ゲスト
(ka0000)
ブルー・ブルー・メモリーズ
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/19 07:30
- 完成日
- 2015/06/26 16:37
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
聖機剣は、剣とは名ばかりの鈍器である。
変形機構を持ち、その結果光の刃を形成するのだが、普通に使う分には打撃武器だ。
剣で武装した一般人を殴りつけ気絶させ、ベルフラウは小さく息を吐いた。
「これで今月何件目だ? 反政府勢力の検挙は」
同行していたゲルトが稲妻のような紋章の描かれたビラを拾い上げ呟く。
革命戦争から十年以上、この帝国では現体制への反抗が根強い。
正統ではない手段によって簒奪された王位を巡り、そしてその是非を巡り、人々は少なからず争い続けてきた。
帝国は領内各地に師団とその拠点となる都市を置き人間同士の争いを監視してきたが、それが完全に根絶える事はいよいよなかった。
そして今、各地ではヴルツァライヒの暗躍により反政府活動の火は少しずつ燃え広がりつつあった。
「今はまだ大きな騒動にはなっていないが、こんな事が続けばいずれは革命戦争の焼き直しになる」
「……でも、相手は殆ど恵まれない人達なんだよね。生活する為に仕方なくっていうか……」
「仕方なくなら犯罪を犯してもいいのか?」
ゲルトの冷たい言葉にぐっと息を呑む。何故か胸が苦しくなり、目眩がした。
よろけたベルフラウの肩を支えゲルトは首をひねる。
「ねえ、ゲルト君。私達って何のために戦ってるのかな……」
「俺は自分と家族の為に戦っている。イルリヒト機関で活躍し師団に士官待遇で配属されれば、妹や弟を食わせていける」
「え? そんな理由だったの?」
「そんなとはなんだ?」
「なんか、思ったより優しかったから……」
ゲルトはベルフラウから手を離し、気絶している組織構成員達を縄で縛っていく。
「俺は反政府活動はやらないが、自分の為に他人を痛めつけている事実には変わりない。優しいというのは違うな」
覚醒者の力は圧倒的だ。一般人が何人集まったところで蹴散らせる。
だが、この力は本当に正しいのだろうか? 自分はなんの為に戦っているのか、それを考えると憂鬱だった。
一方的な制圧戦の舞台となった廃村には乾いた風が吹く。
ベルフラウとゲルトが担当したエリアは作戦完了したが、他のエリアではまだ銃声や叫び声が聞こえていた。
「あ……ハンターさん。そちらも終わったんですね」
そこへハンター達が駆け寄る。彼らも自分の仕事はあっさり終わらせた所だ。
浮かない表情のベルフラウへ声をかけようとしたハンターだが、そこへ短伝で連絡が入った。
『こ、こちらC班! 敵の中に歪虚が混じってる……しかも上位の……ぐわっ!?』
驚くベルフラウ。ゲルトが駆け出すのに続き、ハンター達も現場に急いだ。
C班が担当していたのは村のはずれにある貯蔵庫近辺だった。
かつては農作物を溜め込んでいた貯蔵庫だが、今は別の用途に利用されている事が予想された。
イルリヒトの推測では武器や弾薬といった想定であったが、開いた扉から出現しているのは無数のゾンビであった。
「ゾンビか……それより、高位の歪虚はどうした?」
「あそこだ! エミルとバートンが戦ってる!」
見ればそこには白いタキシード姿の大男と向き合う二人の生徒の姿があった。
エミルは火炎を放ち、バートンが斧で襲いかかるが、二人の攻撃を意に介さずタキシードは距離を詰め、拳でバートンの胸を貫いた。
「バートン!? う、嘘……こんなの聞いてなっいっぎ」
ハイキックがエミルの首を一回転させると、少女の身体はどさりと倒れこんだ。
「ンッン~……? これで四人ですか。全く、コツコツ集めたゾンビを台無しにされるとは……我輩、激おこぷんぷん丸!」
くわっと目を見開いた男は2メートルの巨体と立派な髭を揺らしながらハンター達へ近づく。
「……てめええ!! よくもエミルとバートンを!! 友達だったのに!!」
泣き叫びながら剣を振り上げる生徒を羽交い締めにし、ゲルトは首を振る。
パチンと小気味良く指を鳴らし、男はウィンクし。
「無意味な争いは止めたまえボーイ。勇気と無謀を履き違えてはいけない!」
泣き崩れる生徒を庇うように構えるベルフラウ。それを見て男は目を丸くし。
「ンン~? 君はベルフラウ? 何故そちら側に?」
「へっ?」
「我輩です。素敵な紳士のカブラカンです。オルクス様に確かに納品した筈の君が何故ここに?」
カブラカン。オルクス。そんな言葉を耳にする度動機が早まっていく。
「ベルフラウ、奴の戯言に耳を貸すな」
「そのベルフラウというのは君のコードネーム。“傷んだ青色”……オルクス様の血を受け、闇の契約者となった君の名ではないか」
「傷んだ……青色……」
がくがくと膝が震え立っていられなくなる。
何かがやけにうるさいと思ったら自分の心臓の音だ。
首から提げた十字架を血が滲むほど握り、ベルフラウは目を見開く。
「君は我輩が納品した商品として、オルクス様の血液を受け入れた実験体だった。散々我輩と一緒に各地の帝国兵を殺し回ったというのに、記憶がないのかね?」
「わ、わ、わ、わた……私……」
そうだ。ベルフラウには過去の記憶がない。
日常的に言葉を交わしている身近な人の事以外はすぐに忘れてしまう。
自分が何を救い、何を犠牲にしたのかさえ、もうハッキリ思い出せない。
救った人達はどんな顔で、これまで倒した敵はどんな敵だったのか。
「はあっ、神様……はあっ、はあっ、は――あっ」
『……え? 元契約者? オルクスの……はあ。まあ二年は生きられないでしょうけど……え? 記憶を管理して実験体にする?』
誰かの言葉が脳裏を過る。消毒液の匂いと硬いベッドの感触。
違う。病院じゃない。もっと嫌な場所だ。機械油と、機械部品と、マテリアル鉱石と……。
『傷んだ青色ですか。ふぅん……じゃあ、まあ、記憶を消す薬を処方しつつ、経過観察を――』
「わあああっ!? ああっ!! 神様神様! 神様かみさま神様神様神様神さまああああっ!!」
肉に食い込んだ血が掌からこぼれ落ちる。ベルフラウは半狂乱になりながら泣き叫ぶが、カブラカンは首をひねり。
「ンン? 君はそれが居ないことをとっくに理解しているのではなかったのかね?」
ゲルトが発砲した弾丸がカブラカンの頬に当たり、弾かれる。
男は服の下や皮膚の一部が鎧のように硬質化しているのだ。つまり、全く人ならざる存在であるということ。
「ベルフラウ! なんだ、どうした!?」
「あああ……ちがう……そんなつもりじゃ……お姉ちゃん……私……」
ハンターが声をかけようと近づくと、ベルフラウは聖機剣を振るい、怯えるように後退する。
「先に殺したのはお前達だ……だから私は……私はあああっ!!」
「止せ、ベルフラウ!」
ゲルトが取り押さえようと駆け寄った瞬間、展開した聖機剣の光の刃が軌跡を描いた。
切り裂かれたゲルトが血を流し倒れる姿に、ハンターは混乱しつつも武器を手にした。
変形機構を持ち、その結果光の刃を形成するのだが、普通に使う分には打撃武器だ。
剣で武装した一般人を殴りつけ気絶させ、ベルフラウは小さく息を吐いた。
「これで今月何件目だ? 反政府勢力の検挙は」
同行していたゲルトが稲妻のような紋章の描かれたビラを拾い上げ呟く。
革命戦争から十年以上、この帝国では現体制への反抗が根強い。
正統ではない手段によって簒奪された王位を巡り、そしてその是非を巡り、人々は少なからず争い続けてきた。
帝国は領内各地に師団とその拠点となる都市を置き人間同士の争いを監視してきたが、それが完全に根絶える事はいよいよなかった。
そして今、各地ではヴルツァライヒの暗躍により反政府活動の火は少しずつ燃え広がりつつあった。
「今はまだ大きな騒動にはなっていないが、こんな事が続けばいずれは革命戦争の焼き直しになる」
「……でも、相手は殆ど恵まれない人達なんだよね。生活する為に仕方なくっていうか……」
「仕方なくなら犯罪を犯してもいいのか?」
ゲルトの冷たい言葉にぐっと息を呑む。何故か胸が苦しくなり、目眩がした。
よろけたベルフラウの肩を支えゲルトは首をひねる。
「ねえ、ゲルト君。私達って何のために戦ってるのかな……」
「俺は自分と家族の為に戦っている。イルリヒト機関で活躍し師団に士官待遇で配属されれば、妹や弟を食わせていける」
「え? そんな理由だったの?」
「そんなとはなんだ?」
「なんか、思ったより優しかったから……」
ゲルトはベルフラウから手を離し、気絶している組織構成員達を縄で縛っていく。
「俺は反政府活動はやらないが、自分の為に他人を痛めつけている事実には変わりない。優しいというのは違うな」
覚醒者の力は圧倒的だ。一般人が何人集まったところで蹴散らせる。
だが、この力は本当に正しいのだろうか? 自分はなんの為に戦っているのか、それを考えると憂鬱だった。
一方的な制圧戦の舞台となった廃村には乾いた風が吹く。
ベルフラウとゲルトが担当したエリアは作戦完了したが、他のエリアではまだ銃声や叫び声が聞こえていた。
「あ……ハンターさん。そちらも終わったんですね」
そこへハンター達が駆け寄る。彼らも自分の仕事はあっさり終わらせた所だ。
浮かない表情のベルフラウへ声をかけようとしたハンターだが、そこへ短伝で連絡が入った。
『こ、こちらC班! 敵の中に歪虚が混じってる……しかも上位の……ぐわっ!?』
驚くベルフラウ。ゲルトが駆け出すのに続き、ハンター達も現場に急いだ。
C班が担当していたのは村のはずれにある貯蔵庫近辺だった。
かつては農作物を溜め込んでいた貯蔵庫だが、今は別の用途に利用されている事が予想された。
イルリヒトの推測では武器や弾薬といった想定であったが、開いた扉から出現しているのは無数のゾンビであった。
「ゾンビか……それより、高位の歪虚はどうした?」
「あそこだ! エミルとバートンが戦ってる!」
見ればそこには白いタキシード姿の大男と向き合う二人の生徒の姿があった。
エミルは火炎を放ち、バートンが斧で襲いかかるが、二人の攻撃を意に介さずタキシードは距離を詰め、拳でバートンの胸を貫いた。
「バートン!? う、嘘……こんなの聞いてなっいっぎ」
ハイキックがエミルの首を一回転させると、少女の身体はどさりと倒れこんだ。
「ンッン~……? これで四人ですか。全く、コツコツ集めたゾンビを台無しにされるとは……我輩、激おこぷんぷん丸!」
くわっと目を見開いた男は2メートルの巨体と立派な髭を揺らしながらハンター達へ近づく。
「……てめええ!! よくもエミルとバートンを!! 友達だったのに!!」
泣き叫びながら剣を振り上げる生徒を羽交い締めにし、ゲルトは首を振る。
パチンと小気味良く指を鳴らし、男はウィンクし。
「無意味な争いは止めたまえボーイ。勇気と無謀を履き違えてはいけない!」
泣き崩れる生徒を庇うように構えるベルフラウ。それを見て男は目を丸くし。
「ンン~? 君はベルフラウ? 何故そちら側に?」
「へっ?」
「我輩です。素敵な紳士のカブラカンです。オルクス様に確かに納品した筈の君が何故ここに?」
カブラカン。オルクス。そんな言葉を耳にする度動機が早まっていく。
「ベルフラウ、奴の戯言に耳を貸すな」
「そのベルフラウというのは君のコードネーム。“傷んだ青色”……オルクス様の血を受け、闇の契約者となった君の名ではないか」
「傷んだ……青色……」
がくがくと膝が震え立っていられなくなる。
何かがやけにうるさいと思ったら自分の心臓の音だ。
首から提げた十字架を血が滲むほど握り、ベルフラウは目を見開く。
「君は我輩が納品した商品として、オルクス様の血液を受け入れた実験体だった。散々我輩と一緒に各地の帝国兵を殺し回ったというのに、記憶がないのかね?」
「わ、わ、わ、わた……私……」
そうだ。ベルフラウには過去の記憶がない。
日常的に言葉を交わしている身近な人の事以外はすぐに忘れてしまう。
自分が何を救い、何を犠牲にしたのかさえ、もうハッキリ思い出せない。
救った人達はどんな顔で、これまで倒した敵はどんな敵だったのか。
「はあっ、神様……はあっ、はあっ、は――あっ」
『……え? 元契約者? オルクスの……はあ。まあ二年は生きられないでしょうけど……え? 記憶を管理して実験体にする?』
誰かの言葉が脳裏を過る。消毒液の匂いと硬いベッドの感触。
違う。病院じゃない。もっと嫌な場所だ。機械油と、機械部品と、マテリアル鉱石と……。
『傷んだ青色ですか。ふぅん……じゃあ、まあ、記憶を消す薬を処方しつつ、経過観察を――』
「わあああっ!? ああっ!! 神様神様! 神様かみさま神様神様神様神さまああああっ!!」
肉に食い込んだ血が掌からこぼれ落ちる。ベルフラウは半狂乱になりながら泣き叫ぶが、カブラカンは首をひねり。
「ンン? 君はそれが居ないことをとっくに理解しているのではなかったのかね?」
ゲルトが発砲した弾丸がカブラカンの頬に当たり、弾かれる。
男は服の下や皮膚の一部が鎧のように硬質化しているのだ。つまり、全く人ならざる存在であるということ。
「ベルフラウ! なんだ、どうした!?」
「あああ……ちがう……そんなつもりじゃ……お姉ちゃん……私……」
ハンターが声をかけようと近づくと、ベルフラウは聖機剣を振るい、怯えるように後退する。
「先に殺したのはお前達だ……だから私は……私はあああっ!!」
「止せ、ベルフラウ!」
ゲルトが取り押さえようと駆け寄った瞬間、展開した聖機剣の光の刃が軌跡を描いた。
切り裂かれたゲルトが血を流し倒れる姿に、ハンターは混乱しつつも武器を手にした。
リプレイ本文
倉庫から出現しつつあるゾンビ達。それらが動き出すより前に銃声が轟いた。
近衛 惣助(ka0510)とカグラ・シュヴァルツ(ka0105)が真上に放った弾丸はマテリアルを纏い、光の雨となってゾンビへ降り注ぐ。
「ムムッ!? 我輩がコツコツ集めたゾンビちゃんが!?」
ギロリと濃い眼光を向けるカブラカン。そこへヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)が発砲する。
大男は銃弾を手刀で弾き落とし、ダラントスカスティーヤ(ka0928)が繰り出す斬撃を人差し指と中指で挟んで止めた。
「その出で立ち、軍人というわけではなさそうであるな。集めた人間共を処理しに来たか、ハンター?」
カブラカンは剣を掴んだまま、空の左拳を握る。
咄嗟に剣を離し、銃を抜いて発砲するダラントスカスティーヤ。銃弾は胸に命中するが、火花とともに弾かれた。
反撃の拳が腹を打つと同時、衝撃で吹き飛ぶ。ダラントスカスティーヤを受け止め、ヴォルフガングは舌打ちした。
「こいつ……ふざけた言動の割になんて力してやがる」
「君の大事な愛刀であろう? お返ししよう……紳士的にね!」
腕の筋肉を丸太のように隆起させ、ロングソードを投擲する。
神楽(ka2032)がそれを盾で受けると、空を舞った剣は持ち主の手の中に収まった。
「既に腕が痺れるっす! 一般人虐めて小金が貰える楽な仕事のはずがとんだ貧乏くじっす!」
ゲルトの応急処置を終えた水城もなか(ka3532)は、その場にいるもう一人にイルリヒト生に告げる。
「そこのあなた。ゲルトさんを連れて撤退して下さい」
「俺はまだ無傷だ! 一緒に戦える!」
「相手は高位歪虚です。私達も守りながら戦う余裕はありません。怪我人は勿論ですが、あなたも今は邪魔です」
「見ての通り手が離せないっす! これ以上友達に死なせたくなかったらとっととゲルトを回収して帰れっす!」
神楽の言葉に納得行かない様子で拳を握る少年。しかし意識不明のゲルトに目を向け。
「……わかった。あんた達も気をつけて」
ゲルトを背負った少年が離脱していく。もなかはそれを見届け、今度はベルフラウに目を向けた。
「ベルフラウさん、やはり相当混乱しているようですね」
「初年兵の戦場では珍しくもありませんが……あの様子では私達の事も認識できないでしょう」
もなかの言葉に頷くカグラ。二人共リアルブルーの元軍人。比較的落ち着いた様子で少女を見ている。
「あの歪虚も厄介ですが、今はまず味方の救出にあたりましょう」
「少し手荒くなるかもしれませんが」
カグラの言葉に頷き、もなかはダガーを抜いた。
「俺達の任務は反政府勢力の制圧だ、これ以上そちらのゾンビを潰す気は無い」
惣助の言葉にカブラカンは腕を組み。
「その反政府勢力も言ってしまえば我輩の商品。連れて行かれては困るのですが」
「集めただの納品だの、あんたは歪虚側の商人か?」
「ンッン~、少し違いますな。我輩は損得ではなく善意にて行動している。故に親しき者からは“供給源”と呼ばれております」
人差し指を振るカブラカン。その辺は割りとどうでもいいとこなのでスルーしつつ。
「こちらも犠牲者が出て錯乱している者もいる、あんたの言う無意味な争いは止めにしないか?」
「怒りにまかせて暴れるのは紳士的に不味いっす! 紳士としてはここは帰るべきだと思うっす!」
神楽の言葉に打ち震えるカブラカン。そうして顔を上げた男は……泣いていた。
「我輩、怒り故に争うにあらず! 我輩は悲しい! これは善意的な正当防衛です!」
「……情緒不安定な奴だな」
煙草に火をつけ、紫煙と共に溜息を吐き出すヴォルフガング。
「破壊と暴力は何も産まない。確かに争いは無意味」
「では……?」
「交渉に応じようではないか。そちらが拿捕した人間共を開放するのであれば、我輩何もせずに手を引く所存!」
思わず仰け反る惣助。しまった。そういう展開は想定していない。
「紳士様、そんなけちけちしないで……」
「我輩懐の大きい紳士ですが、手ぶらで帰ると怒られます」
そりゃそうだ。後ろを向いて神楽は舌打ちした。
「ここの人間共は魂を歪虚に売ったのです。彼らは売り、我輩は買った! そして与えたのです、力を!」
大きく腕を広げ、そして男は拳を構える。
「我輩、アフターサービスも万全。買ったモノと売ったモノ、返していただく所存」
内側から隆起した甲殻がスーツを引き裂く。まるで悪魔の様な二の腕は空気を吸い込み、鱗の隙間から発光する。
「唸れ! 我輩の上腕二頭筋!」
大地に拳を打ち込んだ直後、ハンター達の足場が吹き飛び、上空へ舞い上げられた。
「そして慄くのです! 紳士的に!!」
跳躍してきたカブラカンが神楽とヴォルフガングを次々に殴り蹴り、大地へ叩き落とす。
「野郎……! 無茶苦茶しやがる!」
「これのどこが紳士なんすか!?」
やはり戦闘は避けられない。そう考え、ハンター達は戦いに応じていく。
「やはりダメでしたか」
上から落ちてきた惣助が頭を振りながら立ち上がる姿にカグラが問う。
「ああ……頭がいいのか悪いのか……」
ベルフラウは相変わらず聖機剣を展開したまま頭を抱え、独り言を繰り返している。
「落ち着けベルフラウ! 俺達が分かるか? 気をしっかり持つんだ!」
「先程から呼びかけてはみましたが、やはり反応はありませんね」
もなかはゆっくりとベルフラウに歩み寄る。すると接近を察知したベルフラウは素早く剣を振るった。
光の刃は大地をえぐる程の威力で、もなかは冷や汗を流しつつダガーを収め。
「……これは防御できませんね。仕方ありません、何とか掻い潜って接近しましょう」
「援護します」
銃を構えるカグラと惣助。もなかが素早く駆け出すと、ベルフラウは反応し剣を振るう。
「敵……!」
カグラと惣助はそれぞれ威嚇射撃で援護する。僅かに動きが止まった隙に接近を試みるもなかだが、ベルフラウの視線追ってくる。
少女は片手で巨大な剣を振るう。その膂力はとても少女の細腕とは思えない。
咄嗟に足を止め背後に飛ぶもなかだが、首筋に僅かに切れ込みが入る。
「いきなり急所狙いですか……」
ベルフラウは地を蹴り、追撃に乗り出す。斬撃を回避するもなか、そこへ惣助が威嚇射撃を続ける。
「やめろ、ベルフラウ!」
ベルフラウは聖機剣を掲げ、その刃を拡散させるように周囲に光を放った。
「セイクリッドフラッシュ……!?」
無数の光の雨をかわしきれない三人。肥大化された光の剣はもにかへと振り下ろされる。
身をかわそうとするも間に合わない。その時、カグラの放った銃弾が聖機剣を側面から打ち、軌道を変化させる。
吹き飛ぶ地面から離れるもなか。腕に掠ってしまったが、命は繋いでいる。
「まさかあの子がこれ程の力を持っていたとは……」
思わず呟く惣助。そこにハンターが呼び出したイルリヒト生が集まってくる。
「なんでベルフラウが暴れてるんだ!?」
「丁度よかった。彼女を説得してくれませんか?」
しかし、もなかの言葉に生徒達は顔を見合わせる。
「あの……私達、あの子の事良く知らなくて……」
「ていうかその……落ちこぼれだったから……」
「いじめていたんですね?」
カグラの言葉にぎょっとする生徒達。
八人集まった生徒達の中にベルフラウの友人と呼べる者は一人もいなかった。
「今はそんな事言ってる場合じゃないだろう!?」
焦る惣助。だが生徒からすれば、自分達がいじめていた生徒に何を言えばいいのかわからないのだ。
「……もういい。きみ達はゾンビの相手を頼む。倉庫自体に火をつけるんだ」
惣助の指示に従い動き出す生徒達。結局ベルフラウの状況は変わらない。
そこへ小さく笑い声が響いた。見ればベルフラウは口元に手を当て。
「あなた達は優しいんですね。確かに、中にはそういう人もいます。でもそうじゃない人が殆どなんですよ」
泣き出しそうな、しかし鋭い笑みを隠すように片手を顔に当て、少女は俯く。
「私はそんな世界を変えたかった。その為に私は、沢山の人を……」
「私は、今の貴女しか知りません」
カグラは一歩前に踏み出し、静かに語る。
「今この時点で過去の事を思い出したとして、何かがすぐに変わるわけではない。貴女の存在が上書きされるわけでもない。そもそも、貴女はずっと存在したのですから」
「わかってます。わかってるけど……でも……っ」
剣を両手で握り、少女は泣きながら。
「知らない自分が時々言うんです。殺せ、殺せって……今も……あなたを殺せって!」
一気に距離を詰められ、拳銃を抜くカグラ。
銃撃を光の剣で弾き、繰り出される刃。その少女の身体が傾いたのは惣助が足を撃ち抜いたからだ。
カグラは更に利き腕である右手を撃ち、聖機剣を零させる。そして背後からもにかが組付き、ベルフラウを押し倒した。
首に腕を回し、自らの足を相手の足に絡め拘束する。
純粋な膂力はベルフラウが圧倒していたが、今は手足の負傷もあり、完全に極まった技から抜け出す事は出来ない。
「ハンターに恨みがあるなら、後でゆっくり聞きましょう。ですが、今は聖機剣の担い手としての役目を果たしなさい」
涎を垂らしながら悶えるベルフラウにカグラは語りかける。
「何の為に戦うのか、それを確認する為にも。今までの行為全てを、否定しない為にも……」
頃合いを見てもなかが力を緩めると、少女は無我夢中で呼吸を再開した。
「少しは冷静になりましたか?」
「このまま……殺してくれませんか?」
首に回したもなかの腕に大粒の涙が零れ落ちる。
「もう、何を信じていいのか……辛いんです、生きているのが……」
「それは出来ません。あなた達を連れ帰るのが任務ですから。それに、命の扱いは自分自身で決めるものですよ」
友人と自らの血に染まった手を見つめ、少女はきつく唇を噛みしめる。
悲痛な声を上げて泣き叫ぶ少女から、もなかはそっと手を放した。
「ムムムッ!? なんだか倉庫が燃えている!?」
目を丸くして叫ぶカブラカン。ゾンビは生徒達が撃破し、そもそも戸を閉めて火を放ったようだ。
「おやめなさい! 勿体無いでしょう!」
生徒達に駆け出そうとするカブラカンの背中をダラントスカスティーヤがマテリアを込めた一撃で追撃する。
ゆっくりと振り返ったカブラカンの回し蹴りに血を吐くダラントスカスティーヤ。
「良くもやってくれましたね。我輩、激怒!」
神楽が魔導銃を打ち込むが、何か金属を弾くような音がしてイマイチ効果がない。
「硬すぎるっすよあの紳士!」
「狙うなら……ここだ!」
脇に構えた太刀を一気に繰り出すヴォルフガング。狙いは眼球、これをカブラカンは両手で白刃取りする。
「我輩のハンサム顔に何をする!」
「今だ! 甲殻の隙間を狙え!」
ヴォルフガングの激に左右から二人が駆け寄る。
ダラントスカスティーヤは渾身の一撃で隙間を狙うが、刃が通らない。
神楽は仕込み杖で同じく隙間を攻撃。これは何とか防御を突破し、左脇下に突き刺さった。
「痛いです!」
「人間なら急所なんすけどぶふぉっ!?」
肘打ちを食らった神楽が吹っ飛ぶ。更に両腕を振るい、回転するような動きでハンター達を薙ぎ払う。
「雑魔ならまだしも、こんな高位歪虚とよく手を組む気になったっすね……狐の喧嘩の助っ人に虎を連れてきたら勝っても食われるっすよ」
鼻血を拭く神楽。そこへベルフラウを連れたハンター達が合流する。
「ムム? ベルフラウ、何故そちら側に?」
「カブラカン……あの人は、オルクス様は今どうしているの?」
「知りたければついてくればよかろう。それとも……ああ、君は捨てられたのかね?」
目を細め、ベルフラウは周囲に癒しの光を放つ。
「ひでぇ面だぜ。ベルフラウ……戦えるのか?」
「はい。少なくとも今は」
ヴォルフガングは煙草の吸殻を握り潰し、改めて構える。
再び動き出すハンター達。カグラはフォールシュートで銃弾の雨を降り注がせるが、カブラカンは腕を振るうと同時に負のマテリアルを放出しこれらを弾き飛ばす。
続き、惣助が凍結弾を打ち出す。受けたカブラカンの右腕が凍りつくと、全員が銃を取り出し引き金を引いた。
「いたたた!? 卑怯であるぞ!?」
更に側面から魔法の矢や炎が直撃。見れば生徒達も遠距離攻撃で支援している。
「オ・ノーレ!」
変質した右肩から風を吸い込み、すぐさま吐き出す。
右腕をつきだしたまま加速したカブラカンが突っ込んでくるのに対し、ヴォルフガングとダラントスカスティーヤが同時に剣戟で応じる。
「ぐっ、馬鹿力が……!」
側面から光の剣を振るうベルフラウだが、聖機剣でもカブラカンに有効打を与えられない。
カグラ、惣助、神楽の三名がライフル弾を打ち込みまくると、カブラカンは面倒くさそうに引き下がり。
「ぬう。何故ここで戦っているのか意味がわからなくなってきました。よくよく考えると徒労です」
既にゾンビは焼けてしまったし、多数の覚醒者に囲まれている。男は溜息を零し、背中から二対の翼を生やす。
「ムムッ!? 我輩の一張羅が……おのれハンター!」
「……いや、さっきから自分で破ってんだろ」
ヴォルフガングのつっこみも虚しく、大男は空に舞い上がる。
「人として生きるというのならばそれも良いでしょう。お達者で、ベルフラウ!」
空を矢のように飛んで行くカブラカンを見送り、ハンター達はゆっくりと武器を下げた。
回収された生徒の死体を見送り、ヴォルフガングは新たな煙草に手を伸ばす。
「ここであった事は上に報告するが……構わないな?」
「ベルフラウが協力的なら、色々と分かることもありそうっすね。スリーサイズは教えてくれないだろうけど……」
かくりと肩を落とす神楽。もなかは思い出したように。
「そういえば、手と足の傷はもういいんですか?」
「魔法で塞ぎました。私……傷は治りやすいんです」
見ればベルフラウの腕には僅かな銃創が残るのみだ。本来ならばありえない回復力である。
「私は……“ブースター・チルドレン”だから」
聞きなれない言葉に首を傾げるもなか。
ともあれ、生徒達から新たな死者を出す事もなく、カブラカンも帰っていった。ダラントスカスティーヤもほっと胸をなでおろす。
「あいつだ! ゲルトをやったのは! それに、歪虚の手下だったって!」
生徒の一人がベルフラウを指さすと、あちこちでひそひそ話が持ち上がる。
少女はハンター達に頭を下げ。
「今日はご迷惑をおかけしました。いえ……これまでも、だったんでしょうか?」
「ベルフラウ……」
言葉を失う惣助。ベルフラウはカグラともなかに笑みを向け。
「本当にありがとう。それから……さようなら」
生徒達はベルフラウの両腕を拘束し、聖機剣を奪って帰還していく。
その小さな後ろ姿を見送り、ハンター達も帰路に着くのだった。
近衛 惣助(ka0510)とカグラ・シュヴァルツ(ka0105)が真上に放った弾丸はマテリアルを纏い、光の雨となってゾンビへ降り注ぐ。
「ムムッ!? 我輩がコツコツ集めたゾンビちゃんが!?」
ギロリと濃い眼光を向けるカブラカン。そこへヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)が発砲する。
大男は銃弾を手刀で弾き落とし、ダラントスカスティーヤ(ka0928)が繰り出す斬撃を人差し指と中指で挟んで止めた。
「その出で立ち、軍人というわけではなさそうであるな。集めた人間共を処理しに来たか、ハンター?」
カブラカンは剣を掴んだまま、空の左拳を握る。
咄嗟に剣を離し、銃を抜いて発砲するダラントスカスティーヤ。銃弾は胸に命中するが、火花とともに弾かれた。
反撃の拳が腹を打つと同時、衝撃で吹き飛ぶ。ダラントスカスティーヤを受け止め、ヴォルフガングは舌打ちした。
「こいつ……ふざけた言動の割になんて力してやがる」
「君の大事な愛刀であろう? お返ししよう……紳士的にね!」
腕の筋肉を丸太のように隆起させ、ロングソードを投擲する。
神楽(ka2032)がそれを盾で受けると、空を舞った剣は持ち主の手の中に収まった。
「既に腕が痺れるっす! 一般人虐めて小金が貰える楽な仕事のはずがとんだ貧乏くじっす!」
ゲルトの応急処置を終えた水城もなか(ka3532)は、その場にいるもう一人にイルリヒト生に告げる。
「そこのあなた。ゲルトさんを連れて撤退して下さい」
「俺はまだ無傷だ! 一緒に戦える!」
「相手は高位歪虚です。私達も守りながら戦う余裕はありません。怪我人は勿論ですが、あなたも今は邪魔です」
「見ての通り手が離せないっす! これ以上友達に死なせたくなかったらとっととゲルトを回収して帰れっす!」
神楽の言葉に納得行かない様子で拳を握る少年。しかし意識不明のゲルトに目を向け。
「……わかった。あんた達も気をつけて」
ゲルトを背負った少年が離脱していく。もなかはそれを見届け、今度はベルフラウに目を向けた。
「ベルフラウさん、やはり相当混乱しているようですね」
「初年兵の戦場では珍しくもありませんが……あの様子では私達の事も認識できないでしょう」
もなかの言葉に頷くカグラ。二人共リアルブルーの元軍人。比較的落ち着いた様子で少女を見ている。
「あの歪虚も厄介ですが、今はまず味方の救出にあたりましょう」
「少し手荒くなるかもしれませんが」
カグラの言葉に頷き、もなかはダガーを抜いた。
「俺達の任務は反政府勢力の制圧だ、これ以上そちらのゾンビを潰す気は無い」
惣助の言葉にカブラカンは腕を組み。
「その反政府勢力も言ってしまえば我輩の商品。連れて行かれては困るのですが」
「集めただの納品だの、あんたは歪虚側の商人か?」
「ンッン~、少し違いますな。我輩は損得ではなく善意にて行動している。故に親しき者からは“供給源”と呼ばれております」
人差し指を振るカブラカン。その辺は割りとどうでもいいとこなのでスルーしつつ。
「こちらも犠牲者が出て錯乱している者もいる、あんたの言う無意味な争いは止めにしないか?」
「怒りにまかせて暴れるのは紳士的に不味いっす! 紳士としてはここは帰るべきだと思うっす!」
神楽の言葉に打ち震えるカブラカン。そうして顔を上げた男は……泣いていた。
「我輩、怒り故に争うにあらず! 我輩は悲しい! これは善意的な正当防衛です!」
「……情緒不安定な奴だな」
煙草に火をつけ、紫煙と共に溜息を吐き出すヴォルフガング。
「破壊と暴力は何も産まない。確かに争いは無意味」
「では……?」
「交渉に応じようではないか。そちらが拿捕した人間共を開放するのであれば、我輩何もせずに手を引く所存!」
思わず仰け反る惣助。しまった。そういう展開は想定していない。
「紳士様、そんなけちけちしないで……」
「我輩懐の大きい紳士ですが、手ぶらで帰ると怒られます」
そりゃそうだ。後ろを向いて神楽は舌打ちした。
「ここの人間共は魂を歪虚に売ったのです。彼らは売り、我輩は買った! そして与えたのです、力を!」
大きく腕を広げ、そして男は拳を構える。
「我輩、アフターサービスも万全。買ったモノと売ったモノ、返していただく所存」
内側から隆起した甲殻がスーツを引き裂く。まるで悪魔の様な二の腕は空気を吸い込み、鱗の隙間から発光する。
「唸れ! 我輩の上腕二頭筋!」
大地に拳を打ち込んだ直後、ハンター達の足場が吹き飛び、上空へ舞い上げられた。
「そして慄くのです! 紳士的に!!」
跳躍してきたカブラカンが神楽とヴォルフガングを次々に殴り蹴り、大地へ叩き落とす。
「野郎……! 無茶苦茶しやがる!」
「これのどこが紳士なんすか!?」
やはり戦闘は避けられない。そう考え、ハンター達は戦いに応じていく。
「やはりダメでしたか」
上から落ちてきた惣助が頭を振りながら立ち上がる姿にカグラが問う。
「ああ……頭がいいのか悪いのか……」
ベルフラウは相変わらず聖機剣を展開したまま頭を抱え、独り言を繰り返している。
「落ち着けベルフラウ! 俺達が分かるか? 気をしっかり持つんだ!」
「先程から呼びかけてはみましたが、やはり反応はありませんね」
もなかはゆっくりとベルフラウに歩み寄る。すると接近を察知したベルフラウは素早く剣を振るった。
光の刃は大地をえぐる程の威力で、もなかは冷や汗を流しつつダガーを収め。
「……これは防御できませんね。仕方ありません、何とか掻い潜って接近しましょう」
「援護します」
銃を構えるカグラと惣助。もなかが素早く駆け出すと、ベルフラウは反応し剣を振るう。
「敵……!」
カグラと惣助はそれぞれ威嚇射撃で援護する。僅かに動きが止まった隙に接近を試みるもなかだが、ベルフラウの視線追ってくる。
少女は片手で巨大な剣を振るう。その膂力はとても少女の細腕とは思えない。
咄嗟に足を止め背後に飛ぶもなかだが、首筋に僅かに切れ込みが入る。
「いきなり急所狙いですか……」
ベルフラウは地を蹴り、追撃に乗り出す。斬撃を回避するもなか、そこへ惣助が威嚇射撃を続ける。
「やめろ、ベルフラウ!」
ベルフラウは聖機剣を掲げ、その刃を拡散させるように周囲に光を放った。
「セイクリッドフラッシュ……!?」
無数の光の雨をかわしきれない三人。肥大化された光の剣はもにかへと振り下ろされる。
身をかわそうとするも間に合わない。その時、カグラの放った銃弾が聖機剣を側面から打ち、軌道を変化させる。
吹き飛ぶ地面から離れるもなか。腕に掠ってしまったが、命は繋いでいる。
「まさかあの子がこれ程の力を持っていたとは……」
思わず呟く惣助。そこにハンターが呼び出したイルリヒト生が集まってくる。
「なんでベルフラウが暴れてるんだ!?」
「丁度よかった。彼女を説得してくれませんか?」
しかし、もなかの言葉に生徒達は顔を見合わせる。
「あの……私達、あの子の事良く知らなくて……」
「ていうかその……落ちこぼれだったから……」
「いじめていたんですね?」
カグラの言葉にぎょっとする生徒達。
八人集まった生徒達の中にベルフラウの友人と呼べる者は一人もいなかった。
「今はそんな事言ってる場合じゃないだろう!?」
焦る惣助。だが生徒からすれば、自分達がいじめていた生徒に何を言えばいいのかわからないのだ。
「……もういい。きみ達はゾンビの相手を頼む。倉庫自体に火をつけるんだ」
惣助の指示に従い動き出す生徒達。結局ベルフラウの状況は変わらない。
そこへ小さく笑い声が響いた。見ればベルフラウは口元に手を当て。
「あなた達は優しいんですね。確かに、中にはそういう人もいます。でもそうじゃない人が殆どなんですよ」
泣き出しそうな、しかし鋭い笑みを隠すように片手を顔に当て、少女は俯く。
「私はそんな世界を変えたかった。その為に私は、沢山の人を……」
「私は、今の貴女しか知りません」
カグラは一歩前に踏み出し、静かに語る。
「今この時点で過去の事を思い出したとして、何かがすぐに変わるわけではない。貴女の存在が上書きされるわけでもない。そもそも、貴女はずっと存在したのですから」
「わかってます。わかってるけど……でも……っ」
剣を両手で握り、少女は泣きながら。
「知らない自分が時々言うんです。殺せ、殺せって……今も……あなたを殺せって!」
一気に距離を詰められ、拳銃を抜くカグラ。
銃撃を光の剣で弾き、繰り出される刃。その少女の身体が傾いたのは惣助が足を撃ち抜いたからだ。
カグラは更に利き腕である右手を撃ち、聖機剣を零させる。そして背後からもにかが組付き、ベルフラウを押し倒した。
首に腕を回し、自らの足を相手の足に絡め拘束する。
純粋な膂力はベルフラウが圧倒していたが、今は手足の負傷もあり、完全に極まった技から抜け出す事は出来ない。
「ハンターに恨みがあるなら、後でゆっくり聞きましょう。ですが、今は聖機剣の担い手としての役目を果たしなさい」
涎を垂らしながら悶えるベルフラウにカグラは語りかける。
「何の為に戦うのか、それを確認する為にも。今までの行為全てを、否定しない為にも……」
頃合いを見てもなかが力を緩めると、少女は無我夢中で呼吸を再開した。
「少しは冷静になりましたか?」
「このまま……殺してくれませんか?」
首に回したもなかの腕に大粒の涙が零れ落ちる。
「もう、何を信じていいのか……辛いんです、生きているのが……」
「それは出来ません。あなた達を連れ帰るのが任務ですから。それに、命の扱いは自分自身で決めるものですよ」
友人と自らの血に染まった手を見つめ、少女はきつく唇を噛みしめる。
悲痛な声を上げて泣き叫ぶ少女から、もなかはそっと手を放した。
「ムムムッ!? なんだか倉庫が燃えている!?」
目を丸くして叫ぶカブラカン。ゾンビは生徒達が撃破し、そもそも戸を閉めて火を放ったようだ。
「おやめなさい! 勿体無いでしょう!」
生徒達に駆け出そうとするカブラカンの背中をダラントスカスティーヤがマテリアを込めた一撃で追撃する。
ゆっくりと振り返ったカブラカンの回し蹴りに血を吐くダラントスカスティーヤ。
「良くもやってくれましたね。我輩、激怒!」
神楽が魔導銃を打ち込むが、何か金属を弾くような音がしてイマイチ効果がない。
「硬すぎるっすよあの紳士!」
「狙うなら……ここだ!」
脇に構えた太刀を一気に繰り出すヴォルフガング。狙いは眼球、これをカブラカンは両手で白刃取りする。
「我輩のハンサム顔に何をする!」
「今だ! 甲殻の隙間を狙え!」
ヴォルフガングの激に左右から二人が駆け寄る。
ダラントスカスティーヤは渾身の一撃で隙間を狙うが、刃が通らない。
神楽は仕込み杖で同じく隙間を攻撃。これは何とか防御を突破し、左脇下に突き刺さった。
「痛いです!」
「人間なら急所なんすけどぶふぉっ!?」
肘打ちを食らった神楽が吹っ飛ぶ。更に両腕を振るい、回転するような動きでハンター達を薙ぎ払う。
「雑魔ならまだしも、こんな高位歪虚とよく手を組む気になったっすね……狐の喧嘩の助っ人に虎を連れてきたら勝っても食われるっすよ」
鼻血を拭く神楽。そこへベルフラウを連れたハンター達が合流する。
「ムム? ベルフラウ、何故そちら側に?」
「カブラカン……あの人は、オルクス様は今どうしているの?」
「知りたければついてくればよかろう。それとも……ああ、君は捨てられたのかね?」
目を細め、ベルフラウは周囲に癒しの光を放つ。
「ひでぇ面だぜ。ベルフラウ……戦えるのか?」
「はい。少なくとも今は」
ヴォルフガングは煙草の吸殻を握り潰し、改めて構える。
再び動き出すハンター達。カグラはフォールシュートで銃弾の雨を降り注がせるが、カブラカンは腕を振るうと同時に負のマテリアルを放出しこれらを弾き飛ばす。
続き、惣助が凍結弾を打ち出す。受けたカブラカンの右腕が凍りつくと、全員が銃を取り出し引き金を引いた。
「いたたた!? 卑怯であるぞ!?」
更に側面から魔法の矢や炎が直撃。見れば生徒達も遠距離攻撃で支援している。
「オ・ノーレ!」
変質した右肩から風を吸い込み、すぐさま吐き出す。
右腕をつきだしたまま加速したカブラカンが突っ込んでくるのに対し、ヴォルフガングとダラントスカスティーヤが同時に剣戟で応じる。
「ぐっ、馬鹿力が……!」
側面から光の剣を振るうベルフラウだが、聖機剣でもカブラカンに有効打を与えられない。
カグラ、惣助、神楽の三名がライフル弾を打ち込みまくると、カブラカンは面倒くさそうに引き下がり。
「ぬう。何故ここで戦っているのか意味がわからなくなってきました。よくよく考えると徒労です」
既にゾンビは焼けてしまったし、多数の覚醒者に囲まれている。男は溜息を零し、背中から二対の翼を生やす。
「ムムッ!? 我輩の一張羅が……おのれハンター!」
「……いや、さっきから自分で破ってんだろ」
ヴォルフガングのつっこみも虚しく、大男は空に舞い上がる。
「人として生きるというのならばそれも良いでしょう。お達者で、ベルフラウ!」
空を矢のように飛んで行くカブラカンを見送り、ハンター達はゆっくりと武器を下げた。
回収された生徒の死体を見送り、ヴォルフガングは新たな煙草に手を伸ばす。
「ここであった事は上に報告するが……構わないな?」
「ベルフラウが協力的なら、色々と分かることもありそうっすね。スリーサイズは教えてくれないだろうけど……」
かくりと肩を落とす神楽。もなかは思い出したように。
「そういえば、手と足の傷はもういいんですか?」
「魔法で塞ぎました。私……傷は治りやすいんです」
見ればベルフラウの腕には僅かな銃創が残るのみだ。本来ならばありえない回復力である。
「私は……“ブースター・チルドレン”だから」
聞きなれない言葉に首を傾げるもなか。
ともあれ、生徒達から新たな死者を出す事もなく、カブラカンも帰っていった。ダラントスカスティーヤもほっと胸をなでおろす。
「あいつだ! ゲルトをやったのは! それに、歪虚の手下だったって!」
生徒の一人がベルフラウを指さすと、あちこちでひそひそ話が持ち上がる。
少女はハンター達に頭を下げ。
「今日はご迷惑をおかけしました。いえ……これまでも、だったんでしょうか?」
「ベルフラウ……」
言葉を失う惣助。ベルフラウはカグラともなかに笑みを向け。
「本当にありがとう。それから……さようなら」
生徒達はベルフラウの両腕を拘束し、聖機剣を奪って帰還していく。
その小さな後ろ姿を見送り、ハンター達も帰路に着くのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 神楽(ka2032) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/06/19 00:01:47 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/14 01:26:28 |