ゲスト
(ka0000)
歌姫見習いと結婚式
マスター:十野誠

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/25 09:00
- 完成日
- 2015/07/03 16:53
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
● 雨の中の歌声
――貴方が欲しいのは――
雨の中。
人通りの少ない道で歌声が響く。
ともすれば雨音に消されそうな中。その歌声は家路を急ぐ人の足をふと緩ませる。
――私は一緒に歩きたい――
紡がれるのは、願いを告げる歌。
贅沢は言わない、ただ貴方と一緒に歩きたいと小さな願いを告げる歌。
どこかで聞いた事のあるような歌だが、聞く人に話しかけるような歌は人の足をゆるませ、
――だから、ねぇ すこしだけ――
いつしか歌の元には人だかりが出来ていた。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
雨音に負けずに声が響く中、ついっと一つの影がその場を離れる。
「これならば。充分でしょう」
● 勧誘
「私が、ですか?」
「うん。あれ? そう聞いたんだけど」
町で歌っていたエリーザ・カペルは、身に覚えがないと首を振った。
多くの人に歌を届けたいと思い、故郷を飛び出した彼女は、今日も街の広場で歌を披露していた。
気の向いた人が投じてくれるお金はさして多くは無いものの、お金は出さないまでも他の形で報いてくれる人の中で、彼女は生活をしていた。
エリーザに話しかけてきたのも、そんな形で彼女に関わっている人の一人だ。
「でも、エリーザちゃんが歌ってくれるなら、私も嬉しいんだけどな」
「そんなこと言われても困りますよ。結婚式で歌うなんて」
その女性は、近々結婚をするのだという。その中で結婚を祝う歌を唄ってくれる人を探していたところ、とある人にエリーザが歌ってくれると言われたとのことだ。
「どんな人でした? ちょっと聞いてみないと」
「どんな人もなにも、この間話していた人よ?」
「この間……?」
歌の後に話しかけられるのは珍しいことではない。
外にでるのが少々早そうな外見と言うこともあり、心配した人が話かけてきたりする事もよくある話だ。だが。
「あなたならできるとか、そんなことを言ってたかしら」
「あの人ですか……」
思い当たる顔を思いだし、エリーザは渋い顔を見せる。
正直、何を考えているか分からなかった。興味本位なだけかと思っていたのだが。
「ね。せめてさ? 打合せにだけでも来てくれない?」
「……うーん」
「甘いものもごちそうするから。ね?」
「分かりました。行きます」
● 回想
「御機嫌よう? 歌唄いさん?」
その日の曲を歌い終え、三々五々に散っていく人々を見送るエリーザが視線を移すと、そちらには一人の女性の姿があった。
「ごめんなさい。今日はもう終わりなんです」
見覚えはあまりないが、話しかけられるのにも慣れたものだ。エリーザは断りの言葉を言って詫びの表情を浮かべる。
「それは残念。けれど――大丈夫よ」
「はい。また――」
「これからいつでも聞けるようになるんだものね」
「明日……は?」
思わず間の抜けた声を上げるエリーザに、その女性は満面の笑みを返しながら言葉を繋ぐ。
「えぇ。貴女なら大丈夫。きっと眼鏡にかなうと思うの。何も心配する事は無いわ」
「えっと……」
「貴女なら出来るわ。私達には出来なかったこともきっと」
「ごめんなさい、間に合ってます……!」
エリーザは荷物を急いで取りまとめると、急いでその場を駆けだした。
その様子を見る女性は――変わらず笑顔。
「大丈夫、きっと貴女も分かってくれると信じているわ」
● 打ち合わせ
打ち合わせをするという日。エリーザは普段の歌の稽古も早々にすませると、結婚式を迎えるという知り合いの家に向かった。
(とりあえず顔見せだけでも。断ればいい……)
そんな思いを抱きながら、家に入ったエリーザは中の光景に目を疑った。
結婚をする2人。式を運営するための係員のような人。それだけならばいい。
(教会で楽器を演ってた人達に……嘘?! ハンターさん達!?)
「エリーザさん! よく来てくれました……!」
戸をくぐったところで身を硬くしていたエリーザに、上機嫌な声がかけられる。
声の方を向くと、そちらにはいつかの女性が嬉しそうな顔を浮かべて立っていた。
「あ、あの! これは一体……」
「さぁみなさん! 待ち望んでいた人も来ました! それでははじめましょう!」
声に応じて、打ち合わせをはじめていく人の中、エリーザは諦めの表情を浮かべた。
(あぁ……これは断れないわね)
なら、精一杯を。
世話になっている人を祝うのは望むところ。そこまで自信は無いけれども、やれることをやろう。
エリーザは祝い事に使えそうな歌を急いで思い出すのだった。
――貴方が欲しいのは――
雨の中。
人通りの少ない道で歌声が響く。
ともすれば雨音に消されそうな中。その歌声は家路を急ぐ人の足をふと緩ませる。
――私は一緒に歩きたい――
紡がれるのは、願いを告げる歌。
贅沢は言わない、ただ貴方と一緒に歩きたいと小さな願いを告げる歌。
どこかで聞いた事のあるような歌だが、聞く人に話しかけるような歌は人の足をゆるませ、
――だから、ねぇ すこしだけ――
いつしか歌の元には人だかりが出来ていた。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
雨音に負けずに声が響く中、ついっと一つの影がその場を離れる。
「これならば。充分でしょう」
● 勧誘
「私が、ですか?」
「うん。あれ? そう聞いたんだけど」
町で歌っていたエリーザ・カペルは、身に覚えがないと首を振った。
多くの人に歌を届けたいと思い、故郷を飛び出した彼女は、今日も街の広場で歌を披露していた。
気の向いた人が投じてくれるお金はさして多くは無いものの、お金は出さないまでも他の形で報いてくれる人の中で、彼女は生活をしていた。
エリーザに話しかけてきたのも、そんな形で彼女に関わっている人の一人だ。
「でも、エリーザちゃんが歌ってくれるなら、私も嬉しいんだけどな」
「そんなこと言われても困りますよ。結婚式で歌うなんて」
その女性は、近々結婚をするのだという。その中で結婚を祝う歌を唄ってくれる人を探していたところ、とある人にエリーザが歌ってくれると言われたとのことだ。
「どんな人でした? ちょっと聞いてみないと」
「どんな人もなにも、この間話していた人よ?」
「この間……?」
歌の後に話しかけられるのは珍しいことではない。
外にでるのが少々早そうな外見と言うこともあり、心配した人が話かけてきたりする事もよくある話だ。だが。
「あなたならできるとか、そんなことを言ってたかしら」
「あの人ですか……」
思い当たる顔を思いだし、エリーザは渋い顔を見せる。
正直、何を考えているか分からなかった。興味本位なだけかと思っていたのだが。
「ね。せめてさ? 打合せにだけでも来てくれない?」
「……うーん」
「甘いものもごちそうするから。ね?」
「分かりました。行きます」
● 回想
「御機嫌よう? 歌唄いさん?」
その日の曲を歌い終え、三々五々に散っていく人々を見送るエリーザが視線を移すと、そちらには一人の女性の姿があった。
「ごめんなさい。今日はもう終わりなんです」
見覚えはあまりないが、話しかけられるのにも慣れたものだ。エリーザは断りの言葉を言って詫びの表情を浮かべる。
「それは残念。けれど――大丈夫よ」
「はい。また――」
「これからいつでも聞けるようになるんだものね」
「明日……は?」
思わず間の抜けた声を上げるエリーザに、その女性は満面の笑みを返しながら言葉を繋ぐ。
「えぇ。貴女なら大丈夫。きっと眼鏡にかなうと思うの。何も心配する事は無いわ」
「えっと……」
「貴女なら出来るわ。私達には出来なかったこともきっと」
「ごめんなさい、間に合ってます……!」
エリーザは荷物を急いで取りまとめると、急いでその場を駆けだした。
その様子を見る女性は――変わらず笑顔。
「大丈夫、きっと貴女も分かってくれると信じているわ」
● 打ち合わせ
打ち合わせをするという日。エリーザは普段の歌の稽古も早々にすませると、結婚式を迎えるという知り合いの家に向かった。
(とりあえず顔見せだけでも。断ればいい……)
そんな思いを抱きながら、家に入ったエリーザは中の光景に目を疑った。
結婚をする2人。式を運営するための係員のような人。それだけならばいい。
(教会で楽器を演ってた人達に……嘘?! ハンターさん達!?)
「エリーザさん! よく来てくれました……!」
戸をくぐったところで身を硬くしていたエリーザに、上機嫌な声がかけられる。
声の方を向くと、そちらにはいつかの女性が嬉しそうな顔を浮かべて立っていた。
「あ、あの! これは一体……」
「さぁみなさん! 待ち望んでいた人も来ました! それでははじめましょう!」
声に応じて、打ち合わせをはじめていく人の中、エリーザは諦めの表情を浮かべた。
(あぁ……これは断れないわね)
なら、精一杯を。
世話になっている人を祝うのは望むところ。そこまで自信は無いけれども、やれることをやろう。
エリーザは祝い事に使えそうな歌を急いで思い出すのだった。
リプレイ本文
● 当日 ~控室~
街にはしばらくぶりの晴天が広がっていた。
一面に広がっていた雲は消え、雨音の代わりに空に鐘の音が響く。
その鐘のもと。教会の一室に、ハンター達は集まっていた。
「……これ、思った以上に責任重大なお仕事だったかもしれないです……」
そんなことを言いながら、控え室の隅の収まっているのはアリシア・トリーズン(ka4713)だ。 非常に緊張した面もちの彼女は、転移前から身につけていたと言うヘッドフォンで耳をふさぎ、気を紛らわしている。
興味を持った楽団員の一人が、音に耳を傾けたところ、別の部屋の隅でうずくまってしまったが些細な問題だろう。
「楽しんで演奏しましょう。いい式になるといいですね」
自前のハープボウを片手にアニス・エリダヌス(ka2491)は集まった面々にそう声をかける。
彼女は可愛らしいフリルワンピースに身を包み、華やかな笑顔を浮かべながら周囲の人に声をかけていく。
「カティスさんも、大丈夫ですか?」
「は、はい! いつもみたいにドジしないように頑張りますっ」
アニスの言葉にそう返すのは、カティス・ノート(ka2486)だ。
ドジなところがあるという彼女だが、祝いたいと言う気持ちは他に負けてはいない。これから歌う歌詞のチェックに余念がない。
「一緒に頑張りましょうねっ!」
ルナ・レンフィールド(ka1565)はそんなカティスを励ますように声をかける。
ルナが持ち込んだ楽器は、リュートとフルート、そしてオカリナだ。
歌のハーモニーを重視し、曲を豊かにする彼女の演奏は、楽団員達も認めるところだった。
「エステルさん、大丈夫ですから……!」
「ダメ、今日は私がついていますっ」
控え室の中に、そんな和やかなやりとりが響く。
声のもとは歌い手であるエリーザ・カペルと、エステル・L・V・W(ka0548)だ。
当日まで、あまり関わる事ができなかった時間を取り戻すかのように、べったりと立つエステルにエリーザは困ったような声をあげる。
「もし変な人が来たら困るでしょう?」
「変な人は……いない、とはいえないですけど……」
エステルの言葉に思い出されるのは、依頼人であるレディ・オーレリアだ。
はっきりとした同意も無いままに、エリーザやハンター達を結婚式に巻き込んだ彼女。エステルは曲の練習と平行して、オーレリアの調査を行っていた。
多忙を極めていたはずだが、エステルはその素振りを見せる事はない。
(不正に彼女を操作したり誘導したり、そういうことは絶対許しませんわ!)
「さて、皆様! 準備はよろしいでしょうか!」
そんな中。ノックの音も無くドアが開くと、大仰な素振りでレディ・オーレリアが声をあげる。
その声は会話が行われる控え室の中でもよく通った。
「それなら最後に、少し待ってほしい」
アニスはそう言うと、手元に花を模った装飾のついたバレッタを取り出し、ハンター達とエリーザの前に立ち、一人一人に渡していく。
「その花はサンダーソニアと言います。花言葉は『祝福の音色』。実物をつけるには難しい形だったのでイミテーションですが……わたしとお揃いです、どうですか?」
「こんなお花があったのですね! 花言葉も素敵です!」
受け取ったバレッタをパチリと髪に止めながら、エリーザはアニスに笑みを向ける。
「さて、よろしいですね? それでは開幕と参りましょう!」
オーレリアは皆がバレッタを身につけるのを見ると、改めて声をあげた。
● 事前準備
時は数日前に戻る。
挨拶を終えると、ハンター達とエリーザは一カ所に集い、歌う曲について相談をしていた。
「歌うのは2曲が良いかと」
「2曲、ですか?」
賛美歌を歌う事だけを考えていたエリーザは、アニスの言葉にそう疑問を返す。
「えぇ。1曲目はスタンダードなエクラの曲を。そしてもう1曲はエリーザさんの曲はどうでしょう?」
「結婚式の曲、ですよね……ちょっと書いたことは……」
アニスの後を次ぐエステルの言葉に、エリーザはメモ帳をたぐると、ふさわしい曲はないと首を横に振る。
「それなら今からつくりましょう!」
「い、今からですか!?」
「わたくし達も協力しますわ! 期待してますよ、エリーザさん!」
「が、がんばります……」
教会付きの楽団員達は、新しい曲と聞いて驚きを見せたものの、満面の笑みで彼女の曲の作曲を受け持つ事を頷いた。彼らも多かれ少なかれ、エリーザが街で歌う様子を見たことがあり、その新曲を手伝えるのは嬉しいのだと言う。
交渉もすみ、いざと作詞をはじめたエリーザは、さっそく暗礁に乗り上げていた。
なにせ、これまでは歌だけを生きがいに過ごしてきた身だ。出身地にあった教会も、讃美歌を歌うことはしたものの、個人で作られた結婚を祝う歌はあまり聞いたことは無かった。
さらには――
(い、言えません……! 初恋もしたことが無いなんて……!)
同年代の男の子と話した事も無いとは言わないが、恋と言えるほどの経験をしたことはない。
結婚はさらにその先。憧れた事はあるが、どんな人がするのかは想像もできない。
「とりあえず皆さんに聞いてみましょう……」
どのような歌詞が良いのか。そんな質問に先ず答えたのはカティスだ。
「相手の男の人にウェディングドレスを見てほしいのと、姿を観てどんな感想をくれるのか……えっと、そんな感じで、どきどきしながら男の人が迎えに来てくれるのを待つ女の人の感じ……がいいと思いますっ」
「花嫁さんの気持ち、ですね……」
耳まで真っ赤にしてはずかしそうに言うカティスの言葉に、エリーザはメモをとりながら返答する。
実際のところ、カティスもそう恋愛経験があるわけではないが、その事にエリーザが気がつく様子はない。
書きとめるエリーザの期待のまなざしに、そっと汗を流すカティスであった。
次にエリーザの質問に答えたのはアニスだ。
「やはり祝福とか、二人の門出を祝う言葉が入るといいかと。あとは……」
「あとは……?」
少しばかり言いよどんだアニスに、エリーザは首を傾げながら続きを促す。
「そうですね。愛、でしょうか」
「愛ですか……」
人によって異なりながらも、最後に言うべきなのはそれなのだろう。
考え込むエリーザに、アニスはほほえましいものを見るように視線を向けた。
そして、ハンター達の助言を受けつつ作詞が完了したのは、式の2日前の事だ。
「で、できました……!」
「はわぁ! エリーザさんの歌詞、凄く素敵なのですよ♪ 気にいっちゃったのです」
「あ、ありがとうございます……そ、それよりも早く楽団の皆さまに渡さないと……!」
カティスの褒め言葉に頬を赤く染めつつ、エリーザは恥ずかしさを隠すように書き上げた詞を楽団員たちの下へと持っていったという。
●当日 ~式場にて~
「――では、新婦の入場です。皆さま拍手でお迎えください」
神父の言葉を受け、教会のさほど大きくない礼拝堂の扉が開かれる。
父親の介添えを受け、ウェディングドレスを身にまとった新婦が足を踏み出して行く。
(リア充はぜ……)
クラシックギターを――転移前から持ってきていたベースギターは残念ながら調整が間に合わず使用を断念した――抱えたアリシアは一瞬よからぬ思いにかられるが、頭を振ってその思いを振り払う。
さすがに表だって結婚式で言うのは問題だろう。依頼を受けてきている以上、本心はともあれ、役目をしっかりと果たす必要がある。
新婦が祭壇で待つ新郎のもとにたどり着き、自然と拍手が鳴りやむのを待った神父が、厳かに口を開く。
「それでは、これより新郎――」
アリシアとはまた別に、その様子をまぶしそうに見ながらアニスが思いを馳せる。
(……やっぱり、憧れますね)
昔の話だ。
故郷の村を訪れたとある男性がいた。縁があり、彼をもてなしていたところ、アニスは彼に恋をした。しかし、その後、その男性は歪虚との戦いの中で消息を絶ってしまう。
もしかしたら、あのままだったなら。そんな思いが無いとは言い切れないのだろう。
アニスは目を細めながら式の次第を見つめるのであった。
結婚式はすすむ。神父の挨拶が終ると、讃美歌の出番だ。
エステルとカティスに挟まれるようにエリーザが前に出ると、その透き通った歌声を張り上げた。
――There is beauty――
歌われるのは、結婚式の定番の一曲だ。
結婚式の讃美歌ならば、凝る必要は無い。よく奏でられる曲と言うのはそれだけ良いものだということ。
――Peace and plenty here――
それに。
本番はこれだけではないのだから。
――When there’s love at home――
讃美歌が終わり、それぞれがそれぞれに緊張を見せつつ、視線を交わす。
微笑む神父の頷きを合図とし、ルナがリュートの弦をはじいた。
奏でられるのは、讃美歌とは異なるアップテンポの曲。楽しそうに笑顔を浮かべながら、ルナは導きの音を奏でる。
(大切なのは楽しむこと、そして楽しませること!)
歌で誰かを幸せにできるのは素敵な事だ。
だが、それは誰しもが出来るわけではない。しかし――だからこそ。
(私は、私の出来ることで!)
ルナの音を、支えるように響くのはアリシアのクラシックギターだ。
本来扱おうとしていた楽器とは異なるものの、彼女の打ち合わせと練習を行った結果が功をそうし、控えめながらも曲のテンポを保つという大事な役割をしっかりと果たしている。
2人の音をさらに膨らませるのが、次いで加わるアニスのハープボウだ。
あくまでも本来は大振りな竪琴の形をしているだけの弓にすぎない。だが、一人だけで演奏するのでは無い以上、それは些細な事。限られた音階をアニスは自らの技量でカバーをし、自らのパートを勤め上げる。
前奏に次いで、第一声をあげるのはやはりエリーザだ。
――ドキドキしていたの、貴方を待つとき――
観客の幾人かが、おや? と言った顔を浮かべる。
結婚式ならば、賛美歌。そうでなくとも、バラードの類が一般的だ。だがこれは少し違う。例えるなら――
(リアルブルーのアイドルの……?)
――結婚しよう、そう言われて嬉しかった――
エリーザは出身地で教会の合唱隊に所属していた。
だが、いくつかのすれ違いが重なり、彼女は合唱隊出ることになった。
――ちょっとほっとかれたりして不安にもなった、けれど――
もはや歌えないと思った。
だが、そんな中で助けれくれたハンターがいた。自分の知らない新しい曲を教えてくれた人や、周囲の音を聞かせてくれた人。そして。
――言ってくれて本当に良かった――
背中を押してくれた人。独り立ちしようとした時に、自分の責任について教えてくれた人がいた。
だから、その人への感謝も込めて。
ちらりと、エリーザはエステルとカティスに目配せ。声をそろえてサビに入る。
――愛してます。心から――
エステルのソプラノボイスと、カティスの歌声が合わさる。
芯を持った2人の声に、ふとカティスが自らのパートを見失いそうになるが、そこはルナがとっさに自らのフルートで対旋律で主旋律を強調することでサポート。歌い手達の声を立たせる。
――これからもずっとよろしくね――
サビが終わり、次のメロディに移る中、調子のあがってきたアリシアがそっとルナに目配せを飛ばす。
頷きを返すと、ルナはオカリナを手にすると、歌い手達に並び、更なる盛り上げのために強い旋律を吹き出す。
どこか影のある表情の中に、アリシアが喜びの顔を浮かべると、彼女もベースもただのバックに収まるものではないのだというように、ルナと並んで演奏を始める。
完全な打ち合わせなしのアドリブ。しかし、アニスや併せて合奏をしていた楽団員は受けて立つとばかりに不適な笑みを浮かべ、自らの楽器を振るう。
リアルブルーで言うならば、ジャムセッションと言うべきだろうか。
練習の時から、周囲の演奏に耳を傾け、アドヴァイスや声かけをしてきたルナの力と、それぞれの力があってこそだろう。
聴衆が息つく間もなく、次のメロディが3人の歌い手から紡がれていく。
次のメロディは男の立ち位置からのフレーズ。
受け入れてもらえるかドキドキした。
あわせていってくれてるだけかと思った。
プロボーズがお互い一緒になってしまってお互い吹き出した。
愛している。これからもよろしく――
最後のフレーズは、聴衆の立場からだ。
結婚おめでとう。これからもお幸せに。
6人の曲が終わると、割れんばかりの拍手が礼拝堂にあふれかえった。
心地よい疲れの中、笑みを交わしていると、新婦が苦笑混じりに言う。
「これは、私の立場がなくなってしまいましたね。すばらしい歌声でした。では、最後に私から――新郎新婦は、誓いの口づけを」
再び始まる拍手。
結婚式は大好評の内に幕を閉じた。
● そして
「皆様、本当にお疲れさまでした……!」
控え室に戻った6人を出迎えるのは、依頼人であるレディ・オーレリアだ。
彼女の姿を見ると、それまでの疲れを忘れた様に、エステルとカティスがエリーザとオーレリアの間に立ちふさがる。
「おやおや、私としたことが。驚かせてしまいましたでしょうか?」
厳しい顔つきの2人を前に、おどけるように言う彼女に、エステルが口火を切る。
「ヴォルフシュタインは、彼女を後援しています! そうである以上、貴女の今回の態度は看過出来るものではありません!」
「ほう――?」
周囲を改めて見ると、そこにはカティスの警戒の目。そして、アニスがそれまで楽器演奏に用いていたハープボウにつがえられた弓があった。
「あぁ――いや、これは段取りを間違えましたね。私としたことが。焦りすぎたようです」
両手をあげ、なにもしないとアピールをしながら、オーレリアは言葉をつなぐ。
「本日は下がらせていただきます――そこの桃色の髪のお嬢様は何かしら掴まれたかもしれませんが」
意味ありげに言うと、オーレリアは素直に控え室の戸をくぐる。
「では――また近い内に。エリーザさん。私は確信しました。貴女なら私どもの問題を解決出来るかと……それでは」
捨てぜりふの様に残された言葉。それがそれぞれの胸に刻まれていった。
エステルが調査の際に掴んだ情報。
それは、オーレリアの出身地についてだった。
かの地では、とある歌い手が代々受け継がれていると言う。その歌い手は、当代が動くことが出来ない状態であるとか。
ならば、彼女の望みは――。
――歌姫見習いと結婚式 了 ? ――
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 エステル・L・V・W(ka0548) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/06/25 07:22:12 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/24 23:02:11 |