ゲスト
(ka0000)
星に願いを、夏に浴衣を!
マスター:黒木茨

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/09 09:00
- 完成日
- 2015/07/18 02:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●虫取り少年と姉
ずずず……と豪快な音を立てて少年が素麺を啜っている。
「ご飯食べ終わったら、お店手伝ってくれない?」
一緒に素麺を啜りながら少年に話しかけるのは、少年よりいくつか年上らしい女性だ。
二人の顔立ちはどこか似ている。姉弟だろうか? 部屋には藤や菖蒲、蜻蛉の柄が繊細に描かれた見事な布が広がっていた。
少年は不満げな視線を女性に向ける。女性は溜息を吐いて、呆れたように呟いた。
「もう、虫のことばっかり」
「ごめん姉ちゃん! 今日を逃したら、今年はもうとれないんだよ!」
女性は目の前で両手を合わせて、ぺこぺこと頭を下げている少年の頭を一つ、優しく叩いた。
「来年でいいじゃないの」
しかし女性は、それでもなお首の上下運動を続ける少年を見て、折れるしかなかった。
「もう、そこまでするなら、任せてもこっそり出て行きそうだし。いいわよ」
「やったー!」
そうすれば少年は先ほどまでの様子はどこへやら、ぱっと灯が燈ったかのように明るさを取り戻して笑顔を見せる。
女性はもう一度溜息をつきながら、部屋の空気を入れ替えよう、と窓を開けた。
外では、ちょうど青年と少女が何かを組み立てているようだった。
●棚幡に備えて
「あれ? 何してるんですかー!」
女性の声に気付いた二人は、手を振って答えた。
「流し素麺をやるので、その準備をしているのです」
「短冊も! 短冊にお願い事かくの! 七夕だから!」
青年、そして少女の声が届いて、女性は自らの頭に蓄えられた知識を手繰った。
リアルブルーと呼ばれる場所では、夏にどうするのであったか……七夕……とは?
「なんだか面白そうですねー」
しかし、よく知らずとも曖昧な返事は返せる。女性もまた手を振って、最低限の礼を示した。
「ええ、テオドラさんもどうぞ遊びに来てください。よければ、弟さんも一緒に」
青年は柔和な印象どおりの微笑みを湛えて、女性に叫ぶ。
その声を最後にその場のやり取りは絶えた。
「姉ちゃんもなんかやれば?」
少年が尋ねるも、女性はこつん、こつんと靴の爪先同士を合わせては音を鳴らして考え込んでいる。
「向こうの文化はよくわからないけど……」
女性は本棚から何冊か本を取り出して、ぱらぱらとページを繰った。
「この時期は浴衣っていうのを着るみたいね。売り物にしても大丈夫って師匠にも言われたし……せっかくだから、うちでも扱ってみようか」
ずずず……と豪快な音を立てて少年が素麺を啜っている。
「ご飯食べ終わったら、お店手伝ってくれない?」
一緒に素麺を啜りながら少年に話しかけるのは、少年よりいくつか年上らしい女性だ。
二人の顔立ちはどこか似ている。姉弟だろうか? 部屋には藤や菖蒲、蜻蛉の柄が繊細に描かれた見事な布が広がっていた。
少年は不満げな視線を女性に向ける。女性は溜息を吐いて、呆れたように呟いた。
「もう、虫のことばっかり」
「ごめん姉ちゃん! 今日を逃したら、今年はもうとれないんだよ!」
女性は目の前で両手を合わせて、ぺこぺこと頭を下げている少年の頭を一つ、優しく叩いた。
「来年でいいじゃないの」
しかし女性は、それでもなお首の上下運動を続ける少年を見て、折れるしかなかった。
「もう、そこまでするなら、任せてもこっそり出て行きそうだし。いいわよ」
「やったー!」
そうすれば少年は先ほどまでの様子はどこへやら、ぱっと灯が燈ったかのように明るさを取り戻して笑顔を見せる。
女性はもう一度溜息をつきながら、部屋の空気を入れ替えよう、と窓を開けた。
外では、ちょうど青年と少女が何かを組み立てているようだった。
●棚幡に備えて
「あれ? 何してるんですかー!」
女性の声に気付いた二人は、手を振って答えた。
「流し素麺をやるので、その準備をしているのです」
「短冊も! 短冊にお願い事かくの! 七夕だから!」
青年、そして少女の声が届いて、女性は自らの頭に蓄えられた知識を手繰った。
リアルブルーと呼ばれる場所では、夏にどうするのであったか……七夕……とは?
「なんだか面白そうですねー」
しかし、よく知らずとも曖昧な返事は返せる。女性もまた手を振って、最低限の礼を示した。
「ええ、テオドラさんもどうぞ遊びに来てください。よければ、弟さんも一緒に」
青年は柔和な印象どおりの微笑みを湛えて、女性に叫ぶ。
その声を最後にその場のやり取りは絶えた。
「姉ちゃんもなんかやれば?」
少年が尋ねるも、女性はこつん、こつんと靴の爪先同士を合わせては音を鳴らして考え込んでいる。
「向こうの文化はよくわからないけど……」
女性は本棚から何冊か本を取り出して、ぱらぱらとページを繰った。
「この時期は浴衣っていうのを着るみたいね。売り物にしても大丈夫って師匠にも言われたし……せっかくだから、うちでも扱ってみようか」
リプレイ本文
●霞立つ天の川原に
晴れたヴァリオスの街中で浴衣はじめましたーと店員がチラシを配っている。
その一枚をエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)が震える手で受け取った。先の依頼で負った怪我の影響で、のんびりと歩くエヴァの隣をゴールデン・レトリバーとハスキーが寄り添うように歩いている。
浴衣を扱う仕立て屋の情報を聞き知っているのはエヴァだけでなく。
アマービレ・ミステリオーソ(ka0264)もまた、浴衣を求めて足を伸ばしていた。アマービレはドルチェと名付けられたインコをお供にしている。
「ユカタハジメマシター」
とドルチェはすっかり店員の言葉を真似て喋っていた。アマービレはふっと微笑んで、ドルチェを撫でた。
「こっちでも七夕を過ごせるなんて、何だか不思議、ね」
ケイ・R・シュトルツェ(ka0242)は、頭上の空を見てそう呟いた。
(こんな日は静かで優しい音楽と、それから仄かに燈る灯り。それから……星空が見えれば……最高なんだけど……)
思いを馳せるケイとは離れたどこかで、ユキヤ・S・ディールス(ka0382)が、空を見てはこう思う。
(……向こうの世界も、こっちの世界も、変わらずに星が瞬いているのは、何だか不思議です、ね)
リアルブルーの空と、クリムゾンウェストの空。遠く離れている場所としても、空だけは同じ様相を見せていた。
タイミングはバラバラながら、この二人がテオドラの店へと入っていく。
ユキヤはリアルブルーの世界の面影を懐かしみながら、浴衣を見ていた。
ケイも店員から勧められながら、浴衣を選ぶ。いろいろ悩みつつ、最終的には薄紫と濃い紫の配色に蝶が飛ぶ、シンプルながらも主張が在るモノを選んだ。
「こ、こんな所でもお会いできるなんて……!」
ふっと視界に入ったケイの姿に目を丸くする少女は岩波レイナ(ka3178)。かつて居たリアルブルーでもこちらでも、ケイのファンの中のファンであった。
(如何しよう。声、掛けても失礼にならないかしら……)
遠くからこうして眺められるだけでも……と恋する乙女のように、レイナは懊悩としている。
ユキヤはそんなレイナの心も知らず、ケイに近付いて話しかける。
「ケイさん、こんにちは。ふふ、また奇遇にも一緒になりましたね」
「あら? ユキヤ!」
ケイもユキヤに気付いたのか、艶やかに微笑んで応じた。
(って、何よあの男!馴れ馴れしくケイ様にお声を掛けるなんて!)
ぐぬぬ……とレイナは遠巻きながらもユキヤを睨む。
「宜しければ、七夕、一緒に楽しみませんか?」
「勿論、ユキヤとなら喜んでご一緒するわ!」
親しげに話すユキヤとケイに痺れを切らし、レイナはユキヤに向かってがんと一言。
「……って、ユキヤ、アンタ何しに来たのよ! というか、ケイ様から離れなさいよ!」
「レイナさんもこんにちは」
ユキヤはその口撃を受け流し、にっこりと微笑みを崩さずにレイナへ挨拶した。
「七夕気分を味わおうと思ったら、偶然ケイさんとお会いしたのでご一緒させて頂こうと思って」
「それはどうでも――ケイ様?」
「まぁ! レイナも? 奇遇ね」
……言った後、ユキヤの隣にいるケイに気付き、レイナはユキヤへの激しい態度から一変。
「あ、いえ、ケイ様、その、此処でもお会いできて嬉しいです。ケイ様も七夕の気分を味わいにいらしたのですか?」
大人しく穏やかな口調で話し始める。
「ええ、そうなの。本当に奇遇ね。折角だし一緒に行きましょう?」
「えっ……は、はい!」
心酔するケイからの誘いに、レイナは首を縦に振るしかなかった。
「良いかしら、ユキヤ?」
ケイはユキヤに向き直る。ユキヤが柔らかい微笑みのまま頷くのを見て、なんやかんやと三人で動くことになった。
「ま、しょうがないからユキヤも一緒でもこの際目をつぶるわよ」
レイナはふんと先ほどの態度に戻り、ユキヤを見た。
(でも、ケイ様に近付き過ぎよ!)
●ぬばたまの夜霧に
テオドラの店で浴衣を見るのはケイたちだけでなく。
「ヒラヒラしとって、可愛らしなあ。可愛い子が着てたら最強やなあ。一撃必殺やわあ」
浴衣を見ながら感想を漏らすのは、レン・ダイノ(ka3787)。
「リアルブルーの文化って趣深いわよねぇ……」
しみじみと語るのは、ルキハ・ラスティネイル(ka2633)であった。
ちょうどそのとき、別の場所で鬼百合(ka3667)とエヴァが柄を見てはうん、うんと語り合っていた。エヴァの連れであるレトリバーとハスキーが尻尾を揺らしている。
(ちょっとおもしろいわね)
エヴァは先ほどから、仕入れた知識と、店の中にある浴衣たちの豊富な柄を照らし合わせては楽しんでいた。蜻蛉は勝虫といわれて縁起のいい柄だ、だとか。
リアルブルーとは違う、クリムゾンウェストならではの柄もあり、なかなか面白いという。
「エヴァのねえさんは、ものしりだなぁ」
鬼百合はその後ろをひょこひょこと付いていって、一緒に店内を見ていた。
「浴衣は去年も着たことがあるんだけど、面白い服装よね」
アマービレもまた、店内を眺めて呟く。
「あら、去年も!」
それを聞いたテオドラは感心したような表情で、もし買うのならばとアマービレの希望を聞いた。
「藍色のを持ってるから華やかな色が欲しいかなぁ。どれにしよう……なにかオススメはあるかしら?」
アマービレの言葉に、テオドラはうーんと近くのものを見て、その一つを選ぶ。
「華やかな色でございますか……ではこちらの柄は如何ですか?」
それはピンク地に赤い牡丹の咲くものだった。アマービレはそれを選ぶ。
「なあなあルキハさん、僕にも浴衣選んでえやあ」
レンがルキハにいえば、ルキハは浴衣の中から、何着か選ぶ。
「ね、レン君にはこの『ジンベイ』って形の似合いそうじゃなぁい?」
レンの体に黒地に金糸で蒔絵調の柄の甚平を合わせたルキハは、レンの反応を伺った。
「そうやなあ。これにしよかな」
レンも満足そうに笑う。
「おおきにねえ。せっかくやし着て行きたいわあ」
といわれて、ルキハも自分の浴衣を選んだ。
「アタシも浴衣着て行くわ~♪」
そして、レンとルキハは購入した浴衣を手に試着スペースに急ぐ。
「ルキハさん、おとこのひと? おんなのひと?」
きょとん。鬼百合は着替え終わったルキハとレンの前まで来て、じっと見つめていた。
ルキハはちょうど濃紺の桜の透かし彫り模様の浴衣を着ていたので、女性っぽくも見えたのだろうか。
『知り合いなの?』
エヴァは不思議そうに鬼百合とルキハを見やり、メモに字を記す。
痺れた手で持つペンで書かれた字はとても震えており、鬼百合はなんとなく、どうにか解読するほどであった。
「お、可愛い子やね」
レンの言葉を受けて、鬼百合はぴんと背筋を正し、口を開く。
「えっと、オレは鬼百合ってーんでさ」
そしてレンとルキハの二人を見て、続ける。
「オレもユカタ着たいんですぜ!」
はしゃぐ鬼百合にルキハが選んでいる間、レンがエヴァに話しかけた。
「オンナノコは着ないん?」
その言葉にうーん。と。エヴァに声が出せれば唸っていそうな表情でペンを持つと、
『いまはちょっとね』
レンにもまた、メモを見せる。
「そかそか。残念やなあ」
ぼんやりと答えてる隣で、鬼百合が躊躇ったように弱弱しい声で言っていた。
「からだに紋様あるから、人に見られたら怖がられちまうから……」
「大丈夫よ!」
ルキハに元気付けられ、次にテオドラに恐る恐る尋ねる。
「テオドラさんは、だいじょーぶ?」
訊かれた言葉に、テオドラは平然と答える。
「ええ、まあ。そういう人、たまに居ますよ。派手な刺青してたり」
やり取りが終わり、着付けを終えた鬼百合が試着スペースから出てきた。
「オレは? オレはかっこい?」
レンに向かってポーズを決める鬼百合に、暖かい言葉が寄せられた。
ケイやユキヤが選び終えているのをみて、レイナも浴衣を選び始める。
「う~ん……あたしはどんなのにしようかしら……」
あれやこれや手にとって、うーんと悩むレイナに、ケイが優しく言う。
「レイナには……そうね。あの大輪の向日葵が咲いている浴衣が似合いそう……」
(ケイ様が選んで下さるなんて……!)
レイナはそのことに舞い上がるが、でもでも……と考えを巡らせる。
(似合わなかったらコトだわ……!でも、ケイ様の見立てに間違いがあるはずないモノ)
暫し幸せを感じながら、レイナはケイに言われた浴衣を手に取った。
そうして、ユキヤを暫く待たせて二人はそれぞれの浴衣に着替えた。
「お二人共、良く似合ってらっしゃいますね。とても綺麗です」
ユキヤはふんわりと感想を述べた。レイナは、ケイの浴衣姿に見とれている。
「ケイ様は浴衣姿でも、やっぱり綺麗だわ……!」
ケイはレイナの言葉にふふっとこれまた艶やかに微笑んだ。
「ありがとう。やっぱり似合っているわね」
ケイのこの言葉に、レイナはまた舞い上がるような心地になるのだった。
●SO-MEN!
「あれ何やろなあ?」
テオドラの店から出たレンは、ドナートの店に組み立てられた流し素麺の設備を指差した。
「何かしら……流しソーメン? なんだかよくわからないけど楽しそうね」
アマービレもテオドラの店に来る前に、組み立てられたそれを不思議に思っていたので、レンの言葉にはつい頷く。
「そーめんってなんですかぃ? おもしれぇ皿ですねぇ」
鬼百合は竹を見ながら呟く。
(ただより安い物はないのよ!)
エヴァはそんな気分で、参加する気満々であった。
「流し素麺? へえ、お箸で引っ掛けたらええんやねえ」
レンは店に集まっていた客が流された素麺を箸で受け止めて食すのを見て、得心したようだった。
「パスタよりもずっと細いわね。それに流すのに何の意味があるのかしら……」
アマービレは流れゆく素麺を見て、思ったまま言葉を発する。
「あらヤダ、面白そう!」
ルキハはノリノリで参加しようとしていた。
なんやかんやと五人揃って参加し、流れゆく素麺を食すべくわいわい竹を眺めていた。
「あら……ふふっこれ結構楽しいわ。素朴な味も和食な感じで美味しい」
最初の素麺を手にしたのはアマービレ。箸を器用に使い、素麺を頂いた。
「うくく……この『おはし』って使うの難しいワ……全然取れないィ~レン君取って食べさせてえ」
ルキハは慣れないようで、くねくねとポーズをとってレンに甘えた。
「しっかり者やのに可愛いとこあるやんかあ」
レンは笑い、器用に素麺を取ってルキハの皿に載せる。
エヴァも
(フォークじゃ駄目なの……)
と持つ箸をカタカタと震わせて思う。
「こーゆー時はふぉーく使っていいってねーさんが言ってました!」
鬼百合が言うと、近くに居たドナートも頷く。
「ああ、はい。お箸に慣れない方に、フォークも貸し出すことができますよ」
ドナートの微笑みとともにフォークは鬼百合とエヴァに貸し出され、そしてまた流れゆく素麺。
「鬼百合君……なんてフォーク捌きなの……!素敵……!」
ルキハは鬼百合の器用なフォークさばきに感心していた。
エヴァは、フォークの隙間から流れる素麺を恨めしそうに見つつ、震える手で鬼百合の真似を始める。
「ドルチェは駄目よ? あなたはこっちね」
アマービレは流れる素麺を興味深そうに眺めているインコに、果物を与えた。
●七夕にちなんで
流し素麺を楽しんだハンターたちは、今度は店内のお菓子に興味がある者もいるようで。
「私も作ってみたいのだけれど……上手くいかなくて」
アマービレもその一人か、溜息をつきながらドナートに零す。
「どうしていつも失敗するのかしら? この間は歌うことに夢中になりすぎて鍋が爆発したのよね……」
「それが原因では……」
アマービレの証言に、ドナートは苦笑してしまう。
「ま、まぁそれはいいのよ」
あせあせとアマービレはかわいいものをいくつか選び、購入した。
「可愛いお菓子もあるやん。流せるお菓子はあらへんの?」
レンは店内を眺めてのんびりと呟いた。
「流しお菓子……ですか……」
ドナートは衝撃を受けたように、レンを見やる。
「流せるお菓子はあっても、おつゆで食べるお菓子はなさそやなあ」
レンはドナートの様子に、のんびりとそう思う。
おねにーさんおねにーさん、と鬼百合にくいくいと呼ばれたルキハは、鬼百合にこう訊かれる。
「おんなのこが好きなのどれかわかりますかぃ?」
「あらま!」
鬼百合もやるわねと思いつつ、鬼百合の言葉の続きを待つ。
「同居人のねーさんとねーさんに買う分迷ってんでさ」
「そういうことなら、そうね」
ルキハは鬼百合の気持ちを汲みつつ、いくつか見繕う。鬼百合もそれで納得し、購入した。
「お土産、喜んでくれるといいわネ♪」
ルキハは優しく、そっと鬼百合の頭を撫でた。
(怪我はするもんじゃない!)
エヴァは色とりどりの短冊が飾られている様に満足げになったが、筆も満足にとれない身体を思い返しぶすくれていた。
ペットの二匹をもふもふと撫でながら、それでも参加するようだった。
「お願いごとは色々あるから迷っちゃうわ」
アマービレは悩みつつ、どうにか決心したようで一言、短冊に書いた。
『素敵な音楽との出会い!』
書き上げた短冊を吊るしたアマービレは、叶うようこっそりと祈る。
「織姫ちゃん、来年は僕とデートしてって書いとこー」
レンは暢気に、言った言葉のまま短冊に願いを書く。
「レンくんらしいわね」
短冊を取らなかったルキハが笑う隣で、鬼百合が短冊にこう書く。
『みんなえがおになります よに!』
無邪気な願いを吊るし、一緒に書いたエヴァを見た。
「エヴァのねーさんは何かいたんですかぃ?」
エヴァはやりきったような顔で、短冊の中の一つを指差す。
指先の示す先を鬼百合が見れば、その短冊には七夕の独特の風景が絵に残されていた。
『何処までも続く空が、何時までも其処に在りますように……』
ユキヤはこういった願いを込めて、短冊を吊るした。
『ケイ様の歌声が、全てに降り注ぎます様に』
ユキヤに続いたレイナはこの短冊を吊るし、店を出る。
「今日は最高の一日だったわ! ユキヤ、アンタさえ居な……ま、まあ、ケイ様は勿論、アンタが居ても、その……楽しかった、わ!」
今日をしみじみと思いながら、ユキヤへつっかかる……前に言いなおす。
「また、機会があれば、こうして、お二人と一緒出来る機会があると嬉しいです。その時は宜しくお願いしますね」
ユキヤはレイナに微笑みかける。そして前を歩くケイとレイナを見守りながら、星空を見上げた。
晴れたヴァリオスの街中で浴衣はじめましたーと店員がチラシを配っている。
その一枚をエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)が震える手で受け取った。先の依頼で負った怪我の影響で、のんびりと歩くエヴァの隣をゴールデン・レトリバーとハスキーが寄り添うように歩いている。
浴衣を扱う仕立て屋の情報を聞き知っているのはエヴァだけでなく。
アマービレ・ミステリオーソ(ka0264)もまた、浴衣を求めて足を伸ばしていた。アマービレはドルチェと名付けられたインコをお供にしている。
「ユカタハジメマシター」
とドルチェはすっかり店員の言葉を真似て喋っていた。アマービレはふっと微笑んで、ドルチェを撫でた。
「こっちでも七夕を過ごせるなんて、何だか不思議、ね」
ケイ・R・シュトルツェ(ka0242)は、頭上の空を見てそう呟いた。
(こんな日は静かで優しい音楽と、それから仄かに燈る灯り。それから……星空が見えれば……最高なんだけど……)
思いを馳せるケイとは離れたどこかで、ユキヤ・S・ディールス(ka0382)が、空を見てはこう思う。
(……向こうの世界も、こっちの世界も、変わらずに星が瞬いているのは、何だか不思議です、ね)
リアルブルーの空と、クリムゾンウェストの空。遠く離れている場所としても、空だけは同じ様相を見せていた。
タイミングはバラバラながら、この二人がテオドラの店へと入っていく。
ユキヤはリアルブルーの世界の面影を懐かしみながら、浴衣を見ていた。
ケイも店員から勧められながら、浴衣を選ぶ。いろいろ悩みつつ、最終的には薄紫と濃い紫の配色に蝶が飛ぶ、シンプルながらも主張が在るモノを選んだ。
「こ、こんな所でもお会いできるなんて……!」
ふっと視界に入ったケイの姿に目を丸くする少女は岩波レイナ(ka3178)。かつて居たリアルブルーでもこちらでも、ケイのファンの中のファンであった。
(如何しよう。声、掛けても失礼にならないかしら……)
遠くからこうして眺められるだけでも……と恋する乙女のように、レイナは懊悩としている。
ユキヤはそんなレイナの心も知らず、ケイに近付いて話しかける。
「ケイさん、こんにちは。ふふ、また奇遇にも一緒になりましたね」
「あら? ユキヤ!」
ケイもユキヤに気付いたのか、艶やかに微笑んで応じた。
(って、何よあの男!馴れ馴れしくケイ様にお声を掛けるなんて!)
ぐぬぬ……とレイナは遠巻きながらもユキヤを睨む。
「宜しければ、七夕、一緒に楽しみませんか?」
「勿論、ユキヤとなら喜んでご一緒するわ!」
親しげに話すユキヤとケイに痺れを切らし、レイナはユキヤに向かってがんと一言。
「……って、ユキヤ、アンタ何しに来たのよ! というか、ケイ様から離れなさいよ!」
「レイナさんもこんにちは」
ユキヤはその口撃を受け流し、にっこりと微笑みを崩さずにレイナへ挨拶した。
「七夕気分を味わおうと思ったら、偶然ケイさんとお会いしたのでご一緒させて頂こうと思って」
「それはどうでも――ケイ様?」
「まぁ! レイナも? 奇遇ね」
……言った後、ユキヤの隣にいるケイに気付き、レイナはユキヤへの激しい態度から一変。
「あ、いえ、ケイ様、その、此処でもお会いできて嬉しいです。ケイ様も七夕の気分を味わいにいらしたのですか?」
大人しく穏やかな口調で話し始める。
「ええ、そうなの。本当に奇遇ね。折角だし一緒に行きましょう?」
「えっ……は、はい!」
心酔するケイからの誘いに、レイナは首を縦に振るしかなかった。
「良いかしら、ユキヤ?」
ケイはユキヤに向き直る。ユキヤが柔らかい微笑みのまま頷くのを見て、なんやかんやと三人で動くことになった。
「ま、しょうがないからユキヤも一緒でもこの際目をつぶるわよ」
レイナはふんと先ほどの態度に戻り、ユキヤを見た。
(でも、ケイ様に近付き過ぎよ!)
●ぬばたまの夜霧に
テオドラの店で浴衣を見るのはケイたちだけでなく。
「ヒラヒラしとって、可愛らしなあ。可愛い子が着てたら最強やなあ。一撃必殺やわあ」
浴衣を見ながら感想を漏らすのは、レン・ダイノ(ka3787)。
「リアルブルーの文化って趣深いわよねぇ……」
しみじみと語るのは、ルキハ・ラスティネイル(ka2633)であった。
ちょうどそのとき、別の場所で鬼百合(ka3667)とエヴァが柄を見てはうん、うんと語り合っていた。エヴァの連れであるレトリバーとハスキーが尻尾を揺らしている。
(ちょっとおもしろいわね)
エヴァは先ほどから、仕入れた知識と、店の中にある浴衣たちの豊富な柄を照らし合わせては楽しんでいた。蜻蛉は勝虫といわれて縁起のいい柄だ、だとか。
リアルブルーとは違う、クリムゾンウェストならではの柄もあり、なかなか面白いという。
「エヴァのねえさんは、ものしりだなぁ」
鬼百合はその後ろをひょこひょこと付いていって、一緒に店内を見ていた。
「浴衣は去年も着たことがあるんだけど、面白い服装よね」
アマービレもまた、店内を眺めて呟く。
「あら、去年も!」
それを聞いたテオドラは感心したような表情で、もし買うのならばとアマービレの希望を聞いた。
「藍色のを持ってるから華やかな色が欲しいかなぁ。どれにしよう……なにかオススメはあるかしら?」
アマービレの言葉に、テオドラはうーんと近くのものを見て、その一つを選ぶ。
「華やかな色でございますか……ではこちらの柄は如何ですか?」
それはピンク地に赤い牡丹の咲くものだった。アマービレはそれを選ぶ。
「なあなあルキハさん、僕にも浴衣選んでえやあ」
レンがルキハにいえば、ルキハは浴衣の中から、何着か選ぶ。
「ね、レン君にはこの『ジンベイ』って形の似合いそうじゃなぁい?」
レンの体に黒地に金糸で蒔絵調の柄の甚平を合わせたルキハは、レンの反応を伺った。
「そうやなあ。これにしよかな」
レンも満足そうに笑う。
「おおきにねえ。せっかくやし着て行きたいわあ」
といわれて、ルキハも自分の浴衣を選んだ。
「アタシも浴衣着て行くわ~♪」
そして、レンとルキハは購入した浴衣を手に試着スペースに急ぐ。
「ルキハさん、おとこのひと? おんなのひと?」
きょとん。鬼百合は着替え終わったルキハとレンの前まで来て、じっと見つめていた。
ルキハはちょうど濃紺の桜の透かし彫り模様の浴衣を着ていたので、女性っぽくも見えたのだろうか。
『知り合いなの?』
エヴァは不思議そうに鬼百合とルキハを見やり、メモに字を記す。
痺れた手で持つペンで書かれた字はとても震えており、鬼百合はなんとなく、どうにか解読するほどであった。
「お、可愛い子やね」
レンの言葉を受けて、鬼百合はぴんと背筋を正し、口を開く。
「えっと、オレは鬼百合ってーんでさ」
そしてレンとルキハの二人を見て、続ける。
「オレもユカタ着たいんですぜ!」
はしゃぐ鬼百合にルキハが選んでいる間、レンがエヴァに話しかけた。
「オンナノコは着ないん?」
その言葉にうーん。と。エヴァに声が出せれば唸っていそうな表情でペンを持つと、
『いまはちょっとね』
レンにもまた、メモを見せる。
「そかそか。残念やなあ」
ぼんやりと答えてる隣で、鬼百合が躊躇ったように弱弱しい声で言っていた。
「からだに紋様あるから、人に見られたら怖がられちまうから……」
「大丈夫よ!」
ルキハに元気付けられ、次にテオドラに恐る恐る尋ねる。
「テオドラさんは、だいじょーぶ?」
訊かれた言葉に、テオドラは平然と答える。
「ええ、まあ。そういう人、たまに居ますよ。派手な刺青してたり」
やり取りが終わり、着付けを終えた鬼百合が試着スペースから出てきた。
「オレは? オレはかっこい?」
レンに向かってポーズを決める鬼百合に、暖かい言葉が寄せられた。
ケイやユキヤが選び終えているのをみて、レイナも浴衣を選び始める。
「う~ん……あたしはどんなのにしようかしら……」
あれやこれや手にとって、うーんと悩むレイナに、ケイが優しく言う。
「レイナには……そうね。あの大輪の向日葵が咲いている浴衣が似合いそう……」
(ケイ様が選んで下さるなんて……!)
レイナはそのことに舞い上がるが、でもでも……と考えを巡らせる。
(似合わなかったらコトだわ……!でも、ケイ様の見立てに間違いがあるはずないモノ)
暫し幸せを感じながら、レイナはケイに言われた浴衣を手に取った。
そうして、ユキヤを暫く待たせて二人はそれぞれの浴衣に着替えた。
「お二人共、良く似合ってらっしゃいますね。とても綺麗です」
ユキヤはふんわりと感想を述べた。レイナは、ケイの浴衣姿に見とれている。
「ケイ様は浴衣姿でも、やっぱり綺麗だわ……!」
ケイはレイナの言葉にふふっとこれまた艶やかに微笑んだ。
「ありがとう。やっぱり似合っているわね」
ケイのこの言葉に、レイナはまた舞い上がるような心地になるのだった。
●SO-MEN!
「あれ何やろなあ?」
テオドラの店から出たレンは、ドナートの店に組み立てられた流し素麺の設備を指差した。
「何かしら……流しソーメン? なんだかよくわからないけど楽しそうね」
アマービレもテオドラの店に来る前に、組み立てられたそれを不思議に思っていたので、レンの言葉にはつい頷く。
「そーめんってなんですかぃ? おもしれぇ皿ですねぇ」
鬼百合は竹を見ながら呟く。
(ただより安い物はないのよ!)
エヴァはそんな気分で、参加する気満々であった。
「流し素麺? へえ、お箸で引っ掛けたらええんやねえ」
レンは店に集まっていた客が流された素麺を箸で受け止めて食すのを見て、得心したようだった。
「パスタよりもずっと細いわね。それに流すのに何の意味があるのかしら……」
アマービレは流れゆく素麺を見て、思ったまま言葉を発する。
「あらヤダ、面白そう!」
ルキハはノリノリで参加しようとしていた。
なんやかんやと五人揃って参加し、流れゆく素麺を食すべくわいわい竹を眺めていた。
「あら……ふふっこれ結構楽しいわ。素朴な味も和食な感じで美味しい」
最初の素麺を手にしたのはアマービレ。箸を器用に使い、素麺を頂いた。
「うくく……この『おはし』って使うの難しいワ……全然取れないィ~レン君取って食べさせてえ」
ルキハは慣れないようで、くねくねとポーズをとってレンに甘えた。
「しっかり者やのに可愛いとこあるやんかあ」
レンは笑い、器用に素麺を取ってルキハの皿に載せる。
エヴァも
(フォークじゃ駄目なの……)
と持つ箸をカタカタと震わせて思う。
「こーゆー時はふぉーく使っていいってねーさんが言ってました!」
鬼百合が言うと、近くに居たドナートも頷く。
「ああ、はい。お箸に慣れない方に、フォークも貸し出すことができますよ」
ドナートの微笑みとともにフォークは鬼百合とエヴァに貸し出され、そしてまた流れゆく素麺。
「鬼百合君……なんてフォーク捌きなの……!素敵……!」
ルキハは鬼百合の器用なフォークさばきに感心していた。
エヴァは、フォークの隙間から流れる素麺を恨めしそうに見つつ、震える手で鬼百合の真似を始める。
「ドルチェは駄目よ? あなたはこっちね」
アマービレは流れる素麺を興味深そうに眺めているインコに、果物を与えた。
●七夕にちなんで
流し素麺を楽しんだハンターたちは、今度は店内のお菓子に興味がある者もいるようで。
「私も作ってみたいのだけれど……上手くいかなくて」
アマービレもその一人か、溜息をつきながらドナートに零す。
「どうしていつも失敗するのかしら? この間は歌うことに夢中になりすぎて鍋が爆発したのよね……」
「それが原因では……」
アマービレの証言に、ドナートは苦笑してしまう。
「ま、まぁそれはいいのよ」
あせあせとアマービレはかわいいものをいくつか選び、購入した。
「可愛いお菓子もあるやん。流せるお菓子はあらへんの?」
レンは店内を眺めてのんびりと呟いた。
「流しお菓子……ですか……」
ドナートは衝撃を受けたように、レンを見やる。
「流せるお菓子はあっても、おつゆで食べるお菓子はなさそやなあ」
レンはドナートの様子に、のんびりとそう思う。
おねにーさんおねにーさん、と鬼百合にくいくいと呼ばれたルキハは、鬼百合にこう訊かれる。
「おんなのこが好きなのどれかわかりますかぃ?」
「あらま!」
鬼百合もやるわねと思いつつ、鬼百合の言葉の続きを待つ。
「同居人のねーさんとねーさんに買う分迷ってんでさ」
「そういうことなら、そうね」
ルキハは鬼百合の気持ちを汲みつつ、いくつか見繕う。鬼百合もそれで納得し、購入した。
「お土産、喜んでくれるといいわネ♪」
ルキハは優しく、そっと鬼百合の頭を撫でた。
(怪我はするもんじゃない!)
エヴァは色とりどりの短冊が飾られている様に満足げになったが、筆も満足にとれない身体を思い返しぶすくれていた。
ペットの二匹をもふもふと撫でながら、それでも参加するようだった。
「お願いごとは色々あるから迷っちゃうわ」
アマービレは悩みつつ、どうにか決心したようで一言、短冊に書いた。
『素敵な音楽との出会い!』
書き上げた短冊を吊るしたアマービレは、叶うようこっそりと祈る。
「織姫ちゃん、来年は僕とデートしてって書いとこー」
レンは暢気に、言った言葉のまま短冊に願いを書く。
「レンくんらしいわね」
短冊を取らなかったルキハが笑う隣で、鬼百合が短冊にこう書く。
『みんなえがおになります よに!』
無邪気な願いを吊るし、一緒に書いたエヴァを見た。
「エヴァのねーさんは何かいたんですかぃ?」
エヴァはやりきったような顔で、短冊の中の一つを指差す。
指先の示す先を鬼百合が見れば、その短冊には七夕の独特の風景が絵に残されていた。
『何処までも続く空が、何時までも其処に在りますように……』
ユキヤはこういった願いを込めて、短冊を吊るした。
『ケイ様の歌声が、全てに降り注ぎます様に』
ユキヤに続いたレイナはこの短冊を吊るし、店を出る。
「今日は最高の一日だったわ! ユキヤ、アンタさえ居な……ま、まあ、ケイ様は勿論、アンタが居ても、その……楽しかった、わ!」
今日をしみじみと思いながら、ユキヤへつっかかる……前に言いなおす。
「また、機会があれば、こうして、お二人と一緒出来る機会があると嬉しいです。その時は宜しくお願いしますね」
ユキヤはレイナに微笑みかける。そして前を歩くケイとレイナを見守りながら、星空を見上げた。
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【相談卓】夏の一日 アマービレ・ミステリオーソ(ka0264) エルフ|21才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/07/07 04:20:51 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/09 06:23:26 |