ゲスト
(ka0000)
【聖呪】其の贖罪は、呪いにも似て
マスター:ムジカ・トラス

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/16 12:00
- 完成日
- 2015/06/24 08:28
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
――何故、辺境に同道させて頂けないのですか。
それはフォーリが装備を改め、自らの使命に再び見を投じようとした時のことだった。幹部達から告げられたのは『後方にて待機』。教練にあたれ、という命令だった。
勿論フォーリはその由を尋ねた。
「フォーリ・イノサンティ。私は、これまでの貴方の功績を高く評価しています」
「ですが。”信仰”のもとに歪虚を祓うのが我々の使命です」
彼らの視線の鋭さは、歴戦の古兵であるフォーリを射抜き、その言葉を奪った。
「決して、”憎悪”であってはなりません」
「……っ」
その胸の裡。その身を縛ったのは紛れもなく、恐怖だった。畏れを呑みこんだか。あるいはそれに突き動かされたか。
「……失礼します」
フォーリは礼と共に、その場を辞した。鷹揚な頷きすら返る事無く鷹に似た目がいつまでもフォーリを見据えていた。
彼は気づいていなかった。自分が、何を恐れていたのか、ということを。
●
数ヶ月経った彼の元に、一通の手紙が届いた。
「オーラン……」
オーラン・クロス。同じエクラ教会に属するものではあるが、聖堂戦士団に身を置くフォーリとオーランでは日常の中で触れる事は殆どありはしない。
似ている点があるとすれば、年の頃が近しいこと、と。
「……爪弾き者、というところですかね」
自嘲と共に、言う。歪虚を憎む余り戦士団に釘を差され、謹慎に近しい処分を食らったフォーリと、教会の中でも曰くつきのオーランは、よく似ていた。
『親愛なるフォーリ。
君の家族の訃報を、いまさらながら耳にした。
君に下った処分の事をたどって初めて知ったんだ。
友として、便りが遅くなったことを申し訳なく思う
――君の御家族のご冥福を祈る。せめて、安らかに』
という書き出しで始まった手紙を読み進めるうちに、フォーリは手紙の理由を知った。
「……北部へ」
フォーリは、オーランの苦悩を、目的を、そして望みを知っている数少ない人間の一人だ。だからこその招集と知れた、が。
そのためにオーラン・クロスが関係者にフォーリの異動を掛け合った事は想像に難くない。
フォーリにとっても行かぬ理由は無いのだった。
●
「久しいね」
「ええ、壮健でしたか」
オーランが拠点としているルサスール領での再会となった。
エクラ教徒にとっては巡礼地の一つになっている場所に、その施設はあった。人里から離れた場所ではあるが、オーランはそこに一人で住んでいた。
記憶の中の姿と比べると、オーランは随分と老けて見えた。いっそ若々しい外見のフォーリと並ぶと、オーランは十余りも年上に見える。くすんだ金髪は乱雑に切り梳かれ、年季のはいったカソックはどこか粗野な印象を与えるが、その口調と声音は聖職者らしく、柔らかかった。
暫し、旧交を温めた後、オーランはおもむろにこう言った。
「実は、このルサスール領の領主であるカフェ様から手紙を頂いてね」
「……あなたに、ですか?」
「ああ。カフェ様は優秀なお方だね。何かと気にかけてくださる……実験の内容が内容だけに、かもしれないけど」
言葉の内容に、フォーリは初めて眉を顰めた。
「カフェ様には、全てお話したのですか?」
「全てじゃないけど、個人的な事に限れば、ね」
「……貴方は変わってない」
内容は、エクラ教会としては秘したい事の筈だ。それを、感情的な理由だけで詳らかにするのはオーランくらいだろう。
――いや、あるいは、オーランだからこそ、か。
「これ以上の重荷は背負えそうにもないからね」
オーランはそう言って苦笑し、すぐに、続けた。
「手紙によると、どうやら、領内にゴブリン達の姿が増えているらしい」
「それは、私も聞いてますが……」
王国北部を中心に亜人の姿が爆発的に見かけられるようになった事は、
「同時に、僕の方も佳境に入っていてね。ここから離れられない。そこで、君だ。実験が終わる間だけでもいい。その間だけ、護衛を、頼みたいんだ」
「オーラン……」
「……僕の贖罪も、もう少しで終わる。手伝ってくれないかな」
頼むよ、と。オーランは言った。
●
実際問題として、北部全体で見られる亜人達は数が非常に多い。それ故に、フォーリの提案でハンター達を雇う事になった。
「やあ、皆。僕の名はオーラン・クロスという。法術を使った結界の研究をしていてね。今はわけあってその新しい術式の開発するという……まあ、教会の中でも閑職についている」
草原の中にとん、と何気なく置かれた大きな要石を中心に据えたそこは、エクラ教徒の巡礼者が巡る地の一つでもある。その中心に陣取る一同の中で、フォーリの隣に立ったオーランの説明は続く。
「幸いにして、僕はかなり優秀だった。法術の研究では、だけどね。これまでも結構重要な案件を任されたりと、これまでの功績もあって、そういう仕事をしたいといったら了承されてね。今はカフェ様――ルサスール領の主に許可を取って、ここで研究をしている、というわけさ」
「……あの、特に本人に他意は無いので、甘く見てあげてください」
「なんのことだい、フォーリ?」
「……いいえ、何でもありません」
「平たくいえば、今回の実験は法術の結界を利用して所定のものからマテリアルを得る――そういう実験だね」
オーランは言いながら、男性にしては白い手を広げた。
「さて。いきなり、なんだけど。聖導士が扱う法術は、何もエクラ教徒でなくても使えるのは知っているかな」
くたびれた笑みを浮かべながら、続ける。
「法術っていうのは、結局のところ自分の裡にあるマテリアルを如何にして扱うか、という、その為の術なんだ。ほら、法術は人を癒やすだけでなくて、殴ったり蹴ったりと色々できるだろう? ヴィオラ・フルブライトや、このフォーリなどは実に強力な聖導士だけど、その武力はそういった技術の上になり立っているし、癒やしの術も結局のところ自己のマテリアルの操作の表現形の一つに過ぎないんだ。そういう意味では、法術の修行は武術の修行に通じる所がある。信仰は飽くまでも、法術の為のスイッチに過ぎない」
豪快にもそう言うオーランの姿は、聖職者というよりはむしろ、学者を思わせた。
「今回使うのは結界を扱う儀式魔法の一種でね。周囲の環境と自身のマテリアルを融和させ、操り、移動させる。今回は二つの陣を描き――いや、そういう説明は、いらないかな。とにかく、危険はないよ。僕は十五年間、この研究を続けてきたから」
まあ、興味があったらまた聞いてくれ、と小さく告げると。
「儀式は丸一日だ。法術の結界を描くのに十二時間。そして、その後儀式を十二時間くらいかな。その間の警護を頼みたい……よろしく頼むよ」
――何故、辺境に同道させて頂けないのですか。
それはフォーリが装備を改め、自らの使命に再び見を投じようとした時のことだった。幹部達から告げられたのは『後方にて待機』。教練にあたれ、という命令だった。
勿論フォーリはその由を尋ねた。
「フォーリ・イノサンティ。私は、これまでの貴方の功績を高く評価しています」
「ですが。”信仰”のもとに歪虚を祓うのが我々の使命です」
彼らの視線の鋭さは、歴戦の古兵であるフォーリを射抜き、その言葉を奪った。
「決して、”憎悪”であってはなりません」
「……っ」
その胸の裡。その身を縛ったのは紛れもなく、恐怖だった。畏れを呑みこんだか。あるいはそれに突き動かされたか。
「……失礼します」
フォーリは礼と共に、その場を辞した。鷹揚な頷きすら返る事無く鷹に似た目がいつまでもフォーリを見据えていた。
彼は気づいていなかった。自分が、何を恐れていたのか、ということを。
●
数ヶ月経った彼の元に、一通の手紙が届いた。
「オーラン……」
オーラン・クロス。同じエクラ教会に属するものではあるが、聖堂戦士団に身を置くフォーリとオーランでは日常の中で触れる事は殆どありはしない。
似ている点があるとすれば、年の頃が近しいこと、と。
「……爪弾き者、というところですかね」
自嘲と共に、言う。歪虚を憎む余り戦士団に釘を差され、謹慎に近しい処分を食らったフォーリと、教会の中でも曰くつきのオーランは、よく似ていた。
『親愛なるフォーリ。
君の家族の訃報を、いまさらながら耳にした。
君に下った処分の事をたどって初めて知ったんだ。
友として、便りが遅くなったことを申し訳なく思う
――君の御家族のご冥福を祈る。せめて、安らかに』
という書き出しで始まった手紙を読み進めるうちに、フォーリは手紙の理由を知った。
「……北部へ」
フォーリは、オーランの苦悩を、目的を、そして望みを知っている数少ない人間の一人だ。だからこその招集と知れた、が。
そのためにオーラン・クロスが関係者にフォーリの異動を掛け合った事は想像に難くない。
フォーリにとっても行かぬ理由は無いのだった。
●
「久しいね」
「ええ、壮健でしたか」
オーランが拠点としているルサスール領での再会となった。
エクラ教徒にとっては巡礼地の一つになっている場所に、その施設はあった。人里から離れた場所ではあるが、オーランはそこに一人で住んでいた。
記憶の中の姿と比べると、オーランは随分と老けて見えた。いっそ若々しい外見のフォーリと並ぶと、オーランは十余りも年上に見える。くすんだ金髪は乱雑に切り梳かれ、年季のはいったカソックはどこか粗野な印象を与えるが、その口調と声音は聖職者らしく、柔らかかった。
暫し、旧交を温めた後、オーランはおもむろにこう言った。
「実は、このルサスール領の領主であるカフェ様から手紙を頂いてね」
「……あなたに、ですか?」
「ああ。カフェ様は優秀なお方だね。何かと気にかけてくださる……実験の内容が内容だけに、かもしれないけど」
言葉の内容に、フォーリは初めて眉を顰めた。
「カフェ様には、全てお話したのですか?」
「全てじゃないけど、個人的な事に限れば、ね」
「……貴方は変わってない」
内容は、エクラ教会としては秘したい事の筈だ。それを、感情的な理由だけで詳らかにするのはオーランくらいだろう。
――いや、あるいは、オーランだからこそ、か。
「これ以上の重荷は背負えそうにもないからね」
オーランはそう言って苦笑し、すぐに、続けた。
「手紙によると、どうやら、領内にゴブリン達の姿が増えているらしい」
「それは、私も聞いてますが……」
王国北部を中心に亜人の姿が爆発的に見かけられるようになった事は、
「同時に、僕の方も佳境に入っていてね。ここから離れられない。そこで、君だ。実験が終わる間だけでもいい。その間だけ、護衛を、頼みたいんだ」
「オーラン……」
「……僕の贖罪も、もう少しで終わる。手伝ってくれないかな」
頼むよ、と。オーランは言った。
●
実際問題として、北部全体で見られる亜人達は数が非常に多い。それ故に、フォーリの提案でハンター達を雇う事になった。
「やあ、皆。僕の名はオーラン・クロスという。法術を使った結界の研究をしていてね。今はわけあってその新しい術式の開発するという……まあ、教会の中でも閑職についている」
草原の中にとん、と何気なく置かれた大きな要石を中心に据えたそこは、エクラ教徒の巡礼者が巡る地の一つでもある。その中心に陣取る一同の中で、フォーリの隣に立ったオーランの説明は続く。
「幸いにして、僕はかなり優秀だった。法術の研究では、だけどね。これまでも結構重要な案件を任されたりと、これまでの功績もあって、そういう仕事をしたいといったら了承されてね。今はカフェ様――ルサスール領の主に許可を取って、ここで研究をしている、というわけさ」
「……あの、特に本人に他意は無いので、甘く見てあげてください」
「なんのことだい、フォーリ?」
「……いいえ、何でもありません」
「平たくいえば、今回の実験は法術の結界を利用して所定のものからマテリアルを得る――そういう実験だね」
オーランは言いながら、男性にしては白い手を広げた。
「さて。いきなり、なんだけど。聖導士が扱う法術は、何もエクラ教徒でなくても使えるのは知っているかな」
くたびれた笑みを浮かべながら、続ける。
「法術っていうのは、結局のところ自分の裡にあるマテリアルを如何にして扱うか、という、その為の術なんだ。ほら、法術は人を癒やすだけでなくて、殴ったり蹴ったりと色々できるだろう? ヴィオラ・フルブライトや、このフォーリなどは実に強力な聖導士だけど、その武力はそういった技術の上になり立っているし、癒やしの術も結局のところ自己のマテリアルの操作の表現形の一つに過ぎないんだ。そういう意味では、法術の修行は武術の修行に通じる所がある。信仰は飽くまでも、法術の為のスイッチに過ぎない」
豪快にもそう言うオーランの姿は、聖職者というよりはむしろ、学者を思わせた。
「今回使うのは結界を扱う儀式魔法の一種でね。周囲の環境と自身のマテリアルを融和させ、操り、移動させる。今回は二つの陣を描き――いや、そういう説明は、いらないかな。とにかく、危険はないよ。僕は十五年間、この研究を続けてきたから」
まあ、興味があったらまた聞いてくれ、と小さく告げると。
「儀式は丸一日だ。法術の結界を描くのに十二時間。そして、その後儀式を十二時間くらいかな。その間の警護を頼みたい……よろしく頼むよ」
リプレイ本文
●
柔らかな風が草原を撫で、風に混じった陽射しが緩やかな暖気を届けている。
「ほーじゅつ、ちょっとキョーミあったんですよねぃ! オーランのおっちゃん、お手伝いしますぜ」
「おっちゃん……」
その陽気に似た笑顔が咲いた。鬼百合(ka3667)。痩身に過ぎる身体でオーランを見上げながら、言う。心が逸っているのだろう。オーランの微妙な表情には気づきはしなかった。
「コウだ。宜しくな」
「ええ」
年の頃は鬼百合と同じか。ぶっきらぼうにフォーリに告げたコウ(ka3233)は、周囲を見渡す。妙な依頼だ、と幼いながらに思う。彼流に言葉にすれば、
――いるやつもなんか変だし。
となる。例えば、雨音に微睡む玻璃草(ka4538)――フィリアなどは要石に背を預け奇妙な音調の鼻歌を口ずさんでいる。少年には奇異に映ったことだろう。
「……久しぶり、司祭さん」
「貴女は……篝さん、でしたね」
フォーリの元に、一人の少女。八原 篝(ka3104)だ。不満げな少女とは対照的に、フォーリは柔らかな表情を崩さない。その事が、少女の胸中を更に逆撫でした。
聖職者らしい独善にも似たそれを、許容できなかった。
「……あの時、あなたが悪い道に唆していた男の子に会ったわ。苦労してるみたいだけど、がんばってた」
かつての男の所業を少女は赦してはいない。ただ、これだけは伝えなくては、と思っただけのこと。
「がんばって、強くなってたわ」
そうして、言葉と視線を切る。背に、そうでしたか、と独語が落ちた。嬉しげな表情が容易く想像でき、少女は小さく、舌打ちを零したのだった。
●
オーランが短杖で地面に陣を描く。杖先に塗られた触媒がマテリアルに反応し、蒼い光を放ち始める中、ハンター達はオーランを囲むように、用意していた天幕を張り始めた。
「俺には術の良し悪しは解らんが、見事なものだな」
「ええ……」
柔らかな前髪を風に揺らしながらジル・ティフォージュ(ka3873)が言えば、ユージーン・L・ローランド(ka1810)が頷きを返した。血は繋がらずとも言葉と視線には親愛が混じっている。
「「……」」
「……何してるの?」
渋い顔をしているコウと鬼百合に、周囲の警戒をしていた遠火 楓(ka4929)は怪訝そうに言葉を投げた。
「いや」「別に……」
最初こそ手伝いをしていた鬼百合だが途中から忸怩たる思いで作業を見守っていた。楓と同じく周囲警戒をしていたコウも何となくそれにつられたか。
楓は二人を『見下ろし』て――得心が入った。
「ぁー」
たかさが たりない!
楓も背が高い方ではないが、二人は際立って小柄だ。
「んー……気にしないでいいんじゃない。ほら、あの子だって楽しそうだし」
「♪~」
こちらも手が届かなくなって以降手伝いを放棄したフィリアが陽気を浴びながら鼻歌を紡いでいる。視線に気づいたか、フィリアは。
「周りを見てるだけでは退屈ね」
真っすぐに鬼百合を見据えながら、そう告げた。
「ほ?」
「ねえ、鬼ごっこしましょう? 鬼は鬼百合。だってあなたは鬼だもの」
「えっ? オレ?」
惑う鬼百合を余所に走り出すフィリア。早い。何しろ一切の遠慮がない。
「ま、待って下うべっ!」
追い掛ける鬼百合は動転が足に来たか、転倒。
「『葦海の亀』でももっと早く走れるわよ?」
置きあがろうとする鬼百合にフィリアは笑いかけて、再び走りだした。
「あー……退屈」
さっさとゴブリンでも何でもこればいいのに、と吐き捨てる楓を、ジト目で見つめるコウ。
――此度の面容は中々に特異であることはまあ、間違いないだろう。
●
テント周りの最終確認をしているジルから離れ、ユージーンはフォーリの元へと足を運んだ。話したいことが、あった。
「以前は……その。お見苦しい所をお見せしました。シュリさんにも」
「いえ、あの件は私も悪かったです」
頭を下げようとするユージーンをフォーリが留めた。ユージーンはそれでも、小さく会釈をし――遠くを、見つめた。
「……もう二度と取り戻せない人の事を思うと、まだ心は乱れます」
「……」
ぽつり、と。静かな呟きが大気に溶けた。
「でも、僕が泣いたり、彼の仇を憎んだりしていたら……きっと“彼”は悲しむ」
言葉の色と内容に息を呑む司祭に、ユージーンは続けた。
「彼が笑顔でいてくれるような自分であるために。今、自分を想ってくれる人達を大切にしていきたいと思っています……1人で背負う必要はない、って言ってくれた人もいますし」
視線の先。兄と慕う男の姿を認めて少し表情を緩める。フォーリはその清らかさを眩しそうに見つめると。
「それは……とても幸せな事だと思いますよ」
と、言った。
●
遠くでフィリアと鬼百合がはしゃぐ声が響く。牧歌的な雰囲気の中、篝は陣を描くオーランに言葉を投げた。
「この実験って、結構重要なものなの?」
「不思議かい」
「そうね。たった二人とハンターだけ、なんて」
「教会内でも、限られた人間しか知らないんだ。僕の事も、この実験の”意味”も、ね。備えあれば憂いなし、って言うだろう? そういう実験なんだ」
「……」
篝は小さく、言葉を呑みこんだ。告げるオーランの表情が――いやに傷ついているように見えたからだ。
「……巡礼地で儀式する意味はあるの?」
「少しだけ、ね。ただ――」
それも言えないのさ、と。苦笑した。返答は兎も角、オーランの沈鬱は晴れたように見えて篝は胸中で安堵を抱く。根は優しい少女だ。徒に踏み躙るつもりも、今のところは無かった。
「そういえばオーラン。ご飯はどうするの?」
言葉が落ちた。楓だ。
「誰かが食べさせてくれたら食べれるね」
「飴でも舐める?」
「飴かぁ……」
「……悪かったわね、料理できなくて」
確りとポテチを確保していう楓に曖昧な苦笑が満ちた。気にせずに飴をオーランの口元に放った楓は煌々と灯る魔法陣を見下ろす。
「ね、この術、私も使えるようになる?」
「しっかり学べば、ね」
「……無理そうね。でも、素養があれば悪用も出来そう」
「……どうかな。悪用しようと思うと結構大変かもしれないね」
「そう? 最近、聖女云々できな臭い話もあるみたいだし――」
「……」
ひたり、と。オーランの動きが止まった。陣を描く手も――呼吸も。俯いているオーランの表情は伺えなかったが、明らかに、異様。
暫しの後、顔を上げたオーランは、少しだけ真剣な表情で口を開いた。
「良ければその話、聞かせてもらえるかい?」
「え? いいけど……どうしたの?」
「こう見えて教会関係者だからね。気になったのさ」
●
少年――コウは孤児院で暮らしている。
覚醒者であり手に職を持つ彼は真実、周囲の孤児たちとは“違う”。それ故に、だろうか。コウは今、草原を見渡しながら……悩みを抱いていた。
「信仰は、切り替える為のスイッチか……」
その言葉が、澱のように、彼の心中で凝るのだった。
――ガキどもは、いつも手を合わせていた。
「信仰ってのが切り替えの為のスイッチ程度なら、あいつらは何の為に祈ってんだよ……」
ぽつり、と零れた言葉を。聞いていたのだろうか。
「良ければ、聞かせて貰えますか?」
「……あんた」
フォーリが、そこに居た。心ここにあらずといった少年の懊悩の気配に声をかけずに居られなかったのだろうか。
コウの思う所を聞いた男は、微かに顎を引く。
「本来、マテリアルを扱うのは大変な事、です」
「そうか?」
小首をかしげるコウに、頷きが返った。
「最低限の部分は、自然に扱うことはできますが……法術の根底には、願いがあります。人を癒し、守るという“奇跡”を願い――その為に私たちは信仰を核に術と、力を振るいます」
フォーリはそっとコウの背に触れる。
「君の弟達の祈りは――願いは、紛れもなく本物なのでしょう。貴方が、そうやってお悩みになるくらいですから……それは、決して貶められるものではないですよ」
言葉が耳朶に触れた、その時だ。
「来たわ!」
楓の声と、同時。からりからり、と、音がした。
●
音の正体は、鬼ごっこに飽いたフィリアと鬼百合が作った簡単な鳴子だった。
そうでなくとも日中の襲撃を見逃すハンター達ではない。素早くオーランを背に立つ篝を余所に、ハンター達は機動する。
「“百々目鬼”の目からのがれられるとお思いですかぃ?」
鬼百合の全身に“目”が湧く。数多にも咲いた目は彼が契約した“鬼”の顕現。異容をその身に顕しながらも、鬼百合は不敵な表情を崩さない。
魔術を紡ぐ。火球がゴブリン達を呑みこむと同時。篝が放った銃弾を背負い、踊るように飛び込んだフィリアの剣閃が走り、楓の日本刀がアカイロを散らす。
「なにこれ! 弱すぎない?」
切りつけた瞬後に苦言を吐いた楓を余所に、次いで飛び込んだジルの剣が舞い、なおも踏み込まんとするゴブリンに、コウは銃撃を浴びせる。
ゴブリン達は天幕に届くどころか、丘を越え、草原を踏破することも叶わず、あっという間に――徹底的に、駆逐された。
「不甲斐ない。こんなものか?」
「……治療の必要もない、とは」
「この結果では、加害者の誹りは避けられなそうだ」
騎士剣についた血を払うジルに、苦笑するユージーン。篝はゴブリン達の遺体を注意深く眺めていたが。
「消えないのね」
そう零すと周囲の警戒に戻った。懸念はこの場においては晴れたようだった。
●
「パンケーキが食べたいわ」
陽が落ちた頃。ローテーションを組んでの周囲警戒が始まると、フィリアはお腹を押さえてそう言った。
「作るんですかい?」
「作り方? ううん、わたし作ったことないわ」
「……」
嬉しげな表情から一転、うんうん唸りながらパンケーキを作り始める鬼百合。香りの中、ユージーンが夜半の警戒に備えて仮眠を取っているのを確認したジルは静かに立ち上がった。
「少し、良いか」
声を落とし、フォーリの方へと。周囲には誰もいない暫しの逡巡の後、真っすぐにフォーリを見据え、こう言った。
「……貴公は、歪虚を激しく憎んでいると伺った。それを貴公は悪しき事だと思われるか?」
「それは」
フォーリの声色に、痛みを見たか。男は苦笑。
「俺自身も憎いのだよ、帝国の若き女帝と、彼女率いるあの体制がな」
そこには、昏い激情が宿っていた。“弟”が居ない時を計ったのは、このためか。言葉に滲む情動は、青年の憧憬と比べるとなんと酸鼻なことか。
――その憧憬故に、かもしれない。二人を見比べて、フォーリは思った。
「細かいことは解らん。だが、誰かに『いなくなってしまえば良いのに』と思われたのは確かだ。だから国を脱してここにいる」
そう言うジルは酷く疲れた息を零す。
「――何が正しいのか、わからんのだよ。俺の父は死んで当然の悪人であったのか。俺達は居てはならぬ存在だったのか」
「貴方はそのことを、恨んでいるのですか?」
「恨んでいるし、憎んでいる」
「……それなら、私達は似ているかもしれませんね」
憤怒の籠る声は――何処か、懺悔にも、似ていて。
だからフォーリは、こう言った。
「今の私達には、出口など、有りはしないのでしょうね。それでも……進むべき道が、あるだけで」
自らの、思う所を。言葉は、どのようにジルの裡に響いたか。
「少し、安堵した。非礼は詫びよう。だが……些か、重くてな」
「……そうでしょうね」
共犯めいた視線を、交わすのだった。
●
ハンター達の対応は十分な成果を上げていた。天幕はオーランの術から零れる光を塞ぎ、月夜の下であれば決して目立つ程のものではない。散発的なゴブリン達との遭遇戦に対応すればよく、戦闘そのものは瑣末なモノであった。
そうして、夜も深くなろうという頃。
「君は、寝なくてもいいのかい?」
オーランの言葉は、天幕内に訪れていた少女――フィリアへのもの。傍らでは、熱心に術式を眺めていた鬼百合が熟睡している。少女は緩やかに笑むと、
「夜更かしは大好きなの」
ばれたら怒られちゃうけど、と微笑む少女はそのまま、小首を傾げた。
「……ねえ、おじいさん。教えて?」
「おじいさん」
どうやら今日一日で随分と老けこんだようだ、と苦笑するオーランに構わず、言う。
「マテリアルはどこに移すの? おじいさんへ? それともおじいさん『から』?」
「おや、結構するどいね、君」
「教えて?」
「……そして結構強引だ」
じ、と見つめられたオーランは降参を示すように首を振る。
「僕から、さ」
「そう」
そのままフィリアは両手を枕にしながら。
「ねえ、おじいさん、疲れてるの?
それとも悲しいの?
『長足靴の茸』だって……もっとシャキっとしてるのに……」
そのままことり、と。少女は眠りに落ちた。遊び過ぎである。
二つの幼子の寝息が満ちるなか、柔らかく微笑んだオーランは儀式を続け――。
●
さて。余りに恙無く実験は進行した。
「遊び過ぎた気がしやすね」
「鬼百合ったら、『悪戯好きの蟋蟀』みたいだったわ。ちゃんと仕事しなくちゃ」
「いやー」
夫々に笑う鬼百合とフィリア。戦闘も十全にこなしたのだが、楽しさが勝り、それ以外の記憶の方が色濃い。
「オーランさんの抱えていらっしゃる憂い……この実験が成功すれば少しは晴れるでしょうか」
「どう、だろうな」
最終術式を編むオーランを見つめてのユージーンの言葉に対するジルの応答は、呟きに似ていた。
――俺にはどうにも、『あの二人』は似ているように見える。
それだけは胸中に留めて、見守ることにした。
一つ目の陣から、外側の陣へとマテリアルが流れていく。飽和したマテリアルが術を顕現させるまで、僅かな間を置いて――術が、成った。
幼い、歓声。
天幕を貫いて蒼光が空に上がった。瞬後、殷々と音を曳いて彼方へと散っていく。光芒に篝は故郷を想起し――言葉が、溢れた。
「花火……」
「ね、イノサンティ。この陣、聖女と関係あるの?」
「……何故、です?」
「勘。ま、いいけど……そだ。イノサンティって強いんでしょ? 今度打ち合いでもしようよ」
「……ええ、それでは、機会がありましたら」
ある意味少女らしい言葉にフォーリは苦笑した。つと、視線を感じて、そちらの方を見やるとコウがフォーリを見つめていた。
「俺もガキだから難しいことは解んねえ。だけど」
気難しげな表情のまま、告げる。
「“アイツ”らが頑張ってる事がバケモンどもに台無しにされるのは……嫌だ」
だから、戦う、という。それは、少年の決意に他ならなかった。
「私が使命を得たのは貴方くらいの歳の事でした。その思いは、きっと貴方の宝になります、から……頑張ってくださいね」
そういうフォーリは微笑みと共に、その背を軽く、叩いた。
かくして。オーラン・クロスの実験は成功し――物語は、次の幕へと移るのであった。
楓の口から聞いた、聖女の名。
――それが呪いのように、オーラン自身を駆り立てていた。
柔らかな風が草原を撫で、風に混じった陽射しが緩やかな暖気を届けている。
「ほーじゅつ、ちょっとキョーミあったんですよねぃ! オーランのおっちゃん、お手伝いしますぜ」
「おっちゃん……」
その陽気に似た笑顔が咲いた。鬼百合(ka3667)。痩身に過ぎる身体でオーランを見上げながら、言う。心が逸っているのだろう。オーランの微妙な表情には気づきはしなかった。
「コウだ。宜しくな」
「ええ」
年の頃は鬼百合と同じか。ぶっきらぼうにフォーリに告げたコウ(ka3233)は、周囲を見渡す。妙な依頼だ、と幼いながらに思う。彼流に言葉にすれば、
――いるやつもなんか変だし。
となる。例えば、雨音に微睡む玻璃草(ka4538)――フィリアなどは要石に背を預け奇妙な音調の鼻歌を口ずさんでいる。少年には奇異に映ったことだろう。
「……久しぶり、司祭さん」
「貴女は……篝さん、でしたね」
フォーリの元に、一人の少女。八原 篝(ka3104)だ。不満げな少女とは対照的に、フォーリは柔らかな表情を崩さない。その事が、少女の胸中を更に逆撫でした。
聖職者らしい独善にも似たそれを、許容できなかった。
「……あの時、あなたが悪い道に唆していた男の子に会ったわ。苦労してるみたいだけど、がんばってた」
かつての男の所業を少女は赦してはいない。ただ、これだけは伝えなくては、と思っただけのこと。
「がんばって、強くなってたわ」
そうして、言葉と視線を切る。背に、そうでしたか、と独語が落ちた。嬉しげな表情が容易く想像でき、少女は小さく、舌打ちを零したのだった。
●
オーランが短杖で地面に陣を描く。杖先に塗られた触媒がマテリアルに反応し、蒼い光を放ち始める中、ハンター達はオーランを囲むように、用意していた天幕を張り始めた。
「俺には術の良し悪しは解らんが、見事なものだな」
「ええ……」
柔らかな前髪を風に揺らしながらジル・ティフォージュ(ka3873)が言えば、ユージーン・L・ローランド(ka1810)が頷きを返した。血は繋がらずとも言葉と視線には親愛が混じっている。
「「……」」
「……何してるの?」
渋い顔をしているコウと鬼百合に、周囲の警戒をしていた遠火 楓(ka4929)は怪訝そうに言葉を投げた。
「いや」「別に……」
最初こそ手伝いをしていた鬼百合だが途中から忸怩たる思いで作業を見守っていた。楓と同じく周囲警戒をしていたコウも何となくそれにつられたか。
楓は二人を『見下ろし』て――得心が入った。
「ぁー」
たかさが たりない!
楓も背が高い方ではないが、二人は際立って小柄だ。
「んー……気にしないでいいんじゃない。ほら、あの子だって楽しそうだし」
「♪~」
こちらも手が届かなくなって以降手伝いを放棄したフィリアが陽気を浴びながら鼻歌を紡いでいる。視線に気づいたか、フィリアは。
「周りを見てるだけでは退屈ね」
真っすぐに鬼百合を見据えながら、そう告げた。
「ほ?」
「ねえ、鬼ごっこしましょう? 鬼は鬼百合。だってあなたは鬼だもの」
「えっ? オレ?」
惑う鬼百合を余所に走り出すフィリア。早い。何しろ一切の遠慮がない。
「ま、待って下うべっ!」
追い掛ける鬼百合は動転が足に来たか、転倒。
「『葦海の亀』でももっと早く走れるわよ?」
置きあがろうとする鬼百合にフィリアは笑いかけて、再び走りだした。
「あー……退屈」
さっさとゴブリンでも何でもこればいいのに、と吐き捨てる楓を、ジト目で見つめるコウ。
――此度の面容は中々に特異であることはまあ、間違いないだろう。
●
テント周りの最終確認をしているジルから離れ、ユージーンはフォーリの元へと足を運んだ。話したいことが、あった。
「以前は……その。お見苦しい所をお見せしました。シュリさんにも」
「いえ、あの件は私も悪かったです」
頭を下げようとするユージーンをフォーリが留めた。ユージーンはそれでも、小さく会釈をし――遠くを、見つめた。
「……もう二度と取り戻せない人の事を思うと、まだ心は乱れます」
「……」
ぽつり、と。静かな呟きが大気に溶けた。
「でも、僕が泣いたり、彼の仇を憎んだりしていたら……きっと“彼”は悲しむ」
言葉の色と内容に息を呑む司祭に、ユージーンは続けた。
「彼が笑顔でいてくれるような自分であるために。今、自分を想ってくれる人達を大切にしていきたいと思っています……1人で背負う必要はない、って言ってくれた人もいますし」
視線の先。兄と慕う男の姿を認めて少し表情を緩める。フォーリはその清らかさを眩しそうに見つめると。
「それは……とても幸せな事だと思いますよ」
と、言った。
●
遠くでフィリアと鬼百合がはしゃぐ声が響く。牧歌的な雰囲気の中、篝は陣を描くオーランに言葉を投げた。
「この実験って、結構重要なものなの?」
「不思議かい」
「そうね。たった二人とハンターだけ、なんて」
「教会内でも、限られた人間しか知らないんだ。僕の事も、この実験の”意味”も、ね。備えあれば憂いなし、って言うだろう? そういう実験なんだ」
「……」
篝は小さく、言葉を呑みこんだ。告げるオーランの表情が――いやに傷ついているように見えたからだ。
「……巡礼地で儀式する意味はあるの?」
「少しだけ、ね。ただ――」
それも言えないのさ、と。苦笑した。返答は兎も角、オーランの沈鬱は晴れたように見えて篝は胸中で安堵を抱く。根は優しい少女だ。徒に踏み躙るつもりも、今のところは無かった。
「そういえばオーラン。ご飯はどうするの?」
言葉が落ちた。楓だ。
「誰かが食べさせてくれたら食べれるね」
「飴でも舐める?」
「飴かぁ……」
「……悪かったわね、料理できなくて」
確りとポテチを確保していう楓に曖昧な苦笑が満ちた。気にせずに飴をオーランの口元に放った楓は煌々と灯る魔法陣を見下ろす。
「ね、この術、私も使えるようになる?」
「しっかり学べば、ね」
「……無理そうね。でも、素養があれば悪用も出来そう」
「……どうかな。悪用しようと思うと結構大変かもしれないね」
「そう? 最近、聖女云々できな臭い話もあるみたいだし――」
「……」
ひたり、と。オーランの動きが止まった。陣を描く手も――呼吸も。俯いているオーランの表情は伺えなかったが、明らかに、異様。
暫しの後、顔を上げたオーランは、少しだけ真剣な表情で口を開いた。
「良ければその話、聞かせてもらえるかい?」
「え? いいけど……どうしたの?」
「こう見えて教会関係者だからね。気になったのさ」
●
少年――コウは孤児院で暮らしている。
覚醒者であり手に職を持つ彼は真実、周囲の孤児たちとは“違う”。それ故に、だろうか。コウは今、草原を見渡しながら……悩みを抱いていた。
「信仰は、切り替える為のスイッチか……」
その言葉が、澱のように、彼の心中で凝るのだった。
――ガキどもは、いつも手を合わせていた。
「信仰ってのが切り替えの為のスイッチ程度なら、あいつらは何の為に祈ってんだよ……」
ぽつり、と零れた言葉を。聞いていたのだろうか。
「良ければ、聞かせて貰えますか?」
「……あんた」
フォーリが、そこに居た。心ここにあらずといった少年の懊悩の気配に声をかけずに居られなかったのだろうか。
コウの思う所を聞いた男は、微かに顎を引く。
「本来、マテリアルを扱うのは大変な事、です」
「そうか?」
小首をかしげるコウに、頷きが返った。
「最低限の部分は、自然に扱うことはできますが……法術の根底には、願いがあります。人を癒し、守るという“奇跡”を願い――その為に私たちは信仰を核に術と、力を振るいます」
フォーリはそっとコウの背に触れる。
「君の弟達の祈りは――願いは、紛れもなく本物なのでしょう。貴方が、そうやってお悩みになるくらいですから……それは、決して貶められるものではないですよ」
言葉が耳朶に触れた、その時だ。
「来たわ!」
楓の声と、同時。からりからり、と、音がした。
●
音の正体は、鬼ごっこに飽いたフィリアと鬼百合が作った簡単な鳴子だった。
そうでなくとも日中の襲撃を見逃すハンター達ではない。素早くオーランを背に立つ篝を余所に、ハンター達は機動する。
「“百々目鬼”の目からのがれられるとお思いですかぃ?」
鬼百合の全身に“目”が湧く。数多にも咲いた目は彼が契約した“鬼”の顕現。異容をその身に顕しながらも、鬼百合は不敵な表情を崩さない。
魔術を紡ぐ。火球がゴブリン達を呑みこむと同時。篝が放った銃弾を背負い、踊るように飛び込んだフィリアの剣閃が走り、楓の日本刀がアカイロを散らす。
「なにこれ! 弱すぎない?」
切りつけた瞬後に苦言を吐いた楓を余所に、次いで飛び込んだジルの剣が舞い、なおも踏み込まんとするゴブリンに、コウは銃撃を浴びせる。
ゴブリン達は天幕に届くどころか、丘を越え、草原を踏破することも叶わず、あっという間に――徹底的に、駆逐された。
「不甲斐ない。こんなものか?」
「……治療の必要もない、とは」
「この結果では、加害者の誹りは避けられなそうだ」
騎士剣についた血を払うジルに、苦笑するユージーン。篝はゴブリン達の遺体を注意深く眺めていたが。
「消えないのね」
そう零すと周囲の警戒に戻った。懸念はこの場においては晴れたようだった。
●
「パンケーキが食べたいわ」
陽が落ちた頃。ローテーションを組んでの周囲警戒が始まると、フィリアはお腹を押さえてそう言った。
「作るんですかい?」
「作り方? ううん、わたし作ったことないわ」
「……」
嬉しげな表情から一転、うんうん唸りながらパンケーキを作り始める鬼百合。香りの中、ユージーンが夜半の警戒に備えて仮眠を取っているのを確認したジルは静かに立ち上がった。
「少し、良いか」
声を落とし、フォーリの方へと。周囲には誰もいない暫しの逡巡の後、真っすぐにフォーリを見据え、こう言った。
「……貴公は、歪虚を激しく憎んでいると伺った。それを貴公は悪しき事だと思われるか?」
「それは」
フォーリの声色に、痛みを見たか。男は苦笑。
「俺自身も憎いのだよ、帝国の若き女帝と、彼女率いるあの体制がな」
そこには、昏い激情が宿っていた。“弟”が居ない時を計ったのは、このためか。言葉に滲む情動は、青年の憧憬と比べるとなんと酸鼻なことか。
――その憧憬故に、かもしれない。二人を見比べて、フォーリは思った。
「細かいことは解らん。だが、誰かに『いなくなってしまえば良いのに』と思われたのは確かだ。だから国を脱してここにいる」
そう言うジルは酷く疲れた息を零す。
「――何が正しいのか、わからんのだよ。俺の父は死んで当然の悪人であったのか。俺達は居てはならぬ存在だったのか」
「貴方はそのことを、恨んでいるのですか?」
「恨んでいるし、憎んでいる」
「……それなら、私達は似ているかもしれませんね」
憤怒の籠る声は――何処か、懺悔にも、似ていて。
だからフォーリは、こう言った。
「今の私達には、出口など、有りはしないのでしょうね。それでも……進むべき道が、あるだけで」
自らの、思う所を。言葉は、どのようにジルの裡に響いたか。
「少し、安堵した。非礼は詫びよう。だが……些か、重くてな」
「……そうでしょうね」
共犯めいた視線を、交わすのだった。
●
ハンター達の対応は十分な成果を上げていた。天幕はオーランの術から零れる光を塞ぎ、月夜の下であれば決して目立つ程のものではない。散発的なゴブリン達との遭遇戦に対応すればよく、戦闘そのものは瑣末なモノであった。
そうして、夜も深くなろうという頃。
「君は、寝なくてもいいのかい?」
オーランの言葉は、天幕内に訪れていた少女――フィリアへのもの。傍らでは、熱心に術式を眺めていた鬼百合が熟睡している。少女は緩やかに笑むと、
「夜更かしは大好きなの」
ばれたら怒られちゃうけど、と微笑む少女はそのまま、小首を傾げた。
「……ねえ、おじいさん。教えて?」
「おじいさん」
どうやら今日一日で随分と老けこんだようだ、と苦笑するオーランに構わず、言う。
「マテリアルはどこに移すの? おじいさんへ? それともおじいさん『から』?」
「おや、結構するどいね、君」
「教えて?」
「……そして結構強引だ」
じ、と見つめられたオーランは降参を示すように首を振る。
「僕から、さ」
「そう」
そのままフィリアは両手を枕にしながら。
「ねえ、おじいさん、疲れてるの?
それとも悲しいの?
『長足靴の茸』だって……もっとシャキっとしてるのに……」
そのままことり、と。少女は眠りに落ちた。遊び過ぎである。
二つの幼子の寝息が満ちるなか、柔らかく微笑んだオーランは儀式を続け――。
●
さて。余りに恙無く実験は進行した。
「遊び過ぎた気がしやすね」
「鬼百合ったら、『悪戯好きの蟋蟀』みたいだったわ。ちゃんと仕事しなくちゃ」
「いやー」
夫々に笑う鬼百合とフィリア。戦闘も十全にこなしたのだが、楽しさが勝り、それ以外の記憶の方が色濃い。
「オーランさんの抱えていらっしゃる憂い……この実験が成功すれば少しは晴れるでしょうか」
「どう、だろうな」
最終術式を編むオーランを見つめてのユージーンの言葉に対するジルの応答は、呟きに似ていた。
――俺にはどうにも、『あの二人』は似ているように見える。
それだけは胸中に留めて、見守ることにした。
一つ目の陣から、外側の陣へとマテリアルが流れていく。飽和したマテリアルが術を顕現させるまで、僅かな間を置いて――術が、成った。
幼い、歓声。
天幕を貫いて蒼光が空に上がった。瞬後、殷々と音を曳いて彼方へと散っていく。光芒に篝は故郷を想起し――言葉が、溢れた。
「花火……」
「ね、イノサンティ。この陣、聖女と関係あるの?」
「……何故、です?」
「勘。ま、いいけど……そだ。イノサンティって強いんでしょ? 今度打ち合いでもしようよ」
「……ええ、それでは、機会がありましたら」
ある意味少女らしい言葉にフォーリは苦笑した。つと、視線を感じて、そちらの方を見やるとコウがフォーリを見つめていた。
「俺もガキだから難しいことは解んねえ。だけど」
気難しげな表情のまま、告げる。
「“アイツ”らが頑張ってる事がバケモンどもに台無しにされるのは……嫌だ」
だから、戦う、という。それは、少年の決意に他ならなかった。
「私が使命を得たのは貴方くらいの歳の事でした。その思いは、きっと貴方の宝になります、から……頑張ってくださいね」
そういうフォーリは微笑みと共に、その背を軽く、叩いた。
かくして。オーラン・クロスの実験は成功し――物語は、次の幕へと移るのであった。
楓の口から聞いた、聖女の名。
――それが呪いのように、オーラン自身を駆り立てていた。
依頼結果
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【質問卓】司祭さんに質問 八原 篝(ka3104) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/06/14 05:27:27 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/16 08:48:13 |
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【相談卓】法術実験警護 遠火 楓(ka4929) 人間(リアルブルー)|22才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2015/06/16 09:04:16 |