ゲスト
(ka0000)
輝けアイドル!訓練兵グリューエリンの勧誘
マスター:旅硝子

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/13 12:00
- 完成日
- 2014/07/15 01:45
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ゾンネンシュトラール帝国第一師団兵営、帝国歌舞音曲部隊に与えられた一室。
CDデッキやスピーカー、何枚かのディスク、電力を供給するための手回し発電機などといった、クリムゾンウェストであればサルヴァトーレ・ロッソまで行かなければ手に入らないような非常に珍しい物品があちこちに置かれ、いかにもリアルブルーのアイドル文化を研究するにふさわしい雰囲気を作り出していた。――棚の上のアイドル少女のフィギュアが、異彩を放っているが。
ちなみに部隊員ならば自由に使用できることになっているが、全て部隊長クレーネウス・フェーデルバールの私物である。
休暇を使ってサルヴァトーレ・ロッソの立ち入り自由区域を訪れ、兵役で貯め込んだ貯金を惜しみなく放出して購入したものだ。
そんな室内を、物珍しげにきょろきょろ見回していた翠の瞳は、けれど今は困惑に揺れていた。
「……私が、ですか? 先日の研究交流会のような、人前で歌って踊る者……『あいどる』になれと仰いますの?」
「その通りだね」
部隊長クレーネウスは、ゆったりと椅子に身を沈める。執務机を挟んで向かい合うように座った少女は、ぎゅっと唇を引き結ぶ。
「仕事内容は、歌舞音曲による帝国軍の士気高揚、まぁつまり歌って踊って……戦場に出ることもあるから、自分の身を守るために戦ってももらうだろう。もちろん、単独で敵陣に放り出されるようなことはないだろうが。
君は今訓練兵、すなわち三等兵だけど、引き受けてくれるならば二等兵として、この帝国歌舞音曲部隊への採用となる。
……悪い話ではないと思うのだがね。グリューエリン・ヴァルファー君」
部屋の向こう側では、この話し合いにどう決着がつくのかと、部隊員達が事務に勤しむふりをしながら熱い視線を送っている。
けれどその視線にも気づかぬ様子でじっと考え込んでいた、グリューエリンと呼ばれた炎色の髪の少女は――首を横に振った。
「お断りいたしますわ、フェーデルバール兵長殿」
「ほう、何故だい?」
「私、この武に名高き帝国軍で、武名ではなく軟弱なる歌舞音曲の腕前によって地位を上げたいなどとは思いませんの」
部隊長の愛するアイドル文化を『軟弱』と評したグリューエリンの一言に、さっと部屋に緊張が走る。
ぎゅっ、とグリューエリンが、膝の上に置いた拳を握りしめた。唇が僅かに震え、引き締められる。
けれど、微笑を浮かべた表情を、部隊長クレーネウスは動かさなかった。
「ふむ。……君の気持ちは分かった。もう戻って構わないよ、グリューエリン君」
「ご理解いただきまして、感謝いたしますわ」
立ち上がり、敬礼。そして固い動きのまま、グリューエリンは部屋を後にする。
ばたん、とドアの閉まる音。
「んー、駄目かー駄目なのかー!」
「駄目でしたねー」
「あー部隊長怒るかと思ってびびりましたよー」
悔しげに叫ぶクレーネウスに、部隊員達が力の抜けた声をかける。
「いけると思ったんだがなー。こないだの研究交流会で結構楽しんでたみたいだったしさー」
「でもこれは、これ以上部隊長が推しても難しそうですねぇ」
「そうそう俺が……ん?」
何か思いついたように、クレーネウスは目を見開く。
そして、ぽんと手を叩いた。
「そうか、俺じゃなければいけるかもしれない」
自らハンターズソサエティに赴いたクレーネウスは、依頼の募集に集まったハンター達に説明を終え、満面の笑みを向けた。
「というわけで、帝国軍訓練兵のグリューエリン・ヴァルファーを、我が部隊のアイドルとなるよう勧誘してもらいたい」
はっきり言ってしまえば、丸投げであった。
「でも、1回断られているんでしょう?」
「だからだよ。俺がもう1回勧誘してもしつこいだけだろうし、ハンターならではの説得の切り口があるかもしれないじゃないか」
「別の人じゃ駄目なんですか?」
至極当然のその問いに、クレーネウスはそうだねと頷く。
「もちろん、引き受けてくれる人間を探すのは可能だろう。けど、アイドルの素質において、彼女に勝る者がいるとは俺には思えない。グリューエリン・ヴァルファーは非常に可愛らしいし、声も結構いいと思う。それに上官の話だと何事にも熱心に取り組む性格らしいし――野心もある」
「野心?」
首を傾げたハンターに頷いて、クレーネウスは抱えていたファイルを開いた。
その一番最初に挟んである、炎色の髪に翠の瞳を持つ美しい少女の似顔絵を見せながら、クレーネウスは口を開く。
「グリューエリン・ヴァルファー、14歳。帝国軍の訓練兵。彼女の出自であるヴァルファー家は、元々旧帝国の貴族だ」
「旧帝国ということは、革命前の?」
「そう。ヴァルファー家当主、グリューエリンの父親は、反乱を起こした先代皇帝に従っており、旧帝国の者達からは裏切り者と呼ばれている。……が、そのヴァルファー家当主は、戦場での敵前逃亡の罪を得て、今は強制労働に駆り出されているんだ」
旧帝国から見れば、許しがたい裏切り者。
新帝国から見れば、敵を前に逃げた臆病者。
それが、グリューエリンが生まれたヴァルファー家の評価だ。
「1年ほど前、13歳の成人前にして軍に志願したグリューエリンは、面接のときに『家名復興が私の目的です』と言ったそうだ。ただ生活の糧を求めて軍に入った人間を否定するわけじゃないけれど、アイドルとして名を上げていくには強い野心が欲しいからね」
そう言って目を細めてから、多少真剣な表情になってクレーネストはファイルを閉じ、ハンター達に向き直る。
「だけど、意志が強いだけに、俺が同じように説得しても承諾してくれるとは思えない。だから、皆の知恵と力を借りたいんだ」
よろしくお願いします、と、クレーネウスは深く頭を下げた。
――帝国軍訓練兵舎の一室。
「迫る闇を切り払え、我らの歌を剣に乗せて……」
小さな声で少女が歌うのは、あのアイドル文化研究交流会でハンター達が歌った曲の1つ。
服も着替えぬまま、枕を腕に抱えてベッドにうつ伏せになった少女の炎色の髪が、波打つように広がる。
「……いけませんわ。私、父とは違うのです。武を捨てて逃げた父とは違うのですから」
――私が武に背を向けて、違う道を歩むわけにはいかないのです――!
ぽふん、と枕に顔をうずめて。
そのまま、何かを振り切るかのように、グリューエリンは首を強く振った。
CDデッキやスピーカー、何枚かのディスク、電力を供給するための手回し発電機などといった、クリムゾンウェストであればサルヴァトーレ・ロッソまで行かなければ手に入らないような非常に珍しい物品があちこちに置かれ、いかにもリアルブルーのアイドル文化を研究するにふさわしい雰囲気を作り出していた。――棚の上のアイドル少女のフィギュアが、異彩を放っているが。
ちなみに部隊員ならば自由に使用できることになっているが、全て部隊長クレーネウス・フェーデルバールの私物である。
休暇を使ってサルヴァトーレ・ロッソの立ち入り自由区域を訪れ、兵役で貯め込んだ貯金を惜しみなく放出して購入したものだ。
そんな室内を、物珍しげにきょろきょろ見回していた翠の瞳は、けれど今は困惑に揺れていた。
「……私が、ですか? 先日の研究交流会のような、人前で歌って踊る者……『あいどる』になれと仰いますの?」
「その通りだね」
部隊長クレーネウスは、ゆったりと椅子に身を沈める。執務机を挟んで向かい合うように座った少女は、ぎゅっと唇を引き結ぶ。
「仕事内容は、歌舞音曲による帝国軍の士気高揚、まぁつまり歌って踊って……戦場に出ることもあるから、自分の身を守るために戦ってももらうだろう。もちろん、単独で敵陣に放り出されるようなことはないだろうが。
君は今訓練兵、すなわち三等兵だけど、引き受けてくれるならば二等兵として、この帝国歌舞音曲部隊への採用となる。
……悪い話ではないと思うのだがね。グリューエリン・ヴァルファー君」
部屋の向こう側では、この話し合いにどう決着がつくのかと、部隊員達が事務に勤しむふりをしながら熱い視線を送っている。
けれどその視線にも気づかぬ様子でじっと考え込んでいた、グリューエリンと呼ばれた炎色の髪の少女は――首を横に振った。
「お断りいたしますわ、フェーデルバール兵長殿」
「ほう、何故だい?」
「私、この武に名高き帝国軍で、武名ではなく軟弱なる歌舞音曲の腕前によって地位を上げたいなどとは思いませんの」
部隊長の愛するアイドル文化を『軟弱』と評したグリューエリンの一言に、さっと部屋に緊張が走る。
ぎゅっ、とグリューエリンが、膝の上に置いた拳を握りしめた。唇が僅かに震え、引き締められる。
けれど、微笑を浮かべた表情を、部隊長クレーネウスは動かさなかった。
「ふむ。……君の気持ちは分かった。もう戻って構わないよ、グリューエリン君」
「ご理解いただきまして、感謝いたしますわ」
立ち上がり、敬礼。そして固い動きのまま、グリューエリンは部屋を後にする。
ばたん、とドアの閉まる音。
「んー、駄目かー駄目なのかー!」
「駄目でしたねー」
「あー部隊長怒るかと思ってびびりましたよー」
悔しげに叫ぶクレーネウスに、部隊員達が力の抜けた声をかける。
「いけると思ったんだがなー。こないだの研究交流会で結構楽しんでたみたいだったしさー」
「でもこれは、これ以上部隊長が推しても難しそうですねぇ」
「そうそう俺が……ん?」
何か思いついたように、クレーネウスは目を見開く。
そして、ぽんと手を叩いた。
「そうか、俺じゃなければいけるかもしれない」
自らハンターズソサエティに赴いたクレーネウスは、依頼の募集に集まったハンター達に説明を終え、満面の笑みを向けた。
「というわけで、帝国軍訓練兵のグリューエリン・ヴァルファーを、我が部隊のアイドルとなるよう勧誘してもらいたい」
はっきり言ってしまえば、丸投げであった。
「でも、1回断られているんでしょう?」
「だからだよ。俺がもう1回勧誘してもしつこいだけだろうし、ハンターならではの説得の切り口があるかもしれないじゃないか」
「別の人じゃ駄目なんですか?」
至極当然のその問いに、クレーネウスはそうだねと頷く。
「もちろん、引き受けてくれる人間を探すのは可能だろう。けど、アイドルの素質において、彼女に勝る者がいるとは俺には思えない。グリューエリン・ヴァルファーは非常に可愛らしいし、声も結構いいと思う。それに上官の話だと何事にも熱心に取り組む性格らしいし――野心もある」
「野心?」
首を傾げたハンターに頷いて、クレーネウスは抱えていたファイルを開いた。
その一番最初に挟んである、炎色の髪に翠の瞳を持つ美しい少女の似顔絵を見せながら、クレーネウスは口を開く。
「グリューエリン・ヴァルファー、14歳。帝国軍の訓練兵。彼女の出自であるヴァルファー家は、元々旧帝国の貴族だ」
「旧帝国ということは、革命前の?」
「そう。ヴァルファー家当主、グリューエリンの父親は、反乱を起こした先代皇帝に従っており、旧帝国の者達からは裏切り者と呼ばれている。……が、そのヴァルファー家当主は、戦場での敵前逃亡の罪を得て、今は強制労働に駆り出されているんだ」
旧帝国から見れば、許しがたい裏切り者。
新帝国から見れば、敵を前に逃げた臆病者。
それが、グリューエリンが生まれたヴァルファー家の評価だ。
「1年ほど前、13歳の成人前にして軍に志願したグリューエリンは、面接のときに『家名復興が私の目的です』と言ったそうだ。ただ生活の糧を求めて軍に入った人間を否定するわけじゃないけれど、アイドルとして名を上げていくには強い野心が欲しいからね」
そう言って目を細めてから、多少真剣な表情になってクレーネストはファイルを閉じ、ハンター達に向き直る。
「だけど、意志が強いだけに、俺が同じように説得しても承諾してくれるとは思えない。だから、皆の知恵と力を借りたいんだ」
よろしくお願いします、と、クレーネウスは深く頭を下げた。
――帝国軍訓練兵舎の一室。
「迫る闇を切り払え、我らの歌を剣に乗せて……」
小さな声で少女が歌うのは、あのアイドル文化研究交流会でハンター達が歌った曲の1つ。
服も着替えぬまま、枕を腕に抱えてベッドにうつ伏せになった少女の炎色の髪が、波打つように広がる。
「……いけませんわ。私、父とは違うのです。武を捨てて逃げた父とは違うのですから」
――私が武に背を向けて、違う道を歩むわけにはいかないのです――!
ぽふん、と枕に顔をうずめて。
そのまま、何かを振り切るかのように、グリューエリンは首を強く振った。
リプレイ本文
「アイドルへの勧誘、ですか」
アナスタシア・B・ボードレール(ka0125)がぽつりと呟く。
(発足すれば得、ですね。私の望みにもかないそうです)
表情を変えぬまま、アナスタシアはそう考えを巡らせる。
「出来れば彼女と色々なお話が出来たら良いんだけど……」
そう言いながら彼女の部屋の前まで来た陽炎(ka0142)が、はっと目を見開く。
扉の向こうから聞こえてきた歌は、彼が歌ったものだったのだから。
「今聞こえた歌、聞き間違いじゃないよね? うん、嬉しいな!」
そうぱぁっと笑った陽炎は――次の瞬間、破らんばかりの勢いで扉を開く!
思わず硬直するアナスタシア。
「悪いがその歌聞かせてもらったぁ!!」
「く、曲者!?」
慌てて剣を引っ掴むグリューエリンに、慌てて陽炎は飛びすざる。
「あ、いやそういう意味じゃなくてぐふっ!」
すっぱーん、といい音と共に、陽炎が前につんのめる。
「陽炎様。女性の部屋で何をなさっているのですか。落ち着いてください」
「はひ……あっ、さっき歌ってた歌、僕が作ったんだ」
ハリセンでアナスタシアに叩かれた陽炎が、ぱっと顔を上げる。
「え……あ、もしかして先日の……?」
「そう! もしかして、この前のイベントで聞いててくれたの?」
穏やかだけど熱のこもった口調で語りかける陽炎に、グリューエリンは毒気を抜かれた様子で頷く。
「あ、ええ。まぁ……そうですわ」
「嬉しいな、ありがとう!」
その礼にきょとんと目を瞬かせたグリューエリンは、慌てて視線を逸らした。
「お、お礼などいりませんわ。偶然、耳に残っていただけですもの、ええ。……素敵な歌ですけれど」
その素直ではない賛辞に、陽炎はぱっと笑みを深めて。
「ありがとう。歌ってね、どんな時でも、誰にでも味方してくれるんだ。武芸を学ばない人たちも、勝利への祈りとか、大好きな人たちの無事を祈ったりとか、それを形にしてくれる」
グリューエリンは、黙って陽炎の言葉に耳を傾けていた。
「僕は勝手に一族を抜けた親父の代わりに、皆を率いる立場にいるんだけど……これがまぁ、皆アクは強いし僕より俄然頼りになるしで」
困ったように、照れたように笑ってから、でも、と表情を引き締めて。
「想いの強さなら誰にも負けない、負けたくないって思ってる。想いがあるなら、全力で届けなきゃ」
「それが……届ける手段が、あなたの場合は歌、ということですの?」
その通りだと、陽炎は頷いた。想いを持つ者の、伝える者の誇りを宿して。
「……ところで、あなたは……」
陽炎の言葉に考え込んでいたグリューエリンが、アナスタシアへと向き直る。
「アナスタシアと申します……お分かり頂けるように言うのなら」
そこで彼女はさっと荷物を引っ掴む――そして!
目にもとまらぬ!
早着替え!
「ピュアアルケミーのピュア蒼ですっ☆ よろしくっ!」
「よ、よろしく……お願いします……あなたも、あの時の……」
「見ててくれたんですねー♪ ありがとー!」
「あ、はい」
あっという間にアイドルへと変身を遂げたアナスタシア改めピュア蒼に、グリューエリンは瞬きを繰り返すばかり。
そんな彼女の手を、がしっと掴んで。
「部屋にいても気詰まりしちゃうよ☆ さぁ、外に飛びだしましょう!」
「え、え!? ちょ、ちょっとお待ちになりまして!?」
慌てた様子のグリューエリンは、けれど抵抗しない辺り嫌がってはいないのだろう。
手をつないだまま、ピュア蒼はグリューエリンと共に街へと駆け出した。
あの日音楽が鳴り響いた中央広場で、歌声を響かせながらグリューエリンを迎えたのはベアトリス・ド・アヴェーヌ(ka0458)。
「……お好きですの? ……歌うこと」
そう問いかけたグリューエリンに、ベアトリスはゆるりと微笑んで。
「歌は好きですわよ? 洗練された技法を以って存分に己の声を響かせるのは気分が良いですし、それを他者に聞かせるのも好む所です」
「……音楽も、磨き上げ魅せることができるということでしょうか」
思いのほか素直なグリューエリンの態度に、ベアトリスは穏やかに微笑み口を開く。
「皇帝自らアイドルの件を支持していることからも、帝国も決して武のみに囚われていないことはわかります。逆に、今の貴方は何かに囚われ、頑なに視野を閉ざそうとしているように見えますね」
「……目指すものがあるのは、視野が狭いということかしら」
グリューエリンの真っ直ぐな問いに、ベアトリスは軽く首を傾げて。
「目指す方法がいろいろあることを知らないと、道も閉ざされてしまいますわ。道を選ぶのも大切ですが、本当にその人物の価値を決めるのはそれぞれの道をどう生きるかよ」
考え込む様子のグリューエリンと、ベアトリスは目を合わせて。
「例えばどんな危険な時でも、兵士と共にあって彼等を鼓舞しようとするアイドルは軟弱といえるかしら?」
「それは……いえ。勇敢な行為と思います」
意を得たり、というように、ベアトリスが笑む。
「兵として、あるいはアイドルとして生きて自分がどうなれるか、なりたいか、周囲に何を与えてゆけるのか。折角の機会なのです、そういったものを考えてみるのは視野を広げる良い機会ですし、どの道を選ぶにせよ糧となるはずですわ」
「糧となる……ならば、考えてみなければいけませんわね」
その言葉に微笑みと共に頷いたベアトリスは、気が向けば芸でも武でも訓練に付き合いますわ、と申し出て。
再び、歌声を広場に響かせた。
「……フェーデルバール兵長殿からのご依頼ですか」
「うん? ……そうだよっ☆」
あっさり肯定するピュア蒼に、グリューエリンは肩を竦めて。
「やっぱり。私のこと、知りすぎていると思いましたわ」
「そういうの、嫌だったかな?」
少し心配そうに尋ねたピュア蒼に、慌ててグリューエリンは首を振る。
「じゃ、次にいこっか♪」
桃色と炎色の髪をなびかせて、少女達は足を速めた。
「アイドル……音曲部隊への勧誘ですね。聞く所によると中々大変なようですが」
アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)は小さく首を傾げる。グリューエリン周辺の人々から聞いていた人となりを、思い出しながら。
稽古には非常に熱心。頑固ではあるが、理を以って説けば話を聞く姿勢はある。
けれど、他の人間と必要以上に仲良くはしないという。
そう聞いていたアデリシアは、ピュア蒼と手を繋いで駆けてくるグリューエリンの姿に、幾分驚いた。
もしかしたら――彼女は仲良くしたくなかったのではなく、誰かと仲良くする方法や楽しみを知らなかっただけなのかもしれない。
「こんにちは、大丈夫ですか?」
「ええ……ふぅ、こんにちは。初めまして、ですかしら?」
荒い息を整えて首を傾げたグリューエリンに、アデリシアは頷いて。
「私は、戦神の神官アデリシアと申します。……見たところ、何か悩みがあるご様子ですが」
じっとアデリシアを見つめる翠の瞳に、笑みを返して。
「如何でしょう。私……ではなく戦神に向けて告白してみませんか? 他の方に聞かれて差し障りがあるなら他所に移っても構いませんし」
ぱちりと瞳を瞬かせたグリューエリンに、アデリシアは言葉を重ねる。
「戦いに赴く方の告白、我が戦神も決して無下には扱わないでしょう。その上で、私でよろしければ相談に乗りますが、どうでしょうか?」
「ええ、お願いいたしますわ。私は、今……1人の考えでは、答えが出せそうにないのですもの」
そう言ったグリューエリンの背を、ぽんとピュア蒼が押した。
「……視野が閉ざされている、と言われたのですわ」
そう、グリューエリンは言った。アイドルへと勧誘された話をした、その後のことである。
「私は、目指すものがあるあまり、他にも大切なことを見落としているのか。そう思うと……怖くなったのですわ」
「怖くなった、ですか」
「ええ。それは、必要なものだったのかもしれない、と」
ふわり、とグリューエリンの髪が風に揺れる。苛烈な、けれど何を焼くのかも知らぬ炎のように。
それを見つめながら、アデリシアは悩みに応えようと口を開く。
「迷いが有るなら、心がほんの少しでも先に振れた方に進んでみることです。間違えてもやり直せばいい、簡単ですよ」
それに、はっとグリューエリンは目を見開いた。
「やり直せる、ものなのでしょうか?」
「ええ、何度でも。心が、満足するまで」
黙って考え込むグリューエリンに、アデリシアはさらに言葉を重ねて。
「そして……剣を握る力が無くても、人は生きるために戦わなければなりません。そして、そういう方にこそ剣以外の力が必要なのです」
「……剣以外の、力」
繰り返して呟いたグリューエリンに、アデリシアは力強く頷いて。
「貴女に戦神の加護があらんことを」
そっと、祈りの形に手を組み合わせた。
「あぁ……そういえば、先日のイベントも確か軍の……」
先日の研究交流会を見に行っていたこなゆき(ka0960)は、同席するピュア蒼とグリューエリンに幸せそうに語る。
「初めて聴き、目にする舞台が目白押しで、それはもう、至福のひと時を堪能させて頂きました」
彼女は心から音楽を愛すると同時に、グリューエリンのことが心配でもあった。
(家名復興……ですか。彼女にとっては大事な事なのでしょうけれど、だからと言って、その為だけに生きるのは寂しいのです)
彼女に、歌を楽しめるような余裕を持ってほしい。それが、こなゆきの願い。
「貴女もあそこにいらしてたのですね。気に入ったものはありましたか?」
「ええ。……いくつもありすぎて、どれが、と言われると困ってしまいますけれど」
「どれも素敵ですわ。私は……」
そっとこなゆきは横笛に唇を当て、あのとき演奏された曲を奏でてみせる。ピュア蒼が楽しげに、グリューエリンが控えめに、歌声を合わせて。
「同じ歌を聴いていたというのは、素敵なものですね」
ふわりと嬉しげに微笑んだこなゆきは、やがて歌にまつわる旅の逸話をいろいろと話していく。
部族の勇者として認められた者こそが、そこでは『歌い手』に選ばれるのだという辺境の話なども。
「歌には娯楽の他に、戦や狩りに際しての祭祀的な面もありますから、皆から認められた者でないと務まらないのでしょうね」
「……人が認めるから、歌うことが出来る、のですわね」
その通りですね、とこなゆきは微笑んで――とりとめもない話を、表情を和ませて続けるのだった。
「アナスタシア様は」
「ピュア蒼だよっ☆」
「……ピュア蒼様は」
再び手を繋いで走りながら、グリューエリンはピュア蒼に尋ねる。
「どうして、アイドルをしていらっしゃるのですか?」
その問いに、ピュア蒼はくるりと振り向いて真剣な顔になる。
「アイドルは夢を届ける仕事、ではその報酬はなんでしょう?」
しばらく考えて首を横に振ったグリューエリンに、ぱちんとウィンク。
「じゃあ答えは、最後の勧誘の後で!」
俊敏さを生かした舞の中、蘇芳 和馬(ka0462)は炎色の髪の少女に目を留める。
(……ヴァルファーの説得か。話を聞く限り、随分と視野が狭いようだ。何とか出来ればよいのだが)
アイドル文化研究交流会が行われていた、広場の片隅であった。
帝国では珍しい美しい舞に、集まる人垣の中でグリューエリンがじっと翠の瞳を向けている。
す、と最後の動作を終えれば、わっと手拍子が沸き起こった。
「……そこの兵士の方」
その中で、和馬はグリューエリンに声をかける。
「……私ですの?」
「ああ。最近腕が鈍っていてな。もし良かったら気分転換に模擬戦などどうだ?」
その言葉に、わっと観衆がさらに沸く。
「ええ、承りますわ」
グリューエリンも頷いて、二振りの剣を腰から抜く。
「――始め!」
ピュア蒼の合図で、2人が動き出す。
グリューエリンの剣は、真っ直ぐだった。2本の剣を交互に攻撃に使い、真っ直ぐに攻め寄せる。
それを和馬は、先ほどの舞のように拍子を取りながら、円状に回り込むように様子を見――やがて剣の間を縫うようにすっと踏み込み、マテリアルを行き渡らせた刀でキンと剣を跳ね飛ばす。
「……これで勝ちのようだな」
「ええ……ありがとうございました」
しばらく瞠目したグリューエリンは深く頭を下げ、剣を拾い納める。
渡されたタオルも、素直に受け取って。
「……私の居た国では、『武は舞に通ず、また舞は武に通ず』という言葉がある。芸に優れたる者ほど、武にも優れている」
そう話し出した和馬に、グリューエリンは問うた。
「けれど、どちらかに注力すれば、それは当てはまらなくはなりませんこと?」
「要は常にどんな意識を持ち、事に臨むかと言う事だ」
意識を、とグリューエリンは小さく呟いた。
「……あなたの事は噂で聞いている。上司の話を蹴ったそうだな」
「……そうですわ」
「……私とは価値観が違うため、参考までに聞いて欲しい」
グリューエリンが頷くのを確かめ、和馬はゆっくりと話し出す。
「……もしアイドルとなれば、名が売れ、上官の目に留まり易くなるだろう。それで武にも優れているとなれば、他の者より武勲を得る機会は巡ってくる。それこそ家名復興の機械が増える程に、な」
「そう、かもしれませんわね」
「機会があるのであれば、ある内に掴み取った方が良いと思うが? ……この機会を棒に振るかはあなたの心持ち次第だ」
良く考えてみると良い、と、和馬はそう言って静かに口を閉じる。
「……ありがとうございます。確かに、私は視野が狭いようですわ」
皆さんの目はよく見えますのね、とグリューエリンは小さく息を吐きながら、呟いて。
「さっきの答え、ですけれど」
そんなグリューエリンに、アナスタシアが声をかける。
「私はその名誉と考えます。その為、ですね」
「名誉……ですか」
ふっ、とグリューエリンは息を吐いて。
「今日は、ありがとうございます。私……」
アナスタシアの瞳をまっすぐに見つめて、グリューエリンは微笑む。
「アイドル、やってみますわ」
「その言葉を待っていた」
ああやっぱり、とアナスタシアは振り向く。
「フェーデルバール兵長!?」
グリューエリンの方は心底驚いた様子で。
「今日からは部隊長、だ」
「……そうですわね、部隊長」
にっこりと笑んで、クレーネウスはグリューエリンに手を差し出す。
「これから、よろしく頼む」
「ええ、ご指導ご鞭撻、お願いいたします」
握手を交わしながら、ぱちんとクレーネウスはアナスタシアにウィンクを送る。
「まぁ、指導とかは主に俺の役目じゃないけどな」
「え?」
作詞などでアイドル部隊に協力できないかと申し出た陽炎に、あっさりとクレーネウスは言ったものである。
「ああうんむしろこちらから頼みたい。何せノウハウがないからねはっはっは」
――グリューエリンを迎えたアイドル部隊とハンター達。
これからも長い付き合いになりそうである。
アナスタシア・B・ボードレール(ka0125)がぽつりと呟く。
(発足すれば得、ですね。私の望みにもかないそうです)
表情を変えぬまま、アナスタシアはそう考えを巡らせる。
「出来れば彼女と色々なお話が出来たら良いんだけど……」
そう言いながら彼女の部屋の前まで来た陽炎(ka0142)が、はっと目を見開く。
扉の向こうから聞こえてきた歌は、彼が歌ったものだったのだから。
「今聞こえた歌、聞き間違いじゃないよね? うん、嬉しいな!」
そうぱぁっと笑った陽炎は――次の瞬間、破らんばかりの勢いで扉を開く!
思わず硬直するアナスタシア。
「悪いがその歌聞かせてもらったぁ!!」
「く、曲者!?」
慌てて剣を引っ掴むグリューエリンに、慌てて陽炎は飛びすざる。
「あ、いやそういう意味じゃなくてぐふっ!」
すっぱーん、といい音と共に、陽炎が前につんのめる。
「陽炎様。女性の部屋で何をなさっているのですか。落ち着いてください」
「はひ……あっ、さっき歌ってた歌、僕が作ったんだ」
ハリセンでアナスタシアに叩かれた陽炎が、ぱっと顔を上げる。
「え……あ、もしかして先日の……?」
「そう! もしかして、この前のイベントで聞いててくれたの?」
穏やかだけど熱のこもった口調で語りかける陽炎に、グリューエリンは毒気を抜かれた様子で頷く。
「あ、ええ。まぁ……そうですわ」
「嬉しいな、ありがとう!」
その礼にきょとんと目を瞬かせたグリューエリンは、慌てて視線を逸らした。
「お、お礼などいりませんわ。偶然、耳に残っていただけですもの、ええ。……素敵な歌ですけれど」
その素直ではない賛辞に、陽炎はぱっと笑みを深めて。
「ありがとう。歌ってね、どんな時でも、誰にでも味方してくれるんだ。武芸を学ばない人たちも、勝利への祈りとか、大好きな人たちの無事を祈ったりとか、それを形にしてくれる」
グリューエリンは、黙って陽炎の言葉に耳を傾けていた。
「僕は勝手に一族を抜けた親父の代わりに、皆を率いる立場にいるんだけど……これがまぁ、皆アクは強いし僕より俄然頼りになるしで」
困ったように、照れたように笑ってから、でも、と表情を引き締めて。
「想いの強さなら誰にも負けない、負けたくないって思ってる。想いがあるなら、全力で届けなきゃ」
「それが……届ける手段が、あなたの場合は歌、ということですの?」
その通りだと、陽炎は頷いた。想いを持つ者の、伝える者の誇りを宿して。
「……ところで、あなたは……」
陽炎の言葉に考え込んでいたグリューエリンが、アナスタシアへと向き直る。
「アナスタシアと申します……お分かり頂けるように言うのなら」
そこで彼女はさっと荷物を引っ掴む――そして!
目にもとまらぬ!
早着替え!
「ピュアアルケミーのピュア蒼ですっ☆ よろしくっ!」
「よ、よろしく……お願いします……あなたも、あの時の……」
「見ててくれたんですねー♪ ありがとー!」
「あ、はい」
あっという間にアイドルへと変身を遂げたアナスタシア改めピュア蒼に、グリューエリンは瞬きを繰り返すばかり。
そんな彼女の手を、がしっと掴んで。
「部屋にいても気詰まりしちゃうよ☆ さぁ、外に飛びだしましょう!」
「え、え!? ちょ、ちょっとお待ちになりまして!?」
慌てた様子のグリューエリンは、けれど抵抗しない辺り嫌がってはいないのだろう。
手をつないだまま、ピュア蒼はグリューエリンと共に街へと駆け出した。
あの日音楽が鳴り響いた中央広場で、歌声を響かせながらグリューエリンを迎えたのはベアトリス・ド・アヴェーヌ(ka0458)。
「……お好きですの? ……歌うこと」
そう問いかけたグリューエリンに、ベアトリスはゆるりと微笑んで。
「歌は好きですわよ? 洗練された技法を以って存分に己の声を響かせるのは気分が良いですし、それを他者に聞かせるのも好む所です」
「……音楽も、磨き上げ魅せることができるということでしょうか」
思いのほか素直なグリューエリンの態度に、ベアトリスは穏やかに微笑み口を開く。
「皇帝自らアイドルの件を支持していることからも、帝国も決して武のみに囚われていないことはわかります。逆に、今の貴方は何かに囚われ、頑なに視野を閉ざそうとしているように見えますね」
「……目指すものがあるのは、視野が狭いということかしら」
グリューエリンの真っ直ぐな問いに、ベアトリスは軽く首を傾げて。
「目指す方法がいろいろあることを知らないと、道も閉ざされてしまいますわ。道を選ぶのも大切ですが、本当にその人物の価値を決めるのはそれぞれの道をどう生きるかよ」
考え込む様子のグリューエリンと、ベアトリスは目を合わせて。
「例えばどんな危険な時でも、兵士と共にあって彼等を鼓舞しようとするアイドルは軟弱といえるかしら?」
「それは……いえ。勇敢な行為と思います」
意を得たり、というように、ベアトリスが笑む。
「兵として、あるいはアイドルとして生きて自分がどうなれるか、なりたいか、周囲に何を与えてゆけるのか。折角の機会なのです、そういったものを考えてみるのは視野を広げる良い機会ですし、どの道を選ぶにせよ糧となるはずですわ」
「糧となる……ならば、考えてみなければいけませんわね」
その言葉に微笑みと共に頷いたベアトリスは、気が向けば芸でも武でも訓練に付き合いますわ、と申し出て。
再び、歌声を広場に響かせた。
「……フェーデルバール兵長殿からのご依頼ですか」
「うん? ……そうだよっ☆」
あっさり肯定するピュア蒼に、グリューエリンは肩を竦めて。
「やっぱり。私のこと、知りすぎていると思いましたわ」
「そういうの、嫌だったかな?」
少し心配そうに尋ねたピュア蒼に、慌ててグリューエリンは首を振る。
「じゃ、次にいこっか♪」
桃色と炎色の髪をなびかせて、少女達は足を速めた。
「アイドル……音曲部隊への勧誘ですね。聞く所によると中々大変なようですが」
アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)は小さく首を傾げる。グリューエリン周辺の人々から聞いていた人となりを、思い出しながら。
稽古には非常に熱心。頑固ではあるが、理を以って説けば話を聞く姿勢はある。
けれど、他の人間と必要以上に仲良くはしないという。
そう聞いていたアデリシアは、ピュア蒼と手を繋いで駆けてくるグリューエリンの姿に、幾分驚いた。
もしかしたら――彼女は仲良くしたくなかったのではなく、誰かと仲良くする方法や楽しみを知らなかっただけなのかもしれない。
「こんにちは、大丈夫ですか?」
「ええ……ふぅ、こんにちは。初めまして、ですかしら?」
荒い息を整えて首を傾げたグリューエリンに、アデリシアは頷いて。
「私は、戦神の神官アデリシアと申します。……見たところ、何か悩みがあるご様子ですが」
じっとアデリシアを見つめる翠の瞳に、笑みを返して。
「如何でしょう。私……ではなく戦神に向けて告白してみませんか? 他の方に聞かれて差し障りがあるなら他所に移っても構いませんし」
ぱちりと瞳を瞬かせたグリューエリンに、アデリシアは言葉を重ねる。
「戦いに赴く方の告白、我が戦神も決して無下には扱わないでしょう。その上で、私でよろしければ相談に乗りますが、どうでしょうか?」
「ええ、お願いいたしますわ。私は、今……1人の考えでは、答えが出せそうにないのですもの」
そう言ったグリューエリンの背を、ぽんとピュア蒼が押した。
「……視野が閉ざされている、と言われたのですわ」
そう、グリューエリンは言った。アイドルへと勧誘された話をした、その後のことである。
「私は、目指すものがあるあまり、他にも大切なことを見落としているのか。そう思うと……怖くなったのですわ」
「怖くなった、ですか」
「ええ。それは、必要なものだったのかもしれない、と」
ふわり、とグリューエリンの髪が風に揺れる。苛烈な、けれど何を焼くのかも知らぬ炎のように。
それを見つめながら、アデリシアは悩みに応えようと口を開く。
「迷いが有るなら、心がほんの少しでも先に振れた方に進んでみることです。間違えてもやり直せばいい、簡単ですよ」
それに、はっとグリューエリンは目を見開いた。
「やり直せる、ものなのでしょうか?」
「ええ、何度でも。心が、満足するまで」
黙って考え込むグリューエリンに、アデリシアはさらに言葉を重ねて。
「そして……剣を握る力が無くても、人は生きるために戦わなければなりません。そして、そういう方にこそ剣以外の力が必要なのです」
「……剣以外の、力」
繰り返して呟いたグリューエリンに、アデリシアは力強く頷いて。
「貴女に戦神の加護があらんことを」
そっと、祈りの形に手を組み合わせた。
「あぁ……そういえば、先日のイベントも確か軍の……」
先日の研究交流会を見に行っていたこなゆき(ka0960)は、同席するピュア蒼とグリューエリンに幸せそうに語る。
「初めて聴き、目にする舞台が目白押しで、それはもう、至福のひと時を堪能させて頂きました」
彼女は心から音楽を愛すると同時に、グリューエリンのことが心配でもあった。
(家名復興……ですか。彼女にとっては大事な事なのでしょうけれど、だからと言って、その為だけに生きるのは寂しいのです)
彼女に、歌を楽しめるような余裕を持ってほしい。それが、こなゆきの願い。
「貴女もあそこにいらしてたのですね。気に入ったものはありましたか?」
「ええ。……いくつもありすぎて、どれが、と言われると困ってしまいますけれど」
「どれも素敵ですわ。私は……」
そっとこなゆきは横笛に唇を当て、あのとき演奏された曲を奏でてみせる。ピュア蒼が楽しげに、グリューエリンが控えめに、歌声を合わせて。
「同じ歌を聴いていたというのは、素敵なものですね」
ふわりと嬉しげに微笑んだこなゆきは、やがて歌にまつわる旅の逸話をいろいろと話していく。
部族の勇者として認められた者こそが、そこでは『歌い手』に選ばれるのだという辺境の話なども。
「歌には娯楽の他に、戦や狩りに際しての祭祀的な面もありますから、皆から認められた者でないと務まらないのでしょうね」
「……人が認めるから、歌うことが出来る、のですわね」
その通りですね、とこなゆきは微笑んで――とりとめもない話を、表情を和ませて続けるのだった。
「アナスタシア様は」
「ピュア蒼だよっ☆」
「……ピュア蒼様は」
再び手を繋いで走りながら、グリューエリンはピュア蒼に尋ねる。
「どうして、アイドルをしていらっしゃるのですか?」
その問いに、ピュア蒼はくるりと振り向いて真剣な顔になる。
「アイドルは夢を届ける仕事、ではその報酬はなんでしょう?」
しばらく考えて首を横に振ったグリューエリンに、ぱちんとウィンク。
「じゃあ答えは、最後の勧誘の後で!」
俊敏さを生かした舞の中、蘇芳 和馬(ka0462)は炎色の髪の少女に目を留める。
(……ヴァルファーの説得か。話を聞く限り、随分と視野が狭いようだ。何とか出来ればよいのだが)
アイドル文化研究交流会が行われていた、広場の片隅であった。
帝国では珍しい美しい舞に、集まる人垣の中でグリューエリンがじっと翠の瞳を向けている。
す、と最後の動作を終えれば、わっと手拍子が沸き起こった。
「……そこの兵士の方」
その中で、和馬はグリューエリンに声をかける。
「……私ですの?」
「ああ。最近腕が鈍っていてな。もし良かったら気分転換に模擬戦などどうだ?」
その言葉に、わっと観衆がさらに沸く。
「ええ、承りますわ」
グリューエリンも頷いて、二振りの剣を腰から抜く。
「――始め!」
ピュア蒼の合図で、2人が動き出す。
グリューエリンの剣は、真っ直ぐだった。2本の剣を交互に攻撃に使い、真っ直ぐに攻め寄せる。
それを和馬は、先ほどの舞のように拍子を取りながら、円状に回り込むように様子を見――やがて剣の間を縫うようにすっと踏み込み、マテリアルを行き渡らせた刀でキンと剣を跳ね飛ばす。
「……これで勝ちのようだな」
「ええ……ありがとうございました」
しばらく瞠目したグリューエリンは深く頭を下げ、剣を拾い納める。
渡されたタオルも、素直に受け取って。
「……私の居た国では、『武は舞に通ず、また舞は武に通ず』という言葉がある。芸に優れたる者ほど、武にも優れている」
そう話し出した和馬に、グリューエリンは問うた。
「けれど、どちらかに注力すれば、それは当てはまらなくはなりませんこと?」
「要は常にどんな意識を持ち、事に臨むかと言う事だ」
意識を、とグリューエリンは小さく呟いた。
「……あなたの事は噂で聞いている。上司の話を蹴ったそうだな」
「……そうですわ」
「……私とは価値観が違うため、参考までに聞いて欲しい」
グリューエリンが頷くのを確かめ、和馬はゆっくりと話し出す。
「……もしアイドルとなれば、名が売れ、上官の目に留まり易くなるだろう。それで武にも優れているとなれば、他の者より武勲を得る機会は巡ってくる。それこそ家名復興の機械が増える程に、な」
「そう、かもしれませんわね」
「機会があるのであれば、ある内に掴み取った方が良いと思うが? ……この機会を棒に振るかはあなたの心持ち次第だ」
良く考えてみると良い、と、和馬はそう言って静かに口を閉じる。
「……ありがとうございます。確かに、私は視野が狭いようですわ」
皆さんの目はよく見えますのね、とグリューエリンは小さく息を吐きながら、呟いて。
「さっきの答え、ですけれど」
そんなグリューエリンに、アナスタシアが声をかける。
「私はその名誉と考えます。その為、ですね」
「名誉……ですか」
ふっ、とグリューエリンは息を吐いて。
「今日は、ありがとうございます。私……」
アナスタシアの瞳をまっすぐに見つめて、グリューエリンは微笑む。
「アイドル、やってみますわ」
「その言葉を待っていた」
ああやっぱり、とアナスタシアは振り向く。
「フェーデルバール兵長!?」
グリューエリンの方は心底驚いた様子で。
「今日からは部隊長、だ」
「……そうですわね、部隊長」
にっこりと笑んで、クレーネウスはグリューエリンに手を差し出す。
「これから、よろしく頼む」
「ええ、ご指導ご鞭撻、お願いいたします」
握手を交わしながら、ぱちんとクレーネウスはアナスタシアにウィンクを送る。
「まぁ、指導とかは主に俺の役目じゃないけどな」
「え?」
作詞などでアイドル部隊に協力できないかと申し出た陽炎に、あっさりとクレーネウスは言ったものである。
「ああうんむしろこちらから頼みたい。何せノウハウがないからねはっはっは」
――グリューエリンを迎えたアイドル部隊とハンター達。
これからも長い付き合いになりそうである。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/08 19:39:20 |
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相談卓 蘇芳 和馬(ka0462) 人間(リアルブルー)|18才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/07/13 00:14:19 |