭さも、目の先に上がる黒煙も、男の不安を煽り、心臓を早鐘のように打った。
そして、高台から自分の住む村を目にした男は絶叫した。
彼の村は炎の海に飲まれていた。
●討伐部隊
連絡を受けたハンターオフィスはすぐにハンター6名からなる討伐部隊を派遣した。
「っち。火の勢いが強い! 倒れるぞ! 巻き込まれるな!!」
火災により倒壊する家屋から逃げつつ、雑魔へ肉薄するとその斧で切り伏せる。
「こんなに多いなんて聞いてないよ!」
「つーか、増えるとか、聞いてないし!」
燃える家から逃げ遅れた子どもの泣き声が聞こえたが、目の前の雑魔に背を向けて救助に向かう訳にもいかず、ギリリと唇を噛みしめた。
燃える獣の雑魔、それ以外の情報が無い状態で6人は善戦した。
しかし既に2つの村を飲み込んだ雑魔達の力は6人で対処できる物では無かったのだ。
雑魔とはいえ10体以上、住民の避難誘導、火災している家屋への対応とやるべきことが多すぎた。
何とか村人の半数を逃がし、家畜の1/3を保護することには成功した物の、討ち漏らした雑魔達が逃亡し、この悲劇の連鎖を止める事には失敗したのだった。
●後日、ハンターオフィス
「大至急の依頼です。ある村が雑魔の群れに襲われました。群れはドンドンと勢力を増して移動中。街道に沿って移動するという知恵を付けたらしく、道中の行商人などを襲いながら道沿いの町村を襲っています。皆さんには次に襲われると予測される村へ大至急向かっていただきます」
馬は人数分準備されているので、自分の馬が無くとも問題無く急行できる。
ただし、準備された馬は乗用馬なので、戦闘には向かない。
村に着いたら戦火に巻き込まれない所において欲しいと説明係の女性は告げた。
「雑魔の数は10以上。その外見はたてがみを持った大きなネズミに似ています。体長105cmから135cm、体重50kg前後。このたてがみが火に覆われています。このたてがみが接触すると、木や繊維と言った可燃性物質は燃え上がるようです」
延焼の効果は殆ど無いようなのだが、数の暴力とその場に居続けることにより、結果家屋の火災が発生しているらしい。
「それから、この雑魔はある一定以上正のマテリアルを吸収すると分裂して増えるようです。それが前回討伐し損ねた原因の一つでもあります」
そして前回の失敗を繰り返さないためにも、得た情報は全て提示し、最大限の協力をしますと彼女は厳しい表情で告げる。
「今すぐに皆さんが向かっても、村への被害をゼロにすることは出来ないでしょう。それでも、村人を守り、彼らの家財を守って上げて下さい」
丁寧に頭を下げた彼女の両手は太腿の上で硬く硬く震えるほどに握り締められていた。
男は商家を営んでいた。
今日は隣町で商品を仕入れ、家へと帰る途中だった。
今年4つになる娘にお土産の玩具を買って、もうすぐ結婚記念日だから、嫁にも綺麗な髪飾りを密かに買っていた。
喜んでくれると良い。そう願うように想いながら、愛しい家族の顔を思い浮かべる。
――ふと、違和感を感じて視線を上げた。
両脇は春蒔きの青々とした小麦畑が広がっている。
それが、焦げ跡と共に途切れている。
そして道に続くこの焦げ跡は真っ直ぐに自分の村へと繋がっている。
「なんだ? 山火事か……?」
それにしては、一定の間隔で続く焦げ跡が奇妙であるし、なにより、燃える物の殆ど無い砂利道を真っ直ぐに焦がしながら移動しているように見える。
……そう、移動している。小麦畑の向こうから蛇行しながらも、一本の道のように焦げ跡が出来ているのだから。『何か』が燃やしながら移動しているようだ。
小麦はこの周辺の村では大事な食糧であり、商売品でもある。
誰がこんな酷いことを、と男は憤りながら、馬の足を速めた。
嫌な予感がした。この焦げ臭さも、目の先に上がる黒煙も、男の不安を煽り、心臓を早鐘のように打った。
そして、高台から自分の住む村を目にした男は絶叫した。
彼の村は炎の海に飲まれていた。
●討伐部隊
連絡を受けたハンターオフィスはすぐにハンター6名からなる討伐部隊を派遣した。
「っち。火の勢いが強い! 倒れるぞ! 巻き込まれるな!!」
火災により倒壊する家屋から逃げつつ、雑魔へ肉薄するとその斧で切り伏せる。
「こんなに多いなんて聞いてないよ!」
「つーか、増えるとか、聞いてないし!」
燃える家から逃げ遅れた子どもの泣き声が聞こえたが、目の前の雑魔に背を向けて救助に向かう訳にもいかず、ギリリと唇を噛みしめた。
燃える獣の雑魔、それ以外の情報が無い状態で6人は善戦した。
しかし既に2つの村を飲み込んだ雑魔達の力は6人で対処できる物では無かったのだ。
雑魔とはいえ10体以上、住民の避難誘導、火災している家屋への対応とやるべきことが多すぎた。
何とか村人の半数を逃がし、家畜の1/3を保護することには成功した物の、討ち漏らした雑魔達が逃亡し、この悲劇の連鎖を止める事には失敗したのだった。
●後日、ハンターオフィス
「大至急の依頼です。ある村が雑魔の群れに襲われました。群れはドンドンと勢力を増して移動中。街道に沿って移動するという知恵を付けたらしく、道中の行商人などを襲いながら道沿いの町村を襲っています。皆さんには次に襲われると予測される村へ大至急向かっていただきます」
馬は人数分準備されているので、自分の馬が無くとも問題無く急行できる。
ただし、準備された馬は乗用馬なので、戦闘には向かない。
村に着いたら戦火に巻き込まれない所において欲しいと説明係の女性は告げた。
「雑魔の数は10以上。その外見はたてがみを持った大きなネズミに似ています。体長105cmから135cm、体重50kg前後。このたてがみが火に覆われています。このたてがみが接触すると、木や繊維と言った可燃性物質は燃え上がるようです」
延焼の効果は殆ど無いようなのだが、数の暴力とその場に居続けることにより、結果家屋の火災が発生しているらしい。
「それから、この雑魔はある一定以上正のマテリアルを吸収すると分裂して増えるようです。それが前回討伐し損ねた原因の一つでもあります」
そして前回の失敗を繰り返さないためにも、得た情報は全て提示し、最大限の協力をしますと彼女は厳しい表情で告げる。
「今すぐに皆さんが向かっても、村への被害をゼロにすることは出来ないでしょう。それでも、村人を守り、彼らの家財を守って上げて下さい」
丁寧に頭を下げた彼女の両手は太腿の上で硬く硬く震えるほどに握り締められていた。
リプレイ本文
●燃える村
14人が村の入口に辿り着いて見えた光景は、火の海だった。
燃える家、逃げ惑う人々、雑魔の蹄が地を蹴り、黒い煙が立ち昇る。
『……わかりました。出来る限りの手配はこちらで行います』
そう言って頷いたオフィスの女性は眉間にしわを寄せたまま続けた。
『ですが、村人全員を乗せるような馬車の数を準備することはとても出来ません』
当然だろう。一台の馬車を準備するのに、近隣の街へ連絡し、幌無しの簡易的な荷台付きとしても御者を1名以上手配し、調教済みの馬が2体以上いなければ安全に人を運ぶ事は難しい。
その準備の時間が惜しい程に、事態は逼迫しているのだと彼女は強く両目を閉じる。
『現在、怪我人を医者の居る街まで送る為の馬車の手配は済んでいます。ただ、皆さんの到着よりは遅くなるでしょう。兎に角皆さんには現場へ急行していただき、敵の殲滅と安全の確保を最優先でお願いします』
馬車は馬単体に比べて速度が出せない。その為、ハンターと同時に村に着くことはどうしても不可能でもあった。
それに、馬車が速く着いたとしても、歪虚の殲滅が終わっていなければ、その馬車ごと飲まれる可能性もある。
その話を聞いて、14人は狙われた村へと急いで出発したのだった。
「暮らしを踏み躙られるのが、天災や人災であるなら諦めもつく……だけどっ! 連中に……歪み穢れた連中に日々を蹂躙させるのは、我慢ならない!」
赤く揺れる家を見たメリエ・フリョーシカ(ka1991)は馬から下りて直ちに覚醒すると、真っ直ぐに燃えている家々へと走り出した。
「クソが……! 火ってのはこんな事につかうもんじゃねぇだろうが!」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)もメリエに続いて走り、道中にあった井戸の水を汲むと頭から被った。
歪虚への戦いへと身を投じる女子2人を見て、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)とイグレーヌ・ランスター(ka3299)も逡巡して互いに顔を合わせた後、頷き合う。
「済まないが討伐は任せた!! 私は避難誘導と脱出路の確保に回る!」
宣誓するように声高らかに告げると、イグレーヌは愛馬と共に村の南側、集落以外に住居を構える村人達へと避難を呼びかけるべく走り出した。
「おぅ、頼んだぜ!」
レイオスも馬から下りると水を被って避難誘導を呼びかけるべく集落へと走り出した。
元々マテリアルが入り乱れる混雑した場が苦手なフワ ハヤテ(ka0004)もそんな4人に続いて覚醒をすると馬から下りた。
「正のマテリアルを吸収し糧とする雑魔か……興味深いね。ああ、非常に興味深い。ここで殲滅しなければいけないことが残念でならないよ」
うっすらと笑みを浮かべてそう呟くと、ボルディア同様水を被って走り出した。
シャツを破き、水で濡らして口元を覆い簡易マスクとして、ゴーグルを装着した白神 霧華(ka0915)は、避難誘導を呼びかけるべくイグレーヌとは反対の北側に向かって愛馬を走らせる。
リュー・グランフェスト(ka2419)は馬から下りると、水を被って街道を突き進んだ。
「ここからは通さねえ」
一体の火鼠がリューに気付いて突進してくるのを確認して、一気にマテリアルを放出して覚醒する。
その周囲にいた火鼠たちもそのマテリアルに惹かれてリューを見た。
民の代わりに戦場に立ち、身体を張って護る為の盾となる。その誓いを胸に、リューは自分の身長よりも長いルクス・ソリスを構えて敵を見据えると、気合いと共に剣を振り下ろした。
リチェルカ・ディーオ(ka1760)は愛馬を駆ってリューを追い越し、更に西の入口へと近づき、弓を引く。
最大射程からさらにその先へと狙った矢は、風切音を立てて火鼠へと向かったが、僅かに逸れてしまった。
キュルルルル、クルルルル、という鳴き声が一体から発せられると、何体かの火鼠が“獲物”が来たことを喜ぶかのように街道へと出てきた。
街道沿いの家がまた一件燃え始める。
恐怖に混乱した人々の叫び声と子どもの泣き声が聞こえた。
「街道の確保は任せて」
助けに向かいたい気持ちを抑え、更に弓を引き絞り放った。
ホーリーライトの光が太陽と共に村を照らす。
ホイッスルの音に、幾人かの村人達が火を避けながら街道へと出てきた。
「大丈夫、必ずたすけるわ」
駆け寄ってきた村人に微笑みかけながら、エイル・メヌエット(ka2807)は東へ逃げるようにと声をかける。
七葵(ka4740)も燃え盛る納屋を見て眉間にしわを寄せた。
歪虚により攻め滅ぼされた故郷。エトファリカでの記憶を否が応にも呼び覚まされ、七葵はこめかみを押さえながら火を、歪虚を睨む。
『……許せるものか、斯様な理不尽と惨劇』
胸の内に炎よりも熱い想いを滾らせ、剣を抜いて走る。
「鼠共は俺達が退ける、早く行くんだ!」
リクも愛馬に乗って避難誘導を呼びかける。
「落ち着いて、街道を東へ!」
濡れたタオルを井戸のそばに準備し、火や煙への対策としながら、エイルはさらに北側の集落へと入っていった。
「野郎ども行くぜ、一匹たりとも逃すんじゃねーぞ!」
ソフィア =リリィホルム(ka2383)から攻性強化の支援を受けたゾファル・G・初火(ka4407)は、すぐさま勇ましく声を張り上げると、重装馬を巧みに操り火鼠へと突撃していく。
「わわっ、待ってよ!」
一方徒歩のソフィアはそれを見て、慌てて後を追って走り始める。
街道で戦うリューへもすれ違い様に同じく攻性強化を施しつつ、火鼠に水をぶっかけ、挑発し、切り伏せていくゾファルの楽しそうな声のお陰で見失うことはなかったが、途中、倒壊した建物に巻き込まれそうになり、冷や汗をかいた。
「火が怖くて鍛冶屋やれるかってんですよっ!」
ギリギリの所で躱して、再び走る。漸くゾファルの背中を見つけると同時に、突進しようとしていた火鼠を見つけて魔導銃を放った。
「おぅ、サンキューじゃん!」
「もぅ、少しは後ろも気にしてよねっ!」
ソフィアのむくれ顔にゾファルはちっとも悪びれない様子で「悪い悪い」と告げると、再び目に付いた火鼠へとギガーアックスで襲いかかっていく。
●避難誘導
幸いにして農業と畜産が盛んな地域のため、背の高い住居は少なく、見通しは悪くない。
一軒一軒も木造ではあるが間に畑を挟んでいる事が多く、街道沿い以外は倒壊による延焼は少なかった。
何より、風が殆ど無いことが救いであろう。
風に煽られれば火の勢いは増し、更なる被害を出していたことは想像に難くない。
北の外れに住む酪農を営む一家は、集落から昇る黒煙に何事かと驚きながら、父親が様子を見に行こうと家を出たところで霧華と出会った。
「私はハンターです。今、村には歪虚が現れて混乱しています。東へ逃げて下さい」
「歪虚? 火事ではないのか?」
状況が飲めない男に、霧華はそれでも根気よく丁寧に説明をした。
「火を纏った歪虚のため、狙われた集落の家屋が燃えているんです。こちらまで歪虚が来ないとは言えません。私達ハンターが村の西口付近で歪虚を押しとどめている間に、東へ逃げて下さい」
「避難は、どうなってる? 怪我人の運搬は?」
「避難はこうやって呼びかけつつ、1人でも多く救おうと仲間達が奮闘しています」
怪我人の運搬に関しては、後ほど馬車が到着予定だと告げると、男は黙って頷いてから家の中に居る息子に向かって声をかけた。
「荷車から藁全部降ろして、東口まで行くぞ」
すると窓から青年が顔を出した。
「え!? 馬出すの?」
「いいから行け」
「は、ハイ!」
慌てて青年が顔を引っ込めた。
「ご協力感謝します」
霧華が馬上から頭を下げると、男は静かに頷いた。
「ただ迎えが来るより、少しでも運べた方がいいだろう。ただの荷台しかねぇが、横になれば3人ぐらいは乗せられる。座ってられるなら6人は乗れる」
うちの馬は力自慢なんだと男は初めて頬を緩めたが、すぐに表情は険しいものへと変わった。
「この辺だとうちと、南の家に馬がいる。他にも手押しの荷車なら持ってる農家が沢山いる。声をかけて回って貰っていいか?」
「わかりました。あとお願いが一つ」
「何だ?」
「避難される際、桶などの水を汲める物を持ってきていただけますか?」
霧華の言葉に男は「わかった」と頷くと、踵を返して家の中へと戻っていく。
霧華は男からの情報をトランシーバーで仲間へ伝えようとしたが、距離が離れすぎていて通じなかった。
集落へ行くよりは自ら動いた方が早い。霧華はまだ火の手の上がっていない孤立している民家へと馬を走らせていった。
既に襲撃を受けていた西口付近の集落は混乱のまっただ中だった。
人々が我先にと逃げだし、落ちた人形が踏みつけられ、火鼠によって燃やされる。一方で逃げ遅れ火だるまとなって街道へ転がり出てきて絶命する者もいた。
エイルは唇を噛みしめ、きっと前を向くとアプレワンドで声量を増幅させながら避難を呼びかけ続けていた。
「私達がこの歪虚を押しとどめている間に、東から逃げて欲しいの」
1人の初老の男性にエイルは優しく、だが強い意思を持って告げた。
「……わかりました。とにかく東へ逃げれば良いのですな!」
「村長! ご無事でしたか!」
細い村道からキヅカ・リク(ka0038)と共に1人の若者が顔を出し、初老の男性を連れて行こうとする。
「あの、失礼ですけど、貴方が村長さん?」
問われて初老の男性はこくりと頷いた。
「あの、私達だけでは限界があるから、避難の引率をお願いしたいの」
村は広い。1キロ平方Kmとはいえ、火と恐怖に包まれ混乱して惑う人々を安全に誘導するというのは中々骨の折れる仕事だった。
「どれほど出来るか分かりませんが、東へ逃げろと伝えれば良いのですな?」
村長らしいその初老の男性は大仰に頷いて見せると、迎えに来た若者と共に街道へと向かう。
「……大丈夫かな」
「……多分?」
2人は一抹の不安を感じつつも、そればかりに気を取られている訳にもいかず、火に煽られ熱を持つ顔に濡れタオルを押しつけながら、エイルは再び声を張り上げて誘導を始めるのだった。
「私は救助に駆けつけたハンターだ。落ち着いて話しを聞け!」
茨のオーラを纏ったイグレーヌは村の東口から近隣へと声をかけて回っていた。
まだ火の手は村の西口付近で留まっているのを確認しながら、1人でも多くの人間を安全に逃がそうと避難を呼びかけ続ける。
「西から歪虚が来ている! この事を出来るだけ周りの者にも知らせ、準備が出来次第東へと避難しろ!」
その時、街道から悲鳴が上がった。
一体の火鼠が仲間の猛攻からすり抜けて逃げる村人を襲おうとするのが見え、イグレーヌはすぐにリュミエールボウを絞り放った。
「神よ、私と全ての村人にこの試験に打ち勝つ祝福を……っ!」
マテリアルの働きにより冷気を帯びたその矢は火鼠の頭を射抜き、火鼠は塵へと還っていく。
徐々に東口付近には逃げてきた村人達が溜まりつつあった。
歩ける者は歩いて逃げるよう声をかけようと近付くと、空の荷車を押す者や、荷台を牽いた馬を連れている者の姿が見えた。
「怪我や火傷を負ったヤツはいないか!?」
「乗り心地は良かねぇかもしれねぇが、俺のでよけりゃばあちゃん乗っていくか?」
また、東口に到着した村長がすぐにその場を纏め始めたことが避難誘導をさらにスムーズにさせた。
「火を消すのは後だ! まずは逃げろ! 東へ!」
最初こそ、我先にと走って逃げていく若者がいたが、村長が率先して声をかけ始めたことにより、村の男衆が団結して老人、子どもを背負い、手を引いて逃げ始めた。
女衆も女同士で声を掛け合い、村の東の外れで逃げ遅れている者がいないか、隣近所の人はいるかと確認を始めた。
村人同士で声を掛け合い、比較的落ち着いた状態で避難が行えていることにイグレーヌはほっと安堵の息を吐くと、更に火鼠達から街道を守る為、馬を走らせたのだった。
●殲滅を目指して
火鼠たちは分裂をしながらまず街道沿いの家を襲い、その奥の家を襲い、分裂をして前と横の家を襲い、南北の集落を扇状に襲っていた。
そこにハンター達が街道、南北の集落へと駆けつけ敵を討ち、街道への避難誘導を行った事で、火鼠たちも住民やハンターのマテリアルに惹かれて再び街道へと出てくる火鼠が現れた。そのお陰で、集落の奥の方へ広がる勢いは緩やかになっていた。
「鼠ィ! マテリアルが好きなんだろう! 最も活きのいいのがここにいるぞ!」
メリエは目に付いた火鼠全てに全力で斬りかかっていった。
ボルディアもメリエとは違う村道へと入り、見つけた4体の群れをアムタトイで薙ぎ払った。
「仲間なんて呼ばせねぇよ!」
ボルディアはさらに悲鳴と共に煙が見え始めた隣家へと飛び込むと、家の中に取り残されていた子ども達をアクセル・ランパード(ka0448)へと押しつけ、2体へと分裂した火鼠へと斬りかかった。
「ああああ! こんなん熱くねぇえええ!!!」
斬りかかった時に一体に背後を取られ、体当たりを受けつつもボルディアは戦斧を振るい、火鼠への攻撃を最優先させると小火程度の燃焼だけで食い止めたのだった。
「吹雪となって吹き荒れろ、白雪丸!」
レイオスが気合いを溜めて燃え盛る家の中にいた火鼠を一気に薙ぎ払った。
その後ろから、フワがウォーターシュートを放って討ち漏らした火鼠を鎮火させる。
「んー……こっちは大体10体以上退治したって感じだね。……あぁ、でもまた火の手が上がったからあそこにもいるのかな? はいはい、じゃぁね」
右手一本で杖を操り敵を仕留めつつも、その間ずっと彼は通信中だった。
その器用さにレイオスは感心しつつも、フワが見つけた新たな煙の元へと走り出した。
「こいつは一匹いたら30匹なんてレベルじゃないな」
思わずぼやいたが、白雪丸と烈火の二本を握り締めて気を入れ直してレイオスは走る。
そんなレイオスを見て「若いなぁ」とフワは感心しつつその後を追った。
「おらあ、くたばりやがれい」
ゾファルの気の抜けたかけ声とは裏腹に、火鼠に振り下ろされた一撃は酷く重たい。
ソフィアは燃えていない家の屋根にジェットブーツで飛び乗り、火の手の方向を確認する。
「北側……東よりに人影っ。敵影……ありっ!」
「よっしゃっ!」
ゾファルはソフィアの指差した方向へ向かって愛馬を駈けさせる。
「ちょっ、だから、待ってってば!」
慌てて屋根から飛び降りようとして、逃げる親子連れを見つけてそちらへ向かう。
ソフィアの――ハンターの姿を見て、母親は涙を零しながらすがりついてきた。
「子どもが、火傷を……!」
見れば、3歳ぐらいの子どもの右上腕が酷く焼けただれていた。
「落ち着いてっ。東の街道まで行くと、救助の馬車が来るから。こっちの道なら安全だから、ここを通って街道へ、ね?」
ソフィアは自分に回復させてあげる手段が無いことを申し訳無く思いながら、親子を安全な方向へと逃がすと、今度こそゾファルの後を追い始めた。
ゾファルがソフィアの示した場所に着いた時、そこには既に七葵が村人を背に庇いながら火鼠と対峙していた。
脚部へとマテリアルを集中させ、一気に間合いを詰めると抜刀と同時に斬りかかった。
「へぇ、エトファリカの剣技は面白いじゃん」
次いでゾファルが敵に攻撃の隙を与えないまま一撃で仕留めるのと、漸く追いついたソフィアが息を切らせて飛び込んで来たのはほぼ同時だった。
「あぁ。他にいないかまた見て欲しいじゃーん」
ソフィアの顔を見てひらひらと掌を振ってみせるゾファルに、ソフィアはがっくりと肩を落とした。
イグレーヌの射程以外をフォローするつもりだったリチェルカだが、流石にお互いに街道約2kmをフォローすることは出来ず、集落の端より現れた火鼠をヴァルナーで射止め続けていた。
走り逃げ惑う人達を避けながら射続けるのは酷く集中力を必要としたが、幸いにも外れることはあっても、流れた矢が村人に刺さる、などという事にはならず戦い続けていた。
そんなリチェルカの前ではリューが奮戦していた。
逃げる村人を巻き込む可能性がある為なかなかまとめて薙ぎ払う事が出来ず、一体一体を確実に攻撃する戦法へと変更を余儀なくされていたが、リチェルカとフォローし合って殆ど討ち漏らすことなく仕留めていた。
漸く殆どの村人が避難し終わり、纏めて薙ぎ払う事が出来るようになった頃、村を回って来た霧華が合流した。
「戻りました。もう自力で動ける人達の避難は殆ど終わりました」
ハンター達のマテリアルに惹かれて、3体の火鼠が突撃してくるが、霧華は華麗な手綱捌きで攻撃を避けると、白狼をその一体の背へと突き立てた。
「逃がさないよっ」
リチェルカも最後の強弾を撃ち込み、リューがその3体を纏めて薙ぎ払うと、火鼠たちは塵となって消えていった。
結果村人131人を救うことに成功したハンター達は村人達から心より感謝された。
救えなかった66人はほぼ村の西端に住んでいた家族と、たまたま街道を出歩いていた者達だったという。
ハンター達の迅速な行動が人命という掛け替えのない財産を守ったのだった。
14人が村の入口に辿り着いて見えた光景は、火の海だった。
燃える家、逃げ惑う人々、雑魔の蹄が地を蹴り、黒い煙が立ち昇る。
『……わかりました。出来る限りの手配はこちらで行います』
そう言って頷いたオフィスの女性は眉間にしわを寄せたまま続けた。
『ですが、村人全員を乗せるような馬車の数を準備することはとても出来ません』
当然だろう。一台の馬車を準備するのに、近隣の街へ連絡し、幌無しの簡易的な荷台付きとしても御者を1名以上手配し、調教済みの馬が2体以上いなければ安全に人を運ぶ事は難しい。
その準備の時間が惜しい程に、事態は逼迫しているのだと彼女は強く両目を閉じる。
『現在、怪我人を医者の居る街まで送る為の馬車の手配は済んでいます。ただ、皆さんの到着よりは遅くなるでしょう。兎に角皆さんには現場へ急行していただき、敵の殲滅と安全の確保を最優先でお願いします』
馬車は馬単体に比べて速度が出せない。その為、ハンターと同時に村に着くことはどうしても不可能でもあった。
それに、馬車が速く着いたとしても、歪虚の殲滅が終わっていなければ、その馬車ごと飲まれる可能性もある。
その話を聞いて、14人は狙われた村へと急いで出発したのだった。
「暮らしを踏み躙られるのが、天災や人災であるなら諦めもつく……だけどっ! 連中に……歪み穢れた連中に日々を蹂躙させるのは、我慢ならない!」
赤く揺れる家を見たメリエ・フリョーシカ(ka1991)は馬から下りて直ちに覚醒すると、真っ直ぐに燃えている家々へと走り出した。
「クソが……! 火ってのはこんな事につかうもんじゃねぇだろうが!」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)もメリエに続いて走り、道中にあった井戸の水を汲むと頭から被った。
歪虚への戦いへと身を投じる女子2人を見て、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)とイグレーヌ・ランスター(ka3299)も逡巡して互いに顔を合わせた後、頷き合う。
「済まないが討伐は任せた!! 私は避難誘導と脱出路の確保に回る!」
宣誓するように声高らかに告げると、イグレーヌは愛馬と共に村の南側、集落以外に住居を構える村人達へと避難を呼びかけるべく走り出した。
「おぅ、頼んだぜ!」
レイオスも馬から下りると水を被って避難誘導を呼びかけるべく集落へと走り出した。
元々マテリアルが入り乱れる混雑した場が苦手なフワ ハヤテ(ka0004)もそんな4人に続いて覚醒をすると馬から下りた。
「正のマテリアルを吸収し糧とする雑魔か……興味深いね。ああ、非常に興味深い。ここで殲滅しなければいけないことが残念でならないよ」
うっすらと笑みを浮かべてそう呟くと、ボルディア同様水を被って走り出した。
シャツを破き、水で濡らして口元を覆い簡易マスクとして、ゴーグルを装着した白神 霧華(ka0915)は、避難誘導を呼びかけるべくイグレーヌとは反対の北側に向かって愛馬を走らせる。
リュー・グランフェスト(ka2419)は馬から下りると、水を被って街道を突き進んだ。
「ここからは通さねえ」
一体の火鼠がリューに気付いて突進してくるのを確認して、一気にマテリアルを放出して覚醒する。
その周囲にいた火鼠たちもそのマテリアルに惹かれてリューを見た。
民の代わりに戦場に立ち、身体を張って護る為の盾となる。その誓いを胸に、リューは自分の身長よりも長いルクス・ソリスを構えて敵を見据えると、気合いと共に剣を振り下ろした。
リチェルカ・ディーオ(ka1760)は愛馬を駆ってリューを追い越し、更に西の入口へと近づき、弓を引く。
最大射程からさらにその先へと狙った矢は、風切音を立てて火鼠へと向かったが、僅かに逸れてしまった。
キュルルルル、クルルルル、という鳴き声が一体から発せられると、何体かの火鼠が“獲物”が来たことを喜ぶかのように街道へと出てきた。
街道沿いの家がまた一件燃え始める。
恐怖に混乱した人々の叫び声と子どもの泣き声が聞こえた。
「街道の確保は任せて」
助けに向かいたい気持ちを抑え、更に弓を引き絞り放った。
ホーリーライトの光が太陽と共に村を照らす。
ホイッスルの音に、幾人かの村人達が火を避けながら街道へと出てきた。
「大丈夫、必ずたすけるわ」
駆け寄ってきた村人に微笑みかけながら、エイル・メヌエット(ka2807)は東へ逃げるようにと声をかける。
七葵(ka4740)も燃え盛る納屋を見て眉間にしわを寄せた。
歪虚により攻め滅ぼされた故郷。エトファリカでの記憶を否が応にも呼び覚まされ、七葵はこめかみを押さえながら火を、歪虚を睨む。
『……許せるものか、斯様な理不尽と惨劇』
胸の内に炎よりも熱い想いを滾らせ、剣を抜いて走る。
「鼠共は俺達が退ける、早く行くんだ!」
リクも愛馬に乗って避難誘導を呼びかける。
「落ち着いて、街道を東へ!」
濡れたタオルを井戸のそばに準備し、火や煙への対策としながら、エイルはさらに北側の集落へと入っていった。
「野郎ども行くぜ、一匹たりとも逃すんじゃねーぞ!」
ソフィア =リリィホルム(ka2383)から攻性強化の支援を受けたゾファル・G・初火(ka4407)は、すぐさま勇ましく声を張り上げると、重装馬を巧みに操り火鼠へと突撃していく。
「わわっ、待ってよ!」
一方徒歩のソフィアはそれを見て、慌てて後を追って走り始める。
街道で戦うリューへもすれ違い様に同じく攻性強化を施しつつ、火鼠に水をぶっかけ、挑発し、切り伏せていくゾファルの楽しそうな声のお陰で見失うことはなかったが、途中、倒壊した建物に巻き込まれそうになり、冷や汗をかいた。
「火が怖くて鍛冶屋やれるかってんですよっ!」
ギリギリの所で躱して、再び走る。漸くゾファルの背中を見つけると同時に、突進しようとしていた火鼠を見つけて魔導銃を放った。
「おぅ、サンキューじゃん!」
「もぅ、少しは後ろも気にしてよねっ!」
ソフィアのむくれ顔にゾファルはちっとも悪びれない様子で「悪い悪い」と告げると、再び目に付いた火鼠へとギガーアックスで襲いかかっていく。
●避難誘導
幸いにして農業と畜産が盛んな地域のため、背の高い住居は少なく、見通しは悪くない。
一軒一軒も木造ではあるが間に畑を挟んでいる事が多く、街道沿い以外は倒壊による延焼は少なかった。
何より、風が殆ど無いことが救いであろう。
風に煽られれば火の勢いは増し、更なる被害を出していたことは想像に難くない。
北の外れに住む酪農を営む一家は、集落から昇る黒煙に何事かと驚きながら、父親が様子を見に行こうと家を出たところで霧華と出会った。
「私はハンターです。今、村には歪虚が現れて混乱しています。東へ逃げて下さい」
「歪虚? 火事ではないのか?」
状況が飲めない男に、霧華はそれでも根気よく丁寧に説明をした。
「火を纏った歪虚のため、狙われた集落の家屋が燃えているんです。こちらまで歪虚が来ないとは言えません。私達ハンターが村の西口付近で歪虚を押しとどめている間に、東へ逃げて下さい」
「避難は、どうなってる? 怪我人の運搬は?」
「避難はこうやって呼びかけつつ、1人でも多く救おうと仲間達が奮闘しています」
怪我人の運搬に関しては、後ほど馬車が到着予定だと告げると、男は黙って頷いてから家の中に居る息子に向かって声をかけた。
「荷車から藁全部降ろして、東口まで行くぞ」
すると窓から青年が顔を出した。
「え!? 馬出すの?」
「いいから行け」
「は、ハイ!」
慌てて青年が顔を引っ込めた。
「ご協力感謝します」
霧華が馬上から頭を下げると、男は静かに頷いた。
「ただ迎えが来るより、少しでも運べた方がいいだろう。ただの荷台しかねぇが、横になれば3人ぐらいは乗せられる。座ってられるなら6人は乗れる」
うちの馬は力自慢なんだと男は初めて頬を緩めたが、すぐに表情は険しいものへと変わった。
「この辺だとうちと、南の家に馬がいる。他にも手押しの荷車なら持ってる農家が沢山いる。声をかけて回って貰っていいか?」
「わかりました。あとお願いが一つ」
「何だ?」
「避難される際、桶などの水を汲める物を持ってきていただけますか?」
霧華の言葉に男は「わかった」と頷くと、踵を返して家の中へと戻っていく。
霧華は男からの情報をトランシーバーで仲間へ伝えようとしたが、距離が離れすぎていて通じなかった。
集落へ行くよりは自ら動いた方が早い。霧華はまだ火の手の上がっていない孤立している民家へと馬を走らせていった。
既に襲撃を受けていた西口付近の集落は混乱のまっただ中だった。
人々が我先にと逃げだし、落ちた人形が踏みつけられ、火鼠によって燃やされる。一方で逃げ遅れ火だるまとなって街道へ転がり出てきて絶命する者もいた。
エイルは唇を噛みしめ、きっと前を向くとアプレワンドで声量を増幅させながら避難を呼びかけ続けていた。
「私達がこの歪虚を押しとどめている間に、東から逃げて欲しいの」
1人の初老の男性にエイルは優しく、だが強い意思を持って告げた。
「……わかりました。とにかく東へ逃げれば良いのですな!」
「村長! ご無事でしたか!」
細い村道からキヅカ・リク(ka0038)と共に1人の若者が顔を出し、初老の男性を連れて行こうとする。
「あの、失礼ですけど、貴方が村長さん?」
問われて初老の男性はこくりと頷いた。
「あの、私達だけでは限界があるから、避難の引率をお願いしたいの」
村は広い。1キロ平方Kmとはいえ、火と恐怖に包まれ混乱して惑う人々を安全に誘導するというのは中々骨の折れる仕事だった。
「どれほど出来るか分かりませんが、東へ逃げろと伝えれば良いのですな?」
村長らしいその初老の男性は大仰に頷いて見せると、迎えに来た若者と共に街道へと向かう。
「……大丈夫かな」
「……多分?」
2人は一抹の不安を感じつつも、そればかりに気を取られている訳にもいかず、火に煽られ熱を持つ顔に濡れタオルを押しつけながら、エイルは再び声を張り上げて誘導を始めるのだった。
「私は救助に駆けつけたハンターだ。落ち着いて話しを聞け!」
茨のオーラを纏ったイグレーヌは村の東口から近隣へと声をかけて回っていた。
まだ火の手は村の西口付近で留まっているのを確認しながら、1人でも多くの人間を安全に逃がそうと避難を呼びかけ続ける。
「西から歪虚が来ている! この事を出来るだけ周りの者にも知らせ、準備が出来次第東へと避難しろ!」
その時、街道から悲鳴が上がった。
一体の火鼠が仲間の猛攻からすり抜けて逃げる村人を襲おうとするのが見え、イグレーヌはすぐにリュミエールボウを絞り放った。
「神よ、私と全ての村人にこの試験に打ち勝つ祝福を……っ!」
マテリアルの働きにより冷気を帯びたその矢は火鼠の頭を射抜き、火鼠は塵へと還っていく。
徐々に東口付近には逃げてきた村人達が溜まりつつあった。
歩ける者は歩いて逃げるよう声をかけようと近付くと、空の荷車を押す者や、荷台を牽いた馬を連れている者の姿が見えた。
「怪我や火傷を負ったヤツはいないか!?」
「乗り心地は良かねぇかもしれねぇが、俺のでよけりゃばあちゃん乗っていくか?」
また、東口に到着した村長がすぐにその場を纏め始めたことが避難誘導をさらにスムーズにさせた。
「火を消すのは後だ! まずは逃げろ! 東へ!」
最初こそ、我先にと走って逃げていく若者がいたが、村長が率先して声をかけ始めたことにより、村の男衆が団結して老人、子どもを背負い、手を引いて逃げ始めた。
女衆も女同士で声を掛け合い、村の東の外れで逃げ遅れている者がいないか、隣近所の人はいるかと確認を始めた。
村人同士で声を掛け合い、比較的落ち着いた状態で避難が行えていることにイグレーヌはほっと安堵の息を吐くと、更に火鼠達から街道を守る為、馬を走らせたのだった。
●殲滅を目指して
火鼠たちは分裂をしながらまず街道沿いの家を襲い、その奥の家を襲い、分裂をして前と横の家を襲い、南北の集落を扇状に襲っていた。
そこにハンター達が街道、南北の集落へと駆けつけ敵を討ち、街道への避難誘導を行った事で、火鼠たちも住民やハンターのマテリアルに惹かれて再び街道へと出てくる火鼠が現れた。そのお陰で、集落の奥の方へ広がる勢いは緩やかになっていた。
「鼠ィ! マテリアルが好きなんだろう! 最も活きのいいのがここにいるぞ!」
メリエは目に付いた火鼠全てに全力で斬りかかっていった。
ボルディアもメリエとは違う村道へと入り、見つけた4体の群れをアムタトイで薙ぎ払った。
「仲間なんて呼ばせねぇよ!」
ボルディアはさらに悲鳴と共に煙が見え始めた隣家へと飛び込むと、家の中に取り残されていた子ども達をアクセル・ランパード(ka0448)へと押しつけ、2体へと分裂した火鼠へと斬りかかった。
「ああああ! こんなん熱くねぇえええ!!!」
斬りかかった時に一体に背後を取られ、体当たりを受けつつもボルディアは戦斧を振るい、火鼠への攻撃を最優先させると小火程度の燃焼だけで食い止めたのだった。
「吹雪となって吹き荒れろ、白雪丸!」
レイオスが気合いを溜めて燃え盛る家の中にいた火鼠を一気に薙ぎ払った。
その後ろから、フワがウォーターシュートを放って討ち漏らした火鼠を鎮火させる。
「んー……こっちは大体10体以上退治したって感じだね。……あぁ、でもまた火の手が上がったからあそこにもいるのかな? はいはい、じゃぁね」
右手一本で杖を操り敵を仕留めつつも、その間ずっと彼は通信中だった。
その器用さにレイオスは感心しつつも、フワが見つけた新たな煙の元へと走り出した。
「こいつは一匹いたら30匹なんてレベルじゃないな」
思わずぼやいたが、白雪丸と烈火の二本を握り締めて気を入れ直してレイオスは走る。
そんなレイオスを見て「若いなぁ」とフワは感心しつつその後を追った。
「おらあ、くたばりやがれい」
ゾファルの気の抜けたかけ声とは裏腹に、火鼠に振り下ろされた一撃は酷く重たい。
ソフィアは燃えていない家の屋根にジェットブーツで飛び乗り、火の手の方向を確認する。
「北側……東よりに人影っ。敵影……ありっ!」
「よっしゃっ!」
ゾファルはソフィアの指差した方向へ向かって愛馬を駈けさせる。
「ちょっ、だから、待ってってば!」
慌てて屋根から飛び降りようとして、逃げる親子連れを見つけてそちらへ向かう。
ソフィアの――ハンターの姿を見て、母親は涙を零しながらすがりついてきた。
「子どもが、火傷を……!」
見れば、3歳ぐらいの子どもの右上腕が酷く焼けただれていた。
「落ち着いてっ。東の街道まで行くと、救助の馬車が来るから。こっちの道なら安全だから、ここを通って街道へ、ね?」
ソフィアは自分に回復させてあげる手段が無いことを申し訳無く思いながら、親子を安全な方向へと逃がすと、今度こそゾファルの後を追い始めた。
ゾファルがソフィアの示した場所に着いた時、そこには既に七葵が村人を背に庇いながら火鼠と対峙していた。
脚部へとマテリアルを集中させ、一気に間合いを詰めると抜刀と同時に斬りかかった。
「へぇ、エトファリカの剣技は面白いじゃん」
次いでゾファルが敵に攻撃の隙を与えないまま一撃で仕留めるのと、漸く追いついたソフィアが息を切らせて飛び込んで来たのはほぼ同時だった。
「あぁ。他にいないかまた見て欲しいじゃーん」
ソフィアの顔を見てひらひらと掌を振ってみせるゾファルに、ソフィアはがっくりと肩を落とした。
イグレーヌの射程以外をフォローするつもりだったリチェルカだが、流石にお互いに街道約2kmをフォローすることは出来ず、集落の端より現れた火鼠をヴァルナーで射止め続けていた。
走り逃げ惑う人達を避けながら射続けるのは酷く集中力を必要としたが、幸いにも外れることはあっても、流れた矢が村人に刺さる、などという事にはならず戦い続けていた。
そんなリチェルカの前ではリューが奮戦していた。
逃げる村人を巻き込む可能性がある為なかなかまとめて薙ぎ払う事が出来ず、一体一体を確実に攻撃する戦法へと変更を余儀なくされていたが、リチェルカとフォローし合って殆ど討ち漏らすことなく仕留めていた。
漸く殆どの村人が避難し終わり、纏めて薙ぎ払う事が出来るようになった頃、村を回って来た霧華が合流した。
「戻りました。もう自力で動ける人達の避難は殆ど終わりました」
ハンター達のマテリアルに惹かれて、3体の火鼠が突撃してくるが、霧華は華麗な手綱捌きで攻撃を避けると、白狼をその一体の背へと突き立てた。
「逃がさないよっ」
リチェルカも最後の強弾を撃ち込み、リューがその3体を纏めて薙ぎ払うと、火鼠たちは塵となって消えていった。
結果村人131人を救うことに成功したハンター達は村人達から心より感謝された。
救えなかった66人はほぼ村の西端に住んでいた家族と、たまたま街道を出歩いていた者達だったという。
ハンター達の迅速な行動が人命という掛け替えのない財産を守ったのだった。
依頼結果
参加者一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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村を救うよっ ソフィア =リリィホルム(ka2383) ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/06/07 18:35:42 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/06 21:29:44 |