• 聖呪

【聖呪】奇縁たる、繋がれたる

マスター:練子やきも

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/06/17 12:00
完成日
2015/06/25 19:28

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 王国北部の森の中、その者は彷徨っていた。
 目的があるでもなく、ただ生きるために生きる。その事に不満も退屈もなく、ただ、生きるために日々を戦っていた。
 此方に気付いていない小さなウサギを見付け、捕まえる。ささやかな食事を済ませ、満たされた腹に機嫌良く喉を鳴らしながら再び歩き始めたその者は、二本足で歩く奇妙な生き物に出逢った。

 茶色い肌、尖った鼻、以前見た二本足の仲間だろうか? だったら……。
 若干の期待を込めながら近付いてみた行為は、しかしその相手の怒りに触れたのか……それともこちらを食料と見なしたのか。襲ってきた相手が振り下ろした物を躱しざま、相手の喉に喰らい付いて瞬時に仕留める。
(……あんまり美味しくない)
 この二本足、足こそ二本足だが前に見た二本足の仲間ではなく、恐らくサルの仲間か何かなのだろうと、その者は思った。今はあまり腹も減っていないし、こんな不味い物を食べるまでもない。口に入った肉をペッ、と吐きだし、動かなくなった相手に一瞥を与えると、その者は再び歩き出した。

 その後も、その森には何匹も何匹も、あの不味い二本足が居た。時には複数、いっぱい居る事もあった。たぶんこの辺ではありふれた生き物なのだろう。なんだか一様に疲れた感じだし、弱いのにウサギみたいに巣穴に籠もる事もしていない、変な生き物。……きっと、ウサギより頭が悪くて巣穴を作れないんだろうと思った。
 そんなある日、優しく流れる風に乗って薫ってきた懐かしい匂いに、ふと足が止まった。久しく嗅いだ事のない、でも懐かしい匂い。自然とそちらへ足が向く。こっちに、二本足は居るのだろうか?


ーーーー

「うおっ!? ト、トラ!!?」
 いきなり現れたトラに慌てて、運んでいた牛乳を取り落としそうになった若い牧夫は、逃げ出そうと踵を返しかけた所で気付いた。
(こういう時は背を向けちゃダメだ、ゆっくりとバックだ、そう、俺ならできる、ゆっくり、ゆっくり)
 トラから目を離さないようにしながらゆっくり下がろうとした牧夫は、ある程度……10メートル程の距離で、おすわりのポーズで座り込んだトラの視線が、自分の持っている牛乳の桶にひたすら注がれている事に気が付いた。
「……もしかしてこれが欲しいのか……?」
 牛乳の桶を動かすと、トラの顔もそれに合わせて動く。右、左、ぐるんと回って……逆回転。
「ミルク欲しがる人って事はまだ子供かぁ、脅かしやがって」
 あまりの敵意の無さと要求物のストレートさに、既に牧夫からはこのトラへの恐怖心は消えていた。
 牛乳桶の蓋にミルクを注いで与えると、近付いて来て飲み始めるトラ。体高もせいぜい50センチ程度で、やはりまだ子供なのだろう。

 そのトラは、ちょくちょく牧場へと姿を見せるようになった。牛乳をくれる元が牛である事もどうやら理解しているようで、人や牛、柵の中にいる生き物を襲うようなそぶりを見せる事もなく。礼のつもりなのか、たまに仕留めたウサギやトリなどを持って来るようになり、奇妙な隣人としての生活がしばらく続いたある日の事。


 牧場の中に、柵の壊れる音とゴブリンの歓声と、牛の悲鳴が響き渡る。慌てて起き出した牧夫が見たのは、奇妙な……馬車? というかゴブリン車? ゴブ車?
 ゴブリンが、ゴテゴテした武装の付いた馬車を引き回しながら牧場内を荒らし回っている。ご丁寧にそのゴブ車の後ろには荷台まで付いており、どうやら牛を攫ってその荷台に積み込んでいくつもりらしい。
「そういや最近ゴブリン増えてる聞いてたけど、まさかうちにまで来やがるとは……」
 歯噛みしながらもどうする事もできない牧夫の前方で、上がるゴブリン達の悲鳴。
「あのトラ! ……あいつか!」
 どうやらあのトラが助けに来てくれたようだ。我が物顔に暴れ回るゴブリン達に襲いかかったトラ、どうやらゴブリン程度ならあっさり蹴散らせるようだが……その姿を見て、ゴブ車の中から奇妙なゴブリンが姿を見せた。
 その太い片手に、なんだか対比的に細い棒切れのように見える杖を持つ、腕だけが異様に太くなったゴブリン。そいつは、隣に居たゴブリンを引っ掴むと……トラ目掛けて投げ付ける!
 あまりにあまりな飛び道具と、流石に死にはせずすぐに起き上がった弾……ゴブリンを前に、流石にトラも近付く事が出来ないでいるようだ。

(……助けに来てくれたアイツを見捨てる訳にもいかないよなぁ……)
 自分も加勢に行くべきだろうか……? 迷っている牧夫の背後から、駆け付ける姿があった。
「あ、あんたら……ハンターか! 助かった、まさかゴブリンがうちの牧場にまで来るとは思ってなくてさぁ……。なんか変な感じだよなぁ。……あ、あのトラは俺の友達なんだ、なんか牧場を守ってくれてるみたいだから、間違えて攻撃したりしないでやってくれ、頼んだぜ!」
 これ幸いとばかりにハンターに丸投げする牧夫だったが、流石に一緒に戦わせる訳にも行かないし、ある意味役割をちゃんと理解してくれていると言えなくもない。……とりあえず彼が邪魔になる事は無さそうだ。

リプレイ本文

「友達なの!? トラと!? ……っと、言ってる場合じゃないな」
 絶対に連れて戻るから、と牧夫に告げ、走り出すダイン(ka2873)。先ずはゴブ車の注意を引くつもりだ。

「馬が引いてないだけマシっちゃあマシだが、なんつぅか……シュールな乗り物だなオイ」
 呆れ顔の醍醐(ka4836)の感想に
「牛を積みたいのにゴブリン満載で到着とか、積んだ後はゴブリン捨てて帰るつもりだったんでしょうかね……?」
 言葉を繋げるペル・ツェ(ka4435)。牛の代わりに牛舎に収まって、お行儀良く餌を待つゴブリン達の姿が脳裏をよぎった。
「武装はともかく、小回りが利かなそうだったり明らかに定員オーバーだったり……うちの爺ちゃんが見たら怒りそうだよ」
 職人気質の祖父の顔を思い浮かべるイェルバート(ka1772)。
 ゴブリンだけではなくツッコミ所まで満載されたゴブ車への感想を話すハンター達。色々と愉快なコンセプトカーだが、速度はともかくその重量による突進力だけはそれなりの脅威にはなりそうではあった。

「健気なトラも居る物ですね。……その献身に報いる為にも、なるべく早くゴブリン達を片付けなければいけませんね」
 私も尽力させて頂きます、と武器を構えるHollow(ka4450)。

「ゴブリン如きがよく暴れるもんだ」
冷めた目で、暴れ回るゴブリン達を眺めるイブリス・アリア(ka3359)。その瞳は骨のありそうな『獲物』を捉えていた。
「さあ、楽しく殺し合おうぜ」
 巨大な腕でゴブリンを放り投げている亜種ゴブリン目掛け、矢のように走り出したイブリスの残した残影が、戦いの始まりを告げた。

●開戦
 亜種目掛けて走り出したイブリスを狙い、亜種の放った『弾』が、悲鳴を上げながら飛来する。
(そういやあ昔テレビ番組で似たようなの見たなあ……)
 テレビ番組の中でスリングショットの弾代わりに人間を飛ばしていた場面を思い出している醍醐の目の前で、弾となったゴブリン自体はイブリスの手で瞬時に両断される。
 流石に番組の方で飛ばされた人間は真っ二つにまではなっていなかったが、迎撃のために一瞬止まったイブリスの周囲を、ゴブリン達が怯む様子すら見せずに包囲する。
……どうやらそうすんなりと斬りかからせてはくれないらしい。

「トラはゴブ車には近付いてないようですね、っと」
 ペルがチラリと状況を確認しながら放った青白い眠りの雲がゴブ車を包み、車上で密集していたゴブリン達のうち、ゴブ車の引き手数匹を含めた十数匹が眠りにつき……周りの騒乱でも起きられなかった引き手のうち3匹が、自らが引いていたゴブ車に潰されるというゴブ身事故が発生していた。即座にゴブ車の上から補充される引き手ゴブリン。

 一方、馬に乗ったイェルバートとHollowは
「流石に数が多いですね……」
「せめてゴブ車の足を止められればいいのですが……」
 2人の放つ三角形の光芒から伸びる光のラインがゴブリンを貫き、着実に雑魚ゴブリンの数を削る。
 明らかに速度に差のある状況から、距離さえきちんと取っていればあまり積極的に狙われる事にはならなそうなのが救いではあったが……
「くっ!」
 Hollowが乗った馬の前方に着弾したゴブリンの、その横を走り抜けようとした時だった。飛び上がって攻撃して来たゴブリンの攻撃が、彼女の頭を掠める。
 すかさず傷をマテリアルヒーリングで癒し、再び攻撃を再開するHollowに近寄り、彼女が囲まれないようさりげなくサポートするイェルバート。
 ヤケにでもなったようなゴブリン達の攻撃性は、相手が強いと見れば逃げ出す普段のゴブリンとは明らかにかけ離れていた。
「油断はできなそうですね」
 改めてゴブリン達から距離を取り直すHollowとイェルバートだった。

 ゴブ車に乗って指揮している亜種ゴブリンは、どうやら向かって来たダインをゴブ車の突撃目標と定めたらしい。正面から走り込むダイン目掛けて突撃するゴブリン戦車。
「うおおおー! ……ってやっぱ無理っ!」
 突撃と見せかけて横に躱したダインの横を走り抜けるゴブ車。その迫力だけはやはりかなりの物がある。……直撃を受けたら洒落では済まなそうだ。

「固そうだが……一先ず車輪でも狙ってみるか」
 突出しないよう、引きすぎないよう、仲間との距離を保ってゴブリンを銃撃していた醍醐だったが、ダインを狙っているゴブ車の横を取り、ファイアアローでゴブ車の車輪を狙い撃つ。……しかし、過積載ゴブリンの重量を支えているという実績がある物なだけあって、かなり頑丈なようだ。
「これはちょっと、他を狙った方が良さそうですね」
 その様子を見たペルが他に狙えそうな場所を探るが……重量を考えずに補強されたその図体は、どこも固そうだ。
「引き手を狙いましょう!」
「牽いてる奴にガツンとやろう!」
 引き手を狙うべきだろう、そう判断したHollowとダインの、異口同音な提案に頷いたハンター達は、一斉に引き手のゴブリン達を狙い攻撃を開始する。
 引き手もすぐに補充はされるが、ゴブリンの数を減らせるだけでも意味はある攻撃になる筈だ。

●乱れる戦場
 イブリスが投擲した黒い手裏剣が、通常であればありえない軌道を辿り複数のゴブリンを斬り裂き……イブリスと同じく足止めされていたトラが、ゴブリンの攻撃を避けたその場所を掠める。
「ガウッ!」
「不満ならゴブを狩り終えた後で聞いてやる!」
 不満の鳴き声を上げるトラに威嚇で返礼するイブリス。彼にとって見覚えのあるそのトラは、親を狩った自分を……恨んでいるだろうか?
 一瞬よぎった思いは、イブリスを狙っていたゴブリンを爪で切り裂くトラの攻撃で消えた。どうやら、生意気にも共闘している気らしい。戦う場所的な問題なのだが、何人かの、いいなあ……という感じの視線が刺さり、振り払うように雷撃刀を振るイブリスだった。

「ずいぶん囲まれたな」
 ゴブリンに囲まれたトラとイブリスを援護するべく、アックスブレードを振り回しながら前に出たダインが、トラの援護に入り……その瞬間、そのままトラをモフりたい衝動との戦いが新たにダインの中で始まったらしい。

(そういえば僕、トラをこんな間近で見るの初めてかも)
 イェルバートの方でも、一瞬気を取られつつ……
「危ない!」
 唐突にイェルバートがイブリスにマテリアルの防御膜を張る。その直後に亜種の投げたゴブリンが、敵に囲まれ回避するスペース自体が無くなってきていたイブリスの脚に命中する。……視線で礼を言うイブリス。

「引き手も引き手でキリがないですね」
「でもちゃんと数が減るんですからマシです……よっ!」
 Hollowとペルの、デルタレイとマジックアローによる攻撃でその数を減らしてゆくゴブリンだが、その屍を踏み荒らしながら進むゴブ車。

「うおっ! こっち来やがった!」
 次は醍醐に狙いを定め、突進するゴブリン戦車。何故か避けようとしない醍醐目掛けてその巨体を揺るがし爆走する。
 ぶつかる! と思ったその時。
 ゴウッ! という凄まじい轟音と共に、ニヤリと笑った醍醐の目の前に現れた土壁と、ブレーキ自体が付いていなかったらしい戦車が激突して……土壁が壊れた。

(やべっ!)
 ニヤリと笑った表情のまま大ピンチに陥った醍醐と、そのまま進むゴブ車。そして……。
 ゴベン。
 更に次の瞬間、自らが破壊して倒れた土壁に押し潰され停止したゴブ車がそこにあった。

 数秒間、静まり返った周囲のその静寂は、亜種ゴブリンの上げた金切声で引き裂かれた。
 土壁に潰され止まったゴブリン戦車の、壊れた場所や元から開いていた穴から一斉に飛び出すゴブリンの降車ラッシュで、一気に乱戦となる周囲。……そこにルールやマナーなどは一切無く……。
「混戦の時こそ、全力で押し返さないとな……!」
 ダインが仲間を鼓舞する声が響いた。小さなトラが圧し潰されてしまわないよう、懸命に支えるダイン。
 破れかぶれの突撃の奔流の中、何やら叫んだ亜種ゴブリンの杖が光り、身構える一行に向け光の帯が飛び出した。……杖ではなく目から。
 そこでフェイントかよ、とツッコむ暇すらなく、イブリスの腕を貫く光線。
「クカカッ、いいねぇ、もっと楽しませろよ!」
 傷の痛みに逆にテンションを上げながら周囲のゴブリンを斬り倒していくイブリス。

 その後も杖を光らせて鼻から、耳から、と次々と新しい技! を繰り出す亜種ゴブリンだったが……抵抗もそこまでだった。
 不思議だったのは、その状態になっても逃げ出すゴブリンが1匹も居なかった事だった。……まるで、今更逃げてももう後がない、とでも言わんばかりに……。


●ミルクのお時間
「いやあ、あんた達のお陰で助かったよ。近くの村でも最近ゴブリンの被害が多いらしくってさあ……」
 安全になったのを確認して戻って来た牧夫が、トラにミルクを与えながら喋り始めた声をBGMにしながら、応急手当を済ませる醍醐とイブリス。

「トラって、牛乳あげちゃってお腹壊したりしないんでしょうか……?」
 牧夫が与えたミルクを美味しそうに飲むトラを眺めながら、ペルがつぶやく。
 まあ、飲んでいるのだから大丈夫なのだろう、と結論付けて眺めるペルの横で、指をわきわきさせながら触ろうか、やめようか、いやでも触りたい……と悶えるダインと、ちょっと触ってみたいな、とこちらも興味津々のイェルバートが、トラを間近に眺めながら怒られないギリギリラインを探っている。

「ご苦労様でした、あなたのお陰で村にゴブリンが押しかけるのを食い止める事ができました」
 そんな2人の横からサラッと持っていったHollowが優しくトラを撫でる。既に毛繕いを終えたその毛は柔らかく、しっとりしていた。
 嫌がる様子もないトラを見て、なにやらジャンケンを始めたイェルバートとダインを眺めながら、機嫌良さそうにHollowに撫でられていたトラは、やがて立ち上がりハンター達の匂いを嗅ぐような仕草を見せて、それぞれに頭を擦り付けると、イブリスの吸っていた煙管の匂いにクシャミをして森の中へと去っていった。

(牧場を守ってくれて、ありがと)
 その背を見送るイェルバートの思いは届いたのだろうか?
 トラがこれからどうするのか……知っているのは、もしかしたらトラ自身を含めて居ないのかも知れなかった。

依頼結果

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MVP一覧

  • いつか、が来るなら
    イブリス・アリアka3359

  • 醍醐ka4836

重体一覧

参加者一覧

  • →Alchemist
    イェルバート(ka1772
    人間(紅)|15才|男性|機導師

  • ダイン(ka2873
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • いつか、が来るなら
    イブリス・アリア(ka3359
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • ブリーダー
    ペル・ツェ(ka4435
    エルフ|15才|男性|魔術師
  • 復興の一歩をもたらした者
    Hollow(ka4450
    人間(紅)|17才|女性|機導師

  • 醍醐(ka4836
    人間(蒼)|42才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
イェルバート(ka1772
人間(クリムゾンウェスト)|15才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/06/17 05:55:51
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/06/13 20:40:00