ゲスト
(ka0000)
子供たちの冒険
マスター:鳴海惣流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/01 22:00
- 完成日
- 2015/07/04 14:32
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●発端
「俺たちも行ってみようぜ!」
村長の家へ遊びに来ていたアルが、叫ぶように言った。隣のジョンも頷く。二人はお互いに十歳で、とても仲が良い。
二人が日々を過ごす村では過去、大人になるための儀式があった。村の近くにある自然洞窟へ入り、奥に転がってる石を拾ってくるというものだ。
石自体には何の値打ちもない。単純に村の近くにある石より色が濃いので、奥まで行ってきた証拠になるだけだった。
村長から話を聞いたアルは、途端に行きたがった。
村長宅を出てジョンと別れ、自宅に戻る。
台所で夕食の準備をしている母親に、早速出かけてもいいかを尋ねる。
「ジョンと一緒に、村の近くの洞窟へ行ってもいいだろ」
村長から聞いた儀式のことも、きちんと説明した上でのお願いだった。
「何を言ってるのよ。私も前に聞いた記憶があるけれど、その儀式が実際に行われていたのは、村長が生まれるよりもずっと昔なのよ。どうして、あなたがする必要があるの」
「決まってるだろ。勇気をつけるためさ!」
親として我が子の希望は叶えてあげたいが、危険な目にあわせたくない。
返事を保留し、夫が帰宅した夜に相談する。
「子供、ましてや男の子とくれば、色々と冒険したがるもんさ。危険だと思ったら、引き返すように言っておけばいいだろ」
父親という味方を得たことにより、ますますアルは乗り気になる。
一方で母親は、どうしても不安を覚えてしまう。
そこで母親は自分の弟に、自然洞窟の下見をしてほしいとお願いした。
●報告
翌日の夜になって、下見を終えた弟が、姉であるアルの母親の家にやってきた。
夫がひとり息子のアルと遊んでくれてる間に、弟から下見の報告をしてもらう。
「人がかなりの年月入っていないからか、不気味な感じがしたよ。それはともかく、入ってすぐに段差のある床があった。三十センチから五十センチほどの長さだったかな。一段だけくぼみのようになってて、危うく転びそうになったよ。滑りやすいのもあったしね。小さな橋というか、足場みたいなものがあれば、比較的安全に通れるかもしれないな」
弟は可能な限り、細部まで見てきてくれたようだ。
ありがたく思いながら、続きを促す。
「さらに進んでいくと、本格的に洞窟の中へ入る。入口から遠くなって、日の光も完全に届かなくなる。真っ暗闇といった感じで、手元の明かりだけでは心もとなかったよ。ランプでも備え付けてあれば、足元も照らされるだろうから、だいぶ歩きやすくなると思うけどな」
ひと呼吸置いてから、弟は一番奥の説明に入る。
「あとは石のある一番奥までいくだけだ。入口からここまでは、一方通行だから迷う心配はない。大人四人か五人が、並んで入れる広さもあるしな。ただ、石のある場所で不気味な影を見た。大体、一メートル二十センチくらいかな。コボルドかと思ったが、奴らよりはがっしりした体格だったような気がする。すまない。恐怖を覚えたんで、すぐに逃げてきちまったんだ。姿だけでも確認できればよかったが、闇に紛れていたせいでそれも難しかった。今日だけたまたま居たという感じじゃなかったが、昔から居ついていたようにも思えない。正体は不明だが、子供たちで冒険させるのは危険だ。誰も中に入ったりしてなかった間に、害のある存在が住みついたとしても不思議はないからな」
弟の報告を聞き終えて、アルの母親はますます怖くなった。
アルにやめるように言ったが、逃げれば大丈夫などと言って頷いてくれない。
アルの父親になる夫も味方をしてくれたものの、愛息子は完全に諦めていないようだった。
親の権力で強引に冒険計画を中止させても、不在の隙をついて勝手に行かれてしまっては意味がない。
仮にコボルドみたいな敵対的亜人がいるとなれば、大人の男性に同行を頼んでも安全とは言いきれなくなる。
アルはジョンと二人で冒険したがってるので、大人の同行を了承してくれないだろう。
そこでアルの母親は夫と相談し、ハンターへ依頼を出すことにした。愛する息子とその友人に安全な冒険をさせてあげるために。
●依頼
ハンターオフィスに、アルの母親から正式に依頼が届けられた。
依頼を請けてくれるハンターに求めるのは、洞窟内の安全の確保。担当者が詳細な説明をする。
「依頼者が危険だと思っているポイントは三つ。洞窟を入ってすぐの段差のある床。ここは入口から日の光が幾らか届いているので、比較的足元は見やすいそうです。次に中腹から最奥にかけての強い暗闇の解消。子供たちはランプを持って入るそうですが、それだけでは物足りなくなってくるそうです。他にも明かりが必要なのは、中腹から最奥までのおよそ百メートル。今回の現場となる自然洞窟の全長が二百メートル程度なので、およそ半分となりますね。ちなみに高さはニメートル程度だそうです。足元が見える程度の明かりであれば、洞窟の横幅はかなりあるので問題ないそうです。なおハンターが依頼解決後には子供たちの冒険に許可を出すそうなので、明かりを設置するにしても、数日程度持てば大丈夫とのことでした」
本来なら最奥の部分を照らす必要はないのかもしれませんが。
そう言ったあとで、担当者は最後のポイントについて話してくれる。
「個人的な意見ですが、三つめが一番大きな問題になると思います。下見をした男性が、異形の存在を目撃したそうです。身長はおよそ一メートル二十センチ。言語は確認できなかったが、獣のような鳴き声も聞こえなかった。下見した男性によれば、コボルドではないだろうとのこと。以上の情報を考慮してデータベースと照らし合わせた結果、自然洞窟の最奥に潜んでいるのはゴブリンの可能性がもっとも高そうです。潜んでる闇を照らす明かりを設置していくのであれば、当然のように戦闘になるでしょう。準備を怠らないようにしてください」
「俺たちも行ってみようぜ!」
村長の家へ遊びに来ていたアルが、叫ぶように言った。隣のジョンも頷く。二人はお互いに十歳で、とても仲が良い。
二人が日々を過ごす村では過去、大人になるための儀式があった。村の近くにある自然洞窟へ入り、奥に転がってる石を拾ってくるというものだ。
石自体には何の値打ちもない。単純に村の近くにある石より色が濃いので、奥まで行ってきた証拠になるだけだった。
村長から話を聞いたアルは、途端に行きたがった。
村長宅を出てジョンと別れ、自宅に戻る。
台所で夕食の準備をしている母親に、早速出かけてもいいかを尋ねる。
「ジョンと一緒に、村の近くの洞窟へ行ってもいいだろ」
村長から聞いた儀式のことも、きちんと説明した上でのお願いだった。
「何を言ってるのよ。私も前に聞いた記憶があるけれど、その儀式が実際に行われていたのは、村長が生まれるよりもずっと昔なのよ。どうして、あなたがする必要があるの」
「決まってるだろ。勇気をつけるためさ!」
親として我が子の希望は叶えてあげたいが、危険な目にあわせたくない。
返事を保留し、夫が帰宅した夜に相談する。
「子供、ましてや男の子とくれば、色々と冒険したがるもんさ。危険だと思ったら、引き返すように言っておけばいいだろ」
父親という味方を得たことにより、ますますアルは乗り気になる。
一方で母親は、どうしても不安を覚えてしまう。
そこで母親は自分の弟に、自然洞窟の下見をしてほしいとお願いした。
●報告
翌日の夜になって、下見を終えた弟が、姉であるアルの母親の家にやってきた。
夫がひとり息子のアルと遊んでくれてる間に、弟から下見の報告をしてもらう。
「人がかなりの年月入っていないからか、不気味な感じがしたよ。それはともかく、入ってすぐに段差のある床があった。三十センチから五十センチほどの長さだったかな。一段だけくぼみのようになってて、危うく転びそうになったよ。滑りやすいのもあったしね。小さな橋というか、足場みたいなものがあれば、比較的安全に通れるかもしれないな」
弟は可能な限り、細部まで見てきてくれたようだ。
ありがたく思いながら、続きを促す。
「さらに進んでいくと、本格的に洞窟の中へ入る。入口から遠くなって、日の光も完全に届かなくなる。真っ暗闇といった感じで、手元の明かりだけでは心もとなかったよ。ランプでも備え付けてあれば、足元も照らされるだろうから、だいぶ歩きやすくなると思うけどな」
ひと呼吸置いてから、弟は一番奥の説明に入る。
「あとは石のある一番奥までいくだけだ。入口からここまでは、一方通行だから迷う心配はない。大人四人か五人が、並んで入れる広さもあるしな。ただ、石のある場所で不気味な影を見た。大体、一メートル二十センチくらいかな。コボルドかと思ったが、奴らよりはがっしりした体格だったような気がする。すまない。恐怖を覚えたんで、すぐに逃げてきちまったんだ。姿だけでも確認できればよかったが、闇に紛れていたせいでそれも難しかった。今日だけたまたま居たという感じじゃなかったが、昔から居ついていたようにも思えない。正体は不明だが、子供たちで冒険させるのは危険だ。誰も中に入ったりしてなかった間に、害のある存在が住みついたとしても不思議はないからな」
弟の報告を聞き終えて、アルの母親はますます怖くなった。
アルにやめるように言ったが、逃げれば大丈夫などと言って頷いてくれない。
アルの父親になる夫も味方をしてくれたものの、愛息子は完全に諦めていないようだった。
親の権力で強引に冒険計画を中止させても、不在の隙をついて勝手に行かれてしまっては意味がない。
仮にコボルドみたいな敵対的亜人がいるとなれば、大人の男性に同行を頼んでも安全とは言いきれなくなる。
アルはジョンと二人で冒険したがってるので、大人の同行を了承してくれないだろう。
そこでアルの母親は夫と相談し、ハンターへ依頼を出すことにした。愛する息子とその友人に安全な冒険をさせてあげるために。
●依頼
ハンターオフィスに、アルの母親から正式に依頼が届けられた。
依頼を請けてくれるハンターに求めるのは、洞窟内の安全の確保。担当者が詳細な説明をする。
「依頼者が危険だと思っているポイントは三つ。洞窟を入ってすぐの段差のある床。ここは入口から日の光が幾らか届いているので、比較的足元は見やすいそうです。次に中腹から最奥にかけての強い暗闇の解消。子供たちはランプを持って入るそうですが、それだけでは物足りなくなってくるそうです。他にも明かりが必要なのは、中腹から最奥までのおよそ百メートル。今回の現場となる自然洞窟の全長が二百メートル程度なので、およそ半分となりますね。ちなみに高さはニメートル程度だそうです。足元が見える程度の明かりであれば、洞窟の横幅はかなりあるので問題ないそうです。なおハンターが依頼解決後には子供たちの冒険に許可を出すそうなので、明かりを設置するにしても、数日程度持てば大丈夫とのことでした」
本来なら最奥の部分を照らす必要はないのかもしれませんが。
そう言ったあとで、担当者は最後のポイントについて話してくれる。
「個人的な意見ですが、三つめが一番大きな問題になると思います。下見をした男性が、異形の存在を目撃したそうです。身長はおよそ一メートル二十センチ。言語は確認できなかったが、獣のような鳴き声も聞こえなかった。下見した男性によれば、コボルドではないだろうとのこと。以上の情報を考慮してデータベースと照らし合わせた結果、自然洞窟の最奥に潜んでいるのはゴブリンの可能性がもっとも高そうです。潜んでる闇を照らす明かりを設置していくのであれば、当然のように戦闘になるでしょう。準備を怠らないようにしてください」
リプレイ本文
●村へ到着
アルの母親に会った一行は、次に弟を紹介してもらった。下見した際の情報を、改めて聞くためだ。。
村へ滞在する間は、弟の家へ厄介になるのも決まった。
「ふむん。男の子は冒険が好きだのう。敵対的亜人の事を除いて過保護のようにも見えるが、たしかに怪我をされるよりはマシなのじゃ」
早速とばかりに、紅薔薇(ka4766)は弟の家で簡単な地図を作製した。
地図を置いたテーブルを全員で囲み、洞窟内をどのようにしていくかを練る。
「子供たちだけで、長年誰も足を踏み入れていなかった洞窟へ入りたがるとは……冒険には危険が付きモノですが、無謀はいけないですね」
そう言ったリチャード・バートン(ka3303)の隣で、レイ・T・ベッドフォード(ka2398)が優しく微笑んだ。
「ふふ、勇気の証明、ですか。私自身は幼年のころの記憶がありませんから……微笑ましいですね。あの子たちに、とっておきの思い出となる試練を、用意してあげたいですね」
藍紗(ka4782)が同意の頷きをする。
「男の子ならば、少々腕白なぐらいが丁度良い。道場の子達を思い出すでござるよ。無謀さを知らぬ年頃ゆえ、正しき道に導くのも大人の務めでござる」
最初の段差のある地点については、平たくて高さの揃った石を、跳び石となるように設置していくことで決定。
実際に下見をした弟も一緒に話を聞いてる中、シャルル=L=カリラ(ka4262)が瞳を輝かせる。
「冒険! 男の浪漫! 良いじゃないカ! 少し位は危険な方が、教訓となって僕は良いと思うけどナー。ま、親の立場だと、そうもいかないヨネ」
「やれやれ。ま、一応教師やし。ガキの面倒みるんは義務やろ、義務」
軽く肩をすくめて、真龍寺 凱(ka4153)がため息をついた。
言動や態度だけなら辟易してるように見えるが、どことなく嬉しそうでもある。リアルブルーで中高一貫校の教師をしていただけに、基本は子供好きなのだろう。
「皆も言ってたが、洞窟の中腹から奥にかけては、ランプを設置するのが一番だろうな。十一個程のランタンと、補給用の灯油を用意してもらえれば助かる」
柊 真司(ka0705)が弟に頼んだ。
明日までには準備すると言ってもらえた。飛び石についても同様だ。
今日はこのまま弟の家で休ませてもらい、明日に備えることとなった。
●洞窟へ出発
朝になり、食事をとったあとで一行は弟の家を出る。
大きめの袋に、ランプや飛び石などを詰め込んだ。中身を出したあとは、ゴブリンの遺体回収用に使うつもりだった。
洞窟の側まで案内してくれる予定の弟が、外へ出るなり「ん?」と言った。
それぞれの耳に子供の声が届いてくる。
「アルの声です。皆さんの準備が終わるまで、洞窟に近づかないでいてくれるといいのですが……」
困り顔の弟に、任せてくださいとばかりに藍紗が胸を張る。
「アル殿やジョン殿の相手は、それがしに任せるでござる。例え悪ガキであったとしても、軽くあしらえるでござるよ」
「なら、二組に分かれたほうがいいかもしれないな」
柊の提案に、全員が頷いた。
「なら、俺もガキどもの相手をするか」
藍紗に真龍寺が同行する。
それ以外の四人は、子供たちの気を引いてもらってる隙に洞窟へ向かう。
●アルとジョン
藍紗と真龍寺は、村の中央方面――洞窟とは真逆の方向に歩いて、二人の子供を見つけた。
お互いの名前を呼ぶ声が聞こえる。どうやら、この二人がアルとジョンで間違いないようだ。
軽く右手を上げながら、真龍寺は最初から親密そうな態度で子供たちに声をかけた。
「おー、坊主達。お前らの父ちゃんに聞いたぞ。これから冒険行くんやろ? やったら、ちゃんと準備していかんないけんよ!」
「え? お兄ちゃん、誰?」
きょとんとするアルに、今度は藍紗が話しかける。
「それがしと真龍寺殿は、旅の途中でこの村に立ち寄ったハンターでござる」
ハンターのひと言に、好奇心旺盛なアルが反応する。
「聞いたか、ジョン。ハンターだって!」
藍紗と真龍寺が改めて自己紹介をすると、人懐っこい笑顔でアルも名前を教えてくれた。
アルの背中に隠れていたジョンも、真龍寺と藍紗が悪い人間ではなさそうだと知ると、口をきいてくれるようになった。
「アル殿はハンターに興味があるようでござるな。よければ、それがしが剣の稽古をつけてあげてもいいでござるよ」
「本当!?」
アルが瞳を輝かせる。
真龍寺が適当な木の棒を拾い、アルとジョンに持たせる。
剣の稽古をつけるだけでなく、冒険の話とかも聞かせてやれば、結構な時間を稼げるはずだ。
●段差の解消
真龍寺と藍紗がアルたちを引き受けてくれている間に、他の四名はアルの母親の弟の案内で洞窟へ到着していた。
戦闘の可能性を考慮して、弟には帰村してもらった。
場に残った五名で、行動を開始する。
「自分が殿を務めます。子供たちが追いかけてきた場合や、敵が入口へ向けて逃げようとした際に対応します」
リチャードが最後尾へ下がると同時に、柊が先頭へ立った。
「俺が先に行こう。それにしても、冒険に危険は付き物だと思うんだがな。これも親心ってやつかねぇ? ……ともあれ、ゴブリンは危険だ。さっさと排除するか」
洞窟へ入るとすぐに、段差のあるところを発見する。
「ここに飛び石を置けばよいのう。滑ったり怪我をしないよう、ハンマーで削るのじゃ」
紅薔薇の隣に、レイがしゃがみ込む。
「低い位置に水溜りを作れば、飛び越えてくださるでしょうか? 軽く湿るくらいでも、十分に楽しめ――いえ、飛び石として使えると思いますし」
「それは面白いかもしれないネ! せっかくの冒険なんダ。危険を身体で覚えるのも、悪くないヨ」
シャルルもノリノリになる一方で、柊はひとりで先を目指そうとする。
「全員で飛び石を並べていても仕方ないだろう。俺はひと足先に中間地点へ向かう。用意してもらったランプを、十メートル間隔で一個ずつ設置していくつもりだ」
「では洞窟の入口付近に、この洞窟を進む者は闇の中で新たなる光をともせ、と書いた看板を立てておこうかのう」
なるほどと、レイが紅薔薇の発言に感心する。
「謎解きみたいにしておくのですね。子供たちの冒険心をくすぐりそうです。壁や足元に絵でもあれば、さらに雰囲気がでそうですね」
「あまり時間をかけすぎるわけにもいきません。子供たちが、やってきたら大変です」
リチャードの真面目な発言のあと、柊の背中を見送った紅薔薇が看板の作成を行う。
レイとシャルルは、子供たちのために飛び石を置いていく。
リチャードは入口付近で待機中だ。周囲を警戒してくれてるので、何か異変が起きればすぐにわかる。
段差への対処が終わったところで、先に行った柊を追いかけようという話になる。
全員が賛成するだろうと思いきや、シャルルだけは頷かなかった。
「皆の作戦に従って行動……と言いたいけど、僕は一度、藍紗たちのところへ戻るヨ。そろそろ会話や手合せに、飽きてるかもしれないからネ」
●再びアルとジョン
村の中では、真龍寺と藍紗がアルたちに剣の稽古をつけている真っ最中だった。
基礎体力が必要だと説明し、手ごろな大きさの木の棒を使って素振りを百回ほどさせる。
「最初はゆっくりで良いでござるから、教えた型をしっかりと意識するでござるよ。勢い任せに振るだけではダメダメっ♪ でござるよ」
藍紗が教えているのはジョンだ。
子供にとっては厳しめの稽古を、黙々とこなす。
近くでは真龍寺が、実戦形式でアルに稽古をつけていた。
基礎はもちろん大事だが、アルの性格上、すぐに飽きかねないと判断した。
それならば、実戦形式で遊びがてら、鍛えてやるのが一番だ。
真龍寺の目論みどおり、アルは半ばムキになりながら木の棒を振ってくる。
「おお、いい感じやな。ほら、もっと強く打ち込んでこい」
素振りの音と、木の棒の打ち合う音が交互に響く。
やがてジョンとアルが、疲れた様子で地面に座り込んだ。
「二人とも頑張ったでござるな。では、休憩でござるよ。冷たい麦茶と、それがし特製のおはぎで体力回復でござる♪」
休憩の準備をするため、藍紗が背を向けた瞬間に、アルは目を光らせた。
「おい、ジョン。洞窟へ行くぞ。さっき、叔父さんがこっそり村へ戻ってくるのを見たんだ。きっと、洞窟で何かやってたんだぜ」
「え? じゃ、じゃあ、ハンターの人たちに……」
「いいから、来いって。二人がこっちを見てない今が、チャンスなんだからさ」
「わ、わかったよ。行くから、そんなに引っ張らないでよー」
アルは上手く真龍寺と藍紗の目を盗んだつもりでも、ハンターたちが子供の行動を見抜けないはずもなかった。
「行っちまったぞ。すぐ、追いかけるんやろ?」
「うむ。あの年頃の男子の考えることは、皆同じでござるな。後をこっそりつけていくでござる」
もしかしなくとも、アルとジョンが向かった先は例の洞窟だ。
「ほら、ジョン。早く来いって」
真っ直ぐに洞窟へやってきたアルは、待ちきれないとばかりに中へ入った。
「なんか看板があるぞ」
紅薔薇が立てた看板に気づいたアルは、書かれている一文を読んで歓声を上げた。
「何だか知らないけど、凄く面白そうだ。早く行ってみよう」
「うんうん。面白そうだヨネ!」
ジョンではない声にギョっとしたアルが振り向くと、そこにはシャルルが立っていた。
「やあ。君はアルだヨネ? まいったヨ。色々と考えてたのに、姿を見つけるなり、走り出しちゃうんだからネ」
楽器演奏などで興味を惹き、洞窟のことを忘れさせようとしたのだが、タイミング悪く間に合わなかった。
洞窟へ向かってるなら仕方ないと割り切り、あとをつけてきたのである。
シャルルがハンターだと自己紹介してるうちに、真龍寺と藍紗も洞窟へ到着した。
「せっかくだ。今から冒険するか」
●ランプの設置とゴブリン退治
先行した柊が、壁にランプを設置していく。
ゴブリンへの警戒も怠らない。単独行動中に油断して、不意をつかれたら大変だ。
設置が大体終わった頃には、後続の紅薔薇たちもやってきた。
だが、ここまでで、ゴブリンには遭遇していない。
「奴は、どこに隠れているんだ」
柊が言った時、殿を務めているリチャードが「ん?」と眉をひそめた。
レイが「どうかしたのですか」と尋ねる。
「人の気配がします。自分たち以外の何者かが、洞窟へ入ってきたようです」
「恐らくは子供たちじゃろうな。まだゴブリンの件が片付いてないというのに、厄介なことじゃ」
紅薔薇がため息をついた。
柊も含めた四人が、もう少しで洞窟の最奥に到着するという時だった。
わずかに残っていた闇から、投石が行われた。
不意打ち気味になったものの、警戒していた柊が手に持つ刀でゴブリンが投じたと思われる石を弾き返した。
「敵は斜め前方、およそ五メートル程度の先に潜伏してるもようです!」
最後尾にいるリチャードが声を張り上げた。
真っ先に反応したのはレイだ。
「……あなたにとっては不運、かもしれませんが……ここで、果ててくださいませ」
再びの投石に一切怯まず、直進しながら雷神斧で石ごとゴブリンを斬り捨てようとする。
「あまり、汚しすぎないようにしなくては、ですが――大丈夫です。私が後で掃除いたしますから」
闇に潜むゴブリンを肉眼で確認した矢先、実力差を本能で察したゴブリンが全力で逃げようとした。
「逃がすかよ!」
ジェットブーツで一気に距離を詰めた柊が、一度鞘に収めた武器を抜刀して斬りかかる。
ゴブリンの構える槍をかわし、草鎧の上から胴を払う。
悲鳴を上げたゴブリンが、地面の上をのたうちまわる。あとはとどめを刺すだけだ。
誰もが勝利を確信しかけた瞬間、唐突に洞窟内が明るくなった。
設置してきたランプを、誰かが使ったのだ。予想はしていたものの、突然だったせいでハンターたちは虚をつかれた形になった。
この機会を逃すまいと、ゴブリンがダッシュする。明かりを目印とするかのように、そちらへ向かう。
そして、悲鳴が上がる。
苦悶しながら走るゴブリンの形相を見たアルが、腰を抜かしてしまったのだ。
「ア、アル!? 早く立ってよ!」
「うあ、あ……足が震えて……た、立てないんだ。お、お前だけでも、逃げろ、ジョン」
「……嫌だよ、そんなの! アルが動けないなら、僕が守る!」
持ってきた木の棒を両手に、ジョンが一歩だけ前へ進み出る。
「アル殿は、ジョン殿の兄の様な存在なのでしょう。守ろうとする心意気は立派ですが、無謀と勇気は違います。時には、誰かに頼るのことも大切です」
殿で不測の事態に備えていたリチャードが、子供たちの前に立つ。
向かってくる敵に対し、飛燕からのスラッシュエッジで着実にダメージを与える。
アルとジョンに同行していた真龍寺と藍紗、それにシャルルもゴブリン退治より子供たちの保護を優先する。
「僕が防御障壁で守ってあげるから、怖がらなくても大丈夫だヨ!」
入口方面には逃げられないと察したゴブリンが、再び奥の方を目指して走る。
一番手で後を追うのは紅薔薇だ。
「すまんが、その子たちを頼むのじゃ。妾はあのゴブリンを追いかけるのじゃ!」
手負いのゴブリンが逃げ切れるはずもなく、行き止まり近くでこちらへ向き直る。
観念してくれれば楽なのだが、ゴブリンは目を吊り上げながら手に持つ槍で紅薔薇に挑んでくる。
「ここで決着をつけさせてもらうのじゃ」
呼吸を整え、精神を統一してから、相手に対して半身の姿勢で刀を構える。
槍の射程範囲外から一気に間合いを詰め、すでに傷をつけられている胴部分にとどめの一撃を放つ。
紅薔薇の一撃が致命傷となり、ゴブリンはその場で息絶えた。
「さて、子供たちへ見せるのが躊躇われるものを袋へ入れてしまいましょう」
レイが手際よく、後片付けをする。
直後に子供たちが、震える足取りで洞窟の最奥までやってきた。
怯えながらではあったものの、奥の地面にある石をアルが手に取った。
まじまじと見たあとで、アルは「ほら」とジョンに石を差し出した。
「この石はお前に相応しいよ。俺より、ジョンの方がずっと勇気があったもんな」
「そ、そんなことないよ」
石ならまだたくさん転がっているのだから、二人で仲良く持って帰ればいいのに、アルとジョンは石の譲り合いを続ける。
そんな子供たちの光景を見ながら、ハンターたちは優しく微笑む。
計画していたのとは違った冒険になってしまったが、子供たちにとっては一生忘れられない思い出になったはずだ。
アルの母親に会った一行は、次に弟を紹介してもらった。下見した際の情報を、改めて聞くためだ。。
村へ滞在する間は、弟の家へ厄介になるのも決まった。
「ふむん。男の子は冒険が好きだのう。敵対的亜人の事を除いて過保護のようにも見えるが、たしかに怪我をされるよりはマシなのじゃ」
早速とばかりに、紅薔薇(ka4766)は弟の家で簡単な地図を作製した。
地図を置いたテーブルを全員で囲み、洞窟内をどのようにしていくかを練る。
「子供たちだけで、長年誰も足を踏み入れていなかった洞窟へ入りたがるとは……冒険には危険が付きモノですが、無謀はいけないですね」
そう言ったリチャード・バートン(ka3303)の隣で、レイ・T・ベッドフォード(ka2398)が優しく微笑んだ。
「ふふ、勇気の証明、ですか。私自身は幼年のころの記憶がありませんから……微笑ましいですね。あの子たちに、とっておきの思い出となる試練を、用意してあげたいですね」
藍紗(ka4782)が同意の頷きをする。
「男の子ならば、少々腕白なぐらいが丁度良い。道場の子達を思い出すでござるよ。無謀さを知らぬ年頃ゆえ、正しき道に導くのも大人の務めでござる」
最初の段差のある地点については、平たくて高さの揃った石を、跳び石となるように設置していくことで決定。
実際に下見をした弟も一緒に話を聞いてる中、シャルル=L=カリラ(ka4262)が瞳を輝かせる。
「冒険! 男の浪漫! 良いじゃないカ! 少し位は危険な方が、教訓となって僕は良いと思うけどナー。ま、親の立場だと、そうもいかないヨネ」
「やれやれ。ま、一応教師やし。ガキの面倒みるんは義務やろ、義務」
軽く肩をすくめて、真龍寺 凱(ka4153)がため息をついた。
言動や態度だけなら辟易してるように見えるが、どことなく嬉しそうでもある。リアルブルーで中高一貫校の教師をしていただけに、基本は子供好きなのだろう。
「皆も言ってたが、洞窟の中腹から奥にかけては、ランプを設置するのが一番だろうな。十一個程のランタンと、補給用の灯油を用意してもらえれば助かる」
柊 真司(ka0705)が弟に頼んだ。
明日までには準備すると言ってもらえた。飛び石についても同様だ。
今日はこのまま弟の家で休ませてもらい、明日に備えることとなった。
●洞窟へ出発
朝になり、食事をとったあとで一行は弟の家を出る。
大きめの袋に、ランプや飛び石などを詰め込んだ。中身を出したあとは、ゴブリンの遺体回収用に使うつもりだった。
洞窟の側まで案内してくれる予定の弟が、外へ出るなり「ん?」と言った。
それぞれの耳に子供の声が届いてくる。
「アルの声です。皆さんの準備が終わるまで、洞窟に近づかないでいてくれるといいのですが……」
困り顔の弟に、任せてくださいとばかりに藍紗が胸を張る。
「アル殿やジョン殿の相手は、それがしに任せるでござる。例え悪ガキであったとしても、軽くあしらえるでござるよ」
「なら、二組に分かれたほうがいいかもしれないな」
柊の提案に、全員が頷いた。
「なら、俺もガキどもの相手をするか」
藍紗に真龍寺が同行する。
それ以外の四人は、子供たちの気を引いてもらってる隙に洞窟へ向かう。
●アルとジョン
藍紗と真龍寺は、村の中央方面――洞窟とは真逆の方向に歩いて、二人の子供を見つけた。
お互いの名前を呼ぶ声が聞こえる。どうやら、この二人がアルとジョンで間違いないようだ。
軽く右手を上げながら、真龍寺は最初から親密そうな態度で子供たちに声をかけた。
「おー、坊主達。お前らの父ちゃんに聞いたぞ。これから冒険行くんやろ? やったら、ちゃんと準備していかんないけんよ!」
「え? お兄ちゃん、誰?」
きょとんとするアルに、今度は藍紗が話しかける。
「それがしと真龍寺殿は、旅の途中でこの村に立ち寄ったハンターでござる」
ハンターのひと言に、好奇心旺盛なアルが反応する。
「聞いたか、ジョン。ハンターだって!」
藍紗と真龍寺が改めて自己紹介をすると、人懐っこい笑顔でアルも名前を教えてくれた。
アルの背中に隠れていたジョンも、真龍寺と藍紗が悪い人間ではなさそうだと知ると、口をきいてくれるようになった。
「アル殿はハンターに興味があるようでござるな。よければ、それがしが剣の稽古をつけてあげてもいいでござるよ」
「本当!?」
アルが瞳を輝かせる。
真龍寺が適当な木の棒を拾い、アルとジョンに持たせる。
剣の稽古をつけるだけでなく、冒険の話とかも聞かせてやれば、結構な時間を稼げるはずだ。
●段差の解消
真龍寺と藍紗がアルたちを引き受けてくれている間に、他の四名はアルの母親の弟の案内で洞窟へ到着していた。
戦闘の可能性を考慮して、弟には帰村してもらった。
場に残った五名で、行動を開始する。
「自分が殿を務めます。子供たちが追いかけてきた場合や、敵が入口へ向けて逃げようとした際に対応します」
リチャードが最後尾へ下がると同時に、柊が先頭へ立った。
「俺が先に行こう。それにしても、冒険に危険は付き物だと思うんだがな。これも親心ってやつかねぇ? ……ともあれ、ゴブリンは危険だ。さっさと排除するか」
洞窟へ入るとすぐに、段差のあるところを発見する。
「ここに飛び石を置けばよいのう。滑ったり怪我をしないよう、ハンマーで削るのじゃ」
紅薔薇の隣に、レイがしゃがみ込む。
「低い位置に水溜りを作れば、飛び越えてくださるでしょうか? 軽く湿るくらいでも、十分に楽しめ――いえ、飛び石として使えると思いますし」
「それは面白いかもしれないネ! せっかくの冒険なんダ。危険を身体で覚えるのも、悪くないヨ」
シャルルもノリノリになる一方で、柊はひとりで先を目指そうとする。
「全員で飛び石を並べていても仕方ないだろう。俺はひと足先に中間地点へ向かう。用意してもらったランプを、十メートル間隔で一個ずつ設置していくつもりだ」
「では洞窟の入口付近に、この洞窟を進む者は闇の中で新たなる光をともせ、と書いた看板を立てておこうかのう」
なるほどと、レイが紅薔薇の発言に感心する。
「謎解きみたいにしておくのですね。子供たちの冒険心をくすぐりそうです。壁や足元に絵でもあれば、さらに雰囲気がでそうですね」
「あまり時間をかけすぎるわけにもいきません。子供たちが、やってきたら大変です」
リチャードの真面目な発言のあと、柊の背中を見送った紅薔薇が看板の作成を行う。
レイとシャルルは、子供たちのために飛び石を置いていく。
リチャードは入口付近で待機中だ。周囲を警戒してくれてるので、何か異変が起きればすぐにわかる。
段差への対処が終わったところで、先に行った柊を追いかけようという話になる。
全員が賛成するだろうと思いきや、シャルルだけは頷かなかった。
「皆の作戦に従って行動……と言いたいけど、僕は一度、藍紗たちのところへ戻るヨ。そろそろ会話や手合せに、飽きてるかもしれないからネ」
●再びアルとジョン
村の中では、真龍寺と藍紗がアルたちに剣の稽古をつけている真っ最中だった。
基礎体力が必要だと説明し、手ごろな大きさの木の棒を使って素振りを百回ほどさせる。
「最初はゆっくりで良いでござるから、教えた型をしっかりと意識するでござるよ。勢い任せに振るだけではダメダメっ♪ でござるよ」
藍紗が教えているのはジョンだ。
子供にとっては厳しめの稽古を、黙々とこなす。
近くでは真龍寺が、実戦形式でアルに稽古をつけていた。
基礎はもちろん大事だが、アルの性格上、すぐに飽きかねないと判断した。
それならば、実戦形式で遊びがてら、鍛えてやるのが一番だ。
真龍寺の目論みどおり、アルは半ばムキになりながら木の棒を振ってくる。
「おお、いい感じやな。ほら、もっと強く打ち込んでこい」
素振りの音と、木の棒の打ち合う音が交互に響く。
やがてジョンとアルが、疲れた様子で地面に座り込んだ。
「二人とも頑張ったでござるな。では、休憩でござるよ。冷たい麦茶と、それがし特製のおはぎで体力回復でござる♪」
休憩の準備をするため、藍紗が背を向けた瞬間に、アルは目を光らせた。
「おい、ジョン。洞窟へ行くぞ。さっき、叔父さんがこっそり村へ戻ってくるのを見たんだ。きっと、洞窟で何かやってたんだぜ」
「え? じゃ、じゃあ、ハンターの人たちに……」
「いいから、来いって。二人がこっちを見てない今が、チャンスなんだからさ」
「わ、わかったよ。行くから、そんなに引っ張らないでよー」
アルは上手く真龍寺と藍紗の目を盗んだつもりでも、ハンターたちが子供の行動を見抜けないはずもなかった。
「行っちまったぞ。すぐ、追いかけるんやろ?」
「うむ。あの年頃の男子の考えることは、皆同じでござるな。後をこっそりつけていくでござる」
もしかしなくとも、アルとジョンが向かった先は例の洞窟だ。
「ほら、ジョン。早く来いって」
真っ直ぐに洞窟へやってきたアルは、待ちきれないとばかりに中へ入った。
「なんか看板があるぞ」
紅薔薇が立てた看板に気づいたアルは、書かれている一文を読んで歓声を上げた。
「何だか知らないけど、凄く面白そうだ。早く行ってみよう」
「うんうん。面白そうだヨネ!」
ジョンではない声にギョっとしたアルが振り向くと、そこにはシャルルが立っていた。
「やあ。君はアルだヨネ? まいったヨ。色々と考えてたのに、姿を見つけるなり、走り出しちゃうんだからネ」
楽器演奏などで興味を惹き、洞窟のことを忘れさせようとしたのだが、タイミング悪く間に合わなかった。
洞窟へ向かってるなら仕方ないと割り切り、あとをつけてきたのである。
シャルルがハンターだと自己紹介してるうちに、真龍寺と藍紗も洞窟へ到着した。
「せっかくだ。今から冒険するか」
●ランプの設置とゴブリン退治
先行した柊が、壁にランプを設置していく。
ゴブリンへの警戒も怠らない。単独行動中に油断して、不意をつかれたら大変だ。
設置が大体終わった頃には、後続の紅薔薇たちもやってきた。
だが、ここまでで、ゴブリンには遭遇していない。
「奴は、どこに隠れているんだ」
柊が言った時、殿を務めているリチャードが「ん?」と眉をひそめた。
レイが「どうかしたのですか」と尋ねる。
「人の気配がします。自分たち以外の何者かが、洞窟へ入ってきたようです」
「恐らくは子供たちじゃろうな。まだゴブリンの件が片付いてないというのに、厄介なことじゃ」
紅薔薇がため息をついた。
柊も含めた四人が、もう少しで洞窟の最奥に到着するという時だった。
わずかに残っていた闇から、投石が行われた。
不意打ち気味になったものの、警戒していた柊が手に持つ刀でゴブリンが投じたと思われる石を弾き返した。
「敵は斜め前方、およそ五メートル程度の先に潜伏してるもようです!」
最後尾にいるリチャードが声を張り上げた。
真っ先に反応したのはレイだ。
「……あなたにとっては不運、かもしれませんが……ここで、果ててくださいませ」
再びの投石に一切怯まず、直進しながら雷神斧で石ごとゴブリンを斬り捨てようとする。
「あまり、汚しすぎないようにしなくては、ですが――大丈夫です。私が後で掃除いたしますから」
闇に潜むゴブリンを肉眼で確認した矢先、実力差を本能で察したゴブリンが全力で逃げようとした。
「逃がすかよ!」
ジェットブーツで一気に距離を詰めた柊が、一度鞘に収めた武器を抜刀して斬りかかる。
ゴブリンの構える槍をかわし、草鎧の上から胴を払う。
悲鳴を上げたゴブリンが、地面の上をのたうちまわる。あとはとどめを刺すだけだ。
誰もが勝利を確信しかけた瞬間、唐突に洞窟内が明るくなった。
設置してきたランプを、誰かが使ったのだ。予想はしていたものの、突然だったせいでハンターたちは虚をつかれた形になった。
この機会を逃すまいと、ゴブリンがダッシュする。明かりを目印とするかのように、そちらへ向かう。
そして、悲鳴が上がる。
苦悶しながら走るゴブリンの形相を見たアルが、腰を抜かしてしまったのだ。
「ア、アル!? 早く立ってよ!」
「うあ、あ……足が震えて……た、立てないんだ。お、お前だけでも、逃げろ、ジョン」
「……嫌だよ、そんなの! アルが動けないなら、僕が守る!」
持ってきた木の棒を両手に、ジョンが一歩だけ前へ進み出る。
「アル殿は、ジョン殿の兄の様な存在なのでしょう。守ろうとする心意気は立派ですが、無謀と勇気は違います。時には、誰かに頼るのことも大切です」
殿で不測の事態に備えていたリチャードが、子供たちの前に立つ。
向かってくる敵に対し、飛燕からのスラッシュエッジで着実にダメージを与える。
アルとジョンに同行していた真龍寺と藍紗、それにシャルルもゴブリン退治より子供たちの保護を優先する。
「僕が防御障壁で守ってあげるから、怖がらなくても大丈夫だヨ!」
入口方面には逃げられないと察したゴブリンが、再び奥の方を目指して走る。
一番手で後を追うのは紅薔薇だ。
「すまんが、その子たちを頼むのじゃ。妾はあのゴブリンを追いかけるのじゃ!」
手負いのゴブリンが逃げ切れるはずもなく、行き止まり近くでこちらへ向き直る。
観念してくれれば楽なのだが、ゴブリンは目を吊り上げながら手に持つ槍で紅薔薇に挑んでくる。
「ここで決着をつけさせてもらうのじゃ」
呼吸を整え、精神を統一してから、相手に対して半身の姿勢で刀を構える。
槍の射程範囲外から一気に間合いを詰め、すでに傷をつけられている胴部分にとどめの一撃を放つ。
紅薔薇の一撃が致命傷となり、ゴブリンはその場で息絶えた。
「さて、子供たちへ見せるのが躊躇われるものを袋へ入れてしまいましょう」
レイが手際よく、後片付けをする。
直後に子供たちが、震える足取りで洞窟の最奥までやってきた。
怯えながらではあったものの、奥の地面にある石をアルが手に取った。
まじまじと見たあとで、アルは「ほら」とジョンに石を差し出した。
「この石はお前に相応しいよ。俺より、ジョンの方がずっと勇気があったもんな」
「そ、そんなことないよ」
石ならまだたくさん転がっているのだから、二人で仲良く持って帰ればいいのに、アルとジョンは石の譲り合いを続ける。
そんな子供たちの光景を見ながら、ハンターたちは優しく微笑む。
計画していたのとは違った冒険になってしまったが、子供たちにとっては一生忘れられない思い出になったはずだ。
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冒険の書は 消えました レイ・T・ベッドフォード(ka2398) 人間(リアルブルー)|26才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/07/01 06:37:31 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/30 19:50:02 |