廃墟の集落にて

マスター:天田洋介

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/06/25 19:00
完成日
2015/06/30 22:25

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 真夜中の森奥。ラグア親子は焚き火を挟みながら、生まれ故郷であるナガケ集落を話題にしていた。
「違うぞ、ガローア」
「父上、何が違うのですか? あの獅子の顔を持った鷹は集落を滅ぼした元凶ではありませんか?」
 約一年前、ナガケ集落の一同は解散を決めて散り散りとなる。その理由はキメラの獅子鷹『メニュヨール』の被害が酷くなりすぎたからだ。
 ナガケ集落は生きる糧として豚や牛の畜産、馬の育成に力を入れていた。
 幻獣メニュヨールは上空から急降下して豚、牛、馬の仔を攫っていく。四年前までは年に一頭か二頭程度で無視できる数だった。それが三年前から片っ端に家畜の仔が攫われるようになる。人の子もそうなりかけた。
 ナガケ集落の者達も傍観していたわけではない。自分達では敵わないと悟るとハンターにメニュヨール退治を頼んだ。しかしそれが逆鱗に触れてしまう。メニュヨールはどこからか仲間を呼び寄せて三頭で大暴れしたのである。
 仔だけではなく、成長した家畜までが次々と食べられてしまった。
 青年ガローア・ラグアは、これらの体験を経験した上で『幻獣メニュヨールはこの世にいてはならないと存在』と呟いた。それを父親マガンタは否定したのである。
「メニュヨールは俺も憎い。しかしだ。奴が生きるための狩りをしている以上、間違ってはいないぞ」
「父上、それは屁理屈です」
「人も食さねば生きてはいけない。だからこそ感謝を忘れてはいけないがな」
「でも……」
「強く言いすぎたようだ。憎しみに囚われないで、正しい物の見方をして欲しいと思っただけだ。ガローア、メニュヨールがそうであるように俺達も生きる権利はある。だから退治には賛成だよ」
 焚き火にくべていた薪が大きく弾けた音でガローアは目を覚ます。
「夢か……」
 父親マガンタは一ヶ月前に怪我でこの世を去っていた。ガローアは今、天涯孤独の身の上である。
 彼は十五歳。ブロンド髪に目は透き通るような赤色。クリムゾンウェストの人間だが、二つか三つ前の先祖にはエルフがいるらしい。一族が森に住みたがるのは先祖の血のせいじゃないかとマガンタはよく笑っていた。
 堅実な父親のおかげで五年ほど遊んで暮らせるお金は残っている。死の間際に町へでて新しい生活を送れといわれたのだが、ガローアにそのつもりはない。
 森を彷徨っているうちに一ヶ月が過ぎ去っていた。
(あいつら、変だったよな……)
 ガローアはメニュヨール退治に失敗した当時のハンター一行に疑問を感じている。
 一行はハンターズオフィスを介して招いた者達ではなかった。ナガケ集落のお調子者の男が近くの村に滞在していた一行を連れてきたのである。
 一行が退治に失敗するとお調子者の男も何処かへ逃げてしまう。ガローアはお調子者の男のことが昔から大嫌いだった。
「もう一度だけハンターを信じてみよう……」
 翌朝、森をでたガローアは二日かけて古都【アークエルス】に辿り着く。そしてハンターズソサエティ支部で依頼した。未だにナガケ集落跡周辺で棲息しているであろう幻獣メニュヨール三頭を退治して欲しいと。

リプレイ本文


 ハンター一行は転移門で古都【アークエルス】に到着。依頼人ガローア・ラグアは待ちあわせ場所であるハンターズソサエティ支部で待っていた。
「依頼したガローアです。ハンターのみなさん、故郷を滅ぼした幻獣の退治をよろしくお願いします」
 ガローアは一人一人に握手を求めて挨拶する。
 すでに出立の準備は整っていた。馬車へと乗り込み、古都から東の方角を目指す。
「そうなんです。当時の集落の者が頼んだハンター達はすぐに逃げてしまいまして……。そのハンター達のいうことを聞いて集落一同は避難していたので、戦う姿も誰も見ていません。いや……そのハンター達を連れてきた集落の者だけは見ていたはずなのですが、いつの間にか姿を消してしまいまして――」
 ガローアの口から依頼に至る経緯が語られた。散り散りになってしまった集落の人達はどこにいったのかもう分からなくなったとも。
「それにしてもメニュヨール退治に失敗したハンター一行ですか。何か怪しいですね」
 エルバッハ・リオン(ka2434)は口の端を右の人差し指で触って首を傾げる。
「そうなんです。あるときは失礼ながらハンターなんて……と思ったのですが、よくよく考えてみればハンターですらない人達だったのかもと」
「まあ、今、考えても仕方ない話ですか。それよりも、きっちりとメニュヨールたちを退治して、ハンターの信頼回復に務めた方が建設的ですね」
 ガローアは包み隠さず正直に話す。以前の一件でガローアがハンター全体に不信感を持ったことは確かだ。だが集まってくれたハンター達は信頼できそうだし、第一、彼彼女らには関係のない事柄である。
(俺も『家族』を二度失った経験がある身だからな、他人事とは思えん……)
 心の中でそう呟いたのは天ヶ瀬 焔騎(ka4251)だ。
「不信になったモノを無理に信じろとは言わん。……だが、信じられずとも受けた依頼を最後まで完遂する事に一切の躊躇いも無い」
「ありがとうございます。あの、当時非常に不信感を持ったのは確かなんですが、ハンターズソサエティーを通さないで集めたハンター一行でしたし、しかも探してきたのが集落の中でもあんまりな奴だったので……。とにかくみなさんには期待しています」
 ガローアの言葉と瞳の輝きにエルバッハと天ヶ瀬が頷く。
 それからしばらく無言の時間が流れる。馬車が大きく揺れたとき、ガローアは懐に仕舞ってあったナイフの重さを再確認した。
 ナイフは父親マガンタ・ラグアの形見である。
「あの……依頼文には書かなかったのですが……、故郷の集落跡に着いたら先祖の墓参りをしたいのです。父の形見を埋めてあげたくて。現地が危険な状態なら取りやめで構いませんので、どうかお願いします」
「遺品の埋葬、どうかなさってください。自らの生まれ故郷というものは誰にとっても大切なものです。あなたの父祖にとってもそうであるはずです」
 Hollow(ka4450)だけでなく、ハンター全員が父の形見を墓に埋めたいガローアの意思を尊重してくれた。
(過去に見切りをつけることは重要だな。忘れがたいことほど特に)
 ロニ・カルディス(ka0551)はガローアの瞳が涙で潤んだのを見逃さなかった。ただそれに触れることはない。
「め、メニュヨールは鵺の様な生き物、ですか? 東方で見る、憤怒の歪虚とは、また違った物なのですね。ケモノの一種なのでしょうか?」
 引っ込み思案の雲雀(ka5034)はこれまでガローアに話しかけようとして何度も失敗していた。ようやく訊ねることができる。
「父はあれも動物だといっていましたし、私もそう思います。家畜の仔を攫っていったのも食べるためでした」
「帝国のグリフォンライダーみたいに、手懐けて乗れれば、楽しそうなのに」
 メニュヨールの詳しい生態についてはオルドレイル(ka0621)も強い関心を持っていた。
「そのメニュヨールと呼ばれているキメラについて聞かせてもらえるか? 姿形だけでなく飛ぶ速さなどがわかれば対処しやすいのだが」
「あくまで感覚ですけど、地上を駆ける馬の三倍ぐらいの速さはあったかと思います。急降下のときにはもっと速かったかも」
 ガローアは思いだしながら答える。集落を立ち去る直前、すでに死んでいた家畜の肉を食べる光景も見かけたという。
 肉食獣は主に自ら獲物を狩るタイプと腐肉を漁るタイプに分けられる。どうやらオルドレイルは狩りを基本にしているものの、そうでないときもあるようだ。
「メニュヨールは夜に明るい所に近付くのかな? そうなら囮が使えるしね」
 やけに鳥の鳴き声を煩くてリューリ・ハルマ(ka0502)がガローアに顔を近づけた。
「夜間に仔が攫われたことはあるんです。新月には来なかったような……。おそらくありませんでした。夜目は利かないと思いますので、暗がりに光があれば寄ってくると思います。特にお腹が空いているときは」
 昆虫のように走行性があるかはわからないが、光でメニュヨールを呼び寄せる方法にはガローアも賛成する。
「故郷って良いよね、頑張ってメニュヨール倒さないとね!」
「ありがとうございます。そうなったらどんなに嬉しいことか……」
 ガローアはリューリに頷いたあとで遠くを眺めるような眼差しを浮かべた。
 イーディス・ノースハイド(ka2106)もガローアに問いかける。
「三年前から片っ端にということは餌場だと認識したか、あるいはメニュヨールに仔でも生まれたのかな?」
「……その可能性は考えていませんでした。いわれてみればそうですね」
 ガローアは父親マガンタから言われた言葉を思いだす。
「メニュヨールもまた人と同じ生き物であり、生存の狩りは間違っていない。父上はそんなことをいっていました。あれに仔が産まれたとすれば私にも納得がいきます。だからといって私にもあの地で生きる権利があります。……受け売りですけれどね」
「キミも王国の民なら王女殿下が庇護するべき対象さ。故にキメラとやらを討つのに否やはないよ」
 イーディスは騎士としての気持ちをガローアに聞かせた。
 太陽が沈むまでに森外縁まで辿り着く。馬車を中心に野営の準備を整えて一晩を過ごす。早朝、ガローアとハンター一行は森の中にあるナガケ集落跡を目指したのだった。


「ここを越えると楽になりますので」
 森の中は険しかったものの、ガローアの案内は的確であった。迷うことなく、かつ最短の獣道を進んでいく。
 途中で発見した鹿を仕留める。すぐさま解体し、新鮮な肉を手に入れた。
 午前を過ぎた頃、ガローアが遠くを指さす。
「家がある場所はまだですが、あそこはもう元放牧場になります」
 近づいてみると柵があったので乗り越える。ここはすでにナガケ集落だ。
「なかなか立派な木だ。これはオークだな」
「ここは豚の放牧場でした。オークになる木の実は豚の好物なんです。しかも木の実を食べた豚は臭みが少なく、それに肥えて上質の脂が乗ってとてもおいしくなるんですよ」
 ガローアは進みながらオルドレイルに養豚の話を聞かせた。
 元々木々が茂っていたせいもあって、豚の放牧場についてはあまり変わっていない。しかし牛の放牧場に関しては違う。雑草に覆われていて、人の背ほどの若木も生えている始末だ。ただシロツメクサが植生されていたところだけは草原のように見晴らしがよかった。
 放牧場を通過し始めてから三十分後、ナガケ集落の住居跡に辿り着く。
「ここまでの感じですと、メニュヨールは棲みついていないみたいですね」
 リューリは青空を見上げながら仲間達に問いかける。メニュヨールが三体もいるのであれば、すでに見かけている方が自然だった。
「これなら墓参りを先にしても大丈夫そうだな。丁度良かったじゃないか」
「はい」
 視線が合ったロニにガローアが頷く。
 先祖の墓は住居地域の比較的近くに作られていた。
 事情がない限り一人に一つなので、ラグアと彫られた墓標がいくつも並ぶ。
 ガローアは開いていた区画に穴を掘って父親マガンタの遺品であるナイフを埋めた。
 敷地の片隅に置かれていた予備の墓石に『マガンタ・ラグア』の名を刻んで立てる。一連の作業をハンター達が手伝ってくれた。
 あらためて墓の前に跪いたガローアはしばらく祈りを捧げ続ける。
「……ありがとうございます。本当に」
 立ち上がったガローアが一同に礼をいう。
「行きましょうか。まずは昼食をとりましょう」
 Hollowは優しく声をかける。
 休憩場所はラグア家の住居跡を選んだ。朝食と一緒に作った弁当を頂く。
 これからのことを話しながら食事をしていると、突然オルドレイルが立ち上がって窓枠にしがみついた。殆ど同時にHollowも別の窓へと張りつく。エルバッハは荷物の中から双眼鏡を取りだした。
「ただの鳥ではないよな?」
「例のメニュヨールではないでしょうか?」
 オルドレイルとHollowは上空を滑空している小さな影に目を細める。
「そうね。ガローアさんがいっていた特徴そのまま。メニュヨールで間違いないですね」
 エルバッハが双眼鏡を覗いてきっぱりと断言した。その後、双眼鏡を貸して仲間全員が確認する。
 まさに鷹と獅子が合わさったキメラだった。三体いるはずだが、現在飛んでいるのは一体のみである。十数分間、上空を旋回し続けて南南西へ消えてしまう。
「今も棲息しているのがわかったのは大きな成果だね。ガローア殿、道中で話したようにテントを囮にしての作戦を実行させてもらうよ」
「わかりました。私もお手伝いさせてもらいます」
 住居跡からでたイーディスとガローアはメニュヨールが消えた空を眺め続けた。
 メニュヨールがいない日が高い今のうちに罠作りが行われる。
「ガローアさんもいっていたが、ここが一番がよいだろう」
 天ヶ瀬は一面が元放牧場の中央に立って周囲を見渡す。
 選んだのシロツメクサで覆われた一帯。別の草もわずかに育っていたが極一部である。他には若木が数本のみだ。視界を妨げる枝葉がないということは、同時に上空から眺めやすいことも意味している。
「縄で縛って……これでいいですね。あとはこれを着せて――」
 雲雀は持ってきた毛布を縄で縛って案山子に仕上げた。適当な服も着せて人のように見せかけてテントの側に立たせておく。
 囮テントを監視できるように野営用のテントも用意してある。こちらは草や枝、茂みの一部を被せて目立たないようにカモフラージュが施された。
「これも使っておこうか」
 天ヶ瀬はレトルトカレーの封を開けて周囲に少しずつばらまいておく。袋はそのままテントの中へ置かれる。
「ここがよさそうですね」
 Hollowは監視用テントの側に聳えていた大樹を登った。適当に太枝へ座ってみると、枝葉の隙間を縫って囮のテントがばっちりに見通せる。反対に囮のテント側からでは視認しにくいはず。ライフルで狙うのには丁度良い距離だった。
「もう少し草を足しておきましょうか」
 エルバッハが抱えてきた雑草をテントに被せて埃を払うために手を叩く。
「幻獣が好みの味とは塩抜きのこんな感じか?」
 夕方、天ヶ瀬がラグア家の住居跡で料理を作る。これはあくまでにおいでメニュヨールを引きつけるためのもの。ガローアの証言によれば、メニュヨールは獲物を襲って食べるだけでなく屍肉も食らうようだ。ここに至る途中で獲った鹿肉を使う。
「♪」
 リューリは晩御飯と一緒に夜食も作った。バターとマスタード、それにまだ残っていたパンとハム、チーズを取りだす。
「これだけでは暗いだろうか?」
「そうだね。もう一つ置いておこうかな」
 日が暮れる直前、ロニとイーディスがテントの中でランタンを灯す。
「どうなるかわからないが、これを入れておこうか。メニュヨールが酔っ払ったら儲けものだ」
 オルドレイルは料理の中に酒を混ぜておく。鹿肉にも染みこませる。
 完全に太陽が沈み、夜の帳が下りる。一行は息を潜めながらメニュヨールの到来を待ち続けるのだった。


 ハンター達は三班に分かれて夜間の見張りを行う。A班はリューリ、オルドレイル、エルバッハ。B班はHollow、ロニ、雲雀。C班はイーディスと天ヶ瀬といった具合に。
 夜空には月が浮かんでいたものの天候は悪かった。曇りがちのせいで時折、真の暗闇に覆われる。そういったとき、暗い森の中にランタンの光が漏れる囮のテントだけが目立つ。
 まだ目が冴えていたガローアも見張りにつき合った。
「はい。どうぞ。コーンスープとハムサンド」
「ありがとう。これ美味しいね」
「うれしい。スープならおかわりあるからね」
 リューリが作った二品はガローアがリクエストしたものだ。バターとチーズ、ほのかなマスタードの味は思い出の味に近かった。
 かつてのナガケ集落では乳牛も飼っていた。ガローアも乳搾りを手伝って、バターやチーズを手作りしていたのである。
「手作りのバターやチーズって聞いているだけでおいしそうね。そういえばガローアさんは集落を復活させたいの?」
「そうしたいですね。ただ……計画とか全然立てていなくて、具体的にはどうすればいいのか思いつかないんです」
 リューリに訊ねられたガローアは少し俯きながら話す。
「何か手伝えることがあれば手伝うよ?」
「私もだ。ガローアが望むなら復興の手伝いもしよう」
 リューリとオルドレイルの言葉にガローアは励まされた。
 エルバッハは双眼鏡で囮のテントを観察し続けている。
「今のところ変化なしね」
 エルバッハはリューリと双眼鏡係を交代して夜食を頂いた。この双眼鏡はエルバッハ所有だが、ここに残しておいて他の班にも貸しだす。
「こっそりとお願い。もし風の音が聞こえたらすぐに逃げてね」
 リューリはパルムを囮のテントへと向かわせる。そろそろランタンが消える時間。油を足してもらう。
 A班の見張り時間は静かに終わりを告げたのだった。

 A班とB班が見張りを交代。ガローアはもうしばらく起きているつもりでいた。
「先程までの様子はどんな感じだった?」
「たまに狼とかの獣の遠吠えや鳥の鳴き声が聞こえるぐらいでした。この辺りではごく普通のことですね」
 夜食に手をつけたロニの質問にガローアが答えていく。A班の見張りでは何事も起こらなかったと。
 ガローアは双眼鏡で遠くの灯りを眺めた。シロツメクサの草地にぽつりとある囮のテントは相変わらずである。
 夜食を食べ終わったロニに双眼鏡を渡したガローアは立ち上がった。
「ちょっと夜食を届けていますね」
 ガローアは樹木の太枝に座っていたHollowのところまで、コーンスープとハムサンドを届ける。
「ありがとう。美味しいですね」
「リューリさんが作ってくれたんです。私が食べたいものと訊かれたもので」
 ガローアはしばらくHollowにつき合った。雲で月が隠れてしまい、暗すぎて地面まで下りられなくなってしまったからだ。
 小声で話しているうちに今後についてを聞かれる。
「まずはメニュヨールが倒してもらってから、このナガケ集落のことはその後でゆっくり考えるつもりです」
「……あなたの想いはきっと父祖の方々に通じていると思います。わたしも可能な限り尽力させて頂きます」
 雲が風に流されて月光が下りてきた。Hollowの優しい笑顔が暗闇から浮かび上がる。
 樹木から下りたガローアは次に雲雀を探す。
「雲雀さん、そちらにいらしたんですね」
 彼女は監視用テント脇の茂みの中に隠れていた。
「わ、私は隅の方で、大丈夫ですから」
「じゃあ私もここで。ハムサンドとコーンスープをどうぞ」
 最初は交わす言葉も少なかったが雲雀が少しずつガローアに慣れてくる。
「急に被害が増えた理由が気になります。普通はケモノでも、自分の餌場が荒れるような狩りは、しないものですから。イーディスさんがいっていたこと、私も考えていました。三体のうち、小柄な個体がいれば子供じゃないかって」
「三頭ともそれなりの体格でしたから、それはないかと思っています。ですがメニュヨールが子供を産んで生態行動を変えたという考えは私も賛成です」
 日中のように一体だけメニュヨールが飛来してきた場合に、軽くちょっかいをかけて仲間を呼んでみてはと雲雀は提案する。
「三頭に子供が含まれていないのは残念ですが、別にいる場合も少しだけあり得そうですね。親が捕らえられていたのなら、子供も寄ってくると思います」
「すでに飛べるのなら鳴き声を聞いてやって来るかも知れませんね」
 そんなことを話しながら見張りの時間は過ぎていく。途中でガローアは就寝する。その後、B班が担当の間には何事も起こらなかった。

 B班から見張りを引き継いだC班はイーディスと天ヶ瀬の二人体制である。
「今晩は何事も起こらないかも知れないな」
「そうかもね。群れているのだから連携できるだけの知恵はありそうだね。もしかすると昼間のあれは偵察だったのかも」
 二人で夜食のハムサンドとコーンスープを頂いた。これまでもそうだがコーンスープは光が外に漏れないようにした火鉢の炭火で温めている。
 刻々と時が過ぎていった。パルムに頼んでランタンの油をつぎ足してもらう。夜明けまであと一時間といったところでガローアがやってきた。
「一度は寝たんですがすぐに起きてしまって。どうですか? メニュヨールは現れましたか?」
「先程も天ヶ瀬君とそんな話しをしていたところさ。音沙汰なし。数日は泊まり込む必要があるかもね」
 A班B班と同じように、たまに獣の遠吠えなどが聞こえてくるだけで変化はないとイーディスが答える。夜に来るとは限らないので昼間に期待しようと話していると、妙な音が三人の耳に届いた。
「一体どこだ?」
 天ヶ瀬が双眼鏡を持ちながら天を仰いだ。雲に遮られた月がぼんやりと浮かんでいる様子しか覗えなかった。
「まだわからないが……仲間を起こした方がよさそうだね」
「私がやります。イーディスさんは戦う準備をお願いします」
 仲間が休んでいるテントへガローアは駆けていく。イーディスは木の根元で休んでいた愛馬・エクレールを静かに起こす。
 雲間から月明かりが射し込む。天ヶ瀬は夜空に浮かんでいた三つの影を見つけて双眼鏡で確かめた。
「……昼間に目撃したメニュヨールだ。しかも三体」
 メニュヨール三体が月明かりを浴びながら上空で旋回を続ける。唐突な動きの変化が。一体が翼を畳んで急降下を開始するのだった。


 地表まで下降したメニュヨールは両前足の爪で囮テントを掴んで上空へ。投げ捨てるように放すと隠されていた品々を物色する。
 二体のメニュヨールも急降下。毛布の案山子を掴んで捨てて、鍋の中身や肉塊に齧りつく。
 ハンター達は自らを覚醒させていた。
 急降下の時点を待ち伏せようと考えていたハンターもいたのだが、それは叶わなかった。但しこれで終わったわけではなく戦いは始まったばかり。それぞれに準備を整えて仕掛ける機会を待つ。
 肉塊などの食料はすべて縄や鎖で杭へと繋げられている。簡単には持ち帰れないので、メニュヨール三体はその場で食べるしかなかった。この辺の知恵の浅さは獣そのものである。
 食事に夢中なメニュヨールを見て、今が好機だとハンター達が動きだす。
「最初は任せてくださいね」
 エルバッハは遠くから見えない暗闇の中でスリープクラウドを使う。
 囮のテントがあった周辺に突如白い雲が現れる。当然メニュヨール三体も包まれて夢の中へと誘われた。非常に浅い眠りであったがメニュヨール三体に隙が生じる。
「一度なら使えそうですね」
 エルバッハの『ファイアーボール』が炸裂。真っ赤な火球が膨らんで弾けた。吠えながらもがくメニュヨールが獣の眼光をより輝かせる。
 立て続けにHollowが『デルタレイ』の攻撃を仕掛けた。
「今ならいけます」
 光の三角形の頂点から伸びた光がメニュヨール三体の胴体を貫く。こうして先制攻撃を仕掛けてから三つの班に分かれて討伐を開始した。
「パルムおねがいね!」
 A班のリューリはパルムを介して『コンバートソウル』を発動する。駆けて間合いを詰めつつ『クラッシュブロウ』で大身槍「白鵠」を大きく振り抜いた。メニュヨール・壱の右翼を貫いた上で引き裂く。
 怒り狂ったメニュヨール・壱の動きを『堅守』で受け止めたのはオルドレイルだ。『日本刀「村雨丸」』と壱の牙が暗闇で火花を散らす。
 リューリが後方に回り込み、オルドレイルとの間でメニュヨール・壱を挟み撃ちにする。壱を休ませないようにエルバッハは『ウィンドスラッシュ』の風の刃で傷を刻んでいく。
 リューリとオルドレイルは攻撃を一点に集中していた。その部位はすでに手負いとなっている壱の右翼である。
 壱が宙に浮いた瞬間、リューリの『ウィンドスラッシュ』で完全に右翼がもがれた。そこへすかさずオルドレイルが投網をかける。
 藻掻けば藻掻くほど網が絡みついて壱は身動きできなくなった。
 それだけでなく、壱の足元がふらついているのオルドレイルは見逃さない。どうやら食べ物に混ぜておいた酒が功を奏したようだ。
 リューリの槍先が壱の首に突き刺さる。ここまでくれば追い込むだけだが壱は粘った。野生の王者を示すが如く。
 B班のロニと雲雀は狩猟用具であるボーラを投擲し続けていた。これは事前準備したものだ。
 ボーラとは二つから三つの石や鉄球を縄などで繋いだもの。回転させながら飛ばすことができるため、鳥の足や翼などに絡めることができる便利な道具である。
 二人が狙ったのはメニュヨール・弐の翼。ハンターの誰もがメニュヨールに逃げられないよう真っ先に飛行能力を奪おうとしていた。
「あははっ!」
 赤い瞳の雲雀はボーラを投げつけながらけたたましい笑い声をあげる。
「よし、これで」
 ロニのボーラも絡みつく。弐の翼を傷つけることは叶わなかったが、雁字搦めにして一時的に使えなくしてしまう。
 ロニは武器を戦槍「ボロフグイ」に持ち替えて突進する。
 このときHollowが『攻性強化』をロニに施した。立て続けにマテリアルのエネルギーが雲雀にも注がれる。
 ロニと弐が正面同士で睨み合った。
「刻んであげるから、もっと良い声で鳴いて見せてよ」
 雲雀は横側から弐の翼を執拗に狙う。『剣心一如』で狙いを研ぎ澄ましてバーンブレイドの刃を通していった。
 片方の翼を使えなくした後、雲雀がロニに加勢。ロニの槍が弐の額を深く傷つける。雲雀は怯んだ弐の右後ろ足を狙った。
 Hollowは『ジェットブーツ』で間合いを決めつつ、カービン「プフェールトKT9」の銃弾を弐の身体へ埋め込んでいく。
 もう弐は空を飛べなかった。三人は逃がさないように取り囲みながら弐の様子を窺う。そして一気に勝負にでる。全力をもってして弐を大地にひれ伏させた。
 C班のイーディスと天ヶ瀬も対メニュヨール・参に特殊な武器を用意している。それは縄にナイフを結びつけたものだ。
 二人で挟むように近づいて投げつけた。ナイフの部分が重石となって縄がぐるぐると翼や足に絡みつく。ナイフの刃が参の身体に深く突き刺さることで楔となった。
 一度目は失敗したものの、二人とも二度目で成功。参はもう地面を這いずることしかできない。
「鳥か獅子か良く解らんヤツめ……。一先ず地べたに引きずり落とす」
 天ヶ瀬は参の飛行能力を完全に奪うためにシャドウブリットを放つ。黒い塊の次はホーリーライトによる光の弾。羽根が飛び散らかって左翼がだらりと垂れた。
「全力の加速からの一撃は重甲冑さえブチ抜くんだ、幻獣だろうと無事には済まないよ」
 馬上のイーディスが突進する。『チャージング』でディバインランスにすべてを乗せて参の身体を串刺しに。力任せに振り払うと参がシロツメクサの絨毯の上に転がった。そこをC班の二人がかりで止めを刺す。
 A班とB班が戦っていたメニュヨール二体が断末魔に吠える。空が白みだした頃、三体のメニュヨール退治は終わっていた。


 退治から丸一日をかけて周辺の捜索を行う。初目撃のメニュヨール一体が去っていった方角を確かめてみると崖の中腹で洞穴を発見した。
「この枯れ草とかメニュヨールが集めたのか?」
「そうみたいだね。骨も残っているよ」
 天ヶ瀬とイーディスが巣の中を確かめる。仔を育てていた痕跡が見つかった。
「どうする? メニュヨールの仔は」
 ロニの問いにガローアが首を横に振る。
「放っておくつもりです。もう何ヶ月も前に巣立ったようなので、他の地で生きているのなら関係ありません。もしも戻ってきたときには考えます」
 そうかといってロニがガローアの肩を軽く叩く。その後はメニュヨールの仔について触れることはなかった。
「ここがいいだろう」
 オルドレイルが指し示したのはオークの木の根元である。全員で力を合わせて穴を掘り、メニュヨール三体を埋めた。
(これも生きるための行動、弱肉強食の世界だ。お前達の死が1人の少年に一歩を踏みだすための礎となったことを、私は忘れない)
 オルドレイルは祈りを捧げるときにそう心の中で呟く。
「退治で終われば、ただの復讐ですが、村を再建するなら、無駄じゃないですよね?」
「そうですよ。ガローアさん、集落を復興させるっていってましたし」
 雲雀とリューリがガローアへと振り返る。
「わたしも可能な限り尽力させて頂きます」
 Hollowもガローアに力を貸してくれるという。
「何とかして復興させたいと考えています。よろしければ皆さんの力を貸して下さい」
 ガローアはハンター達に頭を垂れた。
 二日間かけてガローアの実家の修理を手伝った。それから森外縁に待機させていた馬車へ乗り込んで帰路に就く。古都まではガローアも一緒である。
「集落の復興計画を立ててみます」
 ガローアは転移門の直前までハンター達を見送った。
 レトルトカレーなどの使用した備品については購入代金分が依頼金に加算される。リゼリオに帰ってから補充して欲しいとのことだ。
「さあ、どうすれば集落を元通りに……いや、どうせなら前よりもよい集落にしよう」
 ハンターズソサエティー支部から外に出たガローアの一歩はただの一歩ではない。後ろ向きだった自分を捨てて前向きに生きる。そんな気持ちが込められていた。

依頼結果

依頼成功度成功
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MVP一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディスka0551

重体一覧

参加者一覧

  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士

  • オルドレイル(ka0621
    人間(紅)|23才|女性|闘狩人
  • 鍛鉄の盾
    イーディス・ノースハイド(ka2106
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 炎滅の志士
    天ヶ瀬 焔騎(ka4251
    人間(紅)|29才|男性|聖導士
  • 復興の一歩をもたらした者
    Hollow(ka4450
    人間(紅)|17才|女性|機導師
  • 開拓者
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
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ロニ・カルディス(ka0551
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