ゲスト
(ka0000)
【東征】歪虚CAMが山城に舞う
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/16 22:00
- 完成日
- 2015/06/19 17:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●城攻め3日前
「よく来てくれた!」
あなたを含むハンターを出迎えたのは、乾いた皮膚に辛苦が刻まれた老将だった。
すぐに出発するつもりでどこで何と戦うのかたずねると、皺だらけの顔が笑みでくしゃくしゃになった。
「うむ、うむ」
目の端に喜びの涙が浮かんでいる。
「4日後の城攻めに参加して欲しい」
部下が地図を広げる。
険しい山と谷が連なる土地の、特に険しい山の超常に砦が建っているようだ。
「この砦の真下に龍脈が通っていた。巫子が1人でも砦に辿り着けば再起動が叶う」
憤怒の歪虚も当然そのことを知っている。大戦力が待ち構えているだろう。
「出発は3日後。1日かけて現地に向かい、戦という流れじゃな。今日明日は旅の疲れを癒して」
部下が老人に耳打ちした。
「あー、今日明日のうちに巫子とその護衛の顔合わせを頼む。その、決して悪い子らではのじゃが」
そのとき感じた不安は、残念ながら適中してしまった。
●城攻め2日前
「西からの援軍か」
軽めの鎧で身を固めた少女が1人、ほとんど非礼といってもよい視線をあなた達に向けていた。
「私は才善。城攻めは我等が行う。貴公等は我等の背後を固め万一に備えて欲しい」
巫子らしき中年男性も、少女よりは穏やかなものの決して友好的ではなかった。
●城攻め前日
老将が激怒した。
「貴重な援軍相手に抜け駆けだぁ? 増長に加えて戦のいろはすら知らぬのか小娘が!」
小柄な赤鬼といわれても違和感がない外見で咆えている。
「ハンター殿、誠申し訳ない」
あなたは土下座し床に頭をぶつけようとする老人を宥めて座らせ、抜け駆けした1部隊と巫子1人を追って戦場に向かった。
●狐の罠
彼等を出迎えたのは傾斜30度を超える急斜面だった。
荒れ果てた細い道が曲がりくねって頂上まで続いている。父祖が防衛に失敗し蹂躙された石垣があちこちに顔を出している。
「姫」
「分かっている。後見役殿にも東の強者にもいくらでも頭を下げよう。だが、ここだけは我等が取り戻さねばならぬ」
かつて大きな勢力を持ち、今では50人の隊をつくれぬほど衰微した家門の後継者が、悲壮な覚悟で頂上の砦を見据える。
「巫子殿、すまぬな」
「この程度では先代様から受けた恩を返せません。……参りましょう」
「ああ! いくぞ皆!」
舞刀士達が一斉に刀を抜き、雄叫びをあげて山道を駆けだした。
石垣の陰に潜む存在に気づいた者は、この時点では1人もいなかった。
●城攻め当日
山が燃えている。
否。
山頂の砦や各所に築かれた石垣の上から、2尾の狐が炎を打ち出し一方的に人間を攻めている。
何人かの舞刀士が弓を使っているが全く足りない。燃やされ、相打ち覚悟で前に出ても距離をとられ、一方的に数を減らしていく。
巫子は中央で守られ無事だ。
だがあなた達との距離は直線で約800メートル、谷や山道を考慮に入れると倍はある。
そんなことを考えつつ走っていると、東から近づいてくる巨大な気配に気づいた。
『おっと、ニンゲンサンよ、苦労しているようだな?』
ドラゴンは翼を動かさず滑空する。
あなたの背後数十メートルに、ほぼ無言で着地し翼を畳んだ。
トランシーバーで援軍を呼んでから戦おうとしたとき、竜が飛んできた方角に特徴的な人型が2つ見えた。
細部が異なっているが以前歪虚に奪われたCAMだ。
30ミリのアサルトライフルを装備した機体が2つ、ブースターを使って飛行というより落下しつつこちらに近づいてくる。
ブースターを停止してからの半回転の後の受け身の動作は、それほど酷くはなかった。
「何者だ」
メーガン(kz0098)がシリアス顔で問う。
右手に持った飲みかけペットボトルの中身がゆらゆら揺れていた。
『ははァ、俺もまだまだかねェ』
高位歪虚が愉快そうに笑い、CAMに見える何かが駆け足で移動し竜の左右を固めた。
『こいつなら雑魚が全滅する前に届くだろ』
ブースターが淡い光を帯びる。
真っ当なCAMの動きではない。おそらく歪虚化している。
『好きに使いな。ハ、使った技は全て記憶させてもらうが、な』
2機の搭乗口が開き重い空気が吹きつける。
中には何もいないのに、情報の分析と照準が行われているよう見えた。
『潰してェならやってくれても構わねェぜ?』
翼が広げられ、上下に動く。
強い風が直撃してもCAMはびくともしない。
『やれるモンならな!』
哄笑を残し、十三魔ガルドブルムは東の空に消えた。
●地図(1文字縦横100メートル)
峰峰峰峰頂峰峰峰峰
山山山山道道道山山
山山山山山狐刀狐山
山道道道道道巫山山
山坂狐山山山狐山山
谷谷谷谷谷谷谷谷谷
山山山山山山坂山山
山道道道道道道山山
山道山山山山山山山
山道道道道道道山山
峰峰峰峰峰峰ハ峰峰
頂:石垣で出来た砦があり、狐に似た大型歪虚が見下ろしています。
狐:2尾の狐が8体いる斜面です。安定した足場になる石垣が1つ中央にあります。
刀:指揮官を含む舞刀士30名が防戦中です。
巫:巫子1人と護衛10名が撤退しようとしていますが足止めされています。
道:幅2メートルの道があります。手すり無し。左右は急傾斜で落ちると危険です。
山:傾斜30度以上の斜面。移動力と回避に負の影響有り。
峰:尾根。足場は平坦で安定しています。
谷:崖と河原と細い川があります。移動力に影響無し。
坂:谷に繋がる道があります。幅1メートルを切る場所もあります。
ハ:ハンターとCAMの初期位置です。
●味方NPC
・舞刀士
10レベルが5人、5レベルが10人、他は舞刀士に似た装備をしているだけの非覚醒者。
説得しなくてもハンターの指示に従います
・巫子
15レベル聖導士。龍脈再起動に特化した装備のため攻撃能力が低く、スキルを使った場合再起動成功確率が低下します。
舞刀士の指揮官の命令に従います
・メーガン
騎乗。荷物持ちOK
●敵戦力
・二尾狐
全長1メートルの狐。移動力は1で躱す能力も低く、登攀能力が高い。
毛は金属光沢で厚めの金属鎧より堅い。生命力は並以下。
攻撃手段は鈍い牙と狐火。
牙(近接。射程1命中80威力60)。
狐火(魔法。2ラウンドに1回使用可能。射程1~5命中120威力100)。
狐火を使った攻撃と移動を繰り返そうとします。
・三尻狐
全高2メートルの狐型歪虚。サイズ2。移動力4。会話能力は無いが知性は人間並。指揮能力有り。
毛は灰色。2尾狐よりは強いがサイズの割に戦闘力は低い。
攻撃手段は自己を中心とした狐火(魔法。射程1~3命中100魔法威力100)。
最初は人間の殺害を目指して行動します。
巫子の存在に気づいた後は己を含む全戦力を使い潰してでも巫子殺害を優先します。
・CAM(ガルドブルム版)
サイズ2。移動力4。回避能力は操縦者と同じ。抵抗力と生命力は高く防御点は通常のCAM以下。
手足を使った近接攻撃が可能。射程1~2。威力は二尾狐を一撃で倒せる程度。
「よく来てくれた!」
あなたを含むハンターを出迎えたのは、乾いた皮膚に辛苦が刻まれた老将だった。
すぐに出発するつもりでどこで何と戦うのかたずねると、皺だらけの顔が笑みでくしゃくしゃになった。
「うむ、うむ」
目の端に喜びの涙が浮かんでいる。
「4日後の城攻めに参加して欲しい」
部下が地図を広げる。
険しい山と谷が連なる土地の、特に険しい山の超常に砦が建っているようだ。
「この砦の真下に龍脈が通っていた。巫子が1人でも砦に辿り着けば再起動が叶う」
憤怒の歪虚も当然そのことを知っている。大戦力が待ち構えているだろう。
「出発は3日後。1日かけて現地に向かい、戦という流れじゃな。今日明日は旅の疲れを癒して」
部下が老人に耳打ちした。
「あー、今日明日のうちに巫子とその護衛の顔合わせを頼む。その、決して悪い子らではのじゃが」
そのとき感じた不安は、残念ながら適中してしまった。
●城攻め2日前
「西からの援軍か」
軽めの鎧で身を固めた少女が1人、ほとんど非礼といってもよい視線をあなた達に向けていた。
「私は才善。城攻めは我等が行う。貴公等は我等の背後を固め万一に備えて欲しい」
巫子らしき中年男性も、少女よりは穏やかなものの決して友好的ではなかった。
●城攻め前日
老将が激怒した。
「貴重な援軍相手に抜け駆けだぁ? 増長に加えて戦のいろはすら知らぬのか小娘が!」
小柄な赤鬼といわれても違和感がない外見で咆えている。
「ハンター殿、誠申し訳ない」
あなたは土下座し床に頭をぶつけようとする老人を宥めて座らせ、抜け駆けした1部隊と巫子1人を追って戦場に向かった。
●狐の罠
彼等を出迎えたのは傾斜30度を超える急斜面だった。
荒れ果てた細い道が曲がりくねって頂上まで続いている。父祖が防衛に失敗し蹂躙された石垣があちこちに顔を出している。
「姫」
「分かっている。後見役殿にも東の強者にもいくらでも頭を下げよう。だが、ここだけは我等が取り戻さねばならぬ」
かつて大きな勢力を持ち、今では50人の隊をつくれぬほど衰微した家門の後継者が、悲壮な覚悟で頂上の砦を見据える。
「巫子殿、すまぬな」
「この程度では先代様から受けた恩を返せません。……参りましょう」
「ああ! いくぞ皆!」
舞刀士達が一斉に刀を抜き、雄叫びをあげて山道を駆けだした。
石垣の陰に潜む存在に気づいた者は、この時点では1人もいなかった。
●城攻め当日
山が燃えている。
否。
山頂の砦や各所に築かれた石垣の上から、2尾の狐が炎を打ち出し一方的に人間を攻めている。
何人かの舞刀士が弓を使っているが全く足りない。燃やされ、相打ち覚悟で前に出ても距離をとられ、一方的に数を減らしていく。
巫子は中央で守られ無事だ。
だがあなた達との距離は直線で約800メートル、谷や山道を考慮に入れると倍はある。
そんなことを考えつつ走っていると、東から近づいてくる巨大な気配に気づいた。
『おっと、ニンゲンサンよ、苦労しているようだな?』
ドラゴンは翼を動かさず滑空する。
あなたの背後数十メートルに、ほぼ無言で着地し翼を畳んだ。
トランシーバーで援軍を呼んでから戦おうとしたとき、竜が飛んできた方角に特徴的な人型が2つ見えた。
細部が異なっているが以前歪虚に奪われたCAMだ。
30ミリのアサルトライフルを装備した機体が2つ、ブースターを使って飛行というより落下しつつこちらに近づいてくる。
ブースターを停止してからの半回転の後の受け身の動作は、それほど酷くはなかった。
「何者だ」
メーガン(kz0098)がシリアス顔で問う。
右手に持った飲みかけペットボトルの中身がゆらゆら揺れていた。
『ははァ、俺もまだまだかねェ』
高位歪虚が愉快そうに笑い、CAMに見える何かが駆け足で移動し竜の左右を固めた。
『こいつなら雑魚が全滅する前に届くだろ』
ブースターが淡い光を帯びる。
真っ当なCAMの動きではない。おそらく歪虚化している。
『好きに使いな。ハ、使った技は全て記憶させてもらうが、な』
2機の搭乗口が開き重い空気が吹きつける。
中には何もいないのに、情報の分析と照準が行われているよう見えた。
『潰してェならやってくれても構わねェぜ?』
翼が広げられ、上下に動く。
強い風が直撃してもCAMはびくともしない。
『やれるモンならな!』
哄笑を残し、十三魔ガルドブルムは東の空に消えた。
●地図(1文字縦横100メートル)
峰峰峰峰頂峰峰峰峰
山山山山道道道山山
山山山山山狐刀狐山
山道道道道道巫山山
山坂狐山山山狐山山
谷谷谷谷谷谷谷谷谷
山山山山山山坂山山
山道道道道道道山山
山道山山山山山山山
山道道道道道道山山
峰峰峰峰峰峰ハ峰峰
頂:石垣で出来た砦があり、狐に似た大型歪虚が見下ろしています。
狐:2尾の狐が8体いる斜面です。安定した足場になる石垣が1つ中央にあります。
刀:指揮官を含む舞刀士30名が防戦中です。
巫:巫子1人と護衛10名が撤退しようとしていますが足止めされています。
道:幅2メートルの道があります。手すり無し。左右は急傾斜で落ちると危険です。
山:傾斜30度以上の斜面。移動力と回避に負の影響有り。
峰:尾根。足場は平坦で安定しています。
谷:崖と河原と細い川があります。移動力に影響無し。
坂:谷に繋がる道があります。幅1メートルを切る場所もあります。
ハ:ハンターとCAMの初期位置です。
●味方NPC
・舞刀士
10レベルが5人、5レベルが10人、他は舞刀士に似た装備をしているだけの非覚醒者。
説得しなくてもハンターの指示に従います
・巫子
15レベル聖導士。龍脈再起動に特化した装備のため攻撃能力が低く、スキルを使った場合再起動成功確率が低下します。
舞刀士の指揮官の命令に従います
・メーガン
騎乗。荷物持ちOK
●敵戦力
・二尾狐
全長1メートルの狐。移動力は1で躱す能力も低く、登攀能力が高い。
毛は金属光沢で厚めの金属鎧より堅い。生命力は並以下。
攻撃手段は鈍い牙と狐火。
牙(近接。射程1命中80威力60)。
狐火(魔法。2ラウンドに1回使用可能。射程1~5命中120威力100)。
狐火を使った攻撃と移動を繰り返そうとします。
・三尻狐
全高2メートルの狐型歪虚。サイズ2。移動力4。会話能力は無いが知性は人間並。指揮能力有り。
毛は灰色。2尾狐よりは強いがサイズの割に戦闘力は低い。
攻撃手段は自己を中心とした狐火(魔法。射程1~3命中100魔法威力100)。
最初は人間の殺害を目指して行動します。
巫子の存在に気づいた後は己を含む全戦力を使い潰してでも巫子殺害を優先します。
・CAM(ガルドブルム版)
サイズ2。移動力4。回避能力は操縦者と同じ。抵抗力と生命力は高く防御点は通常のCAM以下。
手足を使った近接攻撃が可能。射程1~2。威力は二尾狐を一撃で倒せる程度。
リプレイ本文
●CAM
「どんな理由があるにせよ、独断専行したあげくに窮地に陥るとは困った人たちです」
ブースターの噴射音にかき消される音量で、エルバッハ・リオン(ka2434)がつぶやいていた。
「とはいっても、見殺しにはできませんから、できる限りは助けたいところです」
CAMの搭乗口が開く。
「そのためには、これを使うことも止む無しですか」
ロープを運び込んだ瀬崎・統夜(ka5046)とCharlotte・V・K(ka0468)がそのまま搭乗する。
静かに搭乗口が閉じていく。
人型兵器が腕を伸ばす。
エルバッハはその腕につかまり、ピンク色の杖と書物をきつく腰に固定した。
もう一方の腕には三條 時澄(ka4759)がいる。
「早まった真似をしてくれる。生きててくれよ」
北に見える戦場では舞刀士達が後退を始めていた。
ブースターから光が伸びる。
轟音がメーガン(kz0098)をよろめかせ、待機組のパルムと戦馬が興味深そうに見上げていた。
「いきましょう」
エルバッハが風に揺れる髪を抑えて促すと、2機のCAMが初めはパルムが認識できる速度で、数秒でメーガンが見失う速度で地上から離れ、北の山地に消えていった。
●空からの救援
「離せ!」
「姫を失うわけにはいかんのです」
現実には剣が届かない距離から一方的に狐火を撃ち込まれ、巫子とその護衛部隊は一矢報いることもできず撤退を始め、残った精鋭もなすすべ無く全滅しようとしていた。
真横から炎が飛来する。指揮官が最初に気づいて切ろうとしても腕が追いつかず部下と共に炙られ悲鳴をあげた。
その悲鳴を消し飛ばす音が南から近づき、2つに別れて1つが東にある坂の途中に衝突する。
大気を伝わる轟音と地面を伝わる振動はどちらも非常に激しく、人間を包囲していた狐型歪虚のほとんどが混乱し攻撃が一瞬止んだ。
Charlotteが搭乗口を蹴り開ける。
「次の操縦は任せる。迎えにいってくるからよ」
統夜はディスプレイとベルトを外し、着地直前の記憶を頼りに搭乗から飛び出した。
空中で回転しないよう手足と姿勢を制御しながら確認する。
俯角30度距離10メートルの位置に装備の良い少女が1人いる。彼女の周辺を傷ついたと東方兵が固め、その外側には傾斜をものともせず動く二尾狐が10以上。
「面倒はごめんなんだけどな」
斜面にぶつかる直前に足で蹴る。
無茶な動きで足が微かに痛む。蹴った斜面が大きく凹む。
茫然自失から回復した狐達から炎の歓迎が統夜に集中し、しかし統夜は体を焼かれても眉を動かしすらせず少女の間近に着地した。
「どうだった? 冒険は。気がすんだろ」
ぐるりと360度視線を向ける。途中、少女に向かおうとして護衛に止められている巫子に気づいて視線が冷たく。
指揮官の立場は強いとはいえ、これほど無茶な抜け駆けが指揮官1人の意思でできる訳がない。煽り、賛同し、あるいは無茶と知りながら流れに乗ってしまう者がほとんどだったからこんな様になる。
「私はっ」
死ぬつもりの目が統夜を見上げる。
「苦しんでんのはお前だけじゃない、とかは言わねえよ。お前の悔しさ苦しさはお前だけのもんだ」
優しげな声で、けれど手は容赦なく少女を抱えてロープで括り東に向かって合図を送る。
CAMがかすかにうなずき腕部を動かすと、ロープがぴんと伸び、次にCAMの強烈な腕力でロープごと少女が引きずられ回収されていく。
「面倒は嫌さ、けど、ガキに死なれるのは死んでもごめんだ。もう二度と」
重い息を吐き捨て、統夜は小型の拳銃を取り出し周囲の歪虚に牽制の銃弾を浴びせ始めた。
時澄は、CAMに近づきロープを切ろうとした狐を追い払い、後はCAMに任せて自分も坂を駆け下りる。
「生きて戻ったらお前らには言いたい事が山ほどある。心しておけ」
斜面を蹴って、東方兵の殿よりも敵に近い場所に着地する。
道幅はあって2メートル狭い場所では1メートル程度。しかも左右は30度以上の酷い坂だ。
振り返りもせず前に出る。
大きさと尻尾を除けばただの狐にしか見えない歪虚が、全く整備されていない斜面を舗装された平地であるかのように移動し、時澄の足と虎徹では届かない距離で狐火を準備し、打ちだした。
時澄が予め指示した通りに、時澄の予想通りの位置で停止した狐に30ミリ弾が撃ち込まれた。
狐1体が内から爆ぜて消滅する。
外套をひるがえし的確な体さばきで回避。避けきれない狐火は気合と生命力で耐えその場に留まる。
再度の30ミリがもう1体の狐を潰す。
狐達は、このままでは逆に自分達が刈られるだけと判断した。
安全地帯である巫子と護衛を目指し、時澄を脇を駆け抜けるつもりで一斉に駆けだした。
「無用の争いは避ける」
静かに前に進む。
「ただし、何かを守るためであれば」
刃を水平に構えて高速移動。右側を抜けるつもりだった狐の方から腹を切って強制的に静止させる。
時澄の動きは止まらず、左側の坂に踏み込みもう1体の狐を我が身で食い止める。
「惜しむことなく剣を振るう」
二尾狐の牙は虎徹の鞘によって完全に防がれ、直後振り下ろされた刃を防ぐことができなかった。
デリンジャーが咆えて二尾狐が薄れて消えていく。
坂の上からの追撃が、2人と1機によって食い止められていた。
●山道の戦い
険しい山を縫うように走る極細の道。
緑は少なく山は土色で、埃にまみた人間や歪虚を見つけ出すのも難しい。
だがCAMの乗り手は惑わされない。ディスプレイ上では敵と味方と救出対象にそれぞれ別の色と形の図形が重なり合っているからだ。
「別にこの程度の技術はいつか覚えるものだし、本気の射撃で蹂躙してみせてもいいと思うが」
ディスプレイが喜びを示すかのように明るくなり、操縦桿についたボタンがぴこぴこ光った。
「次の機会だな」
あればだがという言葉を残して開けっ放しの搭乗口からCAM外へ抜け出す。
Charlotteの懸念は当たっていた。彼女がすり抜けた直後に搭乗口が閉じ、閉じる寸前にはベルトが生物的な動きで彼女を追いかけているのが見えた。
「奴さんは、何が何でも学ぶ気なんだねぇ……熱心な事だ」
十数メートル滑り落ち、斜面から突きだした石垣の上で止まる。
平衡を保ったままの着地からライフルを構えて眼下の狐に狙いをつける様を、銃とロープを装備したCAMが羨ましげに注視している。
30ミリと比べるととても小さな、けれど感じさせる強さはほぼ同一の銃声が山に響いた。
巫子と護衛の退路を直接絶っていた狐が倒れて薄れていく。
次の目標を照準しながら10センチほど身を屈める。
護衛の近くにいた歪虚が複数振り返って狐火を放つ。1つはCharlotteの頭上を越え、1つは冷たい石に当たり、もう1つはフリューテッドアーマーの表面を撫で上げ彼女の体にダメージを与えた。
「世話が焼ける」
Charlotteは反撃しなかった。
マテリアルを防御目的で素早く移動させ、巫子の顔面すれすれに光の壁が出現させる。
狐火が衝突し光の壁が一部の威力を吸い取る。本来なら重傷を負っていたはずの巫子が、軽度の火傷を負う程度で済んだ。
「道は私達が切り開きます。足を止めずに下ってください!」
エルバッハの声を爆音がかき消した。
斜面を狐火よりずっと大きな爆発が彩り、巻き込んだ6体のうち3体を消滅させ残りに深手を負わせて後退を強いる。
「貴公は……」
問いかける舞刀士の視線を意識して胸を張る。白い頬とうなじを彩る茨型マテリアル光が巫子の記憶に深く刻まれた。
「今は緊急時! 話は後!」
マジカルステッキで下り坂を示した勢いで外套が揺れ、胸元で紅く光る薔薇と白い肌が男共の目に焼き付く。
「了解しましたっ!」
気合いの入った東方風の礼をして、下は10代から上は50代の男達が顔を紅くして必死に駆ける。
その背後で薄青い雲が広がり、ハンターの刃と銃弾を区切り抜けてきた狐を強制的に眠りに落とす。
数歩歩いて火球を生成し投擲。道を挟んだ逆側の斜面を炎で消毒する。
2度目なので歪虚も警戒しているようで、最初と比べると巻き込めた数は約半分。
狐の総数もハンターに討たれて減ってはいる。しかし歪虚もハンターを警戒して可能な限り接近は避け、弱く狙いやすく何より討てば龍脈再起動が遠ざかる巫子を狙って大回りで斜面を走る。
「重傷者はこれが最後だ」
坂の上の方で、統夜が血だらけの男をロープに固定した。
中身は半ば歪虚のCAMが、これで経験値が貯まるか疑問に思いながら、案外慣れた動作で5人目の負傷者を引き上げ狐が視認出来ない場所へ横たえる。
「避けてください」
エルバッハが術を使う。味方の巻き添え覚悟でファイアーボールを使うように見せたのはフェイントだ。
位置をずらして発動させ、殿に紛れ込んでファイアーボールを回避するつもりだった狐3体を吹き飛ばした。
だが足りない。
10分もあればハンターが二尾狐を駆逐するのは確実だけれども、そのときには巫子と護衛のほとんどは死んでいるはずだ。
ハンターと比べると彼等は弱いか対歪虚戦に慣れていないのだ。
「急い」
山頂から2尾ではあり得ぬ大型歪虚の悲鳴と30ミリの連射音が重なって聞こえた。
魔と機械の不協和音は不吉に過ぎ、指揮官を守るため2尾の数割が山頂目がけて走っていった。
●CAM対3尾狐
1機が巫子救出のため着地したとき、マリアン・ベヘーリト(ka3683)はフットペダルを踏み込んだまま軽くスティックを動かしていた。
どの視点から考えても飛行に向いていない人型が、マリアンの優れた平衡感覚とCAMの大出力ブースターで山の上を斜め上に飛んでいく。
CAMが山の頂上より高い位置に達した。
峻険な地形に建てられた小さくも頑強な石造建築とその向こうにある生気の失せた山肌、そして呆然とCAMを見上げる大型歪虚がディスプレイ越しに見えた。
「衝撃に備えてください」
正面の装甲からノックを1桁大きくした音が届く。
CAMの腕につかまるティーア・ズィルバーン(ka0122)からの返事だ。
「着地」
噴射終了。脚部関節を細心の注意を払って調節する。
「今!」
機械の足が砂利と砂を吹き飛ばして小さなクレーターをつくる。
伝わる衝撃がマリアンの体と中身を揺らして視界を歪ませる。
濃厚に籠もった十三魔の気配に荒れられたからか、マリアンの体が衝撃で打撃を受けた。
「生きてるか兎の」
搭乗口が開きティーアが顔を見せる。
「後はお願いしますね」
言葉はおっとりと、ベルトの解除と搭乗口からの降下は高速に。
まるごとうさぎという戦装束を身に纏い、ドワーフ聖導士が東方の霊地に艶のある足で着地した。
代わって座ったティーアが熟練した手つきでCAMに入力。
「歪虚化しちまってるが……ま、仮初めだが頼むぜ相棒」
機械の人型が立ち上がる。ティーアに酷似した動きで倍以上の速度で三尾狐との距離を詰める。
狐火色の火柱が生じて三尾の姿を隠す。
大型歪虚が勝利の確信を抱き、しかし死角から繰り出された手刀に前足を強く打たれた。
「指と手足がカタナ並の強度? 趣味的な強化をしているな」
この場にいない十三魔を笑う。
「悪くない」
さらに激しい炎がCAMを襲う。
熟練の重装甲ハンターと比べるとCAMは脆い。数度当たれば残骸確定だ。
「仮初めなのが残念だ」
一歩前に出ることで炎の隙間に入り己の間合いに三尾狐を捉える。動きはまだ続く。狐の利き足の先を踏んで潰し、両腕で押さえ込みにかかったときに警告音が鳴った。
ディスプレイ上の情報が更新される。高空から見下ろした画像が付け加えられ、その上で敵味方の位置が強調されると、救出対象が危地に陥っていることがこの上なくはっきりと分かる。
「あのドラゴンか」
ガルドブルムのお節介だ。
ティーアは無理を承知でアサルトライフルを片手で構えさせ発砲。すると救出対象周辺の狐のいくらかがこちらに向かって来た。
無理な射撃で締め付けが緩む。三尾がCAMの腕から抜け部下と合流するためじりじりと南に向かう。
「わりぃがそのままそいつを離すなよ……お前なら出来るはずだ」
ティーアは最後の命令を下す。そしてCAMから降り、光を纏うMURASAMEを構えた。
「それじゃ、銀獣の狩りを始めさせてもらうぜ」
暴れる三尾と押さえつけるCAMに、ティーアは生身で仕掛けた。
●うさぎ武者と龍脈と
二尾が道を走っている。
明らかに向いていない行動だが直属上司を救うにはこうするしかない。
全速力で細い道をいき、ようやく頂上が見え三尾の悲鳴が聞こえてきたところで、坂の終わりに立つうさぎに気づいた。
直立うさぎは東方風特大モーニングスターを上段に構えている。
女性として魅力的ではあっても二尾に比べれば細い足が、風化した地面を巨大な重石の如く抑えている。
二尾が力を振り絞る。
2列縦隊計6体で、攻撃どころか避けもせずただひたすら前に進む。
進路上にいるマリアンが心静かに前に踏み出す。
背中を屈し腹圧をかけ、爆発呼吸で力を引き出し、安定した心で用いて肩甲骨から胴体その他の動きと完全に連動させて、ひょっとしたら物理的な限界を超えた速度と力で狼牙棒を振り下ろした。
先頭右側、刀傷を複数負っていた狐が頭蓋骨の上半分を砕かれ倒れて消える。
残るは5体。
まるごとうさぎ装備のマリアンと真正面から衝突し、1メートル強押し込んで動きが止まる。
「いかせませんよ」
痛みを心と体で押さえ込む。すり足で彼我の距離と向きを調節し、寸剄の応用で至近距離に棘付き棒を突き込んだ。
2尾の悲鳴は体の痛みではなく己等の守護者の危機によるものだった。
先頭左側が崩壊、4つの炎がうさぎを襲うが倒れない。
4体が断腸の思いで迂回を決断。横に向かって駆け出す前に、三尾の断末魔が響いて消えた。
CAMがブースターに火を入れ浮かび上がる。
山頂からはティーアが、下からはハンターと無事な兵が向かって来る。
二尾達は道から外れて急角度の斜面を下る。あまりに険しすぎハンターは追撃を諦めるしかない。
ただ1人追おうとする指揮官を、ヒールを使ってもなお血塗れなうさぎが逆平手で撃つ。
「これは私の今の気持です」
指揮官が奥歯を噛みしめる。
「体勢を整えてからであれば死なずに済んだろうに……くだらん自尊心のために何人死んだ」
時澄は少女を見もせず、最優先の目的を果たすため巫子を山頂に向かわせる。
「覚悟や矜持に生きて死ぬるが誇りなら、捨ててしまえ。死んだらそれすら意味が無くなる」
戦死者は奇跡的に3名で済んだが、兵を続けられないほどの傷を負った者が10人近くいる。
CAMが去り、龍脈が動きを再開させるまで、重苦しい沈黙が山山を支配していた。
「どんな理由があるにせよ、独断専行したあげくに窮地に陥るとは困った人たちです」
ブースターの噴射音にかき消される音量で、エルバッハ・リオン(ka2434)がつぶやいていた。
「とはいっても、見殺しにはできませんから、できる限りは助けたいところです」
CAMの搭乗口が開く。
「そのためには、これを使うことも止む無しですか」
ロープを運び込んだ瀬崎・統夜(ka5046)とCharlotte・V・K(ka0468)がそのまま搭乗する。
静かに搭乗口が閉じていく。
人型兵器が腕を伸ばす。
エルバッハはその腕につかまり、ピンク色の杖と書物をきつく腰に固定した。
もう一方の腕には三條 時澄(ka4759)がいる。
「早まった真似をしてくれる。生きててくれよ」
北に見える戦場では舞刀士達が後退を始めていた。
ブースターから光が伸びる。
轟音がメーガン(kz0098)をよろめかせ、待機組のパルムと戦馬が興味深そうに見上げていた。
「いきましょう」
エルバッハが風に揺れる髪を抑えて促すと、2機のCAMが初めはパルムが認識できる速度で、数秒でメーガンが見失う速度で地上から離れ、北の山地に消えていった。
●空からの救援
「離せ!」
「姫を失うわけにはいかんのです」
現実には剣が届かない距離から一方的に狐火を撃ち込まれ、巫子とその護衛部隊は一矢報いることもできず撤退を始め、残った精鋭もなすすべ無く全滅しようとしていた。
真横から炎が飛来する。指揮官が最初に気づいて切ろうとしても腕が追いつかず部下と共に炙られ悲鳴をあげた。
その悲鳴を消し飛ばす音が南から近づき、2つに別れて1つが東にある坂の途中に衝突する。
大気を伝わる轟音と地面を伝わる振動はどちらも非常に激しく、人間を包囲していた狐型歪虚のほとんどが混乱し攻撃が一瞬止んだ。
Charlotteが搭乗口を蹴り開ける。
「次の操縦は任せる。迎えにいってくるからよ」
統夜はディスプレイとベルトを外し、着地直前の記憶を頼りに搭乗から飛び出した。
空中で回転しないよう手足と姿勢を制御しながら確認する。
俯角30度距離10メートルの位置に装備の良い少女が1人いる。彼女の周辺を傷ついたと東方兵が固め、その外側には傾斜をものともせず動く二尾狐が10以上。
「面倒はごめんなんだけどな」
斜面にぶつかる直前に足で蹴る。
無茶な動きで足が微かに痛む。蹴った斜面が大きく凹む。
茫然自失から回復した狐達から炎の歓迎が統夜に集中し、しかし統夜は体を焼かれても眉を動かしすらせず少女の間近に着地した。
「どうだった? 冒険は。気がすんだろ」
ぐるりと360度視線を向ける。途中、少女に向かおうとして護衛に止められている巫子に気づいて視線が冷たく。
指揮官の立場は強いとはいえ、これほど無茶な抜け駆けが指揮官1人の意思でできる訳がない。煽り、賛同し、あるいは無茶と知りながら流れに乗ってしまう者がほとんどだったからこんな様になる。
「私はっ」
死ぬつもりの目が統夜を見上げる。
「苦しんでんのはお前だけじゃない、とかは言わねえよ。お前の悔しさ苦しさはお前だけのもんだ」
優しげな声で、けれど手は容赦なく少女を抱えてロープで括り東に向かって合図を送る。
CAMがかすかにうなずき腕部を動かすと、ロープがぴんと伸び、次にCAMの強烈な腕力でロープごと少女が引きずられ回収されていく。
「面倒は嫌さ、けど、ガキに死なれるのは死んでもごめんだ。もう二度と」
重い息を吐き捨て、統夜は小型の拳銃を取り出し周囲の歪虚に牽制の銃弾を浴びせ始めた。
時澄は、CAMに近づきロープを切ろうとした狐を追い払い、後はCAMに任せて自分も坂を駆け下りる。
「生きて戻ったらお前らには言いたい事が山ほどある。心しておけ」
斜面を蹴って、東方兵の殿よりも敵に近い場所に着地する。
道幅はあって2メートル狭い場所では1メートル程度。しかも左右は30度以上の酷い坂だ。
振り返りもせず前に出る。
大きさと尻尾を除けばただの狐にしか見えない歪虚が、全く整備されていない斜面を舗装された平地であるかのように移動し、時澄の足と虎徹では届かない距離で狐火を準備し、打ちだした。
時澄が予め指示した通りに、時澄の予想通りの位置で停止した狐に30ミリ弾が撃ち込まれた。
狐1体が内から爆ぜて消滅する。
外套をひるがえし的確な体さばきで回避。避けきれない狐火は気合と生命力で耐えその場に留まる。
再度の30ミリがもう1体の狐を潰す。
狐達は、このままでは逆に自分達が刈られるだけと判断した。
安全地帯である巫子と護衛を目指し、時澄を脇を駆け抜けるつもりで一斉に駆けだした。
「無用の争いは避ける」
静かに前に進む。
「ただし、何かを守るためであれば」
刃を水平に構えて高速移動。右側を抜けるつもりだった狐の方から腹を切って強制的に静止させる。
時澄の動きは止まらず、左側の坂に踏み込みもう1体の狐を我が身で食い止める。
「惜しむことなく剣を振るう」
二尾狐の牙は虎徹の鞘によって完全に防がれ、直後振り下ろされた刃を防ぐことができなかった。
デリンジャーが咆えて二尾狐が薄れて消えていく。
坂の上からの追撃が、2人と1機によって食い止められていた。
●山道の戦い
険しい山を縫うように走る極細の道。
緑は少なく山は土色で、埃にまみた人間や歪虚を見つけ出すのも難しい。
だがCAMの乗り手は惑わされない。ディスプレイ上では敵と味方と救出対象にそれぞれ別の色と形の図形が重なり合っているからだ。
「別にこの程度の技術はいつか覚えるものだし、本気の射撃で蹂躙してみせてもいいと思うが」
ディスプレイが喜びを示すかのように明るくなり、操縦桿についたボタンがぴこぴこ光った。
「次の機会だな」
あればだがという言葉を残して開けっ放しの搭乗口からCAM外へ抜け出す。
Charlotteの懸念は当たっていた。彼女がすり抜けた直後に搭乗口が閉じ、閉じる寸前にはベルトが生物的な動きで彼女を追いかけているのが見えた。
「奴さんは、何が何でも学ぶ気なんだねぇ……熱心な事だ」
十数メートル滑り落ち、斜面から突きだした石垣の上で止まる。
平衡を保ったままの着地からライフルを構えて眼下の狐に狙いをつける様を、銃とロープを装備したCAMが羨ましげに注視している。
30ミリと比べるととても小さな、けれど感じさせる強さはほぼ同一の銃声が山に響いた。
巫子と護衛の退路を直接絶っていた狐が倒れて薄れていく。
次の目標を照準しながら10センチほど身を屈める。
護衛の近くにいた歪虚が複数振り返って狐火を放つ。1つはCharlotteの頭上を越え、1つは冷たい石に当たり、もう1つはフリューテッドアーマーの表面を撫で上げ彼女の体にダメージを与えた。
「世話が焼ける」
Charlotteは反撃しなかった。
マテリアルを防御目的で素早く移動させ、巫子の顔面すれすれに光の壁が出現させる。
狐火が衝突し光の壁が一部の威力を吸い取る。本来なら重傷を負っていたはずの巫子が、軽度の火傷を負う程度で済んだ。
「道は私達が切り開きます。足を止めずに下ってください!」
エルバッハの声を爆音がかき消した。
斜面を狐火よりずっと大きな爆発が彩り、巻き込んだ6体のうち3体を消滅させ残りに深手を負わせて後退を強いる。
「貴公は……」
問いかける舞刀士の視線を意識して胸を張る。白い頬とうなじを彩る茨型マテリアル光が巫子の記憶に深く刻まれた。
「今は緊急時! 話は後!」
マジカルステッキで下り坂を示した勢いで外套が揺れ、胸元で紅く光る薔薇と白い肌が男共の目に焼き付く。
「了解しましたっ!」
気合いの入った東方風の礼をして、下は10代から上は50代の男達が顔を紅くして必死に駆ける。
その背後で薄青い雲が広がり、ハンターの刃と銃弾を区切り抜けてきた狐を強制的に眠りに落とす。
数歩歩いて火球を生成し投擲。道を挟んだ逆側の斜面を炎で消毒する。
2度目なので歪虚も警戒しているようで、最初と比べると巻き込めた数は約半分。
狐の総数もハンターに討たれて減ってはいる。しかし歪虚もハンターを警戒して可能な限り接近は避け、弱く狙いやすく何より討てば龍脈再起動が遠ざかる巫子を狙って大回りで斜面を走る。
「重傷者はこれが最後だ」
坂の上の方で、統夜が血だらけの男をロープに固定した。
中身は半ば歪虚のCAMが、これで経験値が貯まるか疑問に思いながら、案外慣れた動作で5人目の負傷者を引き上げ狐が視認出来ない場所へ横たえる。
「避けてください」
エルバッハが術を使う。味方の巻き添え覚悟でファイアーボールを使うように見せたのはフェイントだ。
位置をずらして発動させ、殿に紛れ込んでファイアーボールを回避するつもりだった狐3体を吹き飛ばした。
だが足りない。
10分もあればハンターが二尾狐を駆逐するのは確実だけれども、そのときには巫子と護衛のほとんどは死んでいるはずだ。
ハンターと比べると彼等は弱いか対歪虚戦に慣れていないのだ。
「急い」
山頂から2尾ではあり得ぬ大型歪虚の悲鳴と30ミリの連射音が重なって聞こえた。
魔と機械の不協和音は不吉に過ぎ、指揮官を守るため2尾の数割が山頂目がけて走っていった。
●CAM対3尾狐
1機が巫子救出のため着地したとき、マリアン・ベヘーリト(ka3683)はフットペダルを踏み込んだまま軽くスティックを動かしていた。
どの視点から考えても飛行に向いていない人型が、マリアンの優れた平衡感覚とCAMの大出力ブースターで山の上を斜め上に飛んでいく。
CAMが山の頂上より高い位置に達した。
峻険な地形に建てられた小さくも頑強な石造建築とその向こうにある生気の失せた山肌、そして呆然とCAMを見上げる大型歪虚がディスプレイ越しに見えた。
「衝撃に備えてください」
正面の装甲からノックを1桁大きくした音が届く。
CAMの腕につかまるティーア・ズィルバーン(ka0122)からの返事だ。
「着地」
噴射終了。脚部関節を細心の注意を払って調節する。
「今!」
機械の足が砂利と砂を吹き飛ばして小さなクレーターをつくる。
伝わる衝撃がマリアンの体と中身を揺らして視界を歪ませる。
濃厚に籠もった十三魔の気配に荒れられたからか、マリアンの体が衝撃で打撃を受けた。
「生きてるか兎の」
搭乗口が開きティーアが顔を見せる。
「後はお願いしますね」
言葉はおっとりと、ベルトの解除と搭乗口からの降下は高速に。
まるごとうさぎという戦装束を身に纏い、ドワーフ聖導士が東方の霊地に艶のある足で着地した。
代わって座ったティーアが熟練した手つきでCAMに入力。
「歪虚化しちまってるが……ま、仮初めだが頼むぜ相棒」
機械の人型が立ち上がる。ティーアに酷似した動きで倍以上の速度で三尾狐との距離を詰める。
狐火色の火柱が生じて三尾の姿を隠す。
大型歪虚が勝利の確信を抱き、しかし死角から繰り出された手刀に前足を強く打たれた。
「指と手足がカタナ並の強度? 趣味的な強化をしているな」
この場にいない十三魔を笑う。
「悪くない」
さらに激しい炎がCAMを襲う。
熟練の重装甲ハンターと比べるとCAMは脆い。数度当たれば残骸確定だ。
「仮初めなのが残念だ」
一歩前に出ることで炎の隙間に入り己の間合いに三尾狐を捉える。動きはまだ続く。狐の利き足の先を踏んで潰し、両腕で押さえ込みにかかったときに警告音が鳴った。
ディスプレイ上の情報が更新される。高空から見下ろした画像が付け加えられ、その上で敵味方の位置が強調されると、救出対象が危地に陥っていることがこの上なくはっきりと分かる。
「あのドラゴンか」
ガルドブルムのお節介だ。
ティーアは無理を承知でアサルトライフルを片手で構えさせ発砲。すると救出対象周辺の狐のいくらかがこちらに向かって来た。
無理な射撃で締め付けが緩む。三尾がCAMの腕から抜け部下と合流するためじりじりと南に向かう。
「わりぃがそのままそいつを離すなよ……お前なら出来るはずだ」
ティーアは最後の命令を下す。そしてCAMから降り、光を纏うMURASAMEを構えた。
「それじゃ、銀獣の狩りを始めさせてもらうぜ」
暴れる三尾と押さえつけるCAMに、ティーアは生身で仕掛けた。
●うさぎ武者と龍脈と
二尾が道を走っている。
明らかに向いていない行動だが直属上司を救うにはこうするしかない。
全速力で細い道をいき、ようやく頂上が見え三尾の悲鳴が聞こえてきたところで、坂の終わりに立つうさぎに気づいた。
直立うさぎは東方風特大モーニングスターを上段に構えている。
女性として魅力的ではあっても二尾に比べれば細い足が、風化した地面を巨大な重石の如く抑えている。
二尾が力を振り絞る。
2列縦隊計6体で、攻撃どころか避けもせずただひたすら前に進む。
進路上にいるマリアンが心静かに前に踏み出す。
背中を屈し腹圧をかけ、爆発呼吸で力を引き出し、安定した心で用いて肩甲骨から胴体その他の動きと完全に連動させて、ひょっとしたら物理的な限界を超えた速度と力で狼牙棒を振り下ろした。
先頭右側、刀傷を複数負っていた狐が頭蓋骨の上半分を砕かれ倒れて消える。
残るは5体。
まるごとうさぎ装備のマリアンと真正面から衝突し、1メートル強押し込んで動きが止まる。
「いかせませんよ」
痛みを心と体で押さえ込む。すり足で彼我の距離と向きを調節し、寸剄の応用で至近距離に棘付き棒を突き込んだ。
2尾の悲鳴は体の痛みではなく己等の守護者の危機によるものだった。
先頭左側が崩壊、4つの炎がうさぎを襲うが倒れない。
4体が断腸の思いで迂回を決断。横に向かって駆け出す前に、三尾の断末魔が響いて消えた。
CAMがブースターに火を入れ浮かび上がる。
山頂からはティーアが、下からはハンターと無事な兵が向かって来る。
二尾達は道から外れて急角度の斜面を下る。あまりに険しすぎハンターは追撃を諦めるしかない。
ただ1人追おうとする指揮官を、ヒールを使ってもなお血塗れなうさぎが逆平手で撃つ。
「これは私の今の気持です」
指揮官が奥歯を噛みしめる。
「体勢を整えてからであれば死なずに済んだろうに……くだらん自尊心のために何人死んだ」
時澄は少女を見もせず、最優先の目的を果たすため巫子を山頂に向かわせる。
「覚悟や矜持に生きて死ぬるが誇りなら、捨ててしまえ。死んだらそれすら意味が無くなる」
戦死者は奇跡的に3名で済んだが、兵を続けられないほどの傷を負った者が10人近くいる。
CAMが去り、龍脈が動きを再開させるまで、重苦しい沈黙が山山を支配していた。
依頼結果
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- 【魔装】希望への手紙
瀬崎・統夜(ka5046)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/15 01:34:44 |
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質疑応答 ティーア・ズィルバーン(ka0122) 人間(リアルブルー)|22才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/06/13 17:57:12 |
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緊急作戦会議 ティーア・ズィルバーン(ka0122) 人間(リアルブルー)|22才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/06/16 06:42:56 |