STRAIGHT OUT OF HELL

マスター:葉槻

シナリオ形態
イベント
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/06/21 07:30
完成日
2015/07/03 00:07

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●ハンターオフィスにて
「こ、ここに依頼すれば探してくれるのか?」
 無精髭が生え、浮浪者じみた格好の男2人が、おどおどとした様子でカウンターの女性に声をかけた。
「ご依頼ですか?」
 女性は一瞬怪訝そうな顔をしたが、マニュアルに沿って笑顔で対応を始める。
 男達は互いの顔を見合わせて、覚悟を決めたように頷くと、左側にいる男が口を開いた。
「お、俺たち依頼を受けて積荷を馬車で運んでたんだ」
「はぁ、少々お待ち下さい、今記録を取りますから……」
 突然始まった“依頼の相談”に、女性は記録用紙を取り出そうと引き出しに手を伸ばす。
「そしたら、森の中の街道で止められて、『荷物を見せろ』って言われて」
 ――女性は伸ばした腕を止めて、上体を傾けた姿勢のまま男2人を見た。
「そしたら、後ろの荷台からバケモノが出てきて」
「あん時は怖くて逃げちまったけど、あんなバケモノと戦えるのはハンターしかいないんじゃないかって後で気付いたけど、でも怖くて兎に角俺たち逃げたんだ。家に帰らなきゃいけなかったし、家に帰っちまえば、とりあえずやり直せるはずだって……でも……っ!」
 右側の男の両目から大粒の涙がぼたぼたと落ちて、鼻を啜った。
「やっと、やっと家に帰り着いたら、誰も居ないんだ。家内も、子どもも。なぁ、探してくれないか? あいつらはどこに行ったんだ? 俺たちは何に巻き込まれたんだ?」
「金は、男が置いて行った金がある。これやるから、俺たちの家族を探してくれ。俺たちが何か悪い事したっていうなら、俺たちは罰でも何でも受けるから、俺たちの家族を探してくれ……頼むっ!」
 「お願いします」と男2人がその場に土下座を始め、女性は慌てて2人に駆け寄る。
「顔を上げて下さい……えぇっと、誰か! 帝国ユニオンに連絡を!」

 こうして、武器移送・剣機襲撃事件から半月後、移送犯の2人が出頭したことにより、ヴルツァライヒの拠点が二カ所、明らかとなったのだった。

●某書斎にて
 斜陽の差し込む落ち着いた書斎には、屋敷の主人である老紳士と壮年の貴族が盤上遊戯を挟んで対面していた。
「ハンターの皆さんはよく働いて下さった様じゃの」
「……無事、武器の回収と剣機の討伐は達成されたそうです」
 さらにその後逃がした馬4頭も回収したというのだから、立派な働きだろう。
 カツン、という音を響かせて、一つ前へとコマを動かしながら男が続ける。
「しかし、御者2名は逃亡。死体から身元は不明とのことです」
 ただ、日に焼けた肌、手指の節や手足の胼胝(たこ)から農業や畜産業に関わっている者だろうという判断は付いたらしい。
「それも昨日、見つかったそうじゃ。見つかったというより、自ら出向いたらしい。……家族が消えた、と。むごい事じゃ」
 カツン、とコマを動かし、一つ相手のコマを取ると、老紳士は白い顎髭を無意識に撫でていた。
 ――自分の予想通りなら、あの小童(こわっぱ)が言葉巧みに連れ出して、今頃もう死んでいるだろう。
 それよりも問題はヒルデガルドが生きていたという事実とクリームヒルトがハンターに連れ去られたという件だ。
 ヒルダが自分の情報網にさえ引っかからない所に居たという事実と、語ったと言われる内容が、老紳士の眉間に深いしわを寄せさせる。
「……動かれますか?」
 カツン、とコマを動かすと同時に「チェックメイトです」と男が頭を下げた。
「おや!? あぁ、そこにそやつがおったか……! はぁ、してやられたのぅ」
 「いやぁ、まいったまいった、わしの負けじゃな」と老紳士は破顔すると、そのまま男に向かって身を乗り出した。
「――さてそれじゃあちょいと頼みごとを聞いてくれんかのう?」
 老紳士の剣呑な瞳を向けられた男は、それでもその瞳を正面から受け止めて、低く頭を下げたのだった。

●某私室にて
「ただいまー! パウル、聞いて!! アウグスト様がすっごく格好良くなったんだよ!!」
 少年のようなテノールの明るい声で――だが外見はとっくに成人を越えている――男は、パウルと呼んだ軍人風の青年を捕まえて、飛び跳ねんばかりに先ほど目の前で起こった事を説明し始める。
「それにね、アウグスト様、僕が失敗したこと赦してくれたんだよ! なんて寛大で素晴らしい人なんだろう!! ね、パウルもそう思うでしょ?!」
「カール様のおっしゃるとおりですね」
 無感動で平坦な口調での返答であったが、男――カールは気にした様子も無く、むしろ、更に嬉しそうに「でしょー」と笑った。
「あ。お留守番の間、お願いしていた実験はどうなった?」
「成功例の剣機2体に関しましては、攻守共に優れ、不具合無く動きます。遠近の同時攻撃に関しましても概ね問題無く」
 パウルの淡々とした報告に、カールはにこにこと微笑みながら満足そうに頷く。
「そうだ! あの出来損ない達はどう? 上手く動いた?」
「それぞれに能力を特化させますと、やはりバランスが取りづらくなります。あの身軽さを重視した型は代償に殆ど体力がありませんでした。斧槍型は重騎士をモデルにしただけあって、こちらの調整は上手く整いました。最後の多銃身回転式機関銃型は時折排莢不良を起こすのがネックですが、概ね良好に動けました」
「流石パウル! もう僕の教えた技術の殆どを身につけたよね! あー、早く君も僕と一緒になれたら良いのに……あ、今度オルクス様にお願いしてみようかなぁ!」
 「ブリュンヒルデの方がいいかなぁ」などと口にしながら足取り軽く窓際へと近寄った。
 朝日が昇り、湖がキラキラと光を放つ。
 この部屋に満ちた負のマテリアルとは違う、正のマテリアルの輝きに、カールは嬉しそうに目を細める。
 ――この美しい世界というキャンバスを少しずつ夜色に塗り替えていく、それが楽しみでならなかった。
「……カール様」
「うん。こんな早朝から人の家に無断で尋ねてくるとか、ホントハンターって品が無いよね」
 塀の向こうに動く気配を感じた2人は鋭く視線を交わす。
「僕があの5体を取ってくるから、パウルはみんなをホールに集めて? 盛大にお出迎えして上げよう」
「畏まりました」
 パウルの返事に笑顔で頷くと、カールは足取り軽く部屋を出て行く。
 そんなカールを見送った後、パウルはそばにあった通信機へと手を伸ばした。
「ケース1発生。各自戦闘準備」
 ただそれだけを伝えて、通信を切る。
 そのアイスブルーの瞳に一瞬強い意志が光ったが、すぐにまた平静さを湛えたのだった。

リプレイ本文

●中央
「さぁて……何がでてくるのやら」
 玄関を開けると濃厚な負のマテリアルが澱のように淀んでいた。
 ティーア・ズィルバーン(ka0122)がツヴァイシュトースツァーンの柄を握り締めながら、照明が落とされ、高い塀のお陰で朝日も入らない薄暗いホールを見回す。
 灯りを持ってきていた数名が各々に周囲を照らし、左棟と右棟、また上へ上がる階段と恐らく中庭へ出るのであろう大きな両開きの扉を見つけた。
 エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が静かに各班に移動を促しつつ、自身は徐々にこの闇に慣れてきた双眸で周囲を油断無く見回す。
「早朝からご苦労様です」
 不意に階段の上に人影が浮かび上がる。
 その姿を見ようと目を凝らした瞬間、一度に照明が煌々と照らされ、視界が白く焼けた。
「不法侵入者に対してはどのような罰がよろしいでしょうか?」
 淡々としたバリトンボイスがホールに響くと同時に、腐臭が周囲に漂う。
「クリス!」
 春日 啓一(ka1621)がクリスティン・ガフ(ka1090)を自身の身でもって庇い、突如現れた攻撃手へ反撃の蹴りを放つ。
 突き出される攻撃を神薙 綾女(ka0944)は勘で避けると、オートMURAMASAを振るったが、先端に何かが掠める感触を得るに留まる。
 徐々に全員の視界が戻ると、周囲は殆どが10代であったと思われる男女のゾンビによって囲まれていた。
 そして二階へと続く階段からは軍のような制服を身に纏った男2人と、若い兵士5人が拳銃を構えていた。
「愚帝に従う犯罪者達に正義の鉄槌を!」
 男が叫ぶと同時に拳銃が一斉掃射される。
「胸糞の悪いゾンビだな……作ったヤツの神経を疑う……」
 天ヶ瀬 焔騎(ka4251)は吐き捨てるように言いながらも、容赦無く紅椿を振い、ゾンビを屠る。
「なるほど、こいつが特別教育の成れの果て……か」
 ティーアは斧を豪快に振り回し槍を構えたゾンビの首をはね飛ばした。
 剣機の姿は見当たらない。剣機が現れるまでにこのゾンビを殲滅し、兵士達を捕縛することが優先か、とクリスティンは冷静に状況を観察しながら、自身の身長の倍以上ある祢々切丸を軽々と振るった。

●中庭
 まるで校庭のようだ、と榊 兵庫(ka0010)は中庭を見て思った。
 高い塀のおかげでぽっかりと青い空だけが切り取られたようで、草一つ生えていない広い庭。唯一右手奥に小さな東屋が立っているのが見えた。
「情報が不足しているのが気がかりだが、やるしかあるまい。全力で当たらせて貰おう」
 見通しは良い。だが逆に言えば他からもこちらがよく見えているということだ。
 常時上を注意していた七夜・真夕(ka3977)がいち早く二階の各棟三カ所からの銃撃に気付き、声を上げた。
 柊 真司(ka0705)と白金 綾瀬(ka0774)は同じ方向に走ると、中央棟の二階の狙撃手に対してアサルトライフルで応戦する。
 No.0(ka4640)は走りながら左右の棟の二階を見たが、もうそこには狙撃手の姿は見えなかった。……各棟に入った仲間を迎撃に行ったのか、それともこちらへ討って出るのか。何にせよ、手加減などせずに倒すだけだと赤鬼の柄を握り直す。
 真司と綾瀬の狙撃と真夕の眠りの霧により半数が中庭へと撃ち落とされ、半数は窓の向こうに倒れた。
 ほっと一息吐いたその時、東屋の扉がぶち抜くような勢いで開け放たれ、そこからゾンビ達が走り寄ってきた。
「な、に? 子供?」
 そのゾンビ達は明らかに身体のつくりが子どもそのもので、真夕は思わず口を押さえた。
「……手加減などするかよ。ここで滅するのが何よりの慈悲なんだから、な」
 管槍を構え、兵庫が応戦に走るが、そのゾンビ達の後ろから、一回り大きな肉塊が転がり出てきたのを見て、思わず兵庫だけでなく、レイヴェンも足を止めた。
 肉塊には無数の目と口が付いていた。その中でも1番大きな口がぱかりと開くと、業火の塊を吐き出した。
「なんだ!?」
 思わず避けようとした兵庫とは対照的に正面から受け止めたレイヴェンはその熱量に全身を焼かれた。そして兵庫も爆風に煽られて全身を炎に巻かれた。
「ファイアーボール!?」
 離れていた真夕と真司、綾瀬は巻き込まれることは無かったが、その威力に衝撃を受けながら、肉塊を見る。
「完成形の威力は如何ですか?」
 艶やかなバリトンボイスが背後から聞こえ、思わず真夕が振り返ると同時に、脚を撃ち抜かれ思わずしゃがみ込んだ。
 見ると中央二階の窓から軍人風の青年が魔導銃を構えて立っていた。
 そして構えた銃はそのままにひらりと飛び降りると、感情の無い硝子のような瞳で5人を見回した。
 兵庫とレイヴェンは肉塊と男、どちらも視界に入れられるようじりじりと距離を取る。
 その間にも東屋からは子どもゾンビが溢れるように出て、左棟と右棟へと雪崩れ込んでいく。その中に混じって剣機が右の棟へと入っていくのも見えた。
「パウル、1人で大丈夫? 僕もまずこっちを手伝おうか?」
 明らかに場違いなほどの明るいテノールの声が東屋から響いた。
「必要ありません」
 『パウル』と呼ばれた歪虚は、にべもなくその提案を断る。
「そう? じゃぁ、この子置いて行くね。また後でね」
 特に気分を害した様子も無くカールは笑顔で隣のガトリング砲を両腕に装着した剣機を指差した後、2m近い巨体と3m以上ある槍斧を手にした剣機へひらりと飛び乗って右棟へと入っていく。
「さぁ、貴方たちも剣機にして差し上げましょう」
 パウルの言葉を皮切りに、激闘が始まった。

●左
 アメリア・フォーサイス(ka4111)は死角からの攻撃を特に警戒しながら移動していた為、初撃の銃弾を躱す事が出来た。
「この世をあるべき姿へ! 行け!」
 女性の号令と共に、静かな足音が広い室内に響く。
 ここは食堂だろうか。6人ほどが着席できる長方形のテーブルと椅子が左右に5つずつ整然と並んでおり、そのさらに奥から射撃された事を推察する。
 アルファス(ka3312)が盾を構え突撃し、ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)とフィルメリア・クリスティア(ka3380)、マーゴット(ka5022)がその後に続いて接近戦を仕掛けていく。
 4人がそれぞれ兵士達を相手取っている間を縫って、アメリアは教官風の女へと狙いを定めルインズタワーの引き金を引く。
 銃弾は狙い通り正確に女の右腕へと命中し、女は武器を取り落とした。
 一方の兵士達側からも、骨の折れる音と呻き声、啜り泣く声が聞こえ始めた。
 よく見れば兵士達の1人はまだ10にも満たない少女で、他4人も成人前の男女だった。
 マーゴットは心を痛めながらも、捕虜とする為彼らの手足を縛り、猿轡を噛ませる。
 全身鎧のタイラントのお陰で半機半獣の様になっているアルファスは、激しい憎悪を胸に女教官の元へと行くと、突き出されたナイフを難なく躱し、その左手を取って関節を逆に曲げた後、前屈みになった女の頭を勢いに任せて床へと叩き付け、下腿を踏み砕いた。
「さぁ、ここには剣機を生み出す研究所があるはずです。何処ですか?」
 しかし女は恐怖と痛みに上手く言葉が発せず、鼻血を流しながら泣きながら呻くだけだった。
 埓があかないと判断したアルファスはそのまま手刀で女を気絶させると兵士達同様に猿轡をして手足を拘束し、とりあえず食堂の隅へと置いた。
 その後、手分けして一階をくまなく探索し、二階の探索へと向かおうと結論を出したその時、鎧戸が外から砕け散ると同時に人影が床へと叩き付けられた。
「ミオレスカさん!?」
 そこには全身に傷を負い、木片と硝子にまみれたミオレスカ(ka3496)の姿があった。

●前庭
 時は少し遡る。
 砦内を探索する23人と別れ、雨音に微睡む玻璃草(ka4538)、ミオレスカは前庭に残った。
 「落とし穴とかあったら大変だから」と茂みを傘で突きくフィリアのペースに、半ば自分のペースを崩されながらミオレスカも周囲の探索にあたる。
「今回は、出番がない方が、いいでしょうか」
 入口の裏手側などに抜け道がないか探しつつ、同時に敵の出現にも気を払っていた。
「あんなにも綺麗な湖だもの。きっとお船で出られるんだわ」
 フィリアの言葉にミオレスカもなるほどと頷いて、塀に沿って時計回りに進んでいく。
 その時、2人の頭上から何かが降ってきた。
 フィリアは普段のおっとりとした動きからは想像出来ない素早さでそれを避け、ミオレスカも前へと飛び転がって直ぐさまエア・スティーラーを構えた。
「……剣、機……?」
 そこには背中合わせに人間を2人くっつけたような、4本の腕と4本の脚を持ち、顔面を後頭部にも持つ、まるで蜘蛛のような動きをする剣機が居た。
「あら、早いのね」
 のんびりとした口調とは裏腹に、軽くステップを踏むように剣機の突撃を避けると、鋭くヴォーパルソードを突き出す。
 しかし、剣機もそれを飛ぶようにして避けると、その勢いのままにミオレスカに向かって行く。
「なっ!」
 ミオレスカも魔導拳銃の引き金を引くが、剣機が塀を昇った事によりその狙いは外れ、上からのし掛かられてしまう。
「あらあら」
 フィリアが素早く距離を縮め、再び傘型の機剣で斬り付ける。
 深く腹部に刺さると同時に身を起こし、フィリアを塀へと弾き飛ばすと、剣機はその髪を針へと変えて周囲に飛ばした。
「っ!」
 回避行動が取れなかった2人はその無数の針を体中に突き立てられた。
「ちょっと、2人だけでは、しんどいですね」
 制圧射撃で一時的に剣機の動きを止め、体勢を整えるとミオレスカは再び魔導拳銃を構える。
 ミオレスカの方を見たまま動けない剣機にフィリアは再び斬り掛かった。
 脚を一本切り落とされ、剣機はその衝撃に文字通り飛び跳ねた。
 そしてミオレスカの銃弾を受けながらも、そのまま彼女を左棟の鎧戸の一つへと叩き付けたのだった。

●右
 薄暗い廊下は右の棟を縦断するように敷かれており、塀側に部屋が設えてある造りになっているらしい。
 まず右側を見に行った一同は、そこに置かれている武器の種類を見て唖然とした。
「……これは……」
 オウカ・レンヴォルト(ka0301)が箱の蓋を開けると、中には槍、斧、鍬、鎌が収められていた。
「こっちにはフレイルか」
 ヴァイス (ka0364)の方には木の柄の鎖付き鉄球が、箱にみっしりと詰まっていた。
 剣や短刀といった武器は訓練していない者が不用意に振れば、うっかり自分の指を切り落とすような危険性を孕んでいる。一方で槍や鍬はリーチも長く、斧や鎌は普段から使い慣れている者も多い。フレイルのような武器は振って当たればそれで殺傷力を増すことが出来る。
「とんだテロリストだな」
 久我・御言(ka4137)は呆れと感嘆の声を上げて物色する。
 他にはめぼしい物も無く、7人は部屋を後にし、反対側へと歩みを進めた。
 その時、前方から扉が開け放たれる音がしたかと思うと、中庭からゾンビ達が廊下へと雪崩れ込んできた。
 カール・フォルシアン(ka3702)が慌てること無く前に出ると、ファイアスローワーを発動させ、敵の動きを牽制する。
「こっちの部屋へ!」
 ガブリエル=VIII(ka1198)がカールとゾンビの間にある部屋の扉を開いて中へと導く。
 そこは射撃訓練室なのだろう。
 壁には的が用意され、ライフル銃が壁に掛けられ、棚には拳銃がずらりと並んでいた。
「大義……正義……? だとしても……こんなのは……許されていいはずがない……」
 シェリル・マイヤーズ(ka0509)がぎりぃと奥歯を噛みしめ、思わず掴んだ烏枢沙摩がチリ、と刃を鳴らす。
「来ます……!」
 シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)が部屋の奥に位置取ると、扉へと銃口を向けた。
 扉は三度たわんだ後、蝶番から外れて室内へと倒れ込んだ。
 そしてその上に子どもの容姿をしたゾンビ達が転がるようにして倒れ込んだ。
「……っ!」
 ヴァイスはその姿を見て悲しみ、その所業に怒りを覚えるが、彼らを解放する為にも努めて冷静になろうと唇を噛みしめて切り替える。
 同じくオウカも一瞬の驚きの後、眉間にしわを寄せた。
「……外道が……」
 中には槍や斧といった武器を持ったゾンビもいる。
「手荒な真似は趣味じゃないが……仕方あるまいね」
 ガブリエルは近寄ってきたゾンビへと鞭を振るう。
 シェリルも仮面の下に静かな怒りを秘めて刀を振り下ろす。
 シルヴィアの制圧射撃により足を止められたゾンビ達を見て、すかさずカールが周囲に声をかけて人払いをすると再びファイアスローワーを放つ。
「……嫌な予感が、する。杞憂ならば、良いが」
 オウカの呟きに御言は頷くと、ジェットブーツを用いてその場に飛び上がり、射線の通らない敵に向かって銃声を轟かせる。
 その時、倒れて開けっ放しになった扉の向こう側に、ちらりと人影が見えた。
「みんな、伏せろ!」
 ――御言が早いか、銃声が早いか。扉の枠の外から6つの銃口がこちらを向いて一斉に火を噴いた。

●左
 満身創痍のミオレスカと、突如現れた剣機を前に、それでもアメリアは慌てることなく引き金を引いた。
 剣機はそれを下の顔の額に受けると、一瞬仰け反り、それから再び前を向いて一気に室内へと入り込んできた。
「早いっ! みんな気をつけて!」
 ユーリが叫び振動刀を構え迎え撃つ。
「その剣機、壁、走るから、気を、つけて」
 ミオレスカが身を起こし、立ち上がりながら声を掛ける。
 フィルメリアも降魔刀で走り込み切り伏せ、アルファスも死角へと回り込み超重錬成により巨大化させたピュアホワイトを振り下ろした。
 ギャァアアア!
 剣機が、吠えた。
 壊れた窓から室内へ入ろうとしたフィリアは突然の大声に思わず耳を塞ごうとして、食堂の奥に気配を感じた。
 目を向ければ、中庭に続く扉が開き、ゾンビの群れがこちらへと向かってきているのが見えた。
 マーゴットは自分達へと近付いて来るゾンビの殆どが元々は自分より若い人間であったことを察して思わず胸を押さえた。
「ああ、特別教室ってもしかしてそういうこと? 胸糞悪」
 アメリアも剣を持った小柄なゾンビを見て、顔をしかめた。
「待ってて……もう直ぐ、終わらせるから」
 この子達を救う為に。マーゴットの意思の力が覚醒と共に紅く染まっていた瞳をさらに輝かせ、ダークMASAMUNEを振るうと紅い幻影が尾を引くように煌めいた。
「……子供達が……くそっ、絶対に!」
 この中で唯一複数体を攻撃出来るアルファスがゾンビ達の足止めに走り、その穴にフィリアが入ると機剣で舞うように切り刻む。
「あぁ、伏せた方がいいわ」
 身を起こした剣機を見て、フィリアがそばに居たフィルメリアの頭を無理矢理下げさせ、倒れたテーブルの影に押し込んだ。
 無数の針が周囲一体に飛散する。
 ユーリもそれを何とか躱した後周囲を見渡すと、捕縛した兵士達が無数の針に撃たれ、アルファスが取り逃したゾンビが襲いかかっているのが見えた。
 アメリアはその様子を見て直ぐさま銃口をゾンビへと向けて発砲、ミオレスカも捕虜を救うべく銃を撃つ。
 しかし手足を折られ、拘束されていた兵士達は逃げ出すことも出来ないままに殺されていく。
「フィリアさん!?」
 フィルメリアを庇ったフィリアは両足を針に穿たれ、酷い出血をしていた。
「大丈夫」
 だから、行って。そう言われてフィルメリアは頷くと魔導拳銃を取り出し、マテリアルを増幅させると機導砲を放った。
 その一撃が致命傷となり、剣機は動きが止まり塵へと変わっていく。
 そして、ゾンビ達を全て塵へと還した時には、生きているのはハンター達のみだった。
「君達の事は決して忘れない……」
「……こんな形でしか救えなくて、本当に……ごめんね」
 マーゴットとユーリが兵士達の亡骸に触れ、瞳を閉じた。

●中央
 ゾンビによる接近戦と兵士達による銃撃戦が行われる中、スキルを使わずに遠距離攻撃が出来る者が啓一しかいないという状態に思いの外苦戦させられていたが、焔騎のヒールに助けられつつ、まずは全てのゾンビを撃退することに成功していた。
「こうなりたくなきゃおとなしく投降しろ。なに、素直に従えば、罰せられはしないしうまくいきゃ、軍やら研究所に就職できるかもしれないぜ。悪い話しじゃねぇだろ? 抵抗すんなら働けなくなる覚悟しろよ」
 銃弾を避けつつティーアが叫ぶが、銃声が止むことはなく、やれやれと溜息を吐いた。
 啓一のロケットナックルによって、教官の1人が沈み、あと6人が階段を占拠しつつ銃撃をして来ているという状況に、クリスティンと啓一は頷き合うと、一気に階段へと走り寄り、それぞれに衝撃波を打ち出した。
 それを見て、綾女もランアウトを駆使し一気に距離を詰め1人の少年兵の顎を蹴り上げた。
 僅かな動揺を見逃さず、焔騎ももう1人の教官へとホーリーライトをぶつけると、残った2名の少女兵はエヴァンスにカタカタと震えながらも銃口を向けていた。
「生きてる人間はちゃんと保護するぜ。抵抗しないなら、な」
 凄みのある笑みを浮かべ悠々と階段を上がると、少女達から拳銃を奪った。
 戦意を喪失し逃亡する意思もない少女2人には念のため猿轡と後手での拘束を行い、他の現在気絶している4人には更に下肢も拘束すると、玄関扉の前へと全員で連れ出した。
「折角捕まえたんだ……徒労に終わらせられるわけにはいかんからな……」
 そう言う焔騎に見張りを任せ、5人が二階の探索へと赴こうとしたその時、中庭への扉が吹き飛ぶようにして開いた。
「な……!?」
 扉の向こう、中庭に2体の剣機の姿が見え、エヴァンスは獰猛な笑みを浮かべた。
「まずあっち片付けるのが優先だろ!」
 言うが早いか中庭へと駆け出す彼の後を追って、4人も走り出した。

●中庭
 ガトリング砲を両腕に装着した剣機は、その外見通り遠距離の範囲攻撃を得意とし、更に重厚な装甲により近接攻撃も届きにくいという敵だった。
 肉塊型の剣機はファイアーボールに似た攻撃の他に、ライトニングボルトに酷似した雷撃も放ってくる、グロテスクな外見と併せて非常に近寄りがたい敵だった。
 さらに、歪虚であるパウルが疾影士の如き動きでヒット&ランを繰り返し、近接時は剣だが、少しでも距離が開くと容赦無く銃で撃ってくる。
 そして子供ゾンビ達がまとわりついてくるとあって、5人は苦戦を強いられていた。
 真司と綾瀬の2人が連携し合って遠距離から着実にゾンビ達を一体ずつ沈め、真夕もなるべく剣機を巻き込みながら敵の多いところを狙ってファイアーボールを打ち込む。
 レイヴェンが肉塊剣機に貼り付き、初撃こそ不意打ちを食らったが、後はムーバブルシールドで受けつつ積極的に攻めて行く。一方で兵庫はパウルを相手取り槍を繰り出していた。
 ほぼ放置されるような形になっているガトリング剣機だが、これは重厚である為か殆ど動かず、時々空砲を撃ち続けている事もあり、真司と綾瀬が注視して攻撃が来そうな時は皆に声をかけるという対応を取っていた。
「ガトリング気をつけて!」
 綾瀬が声を上げると同時に銃弾が周囲にばらまかれる。しかもこの攻撃は無差別な為ゾンビに当たって倒れる事もあった。
「お前も当たってくれていいんだぜ?」
 兵庫がパウルの剣を槍の柄で受け止めると、唇の端を上げて笑ってみせる。
 パウルは眉一つ動かさないまま、刃を滑らせ柄を握る兵庫の指を狙う。
 兵庫はそれに気付き、慌てて再度刃を押し返して後に飛ぶ。
 するとパウルも距離を取って魔導銃を構え、発砲。顔面を狙ったそれは回避行動をとった兵庫の右頬を焼く。
「よぉ、楽しそうじゃねぇか、俺も混ぜろよ」
 そんな声が兵庫の後から聞こえたかと思うと、背中を思いっきり蹴られ、思わずつんのめる。
 ティーアが兵庫とパウルの上空に飛び上がり、重力に加速を付けてパウルに向けて斧を振り下ろした。
「戦いたかったぜ!!」
 見ればエヴァンスが肉塊剣機へとテンペストで渾身撃を叩き込み、綾女がその後に続き振動刀で斬り付ける。
 クリスティンと啓一はまずは周囲のゾンビから殲滅しにかかっていた。
「あぁ、今なら入場無料だ」
 兵庫は体勢を整えるとティーアに向かって軽口で返し、不意の一撃に体勢を崩しているパウルに向かって強く穂先を突きだした。

●右
 銃撃はさほど精密さに優れてはおらず、覚醒状態のハンターにとっては避けることは難しくなかった。
 それでも向こうは壁を盾に撃ってきて、また部屋の奥にあったもう一つの扉から更にゾンビ達が入り込んできたとなると、中々に厄介な状態ではあった。
「俺達はハンターだ! この砦はハンターによって包囲されている。大人しく投降しろ!」
 ヴァイスが扉の外に向けて呼びかけるが、それに呼応する声は聞こえない。
「まぁそうだろうな」
 御言はジェットブーツで一気に壁側まで距離を詰めると盾を構えて扉の外へと躍り出て、兵士達の捕縛へと踏み切った。
 それを見たカールも一緒に飛び出してワイヤーウィップを振るい、ガブリエルも教官と思われる男に向かってフラジェルムを振るった。
 あっさりと扉の外が静かになったのを見て、ヴァイスは安堵とも呆れともとれぬ溜息を一つ吐くと、そのまま気合いを入れ直し、襲いかかってきたゾンビ達を一気に薙ぎ払った。
 シェリルもその後に続いて一気に5つの手裏剣を投げ、オウカはファイアスローワーで焼き払う。
 それすらも避けてヴァイスへと襲いかかろうとしたゾンビを、シルヴィアが冷静にヘッドショットで倒した。
「研究所はどちらか教えて下さい、先生?」
 その頃、廊下ではカールが手足を拘束した上で、教官に向かって微笑みながら問い掛けていた。
 ガブリエルはその様子を見ていたが、ふと嫌な気配に視線を上げた。
 中庭へ続く扉の向こうから、1m程の黒い塊がごろり、と侵入してきた。
 何だ、アレは? と思うと同時に、負のマテリアルの流れを感じ、咄嗟に「剣機だ! 皆、中へ!!」
と叫びながらガブリエルは室内へと飛び込んだ。
「なっ!?」
 御言はその塊を認識した瞬間に防御障壁を張ったが、完全に反応が遅れたカールは剣機から発せられた雷に打たれた。
「カール無事か!? ……っ!」
 衝撃が過ぎ去り、御言が周囲を見渡すと、そこには事切れた人間達が倒れ込んでいた。
「……はい、僕は大丈夫、です……」
 1人でも多くの命を救いたい、そう考えているカールにとってこの光景はただただ悲しく悔しかった。
 御言に支えられながら立ち上がると、真っ直ぐに黒く蠢く塊を見つめる。
 それは無数の髪の毛に覆われた球状の剣機であるらしかった。
 剣機が後の扉を通りかかる瞬間を狙ってシルヴィアが引き金を引くと、剣機は動きを止め、そのまま室内へと侵入してきた。
 オウカは自分の予感が当たったことに落胆しながら魔導拳銃から七支刀へと構え直した。
 室内へ入ってきたカールの姿を見て、何が起こったのかを漸く察したシェリルはその怒りに任せ、刀を構えて突進した。
「シェリル!」
 ヴァイスの制止の声も届かないまま、シェリルは刀で斬り付けると切れた髪の毛が周囲に散った。
 シェリル1人を戦わせる訳にもいかないと、ヴァイスとオウカもその後に続いて距離を詰めると一閃を浴びせる。
 後方からはガブリエルが光球をぶつけ、カールはデルタレイで仲間の合間を縫って攻撃を仕掛け、御言が引き金を引く。
 シルヴィアは最も離れた所から銃弾を当てていく。
 ぶわっと剣機のたゆたう髪が膨れあがるとマテリアルが一気に動く気配がした。
「攻撃が来ます!」
 ガブリエルは先ほどの嫌な気配と同じ物を感じ、周囲に呼びかける。
 同時に無数の火の玉が空中に浮かんだかと思うと、カール目がけてそれは飛んできた。
 咄嗟にガブリエルはカールを抱き込んで庇う。火の玉はガブリエルの背で弾けると、周囲一体を衝撃波が襲った。
「ガブリエルさんっ!」
 衝撃の波が収まり、カールが慌てて身を起こすと、ガブリエルは「よかった」と笑った。プロテクションで強化していたとはいえ、背部に直撃を受けたことで相当のダメージとなっているはずだったが、先ほど守れなかったカールを守れた事に彼女は安堵した。
 ズン、ズン、と重たい物が歩いてくる音が廊下から響いてくる。
 更に何が来るのかとオウカは刀を構え備える。
 扉の外に見えたのは2m以上あるであろう剣機の一部とその肩に腰掛けてこちらを覗き込んでいる人型の歪虚。
「みぃつけた」
 剣機は扉の周囲を一撃で破壊すると、悠々と室内へと入ってきた。
「あれ? 随分ボロボロなんじゃない? 情けないなぁ」
「アウグストという豚野郎の部下とは君のことかね!?」
 突然御言が発した言葉は間違いなく挑発だった。
 歪虚の両眉が跳ね上がり、御言を見据える。
「唐突だが彼の腹を蹴破ったのは、わたしだ。敵を取りに来ないのかね?」
「……そう」
 低く歪虚が呟くと、御言は自分の身体が動かなくなっている事に気付く。
「黙っていれば、もう少しだけ生きられたのに」
 とん、と軽い足音を立てて剣機から下りると、他のハンターの存在など気にしないような素振りで真っ直ぐに御言へと近付いていく。
「逃げろ! 久我!」
 ヴァイスとオウカ、シェリルがその足を止めようと動くと、巨大な剣機がその前に立ち塞がった。
「行かせない!」
 カールが機杖を構えたその時、静電気が周囲に走り、黒い剣機が電撃を放とうと蠢きだしているのを知る。
 轟音が鳴り、電撃がカール、ガブリエル、シルヴィアを襲った。
「……どう殺して欲しい? まずは蹴破るか」
 防御も取れないまま歪虚に腹部を思い切り蹴り上げられ、御言は床に倒れ込むと息も出来ない程の痛みに呻いた。
「久我!」
 ヴァイスは剣機の攻撃を受け止めながら、叫ぶ。
 何度も何度も腹部を蹴られ、顔を蹴られる。
「……このっ!!」
 カールがデルタレイで剣機と歪虚を同時に攻撃すると、蹴ることに夢中だった為か、歪虚はその一撃を受けてよろめいた。
「……邪魔をするな……?!」
 歪虚がカールを見る。歪虚と目が合った瞬間、カールは自分の意思では身体がぴくりとも動かなくなってしまったことに気付いた。
 そして確かに自分を射竦めた目が、この一瞬で遠いところを見ている事にも気付いた。
 タァーン、と銃声が響き、歪虚の身体が再度揺らぐ。
 シルヴィアの冷気を纏った銃弾が歪虚の左上肢を貫通していた。
 しかしそれも気にならないように、遠いところを見たまま歪虚は呟いた。
「……パウル? ダメだ、パウル!」
 歪虚は唐突に踵を返すと部屋から出て走り去った。
 歪虚が居なくなるとカールは唐突に動けるようになり、ガブリエルに続いて御言へと駆け寄った。
 浅いが呼吸出来ている事を知り、2人は安堵しながら、仲間を見る。
「……何だか分からんが、チャンスか?」
 オウカは刀を握り直し、目の前の剣機へと再び斬り掛かっていった。

●中庭
 兵庫の穂先はパウルの左胸を貫通していた。
 こふっ、と息と共に血を吐きながらパウルは槍を引き抜くと、二歩、三歩と後退した。
「……しくじりましたね」
 パウルは中庭に集まったハンター達10人を見渡して、大きく息を吸い込む。
 レイヴェンは肌が粟立つ程の負のマテリアルに、柳眉を寄せて思わずパウルを見る。
 パウルは魔導銃の銃口を空へ向けて構えるとそれを中庭の中央に向かって放った。
 中庭中に煙が広がり、思わず全員目と口を閉じた。
 薄めを開けようとした真司は目を焼くような痛みに再び強く目を閉じた。
 ゴーグルをしていた綾瀬は目は無事だったが、煙を吸い込んだ途端、喉を焼くような痛みに咳き込んでしまう。
 他の皆も同様で、あちらこちらで咳き込む音が響いた。
 そんな煙でまだ視界も良くない中、ガトリング砲が打ち出される音がし、剣が空気を切り、それを受け止めた音がする。火の玉が爆ぜる音がして、真夕と幾人かの悲鳴が聞こえた気がした。
 綾瀬はローブの袖口で口元を押さえながら、マテリアルを頼りに銃を構えた。
 煙が晴れた時。そこにはティーアの斧により左の肩口から胸部までを切り裂かれたパウルがいた。
「どんなに目がやられたって、お前の気配は濃すぎるんだよ」
「……なるほど」
 パウルはうっすらと口元に弧を描いて、俯せに倒れた。
「パウル!!」
 その時、悲痛なテノールの声が響き、真っ直ぐにパウルへと駆け寄る影があった。
「あんな技、まだお前には早いって……!」
「……お逃げ下さい、カール様。どの道わたしの身体はもう保ちません。剣機達が残っているうちに、早く」
「ダメだ! パウル、お前を置いて行くなんて……!」
「なら、お前も後を追えば良い」
 兵庫がカールの喉元に穂先を突きつける。
「……お前がパウルを傷付けたんだな……!」
 カールが兵庫を睨み付け、兵庫の動きを縛る。
 次いでティーアを睨み、同様に動きを封じた。
 兵庫とティーアが射線上にいる為に攻撃が出来ないクリスティンと啓一は、何が起きているのか分からないまま2人の名前を呼ぶ。
 カールはパウルの剣を手に持つと、それをパウルの首へと突き立てた。
 そうして大事そうにパウルの首を抱えると、大きな黒い翼を背に生やし、空へと舞い上がる。
「逃がすか……!」
 真司と綾瀬がすかさず銃を構えるが、ガトリング砲が再び打ち込まれ、機を逃す。


 こうして苦戦を強いられたハンター達ではあったが、残った剣機を順当に倒し、無事、研究施設を発見することに成功。
 また、幾人かの兵士・教官を捕まえることにも成功し、今後の捜査の発展に寄与することも出来たのだった。

 ――もう砦からは剣戟の音は聞こえない。

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参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • アックスブレード「ツヴァイシュトースツァーン」マイスター
    ティーア・ズィルバーン(ka0122
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • 凶獣の狙撃手
    シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338
    人間(蒼)|14才|女性|猟撃士

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 《死》の未来を覆す奏者
    白金 綾瀬(ka0774
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • 影の戦士
    神薙 綾女(ka0944
    人間(蒼)|22才|女性|疾影士
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人

  • ガブリエル=VIII(ka1198
    人間(紅)|28才|女性|聖導士
  • 破れず破り
    春日 啓一(ka1621
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 《聡明》なる天空の術師
    アルファス(ka3312
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • はじめての友達
    カール・フォルシアン(ka3702
    人間(蒼)|13才|男性|機導師
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • ゴージャス・ゴスペル
    久我・御言(ka4137
    人間(蒼)|21才|男性|機導師
  • 炎滅の志士
    天ヶ瀬 焔騎(ka4251
    人間(紅)|29才|男性|聖導士
  • 囁くは雨音、紡ぐは物語
    雨音に微睡む玻璃草(ka4538
    人間(紅)|12才|女性|疾影士
  • 兜の奥の、青い光
    No.0(ka4640
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 元凶の白い悪魔
    マーゴット(ka5022
    人間(蒼)|18才|女性|舞刀士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/06/20 06:41:47
アイコン 相談卓
シェリル・マイヤーズ(ka0509
人間(リアルブルー)|14才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/06/21 06:55:17