ゲスト
(ka0000)
六月の花嫁衣裳
マスター:蒼かなた

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/13 19:00
- 完成日
- 2015/06/20 16:11
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●最後のウェディングドレス
人生の中で大きなイベントというのはいくつか存在するだろう。
それが喜ばしいことであれ、悲しいことであれ、人々はそれを盛大にまたは粛々と場を設けて執り行う。
結婚式というのもそんなイベントの中で記憶と心に残る大切なものではないだろうか。
その結婚式を代表するアイテムの一つが、ウェディングドレスであることは誰も疑うことは無いだろう。
六月の小雨の降る中で。花嫁達の纏う衣装は煌びやかに輝くのだから。
リゼリオの街のとある古い店の中。1人の老いた男性が仕事道具である針を置いた。
「ふう、これでお終い、じゃの」
老人は皺だらけになったその手で、綺麗な白いレースの髪飾りを目の前に立つ人形の頭に飾りつける。
その部屋に佇む六つの人形、それぞれに煌びやかなドレスが着せられていた。
その全てが今完成した。六着のドレスが老人の手によって作り上げられた。
「うわぁ、綺麗。ロンお爺ちゃん、お疲れ様だね」
キィッと木製の扉が開いて1人の少女が部屋に入ってくる。少女はドレスの前で目を輝かせながらその周囲を周り、これを作った老人に笑顔を向けた。
「ああ、ノイ。ありがとう。これが儂の最後の作品――ごほ、ごほっ」
「ロンお爺ちゃん!?」
老人は全て言い終える前に込み上げる胸の違和感に思わず咳き込んでしまう。少女は慌ててその背中をさするが、老人の顔色は思わしくない。
「ごほ……はあ……良かった、よくここまで持ってくれた」
老人は胸を押さえながら苦しげな中で僅かに笑みを浮かべる。
その体は一つの病に侵されていた。医者からは治せはしないが、進行は遅らせられると言われた。だがその為には病院で半分寝たきりになってしまう。
それでは意味が無い。老人はそう思った。だから弱る体に鞭を打ち、最後の作品を作る為にこの店に篭ったのだ。
その作品、ウェディングドレスも完成した。これで十分に満足だ。
「ロン爺ちゃん?」
いや、惜しむらくはこの孫娘の成長を見守れないことか。それにこのドレス達も飾られているだけではしのびない。
願わくば、命の火が燃え尽きる前に一目だけでも。
「……ロン爺ちゃん」
思いにふける老人に、少女は不安を覚え。そして1つの決意をした。
「ノイ? 一体何処へ……」
「ロン爺ちゃん、待っててね!」
少女は店を飛び出して走り出した。大好きな老人の為に、してあげられる精一杯のことをする為に。
少女が向かったのは町の中でも特に賑わいを見せる1つの施設だった。
入ってすぐのカウンターに飛びついた少女に、職員は驚いた顔をしたもののすぐに笑みを浮かべて声をかける。
「ようこそ、ハンターオフィスへ。ご依頼ですか、お嬢ちゃん?」
人生の中で大きなイベントというのはいくつか存在するだろう。
それが喜ばしいことであれ、悲しいことであれ、人々はそれを盛大にまたは粛々と場を設けて執り行う。
結婚式というのもそんなイベントの中で記憶と心に残る大切なものではないだろうか。
その結婚式を代表するアイテムの一つが、ウェディングドレスであることは誰も疑うことは無いだろう。
六月の小雨の降る中で。花嫁達の纏う衣装は煌びやかに輝くのだから。
リゼリオの街のとある古い店の中。1人の老いた男性が仕事道具である針を置いた。
「ふう、これでお終い、じゃの」
老人は皺だらけになったその手で、綺麗な白いレースの髪飾りを目の前に立つ人形の頭に飾りつける。
その部屋に佇む六つの人形、それぞれに煌びやかなドレスが着せられていた。
その全てが今完成した。六着のドレスが老人の手によって作り上げられた。
「うわぁ、綺麗。ロンお爺ちゃん、お疲れ様だね」
キィッと木製の扉が開いて1人の少女が部屋に入ってくる。少女はドレスの前で目を輝かせながらその周囲を周り、これを作った老人に笑顔を向けた。
「ああ、ノイ。ありがとう。これが儂の最後の作品――ごほ、ごほっ」
「ロンお爺ちゃん!?」
老人は全て言い終える前に込み上げる胸の違和感に思わず咳き込んでしまう。少女は慌ててその背中をさするが、老人の顔色は思わしくない。
「ごほ……はあ……良かった、よくここまで持ってくれた」
老人は胸を押さえながら苦しげな中で僅かに笑みを浮かべる。
その体は一つの病に侵されていた。医者からは治せはしないが、進行は遅らせられると言われた。だがその為には病院で半分寝たきりになってしまう。
それでは意味が無い。老人はそう思った。だから弱る体に鞭を打ち、最後の作品を作る為にこの店に篭ったのだ。
その作品、ウェディングドレスも完成した。これで十分に満足だ。
「ロン爺ちゃん?」
いや、惜しむらくはこの孫娘の成長を見守れないことか。それにこのドレス達も飾られているだけではしのびない。
願わくば、命の火が燃え尽きる前に一目だけでも。
「……ロン爺ちゃん」
思いにふける老人に、少女は不安を覚え。そして1つの決意をした。
「ノイ? 一体何処へ……」
「ロン爺ちゃん、待っててね!」
少女は店を飛び出して走り出した。大好きな老人の為に、してあげられる精一杯のことをする為に。
少女が向かったのは町の中でも特に賑わいを見せる1つの施設だった。
入ってすぐのカウンターに飛びついた少女に、職員は驚いた顔をしたもののすぐに笑みを浮かべて声をかける。
「ようこそ、ハンターオフィスへ。ご依頼ですか、お嬢ちゃん?」
リプレイ本文
●花嫁衣装
リゼリオの1つの小島にて小さなイベントが行われることになった。
それは6月という雨の多い日に催される結婚式、ジューンブライドの為のイベントだ。
ハンター達は花嫁衣裳に着替え、雑誌に載せる為のイメージ写真を撮ることになっている。
集まってくれたのは5人の女性達。1人は急遽来れなくなってしまったが致し方ない。
何はともあれ、1人1人、それぞれの思うがままに自分の着こなす姿を写真へと納めてもらうこととなった。
●特別なドレス
「ふふん、ドレスの試着をあたしに頼むなんて。お目が高いねー」
今丁度衣裳部屋でドレス姿に着替えているのはロザーリア・アレッサンドリ(ka0996)だ。
普段見についけている羽付帽子やマント、モノクルは外してお手伝いさんに髪を綺麗にするべく櫛で梳かれている。
「さあ、あなたのドレスはこちらですよ」
「へえ、これが。純白の薔薇。うん、気に入ったよ」
その衣装は純白にして煌びやか。白いレース編みの薔薇が満開に咲き誇る。袖を通してみればまるでオーダーメイドしたかのようにピッタリとサイズが合い、しめつけやくすぐったさもない。肌触りだけでも極めて上質な素材が使われているのだろうと推測が出来た。
頭に被るティアラも薔薇をモチーフにしており開く花弁の如く装飾され、これからを祝福する花が咲き誇る。
その姿はまるで彼女が薔薇園に主であるかのような印象を与えることだろう。
「あっ、これは本物なんだ」
そう言ってロザーリアは胸元に飾られた白薔薇のコサージュに触れる。そこからは薔薇の甘い香りが鼻腔を擽る。
最後にショートのベールを被ったロザーリアは教会の中へと通される。
小さいながらも清潔で綺麗な教会内には今回のイベントの為に集まった小数の観客達も席に着いていた。
ロザーリアはその中で、赤い絨毯の上をゆっくりと、優雅に歩き進んでいく。
観客はその姿に一様に笑みを浮かべて賛辞の言葉を小さく呟いていく。
「では、アレッサンドリさん。撮影はここで」
宣教台の前まできたところでカメラマンの一人が現れてささっと場のセッティングをする。
その人がドレスを着こなしている上での最高の瞬間を。ロザーリアは今この時が最高に輝いている時だった。
「やっと撮影か。ほら、今日はサービスしちゃうよ♪」
にっこりと普段では滅多にしないような満面の笑みを浮かべるロザーリア。
赤い花嫁の道を歩く白い花嫁。相対する色のコントラストによりその姿がより際立って見える。
その時にこの写真のタイトルが決まった。
『白薔薇の花嫁』
白い薔薇に囲まれた純白の花嫁。彼女を射止めようとしたものはきっと、
その白き薔薇の香りに誘われて茨を厭わず彼女を抱きしめたいと願うだろう。
続いて衣装部屋に入ったのは雪峰 楓(ka5060)だ。
「うふふっ、いいですよね。花嫁衣裳って。こういうの大好きですよ♪」
こういった催しは大好きなのか彼女は始終ご機嫌でこの依頼を楽しんでいる。
お手伝いさんに髪を整えて貰っている間に、楓は目の前のドレスに視線が釘付けになる。
ふんわりと広がるドレスの裾には僅かに色の違う糸によって精密に施された模様が浮き上がっている。
幾つもの花弁がが重なり咲き誇るその花の名前はなんだっただろうか。ふとそう思ったところでお手伝いさんが教えてくれる。
その花言葉は『深窓の美女』。自分を深窓というには活発かなと思いつつ、美女と言われて悪い気はしなかった。
そしていざ袖を通してみればそれは楓の体にぴったりと合う。ドレスのそれだけでは大人しいイメージだったが、沢山のリボンとコサージュがあしらわれてそれは華やかな己を主張する絢爛なものへと姿を変えた。
「やっぱり素敵です。お姫様みたい。結婚式の時はやっぱり……うぅん、でも故郷の白無垢も捨てがたいです」
花嫁衣裳は結婚式の為の衣装。それを意識したのか自分が結婚するとき、そう考えた楓は少し唸りながら真剣に考える。
そんな楓を準備が出来たからとお手伝いさんが笑顔で送り出してくれた。
そこは教会の正面。真っ白に塗られた壁に、白い石畳。純白の世界に立つのは白い姫。
その道の両サイドに構えていた観客達ばばっと紙ふぶきを飛ばす。色鮮やかな舞台の中央で楓は微笑む。
そこでパシャリと一枚の写真が撮影された。
『絢爛たる姫君』
異国の姫がこの国の花嫁衣裳に着飾って。その絢爛さに見合う殿方は何処にいるのか。
それともその心にある者と添い遂げるのか。姫は今日も微笑み、そして悩む。
参加者の1人であるエリザベタ=III(ka4404)はまさしく女王、女帝と呼ばれる存在だった。
オーソドックスな白のドレス。そこに施されている小さな花が風に舞うような鮮やかな装飾。
結った髪の上にそっと乗せられるだけのように飾られ場ヴェールからは時折小さな光を発してその威光を示す。
「まぁ、記念として一度くらい着てみましょうか」
そんな気持ちで参加したエリザベタだったが、突然穏やかだった顔が一変して隣にいるスーツの男性を睨みつける。
「で、どうして貴女が貴方がいるのかしらね? イーター」
「花嫁役には花婿役が必要だろう?」
呪い殺さんとばかりの呪詛のこもった瞳をさらりと受け流し、イーター=XI(ka4402)はふっと笑って返した。
仲がいいのか、悪いのか。ただ知り合いであるのは確かなようなので誰も特に言う事はない。
そこから花嫁役のエリザベタの意向で写真撮影は林の中で行うことになった。
小さな椅子が運ばれて、簡単な撮影用の準備が整った。
「あっ、けどこのまま行くと裾が汚れそうね」
そこで初めて気づいたという風にエリザベタは悩む。が、それは数秒も続かずに、突然自分の体がふわりと浮いたことで中断を余儀なくされた。
「って、降ろしなさいイーター!」
「なに、こうするのは花婿の義務だ」
喚くエリザベタを無視してイーターは彼女を林の中央に設置した椅子の上に座らせる。
ひんやりと涼しい空気の中、木々の隙間から零れる光が天然のライトとなって彼女の姿を映し出す。
冷静さを取り戻した彼女は微笑んで、それを見逃さずにカメラマンはシャッターをぱしゃりと切った。
「やっぱり、教会や花園もいいけれど、こういう場所もいいと思ったの。いい絵は撮れたかしら?」
カメラマンは微笑むエリザベタにオーケーのサインをだす。
「そうか。じゃあ折角だからもう何枚かとってくれ」
と、当然そう言い出したのはイーターだった。エリザベタの隣に立ち、カメラマンに催促する。
「ちょっと、あなた何を言ってるの?」
また慌てた所為か素に戻った彼女と、それを面白げに眺めるイーターの写真が1枚写される。
「っ! もういい加減に!?」
撮影をやめさせようと立ち上がったエリザベタの腰にするりとイーターの手が回され、ぐいと抱き寄せる。
2人の顔はキスする寸前で止まり、驚いたせいかぽかんとしたエリザベタの顔にイーターはくっくと喉を鳴らして笑う。
「っ! この、何するのよ!」
微笑ましい問えるのか、そんな2人をよそ目にカメラマンは映した写真を眺めてタイトルを考える。
『木漏れ日に微笑む慈母』
花嫁なのに母はおかしいか? そう思いながらも何故かこれがぴったりだと感じた。
今は少女のように笑うその女性を見て、恋にそんなものは関係ないか。そう結論付けて納得する。
6着のウェディングドレスの中で一番異色なもの。黒と灰色を基調とした闇色のドレス。
ただ、それはただ闇の色をしているわけではない。その中で確かに存在を主張する黒い薔薇。
それはまるで夜の暗闇の空で星々がつながりあってできる星座のようにそこにある。
さらに胸元に散りばめられた輝く宝石達の真ん中で、まるで猫の目のように縦に割れた黒い輝きを持つ宝石が一つ。
それはもはや魔力といってもいいのではないか。人々を魅惑し引きつけるそのドレスにニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)はそっと手を伸ばす。
「これは……いやはや、極めた職人というのは何と素晴らしいことか。感服するばかりです」
その良さをすぐに理解したニャンゴは僅かに恐縮しながらも、これを身に纏ってみたいという欲求に従ってそのドレスに袖を通した。
「こんな素晴らしいものを私が着る事ができるとは。感無量です」
黒と灰、モノトーンのドレスへと着替えたニャンゴは僅かに鼓動を早くしながらも衣裳部屋の外に出る。
だが外を見れば、大分日の光は翳っており。太陽は隠れはしないまでもうす雲からオレンジ色の光を僅かに照らすのみとなっていた。
「いや、これでいいと思います。いや、これがいいんだと思います」
ニャンゴはそう言うと教会の窓を1つ開けてその縁に腰を下ろし、沈み行く日の光と曇る空を眺める。
その時にぱしゃりと小さな音がした。ニャンゴはそれを気にせずに外を眺めていると、予想通りかぽつりぽつりと雨が降り始める。
「確かに人に与えられた時間は短く、儚いものではあります」
窓の外に手を伸ばせば、ニャンゴの手をぽつぽつと冷たい雨が濡らしていく。
「けど、そうであるからこそ。光輝く刹那の刻を大切にしたいと願うのでしょう」
それは何に向けた言葉なのか。そこまでは口にしない。
ただ思い馳せるその姿にカメラマンはもう一度シャッターを切った。
『Monotone Jem』
白黒の世界でも輝ける存在がきっとある。それを望む心と、大切にするという願い。
その二つが誓いとなって、新たな輝きを生み出すはずだ。
「や、やっぱりまだわしには早かったかのぉ。でも憧れてもいてなぁ……」
ドレスの前でうんうんと唸っているのはシルヴェーヌ=プラン(ka1583)だった。
ウェディングドレスとはそのまま結婚を連想させるもの。まだまだ少女であるシルヴェーヌにはそれがどうにも気恥ずかしかった。
「だが、依頼者の祖父の命をかけた最後の作品かぇ……」
依頼の経緯は聞いている。これが本当に最後。だからこそこのドレスを着て欲しいという願いがあった。
シルヴェーヌ自身も自分が祖父に甘えていた頃を思い出し、それが失われることを想像するとちくりと胸に痛みが走る。
そこでもう一度ドレスへ視線をやる。ふわりと大きく広がる何枚ものレースが編みこまれたスカート。すらりとしたラインの上に縫いこまれた数々の花々たち。恐らくじっくりみないと分からないそれを、あの老人は妥協なく作り上げたのだ。
「本当にわしがノイの祖父上の最後の作を着ても良いのじゃろうか……」
僅かな悩み。シルヴェーヌは胸元に手を置いて1つ息をすると、ドレスへと手を伸ばした。
「うぅん、自分でいうのもなんじゃが。お姫様みたいじゃな」
着替えたシルヴェーヌは鏡の前に立ってそんな感想を零す。
胸上まで大胆に開いたそのドレスは大胆で、纏うベールでその姿を僅かに隠し大人しさを見せる。
「っと、こうしてはおられんのぅ」
シルヴェーヌが真っ先に向かったのは観客と一緒にこのイベントに参加していた2人の人物。衣装を作ったロンと、その孫娘のノイだった。
2人の前に立ったシルヴェーヌはふぅと息を整えると、ゆっくりと歌いだした。
それは彼女の故郷であるエルフの郷に伝わる歌。静かで厳かで、誰かを想う歌。
『まだ見ぬ先を求め恐れる人よ、自分と友を愛くしんでごらん、明日は光が見えるでしょう』
その言葉自体は古いエルフ達が使っていたものでただ聞くだけではただの異国の歌に聞こえただろう。
ただ、その雰囲気は十分に伝わっていた。シルヴェーヌが何を想い、願って歌ったのかはしっかりと。
その歌う光景はしっかりと、1枚だけだが撮影に成功していた。
『導きの白い歌姫』
誰かを思い歌うその姿は、ただただ慈愛に満ちていた。
彼女が次にその歌を歌うときはいつだろうか? きっとまた、誰かを励ます為に彼女はきっと声を紡ぐ。
●5人の花嫁達
島での撮影会も終わり、スタッフ達は片付けに入っている。
そんな中で教会の一角で5人の花嫁達とロン爺とノイが集まっていた。
「皆さん、今日は本当にありがとうございます!」
「いやいや、いいって。こっちも貴重な体験させて貰ったしね」
にっと笑ってロザーリアはそう答えた。
「ええ、このような素晴らしいドレスを着る事ができてこちらこそ感謝したいくらいです」
そのモノトーンな花嫁衣裳が気に入ったのかニャンゴは胸元の宝石を一撫でして頷いた。
「けど残念ね。ロンお爺さんの作品はこれで最後なんでしょう?」
エリザベタが頬に手を当てて小さな溜息を吐く。そう、ロン爺の体力ではもう新しいドレスを作ることはできないだろう。
「ああ、本当ならこのノイの花嫁衣裳まで作ってやりたかったんだがな」
「お爺ちゃん……」
そう言いながらロン爺はノイの頭を撫でる。その表情はこれからの死への恐れなどなく、ただ今口にしたことだけが心残りなのだと皆に感じさせるものだった。
(祖父上が召される時も、こんな表情をするのかのぅ)
優しくいて、それでいて達観していて、心を暖かくもすれば冷たくもする。そんな表情。
(いや、人間のわしのほうが逝くのが裂きになってしまうじゃろうか……)
その時、自分はどんな表情をするだろうか。今は、まだ何も思い浮かばなかった。
「そうだ、皆さん。折角だし最後に一枚皆揃った写真を撮りましょう!」
そう提案したのは楓だった。それに反対するものはなく、皆がロン爺を中心にして綺麗に並ぶ。
本来ならあと一着、その思いはあるが今はそれを打ち消してカメラマンはシャッターを切った。
『六月の花嫁衣裳』
彼女達が本当の花嫁となった時、そのウェディングドレスはどんなものだろうか。
願わくば、今回のような想いが込められた素晴らしいドレスであることを願う。
リゼリオの1つの小島にて小さなイベントが行われることになった。
それは6月という雨の多い日に催される結婚式、ジューンブライドの為のイベントだ。
ハンター達は花嫁衣裳に着替え、雑誌に載せる為のイメージ写真を撮ることになっている。
集まってくれたのは5人の女性達。1人は急遽来れなくなってしまったが致し方ない。
何はともあれ、1人1人、それぞれの思うがままに自分の着こなす姿を写真へと納めてもらうこととなった。
●特別なドレス
「ふふん、ドレスの試着をあたしに頼むなんて。お目が高いねー」
今丁度衣裳部屋でドレス姿に着替えているのはロザーリア・アレッサンドリ(ka0996)だ。
普段見についけている羽付帽子やマント、モノクルは外してお手伝いさんに髪を綺麗にするべく櫛で梳かれている。
「さあ、あなたのドレスはこちらですよ」
「へえ、これが。純白の薔薇。うん、気に入ったよ」
その衣装は純白にして煌びやか。白いレース編みの薔薇が満開に咲き誇る。袖を通してみればまるでオーダーメイドしたかのようにピッタリとサイズが合い、しめつけやくすぐったさもない。肌触りだけでも極めて上質な素材が使われているのだろうと推測が出来た。
頭に被るティアラも薔薇をモチーフにしており開く花弁の如く装飾され、これからを祝福する花が咲き誇る。
その姿はまるで彼女が薔薇園に主であるかのような印象を与えることだろう。
「あっ、これは本物なんだ」
そう言ってロザーリアは胸元に飾られた白薔薇のコサージュに触れる。そこからは薔薇の甘い香りが鼻腔を擽る。
最後にショートのベールを被ったロザーリアは教会の中へと通される。
小さいながらも清潔で綺麗な教会内には今回のイベントの為に集まった小数の観客達も席に着いていた。
ロザーリアはその中で、赤い絨毯の上をゆっくりと、優雅に歩き進んでいく。
観客はその姿に一様に笑みを浮かべて賛辞の言葉を小さく呟いていく。
「では、アレッサンドリさん。撮影はここで」
宣教台の前まできたところでカメラマンの一人が現れてささっと場のセッティングをする。
その人がドレスを着こなしている上での最高の瞬間を。ロザーリアは今この時が最高に輝いている時だった。
「やっと撮影か。ほら、今日はサービスしちゃうよ♪」
にっこりと普段では滅多にしないような満面の笑みを浮かべるロザーリア。
赤い花嫁の道を歩く白い花嫁。相対する色のコントラストによりその姿がより際立って見える。
その時にこの写真のタイトルが決まった。
『白薔薇の花嫁』
白い薔薇に囲まれた純白の花嫁。彼女を射止めようとしたものはきっと、
その白き薔薇の香りに誘われて茨を厭わず彼女を抱きしめたいと願うだろう。
続いて衣装部屋に入ったのは雪峰 楓(ka5060)だ。
「うふふっ、いいですよね。花嫁衣裳って。こういうの大好きですよ♪」
こういった催しは大好きなのか彼女は始終ご機嫌でこの依頼を楽しんでいる。
お手伝いさんに髪を整えて貰っている間に、楓は目の前のドレスに視線が釘付けになる。
ふんわりと広がるドレスの裾には僅かに色の違う糸によって精密に施された模様が浮き上がっている。
幾つもの花弁がが重なり咲き誇るその花の名前はなんだっただろうか。ふとそう思ったところでお手伝いさんが教えてくれる。
その花言葉は『深窓の美女』。自分を深窓というには活発かなと思いつつ、美女と言われて悪い気はしなかった。
そしていざ袖を通してみればそれは楓の体にぴったりと合う。ドレスのそれだけでは大人しいイメージだったが、沢山のリボンとコサージュがあしらわれてそれは華やかな己を主張する絢爛なものへと姿を変えた。
「やっぱり素敵です。お姫様みたい。結婚式の時はやっぱり……うぅん、でも故郷の白無垢も捨てがたいです」
花嫁衣裳は結婚式の為の衣装。それを意識したのか自分が結婚するとき、そう考えた楓は少し唸りながら真剣に考える。
そんな楓を準備が出来たからとお手伝いさんが笑顔で送り出してくれた。
そこは教会の正面。真っ白に塗られた壁に、白い石畳。純白の世界に立つのは白い姫。
その道の両サイドに構えていた観客達ばばっと紙ふぶきを飛ばす。色鮮やかな舞台の中央で楓は微笑む。
そこでパシャリと一枚の写真が撮影された。
『絢爛たる姫君』
異国の姫がこの国の花嫁衣裳に着飾って。その絢爛さに見合う殿方は何処にいるのか。
それともその心にある者と添い遂げるのか。姫は今日も微笑み、そして悩む。
参加者の1人であるエリザベタ=III(ka4404)はまさしく女王、女帝と呼ばれる存在だった。
オーソドックスな白のドレス。そこに施されている小さな花が風に舞うような鮮やかな装飾。
結った髪の上にそっと乗せられるだけのように飾られ場ヴェールからは時折小さな光を発してその威光を示す。
「まぁ、記念として一度くらい着てみましょうか」
そんな気持ちで参加したエリザベタだったが、突然穏やかだった顔が一変して隣にいるスーツの男性を睨みつける。
「で、どうして貴女が貴方がいるのかしらね? イーター」
「花嫁役には花婿役が必要だろう?」
呪い殺さんとばかりの呪詛のこもった瞳をさらりと受け流し、イーター=XI(ka4402)はふっと笑って返した。
仲がいいのか、悪いのか。ただ知り合いであるのは確かなようなので誰も特に言う事はない。
そこから花嫁役のエリザベタの意向で写真撮影は林の中で行うことになった。
小さな椅子が運ばれて、簡単な撮影用の準備が整った。
「あっ、けどこのまま行くと裾が汚れそうね」
そこで初めて気づいたという風にエリザベタは悩む。が、それは数秒も続かずに、突然自分の体がふわりと浮いたことで中断を余儀なくされた。
「って、降ろしなさいイーター!」
「なに、こうするのは花婿の義務だ」
喚くエリザベタを無視してイーターは彼女を林の中央に設置した椅子の上に座らせる。
ひんやりと涼しい空気の中、木々の隙間から零れる光が天然のライトとなって彼女の姿を映し出す。
冷静さを取り戻した彼女は微笑んで、それを見逃さずにカメラマンはシャッターをぱしゃりと切った。
「やっぱり、教会や花園もいいけれど、こういう場所もいいと思ったの。いい絵は撮れたかしら?」
カメラマンは微笑むエリザベタにオーケーのサインをだす。
「そうか。じゃあ折角だからもう何枚かとってくれ」
と、当然そう言い出したのはイーターだった。エリザベタの隣に立ち、カメラマンに催促する。
「ちょっと、あなた何を言ってるの?」
また慌てた所為か素に戻った彼女と、それを面白げに眺めるイーターの写真が1枚写される。
「っ! もういい加減に!?」
撮影をやめさせようと立ち上がったエリザベタの腰にするりとイーターの手が回され、ぐいと抱き寄せる。
2人の顔はキスする寸前で止まり、驚いたせいかぽかんとしたエリザベタの顔にイーターはくっくと喉を鳴らして笑う。
「っ! この、何するのよ!」
微笑ましい問えるのか、そんな2人をよそ目にカメラマンは映した写真を眺めてタイトルを考える。
『木漏れ日に微笑む慈母』
花嫁なのに母はおかしいか? そう思いながらも何故かこれがぴったりだと感じた。
今は少女のように笑うその女性を見て、恋にそんなものは関係ないか。そう結論付けて納得する。
6着のウェディングドレスの中で一番異色なもの。黒と灰色を基調とした闇色のドレス。
ただ、それはただ闇の色をしているわけではない。その中で確かに存在を主張する黒い薔薇。
それはまるで夜の暗闇の空で星々がつながりあってできる星座のようにそこにある。
さらに胸元に散りばめられた輝く宝石達の真ん中で、まるで猫の目のように縦に割れた黒い輝きを持つ宝石が一つ。
それはもはや魔力といってもいいのではないか。人々を魅惑し引きつけるそのドレスにニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)はそっと手を伸ばす。
「これは……いやはや、極めた職人というのは何と素晴らしいことか。感服するばかりです」
その良さをすぐに理解したニャンゴは僅かに恐縮しながらも、これを身に纏ってみたいという欲求に従ってそのドレスに袖を通した。
「こんな素晴らしいものを私が着る事ができるとは。感無量です」
黒と灰、モノトーンのドレスへと着替えたニャンゴは僅かに鼓動を早くしながらも衣裳部屋の外に出る。
だが外を見れば、大分日の光は翳っており。太陽は隠れはしないまでもうす雲からオレンジ色の光を僅かに照らすのみとなっていた。
「いや、これでいいと思います。いや、これがいいんだと思います」
ニャンゴはそう言うと教会の窓を1つ開けてその縁に腰を下ろし、沈み行く日の光と曇る空を眺める。
その時にぱしゃりと小さな音がした。ニャンゴはそれを気にせずに外を眺めていると、予想通りかぽつりぽつりと雨が降り始める。
「確かに人に与えられた時間は短く、儚いものではあります」
窓の外に手を伸ばせば、ニャンゴの手をぽつぽつと冷たい雨が濡らしていく。
「けど、そうであるからこそ。光輝く刹那の刻を大切にしたいと願うのでしょう」
それは何に向けた言葉なのか。そこまでは口にしない。
ただ思い馳せるその姿にカメラマンはもう一度シャッターを切った。
『Monotone Jem』
白黒の世界でも輝ける存在がきっとある。それを望む心と、大切にするという願い。
その二つが誓いとなって、新たな輝きを生み出すはずだ。
「や、やっぱりまだわしには早かったかのぉ。でも憧れてもいてなぁ……」
ドレスの前でうんうんと唸っているのはシルヴェーヌ=プラン(ka1583)だった。
ウェディングドレスとはそのまま結婚を連想させるもの。まだまだ少女であるシルヴェーヌにはそれがどうにも気恥ずかしかった。
「だが、依頼者の祖父の命をかけた最後の作品かぇ……」
依頼の経緯は聞いている。これが本当に最後。だからこそこのドレスを着て欲しいという願いがあった。
シルヴェーヌ自身も自分が祖父に甘えていた頃を思い出し、それが失われることを想像するとちくりと胸に痛みが走る。
そこでもう一度ドレスへ視線をやる。ふわりと大きく広がる何枚ものレースが編みこまれたスカート。すらりとしたラインの上に縫いこまれた数々の花々たち。恐らくじっくりみないと分からないそれを、あの老人は妥協なく作り上げたのだ。
「本当にわしがノイの祖父上の最後の作を着ても良いのじゃろうか……」
僅かな悩み。シルヴェーヌは胸元に手を置いて1つ息をすると、ドレスへと手を伸ばした。
「うぅん、自分でいうのもなんじゃが。お姫様みたいじゃな」
着替えたシルヴェーヌは鏡の前に立ってそんな感想を零す。
胸上まで大胆に開いたそのドレスは大胆で、纏うベールでその姿を僅かに隠し大人しさを見せる。
「っと、こうしてはおられんのぅ」
シルヴェーヌが真っ先に向かったのは観客と一緒にこのイベントに参加していた2人の人物。衣装を作ったロンと、その孫娘のノイだった。
2人の前に立ったシルヴェーヌはふぅと息を整えると、ゆっくりと歌いだした。
それは彼女の故郷であるエルフの郷に伝わる歌。静かで厳かで、誰かを想う歌。
『まだ見ぬ先を求め恐れる人よ、自分と友を愛くしんでごらん、明日は光が見えるでしょう』
その言葉自体は古いエルフ達が使っていたものでただ聞くだけではただの異国の歌に聞こえただろう。
ただ、その雰囲気は十分に伝わっていた。シルヴェーヌが何を想い、願って歌ったのかはしっかりと。
その歌う光景はしっかりと、1枚だけだが撮影に成功していた。
『導きの白い歌姫』
誰かを思い歌うその姿は、ただただ慈愛に満ちていた。
彼女が次にその歌を歌うときはいつだろうか? きっとまた、誰かを励ます為に彼女はきっと声を紡ぐ。
●5人の花嫁達
島での撮影会も終わり、スタッフ達は片付けに入っている。
そんな中で教会の一角で5人の花嫁達とロン爺とノイが集まっていた。
「皆さん、今日は本当にありがとうございます!」
「いやいや、いいって。こっちも貴重な体験させて貰ったしね」
にっと笑ってロザーリアはそう答えた。
「ええ、このような素晴らしいドレスを着る事ができてこちらこそ感謝したいくらいです」
そのモノトーンな花嫁衣裳が気に入ったのかニャンゴは胸元の宝石を一撫でして頷いた。
「けど残念ね。ロンお爺さんの作品はこれで最後なんでしょう?」
エリザベタが頬に手を当てて小さな溜息を吐く。そう、ロン爺の体力ではもう新しいドレスを作ることはできないだろう。
「ああ、本当ならこのノイの花嫁衣裳まで作ってやりたかったんだがな」
「お爺ちゃん……」
そう言いながらロン爺はノイの頭を撫でる。その表情はこれからの死への恐れなどなく、ただ今口にしたことだけが心残りなのだと皆に感じさせるものだった。
(祖父上が召される時も、こんな表情をするのかのぅ)
優しくいて、それでいて達観していて、心を暖かくもすれば冷たくもする。そんな表情。
(いや、人間のわしのほうが逝くのが裂きになってしまうじゃろうか……)
その時、自分はどんな表情をするだろうか。今は、まだ何も思い浮かばなかった。
「そうだ、皆さん。折角だし最後に一枚皆揃った写真を撮りましょう!」
そう提案したのは楓だった。それに反対するものはなく、皆がロン爺を中心にして綺麗に並ぶ。
本来ならあと一着、その思いはあるが今はそれを打ち消してカメラマンはシャッターを切った。
『六月の花嫁衣裳』
彼女達が本当の花嫁となった時、そのウェディングドレスはどんなものだろうか。
願わくば、今回のような想いが込められた素晴らしいドレスであることを願う。
依頼結果
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- イーター=XI(ka4402)
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/10 13:18:12 |
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【相談卓】花嫁たちの控え室 エリザベタ=アルカナ(ka4404) 人間(クリムゾンウェスト)|26才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/06/11 22:42:34 |