ゲスト
(ka0000)
ベルテイル先生のプライド
マスター:秋風落葉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/14 07:30
- 完成日
- 2015/06/19 05:44
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●恐れていたこと
「攻める時は ち・すい・か・ふう! 守る時はおんなじの!」
一人の少女はなにやら歌を口ずさんでいる。また、ある机の上では少年同士が向かいあい、卓上にカラフルな札を並べていた。
「スペルカード発動! ファイアボルトでお前のエアエレメンタルを狙うぜ! 火で風を攻撃したからダメージアップだ!」
「くそっ!」
少年達の手作りらしいそれは、マギステルの魔法を題材にしたカードゲームらしい。
「見てろ新入り! これが風の魔法が土に強いってことだ!」
生意気そうな男の子が、一際小さい男子を前に透明の箱を取り出した。そこには色とりどりの紙片が無数に入っている。箱についている空気穴に男の子が息を吹きかけると、中の紙片は華麗に宙を舞う。
吐息が風を、紙片が土を見立てているらしい。
「へえーっ、おもしろーい!」
小さな男の子はその機能に目を輝かせた。
そんな騒がしい部屋で一人、黙々と己の魔術書を読みふける女性がいた。
ここはマギステルを養成するための私塾だ。読書に励む彼女の名はベルテイル。この学校で教師を務めている。
今は昼休みであり、先生も生徒も思い思いに過ごしていた。
カードゲームの決着がついたのか、一人の少年が自作のイラストを見つめている。それはある火の魔法を現していた。
「ファイアーボールっていいよなー! やっぱりカッコいい!!」
少年は自分が未だ使えぬ魔法スキルの名を口にし、はしゃいでいる。今はカードゲームの中でしか使えないが、いつかは実際に用いることが出来ると夢見ているのだ。
ベルテイルはなぜかその声を聞くと顔を本に寄せ、読書に没頭しているように装った。
「先生ってファイアーボールとか使えるのー?」
カードを手にする少年が何気なく発した言葉にベルテイルはぎくりと身をすくませる。
いつか来ると思っていた質問がついに飛んできてしまった。ベルテイルはこわごわと本から顔を上げ、答える。
「……え、ええ……もちろん?」
ベルテイルの唇は引きつり、声も張りがなかったが、少年達がそれに気付いたかどうか。
休み時間を満喫していた生徒達は一斉に教卓のある方へと顔を向け、目を輝かせる。
「使ってみせてよー!」
「俺も見たいー!」
「あたしもー!!」
笑顔ではやし立てる子供達とは対照的に、ベルテイルの表情は苦しげなものになる。
「い、いけません」
「えー? なんでー?」
「いいじゃん、ケチー!!」
先生の答えに、生徒達は不満の声をあげる。ベルテイルは目を泳がせ、ぼそぼそと小さな声で喋る。
「……あれは野外でも危険ですし、貴方達を巻き込むわけには」
彼女の言葉に嘘はない。実際、ファイアーボールは広範囲に効果を及ぼす魔法であり、危険であることは確かだ。
しかし、子供達は別の意図を嗅ぎ取ったらしい。
「なーんか嘘くせーなー!」
「ひょっとして……使えないんじゃないのー?」
口元に笑みを浮かべて隣のクラスメートと顔を見合わせる少年少女たち。
「な、何を言っているのですか、私がこの街一番のマギステルであることくらいは知っているでしょう!?」
あせったように教卓をバンバンと叩くベルテイル。しかし、それで子供達の疑念が晴れるわけもない。
「じゃあ見せてよー!」
「そうだそうだー!」
「見せろよー!」
ますますヒートアップする生徒達に、ついにベルテイルは覚悟を決めた。
「分かりました、分かりました! 見せてあげます!」
バン! と一際大きく机を叩き、ベルテイルはそう宣言する。歓喜の声を上げようとする子供達を前に、一つだけ付け加えた。
「ただし、来週になってからです! 先ほども言った通り、あれは危険な魔法ですから、準備がいるのです!」
「わーい!」
「約束だからね! 先生!」
無邪気に喜ぶ生徒達を前に、ベルテイルはため息をついた。次の休日は休みを返上することになりそうだ、と。
●教鞭を杖に持ち替えて
「まさか、ハンターとして再びここに来ることになるとは……」
その週の休日。ベルテイルは王都イルダーナにいた。向かう先はハンターオフィス。
かつてはハンターとして活動していたベルテイル。故郷の街で私塾を開いてからは、ハンターとしての活動をやめ、依頼を受けることもなかったが、まさかこうなってしまうとは……。
ハンターオフィスの扉を開けたベルテイル。来客に気付き、受付嬢は顔を向けた。
「いらっしゃいませ。初めてのご利用ですか?」
「ここのオフィスは初めてですが、ハンターとしての活動経験はあります。マギステルとして、お役に立てそうな仕事があれば……」
「なるほど、少々お待ちくださいね?」
受付嬢はファイルをめくり、やがて一枚の紙をベルテイルに指し示した。
「この依頼なんてどうでしょうか。とある小さな遺跡に緑のスライムが発生してしまったんですが、この緑のスライムは風属性を持っているそうです。ご存知だと思いますが、スライムは物理攻撃に耐性を持つものが多いですから。マギステルの方にメンバーに加わってほしいと思っていたんですよ」
「なるほど、それは私の力が活かせそうですね。場所は近くでしょうか? ちょっと事情がありまして、今日と明日にしか動けないもので」
「場所は離れていますが、転移門で近くまではいけますので大丈夫ですよ」
「助かります……ではその依頼、お受けいたします」
ベルテイルは安堵の息をついた。この依頼が解決できれば、きっと……。
「攻める時は ち・すい・か・ふう! 守る時はおんなじの!」
一人の少女はなにやら歌を口ずさんでいる。また、ある机の上では少年同士が向かいあい、卓上にカラフルな札を並べていた。
「スペルカード発動! ファイアボルトでお前のエアエレメンタルを狙うぜ! 火で風を攻撃したからダメージアップだ!」
「くそっ!」
少年達の手作りらしいそれは、マギステルの魔法を題材にしたカードゲームらしい。
「見てろ新入り! これが風の魔法が土に強いってことだ!」
生意気そうな男の子が、一際小さい男子を前に透明の箱を取り出した。そこには色とりどりの紙片が無数に入っている。箱についている空気穴に男の子が息を吹きかけると、中の紙片は華麗に宙を舞う。
吐息が風を、紙片が土を見立てているらしい。
「へえーっ、おもしろーい!」
小さな男の子はその機能に目を輝かせた。
そんな騒がしい部屋で一人、黙々と己の魔術書を読みふける女性がいた。
ここはマギステルを養成するための私塾だ。読書に励む彼女の名はベルテイル。この学校で教師を務めている。
今は昼休みであり、先生も生徒も思い思いに過ごしていた。
カードゲームの決着がついたのか、一人の少年が自作のイラストを見つめている。それはある火の魔法を現していた。
「ファイアーボールっていいよなー! やっぱりカッコいい!!」
少年は自分が未だ使えぬ魔法スキルの名を口にし、はしゃいでいる。今はカードゲームの中でしか使えないが、いつかは実際に用いることが出来ると夢見ているのだ。
ベルテイルはなぜかその声を聞くと顔を本に寄せ、読書に没頭しているように装った。
「先生ってファイアーボールとか使えるのー?」
カードを手にする少年が何気なく発した言葉にベルテイルはぎくりと身をすくませる。
いつか来ると思っていた質問がついに飛んできてしまった。ベルテイルはこわごわと本から顔を上げ、答える。
「……え、ええ……もちろん?」
ベルテイルの唇は引きつり、声も張りがなかったが、少年達がそれに気付いたかどうか。
休み時間を満喫していた生徒達は一斉に教卓のある方へと顔を向け、目を輝かせる。
「使ってみせてよー!」
「俺も見たいー!」
「あたしもー!!」
笑顔ではやし立てる子供達とは対照的に、ベルテイルの表情は苦しげなものになる。
「い、いけません」
「えー? なんでー?」
「いいじゃん、ケチー!!」
先生の答えに、生徒達は不満の声をあげる。ベルテイルは目を泳がせ、ぼそぼそと小さな声で喋る。
「……あれは野外でも危険ですし、貴方達を巻き込むわけには」
彼女の言葉に嘘はない。実際、ファイアーボールは広範囲に効果を及ぼす魔法であり、危険であることは確かだ。
しかし、子供達は別の意図を嗅ぎ取ったらしい。
「なーんか嘘くせーなー!」
「ひょっとして……使えないんじゃないのー?」
口元に笑みを浮かべて隣のクラスメートと顔を見合わせる少年少女たち。
「な、何を言っているのですか、私がこの街一番のマギステルであることくらいは知っているでしょう!?」
あせったように教卓をバンバンと叩くベルテイル。しかし、それで子供達の疑念が晴れるわけもない。
「じゃあ見せてよー!」
「そうだそうだー!」
「見せろよー!」
ますますヒートアップする生徒達に、ついにベルテイルは覚悟を決めた。
「分かりました、分かりました! 見せてあげます!」
バン! と一際大きく机を叩き、ベルテイルはそう宣言する。歓喜の声を上げようとする子供達を前に、一つだけ付け加えた。
「ただし、来週になってからです! 先ほども言った通り、あれは危険な魔法ですから、準備がいるのです!」
「わーい!」
「約束だからね! 先生!」
無邪気に喜ぶ生徒達を前に、ベルテイルはため息をついた。次の休日は休みを返上することになりそうだ、と。
●教鞭を杖に持ち替えて
「まさか、ハンターとして再びここに来ることになるとは……」
その週の休日。ベルテイルは王都イルダーナにいた。向かう先はハンターオフィス。
かつてはハンターとして活動していたベルテイル。故郷の街で私塾を開いてからは、ハンターとしての活動をやめ、依頼を受けることもなかったが、まさかこうなってしまうとは……。
ハンターオフィスの扉を開けたベルテイル。来客に気付き、受付嬢は顔を向けた。
「いらっしゃいませ。初めてのご利用ですか?」
「ここのオフィスは初めてですが、ハンターとしての活動経験はあります。マギステルとして、お役に立てそうな仕事があれば……」
「なるほど、少々お待ちくださいね?」
受付嬢はファイルをめくり、やがて一枚の紙をベルテイルに指し示した。
「この依頼なんてどうでしょうか。とある小さな遺跡に緑のスライムが発生してしまったんですが、この緑のスライムは風属性を持っているそうです。ご存知だと思いますが、スライムは物理攻撃に耐性を持つものが多いですから。マギステルの方にメンバーに加わってほしいと思っていたんですよ」
「なるほど、それは私の力が活かせそうですね。場所は近くでしょうか? ちょっと事情がありまして、今日と明日にしか動けないもので」
「場所は離れていますが、転移門で近くまではいけますので大丈夫ですよ」
「助かります……ではその依頼、お受けいたします」
ベルテイルは安堵の息をついた。この依頼が解決できれば、きっと……。
リプレイ本文
●
「……んん? なんぞ見覚えのある顔じゃのう。しばらくぶりじゃな、ベルテイル。子供らは元気にしておるか?」
「ええ、元気がありすぎて困るくらいに」
先日臨時の講師としてベルテイルの学校で教鞭をとったエルディラ(ka3982)。彼女の挨拶にベルテイルは疲れを滲ませて返事をした。今回、ベルテイルが休日を返上しているのはその子供達が関係しているのだから無理もない。
「へぇ、普段は魔法の先生なの? ……でも、なんで先生が依頼なんか?」
真夜・E=ヘクセ(ka3868)がベルテイルに尋ねた。彼女は口ごもる。
「そ、それは……その、ですね……」
「ぁ、分かった、魔術の研鑽とかそういうの?」
「そ、そうです! その通り!」
「ふぅん……それならサポートは私が頑張るから、やりたい事に集中しなよ」
そう言ってベルテイルの背を叩く真夜。ベルテイルはほっとしたような表情を浮かべていた。ベルテイルが依頼に参加した理由は、子供達の前でファイアーボールを披露したいというやや不純なものであるため、あまり口にはしたくないのである。
(……ま、話せぬようなら無理に聞き出すつもりもないがのう)
ベルテイルの様子から何かを感じ取ったらしいクラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)。
「しかし、今回のスライムは風属性のスライムか。やれやれ、妾は風の使い手。風魔法が得意なのじゃがな」
彼女の言葉の通り、今回の討伐対象は遺跡に現れた風の属性を持つスライムである。
「物理攻撃が効き辛いというのは難点だが、敵の弱点がはっきりしているというのはありがたいな。ようやく手に入れた新しい斧が火を噴くぜ!」
Anbar(ka4037)は火属性を持つアックス「ライデンシャフト」を手に、戦いを楽しみにしているようだ。火属性の武器は、風の属性を持つ今回の敵に最大限の力を発揮できるであろう。
「さぁ初依頼だ! なんかやけに気合入ってるのもいるみたいだけど、ボクも負けてられないな」
そう元気な声を出すのはミーニャ・A・ユリエヴァ(ka5057)。
ベルテイルを含め、総勢九人のハンター達は軽い打ち合わせを済ませたあと、転移門を経由して件の遺跡へと向かった。
●
「風属性の敵というから見に来てみれば、ただの緑スライムか。スライムが相手なら苦戦することもなかろうが……否、油断は禁物じゃな。何にせよ我らの仕事ははっきりしておる。さくっと殲滅してくれよう」
遺跡の一室で目にした蠢く緑のスライム達を前に、エルディラは豪語する。ベルテイルも頷いた。とはいえ、ベルテイルは久しぶりに依頼へと参加したせいか、やや挙動がぎこちない。
「久々の実戦だっつー話だけど、鈍った勘は取り戻しゃいい。かくいう俺も、ハンターになって久々に剣術やったわけだし。ま、気合入れて行こうや!」
ベルテイルを気遣い、ケンジ・ヴィルター(ka4938)は彼女にそう言葉をかけつつ日本刀「景幸」を鞘から抜いた。
「自分の目と肌で体感してこそ実学、ですわね♪」
メル・ミストラル(ka1512)もバーンブレイドとシェルバックラーを構えた。
ハンター達は遺跡に来る前に打ち合わせていたフォーメーションを取り始める。偶然か否か、クラリッサはベルテイルが身につけたいと願ってやまないスキル、ファイアーボールをこの戦いに持ち込んでいた。彼女のスキルが、今回の戦いの主軸となる。
「前でしっかりやるからよ、援護頼むな」
ミーニャは少しだけ偉そうにそう宣言すると、言葉通り前へと出る。
そんな中、真夜がこっそりと首から提げたネックレスに口づけし、頑張ろうと視線に込めて巽 宗一郎(ka3853)にウィンクした。恋人である宗一郎も同じようにペンダントにキスをする。独り身であるベルテイルが見たら悶絶しそうなその光景は、幸い誰の目にも触れることのないような位置で行われていた。
ハンター達はやがて前衛と後衛に別れ、緑のスライムへと挑む。
ベルテイルがケンジにまずファイアエンチャントを使用した。赤い光が炎のように彼の武器に宿る。
隣でエルディラはAnbarにウィンドガストを用いた。緑の風が彼の全身を包む。回避力の上昇に加え、風の属性を持つスライムの攻撃を弱める効果も期待できる。
「……さーて、なるべく持たせないとね」
前に出た宗一郎は試作振動刀「オートMURAMASA」を手に呟いた。彼は手近なスライムを攻撃してはいるものの、其の実、守りの構えを取っている。クラリッサのファイアボールの効果を最大限に引き出すため、スライムを可能な限り一箇所に集めるために時間を稼ぐのが主な目的だ。そこにスライム達がにじり寄ってくる。
「……守ってあげて、紺碧の風」
真夜はウィンドガストを用いた。宗一郎の側を優しくも強い風が取り巻いた。
緑色のスライムが彼をはじめとした前衛達の側へと押し寄せる。一部のスライムは動かずに体から粘液を飛ばしてハンターを狙ったが、ウィンドガストの効果もあってその攻撃は逸らされた。
ケンジは身動きせず遠距離攻撃を行ってきた緑のスライムに対し、疾風剣で瞬く間に距離を詰め、ファイアエンチャントにより赤い光を帯びた刀で敵を刺し貫いた。炎のマテリアルが風の属性を持つスライムを大きく切り裂くが、そこはしぶといスライム。まだまだ形状を保ち、彼へと反撃を行う。ケンジはそれを避けきれずに手傷を負うも、それほど大きなダメージという訳でもない。
ケンジは予定通り、スライムをおびき寄せるために後退する。緑の魔物は彼の意図に気付かず、その後を追いかけた。
「俺が『道』を切り開くから、こぼれたのを頼むぜ」
闘心昂揚による自己強化も行っていたAnbarは言葉と共に敵陣へと突っ込んだ。
「殺りきれなかった敵は頼んだよマギステル!」
ミーニャが掲げるはアックス「デモンクラッシュ」。大ぶりの戦斧に真夜の唱えたファイアエンチャントがかかった。
「うらぁぁぁぁ!」
赤い光をたなびかせ、Anbarと並んで敵に突撃したミーニャは手近なスライムを両断せんばかりの勢いで斧を振り下ろす。やわな敵であったら一閃したであろう斬撃にも、緑色のスライムは耐えた。とはいえダメージは深刻らしく、ぷるぷると震えている。
ミーニャはすぐさま別の敵を目指して駆け出した。その後をやはり手傷を負ったスライムが追いかけていく。
Anbarも仲間の隊列やクラリッサが魔法を使用するタイミングを常に考慮し、武器を振るう。
「クラリッサさんのおそばが特等席ですわ」
と言いつつクラリッサとベルテイルを守るように前に出るメル。彼女はファイアボールが実際に使われる様を目にしたことがなく、今回目の前で発現されるのを楽しみにしているのである。
メルは万一にそなえ、ベルテイルにプロテクションをかけた。
エルディラはマジックアローでスライムを狙い撃ち、離れた場所にいる敵を少しでも一箇所に集めようと尽力する。
その間にもハンター達は緑のスライムに絡みつかれ、あるいは飛んでくる粘液を必死に避けていた。
ややあって、スライムの群れが上手い具合に一箇所に固まる。
「こんだけ集めれば……、後は宜しく……!」
宗一郎は言葉と共に身を翻し、集まってきたスライム達から距離を取る。それとほぼ同時にクラリッサが戦場へと合図を出した。
クラリッサの合図に従い、ハンター達は一斉に距離を取った。後に残されているのは緑のスライム達のみ。
クラリッサの手に燃え盛る火球が生まれる。すぐにそれはスライム達の中央へと投げつけられ、爆ぜた。赤い爆発が緑のスライムを包み込み、魔物の体を吹き飛ばす。
元々無傷だったスライムはまだ一部が蠢いているものの、あらかじめ一定の攻撃を受けていた雑魔はたまらず消滅した。
「うひゃあ、丸こげだな」
ミーニャは体がほぼ消し飛んだ緑のスライム達を見て感想を漏らした。
「肌が……熱いですの」
メルも赤いマテリアルの爆発にあてられたか、そう呟いている。とはいえ、火球に巻き込まれなかったスライムはもちろん、直撃を受けたものですらまだ一部は動いている。瀕死のスライムも持ち前の再生能力で、少しずつ元の姿を取り戻そうとしていた。呆れるほどのしぶとさである。
「やられっぱなしっていうのは性に合わないんでね。さて、それじゃ……やりかえさせてもらおうかな……!」
先ほどまで防戦に徹していた宗一郎はすばやくチャージングによって間合いを詰め、剣先をスライムへと突き入れる。彼の試作振動刀「オートMURAMASA」はすでに赤い光を発していた。もちろん、恋人である真夜のファイアエンチャントによるものだ。
ケンジも新たにベルテイルの加護を受け、炎の属性を帯びた刀でスライムを切り裂いた。火球を受けていたスライムは、さすがにその一撃でついにとどめをさされる。
(放っておいたら再生するって厄介なことこの上ねーし、一体ずつ確実に倒していくぜ)
ケンジはまだ残る弱った敵を狙い、続けて得物を振るった。
Anbarは近くにいるまだ無傷のスライムへと、クラッシュブロウの力をのせて斧を叩きつける。ミーニャもAnbarとほぼ同時に大斧をそのスライムへと振り下ろした。二人の刃により、緑のスライムは生命を絶たれ、跡形もなく消え去った。
クラリッサはファイアアローで一体のスライムを狙う。メルもシャドウブリットで追い討ちした。闇の弾が緑の軟体を抉り、撃破する。
「後もうちょっと、集中していきましょ!」
残るスライムはわずかだ。真夜はファイアアローを放ちながら仲間を鼓舞する声を発する。ベルテイルも同じようにファイアアローを敵陣へと放つ。真夜の言葉通り、精神を集中してマテリアルの力をより引き出すことを意識する。
ハンター達の活躍により、緑のスライムが遺跡内から消滅するのにはさほどの時間はかからなかった。
●
「お疲れ様、さて、帰ろっか」
スライムの全滅を見届け、宗一郎は言葉と共に真夜の頭を撫でる。
ハンター達は皆、もう敵がいないことを確認し、構えていた武器を下ろした。
「ご苦労さん。やはり、魔法が使える仲間が多いと助かるぜ! 次に又戦う機会があったら、宜しく頼むな」
ベルテイルをはじめとした仲間達に快活な声で話しかけるAnbar。
「またよろしくな! キミとはよかったよ」
隣で一緒に斧を振るっていたAnbarのことが特に気に入ったのか、ミーニャは彼の前で腕を挙げて拳を握る。そこにAnbarが己の拳を合わせた。
メルは仲間達にヒールを使用し、彼らの傷を癒して回る。幸い今回の戦いではそこまで大きく負傷したものはおらず、彼女の癒しの力と各々のマテリアルヒーリングの効果でハンター達は全快した。
ケンジも伸びをして仲間にお疲れさんとねぎらいの言葉をかける。次いで、ベルテイルへと顔を向けた。
「この実戦で何か掴めたかー?」
手ごたえを感じたらしいベルテイルは笑顔で頷いた。
「はい。これで何とか私もファイアボールが使えそう……あっ」
ハッとして口を塞ぐベルテイルであったが、もう遅い。ハンター達はピンときたらしい。観念したベルテイルは仲間達に、事の発端を話して聞かせた。
「子供らにファイアーボールを見せる? ……ははあ、なるほど。難儀しておるようじゃの」
彼女の生徒達と面識のあるエルディラの言葉には同情の念が込められていた。
「あー、解る。その、言った手前、退けなくなって……っていうの、解る」
宗一郎もベルテイルの気持ちが良く理解できるのか、一人頷いている。
(僕もマヤを前にやったこと何度かある……多分ばれてるけど)
真夜をちらちらと見ながら心の中で付け加える宗一郎。
そんな恋人達の隣で、エルディラはベルテイルへと付け加える。
「しかし嘘は感心せぬな。教える立場の者がそれでは、子供らに見栄を張るクセがついてしまう。おぬしは魔術師以前に教育者であろうが。態度を改めることを勧めるぞ」
「くっ……肝に銘じておきます……」
エルディラの言葉に反論の余地はないと思ったのか、存外素直に頷くベルテイル。実際、彼女が生徒達に対して見栄を張ってしまったことが、今回の原因であるのだからぐうの音も出ない。
「もし生徒さんが更に遥かに高度な魔法の見学を希望したら、どうされるんでしょう……」
メルが汗を一筋流しながらぽつりと漏らした呟きに、ベルテイルの顔が引きつったが、魔術の教師は「そ、その時考えます……」という答えを返すに留まった。
「ファイアーボールは確かに範囲攻撃ならではの派手な魔法じゃが、それ故に敵味方の識別も出来ない使いどころが難しい魔法じゃな。だからこそ追及のし甲斐があると言う物じゃがな」
先ほどベルテイルの目の前で実際にファイアーボールを使って見せたクラリッサがくすりと笑う。
「そうですね。私もそのことに気をつけつつ、精進していきたいですね」
スライムの一群を半壊させた火球の効果範囲を思い出し、ベルテイルは頷く。休み明け、子供達の前で実践する際に被害が及ばないように気をつけなければなるまい。
魔術の談義なども行いながら遺跡の入り口に戻ってきたハンター達。近くの街の転移門を用い、王都イルダーナへと帰還した。
ベルテイルは仲間達に礼を言うと、一人、王都の訓練場へと向かう。もちろんファイアーボールのスキルを修得するためである。今回の依頼を達成し、成長したことで、自分はきっと新しい炎の魔術を会得出来る。ベルテイルはそう確信していた。
●
翌日。教室にやってきたベルテイルを生徒達が取り囲んだ。
「待ってたぜ先生! 約束覚えてるよなー!?」
「見せてよファイアーボール!」
「はいはい、分かりました。ちゃんと見せてあげます」
先日とは違い、ベルテイルの口調と表情には自信が溢れていた。
生徒達を引き連れ、野外へと向かうベルテイル。
「それではいきますよ……?」
少年少女が見守る中、精神を集中するベルテイル。やがて、彼女の右手に大きな火の球が現れる。生徒達から歓声があがった。
「はっ!」
ベルテイルは火球を遠くへと放り投げる。それは着弾と共に爆発し、空間を赤い衝撃で染め上げた。
「すっげー!!」
「かっこいいーー!!」
「あたし、この学校に来てよかったー!」
「先生、本当にファイアーボール使えたんだなー!!」
果たしてこの時ほど、ベルテイルが子供達の尊敬の眼差しを受けたことがあっただろうか。ベルテイルは教師になってこの方一度も見せたことがなかったであろう、一点の曇りもない笑みを浮かべる。
「当然でしょう。私はこの街一番のマギステルなのですから」
口々に誉めそやす生徒達に囲まれ、ベルテイルは鼻高々にそう答えた。
「……んん? なんぞ見覚えのある顔じゃのう。しばらくぶりじゃな、ベルテイル。子供らは元気にしておるか?」
「ええ、元気がありすぎて困るくらいに」
先日臨時の講師としてベルテイルの学校で教鞭をとったエルディラ(ka3982)。彼女の挨拶にベルテイルは疲れを滲ませて返事をした。今回、ベルテイルが休日を返上しているのはその子供達が関係しているのだから無理もない。
「へぇ、普段は魔法の先生なの? ……でも、なんで先生が依頼なんか?」
真夜・E=ヘクセ(ka3868)がベルテイルに尋ねた。彼女は口ごもる。
「そ、それは……その、ですね……」
「ぁ、分かった、魔術の研鑽とかそういうの?」
「そ、そうです! その通り!」
「ふぅん……それならサポートは私が頑張るから、やりたい事に集中しなよ」
そう言ってベルテイルの背を叩く真夜。ベルテイルはほっとしたような表情を浮かべていた。ベルテイルが依頼に参加した理由は、子供達の前でファイアーボールを披露したいというやや不純なものであるため、あまり口にはしたくないのである。
(……ま、話せぬようなら無理に聞き出すつもりもないがのう)
ベルテイルの様子から何かを感じ取ったらしいクラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)。
「しかし、今回のスライムは風属性のスライムか。やれやれ、妾は風の使い手。風魔法が得意なのじゃがな」
彼女の言葉の通り、今回の討伐対象は遺跡に現れた風の属性を持つスライムである。
「物理攻撃が効き辛いというのは難点だが、敵の弱点がはっきりしているというのはありがたいな。ようやく手に入れた新しい斧が火を噴くぜ!」
Anbar(ka4037)は火属性を持つアックス「ライデンシャフト」を手に、戦いを楽しみにしているようだ。火属性の武器は、風の属性を持つ今回の敵に最大限の力を発揮できるであろう。
「さぁ初依頼だ! なんかやけに気合入ってるのもいるみたいだけど、ボクも負けてられないな」
そう元気な声を出すのはミーニャ・A・ユリエヴァ(ka5057)。
ベルテイルを含め、総勢九人のハンター達は軽い打ち合わせを済ませたあと、転移門を経由して件の遺跡へと向かった。
●
「風属性の敵というから見に来てみれば、ただの緑スライムか。スライムが相手なら苦戦することもなかろうが……否、油断は禁物じゃな。何にせよ我らの仕事ははっきりしておる。さくっと殲滅してくれよう」
遺跡の一室で目にした蠢く緑のスライム達を前に、エルディラは豪語する。ベルテイルも頷いた。とはいえ、ベルテイルは久しぶりに依頼へと参加したせいか、やや挙動がぎこちない。
「久々の実戦だっつー話だけど、鈍った勘は取り戻しゃいい。かくいう俺も、ハンターになって久々に剣術やったわけだし。ま、気合入れて行こうや!」
ベルテイルを気遣い、ケンジ・ヴィルター(ka4938)は彼女にそう言葉をかけつつ日本刀「景幸」を鞘から抜いた。
「自分の目と肌で体感してこそ実学、ですわね♪」
メル・ミストラル(ka1512)もバーンブレイドとシェルバックラーを構えた。
ハンター達は遺跡に来る前に打ち合わせていたフォーメーションを取り始める。偶然か否か、クラリッサはベルテイルが身につけたいと願ってやまないスキル、ファイアーボールをこの戦いに持ち込んでいた。彼女のスキルが、今回の戦いの主軸となる。
「前でしっかりやるからよ、援護頼むな」
ミーニャは少しだけ偉そうにそう宣言すると、言葉通り前へと出る。
そんな中、真夜がこっそりと首から提げたネックレスに口づけし、頑張ろうと視線に込めて巽 宗一郎(ka3853)にウィンクした。恋人である宗一郎も同じようにペンダントにキスをする。独り身であるベルテイルが見たら悶絶しそうなその光景は、幸い誰の目にも触れることのないような位置で行われていた。
ハンター達はやがて前衛と後衛に別れ、緑のスライムへと挑む。
ベルテイルがケンジにまずファイアエンチャントを使用した。赤い光が炎のように彼の武器に宿る。
隣でエルディラはAnbarにウィンドガストを用いた。緑の風が彼の全身を包む。回避力の上昇に加え、風の属性を持つスライムの攻撃を弱める効果も期待できる。
「……さーて、なるべく持たせないとね」
前に出た宗一郎は試作振動刀「オートMURAMASA」を手に呟いた。彼は手近なスライムを攻撃してはいるものの、其の実、守りの構えを取っている。クラリッサのファイアボールの効果を最大限に引き出すため、スライムを可能な限り一箇所に集めるために時間を稼ぐのが主な目的だ。そこにスライム達がにじり寄ってくる。
「……守ってあげて、紺碧の風」
真夜はウィンドガストを用いた。宗一郎の側を優しくも強い風が取り巻いた。
緑色のスライムが彼をはじめとした前衛達の側へと押し寄せる。一部のスライムは動かずに体から粘液を飛ばしてハンターを狙ったが、ウィンドガストの効果もあってその攻撃は逸らされた。
ケンジは身動きせず遠距離攻撃を行ってきた緑のスライムに対し、疾風剣で瞬く間に距離を詰め、ファイアエンチャントにより赤い光を帯びた刀で敵を刺し貫いた。炎のマテリアルが風の属性を持つスライムを大きく切り裂くが、そこはしぶといスライム。まだまだ形状を保ち、彼へと反撃を行う。ケンジはそれを避けきれずに手傷を負うも、それほど大きなダメージという訳でもない。
ケンジは予定通り、スライムをおびき寄せるために後退する。緑の魔物は彼の意図に気付かず、その後を追いかけた。
「俺が『道』を切り開くから、こぼれたのを頼むぜ」
闘心昂揚による自己強化も行っていたAnbarは言葉と共に敵陣へと突っ込んだ。
「殺りきれなかった敵は頼んだよマギステル!」
ミーニャが掲げるはアックス「デモンクラッシュ」。大ぶりの戦斧に真夜の唱えたファイアエンチャントがかかった。
「うらぁぁぁぁ!」
赤い光をたなびかせ、Anbarと並んで敵に突撃したミーニャは手近なスライムを両断せんばかりの勢いで斧を振り下ろす。やわな敵であったら一閃したであろう斬撃にも、緑色のスライムは耐えた。とはいえダメージは深刻らしく、ぷるぷると震えている。
ミーニャはすぐさま別の敵を目指して駆け出した。その後をやはり手傷を負ったスライムが追いかけていく。
Anbarも仲間の隊列やクラリッサが魔法を使用するタイミングを常に考慮し、武器を振るう。
「クラリッサさんのおそばが特等席ですわ」
と言いつつクラリッサとベルテイルを守るように前に出るメル。彼女はファイアボールが実際に使われる様を目にしたことがなく、今回目の前で発現されるのを楽しみにしているのである。
メルは万一にそなえ、ベルテイルにプロテクションをかけた。
エルディラはマジックアローでスライムを狙い撃ち、離れた場所にいる敵を少しでも一箇所に集めようと尽力する。
その間にもハンター達は緑のスライムに絡みつかれ、あるいは飛んでくる粘液を必死に避けていた。
ややあって、スライムの群れが上手い具合に一箇所に固まる。
「こんだけ集めれば……、後は宜しく……!」
宗一郎は言葉と共に身を翻し、集まってきたスライム達から距離を取る。それとほぼ同時にクラリッサが戦場へと合図を出した。
クラリッサの合図に従い、ハンター達は一斉に距離を取った。後に残されているのは緑のスライム達のみ。
クラリッサの手に燃え盛る火球が生まれる。すぐにそれはスライム達の中央へと投げつけられ、爆ぜた。赤い爆発が緑のスライムを包み込み、魔物の体を吹き飛ばす。
元々無傷だったスライムはまだ一部が蠢いているものの、あらかじめ一定の攻撃を受けていた雑魔はたまらず消滅した。
「うひゃあ、丸こげだな」
ミーニャは体がほぼ消し飛んだ緑のスライム達を見て感想を漏らした。
「肌が……熱いですの」
メルも赤いマテリアルの爆発にあてられたか、そう呟いている。とはいえ、火球に巻き込まれなかったスライムはもちろん、直撃を受けたものですらまだ一部は動いている。瀕死のスライムも持ち前の再生能力で、少しずつ元の姿を取り戻そうとしていた。呆れるほどのしぶとさである。
「やられっぱなしっていうのは性に合わないんでね。さて、それじゃ……やりかえさせてもらおうかな……!」
先ほどまで防戦に徹していた宗一郎はすばやくチャージングによって間合いを詰め、剣先をスライムへと突き入れる。彼の試作振動刀「オートMURAMASA」はすでに赤い光を発していた。もちろん、恋人である真夜のファイアエンチャントによるものだ。
ケンジも新たにベルテイルの加護を受け、炎の属性を帯びた刀でスライムを切り裂いた。火球を受けていたスライムは、さすがにその一撃でついにとどめをさされる。
(放っておいたら再生するって厄介なことこの上ねーし、一体ずつ確実に倒していくぜ)
ケンジはまだ残る弱った敵を狙い、続けて得物を振るった。
Anbarは近くにいるまだ無傷のスライムへと、クラッシュブロウの力をのせて斧を叩きつける。ミーニャもAnbarとほぼ同時に大斧をそのスライムへと振り下ろした。二人の刃により、緑のスライムは生命を絶たれ、跡形もなく消え去った。
クラリッサはファイアアローで一体のスライムを狙う。メルもシャドウブリットで追い討ちした。闇の弾が緑の軟体を抉り、撃破する。
「後もうちょっと、集中していきましょ!」
残るスライムはわずかだ。真夜はファイアアローを放ちながら仲間を鼓舞する声を発する。ベルテイルも同じようにファイアアローを敵陣へと放つ。真夜の言葉通り、精神を集中してマテリアルの力をより引き出すことを意識する。
ハンター達の活躍により、緑のスライムが遺跡内から消滅するのにはさほどの時間はかからなかった。
●
「お疲れ様、さて、帰ろっか」
スライムの全滅を見届け、宗一郎は言葉と共に真夜の頭を撫でる。
ハンター達は皆、もう敵がいないことを確認し、構えていた武器を下ろした。
「ご苦労さん。やはり、魔法が使える仲間が多いと助かるぜ! 次に又戦う機会があったら、宜しく頼むな」
ベルテイルをはじめとした仲間達に快活な声で話しかけるAnbar。
「またよろしくな! キミとはよかったよ」
隣で一緒に斧を振るっていたAnbarのことが特に気に入ったのか、ミーニャは彼の前で腕を挙げて拳を握る。そこにAnbarが己の拳を合わせた。
メルは仲間達にヒールを使用し、彼らの傷を癒して回る。幸い今回の戦いではそこまで大きく負傷したものはおらず、彼女の癒しの力と各々のマテリアルヒーリングの効果でハンター達は全快した。
ケンジも伸びをして仲間にお疲れさんとねぎらいの言葉をかける。次いで、ベルテイルへと顔を向けた。
「この実戦で何か掴めたかー?」
手ごたえを感じたらしいベルテイルは笑顔で頷いた。
「はい。これで何とか私もファイアボールが使えそう……あっ」
ハッとして口を塞ぐベルテイルであったが、もう遅い。ハンター達はピンときたらしい。観念したベルテイルは仲間達に、事の発端を話して聞かせた。
「子供らにファイアーボールを見せる? ……ははあ、なるほど。難儀しておるようじゃの」
彼女の生徒達と面識のあるエルディラの言葉には同情の念が込められていた。
「あー、解る。その、言った手前、退けなくなって……っていうの、解る」
宗一郎もベルテイルの気持ちが良く理解できるのか、一人頷いている。
(僕もマヤを前にやったこと何度かある……多分ばれてるけど)
真夜をちらちらと見ながら心の中で付け加える宗一郎。
そんな恋人達の隣で、エルディラはベルテイルへと付け加える。
「しかし嘘は感心せぬな。教える立場の者がそれでは、子供らに見栄を張るクセがついてしまう。おぬしは魔術師以前に教育者であろうが。態度を改めることを勧めるぞ」
「くっ……肝に銘じておきます……」
エルディラの言葉に反論の余地はないと思ったのか、存外素直に頷くベルテイル。実際、彼女が生徒達に対して見栄を張ってしまったことが、今回の原因であるのだからぐうの音も出ない。
「もし生徒さんが更に遥かに高度な魔法の見学を希望したら、どうされるんでしょう……」
メルが汗を一筋流しながらぽつりと漏らした呟きに、ベルテイルの顔が引きつったが、魔術の教師は「そ、その時考えます……」という答えを返すに留まった。
「ファイアーボールは確かに範囲攻撃ならではの派手な魔法じゃが、それ故に敵味方の識別も出来ない使いどころが難しい魔法じゃな。だからこそ追及のし甲斐があると言う物じゃがな」
先ほどベルテイルの目の前で実際にファイアーボールを使って見せたクラリッサがくすりと笑う。
「そうですね。私もそのことに気をつけつつ、精進していきたいですね」
スライムの一群を半壊させた火球の効果範囲を思い出し、ベルテイルは頷く。休み明け、子供達の前で実践する際に被害が及ばないように気をつけなければなるまい。
魔術の談義なども行いながら遺跡の入り口に戻ってきたハンター達。近くの街の転移門を用い、王都イルダーナへと帰還した。
ベルテイルは仲間達に礼を言うと、一人、王都の訓練場へと向かう。もちろんファイアーボールのスキルを修得するためである。今回の依頼を達成し、成長したことで、自分はきっと新しい炎の魔術を会得出来る。ベルテイルはそう確信していた。
●
翌日。教室にやってきたベルテイルを生徒達が取り囲んだ。
「待ってたぜ先生! 約束覚えてるよなー!?」
「見せてよファイアーボール!」
「はいはい、分かりました。ちゃんと見せてあげます」
先日とは違い、ベルテイルの口調と表情には自信が溢れていた。
生徒達を引き連れ、野外へと向かうベルテイル。
「それではいきますよ……?」
少年少女が見守る中、精神を集中するベルテイル。やがて、彼女の右手に大きな火の球が現れる。生徒達から歓声があがった。
「はっ!」
ベルテイルは火球を遠くへと放り投げる。それは着弾と共に爆発し、空間を赤い衝撃で染め上げた。
「すっげー!!」
「かっこいいーー!!」
「あたし、この学校に来てよかったー!」
「先生、本当にファイアーボール使えたんだなー!!」
果たしてこの時ほど、ベルテイルが子供達の尊敬の眼差しを受けたことがあっただろうか。ベルテイルは教師になってこの方一度も見せたことがなかったであろう、一点の曇りもない笑みを浮かべる。
「当然でしょう。私はこの街一番のマギステルなのですから」
口々に誉めそやす生徒達に囲まれ、ベルテイルは鼻高々にそう答えた。
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相談卓 Anbar(ka4037) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/06/13 21:33:26 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/11 00:20:51 |