ゲスト
(ka0000)
― 雨滴る紫陽花の庭 ―
マスター:瑞木雫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/19 19:00
- 完成日
- 2015/06/30 10:07
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
水無月は、雨降る季節。
しとしと。
本日の天の恵みの水は優しく、しとしと。
静かに、軽やかな音を奏で、
大地を濡らしていた。
●雨滴る紫陽花の庭
「今日はご招待いただいてありがとう! 貴女の紫陽花、いつも見事ねぇ。かわいらしいわ」
紫陽花の色に見立てた薔薇の雨傘を差しながら、ロゼは微笑む。
彼女は薔薇をこよなく愛する大富豪のお嬢様だ。
一面に咲く紫陽花の見事な眺めを堪能しながら、楽しそうな声を弾ませていた。
この紫陽花の庭を所有するのはランジアというお嬢様。ロゼの親しい友人である。
ランジアは一見冷めたような雰囲気を漂わせるが、眸を細め、柔らかく笑む。
「……こちらこそ。今日は、和雨。ゆっくり楽しんでいって?」
―――和雨とは、やわらぎとなごみのある雨のこと。
優しく降り注ぐ雨のしずくはぽつぽつと音を奏でながら、雨景色をより美しく、彩らせた。
彼女が心を込めて咲かせた紫陽花の庭園は、6月の雨天の日に解放される。
不審者が入らないように、そしてもし何かがあった時のために目を光らせている雇われたスーツの男達はいるけれど、基本どなたも歓迎な催しだ。
そして本日も、綺麗に咲いた紫陽花を眺めに来ると共に、雨を静かに楽しむ為に、ぽつ、ぽつと、人が集まっていた。
―――『紫陽花の庭』
雨傘を差しながら、紫陽花を眺めるも良し。
色彩豊かで美しく、じっくり覗くならカタツムリが楽しそうに這っているのを見つけられるかもしれない。
庭は広い。静かに散歩を楽しむのも良いだろう。
―――『紫陽花の縁側』
或は雨隠れを楽しむも良し。
屋根にぽたぽたと落ちる雨音は涼やかで、心地よいものだろう。
そしてゆっくり寛げるようにと、
リアルブルーのものである珍しい和菓子と日本茶を、ランジアがもてなすようだ。
そして、『てるてる坊主』を作ることもできる。
作り方は、いたってシンプル。
布を使って形をつくり、顔はみなそれぞれで描くため、縁側に飾ってあるてるてる坊主は個性豊かで可愛らしい。
「雨は憂鬱って思う時はあるけれど、此処に居ると雨が好きになっちゃうわ」
「そういってもらえると、なんだか嬉しいわね……」
照れているのか、ほんのり染まるランジアの頬。
「うふふ」
友人二人は仲良く縁側でお喋りを楽しんでいた。
しかしなんと、そんなまったりと時間が経過する中で緊急事態が起きるのである。
「お嬢様! たいへんです!」
スーツの男が慌てた様子で報告にきた。
●裏庭のてるてる坊主
―――ランジアの紫陽花の庭に集まっていた人々は全員、建物の中に避難することになった。
丈夫な造りであるため、並大抵のことでは倒壊する心配はない。
ゆえに彼らの安全はひとまず守れたが、裏庭に紛れ込んでいる奇妙な存在は今も徘徊しているようだった。
てるてる坊主のような何か。
だがそれは決しててるてる坊主ではなく、似ているだけの雑魔であることに間違いない。
1m程あり、足のようなものが生えているのだという。
「……私の紫陽花を踏んだら、ただじゃおかない」
瞳孔開くランジアは、わなわなと呟く。
「早く退治しないといけないわね」
その為にはハンターを呼んでくる必要があるのだが、ランジアはこの事態、どうするべきかと頭を悩ませていた。
―――しかし。
「あれ、そういえば……ロゼは?」
ロゼが見当たらないことに気付くと、スーツの男がまたまた慌てた様子で報告しにやってくる。
「すみません! 皆さんの避難の誘導中に、ロゼお嬢様がハンターオフィスへ依頼すると走って行かれて……っ」
「えぇ!?」
なんと、強かで逞しいロゼは裏庭に居るというてるてる坊主に気付かれることなく脱走したのだとか。
「ロゼったら……」
ありがたいやら、無事なら良かったものの思い立ったらすぐな性格が心配やらで。
深く溜息を吐いた。
―――そして暫くすると。
ロゼはこの事態に駆けつけてくれたハンター達を連れ、ランジアの庭に再び帰ってくるだろう。
しとしと。
本日の天の恵みの水は優しく、しとしと。
静かに、軽やかな音を奏で、
大地を濡らしていた。
●雨滴る紫陽花の庭
「今日はご招待いただいてありがとう! 貴女の紫陽花、いつも見事ねぇ。かわいらしいわ」
紫陽花の色に見立てた薔薇の雨傘を差しながら、ロゼは微笑む。
彼女は薔薇をこよなく愛する大富豪のお嬢様だ。
一面に咲く紫陽花の見事な眺めを堪能しながら、楽しそうな声を弾ませていた。
この紫陽花の庭を所有するのはランジアというお嬢様。ロゼの親しい友人である。
ランジアは一見冷めたような雰囲気を漂わせるが、眸を細め、柔らかく笑む。
「……こちらこそ。今日は、和雨。ゆっくり楽しんでいって?」
―――和雨とは、やわらぎとなごみのある雨のこと。
優しく降り注ぐ雨のしずくはぽつぽつと音を奏でながら、雨景色をより美しく、彩らせた。
彼女が心を込めて咲かせた紫陽花の庭園は、6月の雨天の日に解放される。
不審者が入らないように、そしてもし何かがあった時のために目を光らせている雇われたスーツの男達はいるけれど、基本どなたも歓迎な催しだ。
そして本日も、綺麗に咲いた紫陽花を眺めに来ると共に、雨を静かに楽しむ為に、ぽつ、ぽつと、人が集まっていた。
―――『紫陽花の庭』
雨傘を差しながら、紫陽花を眺めるも良し。
色彩豊かで美しく、じっくり覗くならカタツムリが楽しそうに這っているのを見つけられるかもしれない。
庭は広い。静かに散歩を楽しむのも良いだろう。
―――『紫陽花の縁側』
或は雨隠れを楽しむも良し。
屋根にぽたぽたと落ちる雨音は涼やかで、心地よいものだろう。
そしてゆっくり寛げるようにと、
リアルブルーのものである珍しい和菓子と日本茶を、ランジアがもてなすようだ。
そして、『てるてる坊主』を作ることもできる。
作り方は、いたってシンプル。
布を使って形をつくり、顔はみなそれぞれで描くため、縁側に飾ってあるてるてる坊主は個性豊かで可愛らしい。
「雨は憂鬱って思う時はあるけれど、此処に居ると雨が好きになっちゃうわ」
「そういってもらえると、なんだか嬉しいわね……」
照れているのか、ほんのり染まるランジアの頬。
「うふふ」
友人二人は仲良く縁側でお喋りを楽しんでいた。
しかしなんと、そんなまったりと時間が経過する中で緊急事態が起きるのである。
「お嬢様! たいへんです!」
スーツの男が慌てた様子で報告にきた。
●裏庭のてるてる坊主
―――ランジアの紫陽花の庭に集まっていた人々は全員、建物の中に避難することになった。
丈夫な造りであるため、並大抵のことでは倒壊する心配はない。
ゆえに彼らの安全はひとまず守れたが、裏庭に紛れ込んでいる奇妙な存在は今も徘徊しているようだった。
てるてる坊主のような何か。
だがそれは決しててるてる坊主ではなく、似ているだけの雑魔であることに間違いない。
1m程あり、足のようなものが生えているのだという。
「……私の紫陽花を踏んだら、ただじゃおかない」
瞳孔開くランジアは、わなわなと呟く。
「早く退治しないといけないわね」
その為にはハンターを呼んでくる必要があるのだが、ランジアはこの事態、どうするべきかと頭を悩ませていた。
―――しかし。
「あれ、そういえば……ロゼは?」
ロゼが見当たらないことに気付くと、スーツの男がまたまた慌てた様子で報告しにやってくる。
「すみません! 皆さんの避難の誘導中に、ロゼお嬢様がハンターオフィスへ依頼すると走って行かれて……っ」
「えぇ!?」
なんと、強かで逞しいロゼは裏庭に居るというてるてる坊主に気付かれることなく脱走したのだとか。
「ロゼったら……」
ありがたいやら、無事なら良かったものの思い立ったらすぐな性格が心配やらで。
深く溜息を吐いた。
―――そして暫くすると。
ロゼはこの事態に駆けつけてくれたハンター達を連れ、ランジアの庭に再び帰ってくるだろう。
リプレイ本文
●雨景色の庭に訪れて
雨は唄い、
紫陽花には雫。
門を潜れば出逢える、なんとも美しき雨景色の庭――。
(良かった……)
庭内の植物が傷付けられていないかを心配していた〆垣 師人(ka2709)は、心の中で一先ず安堵を覚えた。
心地よい奏での雨に愛され紫陽花は麗らかに咲き、しっとりと落ち着いた華やぎのある表庭に被害は無さそうだ。
ロゼの情報に基づいた見取り図から推測するならば、表庭を通らずに裏庭から移動するのは難しい。
……となるとやはり、テルテル雑魔は今も裏庭を徘徊しているのだろう。
「テルテル坊主とは晴れを願うリアルブルーの儀式でしたでしょうか~?」
シルディ(ka2939)が悠然とし、問い掛け――
ユリシウス(ka5002)とレイレリア・リナークシス(ka3872)は頷く。
「てるてる坊主と言えば、普通は可愛らしいもののハズなのですが……」
逞しい足が生えて歩いているというテルテル雑魔をイメージし、些かお気に召さない様子のユリシウス。
そしてレイレリアはというと、ある疑問を抱いていた。
(……一体、どういった経緯で現れたのでしょうか)
門を潜り表庭から侵入したという訳でもないテルテル雑魔が、どうして裏庭に発生したのかは誰も見ていないし、誰にも分からない状況だった故、謎は深まる。
だが相手は雑魔。
どのような原因があったとしても、排除しなければならない存在である事には変わり無い。
(折角の素敵な紫陽花もありますし、倒させていただきます)
そう固く決心しながら、強い眼差しで見据えていた。
さぁ、仲間と共に。
向かおう――奴らが徘徊する裏庭へと。
「あら、庭園とお聞きしてましたのに裏庭に通されるなんて残念ですわ」
セシール・フェーヴル(ka4507)は半端不満げに言うと、レディらしくスカートの裾を摘みながら、レースアップブーツで駆ける。
すると、ちゃぷちゃぷ……と楽しげな音が。
(うふふ、なんだかこれだけで冒険してる気分ですわ)
……そんなふうに心が躍っていた事は、セシールだけの秘密。
●対峙するテルテル雑魔
先ずは師人とユリシウスが注意深く裏庭の様子を窺っていた。
裏庭に、雑魔が三体。
特に暴れる気配も無く、歩き回っているだけのようだ。
しかし……。
「何でしょうか、あの人形は……」
セシールが言うと、ユリシウスも続いて。
「景観としていただけませんわね……」
お嬢様二人にとってテルテル雑魔は、少々不評な風貌だったらしい。
「……無粋ですこと。射抜いて差し上げますわ」
ユリシウスは囁くように呟きながら、髪は漆黒へ、そして眸は濃紅へ。
どこか蠱惑的な雰囲気を纏いだす。
紅月 ネル(ka5039)もテルテル雑魔に気付かれていない折に、両腕部に機械記号の組み合わせのような幻影を現した。
「雨とはいえせっかくの景色……火薬の匂いは無粋でしょう?」
今回の依頼においては銃器の使用は最低限にする為――ユナイテッド・ドライブ・ソードを双剣のように組み換え、持ち構える。
そして、師人も。
微かな椿の匂いを漂わせながら、点線の痣が首に浮かび上がっていた。
それはまるで、『首を落とせと言わんばかりの』。
「……」
――大目標とするのは、『庭内の植物である紫陽花を傷付けない事』。
師人達が攻撃を仕掛けたのは、歩く二体が裏庭の紫陽花から離れた絶妙のタイミング。
その内一体はどうしても紫陽花から離れず、挑発して誘導する為にと、ユリシウスが目一杯引き絞り……遠射を放った。
『!?』
不意に彼らの攻撃を喰らったテルテル雑魔。
よっぽど驚いたのだろう。
彼らが居る反対側から表庭へと抜け出そうとするのだが――、
既にランアウトを使ったシルディによって回り込まれていて。
「本当に晴れにされる前に退散願いましょうかねぇ」
のんびりと穏やかに――……しかし、歪虚を見据えた彼の緑の眸はまるで鋭い刃物のよう。
(ふふ。どんな手応えがするのか楽しみでなりません)
逃走を阻止すると同時に、ウィップによる精度の高い一撃を喰らわせるのだった。
●テルテル雑魔は、逃げる雑魔
「心配いらない? いいえ、折角の庭園に血の匂いが漂っては趣きにかけますわ。それが嫌なだけですの」
素直になれないセシールは思わず照れ隠しの言葉を放ちながら、傷ついた仲間にヒールを。
柔らかな光が包み込み、癒していく。
テルテル雑魔は逞しい足による足蹴りは強烈ではあるものの、彼らにとって敵では無い相手。
それは繰り広げる戦闘の中で、雑魔自身も本能的に察していたのだろう。
「……!」
――レイレリアは気付いた。
雑魔達に異変が起きた事を。
先程迄は挑発や誘導に乗っていたテルテル雑魔が突如狂ったように暴れだしたのである。
「皆さん、前衛後衛の組み合わせで分かれて確実に一体ずつ仕留めましょう」
レイレリアは射線に気を付けるようにウォーターシュートを放ちながら、仲間へと提案を。
すると、頷いた師人が器用な手先でメタルシザーズを扱い、重ねるように攻撃を与えた。
「庭内の植物を、傷付けさせやしない」
連携は見事に取れているものの、
立ち止まらないテルテル雑魔が暴れる進路の先には裏庭に咲く紫陽花。
「―――!」
このままでは踏み荒らされてしまう。
そこでレイレリアは、アースウォールを生成。
雑魔は侵攻を阻まれ土の壁に激突。
その隙に今度は師人が立ち回り、ランアウトからの部位狙いで、首を。
――万事休す。
最早これ迄であるテルテル雑魔はまるで諦めたかのように消滅していった。
シルディも、紫陽花の盾になりながら呟く。
「本来なら少しずつ弄って弄って倒したいところですが……」
狂ったように暴れ出したテルテル雑魔から守る為にも、そろそろ決着に持ち込む方が良さそうなのである。
とはいえ、最初から早期殲滅を狙ってスキルを惜しまず使っていたのも有り、トドメまでは後一歩のところ。
「援護しますわ」
ユリシウスがシルディの攻撃に合わせ牽制射撃する矢は、まるで彗星の如く。
逃げようとするテルテル雑魔の行く手を阻む隙に、シルディはフェイントアタックで仕留め、殲滅へと。
セシールはというと表庭に続く道を塞ぐような立ち位置からホーリーライトで援護していたが、この道を通って向かおうとしてくるテルテル雑魔を発見。
攻撃を与えられても止まらない雑魔を引き止める為、全力疾走で向かってくるのを身体を盾に足止めする。
「……っ!」
先程迄は、「こんな所で戦うと泥だらけになってしまいますわね……」と漏らしていたセシール。
だが。
「ドレスが汚れるのは嫌ですが、花が踏みにじられていい理由にはなりませんわ」
――表庭での戦闘は、確実に紫陽花を傷付けられてしまうから。
身を挺して、受け止めたのだ。
セシールがなんとか持ち堪える折に、飛び出すネル。
「逃げ切れるとでも思っているの?」
絶対に逃がしはしない、と。
上から振り下ろすように、下から抉るように。
双剣で変則的に切り込めば鮮やかに決着がついたのだった―――。
●紫陽花は無事に
雨に濡れ、瑞々しい紫陽花。
清廉に咲いているのを眺めながら、ネルは安堵のような表情を浮かべていた。
傷付ける事無く終えて良かった……、と。
建物内へ避難していた者達は、雑魔を退治したおかげで再び自由に外へと歩けるようになって。
紫陽花の庭の所有者であるランジアも裏庭の様子を見にやってきていた。
――以前と変わらぬままの、愛する紫陽花。
そして何処か優しい表情で紫陽花を見つめていたネルとばったり。
「……有難う。守ってくれたのね」
ランジアが嬉しそうに目を細めつつお礼を言うと、
「……!」
気恥しいのか一瞬身を固くしたネルは、誤魔化すように目線を逸らすのだった。
一方。
花は無事に守りきれたとはいえ、少々荒れてしまった裏庭を補修していた師人。
しっとりと美しき雨の花を見つめ――ふと浮かぶ、あるお方の顔。
貴族であり雇い主である一家のおひとりであり、マナーハウスでのお仕事中に遊びにやってくるお嬢様のことだ。
(紫陽花か……お嬢様が好きそうだ、参考にさせてもらおう)
そんなふうに心の中で呟いていた師人の表情は、何処か温かかった。
なぜなら一家に恩義を深く感じている師人は、彼女達の為なら何処までも献身的になれる。
……だから、もしかしたら、彼女達の喜びとなる行いは、師人にとっての喜びになるのかもしれない。
紫陽花の庭を見て学ぶ師人の様子は心なしか活き活きとしていたことだろう。
マナーハウスの庭師として。
●雨天を彩る雨傘と散歩
レイレリアの雨傘は上品な青。
フリルをたっぷりとあしらいながら裏地には薄らと薔薇の模様を描かれていた。
見惚れるような純美さ。彼女はまるで――青薔薇の君。
ユリシウスはランジアのお任せによる雨傘で、淑やかな彼女にぴったりの純白。
慎まやかさと清純さが程よく調和されていながら雨雫が落ちる度に、とても澄んだ音。
細部にまで拘りを施された優美なデザインだった。
同じくネルもランジアにお任せにしたらしく、雨傘は艶やかな黒。
クールな美が際立つ、洗練されたオシャレなデザインだ。
……適当に見繕って貰うつもりが、ランジアなりに張り切って用意されてしまったらしい。
そしてセシールはというと、普段から愛用しているお気に入りの傘。
端にはレースを施し、シンプルなようでとても上品に――滑らかな布地は雨に濡れると様々な彩へと溢れていた。
雨音を弾く音を楽しみながら紫陽花を鑑賞していたセシールは、つい……。
「……凄く綺麗ですわ」
眺め見入っている内に思わず本音を漏らして、はっとした。
どうやら素直になることが恥ずかしいらしいお嬢様。
「誰も聞いてませんですわよね……?」
小声で心配するように呟きつつ振り返ると―――
近くに居たレイレリアと目がばっちり合って。
「えぇ、お綺麗ですよね」
やはり聞こえていない事には出来ないような距離だったようだ。
すると、セシールの顔はみるみる真っ赤に染まっていった。
「わ、わたくしの庭には負けますのよ!?」
やはり素直になりきるには難しいらしい。
レイレリアはきょと……と目を丸くしていたが、セシールの本心を何となく察したのだろう。
眸を細め、優しく微笑んでいるのだった。
――密かに、ネルも呟く。
「たまには雨もいいものね」
その言葉を聞いて、紫陽花それぞれの彩りを楽しんでいたユリシウスも頷いていた。
「そうですね……たまには雨も、こういう時間も、素敵ね」
雨音は心地よく。
紫陽花を覗いてみると、まるで隠れていたようなカタツムリを見つけ、ふふ、と微笑んだ。
小さい頃、野山で虫を集めていたことが、なんだか懐かしい……。
貴族のお嬢様然としているユリシウスだが、実はと言うと幼少の頃は野山を駆け回っているようなお転婆娘だったのである。
本当に楽しかった、子供の頃の想い出。
昔を思い浸り、静かに雨景色を楽しんでいるのだった。
――雨は優しく降り注ぐが、仄かに冷たい。
傘をさす事無く紫陽花を鑑賞していたシルディは、雨粒の水滴を散らすように葉っぱを弾いて。
花が綺麗だと思ったからこそ、胸を苦しめられていた。
「……――と見て回りたかったな」
雨に煙る花を見つめ、人知れず故郷を思い出し、呟いていると。
ぱちゃ。
歩んできた誰かが立ち止まり、水溜りを踏んだ軽やかな音を奏でた。
シルディが振り返るとそこには、じいっとシルディを見つめているロゼが立っていたことだろう。
(やれやれ、変な感傷に浸ってしまったようですねぇ。危ない危ない……)
さっと切り替えていつも通りの表情に戻しつつ、落ち着いた物腰で声を掛ける。
どうやらロゼはシルディが雨に打たれていたのを心配していたようだったから。
「傘は結構ですよ? 俺、濡れるの好きなので」
なんて、言ったが。
「ダメよ! 風邪をひいちゃうわっ」
ロゼは引き下がらず、自分の傘でシルディを入れるように背伸びをした。
――自分を傘の中に入れようとすれば、今度はロゼの肩が濡れてしまうのを見つめて。
ほんの少し、困ったように微笑んだ。
「では、体も冷えてきたのでお茶でもいただきましょうかねぇ~」
のんびりとそう言った後、紳士的に彼女の傘を代わりに持ちながら……共に縁側へと向かうだろう。
――濡れるなら、今度は自分であるように。
●水無月の雨
紫陽花の庭をじっくりと見学し、洋庭に関しては修行中の身として、もしかしたら何か掴むものがあったかもしれない師人。
どこか満足そうに縁側へと戻ってくると、シルディとロゼが何やら軒先で話しているようだった。
「軒先で結構ですよ、俺が入ると濡れちゃいますからねぇ」
傘をささず雨に打たれていたシルディは縁側が濡れる事を気にして断っていたが――、
「絶対駄目です! お入りになって?」
お節介すぎるロゼがそれを許してくれそうになかった。
――彼に、彼自身の事をもっと大切にしてほしい。
まるで強く懇願しているかのような瞳だった。
そして観念するにしても、一枚上手だったのは彼の方。
「――。 とても綺麗な紫陽花でしたよ。流石、お嬢様がオフィスに駈け込んでくる価値はありますね」
「えっ、あっ、……おほほ」
駆け込んで行った時といえば緊急事態でもあった為、騒がしかった自分を思い出すと動揺するようにロゼは照れているのだった。
散策していたレイレリア、セシール、ユリシウス、ネルも縁側に戻ってくる頃。
ランジアが日本茶と和菓子をもてなす。
クリムゾンウェストでは珍しく、リアルブルー出身である師人とネルからすると、もしかしたら馴染みのあるそれを頂きながら。
レイレリアは縁側から眺められる紫陽花の庭を鑑賞しつつ言った。
「雨の中でより一層映えてみえる彩の花々が素敵なのは、やはり雨の時期の風物詩だからでしょうね?」
それぞれ異なる青や紫が美しく。
花びらや葉に付着する雨粒がより一層、輝きを増させる。
人の心を掴む……美しき風物詩である、と。
皆も同意するように頷くだろう。
しかし、雨はいつか止むもの。
それを体現するように先程までは振り続けていた水無月の雨が、―――ぴたり、と。
「あら……? 雨が……」
「やんじゃいましたわ……」
ユリシウスとセシールが見上げた空は青く。
澄み渡る様に、何処までも青く。
「良いお天気ね……」
眩しい位の日射を浴びながら、ネルがぽつり。
季節は巡り、
世界は移り変わる。
レイレリアはなんとなく悟れば、静かにその時の流れを受けとめ、そしてのんびりと感じていた。
(雨が止めば、夏がやってくる――)
水無月の雨の名残を残す紫陽花の庭には今、お日様の光が照らされていた。
雨は唄い、
紫陽花には雫。
門を潜れば出逢える、なんとも美しき雨景色の庭――。
(良かった……)
庭内の植物が傷付けられていないかを心配していた〆垣 師人(ka2709)は、心の中で一先ず安堵を覚えた。
心地よい奏での雨に愛され紫陽花は麗らかに咲き、しっとりと落ち着いた華やぎのある表庭に被害は無さそうだ。
ロゼの情報に基づいた見取り図から推測するならば、表庭を通らずに裏庭から移動するのは難しい。
……となるとやはり、テルテル雑魔は今も裏庭を徘徊しているのだろう。
「テルテル坊主とは晴れを願うリアルブルーの儀式でしたでしょうか~?」
シルディ(ka2939)が悠然とし、問い掛け――
ユリシウス(ka5002)とレイレリア・リナークシス(ka3872)は頷く。
「てるてる坊主と言えば、普通は可愛らしいもののハズなのですが……」
逞しい足が生えて歩いているというテルテル雑魔をイメージし、些かお気に召さない様子のユリシウス。
そしてレイレリアはというと、ある疑問を抱いていた。
(……一体、どういった経緯で現れたのでしょうか)
門を潜り表庭から侵入したという訳でもないテルテル雑魔が、どうして裏庭に発生したのかは誰も見ていないし、誰にも分からない状況だった故、謎は深まる。
だが相手は雑魔。
どのような原因があったとしても、排除しなければならない存在である事には変わり無い。
(折角の素敵な紫陽花もありますし、倒させていただきます)
そう固く決心しながら、強い眼差しで見据えていた。
さぁ、仲間と共に。
向かおう――奴らが徘徊する裏庭へと。
「あら、庭園とお聞きしてましたのに裏庭に通されるなんて残念ですわ」
セシール・フェーヴル(ka4507)は半端不満げに言うと、レディらしくスカートの裾を摘みながら、レースアップブーツで駆ける。
すると、ちゃぷちゃぷ……と楽しげな音が。
(うふふ、なんだかこれだけで冒険してる気分ですわ)
……そんなふうに心が躍っていた事は、セシールだけの秘密。
●対峙するテルテル雑魔
先ずは師人とユリシウスが注意深く裏庭の様子を窺っていた。
裏庭に、雑魔が三体。
特に暴れる気配も無く、歩き回っているだけのようだ。
しかし……。
「何でしょうか、あの人形は……」
セシールが言うと、ユリシウスも続いて。
「景観としていただけませんわね……」
お嬢様二人にとってテルテル雑魔は、少々不評な風貌だったらしい。
「……無粋ですこと。射抜いて差し上げますわ」
ユリシウスは囁くように呟きながら、髪は漆黒へ、そして眸は濃紅へ。
どこか蠱惑的な雰囲気を纏いだす。
紅月 ネル(ka5039)もテルテル雑魔に気付かれていない折に、両腕部に機械記号の組み合わせのような幻影を現した。
「雨とはいえせっかくの景色……火薬の匂いは無粋でしょう?」
今回の依頼においては銃器の使用は最低限にする為――ユナイテッド・ドライブ・ソードを双剣のように組み換え、持ち構える。
そして、師人も。
微かな椿の匂いを漂わせながら、点線の痣が首に浮かび上がっていた。
それはまるで、『首を落とせと言わんばかりの』。
「……」
――大目標とするのは、『庭内の植物である紫陽花を傷付けない事』。
師人達が攻撃を仕掛けたのは、歩く二体が裏庭の紫陽花から離れた絶妙のタイミング。
その内一体はどうしても紫陽花から離れず、挑発して誘導する為にと、ユリシウスが目一杯引き絞り……遠射を放った。
『!?』
不意に彼らの攻撃を喰らったテルテル雑魔。
よっぽど驚いたのだろう。
彼らが居る反対側から表庭へと抜け出そうとするのだが――、
既にランアウトを使ったシルディによって回り込まれていて。
「本当に晴れにされる前に退散願いましょうかねぇ」
のんびりと穏やかに――……しかし、歪虚を見据えた彼の緑の眸はまるで鋭い刃物のよう。
(ふふ。どんな手応えがするのか楽しみでなりません)
逃走を阻止すると同時に、ウィップによる精度の高い一撃を喰らわせるのだった。
●テルテル雑魔は、逃げる雑魔
「心配いらない? いいえ、折角の庭園に血の匂いが漂っては趣きにかけますわ。それが嫌なだけですの」
素直になれないセシールは思わず照れ隠しの言葉を放ちながら、傷ついた仲間にヒールを。
柔らかな光が包み込み、癒していく。
テルテル雑魔は逞しい足による足蹴りは強烈ではあるものの、彼らにとって敵では無い相手。
それは繰り広げる戦闘の中で、雑魔自身も本能的に察していたのだろう。
「……!」
――レイレリアは気付いた。
雑魔達に異変が起きた事を。
先程迄は挑発や誘導に乗っていたテルテル雑魔が突如狂ったように暴れだしたのである。
「皆さん、前衛後衛の組み合わせで分かれて確実に一体ずつ仕留めましょう」
レイレリアは射線に気を付けるようにウォーターシュートを放ちながら、仲間へと提案を。
すると、頷いた師人が器用な手先でメタルシザーズを扱い、重ねるように攻撃を与えた。
「庭内の植物を、傷付けさせやしない」
連携は見事に取れているものの、
立ち止まらないテルテル雑魔が暴れる進路の先には裏庭に咲く紫陽花。
「―――!」
このままでは踏み荒らされてしまう。
そこでレイレリアは、アースウォールを生成。
雑魔は侵攻を阻まれ土の壁に激突。
その隙に今度は師人が立ち回り、ランアウトからの部位狙いで、首を。
――万事休す。
最早これ迄であるテルテル雑魔はまるで諦めたかのように消滅していった。
シルディも、紫陽花の盾になりながら呟く。
「本来なら少しずつ弄って弄って倒したいところですが……」
狂ったように暴れ出したテルテル雑魔から守る為にも、そろそろ決着に持ち込む方が良さそうなのである。
とはいえ、最初から早期殲滅を狙ってスキルを惜しまず使っていたのも有り、トドメまでは後一歩のところ。
「援護しますわ」
ユリシウスがシルディの攻撃に合わせ牽制射撃する矢は、まるで彗星の如く。
逃げようとするテルテル雑魔の行く手を阻む隙に、シルディはフェイントアタックで仕留め、殲滅へと。
セシールはというと表庭に続く道を塞ぐような立ち位置からホーリーライトで援護していたが、この道を通って向かおうとしてくるテルテル雑魔を発見。
攻撃を与えられても止まらない雑魔を引き止める為、全力疾走で向かってくるのを身体を盾に足止めする。
「……っ!」
先程迄は、「こんな所で戦うと泥だらけになってしまいますわね……」と漏らしていたセシール。
だが。
「ドレスが汚れるのは嫌ですが、花が踏みにじられていい理由にはなりませんわ」
――表庭での戦闘は、確実に紫陽花を傷付けられてしまうから。
身を挺して、受け止めたのだ。
セシールがなんとか持ち堪える折に、飛び出すネル。
「逃げ切れるとでも思っているの?」
絶対に逃がしはしない、と。
上から振り下ろすように、下から抉るように。
双剣で変則的に切り込めば鮮やかに決着がついたのだった―――。
●紫陽花は無事に
雨に濡れ、瑞々しい紫陽花。
清廉に咲いているのを眺めながら、ネルは安堵のような表情を浮かべていた。
傷付ける事無く終えて良かった……、と。
建物内へ避難していた者達は、雑魔を退治したおかげで再び自由に外へと歩けるようになって。
紫陽花の庭の所有者であるランジアも裏庭の様子を見にやってきていた。
――以前と変わらぬままの、愛する紫陽花。
そして何処か優しい表情で紫陽花を見つめていたネルとばったり。
「……有難う。守ってくれたのね」
ランジアが嬉しそうに目を細めつつお礼を言うと、
「……!」
気恥しいのか一瞬身を固くしたネルは、誤魔化すように目線を逸らすのだった。
一方。
花は無事に守りきれたとはいえ、少々荒れてしまった裏庭を補修していた師人。
しっとりと美しき雨の花を見つめ――ふと浮かぶ、あるお方の顔。
貴族であり雇い主である一家のおひとりであり、マナーハウスでのお仕事中に遊びにやってくるお嬢様のことだ。
(紫陽花か……お嬢様が好きそうだ、参考にさせてもらおう)
そんなふうに心の中で呟いていた師人の表情は、何処か温かかった。
なぜなら一家に恩義を深く感じている師人は、彼女達の為なら何処までも献身的になれる。
……だから、もしかしたら、彼女達の喜びとなる行いは、師人にとっての喜びになるのかもしれない。
紫陽花の庭を見て学ぶ師人の様子は心なしか活き活きとしていたことだろう。
マナーハウスの庭師として。
●雨天を彩る雨傘と散歩
レイレリアの雨傘は上品な青。
フリルをたっぷりとあしらいながら裏地には薄らと薔薇の模様を描かれていた。
見惚れるような純美さ。彼女はまるで――青薔薇の君。
ユリシウスはランジアのお任せによる雨傘で、淑やかな彼女にぴったりの純白。
慎まやかさと清純さが程よく調和されていながら雨雫が落ちる度に、とても澄んだ音。
細部にまで拘りを施された優美なデザインだった。
同じくネルもランジアにお任せにしたらしく、雨傘は艶やかな黒。
クールな美が際立つ、洗練されたオシャレなデザインだ。
……適当に見繕って貰うつもりが、ランジアなりに張り切って用意されてしまったらしい。
そしてセシールはというと、普段から愛用しているお気に入りの傘。
端にはレースを施し、シンプルなようでとても上品に――滑らかな布地は雨に濡れると様々な彩へと溢れていた。
雨音を弾く音を楽しみながら紫陽花を鑑賞していたセシールは、つい……。
「……凄く綺麗ですわ」
眺め見入っている内に思わず本音を漏らして、はっとした。
どうやら素直になることが恥ずかしいらしいお嬢様。
「誰も聞いてませんですわよね……?」
小声で心配するように呟きつつ振り返ると―――
近くに居たレイレリアと目がばっちり合って。
「えぇ、お綺麗ですよね」
やはり聞こえていない事には出来ないような距離だったようだ。
すると、セシールの顔はみるみる真っ赤に染まっていった。
「わ、わたくしの庭には負けますのよ!?」
やはり素直になりきるには難しいらしい。
レイレリアはきょと……と目を丸くしていたが、セシールの本心を何となく察したのだろう。
眸を細め、優しく微笑んでいるのだった。
――密かに、ネルも呟く。
「たまには雨もいいものね」
その言葉を聞いて、紫陽花それぞれの彩りを楽しんでいたユリシウスも頷いていた。
「そうですね……たまには雨も、こういう時間も、素敵ね」
雨音は心地よく。
紫陽花を覗いてみると、まるで隠れていたようなカタツムリを見つけ、ふふ、と微笑んだ。
小さい頃、野山で虫を集めていたことが、なんだか懐かしい……。
貴族のお嬢様然としているユリシウスだが、実はと言うと幼少の頃は野山を駆け回っているようなお転婆娘だったのである。
本当に楽しかった、子供の頃の想い出。
昔を思い浸り、静かに雨景色を楽しんでいるのだった。
――雨は優しく降り注ぐが、仄かに冷たい。
傘をさす事無く紫陽花を鑑賞していたシルディは、雨粒の水滴を散らすように葉っぱを弾いて。
花が綺麗だと思ったからこそ、胸を苦しめられていた。
「……――と見て回りたかったな」
雨に煙る花を見つめ、人知れず故郷を思い出し、呟いていると。
ぱちゃ。
歩んできた誰かが立ち止まり、水溜りを踏んだ軽やかな音を奏でた。
シルディが振り返るとそこには、じいっとシルディを見つめているロゼが立っていたことだろう。
(やれやれ、変な感傷に浸ってしまったようですねぇ。危ない危ない……)
さっと切り替えていつも通りの表情に戻しつつ、落ち着いた物腰で声を掛ける。
どうやらロゼはシルディが雨に打たれていたのを心配していたようだったから。
「傘は結構ですよ? 俺、濡れるの好きなので」
なんて、言ったが。
「ダメよ! 風邪をひいちゃうわっ」
ロゼは引き下がらず、自分の傘でシルディを入れるように背伸びをした。
――自分を傘の中に入れようとすれば、今度はロゼの肩が濡れてしまうのを見つめて。
ほんの少し、困ったように微笑んだ。
「では、体も冷えてきたのでお茶でもいただきましょうかねぇ~」
のんびりとそう言った後、紳士的に彼女の傘を代わりに持ちながら……共に縁側へと向かうだろう。
――濡れるなら、今度は自分であるように。
●水無月の雨
紫陽花の庭をじっくりと見学し、洋庭に関しては修行中の身として、もしかしたら何か掴むものがあったかもしれない師人。
どこか満足そうに縁側へと戻ってくると、シルディとロゼが何やら軒先で話しているようだった。
「軒先で結構ですよ、俺が入ると濡れちゃいますからねぇ」
傘をささず雨に打たれていたシルディは縁側が濡れる事を気にして断っていたが――、
「絶対駄目です! お入りになって?」
お節介すぎるロゼがそれを許してくれそうになかった。
――彼に、彼自身の事をもっと大切にしてほしい。
まるで強く懇願しているかのような瞳だった。
そして観念するにしても、一枚上手だったのは彼の方。
「――。 とても綺麗な紫陽花でしたよ。流石、お嬢様がオフィスに駈け込んでくる価値はありますね」
「えっ、あっ、……おほほ」
駆け込んで行った時といえば緊急事態でもあった為、騒がしかった自分を思い出すと動揺するようにロゼは照れているのだった。
散策していたレイレリア、セシール、ユリシウス、ネルも縁側に戻ってくる頃。
ランジアが日本茶と和菓子をもてなす。
クリムゾンウェストでは珍しく、リアルブルー出身である師人とネルからすると、もしかしたら馴染みのあるそれを頂きながら。
レイレリアは縁側から眺められる紫陽花の庭を鑑賞しつつ言った。
「雨の中でより一層映えてみえる彩の花々が素敵なのは、やはり雨の時期の風物詩だからでしょうね?」
それぞれ異なる青や紫が美しく。
花びらや葉に付着する雨粒がより一層、輝きを増させる。
人の心を掴む……美しき風物詩である、と。
皆も同意するように頷くだろう。
しかし、雨はいつか止むもの。
それを体現するように先程までは振り続けていた水無月の雨が、―――ぴたり、と。
「あら……? 雨が……」
「やんじゃいましたわ……」
ユリシウスとセシールが見上げた空は青く。
澄み渡る様に、何処までも青く。
「良いお天気ね……」
眩しい位の日射を浴びながら、ネルがぽつり。
季節は巡り、
世界は移り変わる。
レイレリアはなんとなく悟れば、静かにその時の流れを受けとめ、そしてのんびりと感じていた。
(雨が止めば、夏がやってくる――)
水無月の雨の名残を残す紫陽花の庭には今、お日様の光が照らされていた。
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相談卓 レイレリア・リナークシス(ka3872) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/06/18 20:37:14 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/15 00:08:16 |