• 東征

【東征】運命の女神は微笑まない

マスター:鹿野やいと

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/06/30 09:00
完成日
2015/07/10 10:42

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 エトファリカ連邦某所山岳地帯。赤の隊遠征軍の副長、ジェフリー・ブラックバーン(kz0092)は、馬上より見覚えの無い緩やかな山道を眺め、1人うなっていた。世の中運の良し悪しはどうしてもある。決断そのものに意義がある以上、判断の誤りを結果論で批判はしたくない。しかし雑な判断で生死を左右されるのだけは止めてもらいたいとも思う。特にダンテ隊長、戦闘以外では抜けてるところが多いのですから。
「なんだよ、文句あんのか!?」
 部下一同のじっとりと責めるような目に耐えかね、赤の隊隊長ダンテ・バルカザールは大人気なく怒鳴った。
「いえ。どのような選択であれ、責任はダンテ隊長が取るので私からは何も」
「あるんじゃねえか! だったらはっきり言えよ!!」
「だからありませんと申し上げております」
「ぐぬぬ…!」
 この遣り取りもそろそろ3回目ぐらいになる。赤の隊は危機に見舞われていたが、あまりそれらしい緊張感はなかった。それだけは救いだったのかもしれない。
 6月某日、赤の隊は見知らぬ異郷で迷子になった。赤の隊は東方へ到着後、事後に必ず起こるであろう決戦に備え、案内人を連れて近隣の小規模な敵勢力を殲滅することに注力していた。これは輸送の安全の確保という大目的の他に、戦場の地理を把握することも目的に入った。赤の隊の強みは速度と武力。道を知らないのでは速度が死ぬ。防戦は勘弁とばかりに馬を走らせた赤の隊だが、ある日の夜間に奇襲を受けた。歪虚と混戦になり少なくない負傷者が出たが、幸いにも死者はそれほど多くは無かった。問題は案内人がその乱戦の中で命を落としてしまったことと、その後の対応である。拠点とした場所に戻る道すがら、確信の持てなくなった分かれ道で意見が分かれた。左右に分かれた道の左を推すジェフリー他部下一同の意見を退け、ダンテは右の道を進むことを決定した。結果、引き返すのが辛い距離まできて、大きく街道を外れてしまったことが判明した。そして冒頭のやりとりである。
「副長、あれを」
 騎士の1人が山を下りた先を指差した。そこには廃墟となっているが町の痕跡があり、東西に伸びる街道も朧に見えた。助かった。道がわかれば帰り着くのは容易いだろう。川に沿って移動しているため水の心配はなく、もしもに備えて食料も持っているが限界はある。心の底から安堵した顔のダンテに率いられ、赤の隊はさらに道を下った。しかし安堵するのも束の間、赤の隊に更なる波乱が待ち受けているのであった。



 世界を無に帰すという歪虚の目的はどの眷属であれ変わらない。しかしどの個体もその方法や過程にこだわりがある。レチタティーヴォとその部下3名は過程を物語として操作する、という一点にこだわりがあった。彼らのやり口は悪趣味だ。同時に過程を作り出すことには非常に真面目だった。その月のラトス・ケーオはひっそりと裏方の仕事に励んでいた。過去に歪虚の襲撃で壊滅した町の中央、武家の館を拠点と定めた彼は、手勢のゴーレムに命じて材料の骨を墓から運び出し、人の不幸の跡で形成された負のマテリアルを吸い上げた。近くの真新しい戦場からも遺体を引き上げ、必要であれば別派閥の下級歪虚を拉致するような真似もした。彼は何日もかけて道具の成型を行った。要求される機能は多く、魔術具の造形に長ける彼をもってしても一筋縄ではいかなかった。形が整ってからも要求された仕様を最高の形で満たすべく、何日も何日も再設計・再構築・微調整を繰り返した。そして一ヶ月の月日が経った頃、ついに彼の作品は完成した。
「ふふ、我ながら素晴らしい出来映えです」
 ラトスに表情があるのなら、とびきり晴れやかな顔だったろう。 後はこれをレチタティーヴォ様に引き渡し、晴れの舞台でお披露目する日まで待つのみ。ラトスがいそいそと梱包の準備を始めた頃、玄関から騒がしい音が聞こえてきた。
「なんだおめえ、面白いことしてるじゃねえか」
「貴方達は……」
 見覚えがある顔ぶれだ。確か王国の騎士団達だろう。
「妙なところで出会うものですね。確か貴方達は峠の向こうで活動していたはず。こんな戦略的価値の無い辺鄙な町に何の…」
「道に迷ったんだよ! 悪いか!? ぶっ殺すぞ!!!」
 歪虚もドン引きの理不尽ぶりに開いた口が塞がらない。
「な……なるほど、なるほど、それは奇遇でしたね。ですがここは物語の舞台裏。観客が覗いて良い場所ではありません」
 ラトスは気を取り直して、何も無い中空より自らの魔術具であるヴァイオリンを取り出した。人骨と人革で飾られたそれは見るからに禍々しい雰囲気を発している。騎士達は既に身構えていたが問題ない。拠点にした段階で不意の侵入者への対策は万全だ。詠唱も合図もなしに魔術は発動する。ちりんちりんと音をたてて幾つもの鈴が周囲に浮き上がり、鈴を起点に生成された半透明の赤い壁がラトスを円上に囲んだ。防壁と転移の魔術だ。防壁を破壊する頃には、転移は終了している。あとは口上を読み上げるだけ、ラトスが余裕たっぷりに会釈しようとした時、異変は起こった。稲妻が走るような音がした。聞きなれない音にラトスははっと顔を上げる。展開した魔術は雲散霧消していた。
「うぜえことするんじゃねえ」
「!?」
 詠唱省略のために用意した魔術具の鈴が破壊されていた。強化した鈴は剣で真っ二つにされるような強度ではない。ラトスはそこで気づいた。ダンテの剣が異様な光を放っていることに。魔剣だった。それも恐ろしく強力な。
「なんだ? もう余裕をなくしたのか? 通りすがりで悪いが、死んでもらうぜクソ骸骨」
 ラトスの周囲の空気が凍り付いていた。とうに彼の怒りは頂点に達している。こんなどうでも良いことで成果が一つ潰されようとしているのだ。受け入れることなど出来はしない。
「黙りなさい!! 御退場願いたいと、そう申し上げているのですよ!」
「!!」
 地中から白骨の壁が立ち上がる。わき上がった白骨は次々と人型の兵士となり、赤の隊に襲いかかった。以前にクロフェドが使ったものと同じ術だ。しかし赤の隊と蹴散らすには如何にも戦力不足。秘密裏の作業の為、手勢はほとんど連れてきていない。
「幕が上がるまで、表に出ないのが演者の礼儀。私はこれにて失礼させていただきますよ」
 ラトスは羽織っていたコートを、人らしい衣装を全てはぎ取った。体に至る所には大小複数の顔や口が配されている。腹と背中、両肩の顔はそれぞれ詠唱を始めた。人間には真似できない多重詠唱が、急速に魔術を紡いでいく。
「逃がすな! ぶち殺せ!!!」
 ダンテは白骨の兵隊に囲まれながらも一際大きい咆哮をあげた。赤の隊の騎士は続くように雄たけびをあげ、ラトスめがけて突撃を開始した。 

リプレイ本文

 ダンテが号令を下すと、赤の隊とハンター達は一斉に動き出した。骨壁に突撃するだけの赤の隊に対して、ハンター達は別々の配置に分かれていく。誰もが前に進む中、カナタ・ハテナ(ka2130)だけが人の波をかきわけ屋敷の外に走った。
「先に行ってて!」
「おい! どういう……」
 外で騎乗したまま待機していたアーサー・ホーガン(ka0471)だが、カナタを呼び戻すことはできなかった。作戦あってのことと信じよう。悩んでも仕方ない。アーサーは同じく騎乗していたクィーロ・ヴェリル(ka4122)と共に馬のまま屋敷に入った。戦闘が開始された庭の後列では弥勒 明影(ka0189)とヒースクリフ(ka1686)が骨の壁めがけ、仲間の頭越しに射撃を開始している。そして突撃の最前線にはウィンス・デイランダール(ka0039)の姿があった。
「なんだかわかんねーが、気にいらねえな。ぶっ潰すぜ!」
 赤の隊同様の単純明快な思考で槍をぶん回す。味方を巻き込まないか一瞬不安にはなったが、赤の隊は慣れたものでウィンスの間合いは確保してくれている。ウィンスは駆け寄りざま、速度を威力に転化した薙ぎ払いで骨壁をえぐった。アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)もウィンスに並び、骨壁の隙間をこじ開けるように刀をつきこんでいく。ヒースクリフも本来前衛として突撃する予定だったが、装備が重すぎて出遅れてしまっていた。そしてフェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)は騎士団との連携を確保するために、部隊長として機能しているジェフリー・ブラックバーン(kz0092)まで上申に向かっていた。
「ジェフリー副長、ここはハンターと騎士団で……」
「右翼薄いぞ! 損害に構うな! 突撃!!」
「今回は……」
「後続、ダンテ隊長を援護しろ!! で、どうした!?」
「骨壁の対処を……」
「そちらが突破したらそうしよう」
 話も終わらないうちに赤の隊は隊長から下級の騎士まで雄叫びをあげて骨の壁に突入していく。連携が望めないのではと不安になったが、そもそも最初からこうなのだ。臨機応変に隣の仲間を助ける程度の頭と、敵を恐れず闘う勇気は備えている。フェイルの考えは杞憂で終わるだろう。
(丁寧語使ったのは久しぶりだったが、しなくても良かったな……)
 覚悟をもって挑んでも、あっけなく全てが丸く収まってしまうこともある。脳筋の部下は見た目が違っても脳筋。次からはそう遇しよう。フェイルはそれだけ頭の片隅に叩き込んで、獲物である鞭と短刀を構えた。骨壁はそうこうするうちにもどんどん削れて行く。ラトスの頭の幾つかは詠唱を止め、骨壁に群がる人間に視線を向けた。
「品のない人たちですね。静かにしていただきましょう」
 ラトスがいびつなヴァイオリンで音を奏でる。直後、前衛の赤の隊の騎士の三割がばたばたと倒れ伏した。ハンター達にも正体はすぐに知れる。
「おい、しっかりしろ!」
 アーサーは落馬しそうになるクィーロの肩を掴む。効果範囲内に居たアーサーもだが、前衛は皆強烈な眠気に襲われていた。効果としてはスリープクラウドと同等かそれ以上。殺傷能力はないが骨壁から沸く骨の兵士を前にしては致命傷にもなりかねない。そしてもう一つ、今の魔術でハンター達の目論見が外れたことが明らかになった。
「……この音量でもそう減衰しないか」
 前回の戦闘では大弓「吼天」の音によって、ラトスの魔術を媒介する音を妨害した。その報告を覚えていたハンター達は今回もあり合わせとばかりに、思い思いに音を出した。赤の隊に負けじと咆哮する者、武器と武器を打ち鳴らす者、それぞれ工夫はこらした。しかし前回ほどの減衰は確認されなかった。後方の騎士達は影響が出ていないところを見ると、全く効果無しではないようだが、前衛にとっては気休めにしかならない。
「私共は音色を遠く届かせるため、日夜練習は欠かしておりません」
 つまり最低限は対策済み。厳しい戦いが予想されるが、策はそればかりではない。そして、ついに骨の壁が割れた。
「ハッ! 脆いな。お祈りは済んだか!?」
 壁の一部がこじ開けられるのと同時に、クィーロが馬の腹を蹴る。骨が集まって防ごうとする動きを馬の体当たりで蹴散らし、一番乗りとばかりにラトス目掛けて走り出す。同じくアーサーが続き、2騎が必殺の勢いでもってラトスに肉薄した。ラトスは木箱を守るように立ちふさがる。逃げても構わなかったが、それならそれで好都合だ。ラトスは弦を弓で弾く。同時に全身を重圧が襲うが、馬と共に強引にその楔に抗う。
「やってくれるぜ!」
 クィーロは馬で走り寄りながら、日本刀を大きく振りかぶった。
「なら、そいつはもらっていく!」
 クィーロの刀はラトスの腕、正確にはヴァイオリンの弓を狙う。ラトスはその攻撃を弓で受け、ガチッと木製の楽器にあるまじき音がした。
「何!?」
 金属を殴ったような感触だった。武器を落とすどころではない。危うく騎馬突撃の衝撃で武器を取り落とすところだった。交差するように飛び出たアーサーも反対側からグレートソードを振り下ろすが、これもヴァイオリン本体で受け止められてしまう。ヴァイオリンは2人の斬撃を難なく受け止めた。武器を弾かれた2人は次の攻撃を放つことはできず、そのまま駆け抜けて反転した。
「仕事道具の手入れを欠かさぬのは音楽家も同様ですよ」
 彼の楽器には傷一つついていない。先程の結界に使った鈴と同様、極限まで強度を高めてあるようだ。それを破壊したのはひとえにダンテの力あってのことか。
「口の減らないやつだな」
 ラトスの胴体を、弥勒の放った銃撃が捉えた。いつも使っているバリアはまだ発動していない。銃弾は十分に傷になる。ラトスは向きを変え、再び詠唱を切り替えた。ラトスの顔の一つが大きく歯を打ち鳴らす。すると弥勒と赤の隊を巻き込んで闇、としか言えない黒い物質が吹き上がった。闇は幾つもの腕となり赤の隊の騎士を、そして弥勒の生命力を奪い去る。
「ぐうう……!」
 弥勒は膝をついた。騎士達のように命を奪われることはなかったものの、もはや立っていることが出来ない。吹き上がった闇の中に動く者はないと思われたが、間一髪で避けたウィンスとアルトがラトスに走り寄る。ヒースクリフも攻撃を受けたが未だ健在で、フェイルに遅れつつも木箱を目指す。ウィンスとアルトが駆け抜けた2人に代わりラトスと切り結ぶ。2人の騎馬も反転を終え、再び騎馬突撃を仕掛けようと構える。ラトスの対応が飽和しそうになった頃、一つの銃声があらぬ方向から響いた。銃弾は木箱に命中している。ラトスが慌てて後方を振り向くと、銃をもったスケルトンマスクが一体。スケルトンではない。カナタだった。カナタは戦闘が始まった直後に塀を迂回し、全速力で反対側まで回り込んだ。そして正反対の位置に移動した彼女は、塀を登って射線を確保。ラトスの木箱を狙い撃ったのだ。正面ばかりと庭に動く敵ばかりに気を取られていたラトスは、怒りで腕が震えていた。
「貴方達はぁぁ!!」
 ラトスは詠唱した魔術を解き放つ。発動と同時に木箱が一瞬赤く光った。何事かといぶかった一同だが、フェイルの攻撃で状況が知れた。フェイルの鞭は木箱の側面に触れる前に、見えない障壁に遮られた。
「……君はさっきから小細工ばかり。つまらないことをしてくれるねえ」
 木箱の防御力はただの木から分厚い鉄板並に変わった。恐らく報告書に記載される防御魔法だ。幸い攻撃が全く効かないことはないが、これではまずい。壊しきることができなくなる。木箱を狙うフェイルとカナタは焦ったが、アルトはそうは思わなかった。
「なら、お前はまだ無防備なんだろ?」
 アルトの斬撃が後背より襲う。背中に目を持つラトスはそれを弓で再び受けるが、正面に鎮座したままのウィンスが放った槍を受けきることはできなかった。がしゃ、と骨が砕ける軽い音がして、ウィンスの槍はラトスに深々と突き刺さった。
「二度とその口、つかえなくしてやるぜ」
 ウィンスはラトスの体を振り回そうと思ったが、意外なまでに重かった。見た目通りでないのは武器だけではないのだろう。
「急ぐかの」
 カナタは立て続けにライフルで木箱を撃った。フェイルと追いついたヒースクリフも全力で木箱を滅多打ちにする。いつ転移の魔術が発動するかわからない。木箱へのダメージは十分通ってはいるようだが、中身の位置も形状もわからないので中身への被害は確認できない。粉微塵にするという意味では超重練成で巨大化したMURASAMEブレイドだけが頼りだ。
「カナタ、逃げろ!」
 フェイルが叫んだ。しかし間に合わず、ラトスの魔術がカナタのいた近辺を吹き飛ばした。守る者の居ない射手は脆い。射線が通ったことで危険視されたカナタはラトスの魔術の直撃を受ける。一度は耐えたものの2発は耐え切れず、塀の向こうへと落ちていった。木箱を狙う仲間が減った。クィーロが代わりに木箱を破壊しようと狙いをつけるが、ラトスはそれを見逃さない。再び重圧がクィーロを襲う。今度は一撃に耐えることができず、頭を抑えたまま落馬した。乗り手を失った馬が虚しく駆け抜ける。ラトスは次の一撃で殺しにかかるかと思えたが、ウィンスとアルトが強引に攻めかかり、その攻撃を阻止した。同時にラトスはそれ以上動けない人間に固執する理由も無かった。
「残念でしたね」
 ラトスはアルトに切りつけられながらも、笑い声をあげる。破壊されながら詠唱を続けていた口が、また大きく歯を打ち鳴らした。魔術は完成し、木箱は一瞬のうちに転移した。
「……壊せたか?」
 フェイルは執拗に木箱を攻撃していたが、何一つ確信をもてなかった。銃弾、鞭、刀によりいくつかの穴や傷を作りはしたが緩衝材の破壊までしか確認できていない。中身をどれだけ破壊できたかは不明だ。
「……ククククク」
 ラトスは笑っていた。骸骨の眼窩に残る青い火が、怪しく揺らめいている。何故笑うのか。理由は確認できなかったが推測はできる。彼の仕事は終わったのだ。
「では、今度こそ私めの前奏をお聞きいただきましょう」
「上等だぜ。最後まで遊んでやるさ!」
 クィーロが吼え、再び戦端が開かれた。ラトスの詠唱の負担が減ったことで戦闘は更に激化した。当初こそラトスに被害を与えたハンター達だが、ラトスを攻めきることはできなかった。攻撃がかみ合わないのだ。速度に物を言わせ、爆風から身を守るアルト。正面から向かい合い槍の連撃で着実にラトスの身を削るウィンス。それを合間から鞭で狙うフェイル。銃撃で追随するヒースクリフ。騎馬で距離を保ち、ヒット&アウェイを繰り返すアーサーとクィーロ。仲間の攻撃は前衛3人、騎馬の2人、射撃の1名で噛み合わなかった。前衛3者は間合いの広さ、足の早さで場所をとる。この上で騎馬突撃を敢行すれば引いてしまう危険性があり、かといって事前に距離を取ればラトスに逃げる隙を猶予を与えてしまう。前に立つ2グループが速度も間合いも動きも違うとなれば、後方で射線を取れなかったヒースクリフは誤射を恐れて攻撃を手控えてしまう。前衛に混じるには場所が足りず、高所を取り射線を確保出来ても、庭を狙うには拳銃では射程が足りない。武器と戦い方の差が互いの良さを殺している。それぞれが個人の最適を突き詰めたことで、全体の最適化を図るだけの冗長性を失っていた。他にも幾つか誤算もあった。騎馬の2人はヒット&アウェイでラトスの魔法の半径を抜けようとしたが、何度やっても何度逃げても失敗に終わった。攻撃の中でメンバーが近づくたびに範囲魔法でダメージを受けた。攻撃を受けたアーサーとクィーロが感じたのは、まさしく魔術師との戦いだった。騎士団の後方に被害が無いことを判断すれば、射程も効果範囲もほぼ同様。2人の乗る馬が例え名馬ゴースロンであったとしても、この戦法を完遂することは不可能だ。この攻撃を逃れつつ打撃を行えるのは、弓による遠距離攻撃以外には無いだろう。ケーキや蜂蜜など、行軍時のおやつを投げて汚してやろうという画策もあったが、ラトスの動きは俊敏で、とてもではないが意図した場所に命中させられる気がしない。片手を開ける時間の分だけ時を浪費するだけだろうと実行はされなかった。
 いくつかの不都合はあったが、それでもなおハンターは強かった。
 ラトスが時間一杯まで逃げ続ける算段で無ければ、この作戦で十分にラトスを殺せただろう。骨壁のほとんどが消失し、ダンテが群がる兵隊を全て蹴散らす頃には、ラトスは満身創痍であった。骨が組み合わさった体は血を流しはしないが、最初に比べれば動きは鈍くなっている。ラトスが後方へ小さく跳び、弓を弦に当て構える。ウィンスは次の一撃を警戒して受けの構えを取るが、ラトスからの攻撃は無かった。同じ動作をしたアルトも被害はなく、怪訝な顔でラトスを囲んでいる。隙は無い。しかし攻撃のチャンスではなかった。
「前座は即興演奏と相成りましたが、楽しんでいただけましたでしょうか?」
「大ブーイングだ、下手糞」
 ウィンスは呼吸を整えながら、槍を油断なく構えている。ラトスの楽器は半壊となり、腕の片方はもげかけている。胸には大きな穴が幾つも空いている。到底無事には見えない。だがラトスには過剰な演技をする余裕があった。術式が完成したのだ。
「しかし、こんな間抜けな役者が部下じゃ上司も大変だな。いや、レチタティーヴォもその程度なのか?」
 ラトスは表情のない顔をあげる。怒りはあったかもしれないが、その声には何もない。
「心揺さぶる演奏をいずれ皆様にお聞かせしましょう。今宵の夢はここまで。さらば」
 変化は一瞬だった。ラトスはまばたきの間に文字通り消えた。後に残ったのは骨の残骸のみ。ウィンスは「くそっ!」と悪態をつきながら槍を地面に突き刺した。他のハンターも赤の隊の騎士達も、一様に息をあらげている。後一歩を攻め切れなかったことが、無念でならなかった。
「……よくやった。作戦もクソもねえ状態であそこまであいつを追い詰めたんだ、充分な戦果だろうよ。……ハ、何の問題もねえ。奴は次に殺す」
 この状況の中で良くやった。それは事実だろう。だがダンテの言葉は、それでも慰めにはならなかった。戦闘の興奮が冷めた後に彼らの脳裏に過ぎったのは辺境での悪意に満ちた演出だった。次は何をたくらんでいるのか。彼らの手を潰せなかったことが、後にどういう意味を持つのか。今は誰1人として、敵の企みをはかることはできなかった。

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MVP一覧

  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダールka0039
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109

重体一覧

  • 輝きを求める者
    弥勒 明影ka0189
  • 猫の守り神
    カナタ・ハテナka2130

参加者一覧

  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダール(ka0039
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 輝きを求める者
    弥勒 明影(ka0189
    人間(蒼)|17才|男性|霊闘士
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 絆の雷撃
    ヒースクリフ(ka1686
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 猫の守り神
    カナタ・ハテナ(ka2130
    人間(蒼)|12才|女性|聖導士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 差し出されし手を掴む風翼
    クィーロ・ヴェリル(ka4122
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • 狂喜の探求者
    フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808
    人間(紅)|35才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/06/25 20:04:31
アイコン 作戦相談所
カナタ・ハテナ(ka2130
人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/06/30 05:58:36
アイコン 質問卓
カナタ・ハテナ(ka2130
人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/06/24 19:36:12