ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】村コンで運命の出会いを
マスター:sagitta

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~15人
- サポート
- 0~10人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/13 15:00
- 完成日
- 2015/06/21 17:03
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
同盟領内に存在する農耕推進地域ジェオルジ。
この地では初夏と晩秋の頃に、各地の村長が統治者一族の土地に集まって報告を行う寄り合いが行われる。その後、労をねぎらうべくささやかなお祭りが催されていたのだが、昨年の秋から状況が一変。同盟の商人や各地からの観光客が集まるお祭りとして賑わっていた。
そして今年の春。遠き辺境の地での戦いが終息に向かったのを見計らい、延期にしていた春の村長祭を開催する運びとなった。
今回は辺境のお祭りとの共催となり、より一層の盛り上がりが予想されるが、今回のジェオルジ村長祭はどんな催しが行われるのか。
●
「新鮮な野菜も、肉も、乳製品もある! 草木も美しい! そして空気がうまい! そんなジェオルジに足りないのはいったい何だと思う?」
ジェオルジにあるひなびた農村の片隅で、村人のマリオが、隣人たちを相手につばを飛ばしながら力説していた。
「それは……出会いだ!」
叫んで拳を振り上げたマリオの目は、どこか遠くを見ていた。農家の一人息子マリオ、30歳、独身。
「このたびのお祭りで、このジェオルジにたくさんの人が集まる。人が集まるところに出会いあり。これは……チャンスだ」
「出会いっつったって、いったい何すんだべ?」
「イベントだよ」
隣人の合いの手に、マリオが待ってましたとばかりに胸を張ってみせる。
「イベント?」
「出会いを求める農村の善男善女と、各地を旅するハンターたちとが、このジェオルジで出会うのだ! このジェオルジには男女をときめかせる美しい花々がある! これを利用しない手はない!」
●
というわけで、張り出された告知ポスターの内容は、以下の通り。
『美しい田舎の村で、運命の出会いを果たそう!
出会い――とは、恋人、に限らず、友人、仲間、パートナーと、広い意味で考えてください。
あるいは、すでに出会っている人同士がさらに仲を深めるために利用するもよし。
あなたの参加を、お待ちしています!』
●
マリオの熱心な宣伝活動の成果もあり、マリオが「出会いイベント」を企画している、という噂は、ジェオルジの村々で話題に上るようになった。
刺激を求める若者――とは限らないが――たちが、友人同士でこのイベントに参加するかどうかをひそひそと相談する様子が、そこかしこで聞こえてくるようになったのだ。
「やはり、俺の考えは間違っていなかった! ジェオルジは、出会いを求めていたんだ! よぉし、俺も、頑張ってすてきな人を見つけるぞぉ!」
同盟領内に存在する農耕推進地域ジェオルジ。
この地では初夏と晩秋の頃に、各地の村長が統治者一族の土地に集まって報告を行う寄り合いが行われる。その後、労をねぎらうべくささやかなお祭りが催されていたのだが、昨年の秋から状況が一変。同盟の商人や各地からの観光客が集まるお祭りとして賑わっていた。
そして今年の春。遠き辺境の地での戦いが終息に向かったのを見計らい、延期にしていた春の村長祭を開催する運びとなった。
今回は辺境のお祭りとの共催となり、より一層の盛り上がりが予想されるが、今回のジェオルジ村長祭はどんな催しが行われるのか。
●
「新鮮な野菜も、肉も、乳製品もある! 草木も美しい! そして空気がうまい! そんなジェオルジに足りないのはいったい何だと思う?」
ジェオルジにあるひなびた農村の片隅で、村人のマリオが、隣人たちを相手につばを飛ばしながら力説していた。
「それは……出会いだ!」
叫んで拳を振り上げたマリオの目は、どこか遠くを見ていた。農家の一人息子マリオ、30歳、独身。
「このたびのお祭りで、このジェオルジにたくさんの人が集まる。人が集まるところに出会いあり。これは……チャンスだ」
「出会いっつったって、いったい何すんだべ?」
「イベントだよ」
隣人の合いの手に、マリオが待ってましたとばかりに胸を張ってみせる。
「イベント?」
「出会いを求める農村の善男善女と、各地を旅するハンターたちとが、このジェオルジで出会うのだ! このジェオルジには男女をときめかせる美しい花々がある! これを利用しない手はない!」
●
というわけで、張り出された告知ポスターの内容は、以下の通り。
『美しい田舎の村で、運命の出会いを果たそう!
出会い――とは、恋人、に限らず、友人、仲間、パートナーと、広い意味で考えてください。
あるいは、すでに出会っている人同士がさらに仲を深めるために利用するもよし。
あなたの参加を、お待ちしています!』
●
マリオの熱心な宣伝活動の成果もあり、マリオが「出会いイベント」を企画している、という噂は、ジェオルジの村々で話題に上るようになった。
刺激を求める若者――とは限らないが――たちが、友人同士でこのイベントに参加するかどうかをひそひそと相談する様子が、そこかしこで聞こえてくるようになったのだ。
「やはり、俺の考えは間違っていなかった! ジェオルジは、出会いを求めていたんだ! よぉし、俺も、頑張ってすてきな人を見つけるぞぉ!」
リプレイ本文
●ファースト・インプレッション
ジェオルジの村は、花盛り。
見渡す限りの新緑の中に、赤、青、白、ピンク……色とりどりの花が咲き乱れている。ふだんは娯楽の少ない田舎の村も、美しい花に囲まれるとどこか浮き足だって見える。ましてや、今は祭りのとき。美しい花々に負けじと、さまざまな色の服で着飾った男女が手を取り合い、お日様のもとにくりだしてきていた。
そんな、しあわせな空気に包まれたジェオルジの一角で――。
『美しい田舎の村で、運命の出会いを果たそう!』
貼りだしたポスターの前で、不安と期待の入り交じった表情を浮かべて参加者を待ち受けるマリオの姿があった。すでに彼のまわりには、緊張に表情をこわばらせた村の若者達が並んでいる。
「おお、ようこそ『出会いイベント』へ。あなたがたの参加を、歓迎いたします!」
ちょうど現れた一団に、マリオが大げさな身振りで両手を広げてみせる。ソサイエティー経由でこのイベントを知ったハンター達が、村に到着したのだ。
「ここが会場やな。コンパ言うやつは、よう分からんけど、村で皆と仲良くするんやろ? 友達、ようけできるとエエなぁ」
ニコニコと笑顔を浮かべながらあらわれたのは、耀華(ka4866)。人なつっこい雰囲気で、ここらの村人達とはずいぶんとちがうセンスの服装を着こなしている。それらは、早速村人達の心をとらえたようで、興味深げに彼女を見つめる視線を感じる。
「ウチの服はな、リアルブルー製なんやで。エエやろ? 似おとる? できたら、リアルブルーからの人とも話したいな~」
「耀華さんは、リアルブルーに興味があるんですね。この村にはあちらの出身者はほとんどいないですが、ハンターのみなさんの中にはきっと……」
営業スマイルをうかべたマリオが最後まで言い終わらないうちに、耀華の隣にいた神谷 春樹(ka4560)が爽やかな笑顔で手を上げてみせた。
「あ、僕はリアルブルー出身ですよ。神谷春樹といいます。ロッソごとこっちに来た、って言えばわかりやすいかな?」
「それならボクもダネ」
春樹に引き続いて優雅に手を上げたのは、シャルル=L=カリラ(ka4262)。精巧な人形のように容姿端麗な彼の姿に、村娘達から黄色い声が上がる。
「ええなぁ、いきなりリアルブルーから来た人にあえるなんて、ウチ、ついとるな。あっちのこと、めっちゃ興味あんねん。どんなトコなんか、こっちとの違いとか、こっちに来ての感想とかも聴きたいなぁ」
耀華がうれしそうな声をあげて、春樹とシャルルの手を交互に握りしめる。――はからずも「両手に花」のような状態になっている耀華だったが、本人はリアルブルーの話を聞ける喜びに夢中のようで、村娘達からの若干のヤキモチを込めた視線にも気づいていない。
「自然の中で自然体の人々が出逢う……素敵な催しじゃないカ。そうだネ……僕は、まずは友人探しから始めようカナ」
シャルルがそう言って視線を向けると、村娘達がぽっ、と頬を上気させる。
「僕も、友達が増えたらうれしいなぁと思っています。……もちろん、恋人――とか、考えなくもないけど、ね」
後半はだれにも聞こえないように口の中だけにとどめて、春樹が言う。
「さてさて、すでに話が盛り上がっているようですが、弾む話は後ほど……さて、参加者はこれで全部でしたかね?」
マリオが人々を見回して尋ねると、彼の背中に声をかける者があった。
「いや……、俺たちもだ」
声を上げたのは春日 啓一(ka1621)。マリオがこちらに気づいたのを確認すると、顔をわずかに横に動かして、自分の斜め後ろにいた人物のことも指し示してみせる。ぶっきらぼうにも見える仕草だが、その人物に向けられた視線には親愛が感じられる。
後ろにいた人物――クリスティン・ガフ(ka1090)が一歩前に進み出て、マリオに向かって頭を下げた。
「私はクリスティン。こちらは啓一だ。私達ふたりも参加させてもらってよいだろうか」
「ええ、もちろんですとも! では、お茶会の準備がしてありますので、こちらへどうぞ~」
●楽しいお茶会
牧場の隅に設けられたテーブルで、にぎやかなお茶会がはじまった。参加者は総勢15名。男女の比率は半々くらい。ジェオルジ出身の人がやや多い感じだ。
「うーん、お茶がとても美味しく感じられるヨ! 何故だろう……空気が美味しいから? それとも、これからの出来事にわくわくしてるから、からなのカナ?」
お茶の香りを存分に楽しみながら、シャルルが満面の笑みを浮かべる。見るものをとろけさせるような、天使のスマイルだ。実際、それを目にした村娘の何人かが、腰砕けになって椅子に崩れ落ちている。
「カップが空いてるけど、おかわりはいる?」
マメにみんなに気を配りながら、面倒見の良さを発揮しているのは春樹だ。礼儀正しく穏やかな彼は、村人達にも好印象をもってむかえられているようだ。
「こーんな、田舎の食べ物、都会慣れしたハンターの方の、お口に合うだべか……」
心配そうな表情でそう言ったのは、赤い髪の毛をお下げに結んだアンだ。17歳の彼女は、ジェオルジから一度も出たことがなく、都会人にコンプレックスがあるようだ。
「ここの食べ物や飲み物はとても新鮮で、生きた味がするよ。都会には確かにいろいろな食べものが集まるけれど、このみずみずしさはここでしか味わえない、素敵なものだと僕は思うな」
春樹が柔らかく笑う。アンのつぶらな青い瞳が、かすかにうるんだ。
「そったらこと言ってくれる人、はじめてだ。都会の人は怖いと思ってたけんど、あんたはいい人だなぁ」
「いい人だなんてとんでもない。僕は、思ったことをそのまま言っただけだよ」
「ほんまに、おいしい食材ばっかりやなぁ。それに、手作りのお茶やお菓子、村の人たちの気持ちがこもってて、よけ美味しいわぁ」
耀華がお菓子をほおばりながら、幸せそうな表情で春樹の言葉に賛同する。
「ほんとけ? そのクッキーは、おらが作っただよ。そう言ってもらえて、作ったかいがあったなぁ」
アンが心の底からうれしそうにほほえんだ。
楽しげな笑い声がひびくテーブルの端で、すっかり「自分たちの世界」を作り上げているふたりがいた。啓一とクリスティンだ。
「今日は『祢々切丸』を置いてきたから、少し落ち着かないな。きっと家では『ネー暇! 魔物斬りたいネー!』と暴れている頃だろうな!」
クリスティンがそう言って闊達な笑い声を上げる。帯刀していないクリスは、いつもの鬼気迫る雰囲気とは違い、どこかやわらかく、女性らしい雰囲気をまとっている。いつも頼れる相棒として接してきた啓一は、改めて見るクリスのそんな姿に、内心少しだけ動揺している。
「どうした啓一? 私の顔になにかついているか?」
無邪気に尋ねるクリスティンに、啓一が慌てて首を横に振る。
まさか、『いつもと違い、化粧をして、サラシも巻いていないクリスの姿に見とれていた』などとは恥ずかしくて口にできるわけがない。
「それより啓一」
「ん? なんだ?」
「あーん」
「……」
「ほら、口を開けてくれ」
クリスティンがフォークにケーキの破片を突き刺して、うれしそうな笑みを浮かべる。
「え、えっと……」
あくまでためらう啓一に、クリスティンは奥の手を使うことにした。「ワザマエ! レンアイ・ジツ」とかいうリアルブルーの雑誌の記事で読んだことがある必殺技。
「ダメ?」
啓一の瞳をじーっと見つめつつ、小さく首を傾げて。
果たして啓一は、陥落した。
「あ、あーん……」
観念して口を大きく開け、ケーキの破片をクリスティンに食べさせてもらう。
「うん、満足だ」
うれしそうにクリスティンがつぶやく。
ふとまわりを見回して、自分たちが参加者全員の注目を浴びていたことに気づいた啓一は、盛大に赤面するのであった。
●明るい花畑めぐり
お茶会が盛況のうちに終わり、参加者達は連れだって左右に花畑が広がるのどかな道を歩き始める。
クリスティンと啓一は、もちろん連れだって歩いていた。クリスティンがさりげなく手を握ると、ややぎこちないながらも啓一がしっかりと握り返す。
「ふふふふふ」
啓一が受け入れてくれることがうれしくてたまらないクリスティンは、そのまま、啓一の腕に抱きつくように腕を絡めた。
「!」
なにやら柔らかい感触が腕にあたり、啓一の顔が一気に赤くなった。
「……ええなぁ。仲良きことは良きかな、って感じやな」
少し離れたところを歩きながら、耀華がふたりの様子をほほえましそうに見つめていた。彼女のかたわらにいるのは、シャルル。お茶会で、リアルブルーの話で意気投合したようだ。
そんなシャルルはまわりの花々を見渡して、感動のため息をついている。
「……誰がこんなに普段から美しさを保ってるんだろうカ。……会ってみたいネ。こんなに素敵な花畑を維持するヒトに……」
「ほんまに、綺麗にしてあんなぁ。誰が手入れしてんのやろか」
耀華も興味深げに植えられた花を見つめる。
「あ、実は……」
そんなふたりに声をかけたのは、主催者のマリオ。
「……実はこの花畑、俺のなんです。お二人にそんなふうに言ってもらえて……俺、うれしいっす!」
感動のあまりちょっと涙目になっているマリオ。なかなか感情の起伏がはげしい人のようだ。
「あの、よかったら、これ、俺からのプレゼントです! 今日の記念に!」
そう言ってマリオが、花畑から紫色のバラを一本切り取ってシャルルに手渡す。
「オオ! サンキュー! デモ、この花には僕よりもふさわしい持ち主がいるヨ」
シャルルは手慣れた手つきで、受け取ったバラの香りをかぎ、それからおもむろに耀華の前にひざまずいた。
「耀華、この花を、受け取ってくれるカイ?」
「なんや、そんなことされたら照れるやんか……でも、めっちゃうれしいで。ありがとな、シャルル」
アンは、一人で花畑を見て回っていた。子供の頃から、見慣れたジェオルジの景色。退屈に思うこともあるけれど、花が咲き誇るこの時期の花畑は、アンの心を和ませてくれる大好きな風景だ。
「この花綺麗だね。なんて名前か分かる?」
不意に、アンの背中に柔らかな声がかけられ、アンは振り返った。
そこには、おだやかにほほえむ春樹の姿。
「もちろん知っとるで! この花の名前は……」
●ロマンチックな夜
ジェオルジの村に、日が落ちる。散歩を終えてテーブルに着いていた参加者達は、一様に歓声を上げた。
日没と同時に、花畑のそこここに植えられた小さな花が、一斉に光を放ちはじめたのだ。「採光花」の名で呼ばれる、めずらしい花。植物を研究する学者によれば、昼に溜めた光を、夜に放出するのだそうだ。
村全体を包み込む圧倒的な闇にあらがうように、ほのかに光るその姿は――息をのむほどに美しい。
「本当に素敵ダネ。この景観を見られて、とても良カッタ……」
シャルルがうっとりした表情でつぶやいた。
「ウチもうれしい……一緒に見てる人がいるってのも、いいもんやしな」
シャルルの言葉に応じたのは、やはり耀華だ。後半のセリフは少しだけ照れながら。でも心から、このロマンチックな夜に感謝をしている様子だ。
「そうだネ……出会いに感謝、だネ」
そう言ってシャルルは、耀華に向かって、いたずらっぽく片目をつぶってみせた。
「こんなに素晴らしい景色が見られるだなんて、思わなかったな」
そうつぶやいた春樹は、一人でグラスを傾けていた。はじめて飲むお酒は、少しだけ苦くて、まだすんなりとは飲めなかったけれど、これからちょっとずつ好きになっていけたらいい。そんなことを思っていた。
誰も誘わなかったのは、イベントがつまらなかったわけじゃない。この美しい景色を見たときに、ひとりの少女の姿を――ここにはいないあの子のことを、思い浮かべてしまったからだ。
「――次は、あの子と、来てみたいな」
「……藤の夜のことを、覚えているか?」
美しく輝く花を見つめながら、クリスティンが言った。
「……わすれられるわけがねえだろ」
啓一が答える。ぶっきらぼうな物言いが、今夜はひどく、優しい。
「なんつーかね、長いようで短いような戦いだったが、まずはお互い生き残れておめでとう。それでだがな」
照れ隠しのように早口でそう言ってから、啓一は目を閉じて一つ大きく深呼吸をした。そして、意を決したように目を開き、クリスティンをしっかりと見つめる。
「愛してるだのなんだのは俺らしくねえ、俺らしい言い方で返事をさせてもらう……」
そう言いながら、啓一はクリスティンを抱きしめる。ぐっと抱き寄せて、耳元に口を寄せた。
「これからも戦いの日は続くだろう、だからできる限りでいい、俺と肩を並べて、俺の傍にいてほしい……気の利いたことが言えねえですまねえ、これが俺のできる、心からの返事だ」
「……!」
感激は、言葉にならない。全身を駆け巡る愛しさに身を任せ、クリスティンはかみつくように自らの唇を、啓一の唇に、重ねた。
穏やかで優しい闇の中で、採光花のほのかな光が、ふたりを照らしていた――。
ジェオルジの村は、花盛り。
見渡す限りの新緑の中に、赤、青、白、ピンク……色とりどりの花が咲き乱れている。ふだんは娯楽の少ない田舎の村も、美しい花に囲まれるとどこか浮き足だって見える。ましてや、今は祭りのとき。美しい花々に負けじと、さまざまな色の服で着飾った男女が手を取り合い、お日様のもとにくりだしてきていた。
そんな、しあわせな空気に包まれたジェオルジの一角で――。
『美しい田舎の村で、運命の出会いを果たそう!』
貼りだしたポスターの前で、不安と期待の入り交じった表情を浮かべて参加者を待ち受けるマリオの姿があった。すでに彼のまわりには、緊張に表情をこわばらせた村の若者達が並んでいる。
「おお、ようこそ『出会いイベント』へ。あなたがたの参加を、歓迎いたします!」
ちょうど現れた一団に、マリオが大げさな身振りで両手を広げてみせる。ソサイエティー経由でこのイベントを知ったハンター達が、村に到着したのだ。
「ここが会場やな。コンパ言うやつは、よう分からんけど、村で皆と仲良くするんやろ? 友達、ようけできるとエエなぁ」
ニコニコと笑顔を浮かべながらあらわれたのは、耀華(ka4866)。人なつっこい雰囲気で、ここらの村人達とはずいぶんとちがうセンスの服装を着こなしている。それらは、早速村人達の心をとらえたようで、興味深げに彼女を見つめる視線を感じる。
「ウチの服はな、リアルブルー製なんやで。エエやろ? 似おとる? できたら、リアルブルーからの人とも話したいな~」
「耀華さんは、リアルブルーに興味があるんですね。この村にはあちらの出身者はほとんどいないですが、ハンターのみなさんの中にはきっと……」
営業スマイルをうかべたマリオが最後まで言い終わらないうちに、耀華の隣にいた神谷 春樹(ka4560)が爽やかな笑顔で手を上げてみせた。
「あ、僕はリアルブルー出身ですよ。神谷春樹といいます。ロッソごとこっちに来た、って言えばわかりやすいかな?」
「それならボクもダネ」
春樹に引き続いて優雅に手を上げたのは、シャルル=L=カリラ(ka4262)。精巧な人形のように容姿端麗な彼の姿に、村娘達から黄色い声が上がる。
「ええなぁ、いきなりリアルブルーから来た人にあえるなんて、ウチ、ついとるな。あっちのこと、めっちゃ興味あんねん。どんなトコなんか、こっちとの違いとか、こっちに来ての感想とかも聴きたいなぁ」
耀華がうれしそうな声をあげて、春樹とシャルルの手を交互に握りしめる。――はからずも「両手に花」のような状態になっている耀華だったが、本人はリアルブルーの話を聞ける喜びに夢中のようで、村娘達からの若干のヤキモチを込めた視線にも気づいていない。
「自然の中で自然体の人々が出逢う……素敵な催しじゃないカ。そうだネ……僕は、まずは友人探しから始めようカナ」
シャルルがそう言って視線を向けると、村娘達がぽっ、と頬を上気させる。
「僕も、友達が増えたらうれしいなぁと思っています。……もちろん、恋人――とか、考えなくもないけど、ね」
後半はだれにも聞こえないように口の中だけにとどめて、春樹が言う。
「さてさて、すでに話が盛り上がっているようですが、弾む話は後ほど……さて、参加者はこれで全部でしたかね?」
マリオが人々を見回して尋ねると、彼の背中に声をかける者があった。
「いや……、俺たちもだ」
声を上げたのは春日 啓一(ka1621)。マリオがこちらに気づいたのを確認すると、顔をわずかに横に動かして、自分の斜め後ろにいた人物のことも指し示してみせる。ぶっきらぼうにも見える仕草だが、その人物に向けられた視線には親愛が感じられる。
後ろにいた人物――クリスティン・ガフ(ka1090)が一歩前に進み出て、マリオに向かって頭を下げた。
「私はクリスティン。こちらは啓一だ。私達ふたりも参加させてもらってよいだろうか」
「ええ、もちろんですとも! では、お茶会の準備がしてありますので、こちらへどうぞ~」
●楽しいお茶会
牧場の隅に設けられたテーブルで、にぎやかなお茶会がはじまった。参加者は総勢15名。男女の比率は半々くらい。ジェオルジ出身の人がやや多い感じだ。
「うーん、お茶がとても美味しく感じられるヨ! 何故だろう……空気が美味しいから? それとも、これからの出来事にわくわくしてるから、からなのカナ?」
お茶の香りを存分に楽しみながら、シャルルが満面の笑みを浮かべる。見るものをとろけさせるような、天使のスマイルだ。実際、それを目にした村娘の何人かが、腰砕けになって椅子に崩れ落ちている。
「カップが空いてるけど、おかわりはいる?」
マメにみんなに気を配りながら、面倒見の良さを発揮しているのは春樹だ。礼儀正しく穏やかな彼は、村人達にも好印象をもってむかえられているようだ。
「こーんな、田舎の食べ物、都会慣れしたハンターの方の、お口に合うだべか……」
心配そうな表情でそう言ったのは、赤い髪の毛をお下げに結んだアンだ。17歳の彼女は、ジェオルジから一度も出たことがなく、都会人にコンプレックスがあるようだ。
「ここの食べ物や飲み物はとても新鮮で、生きた味がするよ。都会には確かにいろいろな食べものが集まるけれど、このみずみずしさはここでしか味わえない、素敵なものだと僕は思うな」
春樹が柔らかく笑う。アンのつぶらな青い瞳が、かすかにうるんだ。
「そったらこと言ってくれる人、はじめてだ。都会の人は怖いと思ってたけんど、あんたはいい人だなぁ」
「いい人だなんてとんでもない。僕は、思ったことをそのまま言っただけだよ」
「ほんまに、おいしい食材ばっかりやなぁ。それに、手作りのお茶やお菓子、村の人たちの気持ちがこもってて、よけ美味しいわぁ」
耀華がお菓子をほおばりながら、幸せそうな表情で春樹の言葉に賛同する。
「ほんとけ? そのクッキーは、おらが作っただよ。そう言ってもらえて、作ったかいがあったなぁ」
アンが心の底からうれしそうにほほえんだ。
楽しげな笑い声がひびくテーブルの端で、すっかり「自分たちの世界」を作り上げているふたりがいた。啓一とクリスティンだ。
「今日は『祢々切丸』を置いてきたから、少し落ち着かないな。きっと家では『ネー暇! 魔物斬りたいネー!』と暴れている頃だろうな!」
クリスティンがそう言って闊達な笑い声を上げる。帯刀していないクリスは、いつもの鬼気迫る雰囲気とは違い、どこかやわらかく、女性らしい雰囲気をまとっている。いつも頼れる相棒として接してきた啓一は、改めて見るクリスのそんな姿に、内心少しだけ動揺している。
「どうした啓一? 私の顔になにかついているか?」
無邪気に尋ねるクリスティンに、啓一が慌てて首を横に振る。
まさか、『いつもと違い、化粧をして、サラシも巻いていないクリスの姿に見とれていた』などとは恥ずかしくて口にできるわけがない。
「それより啓一」
「ん? なんだ?」
「あーん」
「……」
「ほら、口を開けてくれ」
クリスティンがフォークにケーキの破片を突き刺して、うれしそうな笑みを浮かべる。
「え、えっと……」
あくまでためらう啓一に、クリスティンは奥の手を使うことにした。「ワザマエ! レンアイ・ジツ」とかいうリアルブルーの雑誌の記事で読んだことがある必殺技。
「ダメ?」
啓一の瞳をじーっと見つめつつ、小さく首を傾げて。
果たして啓一は、陥落した。
「あ、あーん……」
観念して口を大きく開け、ケーキの破片をクリスティンに食べさせてもらう。
「うん、満足だ」
うれしそうにクリスティンがつぶやく。
ふとまわりを見回して、自分たちが参加者全員の注目を浴びていたことに気づいた啓一は、盛大に赤面するのであった。
●明るい花畑めぐり
お茶会が盛況のうちに終わり、参加者達は連れだって左右に花畑が広がるのどかな道を歩き始める。
クリスティンと啓一は、もちろん連れだって歩いていた。クリスティンがさりげなく手を握ると、ややぎこちないながらも啓一がしっかりと握り返す。
「ふふふふふ」
啓一が受け入れてくれることがうれしくてたまらないクリスティンは、そのまま、啓一の腕に抱きつくように腕を絡めた。
「!」
なにやら柔らかい感触が腕にあたり、啓一の顔が一気に赤くなった。
「……ええなぁ。仲良きことは良きかな、って感じやな」
少し離れたところを歩きながら、耀華がふたりの様子をほほえましそうに見つめていた。彼女のかたわらにいるのは、シャルル。お茶会で、リアルブルーの話で意気投合したようだ。
そんなシャルルはまわりの花々を見渡して、感動のため息をついている。
「……誰がこんなに普段から美しさを保ってるんだろうカ。……会ってみたいネ。こんなに素敵な花畑を維持するヒトに……」
「ほんまに、綺麗にしてあんなぁ。誰が手入れしてんのやろか」
耀華も興味深げに植えられた花を見つめる。
「あ、実は……」
そんなふたりに声をかけたのは、主催者のマリオ。
「……実はこの花畑、俺のなんです。お二人にそんなふうに言ってもらえて……俺、うれしいっす!」
感動のあまりちょっと涙目になっているマリオ。なかなか感情の起伏がはげしい人のようだ。
「あの、よかったら、これ、俺からのプレゼントです! 今日の記念に!」
そう言ってマリオが、花畑から紫色のバラを一本切り取ってシャルルに手渡す。
「オオ! サンキュー! デモ、この花には僕よりもふさわしい持ち主がいるヨ」
シャルルは手慣れた手つきで、受け取ったバラの香りをかぎ、それからおもむろに耀華の前にひざまずいた。
「耀華、この花を、受け取ってくれるカイ?」
「なんや、そんなことされたら照れるやんか……でも、めっちゃうれしいで。ありがとな、シャルル」
アンは、一人で花畑を見て回っていた。子供の頃から、見慣れたジェオルジの景色。退屈に思うこともあるけれど、花が咲き誇るこの時期の花畑は、アンの心を和ませてくれる大好きな風景だ。
「この花綺麗だね。なんて名前か分かる?」
不意に、アンの背中に柔らかな声がかけられ、アンは振り返った。
そこには、おだやかにほほえむ春樹の姿。
「もちろん知っとるで! この花の名前は……」
●ロマンチックな夜
ジェオルジの村に、日が落ちる。散歩を終えてテーブルに着いていた参加者達は、一様に歓声を上げた。
日没と同時に、花畑のそこここに植えられた小さな花が、一斉に光を放ちはじめたのだ。「採光花」の名で呼ばれる、めずらしい花。植物を研究する学者によれば、昼に溜めた光を、夜に放出するのだそうだ。
村全体を包み込む圧倒的な闇にあらがうように、ほのかに光るその姿は――息をのむほどに美しい。
「本当に素敵ダネ。この景観を見られて、とても良カッタ……」
シャルルがうっとりした表情でつぶやいた。
「ウチもうれしい……一緒に見てる人がいるってのも、いいもんやしな」
シャルルの言葉に応じたのは、やはり耀華だ。後半のセリフは少しだけ照れながら。でも心から、このロマンチックな夜に感謝をしている様子だ。
「そうだネ……出会いに感謝、だネ」
そう言ってシャルルは、耀華に向かって、いたずらっぽく片目をつぶってみせた。
「こんなに素晴らしい景色が見られるだなんて、思わなかったな」
そうつぶやいた春樹は、一人でグラスを傾けていた。はじめて飲むお酒は、少しだけ苦くて、まだすんなりとは飲めなかったけれど、これからちょっとずつ好きになっていけたらいい。そんなことを思っていた。
誰も誘わなかったのは、イベントがつまらなかったわけじゃない。この美しい景色を見たときに、ひとりの少女の姿を――ここにはいないあの子のことを、思い浮かべてしまったからだ。
「――次は、あの子と、来てみたいな」
「……藤の夜のことを、覚えているか?」
美しく輝く花を見つめながら、クリスティンが言った。
「……わすれられるわけがねえだろ」
啓一が答える。ぶっきらぼうな物言いが、今夜はひどく、優しい。
「なんつーかね、長いようで短いような戦いだったが、まずはお互い生き残れておめでとう。それでだがな」
照れ隠しのように早口でそう言ってから、啓一は目を閉じて一つ大きく深呼吸をした。そして、意を決したように目を開き、クリスティンをしっかりと見つめる。
「愛してるだのなんだのは俺らしくねえ、俺らしい言い方で返事をさせてもらう……」
そう言いながら、啓一はクリスティンを抱きしめる。ぐっと抱き寄せて、耳元に口を寄せた。
「これからも戦いの日は続くだろう、だからできる限りでいい、俺と肩を並べて、俺の傍にいてほしい……気の利いたことが言えねえですまねえ、これが俺のできる、心からの返事だ」
「……!」
感激は、言葉にならない。全身を駆け巡る愛しさに身を任せ、クリスティンはかみつくように自らの唇を、啓一の唇に、重ねた。
穏やかで優しい闇の中で、採光花のほのかな光が、ふたりを照らしていた――。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/12 02:25:57 |
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運命の出会いはあるか? 神谷 春樹(ka4560) 人間(リアルブルー)|19才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/06/12 02:28:25 |