ゲスト
(ka0000)
ジェヴォーダンの獣
マスター:のどか

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/14 12:00
- 完成日
- 2014/07/23 19:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「いろいろ考えた結果、ルミちゃん、ハンターズオフィスの受付嬢になることにしました! どう、制服似合うでしょ?」
そう言ってオフィスへと仕事を探しに来たハンター達の前でひらりと1回転して見せる彼女の名はルミ。
本日付でオフィスに勤務することとなった新人の受付嬢である。
鏡に自分の姿を映して見せて「きゃー、ルミちゃん可愛い☆」と顔を覆って見せる彼女に、そのノリについて行けない一部の周囲のハンター達はちょっと……いや、それなりに……いや、かなり引き気味であるのは言うまでもない。
「――という事で、そこのルミちゃんの視線に痺れるハンターさん達! 早速ですが、依頼です!」
じゃじゃん、と謎の効果音と共にルミは1枚の紙を目の前に持ち出した。
依頼書かと周囲のハンター達は一様にその紙を凝視するが、そこに描かれていたのは真っ赤な牛のような豚のような犬のような猫のようなそれでいてゴリラのような、ちょっと絵心の足りない奇怪なる4足の生き物の絵だった。
「ルミちゃん、こう見えてオカルトとか都市伝説とか大好きなんだけど~……皆は『ジェヴォーダンの獣』って知ってますか?」
不意にそんな事を口走った彼女に、ハンター達は三者三様の反応を見せる。それは主にクリムゾンウエスト出身か、リアルブルー出身か。
大きくはその2つに集約された事だろう。
「この世界の人は聞いたこと無いかもしれないけれど、ルミちゃんの生まれたリアルブルーには『ジェヴォーダンの獣』って言うおとぎ話みたいな都市伝説があるんだよ」
そう言って、彼女は自分の世界に伝わるとある都市伝説を語り始めた。
――時は18世紀のフランス。
ジェヴォーダン地方に現れた1つの残虐な怪異の物語。
1764年6月1日。事件の記録としても残るその獣は、静かにその残虐な鎌首を擡げた。
見積もりで198回の襲撃が行われ、死者は88人、負傷者は36人。
また別の話では306回の襲撃に死者123人、負傷者51人。
その多くが主に女性と子供であったと言う。
あまりの被害件数に暦とした記録が残しきれない怪異の獣は、牛のような巨大なオオカミのような姿をしていたと言う。
全身を血のような赤い毛が覆い、強靭な広い胸、特徴的な背中の黒い縞模様。
悪魔をも思わせるその姿に人々は恐怖したという。
獣の襲撃は捕食動物の『狩り』と言うには異常で、獲物を仕留めるために動きを憚る脚や喉元は狙わずその頭部を噛み砕くか食いちぎり死体は打ち捨てられる。美味しそうな家畜が傍に居るにも関わらず的確に人間を襲うその襲撃は明確な『殺人』を目的としているようにも捉えられていた。
証言の一説では獣には仲間が居ただの、子連れだっただの様々あるが真実は定かではない。
その生物学的なあまりの異常さに未確認生物だの何らかの組織の陰謀だのという憶測が飛び交い討伐を試みる人間も多く居たが、結局その獣は仕留められる事は無く、知らずの内に歴史の闇へと消えていったと言う。
「――と、そんなオカルト染みたお話なのです。ちなみに事件自体は実話なんだって、怖いよね~」
そう語り終わるとルミは都市伝説以上に夢に出そうな怪画(誤植ではない)を仕舞い、ごそごそと机の上の今度こそ依頼書らしき束を漁るとその中から1つの紙を取り出した。
ニコニコと楽しそうに微笑みながら、彼女はその依頼書をハンター達に広げて見せる。
「そんな中で、さっき受け付けたばっかりの新鮮な依頼が今日ここに」
彼女が意気揚々と広げたその依頼書には、こう記されていた。
――獣の集団に村が襲われている。
1ヶ月ほど前に山から現れたそいつらはその大半がよく居る狼のようであるが、ただの狼であるならば村の男達で対処もできただろう。
しかしその中に1匹、明らかに違う『モノ』が混じっている。
血のように紅い毛並みに研ぎ澄まされた刃のように鋭い牙と爪を持つ4足の獣は、ただの狼ではあり得ない異常に強靭な身体を持ち、村の者ではまったく歯が立たない。
始めは逃げる途中で怪我をするなど些細な被害であったが、次第にヤツらの『狩り方』を心得て来たのか明確な死者が出始めた。それもか弱い女子供ばかりだ。
その事に村の者達も大層心を痛め、先日、村の力自慢の大男と弓自慢の狩人が奴等を狩りに出かけたが、帰ってきたのは山の入り口に打ち捨てられた狼に食い散らかされたらしい首の無い死体だけだった。
もはや我々の手には負えない。どうか、ハンター達の力を貸してほしい。
そんな依頼書をハンター達に見せ終わると、受付嬢は飼い犬にお預けを喰らわすように一度依頼書を後ろ手に引いてみせる。
そうして一息置くと、内緒話とでも言うようにそっと身を乗り出してこう囁いた。
「もし、この『1ヶ月ほど前』が正確な日付では『6月1日』だと言ったら……?」
ルミは再び身を引くと、ニッコリと営業スマイルで依頼書を目の前にパンと叩き付ける。
「ゼッタイ、お土産話を聞かせてネ☆」
そう言ってキャハ☆ とウインクする彼女を他所に、ハンター達はその依頼書を手に取った。
ジェヴォーダンの怪異の伝説、そして直前に見せられた怪画の獣の姿を胸に抱きながら。
そう言ってオフィスへと仕事を探しに来たハンター達の前でひらりと1回転して見せる彼女の名はルミ。
本日付でオフィスに勤務することとなった新人の受付嬢である。
鏡に自分の姿を映して見せて「きゃー、ルミちゃん可愛い☆」と顔を覆って見せる彼女に、そのノリについて行けない一部の周囲のハンター達はちょっと……いや、それなりに……いや、かなり引き気味であるのは言うまでもない。
「――という事で、そこのルミちゃんの視線に痺れるハンターさん達! 早速ですが、依頼です!」
じゃじゃん、と謎の効果音と共にルミは1枚の紙を目の前に持ち出した。
依頼書かと周囲のハンター達は一様にその紙を凝視するが、そこに描かれていたのは真っ赤な牛のような豚のような犬のような猫のようなそれでいてゴリラのような、ちょっと絵心の足りない奇怪なる4足の生き物の絵だった。
「ルミちゃん、こう見えてオカルトとか都市伝説とか大好きなんだけど~……皆は『ジェヴォーダンの獣』って知ってますか?」
不意にそんな事を口走った彼女に、ハンター達は三者三様の反応を見せる。それは主にクリムゾンウエスト出身か、リアルブルー出身か。
大きくはその2つに集約された事だろう。
「この世界の人は聞いたこと無いかもしれないけれど、ルミちゃんの生まれたリアルブルーには『ジェヴォーダンの獣』って言うおとぎ話みたいな都市伝説があるんだよ」
そう言って、彼女は自分の世界に伝わるとある都市伝説を語り始めた。
――時は18世紀のフランス。
ジェヴォーダン地方に現れた1つの残虐な怪異の物語。
1764年6月1日。事件の記録としても残るその獣は、静かにその残虐な鎌首を擡げた。
見積もりで198回の襲撃が行われ、死者は88人、負傷者は36人。
また別の話では306回の襲撃に死者123人、負傷者51人。
その多くが主に女性と子供であったと言う。
あまりの被害件数に暦とした記録が残しきれない怪異の獣は、牛のような巨大なオオカミのような姿をしていたと言う。
全身を血のような赤い毛が覆い、強靭な広い胸、特徴的な背中の黒い縞模様。
悪魔をも思わせるその姿に人々は恐怖したという。
獣の襲撃は捕食動物の『狩り』と言うには異常で、獲物を仕留めるために動きを憚る脚や喉元は狙わずその頭部を噛み砕くか食いちぎり死体は打ち捨てられる。美味しそうな家畜が傍に居るにも関わらず的確に人間を襲うその襲撃は明確な『殺人』を目的としているようにも捉えられていた。
証言の一説では獣には仲間が居ただの、子連れだっただの様々あるが真実は定かではない。
その生物学的なあまりの異常さに未確認生物だの何らかの組織の陰謀だのという憶測が飛び交い討伐を試みる人間も多く居たが、結局その獣は仕留められる事は無く、知らずの内に歴史の闇へと消えていったと言う。
「――と、そんなオカルト染みたお話なのです。ちなみに事件自体は実話なんだって、怖いよね~」
そう語り終わるとルミは都市伝説以上に夢に出そうな怪画(誤植ではない)を仕舞い、ごそごそと机の上の今度こそ依頼書らしき束を漁るとその中から1つの紙を取り出した。
ニコニコと楽しそうに微笑みながら、彼女はその依頼書をハンター達に広げて見せる。
「そんな中で、さっき受け付けたばっかりの新鮮な依頼が今日ここに」
彼女が意気揚々と広げたその依頼書には、こう記されていた。
――獣の集団に村が襲われている。
1ヶ月ほど前に山から現れたそいつらはその大半がよく居る狼のようであるが、ただの狼であるならば村の男達で対処もできただろう。
しかしその中に1匹、明らかに違う『モノ』が混じっている。
血のように紅い毛並みに研ぎ澄まされた刃のように鋭い牙と爪を持つ4足の獣は、ただの狼ではあり得ない異常に強靭な身体を持ち、村の者ではまったく歯が立たない。
始めは逃げる途中で怪我をするなど些細な被害であったが、次第にヤツらの『狩り方』を心得て来たのか明確な死者が出始めた。それもか弱い女子供ばかりだ。
その事に村の者達も大層心を痛め、先日、村の力自慢の大男と弓自慢の狩人が奴等を狩りに出かけたが、帰ってきたのは山の入り口に打ち捨てられた狼に食い散らかされたらしい首の無い死体だけだった。
もはや我々の手には負えない。どうか、ハンター達の力を貸してほしい。
そんな依頼書をハンター達に見せ終わると、受付嬢は飼い犬にお預けを喰らわすように一度依頼書を後ろ手に引いてみせる。
そうして一息置くと、内緒話とでも言うようにそっと身を乗り出してこう囁いた。
「もし、この『1ヶ月ほど前』が正確な日付では『6月1日』だと言ったら……?」
ルミは再び身を引くと、ニッコリと営業スマイルで依頼書を目の前にパンと叩き付ける。
「ゼッタイ、お土産話を聞かせてネ☆」
そう言ってキャハ☆ とウインクする彼女を他所に、ハンター達はその依頼書を手に取った。
ジェヴォーダンの怪異の伝説、そして直前に見せられた怪画の獣の姿を胸に抱きながら。
リプレイ本文
●獣に怯える村
「これで大丈夫……かな」
依頼を受けたハンター達は依頼主であった村長の家で『獣狩り』のための支度を整えていた。
その中で茶色いボディスに白いスカート、三角巾。どこからどう見ても村人に見える装束を纏いながら、シェリル・マイヤーズ(ka0509)は自分の姿を眺めていた。
「うん、バッチリ変装OKだよ」
自身も婦人用衣装に着替えたメル・アイザックス(ka0520)がシェリルの衣装を見ながら満足げに頷く。彼女達の着ている衣装は今回の作戦に際して村長宅から借り受けたものだった。
「お姉ちゃん、わたしの服ぴったりだね。かわいい!」
彼女達の傍でその姿を眺めていた村長の娘が目を輝かせながらそう叫ぶ。
「服、貸してくれてありがとう」
そう言いながら少女と同じ目線に腰をかがめ、頭を撫でてやるメル。すると少女は嬉しそうにえへへと白い歯を見せてニッコリ笑う。
「今、お外の原っぱでお花がいっぱい咲いてるの。怖い狼が居なくなったら、お姉ちゃん達も一緒に摘みに行こうよ!」
少女は歳が近いこともあってか新しい友達と出会ったかのように声を弾ませてシェリルの服の裾を掴む。
「そうだね……事件が解決できたなら」
そう言ってシェリルは紙袋の果物を一つ、少女へ差し出した。
「ただいま、なんとか配り終えて来たよ」
ひと仕事終えた様子で部屋へとやって来たのはヴィルナ・モンロー(ka1955)、レベッカ・アマデーオ(ka1963)、紫月海斗(ka0788)、ライガ・ミナト(ka2153)の4人。
「いやぁ、手分けしたとは言っても全部の家を回るのはやっぱり大変だね」
レベッカがうんと背伸びをしながら一人ごちる。彼女達はヴィルナの提案で事前に用意して来た小さな呼び笛を1個ずつ、村の各家に配って回っていたのだ。
「村の中で危険があれば、こいつで知らせて貰うってぇ寸法か」
呼び笛を手の中で弄びながら眺める紫月。この笛に、一種の防犯ブザーの役割を込めたのだ。
「ライガはゴメンね、怪我人なのに手伝って貰っちゃって」
レベッカはそう言ってライガの方を見やる。
「いえ、怪我とは言え横にならなければならないほどのモノでもありませんから」
言いながら爽やかな笑顔を向けるライガ。
「しかし、笛配りに思ったより時間が掛ってしまいました」
そう言いながら窓の外を見やる。
時刻は昼下がり、まだ日は出ているがじきに西日に差し掛かろうかという所。一刻を争うこの依頼にハンター達は身支度を整え狩りへと出かけるのであった。
「お姉ちゃん達、頑張ってね!」
眩しい笑顔で手を振る、少女に見送られながら。
●惨劇は笛の音と共に
ハンター達の作戦はオオカミ達の襲撃時の状況から考えられた以下のようなものだった。
村娘に扮した一人が囮となり単独で行動を行い、他のハンター達は離れた位置に身を隠す。囮に食い付いた『獣』に対し隠れていたハンターによる狙撃で深手を負わせる。そうして傷を負った獣を一度逃がし、痕跡を辿って住処を暴き仕留める。
危険こそ伴うものの敵の習性を利用した、恐らく得策であろう。
「素敵な所……事件さえ無ければ、本当に」
ぷらぷらと散歩をするシェリルはその牧草地の風景を眺めながら呟いた。目の前に広がるのは牧草の中に咲く沢山の白い花々。少女の言っていた花畑なのだろうか。そう思うと広大な自然の中で笑い合って遊ぶ子供達の姿が目に浮かぶ。
時刻はもう夕暮れ。まだ獣の姿は見えていなかった。餌を撒く以上、それに食い付くかどうかは相手次第。焦り逸る気持ちを抱きながらも押しこめて、ただこうして待つ事しかできない。
しかし、唐突にその無作為な時間は破られる事となる。
最初に気付いたのはヴィルナ。
「今のは……」
不意に立ち上がり、その目を村の方へ向ける。そうして耳を澄ませ、次に聞こえたのは間違いのないその音色。
「――笛の音!」
2度目は他のハンター達も気付いたのだろう一斉にヴィルナと同じ方向へ身を返す。
「今の方角……私達と真逆の方向!」
村の地図を手に笛の鳴ったおおよその方角を指し示すメル。
「ちっ、やってくれるぜ……」
ハットを深く被り直しながら静かに息まく紫月にレベッカが勢いよく立ち上がる。
「とにかく、早く向かうよ!」
一斉に駆けだすハンター達。
彼らが笛が鳴ったと思われる場所へ辿りついた時、そこに予期された獣の姿は無かった。
――代わりにあったのは『見覚えのある服装』の小さな少女の遺体であった。
●ジェヴォーダンの獣
亡くなったのは村長の娘であった。
好奇心の強い少女だったらしい、ハンター達の勇姿をその目で見ようとしたのだろうか、家をこっそり抜け出した彼女は不運にも獣の餌食となってしまった。傍には必死に鳴らしたのであろう、血に濡れた笛が落ちていたと言う。
当然ながら両親はひどく悲しみと怒りに暮れていた。しかしその感情をハンター達にぶつけるわけでもなく、ただ一言――
「獣を……きっと殺してくれ」
そんな言葉を託して。
翌日、ハンター達は再び牧草地へと繰り出していた。代案は無い、彼らはこの作戦に命運を託すしか無いのだ。
「今日の風、すっごく良いね。囮の匂いを乗せるにも、私達の気配を掻き消すにも……」
レベッカがすんと風の匂いでも吟味するかのように、その鼻を鳴らす。
潮風と共に生きて来た彼女にとって、風は様々な事を教え、また助けてくれるのだろう。そんな彼女の感性が、この作戦成功にも大きな役割を担っていた事に気付けたのはどれだけ居ただろうか。
「……でもさ、ホント良い子だったよね」
風に髪を靡かせながら呟いたレベッカの言葉にハンター達の気持ちも大きく揺らいだ。
悲しみに暮れる夜を過ごしたのは少女の両親だけでは無い。それはハンター達も同じである。例えほんの半日だけだとしても、元気に笑い、生きている姿を見た少女。その死が心に少なからず傷を残さない訳が無い。
「今日こそ獣を仕留める……私達がしてあげられるのは、しなくちゃいけないのは、それだけだよ」
メルのその言葉に、ハンター達は強い意志を持った目で静かに頷いた。
その意志は囮として一人皆と離れているシェリルにも同様の火を点けていた。
(襲われていたのが私だったら……)
たらればの話に意味が無い事は分かっている。それでも、もしそうだったなら今頃……目の前に広がる白い花達を見つめながら、紙袋を抱える手に力が籠る。
不意に、彼女の六感が何かを捉えた。それは音だったのか、匂いだったのか、本当に一瞬の事で記憶にも残らないものであったが確かに何者かの気配をシェリルは感じたのだ。
「来た……!」
離れた位置で、レベッカが目を見張る。彼らの目の前に広がるのはシェリルを中心に取り囲むように広がる狼の群れ。
その数6匹。
むき出しの牙に荒い息と唸り声を立てながら、ゆっくりとシェリルを取り囲んでゆく。
「どれが件の『獣』だ……?」
狼の群れを1匹1匹見比べながら、ヴィルナは静かに獲物を握りしめる。しかし目撃証言にあるような異形の獣の姿は見当たらない。
(これは獣じゃ無い……ただの狼……?)
間近で危険の迫るシェリルは隠し持った武器の柄に触れそうになるも、その手を咄嗟に引き戻した。まだ『獣』が釣れていない以上、今はまだ村人を演じなければならないのだ。
狼たちはシェリルをぐるりと囲み終わると一斉に彼女へ飛びかかる。
放たれる爪が、牙が、無抵抗の彼女の身体を切り裂く。
「援護を……!」
咄嗟に身を乗り出そうと銃を構えるライガをメルが制した。
「まだ獣が釣れていない! ここで私達がバレたら……あそこで耐えてるシェリル君の気持ちが無駄になるよ!」
シェリルが反撃を行わなかった事から察したのだろう、彼女自身もまた奥歯を噛みしめながら、今はその様子を眺めていることしかできなかった。
しかし不意に狼達が攻撃を止め、シェリルを取り囲んだ状態で一拍距離を置く。
その不可解な行動に誰もが疑問を抱くも、それが『ヤツ』が現れたからだと気付くのにそう時間は必要無かった。狼の攻撃に気取られていたせいか、いつの間にかそこに居た狼を統べるモノ。
(……現れた!)
その現れた獣を前にシェリルは小さく後ずさった。
実際目にするその剥き出しの殺気、特徴的な血のように赤い毛並みと共に普通の狼とは明らかに違う……歪虚のソレを感じとっていた。
品定めをするように傷ついたシェリルを見渡すその濁った瞳に居抜かれ、シェリルはごくりと唾を呑む。
「ようやく……俺の出番ってわけだな」
狙撃地点で紫月はリボルバーの銃口を静かに獣へ向けた。
この作戦のキモでもある狙撃による一撃……この一撃でどれだけ獣に深手を負わせられるか。
それが今後の戦いを大きく左右する。
「傷を負わせるなんて生ぬるい事は思っちゃいねぇ……これで逝っちまいな!」
そうして一発の銃声が鳴り響いた。
しかし狙撃用の銃では無いことが祟ったか、その頭部を狙った銃弾は目標を逸れその強靭な脚へと撃ち込まれる。それでも確かに食い込んだ銃弾に、獣は一瞬その気を取られる。
「今だよ……!」
一斉に、隠れていたハンター達が飛びだす。
その気配を察知してシェリルも隠していた獲物を抜き放ち、同時に放り投げた紙袋をその一閃で切り裂いた。
袋ごと切り裂かれる詰められた果物。周囲に甘い香りが漂う。
その唐突の香りに当てられたのか、獣たちは飛び出したハンター達の存在に気付く事ができずにシェリルに襲いかかろうとする。
「もう我慢する必要はねぇんだよな」
「そう言う事!」
飛びかかる狼をライガとレベッカの放った銃弾が撃ち落とした。
「シェリル君、よく耐えたよ!」
次いでメルのリボルビングソーが狼の1体を両断し、傷ついたシェリルのすぐ横に掛け寄る。
「大丈夫……これくらいの傷、あの子に比べれば」
そうしてシェリルも両手の獲物を構えなおす。その強襲でようやくハンター達の存在に気付いたのか、狼達は身を翻し距離を取る。
「退いたら詰める。大将ががら空きだよ!」
一瞬の隙を突いて一気に獣へ距離を詰めるヴィルナ。振り下ろされたリボルビングソーの一撃がその前足を深々と切り裂いた。
その一撃に獣が一瞬膝を突くが、すぐに体勢を立て直すと通常の狼ではあり得ない跳躍力で一気に後方へ下がる。そうして獣は対峙するハンター達をその濁った瞳で見つめ、不意に身を翻すと山の方へ向かって狼達共々駆けだし始めた。
「逃げる、追うよ!」
メルの掛け声と同時に、ハンター達もその後を追って山へと入ってくのだった。
●クリムゾンウェストの獣
獣の後を追ったハンター達が辿りついたのは岩肌の地層に囲まれた森の一画。どうやらそこが獣の巣であるようだった。
6人のハンター達に追い込まれたはずの獣であるが怯む様子も無く、むしろ前足を広げ身を屈めると、低く深い声で激しい咆哮を上げた。それと同時に周囲に群がるように姿を見せる狼達。先ほどの生き残りに加えてさらに数体……計8匹の狼がハンター達を取り囲む。
「まだ仲間が居たの!?」
その数にレベッカは驚きを隠せず声を上げる。
「それでも……ここで獣を倒さなきゃ」
シェリルは深く深呼吸をする。
「……あの子のためにも」
そう言って一人の疾影士は大地を蹴った。
「怪我人風情で申し訳ないが、キミ達はオレの相手をして貰うよ」
ライガの銃弾が獣を取り巻く狼の脚を貫く。
それと同時にレベッカの機導砲、メルのリボルビングソーが群がる狼の輪を貫いた。
貫き崩れた輪の先に、獣への道が開ける。
「もう一発……同じの貰って行きな!」
その道を突き破り、ヴィルナが獣の真正面から再びリボルビングソーを振り降ろす。その一撃は確かに獣の頭部を捉え、深くその顔面を抉り、どす黒い血が噴き出すと同時に地獄の嗚咽が獣の口から洩れる。
「後ろ……貰った!」
その隙に岩肌を蹴り、背後へと回ったシェリル。日本刀による鋭い一撃がその背部へ突き刺さり、獣の前足が飛び上がる。
「腹を見せるのは降伏の印だって、知ってるか?」
その飛び上がった横っ腹に紫月の銃弾が撃ち込まれる。
立て続けに浴びせられる連撃に大量の血をまき散らす獣。しかしまだ倒れる様子は無い。
その脚力でひらりとサイドステップを決めると鋭い爪をギラリと光らせる。同時に強靭な前足から放たれる横薙ぎの一閃が放たれた。
「ぐっ……!」
「きゃぁぁぁぁぁ!」
その嵐のような一撃に巻き込まれるヴィルナとシェリル。
シェリルは咄嗟に刀で受けるも先に受けていた傷とその体格差から激しく吹き飛ばされ、岩肌にその身を強く打ちつけられる。ふっと、彼女の意識はそこで途絶えた。
「相手をするとは言ったがこいつら、次から次へと……!」
その一方で、ライガは狼達の連撃を受けていた。先の依頼の傷が響く身体で何とか持ちこたえはしている。
「だが、逆にここは俺の間合いでもあるんでね……!」
襲い掛る狼に逆に刀による一閃で応えるライガ。先に銃弾を受けた狼はその一撃で沈黙した。
「こうなったら根比べだよ! 私達と獣、どっちが先に倒れるか!」
メルがライガに群がる狼の1匹を両断しながら叫ぶ。
狼という数を相手にしながら獣という個を相手にする。そう易い戦いじゃない。
「だけどそう言うの……燃えるね」
ヴィルナはそう呟くとリボルビングソーを再び高く構える。
「これが最後の全力だ。しっかり味わいな……!」
傷ついた身体に激痛を走らせながらも獣の懐に飛び込み、その肩に強烈な袈裟切りを浴びせる。
その痛烈な攻撃に、ついに獣が膝を折った。
そんな獣をレベッカの銃口が静かに捉える。その銃口にマテリアルの輝きが宿った。
「アンタは沢山の笑顔を奪ってきた……いい加減、その報いを受けな!」
その一声と共に、凝縮されたマテリアルの輝きが放出された。放たれた輝きは獣の醜い頭部を包み込み、吹き飛ばす。
ずしんと大きな音を立て、自らの行いを顧みるように、頭の無い獣の身体は大地にその身を横たえた。
●惨劇の果てに
獣の討伐から一夜が明け、平和を取り戻した村に新しい朝がやってきた。
ハンター達が帰還した後、獣が死んだという報告は村に歓喜の渦を巻き起こした。
命が危ぶまれたシェリルであったが気を失っていただけのようで、なんとか一命は取り留めていた。
村では少女の葬式が行われ、この村最後の犠牲者の命が手厚く葬られた。
そんな彼女のお墓の前に佇む少女――シェリルは、静かに手に持った紙袋を地面に置いた。
「ごめんね……約束、守れなかったから」
そうしてお墓をじっと見つめると、袋の中から何かを取り出し、お墓の周りに敷き詰めて行く。
「……いつか、また来るからね」
――彼女が去った後の少女のお墓には、野原で咲いた白い花がいっぱいに敷き詰められていた。
「これで大丈夫……かな」
依頼を受けたハンター達は依頼主であった村長の家で『獣狩り』のための支度を整えていた。
その中で茶色いボディスに白いスカート、三角巾。どこからどう見ても村人に見える装束を纏いながら、シェリル・マイヤーズ(ka0509)は自分の姿を眺めていた。
「うん、バッチリ変装OKだよ」
自身も婦人用衣装に着替えたメル・アイザックス(ka0520)がシェリルの衣装を見ながら満足げに頷く。彼女達の着ている衣装は今回の作戦に際して村長宅から借り受けたものだった。
「お姉ちゃん、わたしの服ぴったりだね。かわいい!」
彼女達の傍でその姿を眺めていた村長の娘が目を輝かせながらそう叫ぶ。
「服、貸してくれてありがとう」
そう言いながら少女と同じ目線に腰をかがめ、頭を撫でてやるメル。すると少女は嬉しそうにえへへと白い歯を見せてニッコリ笑う。
「今、お外の原っぱでお花がいっぱい咲いてるの。怖い狼が居なくなったら、お姉ちゃん達も一緒に摘みに行こうよ!」
少女は歳が近いこともあってか新しい友達と出会ったかのように声を弾ませてシェリルの服の裾を掴む。
「そうだね……事件が解決できたなら」
そう言ってシェリルは紙袋の果物を一つ、少女へ差し出した。
「ただいま、なんとか配り終えて来たよ」
ひと仕事終えた様子で部屋へとやって来たのはヴィルナ・モンロー(ka1955)、レベッカ・アマデーオ(ka1963)、紫月海斗(ka0788)、ライガ・ミナト(ka2153)の4人。
「いやぁ、手分けしたとは言っても全部の家を回るのはやっぱり大変だね」
レベッカがうんと背伸びをしながら一人ごちる。彼女達はヴィルナの提案で事前に用意して来た小さな呼び笛を1個ずつ、村の各家に配って回っていたのだ。
「村の中で危険があれば、こいつで知らせて貰うってぇ寸法か」
呼び笛を手の中で弄びながら眺める紫月。この笛に、一種の防犯ブザーの役割を込めたのだ。
「ライガはゴメンね、怪我人なのに手伝って貰っちゃって」
レベッカはそう言ってライガの方を見やる。
「いえ、怪我とは言え横にならなければならないほどのモノでもありませんから」
言いながら爽やかな笑顔を向けるライガ。
「しかし、笛配りに思ったより時間が掛ってしまいました」
そう言いながら窓の外を見やる。
時刻は昼下がり、まだ日は出ているがじきに西日に差し掛かろうかという所。一刻を争うこの依頼にハンター達は身支度を整え狩りへと出かけるのであった。
「お姉ちゃん達、頑張ってね!」
眩しい笑顔で手を振る、少女に見送られながら。
●惨劇は笛の音と共に
ハンター達の作戦はオオカミ達の襲撃時の状況から考えられた以下のようなものだった。
村娘に扮した一人が囮となり単独で行動を行い、他のハンター達は離れた位置に身を隠す。囮に食い付いた『獣』に対し隠れていたハンターによる狙撃で深手を負わせる。そうして傷を負った獣を一度逃がし、痕跡を辿って住処を暴き仕留める。
危険こそ伴うものの敵の習性を利用した、恐らく得策であろう。
「素敵な所……事件さえ無ければ、本当に」
ぷらぷらと散歩をするシェリルはその牧草地の風景を眺めながら呟いた。目の前に広がるのは牧草の中に咲く沢山の白い花々。少女の言っていた花畑なのだろうか。そう思うと広大な自然の中で笑い合って遊ぶ子供達の姿が目に浮かぶ。
時刻はもう夕暮れ。まだ獣の姿は見えていなかった。餌を撒く以上、それに食い付くかどうかは相手次第。焦り逸る気持ちを抱きながらも押しこめて、ただこうして待つ事しかできない。
しかし、唐突にその無作為な時間は破られる事となる。
最初に気付いたのはヴィルナ。
「今のは……」
不意に立ち上がり、その目を村の方へ向ける。そうして耳を澄ませ、次に聞こえたのは間違いのないその音色。
「――笛の音!」
2度目は他のハンター達も気付いたのだろう一斉にヴィルナと同じ方向へ身を返す。
「今の方角……私達と真逆の方向!」
村の地図を手に笛の鳴ったおおよその方角を指し示すメル。
「ちっ、やってくれるぜ……」
ハットを深く被り直しながら静かに息まく紫月にレベッカが勢いよく立ち上がる。
「とにかく、早く向かうよ!」
一斉に駆けだすハンター達。
彼らが笛が鳴ったと思われる場所へ辿りついた時、そこに予期された獣の姿は無かった。
――代わりにあったのは『見覚えのある服装』の小さな少女の遺体であった。
●ジェヴォーダンの獣
亡くなったのは村長の娘であった。
好奇心の強い少女だったらしい、ハンター達の勇姿をその目で見ようとしたのだろうか、家をこっそり抜け出した彼女は不運にも獣の餌食となってしまった。傍には必死に鳴らしたのであろう、血に濡れた笛が落ちていたと言う。
当然ながら両親はひどく悲しみと怒りに暮れていた。しかしその感情をハンター達にぶつけるわけでもなく、ただ一言――
「獣を……きっと殺してくれ」
そんな言葉を託して。
翌日、ハンター達は再び牧草地へと繰り出していた。代案は無い、彼らはこの作戦に命運を託すしか無いのだ。
「今日の風、すっごく良いね。囮の匂いを乗せるにも、私達の気配を掻き消すにも……」
レベッカがすんと風の匂いでも吟味するかのように、その鼻を鳴らす。
潮風と共に生きて来た彼女にとって、風は様々な事を教え、また助けてくれるのだろう。そんな彼女の感性が、この作戦成功にも大きな役割を担っていた事に気付けたのはどれだけ居ただろうか。
「……でもさ、ホント良い子だったよね」
風に髪を靡かせながら呟いたレベッカの言葉にハンター達の気持ちも大きく揺らいだ。
悲しみに暮れる夜を過ごしたのは少女の両親だけでは無い。それはハンター達も同じである。例えほんの半日だけだとしても、元気に笑い、生きている姿を見た少女。その死が心に少なからず傷を残さない訳が無い。
「今日こそ獣を仕留める……私達がしてあげられるのは、しなくちゃいけないのは、それだけだよ」
メルのその言葉に、ハンター達は強い意志を持った目で静かに頷いた。
その意志は囮として一人皆と離れているシェリルにも同様の火を点けていた。
(襲われていたのが私だったら……)
たらればの話に意味が無い事は分かっている。それでも、もしそうだったなら今頃……目の前に広がる白い花達を見つめながら、紙袋を抱える手に力が籠る。
不意に、彼女の六感が何かを捉えた。それは音だったのか、匂いだったのか、本当に一瞬の事で記憶にも残らないものであったが確かに何者かの気配をシェリルは感じたのだ。
「来た……!」
離れた位置で、レベッカが目を見張る。彼らの目の前に広がるのはシェリルを中心に取り囲むように広がる狼の群れ。
その数6匹。
むき出しの牙に荒い息と唸り声を立てながら、ゆっくりとシェリルを取り囲んでゆく。
「どれが件の『獣』だ……?」
狼の群れを1匹1匹見比べながら、ヴィルナは静かに獲物を握りしめる。しかし目撃証言にあるような異形の獣の姿は見当たらない。
(これは獣じゃ無い……ただの狼……?)
間近で危険の迫るシェリルは隠し持った武器の柄に触れそうになるも、その手を咄嗟に引き戻した。まだ『獣』が釣れていない以上、今はまだ村人を演じなければならないのだ。
狼たちはシェリルをぐるりと囲み終わると一斉に彼女へ飛びかかる。
放たれる爪が、牙が、無抵抗の彼女の身体を切り裂く。
「援護を……!」
咄嗟に身を乗り出そうと銃を構えるライガをメルが制した。
「まだ獣が釣れていない! ここで私達がバレたら……あそこで耐えてるシェリル君の気持ちが無駄になるよ!」
シェリルが反撃を行わなかった事から察したのだろう、彼女自身もまた奥歯を噛みしめながら、今はその様子を眺めていることしかできなかった。
しかし不意に狼達が攻撃を止め、シェリルを取り囲んだ状態で一拍距離を置く。
その不可解な行動に誰もが疑問を抱くも、それが『ヤツ』が現れたからだと気付くのにそう時間は必要無かった。狼の攻撃に気取られていたせいか、いつの間にかそこに居た狼を統べるモノ。
(……現れた!)
その現れた獣を前にシェリルは小さく後ずさった。
実際目にするその剥き出しの殺気、特徴的な血のように赤い毛並みと共に普通の狼とは明らかに違う……歪虚のソレを感じとっていた。
品定めをするように傷ついたシェリルを見渡すその濁った瞳に居抜かれ、シェリルはごくりと唾を呑む。
「ようやく……俺の出番ってわけだな」
狙撃地点で紫月はリボルバーの銃口を静かに獣へ向けた。
この作戦のキモでもある狙撃による一撃……この一撃でどれだけ獣に深手を負わせられるか。
それが今後の戦いを大きく左右する。
「傷を負わせるなんて生ぬるい事は思っちゃいねぇ……これで逝っちまいな!」
そうして一発の銃声が鳴り響いた。
しかし狙撃用の銃では無いことが祟ったか、その頭部を狙った銃弾は目標を逸れその強靭な脚へと撃ち込まれる。それでも確かに食い込んだ銃弾に、獣は一瞬その気を取られる。
「今だよ……!」
一斉に、隠れていたハンター達が飛びだす。
その気配を察知してシェリルも隠していた獲物を抜き放ち、同時に放り投げた紙袋をその一閃で切り裂いた。
袋ごと切り裂かれる詰められた果物。周囲に甘い香りが漂う。
その唐突の香りに当てられたのか、獣たちは飛び出したハンター達の存在に気付く事ができずにシェリルに襲いかかろうとする。
「もう我慢する必要はねぇんだよな」
「そう言う事!」
飛びかかる狼をライガとレベッカの放った銃弾が撃ち落とした。
「シェリル君、よく耐えたよ!」
次いでメルのリボルビングソーが狼の1体を両断し、傷ついたシェリルのすぐ横に掛け寄る。
「大丈夫……これくらいの傷、あの子に比べれば」
そうしてシェリルも両手の獲物を構えなおす。その強襲でようやくハンター達の存在に気付いたのか、狼達は身を翻し距離を取る。
「退いたら詰める。大将ががら空きだよ!」
一瞬の隙を突いて一気に獣へ距離を詰めるヴィルナ。振り下ろされたリボルビングソーの一撃がその前足を深々と切り裂いた。
その一撃に獣が一瞬膝を突くが、すぐに体勢を立て直すと通常の狼ではあり得ない跳躍力で一気に後方へ下がる。そうして獣は対峙するハンター達をその濁った瞳で見つめ、不意に身を翻すと山の方へ向かって狼達共々駆けだし始めた。
「逃げる、追うよ!」
メルの掛け声と同時に、ハンター達もその後を追って山へと入ってくのだった。
●クリムゾンウェストの獣
獣の後を追ったハンター達が辿りついたのは岩肌の地層に囲まれた森の一画。どうやらそこが獣の巣であるようだった。
6人のハンター達に追い込まれたはずの獣であるが怯む様子も無く、むしろ前足を広げ身を屈めると、低く深い声で激しい咆哮を上げた。それと同時に周囲に群がるように姿を見せる狼達。先ほどの生き残りに加えてさらに数体……計8匹の狼がハンター達を取り囲む。
「まだ仲間が居たの!?」
その数にレベッカは驚きを隠せず声を上げる。
「それでも……ここで獣を倒さなきゃ」
シェリルは深く深呼吸をする。
「……あの子のためにも」
そう言って一人の疾影士は大地を蹴った。
「怪我人風情で申し訳ないが、キミ達はオレの相手をして貰うよ」
ライガの銃弾が獣を取り巻く狼の脚を貫く。
それと同時にレベッカの機導砲、メルのリボルビングソーが群がる狼の輪を貫いた。
貫き崩れた輪の先に、獣への道が開ける。
「もう一発……同じの貰って行きな!」
その道を突き破り、ヴィルナが獣の真正面から再びリボルビングソーを振り降ろす。その一撃は確かに獣の頭部を捉え、深くその顔面を抉り、どす黒い血が噴き出すと同時に地獄の嗚咽が獣の口から洩れる。
「後ろ……貰った!」
その隙に岩肌を蹴り、背後へと回ったシェリル。日本刀による鋭い一撃がその背部へ突き刺さり、獣の前足が飛び上がる。
「腹を見せるのは降伏の印だって、知ってるか?」
その飛び上がった横っ腹に紫月の銃弾が撃ち込まれる。
立て続けに浴びせられる連撃に大量の血をまき散らす獣。しかしまだ倒れる様子は無い。
その脚力でひらりとサイドステップを決めると鋭い爪をギラリと光らせる。同時に強靭な前足から放たれる横薙ぎの一閃が放たれた。
「ぐっ……!」
「きゃぁぁぁぁぁ!」
その嵐のような一撃に巻き込まれるヴィルナとシェリル。
シェリルは咄嗟に刀で受けるも先に受けていた傷とその体格差から激しく吹き飛ばされ、岩肌にその身を強く打ちつけられる。ふっと、彼女の意識はそこで途絶えた。
「相手をするとは言ったがこいつら、次から次へと……!」
その一方で、ライガは狼達の連撃を受けていた。先の依頼の傷が響く身体で何とか持ちこたえはしている。
「だが、逆にここは俺の間合いでもあるんでね……!」
襲い掛る狼に逆に刀による一閃で応えるライガ。先に銃弾を受けた狼はその一撃で沈黙した。
「こうなったら根比べだよ! 私達と獣、どっちが先に倒れるか!」
メルがライガに群がる狼の1匹を両断しながら叫ぶ。
狼という数を相手にしながら獣という個を相手にする。そう易い戦いじゃない。
「だけどそう言うの……燃えるね」
ヴィルナはそう呟くとリボルビングソーを再び高く構える。
「これが最後の全力だ。しっかり味わいな……!」
傷ついた身体に激痛を走らせながらも獣の懐に飛び込み、その肩に強烈な袈裟切りを浴びせる。
その痛烈な攻撃に、ついに獣が膝を折った。
そんな獣をレベッカの銃口が静かに捉える。その銃口にマテリアルの輝きが宿った。
「アンタは沢山の笑顔を奪ってきた……いい加減、その報いを受けな!」
その一声と共に、凝縮されたマテリアルの輝きが放出された。放たれた輝きは獣の醜い頭部を包み込み、吹き飛ばす。
ずしんと大きな音を立て、自らの行いを顧みるように、頭の無い獣の身体は大地にその身を横たえた。
●惨劇の果てに
獣の討伐から一夜が明け、平和を取り戻した村に新しい朝がやってきた。
ハンター達が帰還した後、獣が死んだという報告は村に歓喜の渦を巻き起こした。
命が危ぶまれたシェリルであったが気を失っていただけのようで、なんとか一命は取り留めていた。
村では少女の葬式が行われ、この村最後の犠牲者の命が手厚く葬られた。
そんな彼女のお墓の前に佇む少女――シェリルは、静かに手に持った紙袋を地面に置いた。
「ごめんね……約束、守れなかったから」
そうしてお墓をじっと見つめると、袋の中から何かを取り出し、お墓の周りに敷き詰めて行く。
「……いつか、また来るからね」
――彼女が去った後の少女のお墓には、野原で咲いた白い花がいっぱいに敷き詰められていた。
依頼結果
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作戦相談卓 岩井崎 メル(ka0520) 人間(リアルブルー)|17才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/07/14 11:07:58 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/09 13:49:24 |