ゲスト
(ka0000)
【東征】観察作業
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/20 19:00
- 完成日
- 2015/07/02 23:42
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●人である意味
――東方の結界範囲を広げる為、かつて稼働していた城を奪還し、龍脈を再起動する――
龍脈を抱く城は大小様々で、各地に点在している。大地のマテリアルの流れは人が操作してどうにかできるものではないから、人の側が自然に合わせて城を築く必要があった。
広く分岐する地点を護る城、広く長く大極を担う城、小さいけれども人の世の政治的に重要な土地だからこそ築かれた城……理由も意義も様々で、城の様式さえも統一されているわけではない。
それはエトファリカ連邦国の在り方そのものを示しているかのようだ。
けれど、それら全てを統括する結界術は同じ物だ。
黒龍が在り、御柱が居り、龍脈が広がり、城が在り、巫女が各地に向かい……御柱が全てを束ね、制御することでその範囲を決定づけている。
御柱か、そうでないか。
天の都か、地方の城か。
結界術に必要な要素は二極化していると言ってもいいだろう。
御柱はそれこそ厳重な護りの中に居るだろう。なら結界術を知るために必要なのは、残されたもう一方。
――要である御柱とは違い、その数は多くある――
『大局に影響のない城でありますれば、調査も手早く終わりましょうぞ』
そう言ったのは誰だったか。ああ、カブラカンだ。
「あの光を反射させし明るき衣類の塊め」
脳裏に浮かぶのは常に白いスーツ、白い帽子を纏った男の姿である。前の拠点で研究を続けていた頃から、それこそ自分が不純なる闇のマテリアルに焼かれる前から研究所を訪れていたあの男。
『御身の為を思って提案しているのですぞ、偉大な~る研究者殿』
頭一つ分高い位置から発せられる声は降ってくる感覚があるせいで、見下されている気になることもある。
だがそれ以上に大仰な身振りが滑稽な道化のようで、そして太鼓持ちらしい男の性質があるせいで、ヴォールがあの男に対して苛つくことはこれまでほとんどないと言っていい。
「確かに……興味があることは否定しないのである」
何よりも研究者としての誇りや興味を擽る言葉が多いから、その男の持ち込む情報を貢物として受け取っていた。
それがオルクスの意図に沿う話であるともわかっているし、それこそが男の狙いだとわかっても居るのだが。
「研究が第一であるのは変わらぬ。我は我だ」
ザッ……
駆っていた高速型リンドヴルムが地に降りたつ。
目の前には今日の標的であり試料である、かつて城だったもの。
ガキィン……!
半ば廃墟と呼べるほど古い外見の建造物。その内部から聞こえるのは剣戟だ。どうやら拠点奪還作戦のうちの一つとして、この城も憤怒の軍とハンター達の戦いの舞台に選ばれているらしい。
「……これから別の城に行っても遅いのであろうよ」
これでも小さめの城を選別したつもりだ。この地に既にハンター達が到着しているというのなら、今から移動しても既に龍脈の再起動が終わっている可能性がある。
「だが、手間も省けているであろうしな」
ハンター達が道を拓いているはずだ、それを利用してしまえばいいではないか。
「しばらく良い子で待っているがいい、我が配下よ。貴様の図体では入り込めぬ」
必要になってから呼べばいいだろう。
そうして、ヴォールは東方の地に自らの足で降り立ったのである。
●城内部
グワオォォオォォ! グァガァァァ!
ハンター達を指さし後続に伝えている、まさにそんな体の叫び声。
「後から後から湧いて出てくるとはこのことね!」
一人の声が仲間達の考えを代弁していた。まだ次が来るのかと、面倒な気分になりながら敵の増援の数をちらりと確認する。
「2体、後ろから更に5体追加! ……ってところですね」
「マジかよ。今までに倒したのいくつだ?」
「3体」
「こっちは2体」
「まだそんなもんか。雑魚の割に手ごたえがあるんだもんよ」
確かに斬り甲斐、撃ち甲斐はある。一撃で消え去るような、それこそ最弱ランクの雑魔ではこうはいかない。
「投げものが少ないだけいいですよ」
時折、廃墟に転がるガラクタらしきものを投げてくることはあるが、注意して見ていれば気付ける程度だ。
「お行儀よく並んでる手前から順に倒せばいいのよ、いつかは終わるでしょ」
妖怪達はその数の利を生かしきれていない。ただ本能のまま、敵であるハンター達を攻撃するために押し寄せてきている。
「無尽蔵に出てくるとも思えませんし、コツコツやっていきましょう」
城内部の殲滅までは依頼されていないが、望ましいとされていることは事実だった。
「……!?」
「どうした?」
1人が、目の前の妖怪達とは別の場所を振り返る。だが仲間が理由を問う頃には首を傾げていた。
「なにか一瞬、別の気配がした気がするんだけれど……」
城の外、今まで歩いてきた方角に居たような気がしたのだ。
「……でも、ほんの瞬間だったから」
気のせいかもしれないと続ける。
「城の周り、人っ子一人いなかったじゃねぇか」
気のせいだろ、と笑い飛ばす一人を別の一人が遮る。
「確かに他に人気はありませんでした。けれど、増援が外から来る可能性も捨てきれません」
「警戒を強める以外どうにもならないわね」
なにせ敵の数が多い。一体一体はそれほどではないのだけれど、零したらあとが面倒だ。
「これ以上戦線をぶれさせると乱戦になる!」
今はまだ一方向に集めたまま。しかし戦線を崩せばたちどころに乱戦になるだろう。
「仕方ねぇか……さっさとこいつらぶっ潰す!」
「また気配を感じたら伝えるわ」
「そうしてください!」
「……あれを抜けていくか。それとも別の道を探すか。面倒であるな」
術を使おうかとデバイスを開いたが、感づかれかけた。あまり得策ではないと思い直し、高速型への合図だけを送り、すぐに懐へと戻した。
せっかくの屋内、肌を焼く陽射しが無いだけ過ごしやすいと思ったが、廃墟の様に所々壊れているおかげで隙間から光が差し込んでくる。灯りの類がいらないのは効率的でいいとは思うけれど。
「面倒なのである」
フードを被りなおし、来た道を戻る。分かれ道のもう一方から別の道を探り、それでも難しいようなら彼らの後を再び尾行するしかないだろう。
多少の仕組みは既に把握しているが、出来ることなら再起動の瞬間まで確認したい。
研究者としての情熱が、ヴォールをこの場所に留めている。
龍脈は大地を巡るマテリアルの流れ。その収束点を護るように城という外殻がある。上空からでは眺めることさえもできない。だからフィールドワークがてら、こうしてデータを集めている。
「クックック……彼奴等のデータも、ついでに採っておくのはどうであろうな」
何かに使える可能性は、ゼロではないだろうから。
――東方の結界範囲を広げる為、かつて稼働していた城を奪還し、龍脈を再起動する――
龍脈を抱く城は大小様々で、各地に点在している。大地のマテリアルの流れは人が操作してどうにかできるものではないから、人の側が自然に合わせて城を築く必要があった。
広く分岐する地点を護る城、広く長く大極を担う城、小さいけれども人の世の政治的に重要な土地だからこそ築かれた城……理由も意義も様々で、城の様式さえも統一されているわけではない。
それはエトファリカ連邦国の在り方そのものを示しているかのようだ。
けれど、それら全てを統括する結界術は同じ物だ。
黒龍が在り、御柱が居り、龍脈が広がり、城が在り、巫女が各地に向かい……御柱が全てを束ね、制御することでその範囲を決定づけている。
御柱か、そうでないか。
天の都か、地方の城か。
結界術に必要な要素は二極化していると言ってもいいだろう。
御柱はそれこそ厳重な護りの中に居るだろう。なら結界術を知るために必要なのは、残されたもう一方。
――要である御柱とは違い、その数は多くある――
『大局に影響のない城でありますれば、調査も手早く終わりましょうぞ』
そう言ったのは誰だったか。ああ、カブラカンだ。
「あの光を反射させし明るき衣類の塊め」
脳裏に浮かぶのは常に白いスーツ、白い帽子を纏った男の姿である。前の拠点で研究を続けていた頃から、それこそ自分が不純なる闇のマテリアルに焼かれる前から研究所を訪れていたあの男。
『御身の為を思って提案しているのですぞ、偉大な~る研究者殿』
頭一つ分高い位置から発せられる声は降ってくる感覚があるせいで、見下されている気になることもある。
だがそれ以上に大仰な身振りが滑稽な道化のようで、そして太鼓持ちらしい男の性質があるせいで、ヴォールがあの男に対して苛つくことはこれまでほとんどないと言っていい。
「確かに……興味があることは否定しないのである」
何よりも研究者としての誇りや興味を擽る言葉が多いから、その男の持ち込む情報を貢物として受け取っていた。
それがオルクスの意図に沿う話であるともわかっているし、それこそが男の狙いだとわかっても居るのだが。
「研究が第一であるのは変わらぬ。我は我だ」
ザッ……
駆っていた高速型リンドヴルムが地に降りたつ。
目の前には今日の標的であり試料である、かつて城だったもの。
ガキィン……!
半ば廃墟と呼べるほど古い外見の建造物。その内部から聞こえるのは剣戟だ。どうやら拠点奪還作戦のうちの一つとして、この城も憤怒の軍とハンター達の戦いの舞台に選ばれているらしい。
「……これから別の城に行っても遅いのであろうよ」
これでも小さめの城を選別したつもりだ。この地に既にハンター達が到着しているというのなら、今から移動しても既に龍脈の再起動が終わっている可能性がある。
「だが、手間も省けているであろうしな」
ハンター達が道を拓いているはずだ、それを利用してしまえばいいではないか。
「しばらく良い子で待っているがいい、我が配下よ。貴様の図体では入り込めぬ」
必要になってから呼べばいいだろう。
そうして、ヴォールは東方の地に自らの足で降り立ったのである。
●城内部
グワオォォオォォ! グァガァァァ!
ハンター達を指さし後続に伝えている、まさにそんな体の叫び声。
「後から後から湧いて出てくるとはこのことね!」
一人の声が仲間達の考えを代弁していた。まだ次が来るのかと、面倒な気分になりながら敵の増援の数をちらりと確認する。
「2体、後ろから更に5体追加! ……ってところですね」
「マジかよ。今までに倒したのいくつだ?」
「3体」
「こっちは2体」
「まだそんなもんか。雑魚の割に手ごたえがあるんだもんよ」
確かに斬り甲斐、撃ち甲斐はある。一撃で消え去るような、それこそ最弱ランクの雑魔ではこうはいかない。
「投げものが少ないだけいいですよ」
時折、廃墟に転がるガラクタらしきものを投げてくることはあるが、注意して見ていれば気付ける程度だ。
「お行儀よく並んでる手前から順に倒せばいいのよ、いつかは終わるでしょ」
妖怪達はその数の利を生かしきれていない。ただ本能のまま、敵であるハンター達を攻撃するために押し寄せてきている。
「無尽蔵に出てくるとも思えませんし、コツコツやっていきましょう」
城内部の殲滅までは依頼されていないが、望ましいとされていることは事実だった。
「……!?」
「どうした?」
1人が、目の前の妖怪達とは別の場所を振り返る。だが仲間が理由を問う頃には首を傾げていた。
「なにか一瞬、別の気配がした気がするんだけれど……」
城の外、今まで歩いてきた方角に居たような気がしたのだ。
「……でも、ほんの瞬間だったから」
気のせいかもしれないと続ける。
「城の周り、人っ子一人いなかったじゃねぇか」
気のせいだろ、と笑い飛ばす一人を別の一人が遮る。
「確かに他に人気はありませんでした。けれど、増援が外から来る可能性も捨てきれません」
「警戒を強める以外どうにもならないわね」
なにせ敵の数が多い。一体一体はそれほどではないのだけれど、零したらあとが面倒だ。
「これ以上戦線をぶれさせると乱戦になる!」
今はまだ一方向に集めたまま。しかし戦線を崩せばたちどころに乱戦になるだろう。
「仕方ねぇか……さっさとこいつらぶっ潰す!」
「また気配を感じたら伝えるわ」
「そうしてください!」
「……あれを抜けていくか。それとも別の道を探すか。面倒であるな」
術を使おうかとデバイスを開いたが、感づかれかけた。あまり得策ではないと思い直し、高速型への合図だけを送り、すぐに懐へと戻した。
せっかくの屋内、肌を焼く陽射しが無いだけ過ごしやすいと思ったが、廃墟の様に所々壊れているおかげで隙間から光が差し込んでくる。灯りの類がいらないのは効率的でいいとは思うけれど。
「面倒なのである」
フードを被りなおし、来た道を戻る。分かれ道のもう一方から別の道を探り、それでも難しいようなら彼らの後を再び尾行するしかないだろう。
多少の仕組みは既に把握しているが、出来ることなら再起動の瞬間まで確認したい。
研究者としての情熱が、ヴォールをこの場所に留めている。
龍脈は大地を巡るマテリアルの流れ。その収束点を護るように城という外殻がある。上空からでは眺めることさえもできない。だからフィールドワークがてら、こうしてデータを集めている。
「クックック……彼奴等のデータも、ついでに採っておくのはどうであろうな」
何かに使える可能性は、ゼロではないだろうから。
リプレイ本文
●
呼び出し中のまま起動させている伝話、聞こえてくるノイズは止まるという事を知らない。
(この数を見ればわかります、よ……!)
碧に輝く瞳を絶えず周囲に走らせながら守原 有希弥(ka0562)自身も常に走り回っている。それでも耳は伝話が放つノイズを少しも聞き漏らさないように意識を向けるのは鍛えているからこそ。
戦闘中に崩れることはないのだろうか、その心配がエステル・クレティエ(ka3783)の胸中に残っている。この場所で交戦するまでマッピングを兼ねて城の朽ち具合も見てきたからこそではあるのだが。建造物の文化も違うこの地で戦う心づもりはしてきたけれど、違うからこそ不安も伴う。
(やれることがあるんだから)
「廻って逸らす優しい風よ、お願い」
紋様が放つ金色の光は自分が覚醒者である証。歪虚達を食い止める為前に出た仲間達に緑の風を纏わせていく。
西方に来てはや数か月、こうして龍脈の再起動に携われることは音羽 美沙樹(ka4757)にとって悲願だ。
「まずは、前衛として盾となり、矛となりますわよ」
例えこの血が末端で西方の脈を繋いでいても、担うこの地が大きな要ではなくても。この場所が故郷であることは変わりない。ハンターの一人として西方で過ごす間も、役割を、故郷を忘れたことはなかった。常よりも気が引き締まり、気分は禊を終えた後のように凪いでいる。
「居すぎだろ……?」
「まだ増えるようだね」
鈴胆 奈月(ka2802)の呟きにシルヴェイラ(ka0726)が返す。部屋の奥、ハンター達が形成する戦線とは反対側の入り口から新たな歪虚が姿を見せ始めていた。
「数の暴力ってこういう事なんだな……」
30体から更に増える気配、数えるのも億劫になってくる。しかし力圧しに負けても居られない。
(思いの外硬いが、切欠も必要だ)
一体ずつ確実に削る策は安全策とも言える。シルヴェイラは有希弥の位置を確認し決意する。
再び奈月に視線を戻し。
「合流前に削る。後ろを頼む!」
ファイアスローワーの効果範囲や、集められた歪虚達の位置、天井の高さを鑑みるに、タイミングは今だ。
足にマテリアルを収束させ回転しながら跳び上がる。再び天井を蹴って強引に飛距離を伸ばした。
「まずはここを切り抜けないとね」
増援を魔導銃で撃ちながら、反動で着地衝撃を軽減し降り立つ。
(この数で離れたら、そりゃあね)
シルヴェイラは歪虚からの攻撃を集めかけている。彼に向かっていく歪虚に狙いを定めライトを向ける奈月。タブレットの駆動に合わせ、紋様が鮮やかさを増しライトから伸びる光が標的を貫く。
「戻って来るまでもたせないとね。頼んだよ守原さん」
「手早く済ませよう」
向かってくる中、一番手前の歪虚に相対するフィオナ・クラレント(ka4101)。
と、見せかけて足を払い転ばせる。踏込みを活かし場所を変え、得物の餌食に。
一連の鮮やかな流れに攻撃された歪虚だけでなく後続も化かされたような空気が漂いかけ……すぐに、ハンター達の攻撃に晒された。
「ッ!」
ほんの一音、一秒にも満たないその違和感を有希弥が捉えた。咄嗟に来た道を振り返ったのは間取りを覚えていたからだ。今歪虚と交戦しているこの部屋に至る道は実はさほど多くない。朽ちた壁や天井、床を乗り越えた先にある部屋とすれば方角は絞りきれるはずがない。けれどそれまでに周囲の把握に努めていたからこそ“違和感が起きるはずのない方角は瞬時に選択肢から外せていた。
(もっと余裕があれば)
それでも断定までは出来なかった。せめて警戒意識の強化をと声を張り上げる。
「他にも居るみたいです! すぐに襲ってこないのが気がかりですが」
挟まれないように、状況の悪化を避けるには目の前の歪虚達を片付けるしかない。
「……お宝は、最奥に……か」
ノイズが示す別の存在も結界の起動が目当てなのだろうかと推測は出来る。しかし一瞬と言うのはどういう事か。遠ざかったと考えるべきなのか、目の前の歪虚とは違う性質をもつ……例えば気配を隠せる可能性もあるのだろうか。戦線の隙間を漏れてくる歪虚に対しメイスを振るいながらもハーヴェルトランス(ka0441)は考えを巡らせる。
「? ……奇妙なものは、注意しておくに越した事はないな」
今はまだ見えない相手というなら。現れた時に対応できるよう、備えるべきだから。
妖怪のような、そう聞いて和服をイメージしていた。
(リアルブルーの東方とは勝手が全く違いやすねぇ)
自分の暮らしていたような日本の空気とはまた違う、やはり異世界なのだと春咲=桜蓮・紫苑(ka3668)は思う。
オレンジのガーベラが紫苑を追いかけ、歪虚に踏まれ消えていく。足を狙いながらその様子に気づき歯がゆくなる。思っていた以上に余裕がない。入れ代わり立ち代わり、時には強引に振るわれる攻撃に規則性があるわけは無く、息をつく余裕もほんのわずか。タイミングを逸すると受け流すので精いっぱいになることもあった。
それでも敵を引き付けている意味はある。
「うまく倒せやしませんかねぇ」
はじめにフィオナがやって見せたように、転倒を狙う。倒すことは勿論だが、物理的に押し返し突破させない事も重要だ。
「王の星の下に生まれた我がこの程度で揺らぐはずがないだろう……やれやれだ」
ひれ伏す知能もないとはな。戦場で金に輝く刀身を閃かせるフィオナの姿は言葉通りの威厳に溢れている。槍も棍棒も彼女に傷をつけることが出来ていない。
グアワァァ!
焦ったような雄叫びと共に投げつけられた瓦礫もほんの少し鎧をかすめた程度。フィオナを揺らがせるどころか、構えを崩すことにもならなかった。
「後ろには行かせませんわ!」
歪虚達の攻撃はそのものを避けるか、漆黒のブレードを間に滑り込ませ、受け流してから身を移す。押し勝とうとする個体は後衛の援護と共に押し戻す。
(気を抜いたら終わりですわね)
自分の装備が薄い所は理解している。特に頭や手足を狙ってくる個体には後れを取らないよう、美沙樹は自らの周囲の歪虚達を見据えた。
敵を引き付ける有希弥はシルヴェイラと奈月がメインでフォロー。フィオナは頑強な装備一式で戦線を崩さない要。その左右を支える紫苑と美沙樹をフォローするのがハーヴェルトランス。
戦線維持が出来ている限り、エステルは雷撃でどれだけ敵を撒きこめるかを考えればよかった。フィオナの後ろから可能な限り歪虚達を視界に収める。敵が多いうちに使い切ってしまう方が有意義な術はそれだけで敵の勢いを削げるはずだ。
「脅威を貫く鋭き光よ、向かって……!」
●
集中砲火の危険性は少なからずある。けれど距離感を使いこなせれば可能性は減らすことが可能だ。
「これから集めます!」
次の一手で範囲攻撃の機会をと、合図代わりの声をあげながら有希弥が前に出る。
「左右で違う攻撃の最速を突詰め、補い合うのが真髄でな……!」
火力ではなく手数を良しとする有希弥にとっては敵に肉薄することもその手法の一つだ。好機と見た歪虚達が群がっていく。けれど近すぎて、標的の彼だけでなく歪虚同士で突きあってしまう。統制はとれていない。指揮官クラスが居ないことも示していた。
有希弥の合図に、二カ所から炎が噴射する。それまでの蓄積も重なり数が減って、戦場の密度が下がる。狙い易さは上がったが、それは敵にとっても同じ。
(動きに幅が出るのは厄介かな)
前に出るべきか否か、迷う意思が答えを見つけるより前に奈月の足は前に出ている。前衛の仲間に並ぶほどではないけれど。
敵の連携はハンターに比べれば甘い。彼らの密度は高い方が数の有利を殺せる狙いもあった。
(一番は、射線の確保だけどね)
再びタブレットに触れる。
「集まっているうちに連発したほうがいいだろう?」
再びスローワーを使うからと声を張り上げた。
「集い遮る強き土よ、紫苑さんを支えて!」
エステルの生み出した壁が紫苑と歪虚達を遮断する。
「今のうちにお願いします!」
「回復は、専門だ。任せて、眼前の敵を見てくれ」
請け負うハーヴェルトランスに頷き、エステルは拳銃を構えようと意識を戻す。自己回復手段を持っていても、回復行動をとれないほどの戦況が紫苑の余裕を奪っていたからこそ、今その穴を埋めなければならない。
(美沙樹さんも、そろそろ……)
壁は同時に一枚しか生み出せない。時間が経過するにつれ歪虚の攻撃精度があがってきているようで、壊されるのも時間の問題になりそうだ。
紫苑を戦線に再び送り出した後。美沙樹に向ける柔らかい光の中にもぱちりと雷撃に似た光が混じる。
視界の隅にそれを感じ取りながらも、ハーヴェルトランスの視線は戦場を走っている。
(安全を確保するためにも、警戒しておいた方が良いだろう)
戦線を壊そうと狙ってくる個体は把握が早い方がいい。統率が無いからこそ個体差が際立つ乱戦において、少しの見落としも戦況を左右する可能性があった。
憤怒の歪虚達も残り少なくなったその時。
「!?」
伝話を持つ有希弥だけでなく、ハンター達全員の耳にそれは届いた。途中で感じ取ったほんの小さなものとは似つかない、存在を主張する音。
いっそ規則的にも思える頻度で発せられる大きなノイズが続いている。それは確かに今戦う歪虚達とは違う強力な存在を示している。
けれど、それだけ。
何故か襲撃の気配はない、不気味なものだ。
「外で待ち構えている、とかですかねぃ?」
「攻撃本能を抑えられるほどの強力な歪虚が、規模の小さい神殿に差し向けられる意図が分かりませんわ」
移動していることを示すようにノイズは一定ではなかった。方角が断定しきれないのもそのせいだ。対象が動き続けているというのなら納得はできた。
●
ハンター達の様子を探るまでもなく、高速型が近づいてきていることは読み取っていた。乱戦真っ只中の階下とは違い、この場所は自分しかいない。歪虚達がハンター達の元へ全て出払ったのを確認してから移動してきたのだから。
「流石に見通せないのである」
床の穴は小さすぎて階下を覗き見ることはできない。察せられるのは正負それぞれのマテリアルの存在と、更に深き場所、龍脈の収束点。
(彼奴らも気づいているのであろうよ)
自分の術が発する僅かなマテリアルも捉えていたようだから。高速型が上空に居るくらいは予想も出来ているだろう。
再びデバイスを取り出す。動くのはもう少し後だ。
●
一息つく暇もない。得物は抜身のままフィオナは天井に視線を向ける。
「さあ、休む間は無いぞ。雑魚は片付けたが、一番厄介そうな客が残っているしな」
どこから姿を見せるのかわからないと、ハンター達は警戒を強める。憤怒の歪虚達を全て倒しても、ノイズはまだ続いている。
ふいに、小さなノイズが重なった。
「気配が二つに」
気付いた有希弥の声を遮るように、彼らの上空で轟音が響き渡った。
「神殿が!?」
「とにかく起動を!」
轟音と共に神殿が揺れているのが分かる。地震にも似ている。
「邪魔されるのは、本意ではないからな」
回復術の温存もできなかった今、最優先は龍脈の活性化。ハーヴェルトランスがマテリアルの流れ行く先を求めて歩み出す。
シルヴェイラもすぐに追う。種族故に彼らの歩みは迷いがない。二人の先導に仲間達もついていく。
「天井に覗き込めるほどの穴は見つからなかったが」
ひとつ頼みがあるのです、シルヴェイラが急ぎ口調で告げる。自分達が上方に何者かの存在を感じ取っているように、向こうもこちらの戦闘が終わったことを察している可能性がある。だからこそ急がなければならないこの状況。
「最後に一度だけ、一芝居うってみようかと」
けれど気にせず活性化してほしいとのこと。
「わかった……だが、あんたも無理に試すな」
孤立する危険性もある。皆体を動かせてはいるが、それぞれに傷がある。それこそノイズの大きさから考える敵の強大さを思うに、不意を突かれたら危険だ。
●
「あれが祭壇のはず! 似たものを見たことがありますわ」
美沙樹が示す先に在るのは朽ちた、台座らしき場所。そのマテリアルの濃度はエルフではなくても感じ取れるほど強まっている。
轟音は更に大きくなっており、皆声を張り上げなければ会話もままならない。シルヴェイラが手前の位置で止まり、天井を仰ぐ。
「もうヒビが入っている!」
「真っ直ぐ向かって!」
奈月が天井にナイフを添えたライトを向ける。大きな瓦礫落ちてきた時の為に、虎の子の一回、機導砲を使うつもりだ。
「あぶる余裕もありませんねぃ」
瓦礫を釘バットで弾き飛ばしながら駆ける紫苑は急かされているようだと思う、ハンター達全員同じ気持ちだろう。
「集い遮れ!」
エステルが急ぎ生みだした壁が、瓦礫が崩れ落ちる直前に祭壇の上空を護る。
「皆さんも出来るだけ壁の下に!」
降ってくる瓦礫を少しでも凌げるのはその場所だけ、壁の下か、穴のない地点かに分かれる。
「やってくれ。客の相手はこちらでする」
怪我がほぼないからこそ動きも軽く。シルヴェイラに付き合い護衛しながら促すフィオナ。
「何方ですの?」
降り続く瓦礫を斬り伏せながら尋ねる美沙樹。返答次第ではすぐ動けるようにと思いつつも逆光が相手の顔を捉えさせてくれない。
穴の向こう側。
剣機リンドヴルムが、見えるはずの空を遮っている。
「面倒な手間が増えたのである」
剣の尾で穴を広げる轟音の中から聞こえる、不服そうな声。
ローブ姿の男が上の階、穴の縁からこちらを見下ろしている。
「貴様が余計な客か……殴り合いに来たというのでないなら、双方退くという所で落とさんか?」
目当ては龍脈なのは明白だ。ただ行為が読めないからこそフィオナが問う。
「我も暇ではないのである」
さっさと起動しろと急かされる。
「言われなくてもそうしまさぁ」
紫苑が男に銃撃を放てば、闇色に光る壁が遮るように出現した。すぐに霧散する。
「防御障壁?」
「……にしては不快感がぬぐえないな」
奈月が己のスキルと比較し、シルヴェイラが負のマテリアルを感じ取る。
数拍。
「なるほどである」
頷いて踵を返す男と上階へ降り立つ高速型。唸るガトリングの回転音は掃射前の合図。手慣れた動きで騎乗した男は既にハンター達も、祭壇さえも見ていない。
問う暇もなく、弾丸がハンター達を襲った。
掃射後すぐに飛び立つ高速型。
背に仕掛けた攻撃は届いたものの、撃ち落とせるものではなく。ただ飛影を見送った後、結界が起動した。
マテリアルを込めスイッチを入れる程度の、数分で済む行程だったはずだ。
「これが結界術か」
達成感を得るための呟きが漏れる。
歪虚達と交戦開始してから今まで長期戦と言うほどでもなかったというのに。ハンター達は張りつめてさせていた神経をやっとの思いで緩めたのだった。
呼び出し中のまま起動させている伝話、聞こえてくるノイズは止まるという事を知らない。
(この数を見ればわかります、よ……!)
碧に輝く瞳を絶えず周囲に走らせながら守原 有希弥(ka0562)自身も常に走り回っている。それでも耳は伝話が放つノイズを少しも聞き漏らさないように意識を向けるのは鍛えているからこそ。
戦闘中に崩れることはないのだろうか、その心配がエステル・クレティエ(ka3783)の胸中に残っている。この場所で交戦するまでマッピングを兼ねて城の朽ち具合も見てきたからこそではあるのだが。建造物の文化も違うこの地で戦う心づもりはしてきたけれど、違うからこそ不安も伴う。
(やれることがあるんだから)
「廻って逸らす優しい風よ、お願い」
紋様が放つ金色の光は自分が覚醒者である証。歪虚達を食い止める為前に出た仲間達に緑の風を纏わせていく。
西方に来てはや数か月、こうして龍脈の再起動に携われることは音羽 美沙樹(ka4757)にとって悲願だ。
「まずは、前衛として盾となり、矛となりますわよ」
例えこの血が末端で西方の脈を繋いでいても、担うこの地が大きな要ではなくても。この場所が故郷であることは変わりない。ハンターの一人として西方で過ごす間も、役割を、故郷を忘れたことはなかった。常よりも気が引き締まり、気分は禊を終えた後のように凪いでいる。
「居すぎだろ……?」
「まだ増えるようだね」
鈴胆 奈月(ka2802)の呟きにシルヴェイラ(ka0726)が返す。部屋の奥、ハンター達が形成する戦線とは反対側の入り口から新たな歪虚が姿を見せ始めていた。
「数の暴力ってこういう事なんだな……」
30体から更に増える気配、数えるのも億劫になってくる。しかし力圧しに負けても居られない。
(思いの外硬いが、切欠も必要だ)
一体ずつ確実に削る策は安全策とも言える。シルヴェイラは有希弥の位置を確認し決意する。
再び奈月に視線を戻し。
「合流前に削る。後ろを頼む!」
ファイアスローワーの効果範囲や、集められた歪虚達の位置、天井の高さを鑑みるに、タイミングは今だ。
足にマテリアルを収束させ回転しながら跳び上がる。再び天井を蹴って強引に飛距離を伸ばした。
「まずはここを切り抜けないとね」
増援を魔導銃で撃ちながら、反動で着地衝撃を軽減し降り立つ。
(この数で離れたら、そりゃあね)
シルヴェイラは歪虚からの攻撃を集めかけている。彼に向かっていく歪虚に狙いを定めライトを向ける奈月。タブレットの駆動に合わせ、紋様が鮮やかさを増しライトから伸びる光が標的を貫く。
「戻って来るまでもたせないとね。頼んだよ守原さん」
「手早く済ませよう」
向かってくる中、一番手前の歪虚に相対するフィオナ・クラレント(ka4101)。
と、見せかけて足を払い転ばせる。踏込みを活かし場所を変え、得物の餌食に。
一連の鮮やかな流れに攻撃された歪虚だけでなく後続も化かされたような空気が漂いかけ……すぐに、ハンター達の攻撃に晒された。
「ッ!」
ほんの一音、一秒にも満たないその違和感を有希弥が捉えた。咄嗟に来た道を振り返ったのは間取りを覚えていたからだ。今歪虚と交戦しているこの部屋に至る道は実はさほど多くない。朽ちた壁や天井、床を乗り越えた先にある部屋とすれば方角は絞りきれるはずがない。けれどそれまでに周囲の把握に努めていたからこそ“違和感が起きるはずのない方角は瞬時に選択肢から外せていた。
(もっと余裕があれば)
それでも断定までは出来なかった。せめて警戒意識の強化をと声を張り上げる。
「他にも居るみたいです! すぐに襲ってこないのが気がかりですが」
挟まれないように、状況の悪化を避けるには目の前の歪虚達を片付けるしかない。
「……お宝は、最奥に……か」
ノイズが示す別の存在も結界の起動が目当てなのだろうかと推測は出来る。しかし一瞬と言うのはどういう事か。遠ざかったと考えるべきなのか、目の前の歪虚とは違う性質をもつ……例えば気配を隠せる可能性もあるのだろうか。戦線の隙間を漏れてくる歪虚に対しメイスを振るいながらもハーヴェルトランス(ka0441)は考えを巡らせる。
「? ……奇妙なものは、注意しておくに越した事はないな」
今はまだ見えない相手というなら。現れた時に対応できるよう、備えるべきだから。
妖怪のような、そう聞いて和服をイメージしていた。
(リアルブルーの東方とは勝手が全く違いやすねぇ)
自分の暮らしていたような日本の空気とはまた違う、やはり異世界なのだと春咲=桜蓮・紫苑(ka3668)は思う。
オレンジのガーベラが紫苑を追いかけ、歪虚に踏まれ消えていく。足を狙いながらその様子に気づき歯がゆくなる。思っていた以上に余裕がない。入れ代わり立ち代わり、時には強引に振るわれる攻撃に規則性があるわけは無く、息をつく余裕もほんのわずか。タイミングを逸すると受け流すので精いっぱいになることもあった。
それでも敵を引き付けている意味はある。
「うまく倒せやしませんかねぇ」
はじめにフィオナがやって見せたように、転倒を狙う。倒すことは勿論だが、物理的に押し返し突破させない事も重要だ。
「王の星の下に生まれた我がこの程度で揺らぐはずがないだろう……やれやれだ」
ひれ伏す知能もないとはな。戦場で金に輝く刀身を閃かせるフィオナの姿は言葉通りの威厳に溢れている。槍も棍棒も彼女に傷をつけることが出来ていない。
グアワァァ!
焦ったような雄叫びと共に投げつけられた瓦礫もほんの少し鎧をかすめた程度。フィオナを揺らがせるどころか、構えを崩すことにもならなかった。
「後ろには行かせませんわ!」
歪虚達の攻撃はそのものを避けるか、漆黒のブレードを間に滑り込ませ、受け流してから身を移す。押し勝とうとする個体は後衛の援護と共に押し戻す。
(気を抜いたら終わりですわね)
自分の装備が薄い所は理解している。特に頭や手足を狙ってくる個体には後れを取らないよう、美沙樹は自らの周囲の歪虚達を見据えた。
敵を引き付ける有希弥はシルヴェイラと奈月がメインでフォロー。フィオナは頑強な装備一式で戦線を崩さない要。その左右を支える紫苑と美沙樹をフォローするのがハーヴェルトランス。
戦線維持が出来ている限り、エステルは雷撃でどれだけ敵を撒きこめるかを考えればよかった。フィオナの後ろから可能な限り歪虚達を視界に収める。敵が多いうちに使い切ってしまう方が有意義な術はそれだけで敵の勢いを削げるはずだ。
「脅威を貫く鋭き光よ、向かって……!」
●
集中砲火の危険性は少なからずある。けれど距離感を使いこなせれば可能性は減らすことが可能だ。
「これから集めます!」
次の一手で範囲攻撃の機会をと、合図代わりの声をあげながら有希弥が前に出る。
「左右で違う攻撃の最速を突詰め、補い合うのが真髄でな……!」
火力ではなく手数を良しとする有希弥にとっては敵に肉薄することもその手法の一つだ。好機と見た歪虚達が群がっていく。けれど近すぎて、標的の彼だけでなく歪虚同士で突きあってしまう。統制はとれていない。指揮官クラスが居ないことも示していた。
有希弥の合図に、二カ所から炎が噴射する。それまでの蓄積も重なり数が減って、戦場の密度が下がる。狙い易さは上がったが、それは敵にとっても同じ。
(動きに幅が出るのは厄介かな)
前に出るべきか否か、迷う意思が答えを見つけるより前に奈月の足は前に出ている。前衛の仲間に並ぶほどではないけれど。
敵の連携はハンターに比べれば甘い。彼らの密度は高い方が数の有利を殺せる狙いもあった。
(一番は、射線の確保だけどね)
再びタブレットに触れる。
「集まっているうちに連発したほうがいいだろう?」
再びスローワーを使うからと声を張り上げた。
「集い遮る強き土よ、紫苑さんを支えて!」
エステルの生み出した壁が紫苑と歪虚達を遮断する。
「今のうちにお願いします!」
「回復は、専門だ。任せて、眼前の敵を見てくれ」
請け負うハーヴェルトランスに頷き、エステルは拳銃を構えようと意識を戻す。自己回復手段を持っていても、回復行動をとれないほどの戦況が紫苑の余裕を奪っていたからこそ、今その穴を埋めなければならない。
(美沙樹さんも、そろそろ……)
壁は同時に一枚しか生み出せない。時間が経過するにつれ歪虚の攻撃精度があがってきているようで、壊されるのも時間の問題になりそうだ。
紫苑を戦線に再び送り出した後。美沙樹に向ける柔らかい光の中にもぱちりと雷撃に似た光が混じる。
視界の隅にそれを感じ取りながらも、ハーヴェルトランスの視線は戦場を走っている。
(安全を確保するためにも、警戒しておいた方が良いだろう)
戦線を壊そうと狙ってくる個体は把握が早い方がいい。統率が無いからこそ個体差が際立つ乱戦において、少しの見落としも戦況を左右する可能性があった。
憤怒の歪虚達も残り少なくなったその時。
「!?」
伝話を持つ有希弥だけでなく、ハンター達全員の耳にそれは届いた。途中で感じ取ったほんの小さなものとは似つかない、存在を主張する音。
いっそ規則的にも思える頻度で発せられる大きなノイズが続いている。それは確かに今戦う歪虚達とは違う強力な存在を示している。
けれど、それだけ。
何故か襲撃の気配はない、不気味なものだ。
「外で待ち構えている、とかですかねぃ?」
「攻撃本能を抑えられるほどの強力な歪虚が、規模の小さい神殿に差し向けられる意図が分かりませんわ」
移動していることを示すようにノイズは一定ではなかった。方角が断定しきれないのもそのせいだ。対象が動き続けているというのなら納得はできた。
●
ハンター達の様子を探るまでもなく、高速型が近づいてきていることは読み取っていた。乱戦真っ只中の階下とは違い、この場所は自分しかいない。歪虚達がハンター達の元へ全て出払ったのを確認してから移動してきたのだから。
「流石に見通せないのである」
床の穴は小さすぎて階下を覗き見ることはできない。察せられるのは正負それぞれのマテリアルの存在と、更に深き場所、龍脈の収束点。
(彼奴らも気づいているのであろうよ)
自分の術が発する僅かなマテリアルも捉えていたようだから。高速型が上空に居るくらいは予想も出来ているだろう。
再びデバイスを取り出す。動くのはもう少し後だ。
●
一息つく暇もない。得物は抜身のままフィオナは天井に視線を向ける。
「さあ、休む間は無いぞ。雑魚は片付けたが、一番厄介そうな客が残っているしな」
どこから姿を見せるのかわからないと、ハンター達は警戒を強める。憤怒の歪虚達を全て倒しても、ノイズはまだ続いている。
ふいに、小さなノイズが重なった。
「気配が二つに」
気付いた有希弥の声を遮るように、彼らの上空で轟音が響き渡った。
「神殿が!?」
「とにかく起動を!」
轟音と共に神殿が揺れているのが分かる。地震にも似ている。
「邪魔されるのは、本意ではないからな」
回復術の温存もできなかった今、最優先は龍脈の活性化。ハーヴェルトランスがマテリアルの流れ行く先を求めて歩み出す。
シルヴェイラもすぐに追う。種族故に彼らの歩みは迷いがない。二人の先導に仲間達もついていく。
「天井に覗き込めるほどの穴は見つからなかったが」
ひとつ頼みがあるのです、シルヴェイラが急ぎ口調で告げる。自分達が上方に何者かの存在を感じ取っているように、向こうもこちらの戦闘が終わったことを察している可能性がある。だからこそ急がなければならないこの状況。
「最後に一度だけ、一芝居うってみようかと」
けれど気にせず活性化してほしいとのこと。
「わかった……だが、あんたも無理に試すな」
孤立する危険性もある。皆体を動かせてはいるが、それぞれに傷がある。それこそノイズの大きさから考える敵の強大さを思うに、不意を突かれたら危険だ。
●
「あれが祭壇のはず! 似たものを見たことがありますわ」
美沙樹が示す先に在るのは朽ちた、台座らしき場所。そのマテリアルの濃度はエルフではなくても感じ取れるほど強まっている。
轟音は更に大きくなっており、皆声を張り上げなければ会話もままならない。シルヴェイラが手前の位置で止まり、天井を仰ぐ。
「もうヒビが入っている!」
「真っ直ぐ向かって!」
奈月が天井にナイフを添えたライトを向ける。大きな瓦礫落ちてきた時の為に、虎の子の一回、機導砲を使うつもりだ。
「あぶる余裕もありませんねぃ」
瓦礫を釘バットで弾き飛ばしながら駆ける紫苑は急かされているようだと思う、ハンター達全員同じ気持ちだろう。
「集い遮れ!」
エステルが急ぎ生みだした壁が、瓦礫が崩れ落ちる直前に祭壇の上空を護る。
「皆さんも出来るだけ壁の下に!」
降ってくる瓦礫を少しでも凌げるのはその場所だけ、壁の下か、穴のない地点かに分かれる。
「やってくれ。客の相手はこちらでする」
怪我がほぼないからこそ動きも軽く。シルヴェイラに付き合い護衛しながら促すフィオナ。
「何方ですの?」
降り続く瓦礫を斬り伏せながら尋ねる美沙樹。返答次第ではすぐ動けるようにと思いつつも逆光が相手の顔を捉えさせてくれない。
穴の向こう側。
剣機リンドヴルムが、見えるはずの空を遮っている。
「面倒な手間が増えたのである」
剣の尾で穴を広げる轟音の中から聞こえる、不服そうな声。
ローブ姿の男が上の階、穴の縁からこちらを見下ろしている。
「貴様が余計な客か……殴り合いに来たというのでないなら、双方退くという所で落とさんか?」
目当ては龍脈なのは明白だ。ただ行為が読めないからこそフィオナが問う。
「我も暇ではないのである」
さっさと起動しろと急かされる。
「言われなくてもそうしまさぁ」
紫苑が男に銃撃を放てば、闇色に光る壁が遮るように出現した。すぐに霧散する。
「防御障壁?」
「……にしては不快感がぬぐえないな」
奈月が己のスキルと比較し、シルヴェイラが負のマテリアルを感じ取る。
数拍。
「なるほどである」
頷いて踵を返す男と上階へ降り立つ高速型。唸るガトリングの回転音は掃射前の合図。手慣れた動きで騎乗した男は既にハンター達も、祭壇さえも見ていない。
問う暇もなく、弾丸がハンター達を襲った。
掃射後すぐに飛び立つ高速型。
背に仕掛けた攻撃は届いたものの、撃ち落とせるものではなく。ただ飛影を見送った後、結界が起動した。
マテリアルを込めスイッチを入れる程度の、数分で済む行程だったはずだ。
「これが結界術か」
達成感を得るための呟きが漏れる。
歪虚達と交戦開始してから今まで長期戦と言うほどでもなかったというのに。ハンター達は張りつめてさせていた神経をやっとの思いで緩めたのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問はこちら エステル・クレティエ(ka3783) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/06/17 03:21:07 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/15 22:41:01 |
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龍脈の再起動にむけて 音羽 美沙樹(ka4757) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2015/06/20 18:46:00 |