ゲスト
(ka0000)
ちびドワーフとお手伝い
マスター:T谷

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/20 22:00
- 完成日
- 2015/06/28 20:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「えっほー、えっほー」
毛むくじゃらのドワーフは、今日も元気にツルハシを振るう。鉄と、石と、同じく毛むくじゃらな仲間に囲まれて、日々を楽しく穴の中で過ごしている。
今日の進捗は、余りよくない。堅い岩にぶつかってしまったせいで、予定よりも少し遅れてしまっている。渡された設計図の通りに掘り終わるのは、まだかなり先の話になりそうだ。
とはいえ、彼は気にしなかった。短い足を踏ん張って、短い腕で大きなツルハシを振りかぶり、百センチちょっとの小さな体は、少しずつ穴を掘る。
穴を掘るのは、とても楽しい。手に伝う土の柔らかさが、石の砕ける手応えが、がつんがつんと響くいくつもの音が、子守歌のように心を癒やしてくれる。長く伸びた眉に土が付くのは、少し煩わしいけど。
それでも陽気なかけ声が、思わず出てしまう。彼は自分が声を出していることに気付いていなかったので、最初に仲間に指摘されたときは少し恥ずかしかったことを覚えている。
「おーい、今日はもう上がるぞー」
親方の声が聞こえた。同時に、辺りに響いていた音が鳴り止んで、おーと仲間達が一日で一番嬉しそうな歓声を上げる。次いで上がる話題はいつも通り、仕事帰りに飲む酒の話だ。
しかし、仲間達の中で一際小さな彼だけは、もう終わりかと少し残念な気分になっていた。
「親方―。僕、もうちょっと頑張りたいなー」
「またかエミール。いつも言ってるだろ、休むのも仕事だってな」
「えー」
エミールが口を尖らせる。その仕草は年相応で、やはりまだ彼は見習いに過ぎないのだなと苦笑いを浮かべて親方は小さく笑った。
子供扱いは余り嬉しくない。今年でもう十二になるのだ。まだ髭を伸ばすことは認められていないが、体力も腕力も、酒浸りの酔っ払いよりはいくらかあるつもりだ。
「そんな焦らんでもな、これからの人生、いっくらでも働けんだよ」
エミールの態度が余りに露骨だったのか、親方の言葉は優しく諭すようだった。これもまた、子供扱いなんじゃないかと少し不満に思うも、低く響く親方の声は嫌いじゃない。
分かったよと、エミールはようやくツルハシを下ろした。
「ここの掘削もいずれ終わるだろうが、そうすりゃ、また別の場所が俺達を待ってんだ。気楽に行こうぜ。このご時世、食いっぱぐれねえってのは良いこった!」
親方の豪快な笑い声が、掘削途中の穴に響く。その笑顔はエミールをも笑顔にさせ、手を振って踵を返すその背中は、大きな誇りを背負ってがっしりと地面に立っていた。
エミールは、その姿に大きな憧れを覚える。
ここに生まれて、ここに育ち、親方の元で働けることは、エミールにとっての”誇り”に他ならなかった。
●
その夜、小さな影がカールスラーエ要塞にあるハンターズソサエティ支部の門を潜った。
一メートルほどの身長に、短い手足。同じく横幅も一メートルといったところで、坂道で蹴躓けばそのまま転がって行ってしまいそうな体型は球に近い。オーバーオールのような作業服は特徴的で、この都市の住民であれば彼が地下空間の建造を一手に引き受けているドワーフ達の一人なのだろうと見当がつくだろう。
名をエミールというそのドワーフは、若くして地下拡張事業のホープとして名高い人物だった。
「ごめんくださーい」
元気な声が、夜も更け静まりかえる建物に響く。もう誰も来ないと高をくくって受付に突っ伏していた女性が、ハッと顔を上げた。
「あら、あらあら、随分可愛いお客さんですね?」
目をこすり、慌てて営業スマイルを作った受付嬢が、にこやかに話しかける。
「えっとー、お仕事の依頼を、お願いしたいんですけどー」
「ええ、それはもちろん構わないけど……こんな夜中に?」
「うん、今すぐがいいの」
エミールの話は簡単だった。
誰にも気付かれずに作業の遅れを取り戻し、皆に喜んでもらいたい。しかしそのためには、自分一人の力では足りない。そこで、ハンター達に、非覚醒者の自分よりも遙かに強く逞しいと評判の彼らに、お手伝いを頼みたいのだった。
「……うーん、それだったら」
話を聞いた受付嬢は、少し思案すると、ちらりとロビーに目を向ける。
「ほら、あそこのお兄さんお姉さん達に、頼んでみたらいいと思うな」
書類なんかは後でもいいからと、受付嬢はにこやかに笑いかける。
エミールはそれを見、ロビーにたむろするハンターに目をやり……少し落ち着かないように何度かそれを繰り返すと、
「あ、あのー」
意を決したようにとてとてと、ハンター達に声を掛けてきた。
「えっほー、えっほー」
毛むくじゃらのドワーフは、今日も元気にツルハシを振るう。鉄と、石と、同じく毛むくじゃらな仲間に囲まれて、日々を楽しく穴の中で過ごしている。
今日の進捗は、余りよくない。堅い岩にぶつかってしまったせいで、予定よりも少し遅れてしまっている。渡された設計図の通りに掘り終わるのは、まだかなり先の話になりそうだ。
とはいえ、彼は気にしなかった。短い足を踏ん張って、短い腕で大きなツルハシを振りかぶり、百センチちょっとの小さな体は、少しずつ穴を掘る。
穴を掘るのは、とても楽しい。手に伝う土の柔らかさが、石の砕ける手応えが、がつんがつんと響くいくつもの音が、子守歌のように心を癒やしてくれる。長く伸びた眉に土が付くのは、少し煩わしいけど。
それでも陽気なかけ声が、思わず出てしまう。彼は自分が声を出していることに気付いていなかったので、最初に仲間に指摘されたときは少し恥ずかしかったことを覚えている。
「おーい、今日はもう上がるぞー」
親方の声が聞こえた。同時に、辺りに響いていた音が鳴り止んで、おーと仲間達が一日で一番嬉しそうな歓声を上げる。次いで上がる話題はいつも通り、仕事帰りに飲む酒の話だ。
しかし、仲間達の中で一際小さな彼だけは、もう終わりかと少し残念な気分になっていた。
「親方―。僕、もうちょっと頑張りたいなー」
「またかエミール。いつも言ってるだろ、休むのも仕事だってな」
「えー」
エミールが口を尖らせる。その仕草は年相応で、やはりまだ彼は見習いに過ぎないのだなと苦笑いを浮かべて親方は小さく笑った。
子供扱いは余り嬉しくない。今年でもう十二になるのだ。まだ髭を伸ばすことは認められていないが、体力も腕力も、酒浸りの酔っ払いよりはいくらかあるつもりだ。
「そんな焦らんでもな、これからの人生、いっくらでも働けんだよ」
エミールの態度が余りに露骨だったのか、親方の言葉は優しく諭すようだった。これもまた、子供扱いなんじゃないかと少し不満に思うも、低く響く親方の声は嫌いじゃない。
分かったよと、エミールはようやくツルハシを下ろした。
「ここの掘削もいずれ終わるだろうが、そうすりゃ、また別の場所が俺達を待ってんだ。気楽に行こうぜ。このご時世、食いっぱぐれねえってのは良いこった!」
親方の豪快な笑い声が、掘削途中の穴に響く。その笑顔はエミールをも笑顔にさせ、手を振って踵を返すその背中は、大きな誇りを背負ってがっしりと地面に立っていた。
エミールは、その姿に大きな憧れを覚える。
ここに生まれて、ここに育ち、親方の元で働けることは、エミールにとっての”誇り”に他ならなかった。
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その夜、小さな影がカールスラーエ要塞にあるハンターズソサエティ支部の門を潜った。
一メートルほどの身長に、短い手足。同じく横幅も一メートルといったところで、坂道で蹴躓けばそのまま転がって行ってしまいそうな体型は球に近い。オーバーオールのような作業服は特徴的で、この都市の住民であれば彼が地下空間の建造を一手に引き受けているドワーフ達の一人なのだろうと見当がつくだろう。
名をエミールというそのドワーフは、若くして地下拡張事業のホープとして名高い人物だった。
「ごめんくださーい」
元気な声が、夜も更け静まりかえる建物に響く。もう誰も来ないと高をくくって受付に突っ伏していた女性が、ハッと顔を上げた。
「あら、あらあら、随分可愛いお客さんですね?」
目をこすり、慌てて営業スマイルを作った受付嬢が、にこやかに話しかける。
「えっとー、お仕事の依頼を、お願いしたいんですけどー」
「ええ、それはもちろん構わないけど……こんな夜中に?」
「うん、今すぐがいいの」
エミールの話は簡単だった。
誰にも気付かれずに作業の遅れを取り戻し、皆に喜んでもらいたい。しかしそのためには、自分一人の力では足りない。そこで、ハンター達に、非覚醒者の自分よりも遙かに強く逞しいと評判の彼らに、お手伝いを頼みたいのだった。
「……うーん、それだったら」
話を聞いた受付嬢は、少し思案すると、ちらりとロビーに目を向ける。
「ほら、あそこのお兄さんお姉さん達に、頼んでみたらいいと思うな」
書類なんかは後でもいいからと、受付嬢はにこやかに笑いかける。
エミールはそれを見、ロビーにたむろするハンターに目をやり……少し落ち着かないように何度かそれを繰り返すと、
「あ、あのー」
意を決したようにとてとてと、ハンター達に声を掛けてきた。
リプレイ本文
●
金属の光沢も眩しい区画をいくつか抜けると、土と石と木材の匂い漂う未開発区画に辿り着く。普段はドワーフ達の活気に溢れるここも、こんな時間ともなればしんと静まりかえっていた。
「此処が今、エミールが掘っている場所かの」
とてとてと坑道の機材に火を入れに行くエミールの姿を横目に、アルマ(ka3330)が物珍しそうに辺りを見渡す。
「うん。こっちとあっちをね、僕が担当してるんだー」
広場のようになってる中央から、いくつもの穴が闇を湛え伸びている。エミールは機材のスイッチを押し上げながら、少し自慢げに声を弾ませてそのうち二つの穴を後ろ手に指さした。
「なるほどのう……しかし、そこらのツルハシより小さいというに、仕事熱心なコじゃのう」
ガシャンガシャンと大きな音を立てて、坑道に明かりが点っていく。そうすれば、そこらに商売道具のはずのツルハシが無数に転がっている事に気がついた。
ツルハシはどれも市販のものよりも大きく、頑丈そうに出来ている。それこそ、エミールの背丈よりも断然大きなものばかりだ。
「えー、君だってあんまり変わらないじゃないかー」
「……なっ! アルマはこれでも立派な大人じゃっ!」
「まあ、アタシらドワーフが背の高さで争ってもしかたねーだろ」
失礼な!と声を荒げるアルマの肩に、苦笑気味にリーゼリッタ(ka4399)がぽんと手を置く。
「誰だって、等しく老いるものさ。ただ待っていれば、気付かないうちに成長などしているものだよ」
微笑ましげにそれらを眺め、Holmes(ka3813)は落ち着いた声で諭すように告げる。
「おお、いかんいかん……アルマは大人じゃから、子供の言うことなど気にしないのじゃ。と、そんなことを言っている時間が惜しいのう」
「ああ、時間が惜しいには同意だな」
夜もずっと続くわけではない。もたもたして朝になれば、他のドワーフが起きてきてしまう。
壁面の様子を手で確認しながら、ウィンス・デイランダール(ka0039)はぶっきらぼうに言う。
「大人だの子供だのの前に、大事なのは、どれだけの研鑽を積んだかだ。……断じて、身長などではない」
「そうそう、小さい方が可愛いしね! エミール君とか、まん丸でドワーフのイメージに一番近いよ! あ、これ押せば良いの?」
「うん、お願いー」
反して、陽山 神樹(ka0479)はテンションも高めにエミールを手伝って機材の準備を行っていた。
クリスティン・ガフ(ka1090)はその間に、全身に巻いたサラシの具合を整え、口元に布を巻き、厳重に装備を身につけていく。
「おお、随分重装備だな」
感心するリーゼリッタを横目に、クリスティンは最後に装備の留め金を確認して息をつく。
「怪我でもしては元も子もないからな。皆も口元くらい保護した方が良い、粉塵で喉をやられるぞ」
「あー、それやった方がいいかもー」
そこへ、諸々の準備を終えたエミールが、またとてとてとハンター達の元へ戻ってきた。そしてクリスティンの話を聞くとぽんと手を叩く。
「……そういうことは早く言え」
「大丈夫だよー、布ならいっぱいあるから。そうだよね、大人なら皆髭があるわけじゃないもんねー」
全員の顔を見渡して、エミールはコロコロと笑った。
●
「直線に掘って良い最も硬い場所は何処だ」
軽くエミールが作業の工程や方法、コツなどを説明した後。ウィンスはツルハシを手にするやいなや、真っ先にエミールに尋ねた。尋ねながらもツルハシの柄の感触を確かめ、軽く振り回している。
「アルマもそんな場所を所望するぞ! そう、何処までも真っ直ぐに……じゃ!」
かなりの重量を誇るツルハシを手に、アルマはふんと胸を張る。その姿は道具を扱いきれるか不安になるものだったが、そこは覚醒者。何の問題も無いらしい。
その姿に、エミールは感心と共に憧れを覚える。
「真っ直ぐ掘って欲しいのはねー」
そのような場所は、まだかなりの作業量を必要とする此処では腐るほどに存在する。
エミールは頼もしさに胸を躍らせながら、二人を案内するのだった。
●
他の四人は、戻ってきたエミールと共に中央で図面を囲む。壁に貼られた大きな紙には、無数の線に数字、記号……素人では何が書いてあるのか理解すら難しい。
「ええ? 僕が親方ー?」
指示を仰ぐ、とハンター達に目を向けられ、エミールはあたふたと視線を泳がせる。
「ああ、私は自身の持ちうる力を持って掘ろうと思う。好きに使ってくれ、親方」
「何時か『親方』のような立場になった時の練習、とでも思ってくれれば良いよ。君が依頼主なんだ、もっと堂々として、『ここをこう掘り進めるんだ』と指示すれば良いのさ」
「堀り方だとか専門的なことは分かんねーしな、まどろっこしいのは任せる!」
エミールは、好きに掘って貰ってもフォローする自信があった。しかし、指示ともなると話は全く変わってくる。
「そんなに深く考えなくても、その親方の真似してみるとかどうかな?」
「真似ー?」
神樹のにこやかな笑みを眺めて、エミールは考える。思い出すのは、親方の大きな背中。
「最初は戸惑うだろうけど、何処を掘るのが一番効率的なのかは専門家に聞いた方が良い。そうだろう、エミール君?」
「……うん、やってみるー」
穏やかな、しかし時間の重みを持ったHolmesの声がエミールに届く。
遠くから見るだけでなく、自分はいつかああいう人になりたいのだと、そこで始めて気付いた気がした。
●
ウィンスは立つ。巨大に聳える敵の眼前に。
片手に構えるのは鈍色の相棒――ツルハシだ。今宵だけのパートナーとはいえ、長く共に歩んだ戦友の如く掌に馴染む。
ウィンスは笑う。持ち上げた口角は獰猛に牙を見せる。
「上等だぜ……見せてやるよ、俺の魂の反逆を」
――呟き。次の瞬間、鈍重な雰囲気すら見せていたツルハシが、風と化した。
音すら残して奔る突端が、焦げ茶の塊をまとめて砕く。
なんだ、柔らかいじゃないか。そんな落胆も束の間、塊の向こうに現れたのは、薄暗闇のような色を讃えた岩石のその一部。
「……面白え」
鎧を剥がした先にあった深淵は深く、ウィンスを覗き込んでいた。
ツルハシが翻る。躍るように放たれるは乱舞。無数の打撃が嵐のように、岩を削り、砕き、徹底的に破壊していく。
「敵に対しては! 常に敬意を持つべし! 即ちこの場合! 岩盤に対する敬意ッ!」
木製の柄がミシミシと悲鳴を上げる。しかしそれは同時に、敵を倒せと、巨悪を討ち滅ぼせと、高揚に吼え猛っているようにも聞こえた。
「へ、へへ、いい剣捌きだ……だが、俺も負けない……お前を超える、この槍とっ! 魂の反逆を以て――!!」
「な、なんじゃよう分からんが、とんでもない気迫じゃ……!」
アルマは震えていた。ウィンスの異様なテンションと、意味の分からない言葉に。――そして、何故かそれを見ていると体の底から沸き上がってくる、熱い血の滾りに。
居ても立っても居られず、アルマもまた壁に向き合う。
「一心不乱に、掘ること自体が、まるでアルマの存在であるかのように……じゃ!」
振るうツルハシは、彼女の体よりも大きく、重い。しかし、そんなことなど、この心の前では無意味に等しい。
障害物など関係なく、アルマは黙々と掘り続ける。全身にマテリアルを漲らせ、全力を以てツルハシを振り下ろす。
もはや彼女をツルハシそのものと、そう言っても過言ではないほどに――
●
カン、カン、と甲高く小気味良い音がいくつも響く。
エミールの読み通り、覚醒者達の掘削能力は非常に高い。強い腕力に、無尽蔵かと思える体力。そして何よりも、
「むむ! これはレアな鉱石がありそうな予感……ドッセーイ!」
少しだけ硬い岩盤にぶつかり、神樹が大きくかけ声を上げる。一際大きな音と共にツルハシの先が岩に突き刺さると、気合い一閃、追撃にぐんと力を込めてもう一度振り下ろす。
ごろんと砕けて転がり落ちた岩にわっと驚きながら、神樹はエミールに弾けるような笑みを見せた。
「どうエミール君、これってレアじゃないっ?」
この、生き生きとした表情だ。それが親方と大人達のそれにかぶり、何だか嬉しくなってエミールは口元に笑みを浮かべていた。それはただの岩だよー、と声を掛けるのも忘れずに。
「ああ、懐かしいなこの感覚。ちっこい頃以来だ!」
リーゼリッタは楽しそうに自前のツルハシを巧みに操り、ひたすら壁を崩していく。そのツルハシは少し小さいものだったが、戦闘用への特化は岩の破壊にも十分に通用するらしい。
「ふむ、やはりこういう作業は良いね。無心で体を動かすのは実に気持ちが良い」
老いた身といえど、筋力にはまだまだ自信がある。その言葉通りに、Holmesは順調に壁を崩していく。
クリスティンは静かに、割り振られた持ち場を眺めていた。
鋭敏な視野と立体の知覚を研ぎ澄ませ、効率よく掘削可能な箇所を割り出し、それぞれの間合いを計って最も取り回しの効く動きを想定する。更にツルハシの重量、重心も計算に入れ得意とする剛剣術に組み込んでいく。
砕きやすいポイントに当たりを付け、膝を曲げ、腰を落とし、ツルハシを上段から振り下ろす。
全動作の基本は骨盤だ。丹田を意識し、そこを始点に一連の流れを構成する。運足は腰に追従するように、握りはインパクトの瞬間にのみ手首を反らし絞るように力を込め、寸剄の要領で発生した全ての衝撃を一点に収束させる。
呼吸まで律し剣術を応用したその動きと併せ、眉間の奥の上丹田にまで集中させた意識で以て感覚を管理。掘り進むことにより次々と変化する周辺視野を正確に認識、把握し、肩甲骨などからなる上体の動作と共に微細に調節を施す。
過不足無く心技体を成すことにより、剣術を掘削術に昇華する。クリスティンはこの短い時間に、掘削における無駄の一切介在しない動作を身に付けつつあった。
●
どれくらいの時間が経っただろうか。
「……のう、エミール。腹が減らぬか?」
ぽつりと、そんな呟きが聞こえた気がした。
時は既に深夜。一食を消化しきる時間はとうに過ぎている。
「疲れたときに! 小腹が空いたときに!」
その声が聞こえたのか、ツルハシを地面に突き刺して唐突に神樹が溌剌な声を上げる。
「そんな時はおにぎりだよ! 俺の故郷ではそんなだったよ!」
だっと坑道の入り口に置いた私物に駆け寄り、神樹は大きめの包みを取り出す。
「食べ物か!」
その匂いを嗅ぎつけたのか、アルマがいつの間にか満面の笑顔で包みごと食らわんばかりに駆けつけていた。
「う~ん、やっぱり梅干しがほしいな! 東方に行けばあったりするのかな。みんなの食べた反応見たいのにな~!」
食いしん坊に限らず、肉体労働に栄養補給は欠かせない。神樹の用意したおにぎりは、かなりの好評を博した。
「うめぼしってー?」
「なんて言ったら良いのかな~。果物なんだけど、漬けたり干したりで酸っぱいんだよ!」
神樹の膝の上にちょこんと乗って美味しそうにおにぎりを頬張りながら、エミールが首を傾げる。
この子が梅干しを食べたら、さぞ面白い反応をするんだろうなーと神樹が残念に思いながら、故郷の話をしつつエミールの頬をプニプニ触っていると、
「おい! 何か出てきたぞ!」
こいつとの死闘に忙しい!と休憩を断り、一人黙々と掘削に励んでいたウィンスの声が響いた。
全員がその場に集まる。見れば、ウィンスががりがりとツルハシの先で壁を擦る先、何か光るものが顔を覗かせていた。
「おー、マテリアル鉱脈だー!」
エミールが驚きの声を上げる。
「おお、レア鉱石っ?」
「おいおい、そんなん出るもんなのかよ」
神樹とリーゼリッタが尋ねると、エミールが食い気味に頷いた。
「たまに出るんだよー。出たら売ってね、皆で宴会するんだー」
鉱石マテリアルと言えば、燃料として有用な鉱石だ。需要が増えてきた現在、師団が買い取ってくれるらしい。
エミールは興奮した様子で、発破の爆薬やドリルを準備しなきゃと作業小屋へ向かう。
「まあ待てよ。そんなもん使ったら、親方達起きちまうぜ?」
そこへ、リーゼリッタが待ったをかけた。何のためにアタシらがいるんだと、力強く腕を叩く。
「ふむ、依頼主の意向なら、全力で応えようじゃないか」
「レア鉱石掘りだー!」
次いで何処か楽しげにHolmesも立ち上がれば、神樹も同じく続く。
「おい、俺の獲物だぞ!」
「複数で掘った方が効率的ならば、そうすべきだろう」
「お腹いっぱいのアルマも、強敵を欲しておるぞ!」
やる気漲る一同にウィンスは不満の声を上げるが、既に辺りに目を配り脳内で動作を構築しているクリスティンと食欲を満たして元気いっぱいのアルマの目には入っていない。
そんな調子で、全員で鉱脈を掘り起こすことになった。
鉱脈は硬い。ともすればツルハシの方が参ってしまいそうな硬度に、
「……ここなら行けんな」
リーゼリッタが思案顔で呟き、持参していた長大な斧を取り出した。
「逃げるなんざ言語道断だ。こいつ、砕いちまっていいんだよな?」
エミールが問いかけに頷くが早いか、リーゼリッタはにやりと笑ってそれを振りかぶる。
防御を捨てた大きな構え。そして一瞬の空白に息を大きく吸い込み、
「――っ!」
一気に吐き出すと同時に大きく地面を蹴り出した。
錆色の刃が空気を引き千切り、強烈な一撃が鉱脈に叩き込まれる。
「ははっ、年甲斐もなく張り切ってしまうね。子供の前でええかっこしいなのは、老人特有の持病みたいなものかな」
リーゼリッタの放った刃の後を追うように、Holmesが飛び出す。
すでにマテリアルは体内を巡り、全身の筋肉が歓喜の声を上げ、ツルハシに込めた祖霊の力はその解放を待ち望んでいる。
咄嗟にリーゼリッタが斧をどかせば、全く同じポイントにHolmesはツルハシを叩き込んだ。
――同時にビシリと、目の前の鉱脈から大きな音が響いた。
「さあ、早く採掘を終わらせようか。その後の作業だって、まだ残っているのだからね」
●
結果として、ハンター達の活躍で地下の拡張作業は大きな進展を見せた。何よりも、頑強な鉱脈と岩盤を短時間で掘り抜けたことが大きい。さらには鉱脈を掘り当てたことで、臨時の収入まで得たという大金星だ。
「ありがとうございましたー」
エミールは深々と、ハンター達に頭を下げる。その目は、ハンター達が出会う前よりも、生き生きと輝いているように見えた。
その後、エミールは勝手に依頼をしたことを親方に呆れられたが、どうやら怒られはしなかったらしい。豪快な性格の親方は、やってしまったものは仕方が無いと、作業工程の変更を臨機応変且つ迅速に指示し、更にエミールは彼に憧れるようになった。
エミール自身が「親方」と呼ばれるようになるまで、そう時間はかからないかもしれない。
金属の光沢も眩しい区画をいくつか抜けると、土と石と木材の匂い漂う未開発区画に辿り着く。普段はドワーフ達の活気に溢れるここも、こんな時間ともなればしんと静まりかえっていた。
「此処が今、エミールが掘っている場所かの」
とてとてと坑道の機材に火を入れに行くエミールの姿を横目に、アルマ(ka3330)が物珍しそうに辺りを見渡す。
「うん。こっちとあっちをね、僕が担当してるんだー」
広場のようになってる中央から、いくつもの穴が闇を湛え伸びている。エミールは機材のスイッチを押し上げながら、少し自慢げに声を弾ませてそのうち二つの穴を後ろ手に指さした。
「なるほどのう……しかし、そこらのツルハシより小さいというに、仕事熱心なコじゃのう」
ガシャンガシャンと大きな音を立てて、坑道に明かりが点っていく。そうすれば、そこらに商売道具のはずのツルハシが無数に転がっている事に気がついた。
ツルハシはどれも市販のものよりも大きく、頑丈そうに出来ている。それこそ、エミールの背丈よりも断然大きなものばかりだ。
「えー、君だってあんまり変わらないじゃないかー」
「……なっ! アルマはこれでも立派な大人じゃっ!」
「まあ、アタシらドワーフが背の高さで争ってもしかたねーだろ」
失礼な!と声を荒げるアルマの肩に、苦笑気味にリーゼリッタ(ka4399)がぽんと手を置く。
「誰だって、等しく老いるものさ。ただ待っていれば、気付かないうちに成長などしているものだよ」
微笑ましげにそれらを眺め、Holmes(ka3813)は落ち着いた声で諭すように告げる。
「おお、いかんいかん……アルマは大人じゃから、子供の言うことなど気にしないのじゃ。と、そんなことを言っている時間が惜しいのう」
「ああ、時間が惜しいには同意だな」
夜もずっと続くわけではない。もたもたして朝になれば、他のドワーフが起きてきてしまう。
壁面の様子を手で確認しながら、ウィンス・デイランダール(ka0039)はぶっきらぼうに言う。
「大人だの子供だのの前に、大事なのは、どれだけの研鑽を積んだかだ。……断じて、身長などではない」
「そうそう、小さい方が可愛いしね! エミール君とか、まん丸でドワーフのイメージに一番近いよ! あ、これ押せば良いの?」
「うん、お願いー」
反して、陽山 神樹(ka0479)はテンションも高めにエミールを手伝って機材の準備を行っていた。
クリスティン・ガフ(ka1090)はその間に、全身に巻いたサラシの具合を整え、口元に布を巻き、厳重に装備を身につけていく。
「おお、随分重装備だな」
感心するリーゼリッタを横目に、クリスティンは最後に装備の留め金を確認して息をつく。
「怪我でもしては元も子もないからな。皆も口元くらい保護した方が良い、粉塵で喉をやられるぞ」
「あー、それやった方がいいかもー」
そこへ、諸々の準備を終えたエミールが、またとてとてとハンター達の元へ戻ってきた。そしてクリスティンの話を聞くとぽんと手を叩く。
「……そういうことは早く言え」
「大丈夫だよー、布ならいっぱいあるから。そうだよね、大人なら皆髭があるわけじゃないもんねー」
全員の顔を見渡して、エミールはコロコロと笑った。
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「直線に掘って良い最も硬い場所は何処だ」
軽くエミールが作業の工程や方法、コツなどを説明した後。ウィンスはツルハシを手にするやいなや、真っ先にエミールに尋ねた。尋ねながらもツルハシの柄の感触を確かめ、軽く振り回している。
「アルマもそんな場所を所望するぞ! そう、何処までも真っ直ぐに……じゃ!」
かなりの重量を誇るツルハシを手に、アルマはふんと胸を張る。その姿は道具を扱いきれるか不安になるものだったが、そこは覚醒者。何の問題も無いらしい。
その姿に、エミールは感心と共に憧れを覚える。
「真っ直ぐ掘って欲しいのはねー」
そのような場所は、まだかなりの作業量を必要とする此処では腐るほどに存在する。
エミールは頼もしさに胸を躍らせながら、二人を案内するのだった。
●
他の四人は、戻ってきたエミールと共に中央で図面を囲む。壁に貼られた大きな紙には、無数の線に数字、記号……素人では何が書いてあるのか理解すら難しい。
「ええ? 僕が親方ー?」
指示を仰ぐ、とハンター達に目を向けられ、エミールはあたふたと視線を泳がせる。
「ああ、私は自身の持ちうる力を持って掘ろうと思う。好きに使ってくれ、親方」
「何時か『親方』のような立場になった時の練習、とでも思ってくれれば良いよ。君が依頼主なんだ、もっと堂々として、『ここをこう掘り進めるんだ』と指示すれば良いのさ」
「堀り方だとか専門的なことは分かんねーしな、まどろっこしいのは任せる!」
エミールは、好きに掘って貰ってもフォローする自信があった。しかし、指示ともなると話は全く変わってくる。
「そんなに深く考えなくても、その親方の真似してみるとかどうかな?」
「真似ー?」
神樹のにこやかな笑みを眺めて、エミールは考える。思い出すのは、親方の大きな背中。
「最初は戸惑うだろうけど、何処を掘るのが一番効率的なのかは専門家に聞いた方が良い。そうだろう、エミール君?」
「……うん、やってみるー」
穏やかな、しかし時間の重みを持ったHolmesの声がエミールに届く。
遠くから見るだけでなく、自分はいつかああいう人になりたいのだと、そこで始めて気付いた気がした。
●
ウィンスは立つ。巨大に聳える敵の眼前に。
片手に構えるのは鈍色の相棒――ツルハシだ。今宵だけのパートナーとはいえ、長く共に歩んだ戦友の如く掌に馴染む。
ウィンスは笑う。持ち上げた口角は獰猛に牙を見せる。
「上等だぜ……見せてやるよ、俺の魂の反逆を」
――呟き。次の瞬間、鈍重な雰囲気すら見せていたツルハシが、風と化した。
音すら残して奔る突端が、焦げ茶の塊をまとめて砕く。
なんだ、柔らかいじゃないか。そんな落胆も束の間、塊の向こうに現れたのは、薄暗闇のような色を讃えた岩石のその一部。
「……面白え」
鎧を剥がした先にあった深淵は深く、ウィンスを覗き込んでいた。
ツルハシが翻る。躍るように放たれるは乱舞。無数の打撃が嵐のように、岩を削り、砕き、徹底的に破壊していく。
「敵に対しては! 常に敬意を持つべし! 即ちこの場合! 岩盤に対する敬意ッ!」
木製の柄がミシミシと悲鳴を上げる。しかしそれは同時に、敵を倒せと、巨悪を討ち滅ぼせと、高揚に吼え猛っているようにも聞こえた。
「へ、へへ、いい剣捌きだ……だが、俺も負けない……お前を超える、この槍とっ! 魂の反逆を以て――!!」
「な、なんじゃよう分からんが、とんでもない気迫じゃ……!」
アルマは震えていた。ウィンスの異様なテンションと、意味の分からない言葉に。――そして、何故かそれを見ていると体の底から沸き上がってくる、熱い血の滾りに。
居ても立っても居られず、アルマもまた壁に向き合う。
「一心不乱に、掘ること自体が、まるでアルマの存在であるかのように……じゃ!」
振るうツルハシは、彼女の体よりも大きく、重い。しかし、そんなことなど、この心の前では無意味に等しい。
障害物など関係なく、アルマは黙々と掘り続ける。全身にマテリアルを漲らせ、全力を以てツルハシを振り下ろす。
もはや彼女をツルハシそのものと、そう言っても過言ではないほどに――
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カン、カン、と甲高く小気味良い音がいくつも響く。
エミールの読み通り、覚醒者達の掘削能力は非常に高い。強い腕力に、無尽蔵かと思える体力。そして何よりも、
「むむ! これはレアな鉱石がありそうな予感……ドッセーイ!」
少しだけ硬い岩盤にぶつかり、神樹が大きくかけ声を上げる。一際大きな音と共にツルハシの先が岩に突き刺さると、気合い一閃、追撃にぐんと力を込めてもう一度振り下ろす。
ごろんと砕けて転がり落ちた岩にわっと驚きながら、神樹はエミールに弾けるような笑みを見せた。
「どうエミール君、これってレアじゃないっ?」
この、生き生きとした表情だ。それが親方と大人達のそれにかぶり、何だか嬉しくなってエミールは口元に笑みを浮かべていた。それはただの岩だよー、と声を掛けるのも忘れずに。
「ああ、懐かしいなこの感覚。ちっこい頃以来だ!」
リーゼリッタは楽しそうに自前のツルハシを巧みに操り、ひたすら壁を崩していく。そのツルハシは少し小さいものだったが、戦闘用への特化は岩の破壊にも十分に通用するらしい。
「ふむ、やはりこういう作業は良いね。無心で体を動かすのは実に気持ちが良い」
老いた身といえど、筋力にはまだまだ自信がある。その言葉通りに、Holmesは順調に壁を崩していく。
クリスティンは静かに、割り振られた持ち場を眺めていた。
鋭敏な視野と立体の知覚を研ぎ澄ませ、効率よく掘削可能な箇所を割り出し、それぞれの間合いを計って最も取り回しの効く動きを想定する。更にツルハシの重量、重心も計算に入れ得意とする剛剣術に組み込んでいく。
砕きやすいポイントに当たりを付け、膝を曲げ、腰を落とし、ツルハシを上段から振り下ろす。
全動作の基本は骨盤だ。丹田を意識し、そこを始点に一連の流れを構成する。運足は腰に追従するように、握りはインパクトの瞬間にのみ手首を反らし絞るように力を込め、寸剄の要領で発生した全ての衝撃を一点に収束させる。
呼吸まで律し剣術を応用したその動きと併せ、眉間の奥の上丹田にまで集中させた意識で以て感覚を管理。掘り進むことにより次々と変化する周辺視野を正確に認識、把握し、肩甲骨などからなる上体の動作と共に微細に調節を施す。
過不足無く心技体を成すことにより、剣術を掘削術に昇華する。クリスティンはこの短い時間に、掘削における無駄の一切介在しない動作を身に付けつつあった。
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どれくらいの時間が経っただろうか。
「……のう、エミール。腹が減らぬか?」
ぽつりと、そんな呟きが聞こえた気がした。
時は既に深夜。一食を消化しきる時間はとうに過ぎている。
「疲れたときに! 小腹が空いたときに!」
その声が聞こえたのか、ツルハシを地面に突き刺して唐突に神樹が溌剌な声を上げる。
「そんな時はおにぎりだよ! 俺の故郷ではそんなだったよ!」
だっと坑道の入り口に置いた私物に駆け寄り、神樹は大きめの包みを取り出す。
「食べ物か!」
その匂いを嗅ぎつけたのか、アルマがいつの間にか満面の笑顔で包みごと食らわんばかりに駆けつけていた。
「う~ん、やっぱり梅干しがほしいな! 東方に行けばあったりするのかな。みんなの食べた反応見たいのにな~!」
食いしん坊に限らず、肉体労働に栄養補給は欠かせない。神樹の用意したおにぎりは、かなりの好評を博した。
「うめぼしってー?」
「なんて言ったら良いのかな~。果物なんだけど、漬けたり干したりで酸っぱいんだよ!」
神樹の膝の上にちょこんと乗って美味しそうにおにぎりを頬張りながら、エミールが首を傾げる。
この子が梅干しを食べたら、さぞ面白い反応をするんだろうなーと神樹が残念に思いながら、故郷の話をしつつエミールの頬をプニプニ触っていると、
「おい! 何か出てきたぞ!」
こいつとの死闘に忙しい!と休憩を断り、一人黙々と掘削に励んでいたウィンスの声が響いた。
全員がその場に集まる。見れば、ウィンスががりがりとツルハシの先で壁を擦る先、何か光るものが顔を覗かせていた。
「おー、マテリアル鉱脈だー!」
エミールが驚きの声を上げる。
「おお、レア鉱石っ?」
「おいおい、そんなん出るもんなのかよ」
神樹とリーゼリッタが尋ねると、エミールが食い気味に頷いた。
「たまに出るんだよー。出たら売ってね、皆で宴会するんだー」
鉱石マテリアルと言えば、燃料として有用な鉱石だ。需要が増えてきた現在、師団が買い取ってくれるらしい。
エミールは興奮した様子で、発破の爆薬やドリルを準備しなきゃと作業小屋へ向かう。
「まあ待てよ。そんなもん使ったら、親方達起きちまうぜ?」
そこへ、リーゼリッタが待ったをかけた。何のためにアタシらがいるんだと、力強く腕を叩く。
「ふむ、依頼主の意向なら、全力で応えようじゃないか」
「レア鉱石掘りだー!」
次いで何処か楽しげにHolmesも立ち上がれば、神樹も同じく続く。
「おい、俺の獲物だぞ!」
「複数で掘った方が効率的ならば、そうすべきだろう」
「お腹いっぱいのアルマも、強敵を欲しておるぞ!」
やる気漲る一同にウィンスは不満の声を上げるが、既に辺りに目を配り脳内で動作を構築しているクリスティンと食欲を満たして元気いっぱいのアルマの目には入っていない。
そんな調子で、全員で鉱脈を掘り起こすことになった。
鉱脈は硬い。ともすればツルハシの方が参ってしまいそうな硬度に、
「……ここなら行けんな」
リーゼリッタが思案顔で呟き、持参していた長大な斧を取り出した。
「逃げるなんざ言語道断だ。こいつ、砕いちまっていいんだよな?」
エミールが問いかけに頷くが早いか、リーゼリッタはにやりと笑ってそれを振りかぶる。
防御を捨てた大きな構え。そして一瞬の空白に息を大きく吸い込み、
「――っ!」
一気に吐き出すと同時に大きく地面を蹴り出した。
錆色の刃が空気を引き千切り、強烈な一撃が鉱脈に叩き込まれる。
「ははっ、年甲斐もなく張り切ってしまうね。子供の前でええかっこしいなのは、老人特有の持病みたいなものかな」
リーゼリッタの放った刃の後を追うように、Holmesが飛び出す。
すでにマテリアルは体内を巡り、全身の筋肉が歓喜の声を上げ、ツルハシに込めた祖霊の力はその解放を待ち望んでいる。
咄嗟にリーゼリッタが斧をどかせば、全く同じポイントにHolmesはツルハシを叩き込んだ。
――同時にビシリと、目の前の鉱脈から大きな音が響いた。
「さあ、早く採掘を終わらせようか。その後の作業だって、まだ残っているのだからね」
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結果として、ハンター達の活躍で地下の拡張作業は大きな進展を見せた。何よりも、頑強な鉱脈と岩盤を短時間で掘り抜けたことが大きい。さらには鉱脈を掘り当てたことで、臨時の収入まで得たという大金星だ。
「ありがとうございましたー」
エミールは深々と、ハンター達に頭を下げる。その目は、ハンター達が出会う前よりも、生き生きと輝いているように見えた。
その後、エミールは勝手に依頼をしたことを親方に呆れられたが、どうやら怒られはしなかったらしい。豪快な性格の親方は、やってしまったものは仕方が無いと、作業工程の変更を臨機応変且つ迅速に指示し、更にエミールは彼に憧れるようになった。
エミール自身が「親方」と呼ばれるようになるまで、そう時間はかからないかもしれない。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 Holmes(ka3813) ドワーフ|8才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/06/19 21:11:05 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/19 21:07:38 |