ゲスト
(ka0000)
【東征】少年、鬼の子からタケノコもらう
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/23 22:00
- 完成日
- 2015/06/29 03:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●初めての景色
「うわっ、見てみて、あれ、何」
災厄の十三魔が一人レチタティーヴォ配下の歪虚プエルは、少年の外見同様、好奇心は強い。初めての土地で見慣れぬものを見つけて走り出した。
はしゃいでいる主にエクエスは溜息が出る。
「駄目です、プエル様、結界があるから近付けないですよ」
「面白そうなのに……どうやったらいけるかな?」
プエルが指さす先は竹の間にある茶色の円錐形の物体。
エクエスの中に幾つか案は浮かぶが簡単ではないので、茶色の円錐は諦めてもらうしかない。
プエルは溜息ついて、別の所に歩き出す。
「あれ、あのヒト何?」
プエルの指さす先には青い肌の大きな姿がある。
「鬼、ですね」
「へぇ」
止める間もなく、プエルは歩き出していた。
●鬼と少女?
ぼんやりと人里を見下ろす青い鬼のサルハネは、仲間が出ていくのを見送って溜息を洩らした。
人間の集落から気になる物をもらってくるために彼らは出かけた。
要は盗みなのだが、こっそりという重要な言葉が付いている。必要以上に物を盗らず、人の命もとらず……を守ることを大人からは言われている。
妖怪たちは騒ぎにしてほしいと思っているに違いないが……。
一度、サルハネは取りに行くのに付き合った。夜の人間の集落にこっそり行き、見慣れぬ食べ物を手に入れた。
帰る際に、警戒していた人間に追われ、散り散りになった。まあみんな無事だったのだが、サルハネは一歩間違うと危険だった。
落とし穴にはまり、にっちもさっちもいかなくなった。
白くゆったりとした着物を着た女性が来たとき、殺されると彼は考えた。しかし、質問におとなしく答えていると、助けてくれた。
『また襲撃などすれば、次は容赦なく打ち滅ぼしますよ! あなたが、他人を害していないというのを信じ、今日は見逃しましょう』
女性は飴を一つサルハネにくれ、それ以外は没収し、結界の外に追い出した。本当に攻撃もされず、彼は帰った。
それ以来、サルハネの中には鬼と妖怪たちと人間との関係がぐるぐる回っている。
人間は鬼を虐げてきた。だから、鬼だけの国を作る、という理想の元ここにいる。妖怪がそれに手を貸すという。
監視もあるのに妖怪は本当に味方なのか?
助けてくれる人間もいるのにすべてが敵なのか?
人間が張っている結界を妖怪は通れないのに、鬼が通れるのはなぜ?
人間の物を盗っても、こっそりとしつこく言うのは、人間すべてを敵に回したくない表れなのかもしれない……とサルハネは考えるようになってきていた。
考えても、考えても答えは出てこない。相談するにも難しい問題だ。
「何をブツブツ言っている?」
一人しかいなかったはずなのに、横から凛とした声が届く。横を見ると、角のない頭の少女のような人間のようなモノが座っている。
「ぎゃあああああああああ」
サルハネは足をバタバタさせて後退する。
「大きいのに、余がいるだけで驚くのか?」
少女のようなそれは笑う。
人間、少女……サルハネは観察する。肌は白いが、陶器のような質だ。人間ではない存在だと気付いた。
「俺は何もしないぞ」
「ん?」
「ここで、一人外を見ているだけだ」
言い訳をしたサルハネに少女は首をかしげる。ひょこと立つと、サルハネの角をむんずとつかんだ。
「ふふっ、固い」
「……え?」
鬼を知らないようだ。新しく生まればかりの妖怪か、それとも別の所から来たモノか?
「余は人間が嫌いだよ? お前は気になるのか?」
独り言から考えが暴露されている。
サルハネはゴクリと唾を飲んだ。素直に言うか否か。
「ああ」
「ふーん」
「お前、結界の中に入れるんだろう? 余が連れて行ってやるから、人間見てくればいい」
「へっ?」
「その代り、余の言うことを聞け!」
歪虚に目をつけられたと知り、サルハネは生きた心地はしていなかった。
●百聞は一見にしかず
肌が出ないように長袖長ズボンに、手袋でマントにフード……これで肌は見えないとそれは言った。
「これでよいだろう! お前はきっと人間が嫌な存在だとして帰ってくる。それと、その茶色の持ってくること!」
結界のところで別れるとき、それは頬を赤くして目をきらきらせながら、タケノコを指さして言った。
苦笑しつつサルハネはタケノコを一つ折るとそれに差し出した。
「え?」
それはきょとんとしてタケノコを両手で受け取る。
「そこで待ってろよ」
「あ、うん」
なんか変なやり取りだと思いつつ、呆然とする歪虚を置いてサルハネは集落に向かった。
行って帰ってくるだけ……それなら、問題は起こらないはずだ。人間がどうか分からないかも知れないが、まずは見てみることが重要だと考えた。
こっそりではなく堂々と入る人間の集落の雰囲気が違っていた。まず日があるうちに入ったということもある。
通りを行き来する人間を思わず立ち止まって見つめる。急いでいる人間でもぶつかることなく避けていく。
大人だけでなく、子どもも往来にいる。遊んでいるのか時折楽しそうな声が上がった。
鬼の集落にはない活気がここにはある。
(妖怪じゃなくて、人間と仲良くできなかったのかな?)
人間は鬼を嫌悪すると聞かされている。
妖怪は受け入れてくれたと言う。
昼間の人間を見たことにより、サルハネは余計に分からなくなってきていた。
通りを少し歩こうと足を進める。荷物を山と積んだ大八車が通って行った。
その大八車がかしいだのをサルハネは見た。
大八車が倒れる方に、老婆と幼い子がいる。
彼は駆けつけた。
老婆と幼い子に覆いかぶさり、荷物を背中に受ける。ずっしりと重さがかかるが耐えないとならない。
「大丈夫か!」
「おいしっかりしろ」
「積み過ぎなんだよ! 馬鹿モンが!」
怒号と悲鳴が上がる中、荷物がどけられる。
サルハネはほっとした。人を助けることができて。
老婆と幼子の顔が目に入った。
「お、鬼だ! 鬼だよ!」
老婆は悲鳴を上げて、幼子はきょとんとしている。
サルハネはフードがとれ、スカーフが外れていることに気付いた。
「なんで鬼がこんなところに」
武器を持った男たちが集まってくる。
老婆はあわてて幼子を連れて逃げる。
「お兄ちゃん、助けてくれてありが……」
幼子の声が遠ざかる。
石が飛んできた。
「妖怪の手先だ! 鬼は殺さないと!」
鬼の子は悲しみの中で呆然と座り込むしかできなかった。
「うわっ、見てみて、あれ、何」
災厄の十三魔が一人レチタティーヴォ配下の歪虚プエルは、少年の外見同様、好奇心は強い。初めての土地で見慣れぬものを見つけて走り出した。
はしゃいでいる主にエクエスは溜息が出る。
「駄目です、プエル様、結界があるから近付けないですよ」
「面白そうなのに……どうやったらいけるかな?」
プエルが指さす先は竹の間にある茶色の円錐形の物体。
エクエスの中に幾つか案は浮かぶが簡単ではないので、茶色の円錐は諦めてもらうしかない。
プエルは溜息ついて、別の所に歩き出す。
「あれ、あのヒト何?」
プエルの指さす先には青い肌の大きな姿がある。
「鬼、ですね」
「へぇ」
止める間もなく、プエルは歩き出していた。
●鬼と少女?
ぼんやりと人里を見下ろす青い鬼のサルハネは、仲間が出ていくのを見送って溜息を洩らした。
人間の集落から気になる物をもらってくるために彼らは出かけた。
要は盗みなのだが、こっそりという重要な言葉が付いている。必要以上に物を盗らず、人の命もとらず……を守ることを大人からは言われている。
妖怪たちは騒ぎにしてほしいと思っているに違いないが……。
一度、サルハネは取りに行くのに付き合った。夜の人間の集落にこっそり行き、見慣れぬ食べ物を手に入れた。
帰る際に、警戒していた人間に追われ、散り散りになった。まあみんな無事だったのだが、サルハネは一歩間違うと危険だった。
落とし穴にはまり、にっちもさっちもいかなくなった。
白くゆったりとした着物を着た女性が来たとき、殺されると彼は考えた。しかし、質問におとなしく答えていると、助けてくれた。
『また襲撃などすれば、次は容赦なく打ち滅ぼしますよ! あなたが、他人を害していないというのを信じ、今日は見逃しましょう』
女性は飴を一つサルハネにくれ、それ以外は没収し、結界の外に追い出した。本当に攻撃もされず、彼は帰った。
それ以来、サルハネの中には鬼と妖怪たちと人間との関係がぐるぐる回っている。
人間は鬼を虐げてきた。だから、鬼だけの国を作る、という理想の元ここにいる。妖怪がそれに手を貸すという。
監視もあるのに妖怪は本当に味方なのか?
助けてくれる人間もいるのにすべてが敵なのか?
人間が張っている結界を妖怪は通れないのに、鬼が通れるのはなぜ?
人間の物を盗っても、こっそりとしつこく言うのは、人間すべてを敵に回したくない表れなのかもしれない……とサルハネは考えるようになってきていた。
考えても、考えても答えは出てこない。相談するにも難しい問題だ。
「何をブツブツ言っている?」
一人しかいなかったはずなのに、横から凛とした声が届く。横を見ると、角のない頭の少女のような人間のようなモノが座っている。
「ぎゃあああああああああ」
サルハネは足をバタバタさせて後退する。
「大きいのに、余がいるだけで驚くのか?」
少女のようなそれは笑う。
人間、少女……サルハネは観察する。肌は白いが、陶器のような質だ。人間ではない存在だと気付いた。
「俺は何もしないぞ」
「ん?」
「ここで、一人外を見ているだけだ」
言い訳をしたサルハネに少女は首をかしげる。ひょこと立つと、サルハネの角をむんずとつかんだ。
「ふふっ、固い」
「……え?」
鬼を知らないようだ。新しく生まればかりの妖怪か、それとも別の所から来たモノか?
「余は人間が嫌いだよ? お前は気になるのか?」
独り言から考えが暴露されている。
サルハネはゴクリと唾を飲んだ。素直に言うか否か。
「ああ」
「ふーん」
「お前、結界の中に入れるんだろう? 余が連れて行ってやるから、人間見てくればいい」
「へっ?」
「その代り、余の言うことを聞け!」
歪虚に目をつけられたと知り、サルハネは生きた心地はしていなかった。
●百聞は一見にしかず
肌が出ないように長袖長ズボンに、手袋でマントにフード……これで肌は見えないとそれは言った。
「これでよいだろう! お前はきっと人間が嫌な存在だとして帰ってくる。それと、その茶色の持ってくること!」
結界のところで別れるとき、それは頬を赤くして目をきらきらせながら、タケノコを指さして言った。
苦笑しつつサルハネはタケノコを一つ折るとそれに差し出した。
「え?」
それはきょとんとしてタケノコを両手で受け取る。
「そこで待ってろよ」
「あ、うん」
なんか変なやり取りだと思いつつ、呆然とする歪虚を置いてサルハネは集落に向かった。
行って帰ってくるだけ……それなら、問題は起こらないはずだ。人間がどうか分からないかも知れないが、まずは見てみることが重要だと考えた。
こっそりではなく堂々と入る人間の集落の雰囲気が違っていた。まず日があるうちに入ったということもある。
通りを行き来する人間を思わず立ち止まって見つめる。急いでいる人間でもぶつかることなく避けていく。
大人だけでなく、子どもも往来にいる。遊んでいるのか時折楽しそうな声が上がった。
鬼の集落にはない活気がここにはある。
(妖怪じゃなくて、人間と仲良くできなかったのかな?)
人間は鬼を嫌悪すると聞かされている。
妖怪は受け入れてくれたと言う。
昼間の人間を見たことにより、サルハネは余計に分からなくなってきていた。
通りを少し歩こうと足を進める。荷物を山と積んだ大八車が通って行った。
その大八車がかしいだのをサルハネは見た。
大八車が倒れる方に、老婆と幼い子がいる。
彼は駆けつけた。
老婆と幼い子に覆いかぶさり、荷物を背中に受ける。ずっしりと重さがかかるが耐えないとならない。
「大丈夫か!」
「おいしっかりしろ」
「積み過ぎなんだよ! 馬鹿モンが!」
怒号と悲鳴が上がる中、荷物がどけられる。
サルハネはほっとした。人を助けることができて。
老婆と幼子の顔が目に入った。
「お、鬼だ! 鬼だよ!」
老婆は悲鳴を上げて、幼子はきょとんとしている。
サルハネはフードがとれ、スカーフが外れていることに気付いた。
「なんで鬼がこんなところに」
武器を持った男たちが集まってくる。
老婆はあわてて幼子を連れて逃げる。
「お兄ちゃん、助けてくれてありが……」
幼子の声が遠ざかる。
石が飛んできた。
「妖怪の手先だ! 鬼は殺さないと!」
鬼の子は悲しみの中で呆然と座り込むしかできなかった。
リプレイ本文
●大通り
「貴様ら、何をしている……」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)は黙ってはおられず、覚醒状態となってサルハネを守るために動いた。
「お前ら止めろっ!!」
東方にやってきて目にした事態に、雪ノ下正太郎(ka0539)も同時に覚醒状態で割って入る。事情は深く知らずとも、リンチはとんでもないことだ。
二人が睨みを利かせているため、適当な物を武器としていた人物たちも近寄れなくなる。飛んできた石は突如生じたアースウォールに止まるようになった。
「皆様、お控えください!」
レオン・イスルギ(ka3168)の凛とした声が響き、民衆のざわめきを一段階落とす。魔法を使ったようなしぐさをしていたので、ハンターたちは彼女がアースウォールを作ったと見当つけた。
「まずは双方おひきなすって。喧嘩でもねぇ、一方的に石を投げるにゃ道理がないように見えますが? 大体、いい大人が寄ってたかって何をしてらっしゃる。お嬢さん、患者を診るなら今のうちだよ」
ヘイルンド・リネイセルディア(ka2930)が風格のある様子で野次馬とハンターの間に立った。
「大丈夫?」
ヘイルンドに声を掛けられたエイル・メヌエット(ka2807)はサルハネの側に寄り、怯えている彼の腕にそっと触れ、落ち着くように告げる。
「そこの……ヒトが身体を張って庇っていなければ、先ほどの方々は荷物の下敷きになっていたところでしたよね?」
牧 渉(ka0033)はにこやかに、飄々と現れてゆっくりと民衆を見る。
遠巻きに大八車と鬼とされている人物を見ている人間はざわめく。
ざわめきを要約すると「鬼は怖い」「敵だ」というものだ。
「おおっ? 随分と図体のでかい……子供だねぇ、参った。てっきり大人がやられてんのかと」
言われてヘイルンドはサルハネを改めて見た。体が大きくとも、顔は幼いし、頭上にある角がこの事件の発端だと分かる。
「しかし、角があろうとなんだろうと、怯えている鬼っ子に寄ってたかって礫を投げてなんになるんてぇだい?」
ヘイルンドは飽きれたとばかりに民衆を見る。穏やかに見えて鋭い視線だ。
「私は大八車の荷物が崩れるのを見ました。その時、そこの……鬼の方が必死に駆け寄って己が身を盾に二人を守ったのです」
レオンは見えたからこそ、守らねばと魔法を使った。
「石を投げて罵倒する前に、この子に言うべきことがあるだろう。それとも、事故を防いだ功労者に石を投げつけるのがエトファリカ流の礼の作法と言うのか?」
オウカの低くドスが効いた声は、集まっている人々を威圧し、静まらせる。
「そうじゃあ、おまいさんらのいい分、この爺がお聞きしやしょう?」
ヘイルンドの問いかけに、民衆から返ってくるのはやはり先ほどと同じ「鬼だから」「結界があるのに」といったこと。
「道理などありゃしない」
呟くヘイルンドは怒りも寂しさも通り越した目になる。
「ここは結界に守られているわ。悪しきものはなら通さない」
サルハネの傷を癒していたエイルは凛と告げる。龍脈再起動のために奮闘してきたからこそ断言できる。
「この子が普通に通ったと言うなら……妖怪や歪虚とは違い人間やエルフやドワーフみたいに、この世界のれっきとした住民てことだよな?」
ハンターは同じ意見を持っていると感じた正太郎は、住民たちに畳み掛ける。
民衆からザワリと声が上がる。
「妖怪の手先なら、正体がばれるのも顧みず事故から他人を守るものか」
オウカの厳しい言葉に、再び住民は黙った。
「さて……鬼全体のことはやめて、彼の事だけにしましょう? 彼自体は結界に阻まれるような負の要素を持たない存在だった……」
渉は笑顔で住民に告げる。今ある事だけを考えることが肝心である、と。
「……不測の事態ではあるみたいですし、この鬼の件は預けてくれませんかね? 俺はともかく、彼らは有能なハンター……モノノフですよ」
渉の言葉に集まっていた人達は不承不承うなずき、各々のしていたことに戻って行った。
●路地裏
「あなたのお名前は? 私はエイルっていうの」
「お、俺はサルハネ……」
「ありがとう、きちんと答えてくれて」
エイルは飴玉をぽいと口に押し込む。
「むぐ?」
一瞬警戒したが、甘い味がサルハネの口に広がり、目から涙があふれる。
「サルハネさんていうんですね。俺は正太郎です。場所変えましょう?」
正太郎とオウカがサルハネに手を貸して、立たせる。
渉が手招きしている方に移動した。脇道に入ったところで、人通りも近く目も付きにくい場所。完全に隠れるところに行くとサルハネがパニックを起こす危険性もあるという配慮。
ハンターたちも見知った顔にあいさつや軽い自己紹介をする。
「オウカさん、少しサルハネさんを見ていてくれるかしら? 私、先ほどのお子さんと話せないかとちょっと思ったの」
「そうですね、あの子、言葉途中で連れて行かれてしまっていますから」
レオンはエイルに賛同した。
「この爺も役立つかぁ知りませんが、ご一緒しましょう」
ヘイルンドが来ることで、老婆に言葉が通りやすいかもしれない。年齢と共にできる言葉の重みは生じるから。
不安そうな顔のサルハネに、エイルは笑顔を向け立ち去る。
「それにしても、往来まで出て来るとはなかなか大胆なことしますね」
渉が首をかしげると、サルハネはびくりと身を震わせる。
「いや、そんなに怯えないでくださいよ」
体が大きいサルハネだが、今は豆粒のように小さくなっているようだった。
「まだ子どものようなお前を使いに出したわけでもあるまい?」
オウカは渋面だ。襲撃でもなく、用があるようでもなく、そこにいただけというのが印象に強い。
「ご、ごめんなさい」
サルハネは声を絞り出す。
「いや、謝るのはこっちだ。人を助けてひどい目に遭ったのはお前の方だ」
オウカは怯えるサルハネの肩に優しく手を載せる。布地を通してぬくもりが伝わる。
「来る気はなかったんですか?」
サルハネの様子から、渉は推測した。
「う、うん……。以前助けてくれた人間の事考えていたら……妖怪が……行って見てくればいいって」
小さい声でぼそぼそと吐き出す。聞かれることを恐れているように視線を動かす。
「助けてくれた?」
「あ、うん。……エイル……さんみたいに飴くれたんだ……それから人間って本当に悪いのかなって思うようになって」
サルハネはあっと口をふさぐが、オウカは気にするなと言うように首を横に振った。
「鬼からすると人間が悪い、人間からすると鬼が悪い……ですか」
「人と鬼が袂を分かった件を両方の立場から調べる必要がありますね」
渉と正太郎は思案するが今すぐに解決できる話ではない。
「互いの歩み寄りは時間がかかりますが、サルハネ君のお蔭で鬼が人を救ったという事実は一つできたわけです」
渉はサルハネの背中に手を置いた。
「助けられそうだったから……」
「お前は優しい……だから、悩んで……妖怪に付け入られた」
オウカは妖怪に対して怒りがわく。
「い、一応、目立たないようにはしてくれた……他の妖怪とちょっと違う……変わった子」
「いや、それをかばわなくていいですよ。ああ、どんな奴だったのかは聞いておきます」
「人間に似てた……小さくて細くて……」
正太郎に尋ねられて姿を示す。曖昧で後で遭遇しても分からなそうだ。
●民家
エイルたちは先ほどの騒ぎの周りで話を聞くと、老婆と幼子がどこの誰かはすぐに分かった。
集落も広いようで狭く、生活によって行動範囲も限られる。
長屋が続くところにハンターが行くと、好奇の視線が絡む。
「ごめんください」
変わった客に女性は困惑を示す。
エイルは先程の大通りの事を話した。
「怪我があれば、私医者なので診ます」
「怪我はなかったみたいですけど……」
女性からはできれば関わりたくないという雰囲気が伝わる。
「できればその……彼に会っていただきたいの」
「なぜ? 鬼だと言うじゃないですか」
怯えている。
「ですが、彼はかばったときに傷を負い、人間からは石を投げられて怪我していました」
レオンとヘイルンドがそれに対してうなずく。
「大体、鬼ってぇのが、本当に全て悪いっていうなら、私だって悪い奴になりませんかい?」
ヘイルンドは自身の耳を指さす。地域によってはエルフを見ないで生活をしているだろう。
「人やエルフ、ドワーフにも悪行をなすものはおります。ですが、種族全てを敵とみなしているわけではないですよね?」
レオンは必死に問いかける。
「あたし、行きたい。お兄ちゃんにちゃんとお礼言ってないもの」
会話を聞いていたらしく、部屋の奥にいた幼子が出てくる。
老婆は嫌がっているが、幼子は断固として譲らない。
「だって、レイギは大切っていつも言ってるよ、おばあちゃん」
老婆と女性は困惑し、顔を見合わせる。口には出していないが、どうするか相談しているような顔つきだ。
「そうさね……」
老婆の方が溜息をついた。
「すべてが悪いわけではない……」
「お義母さん」
女性は抗議した、納得していないから。
「わかったよ……あの鬼だけだ……会うのは」
「十分よ」
エイルは微笑み、トランシーバーで待っているオウカ達に連絡を入れた。
●街中
老婆の不安も考慮して、街中でサルハネ達は会う。ハンターたちは民衆から二人のやり取りを邪魔されないように見守る。
幼い子は恐れない。
サルハネはフードをして頭を隠している。
「お兄ちゃん、さっきは助けてくれてありがとう」
しゃがんだサルハネは幼子の言葉に衝撃を受けた。
鬼である自分が人間の子にお礼を言われる、そんな瞬間が来るとは思いもしなかったからだ。
「鬼って角あるって本当? こわいって聞いたけど、お兄ちゃんはこわくない……」
幼子はとびきりの笑顔だ。
「触る?」
「え、いいの?」
サルハネはフードを外し頭をさげる。幼子は恐る恐る角に手を伸ばす。
「う、うわぁ。歯みたいに固いよ」
最初は遠慮して突く程度であったが、むんずと最後は握っていた。しばらくして満足したのか、手を離したので、サルハネは頭を戻した。
「ヨウカイといっしょにいるのはこわくない?」
「……怖いよ……」
「じゃ、こっちに来ればいいよ」
「うん」
サルハネの目から涙がこぼれるが、スカーフにすぐに吸い取られ、幼子には気付かれなかった。
幼子は老婆に促されて手を振りながら立ち去った。
まだ鬼が人の中で暮らせないのは、サルハネもハンターたちも分かっていた。
「あの……俺はこの後どうなるの?」
立ち上がったサルハネは覚悟を決めたようだった。今回は襲撃をしたわけではないが、罪は罪としてどこに連れて行かれても仕方がないと。
「そりゃ、こっちにいたければいれば……てぇ言いてぇとこだがねぇ」
ヘイルンドはサルハネから達観した空気を感じとる。
「伝え聞くリアルブルーの話に善き鬼、悪しき鬼がいたそうです。サルハネさんは善き鬼です」
励ますようなレオンの言葉に、サルハネはうなずいた。
「君は大丈夫でも、ここに置いて置くわけにはいかないだろう」
オウカは集落の人間の仕打ちを考えるとうめく。
「どちらの意識も変わらないと悲劇は終わりません……。歪虚を排除するには協力するべきだと思いますよ」
正太郎は、怯えが消え穏やかなサルハネの顔を見上げる。
「互いに理解するには時間がかかるでしょうね。焦らないように……近寄れれば良いですね。ああ、でも必要に駆られて接触する場合、人を選ぶんですよ」
渉がにこやかにサルハネを見る。
「人を選ぶ?」
「皆さんみたいなハンターでしょうね、俺は……まあ、協力しますよ」
サルハネは渉にうなずいた。
「帰らないといけないのよね」
エイルに確認されてサルハネはうなずいた。
サルハネが入ってきたというところの近くまで見送ることになった。途中、人間に襲われないようにという配慮。
「歪虚がいるなら……鉢合わせない方がいいですね」
正太郎はサルハネに確認する。
「あ、タケノコ採っていかないと……」
サルハネは竹藪に生えている折りやすいものを入手する。
「食料にするんですか?」
レオンが尋ねるが、サルハネは横に首を振る。
「その妖怪が欲しいって……」
人がいいサルハネに憐憫の視線が自然と向かう。
持って行くなとも言えない。機嫌を損ねなければサルハネが安全に仲間の所に帰れるかもしれないのだから。
「あと、これは詫びだ。同じ人間としてあんなことをした……同胞の」
「褒められて当然のことしたんだから、胸をはっていいのよ」
オウカとエイルが酒や飴など嗜好品や食料をいくつか渡した。持ち歩ける分だから大した量はない。
「これもおまけ」
エイルはプロテクションを掛けてやる。時間はそれほど持たないが、別れてからその歪虚に遭うまで少しでも守れるとよいから。
「ありがとう」
サルハネは安堵と寂しさが混ざる顔で、立ち去って行った。
「鬼と人……結構な大仕事ですよね」
鬼のことを少しで知り、協力できるならば、小さな一歩でも重要な未来の懸け橋だと正太郎は思った。
●帰路
サルハネがタケノコを手渡すと、プエルは静かに受け取った。
「で? どうだった?」
プエルはサルハネが荷物を持っているのを不審そうに眺めている。
「いろんな人がいるって分かった。俺とあまり変わらなかったよ」
微笑むサルハネにプエルは頬を膨らませ、足を速める。
サルハネはあわてて追いかけた。
プエルは一応サルハネを鬼のいる周囲に置いてきた。そこから少し離れたところで、立ち止まる。
「エクエスいる?」
「おりますけど……またそれですか?」
物陰から出てきたエクエスはあきれる。
「うん。タケノコっていうんだって、面白いよ? それより、演目の準備を始めるよ」
プエルはにこりと笑った。
「貴様ら、何をしている……」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)は黙ってはおられず、覚醒状態となってサルハネを守るために動いた。
「お前ら止めろっ!!」
東方にやってきて目にした事態に、雪ノ下正太郎(ka0539)も同時に覚醒状態で割って入る。事情は深く知らずとも、リンチはとんでもないことだ。
二人が睨みを利かせているため、適当な物を武器としていた人物たちも近寄れなくなる。飛んできた石は突如生じたアースウォールに止まるようになった。
「皆様、お控えください!」
レオン・イスルギ(ka3168)の凛とした声が響き、民衆のざわめきを一段階落とす。魔法を使ったようなしぐさをしていたので、ハンターたちは彼女がアースウォールを作ったと見当つけた。
「まずは双方おひきなすって。喧嘩でもねぇ、一方的に石を投げるにゃ道理がないように見えますが? 大体、いい大人が寄ってたかって何をしてらっしゃる。お嬢さん、患者を診るなら今のうちだよ」
ヘイルンド・リネイセルディア(ka2930)が風格のある様子で野次馬とハンターの間に立った。
「大丈夫?」
ヘイルンドに声を掛けられたエイル・メヌエット(ka2807)はサルハネの側に寄り、怯えている彼の腕にそっと触れ、落ち着くように告げる。
「そこの……ヒトが身体を張って庇っていなければ、先ほどの方々は荷物の下敷きになっていたところでしたよね?」
牧 渉(ka0033)はにこやかに、飄々と現れてゆっくりと民衆を見る。
遠巻きに大八車と鬼とされている人物を見ている人間はざわめく。
ざわめきを要約すると「鬼は怖い」「敵だ」というものだ。
「おおっ? 随分と図体のでかい……子供だねぇ、参った。てっきり大人がやられてんのかと」
言われてヘイルンドはサルハネを改めて見た。体が大きくとも、顔は幼いし、頭上にある角がこの事件の発端だと分かる。
「しかし、角があろうとなんだろうと、怯えている鬼っ子に寄ってたかって礫を投げてなんになるんてぇだい?」
ヘイルンドは飽きれたとばかりに民衆を見る。穏やかに見えて鋭い視線だ。
「私は大八車の荷物が崩れるのを見ました。その時、そこの……鬼の方が必死に駆け寄って己が身を盾に二人を守ったのです」
レオンは見えたからこそ、守らねばと魔法を使った。
「石を投げて罵倒する前に、この子に言うべきことがあるだろう。それとも、事故を防いだ功労者に石を投げつけるのがエトファリカ流の礼の作法と言うのか?」
オウカの低くドスが効いた声は、集まっている人々を威圧し、静まらせる。
「そうじゃあ、おまいさんらのいい分、この爺がお聞きしやしょう?」
ヘイルンドの問いかけに、民衆から返ってくるのはやはり先ほどと同じ「鬼だから」「結界があるのに」といったこと。
「道理などありゃしない」
呟くヘイルンドは怒りも寂しさも通り越した目になる。
「ここは結界に守られているわ。悪しきものはなら通さない」
サルハネの傷を癒していたエイルは凛と告げる。龍脈再起動のために奮闘してきたからこそ断言できる。
「この子が普通に通ったと言うなら……妖怪や歪虚とは違い人間やエルフやドワーフみたいに、この世界のれっきとした住民てことだよな?」
ハンターは同じ意見を持っていると感じた正太郎は、住民たちに畳み掛ける。
民衆からザワリと声が上がる。
「妖怪の手先なら、正体がばれるのも顧みず事故から他人を守るものか」
オウカの厳しい言葉に、再び住民は黙った。
「さて……鬼全体のことはやめて、彼の事だけにしましょう? 彼自体は結界に阻まれるような負の要素を持たない存在だった……」
渉は笑顔で住民に告げる。今ある事だけを考えることが肝心である、と。
「……不測の事態ではあるみたいですし、この鬼の件は預けてくれませんかね? 俺はともかく、彼らは有能なハンター……モノノフですよ」
渉の言葉に集まっていた人達は不承不承うなずき、各々のしていたことに戻って行った。
●路地裏
「あなたのお名前は? 私はエイルっていうの」
「お、俺はサルハネ……」
「ありがとう、きちんと答えてくれて」
エイルは飴玉をぽいと口に押し込む。
「むぐ?」
一瞬警戒したが、甘い味がサルハネの口に広がり、目から涙があふれる。
「サルハネさんていうんですね。俺は正太郎です。場所変えましょう?」
正太郎とオウカがサルハネに手を貸して、立たせる。
渉が手招きしている方に移動した。脇道に入ったところで、人通りも近く目も付きにくい場所。完全に隠れるところに行くとサルハネがパニックを起こす危険性もあるという配慮。
ハンターたちも見知った顔にあいさつや軽い自己紹介をする。
「オウカさん、少しサルハネさんを見ていてくれるかしら? 私、先ほどのお子さんと話せないかとちょっと思ったの」
「そうですね、あの子、言葉途中で連れて行かれてしまっていますから」
レオンはエイルに賛同した。
「この爺も役立つかぁ知りませんが、ご一緒しましょう」
ヘイルンドが来ることで、老婆に言葉が通りやすいかもしれない。年齢と共にできる言葉の重みは生じるから。
不安そうな顔のサルハネに、エイルは笑顔を向け立ち去る。
「それにしても、往来まで出て来るとはなかなか大胆なことしますね」
渉が首をかしげると、サルハネはびくりと身を震わせる。
「いや、そんなに怯えないでくださいよ」
体が大きいサルハネだが、今は豆粒のように小さくなっているようだった。
「まだ子どものようなお前を使いに出したわけでもあるまい?」
オウカは渋面だ。襲撃でもなく、用があるようでもなく、そこにいただけというのが印象に強い。
「ご、ごめんなさい」
サルハネは声を絞り出す。
「いや、謝るのはこっちだ。人を助けてひどい目に遭ったのはお前の方だ」
オウカは怯えるサルハネの肩に優しく手を載せる。布地を通してぬくもりが伝わる。
「来る気はなかったんですか?」
サルハネの様子から、渉は推測した。
「う、うん……。以前助けてくれた人間の事考えていたら……妖怪が……行って見てくればいいって」
小さい声でぼそぼそと吐き出す。聞かれることを恐れているように視線を動かす。
「助けてくれた?」
「あ、うん。……エイル……さんみたいに飴くれたんだ……それから人間って本当に悪いのかなって思うようになって」
サルハネはあっと口をふさぐが、オウカは気にするなと言うように首を横に振った。
「鬼からすると人間が悪い、人間からすると鬼が悪い……ですか」
「人と鬼が袂を分かった件を両方の立場から調べる必要がありますね」
渉と正太郎は思案するが今すぐに解決できる話ではない。
「互いの歩み寄りは時間がかかりますが、サルハネ君のお蔭で鬼が人を救ったという事実は一つできたわけです」
渉はサルハネの背中に手を置いた。
「助けられそうだったから……」
「お前は優しい……だから、悩んで……妖怪に付け入られた」
オウカは妖怪に対して怒りがわく。
「い、一応、目立たないようにはしてくれた……他の妖怪とちょっと違う……変わった子」
「いや、それをかばわなくていいですよ。ああ、どんな奴だったのかは聞いておきます」
「人間に似てた……小さくて細くて……」
正太郎に尋ねられて姿を示す。曖昧で後で遭遇しても分からなそうだ。
●民家
エイルたちは先ほどの騒ぎの周りで話を聞くと、老婆と幼子がどこの誰かはすぐに分かった。
集落も広いようで狭く、生活によって行動範囲も限られる。
長屋が続くところにハンターが行くと、好奇の視線が絡む。
「ごめんください」
変わった客に女性は困惑を示す。
エイルは先程の大通りの事を話した。
「怪我があれば、私医者なので診ます」
「怪我はなかったみたいですけど……」
女性からはできれば関わりたくないという雰囲気が伝わる。
「できればその……彼に会っていただきたいの」
「なぜ? 鬼だと言うじゃないですか」
怯えている。
「ですが、彼はかばったときに傷を負い、人間からは石を投げられて怪我していました」
レオンとヘイルンドがそれに対してうなずく。
「大体、鬼ってぇのが、本当に全て悪いっていうなら、私だって悪い奴になりませんかい?」
ヘイルンドは自身の耳を指さす。地域によってはエルフを見ないで生活をしているだろう。
「人やエルフ、ドワーフにも悪行をなすものはおります。ですが、種族全てを敵とみなしているわけではないですよね?」
レオンは必死に問いかける。
「あたし、行きたい。お兄ちゃんにちゃんとお礼言ってないもの」
会話を聞いていたらしく、部屋の奥にいた幼子が出てくる。
老婆は嫌がっているが、幼子は断固として譲らない。
「だって、レイギは大切っていつも言ってるよ、おばあちゃん」
老婆と女性は困惑し、顔を見合わせる。口には出していないが、どうするか相談しているような顔つきだ。
「そうさね……」
老婆の方が溜息をついた。
「すべてが悪いわけではない……」
「お義母さん」
女性は抗議した、納得していないから。
「わかったよ……あの鬼だけだ……会うのは」
「十分よ」
エイルは微笑み、トランシーバーで待っているオウカ達に連絡を入れた。
●街中
老婆の不安も考慮して、街中でサルハネ達は会う。ハンターたちは民衆から二人のやり取りを邪魔されないように見守る。
幼い子は恐れない。
サルハネはフードをして頭を隠している。
「お兄ちゃん、さっきは助けてくれてありがとう」
しゃがんだサルハネは幼子の言葉に衝撃を受けた。
鬼である自分が人間の子にお礼を言われる、そんな瞬間が来るとは思いもしなかったからだ。
「鬼って角あるって本当? こわいって聞いたけど、お兄ちゃんはこわくない……」
幼子はとびきりの笑顔だ。
「触る?」
「え、いいの?」
サルハネはフードを外し頭をさげる。幼子は恐る恐る角に手を伸ばす。
「う、うわぁ。歯みたいに固いよ」
最初は遠慮して突く程度であったが、むんずと最後は握っていた。しばらくして満足したのか、手を離したので、サルハネは頭を戻した。
「ヨウカイといっしょにいるのはこわくない?」
「……怖いよ……」
「じゃ、こっちに来ればいいよ」
「うん」
サルハネの目から涙がこぼれるが、スカーフにすぐに吸い取られ、幼子には気付かれなかった。
幼子は老婆に促されて手を振りながら立ち去った。
まだ鬼が人の中で暮らせないのは、サルハネもハンターたちも分かっていた。
「あの……俺はこの後どうなるの?」
立ち上がったサルハネは覚悟を決めたようだった。今回は襲撃をしたわけではないが、罪は罪としてどこに連れて行かれても仕方がないと。
「そりゃ、こっちにいたければいれば……てぇ言いてぇとこだがねぇ」
ヘイルンドはサルハネから達観した空気を感じとる。
「伝え聞くリアルブルーの話に善き鬼、悪しき鬼がいたそうです。サルハネさんは善き鬼です」
励ますようなレオンの言葉に、サルハネはうなずいた。
「君は大丈夫でも、ここに置いて置くわけにはいかないだろう」
オウカは集落の人間の仕打ちを考えるとうめく。
「どちらの意識も変わらないと悲劇は終わりません……。歪虚を排除するには協力するべきだと思いますよ」
正太郎は、怯えが消え穏やかなサルハネの顔を見上げる。
「互いに理解するには時間がかかるでしょうね。焦らないように……近寄れれば良いですね。ああ、でも必要に駆られて接触する場合、人を選ぶんですよ」
渉がにこやかにサルハネを見る。
「人を選ぶ?」
「皆さんみたいなハンターでしょうね、俺は……まあ、協力しますよ」
サルハネは渉にうなずいた。
「帰らないといけないのよね」
エイルに確認されてサルハネはうなずいた。
サルハネが入ってきたというところの近くまで見送ることになった。途中、人間に襲われないようにという配慮。
「歪虚がいるなら……鉢合わせない方がいいですね」
正太郎はサルハネに確認する。
「あ、タケノコ採っていかないと……」
サルハネは竹藪に生えている折りやすいものを入手する。
「食料にするんですか?」
レオンが尋ねるが、サルハネは横に首を振る。
「その妖怪が欲しいって……」
人がいいサルハネに憐憫の視線が自然と向かう。
持って行くなとも言えない。機嫌を損ねなければサルハネが安全に仲間の所に帰れるかもしれないのだから。
「あと、これは詫びだ。同じ人間としてあんなことをした……同胞の」
「褒められて当然のことしたんだから、胸をはっていいのよ」
オウカとエイルが酒や飴など嗜好品や食料をいくつか渡した。持ち歩ける分だから大した量はない。
「これもおまけ」
エイルはプロテクションを掛けてやる。時間はそれほど持たないが、別れてからその歪虚に遭うまで少しでも守れるとよいから。
「ありがとう」
サルハネは安堵と寂しさが混ざる顔で、立ち去って行った。
「鬼と人……結構な大仕事ですよね」
鬼のことを少しで知り、協力できるならば、小さな一歩でも重要な未来の懸け橋だと正太郎は思った。
●帰路
サルハネがタケノコを手渡すと、プエルは静かに受け取った。
「で? どうだった?」
プエルはサルハネが荷物を持っているのを不審そうに眺めている。
「いろんな人がいるって分かった。俺とあまり変わらなかったよ」
微笑むサルハネにプエルは頬を膨らませ、足を速める。
サルハネはあわてて追いかけた。
プエルは一応サルハネを鬼のいる周囲に置いてきた。そこから少し離れたところで、立ち止まる。
「エクエスいる?」
「おりますけど……またそれですか?」
物陰から出てきたエクエスはあきれる。
「うん。タケノコっていうんだって、面白いよ? それより、演目の準備を始めるよ」
プエルはにこりと笑った。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/22 01:08:26 |
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相談卓 牧 渉(ka0033) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/06/23 07:07:01 |