クリス&マリー 水路とタニシとハンターと

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/06/17 19:00
完成日
2015/06/25 18:36

みんなの思い出

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オープニング

 グラズヘイム王国南部・シエラリオ地方は、西方世界の穀倉である。
 主な産物は『小麦』を初めとする穀物類だが、丘陵地帯で栽培される野菜や根菜、肉や乳製品といった畜産物、『葡萄』等の果実、それ等を原料にした果実酒や蒸留酒等、この地で生み出される農産物は枚挙に暇が無い。
 これらの食品は王国の民の腹を満たすだけでなく、戦略物資として他国にも輸出され、交易の主要品目として王国に富をもたらしている。
 歴史学者は言う。この地を掌握できたことが、一地方国家に過ぎなかったグラズヘイムに後の西方統一をなさしめた。政治学者は言う。帝国と同盟が独立した後、まがりなりにも王国が大国の地位を維持し得ているのは、かの地が王国領であるからだ、と──

 王国南部・シエラリオ地方は、王国の栄光と繁栄の象徴である。
 とは言え、かの地で日々、作業に勤しむ農民たちに。その様な自覚があるかと言えば、そんなことはないのだが。


 真っ直ぐ伸びた道の両脇に、延々と緑の原が広がっていた。
 日差し柔らかな春の日中。蒼空を背景に、柔らかな風に乗って白い雲が緩やかに流れ行く。
 波の様に風に揺れる一面の緑の原は、その地平に至るまで全て『小麦』の畑であるという。
 オードラン伯爵息女・クリスティーヌの供として王国巡礼の旅を巡っている若き侍女・マリーは、その事実を仕える主人から聞かされて…… 目口を大きく開けて驚愕したまま再びグルリと回って全周を見やり、ぶんぶんと両の拳を振った。
「これがっ! 全部っ! 見渡す限りっ! 小麦の畑だって言うんですかっ!!!?」
「そうですよ。あの地平線の向こうも、この道の先も、まだずっと畑です。あと何日かはずっとこの風景が続くでしょうね」
「マジですかっ!? ハァー…… うちんとことはまた偉い違いだ……」
「……あのー、オードラン領だって、よそと比べれば十分、肥沃で豊かな土地なんですヨ?」
 ここと比べられたらどこの土地だってたまらないです、と苦笑してみせるクリス。自分の知らない世界を目の当たりにして新鮮な驚きに満ち満ちているマリーを見やって、暫し温かい微笑と共に目を細める。
「そもそもこの南部の発展は、王国暦401年、『レメルムの大飢饉』に端を発した二つの乱を受け、トマス・グラハム農業王が各地で大規模な開拓と灌漑を……」
 クリスが薀蓄を傾けだすと、マリーは両手で耳を閉じた。ムッとしたクリスはマリーの両腕をガッと掴み。ぶらんぶらんと振り回しながら『歴史の授業』を再開して聞かせる……

「過去の出来事とかどーでもいいです。大事なことは、ここの! ご飯(?)が! とても! おいしい! その事実が分かったことこそが重要なのではないでしょーか」
 翌日。日除けにした街路樹の枝の下でお弁当をガツガツと頬張りながら、マリーが言った。
 王国北西部、西部と巡礼の旅をして来て、聖堂や町村で取る以外の食事はその殆どが携帯食だった。それが、この南部では新鮮な美味しい食事にありつける。マリーにとって、それ以上に重要なことはない。
「確かにそうです。でも、どうしてそうなったのか、その原因となった状況や背景をちゃんと知っておくことも大事なことなんですよ?」
 空となった弁当箱を手に、先に食べ終わったクリスが立ち上がり、近所の農家と思しき建物の庭先から呼びかけた。
「すいませーん。弁当箱を洗いたいので、井戸を貸してもらっても良いですか?」
「構わないよ! ……おっ!? 『巡礼者の弁当箱』。若い身空で巡礼の旅とは感心じゃないか! 今日の泊まりは聖堂かい? なら、明日の朝にでもまた寄りなよ。弁当のおかずを詰めてあげるから」
 赤子を背に屋敷から出てきた丸々としたおかみさんが、そう言って屈託なく笑った。この南部の一部地域では、クリスのような巡礼者たちにささやかな便宜を図ることが文化として根付いている所もある。
 恐縮し、頭を下げるクリスを見やって、マリーは小さく溜め息を吐いた。
「……勉強かぁ。でも、どーせ、私には……」
 箸を止めて空を見上げる…… クリスが笑顔で戻って来た。その両手には瑞々しい果実が二つ。食後のデザートに、とおかみさんから貰ったものだと言う。
 マリーはおおお…… と声を上げると、岩の上に飛び乗り、おかみさんに向かって何度も激しく頭を下げた。
 皮ごとその甘さを頬張る。口中いっぱいに広がる果汁に、その表情がでれんと緩んだ。
「この幸せがいつまでも続けばいいのに……」
 クリスと二人、並んで果実を食べながら、染み入るような心地でマリーが呟いた。


 翌日、朝方──
 聖堂での参拝を終えて巡礼の旅を再開したクリスとマリーは、おかみさんの言葉に甘えて再び屋敷を訪れた。
 村の男たちは既に畑に出た後で、屋敷には女たちが集まって、男たちに出す『昼食』の炊き出しが行われていた。仕事中の差し入れは各農家持ち回りの交代制らしく、今日はおかみさんが担当のようだった。
 作業中の話題は、村の水車小屋に関するものだった。『小麦』の製粉に使う水車に大量発生した『田螺(タニシ)』が付着してしまっており、困っているとの話だった。
「これは…… 一食の恩を返す良い機会かもしれません」
 クリスとマリーは話を聞いて頷き合った。二人が手伝いを申し出るとおかみさんは遠慮したが、これも縁と説得するとありがたく受け入れた。
 差し入れの準備を終えて、件の水車小屋へと案内された二人は、まず、己の目を疑い、そして、後悔した。
 木製の水車に張り付いたタニシは、皆、人頭ほどの大きさがあった。それがビッチリと水車の表面を埋め尽くしていた。
「え……? タニ……シ……?」
「そう、田螺。あんなに大きいのは私も見たこと無いけどねー。リアルブルーの外来生物? それとも黒大公が南部に出た影響かね?」
 そんな影響は、きっと、ない。思いながら、二人はゴクリと息を呑み込んだ。
 おかみさんの説明が続く。大きさはご覧の通り。殻は銃弾を弾き返すくらいに固い。本体は鋤で突けるほど柔らかいが、水車にびっちりと隙間なく張り付いている為、まず普通には狙えない。大の大人が複数で掛かれば引っぺがすことも出来ると言うが……
「でも、こいつら、近づいたり攻撃したりすると、ウネウネとした管から水を引っ掛けてくるんだよ。酸性があるのかヒリヒリ焼けてね。あと粘性があるからヌルヌル滑って手も掛け難くなるし……」
 嘆息するおかみさん。クリスとマリーは改めて『タニシ』を見やった。こちらに気づいたのか、頭部から殻の隙間を縫って触手状の管が何本も伸び、こちらへ向かって届かぬもののピューッ、となんかネバッとした水を吐いてくる。
 クリストマリーは互いに目を合わせると、改めて頷いた。
「……ハンターの皆さんに頼みましょう」

リプレイ本文

 水車にこびりついた田螺たちを綺麗に排除してほしい── クリスの要請を受けてやって来たハンターたちは、だが、その『現物』を見た瞬間、足を止め絶句した。
「…………う、うむ。確かに田螺には違いない」
 どうにか動揺を押し殺して頷く和服の老ハンター、守屋 昭二(ka5069)。だが、手を置いた日本刀の柄は静かにカタカタと音を立て。その隣りでシレークス(ka0752)が「この貸しは高くつきやがるですよ……?」とクリスを振り返る。
「確かに『ちょっぴり大きめで数も多いですけど♪』とは聞いていたけど…… そもそも『一食の恩返しに』って自分たちで申し出たお手伝いじゃないの?」
 呆れたように月影 夕姫(ka0102)が振り返ると、クリスはぶんぶんと大きく手と首を振った。……まぁ、確かに、覚醒者ならぬ2人の女手でアレをどうこうするのはキツそうだけど、と夕姫は改めて水車を見る。──ビッチリと隙間なく張り付いた夥しい数の『田螺』の群れ。人の気配を察したのか、殻から白い管をウネウネとこちらへ伸ばし、威嚇するようにこちらへ何か粘性のある透明な液体をピュッピュッと吐き出している。
「……いや、アレ、ハンターでもひどいことになるのは目に見えているんだけど」
「とりあえず、不幸をお裾分……いやいや、人手を集めねーと」
 シレークスはダッシュで聖堂へと戻ると、下僕、もとい、友人のアルト・ハーニー(ka0113)とサクラ・エルフリード(ka2598)を問答無用で引っ張ってきた。
 なぜ俺が…… と岸辺で頭を抱えるアルト。その横でサクラが「これも人助け、これも人助け……」と自分に言い聞かせる。
 一方、この『田螺狩り』に前向きな(或いは精神の切り替えを済ませた)者たちもいた。
「困っている人がいるなら放ってはおけないもん! みんな剥がしてお掃除しちゃうよ!」
「まぁ、予想外の寄り道ですが、特に急ぐ旅でもないですし…… 一度、引き受けた以上は、依頼は達成しないといけませんしね」
 任せてよ! と胸を叩き、元気一杯に請け負う時音 ざくろ(ka1250)。エルバッハ・リオン(ka2434)は落ち着いた調子で『戦場』となる川辺と水車小屋の周囲を観察し始める。
「あらあら、大変そうねぇ…… 手伝ってあげようかしら?」
 技芸団の興行の下見を終えて、ちょうど最近入手した東方の清酒のツマミを探していたメルザ・ヘイ・阿留多伎(ka4329)は、田螺狩り、と聞いて、口元に巻いた布の奥で笑みを浮かべた。
「チーズや干し肉とかじゃ風情ってものがないと思っていたところなのよね…… ヘイ、ガール! 私は『黒子』よ。よろしくね」
「黒…… え……?」
 挨拶を受けたマリーは、服……というか、布と帯を身体に巻きつけただけのその装束を見上げ、ぽかんと言葉を失った。──黒? え? 黒い部分ほとんどないですよね? っていうか表面積の殆どが白とか肌色なんですが。え? え? なんで顔はしっかり隠しているのにそんなに肌の露出が多いのですか? ってかむしろ顔だけしか隠してません?
「大丈夫よ」
「何が……?」
「複雑に結んである帯だから、多少のことでは解けたりしないわ。……顔は」
「『顔は』っ!?」
 ……そんなこんななやり取りを経て。ハンターたちはおかみさんに普段の駆除方法を訊ねた。
「鋤を隙間にねじ込んで梃子の要領で引っぺがしてるよ。村の男たちが総出でぬるぬるになりながらくんずほぐれつ」
「うわぁ……」
「そうして引っぺがした後は……」
「大鍋の出番、というわけね?」
 答えたのはメルザだった。その手には鍋と薪。納屋にあったのをお借りした。
「殻が硬いなら茹でてしまえばいい…… ふふっ、村の人たちも考えたものね。そう……これは、あくまで田螺狩りの為の作戦なのよ。いい年をした大人が酒盛りの準備にうかれている図ではないのよ」
 メルザの言葉に、昭二がなるほどのう、と顎をしごいた。
「ふむ。確かにタニシはよく火を通さないと腹を下してしまうからのう」
「違うわ。淡水生物は虫が怖いからとかそういうことではなく、あくまで作戦の準備だから。あと、この作戦にはお醤油が必要なんだけれども、なかったからお塩を用意したわ」

 ……そんなこんななやり取り(その2)を経て、ハンターたちは川辺へと移動した。
 着物の裾をまくって帯に挟み、ざんぶざんぶと川へと入っていく昭二。手馴れた手付きで襷を掛けて、スッと滑る様に刀を抜く。
「ここまで来たからにはやるしかないか…… ま、目の保養にはなりそうだし」
 大事な埴輪を恭しく岸辺へ残し…… アルトは川面へ視線をやった。
 珍しく薄着のシレークス。水着にシャツだけという軽装は水に入っての作業を考慮したものであったが、既に水と汗に濡れたシャツは肌へと張り付き、その肉感的なプロポーションの豊かな曲線が顕になってしまっている。
 サクラもまた普段の重装甲を川辺に脱ぎ捨て、白いビキニに白いシャツ姿── 水着が透けぬように配慮した格好なのだが、水に濡れれば肌の方が透けてしまうのでコントラスト的には変わらない。
 焚き火で熱した大剣が水に触れぬように大きく掲げて進むざくろは…… 脇、もとい、肩越しにアルトの視線に気づいて、顔を真っ赤にして首を振った。
「……へっ? ……あ、違う、違うよ! ざくろは男! 男だからぁ!」
「マジか」
 言葉を失うアルト。後ろで昭二がふぉっふぉっと笑う。
「まさか……」
「私は女です。……そりゃ分からないかもしれませんけどっ!」
 すとーんな胸元を隠して叫ぶサクラに、アルトがホッと息を吐く。
 そんなやり取りを見て巡礼路から上がる笑い声── いつの間にか、道にはそれなりの数の旅人たちが物見遊算に集まって来ていた。
 一部から飛ぶ冷やかしの歓声や口笛に、エルは悪戯な笑みを浮かべ…… 敢えて扇情的な仕草で己の防具を外し始める。
 金属製の鎧の留め具を外し、白魚の様な指で摘んだそれを、腕を伸ばして草へ落とす。キラキラ輝く水面を背景にドレスの背中へ両手を回し…… じらすようにボタンを外して背中から肩へと顕にしていく。幼い見た目にアンバランスな豊かな双丘を強調しつつ…… 川面の陽光に透けた健康的な脚をスカートから抜き取り。ビキニアーマー姿になったエルからファサリと舞い下りたドレスが、草の上に置かれた埴輪の目を覆い隠す……
 おおおおお……! と湧き起こるどよめきに満足そうに笑みを浮かべて…… エルはその身に水の精霊力を纏うと水上をを歩き始めた。再び湧くどよめき。その陰でサクラがそっと猫耳カチューシャをつけてみたり。

 川の水を掻き分け、ハンターたちが水車へ向けて前進を開始した。
 管を伸ばしたタニシたちから次々と放たれる迎撃の粘性水弾── 腰まで水に浸かって進むハンターたちの周囲に小さな水柱が幾つも上がる。
 だが、反撃することはできない。水車を傷つけてしまうからだ。川の中ではまともに回避することもできず…… それでも水を押し分けて、前に進まなくてはならない。
「うわあっ! こっ、これ、水着が溶けたりはしなよねっ!?」
 それはいつかどこかで見た光景か。水弾の直撃を受けた部分がピリピリと痺れるのを感じて、ざくろが慌てた声を上げた。
 衣服の無事を確認してホッと息を吐くのも束の間。安心して仲間を振り返ったざくろは、だが、女性陣のあられもない姿──水弾の粘性は水などよりずっと高いのだ──に顔を真っ赤にして視線を逸らす。
「地獄だ……」
 盾役として最前線に立たされたアルトがボソリと呟いた。
 前方には地獄のオマハビーチ。『楽園』の光景は後ろにある。だのに、水弾から顔を背けただけでもすぐに凶悪修道女から「こっち見んな」と督戦隊の如き容赦の無いツッコミが飛んで来る……
「わあっ!?」
 遂に顔面に直撃を受け、後ろへと倒れるざくろ。それをメルザの身体がぽよんと柔らかく受け止めた。その事実を認識し、慌てて立ち上がろうとする純情少年。だが……
「っ!? メルザさん、胸の帯が!」
「あら」
 顕になったメルザの白い双房(注:描写は安心の少年誌レベルです)からざくろが慌てて目を逸らし。「早く隠さないと!」との叫びに何かがピンと琴線に触れたざくろが「じゃあ隠しましょう」と悪戯な笑みでそれをざくろに押し付ける。
「あの二人はもうダメでやがります……」
 隊列から落伍した二人を見やって、クッと奥歯を噛み締めながら。シレークスは残った仲間たちを点呼した。
 なんか死んだ目をしたアルトと、フォッフォッと笑う昭二。粘液を顔から拭いながら、サクラが力強い笑みを浮かべる。
「これくらいは大したことはないです! ……ヌルヌルはちょっと気持ち悪いですが」
 シレークスは頷いた。……うん、サクラは大丈夫だ。どれだけべたべたになろうとも、つるぺたすとーんはつるぺたすとーんに変わりはない。
「……何か失礼なこと考えてません?」
「さあ、サクラ! 友が、おかみさんが、何より酒が! 私たちの仕事終わりを待ってやがるですよ!」
 サクラの質問は無視しつつ、長柄の星球棍を軍旗の如く振って更なる前進を促すシレークス。彼女ももうすっかり『少年誌の限界に兆戦!』な状態だったが気にしない。星球と、豊かに実ったたわわな果実(何 をたゆんたゆんと躍動させつつ、文字通り水車に肉薄し、敵の防衛線へと取り付く。
 サクラはその両肩を掴んでざんぶと水から抜け出すと、両手にピックを握り締めて水車へ跳躍した。ガッと上からピックを突き入れ、何かのTVアトラクションが如くぷら~んと両手でぶら下がる。耐え切れずポロリと落ちるタニシをよそに次のタニシへ刃を沈め。そんな彼女を押し返そうとタニシの管がサクラの身体を這い回り。その『くすぐったさ』に「ひゃんっ!」と思わず手を放した直後、「あ。」と川面へ落下する。
 落ちて来たタニシに止めを刺そうと錨槌を振り上げたアルトは、だが、落ちて来たサクラの直撃を受けて沈んだ。昭二は動じず周囲へ探索の視線を飛ばし続け…… 「そこじゃ!」と鋭い眼光でピッと剣先で敵を指す。
「そ、こ、かあぁぁぁーーーっ!!!」
 ざんぶと水中から飛び出したアルトが、沈み行くタニシに渾身の力でもってその得物を叩きつける。
 轟音と巨大な水柱。飛び散った水の散弾が周囲の何もかもを飲み込んで……
 打ち上げられた大量の水がスコールの如く降り注ぐ中、降って来た蟹を髪に引っ掛けたまま…… シレークスは捲れてズレた衣服を淡々と直しながら、半眼で「ん」とアルトに岸を指差した。

「なんで皆、このメンテ用の通路を使わないのかしら……」
 『戦場』から響いてくる水音と悲鳴を聞きながら、夕姫は不思議そうに小首を傾げた。
 その質問は野暮ってものですよ、と。自らは涼しい顔で阿鼻叫喚の最前線をやり過ごして来たエルが。水着の上にローブ、更に布鎧までかっちり着込んで『防御』した夕姫を見て微笑する。
「通路にもタニシがビッチリ、と。流石にこの大きさでびっしりって気持ち悪く感じるわね…… ここで電撃とか使ったら一気に駆除できそうだけど、魚とかまで影響出ちゃうかしら」
 懸念した夕姫が背後に確認の視線をやると、おかみさんは大きく両手で丸を作った。
「大丈夫なんだ……」
「じゃあ、遠慮なく」
 エルはわざわざ詠う様にその右手を差し出すと、前方に電撃の束を──『ライトニングボルト』を撃ち出した。雷が木の板の上を直線的に薙ぎ払い…… ダメージを受けたタニシたちが一斉に管をこちらに向ける。
 反撃が来るより早く、左手を振って『スリープクラウド』。
 促され、大鎌を手に前進する夕姫に対する反撃はあっても少なく、夕姫の鉄壁の防御を(主にエロス的な意味で)崩すこと能わない。
 辛うじて眠らずにすんだタニシたちは、夕姫が一匹ずつ『エレクトリックショック』で麻痺させていった。そうして、砥石で研ぐが如く大鎌を通路の上に当て。それを一気に手前に引いて幅分を纏めて引き剥がす。
 そうして開拓された通路は、早速、ざくろが使うこととなった。
 ドロドロの髪をまるでわかめの様に前へと垂らして川から上がって来るざくろ。ぷるぷると頭を振って粘液を払いつつ、両脇に抱えたたにしを鍋へと放り。冷え切った大剣を焚き火に突っ込み、体育座りで待つこと暫し…… 再び赤熱した大剣を引っこ抜いたざくろはてけてけてっと通路を渡り。タニシへ向けて大剣を、いや、焼けた鉄をぐいと突っ込む。
 ジュッ! という音と焼けた臭いと共にタニシが次々と引き剥がされ。「色気を通り越して犯罪的」というレベルでドロドロになったサクラが水車の下でそれを受け止めて。その怒りと鬱憤とやるせなさを投球フォームに込めつつ思いっきり岸へとぶん投げる。
 そのレーザービームもかくやという勢いでぶっ飛んできたタニシを、岸辺に片膝をついた昭二が軽やかにキャッチし、すぐさま傍らの岩に置き。その隣りで錨槌を振り上げていたアルトが、餅つきの如き絶好のタイミングでそれをタニシへ振り下ろす。
「ここなら思いっきり殴っても怒られない…… 渾身の一撃を喰らわせてやんよ!」
 ジュッ、ブゥン、パシッ、ドカッ……! 川面の上をタニシが飛び、確立したルーチンワークが水車から張り付いたタニシを駆逐していく。
 それを見た夕姫は桶部分の駆除を始めた。外装の部分は通路と同様に鎌で刈り取り。棚板や底板に張り付いたものには石突の方をガシガシ突き入れ、梃子の原理で引っぺがし。無駄の無い動きでテキパキと、残る全てのタニシを駆除していく。
「若いのに主婦力高いですわね」
 背後からそれを見ていたエルが、取れたタニシを後ろに転がしながら言った。
「そ、そう? ありがと」
「ええ。人間の言葉だと……『所帯じみている』?」
「私、未婚なんだけど…… 褒めてる? ねえ、それ、本当に褒めている?」

「やっと終わりましたです…… とりあえず、着替えて身体を温めないと」
 川から上がり、ドロドロになったシャツを脱ぐサクラ。瞬間、ブチンと水着の紐が切れ。
「ひゃああああっ!!!???」
 と慌ててしゃがみ込んで、誰かに見られていないかと視線を振って…… 誰にも注目されてなかったと知った時の、安堵感と、やるせなさ……

「そう言えば、クリス。巡礼の旅はいつまで続けるのです?」
 おかみさんが主催するお疲れ様のお食事会(タニシづくし)で、酒を片手にシレークスが訊ねた。
「とりあえず、王国を一周、巡礼の旅は完遂するつもりです。それが終わったら……」
 そこで言葉を止めるクリス。マリーが暗い顔で俯く……

 翌日。
 ピリピリ成分が古い角質をどうとかで…… どうやらタニシの粘液には美容効果があったらしい。
 それから暫くの間、(勿論、アルトも昭二も含めて)ハンターたちの肌はツヤッツヤであったという。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • エアロダンサー
    月影 夕姫(ka0102
    人間(蒼)|20才|女性|機導師
  • ヌリエのセンセ―
    アルト・ハーニー(ka0113
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • アンバランサー
    メルザ・ヘイ・阿留多伎(ka4329
    人間(蒼)|26才|女性|猟撃士

  • 守屋 昭二(ka5069
    人間(蒼)|92才|男性|舞刀士

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アイコン 相談卓
シレークス(ka0752
ドワーフ|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/06/16 22:37:41
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/06/16 22:02:32