ゲスト
(ka0000)
クルセイダーの邂逅
マスター:秋風落葉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/22 09:00
- 完成日
- 2015/06/27 19:16
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●忍び寄る影
「ここは素敵な場所ですね! ロザリーさん!」
「でしょう? 先日、ある依頼の際に見つけたのですわ」
テレスの言葉に、ロザリーことロザリア=オルラランは微笑んだ。
グラズヘイム王国東部に位置するリンダールの森。森の中でもここは街道からそう離れておらず、背の低い草が広がっているだけで木もまばらだ。小鳥達はのどかにさえずり、初夏の日差しを浴びて色鮮やかな蝶が舞っている。
二人はそれぞれ木陰に荷物を置くと、広場でお互い向かい合い、武器を構えた。別に果し合いをしようというわけではない。二人はいずれもクルセイダーであり、今日は戦闘の訓練をしようということでこの場所にやって来たのだ。
「いきますよ、テレス」
「ええ、どこからでも?」
ロザリーの言葉に不敵な笑みを浮かべるテレス。
ロザリーの大きな瞳がすっと細められ、彼女は地を蹴った。ロザリーの右手のメイスが横薙ぎに振るわれ、それをテレスが丸盾で受ける。剣呑な音に梢の鳥は空へと飛び立った。
衝撃を受け流したテレスは距離を取ると、手に持つロッドをかざし、言葉を発した。同時に光の弾がロザリーへと放たれる。ロザリーはすばやく身をかわし、再び間合いを詰めると今度は彼女のメイスがテレスの胴を捉え……命中する寸前でぴたりと止められた。
「……さすがですね」
「なんの、まだまだですわ」
ロザリーとテレスは一旦離れ、再び訓練に没頭する。
そんな二人の側で、木々の中からひょこりと顔を出した一体の生物がいた。その生物は二人の荷物が置かれている場所にゆっくりと忍び寄る……。
こそこそと動くその生き物の姿は、一言で表現すると二本の脚で立つ猫であった。
●出会い、そして……
「はっ!!」
小さな休憩を何度か挟み、二人の聖導士はそれぞれの得物を振るい、またはスキルを行使した。
何度目かの打ち合いの後、ロザリーが口を開く。
「いい汗をかきました……そろそろお昼にしましょうか?」
「そうですね、ロザリーさん!」
同じことを考えていたのか、テレスも笑顔で応じた。
「あたし、今日はツナサンドを作ってきたんです!」
「ツナサンドですか! それは楽しみですね」
二人は先日、とある事件において、一緒にツナサンドを食べる機会があった。その時以来、彼女達はサンドイッチの中でもツナサンドがお気に入りとなっていた。
木陰の荷物に近寄り、中からバスケットを取り出すと蓋を開けるテレス。
ぱかっ。
……無い。
テレスが作ってきたというツナサンドは影も形もなく、籠の中にはパンくずがわずかに散らばっているだけであった。
「……」
しばし硬直していたテレスだったが、やがてゆっくりとロザリーの方を振り向いた。
「……ロザリーさん」
「はい?」
「その……いくらお腹が減っていたからといって、つまみ食いはどうかと思います……あたしも楽しみにしていたのに……」
「ちょちょちょ、ちょっとお待ちなさいテレス!? それは誤解ですわ! わたくしはそんなはしたない事はしておりませんわよ!?」
テレスが差し出した空のバスケットを見て、ロザリーは慌てて手を振った。しかし、テレスの瞳から疑念が晴れた様子はない。
「き、きっとあれでしょう。テレスが間違って別のバスケットを持ってきてしまったとか……そんなところでは?」
「そんなことはないと思うんですが……んー」
まだ納得したわけではないだろうが、気勢を削がれたらしいテレスに対し、ロザリーは言葉を続ける。
「仲間を疑うなんて、あってはならないことですわ。そうでしょう、テレス?」
「……そうですね……ごめんなさい、ロザリーさん。あまりのショックに動転していたみたいです……」
頭を下げるテレスに笑顔で頷くロザリー。
「分かっていただければよいのですわ……実はわたくしもツナサンドを作ってきたのですよ。テレスと考えることは一緒でしたね……ふふっ」
「ロザリーさん……」
自分のバスケットをいそいそと引き寄せるロザリー。もはや空腹も限界に近い。バスケットの蓋に素早く手を伸ばす。
ぱかっ。
……無い。
ロザリーが作ってきたというツナサンドは影も形もなく、テレスのそれと同様に籠の中にはパンくずがわずかに散らばっているだけであった。
「……」
ロザリーは蓋を開けた姿勢でしばらく動かない。やがて、顔を下に向けたままぽつりとつぶやいた。
「……テレス」
「はい?」
どんよりとした瞳をテレスへと向けるロザリー。
「今すぐ謝罪するなら、まだ間に合いますよ?」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいよロザリーさん!? さっきと言ってることが逆じゃないですか!? 仲間を疑うなんてあってはならないと言ってましたよね!?」
テレスもバスケットの中身を見てロザリーが何を考えているかに気付き、慌てて手を振った。だが、ロザリーの疑いの眼差しはそのままである。
「わたくしもテレスを疑いたくはありません……しかしここに動かぬ証拠があります……!」
盗みを犯した我が子を責める母のように悲哀に満ちた表情で、空のバスケットを突きつけるロザリー。
「誤解ですよ! ロザリーさんこそ間違って別のバスケットを持ってきたんじゃ!?」
「……」
そんなことはないはずだが、先ほど自分が発した言葉をそのまま返されるとそれはそれで否定しづらい。
彼女達の間を沈黙が支配した。ややあって、二人のお腹がきゅるると鳴る。すくなくとも、両者がつまみ食いをしていないことは確かなようだ。
「仕方ないですね……あたし、いつも非常食を持ち歩いてるんで、今日はそれを食べましょう……」
テレスはベルトポーチに収めているナッツ類が入った袋を取り出す。中から木の実を摘み上げたテレスだったが、空腹のためか彼女はそれを取り落としてしまった。
ころころと転がったクルミを、突然茂みから出てきた何者かがダイビングキャッチした。五体投地するかのように地面に倒れているのは先ほどの猫である。
喜びの表情を浮かべ、クルミを手に二本脚で立ち上がる猫だったが、はたと視線に気付き、顔を横に向けた。そこには、二人の人間が自分を見つめている姿があった。
二人の視線が自分の口元に注がれていることに気付き、二本脚で立つ猫はツナサンドを食べた後に口を拭っていなかったことに思い至る。
猫は唐突に哀れを誘う声で鳴き始めたが……。
「テレス……どうやら犯人が見つかったようです……ユグディラ、でしたか?」
「ええ……あたしも初めて見ましたが……どうやら悪い生き物のようですね……」
二人は凄惨な笑みと共に己の武器を手に取った。
「ここは素敵な場所ですね! ロザリーさん!」
「でしょう? 先日、ある依頼の際に見つけたのですわ」
テレスの言葉に、ロザリーことロザリア=オルラランは微笑んだ。
グラズヘイム王国東部に位置するリンダールの森。森の中でもここは街道からそう離れておらず、背の低い草が広がっているだけで木もまばらだ。小鳥達はのどかにさえずり、初夏の日差しを浴びて色鮮やかな蝶が舞っている。
二人はそれぞれ木陰に荷物を置くと、広場でお互い向かい合い、武器を構えた。別に果し合いをしようというわけではない。二人はいずれもクルセイダーであり、今日は戦闘の訓練をしようということでこの場所にやって来たのだ。
「いきますよ、テレス」
「ええ、どこからでも?」
ロザリーの言葉に不敵な笑みを浮かべるテレス。
ロザリーの大きな瞳がすっと細められ、彼女は地を蹴った。ロザリーの右手のメイスが横薙ぎに振るわれ、それをテレスが丸盾で受ける。剣呑な音に梢の鳥は空へと飛び立った。
衝撃を受け流したテレスは距離を取ると、手に持つロッドをかざし、言葉を発した。同時に光の弾がロザリーへと放たれる。ロザリーはすばやく身をかわし、再び間合いを詰めると今度は彼女のメイスがテレスの胴を捉え……命中する寸前でぴたりと止められた。
「……さすがですね」
「なんの、まだまだですわ」
ロザリーとテレスは一旦離れ、再び訓練に没頭する。
そんな二人の側で、木々の中からひょこりと顔を出した一体の生物がいた。その生物は二人の荷物が置かれている場所にゆっくりと忍び寄る……。
こそこそと動くその生き物の姿は、一言で表現すると二本の脚で立つ猫であった。
●出会い、そして……
「はっ!!」
小さな休憩を何度か挟み、二人の聖導士はそれぞれの得物を振るい、またはスキルを行使した。
何度目かの打ち合いの後、ロザリーが口を開く。
「いい汗をかきました……そろそろお昼にしましょうか?」
「そうですね、ロザリーさん!」
同じことを考えていたのか、テレスも笑顔で応じた。
「あたし、今日はツナサンドを作ってきたんです!」
「ツナサンドですか! それは楽しみですね」
二人は先日、とある事件において、一緒にツナサンドを食べる機会があった。その時以来、彼女達はサンドイッチの中でもツナサンドがお気に入りとなっていた。
木陰の荷物に近寄り、中からバスケットを取り出すと蓋を開けるテレス。
ぱかっ。
……無い。
テレスが作ってきたというツナサンドは影も形もなく、籠の中にはパンくずがわずかに散らばっているだけであった。
「……」
しばし硬直していたテレスだったが、やがてゆっくりとロザリーの方を振り向いた。
「……ロザリーさん」
「はい?」
「その……いくらお腹が減っていたからといって、つまみ食いはどうかと思います……あたしも楽しみにしていたのに……」
「ちょちょちょ、ちょっとお待ちなさいテレス!? それは誤解ですわ! わたくしはそんなはしたない事はしておりませんわよ!?」
テレスが差し出した空のバスケットを見て、ロザリーは慌てて手を振った。しかし、テレスの瞳から疑念が晴れた様子はない。
「き、きっとあれでしょう。テレスが間違って別のバスケットを持ってきてしまったとか……そんなところでは?」
「そんなことはないと思うんですが……んー」
まだ納得したわけではないだろうが、気勢を削がれたらしいテレスに対し、ロザリーは言葉を続ける。
「仲間を疑うなんて、あってはならないことですわ。そうでしょう、テレス?」
「……そうですね……ごめんなさい、ロザリーさん。あまりのショックに動転していたみたいです……」
頭を下げるテレスに笑顔で頷くロザリー。
「分かっていただければよいのですわ……実はわたくしもツナサンドを作ってきたのですよ。テレスと考えることは一緒でしたね……ふふっ」
「ロザリーさん……」
自分のバスケットをいそいそと引き寄せるロザリー。もはや空腹も限界に近い。バスケットの蓋に素早く手を伸ばす。
ぱかっ。
……無い。
ロザリーが作ってきたというツナサンドは影も形もなく、テレスのそれと同様に籠の中にはパンくずがわずかに散らばっているだけであった。
「……」
ロザリーは蓋を開けた姿勢でしばらく動かない。やがて、顔を下に向けたままぽつりとつぶやいた。
「……テレス」
「はい?」
どんよりとした瞳をテレスへと向けるロザリー。
「今すぐ謝罪するなら、まだ間に合いますよ?」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいよロザリーさん!? さっきと言ってることが逆じゃないですか!? 仲間を疑うなんてあってはならないと言ってましたよね!?」
テレスもバスケットの中身を見てロザリーが何を考えているかに気付き、慌てて手を振った。だが、ロザリーの疑いの眼差しはそのままである。
「わたくしもテレスを疑いたくはありません……しかしここに動かぬ証拠があります……!」
盗みを犯した我が子を責める母のように悲哀に満ちた表情で、空のバスケットを突きつけるロザリー。
「誤解ですよ! ロザリーさんこそ間違って別のバスケットを持ってきたんじゃ!?」
「……」
そんなことはないはずだが、先ほど自分が発した言葉をそのまま返されるとそれはそれで否定しづらい。
彼女達の間を沈黙が支配した。ややあって、二人のお腹がきゅるると鳴る。すくなくとも、両者がつまみ食いをしていないことは確かなようだ。
「仕方ないですね……あたし、いつも非常食を持ち歩いてるんで、今日はそれを食べましょう……」
テレスはベルトポーチに収めているナッツ類が入った袋を取り出す。中から木の実を摘み上げたテレスだったが、空腹のためか彼女はそれを取り落としてしまった。
ころころと転がったクルミを、突然茂みから出てきた何者かがダイビングキャッチした。五体投地するかのように地面に倒れているのは先ほどの猫である。
喜びの表情を浮かべ、クルミを手に二本脚で立ち上がる猫だったが、はたと視線に気付き、顔を横に向けた。そこには、二人の人間が自分を見つめている姿があった。
二人の視線が自分の口元に注がれていることに気付き、二本脚で立つ猫はツナサンドを食べた後に口を拭っていなかったことに思い至る。
猫は唐突に哀れを誘う声で鳴き始めたが……。
「テレス……どうやら犯人が見つかったようです……ユグディラ、でしたか?」
「ええ……あたしも初めて見ましたが……どうやら悪い生き物のようですね……」
二人は凄惨な笑みと共に己の武器を手に取った。
リプレイ本文
「リンダールの森は久しぶりだわ。うん、前に父さんと来た時と変わってないみたい。ちょっと安心。……なんだか騒々しいのがいるわね。何かしら、あれ」
感慨に浸るキサ・I・アイオライト(ka4355)の周りでそれをぶち壊すような騒がしい音が響いていた。二人の少女が武器を手に猫を追い掛け回していたのである。その猫はある時は四足で、ある時は二足になりながら、木々の間を器用に駆け回っていた。
「二足歩行で走る猫……? ああ、あれがユグディラなのね。話には聞いていたけど、こんなところで実物に出会えるなんて。……後ろの二人は何かしら。密猟者とか?」
そんなキサとは別の方角から歩いてきたハンターの一団が立ち止まる。その中の一人、ヴァイス(ka0364)が顎に手を当てて考え込む。
「さて、この状況はどう捉えるべきかな? 俺の目には美少女二人が二足歩行の猫を狙っているようにみえるんだが。っていうか、あれはまさかユグディラ……か?」
「昼間の綺麗な森の中、美少女2人が猫と追いかけっこ。2人が鬼みたいな顔で武器振り回してなければ絵になるっすけどね」
手で庇を作って騒動を見やるのは神楽(ka2032)。彼はその美少女の内、一人に見覚えがあることに気付く。
「しかしあの猫なんすかね? あ~、二足歩行してるしロザリーさんが追いかけてるって事は多分雑魔っすね! まぁ、獲物を横取りしたら怒られそうっすから手を出すのは止めとくっす!」
猫を追いかけているのはロザリーことロザリア=オルラランであった。その隣で一緒に駆けているのはテレス。ロザリーの友人である。
「あれって……噂のユグディラ?」
王国東部へのお使いの仕事からの帰り道。馬上の火椎 帝(ka5027)はこの光景を発見した。彼は動物に対する強い興味関心を持っており、珍しい生き物に触ってみたいという欲求が湧き起こる。
「よし、なんか追いかけられてるみたいだし……捕まえてみよう」
彼は機動力を活かして先回りし、餌をいくつか設置することに決めた。帝は馬を走らせる。
「……ロザリーの姐さん、なんでネコ? と追いかけっこをしているんだ? ずいぶんと鬼気迫る様子だが……」
首を傾げているのはAnbar(ka4037)。彼は知り合いのハンター達から戦友であるロザリーが森に鍛錬に来ていると聞き、昼食という手土産を持ってここを訪れたのだが……彼を待っていたのは予想もしていない光景であった。
「事情が分からないうちに下手な手出しをするのもなんだし、ここはきちんと姐さん達から話を聞くべきだな」
そんな見物人がいることに露ほども気付かず、ひたすらに猫を追いかける二人の少女。そこに、突然人影が飛び込んできた。
「そこの二人とも、ちょーーっと待つのじゃ。理由は判らんが追いかけるのを止めて、落ち着いてみんかのう?」
いきなり割って入って来た少女に目を丸くするロザリーとテレス。
彼女の名は紅薔薇(ka4766)。東方出身の旅の少女だ。腰には刀がさげられているが、今の彼女は徒手空拳である。
「事情はよくわからないけど、とりあえず、その物騒なものを仕舞ったら?」
キサも同様に猫と追跡者との間に割り込む。素手でとおせんぼしている彼女達に対し、戸惑いながらも二人は武器を納めた。
そこに、餌をしかけて戻ってきた帝が声をかける。
「何してるんですかー? あの子怯えてるみたいなんですけど」
帝の言葉に顔を見合わせるロザリーとテレス。現状、明らかに自分達が悪者であると思われている可能性が高い。
「あー、えーと、こ、これには深い事情がありまして……」
目を泳がせ、しどろもどろに答えるロザリーの側へと軽快に近づく足音。
「ハローっす、ロザリーさん。大分怒ってるみたいっすけどその雑魔? が何かしたんすか? あ、そういえば今日はビキニつけてないんすね~」
「ビキニアーマーのことでしたらまだ身につけたことはありませんっ!」
以前神楽からビキニアーマーをプレゼントされたロザリー。言葉の通り、まだそれを着たことはない。
「あ、あら、神楽さんではないですか。ごきげんよう」
顔を真っ赤にして大声で叫んだロザリーはハッとしたように、乱れた髪を整えながら知り合いである神楽にあいさつをした。周囲を見回し、他にも何人か見覚えのある顔がこの場にいることに気付いたロザリー。ティス・フュラー(ka3006)もその一人だ。
「二人とも、少し落ち着いて。頭に血が上っててそれどころじゃないかもしれないけど……もしそうだったら、ミネラルウォーターの水でもぶっかけて、頭を冷やしてもらおうかな」
「大丈夫ですわ! 落ち着きましたわ!」
ティスの手に本当にミネラルウォーターのボトルが握られているのを見つけたロザリーは慌ててそう叫んだ。テレスも頷いている。
なお、ティスはロザリーとテレスが最近ツナサンドがお気に入りであることと深い関わりがある人物である。
やがてハンター達は大体の事情をロザリー達から聞きだした。
「それはそれは難儀でしたわね」
二人に同情の眼差しを向けるのはメル・ミストラル(ka1512)。対照的に、話を聞いたキサは無感動に呟く。
「……ふぅん。お昼ご飯を盗られて怒ってた、と。見た目はそれなりなのに、けっこう大人げないのね。あなたたち」
「た、たしかにオルララン家の者として、ほんの少しばかり見苦しいところをお見せしてしまったような気がしなくもないですわね……」
貴族の一員であるロザリーが苦しげに応える。キサはまったく取り合わずに続けた。
「相手は野良猫よ? そこらに食べ物を置いていたら、奪われたって仕方ないわ。そもそも歴戦のハンターなら、些細なことであんな顔にならないと思うけど」
「ええと、あれは、ちょっとした不幸な行き違いというか……空腹のあまりといいますか……」
容赦のない言葉にテレスも言い訳をしながら視線をそらす。
そんな中、帝がセットした食料にこっそりと近づいてきていたユグディラ。それを神楽とAnbarが捕まえようと飛びだすが、そこは素早い猫の幻獣。二人の追跡をあっさりと回避して逃げ回る。Anbarは相手を萎縮させる為の咆哮をあげた。しかしブロウビートは効果をあげず、猫はふたたび茂みへと隠れてしまった。二人は諦めてロザリー達の側へと戻って来る。
丁度その時、ロザリーとテレスのお腹がくうと鳴る。お昼時ということもあり、ハンター達の中からも空腹を示す音が聞こえてくる。先程の様子を見るにつまみ食いをしたユグディラもまだお腹に余裕がありそうだ。
「ふむん。まぁ、ようするに全員腹が減ってるわけじゃな。遠出になった場合に備えて食料は多めに持っておる。とりあえず皆にも分けるから、お昼にするのじゃ」
「そうだな。これも何かの縁だ」
楽しく敵意の無い雰囲気であるならユグディラの警戒も薄くなるのではないか、と考えたヴァイスが紅薔薇の意見に賛同する。Anbarも頷いた。
「ちょうど良い。差し入れを持ってきたんだ。みんなで喰おうぜ」
「私も作りすぎちゃって。よろしかったらお昼をご一緒しませんか?」
(人間、お腹がすいているときは無闇に怒りっぽくなるもの。まずはお腹を満たしてホッとひと息ついていただきましょう)
元々ロザリーたちに差し入れするつもりだったAnbar。加えてメルも荷物の中から食事や敷物を取り出した。
「俺も少しはあるっすよ~。料理は出来ないんでお菓子とレトルトっすけど使いたきゃどうぞっす!」
こうして、先ほどロザリーたちが特訓に使用していた広場でハンター達の食事会が始まった。
●
彼らが用意したツナサンド、バラエティーランチ、ポテトチップなど、さまざまな食べ物がハンター達の前に並んでいる。
「……アンバーだ。ロザリーの姐さんとは依頼を通じての戦友だな。宜しく頼むぜ」
「テレスです。こちらこそよろしくお願いしますね!」
それぞれ自己紹介をするAnbarとテレス。
「ご飯のあと、もしよかったら僕も訓練に混ぜてもらえないですか? まだまだ駆け出しなんですけど……少しでも強くなりたいから」
「わたくしでよければ、よろこんで」
帝の提案に笑顔で答えるロザリー。
メルはヒカヤ紅茶の香りを楽しみつつ、隣のヴァイスと雑談に興じている。さらにその隣では神楽がテレスに向かって身を乗り出していた。
「テレスさんもロザリーさんみたいにビキニ着ないんすか? 着るなら奢るんで今度一緒に買い物にいかないっすか?」
「……奢りでもちょっと嫌ですね……」
下心を隠す素振りもない神楽。正直に答えるテレス。
ハンター達は知り合いだった者も、そうでなかった者も、一様にランチの時間を楽しんでいた。
ゆったりとした空気が流れる中、紅薔薇が魚の干物を手に持ってヒラヒラと振る。彼女の視線の先にいるのはもちろん先ほどのユグディラだ。まだ警戒しているのか、ユグディラは近づいてこない。木の陰からじっと彼らを見つめている。
その事に気付いたヴァイスは自分が連れているパルムと柴犬(名前はキノとワンコ)に協力してもらう形で、ユグディラの警戒を解こうとし、視線で敵対心がないことを伝えようとする。それを見返すユグディラ。
ヴァイス、キノ、ワンコ、ユグディラによる奇妙なクアドラングル地帯が構築された。
「ほら、怖くない、怖くない……」
自作のツナサンドをユグディラに見せ、気を引こうとするティス。ユグディラは先ほど自分を追い掛け回した二人を含め、彼らの中に敵意がないことを確認したのか、ゆっくりと二足歩行で近づいてきた。
ユグディラが幻術のような力を持っていることを知っているメルは、こっそりとレジストによる援護と、ハリセンによる脅かしを考えていたのだが、猫が恐る恐るこちらにやってくる様子なのを見てとり、その行動を取りやめる。
ユグディラは側までやってきたが、まだハンター達が手を伸ばしたら逃げることの出来る位置だ。
ティスはユグディラにゆっくりとツナサンドを差し出した。
警戒しながらもそれを受け取り、ぱくつき始めるユグディラ。ティスはそんな猫を抱きかかえようかどうか迷ったが、逃げられることを気にして手は出さない。紅薔薇もユグディラに先ほどの干物をプレゼントする。ユグディラはちゃっかりとそれを確保しつつ、ツナサンドを完食した。
「今度は勝手に他人のものを食べちゃダメよ?」
キサもそう言いながら、袋から手持ちのツナ缶を取り出し、蓋を開けて差し出した。
「……ひょっとして猫好きですか?」
先ほどの毒舌の際とは違う優しげな眼差しに、テレスが疑問を投げる。
「…………別に。普通よ、普通」
照れているのかそうでないのか、ぶっきらぼうに返すキサ。
「この猫、ユグディラって幻獣なんすね~。幻獣がいるとか流石異世界っす! んで、動物と幻獣と雑魔の違いってなんすか?」
「わたくしの知る範囲での話ですが……」
神楽の素朴な疑問に答えるロザリー。
彼らののんびりとした雰囲気にあてられたのか、ユグディラも今では警戒心を解き、ハンター達の輪の中に入っていた。
「しかし、ユグディラの今後がちょっと心配だな」
ユグディラが人間の社会で時折窃盗などを働き、問題になっている地域があることを知っているヴァイスはぽつりと呟く。
「まぁ、食料を盗むのは悪いことだしのう」
紅薔薇がそう口にした途端、ユグディラは音もなくその場を離れようとしたが……紅薔薇がすばやく伸ばした手に捕まってしまった。
紅薔薇はユグディラが人語を解しているかどうかの確認も兼ねて先の発言をしたのだが、どうやらこの幻獣は本当に人間の言葉が分かるようだ。
今、ユグディラはハンター達を見上げつつ哀れを誘う声で鳴いている。
「被害にあったのは二人なのじゃから、最後は二人がどうしたいかで決めるのが良いと思うのじゃ。ただ、あんまり酷い目にはあわせんで欲しいのう」
ロザリーとテレスは顔を見合わせる。腹も膨れた今となっては、目の前の幻獣をどうこうしようという気持ちも霧消していた。
紅薔薇は猫に視線を向ける。
「とりあえず、これからは悪さはしないと誓うのなら、全身の毛皮をモフられて、クタクタにする程度で許すというのはどうかのう?」
「……そうですね、わたくしもそれで今回の件は水に流しますわ」
ロザリーは笑顔で囚われのユグディラを見下ろしている。テレスも同意見のようだ。
ユグディラは一層鳴き声をあげるが……結局ハンター達にモフられた。
たくさんモフられたユグディラは、今では帝の膝の上に乗せられている。甘やかすように撫で撫でしつつ、ナッツを一つずつ食べさせている帝。
メルはまだモフり足りないのか、その姿をうらやましそうに見つめている。なお、彼女はこのユグディラに『ユラちゃん』という名前をつけていた。
「この子をお二人でお世話するのはいかがです?」
とメルがロザリー達に提案するが、肝心のユグディラは激しく暴れ、鳴きだした。人間に飼われるのは真っ平御免らしい。
ようやく帝から解放された猫を捕まえたのはヴァイスだ。
「いいか? 人間の社会では盗みは悪いこととされている。あまりそういった悪事を繰り返すと、害獣として俺達に討伐依頼が出されるかもしれない」
先ほどのモフりタイムで嬉々として、ユグディラの頭や首筋をワシャワシャとマッサージしていたヴァイス。
彼は今、真面目な顔で隣にパルムのキノを置き、盗みなどの行為がどれほど危険であるかをユグディラにこんこんと説いている。猫の幻獣はしおらしくその言葉を聴いていた。
やがて、ロザリーやテレスともじゃれあったユグディラはよいしょ、といった感じで立ち上がる。どうやら、別れの時間がやってきたようだ。
ハンター達も、それぞれ幻獣の方を向いた。
ユグディラは何かを念じるような素振りを見せると、ハンター達の心の中に、キラキラと輝くイメージがわきあがった。彼らはそれぞれ顔を見合わせる。
「ユグディラは自分の考えを直接相手に届ける力があると聞いていましたが……このような感じになるのですね」
ロザリーが呟く。今、幻獣から受け取ったイメージは、暖かい、綺麗なものであった。感謝の気持ちを示しているのだろう。続けて、ユグディラはぺこりと頭を下げる。
「……あんまりいたずらするんじゃないぞ」
帝はユグディラの側で片膝つき、猫の頭を撫でた。その耳に口を寄せ、小声で囁く。
「どうせやるなら、せめて見つかるなよ?」
ユグディラは肉球のある前足で帝にタッチした。その瞬間、彼の中に新たなイメージが流れ込んでくる。
(今度は上手くやるニャ!)
そう受け取れなくもないイメージを彼だけに残し、ユグディラはダッシュで森の奥へと消えていった。
何も知らない他のハンター達は手を振り、笑顔で幻獣を見送ったのだった。
感慨に浸るキサ・I・アイオライト(ka4355)の周りでそれをぶち壊すような騒がしい音が響いていた。二人の少女が武器を手に猫を追い掛け回していたのである。その猫はある時は四足で、ある時は二足になりながら、木々の間を器用に駆け回っていた。
「二足歩行で走る猫……? ああ、あれがユグディラなのね。話には聞いていたけど、こんなところで実物に出会えるなんて。……後ろの二人は何かしら。密猟者とか?」
そんなキサとは別の方角から歩いてきたハンターの一団が立ち止まる。その中の一人、ヴァイス(ka0364)が顎に手を当てて考え込む。
「さて、この状況はどう捉えるべきかな? 俺の目には美少女二人が二足歩行の猫を狙っているようにみえるんだが。っていうか、あれはまさかユグディラ……か?」
「昼間の綺麗な森の中、美少女2人が猫と追いかけっこ。2人が鬼みたいな顔で武器振り回してなければ絵になるっすけどね」
手で庇を作って騒動を見やるのは神楽(ka2032)。彼はその美少女の内、一人に見覚えがあることに気付く。
「しかしあの猫なんすかね? あ~、二足歩行してるしロザリーさんが追いかけてるって事は多分雑魔っすね! まぁ、獲物を横取りしたら怒られそうっすから手を出すのは止めとくっす!」
猫を追いかけているのはロザリーことロザリア=オルラランであった。その隣で一緒に駆けているのはテレス。ロザリーの友人である。
「あれって……噂のユグディラ?」
王国東部へのお使いの仕事からの帰り道。馬上の火椎 帝(ka5027)はこの光景を発見した。彼は動物に対する強い興味関心を持っており、珍しい生き物に触ってみたいという欲求が湧き起こる。
「よし、なんか追いかけられてるみたいだし……捕まえてみよう」
彼は機動力を活かして先回りし、餌をいくつか設置することに決めた。帝は馬を走らせる。
「……ロザリーの姐さん、なんでネコ? と追いかけっこをしているんだ? ずいぶんと鬼気迫る様子だが……」
首を傾げているのはAnbar(ka4037)。彼は知り合いのハンター達から戦友であるロザリーが森に鍛錬に来ていると聞き、昼食という手土産を持ってここを訪れたのだが……彼を待っていたのは予想もしていない光景であった。
「事情が分からないうちに下手な手出しをするのもなんだし、ここはきちんと姐さん達から話を聞くべきだな」
そんな見物人がいることに露ほども気付かず、ひたすらに猫を追いかける二人の少女。そこに、突然人影が飛び込んできた。
「そこの二人とも、ちょーーっと待つのじゃ。理由は判らんが追いかけるのを止めて、落ち着いてみんかのう?」
いきなり割って入って来た少女に目を丸くするロザリーとテレス。
彼女の名は紅薔薇(ka4766)。東方出身の旅の少女だ。腰には刀がさげられているが、今の彼女は徒手空拳である。
「事情はよくわからないけど、とりあえず、その物騒なものを仕舞ったら?」
キサも同様に猫と追跡者との間に割り込む。素手でとおせんぼしている彼女達に対し、戸惑いながらも二人は武器を納めた。
そこに、餌をしかけて戻ってきた帝が声をかける。
「何してるんですかー? あの子怯えてるみたいなんですけど」
帝の言葉に顔を見合わせるロザリーとテレス。現状、明らかに自分達が悪者であると思われている可能性が高い。
「あー、えーと、こ、これには深い事情がありまして……」
目を泳がせ、しどろもどろに答えるロザリーの側へと軽快に近づく足音。
「ハローっす、ロザリーさん。大分怒ってるみたいっすけどその雑魔? が何かしたんすか? あ、そういえば今日はビキニつけてないんすね~」
「ビキニアーマーのことでしたらまだ身につけたことはありませんっ!」
以前神楽からビキニアーマーをプレゼントされたロザリー。言葉の通り、まだそれを着たことはない。
「あ、あら、神楽さんではないですか。ごきげんよう」
顔を真っ赤にして大声で叫んだロザリーはハッとしたように、乱れた髪を整えながら知り合いである神楽にあいさつをした。周囲を見回し、他にも何人か見覚えのある顔がこの場にいることに気付いたロザリー。ティス・フュラー(ka3006)もその一人だ。
「二人とも、少し落ち着いて。頭に血が上っててそれどころじゃないかもしれないけど……もしそうだったら、ミネラルウォーターの水でもぶっかけて、頭を冷やしてもらおうかな」
「大丈夫ですわ! 落ち着きましたわ!」
ティスの手に本当にミネラルウォーターのボトルが握られているのを見つけたロザリーは慌ててそう叫んだ。テレスも頷いている。
なお、ティスはロザリーとテレスが最近ツナサンドがお気に入りであることと深い関わりがある人物である。
やがてハンター達は大体の事情をロザリー達から聞きだした。
「それはそれは難儀でしたわね」
二人に同情の眼差しを向けるのはメル・ミストラル(ka1512)。対照的に、話を聞いたキサは無感動に呟く。
「……ふぅん。お昼ご飯を盗られて怒ってた、と。見た目はそれなりなのに、けっこう大人げないのね。あなたたち」
「た、たしかにオルララン家の者として、ほんの少しばかり見苦しいところをお見せしてしまったような気がしなくもないですわね……」
貴族の一員であるロザリーが苦しげに応える。キサはまったく取り合わずに続けた。
「相手は野良猫よ? そこらに食べ物を置いていたら、奪われたって仕方ないわ。そもそも歴戦のハンターなら、些細なことであんな顔にならないと思うけど」
「ええと、あれは、ちょっとした不幸な行き違いというか……空腹のあまりといいますか……」
容赦のない言葉にテレスも言い訳をしながら視線をそらす。
そんな中、帝がセットした食料にこっそりと近づいてきていたユグディラ。それを神楽とAnbarが捕まえようと飛びだすが、そこは素早い猫の幻獣。二人の追跡をあっさりと回避して逃げ回る。Anbarは相手を萎縮させる為の咆哮をあげた。しかしブロウビートは効果をあげず、猫はふたたび茂みへと隠れてしまった。二人は諦めてロザリー達の側へと戻って来る。
丁度その時、ロザリーとテレスのお腹がくうと鳴る。お昼時ということもあり、ハンター達の中からも空腹を示す音が聞こえてくる。先程の様子を見るにつまみ食いをしたユグディラもまだお腹に余裕がありそうだ。
「ふむん。まぁ、ようするに全員腹が減ってるわけじゃな。遠出になった場合に備えて食料は多めに持っておる。とりあえず皆にも分けるから、お昼にするのじゃ」
「そうだな。これも何かの縁だ」
楽しく敵意の無い雰囲気であるならユグディラの警戒も薄くなるのではないか、と考えたヴァイスが紅薔薇の意見に賛同する。Anbarも頷いた。
「ちょうど良い。差し入れを持ってきたんだ。みんなで喰おうぜ」
「私も作りすぎちゃって。よろしかったらお昼をご一緒しませんか?」
(人間、お腹がすいているときは無闇に怒りっぽくなるもの。まずはお腹を満たしてホッとひと息ついていただきましょう)
元々ロザリーたちに差し入れするつもりだったAnbar。加えてメルも荷物の中から食事や敷物を取り出した。
「俺も少しはあるっすよ~。料理は出来ないんでお菓子とレトルトっすけど使いたきゃどうぞっす!」
こうして、先ほどロザリーたちが特訓に使用していた広場でハンター達の食事会が始まった。
●
彼らが用意したツナサンド、バラエティーランチ、ポテトチップなど、さまざまな食べ物がハンター達の前に並んでいる。
「……アンバーだ。ロザリーの姐さんとは依頼を通じての戦友だな。宜しく頼むぜ」
「テレスです。こちらこそよろしくお願いしますね!」
それぞれ自己紹介をするAnbarとテレス。
「ご飯のあと、もしよかったら僕も訓練に混ぜてもらえないですか? まだまだ駆け出しなんですけど……少しでも強くなりたいから」
「わたくしでよければ、よろこんで」
帝の提案に笑顔で答えるロザリー。
メルはヒカヤ紅茶の香りを楽しみつつ、隣のヴァイスと雑談に興じている。さらにその隣では神楽がテレスに向かって身を乗り出していた。
「テレスさんもロザリーさんみたいにビキニ着ないんすか? 着るなら奢るんで今度一緒に買い物にいかないっすか?」
「……奢りでもちょっと嫌ですね……」
下心を隠す素振りもない神楽。正直に答えるテレス。
ハンター達は知り合いだった者も、そうでなかった者も、一様にランチの時間を楽しんでいた。
ゆったりとした空気が流れる中、紅薔薇が魚の干物を手に持ってヒラヒラと振る。彼女の視線の先にいるのはもちろん先ほどのユグディラだ。まだ警戒しているのか、ユグディラは近づいてこない。木の陰からじっと彼らを見つめている。
その事に気付いたヴァイスは自分が連れているパルムと柴犬(名前はキノとワンコ)に協力してもらう形で、ユグディラの警戒を解こうとし、視線で敵対心がないことを伝えようとする。それを見返すユグディラ。
ヴァイス、キノ、ワンコ、ユグディラによる奇妙なクアドラングル地帯が構築された。
「ほら、怖くない、怖くない……」
自作のツナサンドをユグディラに見せ、気を引こうとするティス。ユグディラは先ほど自分を追い掛け回した二人を含め、彼らの中に敵意がないことを確認したのか、ゆっくりと二足歩行で近づいてきた。
ユグディラが幻術のような力を持っていることを知っているメルは、こっそりとレジストによる援護と、ハリセンによる脅かしを考えていたのだが、猫が恐る恐るこちらにやってくる様子なのを見てとり、その行動を取りやめる。
ユグディラは側までやってきたが、まだハンター達が手を伸ばしたら逃げることの出来る位置だ。
ティスはユグディラにゆっくりとツナサンドを差し出した。
警戒しながらもそれを受け取り、ぱくつき始めるユグディラ。ティスはそんな猫を抱きかかえようかどうか迷ったが、逃げられることを気にして手は出さない。紅薔薇もユグディラに先ほどの干物をプレゼントする。ユグディラはちゃっかりとそれを確保しつつ、ツナサンドを完食した。
「今度は勝手に他人のものを食べちゃダメよ?」
キサもそう言いながら、袋から手持ちのツナ缶を取り出し、蓋を開けて差し出した。
「……ひょっとして猫好きですか?」
先ほどの毒舌の際とは違う優しげな眼差しに、テレスが疑問を投げる。
「…………別に。普通よ、普通」
照れているのかそうでないのか、ぶっきらぼうに返すキサ。
「この猫、ユグディラって幻獣なんすね~。幻獣がいるとか流石異世界っす! んで、動物と幻獣と雑魔の違いってなんすか?」
「わたくしの知る範囲での話ですが……」
神楽の素朴な疑問に答えるロザリー。
彼らののんびりとした雰囲気にあてられたのか、ユグディラも今では警戒心を解き、ハンター達の輪の中に入っていた。
「しかし、ユグディラの今後がちょっと心配だな」
ユグディラが人間の社会で時折窃盗などを働き、問題になっている地域があることを知っているヴァイスはぽつりと呟く。
「まぁ、食料を盗むのは悪いことだしのう」
紅薔薇がそう口にした途端、ユグディラは音もなくその場を離れようとしたが……紅薔薇がすばやく伸ばした手に捕まってしまった。
紅薔薇はユグディラが人語を解しているかどうかの確認も兼ねて先の発言をしたのだが、どうやらこの幻獣は本当に人間の言葉が分かるようだ。
今、ユグディラはハンター達を見上げつつ哀れを誘う声で鳴いている。
「被害にあったのは二人なのじゃから、最後は二人がどうしたいかで決めるのが良いと思うのじゃ。ただ、あんまり酷い目にはあわせんで欲しいのう」
ロザリーとテレスは顔を見合わせる。腹も膨れた今となっては、目の前の幻獣をどうこうしようという気持ちも霧消していた。
紅薔薇は猫に視線を向ける。
「とりあえず、これからは悪さはしないと誓うのなら、全身の毛皮をモフられて、クタクタにする程度で許すというのはどうかのう?」
「……そうですね、わたくしもそれで今回の件は水に流しますわ」
ロザリーは笑顔で囚われのユグディラを見下ろしている。テレスも同意見のようだ。
ユグディラは一層鳴き声をあげるが……結局ハンター達にモフられた。
たくさんモフられたユグディラは、今では帝の膝の上に乗せられている。甘やかすように撫で撫でしつつ、ナッツを一つずつ食べさせている帝。
メルはまだモフり足りないのか、その姿をうらやましそうに見つめている。なお、彼女はこのユグディラに『ユラちゃん』という名前をつけていた。
「この子をお二人でお世話するのはいかがです?」
とメルがロザリー達に提案するが、肝心のユグディラは激しく暴れ、鳴きだした。人間に飼われるのは真っ平御免らしい。
ようやく帝から解放された猫を捕まえたのはヴァイスだ。
「いいか? 人間の社会では盗みは悪いこととされている。あまりそういった悪事を繰り返すと、害獣として俺達に討伐依頼が出されるかもしれない」
先ほどのモフりタイムで嬉々として、ユグディラの頭や首筋をワシャワシャとマッサージしていたヴァイス。
彼は今、真面目な顔で隣にパルムのキノを置き、盗みなどの行為がどれほど危険であるかをユグディラにこんこんと説いている。猫の幻獣はしおらしくその言葉を聴いていた。
やがて、ロザリーやテレスともじゃれあったユグディラはよいしょ、といった感じで立ち上がる。どうやら、別れの時間がやってきたようだ。
ハンター達も、それぞれ幻獣の方を向いた。
ユグディラは何かを念じるような素振りを見せると、ハンター達の心の中に、キラキラと輝くイメージがわきあがった。彼らはそれぞれ顔を見合わせる。
「ユグディラは自分の考えを直接相手に届ける力があると聞いていましたが……このような感じになるのですね」
ロザリーが呟く。今、幻獣から受け取ったイメージは、暖かい、綺麗なものであった。感謝の気持ちを示しているのだろう。続けて、ユグディラはぺこりと頭を下げる。
「……あんまりいたずらするんじゃないぞ」
帝はユグディラの側で片膝つき、猫の頭を撫でた。その耳に口を寄せ、小声で囁く。
「どうせやるなら、せめて見つかるなよ?」
ユグディラは肉球のある前足で帝にタッチした。その瞬間、彼の中に新たなイメージが流れ込んでくる。
(今度は上手くやるニャ!)
そう受け取れなくもないイメージを彼だけに残し、ユグディラはダッシュで森の奥へと消えていった。
何も知らない他のハンター達は手を振り、笑顔で幻獣を見送ったのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 ティス・フュラー(ka3006) エルフ|13才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/06/21 20:28:01 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/21 10:06:24 |