ゲスト
(ka0000)
肉に飢えた者たちに告ぐんじゃあぁぁ~!
マスター:ラゑティティア

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/17 19:00
- 完成日
- 2015/06/25 22:18
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●村長からのおはなし
「よくぞ集まった! 肉に飢えた者たちよ!!」
老人……もとい、村長の力強い激励に、集まった人々は湧き上がる。
「皆にはすまないと思ぅておるッ。
これまでさまざまな対策を練ってみたが、この村で育つヤギ肉はけっきょく激マズじゃ!!」
村長ともあろうものが、涙をきらめかせて言いきってしまった。
自由同盟と帝国との国境近くに存在し、どちらに属するのかはっきりしないヤギヤギ村。
牧畜に適さない地なのだろうか?
それとも育て方が悪いだけだろうか?
理由は定かではないがヤギヤギ村で育てられたヤギ肉はとにかくマズい。
ヤギ肉独特の臭気が強いところも、マズさに拍車をかけているのかもしれない。
「――しかし見よ!
これが旅の商人からゲッチュンした、とある町のめっちゃおいしい肉のかたまりじゃ!!」
村長は震える手で2kgほどの肉のかたまりをぷるぷる掲げる。
旅の商人とか
とある町とか
めっちゃおいしい肉のかたまりとか
曖昧すぎてあやしい気がしてこなくもないが大きな拍手が起こっていた。観衆の心はつかめているようだ。
村長が質素なポケットマネーで優勝賞品を用意し、開催が決定したこのお肉争奪バトル。
参加希望者が多かったので抽選まで行われ、予想以上の盛り上がりをみせてくれている。
「幸運に選ばれし者たちよ!
今こそ思う存分にその実力を発揮するんじゃーーーー!!」
「お……」
ぐきっっっ
他の観衆と共に拳を上げてこたえようとしたひとりの男が、急に腰をおさえつつ膝を地についた。
周囲は熱気に包まれており、その男に気づく様子がなかったが、唯一、彼の隣にいた女性だけが手を差しのべる。
黄色い瞳に空色のバンダナがよく似合っており、温かみのある笑みを浮かべていた。
「あなた、張り切りすぎよ。
まだそんなに年じゃないはずだけどギックリ腰?」
「だ、だいじょ」
ぐきごきっっっ
年齢的には20歳前後の若い夫婦といったところか。
だが無理に立とうとして再び変な音が鳴り、夫はしばし悶絶。
支えている妻の笑みもさすがに苦笑に変わる。
「これじゃ出れないわね、今日はあきらめて安静にしておくこと」
それに反論しようと、夫は根性で顔を上げてきた。
「に、肉を手に入れるまではッッ……」
「たしかに隣の町や村までは遠いから、なかなか食べられないシロモノだけど、またいつかチャンスがあるわよ」
説得されても、夫は首を全力で横に振った。肩にかけていたタオルも落ちる。
「もう草はあきた! これではヤギたちが食べているものとたいして変わらん!」
「草ではなく野菜です」
「葉物野菜を毎日出されれば、もはや雑草にしか見えん!!」
そんな主張にため息をついた妻は、村長のほうにちらりと視線を向けた。
「変な勢いはおじいちゃんとそっくりなんだから。
野菜が嫌ならたまにはヤギ肉にしましょうか?」
「あれはもはや肉などではない! 殺人兵器だ!!」
亭主関白なのか駄々こねなのか。しかし慣れている様子で妻は受け流す。
「どちらにしても、ひとりでは無謀だったでしょう?
他の人も対戦相手が悪いから協力してくれなかったわけだし」
夫は、うぐ。とやかましかった口を閉じる。
そのあいだに妻はきょろきょろと見回し――ハンターたちの姿を見つけた。
地味なつくりの村人衣装と異なっていたため、すぐに目についたのだろう。
「こんにちは、旅の方ね。
いきなりだけど肉の争奪バトルに興味はないかしら?
うちの主人も抽選に当たって出場できる予定だったんだけど、見ての通り腰を痛めちゃったみたいで」
そのアホさ加減を一部始終見ていたとは言えない。
「出場者に何かあったら、他人に出場権を譲ることができるのよ。今のチーム名は「のんびり放牧」。
個人でもチームでも人数は問題はないし、優勝できたら肉も好きにしてもらってかまわないわ。
バトルの内容は、罠や熱い拳で邪魔をし合いながら一本道を駆け抜けて、村から草原のゴールを目指すの。
100mくらいかしら。5人ほど横に並んで歩ける幅の土の坂道で、両側は岩の壁になってるわね。
罠を仕掛けることができるのは今夜22時から23時よ。場所はゴール側。
明日が本番だからお泊りになっちゃうけど、宿とかは提供するから安心して」
ただ、と彼女はなにやら言いにくそうに口を開く
「筋力抜群で食いしん坊のエドガーと、ヤギ好きで男勝りのカーレンノが率いるチームが対戦相手なの……」
●対戦相手 『カーレンノ』チーム
「おめえらの脳みそは腐ってんのか?!」
村長の話も終わって一旦観衆が散りはじめた頃。熱すぎる女性の一喝が村中に響いた。
着ている赤い服は夕焼けと共に燃えているように見える。
そんな彼女をとりまいているのは、何もしなくとも体力が尽きてしまいそうな6人。
彼らはそれぞれ赤いハンカチを細い腕に巻いている。
「もう一回説明してやるからよく聞いとけ!
争奪バトルの舞台は、ヤギちゃんたちを移動させるときに通るあの土の坂道だ!!」
一部、やけにキュートな表現が含まれてたがそれを指摘する勇者はいない。
「他のチームを罠やら殴り合いやらで蹴落としながら草原に最初に着いたやつが肉を得る!
というわけでさっそく今夜、坂道に罠を仕掛けにいくぞ!
あたしらが罠を仕掛けることができるのは18時から20時。場所はスタート側だ」
女性は深呼吸してから再び6人を睨みつける。
「おめえらに体力面のことは期待してない。
だからせめて落とし穴でも作って、このカーレンノ・アルヘンバッハの役に立ってこいっ!
むきむきチームの筋肉ゴリラどもは筋肉だけの生き物だ!
腐った果物とでもいっしょに置いていれば勝手にハマる!!」
「「へい親分ッ!!」」
もはや言いたい放題である。
「問題はのんびり放牧チームだ。男はアホだが、女のほうは村長の孫娘だけあっていくらか賢い。
偵察も考えておくか……まあ、力ずくでもいい」
二つに結んだ栗毛の髪を揺らし、彼女はフッと意味深の笑みを浮かべる。
それまで指揮棒のように振っていた木の棒を乾いた音で折り、やっとその赤い唇を閉じていた。
●対戦相手 『むきむき』チーム
もぐもぐもぐもぐ
「あのう、リーダーのエドガー・アドルノさん?
罠の予定について確認させてほしいんですが」
もぐもぐもぐもぐ
「時間帯は20時から22時で、場所は中央となっていますが。
仕掛けないということでいいんでしょうか?」
もぐもぐもぐもぐ
バトルの審判が尋ねても、エドガーと呼ばれた筋肉男は、袋で持参したらしき果物を食べ続ける。
他にも似た仲間は8名いるが、全員タンクトップ風の衣装。
その色は茶系で、唯一エドガーだけは焼けた肌の上に白を装着している。
「仕掛けないということで進めますがよろしいですね」
もぐもぐもぐもぐ
結局最後まで、彼らはひたすら果物を食べ続けていたのだった。
「よくぞ集まった! 肉に飢えた者たちよ!!」
老人……もとい、村長の力強い激励に、集まった人々は湧き上がる。
「皆にはすまないと思ぅておるッ。
これまでさまざまな対策を練ってみたが、この村で育つヤギ肉はけっきょく激マズじゃ!!」
村長ともあろうものが、涙をきらめかせて言いきってしまった。
自由同盟と帝国との国境近くに存在し、どちらに属するのかはっきりしないヤギヤギ村。
牧畜に適さない地なのだろうか?
それとも育て方が悪いだけだろうか?
理由は定かではないがヤギヤギ村で育てられたヤギ肉はとにかくマズい。
ヤギ肉独特の臭気が強いところも、マズさに拍車をかけているのかもしれない。
「――しかし見よ!
これが旅の商人からゲッチュンした、とある町のめっちゃおいしい肉のかたまりじゃ!!」
村長は震える手で2kgほどの肉のかたまりをぷるぷる掲げる。
旅の商人とか
とある町とか
めっちゃおいしい肉のかたまりとか
曖昧すぎてあやしい気がしてこなくもないが大きな拍手が起こっていた。観衆の心はつかめているようだ。
村長が質素なポケットマネーで優勝賞品を用意し、開催が決定したこのお肉争奪バトル。
参加希望者が多かったので抽選まで行われ、予想以上の盛り上がりをみせてくれている。
「幸運に選ばれし者たちよ!
今こそ思う存分にその実力を発揮するんじゃーーーー!!」
「お……」
ぐきっっっ
他の観衆と共に拳を上げてこたえようとしたひとりの男が、急に腰をおさえつつ膝を地についた。
周囲は熱気に包まれており、その男に気づく様子がなかったが、唯一、彼の隣にいた女性だけが手を差しのべる。
黄色い瞳に空色のバンダナがよく似合っており、温かみのある笑みを浮かべていた。
「あなた、張り切りすぎよ。
まだそんなに年じゃないはずだけどギックリ腰?」
「だ、だいじょ」
ぐきごきっっっ
年齢的には20歳前後の若い夫婦といったところか。
だが無理に立とうとして再び変な音が鳴り、夫はしばし悶絶。
支えている妻の笑みもさすがに苦笑に変わる。
「これじゃ出れないわね、今日はあきらめて安静にしておくこと」
それに反論しようと、夫は根性で顔を上げてきた。
「に、肉を手に入れるまではッッ……」
「たしかに隣の町や村までは遠いから、なかなか食べられないシロモノだけど、またいつかチャンスがあるわよ」
説得されても、夫は首を全力で横に振った。肩にかけていたタオルも落ちる。
「もう草はあきた! これではヤギたちが食べているものとたいして変わらん!」
「草ではなく野菜です」
「葉物野菜を毎日出されれば、もはや雑草にしか見えん!!」
そんな主張にため息をついた妻は、村長のほうにちらりと視線を向けた。
「変な勢いはおじいちゃんとそっくりなんだから。
野菜が嫌ならたまにはヤギ肉にしましょうか?」
「あれはもはや肉などではない! 殺人兵器だ!!」
亭主関白なのか駄々こねなのか。しかし慣れている様子で妻は受け流す。
「どちらにしても、ひとりでは無謀だったでしょう?
他の人も対戦相手が悪いから協力してくれなかったわけだし」
夫は、うぐ。とやかましかった口を閉じる。
そのあいだに妻はきょろきょろと見回し――ハンターたちの姿を見つけた。
地味なつくりの村人衣装と異なっていたため、すぐに目についたのだろう。
「こんにちは、旅の方ね。
いきなりだけど肉の争奪バトルに興味はないかしら?
うちの主人も抽選に当たって出場できる予定だったんだけど、見ての通り腰を痛めちゃったみたいで」
そのアホさ加減を一部始終見ていたとは言えない。
「出場者に何かあったら、他人に出場権を譲ることができるのよ。今のチーム名は「のんびり放牧」。
個人でもチームでも人数は問題はないし、優勝できたら肉も好きにしてもらってかまわないわ。
バトルの内容は、罠や熱い拳で邪魔をし合いながら一本道を駆け抜けて、村から草原のゴールを目指すの。
100mくらいかしら。5人ほど横に並んで歩ける幅の土の坂道で、両側は岩の壁になってるわね。
罠を仕掛けることができるのは今夜22時から23時よ。場所はゴール側。
明日が本番だからお泊りになっちゃうけど、宿とかは提供するから安心して」
ただ、と彼女はなにやら言いにくそうに口を開く
「筋力抜群で食いしん坊のエドガーと、ヤギ好きで男勝りのカーレンノが率いるチームが対戦相手なの……」
●対戦相手 『カーレンノ』チーム
「おめえらの脳みそは腐ってんのか?!」
村長の話も終わって一旦観衆が散りはじめた頃。熱すぎる女性の一喝が村中に響いた。
着ている赤い服は夕焼けと共に燃えているように見える。
そんな彼女をとりまいているのは、何もしなくとも体力が尽きてしまいそうな6人。
彼らはそれぞれ赤いハンカチを細い腕に巻いている。
「もう一回説明してやるからよく聞いとけ!
争奪バトルの舞台は、ヤギちゃんたちを移動させるときに通るあの土の坂道だ!!」
一部、やけにキュートな表現が含まれてたがそれを指摘する勇者はいない。
「他のチームを罠やら殴り合いやらで蹴落としながら草原に最初に着いたやつが肉を得る!
というわけでさっそく今夜、坂道に罠を仕掛けにいくぞ!
あたしらが罠を仕掛けることができるのは18時から20時。場所はスタート側だ」
女性は深呼吸してから再び6人を睨みつける。
「おめえらに体力面のことは期待してない。
だからせめて落とし穴でも作って、このカーレンノ・アルヘンバッハの役に立ってこいっ!
むきむきチームの筋肉ゴリラどもは筋肉だけの生き物だ!
腐った果物とでもいっしょに置いていれば勝手にハマる!!」
「「へい親分ッ!!」」
もはや言いたい放題である。
「問題はのんびり放牧チームだ。男はアホだが、女のほうは村長の孫娘だけあっていくらか賢い。
偵察も考えておくか……まあ、力ずくでもいい」
二つに結んだ栗毛の髪を揺らし、彼女はフッと意味深の笑みを浮かべる。
それまで指揮棒のように振っていた木の棒を乾いた音で折り、やっとその赤い唇を閉じていた。
●対戦相手 『むきむき』チーム
もぐもぐもぐもぐ
「あのう、リーダーのエドガー・アドルノさん?
罠の予定について確認させてほしいんですが」
もぐもぐもぐもぐ
「時間帯は20時から22時で、場所は中央となっていますが。
仕掛けないということでいいんでしょうか?」
もぐもぐもぐもぐ
バトルの審判が尋ねても、エドガーと呼ばれた筋肉男は、袋で持参したらしき果物を食べ続ける。
他にも似た仲間は8名いるが、全員タンクトップ風の衣装。
その色は茶系で、唯一エドガーだけは焼けた肌の上に白を装着している。
「仕掛けないということで進めますがよろしいですね」
もぐもぐもぐもぐ
結局最後まで、彼らはひたすら果物を食べ続けていたのだった。
リプレイ本文
●準備
バーガー夫妻の話を受けることにしたハンター達。
審判が罠の確認にきたので報告後、さっそくカーレンノ達の罠仕掛タイム中に必要な物を準備する。
「おにく! おにく! さあ、行っくわよー!!」
夫妻から借りてきたおとなしいヤギを連れてクウ(ka3730)が活力に満ちた声を上げると、天乃 斑鳩(ka4096)も明るく同調。
「頑張りましょー! 徒競走ならお任せください!」
ちなみにカーレンノのヤギについてはミルティナ=フォンヴェリー(ka5119)が訪ねてみたのだが、見慣れぬ人間だったためか動いてくれず、仕方なくヤギについていた花の首輪だけを拝借してきた。
「私にしか出来ないこと……見つけないと……」
青い瞳で花の首輪を見つめつつ、こくり。
「ただ見物しに来ただけなのに参加させられるなんてな~。
こうなったら魔術師はひ弱じゃねぇって所を見せてやる!」
決意を固めたらしい篠崎 宗也(ka4210)の熱気に、籠いっぱいの果物を抱えていた紅薔薇(ka4766)はうっかり落としそうになった。
「わかった、わかったから少し落ち着くのじゃ」
「ふっふっふ! おいしいお肉は頂いていこう!」
モカ・プルーム(ka3411)のあやしい笑みも、場の雰囲気を盛り上げていた。
●罠仕掛けタイム
「肉――それは、家計に破壊を齎す品であると同時に我々を引きつけて止まない至高品。レースに出れるとは重畳です!」
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は、審判の警戒を始めていた。
こうやって話しているのも罠情報がリークされるのを阻止する狙いがある。
決められている時間以外は一本道に入れないので、超聴覚が役に立っていた。
ただし覚醒とスキルには回数があるため、そのあたりを気にしつつ、必要に応じての使用となっていた。
「皆様はレースには参加はされないのですか?」
「相手がエドガーとカーレンノだと、ちょっと無理ですね~」
審判の口調がどこか上の空なのは、きっとレイがイケメンだからだろう。
自分達の罠仕掛けタイムとなると、罠に意欲を見せる仲間達が準備した品々を持ってレイのもとへと集まってきた。
「お肉! お肉なのよ!」
「さ、さようでございますね」
合流するやいなや、クウのテンションにおされそうになるものの、なんとか平常心で頷くレイ。
「罠設置は割と遅い時間なんだね~。
なんだか遅い時間に外に居るのはワクワクする!」
一本道の真ん中を走り出そうとするモカを審判が寸前で止め、端に区切られている審判専用の道を一時的に開放して誘導してくれた。
乏しい灯りが点々と置かれた細い道を通り、ゴール付近へと移動する。
作業を見られないように布を張ると、クウが右手を高く上げて一同の視線を集めた。
「ちょこっと作業の確認!
エドガーは食べ物、カーレンノはヤギが好きってことで、今回は『果物を籠いっぱいに背負ったヤギ』をコース中に繋いでおく罠を作るのよね。
罠の前に茂み……をどうしようか考えてるんだけど、とにかく可能だったら目隠しに作っておくわ。
罠そのものには覆い布をかぶせておいて、当日にロープを引っ張れば、布が外れてヤギが出現!
果物を狙ったエドガー達がヤギにとびかかって、それを思わずヤギちゃん好きのカーレンノが止めに入って、その間に私達が通り抜けちゃう寸法! おにくがおいしい!!」
やや暴走気味だが、クウの目の前で聞いていたミルティナが落ち着いた物腰で頷く。
「主体作戦は……カーレンノのヤギを……偽って……
……形的に……エドガーを……カーレンノに潰させる目的の……罠を設置」
「ヤギはゴール近くに紐で繋いでおこうかのう。
ロープを引けば垂れ幕が落ちてヤギが見えるように工夫もできるのじゃ」
そんな会話を聞きながら、はっと何かを思いだした様子のレイ。
「ヤギの世話ですが、審判の方が行ってくれるそうです。
私が引き続き審判を警戒しましょ……」
う。と言いかけた時、隣で妙な気配を感じて視線を移動させる。
そこではモカが地面を少し掘ってまた埋めるという謎の行動をしていた。
「本命の罠の横に、罠と勘違いしそうなフェイク罠を仕掛けよう~!
これ自体は罠じゃないし、数にはならないはず」
なるほど。
「ヤギのフンがあったら間違って踏んじゃうかも~♪」
「さ……さようでございますね」
イタズラに笑うモカ。返す言葉に困り、曖昧な笑顔で本日二度目の相槌を打つレイだった。
その後もレイの警戒はうまくいったのだろう。
明日に備えて体を動かすカーレンノのもとに、偵察を終えた仲間が数人戻ってくる。
見知らぬ男(レイ)の邪魔や、布を張られた罠作業で、偵察はすべて失敗に終わったとの報告だった。
「親分、男はバーガー夫ではなかったであります」
「あの孫娘が入り知恵してるやつが、他にいるってことか」
さらにまた数人戻ってきたが、こちらの表情はむしろ明るいというか……癒されている?
「親分、このへんじゃ見かけない女の子が走っていたであります!
可愛くて親分と同じ女とは思えな」
ゴスッッ!
すべて言い終える前に拳が遮ったため、それ以上の報告はなかった。
●争奪バトル
晴天のバトル当日。
ハンター達が準備を整えて他のチームと並んでスタート位置につくと、たちまち注目の的となった。
「本当は孫婿が出ることになっとったんじゃが、腰を痛めたらしい。
かわりに、村の外から見物しにきていた若者たちが参加してくれることになった!」
うおおおおお!
村長の紹介で、次々に観衆から歓迎の声が沸く。
「エドガーにつぶされるなよ~!」
「無理しないでね!」
バーガー夫妻の応援もまじっていたが、夫のほうは妻に支えられていた。根性である。
「無事に優勝出来たら、ご夫婦にも振る舞いたいですね」
天乃が苦笑する中、村長が大きく息を吸った。
「今こそ、最も肉に飢えた者が決定する時じゃ!!」
「位置について、よーいドォン!」
審判が手をおろすと、各チームはほぼ同時に地を蹴った。
モカが瞬脚とランアウトを使用して先行する。が、うろうろと余計な動きがあるのは、ニオイと勘を頼りに敵の罠を注意しているからだ。
途中で足を止めてしまったモカをカーレンノが通り過ぎて……いや
ズザザーーっ!
道の端から端へわざと滑って土埃を発生させ、瞬時に身を隠す。
もとの視界に戻るまでわずかな時間ではあったが、再び見えたカーレンノの姿はすでに遠かった。
「んーむー、晴れていたから土埃が起こしやすかったんですね」
妨害を観察していた天乃が呟く。並走するミルティナは前を見つめたままだ。
そんな2人の前にはレイが先行しており、レイのさらに前にはむきむきチームがいた。
レイがエドガー達の後方についているのは彼らを試金石とするためである。
「罠のニオイ~! 追って来た人にど~~んと体当たり♪」
モカが足を止めたのは罠の場所がわかったからだったらしい。そんなモカの背後に試金石達が迫る。
罠と直線となる位置を走っていたのは、エドガーではなくその仲間達のほうだった。
モカは素早くその背後に回り込むと、罠の方向へ一気に押し――
どさどさどさどさっ!
カーレンノチームのやや大きな落とし穴が発動。
だが、もともと彼らは罠をさがすこともなくひたすら肉のために走っていたため、他のむきむきも一緒に落ちる。
押してしまった勢いで、モカの姿もすでに穴の中。
それでも直前にエドガーのタンクトップを握りしめたのは、道連れにしたい意思の表れだろうか……。
「妨害のほうはよろしくお願いします!」
走ることに注力する天乃は穴を横切り、トップのカーレンノを追わせてもらう。
「……私も……がんばる……」
短く一言残して、ミルティナも天乃についていく。
天乃はそんなミルティナを気遣うように目を向けた。
「ミルティナさん、ペース辛くないですかー?」
「問題……ない……と思う。
……私、イカルガの……アシスト専念」
「頑張って美味しいお肉を手に入れましょう!」
天乃がにっこり微笑むと、ミルティナもこく。と返した。
天乃に先行したいレイも先を進ませてもらうことに。
「それではすみませんが、ここはお任せいたしますね」
「おにく! おにくを手に入れるのよ!」
自分達の罠の布を外すべく、クウも穴に気をつけながら走り、その後ろには紅薔薇も。
「ふむん?」
が、紅薔薇は目の前にカーレンノの仲間達が走っていることに気づく。
天乃達の位置やスキルの発動のことを考えていたために気を取られていたのだろうか? それとも落とし穴のほうに?
いずれにしても気づかないうちに抜かれていたらしい。
天乃達が前にいるのを確認し、紅薔薇は一旦足を止めて振り返って竹刀を構える。
「――妾の前を走ると危険じゃぞ!」
忠告直後。
紅薔薇を中心として、彼女の持つ竹刀が目にもとまらぬ速さで舞った。縦横無尽の発動である。
竹で作られているはずなのに、彼女に操られる竹刀は、まるで本物の刀と見間違えてしまうほどの鋭い気配があった。
これは倒すためでなく、効果範囲内の道幅に近寄れないようにして相手の進路を妨害できるように工夫している。
「親分よりもコワいであります~……」
「さすがに素手の戦いには慣れておらんからのう。
か弱い乙女としては、棒の一本でも欲しいところなのじゃ」
ヒュンヒュンと土埃を散らす竹刀。
座り込んだカーレンノの仲間達は、細い首をぶんぶんと真横に振っていた。
なにはともあれすでに戦意喪失したようなので、紅薔薇は浴衣についた土埃を払い、先へと進んでいった。
一方、スタート付近で声を上げる観衆の関心は、その近くで戦闘していた篠崎にあった。
バトルの開始直後から、とにかくガチンコでむきむきチームをねじ伏せようとしていた篠崎。
むきむき2人に太い腕で振り払われつつも、体当たりと頭突きで勇敢に攻め続けている。
最初はよそ者の篠崎が負けるだろうと決めつけてた観衆だったが、汗がはじける男と男の真剣勝負に息をのんでいた。
「俺だって修羅場くぐってんだ! てめぇらなんか怖くねぇぞ!」
ぐほぉぉっ!
これまでで一番激しい拳にむきむき達が倒れ伏すと、大きな拍手が起こる。
「すげぇなにーちゃん!」
「やるなあ!!」
篠崎が次の相手をさがして見つけたのは、落とし穴の手前で目をおさえてうろつくエドガーの残りの仲間達だった。どうやら紅薔薇が竹刀で暴れて舞った土埃が彼らの目に入っていたらしい。
その近くには動かないエドガーの姿まで。だが破れかけた服を穴にたらしたまま止まっている事以外に気になる部分はなく、彼は土埃の影響は受けていないようだった。
エドガーはともかく、彼の仲間のほうはまとめて穴に落とせるチャンスだ。
「うおぉぉ! 俺は捨て駒だーー!」
臆することなく見事なタックルをきめ、篠崎はその勢いでむきむき達と共に穴の中へとダイビングする。
だめもとでエドガーの足にもつかまって落ちてみた。
「……うぅぅ」
「っ、悪い!」
篠崎は先着していたモカをつぶしてしまっていたことに気づき、急いで立ち上がる。
モカは全身土まみれだが無事だった。
「見事なニオイだっ……た」
がくり。
「は? っておい、しっかりし……!」
のせられてしまいながらも、篠崎はモカの手に破れかけた白いタンクトップがあることに気づく。
何故エドガーの破れかけた服が穴まで伸び、動いてもいなかったのか。篠崎はたった今、その理由を知った。
エドガーの足をつかむ篠崎に気合いが入る。
「気絶してる場合じゃねぇぜ! 穴の中からでも道連れだぁぁーー!!」
そのセリフに反応して、モカの目もぱちりと開いた。
「引っ張り込んじゃおう~!」
落とし穴で綱引きが白熱する中、バトルも半ばに差し掛かる。
レイがカーレンノに追いつき、さらに前へ。
そのときに彼女から蹴りを仕掛けられたものの、その不意打ちは回避できた。
「よそ者はよそ者でも普通のよそ者じゃないってことか」
睨まれても紳士的に笑顔を浮かべるレイ。
レイが相手をしてくれている今のうちに、天乃が動く。
「突っ走ります!」
「わかった……」
覚醒する天乃。ミルティナが両手を向けて押すように動くと、天乃のドッジダッシュが発動した。
全身が炎の幻影に包まれて走りはじめる天乃を目撃したカーレンノは、驚きのあまり口が開いたままだ。
「というわけで、今がチャンスなのじゃ!!」
天乃が走り出した場面で紅薔薇も先手必勝を発動。敵味方の状況を把握して伝える。
紅薔薇の声に合わせてクウがロープを引くと、果物を背負ったヤギ達が出現した。
「ヤギちゃん達よろしく!」
「ヤギちゃん!?」
なんとか我に返って天乃を追おうとしいていたカーレンノだが、今度はヤギ達に気を取られてしまう。
だが何を察したのか、すぐに背後を向いていた。
「ふおおおおーーっっ!!」
彼女が向いた視線の先には、興奮するエドガー。
まとわりついた篠崎を蹴飛ばし、タンクトップを破り捨て、ヤギ罠に向かって上半身むき出しで全力疾走を始めていた。
「あの速さは何かしら!」
ゴリラが獅子の勢いで走っているようなその姿に、クウが目を見開く。
ヤギ+果物。食べ物+食べ物のダブル効果が、彼をそうさせてしまっているというのか。
穴の中のむきむき達まで復活しようとしていたため、篠崎とモカが必死に抑え込んでいた。
よくわからない恐怖が迫りつつも、天乃は瞬脚やランアウトを使いながら前へ進み続け、そして――
「ゴールですー!」
勢いよく一本道を最後まで駆け抜けた。
「のんびり放牧チームの優勝じゃーー!!」
おおおおおお!
村長の大声と観衆の感嘆が村中に響き渡る。
エドガーのほうは、イライラと待ち伏せていたカーレンノが一発殴って解決していた。
「……あれが……カーレンノにしか出来ないこと……わかった」
ミルティナがこくりと頷き、お肉争奪バトルは無事に幕を閉じた。
●肉
優勝してゲットした肉は、レイが一部のお肉を塩と香辛料を利かせて焼き、クウが火加減を見ながら塩コショウをふって焼き、天乃が自慢の腕前を披露しつつ料理。
紅薔薇と篠崎からは、自分の分を譲るという申し出もあったのだが、肉料理は全員分ありそうだということで、バーガー夫婦や敵のチームも呼んで皆で料理を食べることになった。バーガー(夫)が泣いて喜んだのは言うまでもない。
クウから肉が添えられた花の首輪を受けるカーレンノ。近くにモカと篠崎を見つけると、歩み寄って一言。
「暴走筋肉ゴリラが一匹で助かった。落とし穴から出てこないように気張ってくれたおかげだ」
短時間でいろんなことがありつつのバトルだったが、おいしいお肉料理と共に、ハンター達のヤギヤギ村での休暇は過ぎていったのだった。
バーガー夫妻の話を受けることにしたハンター達。
審判が罠の確認にきたので報告後、さっそくカーレンノ達の罠仕掛タイム中に必要な物を準備する。
「おにく! おにく! さあ、行っくわよー!!」
夫妻から借りてきたおとなしいヤギを連れてクウ(ka3730)が活力に満ちた声を上げると、天乃 斑鳩(ka4096)も明るく同調。
「頑張りましょー! 徒競走ならお任せください!」
ちなみにカーレンノのヤギについてはミルティナ=フォンヴェリー(ka5119)が訪ねてみたのだが、見慣れぬ人間だったためか動いてくれず、仕方なくヤギについていた花の首輪だけを拝借してきた。
「私にしか出来ないこと……見つけないと……」
青い瞳で花の首輪を見つめつつ、こくり。
「ただ見物しに来ただけなのに参加させられるなんてな~。
こうなったら魔術師はひ弱じゃねぇって所を見せてやる!」
決意を固めたらしい篠崎 宗也(ka4210)の熱気に、籠いっぱいの果物を抱えていた紅薔薇(ka4766)はうっかり落としそうになった。
「わかった、わかったから少し落ち着くのじゃ」
「ふっふっふ! おいしいお肉は頂いていこう!」
モカ・プルーム(ka3411)のあやしい笑みも、場の雰囲気を盛り上げていた。
●罠仕掛けタイム
「肉――それは、家計に破壊を齎す品であると同時に我々を引きつけて止まない至高品。レースに出れるとは重畳です!」
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は、審判の警戒を始めていた。
こうやって話しているのも罠情報がリークされるのを阻止する狙いがある。
決められている時間以外は一本道に入れないので、超聴覚が役に立っていた。
ただし覚醒とスキルには回数があるため、そのあたりを気にしつつ、必要に応じての使用となっていた。
「皆様はレースには参加はされないのですか?」
「相手がエドガーとカーレンノだと、ちょっと無理ですね~」
審判の口調がどこか上の空なのは、きっとレイがイケメンだからだろう。
自分達の罠仕掛けタイムとなると、罠に意欲を見せる仲間達が準備した品々を持ってレイのもとへと集まってきた。
「お肉! お肉なのよ!」
「さ、さようでございますね」
合流するやいなや、クウのテンションにおされそうになるものの、なんとか平常心で頷くレイ。
「罠設置は割と遅い時間なんだね~。
なんだか遅い時間に外に居るのはワクワクする!」
一本道の真ん中を走り出そうとするモカを審判が寸前で止め、端に区切られている審判専用の道を一時的に開放して誘導してくれた。
乏しい灯りが点々と置かれた細い道を通り、ゴール付近へと移動する。
作業を見られないように布を張ると、クウが右手を高く上げて一同の視線を集めた。
「ちょこっと作業の確認!
エドガーは食べ物、カーレンノはヤギが好きってことで、今回は『果物を籠いっぱいに背負ったヤギ』をコース中に繋いでおく罠を作るのよね。
罠の前に茂み……をどうしようか考えてるんだけど、とにかく可能だったら目隠しに作っておくわ。
罠そのものには覆い布をかぶせておいて、当日にロープを引っ張れば、布が外れてヤギが出現!
果物を狙ったエドガー達がヤギにとびかかって、それを思わずヤギちゃん好きのカーレンノが止めに入って、その間に私達が通り抜けちゃう寸法! おにくがおいしい!!」
やや暴走気味だが、クウの目の前で聞いていたミルティナが落ち着いた物腰で頷く。
「主体作戦は……カーレンノのヤギを……偽って……
……形的に……エドガーを……カーレンノに潰させる目的の……罠を設置」
「ヤギはゴール近くに紐で繋いでおこうかのう。
ロープを引けば垂れ幕が落ちてヤギが見えるように工夫もできるのじゃ」
そんな会話を聞きながら、はっと何かを思いだした様子のレイ。
「ヤギの世話ですが、審判の方が行ってくれるそうです。
私が引き続き審判を警戒しましょ……」
う。と言いかけた時、隣で妙な気配を感じて視線を移動させる。
そこではモカが地面を少し掘ってまた埋めるという謎の行動をしていた。
「本命の罠の横に、罠と勘違いしそうなフェイク罠を仕掛けよう~!
これ自体は罠じゃないし、数にはならないはず」
なるほど。
「ヤギのフンがあったら間違って踏んじゃうかも~♪」
「さ……さようでございますね」
イタズラに笑うモカ。返す言葉に困り、曖昧な笑顔で本日二度目の相槌を打つレイだった。
その後もレイの警戒はうまくいったのだろう。
明日に備えて体を動かすカーレンノのもとに、偵察を終えた仲間が数人戻ってくる。
見知らぬ男(レイ)の邪魔や、布を張られた罠作業で、偵察はすべて失敗に終わったとの報告だった。
「親分、男はバーガー夫ではなかったであります」
「あの孫娘が入り知恵してるやつが、他にいるってことか」
さらにまた数人戻ってきたが、こちらの表情はむしろ明るいというか……癒されている?
「親分、このへんじゃ見かけない女の子が走っていたであります!
可愛くて親分と同じ女とは思えな」
ゴスッッ!
すべて言い終える前に拳が遮ったため、それ以上の報告はなかった。
●争奪バトル
晴天のバトル当日。
ハンター達が準備を整えて他のチームと並んでスタート位置につくと、たちまち注目の的となった。
「本当は孫婿が出ることになっとったんじゃが、腰を痛めたらしい。
かわりに、村の外から見物しにきていた若者たちが参加してくれることになった!」
うおおおおお!
村長の紹介で、次々に観衆から歓迎の声が沸く。
「エドガーにつぶされるなよ~!」
「無理しないでね!」
バーガー夫妻の応援もまじっていたが、夫のほうは妻に支えられていた。根性である。
「無事に優勝出来たら、ご夫婦にも振る舞いたいですね」
天乃が苦笑する中、村長が大きく息を吸った。
「今こそ、最も肉に飢えた者が決定する時じゃ!!」
「位置について、よーいドォン!」
審判が手をおろすと、各チームはほぼ同時に地を蹴った。
モカが瞬脚とランアウトを使用して先行する。が、うろうろと余計な動きがあるのは、ニオイと勘を頼りに敵の罠を注意しているからだ。
途中で足を止めてしまったモカをカーレンノが通り過ぎて……いや
ズザザーーっ!
道の端から端へわざと滑って土埃を発生させ、瞬時に身を隠す。
もとの視界に戻るまでわずかな時間ではあったが、再び見えたカーレンノの姿はすでに遠かった。
「んーむー、晴れていたから土埃が起こしやすかったんですね」
妨害を観察していた天乃が呟く。並走するミルティナは前を見つめたままだ。
そんな2人の前にはレイが先行しており、レイのさらに前にはむきむきチームがいた。
レイがエドガー達の後方についているのは彼らを試金石とするためである。
「罠のニオイ~! 追って来た人にど~~んと体当たり♪」
モカが足を止めたのは罠の場所がわかったからだったらしい。そんなモカの背後に試金石達が迫る。
罠と直線となる位置を走っていたのは、エドガーではなくその仲間達のほうだった。
モカは素早くその背後に回り込むと、罠の方向へ一気に押し――
どさどさどさどさっ!
カーレンノチームのやや大きな落とし穴が発動。
だが、もともと彼らは罠をさがすこともなくひたすら肉のために走っていたため、他のむきむきも一緒に落ちる。
押してしまった勢いで、モカの姿もすでに穴の中。
それでも直前にエドガーのタンクトップを握りしめたのは、道連れにしたい意思の表れだろうか……。
「妨害のほうはよろしくお願いします!」
走ることに注力する天乃は穴を横切り、トップのカーレンノを追わせてもらう。
「……私も……がんばる……」
短く一言残して、ミルティナも天乃についていく。
天乃はそんなミルティナを気遣うように目を向けた。
「ミルティナさん、ペース辛くないですかー?」
「問題……ない……と思う。
……私、イカルガの……アシスト専念」
「頑張って美味しいお肉を手に入れましょう!」
天乃がにっこり微笑むと、ミルティナもこく。と返した。
天乃に先行したいレイも先を進ませてもらうことに。
「それではすみませんが、ここはお任せいたしますね」
「おにく! おにくを手に入れるのよ!」
自分達の罠の布を外すべく、クウも穴に気をつけながら走り、その後ろには紅薔薇も。
「ふむん?」
が、紅薔薇は目の前にカーレンノの仲間達が走っていることに気づく。
天乃達の位置やスキルの発動のことを考えていたために気を取られていたのだろうか? それとも落とし穴のほうに?
いずれにしても気づかないうちに抜かれていたらしい。
天乃達が前にいるのを確認し、紅薔薇は一旦足を止めて振り返って竹刀を構える。
「――妾の前を走ると危険じゃぞ!」
忠告直後。
紅薔薇を中心として、彼女の持つ竹刀が目にもとまらぬ速さで舞った。縦横無尽の発動である。
竹で作られているはずなのに、彼女に操られる竹刀は、まるで本物の刀と見間違えてしまうほどの鋭い気配があった。
これは倒すためでなく、効果範囲内の道幅に近寄れないようにして相手の進路を妨害できるように工夫している。
「親分よりもコワいであります~……」
「さすがに素手の戦いには慣れておらんからのう。
か弱い乙女としては、棒の一本でも欲しいところなのじゃ」
ヒュンヒュンと土埃を散らす竹刀。
座り込んだカーレンノの仲間達は、細い首をぶんぶんと真横に振っていた。
なにはともあれすでに戦意喪失したようなので、紅薔薇は浴衣についた土埃を払い、先へと進んでいった。
一方、スタート付近で声を上げる観衆の関心は、その近くで戦闘していた篠崎にあった。
バトルの開始直後から、とにかくガチンコでむきむきチームをねじ伏せようとしていた篠崎。
むきむき2人に太い腕で振り払われつつも、体当たりと頭突きで勇敢に攻め続けている。
最初はよそ者の篠崎が負けるだろうと決めつけてた観衆だったが、汗がはじける男と男の真剣勝負に息をのんでいた。
「俺だって修羅場くぐってんだ! てめぇらなんか怖くねぇぞ!」
ぐほぉぉっ!
これまでで一番激しい拳にむきむき達が倒れ伏すと、大きな拍手が起こる。
「すげぇなにーちゃん!」
「やるなあ!!」
篠崎が次の相手をさがして見つけたのは、落とし穴の手前で目をおさえてうろつくエドガーの残りの仲間達だった。どうやら紅薔薇が竹刀で暴れて舞った土埃が彼らの目に入っていたらしい。
その近くには動かないエドガーの姿まで。だが破れかけた服を穴にたらしたまま止まっている事以外に気になる部分はなく、彼は土埃の影響は受けていないようだった。
エドガーはともかく、彼の仲間のほうはまとめて穴に落とせるチャンスだ。
「うおぉぉ! 俺は捨て駒だーー!」
臆することなく見事なタックルをきめ、篠崎はその勢いでむきむき達と共に穴の中へとダイビングする。
だめもとでエドガーの足にもつかまって落ちてみた。
「……うぅぅ」
「っ、悪い!」
篠崎は先着していたモカをつぶしてしまっていたことに気づき、急いで立ち上がる。
モカは全身土まみれだが無事だった。
「見事なニオイだっ……た」
がくり。
「は? っておい、しっかりし……!」
のせられてしまいながらも、篠崎はモカの手に破れかけた白いタンクトップがあることに気づく。
何故エドガーの破れかけた服が穴まで伸び、動いてもいなかったのか。篠崎はたった今、その理由を知った。
エドガーの足をつかむ篠崎に気合いが入る。
「気絶してる場合じゃねぇぜ! 穴の中からでも道連れだぁぁーー!!」
そのセリフに反応して、モカの目もぱちりと開いた。
「引っ張り込んじゃおう~!」
落とし穴で綱引きが白熱する中、バトルも半ばに差し掛かる。
レイがカーレンノに追いつき、さらに前へ。
そのときに彼女から蹴りを仕掛けられたものの、その不意打ちは回避できた。
「よそ者はよそ者でも普通のよそ者じゃないってことか」
睨まれても紳士的に笑顔を浮かべるレイ。
レイが相手をしてくれている今のうちに、天乃が動く。
「突っ走ります!」
「わかった……」
覚醒する天乃。ミルティナが両手を向けて押すように動くと、天乃のドッジダッシュが発動した。
全身が炎の幻影に包まれて走りはじめる天乃を目撃したカーレンノは、驚きのあまり口が開いたままだ。
「というわけで、今がチャンスなのじゃ!!」
天乃が走り出した場面で紅薔薇も先手必勝を発動。敵味方の状況を把握して伝える。
紅薔薇の声に合わせてクウがロープを引くと、果物を背負ったヤギ達が出現した。
「ヤギちゃん達よろしく!」
「ヤギちゃん!?」
なんとか我に返って天乃を追おうとしいていたカーレンノだが、今度はヤギ達に気を取られてしまう。
だが何を察したのか、すぐに背後を向いていた。
「ふおおおおーーっっ!!」
彼女が向いた視線の先には、興奮するエドガー。
まとわりついた篠崎を蹴飛ばし、タンクトップを破り捨て、ヤギ罠に向かって上半身むき出しで全力疾走を始めていた。
「あの速さは何かしら!」
ゴリラが獅子の勢いで走っているようなその姿に、クウが目を見開く。
ヤギ+果物。食べ物+食べ物のダブル効果が、彼をそうさせてしまっているというのか。
穴の中のむきむき達まで復活しようとしていたため、篠崎とモカが必死に抑え込んでいた。
よくわからない恐怖が迫りつつも、天乃は瞬脚やランアウトを使いながら前へ進み続け、そして――
「ゴールですー!」
勢いよく一本道を最後まで駆け抜けた。
「のんびり放牧チームの優勝じゃーー!!」
おおおおおお!
村長の大声と観衆の感嘆が村中に響き渡る。
エドガーのほうは、イライラと待ち伏せていたカーレンノが一発殴って解決していた。
「……あれが……カーレンノにしか出来ないこと……わかった」
ミルティナがこくりと頷き、お肉争奪バトルは無事に幕を閉じた。
●肉
優勝してゲットした肉は、レイが一部のお肉を塩と香辛料を利かせて焼き、クウが火加減を見ながら塩コショウをふって焼き、天乃が自慢の腕前を披露しつつ料理。
紅薔薇と篠崎からは、自分の分を譲るという申し出もあったのだが、肉料理は全員分ありそうだということで、バーガー夫婦や敵のチームも呼んで皆で料理を食べることになった。バーガー(夫)が泣いて喜んだのは言うまでもない。
クウから肉が添えられた花の首輪を受けるカーレンノ。近くにモカと篠崎を見つけると、歩み寄って一言。
「暴走筋肉ゴリラが一匹で助かった。落とし穴から出てこないように気張ってくれたおかげだ」
短時間でいろんなことがありつつのバトルだったが、おいしいお肉料理と共に、ハンター達のヤギヤギ村での休暇は過ぎていったのだった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 5人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/17 15:03:52 |
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美味しいお肉を食べるために 天乃 斑鳩(ka4096) 人間(リアルブルー)|16才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/06/17 16:53:00 |