• 聖呪

【聖呪】驚異と脅威

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/07/05 19:00
完成日
2015/07/12 18:36

みんなの思い出

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オープニング

 王国北西部アルテリア地方北部、アーヴィー村に対するゴブリンの一部族による襲撃は、ハンターたちの活躍によって大した損害もなく終結した。
 援軍としてこの地に派遣された私設戦士団の一隊は、敗走したゴブリンたちを追撃で蹴散らすと、その余勢を駆って『巣』まで攻め入り、これを完全に討滅した。
「これであの村がゴブリンの驚異に晒されることは、もうなくなったと言うわけだ」
「完全勝利。我々の手に掛かれば、この程度、朝飯前よ。がはははは……!」
 黒煙棚引く丘の頂から戦果を見下ろしながら、若い貴族たちが、戦の──いや、ほぼ一方的な殺戮の──高揚感に言葉を浮つかせる。
 彼らの殆どが初陣だった。マーロウ大公が組織したこの戦士団は、若い貴族とその従者たちを中心に構成されていた。その多くがホロウレイドの戦いで当主を亡くした貴族の次男や三男といった者たちであり、10代、20代といった若い者も多い。
「その通りだ。我々は戦果を上げた。王国の臣民を救った。……大公閣下の言う『貴族の範』を、世に示すことができた。それも全て皆の奮励努力の賜である」
 隊長と思しき青年が、若者たちの労を労った。彼は隊でも数少なかった実戦経験者の一人だった。ホロウレイドの戦いにも参加している。
「だが、ここ最近の王国北部の異常が全て解決したかと言えばそうではない」
 青年隊長が言うと、若者たちの多くがその表情を引き締めた。
 アーヴィー村を襲ったのは、所謂『普通の』ゴブリンだった。王国北部、アスランド地方から流れて来た部族である。なぜ、彼らはわざわざ大挙して押し寄せて来たのか。そして、最近、北部で頻発するゴブリン『亜種』との遭遇報告── 確かに、事態はまだ何も解決していない。
「我々は補給と休息を取った後、このままアスランド地方へ入る。斥候隊を編成せよ。本隊との合流を第一とするが、かの地の情報は出来うる限り収集しておきたい」

 数日後──
 アスランド地方へ入った戦士団は、複数の斥候隊を出しながら北上を続けた。
 最初に敵と遭遇したのはその斥候隊の一つ、便宜上、第七班と呼ばれる班だった。
 ゴブリンたちはいきなり荒野の丘の上に現れた。通常のゴブリンとは明らかに異なる風体の、鉄灰色の肌をしたゴブリンだった。通常のゴブリンよりもずっと大きく頑強──『亜種』の一種であることは明白だった。
「あ、あ、あ、亜種と思しきゴブリン、4匹! あ、あ、あっちの丘の上に!」
「どっちのだ! 報告は正確ににせんか!」
「包囲と距離は、えーと…… とにかく、あっしの指の先に!」
 あちらにとっても予想外の遭遇であったのか。そのゴブリンたちはこちらに気づいて驚いた様子を見せると、慌てて丘の丘の向こうへ姿を消した。
「む、逃げるのか?!」
 それを見た瞬間、ゴツい顔をした大柄の若い貴族は馬に拍車をかけ、一直線に丘を駆け上がり始めた。もう一人の若い貴族の女──こちらはどこか学者然とした(ただし、フィールドワーク系の)雰囲気の──が慌てて従士たちに指示を出し、自らも馬を駆って後を追う。
 貴族たちが丘の頂に到達した時には、しかし、亜種たちは一気に坂を下って既に麓まで下りていた。
「なんとも逃げ足の速いことだ…… 追うぞ! 一気に捻りつぶしてくれる!」
「捻りつぶさないでくださいよ。あくまで情報の収集が目的なんですから」
 返事もせずに駆け出す貴族の男。貴族の女は半眼で嘆息しながら、ようやく徒歩で丘を駆け上がってきた従士たちに再び前進の指示を出す。
 丘がちの地形の高低を利用して上手く距離を稼いだゴブリンたちだったが、その差はすぐに縮まった。こちらを振り返り、慌てた様に斜面の向こうへ消えていく亜種たち。「無駄だ、もう逃げられんぞ!」と笑いながら、敵の背に槍の穂先を突き立てるべく斜面を越えた貴族の男は。だが、そこで敵を全く見失ってしまった。
「……消えた、だと?」
「あ、いました! あっち……!」
 追いついてきた従士たちが息も絶え絶えに、少し離れた場所を指を差す。
「もうあんな所まで……?」
「小癪な。逃がさぬ、追うぞ!」
 待ってください、と。女が男を止めた。
「何か様子がおかしい…… 一度、支隊に戻って敵の発見を報告すべきです」
「馬鹿な。ゴブリンどもを相手に何を臆する? それに、我々は持ち帰るべき情報を何も入手してはおらぬではないか」
「それはそうなんですが、しかし……」
「くどい! 伯爵家の子息たる俺に子爵家の人間が…… それも、女が意見するか! 臆病風に吹かれたというのなら、お前が支隊への報告に走れ!」
 青年は女にそう告げると、一寸の時も惜しいとばかりに追撃の号令を発した。自ら先頭に立って敵を追い始める貴族の男。従士たちがちらちらと女に頭を下げながら後を追う。
 それを見えなくなるまで見送り…… 女は、深く深く嘆息した。
 今回の北部の危機に際して臨時で編成された戦士団の、これが弱点の一つだった。組織としての最適化がまだ出来ておらず、指揮系統もおざなりのまま。今回の様に爵位の高さが『ものを言う』ケースも多い。
「……あー、そうですか。それじゃあそうさせてもらいますよ。ありがたく」
 女は吐き捨てる様にそう呟くと、勝手にすればいい、とばかりにその馬首を廻らせた。
 その道の先に、先ほど消えたはずの4体の亜種が佇んでこちらを見ていた。

 追いついたと思った瞬間、亜種たちはまた姿を消した。丘がちの地形が、貴族の男と従士たちの視線の通りを悪くしていた。
 そしてまた、そこから少し離れた場所に亜種たちの姿を見つける。……貴族の男もこの時には何かがおかしいと気づいていたが、女に啖呵を切った手前、今更引き返すことも出来なかった。相手が『たかがゴブリン』であることも男から冷静な判断力を奪っていた。
「追いつけさえすれば……」
 男は一計を案じた。意図的に追撃の速度を緩めたのだ。窪地に入ったゴブリンたちがそれに合わせるかのように速度を落とし…… 一気にそこへ肉薄する。
 彼の判断は遅すぎた。すり鉢状になった窪地の底で彼らが4体の亜種の虐殺を終えた時── 周囲の丘の上には、圧倒的多数の亜種たちが現れ、憎悪と共にこちらを睥睨していた。
「全周を囲まれている……! 罠だ! 俺たちは誘い込まれた!」
「馬鹿なっ! 誘引に包囲だと! たかが……たかがゴブリン如きがそのような戦い方を……!」
 男たちは槍と盾で壁を作り、円陣を展開した。守りを固め、犠牲を少なくするという意味で、彼らの行動は正しかった。だが、どんなに犠牲者を出したとしても…… 彼らはこの時、包囲の一点突破を図るべきだったのだ。
「捕虜を取れ」
 その集団のリーダーと思しき亜種が『人間の言葉で』命令する。
 驚愕に目を見開く男たちに、矢の雨が降り注いだ。

リプレイ本文

 ハンターたちが状況を知ったのは通りがかり。4体のゴブリン亜種に襲われているところを助けた女貴族からだった。
「ゴブリンに嵌められた……ね」
「不可抗力とも言えなくもないですが、しかし、その貴族が油断していたのも事実ですわね」
 話を聞き、呆れた様に嘆息する三角帽子の月影 夕姫(ka0102)と、見た目ロリきょ(以下略)エルフのエルバッハ・リオン(ka2434)。それを押し隠すように男装の麗人、イルム=ローレ・エーレ(ka5113)がズズイと前に出て、腰を抜かして地に座り込んだままの女貴族に恭しく手を差し伸べる。
「Oh mein Gott! なんという過酷な試練を……! だけど、どんなに絶望的な状況でも、次善の策ならばいくらでも取れるもの…… そして、麗しき戦乙女の頼みであれば、ボクに断るなんていう選択肢なぞないからね!」
 芝居がかった所作でひらひらと花びらを舞わせながら、優雅に女貴族を立たせる元帝国騎士爵。ほぅと息を吐く女貴族にユナイテル・キングスコート(ka3458)は騎士の礼を取り。馬上へ戻る彼女を手伝い、押し上げながら、すぐに増援の派遣を要請した。
「斥候班の捜索には我々が向かいます。貴女はすぐに最寄の隊へ状況の報告と然るべき手立てを」
 礼を言い、馬に拍車をかけ走り去る女貴族。その背を遠く見送りながら、アルト・ハーニー(ka0113)は錨槌をよっこらせと肩に担ぎ上げた。
「やれやれ。前回、村と俺たちの救助に来た者たちが、今度は救助を要請とはね、と。ま、前回の借りを返すいい機会か」
 首を振るアルトの横で、軽装銃手のケイ(ka4032)がクールに肩を竦めて見せる。
 その仕草に小首を傾げた放浪エルフのピオス・シルワ(ka0987)に、破戒修道女、シレークス(ka0752)が説明した。自分たちはアーヴィー村の戦いで一応、彼らに助けられた口なのだ、と。
「ったく。めんどくせぇ限りですねぇ…… しょーがねぇから助けてやがります」
 深く溜め息を吐きながらシレークスが北へ足を向け。放っておくわけにもいかないわよね、と夕姫がそれに続く。
 先頭を歩きながら、ユナイテルは呟いた。
「先日の、アーヴィー村での恩を返しましょう。……元騎士の誇りにかけて!」


 現場の状況は、既に最悪の手前にあった。
 全周を丘に囲まれた窪地の底に、円陣を組んだ斥候隊── その四方に1体ずつ、膂力に優れたホブゴブリン亜種。それらに殴られる度に従士たちの盾の壁は崩れかけ。その度に丘の上で包囲するゴブリンたちから笑いが起きる。
「……なにあれ。連中、遊びのつもり?」
「正に多勢に無勢ってやつね。同情するわ。どうせ群がられるなら、もっと素敵なものに群がられたいものね?」
 一つ後ろの丘の陰に伏せ、状況を確認する夕姫とケイ。夕姫は急ぎ斜面を下ると、斥候班の置かれた状況を手早く仲間たちに説明した。
「敵の背後からギリギリまで接近。気づかれた瞬間に吶喊開始。隊形はすぐに円陣に移行できるよう密集隊形。まずは斥候隊との合流を目指す」
 方針が固まると、ハンターたちは敵包囲の一辺、その背後へと移動を始めた。
 遮蔽物が切れたところで一旦停止。手信号でカウントした後、沈黙したまま丘を駆け上る。
 砂利を踏む音に気づいたゴブリンがのそりと背後を振り返り…… 事態を認識するより早く、ケイの遠射がその目を撃ち貫いた。
「気づかれた!」
「ここは……ええ、派手にいくべき、ですね!」
 丘上からこちらを振り返るゴブリンたち。エルは指で魔道面をくいと下げつつ詠う様に術式を組み上げ、正面の敵へ向かって『ファイアーボール』を撃ち込んだ。緩い弧を描いて敵中へと飛び込み、炸裂する爆裂火球。着弾と同時に爆炎が周囲のゴブリンたちを呑み、轟音と衝撃波が敵を同心円状に薙ぎ払う。
 その爆音と舞い上がった砂塵の雲は斥候班に味方の来援を伝え、敵には動揺を走らせた。畳み掛けるように次手を放つハンターたち── 右手の指を躍らせるようにカリキュレイトゴーグルを操作した夕姫の眼前から放たれる機導砲。覚醒前とは比べ物にならぬほど戦意を昂らせたピオスが指先に術式を描き。前方、正面へ向け「貫け!」と『ライトニングボルト』を放ち、立ち上がりかけたゴブリンたちを一直線に貫き通す。
「突入路を啓開した。進路上に罠、伏兵の類なし」
「よし、今です。総員、抜剣!」
「敵は怯みました。このまま正面を突破します!」
 刃に陽光煌かせ、刺突剣を前へと振り下ろすイルム。ユナイテルは盾を前面に掲げ持ちつつ吶喊する皆の先頭に立ち。降り来る迷い矢を物ともせずに一気呵成に突進する。
 イルムは『先手必勝』とばかりに味方へ支援のマテリアルを付与すると、自らも砂塵舞う戦場へと飛び込んだ。咳き込むゴブリンの眼前へ煙を押し退けイルムが迫り。息と共に突き出した刺突剣がゴブリンの胸板を貫く。
 一方、アルトは対照的にその巨大な得物をぶぅんと振って『衝撃波』を叩き込みながら。そのまま流れるような動作で再び得物を肩へと回し上げつつ敵中へと突入した。
「そこのけそこのけ埴輪が通る! ……まったく、埴輪使いが荒いことだな、と!」
 ぐるんぐるんと8の字に錨槌を振り回し、ゴブリンたちを右へ左へと殴り飛ばすアルト。
 その横を駆け抜けて、シレークスが丘の上に出る。
 渡る風。晴れ渡った視界に一瞬、彼女は息を呑み…… ニヤリと笑みを浮かべると、ときの声を上げて味方に援軍を知らしめる。
 一時の混乱から脱した敵は、しかし、応戦しなかった。指揮官と思しき個体の指示に従い、ハンターたちから距離を取り。包囲網の一部を敢えて開く。
「包囲に穴……? ……罠だ!」
「動かないで! 飛び込んで来た途端に蜂の巣にされるわよ!」
 敵の意図に気づき、警告の叫びを上げるユナイテルと夕姫。だが、脱出口に意識を奪われた従士たちの耳には入らなかった。
 いい加減、士気の下がり切っていた従士たちが、一刻も早い合流を望んで早足で移動を始める。
 崩れ始める円陣の堅守。それが完全に崩壊し、潰走へと移る直前。エルはその眼前の地面に爆裂火球を叩き込んだ。
「……バラバラに逃げたら死ぬだけですよ? すぐに円陣に戻ってください」
 その『荒療治』に腰を抜かし──まあ、即ち足を止め。きょとんとした顔でこちらを見返す従士たち。
「王国貴族、並びに従士の諸君! その誇りをもって『戦術的後退戦闘』を継続されたし! 円陣を維持しつつ我等の合流を待たれよ!」
 すかさずイルムが言葉を継いだ。意図してのものでなく、思わず、といった態だった。
(ああ、この身も過去には花騎士と謳われもしたものだけど、今のボクの言葉は麗しきものの美を讃え、熱き愛を囁く為にあるというのに。これじゃあまるで騎士爵時代に戻った戻ったようじゃないか!)
 久方ぶりに色恋以外の血潮に当てられ、微かに頬を上気させるイルム。再び従士たちが円陣を固め、ハンターたちも足を止めずに一刻も早い合流を目指す。
「急ぐですよ、埴輪!」
「もう埴輪男ですらない?!」
 前衛に立つシレークスとアルトへホブゴブリンの1が振り返り。振るわれた一撃を両者が交差した二つの槌で受け止める。
 リボルバーと魔道拳銃、二つの得物を両手に斜面を駆け下りてきたケイが、交差した槌の間に『レイターコールドショット』を射撃した。直後、着弾箇所の周囲に浮かぶ霜── マテリアルの冷気が全身に伝播し、ホブの行動を阻害する。
「こんにちは。そして、さようなら」
 眼前に魔導銃を突きつけ、撃ち屠った直後。丘の上全周から一斉に矢が放たれた。
 円陣へと移行するハンターたち。そこへ降りかかる矢の豪雨。
 夕姫は倒れたホブの死骸に大鎌を突き立てるとくるりと背を向けしゃがみ込み、柄を肩越しに持ち上げてその巨体を盾とした。ブスブスと死骸に矢が突き立つ感触── 盾の壁に弾かれた大量の矢が乾いた金属音をぶち撒ける……

 合流を果たした斥候班とハンターたちは、その場でもう少し大きな円陣を組み直した。
「今の内に負傷者の治療を!」
「助かります!」
 ユナイテルの盾の陰で、それまで円陣の維持にかかりきりだった斥候班の療兵が、同じくギリギリまで踏ん張っていた負傷兵の治療に入る。
 そこへ怒りの咆哮と共に新たな円陣に打ち掛かって来る3体のホブゴブリン。盾の壁の背後を這い進んできたケイとピオスが視線を合わせて頷き合い…… 矢の雨の薄くなったタイミングを見極め起立。互いに背を預けつつ、両翼から迫るホブへ向けて銃撃と雷撃を浴びせ掛ける……
「可能ならば、このままもと来た箇所から脱出したいところですが……」
「これだけの戦ぶりを見せる相手なら、また罠くらい仕掛けてくるでしょうね。逆に敵陣で一番厚い所を突破すれば、多分、その後ろは無防備よ」
 盾役としてユナイテルの隣りでデルタレイ──眼前の三角形から放たれる3条の光線で矢の迎撃を試みながら夕姫が告げた。敵陣で一番厚い所──例えばそう、あの斜面の上の、敵指揮官がいる所とか。
「一番分厚い所だと?! 冗談ではない! 正気の沙汰ではないぞ!?」
「なら、一人でここに残りやがるですか?」
「なにっ!?」
「落ち着いて。焦ると碌な事がないわ。ほら、深呼吸よ。ビィー、クゥール……」
 シレークスの言葉に熱くなる男貴族を、ケイが射撃の合間にいなす。
 エルは仮面をついと上げると、四つん這いの姿勢のまま、猫の様にスッとその顔を近づけた。
「な、なんだ、近いぞ、エルフの娘よ……?」
「『不可抗力と言えなくもないですが、しかし、ゴブリン相手と油断していたのも事実』ですよね?」
「グッ!?」
 貴族男が言葉をなくしている間に、ユナイテルは「臆したのですか?」と敢えて挑発的な物言いをした。
「……なんだと?」
「そうでないなら、真に貴族たる者の度量を示してください。この窮地を共に脱する為に、我等と盾を並べてください」
 沈黙は、肯定であった。たとえ不承不承でも。
 ピオスはそれを確認すると、敵陣の最も厚い場所を突破する、と正式に従士たちに宣言した。さすがに動揺を隠せない従士たちへ、シレークスが長柄武器の石突で地面をぽよんと、もとい、ドンと突く。
「おらぁ、てめぇら! 大の大人、しかも男が情けねぇ面してんじゃねぇです!」
 修道女の突然の豹変に、従士たちはその日一番の驚愕を示した。盾の壁の一部で得物を振り回しながら、無理もないよなぁ、とアルトが心中で嘆息する。
「どこもかしこも罠だらけ…… なら、死中に活を求めやがれ! なに、我らには精霊様の祝福と加護がありやがりますよ。聖職者舐めんじゃねぇです」
 従士たちは顔を見合わせ…… 半泣き笑いで雄叫びを上げた。やけっぱちとも言っていい。

 ともあれ、士気を回復した従士たちとハンターたちは、再び円陣を二つに分けた。その陣地転換のスムーズさから、貴族と従士たちの練度の高さが見て取れた。金に飽かした装備の良さもあり、意外と戦力は高いのかもしれない。
「全員で一丸となって行くんだぞ、と。ここまで来たんだ。誰一人脱落せずに帰らないとな」
 どこか同情するようなアルトの言葉に、従士たちは微笑を浮かべて頷く。それじゃあ、行くとしますかね、と、ハンターたちを前衛に斜面を登り始める2つの円陣。ゴブリンの指揮官は一瞬、戸惑った。まさか最も陣の厚い場所に──自分のいる所に向かってくるとは!
「いけっ、薙ぎ払え!」
 高揚したピオスと淡々としたエルが手の平に生み出す渦巻く火球── 2人はそれを丘の上、進路上にいるゴブリンたちへ向かって、ありったけ全部撃ち込み始めた。稜線に沿って立て続けに炸裂していく爆裂火球。粉々になった土砂と死骸が周囲へバケツでぶち撒けたように降り注ぐ。
 後方、向かいの斜面から一斉に放たれる弓矢の雨霰。斜面で上部を晒した円陣、盾の壁を越えて飛び込んで来た矢が円陣の中で跳ね回り、悲鳴と悪態と敵への罵声が陣の内側に篭り、反響する。
「踏ん張りどころよ! 丘の稜線さえ越えれば攻撃の半分は届かない!」
 夕姫は従士たちに叫ぶと、仲間たちと共に炸裂の止んだ丘の上部へ飛び込んだ。砂塵舞う中、咳き込みながら立ち上がろうとする生き残りを、ケイが二挺拳銃を交互に撃ち放って次々と掃除する。
 短剣を引き抜き、切りかかってくる敵へ、長柄武器を持った夕姫は敢えて自分から肉薄し。クルリと回した大鎌で引っ掛けるようにゴブリンの足を刈り払った。跳ね倒れたそれを無視してすぐに次の敵へと向かう夕姫。斜面を転がり落ちていったそのゴブリンは、従士たちが槍でめった刺しにして止めを差す。
「邪魔はさせない。眠っていろ!」
 ピオスの振ったワンドの先で青白い雲──『スリープクラウド』が湧き起こり、睡魔に襲われたゴブリンたちがぱたぱたとその場に崩れ落ち。子守唄を口ずさむエルと共に、負傷兵に肩を貸したアルトとそれを守って戦うシレークスらがその脇を止めも差さずに駆け抜ける。
 遂に、丘の稜線を越える。ユナイテルは貴族と従士たちに先に下るよう告げ、自らは殿軍としてその場に残った。先導役を務めるイルム。それに続く兵とアルト、シレークス。ケイはその銃口と照準を振り、下がる敵将を遠射で狙撃した。
 ビッ! と肩先を掠め飛ぶ弾丸。交差する視線── そのまま駆け抜けるケイを確認して足を止め、夕姫が背後の地面へ機導砲を放って砂塵を煙幕代わりに巻き上げる。

 その雲が晴れた時── ハンターたちは既に丘から十分以上に離れていた。
 向かいの丘から駆けつけた味方に、敵将は追撃を禁じた。


「お疲れ様です。皆、よく持ち堪えてくれました」
 女貴族が呼んできた増援との合流を果たし。倒れ込んだ従士たちにユナイテルはその健闘を讃えた。
 ハンターたちの尽力により、ただ一人の犠牲者も出さずに彼らは死地からの脱出を果たした。

「頭の良いゴブリンってのは厄介だね。この埴輪がなければ危ない所だったぜ」
 ふぅ、と汗を拭くアルトの言葉に、覚醒を解いたピオスが改めて興味を向ける。
「さっきから気になっていたんだけど、埴輪って言うのは君の神かなにかなの?」
「そんなもんだが…… どちらかというと、俺にとって唯一無二の美だな」
「唯一無二……(ゴクリ」
 美と言う単語に反応して寄って来たイルムにアルトは自作の埴輪を披露し…… 直後、ピシリとヒビが走ったそれがぱりーんと砕け散る。
「唯一無二ーーーっ!!!???」
「そんな……馬鹿な!」
 騒ぐアルトたちを遠目にシレークスがニヤリと笑い。気づいたアルトは戦慄した。
「まさか……土か!? 材料に何か細工を……!?」

「役目を忘れて相手を侮った結果。高い授業料になったんじゃない?」
 告げる夕姫に、貴族男はシレッと答えた。
「敵情の収集という目的は果たした。任務は達成されたのだ」

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重体一覧

参加者一覧

  • エアロダンサー
    月影 夕姫(ka0102
    人間(蒼)|20才|女性|機導師
  • ヌリエのセンセ―
    アルト・ハーニー(ka0113
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人

  • ピオス・シルワ(ka0987
    エルフ|17才|男性|魔術師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • いつも心に盾を
    ユナイテル・キングスコート(ka3458
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイ(ka4032
    エルフ|22才|女性|猟撃士
  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレ(ka5113
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士

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アルト・ハーニー(ka0113
人間(リアルブルー)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/07/05 18:58:17
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/07/01 03:11:53