ゲスト
(ka0000)
【聖呪】セイント・ガーディアン
マスター:鹿野やいと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/16 19:00
- 完成日
- 2015/06/29 05:28
このシナリオは4日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
青の隊は本格的な調査に乗り出した。まずはゴブリンの南下の問題。近隣の領主達と共に遭遇次第排除しているが、いずれその問題の起点である大峡谷を調査せねばならない。その先駆けとして青の隊隊長ゲオルギウスは幾つもの偵察隊を近隣地域に送り出した。パルシア村が村長ジェイクの指揮の下、こつこつと進めていた亜人の調査はここで威力を発揮し、青の隊はその情報の確認程度でことが済んでしまうことも多々あった。進んでいなかった亜人集落への調査も、早い段階で進められるだろうと思われた。ここに来てゲオルギウスには気になる話が二つあった。天幕の中で1人、ゲオルギウスは先日のパルシア村とのやりとりを思い出していた
1件目は言わずもがな、自殺した聖女の件である。経緯に関してはアランにおおよその話を聞くことで事情はわかったが、村長が未だに黙秘を続けるために情報に穴がある。アランの説明では聖女が自殺にいたる動機は理解できても、聖堂教会が何を行っていたのかがさっぱり不明瞭だ。儀式失敗の後に自殺に追い込まれるほどの叱責が繰り返されたというが、教会はなぜそんな益体のないことが続けていたのか。そんな明瞭な醜聞があるのに何故村長は聖堂教会を弾劾しないのか。アランは教会との取引に関しては知らないと言ったが、窓口である村長は否定していない。現在の状況に置いてゴブリン退治と近辺の調査は、アランの協力だけで事足りるだろう。黙秘してやり過ごそうとする村長の意図は明らかだった。ハンターの出した推論は間違っていないだろうが、経緯に至る軸が未だに見えない。
そして2件目は亡霊騒ぎだ。目撃者は口を揃えて「若い少女の亡霊」と言っていたが、パルシア村出身の目撃者は「聖女に似ていた」と証言している。この時期にこの話は偶然の一致ではないだろう。この亡霊騒ぎも北部の騒ぎを収める大事な要素となるのは間違いない。問題は、亡霊という不確かなものに確実に会う方法が無いということだ。出現情報の多い場所をまわり、幸運に期待する以外にない。ゲオルギウスは思考を止め、水代わりのぬるいエールに口をつけた。
「村長はもう少しなんとかなると思ったのだがな」
村長のジェイクはあれ以来新しい情報を出してはくれない。それが仮初のものであれ、怒りのままに罵声を吐いていた頃なら対処のしようもあっただろう。城を攻めるのと同じ。守りに徹した動きの無い相手というのが一番手ごわく、あとは力づくという方法しかなくなる。それはゲオルギウスとてしたくないし、したところで得られた情報が真実と確かめる術がない。
「………かと言って、教会に聞いて答えが出るわけでもなし」
今回の件、節々に謎が多い。聖女が北の大渓谷に向かったのは、エクラ教において自殺を恥ずかしいものと思う考えが元だろう。しかし、非力な彼女がどうやって亜人の本拠地の奥深くまで入ったのか不明なままだ。聖女の周囲には不思議な現象が起こっていたというが、それも儀式の後に多く起こっていたという。儀式に失敗し、聖女の資格なしとされたエリカに力があるというのも妙な話だ。ゲオルギウスは天幕の天井を見上げ嘆息した。村長の考えは楽観に過ぎる。この一件はただの亜人討伐では終わらない。そんな嫌な予感が思考を離れなかった。
■
ゲオルギウスは息抜きにと天幕を抜け出し、自警団を相手にした訓練の様子を視察していた。パルシア村の若者達は士気が高く、騎士達の訓練に必死についてきている。彼らには以後の村の防衛を任せるため念入りに鍛えているが、青の隊が必要としたのはこの自警団を率いるアランだった。
「エリカをちゃんと弔いたい。それが叶うなら何でも協力する」
悲しみに沈んだままの村長とは対照的に、アランは精力的に騎士団の仕事に協力していた。亜人の討伐はもとより、不案内な騎士団を先導して周囲の地形を隅々まで案内した。その中でアランの際立った強さは、すぐに青の隊全てが知ることになった。こんな田舎には勿体無い猛者だった。もしも彼が本気になれば、1:1で止められるのは騎士団ではダンテかエリオットかぐらいであろう。ゲオルギウスは早々に彼には敵わないと見切りをつけた。しかしアランはその強さに比して、それ以外の要素が稚拙だった。剣を振るう速度ならアランはダンテにも比肩しうる使い手だが、技という観点では落第だ。アランの剣は単純すぎる。剣術はいかに相手の構えをすりぬけ、人体の急所をつくか、あるいは戦闘力を落とすかという技術体系だ。ダンテの剣は速度と重さで相手に反撃の隙を与えないが、その速さと重さに慣れると次はその精緻な術が猛然と襲い掛かってくる。最高速度のまま最適の動きで急所を狙う彼の剣は、決して一撃の重さに頼るだけの愚者の剣ではない。一方アランはどうか。これはもうめちゃくちゃだ。安直すぎて受けるのは新人の騎士でも容易い。アランの剣の理屈は単純だった。剣が防がれてしまうなら、防ぐのが間に合わない速度で斬れば良い。剣が防がれてしまうなら、受けとめきれない重さで断ち切れば良い。実際に騎士相手の模擬戦でも同じことをして、中堅までの騎士がこの単純明快極まる暴力に膝を屈した。この近辺に現れるゴブリンなら、こんなものを受ければ即死するだろう。正直なところ、同じ長さのメイスなりバトルアックスなりを持たせたほうが彼は強くなる。しかしだからと言ってそうしてしまえば、武術家としての彼の素養を完全に殺してしまう。なんとか適切な訓練でもって一段上の戦士に育てたい。そして次の問題にぶちあたる。
「隊長。彼にまともな訓練をつけられる騎士は、我が隊には残っておりません」
情けない顔をした分隊長がゲオルギウスに何度目かの報告をした。
「わかっとるわい、そんなこと」
対するゲオルギウスも苦い顔だった。青の隊は基本的には裏方作業の部隊である。築城やら偵察やら輸送やら、そういった戦場の後方・準備段階でこそ威力を発揮する。もちろん騎士として十分な訓練を受けているが、赤の隊のように実戦経験が豊富というわけではない。数少ない猛者達には既に斥候を申しつけており、都合の良い人員は一人も残っていなかった。ゲオルギウスはもう一度残った騎士の顔ぶれを思い出し、どうにもならないことを悟って諦めた。
「ハンターに頼むか」
実戦経験では申し分なし。異種装備の知識もあるだろう。何より単独・小集団から大集団への連携という点も経験が多いはずだ。今のアランを確かな戦力として運用するには、ハンターのような運用が最適と思われた。
「戻ってきたハンターで手の空いた連中に声をかけてくれ」
「了解しました」
ゲオルギウスは視線を模擬試合に戻す。
もの数秒としないうちに騎士の1人が薙ぎ倒され、ゲオルギウスは大きく嘆息した。
1件目は言わずもがな、自殺した聖女の件である。経緯に関してはアランにおおよその話を聞くことで事情はわかったが、村長が未だに黙秘を続けるために情報に穴がある。アランの説明では聖女が自殺にいたる動機は理解できても、聖堂教会が何を行っていたのかがさっぱり不明瞭だ。儀式失敗の後に自殺に追い込まれるほどの叱責が繰り返されたというが、教会はなぜそんな益体のないことが続けていたのか。そんな明瞭な醜聞があるのに何故村長は聖堂教会を弾劾しないのか。アランは教会との取引に関しては知らないと言ったが、窓口である村長は否定していない。現在の状況に置いてゴブリン退治と近辺の調査は、アランの協力だけで事足りるだろう。黙秘してやり過ごそうとする村長の意図は明らかだった。ハンターの出した推論は間違っていないだろうが、経緯に至る軸が未だに見えない。
そして2件目は亡霊騒ぎだ。目撃者は口を揃えて「若い少女の亡霊」と言っていたが、パルシア村出身の目撃者は「聖女に似ていた」と証言している。この時期にこの話は偶然の一致ではないだろう。この亡霊騒ぎも北部の騒ぎを収める大事な要素となるのは間違いない。問題は、亡霊という不確かなものに確実に会う方法が無いということだ。出現情報の多い場所をまわり、幸運に期待する以外にない。ゲオルギウスは思考を止め、水代わりのぬるいエールに口をつけた。
「村長はもう少しなんとかなると思ったのだがな」
村長のジェイクはあれ以来新しい情報を出してはくれない。それが仮初のものであれ、怒りのままに罵声を吐いていた頃なら対処のしようもあっただろう。城を攻めるのと同じ。守りに徹した動きの無い相手というのが一番手ごわく、あとは力づくという方法しかなくなる。それはゲオルギウスとてしたくないし、したところで得られた情報が真実と確かめる術がない。
「………かと言って、教会に聞いて答えが出るわけでもなし」
今回の件、節々に謎が多い。聖女が北の大渓谷に向かったのは、エクラ教において自殺を恥ずかしいものと思う考えが元だろう。しかし、非力な彼女がどうやって亜人の本拠地の奥深くまで入ったのか不明なままだ。聖女の周囲には不思議な現象が起こっていたというが、それも儀式の後に多く起こっていたという。儀式に失敗し、聖女の資格なしとされたエリカに力があるというのも妙な話だ。ゲオルギウスは天幕の天井を見上げ嘆息した。村長の考えは楽観に過ぎる。この一件はただの亜人討伐では終わらない。そんな嫌な予感が思考を離れなかった。
■
ゲオルギウスは息抜きにと天幕を抜け出し、自警団を相手にした訓練の様子を視察していた。パルシア村の若者達は士気が高く、騎士達の訓練に必死についてきている。彼らには以後の村の防衛を任せるため念入りに鍛えているが、青の隊が必要としたのはこの自警団を率いるアランだった。
「エリカをちゃんと弔いたい。それが叶うなら何でも協力する」
悲しみに沈んだままの村長とは対照的に、アランは精力的に騎士団の仕事に協力していた。亜人の討伐はもとより、不案内な騎士団を先導して周囲の地形を隅々まで案内した。その中でアランの際立った強さは、すぐに青の隊全てが知ることになった。こんな田舎には勿体無い猛者だった。もしも彼が本気になれば、1:1で止められるのは騎士団ではダンテかエリオットかぐらいであろう。ゲオルギウスは早々に彼には敵わないと見切りをつけた。しかしアランはその強さに比して、それ以外の要素が稚拙だった。剣を振るう速度ならアランはダンテにも比肩しうる使い手だが、技という観点では落第だ。アランの剣は単純すぎる。剣術はいかに相手の構えをすりぬけ、人体の急所をつくか、あるいは戦闘力を落とすかという技術体系だ。ダンテの剣は速度と重さで相手に反撃の隙を与えないが、その速さと重さに慣れると次はその精緻な術が猛然と襲い掛かってくる。最高速度のまま最適の動きで急所を狙う彼の剣は、決して一撃の重さに頼るだけの愚者の剣ではない。一方アランはどうか。これはもうめちゃくちゃだ。安直すぎて受けるのは新人の騎士でも容易い。アランの剣の理屈は単純だった。剣が防がれてしまうなら、防ぐのが間に合わない速度で斬れば良い。剣が防がれてしまうなら、受けとめきれない重さで断ち切れば良い。実際に騎士相手の模擬戦でも同じことをして、中堅までの騎士がこの単純明快極まる暴力に膝を屈した。この近辺に現れるゴブリンなら、こんなものを受ければ即死するだろう。正直なところ、同じ長さのメイスなりバトルアックスなりを持たせたほうが彼は強くなる。しかしだからと言ってそうしてしまえば、武術家としての彼の素養を完全に殺してしまう。なんとか適切な訓練でもって一段上の戦士に育てたい。そして次の問題にぶちあたる。
「隊長。彼にまともな訓練をつけられる騎士は、我が隊には残っておりません」
情けない顔をした分隊長がゲオルギウスに何度目かの報告をした。
「わかっとるわい、そんなこと」
対するゲオルギウスも苦い顔だった。青の隊は基本的には裏方作業の部隊である。築城やら偵察やら輸送やら、そういった戦場の後方・準備段階でこそ威力を発揮する。もちろん騎士として十分な訓練を受けているが、赤の隊のように実戦経験が豊富というわけではない。数少ない猛者達には既に斥候を申しつけており、都合の良い人員は一人も残っていなかった。ゲオルギウスはもう一度残った騎士の顔ぶれを思い出し、どうにもならないことを悟って諦めた。
「ハンターに頼むか」
実戦経験では申し分なし。異種装備の知識もあるだろう。何より単独・小集団から大集団への連携という点も経験が多いはずだ。今のアランを確かな戦力として運用するには、ハンターのような運用が最適と思われた。
「戻ってきたハンターで手の空いた連中に声をかけてくれ」
「了解しました」
ゲオルギウスは視線を模擬試合に戻す。
もの数秒としないうちに騎士の1人が薙ぎ倒され、ゲオルギウスは大きく嘆息した。
リプレイ本文
ハンター達の集合を待ち、アランの訓練はチーム戦を実施する運びとなった。今後覚醒者と組む事が多くなることを考えれば、必要不可欠な内容だ。アランは今、白水 燈夜(ka0236)、バレーヌ=モノクローム(ka1605)、ヴァージル・チェンバレン(ka1989)の3名から簡単な講義を受けている。個人の技術のこと、集団戦の基本、精神面のこと。内容は簡易にしつつ、最低限を抑えるようにされている。他の者は思い思いに準備運動を始めているが、ゲオルギウスは一抹の不安を抱いていた。
「本当に大丈夫か、これ……」
一流であることを条件に呼びかけたわけではないし、非覚醒の騎士よりも素人に近い覚醒者のほうが強力ではある。十分に今回の要件を満たしてはいるが、参加者に漂う素人の気配がどうにも気になった。ジャック・J・グリーヴ(ka1305)はやや無遠慮に不安そうなゲオルギウスの背中を叩いた。
「心配すんなって、立派に鍛えてやるからよ」
「どこを安心しろと言うのだ……」
素人が混ざればどういう結果になるか予測がつかない。模擬戦で怪我をしないように手加減はするだろうが、問題はその模擬戦で変な癖がついてしまわないかということだ。元々変な癖がついてると言っても過言でないのにこれ以上変な方向に走りでもしたら。不安で悶々とするゲオルギウスを知ってか知らずか、ジャックは持ち前の陽気さのままだった。
「おーい! ただ模擬戦するだけじゃつまんねぇだろ!? せっかくだし負けた班は勝った班に飯奢るってのどうよ?」
口々に賛否が持ち上がるが、最後はそのローカルルールがそのまま通った。盛り上がる一同を余所に、ゲオルギウスは更に不安を募らせていた。
■
ハンター達はアランを加えた上で二つのチームにわかれた。Aチームはバレーヌ、 鮫島 寝子(ka1658)、ヴァージル、逢見 千(ka4357)、セイラ・イシュリエル(ka4820)。Bチームは白水、ジャック、鹿乃 梓(ka4972)、そしてアランの4名。流れ弾の心配が無いように村の広場で始められた模擬戦だが、人数の規模の差もあってすぐに部隊は分断された。ジャックは小回りの良い拳銃で巧みに周囲を牽制、あるいは制圧する。対する千は後列を分断するべく隙をうかがっていたが、この相手にそれは不可能に見えた。
(これだけ本気でやっても揺るがないなんて。やっぱりジャックさん、すごい)
千は知らず口元に笑みを浮かべていた。楽しい。しかしこのまま戦ってもジリ貧だ。どこかで敵の防御に穴をあけないといけない。ならば得意の力でもって強引に押し進むのも前衛の役目。
「鮫島さん、用意は良いですか?」
「いつでも!」
千は事前の打ち合わせどおり、斧を水平に構え低い姿勢で飛び出した。斧を振りかぶった態勢のままジャックにせまる。
「こなくそっ!」
ジャックは直線的な斬撃を盾で受けた。連撃を受けぬように銃撃で千を怯ませる。ジャックの攻撃と意識が全て千に向かったのを見計らい、鮫島が攻勢にでた。全速力で走り寄り、スライディングをするような姿勢で足元に蹴りを見舞う。盾をおいて身軽なジャックは、これを軽く回避するがこれはフェイント。本命は更に別方向から迫っていた。
「うお! なんだ!?」
猫だ。鮫島の飼っている虎猫がフシャーと威嚇の声をあげ飛び上がってきた。タイガーという名前のその猫はただの猫だが、ファミリアアタックの加護を受けているため、その爪は十分な威力を伴ってジャックを襲った。受けきれず肩に一撃をもらうジャック。振り切って小さな傷で危機を脱するが、連続攻撃の回避で大きくスタミナを消費していた。本来ならここで腕への負傷有りとして盾を置くところだが、すぐさま鹿乃のヒーリングがかかる。
「ジャックさん、大丈夫ですか?」
「平気だぜ」
ジャックはニカッと笑みを浮かべると捨てた盾を再び拾い上げる。この配置がジャックの生命線だった。1人ではダメージが蓄積し、いつかは倒れることとなっただろうが、梓が踏みとどまっていた。
(私は弱いけれど、弱いなりに戦う術があるんです……!!)
梓はジャックに付いて懸命に戦った。知恵と勇気を振り絞れば、自分のようなものでも戦えると、アランに、そして周囲に証明するように。鹿乃だけではない。鮫島も同じで戦術の理論が詳細がわかるわけではない。しかし人数の利を感覚で理解していた。
(何だって1人でやるのは難しいんだ。だから!)
言葉にすれば言うのは容易いが、実践となればどうか。2人が示したのは理論の地続きにあるものだった。
一方、アランも白水という後列を守りながら戦った。こちらは敵が1人多い。両側面をヴァージルとセイラに抑えられている。正面からはバレーヌが間合いを詰めにかかった。
「気は進みませんけど、行きますよ!」
バレーヌは刀を正面から袈裟懸けに振り下ろす。アランはこれを難なく受け止めた。アランとの力量差をふまえれば近接戦闘は不利だが、彼の視界を塞ぐ事はそれを補うだけの価値がある。バレーヌの牽制が届くのを確認し、ヴァージルとセイラが動いた。ヴァージルは事前に教えた内容を実践するかのように、執拗にアランの足元を拳銃で狙う。死角を探ってアランの周囲を移動し、足元に何度と無く銃撃を見舞った。セイラはその反対側から鞭で腕や足を打つ。足に鞭を絡ませることは出来ないが、打たれるだけでも十分にダメージとなっている。2人の攻撃が来るたびに、アランはバレーヌへの攻撃を諦めて受け太刀をし、あるいは逃げるように飛びのいて凌いだ。攻めるのは得意でも守るのは不得意なのか、剣で器用に防ぐようなことは出来ず、前線は徐々に後ろへと下がっていく。
(意外に周りが見えているのですね)
セイラはアランにちょっかいを掛けながらも、アランの動きをつぶさに観察していた。最初に思ったよりも動きは良い。それもそのはずで、彼は普段自分より弱い自警団と共に行動している。仲間を守る戦いは慣れているのだ。
(けど過保護すぎますわ)
アランの後列には白水が控えているのだが、何度と無く攻撃をためらっている。アランは射線を完全に塞ごうとするので、仲間の攻撃の機会すら奪っていた。
(でも愛する人を追いかける殿方としてなら、魅力的なのかもしれないわね)
勿論、そんなことでは困る。白水は安全だが連携しているとはとてもいえない。
(これじゃ狙えないよ)
連携を取るのは容易いと最初は思ったが、定石を無視して動くというのは先が読めずに非常にやりにくい。仲間であるアランを巻き込んでも、範囲攻撃を撃とうと決意はしたものの、実際に撃つとなると上手く狙いをつけられなかった。仲間ごと撃つ事は想定範囲だが、仲間の損害以上に敵に損害を与える必要がある。もしもアランだけスリープクラウドにかかろうものなら、直接的に自分の首を絞めることになる。白水が必死に狙いを定めようと奔走する中、相手チームのヴァージルも焦っていた。
(このままではまずいな)
アランの剛剣なら守りを捨てれば1人1人片を付けることもできる。じきにその選択肢を選ぶだろう。それではわざわざチーム戦をした意味がない。ヴァージルは周囲を確認した後、覚悟を決めて白水めがけて駆けだした。アランの表情が変わる。脇を抜ければ衝撃波で背中を狙うことも出来るが、それでも白水を守るには間に合わない。しかし白水はじれるほどにこの瞬間を待っていた。白水のウォーターシュートがヴァージルの胴体を直撃する。模擬用に威力を落としているが、実際の威力ならばただで済まないだろう。ヴァージルはそれを予期していたかのように水流を受け止めた。皆が見守る中で剣を鞘に収め、濡れて前に垂れた髪をかきあげる。アランはその光景を呆然と見ていた。
「……もしかして、わざと?」
「そうだが?」
悪びれないヴァージルは白水の言葉を平然と受け流す。彼はこの結果を仲間の価値として見せる必要があると感じていた。勝ち負けが重要なのではない。アランが今後使い物になればそれでいいのだ。
「アラン」
「……?」
「まだ模擬戦は終わっていないぞ」
模擬戦の死体となったヴァージルは、悠々と広場の端に移動する。ぎこちなく模擬戦を再開する一同だったが、状況が逆転することはなく、Bチームの勝利で幕を閉じた。
■
ヴァージルのボイコット(?)は明らかになり、食事は全員の財布から用意することとなった。反省会となった食事会で、アランの隣に座ったのは鹿乃だった。
「模擬戦の感想はどうでした?」
子犬のように寄っていく鹿乃にアランは少し身構えつつも、今日の自分の動きを一つ一つ思い返した。
「……新鮮だな」
シンプルな答えだが、思うところは幾つもあった。隣の仲間を信じるならば守らなくても良い。後ろの仲間を信じるなら守るだけで良い。1人で攻守進退を判断していた頃とは大きな違いだった。自分がダメでも自分以外に期待できる。
「それが仲間ってものだよ」
「そうですよ!」
寝子に続いて鹿乃も深くうなづき返す。2人としては満足の結果だったらしいが、白水はやや憮然とした表情のままだった。
「まあでも、もうちょっと仲間の武器は把握しないとね」
「というと……?」
「始める前にスキルの説明しただろ?」
「……そうだったな」
アランはすまなそうに頭を下げる。マギステルのスキルの射程、効果範囲、効果の内容。最初に説明はした。仲間にどの程度の足止めして欲しいかも伝えたが、理論の部分で勉強不足の為、どうしても仲間の妨害になってしまう事例が多々あった。そこは誰もが指摘する今後の反省点だった。
「それにしても……恐ろしく感覚的な教育だったな」
ゲオルギウスは終わった後も不満顔だったが、またもアランがその背中をたたいた。
「良いじゃねえか、伝わったんだからよ」
手放しに良いということもないが、理論だけなら騎士団でも教えることが出来る。ひとまずは良し、という点には異論は無かった。
「しかしよ、アラン」
「なんですか?」
「お前さんはどうやって、ガキン頃に北の大峡谷に行けちまったんだ?」
ジャックは少し前からの疑問を口にした。その当時、アランは覚醒していたという話は聞くことができなかった。ならばどんな力が、アランを大峡谷に通したというのか。
「……詳しくは覚えてないんです」
アランはすまなさそうにうつむいた。
「大峡谷は亜人だらけで通れるような場所ではないんですが、なぜかその日は亜人が1人も見当たりませんでした」
「ふーん……」
ジャックは聖女の変化はアランに原因があると考えていたが、聞けば聞くほどにそうではないらしいことがわかった。不思議な現象が起こったトリガーが何だったのかはよくわからない。失敗した儀式の後に多いというのがヒントになりそうだった。
料理の準備が進み、そろそろ食卓に並ぼうかという頃、ハンターの泊まる宿に来客があった。
「あれ……?」
バレーヌは村長の顔を見て驚いた。村に入ってからバレーヌは何度も村長の家には通っていたが、村長から外に顔を出すのは珍しいことだった。それこそ行商人が来た時や、騎士団と会議をする時ぐらいだろう。あとは墓と家を往復しているような人だ。村長の姿を見つけ、バレーヌと同じく村長宅に通っていたセイラが前に出た。
「エリカさんのお話、聞かせてもらいました」
セイラは神妙に目を伏せる。村長は驚くこともせず、その様子を見守っていた。
「ごめんなさい、他人の過去を覗き見するような真似をして」
それは仕事の結果の不可抗力ではあったが、セイラにとっては土足で人の感情に入るにも等しい行為に思えた。だからこその謝罪だったが、村長は特に何も反応を示さなかった。
「……謝らずとも良い」
「しかし……」
「謝罪はな」
村長はセイラの言葉を遮った。
「立場がある者の謝罪にしか価値は無い」
続く深いため息は諦めのような感情を含んでいるようだった。彼にとって無関係な人間の謝罪で得るものはない。今回もまた沈黙したままかと思われたが、村長は腰を下ろしてバレーヌに向きあった。
「……バレーヌ君、そういえば君は行商のことを調べておったな」
「はい」
それは金の流れを調べるためだ。しかし成果は大してあがっていない。村の外に流れていったものは、村の中からは追跡は難しい。行商人を追跡することは可能だが、一つ一つ確認していては莫大な時間がかかる。バレーヌは手詰まりを感じていた。
「行商なら月坂康四郎という商人がおる。ここらでは珍しい名前だが、なんでも祖先はリアルブルーから来たそうでな。村には何人も行商が訪れるが、その月坂にはいつも贔屓にしてもらっておる」
「!」
「普段は王都で商いをしておるそうだ。もしも勉強がしたいなら話を聞いてみると良い」
「………わかりました」
村長は特にそれ以上の話はしなかった。それは大きな譲歩だった。村長の話はここまでで終わっておけば、村人が信頼できる商人をハンターに紹介しただけにすぎない。金銭の流れを追うことができない農村地帯において、この名指しは値千金の価値があった。居場所が判明しているなら十分に追跡して調査が出来るだろう。
「わしは村を守らねばならん。だから、今はこれ以上のことはしてやれん」
その言葉でヴァージルの推論が正解であったことがわかる。
「いえ、ありがとうございます。十分です」
バレーヌは村長の手を取った。感情ではまだ許せないことも納得できないこともある。それでも解決を望んでいることに変わりはない。バレーヌはこの村の人々を苦しみから解放するため、新しい情報を深く胸に刻み込んだ。
後日、バレーヌからの報告にあった行商人を調査することが決定した。真相を知る誰かを捜すため、青の隊は小さな一歩を踏み出した。
「本当に大丈夫か、これ……」
一流であることを条件に呼びかけたわけではないし、非覚醒の騎士よりも素人に近い覚醒者のほうが強力ではある。十分に今回の要件を満たしてはいるが、参加者に漂う素人の気配がどうにも気になった。ジャック・J・グリーヴ(ka1305)はやや無遠慮に不安そうなゲオルギウスの背中を叩いた。
「心配すんなって、立派に鍛えてやるからよ」
「どこを安心しろと言うのだ……」
素人が混ざればどういう結果になるか予測がつかない。模擬戦で怪我をしないように手加減はするだろうが、問題はその模擬戦で変な癖がついてしまわないかということだ。元々変な癖がついてると言っても過言でないのにこれ以上変な方向に走りでもしたら。不安で悶々とするゲオルギウスを知ってか知らずか、ジャックは持ち前の陽気さのままだった。
「おーい! ただ模擬戦するだけじゃつまんねぇだろ!? せっかくだし負けた班は勝った班に飯奢るってのどうよ?」
口々に賛否が持ち上がるが、最後はそのローカルルールがそのまま通った。盛り上がる一同を余所に、ゲオルギウスは更に不安を募らせていた。
■
ハンター達はアランを加えた上で二つのチームにわかれた。Aチームはバレーヌ、 鮫島 寝子(ka1658)、ヴァージル、逢見 千(ka4357)、セイラ・イシュリエル(ka4820)。Bチームは白水、ジャック、鹿乃 梓(ka4972)、そしてアランの4名。流れ弾の心配が無いように村の広場で始められた模擬戦だが、人数の規模の差もあってすぐに部隊は分断された。ジャックは小回りの良い拳銃で巧みに周囲を牽制、あるいは制圧する。対する千は後列を分断するべく隙をうかがっていたが、この相手にそれは不可能に見えた。
(これだけ本気でやっても揺るがないなんて。やっぱりジャックさん、すごい)
千は知らず口元に笑みを浮かべていた。楽しい。しかしこのまま戦ってもジリ貧だ。どこかで敵の防御に穴をあけないといけない。ならば得意の力でもって強引に押し進むのも前衛の役目。
「鮫島さん、用意は良いですか?」
「いつでも!」
千は事前の打ち合わせどおり、斧を水平に構え低い姿勢で飛び出した。斧を振りかぶった態勢のままジャックにせまる。
「こなくそっ!」
ジャックは直線的な斬撃を盾で受けた。連撃を受けぬように銃撃で千を怯ませる。ジャックの攻撃と意識が全て千に向かったのを見計らい、鮫島が攻勢にでた。全速力で走り寄り、スライディングをするような姿勢で足元に蹴りを見舞う。盾をおいて身軽なジャックは、これを軽く回避するがこれはフェイント。本命は更に別方向から迫っていた。
「うお! なんだ!?」
猫だ。鮫島の飼っている虎猫がフシャーと威嚇の声をあげ飛び上がってきた。タイガーという名前のその猫はただの猫だが、ファミリアアタックの加護を受けているため、その爪は十分な威力を伴ってジャックを襲った。受けきれず肩に一撃をもらうジャック。振り切って小さな傷で危機を脱するが、連続攻撃の回避で大きくスタミナを消費していた。本来ならここで腕への負傷有りとして盾を置くところだが、すぐさま鹿乃のヒーリングがかかる。
「ジャックさん、大丈夫ですか?」
「平気だぜ」
ジャックはニカッと笑みを浮かべると捨てた盾を再び拾い上げる。この配置がジャックの生命線だった。1人ではダメージが蓄積し、いつかは倒れることとなっただろうが、梓が踏みとどまっていた。
(私は弱いけれど、弱いなりに戦う術があるんです……!!)
梓はジャックに付いて懸命に戦った。知恵と勇気を振り絞れば、自分のようなものでも戦えると、アランに、そして周囲に証明するように。鹿乃だけではない。鮫島も同じで戦術の理論が詳細がわかるわけではない。しかし人数の利を感覚で理解していた。
(何だって1人でやるのは難しいんだ。だから!)
言葉にすれば言うのは容易いが、実践となればどうか。2人が示したのは理論の地続きにあるものだった。
一方、アランも白水という後列を守りながら戦った。こちらは敵が1人多い。両側面をヴァージルとセイラに抑えられている。正面からはバレーヌが間合いを詰めにかかった。
「気は進みませんけど、行きますよ!」
バレーヌは刀を正面から袈裟懸けに振り下ろす。アランはこれを難なく受け止めた。アランとの力量差をふまえれば近接戦闘は不利だが、彼の視界を塞ぐ事はそれを補うだけの価値がある。バレーヌの牽制が届くのを確認し、ヴァージルとセイラが動いた。ヴァージルは事前に教えた内容を実践するかのように、執拗にアランの足元を拳銃で狙う。死角を探ってアランの周囲を移動し、足元に何度と無く銃撃を見舞った。セイラはその反対側から鞭で腕や足を打つ。足に鞭を絡ませることは出来ないが、打たれるだけでも十分にダメージとなっている。2人の攻撃が来るたびに、アランはバレーヌへの攻撃を諦めて受け太刀をし、あるいは逃げるように飛びのいて凌いだ。攻めるのは得意でも守るのは不得意なのか、剣で器用に防ぐようなことは出来ず、前線は徐々に後ろへと下がっていく。
(意外に周りが見えているのですね)
セイラはアランにちょっかいを掛けながらも、アランの動きをつぶさに観察していた。最初に思ったよりも動きは良い。それもそのはずで、彼は普段自分より弱い自警団と共に行動している。仲間を守る戦いは慣れているのだ。
(けど過保護すぎますわ)
アランの後列には白水が控えているのだが、何度と無く攻撃をためらっている。アランは射線を完全に塞ごうとするので、仲間の攻撃の機会すら奪っていた。
(でも愛する人を追いかける殿方としてなら、魅力的なのかもしれないわね)
勿論、そんなことでは困る。白水は安全だが連携しているとはとてもいえない。
(これじゃ狙えないよ)
連携を取るのは容易いと最初は思ったが、定石を無視して動くというのは先が読めずに非常にやりにくい。仲間であるアランを巻き込んでも、範囲攻撃を撃とうと決意はしたものの、実際に撃つとなると上手く狙いをつけられなかった。仲間ごと撃つ事は想定範囲だが、仲間の損害以上に敵に損害を与える必要がある。もしもアランだけスリープクラウドにかかろうものなら、直接的に自分の首を絞めることになる。白水が必死に狙いを定めようと奔走する中、相手チームのヴァージルも焦っていた。
(このままではまずいな)
アランの剛剣なら守りを捨てれば1人1人片を付けることもできる。じきにその選択肢を選ぶだろう。それではわざわざチーム戦をした意味がない。ヴァージルは周囲を確認した後、覚悟を決めて白水めがけて駆けだした。アランの表情が変わる。脇を抜ければ衝撃波で背中を狙うことも出来るが、それでも白水を守るには間に合わない。しかし白水はじれるほどにこの瞬間を待っていた。白水のウォーターシュートがヴァージルの胴体を直撃する。模擬用に威力を落としているが、実際の威力ならばただで済まないだろう。ヴァージルはそれを予期していたかのように水流を受け止めた。皆が見守る中で剣を鞘に収め、濡れて前に垂れた髪をかきあげる。アランはその光景を呆然と見ていた。
「……もしかして、わざと?」
「そうだが?」
悪びれないヴァージルは白水の言葉を平然と受け流す。彼はこの結果を仲間の価値として見せる必要があると感じていた。勝ち負けが重要なのではない。アランが今後使い物になればそれでいいのだ。
「アラン」
「……?」
「まだ模擬戦は終わっていないぞ」
模擬戦の死体となったヴァージルは、悠々と広場の端に移動する。ぎこちなく模擬戦を再開する一同だったが、状況が逆転することはなく、Bチームの勝利で幕を閉じた。
■
ヴァージルのボイコット(?)は明らかになり、食事は全員の財布から用意することとなった。反省会となった食事会で、アランの隣に座ったのは鹿乃だった。
「模擬戦の感想はどうでした?」
子犬のように寄っていく鹿乃にアランは少し身構えつつも、今日の自分の動きを一つ一つ思い返した。
「……新鮮だな」
シンプルな答えだが、思うところは幾つもあった。隣の仲間を信じるならば守らなくても良い。後ろの仲間を信じるなら守るだけで良い。1人で攻守進退を判断していた頃とは大きな違いだった。自分がダメでも自分以外に期待できる。
「それが仲間ってものだよ」
「そうですよ!」
寝子に続いて鹿乃も深くうなづき返す。2人としては満足の結果だったらしいが、白水はやや憮然とした表情のままだった。
「まあでも、もうちょっと仲間の武器は把握しないとね」
「というと……?」
「始める前にスキルの説明しただろ?」
「……そうだったな」
アランはすまなそうに頭を下げる。マギステルのスキルの射程、効果範囲、効果の内容。最初に説明はした。仲間にどの程度の足止めして欲しいかも伝えたが、理論の部分で勉強不足の為、どうしても仲間の妨害になってしまう事例が多々あった。そこは誰もが指摘する今後の反省点だった。
「それにしても……恐ろしく感覚的な教育だったな」
ゲオルギウスは終わった後も不満顔だったが、またもアランがその背中をたたいた。
「良いじゃねえか、伝わったんだからよ」
手放しに良いということもないが、理論だけなら騎士団でも教えることが出来る。ひとまずは良し、という点には異論は無かった。
「しかしよ、アラン」
「なんですか?」
「お前さんはどうやって、ガキン頃に北の大峡谷に行けちまったんだ?」
ジャックは少し前からの疑問を口にした。その当時、アランは覚醒していたという話は聞くことができなかった。ならばどんな力が、アランを大峡谷に通したというのか。
「……詳しくは覚えてないんです」
アランはすまなさそうにうつむいた。
「大峡谷は亜人だらけで通れるような場所ではないんですが、なぜかその日は亜人が1人も見当たりませんでした」
「ふーん……」
ジャックは聖女の変化はアランに原因があると考えていたが、聞けば聞くほどにそうではないらしいことがわかった。不思議な現象が起こったトリガーが何だったのかはよくわからない。失敗した儀式の後に多いというのがヒントになりそうだった。
料理の準備が進み、そろそろ食卓に並ぼうかという頃、ハンターの泊まる宿に来客があった。
「あれ……?」
バレーヌは村長の顔を見て驚いた。村に入ってからバレーヌは何度も村長の家には通っていたが、村長から外に顔を出すのは珍しいことだった。それこそ行商人が来た時や、騎士団と会議をする時ぐらいだろう。あとは墓と家を往復しているような人だ。村長の姿を見つけ、バレーヌと同じく村長宅に通っていたセイラが前に出た。
「エリカさんのお話、聞かせてもらいました」
セイラは神妙に目を伏せる。村長は驚くこともせず、その様子を見守っていた。
「ごめんなさい、他人の過去を覗き見するような真似をして」
それは仕事の結果の不可抗力ではあったが、セイラにとっては土足で人の感情に入るにも等しい行為に思えた。だからこその謝罪だったが、村長は特に何も反応を示さなかった。
「……謝らずとも良い」
「しかし……」
「謝罪はな」
村長はセイラの言葉を遮った。
「立場がある者の謝罪にしか価値は無い」
続く深いため息は諦めのような感情を含んでいるようだった。彼にとって無関係な人間の謝罪で得るものはない。今回もまた沈黙したままかと思われたが、村長は腰を下ろしてバレーヌに向きあった。
「……バレーヌ君、そういえば君は行商のことを調べておったな」
「はい」
それは金の流れを調べるためだ。しかし成果は大してあがっていない。村の外に流れていったものは、村の中からは追跡は難しい。行商人を追跡することは可能だが、一つ一つ確認していては莫大な時間がかかる。バレーヌは手詰まりを感じていた。
「行商なら月坂康四郎という商人がおる。ここらでは珍しい名前だが、なんでも祖先はリアルブルーから来たそうでな。村には何人も行商が訪れるが、その月坂にはいつも贔屓にしてもらっておる」
「!」
「普段は王都で商いをしておるそうだ。もしも勉強がしたいなら話を聞いてみると良い」
「………わかりました」
村長は特にそれ以上の話はしなかった。それは大きな譲歩だった。村長の話はここまでで終わっておけば、村人が信頼できる商人をハンターに紹介しただけにすぎない。金銭の流れを追うことができない農村地帯において、この名指しは値千金の価値があった。居場所が判明しているなら十分に追跡して調査が出来るだろう。
「わしは村を守らねばならん。だから、今はこれ以上のことはしてやれん」
その言葉でヴァージルの推論が正解であったことがわかる。
「いえ、ありがとうございます。十分です」
バレーヌは村長の手を取った。感情ではまだ許せないことも納得できないこともある。それでも解決を望んでいることに変わりはない。バレーヌはこの村の人々を苦しみから解放するため、新しい情報を深く胸に刻み込んだ。
後日、バレーヌからの報告にあった行商人を調査することが決定した。真相を知る誰かを捜すため、青の隊は小さな一歩を踏み出した。
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相談卓 バレーヌ=モノクローム(ka1605) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/06/16 06:31:42 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/13 11:40:38 |