鉄壁の騎士、ルミナちゃんと出逢う

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/06/29 07:30
完成日
2015/07/02 18:48

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●イケメンルミナちゃん
 グラズヘイム王国の騎士であり、アルテミス小隊の小隊長でもあるソルラ・クート(kz0096)は、休暇を利用して出掛けていた。
 目的地は、 ピースホライズン。グラズヘイム王国とゾンネンシュトラール帝国を隔てる大峡谷に浮かぶ都市である。
「ウェディングドレスの受け取りかと思ったのに、採寸ミスだったなんて……」
 人々が行き交う大通りに面しているカフェで紅茶を飲みながらソルラは落胆していた。
 衣装屋からドレスを仕立ててもらうはずだったのに、いざ、試着してみるとサイズが合わなかったのだ。
 原因は採寸の測り間違い。平謝りの店員に、逆に申し訳なくなった。あの店員は衣装屋の主人に怒鳴られていないか心配になる。
「はぁ~」
 深い溜め息をついた時だった。
「ねぇちゃんよ! 一人で溜め息ついてないで、俺らと遊ぼうぜ」
 数人の、如何にも柄の悪そうな野郎が大通りからソルラに声を掛けてきた。
 休暇中のソルラは私服姿である。ある事件をキッカケに護身用の剣を持つようにはしたが、剣は座っている椅子の後ろに立て掛けており、野郎共からは見えていないようだ。
「お断りします」
「せつねぇ事言わないでよぉ」
 ニヤニヤとして気持ち悪いと野郎の顔を見ながら心の中で呟くソルラ。
「ほら、一緒に行こうぜ」
 ソルラの腕を掴もうとして、手を伸ばしてきたが、サッと引いて、それから逃れる。
 ここが王国領内だったら、今頃、野郎共は地面とキスしているだろう。
 しかし、ここは、ピースホライズン。王国騎士が騒ぎを起こすとややこしい事になる場合もある。
「わからねぇ、ねぇちゃんだな!」
 掴みかかってきそうな野郎。
 ソルラは覚悟を決めた。多少騒ぎになったとしても、仕方ないという覚悟だ。
 だが、彼女が予想していた展開にはならなかった。
「私の連れになにか?」
 突然、女性が割りこんできたのだ。
 全身から発せられる雰囲気はただ者ではない。腰には安物の剣を差し、一見、ハンターの様にも見える。
 まるで、巨大な滝から発せられるような轟音が、この女性から発せられているオーラに、野郎共は捨て台詞を吐いて去って行った。
「大丈夫か?」
「……あ、はい」
 口を開けてポカーンと突然現れた人物をみつめる、ソルラ。
「あ、あの、せっかくですから、一緒にお茶しませんか? 助けて貰ったお礼もしたいので」
「気持ちは嬉しいが、今、立てこんでいるのでな」
 と断り、立ち去ろうとする女性にソルラは小さく呟いた。
「先程、転移門の近くでウロウロしている帝国の方を目撃しました。きっと、誰かを探していたかと思います」
「……そういえば、少し喉が渇いたか」
 何事も無かったかのように、ソルラの隣に座る女性。
「私の名はルミナ。気安くルミナちゃんとでも呼んでくれ」
「グ、グラズヘイム王国の騎士ソルラ・クートと申します。よ、よろしくお願いします」
 自分から引き止めておいて、いざ、隣に座られると緊張というレベルではない。
 隣に座っているのは、あのゾンネンシュトラール帝国の最高権力者である。
 ソルラは母方の祖父と帝国に旅行した際に、一度だけ、皇帝を目撃した事があった。
「そうか、王国の騎士か。システィーナは元気か?」
「はい! 最近、なにか変わられたような気がしていますが」

●歓談する皇帝と騎士
「ところで、ルミ……ナちゃんは、なぜ、この街にいらしたのですか?」
「大機導術実験だ。やってみなければわからないという事だからな」
 3杯目の紅茶の口につけながらルミナは質問に答えた。
「実験……ですか?」
 ソルラが首を傾げた。
 帝国領内で実験すれば良いのにと思うが口にしなかった。
「実験という程ではないがな。箱を持って歩くのみだから」
 箱の大きさなのだろうか、ルミナが両手で大きさを示す。一抱え位はありそうだ。
 歪虚の存在の有無を教えてくれる装置……らしい。ただ、センサーの感度も不安定で、歪虚の存在を示す『点灯』状態が続いていた。
 なので、故障しているのかどうか、どこでも『点灯』状態なのか、調べに、ピースホライズンへやってきたのだ。
「その様な物が……それは、いずこに?」
「実はな……」
 声を落とすルミナ。そして、ソルラの耳元で呟いた。
「人混みの中で、なくしっ」
 驚きの声をあげたソルラの口をバッと抑えるルミナ。
 小刻みに顔を横に振っている。
「さすがに、オズワルドに怒られてしまうよ」
 困った様に両肩を竦めるが、その表情は本当に困っているように見えない。
「探すのをお手伝い致します。都合があって、しばらく街に滞在しますので」
「それは助かる。実は、他にも色々とやる事があるからな」
 安堵したかのようなルミナの表情に、ソルラは緊張の糸が解れた気がした。
 帝国最高権力者であり、優れた戦士とも轟くこの人物は、システィーナ姫とは対照的な魅力を感じる。
 ハンターの中には、皇帝と帝国の為に奮起している者もいると聞いていたので、こうして直に話してみると、その話しが事実だと実感できた。
「なにか、お礼をしなくてはならないな」
「い、いえ、滅相もないです。あ、でも……もし、大丈夫であれば、みつけたその装置をお借りしてもよろしいですか?」
「構わないが……そんなものでいいのか?」
 歪虚の存在の有無を確認するだけの、しかも、精度が大した事のない装置。
 そんなものを一体、なにに使うつもりなのだろうかとルミナは疑問に思った。
「ある歪虚を追いかけているのです」
「仇かなにかか?」
「いえ……一人の少女を……人に絶望した少女を救う為に、必要なのです」
 真剣な眼差しで願うソルラにルミナは感心した。
 深い事情があるのだろう。果たさなければならない使命と共に。
(これが、王国騎士か……)
 辺境での戦いで、王国騎士も出撃していた。その戦い振りはルミナの耳に入っている。
 ホープを強襲した歪虚に対し、システィーナ姫とホープを守る為に戦死した騎士は、全員、背中に傷を受けていなかったという噂もある。
「わかった。役目を果たしたら、返しに来てくれ」
 その時は歓迎しようと思う。
 こうして、皇帝と騎士の歓談は終わったのであった。


 ソルラがハンターオフィスに依頼を出したのは、その直後の事だった。
 絶対に見つける為に、一番確実な方法だと思ったからだ。

リプレイ本文

●門(王都側)にて
「ルミ……ナちゃん、御自らがこの場に居たとは、やはり、あの帝国のトップと言いますか何と言うか……」
 いつもの甲冑姿ではなく、スーツとネクタイでビシッと決めている米本 剛(ka0320)はそんな言葉を呟きつつ、衛兵の詰め所を正面に見据えていた。
 その詰め所から1人の少女が出て来た。地のつく程に長い青い髪のエルフの少女だ。
「それらしい落し物の問い合わせは無いみたいです」
 メトロノーム・ソングライト(ka1267)は、衛兵の詰め所に、装置の落し物が届けられていないか、もしくは、門の外に運ばれていないか確認していた。
 少なくとも、王都に至る門からは、外に運び出された装置の形跡はないという。
(どうして、そのような品を紛失できるのか……首を傾げたくなりますけれど、誰しも『うっかり』はありますから……)
 小さくため息をついた。
 装置を運ぶために馬車等を使用している人が拾った可能性もあると思ってしまう。あらゆる可能性があり、そして、その全てを追えるはずがない。
 思ったより成果が得られなかった事に落胆しているかの様に思え、剛が励ます様に言った。
「ソルラさんが件の装置で考えがあるのならば、手を貸さない訳にはいきませんね。頑張りましょう」
「……そうですね。大事な物でもあるようですし」
 依頼主が助けたいと願っている少女を、2人は、目撃した事があった。少女はある歪虚の僕だという。
 少女を追う以上、いずれ、その歪虚と対峙する日が来るはずだ。
「次は、大通りに向かいましょう。人混みで無くしたとも聞いていますし、大通りで情報が掴めるかもしれません」
 剛の推測に、メトロノームは青い髪を揺らしながら頷く。
 2人は門から続く大通りを歩きながら、丁寧に、礼儀正しい姿勢で聞き込みを始めた。
 通りに面しているお店や屋台の店員から、情報を引き出す事はできなかった。道端で遊ぶ子供は、ガタイの良い剛の姿に驚いて逃げてしまったりで、門に続いて、こちらでも、情報は簡単に掴めなかった。
 話しかけてもいないのに、小さい子供が剛の姿を見ただけで大泣きし、メトロノームから無表情な視線を向けられた時は、さすがの剛も苦笑を浮かべた。が、直後、その子の母親と思われる人物から偶然にも、情報を得る事ができた。
「『市場に向かって、金属製の箱を抱えた人が歩いていた』……という事みたいですね」
 ようやく得られた重要な情報を要約して、剛が呟く。
 その台詞にメトロノームが魔導短伝話を手に取った。得られた情報を市場の調査に向かっている仲間に伝える為だ。

●市場にて
(電波状況は良好ね)
 ノアール=プレアール(ka1623)が、魔導短伝話から聞き取れる仲間の声を聞いて、その様に感じる。
 マテリアルの動きや魔導短伝話の感度も素晴らしい。それには、彼女が使った機導術の効果もある為ではあるが。
「どうでしたか?」
 街の地図に調査や聞き取りした内容等を書き込みながら、火椎 帝(ka5027)が訊ねてきた。
「電波はとてもいい感じよ」
「そ、そうですか……」
 困惑している帝に向かって、ノアールはニッコリと笑う。
「ふふふ。冗談よ。内容は、市場に向かって、金属製の箱を抱えた人が歩いていたと言う目撃者がいたみたい」
「それなら、ちょうど良かったですね」
 帝国に至る門付近から念入りに聞き込みをしていて、今しがた、市場まで辿りついた所だ。
 門よりも人が多い様子なので、情報も掴みやすいかもしれない。
「……これくらいの四角い金属製の箱で、上面には丸い赤ランプがついてるっていう機械なんですけど」
 帝が手振り身振りで分かりやすく説明しながら聞き取っている。
 ほとんどの人が首を傾げたり、横に振った。だが、中には目撃した人もおり、それらの情報を地図に落とし込む事によって目撃した場所の精度が高まってきた。
 だが、それ以上の情報となると難しくなってくる。
「このまま行方不明だったり壊されちゃうと困るわねー」
 困った表情を浮かべるノアール。
 装置の仕組みも気になるし、一度触れてみたい所でもあるのだが。
 帝はそんな彼女を見て、諦めずにある露店の商人に食い入る様に訊ねた。目撃例が集中している場で最後に聴き取る露店だ。
「覚えてる範囲の情報で構いませんので……!」
 事情を知らない露店の亭主は、ハンターの勢いに押されてる。
 だが、その亭主から得られた情報に、ノアールと帝は驚き返すのであった。
「……その商人、歓楽街でよく見られているらしいです」
 帝が得た情報を魔導短伝話で仲間に連絡した。
 一方、ノアールはバイクに跨っている。
「帝君は先に歓楽街に向かってて。私は、念には念を入れてくるわ~」
 門から外へ持ち出されるのを防ぐ為、門番へ一言入れてくるつもりなのだ。
 魔導エンジン音を響かせながら、彼女は街中を疾走していった。

●ソルラの力説
 歓楽街で調査中だった、ヴァイス(ka0364)と トライフ・A・アルヴァイン(ka0657)は仲間からの連絡に不敵な笑みを浮かべる。
「機導装置……何としても壊さずに確保しないとな」
 ヴァイスには、その装置の行方について、ある程度、予測していた。
 誰が拾ったにせよ、ある程度の専門的知識がないと、ただの箱だと思うだろう。紛失物の届け出がない以上、持ち去った可能性が高いと踏んだ。持ち去った人物はそこそこ機導術の知識があるはずだ。
 そこで、歓楽街で機導装置の扱いに長けた店の情報を仕入れようと聞き込みを続けていたのだが、仲間からの連絡で、少しずつ装置に近付いて行っていると実感できた。
(どうやったら一抱えもある箱を街中で失くすんだか……そして、『ルミナちゃん』ね………いけ好かないな)
 そんな事を心の中で呟きながら、トライフは報酬をチラつかせて、路地裏の住民から情報を集めていた。同時に、自身は露店や客引きへと聞き込みをかける。
 仲間達から連絡があった、装置を拾ったとされる商人の容姿から、名前や居場所を確認しようという事だ。
「盗品として流れてなくとも持ち込まれた可能性はある。故買屋に行くか」
 色々な手を打って得られた情報から商人の名前まで分かった。後は、その商人の居場所だけだ。トライフはその装置の値打ちを調べられた可能性を推測した。
 歓楽街だけあって人混みは一段と増している中、ヴァイスは同行している依頼主であるソルラ・クート(kz0096)に声をかける。
「ここでは、俺か、トライフの傍を離れるなよ。ソルラ程の美人なら声を掛けてくる奴も多いだろうし……な」
「は、はい!」
 ソルラが緊張した声で返事をしたかと思うと、右腕でガシっと、ヴァイスの左腕を組んだ。
「トライフさんもです!」
 今度は左腕で、グッと、トライフの右腕に通すと、二人を力一杯引き寄せた。
「……なんだ、これは、ソルラ嬢……」
 ソルラの女性的な柔らかい感触を受けながら、トライフが呆れた様子でソルラに訊ねた。
 ヴァイスはそっぽ向いていた。きっと、人に見せたくない表情でも浮かべているのだろう。
「迷子にならない様には、こうした方が良いって、ミノリさんに言われました!」
 力一杯力説するソルラに、組まれている男2人は、大きくため息をついた。

 トライフの推測通り、故買屋の主から、装置を持ちこんだ商人がいる事と、その商人の居場所を聞き出せた。
 すぐさま、仲間達に連絡を入れて、商人の居場所へと向かった。

●商人との交渉
 装置を拾った商人は、歓楽街の外れにある酒場が馴染みの店であった。
 全員が集合した所でハンター達は、その酒場へと入っていく。店の中は、数名の客と店員しか居ない寂しい感じだった。
「あの人ね~」
 ノアールの視線の先に、小太りの男がカウンターで一杯やっていた。
 隣の椅子には、装置と思われる金属製の箱が置いてある。
「あの……よろしいですか?」
 近付いて静かに訊ねたのはメトロノームだった。
「ん? ……なんだ、あんたらは?」
「私達はハンターです。実は、そこにある物を探していました。譲って貰えませんか?」
 少女の言葉に商人が怪訝な顔付きでハンター達を見回した。
「……断る。帰ってくれ」
「それを紛失してしまった関係者から依頼されて、私達はそれを探していました。その装置は歪虚を見つけられる機能があります」
 正直にメトロノームは丁寧に説明した。装置が実験中で、未完成なのもつけ加える。
「見た所、無事な状態の様ですし、謝礼は致しますので、どうか、よろしくお願いします」
 メトロノームは頭を下げたので、分からないが、商人が一瞬だけ、ニヤリと笑ったのを他のハンターは見逃さなかった。
 これは、『面倒な奴』だと、経過を見ていた帝は感じる。
「あなたの持っている箱は未だ開発過程。実用化するためには、もっと精度を上げないとお話にならないのよ~」
 装置が置いてある椅子の横の空いている椅子に座りながら、ノアールが声を装置について補足の説明をする。
「未完成品は完成させないとね。だから、私達はそれが、欲しいの~。勿論、拾ってくれたのだし、タダで、とは言わないわ~」
 手持ちの品の幾つかをカウンターの上に並べた。
 それらと交換できるのであれば、得体の知れない装置よりも、ずっと有益なはずだ。
「こ、こんなものじゃ足りない。……そうだな、500万。キャッシュでだ」
「500万……」
 帝は財布の中を思い返す。もちろん、そんな額が入っているわけがないので、苦笑を浮かべてる。
 居合わせた誰もが持っているとは思えない。今すぐという条件でないのであれば、貴族の娘であるソルラであれば払えるかもしれない。そのソルラは驚きの余り、口を鯉の様にパクパクとさせていた。
 500万と言えば、ノアールが乗っていた魔導バイク10台分である。
 ハンターオフィスで売っているエールが、1万本買える金額だ。
「……分かりました。500万ですね」
 お金でも無事に解決できたと安堵した顔のメトロノームが商人の申し出に応じた。
 商人を含め、成り行きを見守っていた店員や他の客も全員が、一瞬、凍りつく。これが、セレブかと。
「明らかに法外な値段ですね」
 割って入ったのは、剛だった。
 真っ当な交渉事は仲間に任せ、状況の移り変わりを冷静に見ていたのだが、あまりの事に、思わず制止に入る。
「もう少し、交渉致しましょう」
「こっちは、500万貰えれば、それで良いぞ。なんなら、売る事も止める事もできるしな」
 商人は勝ち誇った顔をしていた。
 もう既に、足元を見て吹っ掛けている。ある程度、そうなる予想をしていたヴァイスでもあったが、彼自身、是が非でも無事に手に入れたい装置であるので、商人に頭を深く下げてお願いした。
「その装置がどうしても必要なんだ。譲ってくれとは言わない、だから、買わせてくれ」
 ここまで懇願するヴァイスの姿を、今まで、メトロノームは見た事が無かったかもしれない。
「そうまで言うなら……そうだな。せっかく、美女と美少女が揃っているんだ。一晩付き合ってくれるなら、考えようか」
 下心ありありのイヤラシイ視線を向けてきた。
 グッと拳を握ったソルラが一歩踏み出そうとした所を、トライフがサッと制し、進み出た。
「実は、それは『とある組織』が試作した装置でね」
 意味有り気な口調でトライフは商人の横の席に座る。
「当然、巷には出回ってない。ついでに最先端技術も使われていて、酷く価値があるものだ」
 商人の目は見ずに、タバコを取りだすと断りも無しに火をつけた。
「なにが言いたい?」
「なに、そんな物が、仮に『盗まれたり』『売りに出されていたり』したら───さて、どうなるかは判るよな?」
「俺を脅しているのか」
 脅しているのだが、その問いには答えず、タバコをゆっくりと吸う。
 二度、三度と味わってから、タバコがまだ残っているにも関わらず、彼は灰皿に押し付けるように火を消した。
「渡して貰えないなら、残念だが報告しに帰らなければならなくてね」
 スッと立ち上がり、商人を見下ろした。
「今回の出来事は『善意の行商人が偶々拾って届けてくれて、僕らはそれに謝礼を払った』それで、どうだろう」
「……お前達、本当にハンターなのか?」
「それが、答えか? それじゃぁな」
 その場から去ろうとする彼の動き。
「ま、待ってくれ! う、売るから、待ってくれ!」
 よほど何か怖かったのか、商人は椅子から転げ落ちて懇願してきたのだった。

 結局、装置を回収した謝礼の額は常識の範囲内で、ソルラから支払われた。
 商人は怯えたまま、酒場から去っていった。きっと、しばらくは、疑り深くなるだろう。

●ハンターオフィスにて
「一時はどうなるかと思いましたが、さすが、トライフさんです」
「凄かったです」
 剛が感心した表情で称賛した。その横で、メトロノームも深く何度も頷いている。
 商人に装置を持つ事のデメリットをさり気なく伝えて上で、駆け引き、そして、飴として落とし所を設けた交渉。
「本当に悪党っぽくて、カッコ良かったわ~」
 まるで、劇の一幕を見ているようだったとノアールは思った。彼女がそう思うのは、万が一の時に備え、機導術で箱を守ろうと考えていた心の余裕があったかもしれないが。
「あんたのおかげで無事に回収できて良かったぜ」
 ヴァイスがホッと一息ついた様な表情で、トライフの肩を叩く。
 照れもせず、トライフは冷静にタバコを取りだしながら答えた。
「交渉の流れもよかったしな。最初から俺がやっていたら、ああはいかなかった」
 そして、タバコに火をつけると、ソルラに視線を向けた。
「一つ一つの動作まで意識して意味を持たせる。言葉だけが交渉術じゃない。勉強になったかな、ソルラ嬢?」
「はい! 交渉事がある時は、皆さんを頼ればいいと!」
 間違ってはいないが、その言葉に、ハンター達はバランスを崩しそうになった。
 彼女の名誉の為に言っておきたい。ソルラは、貴族の箱入り娘でもある事を。
 そんなソルラは装置を大事に抱えていた。
「あれ? ランプ、光ってる?」
 帝が気がついた。ソルラが抱えている装置のランプが光っているように見えたからだ。
「「「えぇー!」」」
 驚きの声が重なる。
 このランプが点灯している意味は、歪虚がいるという事だからだ。
 だが、次の瞬間、パッと消えた。どうやら、精度が悪いだけの様だ。
「精度はあまり良くなさそうですけれど、でも、これがソルラさんの願いに役立ってくれること、願ってます」
 微笑を浮かべた帝に対し、ソルラは頷くと、全員を笑顔で見渡した。
「皆さん、ありがとうございました。ルミナちゃんにも、良い報告ができそうです」


 ハンター達の活躍により、装置の回収に成功し、ソルラは王国へと戻った。
 この装置が、彼女の活動において、大きな力となるのは、これからの話である。


 おしまい。

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MVP一覧


  • ヴァイス・エリダヌスka0364
  • 大口叩きの《役立たず》
    トライフ・A・アルヴァインka0657

重体一覧

参加者一覧

  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛(ka0320
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 大口叩きの《役立たず》
    トライフ・A・アルヴァイン(ka0657
    人間(紅)|23才|男性|機導師
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • マテリアル調査員
    ノアール=プレアール(ka1623
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • ブリーダー
    火椎 帝(ka5027
    人間(蒼)|19才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
トライフ・A・アルヴァイン(ka0657
人間(クリムゾンウェスト)|23才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/06/27 21:24:19
アイコン 装置箱を探せ!
ノアール=プレアール(ka1623
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/06/29 05:52:39
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/06/26 09:10:59