ゲスト
(ka0000)
ドバ少年からの依頼
マスター:江口梨奈

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/19 12:00
- 完成日
- 2015/06/27 09:03
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
6歳の時に親に捨てられたのを拾われて、そこから10年間メシを与えられ育てて貰えたのだから、ドバは親方がどんな乱暴者であっても、恨んだり嫌ったりすることはなかった。
けれど、この仕打ちはあんまりだと思う。
トラ挟みで負った足首の傷もそのままに、きつい薬剤をぶっかけられて毛の色を抜かれたゴブリンを見て、少年は胸を痛めた。
ドバが暮らしているのは、見世物小屋の一座だった。生まれつき白髪で、目の赤い彼も見世物のひとつだった。街から街へ渡り歩き、決まった住まいを持たず、曲芸師や動物たちが彼の家族だ。
動物、というのは、芸を仕込んだ猿や犬だったり、妙な生態を持つ虫のことだったり、金色の蛇だったこともあった。似たような興業をしている親方の仲間内で、面白い見世物になりそうなものをやりとりしているので、同じものが長く一緒にいることはなかった。
この日、連れて来られたのが、偶然に猟罠にかかった小さいゴブリンだった。
凶暴なゴブリンとはいえ、足を痛め、一座の腕っ節の強い男連中に押さえつけられて、抵抗出来ずにいた。
「さあ、こいつが火の輪くぐりでもすりゃァいいんだが……」
それだけじゃ面白くないな、そう親方は呟いて、仲間に指示をした。
刺激が鼻につく薬剤をまぜあげて、それをゴブリンにかけたのだ。
全身の毛の色が抜け、『およそ見たことのない』ゴブリンが完成した。
こいつを明日から鞭を使い、芸をしこんでいくのだという。
取引も終わり、次の街へ向かっている道中だった。毎度稼がせて貰っている大きな街で、珍ゴブリンの広告も売ったので、かなりの収益になるのは間違いない、親方も仲間も機嫌よく4台の馬車を走らせていた。
だが途中、一座の馬車が、5、6匹のゴブリンの集団に襲われた。
『ギ、グルル、ギイイ!』
何やら叫びながら、馬車の荷台を壊そうとする。
こちらも伊達に旅を続けているのではない、少々の賊など追い返せる技量は持っている。ドバも華奢な腕ながら応戦する。
そして彼の耳に、聞こえた。
『カエセ』
カエセ……?
どういうことだ、と思ったときには、もう吹っ飛ばされていた。
ゴブリン集団は執拗だった。これまでの賊なら諦めるような反撃にもたじろがず、長い競り合いの末になんとか追い返しはしたものの、こちらも用心棒の筋肉男が肩を外してしまったし、玉乗り師が足を折った。
「チッ、次の街の商売は落とせん。ああいう連中がまた来ないとも限らん以上、勿体ないが用心棒を雇うかな」
親方の遣いでドバがハンターオフィスへ依頼を出しに行くことになった。
けれど彼は考える。
考えて、考えて、理解した。「カエセ」の意味を。
ドバは、ハンターオフィスに依頼を出した。
『ゴブリンを返してやってくれ』と。
けれど、この仕打ちはあんまりだと思う。
トラ挟みで負った足首の傷もそのままに、きつい薬剤をぶっかけられて毛の色を抜かれたゴブリンを見て、少年は胸を痛めた。
ドバが暮らしているのは、見世物小屋の一座だった。生まれつき白髪で、目の赤い彼も見世物のひとつだった。街から街へ渡り歩き、決まった住まいを持たず、曲芸師や動物たちが彼の家族だ。
動物、というのは、芸を仕込んだ猿や犬だったり、妙な生態を持つ虫のことだったり、金色の蛇だったこともあった。似たような興業をしている親方の仲間内で、面白い見世物になりそうなものをやりとりしているので、同じものが長く一緒にいることはなかった。
この日、連れて来られたのが、偶然に猟罠にかかった小さいゴブリンだった。
凶暴なゴブリンとはいえ、足を痛め、一座の腕っ節の強い男連中に押さえつけられて、抵抗出来ずにいた。
「さあ、こいつが火の輪くぐりでもすりゃァいいんだが……」
それだけじゃ面白くないな、そう親方は呟いて、仲間に指示をした。
刺激が鼻につく薬剤をまぜあげて、それをゴブリンにかけたのだ。
全身の毛の色が抜け、『およそ見たことのない』ゴブリンが完成した。
こいつを明日から鞭を使い、芸をしこんでいくのだという。
取引も終わり、次の街へ向かっている道中だった。毎度稼がせて貰っている大きな街で、珍ゴブリンの広告も売ったので、かなりの収益になるのは間違いない、親方も仲間も機嫌よく4台の馬車を走らせていた。
だが途中、一座の馬車が、5、6匹のゴブリンの集団に襲われた。
『ギ、グルル、ギイイ!』
何やら叫びながら、馬車の荷台を壊そうとする。
こちらも伊達に旅を続けているのではない、少々の賊など追い返せる技量は持っている。ドバも華奢な腕ながら応戦する。
そして彼の耳に、聞こえた。
『カエセ』
カエセ……?
どういうことだ、と思ったときには、もう吹っ飛ばされていた。
ゴブリン集団は執拗だった。これまでの賊なら諦めるような反撃にもたじろがず、長い競り合いの末になんとか追い返しはしたものの、こちらも用心棒の筋肉男が肩を外してしまったし、玉乗り師が足を折った。
「チッ、次の街の商売は落とせん。ああいう連中がまた来ないとも限らん以上、勿体ないが用心棒を雇うかな」
親方の遣いでドバがハンターオフィスへ依頼を出しに行くことになった。
けれど彼は考える。
考えて、考えて、理解した。「カエセ」の意味を。
ドバは、ハンターオフィスに依頼を出した。
『ゴブリンを返してやってくれ』と。
リプレイ本文
●頼れるハンター
「はじめまして。お困りと聞いて馳せ参じました、どうぞよろしくお願い致します」
礼儀正しく頭を下げる只野知留子(ka0274)に、親方はじめ座員達は戸惑った。目の前にいるのは、どう見ても少女だ。しかし、ハンターの能力とはその年齢ではなく素質と経験だ、偏見はよくない、と改めて他のハンター達の顔を見る。
「ども、スーパーオフトーンでぇす」
布団にくるまる雪村 練(ka3808)。
「ふっふー。僕らが来たからには安心、安全、万全の警備体勢だよ、うん。大丈夫。流れ弾とかにだけ気をつけてくれれば身の危険もないからね!」
こちらもくるまっている、布団ではなく脂肪であるが。水流崎トミヲ(ka4852)。
「はっはっはっー! 私は異次元から来た戦士、ガーレッド・ロアーだ! 我々が来たからにはもう大丈夫。諸君らは安心して寛いでいてくれたまえ!」
仰々しく高笑いをするガーレッド・ロアー(ka4994)。
「ハンターです! 頑張るです!」
ポーズ決めて「てへぺろ」と可愛く舌を出すミクト・ラル(ka3794)。
「まあ、大船に乗ったつもりで居ればよろしい」
背筋は伸びているものの紛れもない老人、守屋 昭二(ka5069)。
なんだってよりによって集まったのが、こんな連中なんだ? 親方はドバを睨んだ。もっとこう、筋骨隆々な逞しい体型だったり、精霊を使役する者としての威厳に溢れていたり、軍人のような精悍な見た目のハンターは居なかったのか、とでも言いたげに。
「拙者のような年寄りが来て不安かの? まあ見ておれ」
そう言うと昭二はマテリアルの力を解放してみせた。みるみる若返り、顔の皺が伸びてくすんだ肌の色に艶が戻り、腕や足に張りのある筋肉が浮き上がった。けれど……それでも、座長よりもずっと歳のいった姿だ。しかも、その覚醒姿もみるみる消え失せていく。
「ッカハーッ、カハ……年には、勝てんか……数年前の3分の1も覚醒時間が保たん……」
咳き込みながらそんなことをほざく始末。親方の肩が震えていた。
「お爺ちゃん、幼女、えるふのせんし、丸くてプニツヤな何か、布団。こう来ると、なんか言ってる胡乱な男が一見頼りがいがあるように見えてくるよな。このパーティー大丈夫か」
言わなくていいことをわざわざ言う、練。ついに親方も我慢しきれなくなった。
「いいか、こっちは金を払うんだからな! あんたらもハンターを名乗ってんなら、ふざけた結果にするんじゃないぞ!!」
頭から湯気を出しながら、座長は天幕へ戻った。座長の周りを囲む他の座員らも、同じようなことを言いたいらしく、眉間に皺を寄せてこちらを見ている。ドバが申し訳なさそうに頭を下げる。
「すみません、親方は口が悪くて……」
「いいんですー、それよりか、事前確認させてくださいー」
えへへー、とだらしなく笑いながらミクトはドバの服の裾を引っ張った。
「おい、ドバ。お前がしっかり面倒見ろよ」
「本当に役に立つのかねえ」
座員らも、ドバを小突きながら親方に続いてテントに入る。こうして、人目は無くなった。と、ミクトの表情が、それまでのものとガラリと変わった。
「改めて。微力ながら協力させてもらうわね」
ふわふわした穏やかな雰囲気はそのままだが、己の責務を十分に自覚している、そんな目つきだった。
「こちらの作戦を、ドバくん、きみも知っておいてね。手伝って貰えるとありがたいよ」
そう言ってトミヲは、ここへ到着するまでに立てておいた作戦のあらましを少年に教えた。
この護衛は、不甲斐ないハンターのせいで失敗する。
●姫
先日に襲ってきたゴブリンの集団が、いま囚われているゴブリンの仲間であり、傷を負いながらも奪い返そうとするほど絆が強いのであれば、一度追い返したとはいえまた襲いかかってくるだろう、それは容易に想像出来た。
「ゴブリンゴブリン、紛らわしいな。囚われているほうを『姫』と呼ぼう」
練の提案により、以降、一座に捕まっているゴブリンは『姫』と呼ばれることになった。
「ゴブリンは雄でしたよ」
「ええい、もう少しロマンを味わわせるぐらいの気遣いは出来ないのか」
「すッ、すみません……」
「ともかく、馬車の造りや荷物の配分を見たいので、案内をお願い出来ますか? それと、姫にも会わせて下さい」
知留子に頼まれ、ドバは止めてある馬車のほうへ歩いていく。先頭の馬車に、座長と、ベテランの座員と少しの荷物が。2番目の馬車にはちまちました小道具類、水や食料の類、それから中堅の座員。3番目の馬車は今はからっぽだが、解体した天幕が乗せられ、最後の馬車にゴブリン含む見世物のけものが押し込められている。ドバ達下っ端の座員は、窮屈な3番目の馬車か獣臭い4番目の馬車に分かれて乗って、長い街から街への旅を続けているという。
その4番目の馬車を覗いてみた。
いくつかの檻が積み上げられ、それぞれに猿や犬やトカゲなどが入れられ、ぎゃあぎゃあ喚いたり、餌を食い散らかしたり、糞を垂れたりしていた。
ひとつ、大人しく動かないけものが入れられた檻があった。全身の毛が金色の、それが『姫』だった。
「……化膿してるわね」
トラ挟みで捕らえたという足が、赤く腫れ上がっていた。ミクトは、用意してきた薬をざっと確認する。大丈夫だ、使えそうな薬がある。
「何で治してやらないんだ?」
ガーレッドが聞くと、ドバはうなだれた。
「……親方は、傷なんてツバ付けてれば治る、と。それに手当てしようにも、近付くとこちらが危ないので」
「チッ、世話も出来ないものを飼いたがるなよ」
ガーレッドは舌打ちをしつつ、檻に近付いて手を伸ばす。
「昭二さん、そっち押さえてて貰えますか」
「ほい、お安いご用ですじゃ」
「あ、あの、ガーレッドさん……」
「俺が勝手にやってんだ、親方には『ハンターが気を利かせて商売道具の修繕をしてくれましたよ』とでも言っておけ」
傷を治すのに一応、親方に話を通すべきだと初めは考えていたガーレッドだが、もし断られたとして、そのまま放置できるのか? これでもし「余計なことをするハンター」と思われたなら、それも好都合、最初に立てた作戦に寧ろプラスとなってくれる。
押さえつけられて染みる薬を塗られるゴブリンはもちろん抵抗する。
「可哀想にな、仲間と引き離されてこんな姿にされて、さぞ恨んでる事だろうな。待ってろよ、もう少しで自由にしてやっからな」
姫に人間の言葉は分かるのだろうか。
●旅路
4台の馬車が連なって走る。ドバは今日は窮屈な天幕と同乗している。何故なら一番の下座は、ハンターに与えられたからだ。
「やりやすくて助かりますね」
言いながら知留子は、姫の入っている檻にささやかな細工を始めた。鍵を半開きにし、ちょっとの衝撃で開いてしまうように。けれど今すぐ出てこられては困る。あくまで、ささやかな細工である。
車どおりの少ない、静かな街道だ。金品狙いの盗賊なら、もっと往来の多い道を狙って潜むだろう。だから、この道に飛び出してきた賊というなら、その目的は金品ではないのだ。
「ゴブリンだ!!」
繁みから、10匹ほどの、武装したゴブリンが飛び出してきて、明らかに一座の乗る馬車を壊そうと襲いかかってきた。
「馬車を停めろー。馬を落ち着かせて。動くなよー!」
全身を象牙色に変えた練が指示を出すと同時に、荷台の隙間からゴブリン達を狙ってデリンジャーの弾をはじき出す。弾は全くゴブリンに当たらず、連中の足下の土を舞い上がらせる。
「ちぇっ、射撃は苦手だ」
「苦手とか言ってる場合かーー」
「おっと!」
ヤジが飛び出す先頭の荷台に、トミヲの放った『ファイアアロー』が擦った。
「うわわっ!!!」
「言ったよね、流れ弾に気をつけて、って」
「くそう、ボンクラども!」
悪態を付きながらも、確かに流れ弾は怖い。座員は荷台から体の一部たりとも見せないよう、身を縮めた。
「くくく……このDT魔法使いの地獄の業火に焼かれて(ピー)ぬがいい!!」
規制すべき語を吐きながら、守り抜いた貞操をマテリアルの威力に変えてみせんと、再び炎の矢を生み出して、射る。しかしどれひとつ、ゴブリンの体に傷を付けることができない。寧ろ距離を詰められ、棍棒の反撃に遭う。
「くっ! このゴブリン達、なんだかとってもハイだぜ。何故かように荒ぶられるのか!!」
がっくりと膝をつき、トミヲは倒れ込む。
「水流崎ー!」
「どけいトミヲ、おぬしでは無理じゃ!」
若い者は不甲斐ない、と昭二は昨日に皆に見せた姿をもう一度現す。年寄りとはいえ、かつて剣術で鳴らし、今も精進を怠らない腕。覚醒せずとも、そんじょそこらの若造が太刀打ち出来るジジイではない。
「若造を侮らないで頂きたいですね」
けれど知留子も負けてはいられない。子供とはいえ、ゴブリン相手なら体格に差はない。流星をも砕くナックルに力を込める。
「せえぇえいいッ!」
「はっ!」
刀を構え、拳を振りかざし、ゴブリンの群れに突進する。抵抗するゴブリンの盾との間に火花が散った。
「おっ、なんだよ、ジジイとガキ、すげェじゃん」
ようやっと優勢になった様子を察し、ちらりと覗き出す座員。途端に押され出す昭二。
「ぐあああああ! 殺されるぞ、座の人間は下がって下がって!」
「ちくしょう、やっぱりジジイはジジイか!」
座員が頭を下げたのを見計らって、知留子はわざとゴブリンの棍棒で殴られた。
大げさに吹っ飛び、馬車の……4番目の馬車の荷台に体をぶつけた。
「きゃあっ」
「只野ぉー!!」
ぐったりと倒れ込み、『弱った獲物』の体をとる。この餌に、ゴブリン達が近付いてきた。
「チルコーーー!!」
何ということだ、仲間が次々とやられていってしまう。慟哭とともにガーレッドは最終兵器を持ち出した。
「超ヒートヨーヨー!」
赤く燃えるヒートソードと激しく回転する鋸刃を備えたソーサーシールドを合体させて相手に投げつけるという恐ろしい武器だ。
巨大なヨーヨーは燃えながら回り、ゴブリン達にぶつけられる、が、簡単にひょいと避けられてしまった。そして何ということか、ガーレッドの放ったヒートヨーヨーは、馬車の荷台に穴を開けてしまったのである!
ガシャン、ガラガラ、と音と振動で繋いである馬が興奮してしまった。荷台が左右に揺さぶられ、中に乗っている動物たちが騒ぎ出した。
どさくさに紛れてミクトは、姫の檻を引っ張り出した。知留子の細工のおかげで手間取らずに開けられる。金色のゴブリンは、弾けるように逃げた。気付かなかったのか興奮してそれどころではなかったのか、仲間の方には行かず後ろの繁みに紛れるように逃げた。10匹ほどのゴブリンは慌てた様子でそれを追いかけた。
こうして、一座を襲ったゴブリン達の姿は消えたのだった。
●護衛の失敗
さあしかし、まだゴブリンがいなくなったことを気取られてはいけない。ドカチャカと戦っているフリの音を立て続け、いよいよトミヲは作戦の仕上げにかかる。
「覚悟はできてる……いいよ」
殴ってくれ、と言ってるのだ。自分たちはたった今、激戦と苦戦をくぐってきたのだ、それがまさか無傷のはずはあるまい。
「待って下さい、トミヲ様を殴るのなら私も」
「何を言うんだ知留子ちゃん。オニャノコには傷なんて似合わないさ。そういう汚れは僕達がするもんさ……ねえ。ガーレッドくん」
「なんですとーー!?」
「まあまあまあ、形だけ形だけ。練ちゃん、お願いしまーす」
「アイアイサー」
おや、表が静かになったなと、そっと顔を出した親方は、わなわなと震えた。
ハンター達は顔を腫らして大の字に倒れ、馬車の荷台は壊れ、そしてそして肝心の珍ゴブリンがいなくなっているではないか!
「すんません、実は俺ら、見かけ倒しなんです! でも一座は守ったから許してくれるよね? 許して、ちょ☆」
「やかましいわーーー!!」
座長はカンカンに怒っていた。
「おい、ドバ。こいつらの荷物を全部ここに降ろせ! ああ、ああ、ハンターオフィスなんぞに頼んだわしがバカだった! この、疫病神どもが!!」
あまりの怒りに目眩を起こして倒れる座長。座員がそれをえっちらおっちら運んでいる間に、ドバはひとりで皆の荷物を降ろしはじめた。
「皆さんの信用を落としてしまって、申し訳ありません」
「なあに、最初からそのつもりで受けた仕事じゃよ」
「それでは、これがお約束のお金です」
ドバは、報酬の額をそろえた袋を出した。
「受け取れないよ、私たちは護衛に失敗したんだし」
「いいえ、受け取って頂けないと、困ります」
ドバは言った。自分もまたこの一座で見世物となり、こうして稼ぐことができている。しかし流浪の旅芸人に金の遣いどころはなく、かと言って身寄りのない自分が唯一稼げる手段で手に入れたこの金を、他の座員のように酒や女に浪費したくはない。
ドバにとって、これは、価値のある使い道なのだ。
「ありがとうございました、本当にありがとうございました」
一座を乗せた馬車は、慌ただしく次の街へ向かった。
「はじめまして。お困りと聞いて馳せ参じました、どうぞよろしくお願い致します」
礼儀正しく頭を下げる只野知留子(ka0274)に、親方はじめ座員達は戸惑った。目の前にいるのは、どう見ても少女だ。しかし、ハンターの能力とはその年齢ではなく素質と経験だ、偏見はよくない、と改めて他のハンター達の顔を見る。
「ども、スーパーオフトーンでぇす」
布団にくるまる雪村 練(ka3808)。
「ふっふー。僕らが来たからには安心、安全、万全の警備体勢だよ、うん。大丈夫。流れ弾とかにだけ気をつけてくれれば身の危険もないからね!」
こちらもくるまっている、布団ではなく脂肪であるが。水流崎トミヲ(ka4852)。
「はっはっはっー! 私は異次元から来た戦士、ガーレッド・ロアーだ! 我々が来たからにはもう大丈夫。諸君らは安心して寛いでいてくれたまえ!」
仰々しく高笑いをするガーレッド・ロアー(ka4994)。
「ハンターです! 頑張るです!」
ポーズ決めて「てへぺろ」と可愛く舌を出すミクト・ラル(ka3794)。
「まあ、大船に乗ったつもりで居ればよろしい」
背筋は伸びているものの紛れもない老人、守屋 昭二(ka5069)。
なんだってよりによって集まったのが、こんな連中なんだ? 親方はドバを睨んだ。もっとこう、筋骨隆々な逞しい体型だったり、精霊を使役する者としての威厳に溢れていたり、軍人のような精悍な見た目のハンターは居なかったのか、とでも言いたげに。
「拙者のような年寄りが来て不安かの? まあ見ておれ」
そう言うと昭二はマテリアルの力を解放してみせた。みるみる若返り、顔の皺が伸びてくすんだ肌の色に艶が戻り、腕や足に張りのある筋肉が浮き上がった。けれど……それでも、座長よりもずっと歳のいった姿だ。しかも、その覚醒姿もみるみる消え失せていく。
「ッカハーッ、カハ……年には、勝てんか……数年前の3分の1も覚醒時間が保たん……」
咳き込みながらそんなことをほざく始末。親方の肩が震えていた。
「お爺ちゃん、幼女、えるふのせんし、丸くてプニツヤな何か、布団。こう来ると、なんか言ってる胡乱な男が一見頼りがいがあるように見えてくるよな。このパーティー大丈夫か」
言わなくていいことをわざわざ言う、練。ついに親方も我慢しきれなくなった。
「いいか、こっちは金を払うんだからな! あんたらもハンターを名乗ってんなら、ふざけた結果にするんじゃないぞ!!」
頭から湯気を出しながら、座長は天幕へ戻った。座長の周りを囲む他の座員らも、同じようなことを言いたいらしく、眉間に皺を寄せてこちらを見ている。ドバが申し訳なさそうに頭を下げる。
「すみません、親方は口が悪くて……」
「いいんですー、それよりか、事前確認させてくださいー」
えへへー、とだらしなく笑いながらミクトはドバの服の裾を引っ張った。
「おい、ドバ。お前がしっかり面倒見ろよ」
「本当に役に立つのかねえ」
座員らも、ドバを小突きながら親方に続いてテントに入る。こうして、人目は無くなった。と、ミクトの表情が、それまでのものとガラリと変わった。
「改めて。微力ながら協力させてもらうわね」
ふわふわした穏やかな雰囲気はそのままだが、己の責務を十分に自覚している、そんな目つきだった。
「こちらの作戦を、ドバくん、きみも知っておいてね。手伝って貰えるとありがたいよ」
そう言ってトミヲは、ここへ到着するまでに立てておいた作戦のあらましを少年に教えた。
この護衛は、不甲斐ないハンターのせいで失敗する。
●姫
先日に襲ってきたゴブリンの集団が、いま囚われているゴブリンの仲間であり、傷を負いながらも奪い返そうとするほど絆が強いのであれば、一度追い返したとはいえまた襲いかかってくるだろう、それは容易に想像出来た。
「ゴブリンゴブリン、紛らわしいな。囚われているほうを『姫』と呼ぼう」
練の提案により、以降、一座に捕まっているゴブリンは『姫』と呼ばれることになった。
「ゴブリンは雄でしたよ」
「ええい、もう少しロマンを味わわせるぐらいの気遣いは出来ないのか」
「すッ、すみません……」
「ともかく、馬車の造りや荷物の配分を見たいので、案内をお願い出来ますか? それと、姫にも会わせて下さい」
知留子に頼まれ、ドバは止めてある馬車のほうへ歩いていく。先頭の馬車に、座長と、ベテランの座員と少しの荷物が。2番目の馬車にはちまちました小道具類、水や食料の類、それから中堅の座員。3番目の馬車は今はからっぽだが、解体した天幕が乗せられ、最後の馬車にゴブリン含む見世物のけものが押し込められている。ドバ達下っ端の座員は、窮屈な3番目の馬車か獣臭い4番目の馬車に分かれて乗って、長い街から街への旅を続けているという。
その4番目の馬車を覗いてみた。
いくつかの檻が積み上げられ、それぞれに猿や犬やトカゲなどが入れられ、ぎゃあぎゃあ喚いたり、餌を食い散らかしたり、糞を垂れたりしていた。
ひとつ、大人しく動かないけものが入れられた檻があった。全身の毛が金色の、それが『姫』だった。
「……化膿してるわね」
トラ挟みで捕らえたという足が、赤く腫れ上がっていた。ミクトは、用意してきた薬をざっと確認する。大丈夫だ、使えそうな薬がある。
「何で治してやらないんだ?」
ガーレッドが聞くと、ドバはうなだれた。
「……親方は、傷なんてツバ付けてれば治る、と。それに手当てしようにも、近付くとこちらが危ないので」
「チッ、世話も出来ないものを飼いたがるなよ」
ガーレッドは舌打ちをしつつ、檻に近付いて手を伸ばす。
「昭二さん、そっち押さえてて貰えますか」
「ほい、お安いご用ですじゃ」
「あ、あの、ガーレッドさん……」
「俺が勝手にやってんだ、親方には『ハンターが気を利かせて商売道具の修繕をしてくれましたよ』とでも言っておけ」
傷を治すのに一応、親方に話を通すべきだと初めは考えていたガーレッドだが、もし断られたとして、そのまま放置できるのか? これでもし「余計なことをするハンター」と思われたなら、それも好都合、最初に立てた作戦に寧ろプラスとなってくれる。
押さえつけられて染みる薬を塗られるゴブリンはもちろん抵抗する。
「可哀想にな、仲間と引き離されてこんな姿にされて、さぞ恨んでる事だろうな。待ってろよ、もう少しで自由にしてやっからな」
姫に人間の言葉は分かるのだろうか。
●旅路
4台の馬車が連なって走る。ドバは今日は窮屈な天幕と同乗している。何故なら一番の下座は、ハンターに与えられたからだ。
「やりやすくて助かりますね」
言いながら知留子は、姫の入っている檻にささやかな細工を始めた。鍵を半開きにし、ちょっとの衝撃で開いてしまうように。けれど今すぐ出てこられては困る。あくまで、ささやかな細工である。
車どおりの少ない、静かな街道だ。金品狙いの盗賊なら、もっと往来の多い道を狙って潜むだろう。だから、この道に飛び出してきた賊というなら、その目的は金品ではないのだ。
「ゴブリンだ!!」
繁みから、10匹ほどの、武装したゴブリンが飛び出してきて、明らかに一座の乗る馬車を壊そうと襲いかかってきた。
「馬車を停めろー。馬を落ち着かせて。動くなよー!」
全身を象牙色に変えた練が指示を出すと同時に、荷台の隙間からゴブリン達を狙ってデリンジャーの弾をはじき出す。弾は全くゴブリンに当たらず、連中の足下の土を舞い上がらせる。
「ちぇっ、射撃は苦手だ」
「苦手とか言ってる場合かーー」
「おっと!」
ヤジが飛び出す先頭の荷台に、トミヲの放った『ファイアアロー』が擦った。
「うわわっ!!!」
「言ったよね、流れ弾に気をつけて、って」
「くそう、ボンクラども!」
悪態を付きながらも、確かに流れ弾は怖い。座員は荷台から体の一部たりとも見せないよう、身を縮めた。
「くくく……このDT魔法使いの地獄の業火に焼かれて(ピー)ぬがいい!!」
規制すべき語を吐きながら、守り抜いた貞操をマテリアルの威力に変えてみせんと、再び炎の矢を生み出して、射る。しかしどれひとつ、ゴブリンの体に傷を付けることができない。寧ろ距離を詰められ、棍棒の反撃に遭う。
「くっ! このゴブリン達、なんだかとってもハイだぜ。何故かように荒ぶられるのか!!」
がっくりと膝をつき、トミヲは倒れ込む。
「水流崎ー!」
「どけいトミヲ、おぬしでは無理じゃ!」
若い者は不甲斐ない、と昭二は昨日に皆に見せた姿をもう一度現す。年寄りとはいえ、かつて剣術で鳴らし、今も精進を怠らない腕。覚醒せずとも、そんじょそこらの若造が太刀打ち出来るジジイではない。
「若造を侮らないで頂きたいですね」
けれど知留子も負けてはいられない。子供とはいえ、ゴブリン相手なら体格に差はない。流星をも砕くナックルに力を込める。
「せえぇえいいッ!」
「はっ!」
刀を構え、拳を振りかざし、ゴブリンの群れに突進する。抵抗するゴブリンの盾との間に火花が散った。
「おっ、なんだよ、ジジイとガキ、すげェじゃん」
ようやっと優勢になった様子を察し、ちらりと覗き出す座員。途端に押され出す昭二。
「ぐあああああ! 殺されるぞ、座の人間は下がって下がって!」
「ちくしょう、やっぱりジジイはジジイか!」
座員が頭を下げたのを見計らって、知留子はわざとゴブリンの棍棒で殴られた。
大げさに吹っ飛び、馬車の……4番目の馬車の荷台に体をぶつけた。
「きゃあっ」
「只野ぉー!!」
ぐったりと倒れ込み、『弱った獲物』の体をとる。この餌に、ゴブリン達が近付いてきた。
「チルコーーー!!」
何ということだ、仲間が次々とやられていってしまう。慟哭とともにガーレッドは最終兵器を持ち出した。
「超ヒートヨーヨー!」
赤く燃えるヒートソードと激しく回転する鋸刃を備えたソーサーシールドを合体させて相手に投げつけるという恐ろしい武器だ。
巨大なヨーヨーは燃えながら回り、ゴブリン達にぶつけられる、が、簡単にひょいと避けられてしまった。そして何ということか、ガーレッドの放ったヒートヨーヨーは、馬車の荷台に穴を開けてしまったのである!
ガシャン、ガラガラ、と音と振動で繋いである馬が興奮してしまった。荷台が左右に揺さぶられ、中に乗っている動物たちが騒ぎ出した。
どさくさに紛れてミクトは、姫の檻を引っ張り出した。知留子の細工のおかげで手間取らずに開けられる。金色のゴブリンは、弾けるように逃げた。気付かなかったのか興奮してそれどころではなかったのか、仲間の方には行かず後ろの繁みに紛れるように逃げた。10匹ほどのゴブリンは慌てた様子でそれを追いかけた。
こうして、一座を襲ったゴブリン達の姿は消えたのだった。
●護衛の失敗
さあしかし、まだゴブリンがいなくなったことを気取られてはいけない。ドカチャカと戦っているフリの音を立て続け、いよいよトミヲは作戦の仕上げにかかる。
「覚悟はできてる……いいよ」
殴ってくれ、と言ってるのだ。自分たちはたった今、激戦と苦戦をくぐってきたのだ、それがまさか無傷のはずはあるまい。
「待って下さい、トミヲ様を殴るのなら私も」
「何を言うんだ知留子ちゃん。オニャノコには傷なんて似合わないさ。そういう汚れは僕達がするもんさ……ねえ。ガーレッドくん」
「なんですとーー!?」
「まあまあまあ、形だけ形だけ。練ちゃん、お願いしまーす」
「アイアイサー」
おや、表が静かになったなと、そっと顔を出した親方は、わなわなと震えた。
ハンター達は顔を腫らして大の字に倒れ、馬車の荷台は壊れ、そしてそして肝心の珍ゴブリンがいなくなっているではないか!
「すんません、実は俺ら、見かけ倒しなんです! でも一座は守ったから許してくれるよね? 許して、ちょ☆」
「やかましいわーーー!!」
座長はカンカンに怒っていた。
「おい、ドバ。こいつらの荷物を全部ここに降ろせ! ああ、ああ、ハンターオフィスなんぞに頼んだわしがバカだった! この、疫病神どもが!!」
あまりの怒りに目眩を起こして倒れる座長。座員がそれをえっちらおっちら運んでいる間に、ドバはひとりで皆の荷物を降ろしはじめた。
「皆さんの信用を落としてしまって、申し訳ありません」
「なあに、最初からそのつもりで受けた仕事じゃよ」
「それでは、これがお約束のお金です」
ドバは、報酬の額をそろえた袋を出した。
「受け取れないよ、私たちは護衛に失敗したんだし」
「いいえ、受け取って頂けないと、困ります」
ドバは言った。自分もまたこの一座で見世物となり、こうして稼ぐことができている。しかし流浪の旅芸人に金の遣いどころはなく、かと言って身寄りのない自分が唯一稼げる手段で手に入れたこの金を、他の座員のように酒や女に浪費したくはない。
ドバにとって、これは、価値のある使い道なのだ。
「ありがとうございました、本当にありがとうございました」
一座を乗せた馬車は、慌ただしく次の街へ向かった。
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ドバ少年の願い 水流崎トミヲ(ka4852) 人間(リアルブルー)|27才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/06/19 11:35:29 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/17 20:56:04 |