ゲスト
(ka0000)
親子
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/06/26 19:00
- 完成日
- 2015/07/01 23:55
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
バンダー男爵は狩猟好きで知られている。公務がないときはほとんどいつも、お気に入りの猟犬を連れ馬に跨がり、野山を駆け回っている。
自慢は応接間の壁一面に掲げてある剥製の首だ。雄鹿、大角羊、熊、狼、大山猫といった大どころがずらりと揃えてある。
女関係にもなかなかの発展ぶり。子供の数は嫡子庶子、併せて12人。お気に入りは、ルイズ、ポーリーヌ、マリの3姉妹。愛人の一人が生んだ3つ子。
一番後に出来た子供であり、その他の子供たちが全て息子であるという事情もあって、彼はこの娘たちに特別目をかけている。
●
山は、初夏の匂いを漂わせ始めている。
母熊が子熊を連れ渓流に降りてきた。
冬のさなかに生まれた子供たちはまだまだ小さい。取っ組み合いをしたり、石を裏返してみたり、サワガニに鼻を挟まれ痛がったりしている。
川の中に立ち魚を狙う母熊は、横目でちらちら子供たちの動きを確認している。
突然乾いた銃声が響いた。子熊の1匹が悲鳴を上げ、引っ繰り返る。続いてもう1匹。
母熊は急いで岸に駆け戻ったが、後頭部に銃弾を食らい、そのまま崩れ落ちた。
●
リボンをかけた箱が3つ。
小粒の真珠みたいにお互いよく似かよった娘たちは、でんと腰掛けている男爵の膝に取り付き、口々に尋ねる。
「パパちゃま、これなあに」
「なあに」
「ねえ、なあに」
カイゼル髭を生やした父親は、葉巻をふかしながら言った。
「開けてみなさい」
娘たちは各自箱に取り付き、びりびりに破いた。
黄色い歓声が上がる。
出てきたのは子熊の縫いぐるみだ。本物と見まごうほどリアルな作り。兵隊さんのお洋服を着せてもらっている。金銀のモールとボタンが暖炉の炎にチカチカ光る。目にはめ込んである栗色のガラス玉もきらきら光る。
「わあ、かわいい!」
「パパちゃま、ありがとう」
「ありがとー」
母親である愛人は男爵へ、にこやかにほほ笑んだ。
「ありがとうございます、旦那様。こんな立派なものをいただいて……お高かったでしょう」
「さほどでもないさ。この前の猟で熊の親子を仕留めたんだ。子が3匹いてな。この子らにちょうどいいと思い、撃った後持ち帰ってな……業者のところに持ち込んで作らせた。上から下まで全部本物の毛皮だ」
「親熊はどうされたんですの?」
「そのままうっちゃってきたよ。体も小ぶりで毛並みも悪くて、見栄えのしない奴だったからな」
●
渓流の川辺に転がっていた死骸が動いた。
それは姿を変え、膨れ上がる。身震いし、起き上がる。そして走りだす。夜の中を、風のように早く。
●
ガリ、ガリ、ガリ……
壁を引っ掻く音がする。
同じベッドで仲良く寝入っていた娘たちは、そろって目を覚ました。
「なにかしら」
「ねこちゃんかしら」
「そうかしら」
耳をすませるが、猫の鳴き声はしない。
ドン、ドン、ドン!
誰かが外から壁を叩いている。
三つ子はビクッと身を固め寄り添い、窓の方を見た。
カーテンごしに影が見える。大きな獣の影が。
彼女らはびっくりし、転げ落ちるようにしてベッドから出る。母親と、泊まりに来ている父親がいる部屋へ行こうと、ドアに駆け寄る。
「ママー! パパちゃまー!」
「へんなのがいるー!」
「こわいよー!」
獣は前足で壁を叩くのを止めた。
後退りし、全身で障害物目がけぶつかってくる。
●
急報を受け駆けつけたハンターたちが、現場に駆けつけてまず目撃したのは、怒り狂っている男爵の姿だった。
「遅いぞ貴様ら、何をもたもたしていた!」
彼の背後にある住宅は、子供部屋に面した壁が粉々に砕かれている。
歪虚はここから侵入し子供3人を襲った。1人は死亡。残る2名も重傷を負い、予断を許さない状態だという。
「あの畜生めが、今度こそ八つ裂きにしてくれる!」
口ぶりからすると男爵は、今回現れた歪虚について、なんらか知っているらしい。その点聞き確かめて置いた方がいいだろうか。
――雨が降り始めた。追跡する側にとってはあまりいいことではない。
自慢は応接間の壁一面に掲げてある剥製の首だ。雄鹿、大角羊、熊、狼、大山猫といった大どころがずらりと揃えてある。
女関係にもなかなかの発展ぶり。子供の数は嫡子庶子、併せて12人。お気に入りは、ルイズ、ポーリーヌ、マリの3姉妹。愛人の一人が生んだ3つ子。
一番後に出来た子供であり、その他の子供たちが全て息子であるという事情もあって、彼はこの娘たちに特別目をかけている。
●
山は、初夏の匂いを漂わせ始めている。
母熊が子熊を連れ渓流に降りてきた。
冬のさなかに生まれた子供たちはまだまだ小さい。取っ組み合いをしたり、石を裏返してみたり、サワガニに鼻を挟まれ痛がったりしている。
川の中に立ち魚を狙う母熊は、横目でちらちら子供たちの動きを確認している。
突然乾いた銃声が響いた。子熊の1匹が悲鳴を上げ、引っ繰り返る。続いてもう1匹。
母熊は急いで岸に駆け戻ったが、後頭部に銃弾を食らい、そのまま崩れ落ちた。
●
リボンをかけた箱が3つ。
小粒の真珠みたいにお互いよく似かよった娘たちは、でんと腰掛けている男爵の膝に取り付き、口々に尋ねる。
「パパちゃま、これなあに」
「なあに」
「ねえ、なあに」
カイゼル髭を生やした父親は、葉巻をふかしながら言った。
「開けてみなさい」
娘たちは各自箱に取り付き、びりびりに破いた。
黄色い歓声が上がる。
出てきたのは子熊の縫いぐるみだ。本物と見まごうほどリアルな作り。兵隊さんのお洋服を着せてもらっている。金銀のモールとボタンが暖炉の炎にチカチカ光る。目にはめ込んである栗色のガラス玉もきらきら光る。
「わあ、かわいい!」
「パパちゃま、ありがとう」
「ありがとー」
母親である愛人は男爵へ、にこやかにほほ笑んだ。
「ありがとうございます、旦那様。こんな立派なものをいただいて……お高かったでしょう」
「さほどでもないさ。この前の猟で熊の親子を仕留めたんだ。子が3匹いてな。この子らにちょうどいいと思い、撃った後持ち帰ってな……業者のところに持ち込んで作らせた。上から下まで全部本物の毛皮だ」
「親熊はどうされたんですの?」
「そのままうっちゃってきたよ。体も小ぶりで毛並みも悪くて、見栄えのしない奴だったからな」
●
渓流の川辺に転がっていた死骸が動いた。
それは姿を変え、膨れ上がる。身震いし、起き上がる。そして走りだす。夜の中を、風のように早く。
●
ガリ、ガリ、ガリ……
壁を引っ掻く音がする。
同じベッドで仲良く寝入っていた娘たちは、そろって目を覚ました。
「なにかしら」
「ねこちゃんかしら」
「そうかしら」
耳をすませるが、猫の鳴き声はしない。
ドン、ドン、ドン!
誰かが外から壁を叩いている。
三つ子はビクッと身を固め寄り添い、窓の方を見た。
カーテンごしに影が見える。大きな獣の影が。
彼女らはびっくりし、転げ落ちるようにしてベッドから出る。母親と、泊まりに来ている父親がいる部屋へ行こうと、ドアに駆け寄る。
「ママー! パパちゃまー!」
「へんなのがいるー!」
「こわいよー!」
獣は前足で壁を叩くのを止めた。
後退りし、全身で障害物目がけぶつかってくる。
●
急報を受け駆けつけたハンターたちが、現場に駆けつけてまず目撃したのは、怒り狂っている男爵の姿だった。
「遅いぞ貴様ら、何をもたもたしていた!」
彼の背後にある住宅は、子供部屋に面した壁が粉々に砕かれている。
歪虚はここから侵入し子供3人を襲った。1人は死亡。残る2名も重傷を負い、予断を許さない状態だという。
「あの畜生めが、今度こそ八つ裂きにしてくれる!」
口ぶりからすると男爵は、今回現れた歪虚について、なんらか知っているらしい。その点聞き確かめて置いた方がいいだろうか。
――雨が降り始めた。追跡する側にとってはあまりいいことではない。
リプレイ本文
●説得
怒鳴り散らす男爵にレイ・アレス(ka4097)は詫びを入れた。相手の態度がどうでも礼儀は示す。己が気高くあるために――それがアレス家の教育方針だ。
「お、遅れて申し訳ありません」
彼の頭は歪虚そのものよりも、それに襲われたという子供たちのことでいっぱいだ。早く、早く治癒してあげなくては――。
「貴様、勝手にどこへ行くつもりだ!」
「あ、あの、あの、僕は治癒魔法をいくらか心得ていますので……微力ながらもお手伝いは出来るかと……だ、大丈夫……です。お二人の命は絶対に救ってみせます……」
レイの意図を理解した男爵は、叩きつけるように言う。
「ならさっさと行け!」
「は、はいっ!」
大急ぎで家の中に駆け込んで行くレイ。続いてチマキマル(ka4372)もすっと、影のように入りこんで行った。彼は生きている子供にではなく、死んだ子供に用がある。
(まずは遺体の損傷具合を確かめてみなければな)
無限 馨(ka0544)が男爵に言う。
「何があったか話してもらえないっすか?」
「そんなことは後でいい! 出発だ!」
答えにもならない答えをした男爵は、さっさと馬に乗ろうとした。完全に同行する気だ。いや、この様子だと自分が主になって歪虚狩りをやらかすつもりらしい。
冗談じゃない、と静花(ka2085)は思った。獣と歪虚は全くの別物だ。素人についてこられたら邪魔になるだけだ。
「お父様が傍にいないと、ただでさえ大怪我を負っている子供達は心細さを感じてしまうでしょう。かてて加えて歪虚化した動物は非常に危険です。あなたの銃では倒せるかどうか心もとなく……」
「ええい、やかましいわ! そのようなこと、貴様らがわしの援護を十分にすればいいだけの話ではないか!」
貴方に付いてこられると面倒ですのですっこんでてください――
喉まで出かかった罵倒を飲み込むため、静花はぐっと口を結ぶ。
ウルシュラ・オーディル(ka4996)が宥めに入った。
「ここに至ってはできるだけ早急に対応しなければなりません。男爵様にはご心痛お察しいたしますけれど、そのために色々ご教授頂かなければならないのですが…。お聞き届け頂けますでしょうか? あの歪虚に心当たりがあられるなら、ぜひともその情報を共有し……」
「そんな悠長なことをしている場合ではないと言ったはずだぞ! 貴様らはどいつもこいつも能無しか!」
灯心(ka2935)は内心うんざりしつつ、男爵の馬の口輪を押さえる。先走られたら面倒だ。
「何をする、手を放さんか!」
「まあ、悪い事言わねぇからさ。大人しく待ってろよ……子供、重体なんだろ? 起きて、父親がいなかったら不安がるぜ?」
「黙れ! 手を放せと言っているだろうが!」
セリス・アルマーズ(ka1079)は確信した。男爵が人の話を聞いてないと。もともとの性格がそうなんだろう。おまけに興奮しているので、なおその度合いがひどくなっているものと見える。
(同行させるなんて問題外ね……悪いけど、はっきりいって足手まといにしかならない)
彼女は腹で思うだけだったが、シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)は違った。本音をそのまま口に出す。乾いた声で。
「護衛するのにも手間がかかります。足手纏いになりますので、貴方はお子様の近くで待っていて頂けますか? 万が一貴方の身に何かあれば我々の責任になりますし」
「何……」
男爵の矛先が彼女に向きかけたところで、レイが戻ってきた。
「男爵様、お嬢様方の意識が戻りました! お、お父様を呼ばれております!」
その一言はどんな説得よりも効果があった。男爵は馬を下り、家の中へ走り込んで行く。
ハンター達もまた家の中へ入って様子を確かめる。
寝室のベッドに、包帯を巻いた幼子が2人寝かされていた。
「……いたいよー……」
「ママー……パパちゃまー……」
ひいひい泣いている両者を、疲れ切った様子の母親が撫でさすっている。
その光景には男爵も感じるものがあったのだろう。眉を逆立て目を潤ませ娘たちに駆け寄った。
「おお、かわいそうに! お父様はここだぞ、ここにおるぞ!」
少しは熱が冷めたと見て、静花とウルシュラは、再度説得にかかる。
「娘さん達のため、どうかその怒りを耐えて頂けないでしょうか。仇討ちは必ず我々が果たします。貴方が娘さんたちの、心の支えなのです」
「父親の役は父親にしか出来ません。ここであなたが姿を消してしまえば、お嬢様たちはいかほど不安になることでありましょう。恐ろしい目に遭ったばかりですのに」
レイも全力で頼み込む。
「あ、あの……この子達の傍にいてあげて、く、ください……お願い、します……どうぞ病院に連れて行ってあげてください。容体だけは落ち着かせることが出来ましたが、それ以上のことは、や、やはり専門の施設でないと……」
彼の視線は壁際のソファに向かう。シーツをかけられた小さな塊が1つ。チマキマルがそれをめくり、中を検分している。
「もう一人のお嬢様につきましても、どうか、共に……ご供養が終わりますまでは……」
男爵は、今度は怒鳴り出さなかった。
馨がもう一度尋ねる。
「結局何があったっすか?」
男爵はようやく経緯を話した。口調はひどく投げやりだった。
「先々週猟で熊の親子を仕留めてな。その際取った子熊をぬいぐるみにして、娘たちにやったのだ。親は何の役にも立たんからそのままにしていたんだが――畜生め、未練がましく追ってきおった!」
馨は眉を狭めた。
口笛を吹き、ベッドの足を嗅ぎ回っていたインフィニット号を呼び寄せる。
「皆、俺ちょっと先に探りを入れてくるっす。雨止みそうもないっすから、痕跡が消えないうちに……後の聞き取り頼むっすよ」
彼が出て行くのを横目にチマキマルは、持ち上げていたシーツを降ろした。皆の元に戻り、己の見解を述べる
「早く見つけて始末をつけたほうがいい。あの歪虚は人を襲う事を覚えた。肉の味も血の味も知ってしまったはずだ……歪虚化が進んだ場合はマテリアルだけでなく人間を優先して食らうようになるだろう」
●追跡
荒野は闇に閉じ込められている。
街明かりは既に見えず、頼りになるのは各自が掲げる光だけ。晴れていれば行く手には山塊が見えるはずだ。男爵が熊を仕留めたという場所が。
――歪虚はそこに向かっているはずである。
雨は一向に止む気配がない。ばかりか、降りが強くなってくる。地面はぬかるみ、草の葉はうなだれる。歪虚の重みによって作られた足跡も、長くは保たれそうにない。匂いも、恐らくは。シルヴィアが連れてきたシェパードも行きつ戻りつを繰り返し、追跡に苦戦している。先に行った馨が草を縛り目印を作っておいてくれているのは、何よりだ。
灯心は顔にかかる雨を拭った。羽織っている男爵のコートは水滴を弾き、地面に落として行く。
「……遊びにしても……狩りってのは、基本は子連れや子供は狙わねぇもんなんだけどな……」
「普通じゃない人もいますからね」
刺のある合いの手を打ったウルシュラは、LEDライトで地図を確認する。これまでのところ歪虚は、山に向けほぼ一直線のルートをとっている。
静花は地面ばかりを見続けていた頭を持ち上げる。先程飛ばした妖精、アリスが戻ってきたのだ。濡れて羽が重いのか、低空飛行である。
「お帰り。歪虚はいましたか?」
肩に止まって滴を飛ばした相手は、小さな頭を横に振る。
「よくわかんなかったー。でも、このさきにちっさなあかりがみえた」
その報告に一同は歩を速めた。ほどなくして前方に明かりを見つける。
薫がいた。インフィニットの口を押さえ抱いている。
仲間が近くに追いついてきたところで彼は、嘆息交じりの経過報告を行う。
「悪い、引き離されたっす」
チマキマルは手短に聞いた。
「存在を察知されたということか?」
「多分。一度追いつきかけたところで、インフィニットが吠えちまったんすよね。そしたら逃げ出して――引き離されちゃって。参ったっすよ」
その言葉にレイは驚き、目をぱちくりさせる。
「逃げる? 歪虚が、普通の犬を怖れたということですか?」
「そうなんすよね。てっきり襲ってくると思ったんすけど……」
灯心は確信する。歪虚が熊であるときの自我を濃密に残していることを。
恐らく吠え声で猟犬を想起したに違いない。であれば当然人を恐れる心も残しているはず。
(そういえば男爵も、銃で撃ったら逃げていったと言ってたな)
彼はセレスとシルヴィアに視線を向ける。正確には彼女らが連れている動物に。
馬と、犬。狩りの一団が来たと錯覚させ脅かすに、ちょうどいい面子ではないか?
「……行こう。大丈夫、追いつけるさ。行き先は一つしかねえんだから」
●遭遇
熊だったものは忍び寄ってくる気配に頭を上げた。
鼻に入ってきたものに首筋の毛を逆立てる。ほかのものとは比較にならないほど不快で恐ろしい匂い。銃を持つ人間の匂い。
「よっしゃ、見付けた……!」
草をかき分け近づいてくる。
「此処でストップだ。同情もするが……通すわけには行かないね」
犬の声が複数聞こえる。馬のいななきも。
熊だったものは息を弾ませ、方向を変えた。子供を抱える中足に力を入れ、走りだそうとする。
その矢先、強烈な光が飛んできた。
●戦闘
レイのホーリーライトを腹に受けた熊は逆上した。子供を攻撃されたと思ったのだろう、牙をむき巨体をゆるがせ向かってくる。セリスはそれに真っ向から挑んだ。ナックルをつけた拳で思い切り顔を殴りつける。
「歪虚もっ、雑魔もっ、浄化ぁ!」
熊も負けじと前足を繰り出し、頭上からしたたかに殴り返す。
ガードに使用しているトゥリムがたちまち傷だらけになり、引っ掻かれた顔から血が滲み出す。
チマキマルは猛攻を弱めようと、ファイアアローを放った。炎の矢がけだものの背に刺さる。
電光石火間合いに飛び込んだ馨が、ウィンドナイフで切りつける。
「無念の想いもあったんでしょうが、死んでVOID化しちまったらもう別のものっすよ!」
襲っては離れ離れては襲う戦法は、相手をひどく苛立たせた。
「馨さん、気をつけて! 突進してきますよ!」
レイが叫ぶとほぼ同時に馨は、体当たりを食らった。突き飛ばされるもすぐ転がって立ち上がり、続いての攻撃を回避する。 シルヴィアが放った銃弾が立ち上がった熊の腹、肩、顔に当たり突き刺さるような痛みを与えた。
熊は飛んでくるものを払いのけようと前足で空を掻いた。よだれを飛び散らして吠える。そうやって荒れ狂いながらも、中足だけはけして使おうとしない。
ウルシュラはそこを目掛けて、ウォーハンマーを奮う。攻撃への集中力を奪うために。
「申し訳ありませんがあなたには、二度死んでいただきます!」
毛むくじゃらな腕の中で縫いぐるみがぷらぷら揺れている。それを傷つけるのが忍びなくて、静花は、後方から後ろ足を狙う――激しく動き回っている足の腱が削げる。
灯心がアックスブレードで切りかかる。肉に食い込むときは剣、なぎ払い、振り抜くときは斧と形を変え、ダメージの増加を狙う。
歪虚は立つ姿勢を取るのが難しくなった。前足を地に降ろす。
今度はセリスが頭上から雨あられと殴りつけた。
チマキマルの光の矢とレイの光の弾が、間断なく熊の体に浴びせかけられ、歪虚としての力を奪って行く。
獣の形が足元から崩れ始めた。肉が緩み骨からはがれて行く。
目玉が濁り溶け眼窩が剥き出しになる。牙が、爪が、腐った体から落ちて行く。
それでもなお熊は縫いぐるみを守ろうと、身を丸めた。
その額に静花が、ショートソードを打ち込んだ。粘った液体がどろりと流れ出した。
シルヴィアは直近まで近づき、頭蓋に銃口を押し当てる。
「……人間の勝手な事情で申し訳ございません。どうかせめて安らかに眠ってください」
引き金が引かれた。頭が弾けた。
黒い煙を上げすみやかに、全身が朽ち果てて行く――後に残ったのは、毛皮部分だけだ。
チマキマルはしゃがんで、火球をその上にかざした。残骸と言っていいほどボロボロだ。もとの形すら残っていない。
「これなら男爵も、剥製にしろと言いださないだろうな」
灯心は縫いぐるみを拾い上げる。水をたらふく吸い泥に汚れているものの、傷ひとつない縫いぐるみを。
やり切れない思いが胸の内に満ちてくる。
「……これも、自然の摂理なら……悲しいな」
ウルシュラはぽつりと呟く。
「住み慣れた処に埋めてあげたいですね…」
●供養
昨晩から一日降り続いていた雨が止み、光が戻ってきた。山には薄くもやがかかっている。
太い木の根元にある小さな、作りたての塚。その土をぽんぽん叩いて灯光は、優しくほほ笑みかけた。
「家族一緒がいいだろ? 寂しくないしな」
レイは塚の上に手製の墓標を置く。熊の親子をかたどった、小さな木製の碑だ。
「どうか、次の生命を得た時は平穏にくらせますように……」
シルヴィアは彼らに尋ねた。
「そういえば、縫いぐるみは男爵に返さずともいいのですか?」
木の根方に腰を下ろし紅茶を飲んでいたセリスは、肩をすくめる。
「いいんじゃないの? 返したとして、ゴミに出すのが関の山だし」
傍らに佇んでいたチマキマルは、淡々と言った。
「どうせなら、ゴミに出すよりその場で燃やしてほしいが。ポーリーヌも念の為早めに葬儀に出して土葬はせずに火葬することを勧めたのだが、えらい剣幕で断られたよ。体を焼くなど出来るか、と」
「全く困った人ね。死体の埋葬などはキチンとしませんとね。放置したら、ほぼ間違いなく雑魔化するから」
レイはしょんぼりした様子で、ため息をつく。
「僕も、狩った動物などは、後で供養してもらえるように『お願い』したんですが……聞き届けてもらえませんでした」
薫がばつ悪そうに手を挙げ、打ち明ける。
「あー、それは……多分俺が怒らせた後だったからじゃないかと思うっす」
ウルシュラは興味深げに尋ねた。
「何を言っちゃったんですか?」
「いや、熊の親子を撃たなければ娘さんはこんな目にあわなかったって事、親として考えて欲しいって……」
「つまり、天罰だったと?」
「いやいやいや、そこまで言わないっすよ。基本不幸な事故みたいなもんすからね」
「あら、それなのに怒ったんですか。本当に器の小さい方ですね、あのヒゲ男爵」
笑顔で軽い毒を吐いてから、塚に花を手向ける。名も知れぬ青い花。山の木陰のあちこちで零れるように咲いているのを、道々摘んできたものだ。
静花も同じものを墓に手向け、手を合わせる。今回の一件は巡り合わせが悪かったゆえに起きたものだ。彼女は、そのように思う。
「……どちらも「子を想う親」だったまでの事……亡くなった幼い魂たちがどうか安らかでありますように」
風が梢を揺らし、ハンターたちの頬を撫で、吹き抜けて行く。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
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ご相談 ウルシュラ・オーディル(ka4996) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/06/25 21:34:08 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/24 20:31:30 |