ゲスト
(ka0000)
ボトルレター
マスター:篠崎砂美

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~6人
- サポート
- 0~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/16 15:00
- 完成日
- 2014/06/21 00:53
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ここは、ポルトワールの小さな食堂です。
ちょっと怪しげな雰囲気もありますが、料理は美味しいと評判で、連日客で賑わっています。
時間帯にもよりますが、満席の場合は、テーブルの入れ替えで少し待たされることもあります。今も、そんな感じで空席待ちなのでした。まあ、ちょっと遅い夕食時ですから仕方ありません。繁盛しているというのはいいことです。
ドア近くの椅子で客たちは順番待ちをしています。その横を、黒いレースのフードを被った小柄な女性がでていきました。ちょっと愁いを帯びた美人です。お忍びか何かなのでしょうか、甘い香りを残して、足早に食堂を後にしていきます。
「はい、次の方」
やっと順番が回ってきたようです。よほど混んでいるのか、相席のようでした。
テーブルに着くと、塩とかの調味料のそばに何やら小さな小瓶がおいてありました。中には、何か紙片のような物が入っています。
誰かの忘れ物でしょうか?
直前に店を出ていった客は、先ほどの女性だけです。きっと、彼女の忘れ物なのでしよう。
「これは、やっぱり届けてあげるべきかなあ」
「何が入っているんだろう?」
先ほどの女性も気になりますし、瓶の中身も気になります。蓋を開けずに外から見える部分には、「今宵……。月が出ている……。約束を……」などの文字が垣間見えます。なんだか、ラブレターのような文面です。
「仕方ない、食事はもう少し後になるか」
重い腰をあげると、一同は食堂を出て女性の後を追うことにしました。
「席が違うぞ。俺は、いつもの席と言ったはずだ」
何やら、男が食堂の主ともめていました。巻き込まれては、女性に追いつけなくなってしまいます。ちょっと急いで、一同は食堂を出ていきました。
「俺のテーブルには誰が……。あっ、今の奴らか。くそっ!」
もめていた男は、ボトルレターを持っていった一同に気がつくと、あわててその後を追いかけていきました。
ちょっと怪しげな雰囲気もありますが、料理は美味しいと評判で、連日客で賑わっています。
時間帯にもよりますが、満席の場合は、テーブルの入れ替えで少し待たされることもあります。今も、そんな感じで空席待ちなのでした。まあ、ちょっと遅い夕食時ですから仕方ありません。繁盛しているというのはいいことです。
ドア近くの椅子で客たちは順番待ちをしています。その横を、黒いレースのフードを被った小柄な女性がでていきました。ちょっと愁いを帯びた美人です。お忍びか何かなのでしょうか、甘い香りを残して、足早に食堂を後にしていきます。
「はい、次の方」
やっと順番が回ってきたようです。よほど混んでいるのか、相席のようでした。
テーブルに着くと、塩とかの調味料のそばに何やら小さな小瓶がおいてありました。中には、何か紙片のような物が入っています。
誰かの忘れ物でしょうか?
直前に店を出ていった客は、先ほどの女性だけです。きっと、彼女の忘れ物なのでしよう。
「これは、やっぱり届けてあげるべきかなあ」
「何が入っているんだろう?」
先ほどの女性も気になりますし、瓶の中身も気になります。蓋を開けずに外から見える部分には、「今宵……。月が出ている……。約束を……」などの文字が垣間見えます。なんだか、ラブレターのような文面です。
「仕方ない、食事はもう少し後になるか」
重い腰をあげると、一同は食堂を出て女性の後を追うことにしました。
「席が違うぞ。俺は、いつもの席と言ったはずだ」
何やら、男が食堂の主ともめていました。巻き込まれては、女性に追いつけなくなってしまいます。ちょっと急いで、一同は食堂を出ていきました。
「俺のテーブルには誰が……。あっ、今の奴らか。くそっ!」
もめていた男は、ボトルレターを持っていった一同に気がつくと、あわててその後を追いかけていきました。
リプレイ本文
●店先
「いったい、中に何が入ってるやら」
厄介事の元凶を指先で突きながら、ネグロ・ノーチェ(ka0237)が言った。鋭敏な視覚で中に入っている紙を確かめようとするが、折りたたまれているためにやはりよく読めない。月だの夜だの抽象的な単語ばかりで、いかにも恋文という感じだ。
「うーん」
しきりにボトルをかたむけていると、いきなりネグロがポカリと頭を殴られた。
『他人の物、見ない』
エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)が、カードに書いた文字をネグロに突きつけた。
「なんだか、変なコンビだな」
今夜食堂で同席になった二人を見て、 トライフ・A・アルヴァイン(ka0657)が苦笑した。
一人は筆談で話す、ロンググレイの髪の赤目の少女。まあ、トライフはよく知っている顔だ。
その相棒は、フードつきコートで顔を隠した少年。こっちは初見だが、エヴァの知り合いとは可哀相な事だ。やれやれと、トライフが伊達眼鏡を軽く中指で持ちあげる。
今日、相席になって一緒に巻き込まれたのは、剣嬢路 チュアル(ka0859)という好奇心一杯の少女と、ルクレチア(ka0631)という豊かに波打つ銀髪が印象的なちょっと達観した少女という対照的なペア。それと、シリウス(ka0043)というエルフの少年と、彼についてきたアルナイル(ka0001)というエルフの少女のペアだ。
「多分、さっきのおねーさんが忘れていったんだよ。ここは、ちゃんと届けてあげないとね」
チュアルの言葉に、エヴァとシリウスとアルナイルがうんうんとうなずいた。他の者は、迷惑だがまあ仕方ないかという顔だ。
「手分けして探した方が早いよね。15分ごとに、ここに集合でいいかな。トランシーバーがあれば、連絡もとりやすいけど」
チュアルの言葉に、ネグロとアルナイルが、持っていたトランシーバーを軽く掲げて見せた。周波数を確認しあうと、姿を消した女性を捜しに出発する。
「まったく。届けたけりゃ勝手に……うおっ!?」
やってられねえと香りタバコに火をつけようとしたトライフが、エヴァにむんずと首根っこを掴まれた。ついでとばかりに、同じく渋っていたネグロも掴まれて、二人してエヴァに引きずられていく。そのまま三人は、裏通りの方へとむかっていった。
「いってらっしゃーい」
なんだか危なっかしいネグロからボトルレターを預かったシリウスが、アルナイルに手渡す。
「それにしても、なんでボトルレターなんだろう?」
ラブレターにしては、ちょっと変だなあとシリウスが小首をかしげた。
「はぐれないように手を繋いでいこうね」
「うん、シリィ」
シリウスは、仲良くアルナイルの手を握って表通りの方へとむかった。
「じゃあ、ちゃっちゃっとお届けして、美味しい物たくさん食べよーね、ルクリー」
「そうですね。それまで、御飯はおあずけですよ、チュアル」
チュアルとルクレチアもそう言葉を交わすと、飲食店の並ぶ通りの方へと、ふらふらと引き寄せられていく。
やや遅れて、食堂の中から男が飛び出してきた。
「くそ、あいつら、どこへ行った。あっちか!」
急いで周囲を見回すと、男は一同の後を追っていった。
●裏通り
「もういいかげん放してくれないか?」
ネグロに言われて、やっとエヴァが二人から手を放す。
やれやれという風に、男たちが軽く身支度を整え直した。
その間に、エヴァが何やら書き始めた。どうやら、捜している女性の似顔絵らしい。もっとも、目深に黒いレースのフードを被っていたので、顔はほとんど分からない。けれども、見た目はバッチリなので、聞き込みの役にはたつだろう。
『こういう人、知らない?』
エヴァが道行く男に訊ねると、男はうーんと考え込む仕種を見せた。
「知っているのか?」
ネグロが問い返した。
男が、まっすぐネグロを指さす。確かに、見た目がエヴァの描いた似顔絵にそっくりかもしれない。まあ、誰でも、フードで顔を隠していれば似たり寄ったりになるわけだが。
「まあ、仕方ないな。で、他には似た奴を見なかったか?」
後ろで、似た格好しているあんたが悪いとネグロをゲシゲシするエヴァを見なかった事にして、トライフが男に聞き直した。
「ここいらじゃ、そういう格好しているのは多いからなあ。そういやあ、ついさっきも、そういう格好をした小柄なのがあっちに行ったっけ。雰囲気からすると若い女の子かな?」
ちょうど、男が指さした路地裏の闇の中へネグロによく似た格好の人影が消えていく。
「若い女の子? ようし、後を追うぞ」
なぜか俄然やる気を出すと、トライフがエヴァたちをうながした。
●屋台通り
「さっさと見つけて、手紙を渡しちゃおうね。そうしたら、何を食べる? 私はお肉がいいなあ。あっ、あそこの屋台の骨付き肉、美味しそうだよ、ルクリー。じゅるり~」
「ええと、今捜しているのは女の人であって、お肉ではねーですよ」
「わ、分かってるわよ。忘れてなんかないよっ!」
ルクレチアにジト目で指摘されて、チュアルがあわてて否定した。とはいえ、焼き肉のたまらなくいい香りが、ここまで漂ってくる。
「とりあえず、聞き込みをするよ」
気を取り直して、チュアルが屋台のお兄さんに聞き込みをした。もちろん、試食で一切れもらう事は忘れてはいない。
「ふむふむ、そういう格好のおねーさんは、このへんでよく見かけると……。よし、ルクリー、張り込みだよ! あんパンとミルク用意して」
すっごく楽しそうに、チュアルが言った。
「そのノリはねーですよ」
「だって、なんだか探偵みたいじゃない。サルヴァトーレ・ロッソじゃ、そうやって探偵は見張りをするんだって」
なんだか、見てきたかのようにチュアルが言った。リアルブルーオタクとしては、ここは譲れないらしい。
「あんパンですか。豆を甘く煮て、パンに詰めるだとか。どういう発想でそんな事考えつくんですか。普通ねーですよ」
とはいえ、意外と美味しいので、ルクレチアも全否定はしにくいところだ。
「んっ、誰か来るですよ」
「ほんと? 隠れて隠れて!」
ルクレチアに言われて、チュアルが彼女を引っぱって物陰に隠れた。
すると、彼女たちを追って男が現れた。店でちょっと騒いでいた男だ。お兄さんと呼ぶにはもういい歳のようで、癖のある銀髪と、薄いアイスブルーの瞳が特徴的だ。がっしりとした身体つきをしているようだが、着痩せするのか、あまり目立たないようだ。
「誰です? わたしたちの後をつけてくるなんて、怪しすぎるったらねーですよ」
ルクレチアが、手に持ったライトを男にむけて言った。
「まぶしっ」
夜の闇の中、いきなり目映い光を突きつけられて、男が怯む。
「ふっ、戦うと言うのなら、相手になるですよ!」
さっと弓を構えて、チュアルが言った。
「おいおい、いきなりなんだよ。俺は探し物をしているだけだ。あんたら、瓶に入った手紙を見なかったか? ええと、こんくらいのやつでなあ」
待った待ったとチュアルを落ち着かせながら、男が訊ねてきた。
「なんで、あなたがそれを欲しがってるの?」
「ええっと……」
聞き返されて、男がちょっと困った顔をする。
「怪しい。やっぱり、あんたじゃねーです。あれは、女の人の物です」
ジーと男を凝視しながらルクレチアが言いました。
「しゃあないなあ、あれは、俺宛の手紙なんだよ。これで分かっただろ」
観念したように、男が言った。
「わからねーですよ。あのラブレターは女の人に返すです」
「うん、それにここにはないしね」
言ってしまってから、チュアルがしまったという顔をした。
「ラブレター。ああ、そう、ラブレターだ。分かった分かった。じゃあ、証明するから、あいつの所へ行こう。そうすりゃ分かるはずだ」
そこまで譲歩するから信じてくれと、男が言った。
「どうする、ルクリー」
チュアルがルクレチアと相談しようとしたときだ、トランシーバーから呼び出し音が響いた。
●裏通り
「いたいた」
店にいた女性らしき人影を見つけたネグロたちは、急いで彼女に追いついて呼び止めた。
「誰、あんたたちは?」
さすがに、見知らぬ三人組に裏通りで声をかけられて、女性がさっと身構えた。
「怪しい者じゃないさ。そこの綺麗なお嬢さん。少しいいかな、聞きたい事があるんだ」
相手が女性とあって、トライフが態度を変えた。フードで顔を隠してはいても、そこはトライフの美女センサーのメーターが振り切るほどの美少女だと一瞬で見抜く。ここで態度を変えなくて、いったいどこで態度を変えろと言うのだろうか。
「実は、あなたの大切な忘れ物を預かっているんだ。よければ、それをあなたにお返しする栄誉をこの俺に……ぐえっ」
『はいはい、ナンパはそこまで』
容赦なくトライフの脳天にハイキックをかましたホットパンツ姿のエヴァが、カードをかざすと間に割って入った。
『小瓶は預かっています。お返ししたいので店に戻ってくれますか?』
「なんで、いちいちカードで……」
ちょっといぶかしがりながらも、まあ、ごちゃごちゃ説明されるよりは分かりやすいかと、女性が納得した。とはいえ、なんで、この者たちがボトルの通信文を手に入れてしまったのだろうか。何か手違いがあったのは間違いがないだろう。だいたい、こんな手の込んだやりとりをするのが間違いなのだ。まったくもう。
「確かに、ボトルに手紙を入れてあの店においてきたのですが。忘れ物だと思われたのですか。ええ、テーブルも間違いありません。それで、手紙はここにはないのですか?」
フードを後ろにやって顔を顕わにしながら、トライフから話を聞いた女性が訊ねた。淡い小麦色の肌をした、ほっそりとした美少女だ。黒いストレートヘアーはどれほどの長さかは分からないが、鬢の部分がマントから零れて胸元まで伸びているのを見ると、かなり長いに違いない。それにしても小柄で、エヴァよりも小さい。
「ちゃんと保管してあります。もちろん、中をあらためるなどと言う失礼な事はしておりません。ささ、私が御案内いたしま……いて!」
女性が正真正銘の美少女だと確認したトライフが、さらに態度を繕ったが、すかさずエヴァに足を蹴っ飛ばされて黙った。
「いいでしょう。あれは、あのお店である人に渡すよう頼んだ物なのですが、何か手違いがあったのですね。もう一度店の人に頼みますので、返していただければ幸いです」
話がつくと、ネグロが店に集合するように、トランシーバーで他の者たちに連絡を入れた。
●表通り
連絡を受けて、表通りを捜していたシリウスとアルナイルが元の店に逸早く戻っていた。そこへ、チュアルたちも男を連れて戻ってくる。
「やあ、彼が手紙を預かってくれているのかい。ありがとう、ありがとう。じゃあ、返してくれ」
なんだか、急ぐように男がシリウスたちに言った。
「ええと、大事な物みたいだったから、もう警備の人にあげちゃったよ」
なんだか男に胡散臭さを感じて、シリウスがちょっとカマをかけてみた。
「ええっ、それはまずい。いや、そんな手間をかけさせてしまっては。あっ、まさか、海軍に届けたんじゃないだろうね。あれは、まずい、海軍はダメだ!」
なんだか、思いっきり海軍を嫌がって、男が言った。なんだか、ますます怪しい。
「ほら、あれって、ラブレターだろ、恥ずかしいじゃないか」
そう、なんだか男がもじもじしたときだった。やっと、エヴァたちも少女を連れて戻ってきた。
「少佐……!? いえ、あなたがなんでここにいるんです?」
ちょっと驚いたように少女が言った。二人はちゃんと顔見知りらしい。
「いやあ、行き違いがあったようで……」
「ええと、そろそろラブレター返してあげようよ。それとも、あれって果たし状だったの?」
「ラブレター!?」
お腹が空いて限界に達したチュアルがみんなを急かすと、少女がちょっと驚いたように目を丸くした。
『あれ? 二人は恋人じゃないの?』
不審そうに、エヴァがカードをかざす。
「も、もちろん、恋人さ。愛してるよ、マイハニー」
「え、ええ、そうよね、ダーリン」
なんだか、わざとらしく、二人がだきあって見せた。
「ああ……」
それを見て、トライフがもの凄く残念そうに少女を見た。
仲睦まじい恋人を二人が見せている間に、エヴァが小瓶に何やら絵を描いてから少女に渡した。
『告白、頑張って』
手渡された小瓶と一緒に渡されたカードに書かれた言葉に、少女が思いっきり赤面する。
「あ、あの、こ、これを、うけとって、ほしいの……」
「ありが……とう、あとでゆっくりとよませてもらうよ」
なんだかぎくしゃくとした口調で、少女と男がボトルレターを受け渡しした。
「それじゃあ、僕たちは、これから二人だけの時間に入るから。ああ、お礼を渡さなくちゃね。恥ずかしいので、この事は内緒にしておいてくれ。じゃあ、ハニー、行こうかあ」
「ええ、ダーリン、行きましょう」
エヴァたちに口止め料としての礼金を渡すと、しっかりと肩をだきあいながら二人は夜の町の中へと消えていった。
「アルマート・トレナーレ少佐、これは貸しにしておくわよ」
「ああ、次は別の手を考えよう。ミチーノ・インフォル」
「ちょっと、いつまでだいてるのよ!」
そう言うと、少女が男に軽くパンチを浴びせかけた。
そのころのエヴァたちは店の中に入って豪華な夕食会の真っ最中で、それに気づく事もなかった。
●夕食
「はい、お待たせー」
一同が囲むテーブルの上に、食堂の主人が、でっかい平鍋をドンとおいた。
思わぬ臨時収入があったので、豪華特別料理を頼んだのだ。
「わーい、パエージャ!!」
両手にフォークとスプーンを持ったまま、チュアルがバンザイをして歓喜の声をあげる。
「食欲魔人、押さえて、押さえて」
ちょっと恥ずかしそうに、ルクレチアがチュアルを引っぱって椅子に座らせた。
でも、運ばれてきた食事はとても美味しそうだ。お米を使った料理で、近海で捕れる魚介類がこれでもかと入っている。いわゆる魚介炊き込み御飯にあたるのだが、その豪華さは特筆物だ。海老や貝や魚が、これでもかと美しく並べられている。
「初めて見るね。美味しそう」
「ええ」
トライフが銘々皿に取り分けてくれるのを待ちながら、シリウスがアルナイルと一緒に、いい香りを一杯に吸い込んで言った。
もちろん、トライフがこんなサービスをするのは、自分の好きな具材を確実に確保するためである。
「あっ、俺そんなにいらないから……いてっ」
小食なネグロが大盛りを遠慮するところへ、エヴァの容赦ない突っ込みが入った。
『食べられるときに食べる!』
「ああ、その通りだ。今日は、みんな変な事に巻き込まれたからな。遠慮しないで食おうぜ。これも何かの縁だ。これは俺からの奢りだぜ」
そんな調子のいい事を言いながら、トライフがネグロの皿にパエージャをてんこ盛りにした。
「いったい、中に何が入ってるやら」
厄介事の元凶を指先で突きながら、ネグロ・ノーチェ(ka0237)が言った。鋭敏な視覚で中に入っている紙を確かめようとするが、折りたたまれているためにやはりよく読めない。月だの夜だの抽象的な単語ばかりで、いかにも恋文という感じだ。
「うーん」
しきりにボトルをかたむけていると、いきなりネグロがポカリと頭を殴られた。
『他人の物、見ない』
エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)が、カードに書いた文字をネグロに突きつけた。
「なんだか、変なコンビだな」
今夜食堂で同席になった二人を見て、 トライフ・A・アルヴァイン(ka0657)が苦笑した。
一人は筆談で話す、ロンググレイの髪の赤目の少女。まあ、トライフはよく知っている顔だ。
その相棒は、フードつきコートで顔を隠した少年。こっちは初見だが、エヴァの知り合いとは可哀相な事だ。やれやれと、トライフが伊達眼鏡を軽く中指で持ちあげる。
今日、相席になって一緒に巻き込まれたのは、剣嬢路 チュアル(ka0859)という好奇心一杯の少女と、ルクレチア(ka0631)という豊かに波打つ銀髪が印象的なちょっと達観した少女という対照的なペア。それと、シリウス(ka0043)というエルフの少年と、彼についてきたアルナイル(ka0001)というエルフの少女のペアだ。
「多分、さっきのおねーさんが忘れていったんだよ。ここは、ちゃんと届けてあげないとね」
チュアルの言葉に、エヴァとシリウスとアルナイルがうんうんとうなずいた。他の者は、迷惑だがまあ仕方ないかという顔だ。
「手分けして探した方が早いよね。15分ごとに、ここに集合でいいかな。トランシーバーがあれば、連絡もとりやすいけど」
チュアルの言葉に、ネグロとアルナイルが、持っていたトランシーバーを軽く掲げて見せた。周波数を確認しあうと、姿を消した女性を捜しに出発する。
「まったく。届けたけりゃ勝手に……うおっ!?」
やってられねえと香りタバコに火をつけようとしたトライフが、エヴァにむんずと首根っこを掴まれた。ついでとばかりに、同じく渋っていたネグロも掴まれて、二人してエヴァに引きずられていく。そのまま三人は、裏通りの方へとむかっていった。
「いってらっしゃーい」
なんだか危なっかしいネグロからボトルレターを預かったシリウスが、アルナイルに手渡す。
「それにしても、なんでボトルレターなんだろう?」
ラブレターにしては、ちょっと変だなあとシリウスが小首をかしげた。
「はぐれないように手を繋いでいこうね」
「うん、シリィ」
シリウスは、仲良くアルナイルの手を握って表通りの方へとむかった。
「じゃあ、ちゃっちゃっとお届けして、美味しい物たくさん食べよーね、ルクリー」
「そうですね。それまで、御飯はおあずけですよ、チュアル」
チュアルとルクレチアもそう言葉を交わすと、飲食店の並ぶ通りの方へと、ふらふらと引き寄せられていく。
やや遅れて、食堂の中から男が飛び出してきた。
「くそ、あいつら、どこへ行った。あっちか!」
急いで周囲を見回すと、男は一同の後を追っていった。
●裏通り
「もういいかげん放してくれないか?」
ネグロに言われて、やっとエヴァが二人から手を放す。
やれやれという風に、男たちが軽く身支度を整え直した。
その間に、エヴァが何やら書き始めた。どうやら、捜している女性の似顔絵らしい。もっとも、目深に黒いレースのフードを被っていたので、顔はほとんど分からない。けれども、見た目はバッチリなので、聞き込みの役にはたつだろう。
『こういう人、知らない?』
エヴァが道行く男に訊ねると、男はうーんと考え込む仕種を見せた。
「知っているのか?」
ネグロが問い返した。
男が、まっすぐネグロを指さす。確かに、見た目がエヴァの描いた似顔絵にそっくりかもしれない。まあ、誰でも、フードで顔を隠していれば似たり寄ったりになるわけだが。
「まあ、仕方ないな。で、他には似た奴を見なかったか?」
後ろで、似た格好しているあんたが悪いとネグロをゲシゲシするエヴァを見なかった事にして、トライフが男に聞き直した。
「ここいらじゃ、そういう格好しているのは多いからなあ。そういやあ、ついさっきも、そういう格好をした小柄なのがあっちに行ったっけ。雰囲気からすると若い女の子かな?」
ちょうど、男が指さした路地裏の闇の中へネグロによく似た格好の人影が消えていく。
「若い女の子? ようし、後を追うぞ」
なぜか俄然やる気を出すと、トライフがエヴァたちをうながした。
●屋台通り
「さっさと見つけて、手紙を渡しちゃおうね。そうしたら、何を食べる? 私はお肉がいいなあ。あっ、あそこの屋台の骨付き肉、美味しそうだよ、ルクリー。じゅるり~」
「ええと、今捜しているのは女の人であって、お肉ではねーですよ」
「わ、分かってるわよ。忘れてなんかないよっ!」
ルクレチアにジト目で指摘されて、チュアルがあわてて否定した。とはいえ、焼き肉のたまらなくいい香りが、ここまで漂ってくる。
「とりあえず、聞き込みをするよ」
気を取り直して、チュアルが屋台のお兄さんに聞き込みをした。もちろん、試食で一切れもらう事は忘れてはいない。
「ふむふむ、そういう格好のおねーさんは、このへんでよく見かけると……。よし、ルクリー、張り込みだよ! あんパンとミルク用意して」
すっごく楽しそうに、チュアルが言った。
「そのノリはねーですよ」
「だって、なんだか探偵みたいじゃない。サルヴァトーレ・ロッソじゃ、そうやって探偵は見張りをするんだって」
なんだか、見てきたかのようにチュアルが言った。リアルブルーオタクとしては、ここは譲れないらしい。
「あんパンですか。豆を甘く煮て、パンに詰めるだとか。どういう発想でそんな事考えつくんですか。普通ねーですよ」
とはいえ、意外と美味しいので、ルクレチアも全否定はしにくいところだ。
「んっ、誰か来るですよ」
「ほんと? 隠れて隠れて!」
ルクレチアに言われて、チュアルが彼女を引っぱって物陰に隠れた。
すると、彼女たちを追って男が現れた。店でちょっと騒いでいた男だ。お兄さんと呼ぶにはもういい歳のようで、癖のある銀髪と、薄いアイスブルーの瞳が特徴的だ。がっしりとした身体つきをしているようだが、着痩せするのか、あまり目立たないようだ。
「誰です? わたしたちの後をつけてくるなんて、怪しすぎるったらねーですよ」
ルクレチアが、手に持ったライトを男にむけて言った。
「まぶしっ」
夜の闇の中、いきなり目映い光を突きつけられて、男が怯む。
「ふっ、戦うと言うのなら、相手になるですよ!」
さっと弓を構えて、チュアルが言った。
「おいおい、いきなりなんだよ。俺は探し物をしているだけだ。あんたら、瓶に入った手紙を見なかったか? ええと、こんくらいのやつでなあ」
待った待ったとチュアルを落ち着かせながら、男が訊ねてきた。
「なんで、あなたがそれを欲しがってるの?」
「ええっと……」
聞き返されて、男がちょっと困った顔をする。
「怪しい。やっぱり、あんたじゃねーです。あれは、女の人の物です」
ジーと男を凝視しながらルクレチアが言いました。
「しゃあないなあ、あれは、俺宛の手紙なんだよ。これで分かっただろ」
観念したように、男が言った。
「わからねーですよ。あのラブレターは女の人に返すです」
「うん、それにここにはないしね」
言ってしまってから、チュアルがしまったという顔をした。
「ラブレター。ああ、そう、ラブレターだ。分かった分かった。じゃあ、証明するから、あいつの所へ行こう。そうすりゃ分かるはずだ」
そこまで譲歩するから信じてくれと、男が言った。
「どうする、ルクリー」
チュアルがルクレチアと相談しようとしたときだ、トランシーバーから呼び出し音が響いた。
●裏通り
「いたいた」
店にいた女性らしき人影を見つけたネグロたちは、急いで彼女に追いついて呼び止めた。
「誰、あんたたちは?」
さすがに、見知らぬ三人組に裏通りで声をかけられて、女性がさっと身構えた。
「怪しい者じゃないさ。そこの綺麗なお嬢さん。少しいいかな、聞きたい事があるんだ」
相手が女性とあって、トライフが態度を変えた。フードで顔を隠してはいても、そこはトライフの美女センサーのメーターが振り切るほどの美少女だと一瞬で見抜く。ここで態度を変えなくて、いったいどこで態度を変えろと言うのだろうか。
「実は、あなたの大切な忘れ物を預かっているんだ。よければ、それをあなたにお返しする栄誉をこの俺に……ぐえっ」
『はいはい、ナンパはそこまで』
容赦なくトライフの脳天にハイキックをかましたホットパンツ姿のエヴァが、カードをかざすと間に割って入った。
『小瓶は預かっています。お返ししたいので店に戻ってくれますか?』
「なんで、いちいちカードで……」
ちょっといぶかしがりながらも、まあ、ごちゃごちゃ説明されるよりは分かりやすいかと、女性が納得した。とはいえ、なんで、この者たちがボトルの通信文を手に入れてしまったのだろうか。何か手違いがあったのは間違いがないだろう。だいたい、こんな手の込んだやりとりをするのが間違いなのだ。まったくもう。
「確かに、ボトルに手紙を入れてあの店においてきたのですが。忘れ物だと思われたのですか。ええ、テーブルも間違いありません。それで、手紙はここにはないのですか?」
フードを後ろにやって顔を顕わにしながら、トライフから話を聞いた女性が訊ねた。淡い小麦色の肌をした、ほっそりとした美少女だ。黒いストレートヘアーはどれほどの長さかは分からないが、鬢の部分がマントから零れて胸元まで伸びているのを見ると、かなり長いに違いない。それにしても小柄で、エヴァよりも小さい。
「ちゃんと保管してあります。もちろん、中をあらためるなどと言う失礼な事はしておりません。ささ、私が御案内いたしま……いて!」
女性が正真正銘の美少女だと確認したトライフが、さらに態度を繕ったが、すかさずエヴァに足を蹴っ飛ばされて黙った。
「いいでしょう。あれは、あのお店である人に渡すよう頼んだ物なのですが、何か手違いがあったのですね。もう一度店の人に頼みますので、返していただければ幸いです」
話がつくと、ネグロが店に集合するように、トランシーバーで他の者たちに連絡を入れた。
●表通り
連絡を受けて、表通りを捜していたシリウスとアルナイルが元の店に逸早く戻っていた。そこへ、チュアルたちも男を連れて戻ってくる。
「やあ、彼が手紙を預かってくれているのかい。ありがとう、ありがとう。じゃあ、返してくれ」
なんだか、急ぐように男がシリウスたちに言った。
「ええと、大事な物みたいだったから、もう警備の人にあげちゃったよ」
なんだか男に胡散臭さを感じて、シリウスがちょっとカマをかけてみた。
「ええっ、それはまずい。いや、そんな手間をかけさせてしまっては。あっ、まさか、海軍に届けたんじゃないだろうね。あれは、まずい、海軍はダメだ!」
なんだか、思いっきり海軍を嫌がって、男が言った。なんだか、ますます怪しい。
「ほら、あれって、ラブレターだろ、恥ずかしいじゃないか」
そう、なんだか男がもじもじしたときだった。やっと、エヴァたちも少女を連れて戻ってきた。
「少佐……!? いえ、あなたがなんでここにいるんです?」
ちょっと驚いたように少女が言った。二人はちゃんと顔見知りらしい。
「いやあ、行き違いがあったようで……」
「ええと、そろそろラブレター返してあげようよ。それとも、あれって果たし状だったの?」
「ラブレター!?」
お腹が空いて限界に達したチュアルがみんなを急かすと、少女がちょっと驚いたように目を丸くした。
『あれ? 二人は恋人じゃないの?』
不審そうに、エヴァがカードをかざす。
「も、もちろん、恋人さ。愛してるよ、マイハニー」
「え、ええ、そうよね、ダーリン」
なんだか、わざとらしく、二人がだきあって見せた。
「ああ……」
それを見て、トライフがもの凄く残念そうに少女を見た。
仲睦まじい恋人を二人が見せている間に、エヴァが小瓶に何やら絵を描いてから少女に渡した。
『告白、頑張って』
手渡された小瓶と一緒に渡されたカードに書かれた言葉に、少女が思いっきり赤面する。
「あ、あの、こ、これを、うけとって、ほしいの……」
「ありが……とう、あとでゆっくりとよませてもらうよ」
なんだかぎくしゃくとした口調で、少女と男がボトルレターを受け渡しした。
「それじゃあ、僕たちは、これから二人だけの時間に入るから。ああ、お礼を渡さなくちゃね。恥ずかしいので、この事は内緒にしておいてくれ。じゃあ、ハニー、行こうかあ」
「ええ、ダーリン、行きましょう」
エヴァたちに口止め料としての礼金を渡すと、しっかりと肩をだきあいながら二人は夜の町の中へと消えていった。
「アルマート・トレナーレ少佐、これは貸しにしておくわよ」
「ああ、次は別の手を考えよう。ミチーノ・インフォル」
「ちょっと、いつまでだいてるのよ!」
そう言うと、少女が男に軽くパンチを浴びせかけた。
そのころのエヴァたちは店の中に入って豪華な夕食会の真っ最中で、それに気づく事もなかった。
●夕食
「はい、お待たせー」
一同が囲むテーブルの上に、食堂の主人が、でっかい平鍋をドンとおいた。
思わぬ臨時収入があったので、豪華特別料理を頼んだのだ。
「わーい、パエージャ!!」
両手にフォークとスプーンを持ったまま、チュアルがバンザイをして歓喜の声をあげる。
「食欲魔人、押さえて、押さえて」
ちょっと恥ずかしそうに、ルクレチアがチュアルを引っぱって椅子に座らせた。
でも、運ばれてきた食事はとても美味しそうだ。お米を使った料理で、近海で捕れる魚介類がこれでもかと入っている。いわゆる魚介炊き込み御飯にあたるのだが、その豪華さは特筆物だ。海老や貝や魚が、これでもかと美しく並べられている。
「初めて見るね。美味しそう」
「ええ」
トライフが銘々皿に取り分けてくれるのを待ちながら、シリウスがアルナイルと一緒に、いい香りを一杯に吸い込んで言った。
もちろん、トライフがこんなサービスをするのは、自分の好きな具材を確実に確保するためである。
「あっ、俺そんなにいらないから……いてっ」
小食なネグロが大盛りを遠慮するところへ、エヴァの容赦ない突っ込みが入った。
『食べられるときに食べる!』
「ああ、その通りだ。今日は、みんな変な事に巻き込まれたからな。遠慮しないで食おうぜ。これも何かの縁だ。これは俺からの奢りだぜ」
そんな調子のいい事を言いながら、トライフがネグロの皿にパエージャをてんこ盛りにした。
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【相談卓】忘れ物のお届け! 剣嬢路 チュアル(ka0859) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/06/15 21:52:42 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/15 08:02:19 |