ゲスト
(ka0000)
伝え忘れた御伽噺を
マスター:雨龍一

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/17 19:00
- 完成日
- 2014/07/20 15:43
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
クリムゾンウェストの中でも王国はエクラ教が盛んである。
しかし、建物というのはいつまでも利用されているとは限らない。
建国当時に建てられた教会でも、それは変わらない。
人が、場所をうつっていくからだ。
この場所も、そんな一つだったに違いない。
「泣くなよっ」
荒れ果てた教会の庭で、一人の青い髪の子が転んでいた。
「うえっぐ……うえっぐ……」
擦りむいたのであろう、膝が赤く腫れ上がっている。
必死に泣き叫ぶのを我慢しているのは、赤い髪の男の子に怒られたからではないようで――周囲を気にしている。
「……大丈夫だ。僕が守るから」
子供用なのだろう。おもちゃのように薄い剣を握りしめ、そっと青い子の背を撫でた。
「行こう」
促すように歩いたのは、教会の中。
そして、夜の帳が近づいてきた。
◆
「お願いします!」
ギルドの入り口で、必死な訴えをする女がいた。まだ若いところを見ると、足元にしがみ付いているのは妹か何かなのだろう。
「どうしました?」
受付嬢が宥める様に席を促すも、首を激しく左右に振り聞いてくれという。
「でも、詳細を聞かなければいけませんし」
とりあえず場所を移そうと、促していく。
少女の名前はウルカ。この古都の孤児院に住んでいる年長だとのことだ。
話によると、その孤児院から離れた所――ことを出て少し行ったところにもう人はいない教会があるらしい。
そしてそこは夜になるとある噂が流れているというのだ。
「――切っ掛けは昔から伝わることだったんですが、それを確かめるって男の子たちが聞かなくて……」
確かめに行ったのは2人の男の子。
ちょうど12歳と10歳の少年だという。
剣を習い始めた彼らにとって、同時に流れてきた噂の化け物退治は格好の獲物に見えたのだろう。
「小さな獣だったらまだいいんです……でも」
教会という場所は、墓地が供えられている。早い時間ならここまでは心配はしていなかった。だが――
「ついて行きたがった子たちが、ダメだって言われたって教えてくれたんです。遅くなるから、夕食の確保だけ忘れるなって頼まれたって」
夕食に間に合わない時間に帰ってくる――暗にそう彼らは言っていったというのだ。
「まだ、小さな子供なんです! それに、習っているといっても子供用の練習の剣……覚醒者の見込みもないのに、無謀なんです……」
はらりと落ちる涙に、はっとする。
「だ、大丈夫ですよ! ほら、あそこにいる人たちが助けてくれます!」
そう、受付嬢が示した先にはハンターたちがいた。
しかし、建物というのはいつまでも利用されているとは限らない。
建国当時に建てられた教会でも、それは変わらない。
人が、場所をうつっていくからだ。
この場所も、そんな一つだったに違いない。
「泣くなよっ」
荒れ果てた教会の庭で、一人の青い髪の子が転んでいた。
「うえっぐ……うえっぐ……」
擦りむいたのであろう、膝が赤く腫れ上がっている。
必死に泣き叫ぶのを我慢しているのは、赤い髪の男の子に怒られたからではないようで――周囲を気にしている。
「……大丈夫だ。僕が守るから」
子供用なのだろう。おもちゃのように薄い剣を握りしめ、そっと青い子の背を撫でた。
「行こう」
促すように歩いたのは、教会の中。
そして、夜の帳が近づいてきた。
◆
「お願いします!」
ギルドの入り口で、必死な訴えをする女がいた。まだ若いところを見ると、足元にしがみ付いているのは妹か何かなのだろう。
「どうしました?」
受付嬢が宥める様に席を促すも、首を激しく左右に振り聞いてくれという。
「でも、詳細を聞かなければいけませんし」
とりあえず場所を移そうと、促していく。
少女の名前はウルカ。この古都の孤児院に住んでいる年長だとのことだ。
話によると、その孤児院から離れた所――ことを出て少し行ったところにもう人はいない教会があるらしい。
そしてそこは夜になるとある噂が流れているというのだ。
「――切っ掛けは昔から伝わることだったんですが、それを確かめるって男の子たちが聞かなくて……」
確かめに行ったのは2人の男の子。
ちょうど12歳と10歳の少年だという。
剣を習い始めた彼らにとって、同時に流れてきた噂の化け物退治は格好の獲物に見えたのだろう。
「小さな獣だったらまだいいんです……でも」
教会という場所は、墓地が供えられている。早い時間ならここまでは心配はしていなかった。だが――
「ついて行きたがった子たちが、ダメだって言われたって教えてくれたんです。遅くなるから、夕食の確保だけ忘れるなって頼まれたって」
夕食に間に合わない時間に帰ってくる――暗にそう彼らは言っていったというのだ。
「まだ、小さな子供なんです! それに、習っているといっても子供用の練習の剣……覚醒者の見込みもないのに、無謀なんです……」
はらりと落ちる涙に、はっとする。
「だ、大丈夫ですよ! ほら、あそこにいる人たちが助けてくれます!」
そう、受付嬢が示した先にはハンターたちがいた。
リプレイ本文
御伽噺を始めよう。
君はどんな大人になりたい?
誰かを守れる強さを――手に入れたいかい?
教会の聖光に伝わる――あの、英雄の話だよ。
◆
「孤児の救出へ志願するなんざ、随分お人好しな奴らも居たもんだな。まぁ、俺も他人の事は言えねぇか……マルクだ、今回はよろしく頼むぜ?」
差し出される手を取りつつ、イオ・アル・レサート(ka0392)は目の前のマルク・D・デメテール(ka0219)を見る。
どうかしたのか? と確認されるも、ふるりと首を振って馬車へと乗り込む。
「何でもないの。早く保護しないとね」
「子供とはいえ剣を習っているなら、最低限の危機管理能力はある筈よ。だとしたら――」
ナナート=アドラー(ka1668)が柔らかな線を描きながら首を傾げながら乗り込む。詰めるように続けて酔仙(ka1747)、龍崎・カズマ(ka0178)――そして満月美華(ka0515)が乗り込んだ。
揺れる車内は薄暗く、外から漏れてくる灯りだけが顔を照らす。固く瞳を閉じるもの。強く願うもの。そっと道具の準備を始めるもの。偶然に居合わせた彼らは、一つの目的を果たすために前へと進む。その脳裏には、先程まで泣きはらした瞳で見送っていた一人の少女、ウルカがチラついていた。
『小さな、御伽噺ですよ。孤児院に伝わる――ほんの小さな夢の話。聖女を守った英雄の騎士が力を手に入れた教会がある――それが今は古びてだれも近づかない。でも、英雄の魂が戻ってきているから、教会は崩れないって――そんな話なんですよ』
「この付近で避難に適した場所と言ったら……教会しか無いわよねぇ?」
ナナートは場所・そして目的を聞いた時に皆に確認した。
教会は崩れない――そんな言葉も引っかかる。
「餓鬼どもはそこを目指した可能性があるな。――しっかし、もっと時間を選べばまだ違うだろうに」
御伽噺だけではなく、近頃広まっていた不穏な噂に、化物退治もついでにとでも思ったのだろう。
しかし人数もだ。腕に覚えのない子供が2人いたところで、例え剣を習っていたとしても大人が信用できなかったのか、それとも自分の力を過信したのか。そのどちらでもあるだろう。
マルクはそっと自分の過去と重ねて考えてみる。
一瞬深く目を瞑るも、次の瞬間ただじっと窓の外を見つめるだけだった。
「……夜の廃教会、墓地で……お伽噺、ね」
小さく呟いたイオは、そっと震える手を握りしめていた。
●
馬車がついたのは、草木の茂る建築当時では美しかったであろう。――現在は薄く汚れた白壁がより怖さを増してしまっている――教会の入り口だった。既に朽ち果てた金属製の扉を開けると、油の切れた嫌な音が響く。そこから緩やかに描いたカーブが墓石に沿って伸びていた。随所に生垣があり、手入れされていたのなら見事な花たちが拝めたであろうことを想像させる場所である。
しかし入り組んでいて進みにくい――小さいながらも地理的には不利な部分が多いと感じる場所であった。
ではと、マルクと酔仙は暗闇の中へと走り出した。足運びがふらつきつつも、早さは普段とは比べものにもならないところを見ると、実際に酔仙は酔ってはいないのだろう。入口の近辺は少し拓けているたえか標的の姿は窺えない。灯りはランタンのみ。反射する物もない中では、光と子供を呼びかける声は闇へと早々と吸い込まれていく。
「ティタンくーん! フレイくーん!」
先行隊が出発したのち、残りの4人も子供の名前を呼びつつ進み始める。
灯りはランタンのみ。しかし先程より数が多いからだろうか、若干明るい。
「墓場だから幽霊もでるのよね……。先行した二人。大丈夫かしら?」
美華の言葉にイオは寒気が走る身を抱きしめる。ちらりと横を見ると、平気な顔して歩いていくその姿は、薄い上着一枚である。夏とはいえ、夜は肌寒さがあるか平気なのだろうか。
時々聞こえる物音に、喉の奥から出そうになる悲鳴をひたすら飲み込みつつ、イオは皆の後をついて歩いていた。
恐怖のためか、指先が震える。
――このまま、きちんと魔法が使えるのだろうか。
魔法というものは、集中力が必要となる。つまり、いかに冷静でいられるかで成功率が変わってくるのだ。
「きたぞ!」
子供たちを呼ぶ声に反応したのだろうか、それともランタンの光に集まったのだろうか。敵は、こちらの状況を構わず出てくる。
生垣の影から――と同時に墓石の影から出てきたのはスライムとウィプスだった。光と声に誘われたのだろう。青白い炎のようなウィプスの姿に思わず息をのむ。
「幽体の相手は魔術師に任せなさい!」
先に進んでいた場所から美華の声が響き渡る。赤い髪が、一気に燃えあがるように紅蓮へと変わっていく。手の甲が光ったかと思うと同時に、目の前に水の球が出現した。
しかし、僅かに狙いが逸れたのかそれとも回避されたのか、ウィプスの姿から離れた位置となった。
「――風よ。ウィンドウスラッシュ!!」
イオの周りに赤い光が飛び交う中、蠍に光る甲を上へと突き上げ風を呼ぶ。ワンテンポ遅れ発動すると、今度はウィプスの形が歪んだ。そこへ、続けて撃たれた水球が今度は命中する。
抵抗か、ウィプスから光の矢が放たれた。
まっすぐに伸びる矢は美華の頬を掠め血を滲ませる。
「くっ」
鋭い痛みに引きつりつつ、続けて撃ち込んでこようとするが一瞬光が湧きつつ消える。不発だ。
「――御免なさいね? ゆっくり貴方達のお相手をしている暇は無いのよん」
ナナートのフラメアがスケルトンの剣を受け止めた。墓石の影になっていたので、接近に気付くのが遅れたが、警戒してたことと能力の向上によりイオの背が護られる。同じころカズマの拳がスライムへと沈み込み、墓石の方へと吹っ飛ぶ。当たり所がよかったようだ。そのまま潰れて溶けてしまう。
その間に美華が打った一撃が、ウィプスの光を消え去った。
これで一息――後は、子供たちが確保されるのを願いつつ目の前の敵たちを倒していくだけだ。
●
「ティタン! フレイ!」
先行していた二人はうねる道を叫びながら走り抜ける。
教会へと延びる道の手前――あと少しというところでスケルトンと対峙していた子供たちを見つけたマルクは剣を握る赤い髪の少年――ティタンの前へと足を急がせた。
「よーぅ、悪餓鬼共。元気か?」
青髪の少年――フレイは涙目になってティタンの裾を握りしめている。庇う様に前へと出つつ、足を狙って拳を振り落す。
効いたのだろう、ややバランスを崩したスケルトンの隙を縫ってフレイを脇に抱えると、
「走れるか!」
ティタンへと問いただす。はっとしたように見てくるも、次の瞬間強く頷き教会の方へと動き出した。
その二人を助けるように酔仙は高らかに「対象確保!」と叫びつつスケルトンの視線を引き寄せるようにステップを踏んだ。
聞こえた声に、美華は微笑んだ。より燃え盛るように髪の紅蓮色が増していく。
目の前に残っている敵はスライムとスケルトン一体ずつ。
あと、酔仙の所にいるスケルトンだ。
そこにはウィプスに最後の一撃を入れたイオがすでに視界の範囲に入れている。
スケルトンの意識が移るとともに酔仙はマルクたちの後を追って走り出す。
「全員燃やしてあげるわ!」
銃で牽制をしているカズマの後ろから、次々と火が上がる。
イオに届きそうな剣をナナートが叩き落としつつ、魔術師二人は魔力の限り追撃を入れていった。
「言いてぇ事は山程あるがよ、仲間にだけは心配掛けんじゃねぇぞ?」
教会に逃げ込んだものの、外の喧騒は響いてくる。
震えるフレイを抱きしめながら、マルクはそっと囁いた。
入口を警戒している酔仙も、その横にいるティタンを見て頷く。
●
先程まで響いていた音が病み、静寂が教会内を包み込む。戦闘が終わったのだ。
多少なりとも時間はかかったが、比較的スムーズに片付いたのは狙いを定めての戦闘は的確であったと言えるだろう。最後の放出しました感が強い魔法の連発は、さすがに息が切れたのだろうか。疲労が見える美華とイオを酔仙は迎え入れた。後ろから少し受け止め仕損じたのだろう――ナナートとカズマが切り傷をつけて現れる。
改めて対面した子供たちの様子に、ウルカからの依頼だと告げると、二人は気まずそうに視線を逸らす。
「それで、『昔から伝わるもの』は確かめられて?」
ナナートの言葉に、ティタンが顔を上げる。
「神父様がいったんだ。守りたいものを守れるよう、強さを与えてくれる英雄がいるって」
それが教会の中にあるとティタンは告げる。思わずナナートとカズマは顔を見合わせる。
肩を竦めるも、頭に手を置く。
「俺らが居りゃ少しは安全だ」
その言葉に、子供たちの瞳に少し涙が滲んだ。
教会は、入り口が荒れ果てていたのにも拘らず厳かな空気を保っていた。
ウルカが言っていた。
――ここには、聖なるモノが収められていると。
それが、子供たちへと伝わる中で英雄になれるとなっていったのかもしれない。
教壇を見ても、厚く降り積もった埃が見られるだけで他に変化はない。
ただ、奥に続く扉には厳重な封印がされており踏み入ることはできなかった。
『深き祈りは光を導く。祈りよ、深潭に眠れ』
ただ、その言葉だけが聖光に刻まれていただけだった。
●
「危険なところに子供だけでいかないの」
馬車に乗りこむと、美華の言葉に、ティタンが拳を握る。
「僕は――英雄になりたいんだ!」
英雄――何に対しての英雄だろう。強くなること、それが子供の目指す未来なのかもしれない。だが、
「私が見ちゃうくらい、慌ててた。守られたの。……ここで意地張るのはかっこ悪いだけだからね」
帰ったらウルカにお礼を言わないとね――イオの言葉に項垂れた。
そう、大事なことは忘れてはいけない。
●
「あなたたちっ!」
ハンター事務所に着くとウルカが今か今かと入口で待ち構えていた。
「う、ウルカ……」
気まずいのだろう、つい下がり気味になるティタンの背をカズマは押す。
怖気づく二人を、ハンターたちに押されながら馬車から降りると、ウルカは思いっきり抱きしめた。
「ほ、本当に無事でよかった」
言ったとおりでしょ? と、イオがティタンに頷く。
「―――ご、ごめんなさい」
「おねえちゃん……」
互いにしがみ付く姿を見て、マルクはそっと息を吐いた。
「ほら、心配かけた罰だ」
抱きしめられる二人の上に落とされたカズマの拳は、泣き腫らした顔を、一気に笑顔へと変える不思議な暖かさがあった。
「英雄には、ならないで――」
ウルカの言葉が、やけに耳に響いた。
立ち去ろうとしたマルクにぎゅっとフレイが抱き着く。
「マルクさん……ありがとう」
動けなかった彼を見捨てず、抱えて助けてくれたお礼に。
「僕もいつか――あなたみたいになりたい」
その言葉を、伝えたくて。
◆
とある本に書き記される。
それは一見何の変哲でもない言葉だが、読む者にとっては感じさせられるところがあるだろう。
そこに書き記されていた言葉を抜粋しよう。
御伽噺に出てくる英雄というものは後世になって作られることが多々ある。
後になって行いを評価するとき、また――そうすることによって自分の行いを隠すことができる時だ。
英雄に祭り上げられた人たちのほとんどは、当時そんなにいい思いはしていない。
苦労尽くしの中の、ほんの僅かに――人よりも輝いた時があるだけだ。
英雄になんかならないで――そう願った人は多いだろう。
英雄になる――即ちその人物の命の灯が消えたことを意味するのだから。
祭り上げられた彼らの人生は、大抵波乱に満ちていたと面白おかしく伝えることが多い。
そして、平凡であるはずの人生すら書き換えられてしまう。
彼らは被害者であろう。
御伽噺の英雄にはならないで――それは、彼らを愛するものだから言える言葉なのかもしれない。
君はどんな大人になりたい?
誰かを守れる強さを――手に入れたいかい?
教会の聖光に伝わる――あの、英雄の話だよ。
◆
「孤児の救出へ志願するなんざ、随分お人好しな奴らも居たもんだな。まぁ、俺も他人の事は言えねぇか……マルクだ、今回はよろしく頼むぜ?」
差し出される手を取りつつ、イオ・アル・レサート(ka0392)は目の前のマルク・D・デメテール(ka0219)を見る。
どうかしたのか? と確認されるも、ふるりと首を振って馬車へと乗り込む。
「何でもないの。早く保護しないとね」
「子供とはいえ剣を習っているなら、最低限の危機管理能力はある筈よ。だとしたら――」
ナナート=アドラー(ka1668)が柔らかな線を描きながら首を傾げながら乗り込む。詰めるように続けて酔仙(ka1747)、龍崎・カズマ(ka0178)――そして満月美華(ka0515)が乗り込んだ。
揺れる車内は薄暗く、外から漏れてくる灯りだけが顔を照らす。固く瞳を閉じるもの。強く願うもの。そっと道具の準備を始めるもの。偶然に居合わせた彼らは、一つの目的を果たすために前へと進む。その脳裏には、先程まで泣きはらした瞳で見送っていた一人の少女、ウルカがチラついていた。
『小さな、御伽噺ですよ。孤児院に伝わる――ほんの小さな夢の話。聖女を守った英雄の騎士が力を手に入れた教会がある――それが今は古びてだれも近づかない。でも、英雄の魂が戻ってきているから、教会は崩れないって――そんな話なんですよ』
「この付近で避難に適した場所と言ったら……教会しか無いわよねぇ?」
ナナートは場所・そして目的を聞いた時に皆に確認した。
教会は崩れない――そんな言葉も引っかかる。
「餓鬼どもはそこを目指した可能性があるな。――しっかし、もっと時間を選べばまだ違うだろうに」
御伽噺だけではなく、近頃広まっていた不穏な噂に、化物退治もついでにとでも思ったのだろう。
しかし人数もだ。腕に覚えのない子供が2人いたところで、例え剣を習っていたとしても大人が信用できなかったのか、それとも自分の力を過信したのか。そのどちらでもあるだろう。
マルクはそっと自分の過去と重ねて考えてみる。
一瞬深く目を瞑るも、次の瞬間ただじっと窓の外を見つめるだけだった。
「……夜の廃教会、墓地で……お伽噺、ね」
小さく呟いたイオは、そっと震える手を握りしめていた。
●
馬車がついたのは、草木の茂る建築当時では美しかったであろう。――現在は薄く汚れた白壁がより怖さを増してしまっている――教会の入り口だった。既に朽ち果てた金属製の扉を開けると、油の切れた嫌な音が響く。そこから緩やかに描いたカーブが墓石に沿って伸びていた。随所に生垣があり、手入れされていたのなら見事な花たちが拝めたであろうことを想像させる場所である。
しかし入り組んでいて進みにくい――小さいながらも地理的には不利な部分が多いと感じる場所であった。
ではと、マルクと酔仙は暗闇の中へと走り出した。足運びがふらつきつつも、早さは普段とは比べものにもならないところを見ると、実際に酔仙は酔ってはいないのだろう。入口の近辺は少し拓けているたえか標的の姿は窺えない。灯りはランタンのみ。反射する物もない中では、光と子供を呼びかける声は闇へと早々と吸い込まれていく。
「ティタンくーん! フレイくーん!」
先行隊が出発したのち、残りの4人も子供の名前を呼びつつ進み始める。
灯りはランタンのみ。しかし先程より数が多いからだろうか、若干明るい。
「墓場だから幽霊もでるのよね……。先行した二人。大丈夫かしら?」
美華の言葉にイオは寒気が走る身を抱きしめる。ちらりと横を見ると、平気な顔して歩いていくその姿は、薄い上着一枚である。夏とはいえ、夜は肌寒さがあるか平気なのだろうか。
時々聞こえる物音に、喉の奥から出そうになる悲鳴をひたすら飲み込みつつ、イオは皆の後をついて歩いていた。
恐怖のためか、指先が震える。
――このまま、きちんと魔法が使えるのだろうか。
魔法というものは、集中力が必要となる。つまり、いかに冷静でいられるかで成功率が変わってくるのだ。
「きたぞ!」
子供たちを呼ぶ声に反応したのだろうか、それともランタンの光に集まったのだろうか。敵は、こちらの状況を構わず出てくる。
生垣の影から――と同時に墓石の影から出てきたのはスライムとウィプスだった。光と声に誘われたのだろう。青白い炎のようなウィプスの姿に思わず息をのむ。
「幽体の相手は魔術師に任せなさい!」
先に進んでいた場所から美華の声が響き渡る。赤い髪が、一気に燃えあがるように紅蓮へと変わっていく。手の甲が光ったかと思うと同時に、目の前に水の球が出現した。
しかし、僅かに狙いが逸れたのかそれとも回避されたのか、ウィプスの姿から離れた位置となった。
「――風よ。ウィンドウスラッシュ!!」
イオの周りに赤い光が飛び交う中、蠍に光る甲を上へと突き上げ風を呼ぶ。ワンテンポ遅れ発動すると、今度はウィプスの形が歪んだ。そこへ、続けて撃たれた水球が今度は命中する。
抵抗か、ウィプスから光の矢が放たれた。
まっすぐに伸びる矢は美華の頬を掠め血を滲ませる。
「くっ」
鋭い痛みに引きつりつつ、続けて撃ち込んでこようとするが一瞬光が湧きつつ消える。不発だ。
「――御免なさいね? ゆっくり貴方達のお相手をしている暇は無いのよん」
ナナートのフラメアがスケルトンの剣を受け止めた。墓石の影になっていたので、接近に気付くのが遅れたが、警戒してたことと能力の向上によりイオの背が護られる。同じころカズマの拳がスライムへと沈み込み、墓石の方へと吹っ飛ぶ。当たり所がよかったようだ。そのまま潰れて溶けてしまう。
その間に美華が打った一撃が、ウィプスの光を消え去った。
これで一息――後は、子供たちが確保されるのを願いつつ目の前の敵たちを倒していくだけだ。
●
「ティタン! フレイ!」
先行していた二人はうねる道を叫びながら走り抜ける。
教会へと延びる道の手前――あと少しというところでスケルトンと対峙していた子供たちを見つけたマルクは剣を握る赤い髪の少年――ティタンの前へと足を急がせた。
「よーぅ、悪餓鬼共。元気か?」
青髪の少年――フレイは涙目になってティタンの裾を握りしめている。庇う様に前へと出つつ、足を狙って拳を振り落す。
効いたのだろう、ややバランスを崩したスケルトンの隙を縫ってフレイを脇に抱えると、
「走れるか!」
ティタンへと問いただす。はっとしたように見てくるも、次の瞬間強く頷き教会の方へと動き出した。
その二人を助けるように酔仙は高らかに「対象確保!」と叫びつつスケルトンの視線を引き寄せるようにステップを踏んだ。
聞こえた声に、美華は微笑んだ。より燃え盛るように髪の紅蓮色が増していく。
目の前に残っている敵はスライムとスケルトン一体ずつ。
あと、酔仙の所にいるスケルトンだ。
そこにはウィプスに最後の一撃を入れたイオがすでに視界の範囲に入れている。
スケルトンの意識が移るとともに酔仙はマルクたちの後を追って走り出す。
「全員燃やしてあげるわ!」
銃で牽制をしているカズマの後ろから、次々と火が上がる。
イオに届きそうな剣をナナートが叩き落としつつ、魔術師二人は魔力の限り追撃を入れていった。
「言いてぇ事は山程あるがよ、仲間にだけは心配掛けんじゃねぇぞ?」
教会に逃げ込んだものの、外の喧騒は響いてくる。
震えるフレイを抱きしめながら、マルクはそっと囁いた。
入口を警戒している酔仙も、その横にいるティタンを見て頷く。
●
先程まで響いていた音が病み、静寂が教会内を包み込む。戦闘が終わったのだ。
多少なりとも時間はかかったが、比較的スムーズに片付いたのは狙いを定めての戦闘は的確であったと言えるだろう。最後の放出しました感が強い魔法の連発は、さすがに息が切れたのだろうか。疲労が見える美華とイオを酔仙は迎え入れた。後ろから少し受け止め仕損じたのだろう――ナナートとカズマが切り傷をつけて現れる。
改めて対面した子供たちの様子に、ウルカからの依頼だと告げると、二人は気まずそうに視線を逸らす。
「それで、『昔から伝わるもの』は確かめられて?」
ナナートの言葉に、ティタンが顔を上げる。
「神父様がいったんだ。守りたいものを守れるよう、強さを与えてくれる英雄がいるって」
それが教会の中にあるとティタンは告げる。思わずナナートとカズマは顔を見合わせる。
肩を竦めるも、頭に手を置く。
「俺らが居りゃ少しは安全だ」
その言葉に、子供たちの瞳に少し涙が滲んだ。
教会は、入り口が荒れ果てていたのにも拘らず厳かな空気を保っていた。
ウルカが言っていた。
――ここには、聖なるモノが収められていると。
それが、子供たちへと伝わる中で英雄になれるとなっていったのかもしれない。
教壇を見ても、厚く降り積もった埃が見られるだけで他に変化はない。
ただ、奥に続く扉には厳重な封印がされており踏み入ることはできなかった。
『深き祈りは光を導く。祈りよ、深潭に眠れ』
ただ、その言葉だけが聖光に刻まれていただけだった。
●
「危険なところに子供だけでいかないの」
馬車に乗りこむと、美華の言葉に、ティタンが拳を握る。
「僕は――英雄になりたいんだ!」
英雄――何に対しての英雄だろう。強くなること、それが子供の目指す未来なのかもしれない。だが、
「私が見ちゃうくらい、慌ててた。守られたの。……ここで意地張るのはかっこ悪いだけだからね」
帰ったらウルカにお礼を言わないとね――イオの言葉に項垂れた。
そう、大事なことは忘れてはいけない。
●
「あなたたちっ!」
ハンター事務所に着くとウルカが今か今かと入口で待ち構えていた。
「う、ウルカ……」
気まずいのだろう、つい下がり気味になるティタンの背をカズマは押す。
怖気づく二人を、ハンターたちに押されながら馬車から降りると、ウルカは思いっきり抱きしめた。
「ほ、本当に無事でよかった」
言ったとおりでしょ? と、イオがティタンに頷く。
「―――ご、ごめんなさい」
「おねえちゃん……」
互いにしがみ付く姿を見て、マルクはそっと息を吐いた。
「ほら、心配かけた罰だ」
抱きしめられる二人の上に落とされたカズマの拳は、泣き腫らした顔を、一気に笑顔へと変える不思議な暖かさがあった。
「英雄には、ならないで――」
ウルカの言葉が、やけに耳に響いた。
立ち去ろうとしたマルクにぎゅっとフレイが抱き着く。
「マルクさん……ありがとう」
動けなかった彼を見捨てず、抱えて助けてくれたお礼に。
「僕もいつか――あなたみたいになりたい」
その言葉を、伝えたくて。
◆
とある本に書き記される。
それは一見何の変哲でもない言葉だが、読む者にとっては感じさせられるところがあるだろう。
そこに書き記されていた言葉を抜粋しよう。
御伽噺に出てくる英雄というものは後世になって作られることが多々ある。
後になって行いを評価するとき、また――そうすることによって自分の行いを隠すことができる時だ。
英雄に祭り上げられた人たちのほとんどは、当時そんなにいい思いはしていない。
苦労尽くしの中の、ほんの僅かに――人よりも輝いた時があるだけだ。
英雄になんかならないで――そう願った人は多いだろう。
英雄になる――即ちその人物の命の灯が消えたことを意味するのだから。
祭り上げられた彼らの人生は、大抵波乱に満ちていたと面白おかしく伝えることが多い。
そして、平凡であるはずの人生すら書き換えられてしまう。
彼らは被害者であろう。
御伽噺の英雄にはならないで――それは、彼らを愛するものだから言える言葉なのかもしれない。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/12 22:02:26 |
|
![]() |
夜は墓場で(相談) 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/07/17 05:43:42 |