ゲスト
(ka0000)
ボラ族、女装DEジューンブライド
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/01 07:30
- 完成日
- 2015/07/09 14:17
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「あはははは! 大事な武器売り飛ばされたの気づかずに泥棒の味方してたワケ!? 頭オカシイんじゃない?」
ボラ族の鍛冶場で抱腹絶倒するのは少年ロッカだった。
「あの後、一生懸命に探した。だが、もう貴族のボンの元に運ばれていた」
そんなロッカを恨めしそうに見つめるのは、愛用の棍棒を泥棒された大男のゾールだった。
普段はその巨体と隆々とした筋肉から想像できる通りの豪放磊落な男だったが、すっかり意気消沈してしまって今日は幾分か小さく見えてしまう。
「乗り込んだが、厳重に保管されているらしく見つける前に追い出されてしまった」
ゾールは顔に作られた青あざを手でさすり仏頂面でそう言葉を続けた。
よく拘留されなかったものだと一般的人なら思うかもしれない。
「でもさ、なんであんな無骨な棍棒が贈り物に使われたんだろ? 武器マニア?」
「そこのボンボン、猛々しいの好きらしい。棍棒を盗んだ女盗賊、捕まってなかったら結婚する予定だったらしい」
それを聞いてロッカはもう一度噴き出した。
「棍棒を結納品にする方もどうかと思うけれど、それで結婚を決意する貴族も相当だね!揃いもそろってバカばっか。あっははははは」
「ロッカぁ!!」
ついにブチぎれてゾールは腕を振り上げた。
と、それに合わせてロッカも跳ね起きて、軽くウィンクした。
「肝心の女盗賊は牢屋の中なんでしょ? 好都合じゃん?」
「だから、どこにあるか……」
「あのさー。お坊ちゃまはさ、その女が来たら結婚するつもりだったんでしょ? だからさ。ゾールが『花嫁でェす♪』って何食わぬ顔して席に収まればいいと思うよ。本来の持ち主なんだし」
2m近くある大男。
焼けた肌に、傷跡だらけの胸板。
腕の太さときたら細い女性の腰と同程度。
顔のいかつさは推して知るべし。
「帝国兵士にゾールを突き出さなかったってことはそれなりに後ろめたいことしてる証拠じゃん? 棍棒を取り返したらさっさと帰ってくればいいじゃん」
ロッカは細工道具を作るために集めた廃材入れという名のオモチャ箱をゴソゴソと探し、じゃーん。とカツラを取り出した。
「棍棒を贈るような女が好きってことはさ、きっとゾール子ちゃんみたいな大きな雄っぱいある子大好きだと思うよ!!」
「ほ、本当か?」
そこ、誰かツッコんでやれよ。
ゾールはまじまじと渡されたカツラに目を落とした。
「まあでも、ゾール一人じゃ心配かなー。演技下手だしね。どうせ貴族だって遊び半分の結婚だろうし。ハンターも雇って押しかけようよ! 山ほどいたら、きっとどれかは本物だって思って選び取ってくれるはずさ」
ロッカはそう言うと、「無駄遣いすんな」というセリフつきの女性ワッペンが縫い付けられたがま口財布を手に取ってにんまり笑った。
「他にも立ち居振る舞いの指導やお化粧指導なんかしてくれる子もいるだろうし、サクラもいっぱい用意して。あはは、楽しいジューンブライドになりそうだね!」
ボラ族の鍛冶場で抱腹絶倒するのは少年ロッカだった。
「あの後、一生懸命に探した。だが、もう貴族のボンの元に運ばれていた」
そんなロッカを恨めしそうに見つめるのは、愛用の棍棒を泥棒された大男のゾールだった。
普段はその巨体と隆々とした筋肉から想像できる通りの豪放磊落な男だったが、すっかり意気消沈してしまって今日は幾分か小さく見えてしまう。
「乗り込んだが、厳重に保管されているらしく見つける前に追い出されてしまった」
ゾールは顔に作られた青あざを手でさすり仏頂面でそう言葉を続けた。
よく拘留されなかったものだと一般的人なら思うかもしれない。
「でもさ、なんであんな無骨な棍棒が贈り物に使われたんだろ? 武器マニア?」
「そこのボンボン、猛々しいの好きらしい。棍棒を盗んだ女盗賊、捕まってなかったら結婚する予定だったらしい」
それを聞いてロッカはもう一度噴き出した。
「棍棒を結納品にする方もどうかと思うけれど、それで結婚を決意する貴族も相当だね!揃いもそろってバカばっか。あっははははは」
「ロッカぁ!!」
ついにブチぎれてゾールは腕を振り上げた。
と、それに合わせてロッカも跳ね起きて、軽くウィンクした。
「肝心の女盗賊は牢屋の中なんでしょ? 好都合じゃん?」
「だから、どこにあるか……」
「あのさー。お坊ちゃまはさ、その女が来たら結婚するつもりだったんでしょ? だからさ。ゾールが『花嫁でェす♪』って何食わぬ顔して席に収まればいいと思うよ。本来の持ち主なんだし」
2m近くある大男。
焼けた肌に、傷跡だらけの胸板。
腕の太さときたら細い女性の腰と同程度。
顔のいかつさは推して知るべし。
「帝国兵士にゾールを突き出さなかったってことはそれなりに後ろめたいことしてる証拠じゃん? 棍棒を取り返したらさっさと帰ってくればいいじゃん」
ロッカは細工道具を作るために集めた廃材入れという名のオモチャ箱をゴソゴソと探し、じゃーん。とカツラを取り出した。
「棍棒を贈るような女が好きってことはさ、きっとゾール子ちゃんみたいな大きな雄っぱいある子大好きだと思うよ!!」
「ほ、本当か?」
そこ、誰かツッコんでやれよ。
ゾールはまじまじと渡されたカツラに目を落とした。
「まあでも、ゾール一人じゃ心配かなー。演技下手だしね。どうせ貴族だって遊び半分の結婚だろうし。ハンターも雇って押しかけようよ! 山ほどいたら、きっとどれかは本物だって思って選び取ってくれるはずさ」
ロッカはそう言うと、「無駄遣いすんな」というセリフつきの女性ワッペンが縫い付けられたがま口財布を手に取ってにんまり笑った。
「他にも立ち居振る舞いの指導やお化粧指導なんかしてくれる子もいるだろうし、サクラもいっぱい用意して。あはは、楽しいジューンブライドになりそうだね!」
リプレイ本文
●
「いらっしゃーい♪」
依頼を請けてボラ族が住む鍛冶場に足を踏み入れたエアルドフリス(ka1856)は莫逆たるジュード・エアハート(ka0410)にそう歓迎の声をかけられた。奥には彼にとってお馴染みの面々。ユリアン(ka1664)、アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)、フレデリク・リンドバーグ(ka2490)、そして沢城 葵(ka3114)が出迎えた。
が、なんだろう。この気持ち悪い歓迎は。
「医者先生が来られるなんてっ。これは面白いことになってきましたね」
普段は礼儀正しく素朴な空気を作るフレデリクが今日に限っては口元が邪悪に歪み、持っているメタルシザーズから妖気を発している。
「エアルド殿! この場はそれがしが引き受ける! 退かれい!!」
そんなフレデリクに捕まるダリオ・パステリ(ka2363)は鋭く叫んだ。椅子に座ってはいるものの喉元に腕を絡みつけられて必死に叫ぶ様子は尋常ではない。
「これは一体……どうしたんだ」
パイプを咥える口が真一文字に引き絞られるエアルドフリスの退路を防ぐように、ユリアンがそっと扉を閉める。
「俺もね。妹が勝手に受付しちゃっててね……。師匠。仲間ができて嬉しいよ」
あのユリアンが陰鬱な笑みを浮かべる。もしかして某歪虚の魅了をくらったのか!?
「ふふ、ボラ族のゾールさんと一緒に女装、してくれるんだよね? さっすがエアさん」
「は!? 冗談じゃあない! なんでそんなマネを」
サラサラの長い髪をなびかせたジュードに手を引かれた瞬間、烈火のごとく大声を張り上げるエアルドフリスだが、力任せに引き離すこともできない。
だいたい女装って似合う人間がすればいい話だ。俺のような体格でやったって無理がある!
「おぉ、エアルドフリス!」
引きつるエアルドフリスに野太い声がかけられた。
「ああ、ゾールさん! 勝手に移動しないでよね!!」
小鳥遊 時雨(ka4921)がガムテープの輪を腕に通したまま、挨拶にやってきたゾールの後ろを追いかけ、そして追いついたと同時にえいやっ! っと背中に貼り付けたガムテを一気にはがした。
「お゛ほぉっ! いでぇっ」
男性ホルモンの塊のような男のゾールである。ガムテには遠目にもびっしり毛がついている。
「きゃは♪ いっぱい取れましたねぇ。まだまだですよー。腕も胸も足も終わってませんからね。ダリオさんもあとでやりますからね!」
「御免こうむる! そもそもイグ殿の息災を確認してきただけであって、それがし、そんな発想一つもあらぬわ!」
「おう、イグも元気している。おかしらが来た事きっと喜んでいるはず。是非、よろしく!」
ゾールの言葉にうなずいてフレデリクはシザーズでひげをそり落とそうとしたが、悲鳴をあげて拒否るダリオ。
「せ、拙者は絶対に受け入れんぞっ。こ、これは武士の魂! 落ちぶれた身であっても決して過日を忘れぬためにっ」
魂とかいいながら無精ひげ程度でしかないやん。というツッコミはフレデリクはせず、むしろちょっぴり瞳をうるうるさせていた。
「うう、魂は死さじというわけですね。ちょっと感動しちゃいました……じゃあ、それでもいいようにしちゃいましょう」
切り替えはやっ。
視線を変えれば、渋オヤジを絵に描いたようなライナス・ブラッドリー(ka0360)にまったくそぐわない服をとっかえひっかえ当ててみるはるな(ka3307)の姿がある。
「は、はるなの嬢ちゃん……いったい何を」
「うーん、やっぱクールに決める方がライナスちゃんには似合ってるよねぇ。いや、ここはキャットスーツでダンスやっちゃうのもいいかも! ねえね、化粧どうしよっか?」
「ファンデーション、すごく減りそう……ヒゲはやっぱり剃った方がいいかも」
はるなの問いかけに化粧担当の七夜・真夕(ka3977)はライナスのじょりじょりヒゲを手で確認しつつ、うーんと唸った。
「えー、ダメダメ! このワイルドさを残しつつ仕上げるのがイイじゃん。ドラッグクイーン的な?」
「ドラッグクイーンってわからないけど、言いたいことはなんか分かって来たわ……初体験ね」
リアルブルーでは決して触れえなかったジャンルに七夜はゴクリと唾を飲んだ。
「初体験は俺の方だよ……」
七夜とはるなが自分の顔のあちこちを指さしながら、シャドーはどれだのチークはこうだのと話す様子にライナスは震えが止まらなかった。
震えが止まらないのはウィルフレド・カーライル(ka4004)も同じだった。どう頑張って化粧してもモンスターにしか化けられない人間たちが切磋琢磨する様子。それを全力で応援する仲間達。
「これは、これは……(社会的な)生命をかけられる、この英雄たちと共に再帰を果たす!」
「おい、マテ。こんなところに命賭けてどうするよ」
同じく騙され組のフェリル・L・サルバ(ka4516)はなんとか常識側に引き留めようとウィルフレドの肩を掴んだ。彼まで向こう側に行ってしまったら本格的に自分の身もヤバくなる。だいたい巨乳のお姉さんの依頼と聞いていたのに! おっぱいと雄っぱいの字違ってるじゃねーか!!
「む、しかしだな……」
ウィルフレドが言い返すよりも早く、インコ先生ことインテグラ・C・ドラクーン(ka4526)がフェリルにばさっとカツラをかぶせると鏡を突き付けた。
「お、おお、これが、俺、なのか?」
「この貴重な経験をお前は見逃すというのか。やるは一瞬の恥、やらぬは一生の恥だ!」
「だな、これはやるしかあるまい」
不思議な感覚に襲われるフェリルにインコ先生とウィルフレドが左右から肩をポンと叩いた。
そしてサムズアップ!
「んふふ、ノってきたわねぇ。それならあたしが衣装見繕ってあげるわ。イケメンを着飾らせることができるなんて夢みたい~」
沢城 葵(ka3114)が隣の服屋の協賛の元に用意した衣装を手に笑顔がどうにも止まらない。
「お、おい。アオイ……」
いかん。これは本格的にいかん。
エアルドフリスが止める間もなく、時雨ちゃんの脱毛ガムテがウィルフレドとフェリルを襲いかかり、鍛冶場に悲鳴が響く。
「ふむフム。なァるほど。パッティー、イイオ友達だネ☆ このお祭りのヨーナ空気! みんなデ楽しもうという心。アア、僕も一枚脱ぎたくなっタヨ」
「アルヴィン殿!!! それも趣が異なる話であろう!」
女装のチェックポイントをモノクルの奥から鋭く観察し、優雅な微笑みを浮かべるアルヴィンにはもうしっかり自分の女装構想図はできつつあるらしい。
「ははは、脱いでしまうのも悪くないね。魅せるところ、見せないところの緩急をつけるのも大切なことさ」
「オオー、リアルブルーの……いや今、噂のエトファリカ装束だネー。ファンタスティック!」
仁川 リア(ka3483)の浴衣姿の艶やかさに、アルヴィンは拍手をした。ホウセンカを散らした浴衣の裾からすいと出る白いお御足が映える。
「これは僕も何かやらないとダネー。ちょっと待っててネ」
アルヴィンは企業秘密とばかりに口元に指を立てると、すすっと町へと繰り出した。ここだけでは揃わない道具も色々あるようだ。それに入れ違いに別の和服の女がするりと入ってくる。
「あら、もう祭りの喧騒の臭いがするなぁ」
「その声はレイたんっ! ふはっ、ふはっ、ふはっ。ウボァー!! オレ オマエ マルカジリ!」
狼、もとい狼の風貌に近い衣装の上からさらにベビードレスを纏ったゴンザレス=T=アルマ(ka2575)はその一言だけでレイ=フォルゲノフ(ka0183)であることを看破して飛びかかった。
「あら、たけしぃ。そんなんはしたないわ♪」
レイは裾を軽く引き上げると、そのまま大きく回転し、たけしことゴンザレスの顔面を蹴りで空中で迎撃した。
「はー、もう軽くカオスですね」
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)はそれでもまだ追い回すゴンザレスに対して、レイはライナスを押し付けられる様子を見て呟いた。
「敵襲だっ。ユキヤ! はるなの嬢ちゃん!!」
「やだなー、ライナスさん。それは味方ですよ。むしろそのままで攫われてもOK」
「まてーーー!!?」
いつも通りの笑顔でユキヤはお持ち帰りされそうになるライナスを見送った。
が。バチンっと派手な衝撃音が響ちゴンザレスが崩れ落ちた。
「何やってんのよ、もう。ロッカぁ。あんたこんなカオスの元凶なんだからなんとかしなさい」
アーシュラはエレクトリックショックを放ち終えると、隅っこでケラケラ笑うロッカの頭をぐりぐりする。
「ボクは心の扉を開いただけさ……その本質は皆の心の奥底に封じられていたにすぎない」
「格好好いこと言ってますけど、ようするにそう言う趣味があるってことですね! わかりますわっ」
シバ・ミラージュ(ka2094)はうんうんとロッカの言葉に頷いた。
ビキニアーマーにゴシックドレスのスカートを纏って。
彼も男。性別上は。
「……すごく得心しているのか、自分の存在意義を証明したいのかどっちですか」
クレール(ka0586)は武器にラインストーンを貼り付ける作業をしつつ、ジト目でシバを見つめた。
「あら、そういうクレールさんだって武器の飾り付けにさりげなくハートを入れたりするのに力が入っていらしてましてよ!」
「ううう、武器が穢されていく気がしてならない……。でも武器は権威の象徴でもあり、持ち主の精神を現すものでもあるんです。こんなことしたくないけど……うぁぁぁぁぁ!!」
といいつつ、クレールは血の涙を流しつつ、武器を山盛りにデコっていく。
ああ、本物の鍛冶屋だね。それを見ている人はそう思った。
●
女盗賊の告白により、花嫁として参上する日も、その場所も分かっていた為、この珍妙な集団が乗り込むのはさして苦労は伴わなかった。
何よりも貴族の坊ちゃん。ピギーは花嫁候補がずらりと並ぶ姿に鼻血を吹いて出迎えるほど歓迎してくれたため、彼の護衛とかそういう人間の「どう考えてもマトモじゃない集団」という警戒は黙殺されたしまったことに大きな理由がある。
「そんなわけで、私こそが花嫁だという人が集まって来ました☆ さぁ、はりきって登場してあっぴるしてもらいましょーお!」
自らもミニドレスにシルクハット姿で可愛く決めた時雨が、勢いよく声を張り上げた。
「1ばーん、しなやかな肉体は女豹の如くっ。レイちゃん!」
「はっア~い♪ アナタのハートを盗んであげるわ!」
「オレ、めっちゃ元気してた!」
髪をかき上げ、うなじを見せるレイがピギーに挨拶すると、ゴンザレスは赤ずきんスタイルの可愛らしい衣装を盛り上がるエロ魂と筋肉でみちちちちっと引き破った。一人赤ずきんストーリー!!
「もーぅ、たけしちやんってば(仕事にならへんやろ!!)」
「ああっ、女の子同士で喧嘩しちゃダメだよぉ。女はお~おかみぃ~」
二人がじゃれあう(乱闘の)様子をピギーは興奮を抑えつつ収めに入るが、ゴンザレスのたくましい肉体にダラダラとヨダレを垂らしているところを見ると、イケナイ妄想がツボに入っているようだ。
「2番、我らの常識破壊神。ゾール子ちゃんっ」
「うぉれぇが、花嫁っ っだわ!」
地響きを立てながら、ゾールが登場した。
フリルいっぱいのチョーカーにラインストーンのイヤリング。そして清純派のウェディングドレスは裾足らず。丸太のような足につけられたピンヒールが、あ、もうヒール折れてら。
「誰がそんな動きしろっていった。喋りもちがーう!」
ピシィっ!
男装したアシュラが後ろがゾールに聞こえるように囁くが、内容は鬼教官そのものだった。
「線の上を綱渡りするように! 静々とっ。髪の間から上目づかいに見るっ」
「ほっ、はっ!」
アーシュラの指示に従い、足を交差させ、ヅラ落ちないように片手で支え、もう片手はどうにもサイズが合わなかったため、破れた腹筋周りを抑えつつ歩く姿。
これからムーンウォークでもやるんだろうか。
クレールはゾールの予想の斜め上を行く行動を精いっぱいフォローするようにして、無い胸をぴったり収め、ベストとシャツ、そして黒のスラックスで固めた男装をした上で一緒にダンス(ゾール本人はダンスしているつもりもないが)をし、ゾールを目立たせていた。
が、そろそろ腹筋が限界に近づく。
「ダメだ。もうダメダ……」
澄ました笑顔を作るのがこんなに辛いなんて!
震えた腹筋が悲鳴をあげる!
「オレの……」
「やり直し」
「わたしの全てを ささげる であるっ! わっ!!」
アーシュラに度々指摘されつつ、決め台詞を言うと、クレールが花吹雪を精いっぱいまき散らし、更に光を当てて、ラインストーンの飾りをキラキラ反射させた。
「よっ、光の子!」
「むひょぉーー。そなたこそ光の戦士!!」
ピギーは大喝采をあげた。
時雨の喉が枯れたので、こんどははるなが代わってアナウンス。
「3番、はるなんトコの小隊が登場! 紫煙に過去を浮かべるワケあり女傭兵ライナちゃん。あーんど、儚きドリーミィドール。その女子力、ちょっとは自重しなさいよねー。隊員のユキちゃん!」
「どんな紹介ですか……それ。っとと、ユキです。この斧は私の宝物なんですよ」
紹介に小さく苦笑いを浮かべるユキヤははるなに用意されたゴシックドレスに身を纏い、フリル満載のフードの奥からにっこりほほ笑むと、両手持ちの斧を軽々と振り上げ、くるくると頭の上で回転させるとダムっ! っと柄を地面に落として演武を終了した。
「おっひょ、見た目よりぱわふりゃ~♪」
「おう、こっちはもっとスゴいゼ……?」
ふるふると震えてユキヤの演武を見つめていたピギーだったが、ライナスがそう声をかけると鼻血でぶっ飛んだ。
黒いレザーで作られたキャットスーツ。胸にお椀を詰め込んで、眉髭胸毛をずずーっとうかがわせるように真ん中を鳩尾まで開いた悩殺セクシースタイル!
もちろんメイクはバンギャルやってたはるなの渾身のメイク。
「す、す、すすすす、スゲーーーーーーーーーーーーー!!」
ピギーがぶっ飛んだ悲鳴をあげた。
「お前さんのハート……撃ちぬいてやる」
ライナちゃんことライナスの決め台詞にピギーのハートはズッキュン撃ちぬかれてしまった。
「さーあ、盛り上がってますかー? 続くはナンバァ4! 君影に想いを寄せて……エアちゃーん、あーんど、ジュードっ。Here we go!」
はるなのノリノリ紹介に続いて、褐色の肌を惜しげもなく晒したエアルドフリスが静々とピギーの元に歩いてくる。
辺境育ちのしなやかな美脚、ただし男らしいそれだが、にガーターベルトが腰まで入るスリットからひらりひらりと見える。ちなみに時雨のガムテは土下座して赦しを乞うたのでそのままだ。
だが、その分ストッキングの網目の濃淡がややおかしい。
ついでに目つきもおかしい。殺人犯のそれだ。
「俺が花嫁だ。さ、今すぐけっこ……~~!!!!!」
エアルドフリスの真後ろにつけたジュードが殺気を放つ。
「女装なめてンの?」
普段、でれっでれのクセして、ひとたび彼が女装するとなった今、ジュードの変貌ぶりは恐ろしかった。
否、これも愛するエアさんが活躍してもらうため!
「おっひょぉぉ。異国の踊り子っぽーーーい♪」
今にも飛びかかろうとするピギーの様子を見て、エアルドフリスは内股になるのもすっかり忘れ、引き下がる。
「か、勘弁して、ください。お触りの前にすることが……おいジュード! これ以上は命に関わる!!」
「アハ♪ エアさんってば奥手なんだから」
案の定、飛びかかって来たピギーに対し、ジュードはさっとメイドドレスのガーターに結わえておいたガンベルトから鳴鵺、イグナイテッドを抜き放つとレイターコールドショットを放った。
「まぁだですよー、坊ちゃま!」
銃口から昇る煙をふっと吹き消して、ジュードはウィンクした。
「続いて、5っばーん♪ 風薫る月草、ユリアナちゃん!」
はるなが小休止した為、今度はジュードが友人ユリアンの紹介に移った。
「な、なあ、ジュードさん……めっちゃ歩きにくいんだけど」
何がどう歩きにくいのか、見た目ではわからない。ポニーテールに襟詰のしっかりした草原の剣士風スタイル。薄く口紅をつけるとしっかりホンモノにも見えてしまう。
「ん? じゃガーターに変える?」
今更こんな所で着替えられるわけもない。顔を真っ赤にしてユリアンはヤケになりつつ、妖艶な笑みをピギーに投げかける。
「お会いできて光栄です。ピギー様。さあ戦う姿をご覧になって」
「あ、あれがお兄さんだなんて……信じられない」
ユリアンの妹と友達であった七夜は信じられないといった顔でユリアンを見ていた。こんなことする人には見えなかったんだけどなぁ。
そんな視線を感じつつ、ユリアンはバケモノ、もといゾールに剣を抜き放ち、風のように駆ける。
「必殺、流星、月光剣!」
飛び込みの突き、そのまま切り上げ、返す刀で振り下ろし、回転して足を凪払い、よろめいたゾールの真上に舞い上がり、吹き下ろす烈火の一撃を叩き込んだ。
「か、カッコいい!!」
隙の無い剣舞は七夜が理想にする動きに近く夢中になって手をたたいた。
「や、やるな……」
防御も許さない五連撃を食らったらゾールも一発KOだ。
「あらあら、寝込んじゃダメよ」
やり過ぎちゃったか、と覗き込むユリアンの横からエクラの僧装を身にまとった女が歩みよってきた。
「うぬ? かようなおなごがおったか?」
ダリオが首を傾げた。
艶やかな黒髪や見惚れるほどだし、厳粛さを窺わせるエクラの衣装からちらりと覗く太ももだの見え隠れするイヤリングだの、いちいち女らしさを匂わせる。
「おお、勇者ヨ、死んデしまうとはナサケナイ。蘇るのデス」
癒やしの文言を唱えるのを聞いて、大勢が鳥肌を立てた。
「あ、あああ、アルヴィン殿か!?」
「こりゃまた、化けたねぇ」
「ひゅー、アルヴィンさんすごい! しっかり板についてるね。ちょっとヤケちゃうな」
「ふわ~、私より綺麗ですよ!?」
「さっすがアルヴィンちゃんねぇ。んふふ、負けてられないわね」
同じ小隊メンバーから次々感嘆の声があがる。
「ふひー、不死鳥の如く立ち上がるパワー! 疾風迅雷の攻撃! すごいよ!!」
「今度はこっちの番だ! ユリアン!」
「本名言うなって! っと、えと、あの。し、心配してたわけじゃないんだからね!」
爆砕鉄拳を避けつつユリアンは叫び、爆死したユリアン救助の為、御前試合は一時中断となった。
「さてさて、6ばんは、魂死さじ野武士ながらに食堂のおばちゃん! ダリア~ちゃーん」
「お残しは断じて許さぬわ! というか、何故それがしが紹介されるのか」
意地で残した無精ひげは隠そうともせず、ぼさぼさの頭と戦士としてのいかつい体格は白の割烹着に巨大な寸胴鍋を背負っている。でもどう頑張ってみても女装ではない。
「あれはどう見たって男じゃないの?」
さっきから鼻血と雄叫びばっかり上げていたピギーでも、さすがに区別がついたらしい。
……ライナスの時は萌え死んでたけど。
「ふふふ、ダリアちゃんの女子力、知らないわね?」
沢城が割烹着のダリオの後ろから顔を出すと、ぐりん、と彼を反転させた。
「いなせな蝶結び。そして、この割烹着の白はァ、純白の献身を誓う色なのよっ」
沢城がそういうとダリオが背負っている鍋の蓋をぱかっとオープンした。そこにはブーケ、ブーケ、ブーケ!
「ダリア、プリンセスエンゲージ!!」
ブーケを頭に、そして胸に、肩に背中の紐に花束が飾られていく。
「おお、おおおおー。花に包まれた白無垢の姫が見えるーーーーっ! いや、隠れた花とはまさにダリアさんのことだ。是非是非花嫁候補としてちこうよりたまへ!」
ピギー、実は雰囲気だけで物を見ているんじゃないだろうか。
「うふふ~、逃げられないわね。エアちゃんがあんなに頑張ってくれたるんだもの。女性には礼儀を尽くすのがダリアちゃんだもんねー?」
「ぐぬぬ、た、謀ったな!?」
「女侍バンザーイ、ほれ、帯回して遊ぼう!」
とりあえず、ダリオに選択権はなかったが、ピギーの将来も確実に亡くなったのも事実だ。
「ではではドンドン行ってみヨー♪ 7番は正統派エルフの花嫁、リンリンだヨ!」
アルヴィンの紹介によって登場したリンリンことフレデリクは沢城の作ったラウンドブーケを手にして、オリーブの冠、白のマーメイドドレスに花を添わせて。
「うひゃ、びびび、美人っ」
上目づかいに見るフレデリクの瞳にピギーは瞬間的に視線を逸らせた。
「あ、あの~」
「ひぃぃぃぃぃ、耳がこそばい~!!」
フレデリクがどう反応していいのかわからず声をかけようとするが、その一言を聞いただけで両手を耳に当て、のたうちまわり始める。
「そこまでイヤがる!?」
「もしかして……単に女性への免疫力なさすぎ?」
七夜の一言で皆はああ、と頷いた。それで男っぽいというか男が女装している奴に反応するわけか。
にしても、ショックなのはフレデリクの方である。いや、女性と見紛う容姿してるとは思ってるけど!
がんばってガムテ処理してもらったし、肌赤くなって泣きそうになったのに!
そんな努力の甲斐もなくここまで拒否られると流石に腹が立ってくる。
「貴賤上下の別なく人には礼儀正しく接するものです! なんですか、その態度!」
「おほっ、痺れる凛としたお声~」
話まともに聞いてない。
ムカムカしてきたフレデリクはじゃきんっと機導剣の光を作り出す。
セーラー服と機関銃ならぬ、花嫁姿と機導剣。
「切り裂いていいですか、いいですよね。やりましょう」
「わーっ、止めてください。まだ武器が見つかってないんですから!!」
七夜をはじめ、周りにいた人間が一斉に制止したおかげで、ゾールの武器は行方不明のままにならずに済んだ。
ゾールはもっと七夜に感謝すべき。
「危なかった……こほん。続いて8番。イケない扉を今日開いてしまった、ルナティックガール、フェリさん! ちょっと、この原稿用意した人誰!?」
七夜の生真面目に原稿を読み上げた後、恥ずかしすぎて火を吹いた叫びを上げる中、フェリルが登場した。
「ふふフ。こういうのも悪くないよネ?」
「あ、あれ、アルヴィンさんの真似だ……! すごいな完コピだよ」
最初はインテグラに騙されてやって来たものの、女装を始めてノリノリになってしまったのか、一番女装が板についていたアルヴィンを真似たいと思ったのだろう。独特のイントネーションまで完璧にこなす。
「へぇ、凄いネ。途中まで着替えに出ていたのに、そこからすぐ真似するなんて、やるネ♪」
「まぁネ。貪欲な性格なんダ♪」
アルヴィンの称賛に対して気にした様子もなくフェリルは仁川がつけていたような和服に身を包み、さりげなく胸元をはだけ、雄っぱいをピンピクン、動かしてアピールする。
「なんで私達女の子のコピーをしなかったのか、まるで謎です……というか、魅力で負けてる?」
時雨が衝撃的な事実で真っ暗になる。
「さァ、ゾール。イクよーっ」
フェリルはそう言うと、七夜に付け直してもらった化粧と衣装を新たにしたゾールを呼び出した。
今度は白いおみ足とワイヤーがばっちり入ったフリルスカート。そして顔面絵画と言わんばかりのド派手メイク。
「男性バレエ集団の一味か、あれは……くそう。面白い。創作意欲が滾ってくるじゃないか!!」
インテグラはオカメインコの飾りをつけたまま、メモを思うがままに走らせる。
「イケメンのピギー様の前だからって緊張しちゃダメだヨー」
「おう、だわっ」
そして二人でダンシング、トゥナイト!
吐き気を催した人間が数名発生したので、これも一時中断となりました。
「どこから見ても女の子。狙いすぎていませんか? シヴァちゃんです」
七夜の生真面目なアナウンスに従って、シバが登場した。
着替えの時と同じようにビキニアーマーの下に背中の肉や、脇の肉を寄せて集めて、本当にカップが満たされているバケモノ男子だ。
「し、し、シヴァと言います。あの、その優しくしてください、ね?」
フレデリクと同じように花束をもって上目づかいにピギーを見る。
「ふーん、あそ」
「ちょっ、そのつれない態度なに!!?」
自信とかいうつもりないけど、いやそれなりに自信あるのに、今までの過激な反応から何故ここまで無下に扱われなけりゃならんのだ。
「いや、ほら、濃ゆい味食べたら、淡白なの味がしなくなるでしょー。それと一緒」
「ひどいっ」
七夜さんがフレデリクさん止めたけど、いやここは殺ってしまうべきか。スリープクラウドもだけどマジックアローも準備してきて良かった。
「そうだな、ようやく私の視線に気づいてくれたか」
シヴァを押しのけるようにしてウィルフレドが立ちはだかった。
「おおっと、ここで乱入です。9番ですねっ。帝国の復讐鬼。趣味は剣を磨くことっ。ウィルフレアさんですっ」
ぬん。とウィルフレドはポージングをいくつかキメた。
アーシュラの歩き方を、ジュードに仕草、はるなに衣装、クレールに武器をデコってもらい、そして時雨にガムテ脱毛。
席にいる間からピギーが反応するたびにアクションしてみせ、視界にちらちら刷り込みを行い今満を持しての登場だ。
完璧超美女、ウィルフレア降臨!
腕を頭にのせ!
続いて、手を組み伸ばして!
そしてガッツポーズで!!
「誰がそんなこと教えたーーー!?」
ジュードの悲鳴が響く。
と、突然ウィルフレドの服が盛り上がった。
筋肉が、筋肉が盛り上がり衣服を防護を打ち破るっ! 細マッチョなのにそれは反則すぎる!
「見て、この肉体美……」
「ウィルフレアよ。素敵なパフォーマンスだがね、凄すぎてピギー気絶してるぞ」
インテグラのツッコミに服が破れるというシチュエーションにぶっ壊れたピギーは泡を吹いたまま素敵な夢の世界にダイブしていた。
「ふふん、盗賊団の花嫁、満足してくれた? 誰が本物かわかる?」
仁川が腰かけるピギーの椅子に横から乗り入れるようにして囁きかける。
「うーん、うーん。あんな棍棒を持ってきてくれるような人なんだ。ライナちゃん、エアちゃん、ダリアちゃん、ウィルフレアちゃん、フェリちゃん、そしてゾール子ちゃん。あ、たけしちゃんかも知れない。この中の誰かなんだ……」
ピギーの選抜候補に挙がった漢女たちはピギーの前に立ち、神妙な顔でピギーの次の言葉を待つ。
「決めた……僕の花嫁は」
どくん。
どくん。
頼む。
呼ばないでくれ。
「みんなまとめて愛してあげるよー!!!」
ピギーが飛びかかった。
と思ったが、それは仁川が許さなかった。ぐいとピギーの襟を掴み、そのまま椅子に戻すと、キスできるほど近くに顔を寄せて妖艶にほほ笑む。浴衣姿の仁川からはほわりといい香りが漂う。が、それ、胸のないのばれるんじゃない?
「じゃあ、棍棒を持てばすぐわかる。くれてやったの用意しな。ここで証明してやるよ」
「おお、本当かい? 棍棒をほら、あの箱の中だよ」
興奮気味のピギーが奥まったところにある大きな棺を指さした。
……。
レイがこっそり開けてOKサインを出す。
「……任務完了だな」
キラリ。
皆の目が光った。
「え、いや、まだ花嫁は誰か……決まってない、よ?」
異変を感じたピギーはオロオロとした。
「俺の拳が光って唸る……! お前を倒せと言っている!!」
ずごごごご、とエアルドフリスの拳が光り出した。魔法拳?
はい、今回は炎の爆裂(ファイアボール)拳です。
振りぬいたエアルドフリスの光の拳がピギーの丸い顔を潰し、そのまま後方の壁ごと吹き飛ばした。
「お、面白いもんみーっけ。こりゃええわ」
レイは破壊音やまぬ館の中で、こっそり盗撮されてたらしい自分たちの絵姿を見つめてにんまりとわらった。その手の好事家なら引き取ってくれるだろう。
「よくもよくも、無視してくれましたねっ!!!」
一方フレデリクがジェットブーツで飛びかかると機導剣でずったずたに切り裂く。
「ああもう、今まで我慢したわっ。この胸糞の悪さ果たしてくれる!!」
アーシュラが所構わず機導砲をぶっ放す。
館はたちまち精神的にきつい場所から、開放感あふれる地獄絵図へと速やかに変貌する。
「パッフォォォォォォン!」
そしてゾールが奇声をあげると同時に、手に戻った棍棒を掲げると覚醒効果で雷撃の幻影があちこちに走る。
「ゾールさん、大切なものなんだから、もう手放しちゃダメですよ」
クレールもファイアスローワーで屋敷も女装の人より胸がなかった悲しい事実も、そして悪夢も全部炎に消し去る。
「おう! お前たち、大恩人だ!」
そして一振り。ゾールの足元の床が吹き飛んだ。
七夜はそれを見て気づいた。前回の依頼、一応、ゾールは手加減してくれていたんだということを。
「くう、しかしここで恋路は遂げてもらいますよ!」
シバはすぐさまスリープクラウドを詠唱した。
そう、ゾールとピギーの恋を成就させるため!
「……へぇ、恋の成就ですか。面白そうですね。最初は見向きもされなかった人が、触れ合って徐々に仲良くなる話は王道だと思いますよ」
いつも通りの穏やかな笑みを浮かべるユキヤがシバの肩を軽くたたいた。
しまった。
「天誅!!!」
シバは味方達から一斉砲火を浴びて吹き飛んだいった。
「ちょっと! 勘弁してください!!」
ピギーとシバは同じ枝にロープでぶら下げられ、風が吹く度に二人の距離は近づく近づく。
顔と顔がゆらゆら。重なる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」
悲鳴が上がった。
こうして悪夢はまた一つ、潰えることに成功したのだった。
ありがとう、ハンター達!
君たちの雄姿は忘れない!!
「いらっしゃーい♪」
依頼を請けてボラ族が住む鍛冶場に足を踏み入れたエアルドフリス(ka1856)は莫逆たるジュード・エアハート(ka0410)にそう歓迎の声をかけられた。奥には彼にとってお馴染みの面々。ユリアン(ka1664)、アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)、フレデリク・リンドバーグ(ka2490)、そして沢城 葵(ka3114)が出迎えた。
が、なんだろう。この気持ち悪い歓迎は。
「医者先生が来られるなんてっ。これは面白いことになってきましたね」
普段は礼儀正しく素朴な空気を作るフレデリクが今日に限っては口元が邪悪に歪み、持っているメタルシザーズから妖気を発している。
「エアルド殿! この場はそれがしが引き受ける! 退かれい!!」
そんなフレデリクに捕まるダリオ・パステリ(ka2363)は鋭く叫んだ。椅子に座ってはいるものの喉元に腕を絡みつけられて必死に叫ぶ様子は尋常ではない。
「これは一体……どうしたんだ」
パイプを咥える口が真一文字に引き絞られるエアルドフリスの退路を防ぐように、ユリアンがそっと扉を閉める。
「俺もね。妹が勝手に受付しちゃっててね……。師匠。仲間ができて嬉しいよ」
あのユリアンが陰鬱な笑みを浮かべる。もしかして某歪虚の魅了をくらったのか!?
「ふふ、ボラ族のゾールさんと一緒に女装、してくれるんだよね? さっすがエアさん」
「は!? 冗談じゃあない! なんでそんなマネを」
サラサラの長い髪をなびかせたジュードに手を引かれた瞬間、烈火のごとく大声を張り上げるエアルドフリスだが、力任せに引き離すこともできない。
だいたい女装って似合う人間がすればいい話だ。俺のような体格でやったって無理がある!
「おぉ、エアルドフリス!」
引きつるエアルドフリスに野太い声がかけられた。
「ああ、ゾールさん! 勝手に移動しないでよね!!」
小鳥遊 時雨(ka4921)がガムテープの輪を腕に通したまま、挨拶にやってきたゾールの後ろを追いかけ、そして追いついたと同時にえいやっ! っと背中に貼り付けたガムテを一気にはがした。
「お゛ほぉっ! いでぇっ」
男性ホルモンの塊のような男のゾールである。ガムテには遠目にもびっしり毛がついている。
「きゃは♪ いっぱい取れましたねぇ。まだまだですよー。腕も胸も足も終わってませんからね。ダリオさんもあとでやりますからね!」
「御免こうむる! そもそもイグ殿の息災を確認してきただけであって、それがし、そんな発想一つもあらぬわ!」
「おう、イグも元気している。おかしらが来た事きっと喜んでいるはず。是非、よろしく!」
ゾールの言葉にうなずいてフレデリクはシザーズでひげをそり落とそうとしたが、悲鳴をあげて拒否るダリオ。
「せ、拙者は絶対に受け入れんぞっ。こ、これは武士の魂! 落ちぶれた身であっても決して過日を忘れぬためにっ」
魂とかいいながら無精ひげ程度でしかないやん。というツッコミはフレデリクはせず、むしろちょっぴり瞳をうるうるさせていた。
「うう、魂は死さじというわけですね。ちょっと感動しちゃいました……じゃあ、それでもいいようにしちゃいましょう」
切り替えはやっ。
視線を変えれば、渋オヤジを絵に描いたようなライナス・ブラッドリー(ka0360)にまったくそぐわない服をとっかえひっかえ当ててみるはるな(ka3307)の姿がある。
「は、はるなの嬢ちゃん……いったい何を」
「うーん、やっぱクールに決める方がライナスちゃんには似合ってるよねぇ。いや、ここはキャットスーツでダンスやっちゃうのもいいかも! ねえね、化粧どうしよっか?」
「ファンデーション、すごく減りそう……ヒゲはやっぱり剃った方がいいかも」
はるなの問いかけに化粧担当の七夜・真夕(ka3977)はライナスのじょりじょりヒゲを手で確認しつつ、うーんと唸った。
「えー、ダメダメ! このワイルドさを残しつつ仕上げるのがイイじゃん。ドラッグクイーン的な?」
「ドラッグクイーンってわからないけど、言いたいことはなんか分かって来たわ……初体験ね」
リアルブルーでは決して触れえなかったジャンルに七夜はゴクリと唾を飲んだ。
「初体験は俺の方だよ……」
七夜とはるなが自分の顔のあちこちを指さしながら、シャドーはどれだのチークはこうだのと話す様子にライナスは震えが止まらなかった。
震えが止まらないのはウィルフレド・カーライル(ka4004)も同じだった。どう頑張って化粧してもモンスターにしか化けられない人間たちが切磋琢磨する様子。それを全力で応援する仲間達。
「これは、これは……(社会的な)生命をかけられる、この英雄たちと共に再帰を果たす!」
「おい、マテ。こんなところに命賭けてどうするよ」
同じく騙され組のフェリル・L・サルバ(ka4516)はなんとか常識側に引き留めようとウィルフレドの肩を掴んだ。彼まで向こう側に行ってしまったら本格的に自分の身もヤバくなる。だいたい巨乳のお姉さんの依頼と聞いていたのに! おっぱいと雄っぱいの字違ってるじゃねーか!!
「む、しかしだな……」
ウィルフレドが言い返すよりも早く、インコ先生ことインテグラ・C・ドラクーン(ka4526)がフェリルにばさっとカツラをかぶせると鏡を突き付けた。
「お、おお、これが、俺、なのか?」
「この貴重な経験をお前は見逃すというのか。やるは一瞬の恥、やらぬは一生の恥だ!」
「だな、これはやるしかあるまい」
不思議な感覚に襲われるフェリルにインコ先生とウィルフレドが左右から肩をポンと叩いた。
そしてサムズアップ!
「んふふ、ノってきたわねぇ。それならあたしが衣装見繕ってあげるわ。イケメンを着飾らせることができるなんて夢みたい~」
沢城 葵(ka3114)が隣の服屋の協賛の元に用意した衣装を手に笑顔がどうにも止まらない。
「お、おい。アオイ……」
いかん。これは本格的にいかん。
エアルドフリスが止める間もなく、時雨ちゃんの脱毛ガムテがウィルフレドとフェリルを襲いかかり、鍛冶場に悲鳴が響く。
「ふむフム。なァるほど。パッティー、イイオ友達だネ☆ このお祭りのヨーナ空気! みんなデ楽しもうという心。アア、僕も一枚脱ぎたくなっタヨ」
「アルヴィン殿!!! それも趣が異なる話であろう!」
女装のチェックポイントをモノクルの奥から鋭く観察し、優雅な微笑みを浮かべるアルヴィンにはもうしっかり自分の女装構想図はできつつあるらしい。
「ははは、脱いでしまうのも悪くないね。魅せるところ、見せないところの緩急をつけるのも大切なことさ」
「オオー、リアルブルーの……いや今、噂のエトファリカ装束だネー。ファンタスティック!」
仁川 リア(ka3483)の浴衣姿の艶やかさに、アルヴィンは拍手をした。ホウセンカを散らした浴衣の裾からすいと出る白いお御足が映える。
「これは僕も何かやらないとダネー。ちょっと待っててネ」
アルヴィンは企業秘密とばかりに口元に指を立てると、すすっと町へと繰り出した。ここだけでは揃わない道具も色々あるようだ。それに入れ違いに別の和服の女がするりと入ってくる。
「あら、もう祭りの喧騒の臭いがするなぁ」
「その声はレイたんっ! ふはっ、ふはっ、ふはっ。ウボァー!! オレ オマエ マルカジリ!」
狼、もとい狼の風貌に近い衣装の上からさらにベビードレスを纏ったゴンザレス=T=アルマ(ka2575)はその一言だけでレイ=フォルゲノフ(ka0183)であることを看破して飛びかかった。
「あら、たけしぃ。そんなんはしたないわ♪」
レイは裾を軽く引き上げると、そのまま大きく回転し、たけしことゴンザレスの顔面を蹴りで空中で迎撃した。
「はー、もう軽くカオスですね」
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)はそれでもまだ追い回すゴンザレスに対して、レイはライナスを押し付けられる様子を見て呟いた。
「敵襲だっ。ユキヤ! はるなの嬢ちゃん!!」
「やだなー、ライナスさん。それは味方ですよ。むしろそのままで攫われてもOK」
「まてーーー!!?」
いつも通りの笑顔でユキヤはお持ち帰りされそうになるライナスを見送った。
が。バチンっと派手な衝撃音が響ちゴンザレスが崩れ落ちた。
「何やってんのよ、もう。ロッカぁ。あんたこんなカオスの元凶なんだからなんとかしなさい」
アーシュラはエレクトリックショックを放ち終えると、隅っこでケラケラ笑うロッカの頭をぐりぐりする。
「ボクは心の扉を開いただけさ……その本質は皆の心の奥底に封じられていたにすぎない」
「格好好いこと言ってますけど、ようするにそう言う趣味があるってことですね! わかりますわっ」
シバ・ミラージュ(ka2094)はうんうんとロッカの言葉に頷いた。
ビキニアーマーにゴシックドレスのスカートを纏って。
彼も男。性別上は。
「……すごく得心しているのか、自分の存在意義を証明したいのかどっちですか」
クレール(ka0586)は武器にラインストーンを貼り付ける作業をしつつ、ジト目でシバを見つめた。
「あら、そういうクレールさんだって武器の飾り付けにさりげなくハートを入れたりするのに力が入っていらしてましてよ!」
「ううう、武器が穢されていく気がしてならない……。でも武器は権威の象徴でもあり、持ち主の精神を現すものでもあるんです。こんなことしたくないけど……うぁぁぁぁぁ!!」
といいつつ、クレールは血の涙を流しつつ、武器を山盛りにデコっていく。
ああ、本物の鍛冶屋だね。それを見ている人はそう思った。
●
女盗賊の告白により、花嫁として参上する日も、その場所も分かっていた為、この珍妙な集団が乗り込むのはさして苦労は伴わなかった。
何よりも貴族の坊ちゃん。ピギーは花嫁候補がずらりと並ぶ姿に鼻血を吹いて出迎えるほど歓迎してくれたため、彼の護衛とかそういう人間の「どう考えてもマトモじゃない集団」という警戒は黙殺されたしまったことに大きな理由がある。
「そんなわけで、私こそが花嫁だという人が集まって来ました☆ さぁ、はりきって登場してあっぴるしてもらいましょーお!」
自らもミニドレスにシルクハット姿で可愛く決めた時雨が、勢いよく声を張り上げた。
「1ばーん、しなやかな肉体は女豹の如くっ。レイちゃん!」
「はっア~い♪ アナタのハートを盗んであげるわ!」
「オレ、めっちゃ元気してた!」
髪をかき上げ、うなじを見せるレイがピギーに挨拶すると、ゴンザレスは赤ずきんスタイルの可愛らしい衣装を盛り上がるエロ魂と筋肉でみちちちちっと引き破った。一人赤ずきんストーリー!!
「もーぅ、たけしちやんってば(仕事にならへんやろ!!)」
「ああっ、女の子同士で喧嘩しちゃダメだよぉ。女はお~おかみぃ~」
二人がじゃれあう(乱闘の)様子をピギーは興奮を抑えつつ収めに入るが、ゴンザレスのたくましい肉体にダラダラとヨダレを垂らしているところを見ると、イケナイ妄想がツボに入っているようだ。
「2番、我らの常識破壊神。ゾール子ちゃんっ」
「うぉれぇが、花嫁っ っだわ!」
地響きを立てながら、ゾールが登場した。
フリルいっぱいのチョーカーにラインストーンのイヤリング。そして清純派のウェディングドレスは裾足らず。丸太のような足につけられたピンヒールが、あ、もうヒール折れてら。
「誰がそんな動きしろっていった。喋りもちがーう!」
ピシィっ!
男装したアシュラが後ろがゾールに聞こえるように囁くが、内容は鬼教官そのものだった。
「線の上を綱渡りするように! 静々とっ。髪の間から上目づかいに見るっ」
「ほっ、はっ!」
アーシュラの指示に従い、足を交差させ、ヅラ落ちないように片手で支え、もう片手はどうにもサイズが合わなかったため、破れた腹筋周りを抑えつつ歩く姿。
これからムーンウォークでもやるんだろうか。
クレールはゾールの予想の斜め上を行く行動を精いっぱいフォローするようにして、無い胸をぴったり収め、ベストとシャツ、そして黒のスラックスで固めた男装をした上で一緒にダンス(ゾール本人はダンスしているつもりもないが)をし、ゾールを目立たせていた。
が、そろそろ腹筋が限界に近づく。
「ダメだ。もうダメダ……」
澄ました笑顔を作るのがこんなに辛いなんて!
震えた腹筋が悲鳴をあげる!
「オレの……」
「やり直し」
「わたしの全てを ささげる であるっ! わっ!!」
アーシュラに度々指摘されつつ、決め台詞を言うと、クレールが花吹雪を精いっぱいまき散らし、更に光を当てて、ラインストーンの飾りをキラキラ反射させた。
「よっ、光の子!」
「むひょぉーー。そなたこそ光の戦士!!」
ピギーは大喝采をあげた。
時雨の喉が枯れたので、こんどははるなが代わってアナウンス。
「3番、はるなんトコの小隊が登場! 紫煙に過去を浮かべるワケあり女傭兵ライナちゃん。あーんど、儚きドリーミィドール。その女子力、ちょっとは自重しなさいよねー。隊員のユキちゃん!」
「どんな紹介ですか……それ。っとと、ユキです。この斧は私の宝物なんですよ」
紹介に小さく苦笑いを浮かべるユキヤははるなに用意されたゴシックドレスに身を纏い、フリル満載のフードの奥からにっこりほほ笑むと、両手持ちの斧を軽々と振り上げ、くるくると頭の上で回転させるとダムっ! っと柄を地面に落として演武を終了した。
「おっひょ、見た目よりぱわふりゃ~♪」
「おう、こっちはもっとスゴいゼ……?」
ふるふると震えてユキヤの演武を見つめていたピギーだったが、ライナスがそう声をかけると鼻血でぶっ飛んだ。
黒いレザーで作られたキャットスーツ。胸にお椀を詰め込んで、眉髭胸毛をずずーっとうかがわせるように真ん中を鳩尾まで開いた悩殺セクシースタイル!
もちろんメイクはバンギャルやってたはるなの渾身のメイク。
「す、す、すすすす、スゲーーーーーーーーーーーーー!!」
ピギーがぶっ飛んだ悲鳴をあげた。
「お前さんのハート……撃ちぬいてやる」
ライナちゃんことライナスの決め台詞にピギーのハートはズッキュン撃ちぬかれてしまった。
「さーあ、盛り上がってますかー? 続くはナンバァ4! 君影に想いを寄せて……エアちゃーん、あーんど、ジュードっ。Here we go!」
はるなのノリノリ紹介に続いて、褐色の肌を惜しげもなく晒したエアルドフリスが静々とピギーの元に歩いてくる。
辺境育ちのしなやかな美脚、ただし男らしいそれだが、にガーターベルトが腰まで入るスリットからひらりひらりと見える。ちなみに時雨のガムテは土下座して赦しを乞うたのでそのままだ。
だが、その分ストッキングの網目の濃淡がややおかしい。
ついでに目つきもおかしい。殺人犯のそれだ。
「俺が花嫁だ。さ、今すぐけっこ……~~!!!!!」
エアルドフリスの真後ろにつけたジュードが殺気を放つ。
「女装なめてンの?」
普段、でれっでれのクセして、ひとたび彼が女装するとなった今、ジュードの変貌ぶりは恐ろしかった。
否、これも愛するエアさんが活躍してもらうため!
「おっひょぉぉ。異国の踊り子っぽーーーい♪」
今にも飛びかかろうとするピギーの様子を見て、エアルドフリスは内股になるのもすっかり忘れ、引き下がる。
「か、勘弁して、ください。お触りの前にすることが……おいジュード! これ以上は命に関わる!!」
「アハ♪ エアさんってば奥手なんだから」
案の定、飛びかかって来たピギーに対し、ジュードはさっとメイドドレスのガーターに結わえておいたガンベルトから鳴鵺、イグナイテッドを抜き放つとレイターコールドショットを放った。
「まぁだですよー、坊ちゃま!」
銃口から昇る煙をふっと吹き消して、ジュードはウィンクした。
「続いて、5っばーん♪ 風薫る月草、ユリアナちゃん!」
はるなが小休止した為、今度はジュードが友人ユリアンの紹介に移った。
「な、なあ、ジュードさん……めっちゃ歩きにくいんだけど」
何がどう歩きにくいのか、見た目ではわからない。ポニーテールに襟詰のしっかりした草原の剣士風スタイル。薄く口紅をつけるとしっかりホンモノにも見えてしまう。
「ん? じゃガーターに変える?」
今更こんな所で着替えられるわけもない。顔を真っ赤にしてユリアンはヤケになりつつ、妖艶な笑みをピギーに投げかける。
「お会いできて光栄です。ピギー様。さあ戦う姿をご覧になって」
「あ、あれがお兄さんだなんて……信じられない」
ユリアンの妹と友達であった七夜は信じられないといった顔でユリアンを見ていた。こんなことする人には見えなかったんだけどなぁ。
そんな視線を感じつつ、ユリアンはバケモノ、もといゾールに剣を抜き放ち、風のように駆ける。
「必殺、流星、月光剣!」
飛び込みの突き、そのまま切り上げ、返す刀で振り下ろし、回転して足を凪払い、よろめいたゾールの真上に舞い上がり、吹き下ろす烈火の一撃を叩き込んだ。
「か、カッコいい!!」
隙の無い剣舞は七夜が理想にする動きに近く夢中になって手をたたいた。
「や、やるな……」
防御も許さない五連撃を食らったらゾールも一発KOだ。
「あらあら、寝込んじゃダメよ」
やり過ぎちゃったか、と覗き込むユリアンの横からエクラの僧装を身にまとった女が歩みよってきた。
「うぬ? かようなおなごがおったか?」
ダリオが首を傾げた。
艶やかな黒髪や見惚れるほどだし、厳粛さを窺わせるエクラの衣装からちらりと覗く太ももだの見え隠れするイヤリングだの、いちいち女らしさを匂わせる。
「おお、勇者ヨ、死んデしまうとはナサケナイ。蘇るのデス」
癒やしの文言を唱えるのを聞いて、大勢が鳥肌を立てた。
「あ、あああ、アルヴィン殿か!?」
「こりゃまた、化けたねぇ」
「ひゅー、アルヴィンさんすごい! しっかり板についてるね。ちょっとヤケちゃうな」
「ふわ~、私より綺麗ですよ!?」
「さっすがアルヴィンちゃんねぇ。んふふ、負けてられないわね」
同じ小隊メンバーから次々感嘆の声があがる。
「ふひー、不死鳥の如く立ち上がるパワー! 疾風迅雷の攻撃! すごいよ!!」
「今度はこっちの番だ! ユリアン!」
「本名言うなって! っと、えと、あの。し、心配してたわけじゃないんだからね!」
爆砕鉄拳を避けつつユリアンは叫び、爆死したユリアン救助の為、御前試合は一時中断となった。
「さてさて、6ばんは、魂死さじ野武士ながらに食堂のおばちゃん! ダリア~ちゃーん」
「お残しは断じて許さぬわ! というか、何故それがしが紹介されるのか」
意地で残した無精ひげは隠そうともせず、ぼさぼさの頭と戦士としてのいかつい体格は白の割烹着に巨大な寸胴鍋を背負っている。でもどう頑張ってみても女装ではない。
「あれはどう見たって男じゃないの?」
さっきから鼻血と雄叫びばっかり上げていたピギーでも、さすがに区別がついたらしい。
……ライナスの時は萌え死んでたけど。
「ふふふ、ダリアちゃんの女子力、知らないわね?」
沢城が割烹着のダリオの後ろから顔を出すと、ぐりん、と彼を反転させた。
「いなせな蝶結び。そして、この割烹着の白はァ、純白の献身を誓う色なのよっ」
沢城がそういうとダリオが背負っている鍋の蓋をぱかっとオープンした。そこにはブーケ、ブーケ、ブーケ!
「ダリア、プリンセスエンゲージ!!」
ブーケを頭に、そして胸に、肩に背中の紐に花束が飾られていく。
「おお、おおおおー。花に包まれた白無垢の姫が見えるーーーーっ! いや、隠れた花とはまさにダリアさんのことだ。是非是非花嫁候補としてちこうよりたまへ!」
ピギー、実は雰囲気だけで物を見ているんじゃないだろうか。
「うふふ~、逃げられないわね。エアちゃんがあんなに頑張ってくれたるんだもの。女性には礼儀を尽くすのがダリアちゃんだもんねー?」
「ぐぬぬ、た、謀ったな!?」
「女侍バンザーイ、ほれ、帯回して遊ぼう!」
とりあえず、ダリオに選択権はなかったが、ピギーの将来も確実に亡くなったのも事実だ。
「ではではドンドン行ってみヨー♪ 7番は正統派エルフの花嫁、リンリンだヨ!」
アルヴィンの紹介によって登場したリンリンことフレデリクは沢城の作ったラウンドブーケを手にして、オリーブの冠、白のマーメイドドレスに花を添わせて。
「うひゃ、びびび、美人っ」
上目づかいに見るフレデリクの瞳にピギーは瞬間的に視線を逸らせた。
「あ、あの~」
「ひぃぃぃぃぃ、耳がこそばい~!!」
フレデリクがどう反応していいのかわからず声をかけようとするが、その一言を聞いただけで両手を耳に当て、のたうちまわり始める。
「そこまでイヤがる!?」
「もしかして……単に女性への免疫力なさすぎ?」
七夜の一言で皆はああ、と頷いた。それで男っぽいというか男が女装している奴に反応するわけか。
にしても、ショックなのはフレデリクの方である。いや、女性と見紛う容姿してるとは思ってるけど!
がんばってガムテ処理してもらったし、肌赤くなって泣きそうになったのに!
そんな努力の甲斐もなくここまで拒否られると流石に腹が立ってくる。
「貴賤上下の別なく人には礼儀正しく接するものです! なんですか、その態度!」
「おほっ、痺れる凛としたお声~」
話まともに聞いてない。
ムカムカしてきたフレデリクはじゃきんっと機導剣の光を作り出す。
セーラー服と機関銃ならぬ、花嫁姿と機導剣。
「切り裂いていいですか、いいですよね。やりましょう」
「わーっ、止めてください。まだ武器が見つかってないんですから!!」
七夜をはじめ、周りにいた人間が一斉に制止したおかげで、ゾールの武器は行方不明のままにならずに済んだ。
ゾールはもっと七夜に感謝すべき。
「危なかった……こほん。続いて8番。イケない扉を今日開いてしまった、ルナティックガール、フェリさん! ちょっと、この原稿用意した人誰!?」
七夜の生真面目に原稿を読み上げた後、恥ずかしすぎて火を吹いた叫びを上げる中、フェリルが登場した。
「ふふフ。こういうのも悪くないよネ?」
「あ、あれ、アルヴィンさんの真似だ……! すごいな完コピだよ」
最初はインテグラに騙されてやって来たものの、女装を始めてノリノリになってしまったのか、一番女装が板についていたアルヴィンを真似たいと思ったのだろう。独特のイントネーションまで完璧にこなす。
「へぇ、凄いネ。途中まで着替えに出ていたのに、そこからすぐ真似するなんて、やるネ♪」
「まぁネ。貪欲な性格なんダ♪」
アルヴィンの称賛に対して気にした様子もなくフェリルは仁川がつけていたような和服に身を包み、さりげなく胸元をはだけ、雄っぱいをピンピクン、動かしてアピールする。
「なんで私達女の子のコピーをしなかったのか、まるで謎です……というか、魅力で負けてる?」
時雨が衝撃的な事実で真っ暗になる。
「さァ、ゾール。イクよーっ」
フェリルはそう言うと、七夜に付け直してもらった化粧と衣装を新たにしたゾールを呼び出した。
今度は白いおみ足とワイヤーがばっちり入ったフリルスカート。そして顔面絵画と言わんばかりのド派手メイク。
「男性バレエ集団の一味か、あれは……くそう。面白い。創作意欲が滾ってくるじゃないか!!」
インテグラはオカメインコの飾りをつけたまま、メモを思うがままに走らせる。
「イケメンのピギー様の前だからって緊張しちゃダメだヨー」
「おう、だわっ」
そして二人でダンシング、トゥナイト!
吐き気を催した人間が数名発生したので、これも一時中断となりました。
「どこから見ても女の子。狙いすぎていませんか? シヴァちゃんです」
七夜の生真面目なアナウンスに従って、シバが登場した。
着替えの時と同じようにビキニアーマーの下に背中の肉や、脇の肉を寄せて集めて、本当にカップが満たされているバケモノ男子だ。
「し、し、シヴァと言います。あの、その優しくしてください、ね?」
フレデリクと同じように花束をもって上目づかいにピギーを見る。
「ふーん、あそ」
「ちょっ、そのつれない態度なに!!?」
自信とかいうつもりないけど、いやそれなりに自信あるのに、今までの過激な反応から何故ここまで無下に扱われなけりゃならんのだ。
「いや、ほら、濃ゆい味食べたら、淡白なの味がしなくなるでしょー。それと一緒」
「ひどいっ」
七夜さんがフレデリクさん止めたけど、いやここは殺ってしまうべきか。スリープクラウドもだけどマジックアローも準備してきて良かった。
「そうだな、ようやく私の視線に気づいてくれたか」
シヴァを押しのけるようにしてウィルフレドが立ちはだかった。
「おおっと、ここで乱入です。9番ですねっ。帝国の復讐鬼。趣味は剣を磨くことっ。ウィルフレアさんですっ」
ぬん。とウィルフレドはポージングをいくつかキメた。
アーシュラの歩き方を、ジュードに仕草、はるなに衣装、クレールに武器をデコってもらい、そして時雨にガムテ脱毛。
席にいる間からピギーが反応するたびにアクションしてみせ、視界にちらちら刷り込みを行い今満を持しての登場だ。
完璧超美女、ウィルフレア降臨!
腕を頭にのせ!
続いて、手を組み伸ばして!
そしてガッツポーズで!!
「誰がそんなこと教えたーーー!?」
ジュードの悲鳴が響く。
と、突然ウィルフレドの服が盛り上がった。
筋肉が、筋肉が盛り上がり衣服を防護を打ち破るっ! 細マッチョなのにそれは反則すぎる!
「見て、この肉体美……」
「ウィルフレアよ。素敵なパフォーマンスだがね、凄すぎてピギー気絶してるぞ」
インテグラのツッコミに服が破れるというシチュエーションにぶっ壊れたピギーは泡を吹いたまま素敵な夢の世界にダイブしていた。
「ふふん、盗賊団の花嫁、満足してくれた? 誰が本物かわかる?」
仁川が腰かけるピギーの椅子に横から乗り入れるようにして囁きかける。
「うーん、うーん。あんな棍棒を持ってきてくれるような人なんだ。ライナちゃん、エアちゃん、ダリアちゃん、ウィルフレアちゃん、フェリちゃん、そしてゾール子ちゃん。あ、たけしちゃんかも知れない。この中の誰かなんだ……」
ピギーの選抜候補に挙がった漢女たちはピギーの前に立ち、神妙な顔でピギーの次の言葉を待つ。
「決めた……僕の花嫁は」
どくん。
どくん。
頼む。
呼ばないでくれ。
「みんなまとめて愛してあげるよー!!!」
ピギーが飛びかかった。
と思ったが、それは仁川が許さなかった。ぐいとピギーの襟を掴み、そのまま椅子に戻すと、キスできるほど近くに顔を寄せて妖艶にほほ笑む。浴衣姿の仁川からはほわりといい香りが漂う。が、それ、胸のないのばれるんじゃない?
「じゃあ、棍棒を持てばすぐわかる。くれてやったの用意しな。ここで証明してやるよ」
「おお、本当かい? 棍棒をほら、あの箱の中だよ」
興奮気味のピギーが奥まったところにある大きな棺を指さした。
……。
レイがこっそり開けてOKサインを出す。
「……任務完了だな」
キラリ。
皆の目が光った。
「え、いや、まだ花嫁は誰か……決まってない、よ?」
異変を感じたピギーはオロオロとした。
「俺の拳が光って唸る……! お前を倒せと言っている!!」
ずごごごご、とエアルドフリスの拳が光り出した。魔法拳?
はい、今回は炎の爆裂(ファイアボール)拳です。
振りぬいたエアルドフリスの光の拳がピギーの丸い顔を潰し、そのまま後方の壁ごと吹き飛ばした。
「お、面白いもんみーっけ。こりゃええわ」
レイは破壊音やまぬ館の中で、こっそり盗撮されてたらしい自分たちの絵姿を見つめてにんまりとわらった。その手の好事家なら引き取ってくれるだろう。
「よくもよくも、無視してくれましたねっ!!!」
一方フレデリクがジェットブーツで飛びかかると機導剣でずったずたに切り裂く。
「ああもう、今まで我慢したわっ。この胸糞の悪さ果たしてくれる!!」
アーシュラが所構わず機導砲をぶっ放す。
館はたちまち精神的にきつい場所から、開放感あふれる地獄絵図へと速やかに変貌する。
「パッフォォォォォォン!」
そしてゾールが奇声をあげると同時に、手に戻った棍棒を掲げると覚醒効果で雷撃の幻影があちこちに走る。
「ゾールさん、大切なものなんだから、もう手放しちゃダメですよ」
クレールもファイアスローワーで屋敷も女装の人より胸がなかった悲しい事実も、そして悪夢も全部炎に消し去る。
「おう! お前たち、大恩人だ!」
そして一振り。ゾールの足元の床が吹き飛んだ。
七夜はそれを見て気づいた。前回の依頼、一応、ゾールは手加減してくれていたんだということを。
「くう、しかしここで恋路は遂げてもらいますよ!」
シバはすぐさまスリープクラウドを詠唱した。
そう、ゾールとピギーの恋を成就させるため!
「……へぇ、恋の成就ですか。面白そうですね。最初は見向きもされなかった人が、触れ合って徐々に仲良くなる話は王道だと思いますよ」
いつも通りの穏やかな笑みを浮かべるユキヤがシバの肩を軽くたたいた。
しまった。
「天誅!!!」
シバは味方達から一斉砲火を浴びて吹き飛んだいった。
「ちょっと! 勘弁してください!!」
ピギーとシバは同じ枝にロープでぶら下げられ、風が吹く度に二人の距離は近づく近づく。
顔と顔がゆらゆら。重なる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」
悲鳴が上がった。
こうして悪夢はまた一つ、潰えることに成功したのだった。
ありがとう、ハンター達!
君たちの雄姿は忘れない!!
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依頼相談掲示板 | |||
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花嫁控え室(相談兼雑談卓) ジュード・エアハート(ka0410) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/06/30 23:30:04 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/30 22:10:30 |