ゲスト
(ka0000)
あおひかげ【1】
マスター:月宵

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/05 15:00
- 完成日
- 2015/07/13 06:18
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
辺境の地。そこには、様々な部族が存在している。彼らにはそれぞれ崇拝し、信仰するトーテムと言うものが存在する。
彼ら部族をまとめあげるに不可欠なもの、言わば生命線と言ったところだろうか。
そんな部族の中に『イチヨ族』と言うものがいる。彼らは流浪の少数部族で、各地を転々とする者達。
彼らのトーテムの名は『概念精霊・コリオリ』と言う。
彼らの信条は『他部族の信仰を信仰する』と言う変わったものだ。
それが例え、如何なる信仰であろうとも……
●依頼が来ました。
「お断りします」
ピシャリ、と言い切ったのはイチヨ族、族長サ・ナダ。黒い短髪が手伝ってか、一見若者にも見えるが実年齢は四十を越えた男性である。
ここはイチヨ族のテント内部。そして精一杯をナダに頼み込んでいるのは、山麓の裾野に暮らすインデュー族の代表者だ。
イチヨ族は祭事の補助を買って出て、それを生業に生計を建てているという少し変わった一族だ。少数部族の割に、それなりの時を過ごしてきた彼らは、またもそれなりに他集落から名が知れていた。
こうやって、祭事の補助依頼が向こうから舞い込んでくることも珍しくはない。
珍しくはないのだが……
「どうか、お力を貸してください! このままじゃ、集落の危機なんですよ」
すがり付くインデュー族の男に、嘆息しつつナダは頭を下げた。
内容は確かに祭事の補助だ。だが、同時に『祭事を創ってくれ』と言われた。
「此処は皆様と違い、まだ出来て100年にも満たない集落で、だから、意見も定まらず」
インデュー族のトーテムは『火、それも特に蒼い火』だと言う。部族の絆を深めるには、トーテムを尊ぶには、祭事が一番に有効なのだ。
「で、他の集落に聞いたら『祭事の事ならイチヨ族』と」
「またそれですか」
ナダはもう、何度その言葉を聞いたか知らない。だが、うんざりしているのだけは確かだ。いくつもの祭事を手伝う内に、イチヨ族の名は有名になっていた。そのことは、生活がこちらにもあるから別に良い。問題は……
『イチヨ族が来ると祭が成功する』『イチヨ族が居たから、儀式が成功した』『豊作だった』なんて、話に尾ひれがつき始め最後には『祭事の事ならイチヨ族』だ。
そう、他の信仰心を尊ぶ彼ら一族は『自分達へ信頼を置かれる』のは酷く不名誉なのだ。ナダとしては、こんなキャッチコピーは捨てたい。
……紆余曲折あり、で最後は結局。
「わかりました。ですが、此方の条件は守って下さい。一つは、我らの名を他で決して出さないこと。二つ目に、ハンターに来て貰いますが彼らをわたくし達と同等に扱うこと。わかりましたか?」
「も、勿論です。ありがとうございます! ありがとうございます!」
●依頼受けました。
それから日は落ちて、イチヨ族による会議が始まった。
と言っても、族長を合わせての三人。後一人いるのだが、今回の件には『今のところ』関わらないため来てはいない。
「このお人好し!」
「すみません」
二十歳頃の若者に、四十越えの男が叱られている何とも無様な光景である。
「前田様落ち着いて下さい」
それを止めに入る十五歳くらいの少年。前田、こと。マ・エダは祭事の補助でも、花形である司会進行を担当。対する少年は、ヤ・マダと言う。若いながら裏方準備に関しては、彼の右に出るものはいない。
エダが機嫌悪いのは、当然ながらさっきのインデュー族の件だ。
因みにいつもは正しき族長と部下の姿なのだ。信じて。
「で? なんで、了承しちゃたんですかぁ」
語尾が上がってる辺り、まだエダの腹の虫はおさまらないようだ。
「その、あまりに集落のトーテムが不憫に思いまして……」
詳しい理由をポツポツ、と観念したようにナダは白状した。
事の始まりは、インデュー族の成り立ちにまで遡る。
元々インデュー族は、別の集落の祭事の巫女であったらしい。
巫女は祭壇で、覚醒時に赤色の羽衣のような火を纏う、とされていた。が、その巫女の火の色は蒼。
こんなものは認められない、と審神者が巫女に告げたらしい。
だが、巫女は「蒼くあろうが、これは火だ。私が敬う想いに違いはない」と反論し、その意見に賛成する民も多くいたのだ。
その事が原因で、巫女はその集落を仲間と共に出奔した。
そして、新たな土地を拓かんと土地に住む雑魔を蒼い火で滅し、その場所に新たな集落を作ったという。
それが初代族長、トゥューハ・インデューになったと言う。
しかし、その族長も今より数ヶ月前に没して、今は娘のアキエヴェが族長だと言う話だ。娘と言っても、夫もいる良い歳なわけだが。
「ただ、現族長は蒼い火どころか、覚醒者ですらなくてですね……」
更に指導者が死んで、部下の舵取すら行われていないと言う状況。このままだと、分裂。最悪、元の集落へ出戻りである。自ら信念を持ち集落を出た母親の志を無碍にしたくはない。アキエヴェは、何としてもそれだけは避けたい、と願っているのだ。そこまで、説明を聞いてエダが薄ら笑いで族長に棘を放つ。
「ははぁん、他人事に聞こえず、放っておけなかったと?」
「うぐっ」
そう、このインデュー族の状況は、イチヨ族に通ずるものがあった。
『頭が優秀すぎて、部下が育たなかった』と言うものだ。
「どうしてこんなことに」
「族長が、頑張りすぎちゃった、からじゃないですか」
「そう、ですよね」
先に告げた、イチヨ族の逆鞘問題。元々は、司会から裏方までを現役時代のナダが、頑張りすぎちゃった、ことが原因なのだ。
当然、この尻拭いをするのは次世代の人間である。
「それに、生まれたばかりの信仰を潰えさすのは」
「わかった……」
更なる言の葉を積み重ねようとした族長を彼は制した。
ここに来て、エダが折れる。流石に今更断るのも、どうかとも思える。
(それに、女性の方々とか聞いたら黙ってらんないっての)
と、下心がないわけではない。
「ありがとう御座います」
「で、俺らは何をすれば?」
「既にハンター達に依頼は通達しました。わたくし達は彼らの補助にまわります」
あくまでも、補助ですよ。と強くナダが念を押してくる。
「それでは皆様、成功を祈りましょう。全ては御霊コリオリの元へ」
「「全ては御霊コリオリの元へ!!」」
しかし、マダは口にしてから、はたと気付く。既にハンターに頼んでいた、とはつまり……
(族長、最初からこの展開になるの知ってたんじゃないですか!?)
彼ら部族をまとめあげるに不可欠なもの、言わば生命線と言ったところだろうか。
そんな部族の中に『イチヨ族』と言うものがいる。彼らは流浪の少数部族で、各地を転々とする者達。
彼らのトーテムの名は『概念精霊・コリオリ』と言う。
彼らの信条は『他部族の信仰を信仰する』と言う変わったものだ。
それが例え、如何なる信仰であろうとも……
●依頼が来ました。
「お断りします」
ピシャリ、と言い切ったのはイチヨ族、族長サ・ナダ。黒い短髪が手伝ってか、一見若者にも見えるが実年齢は四十を越えた男性である。
ここはイチヨ族のテント内部。そして精一杯をナダに頼み込んでいるのは、山麓の裾野に暮らすインデュー族の代表者だ。
イチヨ族は祭事の補助を買って出て、それを生業に生計を建てているという少し変わった一族だ。少数部族の割に、それなりの時を過ごしてきた彼らは、またもそれなりに他集落から名が知れていた。
こうやって、祭事の補助依頼が向こうから舞い込んでくることも珍しくはない。
珍しくはないのだが……
「どうか、お力を貸してください! このままじゃ、集落の危機なんですよ」
すがり付くインデュー族の男に、嘆息しつつナダは頭を下げた。
内容は確かに祭事の補助だ。だが、同時に『祭事を創ってくれ』と言われた。
「此処は皆様と違い、まだ出来て100年にも満たない集落で、だから、意見も定まらず」
インデュー族のトーテムは『火、それも特に蒼い火』だと言う。部族の絆を深めるには、トーテムを尊ぶには、祭事が一番に有効なのだ。
「で、他の集落に聞いたら『祭事の事ならイチヨ族』と」
「またそれですか」
ナダはもう、何度その言葉を聞いたか知らない。だが、うんざりしているのだけは確かだ。いくつもの祭事を手伝う内に、イチヨ族の名は有名になっていた。そのことは、生活がこちらにもあるから別に良い。問題は……
『イチヨ族が来ると祭が成功する』『イチヨ族が居たから、儀式が成功した』『豊作だった』なんて、話に尾ひれがつき始め最後には『祭事の事ならイチヨ族』だ。
そう、他の信仰心を尊ぶ彼ら一族は『自分達へ信頼を置かれる』のは酷く不名誉なのだ。ナダとしては、こんなキャッチコピーは捨てたい。
……紆余曲折あり、で最後は結局。
「わかりました。ですが、此方の条件は守って下さい。一つは、我らの名を他で決して出さないこと。二つ目に、ハンターに来て貰いますが彼らをわたくし達と同等に扱うこと。わかりましたか?」
「も、勿論です。ありがとうございます! ありがとうございます!」
●依頼受けました。
それから日は落ちて、イチヨ族による会議が始まった。
と言っても、族長を合わせての三人。後一人いるのだが、今回の件には『今のところ』関わらないため来てはいない。
「このお人好し!」
「すみません」
二十歳頃の若者に、四十越えの男が叱られている何とも無様な光景である。
「前田様落ち着いて下さい」
それを止めに入る十五歳くらいの少年。前田、こと。マ・エダは祭事の補助でも、花形である司会進行を担当。対する少年は、ヤ・マダと言う。若いながら裏方準備に関しては、彼の右に出るものはいない。
エダが機嫌悪いのは、当然ながらさっきのインデュー族の件だ。
因みにいつもは正しき族長と部下の姿なのだ。信じて。
「で? なんで、了承しちゃたんですかぁ」
語尾が上がってる辺り、まだエダの腹の虫はおさまらないようだ。
「その、あまりに集落のトーテムが不憫に思いまして……」
詳しい理由をポツポツ、と観念したようにナダは白状した。
事の始まりは、インデュー族の成り立ちにまで遡る。
元々インデュー族は、別の集落の祭事の巫女であったらしい。
巫女は祭壇で、覚醒時に赤色の羽衣のような火を纏う、とされていた。が、その巫女の火の色は蒼。
こんなものは認められない、と審神者が巫女に告げたらしい。
だが、巫女は「蒼くあろうが、これは火だ。私が敬う想いに違いはない」と反論し、その意見に賛成する民も多くいたのだ。
その事が原因で、巫女はその集落を仲間と共に出奔した。
そして、新たな土地を拓かんと土地に住む雑魔を蒼い火で滅し、その場所に新たな集落を作ったという。
それが初代族長、トゥューハ・インデューになったと言う。
しかし、その族長も今より数ヶ月前に没して、今は娘のアキエヴェが族長だと言う話だ。娘と言っても、夫もいる良い歳なわけだが。
「ただ、現族長は蒼い火どころか、覚醒者ですらなくてですね……」
更に指導者が死んで、部下の舵取すら行われていないと言う状況。このままだと、分裂。最悪、元の集落へ出戻りである。自ら信念を持ち集落を出た母親の志を無碍にしたくはない。アキエヴェは、何としてもそれだけは避けたい、と願っているのだ。そこまで、説明を聞いてエダが薄ら笑いで族長に棘を放つ。
「ははぁん、他人事に聞こえず、放っておけなかったと?」
「うぐっ」
そう、このインデュー族の状況は、イチヨ族に通ずるものがあった。
『頭が優秀すぎて、部下が育たなかった』と言うものだ。
「どうしてこんなことに」
「族長が、頑張りすぎちゃった、からじゃないですか」
「そう、ですよね」
先に告げた、イチヨ族の逆鞘問題。元々は、司会から裏方までを現役時代のナダが、頑張りすぎちゃった、ことが原因なのだ。
当然、この尻拭いをするのは次世代の人間である。
「それに、生まれたばかりの信仰を潰えさすのは」
「わかった……」
更なる言の葉を積み重ねようとした族長を彼は制した。
ここに来て、エダが折れる。流石に今更断るのも、どうかとも思える。
(それに、女性の方々とか聞いたら黙ってらんないっての)
と、下心がないわけではない。
「ありがとう御座います」
「で、俺らは何をすれば?」
「既にハンター達に依頼は通達しました。わたくし達は彼らの補助にまわります」
あくまでも、補助ですよ。と強くナダが念を押してくる。
「それでは皆様、成功を祈りましょう。全ては御霊コリオリの元へ」
「「全ては御霊コリオリの元へ!!」」
しかし、マダは口にしてから、はたと気付く。既にハンターに頼んでいた、とはつまり……
(族長、最初からこの展開になるの知ってたんじゃないですか!?)
リプレイ本文
何故祭事が絆を確かめるのに大事なのか。先ず第一に、大きな作業を共に行うと言うことにより、部族の一致団結をはかれる。
もう一つが、祭りを通して信仰対象とは、と振り返ることが出来る。
「こんな所です。ご理解はいただけましたか?」
ルナ・レンフィールド(ka1565)は何度も頷いた。祭事に関するイロハを、ナダ族長から聞いていたのだ。
「ありがとうございます。他に何か気を付けなければならないことはありますか?」
「後は、それこそ部族の皆様の願いを叶えるように、精一杯頑張るですか」
イチヨ族のテント。その外では、エダを誘うジュード・エアハート(ka0410)の姿があった。
「良いぜ。俺も益荒男として興味があるからな」
ジュードはこれより、インデュー族の住む山周辺のマッピングに出掛けるのだ。同じく、リアルブルーで巫女を担っていた八雲 奏(ka4074)も彼らに着く。
「リアルブルーの巫女として祭祀には何度も関わりましたが、祭祀が生まれる手助けというのも…心が踊りますね」
●インデュー族の集落へ
ハンター達は一際大きな半円球のテントの中へ招待された。
「ようこそ、我が集落へ。歓迎いたします」
会釈を終えた女性が、ハンター達へ向き直った。彼女こそが族長アキエヴェである。
「恐らく、ワタシに聞きたい事もあるでしょう。時間を後程取ります」
「何度も同じ事をお話し頂くかもしれませんが、辛抱頂ければ」
同じく、エアルドフリス(ka1856)が同じく頭を垂れた。
それから、奏、エダ、ジュード、そして案内を申し出た壮年の男性は集落が後にした。族長に話を聞く僅かな時間ではあるが、聞き込みが出来そうだ。
最初に動いたのはルナと鵤(ka3319)だ。
「部族の祭り創りとは、変わったお仕事もあるもんだねぇ」
くぁ、と欠伸を一噛。特に誰ともなく、暇そうな人に聞くことにした。内容は、現在の祭事に関してだ。
「祭事? ないぞ」
「少なくとも、俺らが生きてる時に大規模な祭はなかった」
「ああ、けど祠で、お祈りみたいなのは今でもやってるみたい」
素直に答えてはくれたが、どうも曖昧な答えが多い。鵤とルナは顔を見合わせた。
「どうすんだこりゃ」
「本当に、一から祭事を作らないといけないみたいですね」
それならば、とルナは新たに伝統的な音楽や、歌は、無いのか?
と軽い気持ちで聞くと……
「う、歌な」
「……歌か」
弦楽器がある、とだけ伝えるも彼らの苦笑い。何か不味いことを聞いたのだろうか、後で族長に聞こうとルナは心の片隅に置いておき今はそれで話を終えた。
●
ポンプ式の水場だろうか、それなりに歳をめした方々が花を咲かせている。
そこにいるのは久延毘 大二郎(ka1771)とHolmes(ka3813)だ。
「歴史を掘り返し、そして見る側だった私が、まさか歴史を作る側になるとはな…」
考古学者を自称する身として感慨深いものがあり、遣り甲斐を感じている。
最初に聞いたは、Holmesだ。彼女が聞くのは、今の族長と前の族長の違いだ。祭事の参考に、初代族長のことを重点的に調べることした。信仰の枝分かれした原因。これほどに調査対象になるものはないであろう。
「巫女様と族長かい、巫女様は素晴らしい方だった。学舎も作って下さった」
「この集落の殆どのものは巫女様がお作りになされた、そう言ってもおかしゅうはない」
「ここは河川から水を利用して、その整備も行っておられた」
大二郎は一つ、一つ話を書き留めていく。しかし、聞こえるのは巫女様(前族長)の話ばかり。試しに、Holmesがアキエヴェの事を聞くと……
「いい人ですよ。ただ、到底族長には」
「悪いひとではないよ」
まさに予想通りと言った反応だろう。
「………………」
●
エアルドフリスは宿所を探し、質問を開始。
「トゥューハ様の話を御聞かせ願いたくてね。御協力願えますかな」
「あー先生ですか? すみません、詳しい話は……」
先生、と鸚鵡返しに聞くと、宿所の主人は笑みを浮かべた。
「僕達の先生をして下さってました。文字の読み書きや計算ですね」
恩師を思っているか良く理解は出来た。次に独立派と出戻り派の話、だ。すると主人は、表立った行動はまだありませんが、と前おいてから。
「僕の母等が『トゥューハ先生を英霊』にしようと言うことがありまして」
「なるほど」
この主人が40後半と見て、母親は60前後、と言ったところだろう。前族長の全盛期を見ていた世代だ。今の族長を頼りなく思うのも仕方がないのかも知れない。
●
ブリジット(ka4843)は休憩所のような場所にいた。彼女の目的は、集落の若者から話を聞くこと。
歳の近い若者に話を聞いて、彼らが歴史と文化にどういう思いを抱いているのか、彼らはこれからを担う為。嗜好であり志向は重要になるだろうと予測した。
話が聞き出しやすい様に竪琴を手に、一曲を披露……したまでは良かったが。
「ねーちゃん! アンコール!」
「あんたハンター何だろ? なぁ、今の何かの技か?」
(ええ~……)
問い質す間もなく、こっちが若者達に質問攻めにされるハメになってしまった……
●
そんなこんなで皆は族長の元へ戻ったのだ。
ここで外組を除く一同は、族長の前に戻ってきた。暑かったであろうことを気にして、香草冷茶が盆に。
「改めて、この集落の歴史を教えて下さいませんか?」
各自が冷茶を口にし、一息つくのを目にしてからアキエヴェは語った。
集落誕生になった蒼い火と審神者、巫女の分裂から始まった。
「その時、巫女にいち早く同意した人がいました。恐らく彼が味方したことは大きかったと思います」
その人物は、審神者の実の弟、であった。
「母とその人は、集落を離れてこの山に来ました。ですが、この山は歪虚の巣窟であり、彼らは小さな砦をアジトに戦いました」
●
ジュード達は、集落から南にある建築物の前に建っていた。然したる規模はない、石を平積みにした砦。
「ここが、トゥューハ様が戦いの準備に使用した砦です」
昇降用の棒や、幾つもの抜け穴があり、今では子供の秘密基地だ。
「確かに子供が遊びそう」
双眼鏡を覗きながら、ジュードが砦を確認。最上階、と思われる所を指で示す。
「彼処、眺めがよさそうだよね」
「流石、姉さん。彼処は昔旗が掲げてあったんですよ」
姉さん(男)。
薄い水色の旗だった、そう語った。
「あの、前族長のお若い頃を知っているのでしょうか?」
「まだ、ガキの頃でしたがな」
だが、幼いなりに覚えていたらしい。彼女が掌に宿す蒼い炎。それに呼応する大人達。
「今、その旗は祠に納められている。知ってるやつらは、少ないかもだけどな」
●
アキエヴェは一度話を止めた。そこですかさずHolmesは質問をした。
「その初代族長が契約した精霊について聞きたいのだが」
「いえ、契約はしてません。あくまで自然信仰ですし。母自身の力でした」
儀式もまた、火を降ろしたように見立てていた、とアキエヴェは聞いていた。
(フム。ならやはり、覚醒者である必要はないかもな)
「話を続けますが」
「ああ、話の腰を折って悪い」
話は歪虚との死闘に入っていった……
●
砦より東より向かった先、奏は目を奪われあまりの美しさに、それに覗き込む。
「わあ……」
「すげぇな、まるで鏡面だ」
一緒にエダも声をあげる。大きさにして数十メートルの平たい円形。つやつやとした漆黒の表面には、今も覗きこんだ奏の顔がくっきりうつっている。
「綺麗、まるでガラスみたい」
「ここは伝説があるんです。族長の蒼い炎が巨大な歪虚を燃やしつくし、その地面が熔けてこうなったと」
あまりにも誇大された話だが、見渡すほどに広がる漆黒の地。安易に眉唾である、とは言えないジュードであった。
「さて、食料調達して今日は戻りますよ」
●
「こうして、歪虚を退けた母はその後、この地にインデュー族の集落を作り、審神者の弟つまりワタシの父と結婚しました」
一通りの過去語りを終えれば、何か質問をあればとハンター達に話す。ここで今まで、彼女を見ずにペンを進めていた大二郎が問う。
「何故この地では、藍染めが有名なのだろうか?」
「タデアイの群生地があるのもそうなのですが、元の集落では紅花染めが生業だったらしく、そこから来たようです」
ほうほう、とペンを回し書き進める大二郎。確かに染織の心得が前以てあったなら、多少やり方は違えど、藍染は当然の選択か。
「さて、皆様。時間も遅くなって参りましたから、迷惑でなくば今宵は此処にお泊まり下さい」
話終わりで、ジュード達も戻ってきた。夕食は、鴨肉と豆を塩味で茹でて、小麦粉を水で薄く伸ばし焼いたもので巻いたも。アキエヴェ曰く「皆働くので、簡素で片手で食べれるものが一般的」とのことらしい。
「後は川が近いので、焼き魚でしょうか」
(トルティーヤ、あの辺りに近いみたいだ)
こうして、夕食を終えて夜を迎えたのであった…
●
ジュードとエアルドフリスは、ランタンを片手に夜の集落を散策。
この時間になると、殆どの灯りは落ちていて、煌々と星の光が夜空を照らす。
「砦には旗があったらしいよ。エアさんの方は?」
「砦か、戦時は彼処で一人も死人を出さなかった、と聞いたぞ」
情報の交換。同じ話でも少しの差異も見逃さず、エアルドフリスは情報を書き留める。すると、二人はまだ明るい場所を見つける。中には、色濃い藍染めの反物が詰まっている。
早朝、船で川下りし商品を運搬する準備をしている、と作業員が説明してくれた。
「あの僕らも見学して良いですか?」
ジュードは自分の身分を話し、何か祭事の頼りにならないか、と交渉をしてみる。
「悪いなお嬢ちゃん。まだ動かさなきゃならねぇから……簡単な説明だけで勘弁してくれ」
●
皆が寝静まる頃。族長のテントへ奏とルナが訪ねてきた。
「質問があるんだよね」
ルナの質問とは『歌はこの集落では禁忌なのか』と言うことである。どうにも、聞き込みのことが気になるらしい。
「それは恐らく、文武両道であった母の弱点ですねー」
乾いた笑いと共に、流暢に語る。トゥューハは酷い音痴であり、巫女である彼女が詩を伝えなければならなかったのに、全く伝えきれなかったらしい。
「実際、殺人的な子守唄のせいで、ワタシの父が寝かしつけてくれましたねー」
おっとりと語るアキエヴェの今は、族長のそれではない。奏はこの地に硫黄が無いかと問う。硫黄は燃やせば、青い炎になると言う。これを祭事に応用出来るのではないか、そう彼女は考えた。
「硫黄、と言う鉱物ですか…」
その口調は少し沈んでいた。何かあったのだろうか、そう奏が不安そうに見つめるとこう言った。
「いえ……ただその硫黄が前の集落にあれば、母は異端とされることもなかったのでしょうか」
「それは」
「いえ、流石にぶしつけでしたね、忘れて下さいな」
そこに大二郎がやって来た。
「失礼、族長に聞きたいがお父君はご健在であろうか?」
「はい、朝方であれば祠の方にいますよ」
大二郎の目的地決定。
「では、テントに行きましょうか? わたくしは相部屋でも、隣部屋でも構いません。旦那様♪」
「だっ…!?ど、どちらでも構わんけどな…人前でソレは辞めてくれよ…」
先程の冷静さはどこへやら。そんなリア充中にもかかわらず、ルナは一人思案する。歌がないのなら、それこそ最初から作るしかないのだ。彼女にとって祭事はオーケストラに類似する。それぞれの役割を担い組み合わさる、ハーモニーの様なものだ。
「前族長さんが花型ソロなら、族長さんはきっとマエストロだね」
「ま、えすとろお?」
●
二日目、ジュード達は集落から北、タデアイの群生地へ赴いていた。
群生と言うだけあり、雑草のように生えている。
「これを見つけて、この地を選んだと聞いてます」
特に色のよい種の種は持ち帰り、集落でも育てていると言う。
「常に最高の色合いを、これが族長の言葉でもありました」
質の安定、それは商売においては信頼にも値する。あくなき商魂には、ジュードも感心するほどだ。
「ジュード様、エア様が調べて欲しいところがあると」
短伝話を片手に、奏では次の場所への連絡をジュードに出した。
●
小さな洞窟、そこには小さな社。その中央に布切れ一枚。これが祭事の行われる場所だと、誰が思うだろうか。
「いらっしゃいませ」
ローブにフード、と言う姿の老人。それが鵤と大二郎の前に対峙していた。
「はいはいどうも~、ちょいとお話し聞かせてくれるぅ?」
「祭事のやり方、でしたか?」
「いやぁ、悪いね。祭司さん?」
鵤の声に気分を害することなく、祭司、アキエヴェの父は説明をしてくれる。
この布は、元はトゥューハの巫女衣装。それを藍の生葉で染めて、旗代わりにした。
「元々は、それこそあの人の火を使っていた、けど彼女が止めてしまった」
何故を問う大二郎に祭事は『振り向いたら、私の背後に影がなかったから』それだけを聞いたと言う。
「特異性に気付いた。けど遅かった、か?」
小さく頷いて、こう呟いた。
「だからこそ、あの子には荷が思いかもね」
●
ブリジットは昨日と代わり、今回はお歳をめした方々の集まる広場に演奏をしにきていた。
そしてまた昨日と同じように聞き込む……のだが。
「はいはい、巫女様はお綺麗でそれはそれは」
「いえ、ですから何か曲でも……」
「そうだねぇ、藍染めは綺麗だろう」
二の轍を踏むとはこのことか。今度は、話すら通じない始末だ。運が悪かった、それしか言えない。
しかしブリジットにも推察出来ることはあった。
トゥューハは『先生』『巫女』それから、『頭領』とある年代ごとにガラッと印象が変わるらしい。まるで、呼称が変わることを彼女自身が望んでいた、そんな風にブリジットには受け取れたのだ。
●
場所は変わってとある川だ。元族長が川の勢いを落とすために分岐させた人工の川。
「わかった」
Holmesは短伝話を切る。エアルドフリスから手に入った情報を元に、その人に話を聞くためだ。
川で染めた余分な藍を洗い長し、乾かし仕上げる。おかげで、爪先も真っ青だ。
「アキエヴェ殿一つ問いたい」
「どうなされましたかHolmes様?」
「率直に聞く。初代族長が謳った『敬う想い』は揺らいでいないか?」
パシャリ、木綿布を取り落とす。誰もが問わぬ質問、だが誰かが問わねばならぬ質問。
答えは沈黙であり、肯定だ。その通りだと。中には、蒼い炎は母が使ったから信仰している、そう思うものもいるそうだ。
「審神者と巫女、相克された子に周りは落胆したと」
だが、それでも自分の想いは、本物である。アキエヴェはそう言い切った。
そこに、ジュード達が姿を見せ、Holmesは手を振り答える。そしてこう彼女に囁いた。
「なら、やらないとな。一代限り、なんて悲しいとは思わないかい?」
もう一つが、祭りを通して信仰対象とは、と振り返ることが出来る。
「こんな所です。ご理解はいただけましたか?」
ルナ・レンフィールド(ka1565)は何度も頷いた。祭事に関するイロハを、ナダ族長から聞いていたのだ。
「ありがとうございます。他に何か気を付けなければならないことはありますか?」
「後は、それこそ部族の皆様の願いを叶えるように、精一杯頑張るですか」
イチヨ族のテント。その外では、エダを誘うジュード・エアハート(ka0410)の姿があった。
「良いぜ。俺も益荒男として興味があるからな」
ジュードはこれより、インデュー族の住む山周辺のマッピングに出掛けるのだ。同じく、リアルブルーで巫女を担っていた八雲 奏(ka4074)も彼らに着く。
「リアルブルーの巫女として祭祀には何度も関わりましたが、祭祀が生まれる手助けというのも…心が踊りますね」
●インデュー族の集落へ
ハンター達は一際大きな半円球のテントの中へ招待された。
「ようこそ、我が集落へ。歓迎いたします」
会釈を終えた女性が、ハンター達へ向き直った。彼女こそが族長アキエヴェである。
「恐らく、ワタシに聞きたい事もあるでしょう。時間を後程取ります」
「何度も同じ事をお話し頂くかもしれませんが、辛抱頂ければ」
同じく、エアルドフリス(ka1856)が同じく頭を垂れた。
それから、奏、エダ、ジュード、そして案内を申し出た壮年の男性は集落が後にした。族長に話を聞く僅かな時間ではあるが、聞き込みが出来そうだ。
最初に動いたのはルナと鵤(ka3319)だ。
「部族の祭り創りとは、変わったお仕事もあるもんだねぇ」
くぁ、と欠伸を一噛。特に誰ともなく、暇そうな人に聞くことにした。内容は、現在の祭事に関してだ。
「祭事? ないぞ」
「少なくとも、俺らが生きてる時に大規模な祭はなかった」
「ああ、けど祠で、お祈りみたいなのは今でもやってるみたい」
素直に答えてはくれたが、どうも曖昧な答えが多い。鵤とルナは顔を見合わせた。
「どうすんだこりゃ」
「本当に、一から祭事を作らないといけないみたいですね」
それならば、とルナは新たに伝統的な音楽や、歌は、無いのか?
と軽い気持ちで聞くと……
「う、歌な」
「……歌か」
弦楽器がある、とだけ伝えるも彼らの苦笑い。何か不味いことを聞いたのだろうか、後で族長に聞こうとルナは心の片隅に置いておき今はそれで話を終えた。
●
ポンプ式の水場だろうか、それなりに歳をめした方々が花を咲かせている。
そこにいるのは久延毘 大二郎(ka1771)とHolmes(ka3813)だ。
「歴史を掘り返し、そして見る側だった私が、まさか歴史を作る側になるとはな…」
考古学者を自称する身として感慨深いものがあり、遣り甲斐を感じている。
最初に聞いたは、Holmesだ。彼女が聞くのは、今の族長と前の族長の違いだ。祭事の参考に、初代族長のことを重点的に調べることした。信仰の枝分かれした原因。これほどに調査対象になるものはないであろう。
「巫女様と族長かい、巫女様は素晴らしい方だった。学舎も作って下さった」
「この集落の殆どのものは巫女様がお作りになされた、そう言ってもおかしゅうはない」
「ここは河川から水を利用して、その整備も行っておられた」
大二郎は一つ、一つ話を書き留めていく。しかし、聞こえるのは巫女様(前族長)の話ばかり。試しに、Holmesがアキエヴェの事を聞くと……
「いい人ですよ。ただ、到底族長には」
「悪いひとではないよ」
まさに予想通りと言った反応だろう。
「………………」
●
エアルドフリスは宿所を探し、質問を開始。
「トゥューハ様の話を御聞かせ願いたくてね。御協力願えますかな」
「あー先生ですか? すみません、詳しい話は……」
先生、と鸚鵡返しに聞くと、宿所の主人は笑みを浮かべた。
「僕達の先生をして下さってました。文字の読み書きや計算ですね」
恩師を思っているか良く理解は出来た。次に独立派と出戻り派の話、だ。すると主人は、表立った行動はまだありませんが、と前おいてから。
「僕の母等が『トゥューハ先生を英霊』にしようと言うことがありまして」
「なるほど」
この主人が40後半と見て、母親は60前後、と言ったところだろう。前族長の全盛期を見ていた世代だ。今の族長を頼りなく思うのも仕方がないのかも知れない。
●
ブリジット(ka4843)は休憩所のような場所にいた。彼女の目的は、集落の若者から話を聞くこと。
歳の近い若者に話を聞いて、彼らが歴史と文化にどういう思いを抱いているのか、彼らはこれからを担う為。嗜好であり志向は重要になるだろうと予測した。
話が聞き出しやすい様に竪琴を手に、一曲を披露……したまでは良かったが。
「ねーちゃん! アンコール!」
「あんたハンター何だろ? なぁ、今の何かの技か?」
(ええ~……)
問い質す間もなく、こっちが若者達に質問攻めにされるハメになってしまった……
●
そんなこんなで皆は族長の元へ戻ったのだ。
ここで外組を除く一同は、族長の前に戻ってきた。暑かったであろうことを気にして、香草冷茶が盆に。
「改めて、この集落の歴史を教えて下さいませんか?」
各自が冷茶を口にし、一息つくのを目にしてからアキエヴェは語った。
集落誕生になった蒼い火と審神者、巫女の分裂から始まった。
「その時、巫女にいち早く同意した人がいました。恐らく彼が味方したことは大きかったと思います」
その人物は、審神者の実の弟、であった。
「母とその人は、集落を離れてこの山に来ました。ですが、この山は歪虚の巣窟であり、彼らは小さな砦をアジトに戦いました」
●
ジュード達は、集落から南にある建築物の前に建っていた。然したる規模はない、石を平積みにした砦。
「ここが、トゥューハ様が戦いの準備に使用した砦です」
昇降用の棒や、幾つもの抜け穴があり、今では子供の秘密基地だ。
「確かに子供が遊びそう」
双眼鏡を覗きながら、ジュードが砦を確認。最上階、と思われる所を指で示す。
「彼処、眺めがよさそうだよね」
「流石、姉さん。彼処は昔旗が掲げてあったんですよ」
姉さん(男)。
薄い水色の旗だった、そう語った。
「あの、前族長のお若い頃を知っているのでしょうか?」
「まだ、ガキの頃でしたがな」
だが、幼いなりに覚えていたらしい。彼女が掌に宿す蒼い炎。それに呼応する大人達。
「今、その旗は祠に納められている。知ってるやつらは、少ないかもだけどな」
●
アキエヴェは一度話を止めた。そこですかさずHolmesは質問をした。
「その初代族長が契約した精霊について聞きたいのだが」
「いえ、契約はしてません。あくまで自然信仰ですし。母自身の力でした」
儀式もまた、火を降ろしたように見立てていた、とアキエヴェは聞いていた。
(フム。ならやはり、覚醒者である必要はないかもな)
「話を続けますが」
「ああ、話の腰を折って悪い」
話は歪虚との死闘に入っていった……
●
砦より東より向かった先、奏は目を奪われあまりの美しさに、それに覗き込む。
「わあ……」
「すげぇな、まるで鏡面だ」
一緒にエダも声をあげる。大きさにして数十メートルの平たい円形。つやつやとした漆黒の表面には、今も覗きこんだ奏の顔がくっきりうつっている。
「綺麗、まるでガラスみたい」
「ここは伝説があるんです。族長の蒼い炎が巨大な歪虚を燃やしつくし、その地面が熔けてこうなったと」
あまりにも誇大された話だが、見渡すほどに広がる漆黒の地。安易に眉唾である、とは言えないジュードであった。
「さて、食料調達して今日は戻りますよ」
●
「こうして、歪虚を退けた母はその後、この地にインデュー族の集落を作り、審神者の弟つまりワタシの父と結婚しました」
一通りの過去語りを終えれば、何か質問をあればとハンター達に話す。ここで今まで、彼女を見ずにペンを進めていた大二郎が問う。
「何故この地では、藍染めが有名なのだろうか?」
「タデアイの群生地があるのもそうなのですが、元の集落では紅花染めが生業だったらしく、そこから来たようです」
ほうほう、とペンを回し書き進める大二郎。確かに染織の心得が前以てあったなら、多少やり方は違えど、藍染は当然の選択か。
「さて、皆様。時間も遅くなって参りましたから、迷惑でなくば今宵は此処にお泊まり下さい」
話終わりで、ジュード達も戻ってきた。夕食は、鴨肉と豆を塩味で茹でて、小麦粉を水で薄く伸ばし焼いたもので巻いたも。アキエヴェ曰く「皆働くので、簡素で片手で食べれるものが一般的」とのことらしい。
「後は川が近いので、焼き魚でしょうか」
(トルティーヤ、あの辺りに近いみたいだ)
こうして、夕食を終えて夜を迎えたのであった…
●
ジュードとエアルドフリスは、ランタンを片手に夜の集落を散策。
この時間になると、殆どの灯りは落ちていて、煌々と星の光が夜空を照らす。
「砦には旗があったらしいよ。エアさんの方は?」
「砦か、戦時は彼処で一人も死人を出さなかった、と聞いたぞ」
情報の交換。同じ話でも少しの差異も見逃さず、エアルドフリスは情報を書き留める。すると、二人はまだ明るい場所を見つける。中には、色濃い藍染めの反物が詰まっている。
早朝、船で川下りし商品を運搬する準備をしている、と作業員が説明してくれた。
「あの僕らも見学して良いですか?」
ジュードは自分の身分を話し、何か祭事の頼りにならないか、と交渉をしてみる。
「悪いなお嬢ちゃん。まだ動かさなきゃならねぇから……簡単な説明だけで勘弁してくれ」
●
皆が寝静まる頃。族長のテントへ奏とルナが訪ねてきた。
「質問があるんだよね」
ルナの質問とは『歌はこの集落では禁忌なのか』と言うことである。どうにも、聞き込みのことが気になるらしい。
「それは恐らく、文武両道であった母の弱点ですねー」
乾いた笑いと共に、流暢に語る。トゥューハは酷い音痴であり、巫女である彼女が詩を伝えなければならなかったのに、全く伝えきれなかったらしい。
「実際、殺人的な子守唄のせいで、ワタシの父が寝かしつけてくれましたねー」
おっとりと語るアキエヴェの今は、族長のそれではない。奏はこの地に硫黄が無いかと問う。硫黄は燃やせば、青い炎になると言う。これを祭事に応用出来るのではないか、そう彼女は考えた。
「硫黄、と言う鉱物ですか…」
その口調は少し沈んでいた。何かあったのだろうか、そう奏が不安そうに見つめるとこう言った。
「いえ……ただその硫黄が前の集落にあれば、母は異端とされることもなかったのでしょうか」
「それは」
「いえ、流石にぶしつけでしたね、忘れて下さいな」
そこに大二郎がやって来た。
「失礼、族長に聞きたいがお父君はご健在であろうか?」
「はい、朝方であれば祠の方にいますよ」
大二郎の目的地決定。
「では、テントに行きましょうか? わたくしは相部屋でも、隣部屋でも構いません。旦那様♪」
「だっ…!?ど、どちらでも構わんけどな…人前でソレは辞めてくれよ…」
先程の冷静さはどこへやら。そんなリア充中にもかかわらず、ルナは一人思案する。歌がないのなら、それこそ最初から作るしかないのだ。彼女にとって祭事はオーケストラに類似する。それぞれの役割を担い組み合わさる、ハーモニーの様なものだ。
「前族長さんが花型ソロなら、族長さんはきっとマエストロだね」
「ま、えすとろお?」
●
二日目、ジュード達は集落から北、タデアイの群生地へ赴いていた。
群生と言うだけあり、雑草のように生えている。
「これを見つけて、この地を選んだと聞いてます」
特に色のよい種の種は持ち帰り、集落でも育てていると言う。
「常に最高の色合いを、これが族長の言葉でもありました」
質の安定、それは商売においては信頼にも値する。あくなき商魂には、ジュードも感心するほどだ。
「ジュード様、エア様が調べて欲しいところがあると」
短伝話を片手に、奏では次の場所への連絡をジュードに出した。
●
小さな洞窟、そこには小さな社。その中央に布切れ一枚。これが祭事の行われる場所だと、誰が思うだろうか。
「いらっしゃいませ」
ローブにフード、と言う姿の老人。それが鵤と大二郎の前に対峙していた。
「はいはいどうも~、ちょいとお話し聞かせてくれるぅ?」
「祭事のやり方、でしたか?」
「いやぁ、悪いね。祭司さん?」
鵤の声に気分を害することなく、祭司、アキエヴェの父は説明をしてくれる。
この布は、元はトゥューハの巫女衣装。それを藍の生葉で染めて、旗代わりにした。
「元々は、それこそあの人の火を使っていた、けど彼女が止めてしまった」
何故を問う大二郎に祭事は『振り向いたら、私の背後に影がなかったから』それだけを聞いたと言う。
「特異性に気付いた。けど遅かった、か?」
小さく頷いて、こう呟いた。
「だからこそ、あの子には荷が思いかもね」
●
ブリジットは昨日と代わり、今回はお歳をめした方々の集まる広場に演奏をしにきていた。
そしてまた昨日と同じように聞き込む……のだが。
「はいはい、巫女様はお綺麗でそれはそれは」
「いえ、ですから何か曲でも……」
「そうだねぇ、藍染めは綺麗だろう」
二の轍を踏むとはこのことか。今度は、話すら通じない始末だ。運が悪かった、それしか言えない。
しかしブリジットにも推察出来ることはあった。
トゥューハは『先生』『巫女』それから、『頭領』とある年代ごとにガラッと印象が変わるらしい。まるで、呼称が変わることを彼女自身が望んでいた、そんな風にブリジットには受け取れたのだ。
●
場所は変わってとある川だ。元族長が川の勢いを落とすために分岐させた人工の川。
「わかった」
Holmesは短伝話を切る。エアルドフリスから手に入った情報を元に、その人に話を聞くためだ。
川で染めた余分な藍を洗い長し、乾かし仕上げる。おかげで、爪先も真っ青だ。
「アキエヴェ殿一つ問いたい」
「どうなされましたかHolmes様?」
「率直に聞く。初代族長が謳った『敬う想い』は揺らいでいないか?」
パシャリ、木綿布を取り落とす。誰もが問わぬ質問、だが誰かが問わねばならぬ質問。
答えは沈黙であり、肯定だ。その通りだと。中には、蒼い炎は母が使ったから信仰している、そう思うものもいるそうだ。
「審神者と巫女、相克された子に周りは落胆したと」
だが、それでも自分の想いは、本物である。アキエヴェはそう言い切った。
そこに、ジュード達が姿を見せ、Holmesは手を振り答える。そしてこう彼女に囁いた。
「なら、やらないとな。一代限り、なんて悲しいとは思わないかい?」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
インデュー族調査会議(相談卓) ジュード・エアハート(ka0410) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/07/05 14:29:47 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/01 23:38:31 |